説明

電磁ブレーキ

【課題】アーマチュアディスク解放時の異音を解消するための部品を1点とすることができる電磁ブレーキを提供する。
【解決手段】電磁ブレーキ1は、第1電磁コイル12の作動により第1ヨーク3側に吸着される第1アーマチュアディスク10と、回転伝達軸と一体に回転自在でかつ回転伝達軸に対して移動可能な第1ブレーキディスク8を第1アーマチュアディスク10とともに第1ヨーク3の端面から離れる方向に付勢する第1制動ばねと、前記第1アーマチュアディスク10の移動を案内する第1スペーサガイド6とを有する電磁ブレーキであって、第1スペーサガイド6の外周に複数個の第1O−リング25を配置してこれらO−リング25のみによりアーマチュアディスクを支持した構成でなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動時に発生する異音を解消できる無励磁作動形の電磁ブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、作動時に発生する異音を解消できる無励磁作動形の電磁ブレーキとしては、図5に示すものがある。この電磁ブレーキ51は、2段のブレーキ構造をなしており、円柱状の磁性体でなる第1ヨーク53と第2ヨーク54とが2段に配置されている。これら第1および第2ヨーク53,54は円周方向の複数個所でボルト55により所定間隔をおいて固定されており、取付対象物と第1ヨーク53との間隔は第1スペーサガイド56により、また第1ヨーク53と第2ヨーク54との間隔は第2スペーサガイド57により規制されている。前記第1ヨーク53の中心部には後記ハブ58が位置できるように中心孔53aが形成されており、第2ヨーク54の中心部には同様に中心孔54aが設けられ、これら中心孔53a,54aが同一中心線上に位置するように構成されている。
【0003】
前記第1ヨーク53と取付対象物との間には、円周方向の複数個所で前記第1スペーサガイド56に案内された第1アーマチュアディスク60が移動可能に配置されている。この第1アーマチュアディスク60の中心部には中心孔60bが形成されており、この中心孔60bにハブ58と後記第1ブレーキディスク79の筒部とが位置できるように構成されている。
【0004】
前記第1ヨーク53と第2ヨーク54との間には円周方向の複数個所で前記第2スペーサガイド57に案内された第2アーマチュアディスク64が移動可能に配置されている。この第2アーマチュアディスク64の中心部には中心孔64aが形成されており、この中心孔64aにハブ58と後記第2ブレーキディスク80の筒部とが通過できるように構成されている。前記第1および第2アーマチュアディスク60,64は磁性体でなっており、後記第1および第2電磁コイル62,63の通電時に瞬時に磁化されるように構成されている。
【0005】
前記第1ヨーク53および第2ヨーク54にはそれぞれ取付対象物、第1ヨーク53側に第1電磁コイル62、第2電磁コイル63が配置されており、第1電磁コイル62の通電時には第1アーマチュアディスク60を第1ヨーク53の端面側に、また第2電磁コイル63の通電時には第2アーマチュアディスク64を第2ヨーク54の端面側に吸着するように構成されている。
【0006】
前記第1および第2ヨーク53,54には第1、第2電磁コイル62,63の内側に位置して等間隔で複数個所に第1、第2制動ばね67,68が配置されており、第1アーマチュアディスク60を第1ヨーク53の端面から、また第2アーマチュアディスク64を第2ヨーク54の端面から離れる方向に常時付勢するように構成されている。
【0007】
前記第1ヨーク53の中心孔53aには、駆動源等の外部からの回転が伝達される回転伝達軸(図示せず)と一体のハブ58が配置されており、このハブ58の外周には外歯スプライン58dが全長にわたって形成されている。また、このハブ58の周囲には筒部を持つ第1ブレーキディスク79と第2ブレーキディスク80とが対向して配置されており、第1ブレーキディスク79および第2ブレーキディスク80にはそれぞれ中心側に第1内歯スプライン79a、第2内歯スプライン80aが形成されている。これら第1内歯スプライン79aおよび第2内歯スプライン80aは前記ハブ58の外歯スプライン58dと係合し、ハブ58と第1、第2ブレーキディスク79,80とが一体に回転かつ第1、第2ブレーキディスク79,80がハブ58に対して移動可能に構成されている。また、前記ハブ58と第1、第2ブレーキディスク79,80とは非磁性体で構成されており、第1、第電磁コイル62,63の通電時には第1、第2ブレーキディスク79,80が磁化されないように構成されている。さらに、前記第1、第2ブレーキディスク79,80の外周付近の両面にはそれぞれ第1、第2ブレーキライニング58b、65bが貼付されており、これら第1、第2ブレーキライニング58b、65bを介して前記第1、第2ブレーキディスク79,80が第1、第2アーマチュアディスク60,64と取付対象物または第2ヨーク54とにより挟持される時、第1、第2ブレーキディスク79,80の滑りが解消されるように構成されている。
【0008】
前記第1ヨーク53と取付対象物との間隔は第1アーマチュアディスク60、第1ブレーキディスク79、2枚の第1ブレーキライニング58bの各厚みの合計よりもわずかに大きく設定されており、第1電磁コイル62の通電時に第1アーマチュアディスク60と第1ブレーキディスク79とが移動できるギャップが形成されている。また、前記第1ヨーク53と第2ヨーク54との間隔も同様に設定されており、第2電磁コイル63の通電時に第2アーマチュアディスク64と第2ブレーキディスク80とが移動できるギャップが形成されている。
【0009】
前記第1スペーサガイド56の外周には図6に示すように第1アーマチュアディスク60を案内する位置に第1円周溝56aと第1リング溝56bとが形成されており、第1円周溝56aには1個の第1O−リング75が、第1リング溝56bには第1ピストンガイドリング76が配置されている。また、第2スペーサガイド57には第1スペーサガイド56と同様に第2円周溝(図示せず)、第2リング溝(図示せず)、第2O−リング77および第2ピストンガイドリング78が配置されており(図5参照)、第2スペーサガイド57は第1スペーサガイド56とともに作動時に異音が発生するのを防止する消音機構を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−537745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記電磁ブレーキでは、第1、第2電磁コイル62,63への通電遮断時に第1、第2制動ばね67,68の弾性力により第1、第2アーマチュアディスク60,64および第1、第2ブレーキディスク79,80が移動して、第1、第2ブレーキディスク79,80がそれぞれ取付対象物、第1ヨーク53の端面に当接する際に、第1、第2O−リング75,77と第1、第2アーマチュアディスク60,64との摩擦力による移動速度の低下、並びに第1、第2ピストンガイドリング76,78による第1、第2アーマチュアディスク60,64の安定した姿勢の移動により、異音の騒音レベルはある程度低下している。
【0012】
しかしながら、騒音レベルはある程度抑えられるものの、十分な騒音対策とはいえないばかりか、部品の種類もO−リングとピストンガイドリングとの2種類が必要となり、その上第1、第2スペーサガイド56,57への溝加工もそれぞれの部品に対して行わねばならず、加工コストの上昇を招くなどの不具合が懸念されている。
【0013】
本発明の第1の目的は、このような不具合を払拭することであり、アーマチュアディスク解放時の異音を解消するために使用される部品の種類を1点とすることができる無励磁作動形の電磁ブレーキを提供することである。
【0014】
また、本発明の第2の目的はアーマチュア解放時の異音を解消する効果が高く、しかも組立て時の部品の歩留まりを改善できる無励磁作動形の電磁ブレーキを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、第1の目的を達成するために、ヨークに配置された電磁コイルの作動によりヨーク側に吸着されるアーマチュアディスクと、回転伝達軸と一体に回転自在でかつ回転伝達軸に対して移動可能なブレーキディスクと、前記アーマチュアディスクとブレーキディスクとをヨークの端面から離れる方向に付勢する制動ばねと、前記アーマチュアディスクの移動を案内するスペーサガイドとを有する電磁ブレーキであって、前記スペーサガイドのアーマチュアディスクを案内する位置に円周溝を形成し、この円周溝に複数個のO−リングを配置してこれらO−リングのみによりアーマチュアディスクを支持したことを特徴とする。
【0016】
このように構成することにより、アーマチュアディスクの移動の際に加わる制動ばねの弾性力が複数個のO−リングの弾性に吸収されるとともに、O−リングとの摩擦によりアーマチュアディスクおよびブレーキディスクの移動速度は低下する。しかも、O−リングは複数個配置されているため、1個の場合よりもアーマチュアディスクおよびブレーキディスクの移動速度の低下は大きくなり、ブレーキディスクは取付対象物側または隣接して配置された他のヨークに減速されて衝突することができる。また、スペーサガイドはアーマチュアディスクを複数個のO−リングで案内することができ、案内幅が長くなってアーマチュアディスクの移動姿勢を安定させることができ、前述の衝突速度の減速とあいまって衝突による異音の騒音レベルを下げることができる。さらに、異音の騒音レベルを下げる部品もO―リングの1点となり、部品管理コストを低減することができる。
【0017】
また、本発明の第2の目的を達成するために、スペーサガイドの円周溝に3個のO−リングを配置したことを特徴としている。
【0018】
この構成により、O−リングの個数を2個から3個に増やしたときの騒音レベルの低下が著しく、騒音レベルの低下に最適な個数のO―リングを持った電磁ブレーキを提供することができる。また、3個のO−リングが配置されたスペーサガイドをアーマチュアディスクに組込むときには、円周溝に配置された第1番目のO−リングがスペーサガイドとアーマチュアディスクとのクリアランス間に押し込まれると、後続のO−リングが順次圧縮され、半径方向に広がる。この時、第3番目のO−リングの半径方向の広がりは挿入の限界内に収まり、第3番目のO−リングがせん断されることなく、スペーサガイドとアーマチュアディスクとのクリアランス間に入り、O−リング組込み時の歩留まりが向上し、部品の管理コストを下げることができる。
【0019】
さらに、前記O−リングをすべて同形状、同素材としてもよく、この場合O−リングのみでアーマチュアディスクの案内幅を確保でき、アーマチュアディスクの移動姿勢を安定させることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明した本発明によれば、作動時に発生する異音を解消できる無励磁作動形の電磁ブレーキを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本本発明の実施形態にかかる電磁ブレーキの要部拡大断面図
【図2】本発明の実施形態にかかる電磁ブレーキの平面図
【図3】図2のA−A線拡大断面図
【図4】本発明の実施形態にかかる電磁ブレーキの消音についての実験結果を表す表
【図5】従来の電磁ブレーキの要部拡大断面図
【図6】図5のB部分の要部拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0023】
<第1実施形態>
図2および図3に示すように、この実施形態の無励磁形の電磁ブレーキ1は、横置きに配置されて使用されるものである。この電磁ブレーキ1は第1電磁ブレーキ部1aと第2電磁ブレーキ部1bとからなる2段のブレーキ構造をなしており、第1電磁ブレーキ部1aは略矩形状のフランジ部2aを備えた取付用ディスク2を有している。この取付用ディスク2には、第1電磁ブレーキ部1aの第1ヨーク3と第2電磁ブレーキ部1bの第2ヨーク4とが円周方向の複数個所でボルト5により所定間隔をおいて固定されている。前記取付用ディスク2と第1ヨーク3との間隔は第1スペーサガイド6により、また第1ヨーク3と第2ヨーク4との間隔は第2スペーサガイド7により規制されている。前記第1スペーサガイド6および第2スペーサガイド7は先端部外周におねじ部を有し、このおねじ部がそれぞれ第1ヨーク3、第2ヨーク4に形成されためねじ部に螺合して取付用ディスク2と第1ヨーク3との間隔および第1ヨーク3と第2ヨーク4との間隔を調整できるように構成されている。
【0024】
前記取付用ディスク2、第1ヨーク3および第2ヨーク4の中心部には中心孔2b,3a、4aが同一中心線上に位置するように形成されており、取付用ディスク2の中心孔2bには外部の回転伝達軸(図示せず)が挿通可能に、第1ヨーク3の中心孔3aには後記第1ハブ部8aおよび第2ハブ部15aが位置できるように、第2ヨーク4の中心孔4aには回転伝達軸が位置できるように構成されている。
【0025】
前記取付用ディスク2と第1ヨーク3との間には、円周方向の3か所に第1遊挿穴10aを持つ第1アーマチュアディスク10が配置されており、これら第1遊挿孔10aに前記第1スペーサガイド6が挿通し、第1アーマチュアディスク10が第1スペーサガイド6に沿って移動可能に構成されている。この第1アーマチュアディスク10の中心部には中心孔10bが形成されており、第1ハブ部8aが位置できるように構成されている。また、前記取付用ディスク2と第1アーマチュアディスク10との間には、回転伝達軸の回転を受けて回転可能な第1ハブ部8aと一体に形成された第1ブレーキディスク8が2枚の第1スペーサディスク11とともに配置されている。前記第1ブレーキディスク8は非磁性体でなっており、後記第1電磁コイル12の通電時に第1ハブ部8aとともに磁化されないように構成されている。さらに、前記第1ブレーキディスク8には、その外周付近の両面にわたって第1ブレーキライニング8bが貼付されており、制動時の滑りが解消されるように構成されている。
【0026】
前記第1ハブ部8aの中心側には第1内歯スプライン8cが形成されており、前記回転伝達軸の連結部に形成された外歯スプライン(図示せず)と噛合って第1ハブ部8aが回転伝達軸と一体に回転可能に構成されている。
【0027】
前記第1スペーサディスク11は中心部に第1中心孔11aを有し、前記第1ハブ部8aが位置できるように構成されている。この2枚の第1スペーサディスク11の厚みは、第1アーマチュアディスク10と第1ブレーキディスク8と、これに貼付された2枚の第1ブレーキライニング8bの各厚みとの合計が前記取付用ディスク2と第1ヨーク3との間隔よりもわずかに大きくなるように設定され、第1アーマチュアディスク10、第1スペーサディスク11および第1ブレーキディスク8の移動を可能にするギャップが形成されている。
【0028】
前記第1ヨーク3と第2ヨーク4との間には、前記第1アーマチュアディスク10と同形状をなす第2アーマチュアディスク14が配置されており、第2スペーサガイド7に沿って移動可能に構成されている。この第2アーマチュアディスク14の中心部には中心孔14aが形成されており、前記回転伝達軸が位置できるように構成されている。また、前記第1ヨーク3と第2アーマチュアディスク14との間には、第2ハブ部15aと一体に形成された第2ブレーキディスク15が前記第1ハブ部8aと対向して2枚の第2スペーサディスク16とともに配置されている。これら第2ハブ部15a、第2ブレーキディスク15および第2スペーサディスク16は、第1ハブ部8a、第1ブレーキディスク8および第1スペーサディスク11と同形状、同素材で形成されており、第1ヨーク3と第2ヨーク4との間にも第2アーマチュアディスク14、第2スペーサディスク16および第2ブレーキディスク15の移動を可能にするギャップが形成されている。なお、第1、第2ブレーキディスク8、15はそれぞれ第1、第2ハブ部8a,15aと一体に形成されているが、別体としてもよく、この場合これら第1、第2ブレーキディスク8,15と第1、第2ハブ部8a,15aとの間に内歯スプライン(図示せず)と外歯スプライン(図示せず)とを形成すればよい。
【0029】
前記第1ヨーク3および第2ヨーク4は、円柱状の磁性体でなっており、しかも各ヨーク3,4にはそれぞれ取付用ディスク2側、第1ヨーク3側に第1電磁コイル12、第2電磁コイル13が配置されており、第1電磁コイル12の通電時には第1アーマチュアディスク10を第1ヨーク3の端面側に、また第2電磁コイル13の通電時には第2アーマチュアディスク14を第2ヨーク4の端面側に吸着するように構成されている。
【0030】
前記第1および第2ヨーク3,4には第1、第2電磁コイル12,13の内側に位置して複数個所に第1、第2制動ばね17,18が配置されており、第1アーマチュアディスク10を第1ヨーク3の端面から、また第2アーマチュアディスク14を第2ヨーク4の端面から離れる方向に常時付勢するように構成されている。前記第1、第2ヨーク3,4の端面には円周方向の3か所に一部を第1アーマチュアディスク10、第2アーマチュアディスク14側に突出させて弾性リング19が配置されており、各アーマチュアディスク10,14吸着時の衝撃が緩和されるように構成されている。
【0031】
次に本発明の実施形態の要部である消音構造について説明する。図1において、6は第1電磁ブレーキ部1aの取付用ディスク2に第1ボルト5を介して取付けられた第1スペーサガイドであり(第2スペーサガイド7は、第1スペーサガイド6と同構造であるため、説明を省略)、第1アーマチュアディスク10および2枚の第1スペーサディスク11に形成された遊挿孔10a,11bに遊挿されて配置されている。前記第1スペーサガイド6の中央部の第1アーマチュアディスク10を案内する位置には第1円周溝6aが形成されており、この第1円周溝6aには3個の第1O−リング25がわずかな余裕を持って配置され、これらO−リング25のみにより案内幅を形成してアーマチュアディスク10,14を支持するように構成されている。これら第1O―リング25は、ニトリルゴム、フッ素ゴム、水素化ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム等のいずれの材質のものでもよく、JISで規定する程度のゴム硬さを有するものであればよい。
【0032】
なお、前記第1O−リング25は3個に限定されているが、第1、第2アーマチュアディスク10,14の移動姿勢が安定する案内幅があればよく、2個もしくは4個以上の実用上可能な個数であってもよい。また、前記第1O−リング25をすべて同形状、同素材としてもよく、この場合第1O−リング25のみで第1、第2アーマチュアディスク10,14の案内幅を確保でき、第1アーマチュアディスク10,14の移動姿勢をさらに安定させることができる。さらに、この電磁ブレーキ1を縦型に配置して使用してもよい。
【0033】
上記電磁ブレーキでは、第1、第2電磁ブレーキ部1a,1bの第1、第2電磁コイル12,13の通電時には第1、第2アーマチュアディスク10,14が磁化され、それぞれ第1ヨーク3、第2ヨーク4側に吸着され、第1、第2制動はね17,18に逆らって移動する(以後、第1電磁ブレーキ部1aと第2電磁ブレーキ部1bの基本動作は同一であるため、第1電磁ブレーキ部1aについて説明する)。前記第1アーマチュアディスク10の移動にともない、第1ブレーキディスク8は第1制動ばね17の制動を受けることなく回転するので、この第1ブレーキディスク8と一体の第1ハブ部8aおよびこの第1ハブ部8aと一体の回転伝達軸も制動を受けずに回転する。
【0034】
この状態で、第1電磁コイル12の通電が遮断されると、第1アーマチュアディスク10の磁化が弱まり、第1制動ばね17の弾性力により第1アーマチュアディスク10が取付用ディスク2側に押し出される。この時、第1アーマチュアディスク10は第1スペーサガイド6に案内されており、しかも第1アーマチュアディスク10と第1スペーサガイド6との間には3個の第1O−リング25が配置されているため、第1アーマチュアディスク10を案内する案内幅も十分確保できるので、第1アーマチュアディスク10の移動時の姿勢を安定させることができる。また、前記第1制動ばね17の弾性力が3個の第1O−リング25の弾性力に吸収されるとともに、第1O―リング25と第1アーマチュアディスク10との摩擦によって、第1アーマチュアディスク10および第1ブレーキディスク8の移動速度は低下する。しかも、第1O−リング25は3個配置されているため、1個または2個の場合よりも第1アーマチュアディスク10および第1ブレーキディスク8の移動速度の低下は大きくなり、第1ブレーキディスク8は取付用ディスク2側に減速されて衝突するので、この衝突により発生する異音の騒音レベルを下げることができる。この騒音レベルの低下は、第1O−リング25の個数を増すことにより顕著となり、図4の実験結果から得られる表からも明瞭となっている。特に、第1O−リング25の個数を2個から3個に増やしたときの騒音レベルの低下が著しく、騒音レベルの低下に最適な個数の第1O―リング25を配置した電磁ブレーキを提供できる。
【0035】
次に、前記第1O−リング25の組込み作業について説明する。前記第1円周溝6aに3個の第1O−リング25が配置された第1スペーサガイド6をJIS B2401で規定するO−リングのつぶし代寸法の条件で第1アーマチュアディスク10に組込む。この時、第1円周溝6aに配置された第1番目の第1O−リング25が第1スペーサガイド6と第1アーマチュアディスク10とのクリアランス間に押し込まれるにともない、後続の第1O−リング25が圧縮されるので、後続の第1O−リング25が半径方向に広がる。続いて、第2番目の第1O−リング25が押し込まれると、第3番目の第1O−リング25がさらに半径方向に広がる。この時、第3番目の第1O−リング25の半径方向の広がりは、挿入の限界内に留まるため、3番目の第1O−リング25を無理やり押し込んでも、3番目の第1O−リング25はせん断されることなく、第1スペーサガイド6と第1アーマチュアディスク10とのクリアランスに入ることができ、第1スペーサガイド6を第1アーマチュアディスク10に組込むことができる。
【0036】
前記第1O−リング25の個数が3個ときが最適であることを確認するため、O−リングの個数を4個にし、第1円周溝6aの幅を1個分広げた状態で(図示せず)、JISで規定するO−リングのつぶし代の条件で組込み実験を行った。前述したように、3番目までのO−リングを組込めたが、4番目のO−リングは3個目のO−リングを押し込む際に圧縮されて半径方向の広がりが挿入の限界を超えてしまう危険が増える。そのため、第4番目のO−リングを無理に押し込むと、第4番目のO−リングがせん断されることが多くなり、O−リング組込み時の歩留まりの悪化を招くことが判明し、組込み作業上O−リングの個数は3個以内が適していることを確認できた。
【0037】
以上説明したように、本発明の実施形態はヨーク3,4に配置された電磁コイル12,13の作動によりヨーク3,4側に吸着されるアーマチュアディスク10,14と、回転伝達軸と一体に回転自在でかつ回転伝達軸に対して移動可能なブレーキディスク8,15と、アーマチュアディスク10,14とブレーキディスク8,15とをヨーク3,4の端面から離れる方向に付勢する制動ばね17,18と、前記アーマチュアディスク10,14の移動を案内するスペーサガイド6,7とを有する電磁ブレーキであって、前記スペーサガイド6,7の外周のアーマチュアディスク10,14を案内する位置に複数個のO−リング25を配置してO−リング25のみによりアーマチュアディスク10,14を支持したことを特徴とする。
【0038】
このように構成することにより、アーマチュアディスク10,14の移動の際に加わる制動ばね17,18の弾性力が複数個のO−リング25の弾性に吸収されるとともに、O−リング25とアーマチュアディスク10,14との摩擦により、アーマチュアディスク10,14およびブレーキディスク8,15の移動速度は低下する。しかも、O−リング25は複数個配置されているため、1個の場合よりもアーマチュアディスク10,14およびブレーキディスク8,15の移動速度の低下は大きくなり、ブレーキディスク8,15は取付対象物側または隣接して配置された他のヨークに減速されて衝突するので、この衝突による異音の騒音レベルを下げることができる。また、スペーサガイド6,7はアーマチュアディスク10,14を複数個のO−リング25で案内することができ、案内幅が長くなってアーマチュアディスク10,14の移動姿勢を安定させることができるばかりか、部品点数もO―リング25の1点となり、部品管理コストを低減することができる。
【0039】
なお、本発明の幾つかの実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1…電磁ブレーキ
3…第1ヨーク
4…第2ヨーク
6…第1スペーサガイド
6a…第1円周溝
7…第2スペーサガイド
8…第1ブレーキディスク
10…第1アーマチュアディスク
12…第1電磁コイル
13…第2電磁コイル
14…第2アーマチュアディスク
15…第2ブレーキディスク
17…第1制動ばね
18…第2制動ばね
25…第1O−リング


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨークに配置された電磁コイルの作動によりヨーク側に吸着されるアーマチュアディスクと、回転伝達軸と一体に回転自在でかつ回転伝達軸に対して移動可能なブレーキディスクと、アーマチュアディスクとブレーキディスクとをヨークの端面から離れる方向に付勢する制動ばねと、前記アーマチュアディスクの移動を案内するスペーサガイドとを有する電磁ブレーキであって、前記スペーサガイドの外周のアーマチュアディスクを案内する位置に円周溝を形成し、この円周溝に複数個のO−リングを配置してO−リングのみによりアーマチュアディスクを支持したことを特徴とする電磁ブレーキ。
【請求項2】
O−リングは円周溝に3個配置されたことを特徴とする請求項1に記載の電磁ブレーキ。
【請求項3】
O−リングは同形状、同素材であることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁ブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−96495(P2013−96495A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239569(P2011−239569)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】