説明

電波吸収体及びその製造方法

【課題】 水分の影響が小さく抑えられる電波吸収体を提供する。
【解決手段】 電波吸収体1は、SiO2を70質量%よりも多く含む粘土に電波吸収材料を混合してなる素地を焼成して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ETC(Electronic Toll Collection System)、特にトンネル内に設置されたETCなどで用いられる電波吸収体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ETCは、車両に設置されたETC車載器と有料道路の料金所に設置された路側アンテナとの間で無線通信を行い、それによって車両を停止することなく通行料金を支払うシステムである。
【0003】
このようなETCでは、通信周波数として5.8GHz帯の信号が使用されているが、料金所のゲートの出入口の壁面などで反射した信号が誤動作の原因とならないように、5.8GHzの信号を吸収する電波吸収体のタイル等が壁面に貼設されている。
【0004】
特許文献1には、誘電体層たる無機質窯業系建材層の表面に抵抗膜層が形成されている一方、裏面に電波反射材層が形成された電波吸収建材であって、抵抗膜層は、それを形成するための原料を含有してなる塗料を誘電体層の一方の表面上に成膜することで形成されたものが開示されている。そして、これによれば、電波吸収が全体に均一にできる、と記載されている。
【0005】
特許文献2には、電波吸収材料を含む材料によって構成され、電波が入射する第1の面、これとは反対側の第2の面、および第1の面と第2の面とを連結する側面を有する不燃性の電波吸収層を備え、更に、電波吸収層の第1の面を覆うように配置され電波吸収層を保護すると共に光を反射する光反射層を備えた電波吸収用タイルであって、全体が板状をなし、電波吸収層の第2の面に対向するように電波反射層が配置されたときに電波吸収機能を発揮するものが開示されている。そして、これによれば、電波吸収機能を発揮可能であると共に、不燃性で、光を多く反射し、且つ、構造物に設けるのに適している、と記載されている。
【特許文献1】特開2001−262732号公報
【特許文献2】特開2004−132065号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電波吸収体には、フェライトのような電波吸収材料が混入されているが、一般に、電波吸収材料は、水分の存在下において吸収波長がシフトするという特性を有する。そして、例えば、ETCの場合、ゲートの壁面に貼設された電波吸収体のタイルの吸収波長がシフトすると、ゲートの壁面に当たった5.8GHzの信号が吸収されずに反射され、それによって誤動作が生じる、という虞がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水分の影響が小さく抑えられる不燃性を有する電波吸収体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明は、SiO2を70質量%よりも多く含む粘土に例えばフェライトなどの電波吸収材料を混合してなる素地を焼成して形成された電波吸収体である。
【0009】
上記の構成によれば、吸水率が低いものとなるので、水分の影響が小さく抑えられることとなり、それによって電波吸収材料の水分の存在下における吸収波長のシフトを抑えることができる。このように、吸水率が低いのは、素地の母材となる粘土がSiO2を70質量%よりも多く、一般の瓦用粘土に比べるとSiO2の含有量が多いということに起因しているのではないかと考えられる。かかる観点より、粘土がSiO2を80質量%以上含んでいることがより好ましい。また、その上限として98質量%以下であるのがよい。
【0010】
また、不燃性のセラミックスで形成されているので、例えば、トンネル内に設けられたETCに用いたような場合、不所望の火災が発生したときであっても、有毒ガスの発生や延焼を起こさない。
【0011】
本発明の電波吸収体は、上記粘土がAl23を10質量%よりも少なく含むものであってもよい。
【0012】
低吸水率化には、Al23の含有量が少ないことも影響すると考えられる。粘土のAl23の含有量が10質量%よりも少ないというのは、一般の瓦用粘土に比べると極めて低い。また、その下限として1質量%以上であるのがよい。
【0013】
その他、上記粘土には、Fe23(3質量%以下)、MnO2、K2Oが含まれていてもよい。
【0014】
本発明の電波吸収体は、表面に焼成後に設けられた着色層を有するものであってもよい。
【0015】
セラミックスの電波吸収体の表面を着色する方法として、素地の表面に釉を塗るというものがあるが、これでは、電波吸収材料の電波吸収特性が影響を受けることがある。しかしながら、上記の構成では、着色層が焼成後に設けられたものであるので、その電波吸収材料への影響を排除することができる。
【0016】
着色層は、ペンキなどの塗料、溶剤に金属粒子を分散させた塗料などである。特に好適なのが、白色が自動車などのライトを反射させるということから白色塗料にガラスビーズを混合した再帰反射塗料である。
【0017】
本発明の電波吸収体は、ETC用途に好適である。
【0018】
本発明の電波吸収体は、SiO2を70質量%よりも多く含む粘土に電波吸収材料を混合してなる素地を作成し、該素地を焼成することで製造されるが、その焼成を1200℃以上の雰囲気温度で行うことが好ましい。
【0019】
SiO2の含有量が70質量%以下である粘土で形成されたものであれば、1100℃前後の雰囲気温度での焼成で充分であるが、本発明の電波吸収体のようにSiO2を70質量%よりも多く含む粘土で形成されたもののであれば、融点の高いSiO2を多く含むので、1200℃以上の雰囲気温度で充分な焼成が行われ、それが保持する特性を充分に発揮させることができる。
【0020】
また、上記素地を、押出成形で板状に成形したもので構成することが好ましい。
【0021】
このようにすると、柱状体をスライスして製造したものに比較して、製造される電波吸収体の表面の傷が少なく、また、強い配向が得られるので、それに伴って電波吸収材料の配向性が均一となり、その結果、電波吸収特性が均一で安定なものとなる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、吸水率が低いものとなるので、水分の影響が小さく抑えられることとなり、それによって電波吸収材料の水分の存在下における吸収波長のシフトを抑えることができる。
【0023】
また、不燃性のセラミックスで形成されているので、例えば、トンネル内に設けられたETCに用いたような場合、不所望の火災が発生したときであっても、有毒ガスの発生や延焼を起こさない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係る電波吸収体1を示す。
【0026】
本発明の実施形態に係る電波吸収体1は、一辺が約50mm乃至約200mmの正方形で、厚さが約4〜5mmのパネル状に形成されており、ETCのゲートの出入口の電波が反射する箇所に貼設されるタイルとして用いられるものである。
【0027】
この電波吸収体1は、粘土に電波吸収材料を混合してなる素地を焼成し、その焼成後のセラミックス板2の表面に白色の着色層3が設けられたものである。粘土と電波吸収材料との混合質量割合は、粘土:フェライト=(70〜80):(30〜20)である。
【0028】
粘土は、陶器用粘土と磁器用粘土との間の性質を有するせっ器質のものである。また、この粘土は、例えば組成が、SiO2:84質量%、Al23:2.8質量%、Fe23:2.6質量%、MnO2:0.02質量%、MgO:0.15質量%、K2O:0.22質量%、及び、残部約10質量%であり、SiO2の含有量が70質量%よりも多く(好ましくは80質量%以上)98質量%以下であり、Al23:の含有量が10質量%よりも少ない(1質量%以上)、つまり、一般の瓦用粘土に比べるとSiO2の含有量が多く、Al23の含有量が少ない。
【0029】
電波吸収材料は、例えば、フェライト粉末、金属磁性粉末、金属粉末、金属酸化物粉末、金属繊維、金属酸化物繊維、カーボングラファイト粉末、カーボンブラック粉末、カーボン繊維等である。
【0030】
着色層3は、例えば、道路標識に用いられる塗料、具体的には、キクテック社製のキクスイラインKL−EW100にガラスビーズを散らしたものやシンロイヒ社製のビームライト#300などの塗料が表面に塗布されて乾燥されることで形成されたものである。
【0031】
この電波吸収体1は、ETC用途に用いられるものであるので、厚さ及び粘土と電波吸収材料との混合質量割合が適切に設定され、それによって5.8GHzの信号に対する電波吸収特性が所定のもの、具体的には、図2に示すように、円偏波で入射角0〜80°で入射する5.8GHzの信号に対する反射減衰量が20dB以上となる特性を示す。また、この電波吸収体1は、常態における質量から完全乾燥状態の質量を引き、それを常態における質量で除して得られた百分率である吸水率が1.5質量%以下である。
【0032】
以上のような構成の電波吸収体1によれば、吸水率が低いので、水分の影響が小さく抑えられることとなり、それによって電波吸収材料の水分の存在下における吸収波長のシフトを抑えることができる。従って、ETCのゲートに貼設された電波吸収体1の吸収波長がシフトし、ゲートに当たった5.8GHzの信号が吸収されずに反射され、それによって誤動作が生じる、といった事態を防止することができる。
【0033】
また、不燃性のセラミックスで形成されているので、例えば、トンネル内に設けられたETCに用いたような場合、不所望の火災が発生したときであっても、有毒ガスの発生や延焼を起こさない。
【0034】
次に、この電波吸収体1の製造方法について説明する。
【0035】
まず、図3(a)に示すように、粘土と電波吸収材料と水とを混合して(例えば、粘土68質量%とフェライト32質量%との混合物に、それらの質量和に対して25質量部の水を加えて混ぜ合わせる。)、それを常圧式或いは真空式の土練機4に投入して混練し、幅が約50mm乃至約200mmで且つ厚さが約4〜5mmの正方形断面の板状体5を押出成形する。
【0036】
次いで、図3(b)に示すように、板状体5を長さ約50mm乃至約200mmの素地6に切り分ける。
【0037】
次いで、図3(c)に示すように、板状の素地6を加熱炉に入れ、それらを焼成する。ここで、例えば、加熱炉の炉内の雰囲気温度を、昇温速度100℃/hとして1200乃至1300℃まで昇温させ、最高温度常態で1時間保持した後、降温速度100℃/hとして室温まで降温させる。このとき、素地6の焼成によりセラミックス板2が得られる。得られるセラミックス板2は、素地6の状態から比べると体積が約1割程度減って緻密な構造となる。SiO2の含有量が70質量%以下である粘土で形成されたものであれば、1100℃前後の雰囲気温度での焼成で充分であるが、上記のようにSiO2を70質量%よりも多く含む粘土で形成されたもののであれば、融点の高いSiO2を多く含むので、1200℃以上の雰囲気温度で充分な焼成を行うことで、それが保持する特性を充分に発揮させることができる。
【0038】
次いで、図3(d)に示すように、加熱炉から取り出したパネル状のセラミックス板2の表面に塗料を塗布して乾燥させることにより白色の着色層3を形成する。セラミックス板2の表面を着色する方法として、素地の表面に釉を塗るというものがあるが、これでは、電波吸収材料の電波吸収特性が影響を受けることがある。しかしながら、このように、焼成後にセラミックス板2の表面に着色層3を設けるので、その電波吸収材料への影響を排除することができる。
【0039】
以上のようにして、電波吸収体1が製造される。このように押出成形で板状体5を成形し、これを切り分けて製造された電波吸収体1は、柱状体をスライスして製造したものに比較して表面の傷が少なく、また、強い配向が得られるので、それに伴って電波吸収材料の配向性が均一となり、その結果、電波吸収特性が均一で安定である。
【0040】
なお、上記実施形態では、ETCのゲートの出入口の電波が反射する箇所に貼設されるタイルとして用いられる電波吸収体としたが、特にこれに限定されるものではなく、その他の用途に用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、ETCなどで用いられる電波吸収体及びその製造方法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】電波吸収体の斜視図である。
【図2】入射角と反射減衰量との関係を示すグラフである。
【図3】電波吸収体の製造方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0043】
1 電波吸収体
2 セラミックス板
3 着色層
4 土練機
5 板状体
6 素地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2を70質量%よりも多く含む粘土に電波吸収材料を混合してなる素地を焼成して形成されたことを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
請求項1に記載された電波吸収体において、
上記粘土がAl23を10質量%よりも少なく含むことを特徴とする電波吸収体。
【請求項3】
請求項1に記載された電波吸収体において、
表面に焼成後に設けられた着色層を有することを特徴とする電波吸収体。
【請求項4】
請求項1に記載された電波吸収体において、
上記電波吸収材料がフェライトであることを特徴とする電波吸収体。
【請求項5】
請求項1に記載された電波吸収体において、
ETC用であることを特徴とする電波吸収体。
【請求項6】
SiO2を70質量%よりも多く含む粘土に電波吸収材料を混合してなる素地を作成し、該素地を焼成することを特徴とする電波吸収体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載された電波吸収体の製造方法において、
上記焼成を1200℃以上の雰囲気温度で行うことを特徴とする電波吸収体の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載された電波吸収体の製造方法において、
上記素地を、押出成形で板状に成形したもので構成することを特徴とする電波吸収体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−73759(P2006−73759A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254847(P2004−254847)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】