説明

電磁弁

【課題】 磁気効率の高い磁路を構成とすることで小型及び、磁性体異物が弁体部分に付着しない電磁弁を提供すること。
【解決手段】 アーマチュア5の弁部を構成するボール弁体6、またはシート部8を非磁性体とする。ボール弁体6、またはシート部8の材料に非磁性体を用いることで、ボール弁体6を介してシート部8に発生していた磁束が低減される。この作用によって、アーマチュア5の開弁に必要な吸引力の低下が図れ、コイル1の小型化が可能になる。また、コイル1を励磁した開弁時に、ボール弁体6に磁性体の異物が付着することを防ぐことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ装置等に使用される電磁弁の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来では、プランジャと一体に設けたシャフトの下端部に球形の弁体を設けて、電磁作用でシート部に着座、非着座することにより、シート部の流路を遮断、又は開放している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−243549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の従来技術にあっては、ボール弁体及びシート部に磁性体が用いられており、ボール弁体を介して磁束がシート部にまで流れていた。この磁束の影響でコイルを励磁した際に、ボール弁体とシート部の間で磁力が発生する。この磁力は、アーマチュア(プランジャ)の開弁に作用する吸引力に対して、逆方向の閉弁側に作用することから吸引力の低下を招く問題を生じていた。
【0004】
本発明は、上述の従来の問題点に着目して成されたもので、その目的とするところは、弁体やシート部への漏れ磁束を抑制して、コイルの小型化を行うとともに、シール部分への磁性体の異物の付着を防止して、シール性を向上させた電磁弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明の電磁弁では、弁体またはシート部の材料に非磁性体を用いることで、弁体を介してシート部に発生していた磁束が低減でき、これにより、アーマチュアの開弁に必要な吸引力の低下を行うことができ、コイルの小型化が可能になる。また、コイルを励磁した開弁時に、ボール弁体に磁性体の異物が付着することを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に、本発明を実施する最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0007】
まず、構成を説明する。
実施例1はブレーキ装置の電磁弁を例としたものである。
[ブレーキシステムの構成について]
図1は実施例1の電磁弁を用いたブレーキシステムのブレーキ回路図である。
図1に示すブレーキシステムでは、実施例1の電磁弁を流出弁EV2として用いている。
このブレーキシステムでは、ブレーキペダルBPを踏み込むと、マスタシリンダMCから各車輪のホイルシリンダWCへブレーキ液が供給される構成である。
そして、この各ホイルシリンダWCへの供給路には、非通電時において常時開状態の電磁弁である流入弁EV1が設けられている。
【0008】
さらに、各ホイルシリンダWCからブレーキ液を逃がすためにリザーバRSへの流出路を設け、各ホイルシリンダWCからの流出路には、それぞれ、非通電時において常時閉状態の電磁弁である流出弁EV2が設けられている。
この流出弁EV2が本実施例1の電磁弁の例である。
なお、リザーバRSへ逃がして溜めたブレーキ液は、モータMで作動するプランジャポンプであるポンプPPにより、各ホイルシリンダWCの上流、つまりマスタシリンダMCの側へリターンする構成である。
【0009】
[電磁弁の構成について]
図2は実施例1の電磁弁の縦断面図である。
実施例1の電磁弁は、コイル1、ヨーク2、ボディセンタ3、アーマチュア5、ボール弁体6、スプリング7、シート部8、シートボディ9を主要な構成としている。
コイル1は、電磁弁における吸引力を発生させるために、通電時に磁界を発生するものであり、円筒形に巻き線したものである。
【0010】
ヨーク2は、コイル1を収容するとともに、コイル外側の磁路を形成する。
ボディセンタ3は、ヨーク2の内周側に配置された磁性体である。閉弁時のアーマチュア5に対して、所定のギャップ4を空けるよう配置される。
アーマチュア5は、コイル1に通電して発生させた磁界により吸引され移動する磁性体である。
ボール弁体6は、アーマチュア5の弁部として組み付けられる球形状のもので、ロックウェル硬さがHRC60〜65の非磁性体である。
【0011】
スプリング7は、アーマチュア5のボディセンタ3側に設けられた凹形状内に一部が収容され、初期に圧縮した取り付けを行うことにより、ボディセンタ3からアーマチュア5が離れる方向に付勢力を与える。言い換えると、アーマチュア5を介してボール弁体6をシート部8へ押し付ける方向へ付勢力を与えるものである。
シート部8は、軸方向に貫通した通路を有する構造のものであり、端部には、ボール弁体6の球面が当接することにより、内部通路への連通を遮断するシール部分を備えている。
シートボディ9は、シート部8を内部に嵌合させて支持する磁性体である。
【0012】
作用を説明する。
[必要な吸引力の低減作用]
図3は実施例1の電磁弁におけるコイル通電時の磁場状態を示す説明図である。図4は図3の一部拡大図である。図5は磁性体の弁体を有する電磁弁におけるコイル通電時の磁場状態を示す説明図である。図6は図5の一部拡大図である。
実施例1の電磁弁では、ボール弁体6を非磁性にしている。
すると、コイル通電時の磁場状態は、図3、図4に示すようになる。図3、図4では、ボール弁体6が非磁性であり磁場状態上は、空気等と同程度の磁気特性となるため、ボール弁体6を省略した状態の図となっている(ボール弁体6は点線で示す)。また、シート部8とシートボディ9は同程度の磁気特性であるので、一体とした状態の図となっている(双方の間の境界を点線で示す)。
この図4では、ボール弁体6が非磁性となることにより、ボール弁体6からシート部8へ流れる磁束線が描かれない状態(磁束密度が低い状態)になっていることがわかる。
【0013】
ここで、磁性体のボール弁体6を考えると、その磁場状態は、図5、図6のようになる。
図5、図6ではボール弁体6が磁性体であり、磁性体のアーマチュア5に近い磁気特性であるため、一体となった形状とした状態の図となっている。
特に図6では、ボール弁体6が磁性を有すると、ボール弁体6からシート部8へ流れる磁束線が描かれている状態(磁束密度が高い状態)になっていることがわかる(図5、図6の符号20参照)。
【0014】
図5、図6に示す状態を考えると、ボール弁体6からシート部8へ流れる磁束線により、ボール弁体6とシート部8の間には、吸引力が発生する。ボール弁体6とシート部8は、非通電時に常時閉の弁状態であるため、接触した状態から引き離されることになる。吸引力は距離の2乗に反比例して大きいものとなるため、ボール弁体6とシート部8を接触状態から引き離す際には、その間隙が小さいために、無視できない力が生じる。
【0015】
このボール弁体6とシート部8の吸引力は、結果的にアーマチュア5とシート部8を吸引させている。
また、このボール弁体6とシート部8の吸引力は、ボディセンタ3とアーマチュア5の間のギャップ4で、アーマチュア5をボディセンタ3へ引き付けるように発生する吸引力と逆の方向に生じる。
そのため、ボディセンタ3とアーマチュア5の間、つまりギャップ4に発生させるアーマチュア5の動作に必要な吸引力は、ボール弁体6とシート部8の吸引力に対抗する分、増大したものとなる。
【0016】
実施例1では、ボール弁体6が非磁性体であることにより、アーマチュア5とシート部8の間では、ボール弁体6の部分における磁気抵抗が増大するため、ボール弁体6からシート部8へ磁束が流れることは非常に抑制される。これにより、ボール弁体8とシート部6の間で生じる吸引力は非常に小さいものとなる。そのため、アーマチュア5とシート部8の間に流れる磁束が生じていたとしても、アーマチュア5とシート部8の間に発生する吸引力を非常に小さいものに抑制できる。
そのため、電磁弁におけるアーマチュア5を吸引する吸引力が大きくなり、ひいてはコイル1の巻き数等、容量の低下、つまりコイル1の小型化が可能になる。
【0017】
また、実施例1において、ボール弁体6を非磁性体にすることは、コイル1を囲むように形成され、ギャップ4においてアーマチュア5に作用する吸引力を発生させる磁気回路において、この磁気回路外に漏れる磁束の流れる部分の磁気抵抗を大きくしたということもできる。
つまり、漏れ磁束の抑制により磁束を本来形成したい磁気回路へ寄せ集め、これにより磁気効率を向上させて、ギャップ4においてアーマチュア5に作用する吸引力を向上させるとも言える。
【0018】
[良好なシール作用]
例えば、図2で説明したブレーキシステムの常時閉状態の流出弁EV2として、実施例1の電磁弁を用いると、この常閉型の電磁弁は、通常時のブレーキによりボール弁体6がブレーキ液の油圧を受けることになる。そのため、ボール弁体6には耐久性が求められ、必要充分な硬度が必要になる。
もし、流出弁EV2におけるボール弁体6とシート部8とのシール機能が損なわれるならば、ホイルシリンダWCへの供給圧力が低下し、ブレーキ性能が低下するからである。
【0019】
また、硬度が必要以上に高い代わりに、脆さを特段の特性として有するものとなれば、使用される長い期間を考慮した耐久性上、シール部分での欠落部や噛み込みが生じると、やはりブレーキ性能の低下につながり、好ましくない。また、シール面のなじみ性からも好ましくないことになる。
実施例1では、ボール弁体6をロックウェル硬さがHRC60〜65と必要充分な硬度としているので、耐久性を満たすシール面を構成する。
【0020】
さらに、実施例1のボール弁体6は非磁性であるので、磁性体の異物が付着しにくい。そのため、異物がシール部分に噛み込み、シール性を損なうことを非常に抑制する。
これは、図5、図6に示すように、ボール弁体6を磁性体と考え、ボール弁体6からシート部8へ流れる磁束があるものと比べると、異物噛み込みの抑制性能は非常に向上したものとなる。
【0021】
次に効果を説明する。
実施例1の電磁弁にあっては、以下に列挙する効果が得られる。
【0022】
(1)通電時に磁界を形成するコイル1と、コイル1を収容する磁性材のヨーク2と、ヨーク2の内周側に配置された磁性材のボディセンタ3と、ボディセンタ3に対し所定の間隙を設けて配置され、コイル1への通電時にボディセンタ3に吸引される磁性材のアーマチュア5と、ボディセンタ3とアーマチュア5の間に配置され、このアーマチュア5を閉弁方向に付勢するスプリング7を有する電磁弁において、アーマチュア5は、弁部に非磁性体で球面形状のボール弁体6を備えたため、ボール弁体6の材料に非磁性体を用いることで、弁体を介してシール部分に発生していた磁束が低減でき、これにより、アーマチュア5の開弁に必要な吸引力の低下を行うことができ、コイル1の小型化が可能になる。また、コイル1を励磁した開弁時に、ボール弁体6に磁性体の異物が付着することを防ぐことができる。これにより良好なシール性を得ることができる。
【0023】
(3)ボール弁体6は、ロックウェル硬さがHRC60〜65の非磁性材であるため、必要充分な硬度で、耐久性の要求を満たすとともに、良好なシール性を満たすことができる。
【実施例2】
【0024】
実施例2は、シート部を非磁性体にした電磁弁の例である。
まず構成を説明する。
実施例2では、ボール弁体6を磁性体にし、シート部8を非磁性体にしている。
その他構成は、実施例1と同様であるので、説明を省略する。
作用を説明する。
[漏れ磁束の抑制作用]
実施例2の電磁弁において、シート部8が非磁性体であることにより、アーマチュア5及びボール弁体6と、シート部8の間では、シート部8の部分における磁気抵抗が増大するため、アーマチュア5及びボール弁体6からシート部8へ磁束が流れることは非常に抑制される。これにより、ボール弁体8とシート部6の間で生じる吸引力は非常に小さいものとなる。そのため、アーマチュア5とシート部8の間に流れる磁束が生じていたとしても、アーマチュア5とシート部8の間に発生する吸引力を非常に小さいものに抑制できる。
そのため、電磁弁におけるアーマチュア5を吸引する吸引力が大きくなり、ひいてはコイル1の巻き数等、容量の低下、つまりコイル1の小型化が可能になる。
【0025】
また、実施例2において、シート部8を非磁性体にすることは、コイル1を囲むように形成され、ギャップ4においてアーマチュア5に作用する吸引力を発生させる磁気回路において、この磁気回路外に漏れる磁束の流れる部分の磁気抵抗を大きくしたということもできる。
つまり、漏れ磁束の抑制により磁束を本来形成したい磁気回路へ寄せ集め、これにより磁気効率を向上させて、ギャップ4においてアーマチュア5に作用する吸引力を向上させるとも言える。
【0026】
[良好なシール作用]
実施例2では、シート部8を非磁性体にしているので、コイル1に通電して磁界を発生させた場合に、磁性体の異物が付着しにくい。そのため、異物がシール部分に噛み込み、シール性を損なうことを非常に抑制する。
【0027】
効果を説明する。
実施例2の電磁弁にあっては、以下の効果を有する。
(2)通電時に磁界を形成するコイル1と、コイル1を収容する磁性材のヨーク2と、ヨーク2の内周側に配置された磁性材のボディセンタ3と、ボディセンタ3に対し所定の間隙を設けて配置され、コイル1への通電時にボディセンタ3に吸引される磁性材のアーマチュア5と、ボディセンタ3とアーマチュア5の間に配置され、このアーマチュア5を閉弁方向に付勢するスプリング7を有する電磁弁において、アーマチュア5に設けたボール弁体6と当接するか又は当接しない状態となり、閉弁又は開弁を行う非磁性体のシート部8を備えたため、シート部8の材料に非磁性体を用いることで、ボール弁体6からシート部8へ流れる漏れ磁束が低減でき、これにより、アーマチュア5の開弁に必要な吸引力の低下を行うことができ、コイル1の小型化が可能になる。また、コイル1を励磁した開弁時に、シート部8に磁性体の異物が付着することを防ぐことができる。これにより良好なシール性を得ることができる。
【0028】
以上、本発明の樹脂成形体の射出成形方法を実施例1、実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例では、ブレーキシステムに用いられる電磁弁について説明したが、他のシステムに用いられるものでもよい。
また、実施例1ではボール弁体を非磁性体にし、シート部を磁性体にした例について説明し、実施例2では、ボール弁体を磁性体にし、シート部を非磁性体にした例について説明したが、ボール弁体及びシート部の両方を非磁性体としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1の電磁弁を用いたブレーキシステムのブレーキ回路図である。
【図2】実施例1の電磁弁の縦断面図である。
【図3】実施例1の電磁弁におけるコイル通電時の磁場状態を示す説明図である。
【図4】図3の一部拡大図である。
【図5】磁性体の弁体を有する電磁弁におけるコイル通電時の磁場状態を示す説明図である。
【図6】図5の一部拡大図である。
【符号の説明】
【0030】
1 コイル
2 ヨーク
3 ボディセンタ
4 ギャップ
5 アーマチュア
6 ボール弁体
7 スプリング
8 シート部
9 シートボディ
20 磁束線
EV1 流入弁
EV2 流出弁
PP ポンプ
M モータ
RS リザーバ
BP ブレーキペダル
MC マスタシリンダ
WC ホイルシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電時に磁界を形成するコイルと、
前記コイルを収容する磁性材のヨークと、前記ヨークの内周側に配置された磁性材のボディセンタと、
前記ボディセンタに対し所定の間隙を設けて配置され、前記コイルへの通電時に前記ボディセンタに吸引される磁性材のアーマチュアと、
前記ボディセンタと前記アーマチュアの間に配置され、このアーマチュアを閉弁方向に付勢するスプリングと、
を有する電磁弁において、
前記アーマチュアは、弁部に非磁性体で球面形状のボール弁体を備えた、
ことを特徴とする電磁弁。
【請求項2】
通電時に磁界を形成するコイルと、
前記コイルを収容する磁性材のヨークと、
前記ヨークの内周側に配置された磁性材のボディセンタと、
前記ボディセンタに対し所定の間隙を設けて配置され、前記コイルへの通電時に前記ボディセンタに吸引される磁性材のアーマチュアと、
前記ボディセンタと前記アーマチュアの間に配置され、このアーマチュアを閉弁方向に付勢するスプリングと、
を有する電磁弁において、
前記アーマチュアに設けた弁体と当接するか又は当接しない状態となり、閉弁又は開弁を行う非磁性体のシート部を備えた、
ことを特徴とする電磁弁。
【請求項3】
請求項1に記載の電磁弁において、
前記ボール弁体は、ロックウェル硬さがHRC60〜65の非磁性材である、
ことを特徴とする電磁弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−24862(P2009−24862A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191764(P2007−191764)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】