説明

電池パック用積層体

【課題】金属層と合成樹脂層をラミネートした電池パック用積層体として、押出ラミネート性、耐金属接触劣化性および表面外観に優れる電池パック用積層体を提供する。
【解決手段】内表面となる内側合成樹脂層7が、(A)連続相を形成するポリプロピレンと、(B)フリーのアミン化合物およびポリフェニレンエーテルに化学結合したアミン化合物をアミノ型全窒素で50ppm以上含有する、分散相を形成するポリフェニレンエーテル樹脂組成物と、(C)混和材とを溶融混練してなるPP/PPE樹脂組成物で構成されており、該PP/PPE樹脂組成物における分散相の平均粒子間距離が10μm以下であり、且つ該内側合成樹脂層樹脂成分と接着層樹脂成分との溶融粘度比〔(接着層樹脂成分のMFR値)/(内側合成樹脂層樹脂成分のMFR値)〕が0.2〜5であることを特徴とする電池パック用積層体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質および電極などをフレキシブルな袋状のケースに収納した電池パックの構成材料に関し、特にリチウムイオン二次電池、ニッケル−水素電池、鉛蓄電池、アルカリ蓄電池などの二次電池の電池パックのケースに適した電池パック用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電池パック用積層体としては、合成樹脂/金属/合成樹脂の三層構造にラミネートしたフレキシブルな積層体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、ポリプロピレンの耐熱性、剛性、耐衝撃性を向上させるために、ポリプロピレンとポリフェニレンエーテルを配合したPP/PPE樹脂組成物について、連続相(マトリクス層)を構成するポリプロピレンが、銅(銅イオン発生化合物も含む)その他の遷移金属(遷移金属イオン発生化合物も含む)と長時間接触することにより、これらの金属(金属イオン)が触媒作用を示すことで劣化してしまうことから、これを改善したPP/PPE樹脂組成物が知られている。また、この遷移金属との接触による劣化性(金属接触劣化性)を改善したPP/PPE樹脂組成物が二次電池の電槽材料として好適に用いることができることも知られている。すなわち、二次電池の電槽材料として好適に用いることができるPP/PPE樹脂組成物として、(a)ポリプロピレン1〜99重量%と、(b)置換アルキルフェノールをモノマー成分として酸化重合して得られるポリフェニレンエーテルが、ポリフェニレンエーテルに化学結合したアミン化合物およびポリフェニレンエーテルに結合しないフリーのアミン化合物からなるアミノ型窒素の全窒素を50ppm以上含有するポリフェニレンエーテル樹脂組成物99〜1重量%、および上記(a)、(b)成分の合計量100重量部に対して(c)混和材1〜100重量部を加熱溶融混練して得られるPP/PPE樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、該発明では押出ラミネート加工性が充分でなく、押出成形された積層体の表面にダイライン、厚みムラ、スエリング(波うち)が発生し、ラミネートの品質を著しく落としてしまうという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平10−208720号公報
【特許文献2】特開平10−110069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電池内部の電極の金属としては、一般に、銅、ニッケル、鉄、鉛、リチウム、チタン、マンガン、ジルコニウムなどの遷移金属が用いられていることから、上記金属接触劣化性を改善した従来のPP/PPE樹脂組成物を、電池パック用積層体の合成樹脂層として用いることで、電池パックの長寿命化を図ることが考えられる。
【0007】
しかしながら、上記金属接触劣化性を改善した従来のPP/PPE樹脂組成物は、剛性を有する箱形電槽の構成材料、つまり射出成形を主眼にしたもので、電池パック用積層体のようなラミネートによって構成される積層体の材料、つまり押出ラミネート材料として用いる場合、押出ラミネート性と耐金属接触劣化性を両立させにくい問題がある。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、金属層と合成樹脂層をラミネートした電池パック用積層体において、合成樹脂層として、連続相を形成するポリプロピレンと、分散相を形成するポリフェニレンエーテル樹脂組成物と、混和材とを溶融混練してなるPP/PPE樹脂組成物を用い、しかも押出ラミネート性と耐金属接触劣化性を両立させることを可能とし、表面外観にも優れる電池パック用積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、
[1] 金属層と合成樹脂層が接着層を介してラミネートされた、袋状の電池パックのケースを構成する電池パック用積層体において、内表面となる内側合成樹脂層が、(A)連続相を形成するポリプロピレン50〜99重量%と、(B)フリーのアミン化合物およびポリフェニレンエーテルに化学結合したアミン化合物をアミノ型全窒素で50ppm以上含有する、分散相を形成するポリフェニレンエーテル樹脂組成物50〜1重量%と、上記(A)成分および(B)成分の合計量100重量部に対して(C)混和材1〜20重量部とを溶融混練してなるPP/PPE樹脂組成物で構成されており、該PP/PPE樹脂組成物における分散相の平均粒子間距離が10μm以下であり、且つ該内側合成樹脂層樹脂成分と接着層樹脂成分との溶融粘度比〔(接着層樹脂成分のMFR値)/(内側合成樹脂層樹脂成分のMFR値)〕が0.2〜5であることを特徴とする電池パック用積層体、
[2] 内側合成樹脂層が接着層を介して金属層の片面に積層されており、該接着層が、カルボン酸、酸無水物基、水酸基、アミノ基、イミド基,グリシジル基,オキサゾニル基、メルカプト基およびシリル基から選ばれるいずれか一種以上の官能基を有する変性ポリプロピレンまたは前記PP/PPE樹脂組成物のポリプロピレンの一部もしくは全部を変性ポリプロピレンで置き換えた変性PP/PPE樹脂組成物で構成されていることを特徴とする[1]に記載の電池パック用積層体、
[3] 金属層の他面に、電池パックの外表面となる外側合成樹脂層が外側接着層を介して積層されていることを特徴とする[1]または[2]に記載の電池パック用積層体、
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載の電池パック用積層体を用いてなる電池パック、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、耐金属接触劣化性および外観に優れる、高品質の電池パック用積層体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、さらに本発明を詳細に説明する。
【0012】
図1は電池パックの一例を示す斜視図、図2は本発明に係る電池パック用積層体の層構成の一例を示す断面模式図である。
【0013】
図1に示されるように、電池パック1は、電解質や電極(図示されていない)をフレキシブルな袋状のケース2内に収容したもので、本例のケース2は、図2に示されるような積層体3を2枚重ね合わせ、四周を融着したものとなっている。なお、図1において、4a,4bは引き出し電極である。
【0014】
本例の積層体3は、金属層5の片面(ケース2の内表面側)に、接着層6(以下、外側接着層と区別するために内側接着層という場合もある。)を介して内表面となる内側合成樹脂層7を押出ラミネートし、金属層5の他面(ケース2の外表面側)に、外側接着層8を介して外表面となる外側合成樹脂層9を押出ラミネートしたものとなっている。
【0015】
金属層5としては、電池の電解質発泡時の耐圧性付与や金属の延展性、熱伝導性、コストの面から、アルミニウム、鉄、ニッケル、チタン、およびこれらの金属を主成分とする合金から選ばれる金属箔もしくは金属板を用いることができる。これらの中でもアルミニウムは、比重が軽く加工性も優れる事から電池パック用途に特に適している。また、金属層5の厚みは、好ましくは1〜500μm、より好ましくは1〜100μm、特に好ましくは1〜50μmである。
【0016】
積層体3の少なくとも内側合成樹脂層7は、(A)連続相を形成するポリプロピレン50〜99重量%と、(B)フリーのアミン化合物およびポリフェニレンエーテルに化学結合したアミン化合物をアミノ型全窒素で50ppm以上含有する、分散相を形成するポリフェニレンエーテル樹脂組成物50〜1重量%と、上記(A)成分および(B)成分の合計量100重量部に対して(C)混和材1〜20重量部とを溶融混練してなるPP/PPE樹脂組成物で構成されており、しかも該PP/PPE樹脂組成物における分散相の平均粒子間距離が10μm以下である。この内側合成樹脂層7は、通常10〜1000μmの厚さとすることが好ましい、より好ましい範囲として10〜500μm、更に好ましい範囲として10〜100μmである。
【0017】
上記PP/PPE樹脂組成物で構成された内側合成樹脂層7と金属層5の間に介在されている接着層6としては、内側合成樹脂層7と金属層5の両者に対して良好な接着性を有する材料であればよいが、変性ポリプロピレンまたは変性PP/PPE樹脂組成物を用いることができる。内側接着層6は、通常1〜100μmの厚さとすることが好ましく、より好ましくは1〜50μmであり、更に好ましくは1〜30μmである。
【0018】
本発明の積層体3は、電池の性能および寿命に大きく影響する内側合成樹脂層6として上記PP/PPE樹脂組成物を用いたもので、外側合成樹脂層9としては、このPP/PPE樹脂組成物以外の合成樹脂、例えばポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル系樹脂などを用いることができ、外側接着層8の材質も外側合成樹脂層9に応じて自由に選択することができる。
【0019】
以下、(A)〜(C)の各成分、(A)〜(C)成分の配合割合、PP/PPE樹脂組成物の製造方法、分散相の平均粒子間距離およびその調整方法、変性ポリプロピレンについてそれぞれ説明する。
【0020】
〔1〕(A)成分
本発明における(A)成分であるポリプロピレンとしては、結晶性プロピレンホモポリマーが用いられる。また、重合の第一工程で得られる結晶性プロピレンホモポリマー部分と、重合の第二工程以降でプロピレン、エチレンおよび/または少なくとも1つの他のα−オレフィン(例えば、ブテン−1、ヘキセン−1など)とを共重合して得られるプロピレン−エチレンランダム共重合体部分を有する結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体でも良く、さらには結晶性プロピレンホモポリマーと結晶性プロピレン−エチレンブロック共重合体の混合物であってもかまわない。
【0021】
なお、本発明で用いるポリプロピレンは、通常、メルトフローレート(MFR:ASTM D1238に準拠し230℃、2.16Kgの荷重で測定)が5〜100g/10分の範囲から選択できる。
【0022】
〔2〕(B)成分
本発明で用いる(B)成分のポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、PP/PPE樹脂組成物に、耐金属劣化性、耐熱性(荷重撓み温度:DTUL)、耐熱クリープ性および難燃性を付与するうえで必須な成分であり、置換アルキルフェノールをモノマー成分として酸化カップリング重合して得られるポリフェニレンエーテルが、ポリフェニレンエーテルに化学結合したアミン化合物(以下の式(1)および式(2)の結合形態を示し、式(1)は脂肪族アミンがヘッド末端のベンジル位に化学結合した構造であり、式(2)は脂肪族アミンが主鎖中のベンジル位に化学結合した構造である)およびポリフェニレンエーテルに結合しないフリーのアミン化合物からなるアミノ型窒素の全窒素を50ppm以上含有するポリフェニレンエーテル樹脂組成物である。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

(上記式(1)および式(2)において、R1およびR2はそれぞれ炭素数1〜20のアルキル基または置換アルキル基、アリール基、置換アリール基を表し、R3は、水素、炭素数1〜4のアルキル基、またはアリール基を表す。)
【0025】
(B)成分であるポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、上記の式(1)および式(2)から選ばれる少なくともひとつの化学構造を有するアミン化合物が結合したポリフェニレンエーテルと、フリーのアミン化合物からなるアミノ型窒素の全窒素を50ppm以上含有しており、還元粘度(0.5g/dl,クロロホルム溶液,30℃測定)は、0.15〜0.70の範囲、より好ましくは0.20〜0.60の範囲にあるポリフェニレンエーテル重合体および/またはポリフェニレンエーテル共重合体の組成物である。
【0026】
このポリフェニレンエーテルを構成する置換アルキルフェノール単量体の具体的な例としては、例えば2,6−ジメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2−メチル−6−エチルフェノール、2−メチル−6−フェニルフェノールなどが挙げられ、これらの単量体は単独で用いてもよく、二種以上の異なる置換アルキルフェノール類を併用することもできる。
【0027】
かかるポリフェニレンエーテル樹脂組成物の製造方法は、上記のアミン化合物が結合したポリフェニレンエーテルと、フリーのアミン化合物からなるアミノ型窒素の全窒素を50ppm以上含むポリフェニレンエーテル樹脂組成物が得られれば特に限定されないが、例えば、第二級アミン化合物の存在下で、上記のフェノール化合物を酸化カップリング重合することにより製造することができる。公知の製造方法としては、例えば、米国特許第3306874号、同第3306875号、同第3914266号、同第4028341号各明細書、特公昭52−17880号、特公昭60−50373号、特開昭50−51197号、特開昭52−892号、特開昭63−152628号、特開平8−157708号各公報などに記載された方法を挙げることができる。
【0028】
すなわち、本発明で用いるポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、上記のフェノール化合物、第二級アミン化合物を含有した溶液に、触媒および必要に応じて助触媒を添加して激しく攪拌しながら酸素含有ガスを供給して酸化カップリング重合を行い、重合後のポリマー回収工程において洗浄を実施し、この際に、回収された全ポリマー中に、アミン化合物が結合したポリフェニレンエーテルとフリーのアミン化合物からなるアミノ型窒素の全窒素を50ppm以上含むように調製することで得ることができる。重合の際に用いる触媒としては、銅−アミン錯体、マンガン−アミン錯体、コバルト−アミン錯体、マンガン−アルコキシド錯体、その他の公知のフェノール化合物の酸化カップリング重合に用いられる触媒は全て使用できる。
【0029】
また、重合の際に使用する第二級アミン化合物としては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジ−第二級−プロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−第二級−ブチルアミン、ジ−第三級−ブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジエイコシルアミン、ジベンジルアミン、メチルエチルアミン、メチルブチルアミン、メチルシクロヘキシルアミン、ヘプチルシクロヘキシルアミン、オクタデシルシクロヘキシルアミンなどや、N−フェニルエタノールアミン、N−(m−メチル)フェニルエタノールアミン、N−(P−メチル)フェニルエタノールアミン、N−(2’,6’−ジメチル)フェニルエタノールアミン、N−(2’,4’,6’−トリメチル)フェニルエタノールアミン、N−(m−メトキシ)フェニルエタノールアミン、N−(P−クロロ)フェニルエタノールアミン、N−(m−クロロ)フェニルエタノールアミン、N−(o−クロロ)フェニルエタノールアミン、N−(o−エチル)フェニルエタノールアミン、N−(m−エチル)フェニルエタノールアミン、N−(p−エチル)フェニルエタノールアミンなどや、N−メチルアニリン、N−エチルアニリン、N−プロピルアニリン、N−ブチルアニリン、N−メチル−2−メチルアニリン、N−メチル−2,6−ジメチルアニリン、N−メチル−2,4,6−トリメチルアニリン、N−ナフチルアニリン、ジフェニルアニリンなどが挙げられる。
【0030】
本発明で(B)成分として用いるポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、上記した成分を用いて酸化カップリング重合後、重合溶液は通常、塩酸、酢酸等の酸類や、EDTA(エチレンジアミンテトラ四酢酸)、およびその誘導体(カリウム等の金属塩も含む)などを重合溶液に添加して触媒を失活させた後、生成した重合体を析出させ、メタノールなどのアルコール類で洗浄後乾燥し、パウダー状で回収することができる。さらに、このパウダー状ポリフェニレンエーテル樹脂組成物を押出機などで溶融混練し、ペレット状として得ることもできる。
【0031】
本発明で(B)成分として用いるポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、上記した重合方法および回収方法によって得られるポリフェニレンエーテルを含む組成物であるが、前記の式(1)および式(2)のアミン化合物が化学結合したポリフェニレンエーテルの他に、上記した重合触媒の金属−アミン錯体を合成する際に用いられるベースとしての第三級脂肪族アミン(例えば、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパンや、n−ブチル−ジメチルアミンなど)の重合後に残留するアミン化合物や、重合過程で式(1)および式(2)を合成する際に添加した第二級アミン化合物の重合後に残留するフリーのアミン化合物や、重合後の回収洗浄工程で必要により失活剤として用いたEDTA(エチレンジアミンテトラ四酢酸)およびその誘導体(カリウム等の金属塩も含む)などのフリーのアミン化合物からなるアミノ型窒素の全窒素を50ppm以上、好ましくは100ppm以上、より好ましくは300〜10,000ppm含有するように調製されたものである。
【0032】
特に、上記したポリフェニレンエーテルの重合後に残留するフリーのアミン化合物からなるアミノ型窒素含有量は、かかるポリフェニレンエーテル重合時に添加する第二級アミン化合物、第三級脂肪族アミンの添加量、重合後の洗浄工程で抽出するフリーのアミン化合物からなるアミノ型窒素化合物の量などを調整することにより制御することができる。そしてアミノ型窒素の全窒素含有量が50ppmに満たない場合は、得られるPP/PPE樹脂組成物の耐金属劣化性の改良効果が得られなくなる。
【0033】
かかるポリフェニレンエーテル樹脂組成物中に含まれるポリフェニレンエーテルに化学結合したアミン化合物およびポリフェニレンエーテルに結合しないフリーのアミン化合物からなるアミノ型窒素の全窒素含有量を知る方法としては、例えば微量窒素分析装置(三菱化学社製「TN−10」)を用いて、加熱炉温度900℃、キャリアガスとしてアルゴンガス、燃焼ガスとして酸素ガスを使用して測定することができる。
【0034】
〔3〕(C)成分
(C)成分である混和材は、上記した(A)成分であるポリプロピレンと(B)成分であるポリフェニレンエーテル樹脂組成物を加熱溶融混練し、(A)成分を連続相として、分散相である(B)成分を安定に分散させる能力があるものであれば特に制限はない。
【0035】
かかる混和材としては、例えば、水添ブロック共重合体、ポリプロピレン−ポリスチレングラフト(ブロック)共重合体〔ポリスチレン分子鎖にポリプロピレン分子鎖が化学結合して得られるブロック(グラフト)共重合体〕、ポリプロピレン−ポリフェニレンエーテルグラフト(ブロック)共重合体〔ポリフェニレンエーテル分子鎖にポリプロピレン分子鎖が化学結合して得られるブロック(グラフト)共重合体〕、ポリフェニレンエーテル分子鎖にエチレンとα−オレフィン共重合体エラストマー分子鎖が化学結合して得られるブロック(グラフト)共重合体、ポリスチレン分子鎖にエチレンとα−オレフィン共重合体エラストマー分子鎖が化学結合して得られるブロック(グラフト)共重合体などが挙げられ、これらの中から1種以上の共重合体が混和材として利用できる。これらの混和材の中で最も好ましい混和材として、水添ブロック共重合体が挙げられる。
【0036】
混和材で最も好ましい水添ブロック共重合体は、上記した(A)成分であるポリプロピレンを連続相とし、(B)成分であるポリフェニレンエーテル樹脂組成物を分散粒子化させるための分散材として作用し、さらには得られるPP/PPE樹脂組成物に耐衝撃性を付与するものであり、共役ジエン化合物のビニル結合量(1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合量の合計量)が30〜95%である共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックとビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックとからなるブロック共重合体を80%以上水素添加してなる水添ブロック共重合体である。
【0037】
本発明で用いられる水添ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は、5,000〜1,000,000の範囲が好ましく、より好ましくは10,000〜500,000の範囲であり、ゲルバーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される。このブロック共重合体の分子構造は直鎖状、分岐状、放射状あるいはこれらの任意の組み合わせの形でよい。
【0038】
スチレン量は、水添ブロック共重合体の分子鎖の内、スチレンブロックの比率を指し、好ましくは20〜90%の範囲であり、より好ましくは30〜80%である。通常NMR法などの公知の方法で知る事が出来る。
【0039】
〔4〕(A)〜(C)成分の配合割合
本発明においては、(A)成分50〜99重量%と(B)成分50〜1重量%を合計100重量%となるように配合し、さらに(A)成分と(B)成分の合計量100重量部に対して(C)成分を1〜20重量部配合する。(A)成分が少なすぎて(B)成分が多すぎると必要なラミネート性が得られなくなり、逆に(A)成分が多すぎて(B)成分が少なすぎると十分な耐金属接触劣化性が得られなくなる。また、(C)成分が多すぎると必要なラミネート性が得られなくなり、逆に(C)成分が少なすぎると後述する分散相の粒子間距離が大きくなって、十分な耐金属接触劣化性が得られなくなる。
【0040】
(A)成分と(B)成分の好ましい配合割合は、より優れたラミネート性と耐金属接触劣化性が得やすいことから、好ましくは(A)成分70〜99重量%と(B)成分30〜1重量%、更に好ましくは(A)成分80〜99重量%と(B)成分20〜1重量%、より好ましくは(A)成分85〜99重量%と(B)成分15〜1重量%の範囲である。
【0041】
また(C)成分の配合量は(A)成分と(B)成分の合計量100重量部に対し、好ましくは1〜12重量部、更に好ましくは1〜8重量部の範囲である。
【0042】
〔5〕PP/PPE樹脂組成物の製造方法
本発明で用いるPP/PPE樹脂組成物は、上述した(A)〜(C)成分を上記配合にて、溶融混練機で溶融混練することで製造することができる。使用する溶融混練機としては、ニーディングブロックをスクリューの任意の位置に組み込むことが可能な二軸以上の多軸押出機が好ましく、用いるスクリューの全ニーディングブロック部分を実質的に(L/D)≧1.5、さらに好ましくは(L/D)≧5(ここでLは、ニーディングブロックの合計長さ、Dはニーディングブロックの最大外径をあらわす)に組み込み、かつ、(π・D・N/h)≧50(ここで、π=3.14、D=メタリングゾーンに相当するスクリュー外径、N=スクリュー回転数(回転/秒)、h=メタリングゾーンの溝深さ)を満たすものが好ましい。
【0043】
これらの押出機は、原料の流れ方向に対し上流側に第一原料供給口、これより下流に第二原料供給口を少なくとも有し、必要に応じ、第二原料供給口より下流にさらに1つ以上の原料供給口を設けても良く、さらに必要に応じこれら原料供給口の間に真空ベント口を設けても良い。
【0044】
本発明で用いるPP/PPE樹脂組成物を製造するに際し、基本となる原料供給方法は、第一原料供給口より(B)成分の全量または(B)成分の全量と(A)成分の全量の50%を超えない範囲の一部の(A)成分を併せて供給し、第二原料供給口より(A)成分の全量または第一原料供給口へ分配した残部の(A)成分を供給する押出方法や、第一原料供給口より(A)成分と(B)成分の全量を併せて供給する方法である。
【0045】
また、(C)成分として水添ブロック共重合を用いる場合で、特に水素添加する前の共役ジエン化合物のビニル結合量が55%以下である共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックが共役ジエン化合物を主体とする全重合体ブロックに対して50%以上有する場合は、かかる水添ブロック共重合体を第一原料供給口と第二原料供給口に分割して供給する方法が最適であり、また水素添加する前の共役ジエン化合物のビニル結合量が55%を超える共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックが共役ジエン化合物を主体とする全重合体ブロックに対して50%以上有する場合は、かかる水添ブロック共重合体を第一原料供給口へ全量供給する方法が最適である。(C)成分を第一原料供給口に供給する場合は、(B)成分または(B)成分と(A)成分とを合わせて供給する。また(C)成分を第一原料供給口に供給する場合は、(A)成分と併せて供給する方法である。
【0046】
通常、押出機バレルの設定温度は200〜370℃、好ましくは250〜310℃である。
【0047】
なお、本発明で用いるPP/PPE樹脂組成物は、上記の(A)〜(C)成分の他に、本発明の特徴および効果を損なわない範囲で必要に応じて他の附加的成分、例えば、酸化防止剤、金属不活性化剤、難燃剤(有機リン酸エステル系化合物、ポリリン酸アンモニウム系難燃剤、芳香族ハロゲン系難燃剤、シリコーン系難燃剤など)、フッ素系ポリマー、可塑剤(低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、三酸化アンチモンなどの難燃助剤、耐候(光)性改良剤、ポリオレフィン用造核剤、スリップ剤、無機または有機の充填材や強化材(ガラス繊維、カーボン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ウィスカー、マイカ、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム、チタン酸カリウム、ワラストナイト、導電性金属繊維、導電性カーボンブラックなど)、各種着色剤、離型剤などの添加剤、またポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂などの異なる種類の樹脂成分を配合したものも含むものである。
【0048】
〔6〕分散相の平均粒子間距離およびその調整方法
本発明で用いるPP/PPE樹脂組成物において、分散相である(B)成分の平均粒子間距離は10μm以下であることが必要であり、好ましくは8μm以下1μm以上である。本発明においては、PP/PPE樹脂組成物に良好な押出ラミネート性を付与するために(B)成分の配合量が少なくなっている。本発明は、(B)成分を密に分散させることで、この少ない(B)成分で良好な耐金属接触劣化性が得られることを見出した点に一つの特徴を有する。なお、分散相の平均粒子間距離とは、後述する測定法で求めた粒子間の重心間距離の平均値をいう。
【0049】
本発明で用いるPP/PPE樹脂組成物において、分散相の平均粒子径は、10μm以下であることが好ましく、より好ましくは8μm以下、特に好ましくは5μm以下である。平均粒子径が大きすぎると、平均粒子間距離を10μm以下にしにくくなる。平均粒子径は、平均粒子間距離を小さくしやすくしやすいことからすれば小さいほど好ましいといえるが、平均粒子径を0.1μm未満としても、労力が掛かるだけでさほど耐金属接触劣化性の向上にはつながらないことから、実用的な下限は0.1μmである。なお、平均粒子径とは、後述する測定法で求めたそれぞれ等しい面積の円を仮定した場合の当該円の直径の平均値をいう。
【0050】
平均粒子間距離と平均粒子径の調整は、前述した(A)〜(C)成分の配合割合と、(A)〜(C)成分を溶融混練する際の溶融混練機(押出機)のスクリューの回転数およびニーディングブロックの形状,長さで行うことができる。スクリューの回転数は、平均粒子間距離を小さくすると共に、平均粒子径を小さくする上で、好ましくは50〜1000rpm、より好ましくは100〜700rpmである。
【0051】
〔7〕変性ポリプロピレン
本発明において内側接着層6として好ましく用いられる変性ポリプロピレンおよび変性PP/PPE樹脂組成物は、脂肪族性不飽和基を有し、さらにカルボン酸基、酸無水物基、水酸基、アミノ基、イミド基、グリシジル基、オキサゾニル基、メルカプト基およびシリル基から選ばれる1種または2種以上の官能基を同時に有する化合物(以下、「官能性化合物」という)をポリプロピレンにグラフトまたは付加して得られる樹脂である。
【0052】
本発明で用いられる変性ポリプロピレンは、上記官能性化合物が、ポリプロピレン100重量部に対して0.01〜10重量部グラフトまたは付加されていることが好ましく、0.1〜5重量部グラフトまたは付加されていることがより好ましい。また、変性PP/PPE樹脂組成物は、上記官能性化合物が、PP/PPE樹脂組成物100重量部に対して0.01〜10重量部グラフトまたは付加されていることが必好ましく、0.1〜5重量部グラフトまたは付加されていることがより好ましい。
【0053】
変性ポリプロピレンは、グラフトまたは付加されている前記官能性化合物が、好ましくは0.01〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部となっていれば、未変性のポリプロピレンを、変性ポリプロピレンに混合したものでもよい。また、変性PP/PPE樹脂組成物は、グラフトまたは付加されている前記官能性化合物が、PP/PPE樹脂組成物100重量部に対して、好ましくは0.01〜20重量部、より好ましくは0.1〜8重量部となっていればよい。
【0054】
ポリプロピレンを化学変性する官能性化合物としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、クロロマレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、ハイミック酸などの不飽和ジカルボン酸や、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテン酸、リノール酸、けい皮酸などの不飽和モノカルボン酸や、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、無水ハイミック酸などのα,β−不飽和ジカルボン酸の酸無水物や、α,β−不飽和カルボン酸の酸無水物や、アリルアルコール、3−ブテン−2−オール、プロパギルアルコールなどの不飽和アルコール化合物や、p−ビニルフェノール、2−プロペニルフェノールなどのアルケニルフェノールや、p−アミノスチレンが挙げられる。
【0055】
また、アリルアミン、N−ビニルアニリンなどの不飽和アミン化合物や、マレイミドなどのα,β−不飽和ジカルボン酸のイミドまたはα,β−不飽和モノカルボン酸のイミドや、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルなどの不飽和グリシジル化合物や、イソプロペニルオキサゾリンなどの不飽和オキサゾリン化合物や、p−tert−ブチルメルカプトメチルスチレンなどの不飽和メルカプト化合物や、2−(3−シクロヘキセニル)エチルトリメトキシシラン、1,3−ジビニルテトラエトキシシラン、ビニルトリス−(2−メトキシエトキシ)シラン、5−(ビシクロヘプテニル)トリエトキシシランなどの不飽和オルガノシラン化合物などが挙げられ、中でも官能性化合物として無水マレイン酸が最も好ましい。
【0056】
これらの官能性化合物は単独で使用することもできるが、官能性化合物と共重合可能なスチレンなどのビニル芳香族化合物と併用してもかまわない。また、変性の際に用いることができるラジカル発生剤としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどが挙げられ、これらの中から好適に1種以上を選ぶことができる。
【0057】
変性ポリプロピレンに付加した官能性化合物の量は、通常、NMR、FTIR、滴定法などの公知の方法で知ることができる。
【0058】
[8]変性ポリプロピレン/PPE
前記変性ポリプロピレンとPPE樹脂と混和材を用いて、「[5]PP/PPE樹脂組成物の製造方法」と同様にペレットとして得ることができる。
【0059】
[9]粘度比
内側合成樹脂層を形成する樹脂組成物と接着層を形成する樹脂との溶融粘度の差は、共押出ラミネートを行う際にダイス内で各層の流速差や溶融粘度差が大きくなるとフローマークが発生する。特に多層ダイとして広く使われているフィードブロック方式で、この現象が起きやすい。このため内側合成樹脂層を形成する樹脂組成物の溶融粘度と接着層を形成する樹脂の溶融粘度との溶融粘度差が少ないことが望ましく、内側合成樹脂層を形成する樹脂組成物と接着層を形成する樹脂との溶融粘度比〔(接着層樹脂成分のMFR値)/内(側合成樹脂層樹脂成分のMFR値)〕が0.2〜5であり、好ましくは溶融粘度比が0.2〜3である。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明する。
【0061】
実施例及び比較例で用いた材料について説明する。
【0062】
〔イ〕ポリプロピレン:(A)成分
・ポリプロピレンホモポリマー樹脂(密度:0.91、MFR:8g/10分、融点:165℃)を用いた。このポリプロピレンを(A−1)とする。
・ポリプロピレンホモポリマー樹脂(密度:0.91、MFR:0.5g/10分、融点:168℃)を用いた。このポリプロピレンを(A−2)とする。
【0063】
〔ロ〕ポリフェニレンエーテル樹脂組成物:(B)成分
ポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、調製3槽の完全混合槽からなる連続重合反応器を用いて重合を行うことで製造した。
【0064】
第1反応器は容量1.5リットルで循環ポンプが付属しており、第2反応器および第3反応器には攪拌機があり、それぞれ容量が3.7リットルおよび1.5リットルのものを用いた。
【0065】
触媒溶液は、酸化第一銅を35%塩酸に溶解後メタノールを加え、さらにジ−n−ブチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパンとメタノールを加えて調整した。また、モノマー溶液は、2,6−ジメチルフェノールを混合キシレンおよびn−ブタノールに溶解して調整した。
【0066】
第1反応器に触媒溶液およびモノマー溶液を一定速度で送液した。触媒溶液とモノマー溶液の送液量から、それらを合わせた反応原料液の組成は以下の通りである。
【0067】
2,6−ジメチルフェノール濃度20重量%、用いた溶媒の重量比は混合キシレン:n−ブタノール:メタノール=60:20:20である。2,6−ジメチルフェノール100モル当たり、銅は0.03モル、塩素(Cl)イオンは0.276モル、ジ−n−ブチルアミンは1.1モル、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパンは2.7モルの割合であった。また、2,6−ジメチルフェノールは210g/Hrの速度で供給した。
【0068】
第1反応器では循環ポンプで反応液を激しく循環しつつ酸素ガスを流した。また、内温が38℃になるように制御した。
【0069】
第1反応器からヘッド圧で第2反応器に送られた反応液は均一であった。第2反応器は35℃に温度制御し、酸素ガスを500ml/分で供給し、さらに重合を進めると系内に重合体が析出してくるが、攪拌により反応器内全体にスラリー状として分散した。
【0070】
第2反応器からオーバーフローで第3反応器に入った、重合体粒子を含むスラリー状の反応液を、第3反応器において攪拌機で攪拌しながら40℃に温度制御し、酸素ガスを250ml/分で供給した。この第3反応器からオーバーフローしてくるスラリー状の反応液を連続的に取り出した。
【0071】
スラリー状の黄白色反応液に希塩酸およびメタノールを添加して濾過し、乾燥してポリフェニレンエール樹脂組成物(B−1)を得た。ここで得たポリフェニレンエーテル樹脂組成物(B−1)を混合溶媒(混合キシレン/ブタノール/メタノール=1/1/2)と希塩酸を用いて精製洗浄し、乾燥してポリフェニレンエーテル樹脂組成物(B−2)を得た。ここで得たポリフェニレンエーテル樹脂組成物(B−2)をトルエンに溶解し、さらにメタノールを用いて精製洗浄し、さらに乾燥してポリフェニレンエーテル樹脂組成物(B−3)を得た。
【0072】
さらに、ここで得たポリフェニレンエーテル樹脂組成物(B−3)をトルエンに溶解し、さらにメタノールを用いて精製洗浄し、さらに乾燥してポリフェニレンエーテル樹脂組成物(B−4)を得た。そしてさらに、ここで得たポリフェニレンエーテル樹脂組成物(B−4)をトルエンに溶解し、再度メタノールを用いて精製洗浄し、さらに乾燥してポリフェニレンエーテル樹脂組成物(B−5)を得た。
【0073】
酸化重合して得たポリフェニレンエーテル樹脂組成物(B−1)中のポリフェニレンエーテルに化学結合したアミン化合物を、1H核磁気共鳴スペクトル上で確認した。メチレン基のシグナルが3.63ppmに観測され、R1およびR2に対応するn−ブチル基の4種のシグナルが2.47ppm、1.50ppm、1.29ppm、0.88ppmに観測され、その面積強度比からも前記式(1)で示される構造式と矛盾のないものであった。
【0074】
さらに、脂肪族二級アミンが主鎖中のベンジル位に結合した前記式(2)で示される構造式は、前記式(1)で示される構造式の構造とよく似た1H核磁気共鳴スペクトルを与えるが、それぞれのシグナルは前記式(1)で示される構造式のシグナルとはっきり区別ができ、メチレン基のシグナルは3.36ppmに観測され、n−ブチル基の末端の2種のシグナルが1.17ppmと0.80ppmに観測された。この1H核磁気共鳴スペクトルより、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物中にポリフェニレンエーテルに化学結合したアミン化合物が存在することが確認された。
【0075】
つぎに、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物中に含まれる、ポリフェニレンエーテルに化学結合したアミン化合物およびポリフェニレンエーテルに結合しないフリーのアミン化合物からなるアミノ型窒素の全窒素含有量を確認するため、微量窒素分析装置(三菱化学社製「TN−10」)を用いて、加熱炉温度900℃、キャリアガスとしてアルゴンガス、燃焼ガスとして酸素ガスを使用して、上記で得たポリフェニレンエーテル樹脂組成物に含まれる全窒素含有量を測定したところ、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物(B−1)は2200ppm、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物(B−2)は600ppm、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物(B−3)は210ppm、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物(B−4)は60ppm、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物(B−5)は30ppmであった。
【0076】
〔ハ〕混和材:(C)成分
水素添加スチレン−ブタジエン共重合体(分子量(Mn):8.5万、結合スチレン量:60%)を用いた。ビニル結合量(1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合量の合計量)が65%である、ブタジエンからなる1個の重合体ブロックと、スチレンからなる1個の重合体ブロックとからなるブロック共重合体を85%水素添加してなる水添ブロック共重合体である。
【0077】
〔ニ〕変性ポリプロピレン:接着層
前記ポリプロピレン(A−1)および(A−2)を、2軸押出機(ドイツ国WERNER&PFLEIDERER社製「ZSK−25」)で、280℃でスクリュー回転数300rpmの条件で溶融混練する際に、1重量部の無水マレイン酸を添加して、(変性A−1)および(変性A−2)の変性ポリプロピレンの樹脂ペレットを製造した。
【0078】
尚、接着層樹脂において末端基変性処理のため、PP樹脂に無水マレイン酸を添加して加熱溶融しながら押出す際に、分子量の低下によりMFR値が高くなる現象が(変性A−1)および(変性A−2)に見られ、特に分子量の高い(変性A−2)のMFR値の上昇が著しい傾向があった。
【0079】
〔ホ〕変性PP/PPE樹脂:接着層
前記、変性ポリプロピレン(変性A−1)とPPE樹脂(B−3)と混和材を表5に記載の組成割合にて、後述のPP/PPE樹脂組成物の製造方法と同じ工程、即ち、温度250〜320℃、スクリュー回転数300rpmに設定し、第一原料供給口および第二原料供給口(押出機のほぼ中央に位置する)を有する二軸押出機(ドイツ国WERNER&PFLEIDERER社製「ZSK−40」)を用いて溶融混練し、ペレットとして得た。
【0080】
<押出ラミネート性の評価>
押出成形された積層体の表面状態を、外観不良(ダイライン、厚みムラ、スエリング(波うち),フローマーク)の発生を目視で観察し、下記の評価方法で評価した。
【0081】
◎:常に良好、
○:目立った外観不良の発生なし
△:目立った外観不良が発生する
×:非常に目立った外観不良が発生する
の評価基準に基づいて押出ラミネート性の評価を行った。
【0082】
<耐金属劣化性評価>
積層体の内側合成樹脂層の表面に銅箔を密着させ、更に2mmのアルミ板2枚に挟みクリップで固定した。150℃のギア−オーブン中での熱曝露により金属接触劣化性を促進させ、概ね100時間毎に10倍ルーペで内側合成樹脂層の表面状態を観察して、金属接触劣化によるクラックが発生するまでの時間を最長2000時間まで観察、記録した。
【0083】
<溶融粘度の測定>
内側合成樹脂層および接着層の樹脂組成物のペレットのMFR(メルトフローレート)を、ASTM D1238に準拠し、温度:230℃、荷重:0.22Nの条件で測定した。
【0084】
<溶融粘度比>
内側合成樹脂層と接着層を構成する各樹脂成分の溶融粘度比は下記の式より求めた値とする。
溶融粘度比=(接着層樹脂成分のMFR値)÷(内側合成樹脂層樹脂成分のMFR値)
【0085】
<平均粒子間距離の測定>
本発明における平均粒子間距離は、次のようにして測定することができる。押出ラミネートした内側合成樹脂であるPP/PPE樹脂組成物の流動方向に対し垂直方向の断面のモルフォロジーを1万倍の倍率で35mmネガフイルムで撮影し、フイルムスキャナーでコンピュータに取り込み、画像処理プログラム(ニレコ社製「LUZEX AP」)を用いて、平均粒子間距離は測定パラメータ隣接重心間距離で粒子間距離を測定し、平均粒子間距離を算出した。粒子の円相当径と隣接粒子の重心間距離を求めることで行うことができる。
【0086】
<実施例および比較例の積層体の製造例>
表1〜4に示される実施例1〜11および比較例1〜9の内側合成樹脂層の各成分を、温度250〜320℃、スクリュー回転数300rpmに設定し、第一原料供給口および第二原料供給口(押出機のほぼ中央に位置する)を有する二軸押出機(ドイツ国WERNER&PFLEIDERER社製「ZSK−40」)を用いて(A)成分:PP樹脂の組成割合の2分の1と(B)成分:PPE樹脂および(C)成分:混和材の組成割合の全量を第一原料供給口に供給し、(A)成分:PP樹脂の組成割合の残る2分の1を第二原料供給口に供給し、溶融混練してペレットとして得た。
【0087】
2つの押出機の一方のシリンダーに、内側合成樹脂層である前記組成物ペレットを投入し、他方のシリンダーに接着層である変性ポリプロピレンを投入し、それぞれ280℃で押出し、幅400mmのフィードブロック方式のTダイから押し出し、共押出ラミネート法により、PP/PPE樹脂組成物の内側合成樹脂層(製膜後の厚みが50μm)と接着層(製膜後の厚みが10μm)の積層体とし、さらに該積層体の接着層面を、脱脂処理を施した厚さ50μmの金属層と圧着させて冷却し、金属層、接着層、内側合成樹脂層の3層からなる積層体(ラミネート体)を得た。なお、実際の電池パックでは金属層の両面に合成樹脂層を設けるが、試験の簡略化のため、片側のみラミネート処理とした。
【0088】
金属層としてはアルミニウム箔を使用した。
【0089】
得られた積層体に基づいて押出ラミネート性の評価を行った。
【0090】
[実施例1〜4および比較例1〜5]
内側合成樹脂層の組成において、表1に示す組成でPP樹脂(A−1)またはPP樹脂(A−1)とPPE樹脂(B−3)を配合して合計100重量部とし、更に混和材を添加して得られたペレットのMFRを測定した。更に接着層を変性PP(変性A−1)または(変性A−2)を用いて、押出ラミネートで得られた積層体の内側合成樹脂層のラミネート性と粒子間距離、クラック発生時間(耐金属劣化性)を測定し、結果を表1に示す。
【0091】
[実施例5〜7および比較例6〜8]
内側合成樹脂層の組成において、PP樹脂(A−1)とPPE樹脂(B−3)を表2に示すように合計100重量部となるよう配合し、更に混和材を10重量部添加して得られたペレットのMFRを測定した。更に接着層を変性PP(変性A−1)を用いて、押出ラミネートで得られた積層体の内側合成樹脂層のラミネート性と粒子間距離、クラック発生時間(耐金属劣化性)を測定し、結果を表2に示す。対比のために実施例2および4も併せて表2に示す。
【0092】
[実施例8〜10および比較例9]
内側合成樹脂層の組成において、PP樹脂(A−1)とアミノ型全窒素量の異なるPPE樹脂(B−1)〜(B−5)を合計100重量部となるように表3に示す組成割合で配合し、混和材を添加して得られたペレットのMFRを測定した。更に接着層を変性PP(変性A−1)および(変性A−2)を用いて、押出ラミネートで得られた積層体の内側合成樹脂層のラミネート性と粒子間距離、クラック発生時間(耐金属劣化性)を測定した結果を表3に示す。対比のために実施例1も併せて示す。
【0093】
[実施例11]
接着層構成樹脂として表4に示すように配合して得られた変性PP/PPE樹脂を用い、金属層としてアルミニウム箔を使い積層体を作成し、以下の剥離強度試験を行った。積層体の内側合成樹脂層および接着層を鋭利な剃刀で幅30mmのタンザク状に切込みを入れて、更に一端をアルミと接着層を手で引き剥がす。図3に示すように短冊状の樹脂層とアルミを其々引張り試験機のチャックに固定し、引張り速度3mm/minで剥離強度を測定した。接着強度が樹脂層の強度を上回り、樹脂層が破断したため、その時の最大値を測定した。
【0094】
また、実施例1で得られた積層体についても実施例11と同様に剥離強度試験を行い、その結果も併せて表4に示した。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
【表3】

【0098】
【表4】

【0099】
なお、表1〜表5おける(A−1)〜(A−2)、(B−1)〜(B−5)、(変性A−1)〜(変性A−2)の欄の数値の単位は重量%、混和材の欄の数値の単位は(A−1)〜(A−2)と(B−1)〜(B−5)の合計量100重量部に対する重量部である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】電池パックの一例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る電池パック用積層体の層構成の一例を示す断面模式図である。
【図3】剥離強度試験の説明図である。
【符号の説明】
【0101】
1 電池パック
2 ケース
3 積層体
4a 引き出し電極
4b 引き出し電極
5 金属層
6 接着層(内側)
7 内側合成樹脂層
8 外側接着層
9 外側合成樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層と合成樹脂層が接着層を介してラミネートされた、袋状の電池パックのケースを構成する電池パック用積層体において、内表面となる内側合成樹脂層が、(A)連続相を形成するポリプロピレン50〜99重量%と、(B)フリーのアミン化合物およびポリフェニレンエーテルに化学結合したアミン化合物をアミノ型全窒素で50ppm以上含有する、分散相を形成するポリフェニレンエーテル樹脂組成物50〜1重量%と、上記(A)成分および(B)成分の合計量100重量部に対して(C)混和材1〜20重量部とを溶融混練してなるPP/PPE樹脂組成物で構成されており、該PP/PPE樹脂組成物における分散相の平均粒子間距離が10μm以下であり、且つ該内側合成樹脂層樹脂成分と接着層樹脂成分との溶融粘度比〔(接着層樹脂成分のMFR値)/(内側合成樹脂層樹脂成分のMFR値)〕が0.2〜5であることを特徴とする電池パック用積層体。
【請求項2】
内側合成樹脂層が接着層を介して金属層の片面に積層されており、該接着層が、カルボン酸、酸無水物基、水酸基、アミノ基、イミド基,グリシジル基,オキサゾニル基、メルカプト基およびシリル基から選ばれるいずれか一種以上の官能基を有する変性ポリプロピレンまたは前記PP/PPE樹脂組成物のポリプロピレンの一部もしくは全部を変性ポリプロピレンで置き換えた変性PP/PPE樹脂組成物で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電池パック用積層体。
【請求項3】
金属層の他面に、電池パックの外表面となる外側合成樹脂層が外側接着層を介して積層されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電池パック用積層体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電池パック用積層体を用いてなる電池パック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−147551(P2006−147551A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305218(P2005−305218)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】