説明

電気接点材料製造方法及び電気接点材料

【課題】 金属体に含まれるグラファイトの定着性を向上することができる電気接点材料製造方法及び電気接点材料を提供する。
【解決手段】 電気接点材料10の母材の表面に、電気メッキによって銀メッキ8を形成する。電気メッキによって銀メッキ8を形成する際、メッキ液中にグラファイト9の粉末を混入することで、銀メッキ8にはグラファイト9が分散されている。グラファイト9にはそれ自体に潤滑作用があるため、銀メッキ8にグラファイト9が含有された材料を電気接点材料10として用いた場合には、グリースやオイル等の潤滑剤を塗布しなくて済むことから、この電気接点材料10はグリースレス摺動接点として使用される。銀メッキ形成後、電気接点材料10に高温化処理を施すことで銀メッキ8の表面8aを溶融し、表面8a上のグラファイト9を銀メッキ8に定着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電気回路のスイッチング接点等に用いる電気接点材料製造方法及び電気接点材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気回路のスイッチング接点等に用いる電気接点材料としては、例えば特許文献1〜3に開示されるような焼結材の銀−グラファイト合金が広く使用されている。グラファイトは、元来、溶着性が殆ど無く、化学的に極めて安定であり、非常に高い潤滑作用を有している。従って、グラファイトを含有した銀−グラファイト合金は高い摺動性を有した材質となるため、銀−グラファイト合金を電気接点材料として用いれば、グリースやオイル等の潤滑剤を用いなくてもよいことから、銀−グラファイト合金はグリースレス摺動接点材料として使用される。
【0003】
ここで、焼結材を用いた場合、銀には多量のグラファイトを含有できるが、銀に対するグラファイトの含有量が多くなると電気接点材料の強度が低くなり、もろくなってしまう問題がある。従って、電気接点材料の強度的な面を考えた場合には、例えば銅等の母材に対し、グラファイトを含有した銀をメッキすることによって、グラファイト含有の電気接点材料を製造する手法がとられる。
【特許文献1】特開2002−53919号公報
【特許文献2】特開1996−13065号公報
【特許文献3】特開昭63−7345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、銀メッキ内のグラファイトは銀に対して単に引っ掛かっている状態のものがあり、そのグラファイトは例えば製造工程の製品搬送時に脱落する可能性が高いことから、今までの製造方法では銀に対するグラファイトの定着性があまりよくない現状があった。銀に対するグラファイトの定着性がよくないと、グラファイトが脱落することによって銀に対するグラファイトの表面積比率(表面グラファイト面積比)が低下するため、その分だけ耐摩耗性が悪化する問題があった。特に、グラファイト含有の電気接点材料をメッキ式で製造する場合、銀に含有できるグラファイト量には限界があるため、脱落するグラファイトをできるだけ減らしたいという要望は高い。
【0005】
また、表面グラファイト面積比を向上するには、光沢メッキよりも表面形状が粗い無光沢メッキを用いるとよい。これは、光沢メッキよりも無光沢メッキの方が表面形状が粗いため、その大きな凹凸によってグラファイトの取込量が多くなるためである。しかし、無光沢メッキを用いた場合には、メッキ表面に引っ掛かった状態で取り付いたグラファイトが多いことから、その分だけ脱落するグラファイトの量も多い現状があり、この点からもグラファイトの定着性を向上したい要望があった。
【0006】
本発明の目的は、金属体に含まれるグラファイトの定着性を向上することができる電気接点材料製造方法及び電気接点材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明では、グラファイトを含む金属体に高温化処理を施し、当該金属体の表面を溶融して該表面上の前記グラファイトを前記金属体に定着させることを要旨とする。
【0008】
この発明によれば、グラファイトにはそれ自体に潤滑作用があるため、金属体にグラファイトが含有されていれば、その金属体からなる電気接点材料はグリースやオイル等の潤滑剤を必要としない摺動接点として使用可能である。また、高温化処理によって金属体の表面を溶融する処理を施すことから、グラファイトの周囲は溶融した金属体で満たされることになり、例えばただ単に金属体に引っ掛かっているだけのグラファイトが金属体に定着する。従って、グラファイトが金属体から脱落し難くなり、電気接点材料の耐摩耗性が向上する。
【0009】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、母材の表面の一部又は全体に金属メッキで前記金属体を形成し、当該金属体に高温化処理を施して前記金属メッキの表面を溶融し、当該金属メッキに前記グラファイトを定着させることを要旨とする。
【0010】
この発明によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、母材の表面の一部又は全体に金属メッキを形成し、その金属メッキ内にグラファイトを定着させる。従って、例えばグラファイトを増量する処理を施したとしても、グラファイトは金属メッキ内でその量が増えることになるため、母材の材質成分はそのままであることから、母材の強度が低下するようなことはなく、その母材を基材とした電気接点材料の強度が充分に確保される。
【0011】
請求項3に記載の発明では、請求項1又は2に記載の発明において、前記高温化処理は、前記金属体の表面にレーザを照射することによって前記金属体の表面を溶融する処理であることを要旨とする。
【0012】
この発明によれば、請求項1又は2に記載の発明の作用に加え、レーザ照射は短時間で金属体表面を溶融することが可能であるため、高温化処理の処理時間短時化を図ることが可能となる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、請求項1又は2に記載の発明において、前記高温化処理は、前記金属体を炉に入れて熱を加えることによって前記金属体の表面を溶融する処理であることを要旨とする。
【0014】
この発明によれば、請求項1又は2に記載の発明の作用に加え、炉に入れて金属体表面を溶融する処理は高価な装置を用いた処理ではないので、高温化処理にかかる費用ができるだけ安価に済ませられる。
【0015】
請求項5に記載の発明では、請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の発明において、前記高温化処理は、気体中の酸素割合が低い非酸化雰囲気下で行われることを要旨とする。
【0016】
この発明によれば、請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の発明の作用に加え、高温化処理の処理空間内に酸化物が存在し難くなり、グラファイトの酸化を生じ難くすることが可能となる。
【0017】
請求項6に記載の発明では、請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の発明において、前記金属メッキには、グラファイトが含有されていることを要旨とする。
この発明によれば、請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の発明の作用に加え、金属メッキにはグラファイトが含有されているので、メッキ内に取り込まれるグラファイト量が、ただ単に金属メッキ表面にまぶす場合に比べて相対的に多くなり、高い摩耗性の確保に寄与する。
【0018】
請求項7に記載の発明では、請求項2〜6のうちいずれか一項に記載の発明において、前記グラファイトの粉末を前記金属メッキの表面にまぶし、当該まぶしを行った後に前記高温化処理を実施することを要旨とする。
【0019】
この発明によれば、請求項2〜6のうちいずれか一項に記載の発明の作用に加え、グラファイトを含んだ金属メッキ上に、グラファイトの粉末をまぶしてから高温化処理を行うので、そのグラファイトのまぶし量に応じて、金属メッキに定着するグラファイトの量が増量し、耐摩耗性が一層向上する。
【0020】
請求項8に記載の発明では、請求項2〜6のうちいずれか一項に記載の発明において、前記金属メッキに対して親和性の高いコーティング材が付着したグラファイトの粉末を前記金属メッキの表面にまぶし、当該まぶしを行った後に前記高温化処理を実施することを要旨とする。
【0021】
この発明によれば、請求項2〜6のうちいずれか一項に記載の発明の作用に加え、グラファイトのまぶし量に応じて、金属メッキに定着するグラファイトの量が増量するため、耐摩耗性が一層向上する。また、グラファイトをまぶすにしても、そのまぶすグラファイトには金属メッキに対して親和性の高いコーティング材が付着しているため、まぶされたグラファイトが金属メッキに一層定着し易くなり、金属メッキに定着するグラファイト量が一層増量して、更なる耐摩耗性向上に効果がある。
【0022】
請求項9に記載の発明では、請求項2〜8のうちいずれか一項に記載の発明において、前記金属メッキの表面に少なくとも錫を含有した錫薄膜を形成し、当該錫薄膜を形成した後に前記高温化処理を実施することを要旨とする。
【0023】
この発明によれば、請求項2〜8のうちいずれか一項に記載の発明の作用に加え、例えば錫の融点が金属メッキの融点よりも低い場合、金属メッキの融点に至る前の低い温度で錫が溶融し、その溶融した錫によって表層上のグラファイトが金属メッキに定着する。従って、金属メッキ自体を溶融してグラファイトを定着する場合に比べ、錫は短時間で融点に到達するため、高温化処理の処理時間短縮化を図ることが可能となる。
【0024】
請求項10に記載の発明では、請求項2〜9のうちいずれか一項に記載の発明において、前記金属メッキは銀メッキであることを要旨とする。
この発明によれば、請求項2〜9のうちいずれか一項に記載の発明の作用に加え、銀メッキは電気伝導性が高い材質であるため、金属メッキがグラファイト含有の銀メッキであれば、電気接点材料が電気伝導性の高い材料となる。
【0025】
請求項11に記載の発明では、グラファイトを含む金属体に高温化処理を施し、当該金属体の表面が溶融されることで該表面上の前記グラファイトが前記金属体に定着されていることを要旨とする。この場合、請求項1と同様の作用が得られる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、金属体に含まれるグラファイトの定着性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を具体化した電気接点材料製造方法及び電気接点材料の一実施形態を図1〜図8に従って説明する。
【0028】
(メッキ処理)
図1は、電気メッキ装置1の概略構成を示す模式構成図である。電気メッキ装置1は、メッキしたい母材2をメッキ漕3内のメッキ液4に浸し、同じくメッキ液4に浸した電極(図示略)と母材2との間に直流電圧を印加することで、母材2の表面に金属メッキの層を形成する装置である。このとき、母材2が陰極(マイナス)、電極が陽極(プラス)となり、メッキ液4中の金属イオンが母材2に引き寄せられることによって、母材2に金属メッキが形成される。
【0029】
母材2は、ロール状に巻かれてメッキ漕3の外部に設置されている。メッキ漕3の一対の側壁5にはその下部に通し孔5a,5b貫設され、母材2はメッキに必要な量だけ巻き取られて一方の通し孔5aからメッキ漕3内に導入され、メッキ処理後に他方の通し孔5bからメッキ漕3の外部へ導出される。また、通し孔5a,5bから漏れ出たメッキ液4はメッキ漕3の下方にある貯留部6に溜められ、そのメッキ液4はポンプ装置7によってメッキ漕3へ汲み上げられる。
【0030】
本例の電気メッキ装置1は、メッキ液4としてシアン化銀の溶融した溶液を用いるため、銅等の母材2の表面に金属メッキとして銀メッキ8(図2参照)を形成する。電気メッキ装置1で母材2に銀メッキ8を形成する際、メッキ液4には例えば粒径が1〜20μm程度のグラファイト9の粉末が混入される。従って、メッキ処理時に銀成分が母材2に付着する際、銀とともに粉末のグラファイト9も取り込まれ、図2(a)に示すように銀メッキ8にはグラファイト9の粉末が分散状態で含有した状態となる。なお、母材2及び銀メッキ8が金属体を構成する。
【0031】
ところで、グラファイト9にはそれ自体に潤滑作用があるため、銀メッキ8にグラファイト9が含有された材料を電気接点材料10として用いた場合には、グリースやオイル等の潤滑剤を塗布しなくて済むことから、この電気接点材料10はグリースレス摺動接点として使用される。また、電気接点材料10の摺動性は表面に露出するグラファイト9の量によって決まる。
【0032】
また、銀メッキ8は光沢メッキ及び無光沢メッキのどちらを採用してもよいが、無光沢メッキはメッキ表面が粗い(凹凸が大きい)ため、引っ掛かるグラファイト量が多くなり、その分だけグラファイト9が多く取り付き、表面グラファイト面積比(銀に対するグラファイト9の表面積比率)Sが大きくなる。しかし、無光沢メッキの場合には、図2(a)に示すように銀メッキ8の表面8aに引っ掛かっているだけのグラファイト9が多く、グラファイト9の脱落量が多い現状があるため、何らかの対処を施す必要がある。
【0033】
(レーザ処理)
図3は、レーザ装置11の概略構成を示す模式構成図である。レーザ装置11は、高温化処理(リフロー処理)として加工物にレーザを照射することで加工物を溶融する装置である。レーザ装置11は、電気接点材料10を密閉状態で収容する処理室12と、処理室12内に取り付けられたレーザ照射部13と、処理室12を真空(非酸化雰囲気)に減圧する真空ポンプ14とを備えている。レーザ装置11は、レーザ照射部13を所定方向に往復動させる駆動機構15と、レーザ照射部13の往復動方向と直交する方向に加工物を搬送する搬送機構16とを備えている。なお、駆動機構15及び搬送機構16はモータ等を駆動源としている。
【0034】
続いて、レーザ装置11で電気接点材料10を溶融する手順を説明すると、レーザ処理を行う際には、メッキ処理後に所定面積の平板に切断された電気接点材料10がレーザ装置11の処理室12にセットされ、続けて処理室12の内部が真空ポンプ14によって真空状態に減圧される。なお、処理室12は必ずしも真空状態とされることに限らず、非酸化雰囲気であれば足りる。
【0035】
処理室12内が真空状態となった後、レーザ照射部13は駆動機構15によって往動を開始し、その往動の過程で、処理室12内にセットされた電気接点材料10にレーザを照射し、銀メッキ8の表面8aにおいて1ライン目を溶融する。ここで、銀の融点が約962℃、グラファイト9の融点が約3550℃であるため、レーザ照射部13による溶融温度は、母材2の融点よりも低く、しかも銀メッキ8のみを溶融すべく約1000℃〜1500℃に設定されている。
【0036】
レーザ照射部13が1往動を終えると、搬送機構16が電気接点材料10を所定量搬送する。続いて、今度はレーザ照射部13が復動を開始し、その復動の過程で銀メッキ8にレーザを照射して銀メッキ8の表面8aにおいて2ライン目を溶融する。そして、レーザ照射部13が1復動を終えると、搬送機構16が電気接点材料10を所定量だけ再度搬送し、これ以降も上記と同様にレーザ照射部13によるレーザ照射と電気接点材料10の搬送とが、銀メッキ8の全ラインにレーザ照射が行われるまで繰り返し行われる。
【0037】
従って、銀メッキ8の表面8aが溶融されるので、その溶融した銀成分がグラファイト9の間にある隙間に流れ込み、図2(b)に示すように溶融した銀成分が銀メッキ8の凹凸を埋め、グラファイト9の周囲が銀成分で満たされる。よって、溶融した銀成分が銀メッキ8内のグラファイト9を周囲で強く固定し、グラファイト9の定着性が高まる。これにより、グラファイト9が銀メッキ8から脱落し難くなり、銀メッキ8(電気接点材料10)の耐摩耗性が向上する。
【0038】
(炉による加熱処理)
図4は、炉装置17の概略構成を示す模式構成図である。銀メッキ8の表面8aを溶融する方法は、上記したレーザ処理に限らず、例えば以下に示す炉装置17による加熱処理でもよい。炉装置17は、加工物を炉18の中に入れて炉18の内部を高温化して加工物を溶融する装置である。炉装置17は、電気接点材料10を密封状態で収容する処理室19と、処理室19内の温度を高温化する熱源20と、処理室19を真空(非酸化雰囲気)状態とする真空ポンプ21とを備えている。
【0039】
続いて、炉装置17で電気接点材料10を溶融する手順を説明すると、炉18による加熱処理を行う際には、メッキ処理後に所定面積の平板に切断された電気接点材料10が炉18の処理室19にセットされ、続けて処理室19の内部が真空ポンプ21によって真空状態に減圧される。なお、処理室19はレーザ処理の場合と同様に、必ずしも真空状態とされることに限らず、非酸化雰囲気であれば足りる。また、熱源20は例えば高周波加熱用熱源等の種々のものが採用される。
【0040】
処理室19内が真空状態となった後、熱源20に電源が投入されて処理室19の温度が高温化すると、銀メッキ8の表面8aが溶融する。ここで、炉18による加熱処理の溶融温度は、レーザ処理の場合の同様の理由から約1000℃〜1500℃に設定されている。従って、炉18を用いた場合も銀メッキ8の表面8aが溶融するため、それによってグラファイト9の定着性が高まり、レーザ処理の場合と同様に銀メッキ8の耐摩耗性が向上する。
【0041】
(グラファイトのまぶし処理)
図5は、グラファイト粉末を銀メッキ8にまぶして生成した電気接点材料10の断面図である。銀メッキ8の表面8a上のグラファイト9を増量したい場合には、図5(a)に示すようにグラファイト22の粉末を均一にまぶし、その後に高温化処理(リフロー処理)を施してもよい。銀メッキ8の表面8aにまぶすグラファイト22は、銀メッキ8に分散したグラファイト9と同一材質のものとし、例えば銀メッキ8の表面8aを覆う程度にまぶされる。なお、まぶし処理後に行う高温化処理は、上記したレーザ処理や炉18による加熱処理等が採用される。
【0042】
銀メッキ8にグラファイト22がまぶされた後に高温化処理を行うと、図5(b)に示すように溶融した銀成分が銀メッキ8の凹凸を埋め、銀メッキ8内に分散したグラファイト9と、銀メッキ8にまぶしたグラファイト22との周囲が共に銀成分で満たされる。よって、これらグラファイト9,22が銀メッキ8に強く固定された状態となり、グラファイト9,22の定着性が向上する。また、まぶしたグラファイト22の量に応じて、銀メッキ8の表面8a上のグラファイト量が増量することになり、表面グラファイト面積比Sも大きくなって、銀メッキ8の耐摩耗性も一層向上する。
【0043】
ここで、グラファイト22のまぶし量によって表面グラファイト面積比Sは適宜決まるが、図6に表面グラファイト面積比Sとその耐久回数Nとの関係をグラフで示すと、表面グラファイト面積比Sによってその電気接点材料10の耐久回数Nが決まってくる。従って、耐久回数Nはターゲットとする製品仕様に異なってくるが、充分な耐摩耗性を確保するためには、図6のグラフからも分るように耐久回数Nが100万回確保された0.45以上に表面グラファイト面積比Sを設定することが望ましい。
【0044】
(銀コーティングを施したグラファイトのまぶし処理)
図7は、銀コーティングの施されたグラファイト粉末を銀メッキ8にまぶして生成した電気接点材料10の断面図である。銀メッキ8の表面8a上のグラファイト9を増量したい場合には、図7(a)に示すように銀コーティング23aを施したグラファイト23の粉末を均一にまぶし、その後に高温化処理(リフロー処理)を施してもよい。銀コーティング23aの施されたグラファイト23は、銀メッキ8と同一材質である銀が周りにコーティングされているため、銀メッキ8に付着する際の親和性が高く、銀メッキ8に定着し易い。
【0045】
銀コーティング23aの施されたグラファイト23は、銀メッキ8に分散したグラファイト9と同一材質のものとし、例えば銀メッキ8の表面8aを覆う程度にまぶされる。なお、まぶし処理後に行う高温化処理は、上記した銀でコーティングされていないグラファイト22をまぶす場合と同様に、上記したレーザ処理や炉18による加熱処理等が採用される。なお、銀コーティング23aがコーティング材に相当する。
【0046】
銀コーティング23aの施されたグラファイト23が銀メッキ8にまぶされた後に高温化処理を行うと、銀メッキ8の表面8aと、まぶされたグラファイト23の銀コーティング23aとが溶融する。そして、図7(b)に示すように溶融した銀成分が銀メッキ8の凹凸を埋め、銀メッキ8内に分散したグラファイト9と、銀メッキ8にまぶしたグラファイト23との周囲が共に銀成分で満たされる。よって、これらグラファイト9,23が銀メッキ8に強く固定された状態となり、グラファイト9,23の定着性が向上する。なお、この際の表面グラファイト面積比Sは、銀コーティング23aの施されていないグラファイト22をまぶす場合と同様に0.45以上が好ましい。
【0047】
このまぶし処理で用いるグラファイト23には、周りに銀がコーティングされているため、グラファイト23が銀メッキ8に対して親和性が高くなる。よって、高温化処理を施す際には、まぶしたグラファイト23が銀メッキ8の表面8aから浮遊し難く、まぶしたグラファイト23の殆どが銀メッキ8の表面8aに定着する。従って、銀メッキ8に対するグラファイト23の定着性向上に効果があり、銀メッキ8の耐摩耗性が一層向上する。また、まぶされるグラファイト23の定着性が高まれば、銀メッキ8の表面8aにおいて表面グラファイト面積比Sにバラツキが生じ難くなり、グラファイト9,23の均一な分散にも効果がある。
【0048】
(錫メッキ処理)
図8は、錫メッキ処理を用いて生成した電気接点材料10の断面図である。銀メッキ8の表面8a上に取り付いたグラファイト9の定着性を向上する場合、図8(a)に示すようにグラファイト9が分散した銀メッキ8の表面8aに錫メッキ24を施し、その後に高温化処理(リフロー処理)を施してもよい。なお、錫メッキ24は上記の銀メッキ形成時に用いた電気メッキによって形成される。即ち、母材2に銀メッキ8を形成した後、錫成分を含んだメッキ液にその母材2を浸して直流電圧を印加し、銀メッキ8の表面8a全域に例えば1μm程度の厚さで錫メッキ24を形成する。なお、錫メッキ24が錫薄膜に相当する。
【0049】
銀メッキ8の表面8aに錫メッキ24を形成した後に高温化処理が行われるが、この際に用いる高温化処理はレーザ処理と炉18による加熱処理とのどちらを採用してもよい。ここで、この際の高温化処理は、図8(b)に示すように錫を溶融してその溶融した錫24aによって銀メッキ8の凹凸を埋める処理である。従って、この高温化処理では錫を溶融させればよいため、錫の融点が約232℃であることから、この高温化処理の溶融温度は約250℃〜300℃に設定されている。また、錫と銀とは相性がよいため、溶融した錫成分は銀メッキ8に強く固着した状態となる。
【0050】
従って、錫メッキ24を溶融し、その溶融した錫成分がグラファイト9の間にある隙間に流れ込み、図8(b)に示すように溶融した錫24aが銀メッキ8の凹凸を埋め、グラファイト9の周囲が錫成分で満たされる。よって、溶融した錫成分が銀メッキ8内のグラファイト9を周囲で強く固定した状態となり、グラファイト9が銀メッキ8から脱落し難くなり、グラファイト9の定着性向上や、銀メッキ8の耐摩耗性向上に効果がある。なお、銀メッキ8の表面8aに設ける錫層は錫メッキ24に代えて、薄い錫箔でもよい。また、この処理では銀よりも融点の低い錫を溶融させればよいので、高温化処理に際して温度上昇に必要な時間が短時間で済む。
【0051】
本実施形態の構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)母材2にグラファイト含有の銀メッキ8をメッキした後、銀メッキ8の表面8aを高温化処理によって溶融するので、その溶融した銀成分が銀メッキ8の表面8a上の凹凸を埋め、メッキ内のグラファイト9(22,23)が表面8a上に強く固定される。従って、多くのグラファイト9(22,23)が銀メッキ8に強く取り付いた状態となるため、グラファイト9(22,23)の銀メッキ8に対する定着性を向上することができる。
【0052】
(2)母材2の表面にグラファイト含有の銀メッキ8を形成し、そのメッキ内のグラファイト9で電気接点材料10の摺動性を確保している。ここで、例えばグラファイト9を増量する処理を施したとしても、グラファイト9は銀メッキ8内でその量が増えることになるため、母材2の材質成分はそのままである。従って、グラファイト9を増量したとしても、母材2が予め持つ強度はそのままであるため、その母材2を基材とする電気接点材料10の強度はグラファイト増量に影響されず、電気接点材料10の強度を充分に確保することができる。
【0053】
(3)高温化処理としてレーザ処理を用いた場合、レーザ照射は短時間で銀メッキ8の表面8aを溶融することが可能であるため、高温化処理の処理時間が短時間で済む。
(4)高温化処理として炉18による加熱処理を用いた場合、電気接点材料10を炉18に入れて溶融する処理というのは例えばレーザ装置11等の高価な装置を用いた処理ではないので、高温化処理にかかる費用ができるだけ安価で済み、実現性も高い。
【0054】
(5)電気接点材料10に高温化処理を施す際、高温化処理は非酸化雰囲気下で行われるため、その処理空間内に酸化物が存在し難くなり、銀メッキ8に分散したグラファイト9の酸化を生じ難くすることができる。
【0055】
(6)銀メッキ8の表面8aにグラファイト22,23をまぶしてから高温化処理を行う場合、銀メッキ8の表面8a上に分散するグラファイト量が増量するため、銀メッキ8の耐摩耗性を一層向上することができる。
【0056】
(7)銀コーティング23aの施されたグラファイト23を銀メッキ8の表面8aにまぶしてから高温化処理を行う場合、まぶされるグラファイト23はコーティングされた銀成分によって銀メッキ8との親和性が高いため、銀メッキ8に対する定着性を一層向上することができる。また、銀メッキ8にまぶされるグラファイト23の定着性が高まれば、銀メッキ8の表面8aにおいて表面グラファイト面積比Sにバラツキが生じ難くなり、グラファイト9,23の均一な分散も期待することができる。
【0057】
(8)銀メッキ8の表面8aに錫メッキ24を施し、錫メッキ24を高温化処理で溶融してグラファイト9を銀メッキ8に定着する場合、銀よりも融点の低い錫を溶融させればよい。従って、銀メッキ8自体を溶融してグラファイト9を定着する場合に比べ、錫は短時間で融点に到達するため、温度上昇に必要な時間が短く済み、より一層短時間でグラファイト9を銀メッキ8に定着させることができる。
【0058】
(9)銀メッキ8にはそのメッキ特性として高い電気導線性があることから、電気接点材料10に施す金属メッキを銀メッキ8とすることによって、電気導電性の高い電気接点材料10を提供することができる。
【0059】
なお、本実施形態は上記構成に限定されず、以下の態様に変更してもよい。
・ 電気接点材料10を製造工程は、母材2の表面にグラファイト含有の銀メッキ8を形成し、その銀メッキ8の表面8aを高温化処理で溶融する処理工程に限定されない。例えば、銀メッキ8自体にグラファイト9の粉末をまぶし、それに高温化処理を施すことで母材2の表面を溶融し、これによってグラファイト9を母材2に定着させてもよい。
【0060】
・ 母材2は銅に限らず、例えばニッケル等の他の材料を採用してもよい。
・ 金属メッキを電気メッキで形成する際、その金属メッキは銀メッキ8に限らず、例えば金メッキ、無電解ニッケルメッキ、クロムメッキ、ニッケルメッキ、はんだメッキ、錫メッキ、亜鉛メッキ等を採用してもよい。
【0061】
・ 周囲にコーティングを施したグラファイト23をまぶす際、そのコーティング材の材料は銀に限定されず、例えば錫等の他の材料を用いてもよい。
・ 銀メッキ8の表面8aに錫メッキ24を施し、錫メッキ24を高温化処理で溶融してグラファイト9を銀メッキ8に定着する場合、そのメッキ層は錫メッキ24に限定されない。即ち、銀よりも融点が低く、しかも銀に対して固着し易い材質であれば、メッキ材は特に限定されない。
【0062】
・ 母材2のメッキ方法は電気メッキに限らず、例えば化学メッキ、溶融メッキ、物理蒸着、化学蒸着、浸透メッキ等を採用してもよい。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
【0063】
(1)請求項2〜10のいずれかにおいて、前記グラファイトを含む金属メッキ液に前記母材を浸して当該母材を通電する電気メッキによって、グラファイト含有の前記金属メッキが該母材の表面に形成されている。この場合、電気メッキによって金属メッキを形成するので、ほぼ均一に安定した金属メッキを母材の表面に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】一実施形態における電気メッキ装置の概略構成を示す模式構成図。
【図2】(a)は高温化処理を行う前の電気接点材料の断面図、(b)は高温化処理を行った後の電気接点材料の断面図。
【図3】レーザ装置の概略構成を示す模式構成図。
【図4】炉装置の概略構成を示す模式構成図。
【図5】(a)はグラファイト粉末を銀メッキにまぶした際の電気接点材料の断面図であり、(b)はまぶし処理を施して高温化処理を行った後の電気接点材料の断面図。
【図6】表面グラファイト面積比とその耐久回数との関係を示すグラフ。
【図7】(a)は銀コーティングの施されたグラファイト粉末を銀メッキにまぶした際の電気接点材料の断面図、(b)はまぶし処理を施して高温化処理を行った後の電気接点材料の断面図。
【図8】(a)は銀メッキの表面に錫メッキを施した際の電気接点材料の断面図、(b)は錫メッキを施して高温化処理を行った後の電気接点材料の断面図。
【符号の説明】
【0065】
2…金属体を構成する母材、8…金属体(金属メッキ)を構成する銀メッキ、8a…表面10…電気接点材料、9,22,23…グラファイト、18…炉、23a…コーティング材としての銀コーティング、24…錫薄膜としての錫メッキ、24a…錫。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイトを含む金属体に高温化処理を施し、当該金属体の表面を溶融して該表面上の前記グラファイトを前記金属体に定着させることを特徴とする電気接点材料製造方法。
【請求項2】
母材の表面の一部又は全体に金属メッキで前記金属体を形成し、当該金属体に高温化処理を施して前記金属メッキの表面を溶融し、当該金属メッキに前記グラファイトを定着させることを特徴とする請求項1に記載の電気接点材料製造方法。
【請求項3】
前記高温化処理は、前記金属体の表面にレーザを照射することによって前記金属体の表面を溶融する処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気接点材料製造方法。
【請求項4】
前記高温化処理は、前記金属体を炉に入れて熱を加えることによって前記金属体の表面を溶融する処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気接点材料製造方法。
【請求項5】
前記高温化処理は、気体中の酸素割合が低い非酸化雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の電気接点材料製造方法。
【請求項6】
前記金属メッキには、グラファイトが含有されていることを特徴とする請求項2〜5のうちいずれか一項に記載の電気接点材料製造方法。
【請求項7】
前記グラファイトの粉末を前記金属メッキの表面にまぶし、当該まぶしを行った後に前記高温化処理を実施することを特徴とする請求項2〜6のうちいずれか一項に記載の電気接点材料製造方法。
【請求項8】
前記金属メッキに対して親和性の高いコーティング材が付着したグラファイトの粉末を前記金属メッキの表面にまぶし、当該まぶしを行った後に前記高温化処理を実施することを特徴とする請求項2〜6のうちいずれか一項に記載の電気接点材料製造方法。
【請求項9】
前記金属メッキの表面に少なくとも錫を含有した錫薄膜を形成し、当該錫薄膜を形成した後に前記高温化処理を実施することを特徴とする請求項2〜8のうちいずれか一項に記載の電気接点材料製造方法。
【請求項10】
前記金属メッキは銀メッキであることを特徴とする請求項2〜9のうちいずれか一項に記載の電気接点材料製造方法。
【請求項11】
グラファイトを含む金属体に高温化処理を施し、当該金属体の表面が溶融されることで該表面上の前記グラファイトが前記金属体に定着されていることを特徴とする電気接点材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−42388(P2007−42388A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224508(P2005−224508)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】