説明

電磁アクチュエータ

【課題】プランジャの摺動抵抗を軽減してヒステリシスおよび摩耗量を抑える。
【解決手段】プランジャ3の外周面に軸方向へ延びる呼吸溝4を設けるとともに、呼吸溝4の溝底面に、プランジャ3の前側と後側のそれぞれに傾斜底面Xを設ける。プランジャ3が移動すると、呼吸溝4を軸方向へ流れる流体が傾斜底面Xに作用して、プランジャ3に調芯作用が生じ、プランジャ3がカップガイド14の摺動壁から離れる力が生じる。これにより、プランジャ3の摺動抵抗を軽減することができ、ヒステリシスを小さくすることができるとともに、プランジャ3およびカップガイド14に生じる摩耗を抑えることができ、電磁アクチュエータ1の性能および信頼性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動対象物に軸方向の駆動力を与える電磁アクチュエータに関し、特に外周面が摺動自在に支持されるプランジャ(可動鉄心)を用いた電磁アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
(従来技術)
駆動対象物に軸方向の駆動力を与える電磁アクチュエータとして、プランジャの外周面がカップガイドやステータ等の内周壁(以下、摺動壁と称す)に直接摺動するものが知られている。
プランジャを軸方向へ移動させるには、「プランジャの軸方向の一方の空間」と「プランジャの軸方向の他方の空間」の容積変動を可能にする必要がある。
【0003】
「プランジャの軸方向の一方の空間」および「プランジャの軸方向の他方の空間」の容積変動を可能に設ける手段として、プランジャの外周面に軸方向へ延びる呼吸溝を設けて(例えば、特許文献1参照)、「プランジャの軸方向の一方の空間」と「プランジャの軸方向の他方の空間」を連通させる技術が知られている。
【0004】
このように設けることで、「プランジャの軸方向の他方の空間」が「呼吸溝」と「プランジャの軸方向の一方の空間」を介してドレン空間に連通して容積変動が可能になる。
【0005】
(問題点1)
プランジャが摺動壁に直接摺動する電磁アクチュエータでは、プランジャが摺動する際、プランジャが摺動壁に対して重力等で接触した状態で摺動する。
このため、プランジャと摺動壁の接触部に、大きな摺動抵抗が生じる。従って、長期に亘って電磁アクチュエータが使用されると、プランジャと摺動壁の接触部に生じる摩耗量が大きくなる懸念がある。
【0006】
(問題点2)
上述したように、プランジャが摺動する際、プランジャが摺動壁に対して重力等で接触した状態で摺動する。即ち、「プランジャの一部」と「摺動壁の一部」とが接触した状態でプランジャが摺動する。
このため、「プランジャの一部」に偏った摩耗(偏摩耗)が生じる。従って、長期に亘って電磁アクチュエータが使用されると、プランジャに偏摩耗が生じる懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平02−006870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、
・第1の目的は、プランジャと摺動壁の接触部に生じる摩耗量を抑えることのできる電磁アクチュエータの提供にあり、
・第2の目的は、プランジャに生じる偏摩耗を抑えることのできる電磁アクチュエータの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[請求項1の手段]
プランジャが軸方向へ移動する際、呼吸溝を流れる流体の力が傾斜底面(呼吸溝の溝底面に設けられたプランジャの軸芯に対して傾斜する面)に作用することで、プランジャに調芯作用(プランジャが軸芯方向に向かう力)が生じる。
これにより、プランジャと摺動壁の接触部に生じる摺動抵抗を軽減することができ、プランジャおよび摺動壁に生じる摩耗を抑えることができる。このため、長期に亘って電磁アクチュエータが使用されても、プランジャと摺動壁の接触部に生じる摩耗量を抑えることができ、電磁アクチュエータの信頼性を高めることができる。
また、電磁アクチュエータがリニアソレノイド(通電量に応じた駆動力をプランジャに発生させる電磁アクチュエータ)として用いられる場合には、プランジャと摺動壁の摺動抵抗の軽減によってヒステリシスを低減することができる。
【0010】
[請求項2の手段]
プランジャが軸方向へ移動する際、呼吸溝を流れる流体の力が傾斜側面(呼吸溝の溝側面に設けられたプランジャの軸方向に対して傾斜する面)に作用することで、プランジャに回転方向の力が生じる。
これにより、プランジャが常に同じ箇所で摺動するのを防ぐことができ、プランジャに生じる偏摩耗を防ぐことができる。
このため、長期に亘って電磁アクチュエータが使用されても、プランジャの偏摩耗を抑えることができ、電磁アクチュエータの信頼性を高めることができる。
【0011】
[請求項3の手段]
プランジャが軸方向へ移動する際、呼吸溝を流れる流体の力が傾斜配置されたリブ(呼吸溝内に設けられて軸方向に対して傾斜するフィン部材)に作用することで、プランジャに回転方向の力が生じる。
これにより、プランジャが常に同じ箇所で摺動するのを防ぐことができ、プランジャに生じる偏摩耗を防ぐことができる。
このため、長期に亘って電磁アクチュエータが使用されても、プランジャの偏摩耗を抑えることができ、電磁アクチュエータの信頼性を高めることができる。
【0012】
[請求項4の手段]
プランジャが軸方向へ移動する際、呼吸溝を流れる流体の力が傾斜面を有するリブ(呼吸溝内に設けられて軸方向に対して断面が変化するフィン部材)に作用することで、プランジャに回転方向の力が生じる。
これにより、プランジャが常に同じ箇所で摺動するのを防ぐことができ、プランジャに生じる偏摩耗を防ぐことができる。
このため、長期に亘って電磁アクチュエータが使用されても、プランジャの偏摩耗を抑えることができ、電磁アクチュエータの信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)プランジャの正面図、(b)プランジャの軸方向に沿う断面図である(実施例1)。
【図2】電磁スプール弁の軸方向に沿う断面図である(実施例1)。
【図3】(a)プランジャの正面図、(b)プランジャの軸方向に沿う断面図である(実施例2)。
【図4】(a)プランジャの正面図、(b)プランジャの軸方向に沿う断面図である(実施例3)。
【図5】(a)プランジャの正面図、(b)プランジャの軸方向に沿う断面図である(実施例4)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して[発明を実施するための形態]を説明する。
実施形態1〜4の電磁アクチュエータ1は、通電により磁力を発生するコイル2と、外周面が摺動自在に支持されるプランジャ3とを具備するものであり、プランジャ3の軸方向の他方の空間(後述する実施例では第2空間B)が、プランジャ3の軸方向の一方の空間(後述する実施例では第1空間A)に、プランジャ3の外周面に形成された複数の呼吸溝4を介して連通する。
【0015】
実施形態1の電磁アクチュエータ1は、呼吸溝4における溝底面(呼吸溝4においてプランジャ3の軸芯側に存在する面)に、プランジャ3の軸芯に対して傾斜する傾斜底面Xが設けられる。
実施形態2の電磁アクチュエータ1は、呼吸溝4における溝側面(呼吸溝4の周方向側に存在する面)に、軸方向に対して傾斜する傾斜側面Yが設けられる。
実施形態3の電磁アクチュエータ1は、呼吸溝4の内部に、軸方向に対して傾斜するリブ5が設けられる。
実施形態4の電磁アクチュエータ1は、呼吸溝4の内部に、軸方向に対して断面が変化するリブ5が設けられる。
【実施例】
【0016】
以下において本発明の具体的な一例(実施例)を図面を参照して説明する。以下の実施例は具体的な一例であって、本発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。
以下の実施例において、上記[発明を実施するための形態]と同一符号は、同一機能物を示すものである。
【0017】
なお、以下の実施例では、説明の便宜上、
・プランジャ3の駆動方向(軸方向)を前後方向と称し、
・磁力によってプランジャ3が移動する方向を前(図2左側参照)、
・バネ力によってプランジャ3が移動する方向を後(図2右側参照)、
と称する。
もちろん、この前後方向は説明のためのものであって、実際の搭載方向を限定するものではない。
【0018】
[実施例1]
図1、図2を参照して実施例1を説明する。
この実施例に示す電磁アクチュエータ1は、通電量に応じた駆動力を発生するリニアソレノイドとして用いられる。
この実施例の電磁アクチュエータ1は、駆動対象物の一例としてスプール弁6を駆動するものであり、スプール弁6と組み合わされて電磁スプール弁7を構成する。
【0019】
図2の電磁スプール弁7は、具体的な一例を示すものであり、車両走行用のエンジン(内燃機関)のバルブタイミングを可変するVVT(バリアブル・バルブ・タイミングの略)の油圧回路に用いられるOCV(オイルフロー・コントロール・バルブの略)を示すものである。
【0020】
なお、図2のスプール弁6は、
・略筒状を呈するスリーブ11と、
・このスリーブ11の内部において軸方向へ摺動自在に支持され、スリーブ11に設けられた各ポートの連通状態の切替えや開度調整を行うスプール12と、
・このスプール12を後方へ付勢するリターンスプリング13と、
を備えて構成されるものである。
【0021】
電磁アクチュエータ1は、プランジャ3の外周面が摺動壁に直接摺接して支持されるものであり、プランジャ3を除いて限定されるものではなく、その具体的な一例を図2を参照して説明する。
図2に示す電磁アクチュエータ1は、コイル2、プランジャ3、カップガイド14、磁気吸引ステータ15、カラー16、磁気受渡ステータ17、ヨーク18、ステー19およびコネクタ20を備える。
【0022】
コイル2は、通電されるとプランジャ3を磁気吸引するための磁力を発生する磁力発生手段であり、樹脂製のコイルボビンの周囲に絶縁被覆された導線(エナメル線等)を多数巻回したものである。
【0023】
プランジャ3は、コイル2の発生する磁力によりリターンスプリング13の付勢力に打ち勝ってスプール12を前方へ駆動する磁性体金属(例えば、鉄:磁気回路を構成する磁性材料)によって形成された円柱体であり、カップガイド14の摺動壁(内周壁)において軸方向および回転方向へ摺動自在に支持される。
【0024】
カップガイド14は、磁気吸引ステータ15および磁気受渡ステータ17の内部に挿入配置されて、電磁アクチュエータ1の内部のオイルが外部に漏れないように、電磁アクチュエータ1の内部においてオイルが導かれる範囲を区画する手段であり、筒形カップ形状を呈する非磁性体材料(例えば、ステンレス等)によって設けられる。
【0025】
磁気吸引ステータ15は、プランジャ3を前方へ磁気吸引するものであり、スリーブ11とコイル2との間に挟まれて配置される円盤部15aと、この円盤部15aの磁束をプランジャ3の近傍まで導く筒状部15bとからなる磁性体金属(例えば、鉄:磁気回路を構成する磁性材料)であって、プランジャ3と筒状部15bとの軸方向間に磁気吸引ギャップ(メインギャップ)が形成される。
【0026】
カラー16は、磁気吸引ステータ15の筒状部15bの内部に挿入配置され、プランジャ3の前端と対向してプランジャ3の磁気吸引力を高める円環状の磁性体部品である。
【0027】
磁気受渡ステータ17は、カップガイド14を介してプランジャ3の周囲と径方向の磁気の受け渡しを行なうものであり、カップガイド14を介してプランジャ3の外周を覆うとともに、コイルボビンの内周に挿入配置される円筒部17a、およびこの円筒部17aから外径方向に向かって形成され、外周縁においてヨーク18と磁気結合されるフランジ部17bからなる磁性体金属(例えば、鉄:磁気回路を構成する磁性材料)であり、円筒部17aとプランジャ3の径方向間に磁束受渡ギャップ(サイドギャップ)が形成される。
【0028】
ヨーク18は、コイル2の周囲を覆う円筒形状を呈した磁性体金属(例えば、鉄:磁気回路を構成する磁性材料)であり、前端に形成された爪部をカシメることでスリーブ11と結合される。
ステー19は、電磁スプール弁7を固定部材(エンジン部品等)に結合するための手段である。
コネクタ20は、コイル2等を樹脂モールドする2次成形樹脂の一部によって形成された結合手段であり、その内部には、コイル2の導線端部とそれぞれ接続されるターミナル端子20aが配置されている。
【0029】
(プランジャ3の両側の空間の容積変動の説明)
プランジャ3は、上述したように、カップガイド14の摺動壁によって摺動自在に支持されるものであり、軸方向および回転方向へ移動可能に支持される。
プランジャ3が軸方向へ移動するには、プランジャ3の軸方向の両側の空間の容積を変動可能に設ける必要がある。
なお、以下では、
・プランジャ3の前側の空間(スプール12とプランジャ3の間の空間)を第1空間A、・プランジャ3の後側の空間(プランジャ3とカップガイド14の底部の間の空間)を第2空間Bと称して説明する。
【0030】
先ず、第1空間Aを説明する。
この実施例の電磁アクチュエータ1には、プランジャ3とスプール12の間に、プランジャ3の軸力をスプール12に伝達するカップシャフト22が設けられている。
このカップシャフト22は、非磁性体材料(例えば、ステンレス等)によって設けられた略カップ形状を呈するプレス加工品である。
そして、カップ底部(カップシャフト22の前端)がスプール12の後端に当接し、カップ開口部(カップシャフト22の後端)の周囲に形成されたフランジがプランジャ3の前端に当接して、プランジャ3の軸力をスプール12に伝えるとともに、リターンスプリング13の付勢力をプランジャ3に伝えるように設けられている。
【0031】
ここで、カップ底部には、軸方向の貫通穴が設けられており、カップシャフト22の内部空間が、スプール12の軸方向に貫通形成されたドレンポートCに連通する。このドレンポートCは、リターンスプリング13が配置されるバネ室D、リターンスプリング13の前端を固定するバネ固定具21に貫通形成されたドレン穴Eを介してドレン空間(オイルパンに通じる空間)に連通する。
また、カップ筒部(カップシャフト22の円筒部)には、径方向の貫通穴が設けられており、カップシャフト22の内部空間と、第1空間Aとを連通する。
以上の構成によって、第1空間Aがスプール12内のドレンポートC等を介してドレン空間に連通し、第1空間Aの容積変動が可能に設けられる。
【0032】
次に、第2空間Bを説明する。
上述したカップシャフト22のフランジ(カップシャフト22の後端部)の外径寸法は、カップガイド14の内径寸法より小径に設けられており、そのフランジとカップガイド14の間に流体が通過可能な隙間(呼吸用の隙間)が設けられている。
一方、プランジャ3の外周面には、軸方向へ延びる複数の呼吸溝4が設けられており、この呼吸溝4を介して第2空間Bが第1空間Aに連通する。
以上の構成によって、第2空間Bが第1空間Aを介してドレン空間に連通し、第2空間Bの容積変動が可能に設けられる。
【0033】
複数の呼吸溝4は、それぞれが軸方向へ延びるものであり、図1(a)に示すように、プランジャ3の外周面において周方向に等間隔で形成されている。
この実施例に開示する呼吸溝4は、具体的な一例として断面がコ字形を呈するものであり、
・呼吸溝4においてプランジャ3の軸芯側に存在する面を溝底面と称し、
・呼吸溝4において周方向側(回転方向側)に存在する面を溝側面と称して説明する。
もちろん、呼吸溝4の断面形状はコ字形に限定されるものではなく、V字形、U字形など種々変更可能なものである。
【0034】
呼吸溝4の溝底面には、図1に示すように、プランジャ3の軸芯に対して傾斜する傾斜底面Xが設けられている。
なお、傾斜底面Xを成す傾斜面は、一定の角度で設けられるものであっても良いし、複数の角度で設けられるものであっても良いし、曲面であっても良い。
【0035】
この実施例の傾斜底面Xは、プランジャ3の前側と後側とで異なる方向に傾斜する。
プランジャ3の前側の傾斜底面Xを「前方傾斜底面X」と称し、プランジャ3の後側の傾斜底面Xを「後方傾斜底面X」と称して説明する。
前方傾斜底面Xは、プランジャ3の前端に近づくに従い、傾斜底面Xとプランジャ3の軸芯との距離が小さくなる傾斜面である。
後方傾斜底面Xは、プランジャ3の後端に近づくに従い、傾斜底面Xとプランジャ3の軸芯との距離が小さくなる傾斜面である。
【0036】
(実施例1の作用効果)
この実施例の電磁アクチュエータ1は、図1(b)の矢印αに示すように、プランジャ3が磁気吸引されてプランジャ3が前方へ移動する際、図1(b)の矢印βに示すように、各呼吸溝4の内部では、後方へ向かって流体が流れる。
呼吸溝4を後方に向かって流れる流体は、前方傾斜底面Xに作用して、図1(b)の矢印γ1に示すように、プランジャ3に調芯作用を生じさせる。即ち、カップガイド14の摺動壁からプランジャ3が離れる力が生じる。
【0037】
上記矢印α、矢印βとは逆に、リターンスプリング13の付勢力によりプランジャ3が後方へ移動する際、各呼吸溝4の内部では、前方へ向かって流体が流れる。
呼吸溝4を前方に向かって流れる流体は、後方傾斜底面Xに作用して、プランジャ3に調芯作用を生じさせる。即ち、カップガイド14の摺動壁からプランジャ3が離れる力が生じる。
【0038】
このように、この実施例の電磁アクチュエータ1は、プランジャ3が「前方へ移動する際」と「後方へ移動する際」の両方において、プランジャ3に調芯作用が生じる。
これにより、プランジャ3とカップガイド14の接触部に生じる摺動抵抗を軽減することができるため、ヒステリシスを小さくすることができ、電磁アクチュエータ1の性能を高めることができる。
【0039】
また、プランジャ3とカップガイド14の接触部に生じる摺動抵抗を軽減することができるため、プランジャ3およびカップガイド14に生じる摩耗を抑えることができる。
その結果、長期に亘って電磁アクチュエータ1が使用されても、プランジャ3およびカップガイド14に生じる摩耗量を抑えることができ、電磁アクチュエータ1の信頼性を高めることができる。
【0040】
(実施例1の変形例)
溝底面の一部に傾斜底面Xではない範囲を設けても良いし、溝底面の全てを傾斜底面X(前方傾斜側底面X、後方傾斜底面X)で設けても良い。
【0041】
上記の実施例1では、1つの呼吸溝4に前方傾斜底面Xと後方傾斜底面Xを設ける例を示したが、1つの呼吸溝4に前方傾斜底面Xまたは後方傾斜底面Xの一方だけを設けても良い。
その場合、(i)複数の呼吸溝4の全てを前方傾斜底面Xまたは後方傾斜底面Xの一方に統一しても良いが、(ii)前方傾斜底面Xを設ける呼吸溝4と、後方傾斜底面Xを設ける呼吸溝4とを周方向に交互に配置しても良い。
【0042】
上記の実施例1では、1つの呼吸溝4に1つの前方傾斜底面Xと1つの後方傾斜底面Xを設ける例を示したが、1つの呼吸溝4に複数の前方傾斜底面Xを設けたり、複数の後方傾斜底面Xを設けても良い。
【0043】
[実施例2]
図3を参照して実施例2を説明する。なお、以下の実施例において上記実施例1と同一符合は同一機能物を示すものである。
この実施例2は、上記実施例1の構成に追加して、呼吸溝4における溝側面に、軸方向に対して傾斜する傾斜側面Yを設けるものである。
なお、傾斜側面Yを成す傾斜面は、一定の角度で設けられるものであっても良いし、複数の角度で設けられるものであっても良いし、曲面であっても良い。
【0044】
この実施例の傾斜側面Yは、図3に示すように、対向する2つの溝側面のうちの一方の溝側面のみに設けられるものであり、プランジャ3の前側と後側とで異なる方向に傾斜する。
プランジャ3の前側の傾斜側面Yを「前方傾斜側面Y」と称し、プランジャ3の後側の傾斜側面Yを「後方傾斜側面Y」と称して説明する。
前方傾斜側面Yは、プランジャ3の前端に近づくに従い、呼吸溝4の溝幅を広げる傾斜面である。
後方傾斜側面Yは、プランジャ3の後端に近づくに従い、呼吸溝4の溝幅を広げる傾斜面である。
【0045】
(実施例2の作用効果)
この実施例2の電磁アクチュエータ1は、上記実施例1の作用効果に加え、次の作用効果を奏する。
この実施例の電磁アクチュエータ1は、プランジャ3が磁気吸引されてプランジャ3が前方へ移動する際、図3(b)の矢印βに示すように、各呼吸溝4の内部では、後方へ向かって流体が流れる。
呼吸溝4を後方に向かって流れる流体は、前方傾斜側面Yに作用して、図3(b)の矢印γ2に示すように、プランジャ3に回転力を生じさせる。
【0046】
上記矢印βとは逆に、リターンスプリング13の付勢力によりプランジャ3が後方へ移動する際、各呼吸溝4の内部では、前方へ向かって流体が流れる。
呼吸溝4を前方に向かって流れる流体は、後方傾斜側面Yに作用して、図3(b)の矢印γ2に示すように、プランジャ3に回転力を生じさせる。
【0047】
このように、この実施例の電磁アクチュエータ1は、プランジャ3が「前方へ移動する際」と「後方へ移動する際」の両方において、プランジャ3に回転力が生じる。
これにより、プランジャ3が常に同じ箇所で摺動するのを防ぐことができ、プランジャ3に生じる偏摩耗を防ぐことができる。このため、長期に亘って電磁アクチュエータ1が使用されても、プランジャ3の偏摩耗を抑えることができ、電磁アクチュエータ1の信頼性を高めることができる。
【0048】
(実施例2の変形例)
上記の実施例2は、実施例1と組み合わせた例を示したが、実施例1と組み合わせない電磁アクチュエータ1であっても良い。
【0049】
上記の実施例2では、1つの呼吸溝4の両側に前方傾斜側面Yと後方傾斜側面Yを設ける例を示したが、1つの呼吸溝4に前方傾斜側面Yまたは後方傾斜側面Yの一方だけを設けても良い。
【0050】
上記の実施例2では、対向する2つの溝側面のうちの一方の溝側面のみに傾斜側面Yを設ける例を示したが、対向する2つの溝側面に傾斜側面Yを設けても良い。即ち、対向する傾斜側面Yを略平行に設けても良い。
【0051】
[実施例3]
図4を参照して実施例3を説明する。
この実施例3は、上記実施例1の構成に追加して、呼吸溝4の内部に、軸方向に対して傾斜するリブ5を設けるものである。
このリブ5は、図4(a)に示すように、溝底から外径方向に向かう略板状のフィンであり、図4(b)に示すように、軸方向に対して傾斜して設けられる。
なお、リブ5の傾斜角は、一定の角度で設けられるものであっても良いし、複数の角度で設けられるものであっても良いし、曲面であっても良い。
また、リブ5は、プランジャ3と一体に設けるものに限定されるものではなく、別体で設けてプランジャ3に組み付けても良い。
【0052】
(実施例3の作用効果)
この実施例3の電磁アクチュエータ1は、上記実施例1の作用効果に加え、次の作用効果を奏する。
この実施例の電磁アクチュエータ1は、プランジャ3が磁気吸引されてプランジャ3が前方へ移動する際、図4(b)の矢印βに示すように、各呼吸溝4の内部では、後方へ向かって流体が流れる。
呼吸溝4を後方に向かって流れる流体は、傾斜するリブ5に作用して、図4(b)の矢印γ3に示すように、プランジャ3に回転力を生じさせる。
【0053】
上記矢印βとは逆に、リターンスプリング13の付勢力によりプランジャ3が後方へ移動する際、図4(b)の矢印β’に示すように、各呼吸溝4の内部では、前方へ向かって流体が流れる。
呼吸溝4を前方に向かって流れる流体は、傾斜するリブ5に作用して、図4(b)の矢印γ3’に示すように、プランジャ3に回転力を生じさせる。
【0054】
このように、この実施例の電磁アクチュエータ1は、プランジャ3が「前方へ移動する際」と「後方へ移動する際」の両方において、プランジャ3に回転力が生じる。
これにより、上記実施例2と同様、プランジャ3が常に同じ箇所で摺動するのを防ぐことができ、プランジャ3に生じる偏摩耗を防ぐことができる。このため、長期に亘って電磁アクチュエータ1が使用されても、プランジャ3の偏摩耗を抑えることができ、電磁アクチュエータ1の信頼性を高めることができる。
【0055】
(実施例3の変形例)
上記の実施例3は、実施例1と組み合わせた例を示したが、実施例1と組み合わせない電磁アクチュエータ1であっても良い。
【0056】
上記の実施例3では、リブ5を呼吸溝4の軸方向の全範囲に設けたが、リブ5を呼吸溝4の軸方向に部分的に設けても良い。
【0057】
[実施例4]
図5を参照して実施例4を説明する。
この実施例4は、上記実施例1の構成に追加して、呼吸溝4の内部に、軸方向に対して断面が変化するリブ5を設けるものである。
この実施例のリブ5は、長手方向の一方の面(一方の溝側面に対向する面)が、軸方向に沿って直線的に設けられる。
そして、リブ5における長手方向の他方の面(他方の溝側面に対向する面)が、軸方向に対してリブ5の断面が変化することで軸方向に傾斜して設けられる。
即ち、リブ5には、軸方向に対して傾斜する傾斜リブ面Zが設けられる。なお、傾斜リブ面Zを成す傾斜面は、一定の角度で設けられるものであっても良いし、複数の角度で設けられるものであっても良いし、曲面であっても良い。
【0058】
この実施例の傾斜リブ面Zは、プランジャ3の前側と後側とで異なる方向に傾斜する。 プランジャ3の前側の傾斜リブ面Zを「前方傾斜リブ面Z」と称し、プランジャ3の後側の傾斜リブ面Zを「後方傾斜リブ面Z」と称して説明する。
前方傾斜リブ面Zは、プランジャ3の前端に近づくに従い、呼吸溝4の溝幅を広げる傾斜面である。
後方傾斜リブ面Zは、プランジャ3の後端に近づくに従い、呼吸溝4の溝幅を広げる傾斜面である。
【0059】
(実施例4の作用効果)
この実施例4の電磁アクチュエータ1は、上述した実施例2と同様の作用効果を奏する。
具体的に、この実施例の電磁アクチュエータ1は、プランジャ3が磁気吸引されてプランジャ3が前方へ移動する際、図5(b)の矢印βに示すように、各呼吸溝4の内部では、後方へ向かって流体が流れる。
呼吸溝4を後方に向かって流れる流体は、前方傾斜リブ面Zに作用して、図5(b)の矢印γ4に示すように、プランジャ3に回転力を生じさせる。
【0060】
上記矢印βとは逆に、リターンスプリング13の付勢力によりプランジャ3が後方へ移動する際、各呼吸溝4の内部では、前方へ向かって流体が流れる。
呼吸溝4を前方に向かって流れる流体は、後方傾斜リブ面Zに作用して、図5(b)の矢印γ4に示すように、プランジャ3に回転力を生じさせる。
【0061】
このように、この実施例の電磁アクチュエータ1は、プランジャ3が「前方へ移動する際」と「後方へ移動する際」の両方において、プランジャ3に回転力が生じる。
これにより、プランジャ3が常に同じ箇所で摺動するのを防ぐことができ、プランジャ3に生じる偏摩耗を防ぐことができる。このため、長期に亘って電磁アクチュエータ1が使用されても、プランジャ3の偏摩耗を抑えることができ、電磁アクチュエータ1の信頼性を高めることができる。
【0062】
(実施例4の変形例)
上記の実施例4は、実施例1と組み合わせた例を示したが、実施例1と組み合わせない電磁アクチュエータ1であっても良い。
【0063】
上記の実施例4では、1つのリブ5に前方傾斜リブ面Zと後方傾斜リブ面Zを設ける例を示したが、1つのリブ5に前方傾斜リブ面Zまたは後方傾斜リブ面Zの一方だけを設けても良い。
【0064】
上記の実施例4では、リブ5を呼吸溝4の軸方向の全範囲に設けたが、リブ5を呼吸溝4の軸方向に部分的に設けても良い。
【産業上の利用可能性】
【0065】
上記の実施例では、VVT用のスプール弁6を駆動する電磁アクチュエータ1に本発明を適用する例を示したが、限定されるものではなく、例えば、自動変速機用など、他の用途のスプール弁6を駆動する電磁アクチュエータ1に本発明を適用しても良い。
【0066】
上記の実施例では、電磁アクチュエータ1がスプール弁6を駆動する例を示したが、ボール弁など他の構成のバルブを駆動する電磁アクチュエータ1に本発明を適用しても良い。
【0067】
上記の実施例では、電磁アクチュエータ1がバルブ(実施例ではスプール弁6)を駆動する例を示したが、限定されるものではなく、バルブとは異なる駆動対象物を駆動する電磁アクチュエータ1に本発明を適用しても良い。
【0068】
上記の実施例では、カップガイド14の摺動壁にプランジャ3が直接摺動するタイプの電磁アクチュエータ1に本発明を適用する例を示したが、カップガイド14を用いずに、プランジャ3がステータ等の内周壁に直接摺動するタイプの電磁アクチュエータ1に本発明を適用しても良い。
【0069】
上記の実施例では、通電量に応じた駆動力を発生するリニアソレノイドに本発明を適用する例を示したが、限定されるものではなく、コイル2のON−OFFの切替えにより駆動対象物を切り替え駆動するON−OFFソレノイドに本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0070】
1 電磁アクチュエータ
2 コイル
3 プランジャ
4 呼吸溝
5 リブ
A 第1空間(プランジャの軸方向の一方の空間)
B 第2空間(プランジャの軸方向の他方の空間)
X 傾斜底面
Y 傾斜側面
Z 傾斜リブ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により磁力を発生するコイル(2)と、外周面が摺動自在に支持されるプランジャ(3)とを具備し、
前記プランジャ(3)の軸方向の他方の空間(B)が、前記プランジャ(3)の軸方向の一方の空間(A)に、前記プランジャ(3)の外周面に形成された呼吸溝(4)を介して連通する電磁アクチュエータ(1)において、
前記呼吸溝(4)の溝底面は、前記プランジャ(3)の軸芯に対して傾斜する傾斜底面(X)を備えることを特徴とする電磁アクチュエータ。
【請求項2】
通電により磁力を発生するコイル(2)と、外周面が摺動自在に支持されるプランジャ(3)とを具備し、
前記プランジャ(3)の軸方向の他方の空間(B)が、前記プランジャ(3)の軸方向の一方の空間(A)に、前記プランジャ(3)の外周面に形成された呼吸溝(4)を介して連通する電磁アクチュエータ(1)において、
前記呼吸溝(4)の溝側面は、軸方向に対して傾斜する傾斜側面(Y)を備えることを特徴とする電磁アクチュエータ。
【請求項3】
通電により磁力を発生するコイル(2)と、外周面が摺動自在に支持されるプランジャ(3)とを具備し、
前記プランジャ(3)の軸方向の他方の空間(B)が、前記プランジャ(3)の軸方向の一方の空間(A)に、前記プランジャ(3)の外周面に形成された呼吸溝(4)を介して連通する電磁アクチュエータ(1)において、
前記呼吸溝(4)の内部には、軸方向に対して傾斜するリブ(5)が設けられることを特徴とする電磁アクチュエータ。
【請求項4】
通電により磁力を発生するコイル(2)と、外周面が摺動自在に支持されるプランジャ(3)とを具備し、
前記プランジャ(3)の軸方向の他方の空間(B)が、前記プランジャ(3)の軸方向の一方の空間(A)に、前記プランジャ(3)の外周面に形成された呼吸溝(4)を介して連通する電磁アクチュエータ(1)において、
前記呼吸溝(4)の内部には、軸方向に対して断面が変化するリブ(5)が設けられることを特徴とする電磁アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−115193(P2013−115193A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259227(P2011−259227)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】