説明

電気部品収容筐体における電線端末部防水構造

【課題】 電線などのハーネス類を筐体内に通す電線通し孔の水密性を確実に確保できるようにした電気部品収容筐体における電線端末部防水構造を提供する。
【解決手段】 電気部品収容筐体10に設けた通し孔11に弾性素材のグロメット12を密着して水密的に嵌合させ、そのグロメット12に挿通させて筐体10内に通した電線20の端末部をLA端子23に固着して電気的に接続し、また通し孔11を通らない筐体外側の部分の電線20をはた端子26で保持固定する。筒体のグロメット12の一部外周を被って、グロメット12よりも硬度および剛性の大きい材質の補強スペーサ30を結合する。LA端子23とはた端子26をネジ固定する際、両端子が無理に引っ張られる方向へ締め付け偏荷重を受けても、補強スペーサ30で負担してグロメット12の歪な弾性変形を抑え、通し孔11との間に隙間が生じるのを防いで水密性を確保する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、特に電気自動車用モータケースのごとき電気部品を収容する筐体において、電線・ケーブルやワイヤハーネスの端末部の防水構造に関する。
【0002】
【従来の技術】図4は、従来例として電気自動車に搭載のモータなど電気機器を収容する筐体に電線・ケーブルやワイヤハーネスなどの端末部を、この場合シールド電線の端末部を通す通し孔における防水構造を示す断面図である。モータの収容ケースである筐体1に電線通し孔2が貫通して設けられ、この電線通し孔2に水密的に密着して嵌合するゴムなど弾性素材のグロメット3に挿通させて電線4の端末部が通される。筐体1の内側において電線4の端末部は絶縁体が皮剥ぎされ、露出させた導体4aをLA端子(丸板形端子)5にかしめ固着などして接続されている。そのLA金具5はネジ孔5aでボルトなどの締結部材によって締め付け固定される。また、電線通し孔2を通らない筐体1の外側の部分の電線4は、ブラケット形状のはた端子6に保持固定されている。このはた端子6はネジ孔6aでボルトなどの締結部材によって締め付け固定されている。このようにして電線4は筐体1の内側と外側の二個所でLA端子5とはた端子6に固定され、電線通し孔2に対して傾かないよう真っ直ぐに通されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、この図4に示す従来の電線端末部防水構造にあっては、LA端子5とはた端子6を締め付け固定する作業時、特にはた端子6の締め付け時に作業者が必要以上に引っ張る方向へ締め付けると、グロメット3に不均一な力が働く。その結果、ゴム質のグロメット3が歪に弾性変形して電線通し孔2における密着性が失われ、雨水や洗車水が筐体1内に浸入して水密機能を損ねる不都合がある。
【0004】すなわち、電線通し孔2の内側と外側で2つのLA端子5とはた端子6をそれらのネジ孔5a,6aでネジ締めする際、作業者の手加減によってLA端子5のネジ孔5aの軸線Cが電線通し孔2に真っ直ぐなるべきところ、角度θ1だけ斜めに傾いて軸線Cになることがある。そうした傾きで生じた引張力でグロメット3付近を中心に偏荷重が働き、図中符号3aで示すグロメット3の一方側が捻れたり押し潰されたりし、符号3bで示す他方側と電線通し孔2との間に隙間7が生じるのである。
【0005】したがって、本発明の目的は、特に電気自動車に搭載のモータのケース等筐体における電線端末部防水構造として好適であり、電線などのハーネス類を筐体内に通す電線通し孔の水密性を確実に確保できるようにした電気部品収容筐体における電線端末部防水構造を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明にかかる請求項1に記載の電気部品収容筐体の電線端末部防水構造は、電気部品を収容する筐体10に設けた通し孔11に弾性素材のグロメット12を密着して水密的に嵌合させ、そのグロメット12に挿通させて筐体10内に通した電線20の端末部を第1の端子金具23に固着して電気的に接続し、また通し孔11を通らない筐体外側の部分の電線20を第2の端子金具26で保持固定して、それら第1および第2の端子金具23,26がネジ締結して固定されているものであって、前記通し孔11への嵌合方向で前記グロメット12の長さ方向の一部の外周部に、グロメット12よりも硬度および剛性の大きい材質で管状に成形された補強スペーサ30を嵌合させ、この補強スペーサ30を通し孔11のエッジに当接させるように構成したことを特徴とする。
【0007】以上の構成により、通し孔11を通して筐体10の内外で第1,第2の端子金具23,26をネジ固定する際、作業者の手加減でそれら両端子金具を無理に引っ張る方向へ締め付け固定する場合がある。それにより、通し孔11内でグロメット12が偏荷重を受けて、特に通し孔11のエッジに当たる部分のグロメット12が歪に弾性変形しようとする。そうした孔エッジに当たる部分のグロメット12に補強スペーサ30を嵌着しておくことにより、その補強スペーサ30で偏荷重を負担し、弾性変形を抑えて通し孔11との間に隙間が生じるのを防ぎ、水密性を確保する。
【0008】また、請求項2に記載の電気部品収容筐体における電線端末部防水構造は、前記補強スペーサ30が、前記通し孔11の筐体外部から見た入口側と出口側の2個所のエッジのうち、少なくとも入口側のエッジに当接する位置の前記グロメット12の外周部に結合されていることを特徴とする。
【0009】以上の構成により、作業者の締め付け作業で引っ張られやすいのは筐体外側のはた端子26のごとき第2の端子金具である。このはた端子26が必要以上に引っ張られる方向へ締め付けられると、その引張力による偏荷重でもって通し孔11の入口側エッジに当接する部分のグロメット12が弾性変形し易い。したがって、少なくともそうした通し孔11の入口側エッジに当接する部分のグロメット外周部に硬質の補強スペーサ30を被着しておけば、その部分の弾性変形を免れることができる。
【0010】また、請求項3に記載の電気部品収容筐体における電線端末部防水構造は、前記補強スペーサ30に代えて、前記グロメット12の外周部に硬度および剛性の大きい材質の補強スペーサ部を二色押出し成形して設けたことを特徴とする。
【0011】以上の構成により、補強スペーサ30は単体成形された筒状であるが、そうした単体品に代えて、グロメット12の必要な一部分の外周部をグロメット本体部の材質よりも硬度などの大きい材質でもって押出し成形し、そこを補強スペーサ部として形成する。それにより、製作工数などの削減が可能になる。
【0012】また、請求項4に記載の電気部品収容筐体における電線端末部防水構造は、前記補強スペーサ30または前記補強スペーサ部が、筒状となっている本体31の一端部に外径を大きく段差成形した突き当て段部32を有し、この突き当て段部32が前記通し孔11のエッジに外側から当接するようにしてなっていることを特徴とする。
【0013】以上の構成により、たとえば単体品とした補強スペーサ30の場合、その筒状の本体31の一端部の外径を大きくして、つまり鍔状またはフランジ状に形成した突き当て段部32を設けることにより、この突き当て段部32が通し孔11のエッジに食い込むように当接し、滑りが無くなって密着度が深まり、補強部材として、またシール部材としての効果が高まる。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明にかかる電気部品収容筐体における電線端末部防水構造の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】図1は、本例構造を示す部分断面による組立図である。従来構造の図4で示されたモータケースなどの筐体10に電線・ケーブルやワイヤハーネスの端末部、この場合シールド電線などの電線20の端末部を通すための通し孔11が設けられている。この通し孔11に水密的に密着して嵌合する弾性素材のグロメット12に挿通させて電線20の端末部が筐体10内に通されている。
【0016】電線20の端末部は、その外皮の絶縁体21を皮剥ぎして導体22を導出させ、導体22を筐体10の内部で本発明でいう第1の端子金具であるLA端子23のかしめ部24にかしめ固着して接続されている。LA端子23は先端部の丸板部におけるネジ孔25でボルトなどの締結部材(図示せず)によって締め付け固定される。
【0017】また、電線通し孔11を通らない筐体1の外側の部分の電線20は、本発明でいう第2の端子金具であるはた端子26によって保持固定されている。このはた端子26は先端のかしめ部27で電線20を絶縁体21の上からかしめ固着し、ネジ孔28で図示しないボルトなどの締結部材によって締め付け固定される。
【0018】かかるLA端子23とはた端子26の両かしめ部24,27にわたるようにしてそれらに外側からグロメット12が被着されている。弾性素材の樹脂成形品またはゴム成形品であるグロメット12は通し孔11に通して嵌合される方向へ長い筒体となっており、その外周面で通し孔11に密着して水密的に嵌合される。また、グロメット12の長手軸に沿って貫通する導体挿通孔13に上記電線20の皮剥ぎして露出させた導体22を挿通させることにより、その導体22を保護している。
【0019】そのようにグロメット12は通し孔11との間のシール部材として機能し、電線20の端末部を外側から被冠させる保護機能を有するほか、たとえば電気自動車のモータケースへの装着を想定するならば、高電圧によるノイズ発生抑止に有効な遮音機能を備えた部材である。また、図3に示すように、グロメット12の全長にわたって山・谷部16を交互に連ねた蛇腹形状に成形することにより、適度な可撓性や柔軟性をもたせることができる。そうした機能を有するグロメット12の先端部14の内側に上記LA端子23のかしめ部24を嵌着して保持し、後端部15の内側に上記はた端子26のかしめ部27を嵌着して保持している。
【0020】そこで、かかる筒状のグロメット12の長手方向の一部でその外周部を外側から被って管状の補強スペーサ30が嵌合,接着,かしめ,融着などの適宜手段でもって結合されている。補強スペーサ30の材質には、少なくともグロメット12の材質より硬度や剛性の大きいプラスチックや金属を用いることができる。補強スペーサ30の本体31はグロメット12の外周に嵌着できる内径の筒状に成形され、その筒端の一方は外径を大きく段差成形されて鍔形またはフランジ形の突き当て段部32となっている。
【0021】以上の構成によって、本実施の形態の電線端末部防水構造は次のように作用する。モータケースなどの筐体10の内部で電線20の端末部がLA端子23に固着され、このLA端子23はネジ孔25でボルトなどによって締結固定される。筐体10の外部では、通し孔11に通されない部分の電線20がはた端子26に保持され、このはた端子26はネジ孔28でボルトなどによって締結固定される。
【0022】そこで、図2に示すように、そうしたLA端子23とはた端子26をボルトでネジ固定する作業時、締結用の工具を用いた作業者の締め付けの手加減や技能差によって、特にはた端子26の締め付けが必要以上に過剰な場合は電線20を折り曲げるような引張力が働く。この引張力で電線端末部の全長全体が斜めに傾く方向へ引っ張られ、LA端子23でいうとそのネジ孔25を通る軸線Cが角度θだけ斜めに傾こうとする。
【0023】引張力は通し孔11内でグロメット12にも働き、軸線Cを中心とする偏荷重や回転力でグロメット12が歪に弾性変形する。筐体10の外部においてそうしたはた端子26の過剰な締め付け力でグロメット12が弾性変形するとすれば、変形量の最も大きい部分は通し孔11の入口側エッジや出口側エッジに当たる位置である。本例では少なくとも入口側エッジに当たる部分のグロメット12には補強スペーサ30が設けられているので、この補強スペーサ30が偏荷重を負担することで、グロメット12の弾性変形を最小限に抑えることができる。
【0024】結果、通し孔11との間に隙間を生じることなく、グロメット12は通し孔11との密着性を維持して所要の水密性を確保でき、雨水や洗車水の浸入を防ぐことができる。
【0025】なお、本実施の形態の補強スペーサ30は単体品としてグロメット12の後端部、つまり通し孔11の入口側エッジに対応する個所に1つだけ設けた構造が示されたが、筐体10の内側で通し孔11の出口側エッジに対応する個所にも2つ目の別の補強スペーサ30を設けることも可能である。
【0026】また、本実施の形態のそうした単体品による補強スペーサ30に代えて、グロメット12の必要とする個所の外周部に、グロメット本体材質よりも硬度や剛性など機械的性質に優れた材質でもってグロメット本体と二色押出し成形などし、補強スペーサ「部」として一体成形することも可能である。
【0027】また、本発明でいう第1の端子金具例としてLA端子23を用い、第2の端子金具例としてはた端子26を用いた構造を示したが、それら両端子の使用に限定されない。LA端子23やはた端子26以外の他の端子金具の場合でも、それらの締め付け過剰による引っ張りでグロメット12に歪な弾性変形を生じさせるような場合、本実施の形態で示された補強スペーサ30を適用することができる。
【発明の効果】以上説明したように、本発明にかかる請求項1に記載の電気部品収容筐体の防水構造は、通し孔を通して筐体の内外で第1の端子金具(LA端子)と第2の端子金具(はた端子)をネジ固定する際、作業者の手加減でそれら両端子金具を無理に引っ張る方向へ締め付け固定する場合があるが、それにより通し孔内でグロメットが偏荷重を受けて、特に通し孔のエッジに当たる部分のグロメットが歪に弾性変形しようとする。そうした孔エッジに当たる部分のグロメットに補強スペーサを被着しておくことにより、その補強スペーサで偏荷重を負担し、歪な弾性変形を抑えて通し孔との間に隙間が生じるのを防ぎ、水密性を確保することができる。
【0028】また、請求項2に記載の電気部品収容筐体における電線端末部防水構造は、作業者の締め付け作業で引っ張られやすいのは筐体外側の第2の端子金具であるこの場合はた端子であり、このはた端子が必要以上に引っ張られる方向へ締め付けられると、その引張力による偏荷重でもって通し孔の入口側エッジに当接する部分のグロメットが歪に弾性変形し易い。したがって、少なくともそうした通し孔の入口側エッジに当接する部分のグロメット外周部に硬質の補強スペーサを被着しておけば、その部分の弾性変形を免れることができる。
【0029】また、請求項3に記載の電気部品収容筐体における電線端末部防水構造は、補強スペーサは単体成形された筒状であるが、そうした単体品に代えて、グロメットの必要な一部分の外周部をグロメット本体部の材質よりも硬度などの大きい材質でもって押出し成形し、そこを補強スペーサ部として形成することにより、製作工数などの削減が可能になる。
【0030】また、請求項4に記載の電気部品収容筐体における電線端末部防水構造は、たとえば単体品とした補強スペーサの場合、その筒状の本体の一端部の外径を大きくして、つまり鍔状またはフランジ状に形成した突き当て段部を設けることにより、この突き当て段部が通し孔のエッジに食い込むように当接し、滑りが無くなって密着度が深まり、補強部材として、またシール部材としてなお一層有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる電気部品収容筐体における電線端末部防水構造の実施の形態を示す部分断面による組立図である。
【図2】本防水構造においてグロメットが多少弾性変形しても水密性が確保できる態様を示す部分断面による組立図である。
【図3】本防水構造を示す組立斜視図である。
【図4】従来例の電線端末部防水構造を示す部分断面による組立図である。
【符号の説明】
10 筐体
11 通し孔
12 グロメット
13 導体挿通孔
20 電線
21 絶縁体
22 導体
23 LA端子(第1の端子金具)
25 ネジ孔
26 はた端子(第2の端子金具)
28 ネジ孔
30 補強スペーサ
31 筒状本体
32 突き当て段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 電気部品を収容する筐体に設けた通し孔に弾性素材のグロメットを密着して水密的に嵌合させ、そのグロメットに挿通させて筐体内に通した電線の端末部を第1の端子金具に固着して電気的に接続し、また通し孔を通らない筐体外側の部分の電線を第2の端子金具で保持固定して、それら第1および第2の端子金具がネジ締結して固定されている電気部品収容筐体における電線端末部防水構造であって、前記通し孔への嵌合方向で前記グロメットの長さ方向の一部の外周部に、グロメットよりも硬度および剛性の大きい材質で管状に成形された補強スペーサを嵌着させ、この補強スペーサを通し孔のエッジに当接させるように構成したことを特徴とする電気部品収容筐体における電線端末部防水構造。
【請求項2】 前記補強スペーサが、前記通し孔の筐体外部から見た入口側と出口側の2個所のエッジのうち、少なくとも入口側のエッジに当接する位置の前記グロメットの外周部に結合されていることを特徴とする請求項1に記載の電気部品収容筐体における電線端末部防水構造。
【請求項3】 前記補強スペーサに代えて、前記グロメットの外周部に硬度および剛性の大きい材質の補強スペーサ部を二色押出し成形して設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の電気部品収容筐体における電線端末部防水構造。
【請求項4】 前記補強スペーサまたは前記補強スペーサ部が、筒状となっている本体の一端部に外径を大きく段差成形した突き当て段部を有し、この突き当て段部が前記通し孔のエッジに外側から当接するようにしてなっていることを特徴とする請求項1,2または3に記載の電気部品収容筐体における電線端末部防水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2002−217566(P2002−217566A)
【公開日】平成14年8月2日(2002.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−8588(P2001−8588)
【出願日】平成13年1月17日(2001.1.17)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】