説明

電気自動車の前部車体構造

【課題】モータを備えた電気自動車の前部車体構造において、モータのコンパクトなレイアウトを実現する技術を提供することにある。
【解決手段】前輪15bを駆動するためのモータ部3と、当該モータ部3から出力された動力を前輪15bに伝達するデファレンシャルギヤ装置5とを有する電気自動車1の前部車体構造である。モータ部3は、車室R前壁を構成するダッシュパネル35の前方で、その出力軸が上下方向に延びるように配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを備えた電気自動車の前部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータを備えた電気自動車において、従来から、様々なモータの配置構造が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、電気自動車の重量配分をエンジン付車両と同じにするために、フロント側に設けられたエンジンルームとリヤ側に設けられたトランクルームとの間で車両本体の下面に形成されたトンネル内に、電動モータ装置ケースを配設するとともに、エンジンルーム内にモータ制御装置、補機及びバッテリを搭載した電気自動車が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−328529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、大型の機器(例えばエンジンとトランスミッション)を隣接配置する必要性が高いエンジン付車両とは異なり、モータを動力源とする電気自動車では、モータのレイアウトの自由度が高い。にも拘わらず、上記特許文献1のものでは、電動モータ装置ケースが車両前後方向における広い範囲を占めることから、特にエンジンルームよりも後方における、機器の配置等の設計自由度が制限されるという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、モータを備えた電気自動車の前部車体構造において、モータのコンパクトなレイアウトを実現する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明では、モータをその出力軸が上下方向に延びるように配設することによって、平面視でモータの占めるスペースが小さくなるようにしている。
【0008】
第1の発明は、前輪を駆動するためのモータと、当該モータから出力された動力を前輪に伝達するデファレンシャルギヤ装置とを備えた電気自動車の前部車体構造であって、上記モータは、車室前壁を構成するダッシュパネルの前方で、その出力軸が上下方向に延びるように配設されていることを特徴とするものである。
【0009】
第1の発明では、モータは、その出力軸が上下方向に延びるように直立配置されているので、出力軸が車両前後方向に延びるように配設されているものに比べて、車両前後方向において占めるスペースが小さくなるとともに、出力軸が車幅方向に延びるように配設されているものに比べて、車幅方向において占めるスペースが小さくなる。これにより、モータのコンパクトなレイアウトが可能となる。
【0010】
また、モータをダッシュパネルの前方に配置するので、ダッシュパネルよりも後方の空間、例えば、フロアトンネル内部のレイアウトの自由度が向上する。さらに、フロアトンネル自体を設ける必要性が低下するので、フロアパネルの設計自由度が向上する。
【0011】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記モータは、上記前輪の駆動軸の上方に配置され、且つ、車体の左右両側で前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームにモータ連結部材を介して連結されていることを特徴とするものである。
【0012】
第2の発明によれば、モータが前輪の駆動軸の上方に配置されているので、モータの配置位置がヨー慣性モーメント発生中心に近づくことから、低ヨー慣性モーメントのレイアウトを達成することができる。
【0013】
ところで、モータをその出力軸が車両前後方向に延びるように配設した場合、モータに生じるトルクによって、車体に車両正面視で時計回り(又は反時計回り)に回転力が作用し、車体が上下に揺れるとともに左側の前後輪(又は右側の前後輪)で反力を受けることになる。一方、モータをその出力軸が車幅方向に延びるように配設した場合、モータに生じるトルクによって、車体に車両側面視で反時計回り(又は時計回り)に回転力が作用し、車体が前後に揺れ易くなるとともに左右の前輪(又は左右の後輪)で反力を受けることになる。
【0014】
ここで、第2の発明では、モータをその出力軸が上下方向に延びるように配設しており、且つ、当該モータを左右一対のフロントサイドフレームにモータ連結部材を介して連結していることから、モータに生じるトルクが車体に伝達されて、車体に平面視で反時計回り(又は時計回り)に回転力が作用する。このため、車体が左右に揺れ易くなるが、左右の前後輪でかかる回転力に抗することから、車体が左右に揺れるのを抑えることができるとともに、左右の前後輪にそれぞれ発生する反力を分散低減することができる。
【0015】
加えて、モータをフロントサイドフレームに連結する場合、通常、モータ連結部材が長くなることから、モータを支持する部位(フロントサイドフレーム)に作用する力を低減することができる。
【0016】
第3の発明は、上記第2の発明において、上記モータは、当該モータを支持するモータ支持部材を介して上記デファレンシャルギヤ装置と連結されており、上記各モータ連結部材は、上記モータ支持部材から上記左右一対のフロントサイドフレームに向かって延びるように設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
第3の発明では、モータをフロントサイドフレームに連結するためのモータ連結部材は、モータ(モータケース)自体に設けられているのではなく、モータ支持部材からフロントサイドフレームに向かって延びるように設けられているので、モータのメンテナンスや交換を容易に行うことができる。
【0018】
第4の発明は、上記第1の発明において、上記モータは、上記前輪の駆動軸の上方に配置され、且つ、上記ダッシュパネルにモータ連結部材を介して連結されていることを特徴とするものである。
【0019】
第4の発明によれば、第2の発明と同様の効果を得ることができる。
【0020】
第5の発明は、上記第1〜第4のいずれか1つの発明において、上記モータと上記デファレンシャルギヤ装置とは、上下一体に連結されていて、これらモータ及びデファレンシャルギヤ装置が車幅方向略中央部に配置されていることを特徴とするものである。
【0021】
第5の発明によれば、質量の大きいモータ及びデファレンシャルギヤ装置を車幅方向中央部に配置することで、車幅方向の重量バランスを略等しく設定することが可能となる。
【0022】
また、モータとデファレンシャルギヤ装置とが上下一体に連結されていることから、デファレンシャルギヤ装置がモータ及びモータ連結部材を介してフロントサイドフレーム又はダッシュパネルに連結された場合、デファレンシャルギヤ装置を確実に車体に固定することができる。
【0023】
第6の発明は、上記第1〜第5のいずれか1つの発明において、上記デファレンシャルギヤ装置は、上記モータの下側に配置され、且つ、上記前輪のサスペンション装置を支持するサスペンションクロスメンバにデファレンシャルギヤ連結部材を介して連結されていることを特徴とするものである。
【0024】
第6の発明によれば、デファレンシャルギヤ装置がサスペンションクロスメンバに連結されていることから、モータがフロントサイドフレーム又はダッシュパネルに連結されている場合、上下一体に連結されているモータ及びデファレンシャルギヤ装置をより一層確実に車体に固定することができる。
【0025】
また、このように、モータがデファレンシャルギヤ装置を介してサスペンションクロスメンバに連結されるので、モータの支持点数が増え、各支持部に作用する力が分散低減される。
【0026】
第7の発明は、上記第2又は3の発明において、上記モータと上記デファレンシャルギヤ装置とは、上下一体に連結されていて、これらモータ及びデファレンシャルギヤ装置は、車幅方向略中央部に配置されており、上記デファレンシャルギヤ装置は、上記モータの下側に配置され、且つ、デファレンシャルギヤ連結部材によってその両側で、上記前輪のサスペンションを支持するサスペンションクロスメンバに連結されており、平面視で、上記モータの中心から上記モータ連結部材と上記フロントサイドフレームとの連結位置までの長さが、上記モータの中心から上記デファレンシャルギヤ連結部材と上記サスペンションクロスメンバとの連結位置までの長さよりも長く設定されていることを特徴とするものである。
【0027】
第7の発明によれば、モータの中心からモータ連結部材とフロントサイドフレームとの連結位置までの長さが、モータの中心からデファレンシャルギヤ連結部材とサスペンションクロスメンバとの連結位置までの長さよりも長く設定されているので、フロントサイドフレームに作用する力を低減することができる。
【0028】
第8の発明は、上記第2、3又は第7の発明において、上記各モータ連結部材は、上記各フロントサイドフレームの上面に設けられたモータ取付部で当該各フロントサイドフレームに取り付けられていることを特徴とするものである。
【0029】
第8の発明によれば、フロントサイドフレームの上面を有効に利用することができる。
【0030】
第9の発明は、上記第1〜第8のいずれか1つの発明において、上記モータは、車両前方から所定値以上の荷重が入力したときに、当該モータと上記デファレンシャルギヤ装置とが車両前後方向に相対的に変位するように、当該デファレンシャルギヤ装置と連結されており、上記デファレンシャルギヤ装置は、車両前方から所定値以上の荷重が入力したときに、後方へ移動可能になっていることを特徴とするものである。
【0031】
第9の発明では、前突など車両前方から所定値以上の荷重が入力したときに、例えばモータとデファレンシャルギヤ装置との連結が解除されて、モータとデファレンシャルギヤ装置とが車両前後方向に相対的に変位するように、モータとデファレンシャルギヤ装置とが連結されており、且つ、デファレンシャルギヤ装置が後方へ移動可能になっているので、当該デファレンシャルギヤ装置は、モータを後方へ引っ張ることなく、入力荷重による衝撃エネルギーを吸収する。これにより、前突など車両前方から所定値以上の荷重が入力した場合、モータと車体との連結状態を維持しつつ、入力荷重による衝撃エネルギーを吸収することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る電気自動車の前部車体構造によれば、モータは、その出力軸が上下方向に延びるように配設されているので、出力軸が車両前後方向に延びるように配設されているものに比べて、車両前後方向において占めるスペースが小さくなり、これにより、車両前後方向及び車幅方向における、モータのコンパクトなレイアウトが可能となる。また、モータをダッシュパネルの前方に配置するので、ダッシュパネルよりも後方の空間のレイアウトの自由度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る前部車体構造を有する電気自動車を模式的に示す平面図である。
【図2】電気自動車を模式的に示す側面図である。
【図3】車体へのモータ及びデファレンシャルギヤ装置の連結構造を示す図であり、同図(a)は側面図であり、同図(b)は正面図であり、同図(c)は平面図である。
【図4】ゴムブッシュとモータ取付部との連結構造を示す図である。
【図5】モータに生じるトルクの車体への影響を説明する図であり、同図(a)は正面図であり、同図(b)は側面図であり、同図(c)は平面図である。
【図6】ギヤ連結部材を示す斜視図である。
【図7】モータに生じるトルクとモータ取付部に作用する力との関係を説明する図である。
【図8】サスペンションクロスメンバとバッテリ搭載フレームとの連結部を示す縦断面図である。
【図9】実施形態1の参考例に係る前部車体構造を有する電気自動車の前部を示す斜視図である。
【図10】実施形態2に係る、車体へのモータ及びデファレンシャルギヤ装置の連結構造を示す図であり、同図(a)は正面図であり、同図(c)は側面図である。
【図11】実施形態3に係る、車体へのモータ及びデファレンシャルギヤ装置の連結構造を示す図であり、同図(a)は側面図であり、同図(b)は正面図であり、同図(c)は平面図である。
【図12】図11のXII−XII線における矢視断面図である。
【図13】図11のXIII−XIII線における矢視断面図である。
【図14】前突時におけるモータ及びデファレンシャルギヤ装置の位置関係を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0035】
(実施形態1)
図1は、本発明に係る前部車体構造を有する電気自動車を模式的に示す平面図であり、図2は、電気自動車を模式的に示す側面図である。なお、図を見易くするために、図1では、フロアトンネル19、ダッシュパネル35、前後のシート41a,41b等を図示省略し、また、図2では、フレーム部材67a,67b、フロアサイドフレーム25a,25b等を図示省略している。
【0036】
この電気自動車1は、左右の前輪15a,15bを駆動するためのモータ部(モータ)3を動力源として備えており、エンジン及びモータを動力源とする所謂パラレルハイブリッド車両とは異なり、当該電気自動車1が動くための動力は全てモータ部3に頼るようになっている。
【0037】
また、この電気自動車1では、図2に示すように、車室Rの前壁を構成するダッシュパネル35の前方且つ車体の左右両側で、車両前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bが車幅方向に間隔をあけて配設されている一方、車体後部で前後方向に延びるリアサイドフレーム23a,23bが車幅方向に間隔をあけて左右両側に配設されている。フロントサイドフレーム21a,21b同士はバンパーレインフォースメント29で連結されている一方、リアサイドフレーム23a,23b同士はクロスメンバ31で連結されている。
【0038】
これらフロントサイドフレーム21a,21bとリアサイドフレーム23a,23bとは、車幅方向中央部で車両前後方向に延びる左右のフロアサイドフレーム25a,25bによって接続されているとともに、サイドシルを形成するフレーム部材67a,67bにそれぞれ接続されている。また、左右のフロアサイドフレーム25a,25bの間には、車両前後方向に延びるフロアトンネル19が、上方に膨出するように形成されている。
【0039】
電気自動車1は、モータ部3の他に、各々左右の前輪15a,15bに連結され、且つ、モータ部3から出力された動力を当該左右の前輪15a,15bに伝達するデファレンシャルギヤ装置5と、左右の前輪15a,15bのストラット式のサスペンション装置(コントロールアーム7のみを示す)をそれぞれ支持するサスペンションクロスメンバ9と、モータ部3に電力を供給するためのバッテリ部(バッテリ)11と、当該バッテリ部11を搭載するためのバッテリ搭載フレーム17と、を備えている。
【0040】
モータ部3は、モータケース63と、不図示のステータ、ロータと、ロータシャフト(出力軸)3aとを有している(図11参照)。モータ部3は、ダッシュパネル35の前方で、ロータシャフト3aが上下方向に延びるように配設されている。より詳しくは、このモータ部3は、図1に示すように、前輪15a,15bの駆動軸59の上方に直立配置されており、当該モータ部3の下側に位置するデファレンシャルギヤ装置5を介してサスペンションクロスメンバ9に取り付けられている。このように、この電気自動車1では、モータ部3はロータシャフト3aが上下方向に延びるように配設されているので、ロータシャフト3aが車両前後方向に延びるように配設されているものに比べて、車両前後方向において占めるスペースが小さくなっている。また、モータ部3を前輪15a,15bの駆動軸59の上方に配設することで、ヨー慣性モーメントが低減されて走行性能が向上するようになっているとともに、モータ部3及びデファレンシャルギヤ装置5を車幅方向略中央部に配置することで、車幅方向の重量バランスが略等しく設定されている。
【0041】
このモータ部3は、図3に示すように、左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bにモータ連結部材45を介して連結されている。より詳しくは、モータ部3は、当該モータ部3を支持するモータ支持部材43を介してデファレンシャルギヤ装置5と上下一体に連結されており、モータ連結部材45,45は当該モータ支持部材43から左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bに向かって、左斜め上方及び右斜め上方にそれぞれ延びている。そうして、各モータ連結部材45,45は、各フロントサイドフレーム21a,21bの上面に設けられたモータ取付部13,13で当該フロントサイドフレーム21a,21bにそれぞれ連結されている。
【0042】
各モータ取付部13,13は、図4に示すように、相対向する頂壁部13a及び底壁部13bと、これらを連結する竪壁部13cとを有する、断面コ字状に形成された金属製の部材である。これら頂壁部13a及び底壁部13bの中央部には、後述するゴムブッシュ47の内筒体47aの内径と略同径の貫通孔13d,13eがそれぞれ形成されている。また、頂壁部13aと底壁部13bとの間隔、換言すると、モータ取付部13の内空高さは、ゴムブッシュ47の内筒体47aの長さと略等しくなっている。
【0043】
各モータ連結部材45,45は、中実部材であるアーム部45aと、当該アーム部45aの先端に設けられたゴムブッシュ47とを有していて、当該ゴムブッシュ47でモータ取付部13に取り付けられている。このゴムブッシュ47は、金属製の内筒体47aと、当該内筒体47aと同軸で且つその外側に設けられた金属製の外筒体47bと、これら内筒体47aと外筒体47bとの間に接着固定されたゴム弾性体47cとを有している。
【0044】
ゴムブッシュ47の外筒体47bは、各モータ連結部材45,45の先端部と溶接されている一方、内筒体47aは、その両端がモータ取付部13の頂壁部13aの下面と底壁部13bの上面とに接触した状態で、貫通孔13d,13e及び当該内筒体47aに挿通されたボルト97とナット99,99によってモータ取付部13に固定されている。これにより、モータ部3は、モータ連結部材45,45とモータ取付部13,13とを介して、左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bに弾性支持されている。
【0045】
ところで、図5(a)に示すように、モータ部3をロータシャフト3aが車両前後方向に延びるように配設した場合、モータ部3に生じるトルクによって、電気自動車1に車両正面視で反時計回り(又は時計回り)に回転力が作用し、車体が上下に揺れるとともに右側の前後輪15b,15d(又は左側の前後輪15a,15c)で反力を受けることになる。
【0046】
一方、図5(b)に示すように、モータ部3をロータシャフト3aが車幅方向に延びるように配設した場合、モータ部3に生じるトルクによって、電気自動車1に車両側面視で反時計回り(又は時計回り)に回転力が作用し、車体が前後に揺れ易くなるとともに左右の前輪15a,15b(又は左右の後輪15c,15d)で反力を受けることになる。
【0047】
ここで、本実施形態では、図5(c)に示すように、モータ部3をロータシャフト3aが上下方向に延びるように直立配置しており、且つ、当該モータ部3を左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bにモータ連結部材45,45を介して連結していることから、モータ部3に生じるトルクが車体に伝達されて、電気自動車1に平面視で反時計回り(又は時計回り)に回転力が作用する。このため、車体が左右に揺れ易くなるが、左右の前後輪15a,15b,15c,15dでかかる回転力に抗することから、車体が左右に揺れるのを抑えることができるとともに、左右の前後輪15a,15b,15c,15dにそれぞれ発生する反力を分散低減することができる。
【0048】
上記デファレンシャルギヤ装置5は、ギヤケース57と、当該ギヤケース57に収容される複数のギヤ(図示せず)とを有している。このデファレンシャルギヤ装置5は、駆動軸59と連結されおり、モータ部3から出力された動力を左右の前輪15a,15bに伝達するようになっている。デファレンシャルギヤ装置5は、上述の如く、ギヤケース57がモータ支持部材43を介してモータケース63と上下一体に連結されていて、モータ部3の下側に配置されている。
【0049】
このデファレンシャルギヤ装置5は、以下のようにしてサスペンションクロスメンバ9に連結されている。すなわち、サスペンションクロスメンバ9の車幅方向中央部の前端には、左右一対の箱状ブラケット49,49が取り付けられている。これら箱状ブラケット49,49は、図3(c)に示すように、先端に平坦面49aを有する略台形状に形成されており、当該平坦面49aにギヤ取付部39が配設されている。なお、ギヤ取付部39は上記モータ取付部13と全く同じ構造なので、説明を省略する。また、図3以下では、コントロールアーム7を図示省略する。
【0050】
一方、デファレンシャルギヤ装置5の下端部の前側には、ギヤ連結部材(デファレンシャルギヤ連結部材)51が取り付けられている。このギヤ連結部材51は、図6に示すように、断面矩形状のアーム部51aと、当該アーム部51aの両端部に溶接された上記ゴムブッシュ47,47とを有している。このアーム部51aには、当該アーム部51aを上下方向に貫通する貫通孔51b,51bが2つ形成されており、これら2つの貫通孔51b,51bに、ギヤケース57の前端部に突設された下方に延びる2つ取付ピン57a,57a(図3(b)参照)が嵌挿されることによって、ギヤ連結部材51がデファレンシャルギヤ装置5の下端部の前側に固定されるようになっている。
【0051】
そうして、ギヤ連結部材51のゴムブッシュ47は、上述の如くゴムブッシュ47をモータ取付部13に固定したのと同様の構造により、各箱状ブラケット49,49の先端に配設されたギヤ取付部39に固定されている。これにより、デファレンシャルギヤ装置5は、ギヤ連結部材51とギヤ取付部39,39と箱状ブラケット49,49とを介して、サスペンションクロスメンバ9に弾性支持されている。
【0052】
以上のように、モータ部3がフロントサイドフレーム21a,21bに連結されるとともに、デファレンシャルギヤ装置5がサスペンションクロスメンバ9に連結されることにより、上下一体に連結されているモータ部3及びデファレンシャルギヤ装置5が確実に車体に固定されている。また、かかる構造を採用することによって、モータ部3が、フロントサイドフレーム21a,21bのみならず、デファレンシャルギヤ装置5を介してサスペンションクロスメンバ9にも連結されるので、モータの支持点数が増え、各支持部に作用するトルク反力が分散低減されるようになっている。
【0053】
ところで、図7に模式的に示すように、モータ部3に生じるモーメントをM1とし、ゴムブッシュ47(モータ取付部13)に生じるモーメントをM2とすると、M1とM2は等しくなる。ここで、モータケース63の半径をlとし、モータ部3に生じるトルクをTとすると、M1はM1=T×lと表される。一方、ゴムブッシュ47の軸心からモータケース63までの距離をLとし、モータ取付部13に作用する力をFとすると、M2はM2=F×Lと表される。そして、M1=M2であることから、モータ取付部13に作用する力Fは、F=T×l/Lと表される。したがって、モータ取付部13に作用する力Fは、Lが長いほど小さくなる。そして、モータケース63の半径lが略一定であることから、力Fは、モータ部3の中心からモータ取付位置(モータ取付部13)までの長さが長いほど小さくなるという関係にある。
【0054】
ここで、図3(c)から明らかなように、モータ部3の中心O1から、モータ連結部材45,45とフロントサイドフレーム21a,21bとの連結位置であるモータ取付部13(の孔13d,13eの中心)までの長さL1は、モータ部3の中心O1から、ギヤ連結部材51とサスペンションクロスメンバ9(より詳しくは箱状ブラケット49)との連結位置であるギヤ取付部39(の孔の中心)までの長さL2よりも長く設定されている。これにより、モータ取付部13に作用する力が、ギヤ取付部39に作用する力に比して小さくなるので、フロントサイドフレーム21a,21bに作用するトルク反力が低減されることになる。
【0055】
上記バッテリ搭載フレーム17は、図2に示すように、フロアトンネル19内で車両前後方向に延びる前側搭載部27と、後部シート41bの下で車幅方向に延びる後側搭載部37とを有しており、図1に示すように、平面視で略T字状に形成されている。なお、前側搭載部27は、車両前後方向中央部から車幅方向外側に延びる、車幅方向両端部に貫通孔27b,27bがそれぞれ形成された連結板27aを有している。
【0056】
これら前側及び後側搭載部27,37が一体に形成されたバッテリ搭載フレーム17は、前側搭載部27の連結板27aが上記フロアサイドフレーム25a,25bにボルト締結されるとともに、後側搭載部37が上記リアサイドフレーム23a,23bにボルト締結されることによって、車体に強固に取り付けられている。このように、バッテリ搭載フレーム17を車体にボルト締結することにより、車体剛性を高めることが可能となる。
【0057】
また、図8に示すように、上記サスペンションクロスメンバ9の後端部には水平且つ後方に延びるブラケット9aが形成されており、前側搭載部27は当該ブラケット9aと、上側取付部77aと下側取付部77bとをゴム弾性体77cで連結した防振装置77を介して連結されている。
【0058】
このように、サスペンションクロスメンバ9とバッテリ搭載フレーム17とを連結することで、車体剛性がさらに上がるとともに、モータ部3やサスペンション装置からの揺れをバッテリ搭載フレーム17で吸収することが可能となる。また、サスペンションクロスメンバ9は、防振装置77を介して弾性支持されているので、サスペンション装置の緩衝装置としての機能を阻害し難くなっている。
【0059】
バッテリ部11は、バッテリケース61と、当該バッテリケース61に収納された充電式電池とを有している。このバッテリ部11は、図1及び図2に示すように、車両前後方向に延びるバッテリ前側部11aと、当該バッテリ前側部11aの後端と連続し、車幅方向に延びるバッテリ後側部11bとを有しており、平面視で略T字状に形成されている。バッテリ前側部11a及びバッテリ後側部11bは、それぞれバッテリ搭載フレーム17の前側及び後側搭載部27,37に搭載されている。
【0060】
以上のように構成された、本実施形態の前部車体構造では、モータ部3、デファレンシャルギヤ装置5、バッテリ部11等の重量物が車幅方向中央部に配置されることかロール慣性モーメントが低減されるので、走行性能が向上する構造となっている。
【0061】
−効果−
本実施形態によれば、モータ部3は、ロータシャフト3aが上下方向に延びるように直立配置されているので、ロータシャフト3aが車両前後方向に延びるように配設されているものに比べて、車両前後方向において占めるスペースが小さくなるとともに、ロータシャフト3aが車幅方向に延びるように配設されているものに比べて、車幅方向において占めるスペースが小さくなる。これにより、車両前後方向及び車幅方向における、モータ部3のコンパクトなレイアウトが可能となる。
【0062】
また、かかるモータ部3をダッシュパネル35の前方に配置するので、ダッシュパネル35よりも後方の空間、例えば、フロアトンネル19内部のレイアウトの自由度が向上する。
【0063】
さらに、モータ部3は、前輪15a,15bの駆動軸59の上方に配置されているので、モータ部3の配置位置がヨー慣性モーメント発生中心に近づくことから、低ヨー慣性モーメントのレイアウトを達成することができる。
【0064】
また、モータ部3をモータ連結部材45,45を介してフロントサイドフレーム21a,21bに連結していることから、モータ部3に生じるトルクが車体に伝達され、車体に平面視で反時計回り(又は時計回り)に回転力が作用する。このため、車体が左右に揺れ易くなるが、左右の前後輪15a,15b,15c,15dでかかる回転力に抗することから、車体が左右に揺れるのを抑えることができるとともに、左右の前後輪15a,15b,15c,15dにそれぞれ発生する反力を低減することができる。
【0065】
加えて、モータ部3をフロントサイドフレーム21a,21bに連結すれば、通常、モータ連結部材45,45が長くなることから、フロントサイドフレーム21a,21bに作用する力を低減することができる。
【0066】
さらに、質量の大きいモータ部3及びデファレンシャルギヤ装置5を車幅方向中央部に配置することで、車幅方向の重量バランスを略等しく設定することが可能となる。
【0067】
また、モータ部3がフロントサイドフレーム21a,21bに連結されているとともに、デファレンシャルギヤ装置5がサスペンションクロスメンバ9に連結されていることから、上下一体に連結されているモータ部3及びデファレンシャルギヤ装置5を確実に車体に固定することができる。さらに、モータ部3がデファレンシャルギヤ装置5を介してサスペンションクロスメンバ9に連結されるので、モータ部3の支持点数が増え、各支持部に作用する力が分散低減される。
【0068】
また、モータ部3の中心からモータ取付部13までの長さL1が、モータ部3の中心からギヤ取付部39までの長さL2よりも長く設定されているので、フロントサイドフレーム21a,21bに作用する力を低減することができる。
【0069】
さらに、モータ部3をフロントサイドフレーム21a,21bに連結するためのモータ連結部材45,45は、モータケース63自体に設けられているのではなく、モータ支持部材43からフロントサイドフレーム21a,21bに向かって延びるように設けられているので、モータ部3のメンテナンスや交換を容易に行うことができる。
【0070】
また、各モータ連結部材45,45は、各フロントサイドフレーム21a,21bの上面に設けられたモータ取付部13,13で当該各フロントサイドフレーム21a,21bに取り付けられているので、フロントサイドフレーム21a,21bの上面を有効に利用することができる。
【0071】
(変形例)
上記実施形態では、モータ部3をモータ連結部材45,45を介してフロントサイドフレーム21a,21bに連結したが、これに限らず、以下に述べるようにしてもよい。なお、上記実施形態1のものと同一部材には同一の符号を付してその説明は省略する。
【0072】
そして、変形例では、図9に示すように、モータ部3は、前輪15a,15bの駆動軸59の上方に直立配置され、且つ、ダッシュパネル35にモータ連結部材55,55を介して連結されている。具体的には、ダッシュパネル35の前面には、車幅方向に間隔を開けてモータ取付部33,33が2つ固定されている。なお、モータ連結部材55は上記モータ連結部材45と、また、モータ取付部33は上記モータ取付部13と、それぞれ同じ構造なので、説明を省略する。
【0073】
そうして、各モータ連結部材55,55のゴムブッシュ47は、上述の如くモータ連結部材45のゴムブッシュ47をモータ取付部13に固定したのと同様の構造により、ダッシュパネル35の前面に固定されたモータ取付部33に取り付けられている。このように、モータ部3は、モータ連結部材55,55とモータ取付部33,33とを介して、ダッシュパネル35に弾性支持されており、これにより、上記実施形態1と同様の効果を得ることが可能となる。
【0074】
(実施形態2)
本実施形態は、モータ部3とモータ連結部材65,65との連結構造、及び、デファレンシャルギヤ装置5とサスペンションクロスメンバ9との連結構造が実施形態1と異なるものである。以下、実施形態1と異なる点について説明する。なお、上記実施形態1のものと同一部材には同一の符号を付してその説明は省略する。
【0075】
図10(a)に示すように、モータ連結部材65,65はモータケース63から左右両側に真っ直ぐ延びている。そうして、各モータ連結部材65,65のゴムブッシュ47,47は、各フロントサイドフレーム21a,21bの上面に設けられた各モータ取付部13,13で当該各フロントサイドフレーム21a,21bにそれぞれ取り付けられている。
【0076】
また、図10(b)に示すように、デファレンシャルギヤ装置5は、サスペンションクロスメンバ9に左右一対のギヤ連結部材71,71を介して連結されている。各ギヤ連結部材71,71は、断面矩形状のアーム部71aと、当該アーム部71aの両端部に溶接された前側及び後側ゴムブッシュ81a,81bとを有しており、上記ギヤ連結部材51よりもサイズが小さいことを除いては、ギヤ連結部材51と同様の構造を有している。
【0077】
デファレンシャルギヤ装置5の下端部には、左右一対の前側取付部57b,57bが形成されている。各前側取付部57bは、各々後方斜め下方に延び、且つ、車幅方向に相対向する舌状プレート57c,57cからなっており、これら舌状プレート57c,57c,57c,57cには、その中央部に車幅方向に延びる貫通孔が形成されている。ギヤ連結部材71の前側ゴムブッシュ81aの内筒体は、その両端がこれら相対向する舌状プレート57c,57cの対向面にそれぞれ接触した状態で、貫通孔及び当該内筒体に挿通されたボルトとナットによって前側取付部57bに取り付けられている。
【0078】
一方、サスペンションクロスメンバ9の中央部の前面には、左右一対の後側取付部9b,9bが形成されている。各後側取付部9bは、各々前方に延び、且つ、車幅方向に相対向する舌状プレート9c,9cからなっており、これら舌状プレート9c,9c,9c,9cには、その中央部に車幅方向に延びる貫通孔が形成されている。ギヤ連結部材71の後側ゴムブッシュ81bの内筒体は、その両端がこれら相対向する舌状プレート9c,9cの対向面にそれぞれ接触した状態で、貫通孔及び当該内筒体に挿通されたボルトとナットによって後側取付部9bに固定されている。なお、図10(b)では、図を見易くするために、前側及び後側取付部57b,9bの左外側の舌状プレート57c,9cを図示省略している。
【0079】
このように、デファレンシャルギヤ装置5は、左右一対のギヤ連結部材71,71を介してサスペンションクロスメンバ9に弾性支持されているが、各ギヤ連結部材71,71は、前側及び後側ゴムブッシュ81a,81bの軸心位置が、以下のような関係になるように、デファレンシャルギヤ装置5及びサスペンションクロスメンバ9にそれぞれ連結されている。
【0080】
すなわち、車両側面視で、モータ連結部材65のモータケース63への取付部の中心O2を中心として円Cを描き、前側及び後側ゴムブッシュ81a,81bの軸心がかかる円C上に位置するように、前側及び後側ゴムブッシュ81a,81bをデファレンシャルギヤ装置5及びサスペンションクロスメンバ9にそれぞれ連結している。このように、前側及び後側ゴムブッシュ81a,81bを配置することにより、上下一体に連結されたモータ部3及びデファレンシャルギヤ装置5が中心O2を支点として揺動した場合、例えば、前側のゴムブッシュ47には圧縮力が作用する一方、後側のゴムブッシュ47にはねじり力が作用するという状態が生じ難くなり、前後のゴムブッシュ47に共に圧縮力が作用することになる。
【0081】
−効果−
本実施形態によれば、モータ部3及びデファレンシャルギヤ装置5がモータ連結部材65のモータケース63への取付部の中心O2支点として揺動した場合、その揺動力を前後のゴムブッシュ47によって効果的に吸収することができる。
【0082】
(実施形態3)
本実施形態は、モータ部3とフロントサイドフレーム21a,21bとの連結構造、デファレンシャルギヤ装置5とサスペンションクロスメンバ9との連結構造、及び、モータ部3とデファレンシャルギヤ装置5との連結構造が実施形態1と異なるものである。以下、実施形態1と異なる点について説明する。なお、上記実施形態1のものと同一部材には同一の符号を付してその説明は省略する。
【0083】
モータ部3は、図11に示すように、上記左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bのモータ取付部53,53にモータ連結部材75,75を介して連結されている。各モータ連結部材75,75は、円弧状のプレート部75aと、当該プレート部75aから径方向外側に二股に分かれて延びるアーム部75b,75bと、当該各アーム部75b,75bの先端に設けられた有頂筒状の取付部75c,75cとを有している。プレート部75aは、その内周面がモータケース63の外周面に沿うように形成されていて、モータケース63の外周面に溶接されている。また、各取付部75c,75cには、その中央部にボルト挿通孔75dが貫通形成されている。
【0084】
一方、各モータ取付部53,53は、図12に示すように、上方に延びる短ボルト53dを有する上側取付部53aと、下方に延びる長ボルト53eを有する下側取付部53bと、これらの取付部53a,53bを連結するゴム弾性体53cとを有している。各モータ取付部53,53は、フロントサイドフレーム21a,21bに形成された貫通孔21c,21dに長ボルト53eを挿通し、当該長ボルト53eをナット53fで締め付けることによって、フロントサイドフレーム21a,21bに固定されている。
【0085】
そうして、有頂筒状の取付部75cを、上から被せるようにモータ取付部53の上側取付部53aに嵌め、取付部75cのボルト挿通孔75dから上方に飛び出した短ボルト53dをナット53fで締め付けることによって、モータ連結部材75とモータ取付部53とが連結されている。これにより、モータ部3は、左右のモータ連結部材75,75とモータ取付部53,53とを介して、左右一対のフロントサイドフレーム21a,21bに弾性支持されている。
【0086】
これに対し、デファレンシャルギヤ装置5は、その下端部の前側に取り付けられた上記ギヤ連結部材51のみならず、その後端部に取り付けられたゴムブッシュ47によって、サスペンションクロスメンバ9に連結されている。より詳しくは、サスペンションクロスメンバ9の車幅方向中央部に、ギヤ取付部39と全く同じ構造のギヤ取付部69が取り付けられている一方、ギヤケース57の後端部から後方に突設された延設部57dに、ゴムブッシュ47が取り付けられている。そして、このゴムブッシュ47は、上述の如くゴムブッシュ47をモータ取付部13に固定したのと同様の構造により、ギヤ取付部69に取り付けられている。これにより、デファレンシャルギヤ装置5は、その下端部の前側に位置するギヤ取付部39,39と、その後方に位置するギヤ取付部69とによって、サスペンションクロスメンバ9に弾性支持されている。
【0087】
一方、モータ部3とデファレンシャルギヤ装置5とは、図11に示すように、ユニバーサルジョイント(自在継手)73を介して、モータ部3が上側でデファレンシャルギヤ装置5が下側になるように連結されている。より詳しくは、モータ部3のロータシャフト3aの下端には、上部ジョイント73aと下部ジョイント73bとを有し、これらの接合する角度を自由に変化させることが可能なユニバーサルジョイント73の上部ジョイント73aが取り付けられている一方、デファレンシャルギヤ装置5のデフピニオンシャフト5aが当該下部ジョイント73bの孔に挿通されている。このように、モータ部3とデファレンシャルギヤ装置5とをユニバーサルジョイント73を介して連結することで、当該モータ部3及びデファレンシャルギヤ装置5に対して、車両前方から所定値以上の荷重が入力したときには、当該モータ部3とデファレンシャルギヤ装置5とが車両前後方向に相対的に変位する一方、車両側方から所定値以上の荷重が入力したときには、当該モータ部3とデファレンシャルギヤ装置5とが車幅方向に相対的に変位するようになっている。
【0088】
さらに、デフピニオンシャフト5aと下部ジョイント73bは、スプライン結合によって結合されている。すなわち、図13に示すように、デフピニオンシャフト5aの結合部には雄スプライン5bが、対応するユニバーサルジョイント73の孔には雌スプライン73cがそれぞれ形成され、両スプライン5b,73cを軸方向に嵌合させることによって両スプライン5b,73cが噛み合い、デフピニオンシャフト5aと下部ジョイント73bの相対回転を規制している。これにより、モータ部3から出力された動力がデファレンシャルギヤ装置5を介して左右の前輪15a,15bに伝達される。
【0089】
また、デフピニオンシャフト5aと下部ジョイント73bをスプライン結合によって結合することにより、デファレンシャルギヤ装置5は、車両前方から所定値以上の荷重が入力したときに、後方へ移動可能になっている。すなわち、モータ部3及びデファレンシャルギヤ装置5に対して、前突の際、車両前方から所定値以上の荷重が入力すると、図14に示すように、上部ジョイント73aと下部ジョイント73bとの接合部を支点として、デファレンシャルギヤ装置5が後方に揺動するとともに後方斜め下方に移動しようとする。このとき、下部ジョインの孔に着脱可能に嵌合されているデフピニオンシャフト5aが、当該孔から抜け出すことから、デファレンシャルギヤ装置5はサスペンションクロスメンバ9とともに後方へ移動して、前突による衝撃エネルギーを吸収する構造となっている。なお、後方へ移動したデファレンシャルギヤ装置5及びサスペンションクロスメンバ9は、デファレンシャルギヤ装置5と連結された前輪15a,15bや駆動軸59が、フロントサイドフレーム21a,21bの、後方に行くほど下方に延びる部位と当接することによって止まるようになっている。
【0090】
なお、本実施形態では、デファレンシャルギヤ装置5及びサスペンションクロスメンバ9を後方へ移動させるために、図示省略しているが、サスペンションクロスメンバ9とバッテリ搭載フレーム17とを連結していないとともに、サスペンションクロスメンバ9の前側搭載部27の長さを短くして、サスペンションクロスメンバ9の後端とバッテリ搭載フレーム17の前端との間に間隔を設けている。
【0091】
−効果−
本実施形態によれば、前突など車両前方から所定値以上の荷重が入力したときに、モータ部3とデファレンシャルギヤ装置5とが車両前後方向に相対的に変位するように、モータ部3とデファレンシャルギヤ装置5とが連結されており、且つ、デファレンシャルギヤ装置5が後方へ移動可能になっているので、当該デファレンシャルギヤ装置5は、モータ部3を後方へ引っ張ることなく、入力荷重による衝撃エネルギーを吸収する。これにより、前突など車両前方から所定値以上の荷重が入力した場合、モータ部3と車体との連結状態を維持しつつ、入力荷重による衝撃エネルギーを吸収することができる。
【0092】
また、モータ部3の後方移動が抑えられるとともに、デファレンシャルギヤ装置5は、これに連結された前輪15a,15bや駆動軸59がフロントサイドフレーム21a,21bと当接することによって止まることから、前突の際、モータ部3及びデファレンシャルギヤ装置5がダッシュパネル35に衝突するのを抑えることができる。これにより、乗員に対する安全性を向上させることができる。
【0093】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0094】
上記実施形態1では、モータ部3をモータ連結部材45,45を介してフロントサイドフレーム21a,21bに連結し、上記変形例では、モータ部3をモータ連結部材55,55を介してダッシュパネル35に連結したが、これに限らず、例えば、モータ連結部材を4つ設けて、モータ部3をフロントサイドフレーム21a,21b及びダッシュパネル35の両方に連結してもよい。
【0095】
また、上記各実施形態では、フロアトンネル19内にバッテリ部11を配置したが、これに限らず、ロータシャフト3aが上下方向に延びるようにモータ部3を配設することにより、車両前後方向においてモータ部3の占めるスペースが小さくなったことで生じたスペースにバッテリ部11を配置してもよい。このようにすれば、フロアトンネル19自体を設ける必要性が低下するので、フロアトンネル19をなくしてフラットなフロアパネルを有する車室Rを実現する等、フロアパネルの設計自由度を向上させることができる。
【0096】
さらに、上記実施形態では、1つのモータ部3をロータシャフト3aが上下方向に延びるように直立配置したが、これに限らず、例えば、2つのモータ部を左右に並べて、これらのロータシャフトが共に上下方向に延びるように2つのモータ部を直立配置してもよい。
【0097】
また、上記実施形態では、サスペンションクロスメンバ9とバッテリ搭載部材とを、防振装置87を介して連結したが、これに限らず、サスペンションクロスメンバ9とバッテリ搭載部材とをヒンジ結合してもよい。
【0098】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上説明したように、本発明は、モータを備えた電気自動車の前部車体構造等について有用である。
【符号の説明】
【0100】
1 電気自動車
3 モータ部(モータ)
5 デファレンシャルギヤ装置
7 コントロールアーム(サスペンション装置)
9 サスペンションクロスメンバ
13 モータ取付部
15a 左側の前輪
15b 右側の前輪
21a 左側のフロントサイドフレーム
21b 右側のフロントサイドフレーム
33 モータ取付部
35 ダッシュパネル
43 モータ支持部材
45 モータ連結部材
51 ギヤ連結部材(デファレンシャルギヤ連結部材)
53 モータ取付部
55 モータ連結部材
59 駆動軸
65 モータ連結部材
75 モータ連結部材
71 ギヤ連結部材(デファレンシャルギヤ連結部材)
3a ロータシャフト(出力軸)
R 車室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪を駆動するためのモータと、当該モータから出力された動力を前輪に伝達するデファレンシャルギヤ装置とを備えた電気自動車の前部車体構造であって、
上記モータは、車室前壁を構成するダッシュパネルの前方で、その出力軸が上下方向に延びるように配設されていることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項2】
請求項1記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記モータは、上記前輪の駆動軸の上方に配置され、且つ、車体の左右両側で前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームにモータ連結部材を介して連結されていることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項3】
請求項2記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記モータは、当該モータを支持するモータ支持部材を介して上記デファレンシャルギヤ装置と連結されており、
上記各モータ連結部材は、上記モータ支持部材から上記左右一対のフロントサイドフレームに向かって延びるように設けられていることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項4】
請求項1記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記モータは、上記前輪の駆動軸の上方に配置され、且つ、上記ダッシュパネルにモータ連結部材を介して連結されていることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記モータと上記デファレンシャルギヤ装置とは、上下一体に連結されていて、これらモータ及びデファレンシャルギヤ装置が車幅方向略中央部に配置されていることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記デファレンシャルギヤ装置は、上記モータの下側に配置され、且つ、上記前輪のサスペンション装置を支持するサスペンションクロスメンバにデファレンシャルギヤ連結部材を介して連結されていることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項7】
請求項2又は3記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記モータと上記デファレンシャルギヤ装置とは、上下一体に連結されていて、これらモータ及びデファレンシャルギヤ装置は、車幅方向略中央部に配置されており、
上記デファレンシャルギヤ装置は、上記モータの下側に配置され、且つ、デファレンシャルギヤ連結部材によってその両側で、上記前輪のサスペンションを支持するサスペンションクロスメンバに連結されており、
平面視で、上記モータの中心から上記モータ連結部材と上記フロントサイドフレームとの連結位置までの長さが、上記モータの中心から上記デファレンシャルギヤ連結部材と上記サスペンションクロスメンバとの連結位置までの長さよりも長く設定されていることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項8】
請求項2、3又は7記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記各モータ連結部材は、上記各フロントサイドフレームの上面に設けられたモータ取付部で当該各フロントサイドフレームに取り付けられていることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の電気自動車の前部車体構造において、
上記モータは、車両前方から所定値以上の荷重が入力したときに、当該モータと上記デファレンシャルギヤ装置とが車両前後方向に相対的に変位するように、当該デファレンシャルギヤ装置と連結されており、
上記デファレンシャルギヤ装置は、車両前方から所定値以上の荷重が入力したときに、後方へ移動可能になっていることを特徴とする電気自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−195058(P2011−195058A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65075(P2010−65075)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】