説明

電着ワイヤー工具およびその製造方法

【課題】ワイヤーの外周面に電着で固定された複数の超砥粒を有する電着ワイヤー工具のワイヤー自身が幅広い加工液に適切に濡れるようにしたワイヤー工具およびその製造方法の提供。
【解決手段】ワイヤー4の外周面に電着で固定された複数のダイヤモンド砥粒5を有する電着ワイヤー工具1であって、ワイヤー4の表面に面粗度Ra0.05〜1μmの微細な突起構造を有し、ワイヤーの表面に平均粒径0.1〜2μmの金属粒子を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池シリコン、半導体シリコン、磁性体、サファイヤ、SiCなどを溶融し、鋳型に流し込んで固化された塊であるインゴットを、スライス加工する際に用いられる電着ワイヤー工具およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンド砥粒をワイヤーに固着したダイヤモンドワイヤーには、ダイヤモンド砥粒をレジンボンドで固着したレジンワイヤーと、電着で固着した電着ワイヤーとがある。例えば特許文献1〜4に記載の電着ワイヤーは、砥粒保持力が高く、加工効率が高いといった優れた利点がある。一方、例えば特許文献5,6に記載のレジンワイヤーは、表面が樹脂であるため、柔軟性が高く、捻れに起因する断線がないといった利点がある。また、このレジンワイヤーは、加工性能が安定しており、加工面の面粗さが良好であり、加工精度も高いなどの点で優れているが、砥粒保持力が小さく、加工効率が劣るという問題がある。
【0003】
現状、単結晶インゴットの切削には、所定の加工面の面粗度および加工精度が求められており、多結晶インゴットの切削には、高い加工性能が望まれている。電着ワイヤーは、多結晶の切削に有利であり、さらに高い加工性能が要求されている。さらに高い加工性能を実現する方法としては、切削する際に発生する切削屑を、すみやかに取り除くことがある。この切削屑を除去する方法として、例えば特許文献7には、加工液を流して除去する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−181698号公報
【特許文献2】特開2004−27283号公報
【特許文献3】特開平9−150314号公報
【特許文献4】特開2006−231479号公報
【特許文献5】特開平10−138114号公報
【特許文献6】特開平11−347911号公報
【特許文献7】特開2000−218504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、加工液が適切でない場合、ワイヤーは高速で運動しながらインゴットを切削しているため、加工液がワイヤーへ十分行き渡らず、加工性能の低下およびワイヤーの断線が起こりやすいという問題がある。このような問題を解決するためには、加工液を被研削体とワイヤーの種類によって適正なものを選択するという方法があるが、多結晶インゴットの切削の場合、被研削体の状態が一定ではないため、被研削体の状態に応じてその都度、加工液を変えることは現実的でない。また、適切な加工液は、高価な分散剤を多量に含むものを使用しなければならないため、コスト高である。
【0006】
そこで、本発明では、ワイヤー自身が幅広い加工液に適切に濡れるようにした電着ワイヤー工具およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電着ワイヤー工具は、ワイヤーの外周面に電着で固定された複数の超砥粒を有する電着ワイヤー工具であって、ワイヤーの表面に面粗度Ra0.05〜1μmの微細な突起構造を有するものである。本発明の電着ワイヤー工具によれば、ワイヤーの表面に面粗度Ra0.05〜1μmの微細な凹凸が形成されているので、親水効果が強くなり、ワイヤー自身が幅広い加工液に適切に濡れるようになる。
【0008】
なお、面粗度Raが0.05未満では、ワイヤーの表面が平坦すぎて親水効果が得られない。一方、面粗度Raが1μm超ではワイヤーの表面の凹凸が大きすぎ、同様に親水効果が得られなくなる。
【0009】
本発明の電着ワイヤー工具は、超砥粒の固着を行う電着槽に、平均粒径0.1〜2μm、より好ましくは0.5〜1μmの金属粒子を添加して、ワイヤーの外周面に電着を行うことにより製造することが望ましい。これにより、ワイヤーの表面に、平均粒径0.1〜2μm、あるいは0.5〜1μmの金属粒子を有する電着ワイヤー工具が得られる。
【0010】
なお、平均粒径0.1μm未満の金属粒子では、粒子が細かすぎてワイヤーの表面の面粗度Raが0.05μm未満となる。また、製造の際、電着槽の粘度が上がるため、適正な超砥粒の固着を行うことができなくなる。一方、平均粒径2μm超では、粒子が大きすぎてワイヤーの表面の面粗度Raが1μm超となる。また、製造の際、粒子が大きすぎて、うまく電着層中に粒子が取り込まれなくなる。
【0011】
また、金属粒子としては、Ni、Cu、Cr、Ti、Fe、ZnまたはAlの1種または2種以上からなるものであることが望ましい。電着槽中に、これらの金属粒子の1種または2種以上からなるものを添加すれば、電位差により電着層中にこれらの金属粒子を有することができる。これにより、ワイヤーの表面に凹凸が形成される。
【発明の効果】
【0012】
(1)ワイヤーの表面に面粗度Ra0.05〜1μmの微細な突起構造を有する電着ワイヤー工具によれば、加工液の電着ワイヤー工具に対する親水性が強くなり、ワイヤー自身が幅広い加工液に適切に濡れるので、加工性能が格段に向上する。
【0013】
(2)超砥粒の固着を行う電着槽に、平均粒径0.1〜2μm、より好ましくは0.5〜1μmの金属粒子を添加して、ワイヤーの外周面に電着を行うことにより、ワイヤーに対してダメージを与えることなく、ワイヤーの表面に面粗度Ra0.05〜1μmの微細な突起構造を形成することができるので、ワイヤー強度が低下することがない。また、従来の電着ワイヤー工具の製造工程の増加もないので、有利である。
【0014】
(3)金属粒子として、Ni、Cu、Cr、Ti、Fe、ZnまたはAlの1種または2種以上からなるものを用いることで、電着層中に粒界が生まれ、ワイヤーの表面に凹凸が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態における電着ワイヤー工具の平面図である。
【図2】本発明の実施の形態における電着ワイヤー工具の縦断面図である。
【図3】図1の電着ワイヤー工具の製造装置の模式図である。
【図4】(a)は実施例1の電子顕微鏡写真、(b)は比較例の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の実施の形態における電着ワイヤー工具の平面図、図2は縦断面図である。図1および図2において、本発明の実施の形態における電着ワイヤー工具1は、ピアノ線などのワイヤー素線2にNiなどの金属めっきによる下地(下地層3)が施されたワイヤー4の外周面に、電着によって複数のダイヤモンド砥粒5が固定されたものである。
【0017】
ダイヤモンド砥粒5は、非導電体であるダイヤモンドを電着するため、Niなどの導電性金属により被覆(図示せず。)されたものである。また、ワイヤー4の表面には、平均粒径0.1〜2μmのNiなどの微細な金属粒子6が配置されている。この金属粒子6によって、電着ワイヤー工具1の表面には、面粗度Ra0.05〜1μmの微細な突起構造が形成されている。
【0018】
図3は図1の電着ワイヤー工具の製造装置の模式図である。
電着ワイヤー工具1は、図3に示すように、連続的にワイヤー素線2を供給し、アルカリ脱脂槽10、水洗槽11、酸洗浄槽12、水洗槽13に浸漬して脱脂処理を行った後、下地めっき槽14によりNiめっきを行う。次に、金属被覆されたダイヤモンド砥粒5と、平均粒径0.1〜2μmの金属粒子6としてのNi微粉とを添加した電着槽15により、Niめっきを行う。
【0019】
こうして得られた電着ワイヤー工具1は、ワイヤー4の表面に面粗度Ra0.05〜1μmの微細な凹凸が形成されているので、親水効果が強くなり、電着ワイヤー工具1自身が幅広い加工液に適切に濡れる性質を有するものとなる。したがって、電着ワイヤー工具1自身が、高価な分散剤を多量に含む加工液だけでなく、幅広い加工液および水に適切に濡れるので、被研削体の状態にかかわらず、加工性能が格段に向上する。
【0020】
また、本実施形態における電着ワイヤー工具1の製造方法では、ダイヤモンド砥粒5の固着を行う電着槽15に、平均粒径0.1〜2μmの金属粒子を添加して、ワイヤー4の外周面に電着を行うので、ワイヤー4に対してダメージを与えることがなく、強度が低下することがない。また、製造工程の増加もないので、有利である。なお、添加する金属粒子は、平均粒径0.5〜1μmであることが望ましい。
【0021】
なお、本実施形態におけるダイヤモンド砥粒5に代えてcBNなどの超砥粒を用いても同様の電着ワイヤー工具が得られる。また、ワイヤー4の下地層3、ダイヤモンド砥粒5の被覆層および微細な金属粒子6として、Ni以外にも、Cu、Cr、Ti、Fe、ZnまたはAlの1種または2種以上からなるもの等を用いることも可能である。
【実施例】
【0022】
上記電着ワイヤー工具1と従来の電着ワイヤー工具との比較を行った。
実施例の電着ワイヤー工具1では、Ni被覆された粒径12μmのダイヤモンド砥粒5と、このダイヤモンド砥粒5に対してそれぞれ10wt%の粒径1.0μm(実施例1)、0.5μm(実施例2)のNi微粉を添加した電着槽15で、電流密度2A/dm2にて厚さ6μmのNiめっきを行った。一方、比較例の従来の電着ワイヤー工具は、Ni被覆された粒径12μmのダイヤモンド砥粒5のみを添加した電着槽で、電流密度2A/dm2にて厚さ6μmのNiめっきを行った。
【0023】
図4の(a)は実施例1の電子顕微鏡写真、(b)は比較例の電子顕微鏡写真である。レーザー顕微鏡Vk−9500(キーエンス製)にてそれぞれの電着ワイヤー工具のダイヤモンド砥粒5のないワイヤー4の表面(図1のA部)を測定し、面粗度をA部の線分析により測定した。表1はワイヤー表面のNi粒子の平均径とワイヤーの面粗度、表2はワイヤーの接触角測定結果、表3はワイヤー切断結果をそれぞれ示している。なお、ワイヤー接触角の測定は、接触角測定装置CA−A(協和界面化学製)にて行った。また、加工液はノリタケクール(協同油脂製)である。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
以上のように、従来の電着ワイヤー工具(比較例)ではワイヤー表面に平坦な面が形成されるが、実施例の電着ワイヤー工具1では、ワイヤー4の表面に微細な凹凸が形成され、加工液の親水性が強く、ワイヤー自身が幅広い加工液に適切に濡れるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の電着ワイヤー工具は、太陽電池シリコン、半導体シリコン、磁性体、サファイヤ、SiCなどを溶融し、鋳型に流し込んで固化された塊であるインゴットを、スライス加工する際に用いられる電着ワイヤー工具として有用である。
【符号の説明】
【0029】
1 電着ワイヤー工具
2 ワイヤー素線
3 下地層
4 ワイヤー
5 ダイヤモンド砥粒
6 金属粒子
10 アルカリ脱脂槽
11 水洗槽
12 酸洗浄槽
13 水洗槽
14 下地めっき槽
15 電着槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーの外周面に電着で固定された複数の超砥粒を有する電着ワイヤー工具であって、
前記ワイヤーの表面に面粗度Ra0.05〜1μmの微細な突起構造を有する電着ワイヤー工具。
【請求項2】
前記ワイヤーの表面に、平均粒径0.1〜2μmの金属粒子を有する請求項1記載の電着ワイヤー工具。
【請求項3】
前記金属粒子は、Ni、Cu、Cr、Ti、Fe、ZnまたはAlの1種または2種以上からなるものである請求項1または2に記載の電着ワイヤー工具。
【請求項4】
ワイヤーの外周面に電着で固定された複数の超砥粒を有する電着ワイヤー工具の製造方法であって、
前記超砥粒の固着を行う電着槽に、平均粒径0.1〜2μmの金属粒子を添加して、前記ワイヤーの外周面に電着を行うことを特徴とする電着ワイヤー工具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−140095(P2011−140095A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2208(P2010−2208)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【出願人】(000111410)株式会社ノリタケスーパーアブレーシブ (73)
【Fターム(参考)】