電気電子部品用複合材料および電気電子部品
【課題】樹脂皮膜と金属基材との密着性を高くすることで、打ち抜き加工や曲げ加工などのプレスによる加工性が極めて良好で、かつその後に熱処理やめっき処理などが行われても樹脂皮膜と金属基材との密着性が高く、耐薬品性に優れた電気電子部品用の金属樹脂複合材料を提供する。
【解決手段】金属基材上少なくとも一部に樹脂皮膜を形成した材料であって、前記樹脂皮膜が前記金属基材との界面に存在する界面領域と高密度層との積層構造であり、該界面領域の厚さが0nmを超え80nm以下に制御された電気電子部品用複合材料。
【解決手段】金属基材上少なくとも一部に樹脂皮膜を形成した材料であって、前記樹脂皮膜が前記金属基材との界面に存在する界面領域と高密度層との積層構造であり、該界面領域の厚さが0nmを超え80nm以下に制御された電気電子部品用複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基板上に樹脂皮膜が設けられた電気電子部品用複合材料および電気電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電気電子機器のプリント基板などに実装されるセラミック発振子、水晶発振器、電圧制御発振器、SAWフィルター、ダイプレクサ、カプラ、バラン、LPF、BPF、誘電体デュプレクサなどの個別部品やこれら個々の素子を複数内蔵させた各種モジュール部品、例えば、アンテナスイッチモジュール、フロントエンドモジュール、RF一体型モジュール、無線通信用モジュール、イメージセンサーモジュール、チューナーモジュール、無線LAN用途など、または、検出スイッチなどの部品は、電磁シールドのために金属製筐体内に入れたり、カバーで覆ったりして用いられるが、電気電子機器の携帯化が進展する中で前記筐体などには薄型化、低背化が要求され、その高さはモジュール部品では5mm以下、個別部品では2mmを割り1mm前後に突入しつつある。液晶ドライバ(LCD)やキーボード、マザーボードなどのプリント基板側の端子接続コネクタとFPCケーブルなど側の接続コネクタは、通信ノイズや静電気防止目的から電磁波シールド性が必要とされ、導電性の金属製ケース、キャップ、カバーで覆ったりして用いられるが、同様に機器の小型薄型化が進み、コネクタ部品やソケットでも小型低背化が進んでいる。
【0003】
しかし、上記金属製筐体などは、低背化に伴って内容積が小さくなり、内蔵部品や端子、配線回路とケース、カバー、キャップ、筐体(カバー付きケース)などの電気電子部品との間の絶縁性が十分確保できなくなるという欠点があった。このような場合従来は、特許文献1に開示したように、絶縁フィルムをシート状の所定寸法に裁断してケース内部に挿入したり、特許文献2に開示したように、金属基材上に樹脂皮膜を予め形成させた金属材料から所定寸法に切り取ったりすることなどが行われている。予め樹脂皮膜を金属基材上に形成した材料を用いることは、連続的に打ち抜きや曲げの成型加工ができて生産性や経済上から好ましく、また部分或いは全面、両面など任意に高品質で連続的に皮膜形成し得る材料であることから、近年良く用いられる傾向にある。
【0004】
ところで、携帯機器やデジタル機器などが小型薄型化と共に高機能化が進むにつれて、これらに搭載使用される電気電子部品の形状はかなり制限されるようになってきている。このため必要な形状を得るための加工も厳しくなり、各種加工の際の密着性を高めることが要求される。金属基材と樹脂皮膜との密着性を高める方法として、例えば金属基材の表面にカップリング剤を塗布する方法(特許文献3)や、金属基材の表面にデンドライト状結晶を有しためっき層を形成する方法(特許文献4)が挙げられる。
【0005】
金属基材上に絶縁皮膜が設けられた複合材料を、電気電子部品用の材料として適用する場合、この材料は、金属基材上に絶縁皮膜が設けられているため、金属基材と絶縁皮膜との界面を含めた箇所で打ち抜き加工等の加工を施してコネクタ接点等を形成することにより、前記コネクタ接点を狭ピッチで配置することも可能となり、様々な応用が考えられる。また、打ち抜き加工等の加工を施した後に折り曲げ加工を施すことにより、様々な機能を有する電気電子部品への適用も考えられる。
【0006】
この複合材料について、金属基材と絶縁皮膜との界面を含めた箇所で打ち抜き加工等の加工を施したところ、加工した箇所において金属基材と絶縁皮膜との間に数μm〜数十μm程度のわずかな隙間ができることがある。この隙間は金属基材と樹脂皮膜との密着性が不十分であることにより発生すると考えられる。この状態を図12に概略的に示す。図12において、10は電気電子部品、11は金属基材、12は絶縁皮膜であり、金属基材11の打ち抜き加工面11aの近傍で金属基材11と絶縁皮膜12との間に隙間13が形成されている。この傾向は、上記打ち抜き加工の際のクリアランスが大きいほど(例えば上記金属基材の厚さに対して5%以上では)、より強まる。上記打ち抜き加工の際のクリアランスを小さくすることは実際上限度があるため、上記被加工体が微細化するほどこの傾向が強まると換言することもできる。
【0007】
このような状態になると、打ち抜き加工等の経年変化などにより金属基材11から絶縁皮膜12が完全に剥離してしまうこととなり、金属基材11上に絶縁皮膜12を設けても意味がなくなる。また、微細加工後に絶縁皮膜を後付けするのは極めて手間がかかり、製品のコストアップにつながるため実用的ではない。さらに、形成された電気電子部品の金属露出面(例えば打ち抜き加工面11a)をコネクタ接点等として使用したい場合、金属露出面(例えば打ち抜き加工面11a)にめっき等で金属層を後付けすることも考えられるが、めっき液に浸漬した際に隙間13からめっき液が浸入して金属基材11から絶縁皮膜12が剥離することを助長してしまうおそれがある。
【0008】
また、打ち抜き加工等の加工を施した後に折り曲げ加工を施す場合、打ち抜き加工等の加工を施した段階で加工した箇所において金属基材と絶縁皮膜との間に隙間ができていない場合でも、折り曲げ加工を施した後に金属基材と絶縁皮膜との間に隙間ができることがある。この状態を図13に概略的に示す。図13において、20は電気電子部品、21は金属基材、22は絶縁皮膜であり、金属基材21の折り曲げ箇所の内側に隙間23が、電気電子部品20の端部(特に折り曲げた際の外側)に隙間24が形成されている。これらの隙間23、24は図13に示すとおり、折り曲げられた電気電子部品の折り曲げ箇所の側面や内表面側、電気電子部品の端部に目立ち、このような隙間があると金属基材21から絶縁皮膜22が剥離する原因となる。
【0009】
また、従来の、金属基材の上に有機皮膜材料を塗布し作成される電子部品は、薬品処理等の後処理によって密着強度が低下するため、樹脂剥離によるめっき液汚染などが問題となっている。
【0010】
【特許文献1】特開平1−6389号公報
【特許文献2】特開2004−197224号公報
【特許文献3】特許第2802402号公報
【特許文献4】特開平5−245432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記各特許文献に記載された技術を組み合わせても、携帯機器やデジタル機器などに搭載使用される電気電子部品を製造する際の精密プレス加工や高温処理、めっき処理等を行った際に金属基材と樹脂皮膜との密着性が不十分であり、耐薬品性が悪いという問題は解消されるに至らない。以下、詳細に説明する。
【0012】
特許文献1および特許文献2に記載された技術は、電気電子部品を製造する際の精密プレス加工や高温処理、めっき処理等の後処理を想定したものではなく、電気電子部品における金属基材と樹脂皮膜との密着性を、後処理に耐えうるほど向上させることは示されていない。
【0013】
特許文献3に記載されたカップリング剤を塗布する方法では、カップリング剤の液寿命が短いため、液の管理に細心の注意をはらう必要がある。また、金属基材表面全体に均質な処理を施すことが難しいため、前記した微細な隙間に対しては効果がないことがある。特許文献4に記載されたデンドライト状結晶を有しためっき層を形成する方法では、形成されるめっき層の結晶状態を制御するためには限定されためっき条件でめっきを施す必要があり、管理に細心の注意をはらう必要がある。また、十分な密着性を得るためにはめっき厚さを1μm以上とする必要があるため、打ち抜き加工の際にめっき層に割れが発生するなどの問題点があるほか、経済的にも好ましくない。また、特許文献1〜4に記載された技術は、金属基材と樹脂皮膜との密着状態の耐薬品性を向上させるものではない。
【0014】
そこで、本発明は、シールドケース、コネクタ、端子等のように加工を前提とする電気電子部品用途に適する金属樹脂複合材料(以下、単に複合材料とする)を得るにあたり、上記課題を解消するため、樹脂皮膜と金属基材との密着性を高くすることで、打ち抜き加工や曲げ加工などのプレスによる加工性が極めて良好で、その後に熱処理やめっき処理などが行われても樹脂皮膜と金属基材との密着性が高い状態を保ち、かつ耐薬品性に優れた電気電子部品用の金属樹脂複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、電子顕微鏡にて金属/樹脂界面を観察したところ、樹脂皮膜の金属/樹脂界面直近で、コントラストが変化し白くなっている部分が形成されうることを発見し(以下、「界面領域」とする)、さらに、この界面領域は薬品処理によって分解されやすい層であることを見出した。本発明はこの知見に基づきなすに至ったものである。
すなわち、本発明は、
(1)金属基材上の少なくとも一部に樹脂皮膜が形成された電気電子部品用複合材料であって、前記樹脂皮膜は、前記金属基材との界面に存在する界面領域の厚さが0nmを超え100nm未満の範囲となるように制御された高分子樹脂皮膜であることを特徴とする電気電子部品用複合材料、
(2)前記樹脂皮膜がポリアミドイミドであることを特徴とする(1)項記載の電気電子部品用複合材料、
(3)前記金属基材が銅または銅基合金、鉄または鉄基合金であることを特徴とする(1)まはは(2)項記載の電気電子部品用複合材料、
(4)前記金属基材上に金属層がn層(nは1以上の整数)設けられ、かつ前記樹脂皮膜が前記金属基材上に、直接、または前記金属層の少なくとも1層を介して設けられることを特徴とする電気電子部品用複合材料、および、
(5)(1)〜(4)のいずれか1項に記載の電気電子部品複合材料を用いてなることを特徴とする電気電子部品
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電気電子部品用複合材料は、樹脂皮膜の界面領域の厚さが所定範囲に制御されていることで、樹脂皮膜と金属との密着性が向上し、プレスによる打ち抜き性および曲げ加工性が向上する。また、耐リフロー性、耐アルカリ性等にも優れるようになり、耐薬品性も向上し、プレス加工などで形成された電気電子部品を後処理(後めっきその他薬品処理)する際のでも性能を十分に維持できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための形態について説明する。本発明の電気電子部品用複合材料は、透過型電子顕微鏡(TEM)にて金属/樹脂界面を観察した際に、樹脂皮膜の金属/樹脂界面直近で、コントラストが変化し白くなっている部分(界面領域)が形成されうることを発見し、さらに、この界面領域は薬品処理によって分解されやすい領域であることを見出し、この界面領域の厚さを制御することで、金属基材と樹脂皮膜との密着性を向上させたものである。具体的には、界面領域の厚さを、0nmを超え100nm未満の範囲に制御することで、密着性を向上させることができる。
【0018】
本発明において、金属基材は、様々な形状の金属材を採用できるが、その中でも主に金属条、金属箔または金属板が好適に採用される。基材厚さが薄すぎると部品に成形する際に強度が不足し、厚すぎるとプレス打ち抜き性や曲げ成形性が悪くなるので、基材厚さは、複合材料の用途により異なるが、0.01〜1mmの範囲が好ましく、0.05〜0.5mmの範囲がより好ましい。
【0019】
本発明において、金属基材には、打抜加工や絞り成形などが可能な延性を有する材料、或いはばね性を有する金属材料が用いられる。具体的には、無酸素銅、タフピッチ銅などの純銅系材料、洋白(Cu−Ni系合金)、リン青銅(Cu−Sn−P系合金)、コルソン合金(Cu−Ni−Si系合金)などの銅基合金材料、純鉄系材料、42アロイ(Fe−Ni系合金)やステンレスなどの鉄基合金材料が挙げられる。
【0020】
本発明において、金属基材の電気的特性は、複合材料の用途によって適切な値とすることが好ましい。例えば、電磁遮蔽用途(シールドケース用)の場合は、電気伝導率については電磁シールド性の観点から5%IACS以上が好ましく、10%IACS以上がさらに好ましい。また、比透磁率は1以上が好ましい。
また、コネクタ・端子用途の場合には、電気伝導率については信号伝送用、電力伝送用で好ましい範囲が異なる。信号伝送用の場合は必要な電気伝導率を確保する観点から15%IACS以上が好ましく、電力伝送用の場合は発熱を抑制する観点から60%IACS以上が好ましい。
金属基材は、例えば、所定の金属材料を溶解鋳造し、得られる鋳塊を、常法により、順に、熱間圧延、冷間圧延、均質化処理、および脱脂する工程により製造することができる。
【0021】
金属基材上の樹脂皮膜を設ける位置の公差は、多数の部品に通用させることを配慮すると、好ましくは±0.15mm、より好ましくは±0.10mm、さらに好ましくは±0.05mmである。
【0022】
本発明において、樹脂皮膜を形成する樹脂には、例えば、ポリイミド系、ポリアミドイミド系、ポリアミド系、エポキシ系などの樹脂が用いられる。樹脂としては、皮膜形成後に塗装処理やリフロー実装処理等、熱処理を受ける可能性がある場合には、耐熱性の樹脂が好ましく、特に、ポリアミドイミド系が好ましい。
また、樹脂皮膜の絶縁性は、体積固有抵抗1010Ω・cm以上が好ましく、1014Ω・cm以上がさらに好ましい。
【0023】
また、樹脂皮膜を、接着剤を用いて金属基板上などに設ける場合、接着剤にはポリイミド系、エポキシ系、アクリル系、シリコン系などの樹脂が用いられる。これらの樹脂は半田接合やリフロー半田実装をはじめとする加熱工程に対する耐熱性を有する。加熱条件が厳しくない用途では、前記樹脂以外の耐熱性能の小さい樹脂(例えば、フェノール系やポリアミド系、ポリエチレンテレフタレート系の樹脂)を用いることも可能である。
【0024】
樹脂皮膜の厚みは、薄すぎると十分な絶縁性が得られず、またピンホールが発生し易いく、一方あまり厚いと、打ち抜きや曲げ加工などのプレス加工性が低下するので、樹脂皮膜の厚さは、1〜30μmが好ましく、5〜25μmがさらに好ましい。
【0025】
本発明の複合材料は、電子顕微鏡における金属/樹脂界面を観察において、金属/樹脂界面近くで樹脂のコントラストが変化し白くなっている部分(界面領域)が存在する。樹脂側から断面を見ると、樹脂/樹脂の界面領域/酸化皮膜/金属基材、という構成になっている。界面領域は薬品処理によって分解されやすい層であるため、界面領域が薄い場合、耐薬品性に優れているといえる。金属/樹脂界面の透過電子顕微鏡(TEM)による写真を図1に示し、さらに、樹脂皮膜2/樹脂の界面領域3/酸化皮膜4/金属基材1のそれぞれの位置関係を示す矢印を示した。なお、理解しやすいように、図1では、樹脂の界面領域3の樹脂皮膜2側の境界を一部破線で示した。また、図2は、図1に示す樹脂皮膜2/樹脂の界面領域3/酸化皮膜4/金属基材1の位置関係を模式的に示す模式図である。
図1に示されるように、金属1/樹脂皮膜2の界面に、樹脂皮膜2の界面領域3と金属基材1の酸化皮膜4が観察される。樹脂皮膜2と界面領域3との境界は、透過電子顕微鏡写真を撮影する際のコントラストを適宜調整することで容易に区別することができる。このコントラストは、使用する顕微鏡の状態や照明の状態などにより理想的な条件が異なるため絶対値として一義的には決定できないが、例えば、顕微鏡写真を8ビット(256階層)のグレースケール(黒を0、白を255とする)で表示した際に、樹脂皮膜2と界面領域3との明るさの差が10以上となるような条件を選択することが好ましい。この場合、撮影した画像に対してあらゆる補正(ガンマ補正など)を掛けない(言い換えれば、画像に関数的もしくはイメージ的な操作を加えない)ことが重要である。例えば、図1では、樹脂皮膜2の明るさは平均で約222、界面領域3の明るさは約234であり、また、樹脂皮膜2と界面領域3との境界においても、樹脂皮膜2と界面領域3と明るさの関係は変わらないため、樹脂皮膜2と界面領域3とは容易に区別することができる。
【0026】
本発明の材料では、界面領域の厚さが0nmを超え100nm未満に制御されたものであり、0nmを超え80nm以下であることが好ましい。
界面領域をこのような厚さに制御するためには、昇温速度を調整する、金属基材として樹脂を劣化させる触媒作用が低いものを用いる、樹脂を劣化させる触媒作用が低いめっき層を設ける、樹脂皮膜を設ける前に金属基材の酸化皮膜を除去する、などが挙げられる。
【0027】
本発明においては、金属基材上に金属層がn層(nは1以上の整数)設けられ、かつ前記樹脂皮膜が前記金属基材上に、直接、または前記金属層の少なくとも1層を介して設けられていることも好ましい。
【0028】
上記金属層は単層(n=1)に設けても、多層(nが2以上)に設けても良い。例えば、半田実装する用途の場合、上記金属層のうち最も表層の金属層の厚みは、半田濡れ性が良好に保たれ、リフローはんだ接合などの溶融接合が可能な1μm以上とするのが望ましい。上限は20μm程度で、それ以上厚くしても効果は飽和する。半田実装する用途以外の用途においては、耐食性や樹脂密着性などの観点から最も表層の金属層の厚みは0.1μm以上10μm以下の範囲が好ましい。表層以外の金属層についても0.1μm以上10μm以下の範囲が好ましい。
多層の場合、コストパフォーマンスの点から2層であることがより好ましい。多層を構成するそれぞれの1層の厚さは0.1μm以上10μm以下が好ましい。
【0029】
金属基材上に設ける金属層の材料は、金属基材の材質、使用部品の種類、用途、要求特性、許容コストなどによって決まるが、いずれにしても最終的な部品として求められる基本必要特性を満たす金属が選択される。前記金属層には、通常、Ni、Cu、Sn、Ag、Pd、Auの金属のいずれか1種、または、前記金属の少なくとも1種を含む合金、共析物、もしくは化合物が用いられる。
単層皮膜の場合はNi、Sn、Ag、Auの各系(金属、合金、共析物、化合物)を、複層皮膜の場合は内層側(下地層)にNi、Au、Ag各系を、外層側にSn系を用いるのが好ましい。3層以上の場合、中間層にはCu、Ag、Pdの各系を用いることが好ましい。
【0030】
Ni系などの下地層にも合金を用いることができる。またその構成は単体または単体複層で十分である。厚みは薄過ぎるとピンホールが多くなり、厚過ぎると加工時に割れが発生し易くなるので0.1〜2μm程度が望ましい。
【0031】
下地を1層以上のNi系皮膜とし、外層をSn系皮膜とする構成は一般的な必要特性を満足するうえ、経済的なため汎用される。
【0032】
Sn系皮膜には、光沢皮膜より無光沢皮膜が適しており、Sn、Sn−Cu、Sn−Ag、Sn−Bi、Sn−Znの各系(金属、合金、共析物、化合物)が用いられる。Sn−Bi以外は融点の低い共晶付近の組成が用い易い。
【0033】
特に、Sn、Sn−Cu系、Sn−Ag系合金は耐熱性に優れる。
前記Sn−Cu系、Sn−Ag系皮膜は合金皮膜形成のほか、Sn皮膜の上にCu層やAg層を薄く形成しておき、溶融時に合金化させて設けることもできる。
【0034】
金属層は、湿式法により設けるのが一般的である。
湿式法には浸漬置換処理法、無電解めっき法、電析法などがあるが、中でも電析法は金属層の厚みの均一性、厚み制御性、浴の安定性などの点で優れる。トータルコストも安い。
【0035】
前記電析法は、市販浴や公知のめっき液を用い、金属基材をカソードとし、可溶性または不溶性アノードとの間に適切な相対速度に前記めっき液を擁して、定電流電析により行われる。
金属層を部分的に設けるには、不要部分をマスキングする方法、必要部分のみにスポット的にめっき液を供給する方法などが適用できる。
【0036】
本発明において、金属層は、はんだ付けする箇所など必要な箇所のみに設け、他の箇所は金属基材が露出した状態にしておいても良い。
【0037】
本発明においては、Niめっきなどの下地処理を施すことで界面領域の成長が抑えることが可能である。Niめっきなどを施すと、界面領域をほとんど無くすことが出来る。その下地処理に使用する金属は、Cuよりも樹脂を劣化させる触媒作用が低い、Ni、Au、Agが界面領域の成長を抑えることができるので好ましい。
また、Feも触媒作用がCuより低いので、金属基材としてステンレス(SUS)などでも界面領域が成長しにくい。
【0038】
本発明の複合材料は、例えば、上記金属基材または上記金属層上に樹脂または樹脂前駆体を溶媒に溶解したワニスを塗布し、加熱処理して反応硬化させて、製造することができる。加熱処理中の樹脂皮膜の発泡を抑制する観点からは、金属基材の昇温速度は45℃/秒以下とすることが望ましく、10〜35℃/秒の範囲がさらに望ましい。
【0039】
さらに、本発明の金属基材に樹脂皮膜を形成した電気電子部品用複合材料はどのような電気電子部品にも用いることができ、その部品は特に限定されるものではないが、例えば、コネクタ、端子、シールドケース等があり、これらは携帯電話、携帯情報端末、ノートパソコン、デジタルカメラ、デジタルビデオなどの電気電子機器に採用することができる。
【0040】
以下に本発明の電気電子部品用複合材料の断面や外観の好ましい実施態様を、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施態様に限定されるものではない。例えば、樹脂皮膜は金属基材の片面に設けても両面に設けてもよく、また、樹脂皮膜は多層に設けてもよい。すなわち、最終製品である電気電子部品の要求特性に応じて、本発明の実施態様は適宜変更されうるものである。
【0041】
図3は、本発明の複合材料の第1の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1表面の少なくとも絶縁を要する1箇所に樹脂皮膜が設けられている。樹脂皮膜2は、界面領域3を含んでおり、樹脂皮膜2と金属基材1の界面付近では、樹脂皮膜側から順に、界面領域3および酸化皮膜4が形成されている。なお、酸化皮膜4については、樹脂皮膜2が設けられた位置のみ記載し、他の金属基材1の表面においては、記載を省略している(図4〜9についても同様である。)。
【0042】
図4は、本発明複合材料の第2の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1の片面全面にわたり、樹脂皮膜が設けられている。樹脂皮膜2は、界面領域3を含んでおり、樹脂皮膜2と金属基材1の界面付近では、樹脂皮膜側から順に、界面領域3および酸化皮膜4が形成されている。
【0043】
図5は、本発明複合材料の第3の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1表面の絶縁を要する2箇所に樹脂皮膜が設けられている。樹脂皮膜2は、界面領域3を含んでおり、樹脂皮膜2と金属基材1の界面付近では、樹脂皮膜側から順に、界面領域3および酸化皮膜4が形成されている。
【0044】
図3、図4、および図5に示した本発明複合材料の各実施形態は、樹脂皮膜2が絶縁を要する箇所に設けられているので、複合材料としての機能が効果的に発揮される。
例えば、複合材料をシールドケース等の筐体部品としたとき、他部品との間の絶縁性が良好に保てるので、筐体の低背化に有利である。また、図3および図5では、前記樹脂皮膜が設けられていない箇所は金属基材が露出しているので放熱性が高度に維持される。
また、複合材料をコネクタや端子などの電気接続部品としたとき、隣接する部品との間の絶縁性が良好に保てるので、コネクタの狭ピッチ化などに有利である。また、図3および図5では、前記樹脂皮膜が設けられていない箇所は金属基材が露出しているので、はんだ付けが可能である、放熱性が高度に維持されるなどの利点がある。
【0045】
図6は、本発明複合材料の第4の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1上の少なくとも絶縁を要する1箇所に樹脂皮膜が設けられており、樹脂皮膜が設けられている箇所以外の金属基材上にNi層5が設けられている。樹脂皮膜2は、界面領域3を含んでおり、樹脂皮膜2と金属基材1の界面付近では、樹脂皮膜側から順に、界面領域3および酸化皮膜4が形成されている。
【0046】
図6に示した複合材料は、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にNi層5が設けられているので耐食性が向上する。
【0047】
図7は、本発明複合材料の第5の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1上の少なくとも絶縁を要する1箇所に樹脂皮膜2が設けられており、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にNi層5およびSn層6がこの順に設けられている。樹脂皮膜2は、界面領域3を含んでおり、樹脂皮膜2と金属基材1の界面付近では、樹脂皮膜側から順に、界面領域3および酸化皮膜4が形成されている。
【0048】
図7に示した本発明複合材料は、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にSn層4が設けられているので半田接合やリフロー半田実装などが容易に行える。また金属基材1成分の拡散がNi層5により阻止されるためSn層6の変色が防止される。
【0049】
また、図7に示すように金属層を2層に設けたものは、金属基材1が良好に保護され、金属基材1の耐熱性、耐酸化性、耐食性などが向上する。また金属層1の外層が金属基材1成分の拡散により合金化或いは化合物化するのを抑制することができる。
特に下地にNi層5を設け、外層にSn層6を設けたものは、Sn層6の化合物化が十分抑制されて、耐熱性や耐ウィスカー性が高度に維持され推奨される。金属層を3層以上設けるとさらに効果的であるが、コストパフォーマンスの点で金属層は2層が適当である。
【0050】
図7に示す本発明複合材料の樹脂皮膜2が設けられていない箇所には、さらに銅材などのヒートシンクを設けて、放熱性を著しく高めることも可能である。特に、図7に示す複合材料では、はんだ付けにより容易にヒートシンクを接合できる。
【0051】
図8は、本発明複合材料の第6の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1上の少なくとも絶縁を要する1箇所に樹脂皮膜2が設けられており、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材上にNi層5が設けられている。樹脂皮膜2は、界面領域3を含んでおり、樹脂皮膜2とNi層5の界面付近では、樹脂皮膜側から順に、界面領域3および酸化皮膜4が形成されている。
【0052】
図9は、本発明複合材料の第7の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1表面のうち一方の面の少なくとも絶縁を要する1箇所と他方の面の全面に樹脂皮膜が設けられている。なお、前記他方の面には、図示されるように全面に樹脂皮膜が設けられている必要はかならずしもなく、少なくとも一部に樹脂皮膜が設けられるものであってもよい。樹脂皮膜2は、界面領域3を含んでおり、樹脂皮膜2と金属基材1の界面付近では、樹脂皮膜側から順に、界面領域3および酸化皮膜4が形成されている。
【0053】
図10は、本発明複合材料の第8の実施態様を示す平面図である。
金属基材1上の絶縁を要する箇所に樹脂皮膜(高密度層)2がストライプ状に設けられている。樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にNi層、あるいはNi層およびSn層をこの順に設けてもよい。また金属基材1上に設けられたNi層上の絶縁を要する箇所に樹脂皮膜2を設け、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にSn層をこの順に設けてもよい。樹脂皮膜2と金属基材1の界面には界面領域と酸化皮膜が存在する。
【0054】
図11は、本発明複合材料の第9の実施態様を示す平面図である。
金属基材1上の絶縁を要する箇所に樹脂皮膜2がスポット状に設けられている。その他は上記第8の実施態様と同様である。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明する。
[実施例1]
JIS合金C5210R(りん青銅、古河電気工業(株)製)の厚み0.1mm、幅20mm(No.1〜4,10〜12)、C7701R(洋白、三菱電機メテックス(株)製)の厚み0.1mm、幅20mm(No.5〜8)、および、SUS304CPS(ステンレス、日新製鋼(株)製)の厚み0.1mm、幅20mm(No.9)の条を金属基材とした。前記条に電解脱脂、酸洗処理、水洗、乾燥の各工程をこの順に施した。
【0056】
またNo.10〜12については、市販または公知の電気めっき浴を用いて電気めっきをし、金属基材1上に表1に示す金属からなる金属層(下地めっき層)を形成した。めっき厚さは0.5μm±0.1μmになるようにした。
【0057】
次に、N−メチル2−ピロリドンを溶媒とするポリアミドイミド(PAI)溶液のワニス(固形分約30%)を金属基材の幅方向中央部分に焼き付け後に厚み10μm(±1μm)となるような塗布厚さで、Kコントロールコーター(RK Print Coat Instruments Ltd. UK 製)にて塗装し、次いで昇温速度を20〜75℃/秒の範囲で種々に変化させて加熱処理を施し、溶媒乾燥とともに硬化させて、図3(No.1〜9)または図8(No.10〜12、但し、No.11〜12については、Ni層5に代えて、それぞれAu層、Ag層となる)に示すような態様で、界面領域の厚さが表1に示す厚さとなるように複合材料を作製した。なお、各サンプルの樹脂の焼付における昇温速度は、表1に示す速度に調整した。
【0058】
得られたサンプルの界面領域の厚さは、ミクロトーム(Reichert SUPERNOVA)を使用し、スミナイフ(刃先角度45度)にて厚さ30nmにサンプルを切り出し、透過電子顕微鏡(JEM−3010、日本電子(株)製、加速電圧300kV)にて、金属/樹脂の界面を観察し、得られた電子顕微鏡写真から界面領域の厚さをサンプル毎に3点計測し、その平均をとった。
ここで、ミクロトームでは基材に対して正確に直角に切ることが出来ないので、基材厚さの実測と電子顕微鏡写真上での基材の厚さの計測値から補正値を算出し、電子顕微鏡写真上での界面領域の厚さにそれを掛けたものを、前記界面領域の厚さとした。
【0059】
得られたサンプルについて、JIS K 5000に準じて、以下の種類のクロスカット試験を行った。
(1)As:樹脂焼き付け後なにも処理をせずにクロスカットを施しテープ剥離を行った。
(2)耐酸:クロスカット後10%硫酸(60℃)に30秒浸漬した後にテープ剥離を行った。
(3−1)耐アルカリ:クロスカット後10%水酸化ナトリウム(60℃)に30秒浸漬した後にテープ剥離を行った。
(3−2)耐アルカリ:クロスカット後10%水酸化ナトリウム(60℃)で電解(2.5A/dm2、30秒)を施した後にテープ剥離を行った。
(4)耐洗浄剤:クロスカット後メチレンクロライド(60℃)に浸漬し1分間超音波洗浄を施した後にテープ剥離を行った。
評価は○△×の3段階評価で、○:剥離度合いが0割(全く剥がれない)、△:剥離度合いが1〜4割、×:剥離度合いが5〜10割、とした。結果を表1に示す。
表1に示すとおり、界面領域の厚さが0nmを超えて100nm未満、好ましくは80nm以下ならば耐薬品性が良好である。
【0060】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】金属基材と絶縁皮膜との間に隙間が形成された状態の一例を示す概念図である。
【図2】金属基材と絶縁皮膜との間に隙間が形成された状態の一例を示す概念図である。
【図3】本発明の電気電子部品用複合材料の第1の実施態様を示す拡大断面図である。
【図4】本発明の電気電子部品用複合材料の第2の実施態様を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の電気電子部品用複合材料の第3の実施態様を示す拡大断面図である。
【図6】本発明の電気電子部品用複合材料の第4の実施態様を示す拡大断面図である。
【図7】本発明の電気電子部品用複合材料の第5の実施態様を示す拡大断面図である。
【図8】本発明の電気電子部品用複合材料の第6の実施態様を示す拡大断面図である。
【図9】本発明の電気電子部品用複合材料の第7の実施態様を示す拡大断面図である。
【図10】本発明の電気電子部品用複合材料の第8の実施態様を示す平面図である。
【図11】本発明の電気電子部品用複合材料の第9の実施態様を示す平面図である。
【図12】金属基材と絶縁皮膜との間に隙間が形成された状態の一例を示す概念図である。
【図13】金属基材と絶縁皮膜との間に隙間が形成された状態の一例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0062】
1 金属基材
2 樹脂皮膜
3 (樹脂皮膜の)界面領域
4 酸化皮膜
5 Ni層
6 Sn層
10 電気電子部品
11 金属基材
11a 打ち抜き加工面
12 絶縁皮膜
13 隙間
20 電気電子部品
21 金属基材
22 絶縁皮膜
23,24 隙間
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基板上に樹脂皮膜が設けられた電気電子部品用複合材料および電気電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電気電子機器のプリント基板などに実装されるセラミック発振子、水晶発振器、電圧制御発振器、SAWフィルター、ダイプレクサ、カプラ、バラン、LPF、BPF、誘電体デュプレクサなどの個別部品やこれら個々の素子を複数内蔵させた各種モジュール部品、例えば、アンテナスイッチモジュール、フロントエンドモジュール、RF一体型モジュール、無線通信用モジュール、イメージセンサーモジュール、チューナーモジュール、無線LAN用途など、または、検出スイッチなどの部品は、電磁シールドのために金属製筐体内に入れたり、カバーで覆ったりして用いられるが、電気電子機器の携帯化が進展する中で前記筐体などには薄型化、低背化が要求され、その高さはモジュール部品では5mm以下、個別部品では2mmを割り1mm前後に突入しつつある。液晶ドライバ(LCD)やキーボード、マザーボードなどのプリント基板側の端子接続コネクタとFPCケーブルなど側の接続コネクタは、通信ノイズや静電気防止目的から電磁波シールド性が必要とされ、導電性の金属製ケース、キャップ、カバーで覆ったりして用いられるが、同様に機器の小型薄型化が進み、コネクタ部品やソケットでも小型低背化が進んでいる。
【0003】
しかし、上記金属製筐体などは、低背化に伴って内容積が小さくなり、内蔵部品や端子、配線回路とケース、カバー、キャップ、筐体(カバー付きケース)などの電気電子部品との間の絶縁性が十分確保できなくなるという欠点があった。このような場合従来は、特許文献1に開示したように、絶縁フィルムをシート状の所定寸法に裁断してケース内部に挿入したり、特許文献2に開示したように、金属基材上に樹脂皮膜を予め形成させた金属材料から所定寸法に切り取ったりすることなどが行われている。予め樹脂皮膜を金属基材上に形成した材料を用いることは、連続的に打ち抜きや曲げの成型加工ができて生産性や経済上から好ましく、また部分或いは全面、両面など任意に高品質で連続的に皮膜形成し得る材料であることから、近年良く用いられる傾向にある。
【0004】
ところで、携帯機器やデジタル機器などが小型薄型化と共に高機能化が進むにつれて、これらに搭載使用される電気電子部品の形状はかなり制限されるようになってきている。このため必要な形状を得るための加工も厳しくなり、各種加工の際の密着性を高めることが要求される。金属基材と樹脂皮膜との密着性を高める方法として、例えば金属基材の表面にカップリング剤を塗布する方法(特許文献3)や、金属基材の表面にデンドライト状結晶を有しためっき層を形成する方法(特許文献4)が挙げられる。
【0005】
金属基材上に絶縁皮膜が設けられた複合材料を、電気電子部品用の材料として適用する場合、この材料は、金属基材上に絶縁皮膜が設けられているため、金属基材と絶縁皮膜との界面を含めた箇所で打ち抜き加工等の加工を施してコネクタ接点等を形成することにより、前記コネクタ接点を狭ピッチで配置することも可能となり、様々な応用が考えられる。また、打ち抜き加工等の加工を施した後に折り曲げ加工を施すことにより、様々な機能を有する電気電子部品への適用も考えられる。
【0006】
この複合材料について、金属基材と絶縁皮膜との界面を含めた箇所で打ち抜き加工等の加工を施したところ、加工した箇所において金属基材と絶縁皮膜との間に数μm〜数十μm程度のわずかな隙間ができることがある。この隙間は金属基材と樹脂皮膜との密着性が不十分であることにより発生すると考えられる。この状態を図12に概略的に示す。図12において、10は電気電子部品、11は金属基材、12は絶縁皮膜であり、金属基材11の打ち抜き加工面11aの近傍で金属基材11と絶縁皮膜12との間に隙間13が形成されている。この傾向は、上記打ち抜き加工の際のクリアランスが大きいほど(例えば上記金属基材の厚さに対して5%以上では)、より強まる。上記打ち抜き加工の際のクリアランスを小さくすることは実際上限度があるため、上記被加工体が微細化するほどこの傾向が強まると換言することもできる。
【0007】
このような状態になると、打ち抜き加工等の経年変化などにより金属基材11から絶縁皮膜12が完全に剥離してしまうこととなり、金属基材11上に絶縁皮膜12を設けても意味がなくなる。また、微細加工後に絶縁皮膜を後付けするのは極めて手間がかかり、製品のコストアップにつながるため実用的ではない。さらに、形成された電気電子部品の金属露出面(例えば打ち抜き加工面11a)をコネクタ接点等として使用したい場合、金属露出面(例えば打ち抜き加工面11a)にめっき等で金属層を後付けすることも考えられるが、めっき液に浸漬した際に隙間13からめっき液が浸入して金属基材11から絶縁皮膜12が剥離することを助長してしまうおそれがある。
【0008】
また、打ち抜き加工等の加工を施した後に折り曲げ加工を施す場合、打ち抜き加工等の加工を施した段階で加工した箇所において金属基材と絶縁皮膜との間に隙間ができていない場合でも、折り曲げ加工を施した後に金属基材と絶縁皮膜との間に隙間ができることがある。この状態を図13に概略的に示す。図13において、20は電気電子部品、21は金属基材、22は絶縁皮膜であり、金属基材21の折り曲げ箇所の内側に隙間23が、電気電子部品20の端部(特に折り曲げた際の外側)に隙間24が形成されている。これらの隙間23、24は図13に示すとおり、折り曲げられた電気電子部品の折り曲げ箇所の側面や内表面側、電気電子部品の端部に目立ち、このような隙間があると金属基材21から絶縁皮膜22が剥離する原因となる。
【0009】
また、従来の、金属基材の上に有機皮膜材料を塗布し作成される電子部品は、薬品処理等の後処理によって密着強度が低下するため、樹脂剥離によるめっき液汚染などが問題となっている。
【0010】
【特許文献1】特開平1−6389号公報
【特許文献2】特開2004−197224号公報
【特許文献3】特許第2802402号公報
【特許文献4】特開平5−245432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記各特許文献に記載された技術を組み合わせても、携帯機器やデジタル機器などに搭載使用される電気電子部品を製造する際の精密プレス加工や高温処理、めっき処理等を行った際に金属基材と樹脂皮膜との密着性が不十分であり、耐薬品性が悪いという問題は解消されるに至らない。以下、詳細に説明する。
【0012】
特許文献1および特許文献2に記載された技術は、電気電子部品を製造する際の精密プレス加工や高温処理、めっき処理等の後処理を想定したものではなく、電気電子部品における金属基材と樹脂皮膜との密着性を、後処理に耐えうるほど向上させることは示されていない。
【0013】
特許文献3に記載されたカップリング剤を塗布する方法では、カップリング剤の液寿命が短いため、液の管理に細心の注意をはらう必要がある。また、金属基材表面全体に均質な処理を施すことが難しいため、前記した微細な隙間に対しては効果がないことがある。特許文献4に記載されたデンドライト状結晶を有しためっき層を形成する方法では、形成されるめっき層の結晶状態を制御するためには限定されためっき条件でめっきを施す必要があり、管理に細心の注意をはらう必要がある。また、十分な密着性を得るためにはめっき厚さを1μm以上とする必要があるため、打ち抜き加工の際にめっき層に割れが発生するなどの問題点があるほか、経済的にも好ましくない。また、特許文献1〜4に記載された技術は、金属基材と樹脂皮膜との密着状態の耐薬品性を向上させるものではない。
【0014】
そこで、本発明は、シールドケース、コネクタ、端子等のように加工を前提とする電気電子部品用途に適する金属樹脂複合材料(以下、単に複合材料とする)を得るにあたり、上記課題を解消するため、樹脂皮膜と金属基材との密着性を高くすることで、打ち抜き加工や曲げ加工などのプレスによる加工性が極めて良好で、その後に熱処理やめっき処理などが行われても樹脂皮膜と金属基材との密着性が高い状態を保ち、かつ耐薬品性に優れた電気電子部品用の金属樹脂複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、電子顕微鏡にて金属/樹脂界面を観察したところ、樹脂皮膜の金属/樹脂界面直近で、コントラストが変化し白くなっている部分が形成されうることを発見し(以下、「界面領域」とする)、さらに、この界面領域は薬品処理によって分解されやすい層であることを見出した。本発明はこの知見に基づきなすに至ったものである。
すなわち、本発明は、
(1)金属基材上の少なくとも一部に樹脂皮膜が形成された電気電子部品用複合材料であって、前記樹脂皮膜は、前記金属基材との界面に存在する界面領域の厚さが0nmを超え100nm未満の範囲となるように制御された高分子樹脂皮膜であることを特徴とする電気電子部品用複合材料、
(2)前記樹脂皮膜がポリアミドイミドであることを特徴とする(1)項記載の電気電子部品用複合材料、
(3)前記金属基材が銅または銅基合金、鉄または鉄基合金であることを特徴とする(1)まはは(2)項記載の電気電子部品用複合材料、
(4)前記金属基材上に金属層がn層(nは1以上の整数)設けられ、かつ前記樹脂皮膜が前記金属基材上に、直接、または前記金属層の少なくとも1層を介して設けられることを特徴とする電気電子部品用複合材料、および、
(5)(1)〜(4)のいずれか1項に記載の電気電子部品複合材料を用いてなることを特徴とする電気電子部品
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電気電子部品用複合材料は、樹脂皮膜の界面領域の厚さが所定範囲に制御されていることで、樹脂皮膜と金属との密着性が向上し、プレスによる打ち抜き性および曲げ加工性が向上する。また、耐リフロー性、耐アルカリ性等にも優れるようになり、耐薬品性も向上し、プレス加工などで形成された電気電子部品を後処理(後めっきその他薬品処理)する際のでも性能を十分に維持できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための形態について説明する。本発明の電気電子部品用複合材料は、透過型電子顕微鏡(TEM)にて金属/樹脂界面を観察した際に、樹脂皮膜の金属/樹脂界面直近で、コントラストが変化し白くなっている部分(界面領域)が形成されうることを発見し、さらに、この界面領域は薬品処理によって分解されやすい領域であることを見出し、この界面領域の厚さを制御することで、金属基材と樹脂皮膜との密着性を向上させたものである。具体的には、界面領域の厚さを、0nmを超え100nm未満の範囲に制御することで、密着性を向上させることができる。
【0018】
本発明において、金属基材は、様々な形状の金属材を採用できるが、その中でも主に金属条、金属箔または金属板が好適に採用される。基材厚さが薄すぎると部品に成形する際に強度が不足し、厚すぎるとプレス打ち抜き性や曲げ成形性が悪くなるので、基材厚さは、複合材料の用途により異なるが、0.01〜1mmの範囲が好ましく、0.05〜0.5mmの範囲がより好ましい。
【0019】
本発明において、金属基材には、打抜加工や絞り成形などが可能な延性を有する材料、或いはばね性を有する金属材料が用いられる。具体的には、無酸素銅、タフピッチ銅などの純銅系材料、洋白(Cu−Ni系合金)、リン青銅(Cu−Sn−P系合金)、コルソン合金(Cu−Ni−Si系合金)などの銅基合金材料、純鉄系材料、42アロイ(Fe−Ni系合金)やステンレスなどの鉄基合金材料が挙げられる。
【0020】
本発明において、金属基材の電気的特性は、複合材料の用途によって適切な値とすることが好ましい。例えば、電磁遮蔽用途(シールドケース用)の場合は、電気伝導率については電磁シールド性の観点から5%IACS以上が好ましく、10%IACS以上がさらに好ましい。また、比透磁率は1以上が好ましい。
また、コネクタ・端子用途の場合には、電気伝導率については信号伝送用、電力伝送用で好ましい範囲が異なる。信号伝送用の場合は必要な電気伝導率を確保する観点から15%IACS以上が好ましく、電力伝送用の場合は発熱を抑制する観点から60%IACS以上が好ましい。
金属基材は、例えば、所定の金属材料を溶解鋳造し、得られる鋳塊を、常法により、順に、熱間圧延、冷間圧延、均質化処理、および脱脂する工程により製造することができる。
【0021】
金属基材上の樹脂皮膜を設ける位置の公差は、多数の部品に通用させることを配慮すると、好ましくは±0.15mm、より好ましくは±0.10mm、さらに好ましくは±0.05mmである。
【0022】
本発明において、樹脂皮膜を形成する樹脂には、例えば、ポリイミド系、ポリアミドイミド系、ポリアミド系、エポキシ系などの樹脂が用いられる。樹脂としては、皮膜形成後に塗装処理やリフロー実装処理等、熱処理を受ける可能性がある場合には、耐熱性の樹脂が好ましく、特に、ポリアミドイミド系が好ましい。
また、樹脂皮膜の絶縁性は、体積固有抵抗1010Ω・cm以上が好ましく、1014Ω・cm以上がさらに好ましい。
【0023】
また、樹脂皮膜を、接着剤を用いて金属基板上などに設ける場合、接着剤にはポリイミド系、エポキシ系、アクリル系、シリコン系などの樹脂が用いられる。これらの樹脂は半田接合やリフロー半田実装をはじめとする加熱工程に対する耐熱性を有する。加熱条件が厳しくない用途では、前記樹脂以外の耐熱性能の小さい樹脂(例えば、フェノール系やポリアミド系、ポリエチレンテレフタレート系の樹脂)を用いることも可能である。
【0024】
樹脂皮膜の厚みは、薄すぎると十分な絶縁性が得られず、またピンホールが発生し易いく、一方あまり厚いと、打ち抜きや曲げ加工などのプレス加工性が低下するので、樹脂皮膜の厚さは、1〜30μmが好ましく、5〜25μmがさらに好ましい。
【0025】
本発明の複合材料は、電子顕微鏡における金属/樹脂界面を観察において、金属/樹脂界面近くで樹脂のコントラストが変化し白くなっている部分(界面領域)が存在する。樹脂側から断面を見ると、樹脂/樹脂の界面領域/酸化皮膜/金属基材、という構成になっている。界面領域は薬品処理によって分解されやすい層であるため、界面領域が薄い場合、耐薬品性に優れているといえる。金属/樹脂界面の透過電子顕微鏡(TEM)による写真を図1に示し、さらに、樹脂皮膜2/樹脂の界面領域3/酸化皮膜4/金属基材1のそれぞれの位置関係を示す矢印を示した。なお、理解しやすいように、図1では、樹脂の界面領域3の樹脂皮膜2側の境界を一部破線で示した。また、図2は、図1に示す樹脂皮膜2/樹脂の界面領域3/酸化皮膜4/金属基材1の位置関係を模式的に示す模式図である。
図1に示されるように、金属1/樹脂皮膜2の界面に、樹脂皮膜2の界面領域3と金属基材1の酸化皮膜4が観察される。樹脂皮膜2と界面領域3との境界は、透過電子顕微鏡写真を撮影する際のコントラストを適宜調整することで容易に区別することができる。このコントラストは、使用する顕微鏡の状態や照明の状態などにより理想的な条件が異なるため絶対値として一義的には決定できないが、例えば、顕微鏡写真を8ビット(256階層)のグレースケール(黒を0、白を255とする)で表示した際に、樹脂皮膜2と界面領域3との明るさの差が10以上となるような条件を選択することが好ましい。この場合、撮影した画像に対してあらゆる補正(ガンマ補正など)を掛けない(言い換えれば、画像に関数的もしくはイメージ的な操作を加えない)ことが重要である。例えば、図1では、樹脂皮膜2の明るさは平均で約222、界面領域3の明るさは約234であり、また、樹脂皮膜2と界面領域3との境界においても、樹脂皮膜2と界面領域3と明るさの関係は変わらないため、樹脂皮膜2と界面領域3とは容易に区別することができる。
【0026】
本発明の材料では、界面領域の厚さが0nmを超え100nm未満に制御されたものであり、0nmを超え80nm以下であることが好ましい。
界面領域をこのような厚さに制御するためには、昇温速度を調整する、金属基材として樹脂を劣化させる触媒作用が低いものを用いる、樹脂を劣化させる触媒作用が低いめっき層を設ける、樹脂皮膜を設ける前に金属基材の酸化皮膜を除去する、などが挙げられる。
【0027】
本発明においては、金属基材上に金属層がn層(nは1以上の整数)設けられ、かつ前記樹脂皮膜が前記金属基材上に、直接、または前記金属層の少なくとも1層を介して設けられていることも好ましい。
【0028】
上記金属層は単層(n=1)に設けても、多層(nが2以上)に設けても良い。例えば、半田実装する用途の場合、上記金属層のうち最も表層の金属層の厚みは、半田濡れ性が良好に保たれ、リフローはんだ接合などの溶融接合が可能な1μm以上とするのが望ましい。上限は20μm程度で、それ以上厚くしても効果は飽和する。半田実装する用途以外の用途においては、耐食性や樹脂密着性などの観点から最も表層の金属層の厚みは0.1μm以上10μm以下の範囲が好ましい。表層以外の金属層についても0.1μm以上10μm以下の範囲が好ましい。
多層の場合、コストパフォーマンスの点から2層であることがより好ましい。多層を構成するそれぞれの1層の厚さは0.1μm以上10μm以下が好ましい。
【0029】
金属基材上に設ける金属層の材料は、金属基材の材質、使用部品の種類、用途、要求特性、許容コストなどによって決まるが、いずれにしても最終的な部品として求められる基本必要特性を満たす金属が選択される。前記金属層には、通常、Ni、Cu、Sn、Ag、Pd、Auの金属のいずれか1種、または、前記金属の少なくとも1種を含む合金、共析物、もしくは化合物が用いられる。
単層皮膜の場合はNi、Sn、Ag、Auの各系(金属、合金、共析物、化合物)を、複層皮膜の場合は内層側(下地層)にNi、Au、Ag各系を、外層側にSn系を用いるのが好ましい。3層以上の場合、中間層にはCu、Ag、Pdの各系を用いることが好ましい。
【0030】
Ni系などの下地層にも合金を用いることができる。またその構成は単体または単体複層で十分である。厚みは薄過ぎるとピンホールが多くなり、厚過ぎると加工時に割れが発生し易くなるので0.1〜2μm程度が望ましい。
【0031】
下地を1層以上のNi系皮膜とし、外層をSn系皮膜とする構成は一般的な必要特性を満足するうえ、経済的なため汎用される。
【0032】
Sn系皮膜には、光沢皮膜より無光沢皮膜が適しており、Sn、Sn−Cu、Sn−Ag、Sn−Bi、Sn−Znの各系(金属、合金、共析物、化合物)が用いられる。Sn−Bi以外は融点の低い共晶付近の組成が用い易い。
【0033】
特に、Sn、Sn−Cu系、Sn−Ag系合金は耐熱性に優れる。
前記Sn−Cu系、Sn−Ag系皮膜は合金皮膜形成のほか、Sn皮膜の上にCu層やAg層を薄く形成しておき、溶融時に合金化させて設けることもできる。
【0034】
金属層は、湿式法により設けるのが一般的である。
湿式法には浸漬置換処理法、無電解めっき法、電析法などがあるが、中でも電析法は金属層の厚みの均一性、厚み制御性、浴の安定性などの点で優れる。トータルコストも安い。
【0035】
前記電析法は、市販浴や公知のめっき液を用い、金属基材をカソードとし、可溶性または不溶性アノードとの間に適切な相対速度に前記めっき液を擁して、定電流電析により行われる。
金属層を部分的に設けるには、不要部分をマスキングする方法、必要部分のみにスポット的にめっき液を供給する方法などが適用できる。
【0036】
本発明において、金属層は、はんだ付けする箇所など必要な箇所のみに設け、他の箇所は金属基材が露出した状態にしておいても良い。
【0037】
本発明においては、Niめっきなどの下地処理を施すことで界面領域の成長が抑えることが可能である。Niめっきなどを施すと、界面領域をほとんど無くすことが出来る。その下地処理に使用する金属は、Cuよりも樹脂を劣化させる触媒作用が低い、Ni、Au、Agが界面領域の成長を抑えることができるので好ましい。
また、Feも触媒作用がCuより低いので、金属基材としてステンレス(SUS)などでも界面領域が成長しにくい。
【0038】
本発明の複合材料は、例えば、上記金属基材または上記金属層上に樹脂または樹脂前駆体を溶媒に溶解したワニスを塗布し、加熱処理して反応硬化させて、製造することができる。加熱処理中の樹脂皮膜の発泡を抑制する観点からは、金属基材の昇温速度は45℃/秒以下とすることが望ましく、10〜35℃/秒の範囲がさらに望ましい。
【0039】
さらに、本発明の金属基材に樹脂皮膜を形成した電気電子部品用複合材料はどのような電気電子部品にも用いることができ、その部品は特に限定されるものではないが、例えば、コネクタ、端子、シールドケース等があり、これらは携帯電話、携帯情報端末、ノートパソコン、デジタルカメラ、デジタルビデオなどの電気電子機器に採用することができる。
【0040】
以下に本発明の電気電子部品用複合材料の断面や外観の好ましい実施態様を、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施態様に限定されるものではない。例えば、樹脂皮膜は金属基材の片面に設けても両面に設けてもよく、また、樹脂皮膜は多層に設けてもよい。すなわち、最終製品である電気電子部品の要求特性に応じて、本発明の実施態様は適宜変更されうるものである。
【0041】
図3は、本発明の複合材料の第1の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1表面の少なくとも絶縁を要する1箇所に樹脂皮膜が設けられている。樹脂皮膜2は、界面領域3を含んでおり、樹脂皮膜2と金属基材1の界面付近では、樹脂皮膜側から順に、界面領域3および酸化皮膜4が形成されている。なお、酸化皮膜4については、樹脂皮膜2が設けられた位置のみ記載し、他の金属基材1の表面においては、記載を省略している(図4〜9についても同様である。)。
【0042】
図4は、本発明複合材料の第2の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1の片面全面にわたり、樹脂皮膜が設けられている。樹脂皮膜2は、界面領域3を含んでおり、樹脂皮膜2と金属基材1の界面付近では、樹脂皮膜側から順に、界面領域3および酸化皮膜4が形成されている。
【0043】
図5は、本発明複合材料の第3の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1表面の絶縁を要する2箇所に樹脂皮膜が設けられている。樹脂皮膜2は、界面領域3を含んでおり、樹脂皮膜2と金属基材1の界面付近では、樹脂皮膜側から順に、界面領域3および酸化皮膜4が形成されている。
【0044】
図3、図4、および図5に示した本発明複合材料の各実施形態は、樹脂皮膜2が絶縁を要する箇所に設けられているので、複合材料としての機能が効果的に発揮される。
例えば、複合材料をシールドケース等の筐体部品としたとき、他部品との間の絶縁性が良好に保てるので、筐体の低背化に有利である。また、図3および図5では、前記樹脂皮膜が設けられていない箇所は金属基材が露出しているので放熱性が高度に維持される。
また、複合材料をコネクタや端子などの電気接続部品としたとき、隣接する部品との間の絶縁性が良好に保てるので、コネクタの狭ピッチ化などに有利である。また、図3および図5では、前記樹脂皮膜が設けられていない箇所は金属基材が露出しているので、はんだ付けが可能である、放熱性が高度に維持されるなどの利点がある。
【0045】
図6は、本発明複合材料の第4の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1上の少なくとも絶縁を要する1箇所に樹脂皮膜が設けられており、樹脂皮膜が設けられている箇所以外の金属基材上にNi層5が設けられている。樹脂皮膜2は、界面領域3を含んでおり、樹脂皮膜2と金属基材1の界面付近では、樹脂皮膜側から順に、界面領域3および酸化皮膜4が形成されている。
【0046】
図6に示した複合材料は、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にNi層5が設けられているので耐食性が向上する。
【0047】
図7は、本発明複合材料の第5の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1上の少なくとも絶縁を要する1箇所に樹脂皮膜2が設けられており、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にNi層5およびSn層6がこの順に設けられている。樹脂皮膜2は、界面領域3を含んでおり、樹脂皮膜2と金属基材1の界面付近では、樹脂皮膜側から順に、界面領域3および酸化皮膜4が形成されている。
【0048】
図7に示した本発明複合材料は、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にSn層4が設けられているので半田接合やリフロー半田実装などが容易に行える。また金属基材1成分の拡散がNi層5により阻止されるためSn層6の変色が防止される。
【0049】
また、図7に示すように金属層を2層に設けたものは、金属基材1が良好に保護され、金属基材1の耐熱性、耐酸化性、耐食性などが向上する。また金属層1の外層が金属基材1成分の拡散により合金化或いは化合物化するのを抑制することができる。
特に下地にNi層5を設け、外層にSn層6を設けたものは、Sn層6の化合物化が十分抑制されて、耐熱性や耐ウィスカー性が高度に維持され推奨される。金属層を3層以上設けるとさらに効果的であるが、コストパフォーマンスの点で金属層は2層が適当である。
【0050】
図7に示す本発明複合材料の樹脂皮膜2が設けられていない箇所には、さらに銅材などのヒートシンクを設けて、放熱性を著しく高めることも可能である。特に、図7に示す複合材料では、はんだ付けにより容易にヒートシンクを接合できる。
【0051】
図8は、本発明複合材料の第6の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1上の少なくとも絶縁を要する1箇所に樹脂皮膜2が設けられており、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材上にNi層5が設けられている。樹脂皮膜2は、界面領域3を含んでおり、樹脂皮膜2とNi層5の界面付近では、樹脂皮膜側から順に、界面領域3および酸化皮膜4が形成されている。
【0052】
図9は、本発明複合材料の第7の実施態様を示す拡大断面図である。
金属基材1表面のうち一方の面の少なくとも絶縁を要する1箇所と他方の面の全面に樹脂皮膜が設けられている。なお、前記他方の面には、図示されるように全面に樹脂皮膜が設けられている必要はかならずしもなく、少なくとも一部に樹脂皮膜が設けられるものであってもよい。樹脂皮膜2は、界面領域3を含んでおり、樹脂皮膜2と金属基材1の界面付近では、樹脂皮膜側から順に、界面領域3および酸化皮膜4が形成されている。
【0053】
図10は、本発明複合材料の第8の実施態様を示す平面図である。
金属基材1上の絶縁を要する箇所に樹脂皮膜(高密度層)2がストライプ状に設けられている。樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にNi層、あるいはNi層およびSn層をこの順に設けてもよい。また金属基材1上に設けられたNi層上の絶縁を要する箇所に樹脂皮膜2を設け、樹脂皮膜2が設けられている箇所以外の金属基材1上にSn層をこの順に設けてもよい。樹脂皮膜2と金属基材1の界面には界面領域と酸化皮膜が存在する。
【0054】
図11は、本発明複合材料の第9の実施態様を示す平面図である。
金属基材1上の絶縁を要する箇所に樹脂皮膜2がスポット状に設けられている。その他は上記第8の実施態様と同様である。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明する。
[実施例1]
JIS合金C5210R(りん青銅、古河電気工業(株)製)の厚み0.1mm、幅20mm(No.1〜4,10〜12)、C7701R(洋白、三菱電機メテックス(株)製)の厚み0.1mm、幅20mm(No.5〜8)、および、SUS304CPS(ステンレス、日新製鋼(株)製)の厚み0.1mm、幅20mm(No.9)の条を金属基材とした。前記条に電解脱脂、酸洗処理、水洗、乾燥の各工程をこの順に施した。
【0056】
またNo.10〜12については、市販または公知の電気めっき浴を用いて電気めっきをし、金属基材1上に表1に示す金属からなる金属層(下地めっき層)を形成した。めっき厚さは0.5μm±0.1μmになるようにした。
【0057】
次に、N−メチル2−ピロリドンを溶媒とするポリアミドイミド(PAI)溶液のワニス(固形分約30%)を金属基材の幅方向中央部分に焼き付け後に厚み10μm(±1μm)となるような塗布厚さで、Kコントロールコーター(RK Print Coat Instruments Ltd. UK 製)にて塗装し、次いで昇温速度を20〜75℃/秒の範囲で種々に変化させて加熱処理を施し、溶媒乾燥とともに硬化させて、図3(No.1〜9)または図8(No.10〜12、但し、No.11〜12については、Ni層5に代えて、それぞれAu層、Ag層となる)に示すような態様で、界面領域の厚さが表1に示す厚さとなるように複合材料を作製した。なお、各サンプルの樹脂の焼付における昇温速度は、表1に示す速度に調整した。
【0058】
得られたサンプルの界面領域の厚さは、ミクロトーム(Reichert SUPERNOVA)を使用し、スミナイフ(刃先角度45度)にて厚さ30nmにサンプルを切り出し、透過電子顕微鏡(JEM−3010、日本電子(株)製、加速電圧300kV)にて、金属/樹脂の界面を観察し、得られた電子顕微鏡写真から界面領域の厚さをサンプル毎に3点計測し、その平均をとった。
ここで、ミクロトームでは基材に対して正確に直角に切ることが出来ないので、基材厚さの実測と電子顕微鏡写真上での基材の厚さの計測値から補正値を算出し、電子顕微鏡写真上での界面領域の厚さにそれを掛けたものを、前記界面領域の厚さとした。
【0059】
得られたサンプルについて、JIS K 5000に準じて、以下の種類のクロスカット試験を行った。
(1)As:樹脂焼き付け後なにも処理をせずにクロスカットを施しテープ剥離を行った。
(2)耐酸:クロスカット後10%硫酸(60℃)に30秒浸漬した後にテープ剥離を行った。
(3−1)耐アルカリ:クロスカット後10%水酸化ナトリウム(60℃)に30秒浸漬した後にテープ剥離を行った。
(3−2)耐アルカリ:クロスカット後10%水酸化ナトリウム(60℃)で電解(2.5A/dm2、30秒)を施した後にテープ剥離を行った。
(4)耐洗浄剤:クロスカット後メチレンクロライド(60℃)に浸漬し1分間超音波洗浄を施した後にテープ剥離を行った。
評価は○△×の3段階評価で、○:剥離度合いが0割(全く剥がれない)、△:剥離度合いが1〜4割、×:剥離度合いが5〜10割、とした。結果を表1に示す。
表1に示すとおり、界面領域の厚さが0nmを超えて100nm未満、好ましくは80nm以下ならば耐薬品性が良好である。
【0060】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】金属基材と絶縁皮膜との間に隙間が形成された状態の一例を示す概念図である。
【図2】金属基材と絶縁皮膜との間に隙間が形成された状態の一例を示す概念図である。
【図3】本発明の電気電子部品用複合材料の第1の実施態様を示す拡大断面図である。
【図4】本発明の電気電子部品用複合材料の第2の実施態様を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の電気電子部品用複合材料の第3の実施態様を示す拡大断面図である。
【図6】本発明の電気電子部品用複合材料の第4の実施態様を示す拡大断面図である。
【図7】本発明の電気電子部品用複合材料の第5の実施態様を示す拡大断面図である。
【図8】本発明の電気電子部品用複合材料の第6の実施態様を示す拡大断面図である。
【図9】本発明の電気電子部品用複合材料の第7の実施態様を示す拡大断面図である。
【図10】本発明の電気電子部品用複合材料の第8の実施態様を示す平面図である。
【図11】本発明の電気電子部品用複合材料の第9の実施態様を示す平面図である。
【図12】金属基材と絶縁皮膜との間に隙間が形成された状態の一例を示す概念図である。
【図13】金属基材と絶縁皮膜との間に隙間が形成された状態の一例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0062】
1 金属基材
2 樹脂皮膜
3 (樹脂皮膜の)界面領域
4 酸化皮膜
5 Ni層
6 Sn層
10 電気電子部品
11 金属基材
11a 打ち抜き加工面
12 絶縁皮膜
13 隙間
20 電気電子部品
21 金属基材
22 絶縁皮膜
23,24 隙間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材上の少なくとも一部に樹脂皮膜が形成された電気電子部品用複合材料であって、前記樹脂皮膜は、前記金属基材との界面に存在する界面領域の厚さが0nmを超え100nm未満の範囲となるように制御された高分子樹脂皮膜であることを特徴とする電気電子部品用複合材料。
【請求項2】
前記樹脂皮膜がポリアミドイミドであることを特徴とする請求項1記載の電気電子部品用複合材料。
【請求項3】
前記金属基材が銅または銅基合金、鉄または鉄基合金であることを特徴とする請求項1または2記載の電気電子部品用複合材料。
【請求項4】
前記金属基材上に金属層がn層(nは1以上の整数)設けられ、かつ前記樹脂皮膜が前記金属基材上に、直接、または前記金属層の少なくとも1層を介して設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気電子部品複合材料を用いてなることを特徴とする電気電子部品。
【請求項1】
金属基材上の少なくとも一部に樹脂皮膜が形成された電気電子部品用複合材料であって、前記樹脂皮膜は、前記金属基材との界面に存在する界面領域の厚さが0nmを超え100nm未満の範囲となるように制御された高分子樹脂皮膜であることを特徴とする電気電子部品用複合材料。
【請求項2】
前記樹脂皮膜がポリアミドイミドであることを特徴とする請求項1記載の電気電子部品用複合材料。
【請求項3】
前記金属基材が銅または銅基合金、鉄または鉄基合金であることを特徴とする請求項1または2記載の電気電子部品用複合材料。
【請求項4】
前記金属基材上に金属層がn層(nは1以上の整数)設けられ、かつ前記樹脂皮膜が前記金属基材上に、直接、または前記金属層の少なくとも1層を介して設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気電子部品用複合材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気電子部品複合材料を用いてなることを特徴とする電気電子部品。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【公開番号】特開2010−42572(P2010−42572A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207357(P2008−207357)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
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