説明

電気式ホーンの振動板用プレコート鋼板

【課題】電気式ホーンの振動板に適用できるプレコート鋼板を提供する。
【解決手段】硬さが200〜300HVである基材鋼板の表面に、平均粒径DMが2超え〜8μmのフッ素樹脂粒子を1.5〜8.0質量%含有し、平均膜厚が0.8DM以上かつ3〜10μmの範囲に調整された樹脂塗膜層を有する電気式ホーンの振動板用プレコート鋼板。前記基材鋼板としては、質量%でC:0.1%以下、Si:2%以下、Mn:1%以下、P:0.04%以下、S:0.003%以下、Ni:2.5%以下、Cr:15〜18%、N:0.05%以下、残部実質的にFeの組成を有し、マトリクスがフェライト相+マルテンサイト相の複相組織を呈するステンレス鋼板が好適に採用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に搭載される電気式ホーンの振動板に使用されるプレコート鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に、自動車等の車両に搭載される電気式ホーンの外観を模式的に例示する。図1(a)は側面図、図1(b)は正面図である。本体1の内部には電磁コイルが収容され、その外側に振動板2および共振板3が配置されている。振動板2は電磁コイルが励磁されたときに本体1側(内部の電磁コイル側)に引き寄せられ、電磁コイルの励磁が解消されたときに振動板2が有する自らの弾性力により元の状態に復元するように取り付けられている。電磁コイルの励磁オン/オフの繰り返しに伴って振動板2が振動し、共振板3と共振することで特有の音色の警笛音が発生する。車両への取り付けは例えばステー4を介して行われる。
【0003】
電気式ホーンは、通常、車両前頭部の目立たない部位(例えばフロントバンパーの背後やボンネット内の前頭付近)に搭載される。しかし、見る位置や光線状況によっては外部から視認されることがある。そのような場合、電気式ホーンが金属光沢や明るい色調を呈していると車両の意匠性を損なう要因になることから、振動板や共振板には一般的に黒色系の塗装が施されている。
【0004】
また、電気式ホーンの振動板は、その性質上、ばね性に優れた材料で構成される必要がある。振動板への成形加工はプレスによって行われるが、ばね性に優れた材料をプレス成形しようとすると、一般的な軟質金属材料の場合に比べ、材料と工具(パンチや金型)との接触圧力が大きくなる。このため、ばね性に優れた材料を原板とするプレコート鋼板をプレス成形に供すると、塗膜が損傷を受けやすく、製品の品質を良好に維持することが難しい。このようなことから従来、電気式ホーンの振動板はプレス成形後に塗装を行う「ポストコート」によって黒色系塗膜の形成が行われていた。
【0005】
【特許文献1】実開平76999号公報
【特許文献2】特許第3205256号公報
【特許文献3】特許第3207751号公報
【特許文献4】特開2004−291397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ポストコートを行うには加工メーカーでの塗装工程が必要となる。また、ポストコートでは塗膜厚さの変動を考慮して、平均塗膜厚さを厚くする(例えば20μm前後とする)必要がある。このようにポストコートは、プレコート鋼板を使用する場合に比べ、製品のコスト増加を招く要因を多く含むので、プレコート鋼板を用いて電気式ホーンの振動板を製造する技術の確立が強く望まれている。また、塗装原板となる鋼板自体についても、一般的なフェライト系鋼種と比べコスト増加の少ない材料を採用することが望まれる。
【0007】
本発明はこのような現状に鑑み、電気式ホーンの振動板に適用できる経済的なプレコート鋼板を開発し提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、硬さが200〜300HVであり、好ましくはマトリクスがフェライト相+マルテンサイト相の複相組織を呈する基材鋼板(塗装原板)の表面に、平均粒径DMが2μm超え〜8μm以下のフッ素樹脂粒子を1.5〜8.0質量%含有し、平均膜厚が0.8DM以上かつ3〜10μmの範囲に調整された樹脂塗膜層を有するプレコート鋼板によって達成される。
【0009】
上記基材鋼板のなかでも特に、ばね性、加工性、耐食性をバランス良く備え、コスト面にも優れた材料として、質量%でC:0.1%以下、Si:2%以下、Mn:1%以下、P:0.04%以下、S:0.003%以下、Ni:2.5%以下、Cr:15〜18%、N:0.05%以下、残部実質的にFeの組成を有し、マトリクスがフェライト相+マルテンサイト相の複相組織を呈するステンレス鋼板が挙げられる。ここで、「残部実質的にFe」とは、本発明の効果を阻害しない範囲で上記以外の元素の混入が許容されることを意味し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる場合が含まれる。
【0010】
塗膜層としては、例えばマトリクスがポリエステル樹脂であるものが挙げられ、黒色系の色調を付与する顔料としてカーボンブラックを配合したものが好適な対象となる。なお、プライマリー塗装を施す場合など、複層の塗膜構造を採用する場合は、最外層の塗膜層を前記規定のものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来、ポストコートによる塗装を余儀なくされていた電気式ホーンの振動板が、プレコート鋼板を使用して製造できるようになった。これにより、生産性の向上および製造コストの大幅低減が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
高性能の電気式ホーンを構成するには、振動板にばね性の高い金属材料を適用する必要がある。これに適した材料として、本発明のプレコート鋼板では、200〜300HVの硬さを呈する鋼板を使用する。硬度が低すぎるとばね性が不足して振動板としての機能が十分発揮できない。逆に硬度が高すぎるとプレス成形での負荷が大きくなり、また、振動による疲労破壊が発生しやすくなるので好ましくない。
【0013】
ただし、冷間加工や時効析出によって上記硬さレベルに強化した鋼板、あるいはマルテンサイト系の鋼板では、一般に伸びが低く、プレス成形に適さない。オーステナイト系鋼種では冷間加工材であっても、ある程度良好な成形性を呈するものがあるが、材料コストが高いので電気式ホーンの振動板用途には採用し難い。したがって、軟質な組織状態に調整された「焼鈍材」において上記の硬さレベルを呈するような、非オーステナイト系、非マルテンサイト系の鋼種を採用することが望まれる。
【0014】
そのような鋼種として、マトリクスがフェライト相+マルテンサイト相の複相組織を呈するステンレス鋼が例示できる。例えば、16Cr−1.5Si−1Niや、16Cr−2Niをベースとした複相組織鋼が好適な対象となる。なかでも、質量%でC:0.1%以下、Si:2%以下好ましくは0.2〜1.0%、Mn:1%以下好ましくは0.2〜0.8%、P:0.04%以下、S:0.003%以下、Ni:2.5%以下好ましくは0.8〜2.5%、Cr:15〜18%好ましくは15.5〜17.5%、N:0.05%以下、残部実質的にFeの組成を有する複相組織鋼は、ばね性、加工性、耐食性をバランス良く具備し、加工時のスプリングバックも一般的なフェライト系鋼種と大きく変わらないレベルに収まっていることから、当該用途には特に適する。複相組織は、マルテンサイト相が50〜80体積%程度含まれるように調整されていることが好ましい。
【0015】
基材鋼板の板厚は、電気式ホーンの設計により異なるが、一般的には0.2〜0.5mm程度が適する。複相組織鋼の場合、フェライト相とオーステナイト相が共存する2相域に加熱した後、冷却して、フェライト相+オーステナイト相の組織状態を得ているが(複相化処理)、この状態では硬度が高すぎる場合がある。その場合は、さらに冷間圧延および焼鈍を行って硬度を前記の適正範囲に調整すればよい。
【0016】
プレコート鋼板は、塗膜を有する状態で加工に供されるので、本来、厳しい加工には適さない。従来の技術常識では、上記のような高硬度の基材鋼板を用いてプレコート鋼板を製造し、これをプレス加工して部品を大量生産するようなことは、考えられなかった。プレス時に塗膜はパンチから大きな接触圧力を受け、「カジリ」と呼ばれる塗膜損傷が生じるからである。
【0017】
プレス時の塗膜カジリを軽減する手法として、従来からフッ素樹脂粒子を塗膜中に含有させる手法が知られている。例えば家電製品の外板など、加工後の外観品質に対する要求が厳しい用途向けのプレコート鋼板では、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂粒子を塗料に配合することが行われている。この場合、フッ素樹脂粒子の塗膜中含有量は高々1質量%程度である。また、塗膜厚さは10〜15μm程度を確保することが通常である。
【0018】
しかしながら、本発明のプレコート鋼板では従来と異なり、高硬度の基材鋼板を使用する。この場合、単にフッ素樹脂粒子の配合量を増大させるだけでは、塗膜の耐プレス性を改善することはできないことが明らかになった。すなわち、高硬度の基材鋼板を使用した場合の塗膜カジリを防止するためにはフッ素樹脂粒子の配合量を増大させることは有効であるが、過度に増大させると逆にカジリが生じやすくなるのである。つまり、フッ素樹脂粒子の配合量を狭い範囲で厳密にコントロールしなければならない。また、基材鋼板が高硬度であると、プレス加工時にパンチとの強い接触によって塗膜中のフッ素樹脂粒子が塗膜から脱落しやすいという、新たな問題が生じることがわかった。さらに、「エナメルヘア」と呼ばれる塗膜損傷(特許文献4参照)が比較的薄い塗膜厚領域から出現しやすいという問題にもぶつかった。エナメルヘアは、プレス成形時にプレコート鋼板の端面部分の塗膜がパンチと接触した際、その部分の塗膜が切断され糸状に伸びる現象である。このように、高硬度の基材鋼板を使用する場合のプレコート鋼板に関しては、塗膜の耐プレス性を確保する上で多くの問題が存在し、適正な塗膜構造を設計することは容易でない。
【0019】
一方、塗膜との摺動性を改善する目的で塗膜中にフッ素樹脂粒子を含有させたプレコート鋼板も存在する。例えば自動販売機の商品取り出し口には、商品との摺動性を良好にするために、粒径15μm程度の大粒径のフッ素樹脂粒子を30質量%程度と大量に含有させた塗膜層を有するプレコート鋼板が採用される場合がある。その塗膜層厚さは15μm以上と厚い。この場合のフッ素樹脂粒子は、プレコート鋼板が製品に加工された後、その製品として使用されるときの摺動性を改善するものである。このような粗大な粒子を多量に含む塗膜構造の場合には、高硬度の基材鋼板を使用したときに問題となるプレス加工時の上記塗膜損傷は改善されない。
【0020】
本発明のプレコート鋼板は、上記のような種々の問題を解消したものである。その具体的手法は、
(i)平均粒径DMが2μm超え〜8μm以下のフッ素樹脂粒子を塗膜層中に1.5〜8.0質量%含有させること、
(ii)塗膜層の平均厚さを0.8DM以上、かつ3〜10μmの範囲とすること、
を骨子とする。
【0021】
フッ素樹脂粒子の粒径が小さすぎると、プレス時の塗膜カジリを防止する機能が十分に発揮されない。種々検討の結果、フッ素樹脂粒子の平均粒径DMが2μmを超えて大きいことが必要である。ただし、DMが大きくなるとプレス成形時に塗膜とパンチが接触した際、粒子が塗膜から脱落する現象が生じやすい。本発明のプレコート鋼板では高硬度の基材鋼板を対象とするので、従来のプレコート鋼板より塗膜とパンチの接触圧力が高くなる。このため、粒子の脱落防止には特に配慮が必要である。本発明のプレコート鋼板において粒子の脱落を防止するには、DMを8μm以下に抑えること、および当該塗膜層の平均厚さを0.8DM以上とすることが重要である。塗膜に含有させるフッ素樹脂の個々の粒子のうち、質量割合で50%以上の粒子が2μm超え〜8μm以下の粒径範囲に収まっていることが望ましい。
【0022】
フッ素樹脂粒子の塗膜層中含有量については、1.5質量%以上とすることによってカジリ防止効果が発揮される。2.0質量%以上の含有量を確保することがより好ましい。ところが、フッ素樹脂粒子の含有量がある程度を超えて多くなると再びカジリが生じやすくなることがわかった。そのメカニズムについては現時点で十分解明されていないが、フッ素樹脂粒子の含有量は8.0質量%以下とすることが望ましい。7.5質量%以下とすることがより好ましく、6.0質量%以下が一層好ましい。
【0023】
塗膜層厚さについては、プレコート鋼板の塗膜は均一性が高いので、ポストコートの場合より平均膜厚を小さくすることができるが、少なくとも3μmの平均膜厚を確保することが望ましい。ただし、上記のように平均膜厚が0.8DM以上を満たす必要がある。一方、平均膜厚が10μmを超えて厚くなると、エナメルエアの発生が問題となりやすい。したがって、平均膜厚は3〜10μmの範囲にコントロールする。4〜8.5μmとすることがより好ましい。実際の製造時には塗布面積と塗料使用量を用いて算出される乾燥塗膜層(焼付け後の塗膜層)の平均膜厚が上記所望の範囲となるようにコントロールすればよい。なお、塗膜を複層塗膜構造とする場合は、ここで規定している塗膜層が最外層となるようにする。
【0024】
フッ素樹脂粒子としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルキルビニルエーテル・テトラフルオロエチレン共重合体)等のフッ素樹脂からなるものが挙げられる。複数の種類のフッ素樹脂粒子をブレンドして使用することもできる。
【0025】
この塗膜層のマトリクスを構成する樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。塗膜層のマトリクス中には前記フッ素樹脂粒子の他、顔料等の粒子が配合される。黒色系の顔料としてカーボンブラックが好適に使用できる。ただし、顔料の配合量が過剰に多くなると塗膜層の加工性や密着性が低下するので注意を要する。カーボンブラックの場合、塗膜中に5〜20質量%の範囲で配合させることが望ましく、5〜10質量%とすることが一層好ましい。
【0026】
プレコート鋼板の製造は、従来一般的な製造ラインを使用して実施できる。フッ素樹脂粒子の粉末、および顔料等の各種添加材を攪拌混合した塗料を用意し、塗装前処理を行った基材鋼板の少なくとも一方の表面に、ロールコーター法、浸漬法、スプレー法などによって塗布し、所定温度で焼付け処理することによって本発明のプレコート鋼板を得ることができる。
【実施例】
【0027】
基材鋼板として、下記の組成および組織を有する複相組織ステンレス鋼板(板厚:0.3mm、硬さ:260HV)を用意した。この鋼板は、複相化処理後に冷間圧延および焼鈍を施したものである。
〔組成〕
質量%でC:0.063%、Si:0.51%、Mn:0.30%、P:0.020%、S:0.001%、Ni:1.95%、Cr:16.2%、N:0.010%、残部Feおよび不可避的不純物
〔組織〕
フェライト相+約60体積%マルテンサイト相
【0028】
また、比較用の基材鋼板として市販のSUS430鋼板(板厚:0.3mm、硬さ:140HV、2D仕上材)を用意した。
【0029】
上記の複相組織ステンレス鋼板およびSUS430鋼板について、2%塩酸水溶液で酸洗し、ニッケルを主体とする酸系の表面処理剤で表面処理を施し、フルオロチタン酸系クロムフリー処理液にてフッ素付着量20mg/m2の化成処理皮膜を形成することにより塗装前処理を施し、塗装原板とした。
【0030】
一方、塗料として、カーボンブラックで黒色に着色した高分子ポリエステル樹脂塗料(日本ファインコーティングス株式会社製、PM5000)に、フッ素樹脂粒子を攪拌混合したものを調製した。使用したフッ素樹脂粒子は平均粒径DMが3μm、5μm、10μmの3種類のPTFE粒子であり、いずれか1種類を選択して塗料に添加した。このうち、DMが3μmおよび5μmのものは、粒径2μm超え〜8μm以下の範囲に含まれる粒子の質量割合が少なくとも50%以上であることが確認されている。PTFE粒子の配合量は、焼付け後における塗膜中含有量が0.5〜10質量%となる範囲で変動させた。
【0031】
この塗料を前記塗装原板の片面にロールコーター法で塗布したのち、230℃×60secの加熱条件で焼付け処理し、塗膜層を形成させた。焼付け後の塗膜層の平均膜厚は5〜12μmの範囲で変動させた。
【0032】
得られたプレコート鋼板について、プレスによるスライド曲げ試験を行った。その際、前記塗膜層がパンチと接触するようにプレコート鋼板を配置した。図2にスライド曲げ加工方法を模式的に示す。スライド曲げ条件は以下のとおりとした。
〔スライド曲げ試験条件〕
・パンチ先端の丸み半径Rp:1.0mm
・ダイス肩部の丸み半径Rd:0.1mm
・クリアランス:20%
・曲げフランジ長さ:1.0mm
・ストローク数:45spm
・パンチ押込み量L:Rp+2mm
・金型:SKD11(#1000仕上)
ここで、クリアランスは以下の式で表される。
クリアランス(%)=(C−t)/t×100
ただし、C:ダイとパンチの間隔(mm)、t:プレコート鋼板の板厚(mm)である。
【0033】
スライド曲げ試験後の塗膜面を観察し、塗膜カジリ、フッ素樹脂粒子の塗膜層からの脱落、およびエナメルヘアの発生状況を調べた。評価基準は以下のとおりであり、○評価以上を合格と判定した。
〔塗膜カジリ〕
◎:塗膜カジリが認められない。
○:塗膜カジリが極僅かに生じたが品質上許容される程度である。
×:品質上問題となる塗膜カジリが生じた。
〔フッ素樹脂粒子の脱落〕
○:粒子の脱落が認められない。
×:粒子の脱落が認められる。
〔エナメルヘア〕
◎:エナメルヘアが認められない。
○:エナメルヘアが極僅かに生じたが品質上許容される程度である。
×:品質上問題となるエナメルヘアが生じた。
結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
基材鋼板に使用した上記複相組織ステンレス鋼板は、電気式ホーンの振動板に適したばね性を有しており、かつ、振動板へのプレス成形性も良好であることが既に実証されている。すなわち、この複相組織ステンレス鋼板は従来のポストコート法により電気式ホーンの振動板を構築することが可能な材料である。したがって、この複相組織ステンレス鋼板を塗装原板(基材鋼板)に用いたプレコート鋼板であって、その塗膜が十分な耐プレス性を有しているものは、電気式ホーンの振動板に適用することが可能であると評価される。種々検討の結果、その塗膜の耐プレス性を評価する手法として上記スライド曲げ試験が適用できることがわかった。つまり、上記のスライド曲げ試験で合格判定が得られたプレコート鋼板は、電気式ホーンの振動板へのプレス成形に耐え得る塗膜を備えていると判断される。
【0036】
表1に示されるように、上記複相組織ステンレス鋼板を基材に用いたNo.1〜11のうち、フッ素樹脂粒子の平均粒径DM、フッ素樹脂粒子の塗膜層中含有量、および塗膜層の平均膜厚を前述の適正範囲にコントロールした本発明例のものは、塗膜カジリ、粒子の脱落、エナメルヘアの全てにおいて合格判定となり、電気式ホーンの振動板に適用できるプレコート鋼板であると評価された。
【0037】
これに対し、No.3はフッ素樹脂粒子の平均粒径DMが大きすぎたことにより、粒子の脱落が生じた。No.4および5はフッ素樹脂粒子の塗膜層中含有量が少なすぎたことにより、塗膜カジリが発生した。従来のプレコート鋼板では、このような塗膜においてカジリは生じないが(後述No.12、13参照)、電気式ホーンの振動板用途では高硬度の基材鋼板を使用するため、カジリが発生しやすいことがわかる。No.9はフッ素樹脂粒子の塗膜層中含有量が多すぎたことにより、塗膜カジリが生じた。No.11は塗膜層の膜厚が厚すぎたことにより、エナメルヘアが発生した。一方、基材鋼板にSUS430を使用したNo.12および13では、少量のフッ素樹脂粒子の配合により塗膜カジリが防止できる。しかし、この基材鋼板はばね性が低いので電気式ホーンの振動板に使用できない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】電気式ホーンの外観を模式的に例示した図。
【図2】スライド曲げ加工方法を模式的に示した図。
【符号の説明】
【0039】
1 本体
2 振動板
3 共振板
4 ステー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬さが200〜300HVである基材鋼板の表面に、平均粒径DMが2超え〜8μmのフッ素樹脂粒子を1.5〜8.0質量%含有し、平均膜厚が0.8DM以上かつ3〜10μmの範囲に調整された樹脂塗膜層を有する電気式ホーンの振動板用プレコート鋼板。
【請求項2】
前記基材鋼板は、マトリクスがフェライト相+マルテンサイト相の複相組織を呈する鋼板である請求項1に記載のプレコート鋼板。
【請求項3】
前記基材鋼板は、質量%でC:0.1%以下、Si:2%以下、Mn:1%以下、P:0.04%以下、S:0.003%以下、Ni:2.5%以下、Cr:15〜18%、N:0.05%以下、残部実質的にFeの組成を有し、マトリクスがフェライト相+マルテンサイト相の複相組織を呈するステンレス鋼板である請求項1に記載のプレコート鋼板。
【請求項4】
前記塗膜層は、マトリクスがポリエステル樹脂で構成されるものである請求項1〜3のいずれかに記載のプレコート鋼板。
【請求項5】
前記塗膜層は、カーボンブラックを配合した黒色系塗膜である請求項1〜4のいずれかに記載のプレコート鋼板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−322589(P2007−322589A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−151054(P2006−151054)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】