説明

電池の冷却システムおよび冷却方法

【課題】外部電源による電池充電時の消費電力を節約する冷却システムを提供する。
【解決手段】本実施形態では、冷却システム1が、バッテリ使用上限温度から、想定されるいかなる走行状態においてバッテリの残容量をすべて使い切ったときのバッテリ温度上昇分を減算することによって、本実施形態における目標温度を算出する。その結果、本実施形態における目標温度は、SOCが大きくなるに従って、低くなる特性となる。それに対して、従来技術における目標温度は、SOCに対して一定に設定されていた。したがって、本実施形態における目標温度と、従来技術における目標温度との差分が、削減可能な消費電力となる。すなわち、本実施形態における冷却システム1は、外部電源による電池充電時の消費電力を節約することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両(EV(Electric Vehicle)、PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)等)に搭載される電池を冷却するときの電池冷却制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電気自動車に搭載されるバッテリ(電池)に対して、そのバッテリの温度が所定値以下となった場合に、そのバッテリを冷却するための外気冷却風の送風を停止し、消費電力を節約する冷却装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−130268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
つまり、特許文献1に記載の従来技術は、バッテリのSOC(State of Charge)の大きさとは無関係に、一律に、冷却を停止する目標温度を設定している。しかしながら、バッテリの高温劣化を抑止するために、バッテリ使用上限温度を守るという観点から見ると、SOCの大きさ(バッテリの残容量の大きさ)に依存して、その後に走行できる時間が変わってくる(言い換えると、バッテリの発熱量が変わってくる)ことになるので、必要以上に冷却している虞がある。外部電源によってバッテリを充電するときには、必要以上に冷却することによって、冷却のために電力を無駄に消費している虞がある。
【0005】
そこで、本発明では、外部電源による電池充電時の消費電力を節約する冷却システムおよび冷却方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明における電池の冷却システムは、電池の温度を測定する温度測定手段、前記電池の残容量を測定する残容量測定手段、および前記電池を冷却する冷却手段を備える電池の冷却システムであって、前記残容量測定手段によって測定された前記電池の残容量を取得して、前記残容量が大きくなるに従って低くなる特性を有する目標温度特性を参照して、取得した前記残容量に対応する目標温度を算出する目標温度算出手段をさらに備え、前記冷却手段を用いて、前記電池の充電時に、前記目標温度算出手段によって算出された当該目標温度を超えないように前記電池の温度を制御することを特徴とする。
【0007】
かかる構成によれば、電池の冷却システムが、目標温度算出手段において、残容量が大きくなるに従って低くなる特性を有する目標温度特性を参照して、取得した残容量に対応する目標温度を算出する。そのため、SOCの大きさとは無関係に一律に目標温度を設定していた従来技術と比較して、冷却手段の動作を必要最小限にすることができる。つまり、消費電力を節約することができる。
【0008】
また、前記電池の冷却システムは、前記電池の内部抵抗値を測定する内部抵抗測定手段をさらに備え、前記目標温度算出手段が、前記残容量測定手段によって測定された前記電池の残容量および前記内部抵抗測定手段によって測定された前記電池の内部抵抗値を取得して、前記残容量および前記内部抵抗値の双方が大きくなるに従って低くなる特性を有する目標温度特性を参照して、取得した前記残容量および前記内部抵抗値に対応する目標温度を算出することを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、電池の冷却システムは、目標温度算出手段において、バッテリの残容量および内部抵抗値の双方が大きくなるに従って低くなる特性を有する目標温度特性を参照して、取得した残容量および内部抵抗値に対応する目標温度を算出する。そのため、バッテリ劣化時の目標温度を、内部抵抗値の増加に応じて低く設定することができる。このように、電池の冷却システムは、バッテリの状態に応じて、こまめに目標温度を設定可能なため、消費電力を節約することを可能とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外部電源による電池充電時の消費電力を節約する冷却システムおよび冷却方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態におけるSOCと目標温度との関係を示す図である。
【図2】バッテリの劣化を考慮した場合のSOCと目標温度との関係を示す図であり、(a)はバッテリ初期時の関係を表し、(b)はバッテリ劣化時の関係を表す。
【図3】目標温度を算出する手段の一例を示す図である。
【図4】本実施形態における冷却システムのブロック構成の一例を示す図である。
【図5】本実施形態における充電中のファン制御手段の処理フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、発明を実施するための形態(以降、「実施形態」と称す)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
(概要)
本実施形態における、SOCと目標温度との関係の概要について、図1を用いて説明する。図1は、横軸にSOCを表し、縦軸にバッテリ温度を表している。
【0014】
図1に示すように、従来技術における目標温度(バッテリを冷却する温度)は、SOCに対して一定に設定されていた。
【0015】
しかし、想定されるいかなる走行状態においても、バッテリの残容量をすべて使い切る前に、バッテリ温度がバッテリ使用上限温度に到達しなければ良い。つまり、走行の開始時のSOCが小さい場合には、走行中にバッテリから放出される電力が少ないことからバッテリ温度の上昇分は小さく、逆に、走行の開始時のSOCが大きい場合は、走行中にバッテリから放出される電力が多くなることからバッテリ温度の上昇分が大きくなるということを考慮する。
即ち、走行開始時のSOCの多少により、想定されるバッテリの発熱量(到達温度)が異なることになる。具体的には、SOCが100%となるような充電をされた場合、この充電された電力を直ぐに消費するとすればバッテリの発熱量は大きく(到達温度は高く)なるので、この発熱量を見越して、走行前(充電完了時)に予めバッテリを冷却しておくことが好ましい。一方、SOCが20%となるような充電しかされない場合、この充電された電力を直ぐに消費するとしてもバッテリの発熱量はそう大きくはならないので、SOCが100%になるまで充電した場合と同程度の温度にまで、走行前(充電完了時)に予めバッテリを冷却しておくことは、冷却のエネルギーの無駄である。
【0016】
そこで、本実施形態における目標温度は、図1に示すように、バッテリ使用上限温度からバッテリの残容量に対応するバッテリ温度上昇分を減算することによって算出することができる。その結果、本実施形態における目標温度は、充電することによって、SOCが大きくなるに従って、低くなる特性となる。つまり、バッテリが目標温度より高い場合には、充電後の走行のために、予めSOCの大きさに対応する目標温度(発熱を見越した目標温度)にまで冷やされることになる。よって、一律にバッテリを冷却する場合に比較して、SOCの大きさに対応する目標温度までバッテリを冷やす方が、冷却のエネルギーが節約される。なお、図1では、本実施形態における目標温度の特性を、便宜的に直線で表現しているが、バッテリの種類(リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、鉛蓄電池等)の特性に応じて、曲線等で表現しても構わない。
【0017】
また、図1に示すドットを付した領域101は、本実施形態における目標温度と従来技術における目標温度との差を表しており、消費電力を節約することが可能な領域(消費電力削減可能領域)である。すなわち、SOCが同じ場合、本実施形態における目標温度と従来技術における目標温度との差は、従来技術においてバッテリ温度を余計に下げすぎていたことを表している。
【0018】
次に、バッテリが劣化した場合の本実施形態における目標温度について、図2を用いて説明する。
【0019】
図2(a)には、バッテリ初期時、すなわち、バッテリが新品の状態の時の初期時の目標温度の特性(実線)を表している。しかし、バッテリが劣化すると、バッテリの内部抵抗値が増加するため、発熱量が増加する。そこで、図2(b)に示すように、劣化時の目標温度は、初期時の目標温度より低い値を有する劣化時の目標温度(一点鎖線)に設定することが好ましい。
【0020】
(目標温度算出手段)
次に、前記した初期時の目標温度および劣化時の目標温度を算出する目標温度算出手段について、図3を用いて説明する。
【0021】
図3に示すように、目標温度算出手段301は、SOCおよび内部抵抗値を入力とし、目標温度を算出する。目標温度算出手段301は、初期時の目標温度(図1から明らかなように、SOCとバッテリ温度上昇分、およびバッテリ使用上限温度とから算出される)を予め図示しない記憶部に記憶している。また、目標温度算出手段301は、バッテリの内部抵抗値と内部抵抗増加係数との関係を予め図示しない記憶部に記憶している。なお、内部抵抗増加係数は、劣化時の目標温度を初期時の目標温度より低い値に設定するために用いられる。すなわち、内部抵抗増加係数は、バッテリの内部抵抗値が大きくなるに従って、小さくなるような特性を有する。
【0022】
そして、目標温度算出手段301は、取得したSOCに対応する初期時の目標温度(請求項に記載の目標温度)を前記記憶部から取得し、取得した内部抵抗値に対応する内部抵抗増加係数を前記記憶部から取得する。次に、目標温度算出手段301は、当該初期時の目標温度と当該内部抵抗増加係数とを乗算して、劣化時の目標温度(請求項に記載の目標温度)を算出する。ただし、バッテリが新品のときには、内部抵抗増加係数は1に設定される。
【0023】
(冷却システム)
次に、前記した目標温度算出手段301を含む冷却システムのブロック構成の一例について、図4を用いて説明する。
【0024】
図4に示すように、冷却システム1は、走行中と充電中とでファンの制御の仕方が異なることから、走行中のファン制御手段401、充電中のファン制御手段402、および最終Duty算出手段403を備える。
【0025】
走行中のファン制御手段401は、入力として、車速、バッテリ温度、吸気温度、冷却能力、発熱量、冷却目標温度、およびファン回転速度を入力として、走行中にバッテリを冷却するための要求Duty[%]を算出する。なお、この要求Duty[%]の算出には、公知の技術を用いることが可能である。また、冷却目標温度は、目標温度算出手段301によって算出された目標温度と同じであっても構わない。
【0026】
充電中のファン制御手段402は、前記した目標温度算出手段301によって算出される目標温度、吸気温度、およびバッテリ温度を用いて、充電中にバッテリを冷却するための要求Duty[%]を算出する。ここで、充電中とは、車両が停止(例えば、イグニッションスイッチがOFF)しているときに実行されることを意味し、走行中の回生充電とは異なる。なお、この要求Duty[%]の算出には、公知の技術を用いることが可能である。例えば、要求Duty[%]は、バッテリ温度が高いほど大きく、吸気温度が高いほど大きくなる。ただし、吸気温度が所定の温度より高い場合(冷却風がバッテリの冷却にほとんど効果をもたらさない場合)には、要求Duty[%]は0とする。また、バッテリ温度は、図示しない温度測定手段によって測定される。また、目標温度算出手段301へ入力されるSOCは、図示しないSOC測定手段(請求項に記載の残容量測定手段)によって測定される。また、目標温度算出手段301へ入力される内部抵抗値は、図示しない内部抵抗測定手段によって測定される。
【0027】
最終Duty算出手段403は、走行中のファン制御手段401および充電中のファン制御手段402によって算出されたそれぞれの要求Duty[%]を統合して、最終的に、バッテリを冷却するための最終Duty[%]を算出する。なお、この最終Duty[%]の算出には、公知の技術を用いることが可能である。そして、冷却システム1は、算出した最終Duty[%]に基づいて、バッテリを冷却する図示しない冷却手段を制御して、バッテリが本実施形態における目標温度よりも高くならないようにする。なお、最終Duty[%]の値が大きいほど、ファンは高速(高トルク)で回転する。
【0028】
(充電中のファン制御手段の処理フロー)
次に、充電中のファン制御手段402の処理フローについて、図5を用いて説明する。
ステップS501では、充電中のファン制御手段402は、充電中か否かを判定する。
充電中でない場合(ステップS501でNo)、処理は、ステップS501へ戻る。
充電中の場合(ステップS501でYes)、ステップS502では、充電中のファン制御手段402の目標温度算出手段301は、SOCおよびバッテリの内部抵抗値を取得する。
【0029】
ステップS503では、目標温度算出手段301は、目標温度を算出する。
ステップS504では、充電中のファン制御手段402は、目標温度がバッテリ温度より低いか否かを判定する。
【0030】
バッテリ温度が目標温度以下場合(ステップS504でYes)、ステップS505では、充電中のファン制御手段402は、冷却を実行しない。すなわち、充電中のファン制御手段402は、要求Duty[%]=0とする。そして、処理は、ステップS501へ戻る。
【0031】
バッテリ温度が目標温度を超える場合(ステップS504でNo)、ステップS506では、充電中のファン制御手段402は冷却を実行する。すなわち、充電中のファン制御手段402は、要求Duty[%]を算出する。そして、処理は、ステップS501へ戻る。
【0032】
以上、本実施形態では、冷却システム1が、図1に示すように、バッテリ使用上限温度から、想定されるいかなる走行状態においてバッテリの残容量をすべて使い切ったときのバッテリ温度上昇分を減算することによって、本実施形態における目標温度を算出する。その結果、本実施形態における目標温度は、SOC(バッテリの残容量)が大きくなるに従って、低くなる特性となる。それに対して、従来技術における目標温度は、SOCに対して一定に設定されていた。したがって、本実施形態における目標温度と、従来技術における目標温度との差分が、削減可能な消費電力となる。すなわち、本実施形態における冷却システム1は、外部電源による電池充電時の消費電力を節約することができる。
【0033】
また、バッテリが劣化した場合には、内部抵抗値の増加にともなって発熱量が増加するので、その分バッテリ温度上昇分を多く見積もることが好ましい。そのため、本実施形態における冷却システム1は、バッテリ劣化時の目標温度を、内部抵抗値の増加に応じて、低く設定する。このように、本実施形態における冷却システム1は、バッテリの状態に応じて、こまめに目標温度を設定可能なため、外部電源による電池充電時の消費電力を節約することを可能とする。
【符号の説明】
【0034】
1 冷却システム
101 消費電力削減可能領域
301 目標温度算出手段
401 走行中のファン制御手段
402 充電中のファン制御手段
403 最終Duty算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池の温度を測定する温度測定手段、前記電池の残容量を測定する残容量測定手段、および前記電池を冷却する冷却手段を備える電池の冷却システムであって、
前記残容量測定手段によって測定された前記電池の残容量を取得して、前記残容量が大きくなるに従って低くなる特性を有する目標温度特性を参照して、取得した前記残容量に対応する目標温度を算出する目標温度算出手段をさらに備え、
前記冷却手段を用いて、前記電池の充電時に、前記目標温度算出手段によって算出された当該目標温度を超えないように前記電池の温度を制御する
ことを特徴とする電池の冷却システム。
【請求項2】
前記電池の内部抵抗値を測定する内部抵抗測定手段をさらに備え、
前記目標温度算出手段は、前記残容量測定手段によって測定された前記電池の残容量および前記内部抵抗測定手段によって測定された前記電池の内部抵抗値を取得して、前記残容量および前記内部抵抗値の双方が大きくなるに従って低くなる特性を有する目標温度特性を参照して、取得した前記残容量および前記内部抵抗値に対応する目標温度を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の電池の冷却システム。
【請求項3】
電池の温度を測定する温度測定手段、前記電池の残容量を測定する残容量測定手段、および前記電池を冷却する冷却手段を備える冷却システムにおいて用いられる冷却方法であって、
前記冷却システムは、
前記残容量測定手段によって測定された前記電池の残容量を取得して、前記残容量が大きくなるに従って低くなる特性を有する目標温度特性を参照して、取得した前記残容量に対応する目標温度を算出する目標温度算出ステップを実行し、
前記冷却手段を用いて、前記電池の充電時に、前記目標温度算出ステップによって算出された当該目標温度を超えないように前記電池の温度を制御する
ことを特徴とする冷却方法。
【請求項4】
前記冷却システムは、
前記電池の内部抵抗値を測定する内部抵抗測定手段をさらに備え、
前記目標温度算出ステップでは、前記残容量測定手段によって測定された前記電池の残容量および前記内部抵抗測定手段によって測定された前記電池の内部抵抗値を取得して、前記残容量および前記内部抵抗値の双方が大きくなるに従って低くなる特性を有する目標温度特性を参照して、その取得した前記残容量および前記内部抵抗値に対応する目標温度を算出する
ことを特徴とする請求項3に記載の冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−104458(P2012−104458A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254408(P2010−254408)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】