説明

電気絶縁用樹脂組成物及びエナメル線

【課題】 エナメル線の機械的特性、耐熱性、可とう性及び電気絶縁特性などの諸特性を維持しつつ、耐摩耗性及び耐熱性に優れた皮膜を生じうる電気絶縁用樹脂組成物及びこれを用いたエナメル線を提供する。
【解決手段】 (A)分子鎖中にイソシアヌレート環を有するポリエステルイミド樹脂と、(B)ポリカルボジイミドを含有してなる電気絶縁用樹脂組成物及び該電気絶縁用樹脂組成物を導体上に塗布し、焼付けてなるエナメル線に関するものであり、該電気絶縁用樹脂組成物は(A)分子鎖中にイソシアヌレート環を有するポリエステルイミド樹脂100重量部に対して、(B)ポリカルボジイミドを1〜10重量部を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁用樹脂組成物及びこれを用いたエナメル線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐熱性を有する絶縁電線としては、ポリイミド線、ポリアミドイミド線及びポリエステルイミド線等が知られている。これらのうち、例えば、特性と価格のバランスの点から、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(以下THEICと略す)を使用して分子鎖中にイミド結合及びイソシアヌレート環を導入したポリエステルイミド樹脂を焼き付けたポリエステルイミド線が比較的多量に使用されている。
【0003】
一方、最近の電気機器類の組立工程においては、機械による高速巻線作業が実施され、エナメル線に対して伸長、摩耗、屈曲等の厳しいストレスが加えられるようになり、その程度は年々厳しくなっている。
【0004】
従って、エナメル線に対して、高度な耐摩耗性、耐熱性及び可とう性等が要求されているが、特許文献1などに示されるように、従来のTHEICを使用したポリエステルイミドワニスの耐摩耗性は、要求に対しては不十分であった。
【特許文献1】特開2000−235813号公報
【0005】
THEICを使用したポリエステルイミドワニスの耐摩耗性を向上させる手段としては、THEIC量を増大させる、剛直モノマーを使用するなどの方法が挙げられるが、これらの方法を用いると可とう性、耐熱性等の諸特性が低下するという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、エナメル線の機械的特性、耐熱性、可とう性及び電気絶縁特性などの諸特性を維持しつつ、耐摩耗性及び耐熱性に優れた皮膜を生じうる電気絶縁用樹脂組成物及びこれを用いたエナメル線を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、分子鎖中にイソシアヌレート環を有するポリエステルイミド樹脂と、(B)ポリカルボジイミドを含有してなる電気絶縁用樹脂組成物に関する。
また、本発明は、(A)ポリエステルイミド樹脂100重量部に対して、(B)ポリカルボジイミド0.1〜10重量部を含有してなる電気絶縁用樹脂組成物に関する。
さらに、本発明は、前記の電気絶縁用樹脂組成物を導体上に塗布し、焼付けてなるエナメル線に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電気絶縁用脂組成物は、分子鎖中にイソシアヌレート環を有するポリエステルイミドを含有するので、耐摩耗性に優れると共に、耐熱性、可とう性及び電気絶縁特性などの諸特性が低下しない効果を奏し、かつこれらの効果を有するエナメル線を得ることができ工業的に極めて好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、分子鎖中にイソシアヌレート環を有するポリエステルイミド樹脂は、酸成分とアルコール成分との反応により得られる。ここで、イソシアヌレート環とは、次の一般式(1)の構造で示されるものである。
【0010】
【化1】

【0011】
また、本発明に用いるポリエステルイミド樹脂としては、酸成分の一部として一般式(2)で表されるイミドジカルボン酸を用いるものが好ましい。
【0012】
【化2】

〔式中、Rはトリカルボン酸の残基等の3価の有機基、Rはジアミンの残基等の2価の有機基を意味する〕で表されるイミドジカルボン酸を用いるものが好ましい。
【0013】
一般式(2)で表されるイミドジカルボン酸としては、例えばジアミン1モルに対してトリカルボン酸無水物2モルを反応させることにより得られるイミドジカルボン酸(特許文献2参照)が挙げられる。
【特許文献2】特公昭51−40113号公報
【0014】
また、あらかじめジアミンとトリカルボン酸無水物とを反応させてイミドジカルボン酸として用いないで、ジアミンとトリカルボン酸無水物をポリエステルイミドの製造時に加えて、イミドジカルボン酸の残基を形成してもよい。
【0015】
トリカルボン酸無水物としては、トリメリット酸無水物、3,4,4’−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、3,4,4’−ビタフェニルトリカルボン酸無水物等があり、これらのうちトリメリット酸無水物が好ましい。
また、ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン等が用いられる。
【0016】
イミドジカルボン酸の使用量は、全酸成分の15〜65当量%の範囲とすることが好ましく、20〜60当量%の範囲とすることがより好ましい。イミドジカルボン酸の使用量が少なすぎると耐熱性が劣る傾向にあり、多すぎると可とう性及びエナメル線の外観が低下する場合がある。
【0017】
上記のイミドジカルボン酸以外の酸成分としては、テレフタル酸又はその低級のアルキルエステル、例えば、テレフタル酸モノメチル、テレフタル酸の低級アルキルのジエステル等のテレフタル酸ジエステル、例えば、テレフタル酸ジメチルなどが用いられる。また、エナメル線用ポリエステルイミドワニスに常用される化合物、例えば、イソフタル酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸等を用いることもできる。
【0018】
また、分子鎖中にイソシアヌレート環を有するポリエステルイミド樹脂の製造に用いるアルコール成分としては、イソシアヌレート環を有するものを用いることが好ましく、トリス(ヒドロキシメチル)イソシアヌレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(3−ヒドロキシプロピル)イソシアヌレート等、水酸基を3つ有するイソシアヌレート化合物がより好ましいものとして挙げられ、これらのうち、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートが最も好ましいものとして挙げられる。
【0019】
イソシアヌレート化合物の使用量は、全アルコール成分の30〜90当量%の範囲とすることが好ましく、40〜80当量%の範囲とすることがより好ましい。イソシアヌレート化合物の使用量が少なすぎると耐熱性が劣る傾向にあり、多すぎると可とう性が低下する傾向にある。
【0020】
上記のイソシアヌレート環を有するアルコール成分以外のアルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等のジオール類、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等のトリオール類等が用いられる。これらの酸成分及びアルコール成分は単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0021】
アルコール成分と酸成分との配合割合は、可とう性及び耐熱性の点から、カルボキシル基に対する水酸基の当量比を1.3〜2.5とすることが好ましく、1.5〜2.2とすることがより好ましい。カルボキシル基に対する水酸基の当量比が2.5を超えると可とう性が低下する傾向があり、1.3未満であると耐熱性が低下する傾向がある。
【0022】
本発明に用いるポリエステルイミド樹脂の合成は、例えば、前記の酸成分とアルコール成分とをエステル化触媒の存在下に160〜250℃、好ましくは170〜250℃の温度で、3〜15時間、好ましくは5〜10時間加熱反応させることにより行われる。この際、用いられるエステル化触媒としては、例えば、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、ジブチルスズラウレート、ナフテン酸亜鉛等が挙げられる。
【0023】
また、反応は、窒素ガス等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
前記のイミドジカルボン酸は、あらかじめ合成したものを用いてもよく、また、ジアミン及び無水トリメット酸のイミド酸となる成分を他の酸成分、アルコール成分と同時に混合加熱してイミド化及びエステル化を同時に行ってもよい。このときジアミンと無水トリメット酸の配合量は、前記のイミドジカルボン酸の配合量に対応する量とするのが好ましい。
また、合成時の粘度が高いため、例えば、フェノール、クレゾール、キシノール等のフェノール系溶媒の共存下で合成を行うことが好ましい。
【0024】
本発明に使用するポリカルボジイミドの市販品としては、日清紡社製の商品名、V−01、V−03、V−05、V−07、V−09等が挙げられる。
本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、前記のようなポリエステルイミド樹脂に、ポリカルボジイミドを配合して得るものである。
【0025】
ポリカルボジイミドの配合量は、ポリエステルイミド樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部とすることが好ましく、0.5〜8重量部とすることがより好ましい。ポリカルボジイミドの量が0.1重量部未満であると、耐摩耗性の向上効果が少なくまた、10重量部を超えるとエナメル線の耐熱性が低下する傾向がある。
【0026】
本発明の電気絶縁用樹脂組成物には、必要に応じて更にテトラブチルチタネート等の硬化剤、有機酸の金属塩、例えば、亜鉛塩、鉛塩、マンガン塩等の外観改良剤を添加することができる。硬化剤の使用量は、ポリエステルイミド樹脂に対して3〜10重量%が好ましく、有機酸の金属塩の使用量は、ポリエステルイミド樹脂に対して0.1〜1重量%が好ましい。
【0027】
本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、溶媒に溶解して適当な粘度に調整して使用することができる。この際用いられる溶媒としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、セロソルブ類、キシレン等のポリエステルイミド樹脂との溶解性が良好な溶媒が用いられる。
【0028】
このようにして得られる本発明の電気絶縁用樹脂組成物は、銅線等の導体上に塗布し、焼付けることにより、耐摩耗性及び耐熱性に優れたエナメル線とすることができる。
本発明の組成物を用いること以外は、エナメル線の製造法は特に制限なく、常法に従うことができる。例えば、導体上に本発明の電気絶縁用樹脂組成物を塗布し、350〜550℃、好ましくは400〜500℃で1分〜5分間、好ましくは2〜4分間加熱して焼付ける工程を複数回繰り返し、所望の厚みの皮膜を導体上に形成する方法が挙げられる。
【0029】
最終的に形成される皮膜の厚みは、特に制限はないが、通常0.02〜0.08mmが好ましく、0.03〜0.06mmとすることがより好ましい。このようにして得られる本発明のエナメル線は、耐熱性、可とう性等の諸特性が低下することはない。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記において(%)は特に断らない限り(重量%)を意味する。
【0031】
実施例1
(1) ポリエステルイミド樹脂液の調製
温度計、攪拌機及びコンデンサ付き4つ口フラスコに、4,4’−ジアミノジフェニルメタン158.4g(1.6当量)、無水トリメット酸 307.2g(3.2当量)、テレフタル酸ジメチル232.8g(2.4当量)、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート375.8g(4.32当量)、エチレングリコール89.3g(2.88当量)、クレゾール 385g及びテトラブチルチタネート1.16gを入れ、窒素気流中で室温から1時間で170℃に昇温して3時間反応させた。
【0032】
次いで、得られた溶液を215℃に昇温して6時間反応させ、ポリエステルイミドを合成した。得られた樹脂溶液にクレゾール920gを加え、テトラブチルチタネート41.2gを添加して不揮発分42%のポリエステルイミド樹脂液を得た。
【0033】
(2) 電気絶縁用樹脂組成物の調製
上記(1)で得たポリエステルイミド樹脂液100gに、V−03(日清紡社製商品名、有効成分50%)を4.2g(樹脂液の固形分に対して5%)添加して電気絶縁用樹脂組成物を得た。なお、この電気絶縁用樹脂組成物中のテトラブチルチタネート(硬化剤)の含有量は、ポリエステルイミド樹脂液中の固形分に対して4%であった。
【0034】
実施例2
実施例1の(2)で用いたV−03に代えて、V−05(日清紡社製商品名、有効成分100%)を2.1g(樹脂液の固形分に対して5%)添加した以外は、実施例1と同様の材料を使用し、実施例1と同様の工程を経て電気絶縁用樹脂組成物を得た。
【0035】
実施例3
実施例1の(2)で用いたV−03に代えて、V−07(日清紡社製商品名、有効成分50%)を4.2g(樹脂液の固形分に対して5%)添加した以外は、実施例1と同様の材料を使用し、実施例1と同様の工程を経て電気絶縁用樹脂組成物を得た。
【0036】
比較例1
実施例1の(1)に示すポリエステルイミド樹脂液をそのまま電気絶縁用樹脂組成物とした。
【0037】
比較例2
温度計、攪拌機及びコンデンサ付き4つ口フラスコに、4,4’−ジアミノジフェニルメタン158.4g(1.6当量)、無水トリメット酸 307.2g(3.2当量)、テレフタル酸ジメチル232.8g(2.4当量)、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート461.1g(5.3当量)、エチレングリコール89.3g(2.88当量)、クレゾール 395g及びテトラブチルチタネート1.16gを入れ、窒素気流中で室温から1時間で170℃に昇温して3時間反応させた。
【0038】
次いで、得られた溶液を215℃に昇温して6時間反応させ、ポリエステルイミドを合成した。得られた樹脂溶液にクレゾール930gを加え、テトラブチルチタネート41.7gを添加して不揮発分42%のポリエステルイミド樹脂液を得た。これを電気絶縁用樹脂組成物とした。
【0039】
実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた電気絶縁用樹脂組成物を、下記の焼付け条件に従って直径が1.0mmの銅線に塗布し、線速14m/分で焼付け、エナメル線を作製した。
(塗布・焼付け条件)
焼付け炉:熱風式竪炉(炉長5.5m)
炉温 :入口/出口=320℃/430℃
塗装方法:樹脂組成物をくぐらせたエナメル線をダイスで絞り、焼付け炉を通過させる手順を7回行う。1回目から7回目までのダイスの径を1.05mm、1.06mm、1.07mm、1.08mm、1.09mm、1.10mm及び1.11mmと変化させた。
また、得られたエナメル線の一般特性(可とう性、耐熱衝撃性、絶縁破壊電圧、耐軟化性)をJIS C3003に準じて測定した。その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示されるように、実施例1〜3で得られた電気絶縁用樹脂組成物を用いて作製したエナメル線は、比較例で得られた電気絶縁用樹脂組成物に比較して、耐摩耗性に優れると共に、可とう性などの特性においても同等以上であることが明らかである。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子鎖中にイソシアヌレート環を有するポリエステルイミド樹脂と、(B)ポリカルボジイミドを含有してなる電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項2】
(A)ポリエステルイミド樹脂100重量部に対して、(B)ポリカルボジイミド0.1〜10重量部を含有してなる請求項1記載の電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電気絶縁用樹脂組成物を導体上に塗布し、焼付けてなるエナメル線。



【公開番号】特開2007−95639(P2007−95639A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287037(P2005−287037)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】