説明

電波透過カバーおよびその製造方法

【課題】耐スクラッチ性および意匠性に優れ安価に製造されてなる電波透過カバーおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】電波透過カバーを、意匠面35と、意匠面を覆う2つの層(第1層10、第2層20)とで構成し、第1層10の材料を第1のアクリル樹脂を含む材料にし、第2層20の材料を第2のアクリル樹脂を含む材料にする。そして、第1のアクリル樹脂のビカット軟化点が第2のアクリル樹脂のビカット軟化点よりも高く、第2のアクリル樹脂のメルトフローインデックスが第1のアクリル樹脂のメルトフローインデックスよりも大きくなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電波レーダ装置の前側に配設される電波透過カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
オートクルーズシステムは、車両前側に搭載されているセンサによって前方車両と自車との車間距離や相対速度を測定し、この情報を基にスロットルやブレーキを制御して自車を加減速し、車間距離をコントロールする技術である。このオートクルーズシステムは、近年、渋滞緩和や事故減少を目指す高度道路交通システム(ITS)の中核技術の一つとして注目されている。
【0003】
オートクルーズシステムに使用されるセンサとしては、一般に、レーザレーダやミリ波レーダが使用されている。例えばミリ波レーダは、30GHz〜300GHzの周波数を持ち1〜10mmの波長を持つミリ波を送信し、かつ、対象物にあたって反射したミリ波を受信することで、この送信波と受信波の差から前方車両と自車との車間距離や相対速度を測定する。
【0004】
車両用電波レーダ装置は、一般に、フロントグリルの後側に配置される。フロントグリルは、肉厚が一定ではなく、金属製であるかまたは表面に金属メッキ層が形成されているため、電波の進路に干渉する。このため、フロントグリルのなかで車両用電波レーダ装置の前側に相当する部分に窓部を設け、この窓部に樹脂製の電波透過カバーを嵌め込む技術が提案されている。
【0005】
電波透過カバーには、種々の意匠を表示するための意匠面を設けるのが一般的である。また、この意匠面は金属蒸着や印刷などによって形成される意匠層の表面からなるのが一般的である。意匠層は比較的薄肉の層であるため、意匠層の前面と後面とは、それぞれ、補強用の樹脂層で覆う必要がある。また、少なくとも、意匠層の前面を覆う樹脂層の材料としては、透明樹脂を選択する必要がある。意匠層に由来する意匠を車両の前方に表示するためである。
【0006】
意匠層の前面を覆う樹脂層(前側層と呼ぶ)の材料としては、一般にポリカーボネート樹脂が用いられる。一方、意匠層の後面を覆う樹脂層(後側層と呼ぶ)の材料としては、一般にAES樹脂が用いられる。AES樹脂の比誘電率がポリカーボネート樹脂の比誘電率と近似しているためである。
【0007】
ところで、ポリカーボネート樹脂は耐スクラッチ性に劣る。このため、前側層の前面は、耐スクラッチ性に優れたコート層で覆う必要がある。コート層の材料としては、シリコン系材料に代表される透明色の塗料が用いられている。しかし、透明色の前側層に同じく透明色の塗料を塗装する場合には、僅かな気泡や塗装ムラが発生するだけで意匠性が大きく損なわれる。したがってこの場合には、製造不良が多発して電波透過カバーの製造コストが増大する問題があった。
【0008】
また、前側層の材料としてポリカーボネート樹脂を用い、後側層の材料としてAES樹脂を用いる場合には、前側層と後側層との間で剥離が生じる場合がある。ポリカーボネート樹脂とAES樹脂とは異材であるため、両者の線膨張係数は異なり、電波透過カバーが暖められるとバイメタル効果によって両者が剥離するためである。前側層と後側層とが剥離すると、電波透過カバーの意匠性が大きく損なわれる。
【0009】
さらに、ポリカーボネート樹脂とAES樹脂とは相溶性が低い。このため両者を強固に一体化するためには、両者にアンダーカット形状を形成して機械的に一体化する必要がある。この場合には、前側層を形成するための成形型や後側層を形成するための成形型に、スライドコアを設ける必要がある。スライドコアを持つ成形型は、形状が複雑であり高価である。従ってこの場合には電波透過カバーの製造コストが高くなる問題もあった。
【0010】
ところで、前側層の材料と後側層の材料とを同じにすれば、前側層と後側層との剥離を抑制できると考えられる。しかしこの場合には、前側層(または後側層)を形成する際の熱によって後側層(または前側層)が軟化し変形する。このため、意匠性に優れた電波透過カバーを得難い問題があった。同じ材料からなる前側層と後側層とを別々に成形し、前側層と後側層とを接着して一体化する技術もある(例えば、特許文献1参照)。しかし、この場合には前側層と後側層とを寸法精度高く成形する必要があり、意匠性に優れた電波透過カバーを安価に提供できない問題があった。
【特許文献1】特開2002−135030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、耐スクラッチ性および意匠性に優れ安価に製造されてなる電波透過カバーおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の電波透過カバーは、車両用電波レーダ装置の前側に配設され、前面が車両の前端側に露出する電波透過カバーであって、第1のアクリル樹脂を含む材料からなる第1層と、第2のアクリル樹脂を含む材料からなり第1層の片面側に形成されている第2層と、第1層と第2層との間に形成されている意匠面と、を持ち、第1のアクリル樹脂のビカット軟化点は第2のアクリル樹脂のビカット軟化点よりも高く、第2のアクリル樹脂のメルトフローインデックスは第1のアクリル樹脂のメルトフローインデックスよりも大きいことを特徴とする。
【0013】
本発明の電波透過カバーは、下記の(1)〜(3)の少なくとも一つを持つのが好ましい。
(1)上記第1のアクリル樹脂のビカット軟化点は115℃以上であり、上記第2のアクリル樹脂のビカット軟化点は90℃以下である。
(2)上記第1のアクリル樹脂のメルトフローインデックスは2以下であり、上記第2のアクリル樹脂のメルトフローインデックスは10以上である。
(3)上記第1層および上記第2層は光を透過し、上記第1層および上記第2層の後側に光源が配置されている。
【0014】
上記課題を解決する本発明の電波透過カバーの製造方法は、車両用電波レーダ装置の前側に配設され、前面が車両の前端側に露出する電波透過カバーを製造する方法であって、第1のアクリル樹脂を含む材料からなる第1層を形成する第1層形成工程と、第2のアクリル樹脂を含む材料からなる第2層を第1層の片面側に形成する第2層形成工程と、を持ち、第1のアクリル樹脂として、第2のアクリル樹脂よりもビカット軟化点の高いものを用い、第2のアクリル樹脂として、第1のアクリル樹脂よりもメルトフローインデックスの大きなものを用いることを特徴とする。
【0015】
本発明の電波透過カバーの製造方法は、下記の(4)〜(6)の少なくとも一つを持つのが好ましい。
(4)上記第1のアクリル樹脂のビカット軟化点は115℃以上であり、上記第2のアクリル樹脂のビカット軟化点は90℃以下である。
(5)上記第1のアクリル樹脂のメルトフローインデックスは2以下であり、上記第2のアクリル樹脂のメルトフローインデックスは10以上である。
(6)上記意匠面は、上記第1のアクリル樹脂および上記第2のアクリル樹脂とは異なる材料からなり上記第1層と上記第2層との間に形成されている意匠層の表面からなり、上記第1層形成工程と上記第2層形成工程との間に、上記第1層の片面側に意匠層を形成する意匠層形成工程を持ち、上記第1層形成工程と意匠層形成工程との間に、シリコン系材料からなる剥離層を上記第1層の片面側に部分的に形成する剥離層形成工程を含み、意匠層形成工程と上記第2層形成工程との間に、意匠層のなかで剥離層上に形成された部分を剥離層とともに除去する剥離層除去工程を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電波透過カバーにおける第1層には第1のアクリル樹脂が含まれ、第2層には第2のアクリル樹脂が含まれている。アクリル樹脂は耐スクラッチ性に優れるため、第1層または第2層はコート層で覆わなくても良い。このため、本発明の電波透過カバーは、耐スクラッチ性に優れかつ安価に製造できる。
【0017】
また、第1層に含まれている第1のアクリル樹脂と第2層に含まれている第2のアクリル樹脂とは共にアクリル樹脂の一種である。したがって第1のアクリル樹脂の線膨張係数と第2のアクリル樹脂の線膨張係数とはほぼ同じである。このため本発明の電波透過カバーは、第1層と第2層との剥離を抑制でき、意匠性に優れる。
【0018】
また、第1のアクリル樹脂と第2のアクリル樹脂とは共にアクリル樹脂の一種である。このため、第1のアクリル樹脂と第2のアクリル樹脂とは相溶性に優れる。したがって本発明の電波透過カバーは、第1層および第2層にアンダーカット形状を設けなくても、第1層と第2層とを強固に一体化できる。よって、本発明の電波透過カバーは安価に製造できる。
【0019】
なお、第1のアクリル樹脂と第2のアクリル樹脂との組み合わせによっては、両者の軟化点が一致する可能性がある。第1のアクリル樹脂の軟化点と第2のアクリル樹脂の軟化点とが一致すると、第1層の片面に第2層を形成する際の熱で、第1層が軟化し変形する。この場合には電波透過カバーの意匠性が低下する。
【0020】
本発明の電波透過カバーにおいては、第1のアクリル樹脂のビカット軟化点は、第2のアクリル樹脂のビカット軟化点よりも高い。換言すると、第1のアクリル樹脂が軟化する温度は第2のアクリル樹脂が軟化する温度よりも高い。このため、第2層を形成する際の熱による第1層の変形を抑制できる。
【0021】
また、第2のアクリル樹脂のメルトフローインデックスは第1のアクリル樹脂のメルトフローインデックスよりも大きい。換言すると、第2のアクリル樹脂は第1のアクリル樹脂に比べて軟化時の流動性に優れる。このため、第2層を形成するのに要する時間を短縮でき、第1層に加わる熱量(総量)を小さくできる。このことによっても、第1層の変形を抑制できる。
【0022】
上記(1)を持つ本発明の電波透過カバーでは、第1のアクリル樹脂のビカット軟化点と第2のアクリル樹脂のビカット軟化点との差が大きいため、第1層の変形をさらに抑制できる。よって、上記(1)を持つ電波透過カバーは、より一層意匠性に優れる。
【0023】
上記(2)を持つ本発明の電波透過カバーでは、第1のアクリル樹脂のメルトフローインデックスと第2のアクリル樹脂のメルトフローインデックスとの差が大きいため、第1層の変形をさらに抑制できる。よって、上記(2)を持つ電波透過カバーは、より一層意匠性に優れる。
【0024】
ところで、本発明の電波透過カバーにおける第1のアクリル樹脂および第2のアクリル樹脂は共にアクリル樹脂の一種であり、透明色である。このため第1層および第2層は透明色(または半透明色)にできる。透明色または半透明色の第1層および第2層は光を透過するため、このような第1層および第2層の後側に光源を配置し、この光源から第1層および第2層に向けて光を照射すれば、本発明の第1層および第2層を発光させることができる。したがって、上記(3)を持つ本発明の電波透過カバーは意匠性に優れる。
【0025】
本発明の電波透過カバーの製造方法では、先ず第1層を形成し、次いで第2層を形成する。上述したように、第1層の材料(第1のアクリル樹脂)と第2層の材料(第2のアクリル樹脂)とは共にアクリル樹脂の一種であるため、第1層と第2層とは強固に一体化し剥離し難い。また、アクリル樹脂は耐スクラッチ性に優れるため、第1層の前面(または第2層の前面)にコート層を形成する必要はない。このため、本発明の電波透過カバーの製造方法によると、耐スクラッチ性に優れ、第1層と第2層とが強固に一体化されてなる電波透過カバーを安価に製造できる。
【0026】
さらに、第1のアクリル樹脂のビカット軟化点は第2のアクリル樹脂のビカット軟化点よりも高く、第2のアクリル樹脂のメルトフローインデックスは第1のアクリル樹脂のメルトフローインデックスよりも大きいため、第2層を形成する際の熱による第1層の変形を抑制できる。よって、本発明の電波透過カバーの製造方法によると、意匠性に優れた電波透過カバーを製造できる。
【0027】
上記(4)を持つ本発明の電波透過カバーの製造方法によると、第1のアクリル樹脂のビカット軟化点と第2のアクリル樹脂のビカット軟化点との差が大きいため、第1層の変形をさらに抑制でき、より一層意匠性に優れた電波透過カバーを製造できる。
【0028】
上記(5)を持つ本発明の電波透過カバーの製造方法によると、第1のアクリル樹脂のメルトフローインデックスと第2のアクリル樹脂のメルトフローインデックスとの差が大きいため、第1層の変形をさらに抑制でき、より一層意匠性に優れた電波透過カバーを製造できる。
【0029】
上記(6)を持つ本発明の電波透過カバーの製造方法によると、意匠層を部分的に除去することで、意匠層を設けるにもかかわらず、第1層と第2層とが接触する。このため、第1層と第2層とが相溶してより強固に一体化される利点がある。このため、上記(6)を持つ電波透過カバーは、意匠性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
第1のアクリル樹脂および第2のアクリル樹脂は、アクリル樹脂(メタクリル酸樹脂、ポリメチルメタクリレート、PMMAとも呼ばれる)の一種である。なお、本明細書におけるアクリル樹脂は、変性アクリル樹脂(変性メタクリル酸樹脂)を含む。
【0031】
第1のアクリル樹脂および第2のアクリル樹脂は、そのビカット軟化点(ビカット軟化温度とも呼ぶ)やメルトフローインデックス(メルトフローレートとも呼ぶ)に応じて適宜組み合わせることができる。第1のアクリル樹脂としては、ビカット軟化点が高くメルトフローインデックスが小さいものを用いるのが良い。デルペット(R)980N(旭化成ケミカルズ社製、ビカット軟化点123℃)、アルトグラス(R)HT121(アルケマ社製、ビカット軟化点121℃)、プレクシグラス(R)hW55(ダイゼルデグサ社製、ビカット軟化点119℃)等は、何れもビカット軟化点が115℃以上でありメルトフローインデックスが2以下である。このため、第1のアクリル樹脂としては、これらから選択される少なくとも一種を用いるのが好ましい。
【0032】
第2のアクリル樹脂としては、ビカット軟化点が低くメルトフローインデックスが大きいものを用いるのが良い。デルペット(R)560F(旭化成ケミカルズ社製、メルトフローインデックス13)、アクリペット(R)MF(三菱レーヨン社製、メルトフローインデックス14)等は、何れもメルトフローインデックスが10以上であり、ビカット軟化点が90℃以下である。このため、第1のアクリル樹脂としては、これらから選択される少なくとも一種を用いるのが好ましい。
【0033】
本発明の電波透過カバーでは、第1層と第2層との一方が前側層となり、他方が後側層となる。すなわち本発明の電波透過カバーは、第1層を前側に向けても良いし、第2層を前側に向けても良い。また第1層と第2層とを共に透明色にしても良いし、後側層になる方の層を有色にしても良い。アクリル樹脂は透明色であるため、例えば第1層を透明色にするためには、第1層の材料として第1のアクリル樹脂のみを用いれば良い。第1層を有色にするためには、第1層の材料として第1のアクリル樹脂と着色材との混合材料を用いればよい。第2層に関しても同様である。
【0034】
本発明の電波透過カバーには意匠層を設けても良い。電波透過カバーに意匠層を設ける場合には、意匠層の表面が意匠面となる。意匠層は、スクリーン印刷や金属蒸着などの既知の方法で形成できる。第1層と意匠層との間や第2層と意匠層との間に、さらに、プライマー層や保護層などを形成しても良い。
【0035】
また、本発明の電波透過カバーには意匠層を設けなくても良い。例えば、第1層のなかで第2層側の部分を凹凸形状にし、第2層のなかで第1層側の部分を第1層の凹凸形状と相補的な凹凸形状にする場合には、第1層と第2層との境界部分に凹凸面からなる意匠面が形成される。この場合には、意匠層を設けなくても第1層と第2層との間に意匠面を形成できる。なおこの場合には、第1層と第2層とのなかで後側層になる方の層を有色にすることで、意匠面により表示される意匠がより鮮明になる。
【0036】
本発明の電波透過カバーの製造方法において、第1層および第2層を形成する方法としては、インサート成形法や2色成形法などの一般的な樹脂成形法を使用できる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の電波透過カバーを図面を基に説明する。
【0038】
(実施例1)
実施例1の電波透過カバーは上記(1)〜(2)を持つ。また、実施例1の電波透過カバーの製造方法は上記(4)〜(5)を持つ。実施例1の電波透過カバーは、車両のフロントグリルに設けられている開口に嵌め込まれる。また、実施例1の電波透過カバーの後側には、車両用ミリ波レーダ装置が配設される。実施例1の電波透過カバーを模式的に表す正面図を図1に示す。実施例1の電波透過カバーを図1中A−A位置で切断した様子を模式的に表す断面図を図2に示す。図2の要部拡大図を図3に示す。以下実施例1において、前、後とは、図2に示す前、後を指す。
【0039】
実施例1の電波透過カバー1は、図1に示すように略矩形の板状をなす。図2に示すように、この電波透過カバー1は第1層10と第2層20とを持つ。第1層10は前側層であり、電波透過カバー1の前側部分を構成する。第2層20は後側層であり、電波透過カバー1の後側部分を構成する。第1層10の後側部分は凸部11と凹部12とを持つ凹凸形状をなす。また、第2層20の前側部分は、第1層10の凹凸形状とほぼ相補的な凹凸形状をなす。実施例1の電波透過カバー1における第1層10の材料は、デルペット(R)980N(旭化成ケミカルズ社製、ビカット軟化点123℃、メルトフローインデックス1.6)である。このデルペット(R)980Nは、本発明における第1のアクリル樹脂に相当する。また、第2層20の材料は、アクリペット(R)MF(三菱レーヨン社製、ビカット軟化点89℃、メルトフローインデックス14)と、カーボンブラックとの混合材料である。アクリペット(R)MFは、本発明における第2のアクリル樹脂に相当する。カーボンブラックは着色材である。なお、実施例1の電波透過カバー1において、カーボンブラックは、第2のアクリル樹脂100質量部に対して0.3質量部配合されている。
【0040】
図3に示すように、第1層10と第2層20との間には、第1の意匠層31と、第2の意匠層32と、プライマー層33と、保護層34と、が形成されている。第1の意匠層31は黒色塗料を材料とし、凸部11の後面にスクリーン印刷されている。第1の意匠層31の後面にはプライマー層33が形成されている。プライマー層33は、ウレタンを材料とし塗装されている。プライマー層33の後面には第2の意匠層32が形成されている。第2の意匠層32は、金属(インジウム)を材料とし、蒸着されている。第2の意匠層32の後面には保護層34が形成されている。保護層34は、ウレタンを材料とし塗装されている。実施例1の電波透過カバー1における意匠面35は、第2の意匠層32の前表面の一部(凹部12の後面に形成されている部分)と、第1の意匠層31の前表面とからなる。
【0041】
実施例1の電波透過カバー1を前側から見ると、凹部12に対応する位置(図1中a位置)には第2の意匠層32に由来する金属色が表示され、それ以外の部分(凸部11に対応する位置、図1中b位置)には第1の意匠層31に由来する黒色が表示される。第2の意匠層32は凹部12の後面に形成されているため、第1の意匠層31よりも前側に配置される。このため、意匠面35のなかで第2の意匠層32の表面で構成される部分は、前側に浮き上がっているように表示される。また、第2の意匠層32の後面は黒色の第2層20で覆われているため、第2の意匠層32に由来する金属光沢は鮮明に表示される。
【0042】
実施例1の電波透過カバー1の製造方法を以下に説明する。
【0043】
(第1層形成工程)
第1層用の成形型に第1層用のキャビティを形成した。第1のアクリル樹脂を260℃に加熱して軟化させた。軟化した第1のアクリル樹脂を第1層用のキャビティに射出することで、第1層10を射出成形した。
【0044】
(第1の意匠層形成工程)
第1層形成工程で射出成形した第1層10を、第1層用の成形型から取り出した。そして、凸部11の後面に黒色塗料からなる第1の意匠層の材料をスクリーン印刷し乾燥させることで、第1の意匠層31を形成した。
【0045】
(プライマー層形成工程)
凹部12の後面と、第1の意匠層形成工程で得た第1の意匠層31の後面とにウレタンからなるプライマー層の材料を塗装し乾燥させることで、プライマー層33を形成した。
【0046】
(第2の意匠層形成工程)
プライマー層形成工程で形成したプライマー層33の後面に、インジウムからなる第2の意匠層の材料を真空蒸着することで、第2の意匠層32を形成した。第2の意匠層32と第1層10とは、プライマー層33によって強固に固着された。
【0047】
(保護層形成工程)
第2の意匠層形成工程で形成した第2の意匠層32の裏面に、ウレタンからなる保護層の材料を塗装し乾燥させることで、保護層34を形成した。
【0048】
(第2層形成工程)
第1層形成工程〜保護層形成工程で得た中間成形品の後面に、インサート成形法によって第2層20を形成した。詳しくは、この中間成形品を第2層用の成形型に載置した。そして、第2層用の成形型の型面と中間成形品の後面(すなわち保護層34の後面)との間に第2層用のキャビティを形成した。第2のアクリル樹脂とカーボンブラックとの混合材料を200℃に加熱して、第2のアクリル樹脂を軟化させた。そして、軟化したこの混合材料を第2層用のキャビティに射出することで、第2層20を射出成形した。なお、第2の意匠層32の後面は保護層34によって覆われている。このため第2の意匠層32は、第2層20を射出成形する際にも殆ど変形しなかった。
【0049】
また、第1のアクリル樹脂のビカット軟化点は第2のアクリル樹脂のビカット軟化点よりも高いため、第1層10は第2層20を形成する際にも殆ど変形しなかった。このため、上述した第1層形成工程〜第2層形成工程によって得られた実施例1の電波透過カバー1は、意匠性に優れたものであった。また、実施例1の電波透過カバー1はインサート成形法を用いて形成されている。インサート成形法によると成形精度の高い成形品を容易に得ることができるため、実施例1の電波透過カバー1は安価に製造されてなる。
【0050】
また、第2のアクリル樹脂のメルトフローインデックスは、第1のアクリル樹脂のメルトフローインデックスよりも大きいため、第2のアクリル樹脂は第1のアクリル樹脂に比べて軟化時の流動性に優れる。このため、第2層20を形成するのに要する時間は短く、第2層20を形成する際に第1のアクリル樹脂に加わる熱量(総量)は小さい。さらに、第2のアクリル樹脂は軟化時の流動性に優れるため、流動抵抗が小さい。よって第2層20を形成する際に第1層10に加わる外力は小さい。このことによっても、第1層10の変形は抑制された。
【0051】
また、第1のアクリル樹脂と第2のアクリル樹脂とは、共にアクリル樹脂の一種からなるため、第1層10と第2層20とは剥離し難い。このことによっても、実施例1の電波透過カバー1は意匠性に優れる。
【0052】
(実施例2)
実施例2の電波透過カバー1は上記(1)〜(2)を持つ。また、実施例2の電波透過カバー1の製造方法は上記(4)〜(5)を持つ。実施例2の電波透過カバーは、第1の意匠層31の代りにアクリル樹脂からなる第3層を持つこと以外は実施例1の電波透過カバーと同じである。実施例2の電波透過カバーを図1中A−Aと同位置で切断した様子を模式的に表す要部拡大図を図4に示す。以下実施例2において、前、後とは、図4に示す前、後を指す。
【0053】
実施例2の電波透過カバー1は第3層40を持つ。第3層40はアクリル樹脂の一種であるPMMAと、カーボンブラックとの混合材料からなる。以下、第3層40の材料となるアクリル樹脂を第3のアクリル樹脂と呼ぶ。第3のアクリル樹脂のビカット軟化点は、第1のアクリル樹脂のビカット軟化点よりも低く、第2のアクリル樹脂のビカット軟化点と同程度である。また、第3のアクリル樹脂のメルトフローインデックスは、第1のアクリル樹脂のメルトフローインデックスよりも大きく、第2のアクリル樹脂のメルトフローインデックスと同程度である。
【0054】
第3層40は、実施例1の電波透過カバーにおける第1の意匠層31と同様に、第1層10の凸部11の後面に形成されている。第1層10と第3層40とは、インサート成形法によって一体に形成されている。実施例2の電波透過カバー1は、第1層10および第3層40に加えて、実施例1の電波透過カバーと同様のプライマー層33、第2の意匠層32、保護層34および第2層20を持つ。
【0055】
実施例2の電波透過カバー1の製造方法は、第1の意匠層形成工程に代えて第3層形成工程を持つ。第3層形成工程を以下に説明する。
【0056】
(第3層形成工程)
第1層形成工程で射出成形した第1層10を、第1層用の成形型から取り出した。この第1層10を第3層用の成形型に載置し、第1層10の後面と第3層用の成形型の型面との間に第3層用のキャビティを形成した。第3のアクリル樹脂とカーボンブラックとの混合材料を200℃に加熱して、第3のアクリル樹脂を軟化させた。そして、軟化したこの混合材料を第3層用のキャビティに射出することで、第3層40を射出成形した。この第3層形成工程によって、第1層10と第3層40とが一体化された中間成形品を得た。
【0057】
そして、第3層形成工程で得た中間成形品を、実施例1と同様のプライマー層形成工程〜第2層形成工程に供して、第1層10、第3層40、プライマー層33、第2の意匠層32、保護層34および第2層20を持つ実施例2の電波透過カバー1を得た。
【0058】
実施例2の電波透過カバー1は、実施例1の電波透過カバーと同様に、耐スクラッチ性および意匠性に優れ、かつ、安価に製造されてなる。また、実施例2の電波透過カバー1は、第1層10と第3層40とが共にアクリル樹脂の一種からなるため、両者が剥離し難く、強固に一体化されるため、意匠性に優れる。
【0059】
(実施例3)
実施例3の電波透過カバーは上記(1)〜(2)を持つ。また、実施例3の電波透過カバーの製造方法は上記(4)〜(6)を持つ。実施例3の電波透過カバーは、意匠層が部分的に除去され、第1層と第2層とが接触していること以外は実施例1の電波透過カバーと同じである。実施例3の電波透過カバーを図1中A−Aと同位置で切断した様子を模式的に表す要部拡大図を図5に示す。また、実施例3の電波透過カバーの製造方法を説明する説明図を図6に示す。以下実施例3において、前、後とは、図5に示す前、後を指す。
【0060】
実施例3の電波透過カバー1は、第1の意匠層を持たない。また、プライマー層33、第2の意匠層32および保護層34は、凹部12の後面側にのみ形成されている。凸部11の後面(第1層10の後面のなかでプライマー層33、第2の意匠層32および保護層34が形成されていない部分)は、第2層20に接触している。第1層10、第2層20、プライマー層33、第2の意匠層32および保護層34は、それぞれ、実施例1の電波透過カバーにおける第1層10、第2層20、プライマー層33、第2の意匠層32および保護層34と同じ材料からなる。従って、実施例3の電波透過カバー1は、実施例1の電波透過カバーと同様に、耐スクラッチ性および意匠性に優れ、かつ、安価に製造されてなる。
【0061】
実施例3の電波透過カバー1の製造方法は、第1の意匠層形成工程を持たず、剥離層形成工程および剥離層除去工程を持つこと以外は実施例1の電波透過カバーの製造方法と同じである。実施例3の電波透過カバー1の製造方法は、実施例1の電波透過カバーの製造方法と同様の第1層形成工程、プライマー層形成工程、第2の意匠層形成工程、保護層形成工程および第2層形成工程を持つ。剥離層形成工程は第1層形成工程の直後(プライマー層形成工程の直前)に行い、剥離層除去工程は保護層形成工程の直後(第2層形成工程の直前)に行った。以下、実施例3の電波透過カバー1の製造方法における剥離層形成工程および剥離層除去工程を説明する。
【0062】
(剥離層形成工程)
図6(a)に示すように、第1層形成工程で得た第1層10の凸部11の裏面に、シリコンからなる剥離層の材料を塗装し乾燥させることで、剥離層50を形成した。
【0063】
図6(b)に示すように、剥離層形成工程後、実施例1と同様のプライマー層形成工程〜保護層形成工程によって、第1層10の後面側にプライマー層33、第2の意匠層32および保護層34を形成した。プライマー層33、第2の意匠層32および保護層34の一部は、剥離層50の後面側にも形成された。
【0064】
(剥離層除去工程)
図6(c)に示すように、保護層形成工程後、プライマー層33、第2の意匠層32および保護層34のなかで剥離層50上に形成された部分を、剥離層50とともに除去した。剥離層50はシリコンからなるため、剥離層50と第1層10との結合力は小さい。このため剥離層50は第1層10から容易に除去できる。そして、剥離層50上に形成されているプライマー層33、第2の意匠層32および保護層34もまた、剥離層50とともに容易に除去できる。なお、実施例3では剥離層50の材料としてシリコンを用いたが、剥離層50の材料としては剥離特性を持つものを選択すれば良い。例えば、フッ素系樹脂やウレタン系樹脂等が剥離層50の材料として好ましく用いられる。
【0065】
剥離層除去工程後、実施例1と同様の第2層形成工程によって、第1層形成工程〜剥離層除去工程で得た中間成形品60の後面に第2層20を形成した。第2層20は、この中間成形品60の後面全体に形成された。
【0066】
以上の工程で得られた実施例3の電波透過カバー1において、第1層10(凸部11)の後面は第2層20と接触している。このため、第1層10と第2層20とは強固に一体化され、剥離し難い。よって、実施例3の電波透過カバー1は意匠性に優れる。
【0067】
(実施例4)
実施例4の電波透過カバーは上記(1)〜(3)を持つ。また、実施例4の電波透過カバーの製造方法は上記(4)〜(6)を持つ。実施例4の電波透過カバーは、第2層が半透明色であることと、第2層の後側に光源が配置されていること以外は実施例1の電波透過カバーと同じである。実施例4の電波透過カバーを図1中A−Aと同位置で切断した様子を模式的に表す要部拡大図を図7に示す。以下実施例4において、前、後とは、図7に示す前、後を指す。
【0068】
実施例4の電波透過カバーは、カバー本体100と光源101とを持つ。カバー本体100は、第2層20が半透明色であること以外は実施例3の電波透過カバーと同じものである。したがって、実施例4の電波透過カバーは、実施例3の電波透過カバーと同様に、耐スクラッチ性および意匠性に優れ、かつ、安価に製造されてなる。
【0069】
光源101は白色LEDからなり、第2層20の後側に配置されている。光源101には図略の電源が電気的に接続されている。また、光源101と電源との間には図略のスイッチ手段が介在している。スイッチ手段をオン操作すると、光源101がカバー本体100に向けて光を照射する。
【0070】
実施例4の電波透過カバー1では、第2層20の材料として、実施例1と同じ第2のアクリル樹脂と、マイカとの混合材料を用いた。マイカは、第2のアクリル樹脂100質量部に対して0.1質量部配合した。
【0071】
マイカは白色の顔料である。また、第2のアクリル樹脂に対するマイカの配合割合は非常に少ない。このため、実施例4の電波透過カバー1における第2層20は半透明の乳白色になる。このため第2層20は、光源101が照射した光を透過する。第2の意匠層32は金属からなるため光を反射する。第1層10は第1のアクリル樹脂のみからなるため透明色であり、光を透過する。実施例4の電波透過カバー1では、第1層10と第2層20との境界部分X(端面)が発光する。そしてこの光に照らされて第2の意匠層32が輝いて見える。このため、実施例4の電波透過カバー1は意匠性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例1の電波透過カバーを模式的に表す正面図である。
【図2】実施例1の電波透過カバーを図1中A−A位置で切断した様子を模式的に表す断面図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】実施例2の電波透過カバーを図1中A−Aと同位置で切断した様子を模式的に表す要部拡大図である。
【図5】実施例3の電波透過カバーを図1中A−Aと同位置で切断した様子を模式的に表す要部拡大図である。
【図6】実施例3の電波透過カバーの製造方法を説明する説明図である。
【図7】実施例4の電波透過カバーを図1中A−Aと同位置で切断した様子を模式的に表す要部拡大図である。
【符号の説明】
【0073】
1:電波透過カバー 10:第1層 20:第2層
31:第1の意匠層 32:第2の意匠層 33:プライマー層
34:保護層 35:意匠面 40:第3層
50:剥離層 101:光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用電波レーダ装置の前側に配設され、前面が車両の前端側に露出する電波透過カバーであって、
第1のアクリル樹脂を含む材料からなる第1層と、第2のアクリル樹脂を含む材料からなり該第1層の片面側に形成されている第2層と、該第1層と該第2層との間に形成されている意匠面と、を持ち、
該第1のアクリル樹脂のビカット軟化点は該第2のアクリル樹脂のビカット軟化点よりも高く、
該第2のアクリル樹脂のメルトフローインデックスは該第1のアクリル樹脂のメルトフローインデックスよりも大きいことを特徴とする電波透過カバー。
【請求項2】
前記第1のアクリル樹脂のビカット軟化点は115℃以上であり、前記第2のアクリル樹脂のビカット軟化点は90℃以下である請求項1に記載の電波透過カバー。
【請求項3】
前記第1のアクリル樹脂のメルトフローインデックスは2以下であり、前記第2のアクリル樹脂のメルトフローインデックスは10以上である請求項1または請求項2に記載の電波透過カバー。
【請求項4】
前記第1層および前記第2層は光を透過し、前記第1層および前記第2層の後側に光源が配置されている請求項1〜請求項3の何れか一つに記載の電波透過カバー。
【請求項5】
車両用電波レーダ装置の前側に配設され、前面が車両の前端側に露出する電波透過カバーを製造する方法であって、
第1のアクリル樹脂を含む材料からなる第1層を形成する第1層形成工程と、
第2のアクリル樹脂を含む材料からなる第2層を該第1層の片面側に形成する第2層形成工程と、を持ち、
該第1のアクリル樹脂として、該第2のアクリル樹脂よりもビカット軟化点の高いものを用い、
該第2のアクリル樹脂として、該第1のアクリル樹脂よりもメルトフローインデックスの大きなものを用いることを特徴とする電波透過カバーの製造方法。
【請求項6】
前記第1のアクリル樹脂のビカット軟化点は115℃以上であり、前記第2のアクリル樹脂のビカット軟化点は90℃以下である請求項5に記載の電波透過カバーの製造方法。
【請求項7】
前記第1のアクリル樹脂のメルトフローインデックスは2以下であり、前記第2のアクリル樹脂のメルトフローインデックスは10以上である請求項5または請求項6に記載の電波透過カバーの製造方法。
【請求項8】
前記意匠面は、前記第1のアクリル樹脂および前記第2のアクリル樹脂とは異なる材料からなり前記第1層と前記第2層との間に形成されている意匠層の表面からなり、
前記第1層形成工程と前記第2層形成工程との間に、前記第1層の片面側に該意匠層を形成する意匠層形成工程を持ち、
前記第1層形成工程と該意匠層形成工程との間に、シリコン系材料からなる剥離層を前記第1層の該片面側に部分的に形成する剥離層形成工程を含み、
該意匠層形成工程と前記第2層形成工程との間に、該意匠層のなかで該剥離層上に形成された部分を該剥離層とともに除去する剥離層除去工程を含む請求項5〜請求項7の何れか一つに記載の電波透過カバーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−17125(P2009−17125A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175326(P2007−175326)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】