説明

電界イオン顕微鏡又はアトムプローブに用いられる針状体の形成方法及び電界イオン顕微鏡又はアトムプローブに用いられる針状体

【課題】 半導体プロセスや半導体デバイス開発などで用いられる平板状・薄膜状の試料のAPFIM分析を高い再現性・信頼性で効率よく可能にするような針状体を提供する。
【解決手段】 本発明は、基板11と、前記基板上に形成された被分析領域17とを具備する試料10の表面に導電材16を接合して複合体18を得る接合工程と、前記複合体18を、前記被分析領域17の少なくとも一部を備える尖状部と、前記導電材16の少なくとも一部を備え、前記尖状部に接合した支柱部とを具備する針状体に加工する加工工程と、を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に形成された被分析領域の微細構造を電界イオン顕微鏡又はアトムプローブで調べるために用いられる針状体を形成する方法、及び針状体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの微細化や磁気記録の高密度化の進展は材料研究やプロセス技術の進歩に負うところが大きいが、その原動力として分析技術も着実に高度化し続けている。微細化・高密度化の進展の結果、より微小な領域における構造や性質を調べる分析技術が必要になっており、要求される分析領域のサイズはミクロンレベルからナノメートルレベルないし原子レベルまで小さくなりつつある。
【0003】
そうした状況の下、原子レベルでの分析技術として近年注目を集めているものに電界イオン顕微鏡(Field Ion Microscopy、以下、FIMと記す)およびアトムプローブがある。FIM、アトムプローブ共に針状体に加工した試料に1kVから10kVオーダーの高電圧を印加し、先端に生じる高電界を利用して試料先端部分の構造を調べる技術である。
【0004】
FIMにおいては、真空チャンバー内に針状体、検出器等が設置された装置を用い、前記真空チャンバー内にイメージングガスを導入し、針状体に高電圧を印加することにより、導入したイメージングガスが針状体先端近傍においてイオン化し、そのイオンが電界に導かれて対向するマイクロチャネルプレートなどの検出器側に移動し結像する。これを検出器にて検出するものである。これにより針状体先端の構造を原子分解能で観察することができる。
【0005】
また、アトムプローブはこのFIMの機能を拡張した技術である。アトムプローブはFIMと同様、針状体に加工した試料に1kVから10kVオーダーの高電圧を印加し、先端に生じる高電界を利用して試料先端部分の構造を調べる技術の一種で、FIM用の装置に飛行時間型質量分析器を取り付けた装置を用いる。高電界によって針状体先端の原子そのものが電界蒸発することを利用し、その電界蒸発により生じたイオンを質量分析することによって、針状体先端の物質を同定するもので、電界蒸発は試料の先端面から順次起こっていくため、針状体先端からの原子の深さ方向分布を原子レベルの分解能で調べることが可能である。
【0006】
さらに、前記アトムプローブの検出器部分を改良して位置敏感型検出器を導入し、3次元アトムプローブ(tomographic atom probe, position-sensitive atom probeなどの呼び方もある)と呼ばれる技術が登場し、これを用いると試料先端の原子の位置と原子種とを同時に測定できる。すなわち、針状体先端の構造を原子分解能で、3次元的に再構成できる。これは他の分析技術にはない特長であり、注目を集めている。
【0007】
また、微小な引き出し電極を設け試料と引き出し電極との間に高電圧を印加することによって、平板状試料の表面にある微小な突起の先端部分の測定を可能にした走査型アトムプローブ(scanning atom probeまたはlocal-electrode atom probe)も開発されており、これを用いると試料表面における微小な突起の分布と突起部分先端の構造とを同時に調べられるため、従来のアトムプローブ分析とは違った用途に適用できるものと期待されている。
【0008】
以下、FIMと、3次元アトムプローブ分析・走査型アトムプローブを含めたアトムプローブと、を総称してAPFIM(Atom probe field ion microscopy)と記す。
【0009】
APFIMは高電界を利用するため分析する試料はほとんどの場合、金属などの導電性の高い固体である。しかも試料の形状として、一般に先端径100nm前後もしくはそれ以下の針状体になっている必要があると言われている(例えば非特許文献1など参照。)
【0010】
なお、走査型アトムプローブにおいては、試料全体の形状は平板状でも良いが、実際の分析の対象となる突起部分の形状については、やはり同様の条件を満たしている必要がある。
【0011】
このため、従来はワイヤー形状をもつ均一な材料から電解研磨して針状体を作製するのが一般的であった。また、薄膜や多層膜の分析を意図して、電解研磨で作った針状体の先端に更に分析対象の膜を製膜しそれを分析することも試みられた(例えば非特許文献2参照)。
【0012】
しかしながら薄膜や多層膜の分析として本来要求されるのは、APFIMのために特に作られた形態の試料を調べることではなく、実際に用いられるのと同じ形態、すなわちほとんどの場合平板な基板または下地層の上に形成された膜そのものを分析することである。前述のような、APFIM用の針の先端に新たな膜を成膜する技術では本来の目的を達成することができなかった。
【0013】
ところが、近年の微細加工技術の進歩によって上述したような試料作製上の制約を取り払うことが可能になりつつあり、従来では不可能だった薄膜のAPFIMによる分析が報告され始めている。
【0014】
例えばD.J. Larsonらはリソグラフィ技術によって作った柱状構造の上に分析対象となる磁性積層膜を形成し、その柱状構造を折り取ったものを金属ワイヤーの先端に接着した後、磁性積層膜を含む先端部分を収束イオンビーム(以下、FIBと記す)にて加工することによって、APFIM用の針状体を得、実際に3次元アトムプローブによる分析に成功している(非特許文献3参照)。
【0015】
また特許文献1においては、平面状試料を直接FIB加工して円錐状の構造を作り、それを折り取って金属ワイヤー先端に接着することで針状体を作ることが提案されている。この手法を用いれば、原理的には、平面状試料表面の所望の位置を含む試料が作製できることになる。
【0016】
一方、一般にAPFIMで分析可能な試料の導電性は抵抗率にして10−2Ωcmオーダー以下であることが必要と言われており(例えば非特許文献4参照)、これ以上の抵抗率を持つ対象について仮に測定を試みても、質量分解能の点で不十分なデータしか得られないため、実際上分析は不可能と考えられていた。しかしながらこの条件を緩和し、より低い導電性の対象へもAPFIMを適用するためにパルスレーザーアトムプローブ(pulsed-laser atom probe)という方式が提案されている。これは試料にある程度の電圧を静的に与えておき、更に試料先端部分にパルスレーザーを照射することによって表面原子のイオン化を起こすもので、イオン化以後の測定系は従来のアトムプローブと同様である。この方式を用いることにより、例えばC.R.M. GrovenorらはSi表面に生成した酸化膜の深さ方向の原子分布などの測定に成功している(非特許文献5参照)。
【0017】
以上で例示した報告などにより、従来は不可能と考えられていた基板上の薄膜などの平面状・平板状試料に対してもAPFIMが適用できる可能性があることが示され、また低導電性の対象についてもパルスレーザーアトムプローブによって従来の試料に課せられていた抵抗率の上限を緩和するための研究が進められるなど、注目を集めている。
【0018】
とりわけ半導体産業を中心にした電子デバイスの分野では、微細化の進展により、これまで研究・開発に用いられてきた分析手法が限界に達しつつあるとの認識が広まっており、その限界を乗り越える可能性がある手法としてAPFIMへの期待感が高まっている(例えば非特許文献6や非特許文献7参照)。
【0019】
上述した微細加工技術を応用した試料作製法を用いたAPFIMは従来になかったAPFIMの可能性を示すものではあるが、現状では欠点も有している。
【0020】
半導体産業に代表される電子デバイスの分野においては、電子デバイスの母材は多くの場合シリコンに代表される半導体基板やガラスなどの高抵抗基板であり、(時にはその一部に高濃度に不純物を注入したり、薄膜形成・加工技術を駆使して基板上に複雑な構造が形成されたりするものの、)電子デバイスの体積の大半の部分はAPFIMが適用不可能な高い抵抗率を持った基板部分が占めている。
【0021】
しかしながら、上述したレーザーアトムプローブによるSi表面の酸化膜の測定例においても、導電性が低いのは厚さ2nm程度の最表面の酸化膜の範囲に限られ、それ以外の部分は全て上述した抵抗率の条件を満たすような基板が用いられなければならない。すなわち現段階では高抵抗の対象は、測定できたとしてもあくまでごく薄い膜に限られ、試料の大半が高抵抗率の材料で占められているような構造体に対する測定はまだ実現されていない。そのため現在の技術では一般的な電子デバイスの構造そのままを直接APFIMで測定することが出来ない。
【0022】
以上のように半導体プロセス・電子デバイスおよびその周辺領域の研究開発にAPFIMを適用する場合、従来の試料の形成方法であると、母体となる基板の抵抗率が高いため、これを加工して得た針状体の抵抗率も高くなり、調べたいデバイス構造そのものを分析することが出来ないという問題があった。
【0023】
また、さらに別の問題点として、FIB等の加工技術を用いて作成された針状体には、FIBの加工の際に発生するGaイオンなどのエッチングに用いられるイオンなどに由来する不純物が加工された針状体の先端部分に残留してしまう、という現象が生じる。このような針状体をAPFIMに供すると、例えばFIB加工における加速されたイオンビームの入射によって針状体表面がアモルファス化するなど先端部分の構造がもとの状態から変化してしまうため、分析本来の目的を果たすことが出来ない。そのような根本的な構造変化が生じない場合でも、もともとの試料にはなかった不純物が侵入することによる試料の変化が懸念されることから、分析技術としての信頼性を著しく損ねることになるという問題点があった。
【0024】
【非特許文献1】M.K. Miller, “Atom Probe Tomography −Analysis at the Atomic Level”, Kluwer Academic/Plenum Publishers (2000), p.25
【非特許文献2】L. Veiller, F. Danoix and J. Teillet, J. Appl. Phys. 87, 1379 (2000)
【非特許文献3】D.J. Larson, et al., J. Appl. Phys. 87, 5989 (2000)
【特許文献1】特開2001-208659号
【非特許文献4】M.K. Miller, Surf. Interface Anal. 31, 593 (2001)
【非特許文献5】C.R.M. Grovenor and A. Cerezo, J. Appl. Phys. 65, 5089 (1989)
【非特許文献6】上田, 応用物理 72, 539 (2003)
【非特許文献7】M.R. Castell, et al., Nature Materials 2, 129 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、上記問題点に対処するためになされたもので、シリコン基板などの高抵抗率の基板上に形成された膜構造を有する試料についてAPFIMを高い再現性・信頼性で効率よく行うことができる電界イオン顕微鏡又はアトムプローブ用の針状体を形成する方法を提供することを目的とする。
【0026】
また、本発明は、針状体加工時に最先端部に混入する不純物の影響を避け、APFIM分析を高い再現性・信頼性で行うことができる電界イオン顕微鏡又はアトムプローブ用の針状体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的を達成するためになされた第1の発明は、
基板と、前記基板の一方の面に形成された被分析領域とを具備する試料を加工して電界イオン顕微鏡又はアトムプローブ分析に用いられる針状体を形成する方法であって、
前記試料の前記被分析領域が形成された側の表面に導電材を接合して複合体を得る接合工程と、
前記複合体を、前記被分析領域の少なくとも一部を備える尖状部と、前記導電材の少なくとも一部を備え前記尖状部に接合した支柱部とを具備する針状体に加工する加工工程と、
を行うことを特徴とする電界イオン顕微鏡又はアトムプローブに用いられる針状体の形成方法である。
【0028】
また、第2の発明は、
基板と、前記基板の一方の面に形成された被分析領域とを具備する試料から形成された電界イオン顕微鏡又はアトムプローブに用いられる針状体であって、
前記針状体は尖状部と、前記尖状部に接合した導電材の支柱部とを具備し、
前記尖状部は、最表面に存在し、前記試料の前記被分析領域以外の、前記基板若しくは前記基板近傍の材料から構成される保護層及び前記保護層の下側に存在し、被分析領域の少なくとも一部からなる被分析領域層を有することを特徴とする電界イオン顕微鏡又はアトムプローブに用いられる針状体である。
【0029】
以上のような第1および第2の発明の実施形態において、電界イオン顕微鏡(FIM)は、針状体と前記針状体の先端に対向して設けられたマイクロチャネルプレート等の検出器を設置した真空チャンバー内にイメージングガスを導入し、針状体に高電圧を加えることにより、針状体の先端近傍において高電界が発生し、前記イメージングガスが電界イオン化し、かつ電界に導かれて対向する検出器側に移動して結像する。その結像を観察することによって、針状体の先端近傍の構造を観察する方法である。
【0030】
前記イメージングガスとしては、例えばヘリウムやネオンなどの希ガスや水素,あるいはそれらの混合ガスなどが用いられる。
【0031】
また第1及び第2の発明の実施形態において、アトムプローブは、FIMを拡張したものであり、いわゆるアトムプローブ、3次元アトムプローブ、走査型アトムプローブ、パルスレーザーアトムプローブなどがある。以下、アトムプローブ及び電界イオン顕微鏡を総称してAPFIMと称する。
【0032】
また、第1及び第2の発明の実施形態において、前記針状体の先端の直径は例えば200nm以下のものが望ましく用いられるがこの範囲に限定されるものではない。
【0033】
また、第1及び第2の発明の実施形態において、前記導電性材としては、例えば金属や十分高い不純物濃度を持つ半導体基板、あるいはそれらの組み合わせなど、全体として良導体であることが望ましい。具体的には抵抗率が例えば0.1Ωcm以下であるものが望ましいがこの範囲に限定されるものではない。
【0034】
また、第1及び第2の発明の実施形態において、針状体に加工される試料、すなわち、基板とこの基板の一方の面に形成された被分析領域とを具備する試料において、被分析領域は、基板の一方の面の上に積層して形成された領域であっても良いし、基板の一方の面の下に形成した領域であっても良い(前者と後者とを共に含んでいても良いのはもちろんである)。後者の例としては基板表面のごく浅い領域に基板とは異種の原子又は分子を混入させた領域等が挙げられる。
【0035】
被分析領域の厚さに特に制限はないが、APFIMの実用的な分析範囲である1000nm以下に収まることが望ましい。
【0036】
第1の発明である針状体を形成する方法においては、基板上に形成された被分析領域側に導電材を接合し、被分析領域側を尖状部、導電材を支柱部とした針状体に加工することを特徴としている。これにより被分析領域が尖状部に含まれ、支柱部が低抵抗な構成となる。そのため高抵抗率の基板ではなく導電性材が支柱部すなわち針状体の母材となり、針状体としての導電性は専ら基板部分ではなく支柱部の抵抗によることになる。よって試料全体の抵抗が小さくなり、被分析領域のAPFIM分析が可能になる。高抵抗率の基板の影響を避けて、良好な導電性を持つ針状体を得ることができる。
【0037】
第1の発明の実施形態においては、導電材と試料表面との接合をするにあたり、試料表面と前記導電材とを直接接触させ両者を圧着することが望ましい。これにより支柱部と被分析領域との電気的接触が得られ、導電性の低下を避けることができる。また被分析領域が基板上に形成された平坦な薄膜である場合、基板と基板上に形成された被分析領域を具備する試料と、導電材との軸ずれを抑制することができる。すなわち、薄膜の法線方向と完成した針状体の支柱の中心軸とのずれを抑制することができるため、信頼性の高い測定を行うことができる。このことは例えば、アトムプローブにおいて主に界面の急峻性などを高精度で深さ方向分解する場合に極めて重要である。また、3次元アトムプローブを行う場合、一般に針状試料の中心軸方向(z方向)の空間分解能の方が中心軸を法線とした面内方向(x方向,y方向)の空間分解能よりも優れているため(例えば,M.K. Miller, Surf. Interface Anal. 31, 593 (2001) 参照)、この性質を利用して適切な3次元アトムプローブ分析するために薄膜の法線方向と完成した針状体の支柱の中心軸とのずれの抑制は、きわめて有効である。
【0038】
また、第1の発明の実施形態においては、前記接合工程は、前記試料の前記被分析領域が形成された側の表面と前記導電材との間にバインダーを存在させて両者を接合するものであってもよい。これにより容易かつ強固に接合が可能である。前記バインダーは、針状体の導電性を得るために導電性の接着剤、例えば導電性のエポキシ樹脂等などであることが望ましい。
【0039】
また、第1の発明の実施形態においては、前記接合工程と前記加工工程との間に、前記複合体の導電性材を接合した面とは反対の面から前記基板を薄膜化する基板薄膜化工程を行うことが望ましい。
多くの半導体デバイスでは、半導体基板より上の部分に厚さにしてμmオーダーの厚さで積層膜が形成されるが、そのデバイスの機能面を担うのは主に半導体基板とその上の積層膜との界面付近の構造であり、その部分を分析できる分析技術が求められている。一方、APFIMで測定できる深さは、実用上は試料表面から百nm程度までの範囲である。原理的にはもっと深くまで測定可能であるが、試料形状の最適化が必要になることや、測定が長時間化することに加えAPFIMの測定においては測定中に試料が分断して測定不可能になることが珍しくないため、深い領域を測定しようとすると測定の歩留まりの問題がより深刻になる。そのため、深さが例えば1μmを超える領域になると測定は極めて困難で、事実上不可能と言ってよい。したがって、先に述べたような半導体基板とその上の積層膜との界面付近の構造のような領域は分析が困難である。基板付近の積層膜の構造が分析可能なように、FIB等の加工技術を用いて試料表面から試料を加工し、基板付近の薄膜領域を先端部分にした針状試料を形成する手法も考えられるが、試料表面からμmオーダーの深い領域を精度良く加工するのは現状の加工技術では困難である。
【0040】
しかしながら第1の発明の実施形態において、分析対象が基板上に形成された薄膜構造で、被分析領域が基板と薄膜との界面付近のような場合、上記のように基板側から物理的若しくは化学的研磨等の手法を用い基板の厚さを一様に薄くして薄膜化する薄膜化工程を行い、さらに針状体に加工する加工工程を行うことによって、先端部分に被分析領域を含むような針状体を容易に作製することが可能であり、従来困難であった基板上の積層構造における深い領域のAPFIMを高い再現性・信頼性で効率よく実現することを可能とすることができる。
【0041】
第1の発明の実施形態においては、前記加工工程後に、前記針状体の尖状部と、前記支柱部とを電気的に接続する導電部材を形成する導電部材形成工程をさらに具備してもよい。このような導電部材を形成し、尖状部と支柱部との間の電気的接触をとることができ、それにより導電材と試料表面の接合に用いる方法を、電気的接触を保つような手段に限定する必要がなくなる上、尖状部と支柱部との間に高抵抗の層が存在しているような試料構成についても、針状体を低抵抗とすることができる。
【0042】
また、第1の発明の実施形態において、前記加工工程で、前記尖状部の最表面に前記基板または基板近傍の一部が存在するように加工してもよい。これにより、被分析領域を具備する尖状部の最先端に前記基板もしくは基板近傍の構成材が存在する。このような最先端の構成であると、先端部分に針状体作成時に混入した不可避的な不純物イオンが残留したとしても、被分析領域においては不純物の混入の可能性は減少し、従ってAPFIMに供した場合においても、被分析領域の測定結果にそれらの不純物の影響は低減され、再現性、信頼性の高い測定を行うことが可能となる。
【0043】
また、第2の発明である針状体においては、被分析領域を具備する尖状部の最先端に被分析領域以外の基板若しくは基板近傍の構成材からなる保護層が存在する。このような構成の最先端を有すると、先端部分に針状体作成時に混入した不可避的な不純物イオンが残留したとしても、針状体の被分析領域層自体には不純物の混入の可能性は減少し、従ってAPFIMに供した場合においても、被分析領域の測定結果にそれらの不純物の影響は低減され、再現性、信頼性の高い測定を行うことが可能となる。
【0044】
尖状部の最先端に形成されている前記保護層の厚さは試料を構成する材料や加工時の条件を考慮して前記被分析領域への不純物混入の影響を避けられる厚さに設定されるべきであるが、前記保護層と前記被分析領域との厚さの合計がAPFIMの現実的な分析範囲である例えば1000nm以下に収まることが望ましいがこの範囲に限定されるものではない。
【0045】
第2の発明の実施形態においては、前記尖状部と、導電材を具備する前記支柱部がバインダーを介さず直接接合されていることが針状体の導電性を保つ上で望ましい。前記尖状部と、前記支柱部とがバインダー層を介して接合されていてもよく、その場合導電性接着剤が用いられることが望ましい。
【0046】
また、第2の発明の実施形態においては、前記尖状部と、前記支柱部とを電気的に接続するために、前記尖状部と、前記支柱部とにまたがった帯状またはリング状の導電部材を具備していても良い。
【発明の効果】
【0047】
以上述べたように、第1の発明である針状体の形成法によれば、高抵抗率の基板を母体とした試料からであっても基板の抵抗の影響を避けて、良好な導電性を持つ針状体を得ることができる。
【0048】
また、第2の発明である針状体によれば、針状体加工時に最先端に混入する不純物の影響を避け、APFIMを高い再現性・信頼性良く行うことができる。
【0049】
以上により、本発明によって半導体デバイス・半導体プロセスやその周辺の分野で期待される、基板上に形成された被分析領域APFIMを、高抵抗率の基板が用いられている場合についても高い再現性・信頼性で効率よく実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、本発明の実施の形態について実施例および図面を参照しながら説明する。
【0051】
以下に示す実施例は本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって構成部品の材質・形状・構造・配置などを下記のものに特定するものではない。
【0052】
(実施例1)
<分析対象試料の作成>
まず、分析対象の試料を準備した。準備した試料の断面図を図1に示す。試料10は以下のとおり作成した。まず、Bを1015cm−3ドープした厚さ約600μmのSi基板11に希弗酸処理し、表面の自然酸化膜を除去した後、ただちに製膜装置に導入した。次に基板11の一方の面(表面)に厚さ40nmのTi層をスパッタ法によって形成した後、熱処理を行った。熱処理によって基板11上にTiSi層15が形成された。室温に戻した後、更にTiSi層15上に厚さ20nmのTiN層12、厚さ200nmのAl層13をスパッタ法によって形成、更に表面保護層としてTiN層14を100nm積層して製膜装置から取り出した。
このようにして作成した試料10のTiSi層15およびその上下界面をAPFIMの被分析領域とした。(以下、被分析領域15と記す。)
次にこの試料からAPFIMに供するための針状体を作成した。
【0053】
<接合工程>
まず、試料10と導電材との複合体を形成した。形成した複合体の断面図を図2に示す。なお、図2では、図1の試料10に相当する部分を上下反転させて記載している。試料10を8mm×8mm程度のサイズに切り出した後、同様なサイズに切り出した厚さ約1mmのCu板である導電材16を、試料10の、基板11からみて被分析領域15が形成された側の面、すなわちTiN層14表面に接着した。接着の際にはバインダーとしてエポキシ樹脂系接着剤に銀もしくはカーボンなどの導電材を混合した導電性エポキシ樹脂を用い、バインダー層17が薄く均一になるように上下から圧力をかけた状態で固化させ、複合体18を得た。この複合体18から針状体を作成する。図2において、一点鎖線にて示されているのは後工程によって針状体の先端部となる部分である。
【0054】
<薄膜化工程>
次に、複合体18において、基板11の裏面、すなわち基板11からみて被分析領域15が形成された側の面とは反対側の面、から基板11を研磨機によって均一に薄くなるように研磨して4〜5μm程度の厚さにした。更に基板11をイオンミリング装置によって1μm以下まで薄くした。
【0055】
<加工工程>
次に、研磨した複合体18をダイシングソーによって部分的に削り取ることにより加工し、まず底面が35μm角で高さ200μmの四角柱が約300μm四方の導電材16部分の中央に立っている形状の構造体を作った。
【0056】
次に、これを収束イオンビーム(FIB)装置に導入し、柱部分の先端をガリウムイオンによるFIBで加工した。加工には環状ミルモードを用いた。環状ミルはFIB装置の機能の1つで2つの同心円で挟まれた部分だけをFIBで削る加工モードである。徐々に内側の円の径を小さくしていくことにより、針状体を得た。
【0057】
得られた針状体の概形を図3に示す。最終的には、尖状部19と、尖状部19を支持する支柱部20とが形成された針状体21を得た。支柱部20は、土台支柱部22と、この土台支柱部22に支持され、尖状部19を支持する細い支柱部23とで構成されている。尖状部19の先端径は約70nmであった。なお、支柱部20は、図2に示される導電材16を構成する材料よりなっている。
【0058】
なお、尖状部19、細い支柱部23と、土台支柱部22から構成される支柱部20など針状体21の形状は、図面の形状に限定されるものではない。
【0059】
この針状体21の先端部分の拡大図を図4に示す。尖状部19は、バインダー層17を介して支柱部20と接着されている。尖状部19は被分析領域層24(図2に示される被分析領域15を構成する材料からなる層)を具備している。また尖状部19の最表面層には、図2に示される基板11の一部が残るように加工されている(保護層25)。このとき保護層25の厚さは約100nmであった。その下に被分析領域層24が存在する。被分析領域層24の下には、図2に示す試料10に形成されていたTiN層12、Al層13、TiN層14の構成材からなる層、すなわちTiN層26、Al層27、TiN層28が存在する。
【0060】
出来上がった針状体をFIB装置から取り出し、約1cmの長さに切った直径0.5mmの銅ワイヤーの先端に銀若しくはカーボン粉体とエポキシ樹脂と硬化剤を含む導電性エポキシ接着剤で接着してAPFIM用試料とした。
【0061】
<評価>
上記のAPFIM用試料をホルダーに固定した後APFIM装置に導入し、アトムプローブ分析を行った。得られたアトムプローブによる物質の検出結果を図5に示す。図5によると先端から深さ方向に順に、Si、TiSi、TiN、Alが検出されている。金属であるCuの導電材を接合し、それを母体にした針状体21にすることによって、支柱部20から被分析領域層24に至る電気的接触の状態が良好になったためにアトムプローブ分析が可能になったものである。
【0062】
また図5においてTiが検出される前のSiの領域は保護層25に対応するが、この領域の表面に近い側ではFIB加工時に混入したと考えられるGaが若干検出されていた。しかし、その量は表面から離れるに従って減少し,Tiが検出され始めるまでにはバックグラウンドノイズと同じレベルになった。すなわち保護層25の存在により被分析領域の測定に関してはFIB加工時の高加速Gaイオンビームの入射による影響をなくすことができた。
【0063】
なお、本実施例では、尖状部と支柱部のみを有する針状体についての実施例を示したが、例えば図7に示される、突起型の針状体は走査型アトムプローブ分析用に使用することができる。突起先端1には被非分析領域があり、これに導電材2が接合されている。このような突起型の針状体を得るには、図2の複合体18から、直接FIB加工に進み、基板11からみて被分析領域15が形成された側、つまり基板11の裏面側から基板11を切削し突起を形成することにより作成できる。
【0064】
(実施例2)
Asを1015cm−3ドープした厚さ約600μmのSi基板の表面にエネルギー1.5keV、ドーズ量1015cm−2でBFを注入した基板を用いて、注入を行なった側の表面に製膜する、という条件以外は実施例1の過程と同一条件での試料作製・加工工程を行なってAPFIM用試料を作製した。この試料のアトムプローブ分析の結果、上記<評価>において示したものと同様の測定結果が得られた。この結果は、被分析領域に、基板表面の下側に形成した領域が含まれている場合についても本発明が適用可能であることを示している。
【0065】
(比較例1)
比較のため図1に示した製膜後の試料10を8mm×8mm程度のサイズに切り出したものを用いて、Cu材を接合することなく、基板11からみて被分析領域15が形成された側の表面から直接ダイシングソーによる成形およびFIBによる加工を行ない、図3と同様の外観を持ち、先端径約70nmの針状体を得た。この針状体の先端の構造を図6に示す。この針状体30の支柱31をなしているのは図1の基板11の一部である。尖状部は、支柱31上に、図1に示す試料10の被分析領域15の一部である被分析領域層32、その上には、図1に示す試料10に形成されていたTiN層33、Al層13の一部であるAl層34が順に積層されている。図1に示される試料10のTiN層14は、FIB加工時に除去された。
【0066】
出来上がった針状体30についても実施例1と同様にアトムプローブ測定を試みたが、データ解析可能な結果が得られなかった。これは、製膜に用いた高抵抗率の基板11がそのまま支柱部をなしているためであると考えられる。
【0067】
(実施例3)
まず、分析対象の試料を準備した。準備した試料の断面図を図8に示す。試料40は以下のとおり作成した。まず、Bを1015cm−3ドープした厚さ約600μmのSi基板上41に希弗酸処理し、表面の自然酸化膜を除去した後、ただちに製膜装置に導入した。次に基板41の一方の面(表面)にシード層としてTa層42およびCoFe層43をそれぞれ厚さ15nm、50nmとしてスパッタ法によって形成した後、Cu層3nmとCoFe層3nmとを交互に積層し、それぞれ10層ずつ合計20層の磁性積層膜44を形成した。その後、更に表面保護層としてNiFe層45を150nm積層し、製膜装置から取り出した。この交互積層した磁性多層膜44を被分析領域とした。(以下、被分析領域44と記す。)
この試料40からAPFIMに供するための針状体を作成した。
【0068】
<接合工程>
次に導電材を用意した。Bを1020cm−3ドープした厚さ約600μmの低抵抗Si基板を用意し、希弗酸処理をすることにより表面の自然酸化膜を除去した。これを導電材として使用する。
【0069】
次に試料40と導電材との複合体を形成した。形成した複合体の断面図を図9に示す。なお、図9では、図8の試料40に相当する部分を上下反転させて記載している。
【0070】
試料40および導電材46を共に8mm×8mm程度のサイズに切り出した後、この導電材46を、試料40の、基板41から見て被分析領域44が形成された側の面、すなわちNiFe層45の表面に、圧着によって貼り付け、複合体47を得た。このとき接着剤は使用せず両者を直接接触させて接合した。この複合体47から針状体を作成する。図8において、一点鎖線にて示されているのは後工程によって針状体の先端部となる部分である。
【0071】
<薄膜化工程>
次に複合体47において、基板41の裏面、すなわち基板41からみて被分析領域44が形成された側の面とは反対側の面、から基板41を研磨機によって均一に薄くなるように研磨して、4〜5μm程度の厚さにした。更に基板41をイオンミリング装置によって1μm以下まで薄くした。
【0072】
<加工工程>
次に、研磨した複合体47をダイシングソーによって部分的に削り取ることにより、まず底面が約35μm角で高さ200μmの四角柱構造が約300μm四方の導電材46部分の中央に立っている形を作った。
【0073】
これをFIB装置に導入し、実施例1の場合と同様に、柱状部分の先端をガリウムイオンによる収束イオンビームの環状ミルモードで加工した。以上の結果得られた針状体の概形は図3に示したものと同様であり、尖状部と支柱部を有している。尖状部の先端径は約70nmであった。支柱部をなしているのは図9において導電材46を構成する材料である。
【0074】
この針状体の先端部分の拡大図を図10に示す。実施例1の場合と同様、針状体48の支柱部49をなしているのは、図9において導電材46として貼り付けた低抵抗のSi基板材料である。尖状部50は、支柱部49と直接に接合されている。尖状部50は図9に示される被分析領域44の一部からなる層(被分析領域層51)を具備している。また尖状部50の最表面層に、図9において基板41近傍に存在するCoFe層43の一部が存在するように加工されている(保護層52)。このとき保護層52の厚さは約40nmであった。その下に被分析領域層51が存在する。被分析領域層51の下には、図9においてNiFe層45の一部からなるNiFe層53が存在する。
【0075】
出来上がった針状体48をFIB装置から取り出し、約1cmの長さに切った直径0.5mmの銅ワイヤーの先端に導電性エポキシで接着してAPFIMの試料とした。
【0076】
<評価>
上記のAPFIM用試料を、APFIM装置用の試料ホルダーに固定した後APFIM装置に導入し、アトムプローブ分析を行なった。得られたアトムプローブによる物質の検出結果(深さ方向の元素分布)を図11に示す。実線はCoFeを、破線はCuをそれぞれ表わす。図11によるとCu層とCoFe層との交互積層構造が明瞭に測定されている。低抵抗のSi基板の導電材42を貼り合わせてそれを母体にした針状体にすることによって、支柱部48から被分析領域層51に至る電気的接触の状態が良好になったためにアトムプローブ分析が可能になったものである。
【0077】
なお、この試料においてアトムプローブ測定で検出された最初の層は保護層52として機能したシード層のCoFe層であった。この領域の表面に近い側ではFIB加工時に混入したと考えられるGaが若干検出されていたが、その量は表面から離れるに従って減少し、被分析領域のCu層が検出されるまでにはバックグラウンドノイズと同じレベルになった。すなわち、保護層52の存在により被分析領域の測定に関してはFIB加工時の高加速Gaイオンビームの入射による影響をなくすことができた。
【0078】
また、図11においてCoFe/Cu界面は極めて急峻であるが、このことから、針状体48の軸方向と被分析領域層51の法線方向とが良く一致していることが分かる。この結果は、圧着による貼り合わせが針状体48の軸方向と被分析領域層51の法線方向とを精度よく一致させる効果があることを示すものであり、接着剤による貼り合わせに比べてこのように精度よくかつ高い信頼性でこれら2つの方向を合わせることが容易である。
【0079】
(比較例2)
比較のため、図8に示した製膜後の試料40を8mm×8mm程度のサイズに切り出したものを用いて、導電材すなわち低抵抗Si基板の貼り合わせなしで、基板41からみて被分析領域44が形成された側の表面から直接ダイシングソーによる成形およびFIBによる加工を行ない、図3と同様の概形を持ち、先端径約70nmの針状体を得た。
【0080】
この針状体の先端の構造を図12に示す。この針状体60の支柱部61をなしているのは図8の基板41を構成ずる材料、つまりSi基板の一部である。尖状部は、支柱部61上に、図8に示す試料40に形成されていたTa層42、CoFe層43のそれぞれの一部から構成されるTa層62、CoFe層63、さらに図8に示される試料40に形成されていた被分析領域層44の一部から構成されている被分析領域層64、最表面には保護層としてNiFe層45の一部から構成されるNiFe層65が順に積層されている。
【0081】
出来上がった針状体60についても実施例2と同様にアトムプローブ測定を試みたが、データ解析可能な結果が得られなかった。これは、実施例1の場合と同様、製膜に用いた高抵抗率のSi基板41がそのまま支柱部をなしているためであると考えられる。
【0082】
(実施例4)
<分析対象試料の作成>
まず、分析対象の試料を準備した。準備した試料の断面図を図13に示す。試料70は以下の通り作成した。まず、Bを1015cm−3ドープした厚さ約600μmのSi基板71に希弗酸処理し、表面の自然酸化膜を除去した後、ただちに製膜装置に導入した。次に基板71の一方の面(表面)に厚さ40nmのTi層をスパッタ法によって形成した後,熱処理を行なった。熱処理によって基板71上にTiSi層72が形成された。室温に戻した後、更にTiSi層72上に厚さ200nmのTiN層73、厚さ600nmのAl層74、厚さ200nmのTiN層75、厚さ50nmのアルミナ層76を順にスパッタ法によって形成し、製膜装置から取り出した。
【0083】
このようにして作成した試料70のTiSi層72およびその上下界面をAPFIMの被分析領域とした。(以下、被分析領域72と記す。)
【0084】
<接合工程>
次に導電材を用意した。Bを1020cm−3ドープした厚さ約600μmの低抵抗Si基板を用意し、希弗酸処理をすることにより表面の自然酸化膜を除去した。これを導電材とした。
【0085】
次に試料70と導電材との複合体を形成した。形成した複合体の断面図を図14に示す。なお、図14では、図13の試料70に相当する部分を上下反転させて記載している。
【0086】
試料70及び導電材77を共に8mm×8mm程度のサイズに切り出した後、この導電材77を、試料70の基板71からみて被分析領域72が形成された側の面、すなわちアルミナ層76の表面に、接着し複合体78を得た。このとき接着には非導電性である通常のエポキシ系接着剤を用い、この接着剤層79が薄く均一になるように、上下から圧力をかけた状態でこの接着剤を固化させた。この複合体78から針状体を作成する。図14において、一点鎖線にて示されているのは後工程によって針状体の先端部となる部分である。
【0087】
<薄膜化工程>
次に複合体78において、基板71の裏面、すなわち基板71からみて被分析領域72が形成された側とは反対側の面、から基板71を研磨機によって均一に薄くなるように研磨して、4〜5μm程度の厚さにした。さらに基板71をイオンミリング装置によって1μm以下まで薄くした。
【0088】
<加工工程>
次に、研磨した複合体78をダイシングソーによって部分的に削り取ることにより、まず底面が35μm角で高さ200μmの四角柱構造が約300μm四方の導電材77部分の中央に立っている形を作った。
【0089】
これをFIB装置に導入し、実施例1の場合と同様に、柱状部分の先端をガリウムイオンによる収束イオンビームの環状ミルのモードで加工した。以上の結果得られた針状体の概形は図3に示したものと同様であり、尖状部と支柱部を有している。尖状部の先端径は約70nmであった。支柱部をなしているのは導電材77を構成する材料である。
【0090】
更に、この針状体において図14に示した試料70のアルミナ層76および接着剤領域79に相当する層を中心にその上下にまたがるように約500nmの領域にリング状に導電性材料(Pt膜)を積層した。これはリング状でなくても、柱の周囲の一部に設けられた帯状であってもよい。
【0091】
この針状体の先端部分の拡大図を図15に示す。針状体80の支柱部81をなしているのは、導電材として接合した低抵抗の基板77を構成する材料である。尖状部82は支柱部81と接着剤層83を介して接着されている。尖状部82は、図14に示される被分析領域72の構成材からなる層(被分析領域層84)を具備している。また尖状部82の最表面層には、図14において基板71の一部が残るように加工されている。(保護層85)。このとき保護層85の厚さは約80nmであった。その下に被分析領域層84が存在する。被分析領域層84の下には、図14に示す試料70に形成されていたTiN層73、Al層74、TiN層75、アルミナ層76のそれぞれ一部からなる、TiN層86、Al層87、TiN層88、アルミナ層89が存在する。
【0092】
尖状部82と支柱部81とを接着する接着剤層83と、尖状部82のアルミナ層89とは絶縁体であるため、その上下の層で導電性をとるために、接着剤層83とアルミナ層89を中心にその上下の層にまたがるように約500nmの領域にリング状に導電性材料(Pt膜)90を形成した。リング状の導電性材料層90の積層には、FIB装置に標準的に搭載されている保護膜積層機能を用いた。
【0093】
出来上がった針状体80をFIB装置から取り出し、約1cmの長さに切った直径0.5mmの銅ワイヤーの先端に導電性エポキシで接着してAPFIMの試料とした。
【0094】
<評価>
上記のAPFIM用試料を、APFIM装置用の試料ホルダーに固定した後APFIM装置に導入し、アトムプローブ分析を行なった。得られたアトムプローブによる物質の検出結果を図16に示す。図5によると先端から深さ方向に順に、Si、TiSi、TiNが検出されている。
【0095】
支柱部81が導電性であり、また接着剤層83及びアルミナ層89を覆うように導電性材料層90が形成されているため導電性材料層90によって支柱部81から被分析領域層84に至る電気的接触の状態が良好になったためにアトムプローブ分析が可能になったものである。
【0096】
また図16においてTiが検出される前のSiの領域は保護層85に対応するが、この領域の表面に近い側ではFIB加工時に混入したと考えられるGaが若干検出されていた。しかし、その量は表面から離れるに従って減少し、Tiが検出され始めるまでにはバックグラウンドノイズと同じレベルになった。すなわち,保護層85の存在により被分析領域の測定に関してはFIB加工時の高加速Gaイオンビームの入射による影響をなくすことができた。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】実施例1においてAPFIM測定対象としている試料の断面図。
【図2】実施例1における試料と導電材の複合体の断面図。
【図3】実施例1〜4の針状体の外観を示す斜視図。
【図4】実施例1の針状体の先端部分の断面図。
【図5】実施例1の針状体のAPFIMによる分析結果を示す図。
【図6】比較例1の針状体の先端部分の断面図。
【図7】走査型アトムプローブによる分析のための針状体の概略図。
【図8】実施例3において測定対象としている試料の断面図。
【図9】実施例3における試料と導電材の複合体の断面図。
【図10】実施例3の針状体の先端部分の断面図。
【図11】実施例3の針状体のAPFIMによる分析結果を示す図。
【図12】比較例2の針状体の先端部分の断面図。
【図13】実施例4において測定対象としている試料の断面図。
【図14】実施例4における試料と導電体の複合体の断面図。
【図15】実施例4の作製した針状体の先端部分の断面図。
【図16】実施例4の針状体のAPFIMによる分析結果を示す図。
【符号の説明】
【0098】
1・・・突起先端1
2・・・導電材
10・・・試料
11・・・基板
12・・・TiN層
13・・・Al層
14・・・TiN層
15・・・TiSi層(被分析領域)
14・・・表面保護層であるTiN層
15・・・Ta層
16・・・導電材
17・・・バインダー層
18・・・複合体
19・・・尖状部
20・・・支柱部
21・・・針状体
22・・・土台支柱部
23・・・細い支柱部
24・・・被分析領域層
25・・・保護層
26・・・TiN層
27・・・Al層
28・・・TiN層
30・・・針状体
31・・・支柱
32・・・被分析領域層32
33・・・TiN層
34・・・Al層
40・・・試料
41・・・基板
42・・・Ta層
43・・・CoFe層
44・・・磁性積層膜(被分析領域)
45・・・NiFe層
46・・・導電材
47・・・複合体
48・・・針状体
49・・・支柱部
50・・・尖状部
51・・・被分析領域層
52・・・保護層
53・・・NiFe層
60・・・針状体
61・・・支柱部
62・・・Ta層
63・・・CoFe層
64・・・被分析領域層
65・・・NiFe層
70・・・試料
71・・・基板
72・・・TiSi層(被分析領域)
73・・・TiN層
74・・・Al
75・・・TiN層
76・・・アルミナ層
77・・・導電材
78・・・複合体
79・・・接着剤層
80・・・針状体
81・・・支柱部
82・・・尖状部
83・・・接着剤層
84・・・被分析領域層
85・・・保護層
86・・・TiN層
87・・・Al層
88・・・TiN層
89・・・アルミナ層
90・・・導電性材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の一方の面に形成された被分析領域とを具備する試料を加工して電界イオン顕微鏡又はアトムプローブ分析に用いられる針状体を形成する方法であって、
前記試料の前記被分析領域が形成された側の表面に導電材を接合して複合体を得る接合工程と、
前記複合体を、前記被分析領域の少なくとも一部を備える尖状部と、前記導電材の少なくとも一部を備え前記尖状部に接合した支柱部とを具備する針状体に加工する加工工程と、
を行うことを特徴とする電界イオン顕微鏡又はアトムプローブに用いられる針状体の形成方法。
【請求項2】
前記接合工程は、前記試料の前記被分析領域が形成された側の表面と前記導電材とを直接に接触させ両者を圧着することを特徴とする請求項1記載の針状体の形成方法。
【請求項3】
前記接合工程は、前記試料の前記被分析領域が形成された側の表面と前記導電材との間にバインダーを存在させて両者を接合することを特徴とする請求項1記載の針状体の形成方法。
【請求項4】
前記バインダーは、導電性の接着剤であることを特徴とする請求項3記載の針状体の形成方法。
【請求項5】
前記加工工程後に、前記針状体の尖状部と、前記支柱部とを電気的に接続する導電部材を形成する導電部材形成工程をさらに具備することを特徴とする請求項1記載の針状体の形成方法。
【請求項6】
前記接合工程と前記加工工程との間に、前記複合体の前記導電性材を接合した面とは反対の面から前記基板を薄膜化する基板薄膜化工程を行うことを特徴とする請求項1記載の針状体の形成方法。
【請求項7】
前記加工工程において、前記尖状部の最表面に、被分析領域を構成する材料以外で、前記基板若しくは前記基板近傍を構成する材料を残すように加工することを特徴とする請求項1記載の針状体の形成方法。
【請求項8】
基板と、前記基板の一方の面に形成された被分析領域とを具備する試料から形成された電界イオン顕微鏡又はアトムプローブに用いられる針状体であって、
前記針状体は尖状部と、前記尖状部に接合した導電材の支柱部とを具備し、
前記尖状部は、最表面に存在し、前記試料の前記被分析領域以外の、前記基板若しくは前記基板近傍の材料から構成される保護層及び前記保護層の下側に存在し、被分析領域の少なくとも一部からなる被分析領域層を有することを特徴とする電界イオン顕微鏡又はアトムプローブに用いられる針状体。
【請求項9】
前記尖状部と、前記支柱部が直接接合されていることを特徴とする請求項8記載の針状体。
【請求項10】
前記尖状部と、前記支柱部とがバインダー層を介して接合されていることを特徴とする請求項8記載の針状体。
【請求項11】
前記尖状部と前記支柱部とを電気的に接続し、前記尖状部から前記支柱部にまたがる帯状またはリング状の導電部材を具備することを特徴とする請求項8記載の針状体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2006−220421(P2006−220421A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31309(P2005−31309)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】