説明

電磁式燃料噴射弁の駆動装置

【課題】本発明の目的は、第1の燃料噴射期間とこの第1の燃料噴射期間に引き続いて行われる第2の燃料噴射期間の間隔を短くすることができる燃料噴射装置の駆動装置を提供することにある。
【解決手段】先の燃料噴射(第1の燃料噴射)408と後の燃料噴射(第2の燃料噴射)410との間に、開弁しない程度の電圧印加409を行って中間電流407を流す。この中間電流407を流すための電圧印加409は、先の燃料噴射408で弁体が閉弁する前t31に開始し、先の燃料噴射408で弁体が閉弁した第1の時点t32から後の燃料噴射410で電流供給を開始する第2の時点t35までの間の時間の半分の時間(Td/2)が第1の時点t32から経過する前に打ち切る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば内燃機関に使用される電磁式燃料噴射弁の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常閉弁型の電磁式燃料噴射弁では、閉弁方向に力を発生される付勢手段を有し、駆動部はコイルとコアと可動子で構成され、コイルに電流を供給することによって、コアと可動子との間に吸引力が発生し、吸引力が閉弁方向の力を超えた時点で弁体が弁座から離脱し開弁を開始する。続いてコイルへの電流供給を停止することによって、コアと可動子間に発生していた吸引力が下がり、閉弁方向の力よりも小さくなった時点で閉弁を開始する。
【0003】
上記のような電磁式燃料噴射装置にあって、特許文献1では、コイルへの電流供給を停止した後に電流を再供給することにより、弁体の閉弁速度を抑制し、閉弁時に弁体が弁座と衝突する際の衝撃力を緩和することによって、閉弁後に発生する弁体のバウンドを低減するようにしたものである。
【0004】
また、特許文献2では、可動子を開弁動作開始時の初期位置に素早く復帰させるため、開弁状態から閉弁状態への閉弁動作時に、弁体が弁座に衝突した後にコイルへの通電を行い、可動子に対して閉弁動作の向きとは反対向きの力を作用させることにより、弁体が弁座と接触した後の可動子の運動を抑制し、可動子を開弁動作開始時の初期位置に素早く復帰させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−115591号公報
【特許文献2】特開2008−280876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、内燃機関の燃料消費を低減する手法として、排気量を減らして小型化するとともに、過給器によって出力を得るダウンサイジングエンジンがある。ダウンサイジングエンジンでは、排気量を減らすことで、ポンピングロスやフリクションを低減することができるため、燃費を低減することができる。一方で、過給器を用いることで十分な出力を得ると共に、筒内直接噴射を行うことによる吸気冷却効果により、過給に伴う圧縮比の低下を抑制し、低燃費を実現できる。このダウンサイジングエンジンにおいては、エンジン筒内のシリンダ径が縮小傾向にあり、噴射した燃料がシリンダ壁面に到達することが懸念される。噴射した燃料がシリンダ壁面に到達しないようにする方法として、一回の噴射行程中に必要な量の燃料を複数回に分けて噴射する分割噴射を行う方法がある。
【0007】
このような分割噴射を行うに際し、従来技術である特許文献1においては、弁体が弁座に衝突するまでの弁体の駆動方法に関する内容を記載したものであり、弁体が弁座に衝突してからの弁体及び可動子の挙動については配慮されていない。弁体が弁座に衝突した後も、弁体及び可動子は振動的な運動を継続する。
【0008】
特に、可動子が弁体に対して相対運動可能な構成においては、弁体が弁座に衝突した後、可動子が弁体に対して相対運動を継続する。このため、可動子が静止するまでには時間を要し、次の噴射を行うには噴射間隔を十分に確保する必要があった。また、弁体が弁座に衝突した後、可動子は弁体から離脱し、一定の時間後に可動子を開弁方向に付勢する付勢手段の力に応じて弁体と接触するが、可動子の質量,衝突速度が大きいと可動子が弁体を押し上げてしまい、開弁する可能性がある。
【0009】
このような分割噴射間隔の低減方法として、例えば特開2008−280876号公報には、可動子が弁座と接触した後に中間電流の供給を行い、可動子の静止時間を低減する方法が開示されている。
【0010】
しかしながら、これからの特許文献に開示されている方法では、中間電流を供給するタイミングや中間電流の打ち切りタイミングについて十分な配慮がなされていない。
【0011】
本発明の目的は、第1の燃料噴射期間とこの第1の燃料噴射期間に引き続いて行われる第2の燃料噴射期間の間隔を短くすることができる燃料噴射装置の駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、先の燃料噴射(第1の燃料噴射)と後の燃料噴射(第2の燃料噴射)との間に、開弁しない程度の電圧印加を行って中間電流を流す。この中間電流を流すための電圧印加は、先の燃料噴射で弁体が閉弁する前に開始し、先の燃料噴射で弁体が閉弁した第1の時点から後の燃料噴射で電流供給を開始する第2の時点までの間の時間の半分の時間が第1の時点から経過する前に打ち切る。
【0013】
具体的には、以下のように構成するとよい。
(1)コイルと磁気コアとで構成される電磁石によって可動子に組み付けられた弁体を駆動して燃料噴射口の開閉を行う電磁式燃料噴射弁に対して用いられ、電磁式燃料噴射弁のコイルに電流を供給するための印加電圧を制御する駆動装置において、
第1の燃料噴射期間の終了に伴う電圧印加の終了後、前記第1の燃料噴射期間に引き続く第2の燃料噴射期間の開始に伴う電圧印加の開始前に、前記弁体を開弁動作させる場合と同じ向きの中間電流を供給する電圧印加を行い、
前記中間電流を供給する電圧印加を、弁体が弁座に着座する第1の時点の前に開始し、前記第1の時点と前記第2の燃料噴射期間に対する前記電圧印加を開始する第2の時点との間の時間の半分の時間が前記第1の時点から経過する前に終了する。
(2)(1)において、前記第1の燃料噴射期間と前記第2の燃料噴射期間とを、一回の噴射行程中(一回の燃焼行程に対する吸気行程(場合によっては前回の排気行程に重なる)から圧縮行程)に噴射する量の燃料を複数回に分割して噴射する分割噴射に対して設定する。
(3)(2)において、接続される電源電圧をより高い電圧に昇圧する昇圧回路を有し、前記中間電流を供給するための電圧印加を、前記昇圧回路で昇圧した電圧を印加する。
(4)(3)において、前記中間電流を供給するための電圧印加は、前記中間電流の大きさが弁座に着座した弁体を弁座から離間させるのに必要な大きさになる前に終了する。
(5)(4)において、前記第1の燃料噴射期間と前記第2の燃料噴射期間とは、前記昇圧回路で昇圧された電圧を印加する昇圧電圧印加期間と前記昇圧電圧印加期間の後に電源電圧をスイッチングにより印加する電源電圧スイッチング期間とを有し、前記中間電流の最大値は前記電源電圧スイッチング期間に印加した電圧により流れる電流の最大値よりも大きく、前記昇圧電圧印加期間に印加した電圧により流れる電流の最大値よりも小さい。
(6)(1)において、前記中間電流を供給するための電圧印加をエンジンコントロールユニットからの噴射パルス幅の入力によって行う。
(7)(1)乃至(6)のいずれか1項に記載の電磁式燃料噴射弁の駆動装置において、前記電磁式燃料噴射弁は可動子を開弁方向に付勢する付勢手段を有するものであって、前記中間電流のための電圧印加を打ち切るタイミングは、弁体と弁座との衝突速度と可動子の質量との積を前記付勢手段の力で除した値である。
(8)コイルと磁気コアとで構成される電磁石によって可動子に組み付けられた弁体を駆動して燃料噴射口の開閉を行う電磁式燃料噴射弁に対して用いられ、電磁式燃料噴射弁のコイルに電流を供給するための印加電圧を制御する駆動装置において、
第1の燃料噴射期間の終了に伴う通電終了後、前記第1の燃料噴射期間に引き続く第2の燃料噴射期間の開始に伴う通電開始前に、前記弁体を開弁動作させる場合と同じ向きの中間電流を通電し、
前記中間電流の通電を、弁体が弁座に着座する第1の時点の前に開始し、前記第1の時点と前記第2の燃料噴射期間に対する前記電圧印加を開始する第2の時点との間の時間の半分の時間が前記第1の時点から経過する前に終了する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第1の燃料噴射期間とこの第1の燃料噴射期間に引き続いて行われる第2の燃料噴射期間の間隔を短くすることができる。この技術を分割噴射に適用することにより、分割噴射間隔を低減した燃料噴射装置の駆動が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態における燃料噴射装置の縦断面図である。
【図2】燃料噴射装置を駆動する一般的な噴射パルスと弁体、可動子の挙動の関係を示した図である。
【図3】図1に示す燃料噴射装置の可動子と弁体との衝突面近傍を拡大した断面図である。
【図4】本発明の第一の実施形態におけるECUから出力される噴射パルスと燃料噴射装置に供給する電圧と励磁電流のタイミング,可動子の挙動の関係を示した図である。
【図5】本発明の実施形態における燃料噴射装置を駆動するための駆動回路の構成図である。
【図6】本発明の実施形態の燃料噴射装置を駆動するための駆動回路におけるECUから出力される噴射パルスと励磁電流のタイミング,スイッチング素子の切替えタイミングを示した図である。
【図7】本発明の第二の実施形態におけるECUから出力される噴射パルスと燃料噴射装置に供給する電圧と励磁電流のタイミング,可動子の挙動の関係を示した図である。
【図8】本発明の第三の実施形態におけるECUから出力される噴射パルスと燃料噴射装置に供給する電圧と励磁電流のタイミング,可動子の挙動の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図1〜図3を用いて、本発明の実施形態による燃料噴射装置の構成及び動作について説明する。
【0017】
最初に、図1を用いて、本発明の実施形態による燃料噴射装置の構成と基本的な動作を説明する。図1は本発明の実施形態における燃料噴射装置の縦断面図とその燃料噴射装置を駆動するための、EDU(駆動回路)121,ECU(エンジンコントロールユニット)120の構成の一例を示す図である。なお、ECU120とEDU121は一体の部品として構成されてもよい。少なくとも燃料噴射装置(電磁式燃料噴射弁)の駆動装置は、燃料噴射装置の駆動電圧を発生する装置であって、ECUとEDUとが一体となったものであってもよいし、EDU単体であってもよい。
【0018】
ECU120では、エンジンの状態を示す信号を各種センサーから取り込み、内燃機関の運転条件に応じて適切な噴射パルスの幅や噴射タイミングの演算を行う。ECU120より出力された噴射パルスは、信号線123を通して燃料噴射装置のEDU121に入力される。EDU121は、コイル105に印加する電圧を制御し、電流を供給する。ECU120は、通信ライン122を通して、EDU121と通信を行っており、燃料噴射装置に供給する燃料の圧力や運転条件によってEDU121によって生成する駆動電流を切替えることが可能である。EDU121は、ECU120との通信によって制御定数を変化できるようになっており、制御定数に応じて電流波形が変化する。本発明における分割噴射を行う際、分割噴射を行うための制御方法として、ECU120から分割噴射を行う際の中間電流を行うための電圧印加の指令パルスを出力する場合と、ECU120側から制御定数をEDU121に送信し、EDU121から中間電流を直接供給する場合がある。
【0019】
続いて、図1の燃料噴射装置の縦断面と図2の噴射パルスと弁体114及び可動子102の変位の関係を用いて燃料噴射装置構成と動作について説明する。図2は、ECUから出力される噴射パルスと弁体114,可動子102の挙動の関係を示した図である。
【0020】
図1における燃料噴射装置は、通常閉弁型の電磁式燃料噴射装置であり、コイル105に通電されていない状態では、弁体114はスプリング(第1のばね)110により閉弁方向に付勢され、弁座118に密着し閉状態となっている。この閉状態においては、可動子(アンカ又は可動コアとも言う)102は、ゼロスプリング(第2のばね)112によって開弁方向に付勢され、衝突面301が弁体114の衝突面302に密着している。この状態では、可動子102と磁気コア(固定コアとも言う)107との間に空隙を有している。燃料は燃料噴射装置の上部より供給され、弁座118で燃料をシールしている。閉弁時には、燃料圧力によって弁座位置におけるシート内径に応じた力で弁体114が閉方向に押されている。
【0021】
燃料噴射装置は、磁気コア107,可動子102,ヨーク103とで磁気回路を構成しており、噴射パルスが入力されると、コイル105に電流が供給され、磁気回路中に磁束が発生し、可動部品である可動子102と磁気コア107との間に磁気吸引力が発生する。可動子102に作用する磁気吸引力がスプリング110による荷重と、燃料圧力による力の和を超えるタイミングt21で可動子102が上方(磁気コア107の側)へ動く。可動子102が変位する際には、可動子102側の衝突面301と弁体114側の衝突面302とが接触(係合)することにより、衝突面301と衝突面302との間で力を伝達する。このとき可動子102は弁体114と結合して一緒に上方(磁気コア107の側)へ移動し、可動子102の上端面が磁気コア107の下面に衝突して開弁状態に至る。
【0022】
その結果、弁体114が弁座118より離間し、供給された燃料が複数の噴射口119から噴射される。
【0023】
続いて、噴射パルスがt23のタイミングでOFFになると、コイル105への電流供給が断たれ、磁気回路中に生じていた磁束が消滅し磁気吸引力も消滅する。
【0024】
その結果、磁気吸引力を失った可動子102はスプリング110の荷重と、燃料圧力による力によって、弁体114が弁座118に接触する閉位置に押し戻される。このとき、弁体114にはたらくスプリング110による力は弁体114側の衝突面302及び可動子102側の衝突面301を介して可動子102に伝達される。タイミングt24で弁体114が弁座118と接触した後、可動子102の衝突面301は弁体114の衝突面302から離脱し、下向き方向(閉弁方向)に運動を継続する。その後可動子102はゼロスプリング112によって押し戻されて、タイミングt25で衝突面301が弁体114の衝突面302に接触するが、この時点で可動子102に働く上向き方向(開弁方向)の力が弁体114に働く下向き方向の力よりも大きいと201のように弁体114を押し上げて余分な噴射を行う可能性がある。このように、弁体114が弁座118に衝突後に可動子102が運動を継続するため、可動子102が静止するまでに次の分割噴射を行うと、可動子の位置,速度のばらつきに応じて噴射量がばらつくという問題がある。従って、分割噴射間隔の低減を行うためには、閉弁後の可動子102の運動を素早く静止させ、余分な噴射を抑えるために、可動子102が弁体114と衝突する際の運動エネルギーを小さくする必要がある。
【実施例1】
【0025】
図4を用いて本発明における第一の実施例を説明する。図4はECU120から出力される噴射パルスと燃料噴射装置に供給する駆動電圧と駆動電流(励磁電流)のタイミング,可動子102の挙動の関係を示した図である。
【0026】
噴射パルス408が入力されると、バッテリ電圧VBよりも高い電圧に昇圧された高電圧源から高電圧401が印加され、コイル105に電流の供給が開始される。電流値が予め定められたピーク電流値Ipeakに達すると、高電圧の印加を停止して、印加する電圧を0V以下にし、電流404のように電流値を低下させる。
【0027】
続いて、ある一定の時間後もしくは、駆動電流が開弁を保持可能な電流値406以下になった時点で駆動回路121はバッテリ電圧の印加を402に示すようにスイッチングにて行い、所定の電流値405になるように制御する。続いて噴射パルスがOFFになると印加する電圧を0V以下にし、電流を低下させ、閉弁方向の力であるスプリング110による荷重と燃料圧力による力の和が開弁方向の力を超えた時点で、可動子102は閉弁を開始する。その後、可動子102の変位量が0以下となる前(弁体114が弁座118に着座するタイミング以前、すなわち、可動子102の衝突面301と弁体114の衝突面302との係合が解除されて可動子102が弁体114に対して閉弁方向に相対変位を開始するタイミング以前)に、噴射パルス409をONにし、高電圧源から高電圧403を印加し、コイル105に中間電流407を供給する。駆動電圧を印加してから磁気コア107と可動子102の間に磁気吸引力が発生するまでには磁気的な遅れ時間が存在するため、可動子102の変位量が0以下となる前に予め印加電圧を供給することにより、タイミングt32以降の可動子102の運動を素早く減衰させ、可動子102が静止するまでの時間Trを短縮することが可能となる。中間電流407に関しては、タイミングt32以降の可動子102の運動を素早く減衰させる目的で用いるが、タイミングt31よりも早い段階で中間電流307を供給すると、弁体114の閉弁速度が低減され、弁体114と弁座118が衝突する際に発生する駆動音を低減する効果と弁座部の磨耗低減の効果を得ることができる。また、弁体114と弁座118が衝突する際の衝突速度を低減することが可能となるため、可動子102が静止するまでの時間Trのさらなる短縮が可能となる。
【0028】
その後一定時間の間、中間電流を供給した後、噴射パルスをOFFにし、駆動電圧ならびにコイル105への中間電流407の供給を停止する。この中間電流407を打ち切るタイミングは、可動子102の変位量が0となる、もしくは、弁体114が弁座118と接触するタイミングT32から、次の分割噴射を行うための駆動電圧を供給するタイミングt35の間の時間であるTdの半分以下である必要がある。以上のように中間電流407の打ち切りタイミングを設定することによって、タイミングt34以降に可動子102が再び加速して、弁体114に衝突し、弁体114を押し上げることにより発生する余分な噴射を抑制することが可能となる。
【0029】
本実施例では、中間電流407を供給するための電圧印加403は、中間電流407の大きさが弁座118に着座した弁体114を弁座118から離間させるのに必要な大きさになる前に終了している。
【0030】
また、噴射パルス408と噴射パルス409とは、昇圧回路514(図5参照)で昇圧された電圧を印加する昇圧電圧印加期間(401を印加している期間)と昇圧電圧印加期間の後に電源電圧をスイッチングにより印加する電源電圧スイッチング期間(402を印加している期間)とを有し、中間電流407の最大値は電源電圧スイッチング期間に印加した電圧402により流れる電流の最大値よりも大きく、昇圧電圧印加期間に印加した電圧401により流れる電流の最大値よりも小さい。
【0031】
噴射パルス408は第1の燃料噴射期間のためのパルスであり、噴射パルス410は第2の燃料噴射期間のためのパルスである。噴射パルス409は第1の燃料噴射期間と第2の燃料噴射期間との間に流す中間電流のための噴射パルスであるが、この噴射パルス409によって、弁体114が開弁動作することはない。また、第1の燃料噴射期間のための噴射パルス408が終了しても、弁体114は閉弁位置に戻りきらず、燃料噴射自体は噴射パルス408の終了から少し遅れて終了することになる。第2の燃料噴射期間についても同様である。
【0032】
また、第1の燃料噴射期間のパルス408と第2の燃料噴射期間のパルス410とは、一回の噴射行程中に出力されるものである。すなわち、本実施例では、一回の噴射行程中に噴射する量の燃料を、少なくとも噴射パルス408,409を含む複数回に分割して噴射している。尚、「一回の噴射行程」とは、一回の燃焼サイクル(4サイクルでは吸気,圧縮,爆発,排気の各行程からなる)を意味するものである。
【0033】
図5を用いて本発明の第一の実施例における燃料噴射装置の駆動回路121の構成について説明する。図5は燃料噴射装置を駆動する回路構成を示した図である。CPU501は例えばECU120に内包され、内燃機関の運転条件に応じて適切な噴射パルス幅Tiや噴射タイミングの演算を行い、通信ライン504を通して燃料噴射装置の駆動IC502に噴射パルスTiを出力する。その後駆動IC502によって、スイッチング素子505,506,507のON,OFFを切替えて、燃料噴射装置515へ駆動電流を供給する。
【0034】
スイッチング素子505は駆動回路121に入力された電圧源VBよりも高い高電圧源VHと燃料噴射装置515の高電圧側の端子間に接続されている。スイッチング素子505,506,507は、例えばFETやトランジスタ等によって構成される。高電圧源VHは例えば、60Vであり、バッテリ電圧を昇圧回路514によって昇圧することで生成される。昇圧回路514は例えば、DC/DCコンバータ等により構成される。スイッチング素子507は、低電圧源VBと燃料噴射装置515の高圧端子間に接続されている。低電圧源VBは例えば、バッテリ電圧であり12Vである。スイッチング素子506は、燃料噴射装置515の低電圧側の端子と設置電位の間に接続されている。駆動IC502は、電流検出用の抵抗508,512,513により、燃料噴射装置515に流れている電流値を検出し、検出した電流値によって、スイッチング素子505,506,507のON,OFFを切替え、所望の駆動電流を生成している。ダイオード509と510は電流を遮断するために備え付けられている。CPU501は駆動IC502と通信ライン503を通して、通信を行っており、燃料噴射装置515に供給する燃料の圧力や運転条件によって駆動IC502によって生成する駆動電流を切替えることが可能である。
【0035】
次に、図5と図6を用いて、本発明の第一の実施形態における燃料噴射装置に流れる駆動電流を生成するための、スイッチング素子の切替えタイミングについて説明する。
【0036】
図6は、CPU501より出力される噴射パルスと駆動電流,スイッチング素子(SW)505,スイッチング素子(SW)506,スイッチング素子(SW)506のON,OFFのタイミングを示した図である。
【0037】
タイミングt61において、CPU501より噴射パルスTi604が通信ライン504を通して駆動IC502に入力されると、スイッチング素子505とスイッチング素子506がONとなり、バッテリ電圧よりも高い高電圧源VHから電流が燃料噴射装置515に供給され、電流が急速に立ち上がる。電流がピーク電流値Ipeakに達すると、スイッチング素子505とスイッチング素子506が共にOFFになり、燃料噴射装置515のインダクタンスによる逆起電力によって、ダイオード509とダイオード510が通電し、電流が電圧源VH側へ帰還され、燃料噴射装置515に供給されていた電流は、電流601のようにピーク電流値Ipeakから急速に低下する。なお、ピーク電流値Ipeakから保持電流602への移行期間にスイッチング素子506をONにすると、逆起電力エネルギーによる電流は接地電位側に流れ、電流は緩やかに低下する。その後、タイミングt62に到達すると、スイッチング素子506をONにし、スイッチング素子507のON,OFFの切替えを行い、保持電流602を保持する。その後、噴射パルスがOFFになるとスイッチング素子506とスイッチング素子507が共にOFFとなり電流が低下する。一定の時間後に、再び噴射パルス605が入力されると、スイッチング素子505,506が共にONとなり、高電圧源VHから中間電流603が燃料噴射装置515に供給される。その後、一定の時間中間電流603の供給を行った後、所定のタイミングt64で噴射パルス幅がOFFとなると、スイッチング素子505,506が共にOFFとなり、中間電流603は速やかに低下する。
【実施例2】
【0038】
図1と図7を用いて本発明における第二の実施例を説明する。図7はECU120から出力される噴射パルスと燃料噴射装置に供給する駆動電圧と駆動電流のタイミング,可動子102の挙動の関係を示した図である。
【0039】
本実施例のうち、第一の実施例と異なる点は、中間電流407を流すための高電圧703の電圧印加をECU120からの噴射パルス幅ではなく、駆動回路121で行う点である。高電圧403の電圧印加のタイミングt41に関しては、噴射パルスが入力されてからの時間Ti1もしくは、噴射パルスを打ち切ってからの時間Ti2でタイミングの制御を行うことにより、実施例1における中間電流407を噴射パルスで制御する場合と同等の効果が得られる。
【実施例3】
【0040】
図1,図4,図8を用いて本発明における第三の実施例を説明する。図8は第三実施例におけるECU120から出力される噴射パルスと燃料噴射装置に供給する駆動電圧と駆動電流(励磁電流)のタイミング,可動子102の挙動の関係を示した図である。なお、図8において、図4と同一の構成部品には同一符号を付す。また、第一実施例との差異を明確にするため,図8に図4における駆動電流と可動子の変位量を点線で記載する。
【0041】
図8に示した例では、第一の実施例と異なる点は、図4における電流再供給のタイミングt31よりも早いタイミングで、噴射パルス801をONにし、電圧源からバッテリ電圧VBを印加し、コイル105に中間電流803を供給することである。この効果により、噴射パルス801をOFFにしてから磁気回路中の磁束が消滅しきる前に再び磁気吸引力を発生させることができ、中間電流803を供給してから磁気吸引力が発生するまでの磁気的な遅れ時間を短縮することが可能となる。また、弁体114が弁座118と衝突する際の衝突速度を低減することが可能となるため、閉弁後の可動子102の運動エネルギーを低減することができ、可動子102が静止するまでの時間Trの低減が可能となる。また、タイミングt31よりも早い段階で中間電流803を供給すると、弁体114の閉弁速度が低減され、弁体114と弁座118が衝突する際に発生する駆動音を低減する効果と弁座部の磨耗低減の効果を得ることができる。
【0042】
また、中間電流803を供給するタイミングt81後に中間電流803がある一定の電流値に達すると駆動回路121はバッテリ電圧の印加を802に示すようにスイッチングにて行い、所定の電流値804になるように制御する。中間電流803に一定の電流値804が保持される期間を有することで、磁気コア107と可動子102との間に発生する磁気吸引力を一定に保持することができ、可動子102が静止するまでの時間Trを正確に制御することが可能となる。また、駆動回路121の消費電力はコイル105へ供給する電流値の二乗に比例することから、中間電流803の電流供給をバッテリ電圧VBの印加により行うことで、消費電流を抑制することができる。また、高電圧源VHがコンデンサに電荷を蓄積しバッテリ電圧VBを昇圧するように構成されている場合、高電圧源VHからコイル105に電流供給すると、高電圧源VHの電圧値が時間とともに低下する。高電圧源VHからの電圧印加を停止すると一定時間後、高電圧源VHの電圧値は復帰するが、高電圧源VHの電圧値が復帰する前に高電圧源VHの印加を行うと、電流の立ち上がり時間が遅くなる可能性がある。したがって、バッテリ電圧VBの印加により、コイル105へ中間電流803を供給することで、次の分割噴射を行うための駆動電圧を供給するタイミングt85で高電圧源の電圧値を復帰させ易くなり、コイル105への安定した電流供給が可能となる。
【符号の説明】
【0043】
101 ノズルホルダ
102 可動子
103 ヨーク
105 コイル
107 磁気コア
110 スプリング
112 ゼロスプリング
113,115 ロッドガイド
114 弁体
116 オリフィスカップ
118 弁座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと磁気コアとで構成される電磁石によって可動子に組み付けられた弁体を駆動して燃料噴射口の開閉を行う電磁式燃料噴射弁に対して用いられ、電磁式燃料噴射弁のコイルに電流を供給するための印加電圧を制御する駆動装置において、
第1の燃料噴射期間の終了に伴う電圧印加の終了後、前記第1の燃料噴射期間に引き続く第2の燃料噴射期間の開始に伴う電圧印加の開始前に、前記弁体を開弁動作させる場合と同じ向きの中間電流を供給する電圧印加を行い、
前記中間電流を供給する電圧印加を、弁体が弁座に着座する第1の時点の前に開始し、前記第1の時点と前記第2の燃料噴射期間に対する前記電圧印加を開始する第2の時点との間の時間の半分の時間が前記第1の時点から経過する前に終了することを特徴とする電磁式燃料噴射弁の駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁式燃料噴射弁の駆動装置において、
前記第1の燃料噴射期間と前記第2の燃料噴射期間とは、一回の噴射行程中に噴射する量の燃料を複数回に分割して噴射する分割噴射に対して設定されることを特徴とする電磁式燃料噴射弁の駆動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電磁式燃料噴射弁の駆動装置において、
接続される電源電圧をより高い電圧に昇圧する昇圧回路を有し、前記中間電流を供給するための電圧印加を、前記昇圧回路で昇圧した電圧を印加することにより行うことを特徴とする電磁式燃料噴射弁の駆動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電磁式燃料噴射弁の駆動装置において、
前記中間電流を供給するための電圧印加は、前記中間電流の大きさが弁座に着座した弁体を弁座から離間させるのに必要な大きさになる前に終了することを特徴とする電磁式燃料噴射弁の駆動装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電磁式燃料噴射弁の駆動装置において、
前記第1の燃料噴射期間と前記第2の燃料噴射期間とは、前記昇圧回路で昇圧された電圧を印加する昇圧電圧印加期間と前記昇圧電圧印加期間の後に電源電圧をスイッチングにより印加する電源電圧スイッチング期間とを有し、
前記中間電流の最大値は前記電源電圧スイッチング期間に印加した電圧により流れる電流の最大値よりも大きく、前記昇圧電圧印加期間に印加した電圧により流れる電流の最大値よりも小さいことを特徴とする電磁式燃料噴射弁の駆動装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電磁式燃料噴射弁の駆動装置において、
前記中間電流を供給するための電圧印加をエンジンコントロールユニットからの噴射パルス幅の入力によって行うことを特徴とする電磁式燃料噴射弁の駆動装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電磁式燃料噴射弁の駆動装置において、
前記電磁式燃料噴射弁は可動子を開弁方向に付勢する付勢手段を有するものであって、
前記中間電流のための電圧印加を打ち切るタイミングは、弁体と弁座との衝突速度と可動子の質量との積を前記付勢手段の力で除した値であることを特徴とする電磁式燃料噴射弁の駆動装置。
【請求項8】
コイルと磁気コアとで構成される電磁石によって可動子に組み付けられた弁体を駆動して燃料噴射口の開閉を行う電磁式燃料噴射弁に対して用いられ、電磁式燃料噴射弁のコイルに電流を供給するための印加電圧を制御する駆動装置において、
第1の燃料噴射期間の終了に伴う通電終了後、前記第1の燃料噴射期間に引き続く第2の燃料噴射期間の開始に伴う通電開始前に、前記弁体を開弁動作させる場合と同じ向きの中間電流を通電し、
前記中間電流の通電を、弁体が弁座に着座する第1の時点の前に開始し、前記第1の時点と前記第2の燃料噴射期間に対する前記電圧印加を開始する第2の時点との間の時間の半分の時間が前記第1の時点から経過する前に終了することを特徴とする電磁式燃料噴射弁の駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−177303(P2012−177303A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39180(P2011−39180)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】