説明

電磁ノイズ分布検出装置

【課題】機器内で発生する電磁ノイズと同じ周波数の試験信号を注入した場合の近似的な分布を得ることのできる電磁ノイズ分布検出装置を得る。
【解決手段】信号発生器1は、供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数から僅かにずらした周波数の信号を出力し、注入プローブ3によって供試機器100に注入する。検出プローブ4は可動部7により供試機器100上を走査し、供試機器100の電磁界分布を検出し、電磁界強度計6によって電磁界強度の分布を測定する。ノイズ分布検出手段11は、電磁界強度計6で測定された電磁界強度の分布を、供試機器100内で発生する電磁ノイズの近似的な分布として検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器に電磁ノイズとしての試験信号を与え、誤動作や性能劣化を測定評価するイミュニティ試験等で、供試機器のどの部分を電磁ノイズが伝搬しているかを検出する電磁ノイズ分布検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子機器に電磁ノイズを注入し、誤動作を評価するイミュニティ試験装置では、例えば、ISO11452−4記載のバルク電流注入(BCI)法によるイミュニティ試験の場合、被測定物の接続ケーブルに電磁ノイズを電流プローブで注入し、被測定物の性能劣化や誤動作を評価する試験がある。しかし、この試験では、被測定物に注入した電磁ノイズとしての試験信号の筐体内部での伝搬経路が特定できないため、適切なノイズ対策を見つけられないことが問題である。
【0003】
このような問題に対して、従来では、ノイズ印加用プローブとして、静電気放電プローブを利用し、プリント基板をスキャンしながら電磁ノイズを局所的に放電し、基板上の誤動作分布を画像表示し、放電範囲やプローブの大小の切替によって、誤動作箇所の絞込みをする方法があった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−319071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の方法では、ノイズに弱い部分の分布を示すだけで、外部より注入されたノイズの伝搬経路を示すものではない。また、静電気放電プローブを用いるため、特定の周波数成分のレベルを制御できないことや、再現性に問題があった。さらに、ノイズとして注入する試験信号と機器内部の信号とを分離する手段を具備していないため、機器内部の信号と同じ周波数の試験信号をノイズとして注入した場合に、機器内部の信号と注入ノイズとを分離できないという問題があった。
【0006】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、機器内で発生する電磁ノイズと注入した信号を周波数で分離し、機器内で発生する電磁ノイズと同じ周波数の試験信号を注入した場合の近似的な分布を得ることのできる電磁ノイズ分布検出装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る電磁ノイズ分布検出装置は、供試機器に対して信号を注入する信号注入手段と、供試機器上の電磁界強度を検出する電磁界強度検出手段と、電磁界強度検出手段の供試機器上の検出位置を移動させる走査手段と、信号注入手段に対して、供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数から僅かにずらした周波数の信号を出力するよう指示し、電磁界強度検出手段で検出された電磁界強度の分布を、供試機器内で発生する電磁ノイズの近似的な分布として検出するノイズ分布検出手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明の電磁ノイズ分布検出装置は、供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数から僅かにずらした周波数の信号を供試機器に注入し、検出された電磁界強度の分布を、供試機器内で発生する電磁ノイズの近似的な分布として検出するようにしたので、機器内で発生する電磁ノイズと注入した信号を周波数で分離し、機器内で発生する電磁ノイズと同じ周波数の試験信号を注入した場合の近似的な分布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1による電磁ノイズ分布検出装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1による電磁ノイズ分布検出装置における試験信号と供試機器内で発生する電磁ノイズとの関係を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1による電磁ノイズ分布検出装置における検出した電磁界分布から供試機器内で発生する電磁ノイズの電磁界分布を近似するイメージを示す説明図である。
【図4】この発明の実施の形態2による電磁ノイズ分布検出装置における試験信号と供試機器内で発生する電磁ノイズとの関係を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態2による電磁ノイズ分布検出装置における検出した電磁界分布から供試機器内で発生する電磁ノイズの電磁界分布を近似するイメージを示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態2による電磁ノイズ分布検出装置における1/n波長ずれた周波数の試験信号と供試機器内で発生する電磁ノイズとの関係を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態3による電磁ノイズ分布検出装置における試験信号と供試機器内で発生する電磁ノイズとの関係を示す説明図である。
【図8】この発明の実施の形態4による電磁ノイズ分布検出装置における供試機器各部の既存ノイズのレベルを示す説明図である。
【図9】この発明の実施の形態4による電磁ノイズ分布検出装置における供試機器各部の既存ノイズと同じ周波数のノイズ信号を注入した場合のレベルを示す説明図である。
【図10】この発明の実施の形態5による電磁ノイズ分布検出装置における供試機器各部の既存ノイズのレベルを示す説明図である。
【図11】この発明の実施の形態5による電磁ノイズ分布検出装置における注入信号の周波数の選択方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1による電磁ノイズ分布検出装置を示す構成図である。
図1に示す電磁ノイズ分布検出装置は、信号発生器1、アンプ2、注入プローブ3、検出プローブ4、アンプ5、電磁界強度計6、可動部7、走査部8、制御部9、表示部10を備える。
【0011】
信号発生器1は、電磁ノイズである試験信号を発生する回路であり、アンプ2は、信号発生器1で発生した試験信号を増幅する回路である。注入プローブ3は、アンプ2で増幅された試験信号を供試機器100の接続ケーブル(電源ケーブル等)を介して供試機器100に注入するプローブである。なお、供試機器100とは、例えばプリント基板といった機器である。また、これら信号発生器1〜注入プローブ3によって、供試機器100に対して信号を注入する信号注入手段が構成されている。検出プローブ4は、注入プローブ3で注入されたノイズを供試機器100上で測定するためのプローブである。アンプ5は信号発生器4から出力された検出信号を増幅するための回路である。電磁界強度計6は、アンプ5で増幅された検出信号のレベルを測定する電磁界測定器からなるものである。また、これら検出プローブ4〜電磁界強度計6によって、供試機器100上の電磁界を検出する電磁界強度検出手段が構成されている。なお、アンプ2は、信号発生器1が出力し、注入プローブ3で注入した電磁ノイズとしての試験信号のレベルが検出プローブ4で検出できる程度に高ければ無くてもよい。また、アンプ5は、検出プローブ4の出力レベルが電磁界強度計6で測定するのに十分高いレベルであれば無くてもよい。
【0012】
可動部7は、検出プローブ4を供試機器100のX(横)、Y(縦)、Z(高さ)、θ(回転)方向に移動させるための手段であり、走査部8は、可動部7のXYZθ方向の制御を行う走査制御部である。また、これら可動部7および走査部8によって、電磁界強度検出手段の供試機器100上の検出位置を移動させる走査手段が構成されている。制御部9は、電磁ノイズ分布検出装置としての各部の制御を司るものであり、信号発生器1における発生信号周波数を制御したり、走査部8における走査方向を制御したり、電磁界強度計6の結果を数値処理し、表示部10で表示するといった制御を行う。表示部10は、電磁ノイズの分布状態といった情報を表示するための表示装置である。
【0013】
制御部9はノイズ分布検出手段11を備えており、このノイズ分布検出手段11は、信号注入手段に対して、供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数から僅かにずらした周波数の信号を出力するよう指示し、電磁界強度検出手段で検出された電磁界強度の分布を、供試機器100内で発生する電磁ノイズの近似的な分布として検出するものである。なお、制御部9は例えばコンピュータを用いて実現され、ノイズ分布検出手段11は、その機能に対応したソフトウェアと、これを実行するためのCPUやメモリといったハードウェアから構成されている。あるいは、ノイズ分布検出手段11を専用のハードウェアで構成してもよい。
【0014】
また、図1では、可動部7は、検出プローブ4を、縦横(XY)・高さ(Z)・回転(θ)方向に走査するように記載しているが、プローブの走査方法はこれに限らない。また、走査する方法として、検出プローブ4を移動しても、供試機器100を移動してもかまわない。即ち、供試機器100上の電磁界分布を測定するために、検出プローブ4と供試機器100との位置関係が相対的に変える方法に関し、その走査方法はいずれでもかまわない。
【0015】
また、図示例では、電磁ノイズである試験信号を注入する注入プローブ3が、供試機器100のノイズ印加部である接続ケーブルにクランプするタイプであるが、ノイズを注入することができれば、その方法は、他の被接触型プローブでも、接触型プローブでも、照射アンテナによる方法でも構わない。
【0016】
次に、信号発生器1から出力する電磁ノイズである試験信号について説明する。
図2は、信号発生器1が出力する電磁ノイズとしての試験信号と供試機器100内で発生する電磁ノイズとの関係を示す説明図である。
供試機器100内の電磁ノイズと同じ周波数の電磁ノイズである試験信号を、信号発生器1で出力し、注入プローブ3で供試機器100に注入した場合、両者を分離し、試験信号のみの分布を分離することは困難である。そこで、信号発生器1は、供試機器100内の電磁ノイズの周波数(f0)から僅かにずれた周波数(fn,fn=f0+Δf)の試験信号を出力し、この試験信号を注入プローブ3で供試機器100に注入する。検出プローブ4は、可動部7により、検出プローブ4と供試機器100との位置関係を変えながら、前記試験信号の周波数(fn)を受信する。
【0017】
図3は、この発明の検出プローブ4が検出した電磁界分布から供試機器100内で発生する電磁ノイズの電磁界分布を近似するイメージを示す説明図である。このように、試験信号の供試機器100上の分布(fnの分布)を表示部10で表示することにより、機器内で発生する電磁ノイズの被試験信号と同じ周波数の電磁ノイズを注入した場合の分布(f0の分布)を近似的に表現することが可能になる。
【0018】
僅かにずれた試験信号は、供試機器100内で発生する電磁ノイズと同じ周波数の電磁ノイズを供試機器100外部から注入した場合と同じ傾向を示すためには、供試機器100内で発生する電磁ノイズに対して注入する試験信号の位相の差がλ/4よりずれない周波数範囲の試験信号を選択する。かつ、電磁界強度計6が、前記2つの周波数を分離して測定できるように、電磁界測定器の周波数分解能帯域幅の設定は、この2つの周波数の間隔よりも狭く設定する必要がある。
【0019】
次に、実施の形態1の電磁ノイズ分布検出装置の動作について説明する。
図1において、信号発生器1は、ノイズ分布検出手段11からの指示に基づいて、供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数から僅かにずらした周波数の試験信号(電磁ノイズ)を出力し、注入プローブ3を通じて供試機器100にノイズを注入する。注入したノイズは供試機器100内を伝搬し、一面に分布するため、検出プローブ4を可動部7で供試機器100一面を走査し、注入した試験信号を検出し、電磁界強度計6で測定する。ノイズ分布検出手段11は、電磁界強度計6で測定された電磁界の分布を、供試機器100内で発生する電磁ノイズの近似的な分布として表示部10に表示させる。即ち、図3におけるfnの分布を表示する。
【0020】
その結果、供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数を外部から注入した場合における、外部から注入したノイズの電磁界分布を近似的に得ること可能になる。即ち、図3におけるf0の近似的な分布を得ることができる。
【0021】
以上のように、実施の形態1の電磁ノイズ分布検出装置によれば、供試機器に対して信号を注入する信号注入手段と、供試機器上の電磁界強度を検出する電磁界強度検出手段と、電磁界強度検出手段の供試機器上の検出位置を移動させる走査手段と、信号注入手段に対して、供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数から僅かにずらした周波数の信号を出力するよう指示し、電磁界強度検出手段で検出された電磁界強度の分布を、供試機器内で発生する電磁ノイズの近似的な分布として検出するノイズ分布検出手段とを備えたので、機器内で発生する電磁ノイズと注入した信号を周波数で分離し、機器内で発生する電磁ノイズと同じ周波数の試験信号を注入した場合の近似的な分布を得ることができる。
【0022】
実施の形態2.
実施の形態2では、信号注入手段が、供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数の上下にずらした複数の周波数の信号を出力するようにしたものである。それ以外の構成は実施の形態1の電磁ノイズ分布検出装置と同様である。また、図面上の構成は図1と同様であるため、図1の構成を用いて説明する。
【0023】
図4は、実施の形態2における、信号発生器1が出力する電磁ノイズとしての試験信号と供試機器100内で発生する電磁ノイズとの関係を示す説明図である。また、図5は、実施の形態2における、検出プローブ4が検出した電磁界分布から供試機器100内で発生する電磁ノイズの電磁界分布を近似するイメージを示す説明図である。なお、両図において、同一符号は同一または相当部分を示す。
図4に示すように、被測定周波数(f0)に対して、位相がλ/4よりずれない2つの周波数(fn1=f0−Δfとfn2=f0+Δf)の試験信号を注入プローブ3で注入し、各信号周波数の供試機器100上の分布を検出プローブ4で検出し、電磁界強度計6で測定する。制御部9におけるノイズ分布検出手段11は、任意の点の各周波数(fn1とfn2)の値の平均値より、前記任意の点において、供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数(f0)と同じ周波数の信号を注入した場合の電磁界強度として、表示部10で表示する。
【0024】
実施の形態2による電磁ノイズ分布検出装置は、実施の形態1と同様の構成に加え、注入プローブ3から注入する試験信号として、供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数の上下2つの周波数成分を選択し、この各々の信号成分の分布から供試機器100内で発生する電磁ノイズの周波数の分布を内挿することにより、供試機器100内で発生する電磁ノイズの分布を近似するものである。
【0025】
図6は、実施の形態2における、信号発生器1が出力する電磁ノイズとしての試験信号と供試機器100内で発生する電磁ノイズとの関係を示す説明図である。
f0に対して、1/n波長(λ/n)ずれた周波数の試験信号(fn)を注入する場合、その周波数は、fn=nf/(n+1)とnf/(n−1)になる。この2つの周波数の信号を注入プローブ3で印加し、各々の信号の分布から被測定周波数を内挿することにより、供試機器100内で発生する電磁ノイズの分布の誤差範囲を限定することが可能になる。例えば、1/4波長(λ/4)ずれた場合、4f/5と4f/3となるため、誤差は、−20%〜約133.3%の範囲で近似が可能である。1/20波長(λ/20)ずれた場合、20f/21と20f/19となるため、誤差は(約−4.8%〜約105%)となる。即ち、ノイズ源である試験信号は、できるだけ供試機器100内で発生する電磁ノイズに近い周波数を選択することが誤差範囲を少なくなるという効果を奏する。
【0026】
なお、供試機器内で発生する電磁ノイズの上下から加える信号は、前記のように、供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数から等周波数間隔でも、1/n波長ずれた周波数でもある必要はなく、その効果を得られるならば、周波数の選定に規制はない。
【0027】
以上のように、実施の形態2の電磁ノイズ分布検出装置によれば、信号注入手段は、供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数の上下にずらした複数の周波数の信号を出力するようにしたので、実施の形態1と同様の効果に加え、供試機器内で発生する電磁ノイズの分布の誤差範囲を限定することができるために、近似結果に関して、より精度の高い電磁界分布を得ることができる。
【0028】
実施の形態3.
実施の形態3では、信号注入手段が、供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数を含む所定の帯域の周波数の信号を注入するよう構成され、また、ノイズ分布検出手段が、供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数のうち、検出対象とする周波数から僅かにずれた周波数に対応した電磁界強度検出手段で検出された電磁界分布を、供試機器内で発生する電磁ノイズの近似的な分布として検出するようにしたものである。それ以外の構成は実施の形態1または実施の形態2の電磁ノイズ分布検出装置と同様である。また、図面上の構成は図1と同様であるため、図1の構成を用いて説明する。
【0029】
図7は、この発明の実施の形態3による、信号発生器1が出力する電磁ノイズとしての試験信号と供試機器100内で発生する電磁ノイズとの関係を示す説明図である。
この発明の実施の形態3による電磁ノイズ分布検出装置は、電磁ノイズである試験信号を出力する信号発生器1から広帯域なノイズを出力し、注入プローブ3で注入するものである。実施の形態1または2では、試験信号の注入前に、注入する試験信号の周波数を決定していたが、本実施の形態では、広帯域な試験信号を注入し、供試機器100上の電磁界分布を検出プローブ4で広帯域に検出し、電磁界強度計6で測定する。測定した広帯域な電磁界分布から、所望の電磁ノイズの周波数に対して、実施の形態1または2記載の同様な方法で、試験信号を選択し、供試機器100内で発生する電磁ノイズの電磁界分布を近似表示する。
【0030】
以上のように、実施の形態3の電磁ノイズ分布検出装置によれば、供試機器に対して、供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数を含む所定の帯域の周波数の信号を注入する信号注入手段と、供試機器上の電磁界強度を検出する電磁界強度検出手段と、電磁界強度検出手段の供試機器上の検出位置を移動させる走査手段と、供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数のうち、検出対象とする周波数から僅かにずれた周波数に対応した電磁界強度検出手段で検出された電磁界強度の分布を、供試機器内で発生する電磁ノイズの近似的な分布として検出するノイズ分布検出手段とを備えたので、実施の形態1または実施の形態2の効果に加えて、複数の電磁ノイズの周波数に対して、1度のノイズ注入作業で済むために、試験時間を短縮することができる。
【0031】
実施の形態4.
実施の形態4は、ノイズ分布検出手段が、信号注入手段に対して、供試機器に対してレベルを変えながら信号を注入するよう指示し、電磁界強度検出手段が検出した供試機器上の電磁界強度が、信号注入手段に指示した信号注入レベルに追従した変化をした場合に、その注入した信号に基づく供試機器内で発生する電磁ノイズの近似的な分布を検出するようにしたものである。それ以外の構成は実施の形態1〜3のいずれかの電磁ノイズ分布検出装置と同様である。また、図面上の構成は図1と同様であるため、図1の構成を用いて説明する。
【0032】
図8は、実施の形態4における供試機器100の既存ノイズ12の分布について示した説明図である。供試機器100には、被測定周波数(f0)での電磁界分布を近似的に得るために注入する電磁ノイズとしての試験信号の周波数(fn)と同じ周波数の成分が、供試機器100に分布している様子を示している。図中のP1,P2,P3は、供試機器100上の電磁界強度を検出プローブが測定する位置の一例であり、それぞれの位置において、検出プローブが測定した既存ノイズ12のレベルを示している。P1では周波数fnのノイズが測定され、P2では測定されず、P3では特に高いレベルが測定されている。
【0033】
また、図9は、実施の形態4に関わるノイズ分布検出手段11において、注入信号と供試機器の既存ノイズ12とを分離する方法を示す説明図であり、図1に示す測定系が信号注入手段を通じて注入できる最大レベルの電磁ノイズとしての試験信号(周波数fn)を、図8に示した周波数fnの既存ノイズ12の分布をした供試機器100に印加した場合に、供試機器100上に生じる電磁界分布(既存ノイズと印加信号の和)を示している。なお、図中のP1,P2,P3は図8と同じ位置である。図8のレベルと比較して、P1のレベルは若干上がり、P2では測定されず(図8と比べて変化無し)、P3のレベルは変化が無く、特に高いレベルを示している。なお、f0におけるP1,P2,P3におけるf0のレベルは変化しない。
【0034】
次に、周波数fnの既存ノイズ12と注入信号との判別方法について説明する。
図8のP1とP3には、周波数fnの成分が既存ノイズ12として測定されているが、P2には周波数成分fnの成分が測定されていない。図9は、この測定系で印加できる最大レベルの電磁ノイズとしての信号を注入した際の供試機器100上の電磁界分布を測定した結果である。電磁ノイズとしての試験信号注入前(図8)と注入後(図9)を比較すると、P1では、注入後のレベルが高くなっており、注入した信号成分が測定されていることが判定できる。P2では、注入前もノイズ注入後も測定されていないため、注入信号のノイズが伝搬していないと判定できる。P3では、注入前のレベルが高いため、試験信号が注入されても、P3に伝搬した試験信号のレベルが小さいとその影響が現れず、既存ノイズ12と試験信号との判定ができない例である。
【0035】
なお、図8のP1では、周波数fnのノイズが既存である場合を示しているが、既存ノイズ12が測定されなくても、信号注入手段による電磁ノイズとしての試験信号注入後に電磁界強度のレベルが変化すれば注入したノイズが伝搬していると判別できる。
【0036】
また、図9の例においては、前述したように、図1に示す測定系で注入できる最大レベルの試験信号を信号注入手段で注入しているが、必ずしも最大レベルである必要は無く、図8と図9におけるP1のように、ノイズとしての信号の注入前と注入後で、検出結果にレベル差が生じるならば、注入するレベルに制限はない。
【0037】
また、選択する周波数fnは、評価する周波数f0を推定できるものであれば何でもよく、測定器の分解能帯域幅の周波数分以上ずらした周波数を選択すればよい。また、予め、供試機器100上の既存ノイズレベルの周波数特性を測定し、既存ノイズレベルの低い周波数を選択してもよい。
また、前記例では、供試機器100上の3点(P1,P2,P3)をあげているが、供試機器上の注入ノイズ伝搬経路が抽出できるならば、その数や場所に制限はない。
【0038】
次に、伝搬経路の評価について説明する。
前記の判別方法によれば、供試機器100上の各部に関して、注入信号の伝搬経路に該当するか、該当しないか、測定不能であることが判別できる。検出プローブ4は供試機器100上の伝搬経路に該当する部分を走査し、各測定位置において、注入プローブ3から注入する電磁ノイズとしての信号のレベルを変化させながら電磁界強度を測定し、供試機器100上における注入ノイズの強度分布を表示部10で表示する。
なお、前記のP2のように伝搬経路でない測定点は強度分布における下限であり、P3のように周波数fnの既存ノイズのレベルが高ければ,測定不能として表示することも可能である。
また、注入レベルの変化については、出力レベルを上げても、下げても、連続的であっても、離散的であってもよく、その変化の方法に制限はない。
【0039】
このように、実施の形態4では、被測定周波数(f0)の分布を近似的に得るために注入する周波数fnの電磁ノイズとしての試験信号の注入レベルを可変とすることにより、供試機器100上に伝搬する注入信号を判別することが可能になる。また、注入するノイズ信号の周波数fnと同じ周波数のノイズが供試機器100に既存な場合でも、供試機器100上の測定点における注入前後のレベルの違いから、注入するノイズ信号の伝搬経路に該当する、該当しない、判定できないことを判別することが可能である。即ち、注入するノイズ信号と同じ成分の既存ノイズが供試機器に存在する場合でも、注入するノイズ信号の伝搬経路を抽出し、表示することが可能になる。
【0040】
以上のように、実施の形態4の電磁ノイズ分布検出装置によれば、ノイズ分布検出手段は、信号注入手段に対して、供試機器に対してレベルを変えながら信号を注入するよう指示し、電磁界強度検出手段が検出した供試機器上の電磁界強度が、信号注入手段に指示した信号注入レベルに追従した変化をした場合に、注入した試験信号に基づく供試機器内で発生する電磁ノイズの近似的な分布を検出するようにしたので、注入する試験信号と同じ成分の既存ノイズが供試機器に存在した場合でも、機器内で発生する電磁ノイズと同じ周波数の試験信号を注入した場合の近似的な分布を確実に得ることができる。
【0041】
実施の形態5.
実施の形態5では,供試機器に注入するノイズとしての信号の周波数fn1と同じ周波数の既存ノイズのレベルが高く、周波数fn1の信号の判定ができない場合に、周波数をさらにずらした周波数fn3の信号を注入し、被測定周波数(f0)の分布を近似的に得ることようにしたものである。すなわち、実施の形態5では、ノイズ分布検出手段は、電磁界強度検出手段が検出した供試機器上の電磁界強度が、信号注入手段に指示した信号注入レベルに追従した変化をしなかった場合に、注入した信号とは異なる周波数の信号注入を行うよう指示するものである。それ以外の構成は、実施の形態1〜4のいずれの電磁ノイズ分布検出装置と同様である。また、図面上の構成は図1と同様であるため、図1の構成を用いて説明する。
【0042】
図10は、供試機器100の既存ノイズ13の分布について示した説明図である。図10に関しては、分布を表示している周波数に既存のノイズレベルが高い領域が多いこと以外は図8と同じ条件であるため、詳細な説明は省略する。また、図11は、実施の形態5における注入信号の周波数の選択方法を説明するための図である。
【0043】
以下、実施の形態5の動作について説明する。なお、実施の形態1〜4に記載の電磁ノイズ分布検出装置の動作と同様な動作に関してはその説明を省略する。
供試機器100に注入するノイズとしての試験信号の周波数fn1と同じ周波数の既存ノイズ13が、図10に示すように高く測定された場合には、注入した信号が判定不可能になる。そこで、実施の形態5では、図11に示すように、fn1(=f0+Δf1)から僅かにずらした周波数fn3(=f0+Δf1+Δf3)をノイズ分布検出手段11は再選択する。そして、信号注入手段によって、この周波数fn3の信号を供試機器100に注入し、実施の形態4に記載した注入信号の判別作業を実施し、供試機器100上の周波数fn3の試験信号の伝搬経路を抽出し、表示する。なお、周波数fn3でも判別ができない場合には、さらに別の周波数を選択し、同様な判別作業を繰返す。なお、選択する周波数は、評価する周波数f0を推定できるものであれば何でもよく、測定器の分解能帯域幅の周波数分以上ずらした周波数を選択すればよい。また、予め供試機器100上の既存ノイズレベルの周波数特性を測定し、既存ノイズレベルの低い周波数を選択してもよい。
【0044】
このように、実施の形態5では、被測定周波数(f0)の分布を近似的に得るために選択した注入信号の周波数と同じ周波数でレベルの高い既存ノイズが供試機器100にあって注入信号の伝搬経路を判別することができない場合でも、注入する周波数を可変とすることにより供試機器100内のレベルが低い周波数を選択し、注入信号を判別することが可能になる。即ち、被測定周波数(f0)の信号を注入した場合の、供試機器上の分布を近似的に得ることが可能になる。
【0045】
以上のように、実施の形態5の電磁ノイズ分布検出装置によれば、ノイズ分布検出手段は、信号注入手段に対して、供試機器に対してレベルを変えながら信号を注入するよう指示し、電磁界強度検出手段が検出した供試機器上の電磁界強度が、信号注入手段に指示した信号注入レベルに追従した変化をしなかった場合に、注入した信号とは異なる周波数の信号注入を行うよう指示するようにしたので、レベルの高い既存ノイズが供試機器に存在した場合でも、機器内で発生する電磁ノイズと同じ周波数の試験信号を注入した場合の近似的な分布を確実に得ることができる。
【0046】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 信号発生器、2,5 アンプ、3 注入プローブ、4 検出プローブ、6 電磁界強度計、7 可動部、8 走査部、9 制御部、10 表示部、11 ノイズ分布検出手段、12,13 既存ノイズ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試機器に対して信号を注入する信号注入手段と、
前記供試機器上の電磁界強度を検出する電磁界強度検出手段と、
前記電磁界強度検出手段の前記供試機器上の検出位置を移動させる走査手段と、
前記信号注入手段に対して、前記供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数から僅かにずらした周波数の信号を出力するよう指示し、前記電磁界強度検出手段で検出された電磁界強度の分布を、前記供試機器内で発生する電磁ノイズの近似的な分布として検出するノイズ分布検出手段とを備えた電磁ノイズ分布検出装置。
【請求項2】
信号注入手段は、供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数の上下にずらした複数の周波数の信号を出力することを特徴とする請求項1記載の電磁ノイズ分布検出装置。
【請求項3】
供試機器に対して、当該供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数を含む所定の帯域の周波数の信号を注入する信号注入手段と、
前記供試機器上の電磁界強度を検出する電磁界強度検出手段と、
前記電磁界強度検出手段の前記供試機器上の検出位置を移動させる走査手段と、
前記供試機器内で発生する電磁ノイズの周波数のうち、検出対象とする周波数から僅かにずれた周波数に対応した前記電磁界強度検出手段で検出された電磁界強度の分布を、前記供試機器内で発生する電磁ノイズの近似的な分布として検出するノイズ分布検出手段とを備えた電磁ノイズ分布検出装置。
【請求項4】
ノイズ分布検出手段は、
信号注入手段に対して、供試機器に対してレベルを変えながら信号を注入するよう指示し、電磁界強度検出手段が検出した前記供試機器上の電磁界強度が、前記信号注入手段に指示した信号注入レベルに追従した変化をした場合に、当該注入した信号に基づく前記供試機器内で発生する電磁ノイズの近似的な分布を検出することを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の電磁ノイズ分布検出装置。
【請求項5】
ノイズ分布検出手段は、
信号注入手段に対して、供試機器に対してレベルを変えながら信号を注入するよう指示し、電磁界強度検出手段が検出した前記供試機器上の電磁界強度が、前記信号注入手段に指示した信号注入レベルに追従した変化をしなかった場合に、当該注入した信号とは異なる周波数の信号注入を行うよう指示することを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項記載の電磁ノイズ分布検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−141293(P2012−141293A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−267141(P2011−267141)
【出願日】平成23年12月6日(2011.12.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】