説明

電池の製造方法

【目的】 電池に短絡を起こさせ得る金属不純物粒子の電極基板や正極電極板への存否を製造過程で検査できる電池の製造方法、及び、電極基板の製造方法を提供すること。
【構成】 アルカリ蓄電池100は、長尺状の電極基板150から形成された所定形状の正極電極板121を有する。その製造方法は、電極基板150にX線を照射して透過像を取得し、その透過像に基づいて、正極電位で溶解し負極電位で析出する金属からなる金属不純物粒子が、電極基板150に存在しているか否かを検知する不純物検知工程を備える。また、金属不純物粒子の存在が確認された場合に、粒子存在部分を示すマーキングを電極基板150に施すマーキング工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極基板から形成された所定形状の電極板を有する電池の製造方法、及び、このような電池に利用される電極基板の製造方法に関し、特に、不純物粒子の存否を検知する不純物検知工程を備える電池の製造方法、及び、不純物粒子の存否を検知する不純物検知工程を備える電極基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電池の信頼性を高めるために、完成された電池や電池を製造していく過程において、電池や電池部品が良品か否かを調べる検査を行うことが知られている。
例えば、電池あるいは製造途中の電池部品を溶解して、電池に不具合を生じさせ得る不純物の混入がないかどうかを調べる破壊的な不純物検査試験がある。
また、電池を加速評価できる環境にして、その電池性能を評価する信頼性評価試験がある。例えば特許文献1(特許請求の範囲等参照)や特許文献2(特許請求の範囲等参照)にこの類の試験方法が開示されている。
また、製造途中の電池部品について、X線を利用して、割れや欠けの存在、電極群における正極と負極の位置ずれなど、形状や形態の不良を検査する方法も知られている。例えば特許文献3(特許請求の範囲等参照)や特許文献4(特許請求の範囲等参照)にこの類の検査方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−6012号公報
【特許文献2】特開2003−77527号公報
【特許文献3】特開平8−50900号公報
【特許文献4】特開2004−22206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、破壊的な不純物検査試験は、サンプルを溶解させる(破壊する)必要があるため、抜き取り検査しか行えず、製造された電池すべてに対して良品であることを保証できない。
また、加速環境においての評価試験は、たとえ製造過程の電池部品に不良品が存在していても、電池を構成した後でなければ評価できないため、生産コストが高くなるおそれがある。
【0005】
また、従来のX線を利用した検査方法は、基本的に電池部品の形状や形態の不良しか判別できないため、例えば部品内部に不純物が含まれている場合などには、それを不良品として排除できないという問題がある。特に、正極電位で溶解し負極電位で析出する金属からなる金属不純物粒子が電極基板や正極電極板に混入していたり、付着している場合には、組み立てた電池において充電や放電を繰り返すうちに、正極電極板から金属不純物粒子が溶解して負極電極板で析出・成長し、正極電極板と負極電極板との間で微小短絡を引き起こすおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、電池に短絡を起こさせ得る金属不純物粒子の電極基板または正極電極板への存否を製造過程で検査できる電池の製造方法、及び、電極基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
その解決手段は、電極基板から形成された所定形状の正極電極板を有する電池の製造方法であって、被検物である前記電極基板または前記正極電極板にX線を照射して透過像を取得し、その透過像に基づいて、正極電位で溶解し負極電位で析出する金属からなる金属不純物粒子が、前記被検物に存在するか否かを検知する不純物検知工程を備える電池の製造方法である。
【0008】
前述したように、正極電位で溶解し負極電位で析出する金属からなる金属不純物粒子が電極基板や正極電極板に存在している場合には、製造された電池において、正極電極板と負極電極板との間で短絡を起こすおそれがある。特に、電極基板等の表面に金属不純物粒子が露出している場合には、その金属不純物粒子に起因して短絡が生じるおそれがある。更に、電極基板の内部に金属不純物粒子が埋もれた状態でも、電極基板を圧縮ロールで圧縮したり、電極基板を切断したときにその金属不純物粒子が電極基板表面に露出した場合には、同様に短絡が生じるおそれがある。
これに対し、本発明の製造方法では、電極基板または正極電極板にX線を照射して透過像を取得し、その透過像に基づいて、金属不純物粒子の電極基板または正極電極板への存否を検知する不純物検知工程を備える。このような工程を加えることにより、電極基板や正極電極板の表面や内部にある金属不純物粒子の存在を確認できるため、不良部品を容易に排除でき、短絡が生じにくい信頼性の高い電池を製造できる。また、この工程は、電池の製造過程において行うため、電池を構成する前の段階で不良部品を排除でき、生産コストの低減にも寄与できる。
【0009】
ここで、「電極基板」は、その材質、形態等は特に限定されず、一般的に用いられるものでよい。例えば、アルカリ蓄電池の場合、発泡ニッケルやニッケルメッキ鋼板等が正極芯材として用いられる。また、本明細書においては、電極基板には、芯材のみからなるものの他、芯材に正極活物質層を形成した状態のもの含まれるものとする。
「正極電極板」は、正極活物質を担持した電極基板を所定形状に加工したものであれば、その形態や正極活物質の材質等は特に限定されない。
「正極電位で溶解し負極電位で析出する金属」としては、例えばCu、Pb、Ag、Snなどが挙げられる。中でも特にCuは負極電極板で析出すると針状結晶となって正極電極板に向けて成長し、短絡を引き起こしやすいので、Cuからなる金属不純物粒子の存否をより確実に検知することが好ましい。
なお、不純物検知工程における被検物は、上記のように電極基板でも正極電極板でもよいが、正極電極板が所定形状に各々加工されているのに対し、電極基板は一般に帯状(長尺状)をなすため、電極基板を被検物とした方が連続的に不純物検知工程を行うことができるので好適である。
【0010】
更に、上記の電池の製造方法であって、前記不純物検知工程は、粒径が150μm以上の前記金属不純物粒子の存否を検知可能なX線透視検査装置を用いて行う電池の製造方法とすると良い。
【0011】
電極基板や正極電極板に存在する金属不純物粒子の粒径が150μm以上と大きい場合には、製造された電池において、正極電極板と負極電極板との間で短絡を起こす危険性が高くなる。
これに対し、本発明では、粒径が150μm以上の金属不純物粒子の存否を検知可能なX線透視検査装置を用いて不純物検知工程を行う。従って、短絡を起こす危険性の高い電極基板や正極電極板をより確実に排除できる。
なお、本発明においては、X線透視検査装置は、粒径が150μm以上の金属不純物粒子の存否を検知可能であればよいが、ダイナミックレンジが大きいX線イメージインテンシファイアを有するX線透視検査装置を利用するのが好ましい。
【0012】
更に、上記のいずれかに記載の電池の製造方法であって、前記不純物検知工程は、カラーX線イメージインテンシファイアを有するX線透視検査装置を用いて、前記透過像をカラー画像として表示し、前記金属不純物粒子の存否を検知する電池の製造方法とすると良い。
【0013】
モノクロのイメージインテンシファイアを有するX線透視検査装置では、その透過像が白から黒の濃淡として1本の特性曲線しか持たない。
これに対し、本発明では、カラーX線イメージインテンシファイアを有するX線透視検査装置を用いている。これは、3原色のR(赤色成分)、G(緑色成分)、B(青色成分)それぞれの濃淡として3本の特性曲線を持たせることができるため、R、G、B成分毎に異なった特性を持ち、しかも色別に同時に表示できる。このため、モノクロに比べ測定のダイナミックレンジが拡大され、検査精度が向上する。従って、粒径が150μm以上の金属不純物粒子が存在する不良部品をより確実に排除できる。
【0014】
更に、上記のいずれかに記載の電池の製造方法であって、前記不純物検知工程は、前記電極基板を前記被検物とし、前記不純物検知工程において前記電極基板に前記金属不純物粒子の存在が検知された場合に、粒子存在部分を示すマーキングを前記電極基板に施すマーキング工程を備える電池の製造方法とすると良い。
【0015】
不純物検知工程における被検物が正極電極板である場合には、不良品が見つかったら検知後直ぐにそれを排除すればよい。しかし、被検物が電極基板の場合には、生産ラインの都合上、不純物検知工程の直後に不良部分を排除することが困難である場合も多い。
これに対し、本発明では、電極基板に金属不純物粒子の存在が検知された場合に、この粒子存在部分(不良部分)を示すマーキングを電極基板に施すマーキング工程を備える。このようなマーキングを行えば、後の工程においても、電極基板の何処が粒子存在部分であるかを容易に判別できるので、生産上最も都合の良い工程で粒子存在部分を排除できるようになる。
なお、「マーキング」は、後の工程で電極基板の何処に粒子存在部分があるかを判別できれば、その方法は特に限定されない。例えば、粒子存在部分の近傍にパンチングにより穴を開けてマーキングをしたり、粒子存在部分の近傍にインク等で色を付けてマーキングしてもよい。
【0016】
上記のいずれかに記載の電池の製造方法であって、前記不純物検知工程は、前記被検物を複数枚重ねて、複数枚同時に前記金属不純物粒子の存否を検知する電池の製造方法とすると良い。
【0017】
一般的に、X線により金属不純物粒子の存否を確認するには、他の加工工程に比べると多くの時間を必要とするため、不純物検知工程の時間短縮が望まれる。
これに対し、本発明では、電極基板や正極電極板を複数枚重ねて、複数枚同時に金属不純物粒子の存否を検知する。本発明の不純物検知工程では、X線の透過像を取得して金属不純物粒子の存否を確認をするため、このように複数枚重ねて検査することもできる。そして、このように複数枚を同時に検査すれば、その分だけ不純物検知工程を短時間で完了できるので、生産性を向上させることができる。
なお、重ねて同時に検査する枚数は、電極基板、正極電極板の厚みや、金属不純物粒子の検知能力などを考慮して適宜変更すればよいが、2枚〜5枚程度が好ましい。
【0018】
更に、上記の電池の製造方法であって、前記不純物検知工程は、前記電極基板を前記被検物として、これを複数枚重ねて行い、前記不純物検知工程において複数枚重ねた前記電極基板のいずれかに前記金属不純物粒子の存在が検知された場合に、粒子存在部分を示すマーキングを、複数枚重ねた前記電極基板の少なくともいずれかに施すマーキング工程と、複数枚重ねた前記電極基板のうち、いずれの電極基板に前記金属不純物粒子が存在しているのかを確認することなく、前記マーキングに基づき、複数枚の前記電極基板すべてについて該当部分を排除する排除工程と、を備える電池の製造方法とすると良い。
【0019】
複数枚の電極基板を重ねて同時に検査する場合、本発明の不純物検知工程では、このうちのどの電極基板に金属不純物粒子が存在するのかまでは判別できない。このような場合、更に一枚毎に該当部分を検査して金属不純物粒子が存在する電極基板を確かめる方法が考えられる。しかし、更に一枚ずつ再検査をすることは、相当な時間を要するため、生産効率を考えると好ましくない。
これに対し、本発明では、同時に検査した複数枚の電極基板のうち、いずれの電極基板に金属不純物粒子が存在するのかを確認することなく、マーキングに基づいて、複数枚の電極基板すべてについて該当部分を排除する排除工程を備える。従って、複数枚同時に検査していずれかの電極基板に金属不純物粒子が見つかったときは、該当部分、つまり、この粒子存在部分とこの部分と重なり合う他の電極基板の部分とを、すべて排除する。というのも、現在製造される電極基板では、電池を構成したときに短絡を生じる金属不純物粒子の存在割合はそれほど多くなく、不純物検知工程で検知される金属不純物粒子は少ない。一方、更に一枚ずつ該当部分を再検査してどの電極基板に金属不純物粒子が存在するのかを検査するのは、生産コストが掛かる。むしろ、本発明のように、同時検査した複数枚のうち、どの電極基板に金属不純物粒子が存在するのかを確認することなく、複数枚の電極基板の該当部分をすべて排除する方が、全体としての生産コストを低減できるようになる。
【0020】
また、他の解決手段は、電池の正極電極板に利用される電極基板の製造方法であって、電極基板にX線を照射して透過像を取得し、その透過像に基づいて、前記電池を構成したときに正極電位で溶解し負極電位で析出する金属からなる金属不純物粒子が、前記電極基板に存在するか否かを検知する不純物検知工程を備える電極基板の製造方法である。
【0021】
本発明によれば、電極基板にX線を照射して透過像を取得し、その透過像に基づいて、金属不純物粒子の存否を検知する不純物検知工程を備える。このような工程を加えることにより、電極基板の表面や内部にある金属不純物粒子の存否を確認できるため、不良品を容易に排除できる。従って、この電極基板を利用すれば、短絡が生じにくい信頼性の高い電池を製造できる。また、電池製造後に金属不純粒子の存否を検査する必要がなくなり、電池の生産性を向上させることができる。
【0022】
更に、上記の電極基板の製造方法であって、前記不純物検知工程は、粒径が150μm以上の前記金属不純物粒子の存否を検知可能なX線透視検査装置を用いて行う電極基板の製造方法とすると良い。
【0023】
本発明によれば、粒径が150μm以上の金属不純物粒子の存否を検知可能なX線透視検査装置を用いて不純物検知工程を行う。従って、電池を製造したときに短絡を起こす危険性の高い電極基板をより確実に排除できる。
【0024】
更に、上記のいずれかに記載の電極基板の製造方法であって、前記不純物検知工程は、カラーX線イメージインテンシファイアを有するX線透視検査装置を用いて、前記透過像をカラー画像として表示し、前記金属不純物粒子の存否を検知する電極基板の製造方法とすると良い。
【0025】
本発明によれば、カラーX線イメージインテンシファイアを有するX線透視検査装置を用いて、その透過像をカラー画像として表示する。このため、モノクロに比べ測定のダイナミックレンジが拡大され、検査精度が向上する。従って、粒径が150μm以上の金属不純物粒子が存在する不良部品をより確実に排除できる。
【0026】
更に、上記のいずれかに記載の電極基板の製造方法であって、前記不純物検知工程は、前記電極基板を複数枚重ねて、複数枚同時に前記金属不純物粒子の存否を検知する電極基板の製造方法とすると良い。
【0027】
本発明によれば、電極基板を複数枚重ねて、複数枚同時に金属不純物粒子の存否を検知する。このように複数枚を同時に検査すれば、その分だけ不純物検知工程を短時間で完了できるので、生産性を向上させることができる。
【0028】
更に、上記のいずれかに記載の電極基板の製造方法であって、前記不純物検知工程において前記電極基板に前記金属不純物粒子の存在が検知された場合に、粒子存在部分を示すマーキングを前記電極基板に施すマーキング工程を備える電極基板の製造方法とすると良い。
【0029】
本発明によれば、電極基板に金属不純物粒子の存在が検知された場合に、この粒子存在部分を示すマーキングを電極基板に施すマーキング工程を備える。このようなマーキングを行えば、後に電池を製造する際に、電極基板の何処が粒子存在部分(不良部分)であるかを容易に判別できるので、電池の生産工程のうち最も都合の良い工程で粒子存在部分を排除できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。図1に本実施形態に係るアルカリ蓄電池100について示す。このアルカリ蓄電池100は、電気自動車やハイブリッドカーの電源として用いられるニッケル水素蓄電池であり、略直方体形状の角型電池である。
アルカリ蓄電池100は、略直方体形状をなす電池容器110、電池容器110の内部に収容された複数の発電要素120、電池容器110に固設された外部正極端子115及び外部負極端子117等から構成され、容器内部には電解液が注入されている。
【0031】
電池容器110は、平面視略長方形状の容器上面部110a(図1中、上方)と、これに略平行な容器下面部110b(図1中、図示されない下方)と、容器上面部110aの短辺と容器下面部110bの短辺とを結ぶ第1容器側面部110c(図1中、左前方)及び第2容器側面部110d(図1中、右後方)と、容器上面部110aの長辺と容器下面部110bの長辺とを結ぶ第3容器側面部110e(図1中、前方)及び第4容器側面部110f(図1中、図示されない後方)とを有する。また、電池容器110は、第1,第2容器側面部110c,110dに略平行で、容器内部をほぼ均等に6分割する5つの容器隔壁部110gを有する。
【0032】
容器上面部110aの所定位置には、内圧が異常上昇したときにアルカリ蓄電池100の破損を防止するための安全弁113が固設されている。また、第1容器側面部110cの所定位置には、略円柱状に突出する形状を有し、外部との接続に利用される外部正極端子115が固設されている。また、第2容器側面部110dの所定位置には、略円柱状に突出する形状を有し、外部との接続に利用される外部負極端子117が固設されている。
【0033】
アルカリ蓄電池100は、上記の容器隔壁部110gによって6個のセル119に分割されている。各々のセル119には、発電要素120が収容されている。発電要素120は、複数の正極電極板121と複数の負極電極板123とが多孔質状のセパレータ125を挟んで交互に積層されることにより構成されている。正極電極板121も負極電極板123も、電池容器110内に注入された電解液と接触している。
【0034】
正極電極板121は、発泡Niを芯材とする電極基板に正極活物質層(図示しない)が形成され、所定形状とされたものである。また、負極電極板123は、Niメッキ鋼板を芯材とする電極基板に負極活物質層(図示しない)が形成され、所定形状とされたものである。また、セパレータ125は、スルホン化されたポリプロピレンセパレータからなる。また、電解液は、水酸化カリウムを主な溶質とするアルカリ水溶液からなる。
【0035】
また、各々のセル119内には、導電材(ニッケルメッキ鋼板)からなり、略板状で略長方形状をなす正極集電板130と負極集電板140が固設されている。具体的には、正極集電板130は、容器隔壁部110gと平行に配置され、かつ、セル119内のうち外部正極端子115側(図1中、左前方側)に配置されている。また、負極集電板140は、容器隔壁部110gと平行に配置され、かつ、セル119内のうち、外部負極端子117側(図1中、右後方側)に配置されている。そして、最も外部正極端子115側に位置するセル119(図1中、左前方)の正極集電板130(図示されない)は、第1容器側面部110cを貫通する外部正極端子115と溶接されることで、外部正極端子115と電気的に接続している。また、最も外部負極端子117側に位置するセル119(図1中、右後方)の負極集電板130は、第2容器側面部110dを貫通する外部負極端子117と溶接されることで、外部負極端子117と電気的に接続している。一方、これら以外のセル119に属する正極集電板130と負極集電板140とは、容器隔壁部110gを貫通する接続部材(図示しない)を介して、溶接により電気的に接続されている。
【0036】
このようなアルカリ蓄電池100は次のようにして製造する。図2にアルカリ蓄電池100(電極基板150)の製造工程のうち、不純物検知工程及びマーキング工程について模式的に示す。
まず、発泡Niを芯材とする長尺状の電極基板150を用意する(図2参照)。この状態の電極基板150には、正極電位で溶解し負極電位で析出する金属からなる金属不純物粒子が存在していることがある。金属不純物粒子は、芯材の材料(Ni)に元々含まれていたり、製造過程において芯材に粉塵として付着するものと考えられる。金属不純物粒子、特にCuからなるものが過剰に存在すると、製造された電池において、これが時間の経過と共に正極電極板121で溶解して電解液中を移動し、更に負極電極板123で析出して、電極板間で微小短絡を引き起こす可能性がある。
【0037】
そこで、電極基板150に金属不純物粒子が存在するか否かを検知する不純物検知工程を行う。本実施形態では、電極基板150を被検物として、これにX線を照射して透過像を取得し、その透過像に基づいて、電極基板150に金属不純物粒子が存在するか否かを検知する(図2参照)。具体的には、長尺状の電極基板150を複数(図中では3つ)用意して、それぞれ巻き出し装置160に取り付ける。そして、巻き出し装置160から巻き出された電極基板150を複数枚重ねて複数枚同時に検査する。この不純物検知工程は、他の工程に比して時間を要する。しかし、本実施形態では、電極基板150を複数枚重ねて、複数枚同時に金属不純物粒子の存否を検知するので、その分だけ不純物検知工程を短時間で完了でき、生産性を向上させることができる。
【0038】
この検査は、X線透視検査装置170を用いて行う。本実施形態では、X線透視検査装置170として、東芝製のX線透視検査装置TCXシリーズを使用した。このX線透視検査装置170は、X線源171と、カラーX線イメージインテンシファイア173と、画像処理装置175とを有する。X線源171から放出されたX線は、被検物である電極基板150を材質や厚さに応じて異なった量として透過し、カラーX線イメージインテンシファイア173に入射される。また、カラーX線イメージインテンシファイア173は、入射されたX線を電子ビームに変換し、更にビデオ信号に変換して外部に出力するものである。カラーX線イメージインテンシファイア173は、入力窓173a、集束電極173b、陽極173c、マルチカラーシンチレータ173d等によって構成されている(図3参照)。画像処理装置175は、カラーX線イメージインテンシファイア173からのビデオ信号をカラー画像として表示するものである。
【0039】
図3に模式的に示すように、X線源171は、電極基板150に向けてX線を照射する。図3中に破線Aで示す位置では、図4にグラフで示すようなX線量が測定される。
照射されたX線は、電極基板150を透過する。電極基板150に金属不純物粒子KFが存在する場合には、X線の透過量がNi芯材のみからなる部分と金属不純物粒子KFが存在する部分とで異なる。このため、図3中に破線Bで示す位置では、図5にグラフで示すように、金属不純物粒子KFが存在する部分に対応するピークを有するX線量が測定される。
【0040】
その後、透過したX線は、カラーX線イメージインテンシファイア173の入力窓173aから内部に入射される。カラーX線イメージインテンシファイア173に入射されたX線は、内部で電子ビームに変換される。このため、図3中に破線Cで示す位置では、図6にグラフで示すように、金属不純物粒子KFが存在する部分に対応するピークを有する電子量が測定される。
電子ビームは、陽極173cによって集められ、マルチシンチレータ173dを通過する。このとき、マルチシンチレータ173dによって電子ビームが可視光に変換される。このため、図3中に破線Dで示す位置では、図7にグラフで示すように、金属不純物粒子KFが存在する部分に対応するピークを有する光量が測定される。
その後、この可視光がビデオ信号として出力される。このため、図3中にEで示す部分では、図8にグラフで示すように、金属不純物粒子KFが存在する部分に対応するピークを有するビデオ信号が測定される。
【0041】
次に、カラーX線イメージインテンシファイア173から出力されたビデオ信号が、画像処理装置175で処理され、カラー画像として表示される。これにより、検査者は、金属不純物粒子KFの存否をカラー画像で確認できる。更に、信号強度を数値化することにより、金属不純物粒子KFの存在の有無を判定する。従って、金属不純物粒子KFの存否判断が容易になることから、この不純物検知工程の時間を短縮し、生産性を向上させることもできる。
【0042】
ここで、金属不純物粒子KFの大きさと信号強度との関係について、図9〜図14を参照しつつ説明する。ここでは、金属不純物粒子KFがCuからなる場合について説明する。
図9は、粒径250μm程度の金属不純物粒子KFが被検物である電極基板150に存在していることを示している。この程度の比較的大きい金属不純物粒子KFが存在していると、アルカリ蓄電池100を構成したとき、正極電位で溶解したCuイオンがセパレータ中を拡散し、直近の負極表面上に高濃度状態で到達する。従って、負極電位で容易にCuが析出して短絡を引き起こす可能性がある。しかし、これほど大きい金属不純物粒子KFは、図10にグラフで示すような信号強度で測定される。金属不純物粒子KFが大きいため、Ni雑音幅とCu雑音幅が明確に分かれるので、金属不純物粒子KFが存在していることを容易に判断できる。従って、アルカリ蓄電池100において短絡が生じることを未然に防止できる。
【0043】
図11は、粒径150μm程度の金属不純物粒子KFが被検物である電極基板150に存在していることを示している。この程度の大きさの金属不純物粒子KFが存在していても、正極電位で溶解したCuイオンがセパレータ中を拡散し、直近の負極表面上に高濃度状態で到達する。従って、負極電位で容易にCuが析出して短絡を引く起こす可能性がある。しかし、この大ききの金属不純物粒子KFは、図12にグラフで示すような信号強度で測定される。金属不純物粒子KFが比較的大きいため、Ni雑音幅とCu雑音幅がある程度明確に分かれるので、金属不純物粒子KFが存在していることを容易に判断できる。従って、この場合もアルカリ蓄電池100において短絡が生じることを未然に防止できる。
このように、本実施形態では、粒径が150μm以上の金属不純物粒子KFの存否を検知可能であるから、短絡を起こす危険性の高い電極基板150をより確実に排除できる。
【0044】
図13は、粒径100μm程度の金属不純物粒子KFが被検物である電極基板150に存在していることを示している。この程度の比較的小さい金属不純物粒子KFは、アルカリ蓄電池100を構成したとき、正極電位で溶解したCuイオンがセパレータ中を拡散しても、直近の負極表面上のCuイオン濃度が低濃度であるため、負極電位でCuが析出することは少ない。この結果、短絡を引き起こす可能性は殆どない。なお、金属不純物粒子KFが小さいと、図14にグラフで示すような信号強度で測定される。金属不純物粒子KFが小さすぎるため、Ni雑音幅とCu雑音幅が一部で重なり合い、金属不純物粒子KFの存否を明確に判断できないこともある。
【0045】
以上で説明した不純物検知工程において金属不純物粒子KFの存在が確認された場合には、次のマーキング工程において、その粒子存在部分を示すマーキングを電極基板150に施す(図2参照)。本実施形態では、粒子存在部分の近傍にパンチング装置180によってパンチ穴を空けることで、マーキングを行う。このとき、検査対象の複数枚すべてにパンチ穴を形成する。従って、金属不純物粒子KFが存在していない電極基板150もマーキングされることになる。このようなマーキング工程を行うことで、後の工程においても、マーキングに基づいて電極基板150の該当部分を容易に判別できるので、生産上最も都合の良い工程で該当部分を排除できる。
【0046】
次に、公知の手法により電極基板150に水酸化ニッケルを含む正極活物質層を形成する。例えば、正極活物質に導電剤や結着剤、分散剤など適宜混合した活物質ペーストを用意する。そして、この活物質ペーストを電極基板150に所定量塗布する。その後、加圧ロールを用いて活物質ペーストが塗布された電極基板150をロールプレスすれば、正極活物質層を有する電極基板150ができる。
【0047】
次に、正極活物質層が形成された電極基板150を所定形状に裁断し、正極電極板121を作製する。このとき、正極電極板121の中に上記のマーキング工程でマーキングされたものが存在している場合には、それを不良部品として排除する。なお、マーキング工程において、同時検査した複数枚すべてにマーキング行っているため、マーキングを有する正極電極板121は、金属不純物粒子KFが存在していなくても一緒に排除されることになる。
【0048】
不純物検知工程で金属不純物粒子KFの存在が確認された場合、同時検査した複数枚の電極基板150のどれに金属不純物粒子KFが存在しているのか判断してもよい。しかし、更に一枚毎に再検査をすることは、相当な時間を要するため、生産効率を考えると好ましくない。一方、金属不純物粒子KFの存在割合はそれほど多くない。そこで、本実施形態では、同時検査した複数枚の電極基板150のどの電極基板150に金属不純物粒子KFが存在するのかを確認することなく、正極電極板121を作製した段階で、パンチ穴(マーキング)があるものは、すべて不良部品として排除する。このようにすることで全体としての生産コストを低減できる。
【0049】
一方、公知の手法により、水素吸蔵合金を負極構成材として含む負極電極板123も作製しておく。
そしてその後は、公知の手法により発電要素120を作製し、発電要素120の正極電極板121を正極集電板130に溶接接合すると共に、負極電極板123を負極集電板140に溶接接合する。そして、この接合体を電池容器110に収容し、外部正極端子115と一端に配置された正極集電板130、外部負極端子117と他端に配置された負極集電板140、及び、それ以外の正極集電板130と負極集電板140を、それぞれ溶接接合する。その後、電池容器110内に電解液を注入した後、その注入口を閉鎖するように安全弁113を取り付ければ、上記アルカリ蓄電池100が完成する。
【0050】
以上で説明したように、本実施形態では、電極基板150に対し不純物検知工程を行っている。このため、電極基板150に存在した金属不純物粒子KFを確認でき、不良部品を容易に排除できる。従って、短絡が生じにくい信頼性の高いアルカリ蓄電池100を製造できる。また、この工程は、アルカリ蓄電池100の製造過程において行っているので、アルカリ蓄電池100を構成する前の段階で不良部品を排除でき、生産コストを低減できる。
【0051】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
例えば、上記実施形態では、アルカリ蓄電池として、ニッケル・水素蓄電池を例示したが、例えばニッケル・カドミウム蓄電池など他の電池に本発明を適用してもよい。
また、上記実施形態では、角型電池について例示したが、円筒型電池に本発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施形態に係るアルカリ蓄電池を示す説明図である。
【図2】実施形態に係るアルカリ蓄電池(電極基板)の製造工程のうち、不純物検知工程及びマーキング工程を示す説明図である。
【図3】実施形態に係るアルカリ蓄電池(電極基板)の製造方法に関し、不純物検知工程においてX線源から照射されたX線がカラーX線イメージインテンシファイアに入射され、ビデオ信号として出力されることを示す説明図である。
【図4】実施形態に係るアルカリ蓄電池(電極基板)の製造方法に関し、図3中の破線Aの位置において測定されるX線量について示すグラフである。
【図5】実施形態に係るアルカリ蓄電池(電極基板)の製造方法に関し、図3中の破線Bの位置において測定されるX線量について示すグラフである。
【図6】実施形態に係るアルカリ蓄電池(電極基板)の製造方法に関し、図3中の破線Cの位置において測定される電子量について示すグラフである。
【図7】実施形態に係るアルカリ蓄電池(電極基板)の製造方法に関し、図3中の破線Dの位置において測定される光量について示すグラフである。
【図8】実施形態に係るアルカリ蓄電池(電極基板)の製造方法に関し、図3中の破線Dの位置において測定されるビデオ信号について示すグラフである。
【図9】実施形態に係るアルカリ蓄電池(電極基板)の製造方法に関し、電極基板中に250μm程度のCuの金属不純物粒子が存在していることを示す説明図である。
【図10】実施形態に係るアルカリ蓄電池(電極基板)の製造方法に関し、電極基板中に250μm程度のCuの金属不純物粒子が存在している場合の信号強度について示すグラフである。
【図11】実施形態に係るアルカリ蓄電池(電極基板)の製造方法に関し、電極基板中に150μm程度のCuの金属不純物粒子が存在していることを示す説明図である。
【図12】実施形態に係るアルカリ蓄電池(電極基板)の製造方法に関し、電極基板中に150μm程度のCuの金属不純物粒子が存在している場合の信号強度について示すグラフである。
【図13】実施形態に係るアルカリ蓄電池(電極基板)の製造方法に関し、電極基板中に100μm程度のCuの金属不純物粒子が存在していることを示す説明図である。
【図14】実施形態に係るアルカリ蓄電池(電極基板)の製造方法に関し、電極基板中に100μm程度のCuの金属不純物粒子が存在している場合の信号強度について示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
100 アルカリ蓄電池(電池)
119 セル
121 正極電極板
123 負極電極板
150 電極基板
170 X線透視検査装置
171 X線源
173 カラーX線イメージインテンシファイア
175 画像処理装置
180 パンチング装置
KF 金属不純物粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極基板から形成された所定形状の正極電極板を有する電池の製造方法であって、
被検物である前記電極基板または前記正極電極板にX線を照射して透過像を取得し、その透過像に基づいて、正極電位で溶解し負極電位で析出する金属からなる金属不純物粒子が、前記被検物に存在するか否かを検知する不純物検知工程を備える
電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電池の製造方法であって、
前記不純物検知工程は、粒径が150μm以上の前記金属不純物粒子の存否を検知可能なX線透視検査装置を用いて行う
電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電池の製造方法であって、
前記不純物検知工程は、カラーX線イメージインテンシファイアを有するX線透視検査装置を用いて、前記透過像をカラー画像として表示し、前記金属不純物粒子の存否を検知する
電池の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の電池の製造方法であって、
前記不純物検知工程は、前記電極基板を前記被検物とし、
前記不純物検知工程において、前記電極基板に前記金属不純物粒子の存在が検知された場合に、粒子存在部分を示すマーキングを前記電極基板に施すマーキング工程を備える
電池の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の電池の製造方法であって、
前記不純物検知工程は、前記被検物を複数枚重ねて、複数枚同時に前記金属不純物粒子の存否を検知する
電池の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電池の製造方法であって、
前記不純物検知工程は、前記電極基板を前記被検物として、これを複数枚重ねて行い、
前記不純物検知工程において、複数枚重ねた前記電極基板のいずれかに前記金属不純物粒子の存在が検知された場合に、粒子存在部分を示すマーキングを、複数枚重ねた前記電極基板の少なくともいずれかに施すマーキング工程と、
複数枚重ねた前記電極基板のうち、いずれの電極基板に前記金属不純物粒子が存在しているのかを確認することなく、前記マーキングに基づき、複数枚の前記電極基板すべてについて該当部分を排除する排除工程と、
を備える電池の製造方法。
【請求項7】
電池の正極電極板に利用される電極基板の製造方法であって、
電極基板にX線を照射して透過像を取得し、その透過像に基づいて、前記電池を構成したときに正極電位で溶解し負極電位で析出する金属からなる金属不純物粒子が、前記電極基板に存在するか否かを検知する不純物検知工程を備える
電極基板の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の電極基板の製造方法であって、
前記不純物検知工程は、粒径が150μm以上の前記金属不純物粒子の存否を検知可能なX線透視検査装置を用いて行う
電極基板の製造方法。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の電極基板の製造方法であって、
前記不純物検知工程は、カラーX線イメージインテンシファイアを有するX線透視検査装置を用いて、前記透過像をカラー画像として表示し、前記金属不純物粒子の存否を検知する
電極基板の製造方法。
【請求項10】
請求項7〜請求項9のいずれか一項に記載の電極基板の製造方法であって、
前記不純物検知工程は、前記電極基板を複数枚重ねて、複数枚同時に前記金属不純物粒子の存否を検知する
電極基板の製造方法。
【請求項11】
請求項7〜請求項10のいずれか一項に記載の電極基板の製造方法であって、
前記不純物検知工程において前記電極基板に前記金属不純物粒子の存在が検知された場合に、粒子存在部分を示すマーキングを前記電極基板に施すマーキング工程を備える
電極基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−179424(P2006−179424A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−374171(P2004−374171)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】