説明

電池破砕装置および破砕方法

【課題】引火や発火を防止することができ、かつ、腐食しにくくメンテナンスが容易な電池破砕装置および破砕方法を提供する。
【解決手段】電池を破砕する破砕部21と、破砕部21と電池Bとに冷却水を掛ける水掛器40と、破砕された電池Bが投入される水槽30とを備える。電池Bが潰れて短絡することにより発熱しても、冷却水で電池Bを冷やすことで発火を防ぐことができる。電池Bに含まれる有機溶媒が破砕部21に付着しても、その有機溶媒を洗い流すことができるから、有機溶媒が発火することを防止できる。電池Bが発火しても、直ちに消火することができる。装置が腐食しにくく、装置のメンテナンスが容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池破砕装置および破砕方法に関する。さらに詳しくは、電池から有価金属を回収するにあたり、電池を破砕する電池破砕装置および破砕方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高いエネルギー密度、高いセル電圧等の優れた特性を有することから、携帯電話、ポータブルビデオカメラ、ノートパソコン等の電子機器を中心に広範に利用されている。
また、リチウムイオン電池等の二次電池は、数百回程度の充放電を繰り返すと電極や電解液の劣化等が生じ、充電できる電気量が減少してくる。このような電池は寿命と判断され、廃電池として廃棄される。ここで、リチウムイオン電池には、コバルトやニッケル等の希少金属をはじめとする有価物が使用されているため、電池を解体して有価金属を回収し再資源化する処理が行なわれる。
【0003】
一般に、電池の再資源化は、電池を破砕した後に種々の方法を用いて有価金属を選別することにより行われる。
ところが、未放電の電池が含まれていると、電池の破砕を行う際に、電池が潰れて短絡することにより発熱し、電池内の電解質に含まれる有機溶媒が揮発してガスが噴射されたり、場合によっては発火点を超えて炎が燃え上がったりする場合がある。特に、電圧の高いリチウムイオン電池では、この発熱や爆発が顕著であり危険である。
【0004】
このような問題に対して、安全に電池を破砕する種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1、2には、電池を冷却あるいは凍結した状態で破砕する方法が提案されている。また、特許文献3には、充放電状態に関わらず電池をそのまま高温の炉内に投入して焙焼することにより、発熱や発火の影響を抑制する方法が提案されている。
【0005】
しかるに、電池を冷却して破砕する方法では極低温を維持するために高価な液体窒素等を使用する必要があり、焙焼処理を行う方法では多大なエネルギーが必要であり、いずれもランニングコストが高くなるという問題がある。
【0006】
これに対して、特許文献4には、導電性を有する液体に浸漬させて電池を放電させ、放電後に電池を破砕する方法が提案されている。
この方法によれば、ランニングコストを低く抑えることができる。しかし、特に電池パックを放電するには長時間を必要とするため、場合によっては、十分に放電されていない電池を破砕処理してしまい、その結果、火災が発生するという危険性がある。
【0007】
そこで、特許文献5には、電池を破砕する破砕装置を水溶液中へ浸没させ、水溶液中で電池を破砕する方法が提案されている。
水溶液中で電池を破砕することで、電池の過度の温度上昇を抑制することができ、発火を防ぐことができる。
しかし、破砕装置を完全に水溶液に水没させるため、破砕装置が腐食しやすいという問題がある。特に破砕装置内のギヤボックス等の機構部分を水没させると腐食しやすい。また、破砕装置のメンテナンスが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−241748号公報
【特許文献2】特開平11−167936号公報
【特許文献3】特開平10−330855号公報
【特許文献4】特開平11−97076号公報
【特許文献5】特許第308606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、引火や発火を防止することができ、かつ、腐食しにくくメンテナンスが容易な電池破砕装置および破砕方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明の電池破砕装置は、電池を破砕する破砕部と、前記破砕部と該破砕部により破砕されている前記電池とに冷却水を掛ける水掛器とを備えることを特徴とする。
第2発明の電池破砕装置は、第1発明において、前記破砕部は、回転軸が並行に配置された一対の破砕ローラであることを特徴とする。
第3発明の電池破砕装置は、第1または第2発明において、前記破砕部により破砕された電池が投入される水槽を備えることを特徴とする。
第4発明の電池破砕装置は、第3発明において、前記水槽は、前記破砕部と該破砕部により破砕されている前記電池とに掛けられた前記冷却水が流入するものであり、前記水槽内の前記冷却水を前記水掛器に供給する循環機を備えることを特徴とする。
第5発明の電池破砕装置は、第4発明において、前記電池に含まれる有機溶媒が流出した冷却水から、該有機溶媒を分離し回収する有機溶媒回収器を備えることを特徴とする。
第6発明の電池破砕装置は、第1、第2、第3、第4または第5発明において、前記冷却水を冷却する冷却器を備えることを特徴とする。
第7発明の電池破砕方法は、電池を破砕する際に、前記電池と、該電池を破砕する電池破砕装置の破砕部とに冷却水を掛けることを特徴とする。
第8発明の電池破砕方法は、第7発明において、前記破砕部により破砕された電池を水槽に投入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1発明によれば、破砕部と電池とに冷却水を掛けるので、電池が潰れて短絡することにより発熱しても、冷却水で電池を冷やすことで発火を防ぐことができる。また、電池に含まれる有機溶媒が破砕部に付着しても、その有機溶媒を洗い流すことができるから、破砕により発生する火花が有機溶媒に引火したり、電池の発熱によって有機溶媒が発火したりすることを防止できる。さらに、電池破砕装置は大気中に設置できるので、装置が腐食しにくく、装置のメンテナンスが容易である。
第2発明によれば、一対の破砕ローラで電池を破砕することができる。
第3発明によれば、破砕された電池が投入される水槽を備えるので、破砕部により電池を破砕することにより電池が発火しても、直ちに消火することができる。
第4発明によれば、水槽と水掛器との間で冷却水を循環させるので、電池に含まれる有機溶媒が流出した冷却水を再利用することができる。そのため、処理が困難な、有機溶媒を含む廃液を低減することができる。
第5発明によれば、冷却水から有機溶媒を分離し回収するので、冷却水を水掛器に循環させても、破砕により発生する火花が冷却水に含まれる有機溶媒に引火したり、電池の発熱によって冷却水に含まれる有機溶媒が発火したりすることがない。
第6発明によれば、冷却水の温度を下げることで、破砕部と電池とを十分に冷やすことができるから、引火点の低い有機溶媒が破砕部に付着しても、破砕により発生する火花が有機溶媒に引火することを防止できる。
第7発明によれば、破砕部と電池とに冷却水を掛けるので、電池が潰れて短絡することにより発熱しても、冷却水で電池を冷やすことで発火を防ぐことができる。また、電池に含まれる有機溶媒が破砕部に付着しても、その有機溶媒を洗い流すことができるから、破砕により発生する火花が有機溶媒に引火したり、電池の発熱によって有機溶媒が発火したりすることを防止できる。さらに、電池破砕装置は大気中に設置できるので、装置が腐食しにくく、装置のメンテナンスが容易である。
第8発明によれば、破砕された電池を水槽に投入するので、破砕部により電池を破砕することにより電池が発火しても、直ちに消火することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る電池破砕装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る電池破砕装置Aの概略図であって、図中、10は電池Bを搬送するコンベア、20は電池Bを破砕する破砕機、30は破砕された電池Bが投入される水槽、40は冷却水を噴霧する噴霧器、50は水槽30と噴霧器40との間で冷却水を循環させる循環系である。
ここで、電池とは、単電池のほか電池パックも含み、リチウムイオン電池等種々の電池を含む概念である。
【0014】
破砕機20は、回転軸が並行に配置された一対の破砕ローラ21,21を有するいわゆる二軸破砕機である。破砕ローラ21,21の上方にはホッパ22が取り付けられており、コンベア10で搬送されてきた電池Bが破砕ローラ21に導かれるようになっている。
なお、破砕ローラ21は特許請求の範囲に記載の「破砕部」に相当する。
【0015】
水槽30は、破砕ローラ21,21の下方に設置され、冷却水が満たされている。また、水槽30には、冷却水は通すが破砕された電池Bは通さない穴が多数穿設された籠31が収められている。そのため、破砕ローラ21,21で破砕された電池Bは直ぐに水槽30の冷却水の中に投入され、籠31の底に溜まるようになっている。
なお、冷却水としては、純水を用いることができる。
【0016】
破砕機20の上方には噴霧器40が設置されている。噴霧器40には循環系50によって、水槽30内の冷却水が供給されている。噴霧器40から噴霧される冷却水は、破砕ローラ21,21と、破砕ローラ21,21により破砕されている電池Bとに掛けられるようになっている。
噴霧器40から噴霧される冷却水には、後述する破砕ローラ21に付着する有機溶媒を洗い流すことができる程度の水勢が必要である。また、破砕機20は、冷却水がその機構部分等に流入しない構成とすることが好ましい。
【0017】
なお、噴霧器40は特許請求の範囲に記載の水掛器に相当する。また、水掛器としては、噴霧器に限らず、破砕部と電池とに冷却水を掛けるものであれば、種々のものを選択することができる。さらに、噴霧する冷却水は、水槽30から循環させる場合に限られず、他の供給源から供給してもよい。
【0018】
循環系50は、水槽30と噴霧器40とを接続するパイプ51と、そのパイプ51に取り付けられたポンプ52、有機溶媒回収器53、冷却器54とから構成されている。
水槽30内の冷却水は、ポンプ52に動作によりパイプ51を通じて噴霧器40側に流される。その冷却水は、有機溶媒回収器53を通り、冷却器54によって冷却された後に噴霧器40に供給されるようになっている。
なお、パイプ51とポンプ52とが、特許請求の範囲に記載の循環機に相当する。
【0019】
以上のように、破砕機20は大気中に設置されているので、破砕機20を冷却水に浸ける場合に比べて、装置が腐食しにくく、また、装置のメンテナンスが容易である。
【0020】
つぎに、電池破砕装置Aを用いた電池Bの破砕方法について説明する。
廃電池として破棄された電池Bはコンベア10により搬送されて破砕機20のホッパ22に投入され、投入された電池Bは破砕ローラ21,21の動作により破砕される。この間、噴霧器40は破砕ローラ21と電池Bに対して冷却水を噴霧している。
このとき、十分に放電されていない電池Bを破砕すると、電池Bが潰れて短絡することにより発熱する。しかしながら、噴霧器40によって、破砕ローラ21と電池Bとに冷却水を掛けるので、冷却水で電池Bを冷やすことで発火を防ぐことができる。
【0021】
また、電池Bを破砕すると、電池Bに含まれる有機溶媒が破砕ローラ21に付着するが、冷却水で破砕ローラ21に付着した有機溶媒を洗い流すことができるから、破砕により発生する火花が有機溶媒に引火したり、電池Bの発熱によって有機溶媒が発火したりすることを防止できる。
【0022】
破砕ローラ21で破砕された電池Bは、直ぐに水槽30に投入される。また、破砕ローラ21に掛けられた冷却水も水槽30に流入する。
このとき、電池Bの電圧が高いと、冷却水で冷却しているにも関わらず発火する場合も考えられるが、破砕された電池Bは水槽30に投入されるため、直ちに消火することができる。そのため、火災が発生することはない。
【0023】
ところで、破砕ローラ21に掛けられ、水槽30に流入した冷却水には、電池Bの有機溶媒が含まれる。このような有機溶媒が含まれる冷却水は処理が困難である。
本実施形態では、水槽30に流入した冷却水は、循環系50を通って噴霧器40に供給される。このように、水槽30と噴霧器40との間で冷却水を循環させるので、電池Bに含まれる有機溶媒が流出した冷却水を再利用することができる。そのため、処理が困難な、有機溶媒を含む廃液を低減することができる。
【0024】
水槽30内の冷却水は、ポンプ52の動作により有機溶媒回収器53に導かれる。
有機溶媒回収器53は、有機溶媒が流出した冷却水から、有機溶媒を分離し回収するものであり、種々のものを採用できる。例えば、エバポレーター等で有機溶媒を含んだ冷却水に対して蒸留操作を行うことにより、沸点・蒸気圧差を利用して冷却水と有機溶媒を分離することができる。この場合、分離した有機溶媒ガスを冷媒循環装置で冷却濃縮することにより、その大部分を液体として回収できる。また、液化できなかった一部の有機溶媒ガスについては活性炭フィルターで捕捉することができる。
【0025】
このように、噴霧器40に供給される冷却水には、有機溶媒が含まれないので、破砕により発生する火花が冷却水に含まれる有機溶媒に引火したり、電池の発熱によって冷却水に含まれる有機溶媒が発火したりすることがない。
なお、電池Bに含まれる有機溶媒の量に対して冷却水の量の方が格段に多い場合には、有機溶媒の濃度が低いので、有機溶媒回収器53を設けなくてもよい。
【0026】
有機溶媒回収器53を通った冷却水は、冷却器54により冷却される。
冷却器54により冷却水の温度を下げることで、破砕ローラ21と電池Bとを十分に冷やすことができる。そのため、引火点の低い有機溶媒、例えばリチウムイオン電池の電解質に含まれるジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの有機溶媒が破砕ローラ21に付着しても、破砕により発生する火花が有機溶媒に引火することを防止できる。
【0027】
以上の方法で複数の電池Bを破砕していくと、破砕された電池Bが籠31の底に溜まっていく。破砕された電池Bが所定量溜まった際には、籠31を水槽30から引き上げることで、冷却水を切り、破砕後の電池Bを取り出すことができる。
【0028】
(試験)
つぎに、電池破砕装置Aを用いた試験について説明する。
(比較例1)
試験には、残留電圧が3V以上のリチウムイオン電池を10本用いた。
まず、噴霧器で冷却水を噴霧しない状態で、破砕機で電池を破砕した。その結果、4本の電池において、破砕時に火花が発生することが確認された。
したがって、冷却水を噴霧しない状態では、引火や発火の危険性が高いことが分かった。
【0029】
(比較例2)
つぎに、残留電圧が1V以下になるまで放電させたリチウムイオン電池を10本用いて、噴霧器で冷却水を噴霧しない状態で、破砕機で電池を破砕した。
その結果、破砕時に火花が発生した電池は確認されなかった。
したがって、十分に放電を行うことで、電池を安全に破砕できることが分かった。
【0030】
(実施例1)
つぎに、残留電圧が3V以上のリチウムイオン電池を10本用いて、噴霧器で冷却水を噴霧しながらで、破砕機で電池を破砕した。
その結果、破砕時に火花が発生した電池は確認されなかった。
したがって、冷却水を噴霧すれば、引火や発火の危険性を著しく低減できることが確認された。また、破砕ローラのみへの噴霧であるから、破砕機が腐食しにくく、また、破砕機のメンテナンスが容易であると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る電池破砕装置および破砕方法は、リチウムイオン電池等の電池を安全に破砕するために利用される。
【符号の説明】
【0032】
10 コンベア
20 破砕機
21 破砕ローラ
22 ホッパ
30 水槽
31 籠
40 噴霧器
50 循環系
51 パイプ
52 ポンプ
53 有機溶媒回収器
54 冷却器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池を破砕する破砕部と、
前記破砕部と該破砕部により破砕されている前記電池とに冷却水を掛ける水掛器とを備える
ことを特徴とする電池破砕装置。
【請求項2】
前記破砕部は、回転軸が並行に配置された一対の破砕ローラである
ことを特徴とする請求項1記載の電池破砕装置。
【請求項3】
前記破砕部により破砕された電池が投入される水槽を備える
ことを特徴とする請求項1または2記載の電池破砕装置。
【請求項4】
前記水槽は、前記破砕部と該破砕部により破砕されている前記電池とに掛けられた前記冷却水が流入するものであり、
前記水槽内の前記冷却水を前記水掛器に供給する循環機を備える
ことを特徴とする請求項3記載の電池破砕装置。
【請求項5】
前記電池に含まれる有機溶媒が流出した冷却水から、該有機溶媒を分離し回収する有機溶媒回収器を備える
ことを特徴とする請求項4記載の電池破砕装置。
【請求項6】
前記冷却水を冷却する冷却器を備える
ことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の電池破砕装置。
【請求項7】
電池を破砕する際に、
前記電池と、該電池を破砕する電池破砕装置の破砕部とに冷却水を掛ける
ことを特徴とする電池破砕方法。
【請求項8】
前記破砕部により破砕された電池を水槽に投入する
ことを特徴とする請求項7記載の電池破砕方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−110850(P2012−110850A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262828(P2010−262828)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】