説明

電波レンズアンテナ装置

【課題】半球状のルーネベルグレンズと電波反射板とを組み合わせて用いた電波レンズアンテナ装置の降雨時、降雪時の受信感度低下を抑制する。
【解決手段】半球状のルーネベルグレンズ1と、このレンズよりも径大の電波反射板2と、アンテナ素子3と、アンテナ素子を保持する保持具4とからなり、前記電波反射板2を起立させて設置する電波レンズアンテナ装置において、ルーネベルグレンズ1に対する雨、雪、氷の付着や付着後の滞留を防ぐ第1カバー5と第2カバー6からなる氷雪水防止手段を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ルーネベルグレンズを使用した電波レンズアンテナ装置、詳しくは、降雨時や融雪時の受信感度低下を抑えた電波レンズアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ルーネベルグレンズを用いた電波レンズアンテナ装置は、複数の通信相手との同時通信が可能なマルチビーム対応型のアンテナ装置として期待され、パラボラアンテナに代わる静止衛星用アンテナ装置などとして提供されだしている。
【0003】
誘電体で形成されるルーネベルグレンズの基本形状は球であるが、コンパクト化のために半球状のルーネベルグレンズとそのレンズよりも径大の電波反射板(以下、単に反射板と言う)とを組み合わせて球と等価な機能を確保した電波レンズもある。この反射板を組み合わせたアンテナ装置は、反射板を起立した姿勢にして目的の静止衛星を仰ぎ見る位置、例えば、建物の壁面やベランダの柵などに設置することができる。また、反射板を地面とほぼ平行にしてビルの屋上などに設置することもでき、設置の自由度が高い。
【0004】
ところで、ルーネベルグレンズを用いたアンテナ装置は、レンズの外面を耐水性のあるカバーで覆っている。たとえば、下記特許文献1には、ルーネベルグレンズと一体成形された半球状のレドームが開示されており、また、下記特許文献2などには、アンテナ素子を含むアンテナ装置の全体をレドームで覆うことが開示されている。さらに、下記特許文献3には半球状のレンズを半球状のカバーで覆うことが開示されている。
【0005】
このようにレンズをレドームや半球状のカバーで覆っているので、雨にぬれても耐久性などには特に問題はでない。ところが、使用中に降り注いだ雨がレンズの上部に滞留したり、レンズの表面(表面保護層の外面)を伝って流れ落ちたりすると、減衰C/N量(信号と雑音との電力比))が大きくなって電波の受信感度が低下する。また、レンズ上に降り積もった雪やレンズ上の氷結が融け、融水がレンズの表面を伝って流れるときにもその受信感度の低下が起こる。
【0006】
従来の電波レンズアンテナ装置は、かかる問題に対して配慮するところがなく、受信感度低下の問題が起こりやすかった。また、アンテナ装置の全体をレドームで覆ったものは、
強度確保の面からレドームの肉厚を厚くする必要があるため、レドームに起因した電気性能の低下や、サイズ増、重量増、コストアップなどの問題もあった。
【特許文献1】特開昭50−116259号公報
【特許文献2】特開2000−183645号公報
【特許文献3】特開2002−232230号公報
【特許文献4】特開2004−282718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ルーネベルグレンズを用いた静止衛星用アンテナ装置としては、たとえば、前項の特許文献4に記載のものが提案されている。このアンテナ装置は、静止衛星からの電波を受信するアンテナとしては非常に優れたものであるが、降雨時や融雪時にルーネベルグレンズ上に滞留又は流れる水滴の影響を受け易く、受信感度が低下しやすいと言う課題があった。
【0008】
この発明は、雨水や融雪水などによる受信感度の低下を抑えて信頼性を向上させた電波レンズアンテナ装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明においては、半球状のルーネベルグレンズと、このレンズの球の2分断面部に沿わせるレンズ径よりも大サイズの電波反射板と、アンテナ
素子と、このアンテナ素子を保持する保持具とからなる電波レンズアンテナ装置に、ルーネベルグレンズの表面に対する雨、雪、氷の付着又は付着後の滞留、流水を防ぐ氷雪水防止手段を設けた。流水については、アンテナ素子と対面した位置のレンズ表面への水の流れを防止する。
【0010】
前記氷雪水防止手段の具体例としては、たとえば、電波レンズアンテナ装置の一部を覆うカバーが挙げられる。そのカバーの好ましい例として、反射板を地面に対して起立させた状態においてルーネベルグレンズの全体を覆い、かつ、そのカバーの上部の傾斜角がルーネベルグレンズの上部の傾斜角よりも大きくなっているものや、反射板を地面に対して水平にした状態においてカバーがルーネベルグレンズの上部を覆い、そのカバーの表面の傾斜角がルーネベルグレンズの表面の傾斜角よりも大きくなっているものなどが考えられる。カバー表面の傾斜角とレンズ表面の傾斜角は、レンズの半球状表面の任意の点と、レンズ中心とその任意の点を結ぶ直線を延長した線がカバーと交わる点の傾き(比較の各点に接する面が地面に対して傾いた角度)を比較する。
【0011】
また、前記カバーを、反射板を地面に対して起立させた状態においてルーネベルグレンズを覆う半球状の第1カバーと、この第1カバーの上部を覆う第2カバーとで構成し、第2カバーの上部の傾斜角を第1カバーの上部の傾斜角よりも大きくしたものも好ましい。この場合、第2カバーの下端を、レンズから離反させてレンズの中央よりも下側まで延ばしておくとより好ましい。第2カバー表面の傾斜角と第1カバーの表面の傾斜角は、第1カバーの表面の任意の点と、レンズ中心とその任意の点を結ぶ直線を延長した線が第2カバーと交わる点の傾き(比較の各点に接する面が地面に対して傾いた角度)を比較する。
【0012】
前記カバーは、反射板を地面に対して水平にした状態においてルーネベルグレンズを覆う半球状の第1カバーと、この第1カバーの上部を覆う第2カバーとで構成し、第2カバーの上部の傾斜角を第1カバーの上部の傾斜角よりも大きくしたものも考えられる。これは、反射板を地面に対して水平にして設置するアンテナ装置に利用することができる。
【0013】
氷雪水防止手段は、ルーネベルグレンズを覆うカバーの表面に堰堤を設けて構成され、その堰堤が、アンテナ素子とレンズ中心とを結ぶ線よりも上側にあり、かつ、所定の範囲に横に延びて設けられているものであってもよい。この場合の堰堤は、凹状、凸状、表面段差部のいずれかで構成される。この堰堤は、カバー表面のアンテナ素子と対面する部位の上方で地面からの高さ位置が高く、そこから両端に向かって地面からの高さ位置が低くなっているものや、表面に撥水処理を施したものなどが好ましい。
【0014】
氷雪水防止手段は、アンテナ素子とルーネベルグレンズとの間に配置して、アンテナ素子とルーネベルグレンズのアンテナ素子に対面した領域の表面を覆うカバーを装着したものであってもよい。
【0015】
氷雪水防止手段は、反射板を地面に対して起立させた状態においてルーネベルグレンズの半径よりも外側に突出してルーネベルグレンズの上部に配置されるひさしからなるものであってもよい。ひさしは、反射板を地面に対して垂直に起立した位置から前方に傾け、この傾いた反射板をひさしとして兼用したものであってもよい。
【0016】
氷雪水防止手段は、以下に列挙するものなども考えられる。
・アンテナ装置の一部を覆うカバーを設け、そのカバーの表面を撥水処理又は親水処理、或いはそれら双方の処理を施して構成されるもの。
・ルーネベルグレンズを覆う半球状カバーを設け、そのカバーの天頂部を親水処理し、かつ、天頂部を除く上部を撥水処理して構成されるもの。
・アンテナ装置の一部を覆うカバーを設け、そのカバーの表面に、疎水部が親水部の中に島状に点在するように親水処理と撥水処理を施して構成されるもの。これは、疎水部の面積を親水部の面積よりも大きくしたものが好ましい。
・カバーが合成樹脂、ゴム、繊維、硝子又はこれらの材料の複合物で形成されたもの。これは、合成樹脂、ゴム、硝子の発泡体を用いてもよい。
【発明の効果】
【0017】
この発明の電波レンズアンテナ装置は、アンテナ装置の一部を覆うカバーを装着することにより、ルーネベルグレンズの表面に対する雨、雪、氷の付着又は付着後の滞留やアンテナ素子の前方への流水を防ぐ氷雪水防止手段を設けたので、雨水や融水がレンズの表面に付着、滞留することが抑制される。カバーの表面に堰堤を設けた電波レンズアンテナ装置は、雨、雪、氷の付着そのものを防止する機能はないが、カバーの表面を伝って流れる雨水や融水が堰堤に誘導されあるいは堰きとめられてアンテナ素子に向かう電波の通り道に流れることが抑制される。従って、この発明によれば、雨水や雪、氷の付着滞留が減少し、さらに、雨水や雪、氷が溶けたときの融水がアンテナの受信感度に大きな影響を及ぼす位置、すなわち、アンテナ素子に対応した位置のレンズ表面部へ流れることも少なくなり、流水に起因した受信感度の低下が小さく抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。この発明の電波レンズアンテナ装置は、図1に示す半球状のルーネベルグレンズ1(以下単にレンズ言う)と、このレンズ1の球の2分断面部に沿わせるレンズよりも径大の電波反射板(以下、単に反射
板という)2と、レンズの焦点部に配置するアンテナ素子3と、このアンテナ素子3を保持する保持具4とを備えている。
【0019】
レンズ1は、誘電体で形成されたレンズであり、内部の比誘電率が中心から外部に向かってほぼ2〜1に変化し、球をなす表面の近くに焦点を有している。このレンズ1は、樹脂製の表面の平滑な半球状の第1カバー5で外周を覆って保護している。
【0020】
反射板2は、縦、横の寸法がレンズ1の外径よりも大きい。この発明の電波レンズアンテナ装置は、反射板2を地面に対してほぼ垂直にする場合と、地面に対して傾けて前傾姿勢にする場合と、地面に対してほぼ平行にする場合とがある。いずれの場合も、アンテナ素子3は目標とする静止衛星からの電波が収束される位置(焦点部)に配置される。
【0021】
アンテナ素子3は、LNB(低ノイズブロック)と称されるものを用いている。このアンテナ素子3は、ホーンアンテナを使用したものや、筒状アンテナの前部に誘電体を装架したものなどが使用される。また、保持具4としては、素子位置の微調整が可能なアームなどが使用される。
【0022】
図1のアンテナ装置に、この発明を特徴づける氷雪水防止手段を設けた例を図2〜図25に示す。図2は、反射板2を地面に対してほぼ垂直向きにして設置する電波レンズアンテナ装置で、レンズ1の全体を覆い、かつ、そのカバーの上部の傾斜角がレンズ1の上部の傾斜角よりも大きくなっている第1カバー5を設けて、この第1カバー5を氷雪水防止手段として働かせるようにしたものである。
【0023】
第1カバー5とレンズ1との間の空間14は空隙でもよいが、誘電率が極めて1に近い高発泡率のオレフィン系樹脂発泡体で充填されている方が望ましい。
【0024】
第1カバー5の表面の傾斜角がレンズの傾斜角よりも大きいもの、より好ましくは、図2においてレンズ半径をR、反射板2とのなす角がθの位置でのレンズ中心から第1カバー5までの距離をR、反射板2とのなす角がθの位置でのレンズ中心から第1カバー5までの距離をRとして、θ>θかつ、θ≦πR/2のとき、R>R>Rの条件を満たす形状のものがよい。
【0025】
一方、図3は、反射板2を地面に対してほぼ垂直向きに設置する電波レンズアンテナ装置に、アンテナ装置の一部を覆う非球状の第2カバー6を設け、この第2カバー6の表面の傾斜角を第1カバー5の表面の傾斜角よりも大きくし、この第2カバー6を氷雪水防止手段として働かせるようにしたものである。
【0026】
第2カバー6は、外面の傾斜角がレンズ上部の傾斜角よりも大きいもの、より好ましくは、図3においてレンズ半径をR、反射板2とのなす角がθの位置でのレンズ中心から第2カバー6までの距離をR、反射板2とのなす角がθの位置でのレンズ中心から第2カバー6までの距離をRとして、θ>θかつ、θ≦πR/2のとき、R>R>Rの条件を満たす形状のものがよい。
【0027】
図4に示すように、第2カバー6の下端を、レンズ1から離反させてレンズ中央よりも下側まで延ばして(スカート部6aを形成する)おくと、雨水や氷雪融水の付着・滞留防止効果の他に、水滴が第1カバー5の下部へ乗り移りにくくなり、アンテナ素子3に向かう電波の通り道に水滴が流れて電波の移動が阻害されることも抑制されるため、より好ましい。
【0028】
また、図3に示すアンテナ装置は、第2カバー6の下縁が図5に示すようにレンズ1の表面に接触していてもよく、図6に示すように隙間gが生じるようにレンズから離反させてもよい。レンズに接触させると耐風性が増し、レンズから離反させると、第2カバー6を伝わって流れる水がレンズ1の表面(第1カバー5)に乗り移りにくくなる。
【0029】
第1カバー5の厚みは、アンテナの電気性能に与える悪影響を小さくするため、2mm以下、より好ましくは1mm以下とするのがよい。
また、第1カバー5とレンズ1との間の隙間は、電気的ロスを軽減し、かつ、強度を保持するために小さい方が望ましく、これらが接着、融着されていてもよい。
また、第1カバー5の表面は塗装されていてもよい。
【0030】
第2カバー6は、電波を通過させる材料、例えば、合成樹脂、ゴム、繊維、硝子、或いはそれらの複合物(例えば積層体)などで形成する。特に種類は問わないが、ポリオレフィン系樹脂のように電気的tanδの低い材料を用いることが望ましい。
【0031】
この第2カバー6は、成形品である必要はない。保形性のない薄いシート状のカバーや薄いファブリックであってもよい。シート状のカバーやファブリックは風を受けるとはためくため、表面に付着した水滴が飛散しやすく、水切り性に優れる。一方、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂など透明の樹脂を用いると嵩高さを緩和させることができる。
【0032】
また、第2カバー6の上端は、図7に示すように、反射板2の上端よりも下側にあってもよい。
【0033】
さらに、第2カバー6の厚みは、第1カバー5と同様、アンテナの電気性能に与える悪
影響を小さくするため、2mm以下、より好ましくは1mm以下とするのがよい。また、厚みは一定である必要はなく、図8に示すように厚みが変化してもよい。厚み変化により、強度を確保しながらアンテナ装置の電気性能に与える影響を小さくすることができる。さらに、図9に示すように、縦リブ6cや横リブ6dなどを備えて強度を高めると、第2カバー6を薄くして材料費やカバーの重量を削減したりすることが可能になる。図示の縦リブ6cは、折り目を利用したものであるが、リブは成形されたものであってもよい。
【0034】
第2カバー6を反射板2に当接させる縁部をシールしてそこから内側への雨水の流れ込みを防止するようにしておくのがよい。縁部のシールは、両面粘着テープなどでシールすることにより実現できる。一方、縁部をねじやボルトで反射板2に固定してはずれ防止の信頼性を高めておくのがよい。図10に示すような取り付けフランジ6bなどを設けると、第2カバー6をねじやボルトで信頼性よく取り付けることができる。また、樹脂製のボルトなどを使用して、着脱自在にすることも可能である。
【0035】
図11は、反射板2を地面に対してほぼ平行向きにして設置する電波レンズアンテナ装置であり、この装置に、レンズ1の全体を覆い、かつ、そのカバーの上部の傾斜角がレンズ1の上部の傾斜角よりも大きくなっている第1カバー5を設けて、この第1カバー5を氷雪水防止手段として働かせるようにしたものである。
【0036】
第1カバー5とレンズ1との間の空間14は空隙でもよいが、誘電率が極めて1に近い高発泡率のオレフィン系樹脂発泡体で充填されている方が望ましい。
【0037】
第1カバー5の表面の傾斜角がレンズの傾斜角よりも大きいもの、より好ましくは、図2においてレンズ半径をR、反射板2とのなす角がθの位置でのレンズ中心から第1カバー5までの距離をR、反射板2とのなす角がθの位置でのレンズ中心から第1カバー5までの距離をRとして、θ>θかつ、θ≦πR/2のとき、R>R>Rの条件を満たす形状のものが水切り性に優れて好ましい。
【0038】
一方、図12は、反射板2を地面に対してほぼ水平向きにして設置する電波レンズアンテナ装置に、アンテナ装置の一部を覆う非球状の第2カバー12を設け、この第2カバー12の表面の傾斜角を第1カバー5の表面の傾斜角よりも大きくし、この第2カバー12を氷雪水防止手段として働かせるようにしたものである。
【0039】
第2カバー12は、外面の傾斜角がレンズの傾斜角よりも大きいもの、より好ましくは、図12においてレンズ半径をR、反射板2とのなす角がθの位置でのレンズ中心から第2カバー12までの距離をR、反射板2とのなす角がθの位置でのレンズ中心から第2カバー12までの距離をRとして、θ>θかつ、θ≦πR/2のとき、R>R>Rの条件を満たす形状のものがよい。
【0040】
図13は、反射板2を地面に対してほぼ垂直向きにして設置する電波レンズアンテナ装置に、アンテナ素子3とその素子に対面する位置のレンズ表面(第1カバー5)との間に第3カバー15を配置してこの第3カバー15を氷雪水防止手段として働かせるようにしたものである。第3カバー15は、アンテナ素子3とレンズ1の中心とを結ぶ線よりも上にあればよい。形状は特に規定されないが、筒状のものが装着しやすくて好ましい。この第3カバー15は、反射板2を地面に対してほぼ水平向きにして設置するアンテナ装置にも採用できる。また、この第3カバー15を既述の第1カバー5や第2カバー6或いは12と併用することで相乗効果を得ることができる。
【0041】
図14及び図15は、ひさしを設けてそのひさしを氷雪水防止手段として機能させるものを示している。これらの電波レンズアンテナ装置も、図1で述べた要素を備える。図1
4のアンテナ装置は、反射板2を地面に対してほぼ垂直に配置した状態でひさし8をレンズ1の上側張り出させて設けたものである。ひさし8は反射板2からの突出量をレンズ半径Rよりも大きくして平面視でレンズ1を完全に覆い隠す大きさにしている。
【0042】
図15の電波レンズアンテナ装置は、反射板2を前傾姿勢にしてこの反射板2の上端が側面視でレンズ1よりも前方に突き出るようにしており、反射板2がひさしとなってレンズ1に対する雨や雪の降り注ぎが抑制される。この方法は特別な部品などを必要とせずに発明の効果を得られる利点がある。
【0043】
図16〜図18は、レンズ1を覆う半球状カバー5A(これは前述の第1カバーと同じものでよい)の表面に堰堤9を設けてこれで氷雪水防止手段を構成した電波レンズアンテナ装置である。電波レンズアンテナ装置は、レンズ1をカバーで覆って保護するのが一般的であり、そのための半球状カバー5Aを備えている。この半球状カバー5の外面に堰堤9を設けている。堰堤9は、アンテナ素子3とレンズ1の中心とを結ぶ線よりも上側にあり、所定長さを持つように左右に延びだしている。
【0044】
アンテナ素子3に対応した位置のカバー表面部は、アンテナ素子3に向かう電波が通過する領域であるので、この領域への流水を阻止すれば流水に起因した電波の減衰量を小さくすることができる。この目的を達成するために、半球状カバー5Aの外面に流水の移動経路を遮る堰堤9を設けている。堰堤9は、図17(a)に示す凹状9aで形成されたもの、図17の(b)、(c)に示す凸状9bで形成されたもの、図17(d)、(e)に示すように半球状カバー5Aの外面に段差部9cを設けてその段差部で形成されたもののいずれであってもよい。いずれも所定の幅を持ったものを設ける。
【0045】
なお、図18に示すように、堰堤9はアンテナ素子3と対面する部位の上方で地面からの高さが高く、ここから幅方向の両端に向かって地面からの高さが次第に低くなっているものが、流水を受信に支障の無い領域に案内する効果が高くて好ましい。
【0046】
図19の電波レンズアンテナ装置は、半球状の第1カバー5の外面に、アンテナ素子3に対応した位置のカバー表面部への流水を抑える堰堤13を設けたものである。このように反射板2を地面に対して垂直に配置した場合だけでなく、地面に対して水平に配置した場合にも堰堤は所期の効果を発揮する。
【0047】
図20は、図3の第2カバー6と図16の堰堤9とを併設した電波レンズアンテナ装置であり、雨水や氷雪の融水の付着・滞留を阻止する第2カバー6の効果と、流水をアンテナ素子3との対面位置に流れなくする堰堤9の効果が相乗的に発揮されるため、きわめて高い効果が得られ、降雨時、氷雪融解時の電波減衰量を大幅に低減することができる。
【0048】
雨水や氷雪の融水の付着や滞留を防ぐ氷雪水防止手段の1つとしてカバー表面の撥水処理が、効果がある。第1カバー5や第2カバー6(又は12)に撥水処理を施すと、水はカバーとの接触角が大きくなり、はじかれてカバー表面に滞留しにくくなる。特に、傾斜の大きい第2カバー6(又は12)に撥水処理を施すと大きな滞留抑制効果を得ることができて好ましい。
【0049】
図21は、第1カバー5の頂点を親水処理して親水部10とし、頂点以外の上部斜面を撥水処理して疎水部11としたものである。これは、地面に近い面に撥水処理を施すと、はじかれた水滴は流れないため、水玉になってカバー上に滞留して逆効果になるため、頂点部分だけを親水処理して水の滞留を防いだものである。
【0050】
図22は、第1カバー5の表面に塗布する親水性塗料の中にサイズの小さい疎水性塗料
を含有させて第1カバー5の表面に形成される塗膜層をいわゆる「海島構造」とした例である。このような構造にすると、疎水性塗料によって形成された疎水部11(島部)ではじかれた水滴が親水部10(海部)を伝って流れ、雨水や氷雪の融水の滞留を抑制することができる。疎水部11は直径が1〜5mmと小さいのが好ましく、また、親水部10は
一時的に水膜ができるため、その面積比率は、疎水部11の面積が親水部10の面積よりも大きくなるようにしておくのが好ましい。
【0051】
図17、図18の堰堤9等、特に水切れ性を高めたい箇所に撥水処理を施し、疎水性を向上させてもよい。
【0052】
撥水処理、親水処理は、撥水性、親水性のある塗料を塗るのが一般的であるが、これに限定するものではなく、他の表面改質方法を用いて処理してもよい。
【0053】
上記の各氷雪水防止手段は、例えば図23から図25に示すように、適当なものを組み合わせて使用することができる。
【0054】
以下に、この発明の効果を確認するために行った試験について記す。試験は、表1に示す仕様の電波レンズアンテナ装置(実施例と比較例)を準備し、図26に示す測定系を利用してそれらのアンテナ装置の雨天時、降雪時の受信感度(C/N)を10分おきに測定した。普通、C/N<6でTV画面に画像が映らなくなるので、C/N≧6となる時間を調査してC/N<6となる時間に対する割合を求めた。結果を表1に示す。この表1からわかるように、この発明の工夫を施したものは、比較例に比べて電波障害を受ける時間が短く(映像が映る時間が長い)、この発明の氷雪水防止手段が、雨や雪などによる受信感度低下を抑制するのに有効であることがわかる。
【0055】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】この発明の適用対象となる電波レンズアンテナ装置の概要を示す斜視図
【図2】この発明の電波レンズアンテナ装置の一例を示す側面図
【図3】他の実施形態の部分破断側面図
【図4】さらに他の実施形態の部分破断側面図
【図5】さらに他の実施形態の側面図
【図6】さらに他の実施形態の部分破断側面図
【図7】さらに他の実施形態の部分破断側面図
【図8】さらに他の実施形態の部分破断側面図
【図9】リブ突きカバーの一例を示斜視図
【図10】さらに他の実施形態の斜視図
【図11】さらに他の実施形態の側面図
【図12】さらに他の実施形態の部分破断側面図
【図13】さらに他の実施形態の側面図
【図14】さらに他の実施形態の側面図
【図15】さらに他の実施形態の側面図
【図16】さらに他の実施形態の側面図
【図17】(a)〜(e)堰堤の断面形状を示す図
【図18】(a)〜(c)堰堤の設置状態を示す正面図
【図19】さらに他の実施形態の側面図
【図20】さらに他の実施形態の側面図
【図21】さらに他の実施形態の斜視図
【図22】さらに他の実施形態の斜視図
【図23】さらに他の実施形態の斜視図
【図24】さらに他の実施形態の側面図
【図25】さらに他の実施形態の側面図
【図26】効果の確認実験に用いた測定系を示す図
【符号の説明】
【0057】
1 ルーネベルグレンズ
2 反射板
3 アンテナ素子
4 保持具
5、5A 第1カバー
6、12 第2カバー
6a スカート部
6b フランジ
6c 縦リブ
6d 横リブ
7 カバー(レドーム)
8 ひさし
9、13 堰堤
9a 凹条
9b 凸条
9c 段差部
10 親水部
11 疎水部
14 空間
15 第3カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半球状のルーネベルグレンズと、このレンズの球の2分断面部に沿わせるレンズ径より
も大サイズの電波反射板と、アンテナ素子と、このアンテナ素子を保持する保持具とからなる電波レンズアンテナ装置に、ルーネベルグレンズの表面に対する雨、雪、氷の付着又は付着後の滞留や流水を防ぐ氷雪水防止手段を設けたことを特徴とする電波レンズアンテナ装置。
【請求項2】
前記氷雪水防止手段が、電波レンズアンテナ装置の一部を覆うカバーからなる請求項1に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項3】
前記カバーが、前記反射板を地面に対して起立させた状態においてルーネベルグレンズの全体を覆い、かつ、そのカバーの上部の傾斜角がルーネベルグレンズの上部の傾斜角よりも大きくなっている請求項2に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項4】
前記カバーを、前記反射板を地面に対して起立させた状態においてルーネベルグレンズを覆う半球状の第1カバーと、この第1カバーの上部を覆う第2カバーとで構成し、第2カバーの上部の傾斜角を第1カバーの上部の傾斜角よりも大きくした請求項2に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項5】
前記第2カバーの下端を、レンズから離反させてレンズの中央よりも下側まで延ばした請求項4に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項6】
前記カバーが、前記反射板を地面に対して水平にした状態においてルーネベルグレンズの上部を覆い、そのカバーの表面の傾斜角がルーネベルグレンズの表面の傾斜角よりも大きくなっている請求項2に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項7】
前記カバーが、前記反射板を地面に対して水平にした状態においてルーネベルグレンズを覆う半球状の第1カバーと、この第1カバーの上部を覆う第2カバーとで構成し、第2カバーの上部の傾斜角を第1カバーの上部の傾斜角よりも大きくした請求項2に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項8】
前記氷雪水防止手段が、ルーネベルグレンズを覆うカバーの表面に堰堤を設けて構成され、その堰堤が、アンテナ素子とレンズ中心とを結ぶ線よりも上側にあり、かつ、所定の範囲に横に延びて設けられている請求項1に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項9】
前記堰堤が、凹状、凸状、表面段差部のいずれかで構成されている請求項8に記載の
電波レンズアンテナ装置。
【請求項10】
前記堰堤の位置が、カバー表面のアンテナ素子と対面する部位の上方で地面からの高さが高く、そこから両端に向かって地面からの高さが低くなっている請求項8に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項11】
前記堰堤の表面に撥水処理を施した請求項8に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項12】
前記氷雪水防止手段を、アンテナ素子とルーネベルグレンズとの間に配置してアンテナ素子とルーネベルグレンズのアンテナ素子に対面した領域の表面を覆うカバーで構成した請求項1に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項13】
前記氷雪水防止手段が、前記反射板を地面に対して起立させた状態においてルーネベル
グレンズの半径よりも外側に突出してルーネベルグレンズの上部に配置されるひさしからなる請求項1に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項14】
前記反射板を地面に対して垂直に起立した位置から前方に傾け、この傾いた反射板を前記ひさしとして兼用した請求項13に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項15】
前記氷雪水防止手段が、アンテナ装置の一部を覆うカバーを設け、そのカバーの表面を撥水又は親水処理又はその双方の処理を施して構成される請求項1に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項16】
前記氷雪水防止手段が、ルーネベルグレンズを覆う半球状カバーを設け、そのカバーの天頂部を親水処理し、かつ、天頂部を除く上部を撥水処理して構成される請求項15に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項17】
前記氷雪水防止手段が、アンテナ装置の一部を覆うカバーを設け、そのカバーの表面に、疎水部が親水部の中に島状に点在するように親水処理と撥水処理を施して構成される請求項15に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項18】
前記疎水部の面積を親水部の面積よりも大きくした請求項17に記載の電波レンズアンテナ装置。
【請求項19】
前記カバーが、合成樹脂、ゴム、繊維、硝子又はそれらの材料の複合物で形成されている請求項2〜18のいずれかに記載の電波レンズアンテナ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate


【公開番号】特開2008−86049(P2008−86049A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324673(P2007−324673)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【分割の表示】特願2004−338953(P2004−338953)の分割
【原出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(597003561)ジェイサット株式会社 (6)
【Fターム(参考)】