説明

電磁誘導加熱用の磁性発熱金属溶射皮膜及び溶射用線材

【課題】加熱効率が高く、消費電力を低減可能な電磁誘導加熱用の磁性発熱金属溶射皮膜を提供する。
【解決手段】溶射用線材を用いた大気中溶射によって基材に積層形成される溶射皮膜を、質量%でC :0.01〜0.16%,Si:0.4〜1.6%,Mn:0.2〜1.2%,Cr:≦1.8%を含有し、残部Fe及び8%以下のO,0.3%以下のNその他の不可避的不純物の組成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁誘導加熱器にて加熱可能な炊飯器の内釜や鍋その他の調理容器に適用して好適な電磁誘導加熱用の磁性発熱金属溶射皮膜及びその溶射用に用いる溶射用線材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、調理用の加熱器として電磁誘導により加熱を行う電磁誘導加熱器(IHヒータ)がガスレンジ等に替わる加熱器として広く普及するに到っている。
【0003】
調理用の加熱器としてこのような電磁誘導加熱器を使用する場合、鍋その他の調理容器が電磁誘導加熱可能なものでなければならない。
例えばアルミニウム製の鍋の場合、これを直接電磁誘導加熱器にて加熱することができず、そこでアルミニウム製の鍋の裏底面に金属溶射法にて磁性発熱金属溶射皮膜(以下単に溶射皮膜とすることがある)を形成し、電磁誘導加熱器による電磁誘導にて、その磁性発熱金属溶射皮膜を発熱させるようになしたものが下記特許文献1に開示されている。
【0004】
この溶射皮膜の形成方法として、溶射用材料として線材を用い、これを溶融して対象物(基材)に溶射する方法を好適に用いることができる。
図1は具体的な方法を模式的に示したもので、この方法では直流電圧を印加した状態で2本の溶射用線材10,10を送給してそれらを接触させ(短絡させ)、そこでアーク発生させて溶融させる。
そしてその溶融した材料に対してノズル12から空気を噴射することで、溶融した材料を細かい粒子として基材14に向けて飛行させる。飛行した粒子は基材14表面に堆積し、そこに溶射皮膜16を形成する。
【0005】
溶射用の材料として粉末を用い、これを溶融させて基材14に向けて噴射し、溶射皮膜16を形成する方法もあるが、材料として粉末を用いた溶射皮膜16の形成方法の場合、粉末を送る過程で粉末が供給通路で詰りを生じたり、また粉末の大きさや粒度分布等が大きな問題となったりする。
而して粉末が良好に供給されないと皮膜形成が良好に行われず、そのために粉末を用いた溶射の場合には溶射効率が悪く、歩留りが悪いといった問題がある。
これに対し溶射用の材料として線材を用いて行う溶射方法の場合にはそうした不具合を生じずに、溶射用線材10を円滑に送給でき(送給途中で粉末を用いた場合のような詰りを生じることなく円滑に送給でき)、また粉末を用いた場合のように粒度分布とか粉末の大きさのバラツキにより不具合を発生するといったこともなく、歩留りも良好で、加えて粉末を用いた溶射では大掛りな設備が必要となるのに対して、溶射用線材10を用いた場合には設備も簡単で済む等の利点がある。
【0006】
以上のような溶射による皮膜形成は、加熱により溶融(ないし半溶融)状態とした材料を微小な粒子として基材14表面に吹き付け(飛行させ)、基材14表面に凝固した扁平且つ微小な粒子を幾層にも堆積させることで皮膜形成するコーティング技術である。
【0007】
このようにして形成された溶射皮膜16は、図2に示すようなスプラット構造と呼ばれる空隙積層構造、即ち粒子(溶射粒子)18と18との間に形成される空隙20を積層した構造を呈しており、それと同時に溶射皮膜16を構成する粒子18が飛行中に著しく酸化されて粒子表面に酸化膜22が形成することから、溶射皮膜16の各種物性はバルク材を直接基材14表面に積層して形成した磁性発熱層とは異なったものとなる。
【0008】
具体的には、溶射皮膜16から成る磁性発熱層の場合、比透磁率が何れの周波数領域でも安定してほぼ一定の値となる。
しかるにバルク材にて形成した磁性発熱層の場合、ある周波数で極大値を示し、周波数の変化に伴って比透磁率がその極大値から低下する。
これは、バルク材から成る磁性発熱層の場合、表皮効果と呼ばれる渦電流の浸透深さの影響を顕著に受けるためである。
【0009】
一般に物体を電磁誘導加熱する場合、誘導電流(渦電流)が物体表面から内部に行くにつれて低下する表皮効果が生じる。最表面の電流値を1とした場合に0.37まで減少する距離を渦電流の浸透深さといい、下記(1)式で表される。
【0010】
【数1】

【0011】
(1)式から分かるように、周波数が高くなるほど浸透深さは浅くなる。つまりバルク材の場合、表皮効果のために周波数が高くなるにつれ交流磁界が内部に浸透しにくくなり、材料の磁化が進まない。その結果として比透磁率は低くなる。
一方溶射皮膜16では、図2からも分かるように粒子18間は不連続であり、且つ粒径が表皮深さに対してかなり小さいため、マクロな電気伝導性の低下により表皮効果が抑えられ、比透磁率は一定値を示す。
【0012】
また溶射皮膜16にて磁性発熱層を形成する場合、その厚みを例えば0.5mm程度に容易に薄く形成することができるが、バルク材にて磁性発熱層を形成する場合には厚みを薄くすることは困難で、通常その厚みは4〜5mm程度の厚いものとなってしまう。
しかもバルク材から成る磁性発熱層の場合には、厚みがあっても上記の表皮効果のために発熱する領域はその一部に過ぎず、材料が無駄になる問題も有する。
このような点から、溶射皮膜16は電磁誘導加熱による磁性発熱層として好適なものである。
【0013】
ところで従来、この溶射皮膜はJIS Z 3312 YGW12の線材を用いて溶射形成しているが、近年電磁誘導加熱器は軒並み高出力化傾向(200V,3kW(キロワット)以上)にあり、上記の溶射用線材を用いて溶射形成した溶射皮膜では加熱効率が不十分で、消費電力が大きいといった問題があり、その改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−102617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は以上のような事情を背景とし、加熱効率が高く、消費電力を低減可能な電磁誘導加熱用の磁性発熱金属溶射皮膜及び溶射用線材を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
而して請求項1は溶射皮膜に関するもので、溶射用線材を用いた大気中溶射によって基材に積層形成される溶射皮膜であって、質量%でC :0.01〜0.16%,Si:0.4〜1.6%,Mn:0.2〜1.2%,Cr:≦1.8%を含有し、残部Fe及び8%以下のO,0.3%以下のNその他の不可避的不純物の組成を有することを特徴とする。
【0017】
請求項2のものは、請求項1において、前記不純物として含有されるP,S,Cuが、P :≦0.03%,S :≦0.02%,Cu:≦0.3%であることを特徴とする。
【0018】
請求項3は溶射用線材に関するもので、請求項1,2の何れかの前記溶射用線材であって、質量%でC :0.1〜0.25%,Si:0.83〜3.0%,Mn:0.3〜2.0%,Cr:≦2.0%,残部Fe及び不可避的不純物の組成を有し、表面にCuメッキ処理が施されていることを特徴とする。
【0019】
請求項4のものは、請求項3において、前記不純物として含有されるO,N,P,Sが質量%でO :≦0.01%,N :≦0.01%,P :≦0.03%,S :≦0.03%であることを特徴とする。
【0020】
請求項5のものは、請求項3,4の何れかにおいて、質量%で0.35%以下で前記Cuメッキ処理が施してあることを特徴とする。
【0021】
請求項6は溶射皮膜に関するもので、請求項1,2の何れかにおいて、皮膜硬さが260〜360HV,体積抵抗率が60.28〜120.87μΩ・cm,比透磁率が16.6〜36.2であることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0022】
本発明の溶射皮膜(磁性発熱金属溶射皮膜)は、従来の溶射皮膜に比べて高比透磁率,低体積抵抗率が得られ、電磁誘導加熱器にて電磁誘導加熱したときの加熱効率が高く、消費電力を低く抑えることが可能である。
また本発明の溶射用線材を用いることで、上記の溶射皮膜を良好に形成することができる。
【0023】
次に本発明における各化学成分の限定理由を以下に詳しく説明する。
<溶射皮膜>
C :0.01〜0.16%
Cは溶射皮膜の皮膜硬さを確保する上で必要である。溶射皮膜の皮膜硬さが低いと、溶射皮膜が硬いものに当ったり、接触したり、擦れたりしたときに溶射皮膜が損傷し、発熱特性に悪影響が及ぶ恐れがある。そこで本発明ではCを0.01%以上溶射皮膜に含有させる。但し0.16%を超えて多く含有させると、これに伴って溶射用線材のC含有量が増大して線材硬さが硬くなり過ぎ、溶射用線材の送給性が悪化する。
【0024】
Si:0.4〜1.6%
Siは溶射皮膜の磁気特性,電気特性,機械特性を向上させる上で重要な働きをなす。詳しくは、溶射皮膜の比透磁率を高め、また体積抵抗率を低くする。その働きのために本発明ではSiを0.4%以上含有させる。但し1.6%を超えて多量に含有させると、溶射用線材中のSi含有量が多量となって溶射用線材の脆性が増し、溶射用線材の製造性が悪化する。
【0025】
Mn:0.2〜1.2%
MnはCと同様に溶射皮膜の皮膜硬さを確保する上で有用で、その働きのために0.2%以上含有させる。但し1.2%を超えて多く含有させると、これに伴って溶射用線材の硬さが硬くなり過ぎ、溶射用線材の製造性が悪化する。
【0026】
Cr:≦1.8%
CrはC,Mnと同様に皮膜硬さを向上させ、また耐含性を高める。しかし1.8%を超えて多く含有させると溶射皮膜の体積抵抗率が増加し、また磁気特性が低下して電磁誘導加熱を行ったときの加熱効率の低下、消費電力の増大をもたらす。
【0027】
O :≦8%
N :≦0.3%
O,Nは溶射用線材を用いて大気中溶射により溶射皮膜を形成する際に、溶射皮膜中に必然的に含有される不純物成分である。即ち溶射用線材を用いて溶射を行ったとき、飛行する溶射材の粒子が酸化され、また空気中の窒素が巻き込まれて溶射皮膜中に含有される。これらO,Nの含有量が多くなると溶射皮膜の発熱特性が劣化する。本発明においてOの含有量として許容できる限度は8%であり、またNは0.3%である。
【0028】
P :≦0.03%
S :≦0.02%
これらP,Sもまた不純物成分である。本発明ではP,Sをそれぞれ0.03%以下,0.02%以下としておくことが望ましい。
【0029】
Cu:≦0.3%
Cuは溶射用線材に由来する成分である。
溶射用線材は、線材表面の防錆のため、またその防錆により溶射用線材の良好な送給性を確保するため表面にCuメッキ処理が施される。このCuは溶射皮膜中にも含有されるが、Cuは不純物成分であってその量が多いと溶射皮膜の特性に悪影響が及ぶ。従って本発明では溶射皮膜中のCu含有量が0.3%以下であることが望ましい。
【0030】
<溶射用線材>
溶射皮膜における上記成分の含有量は溶射用線材に含有される成分によって定まる。
但し溶射用線材を用いて溶射を行ったとき、溶射用線材に含まれる成分は溶射によって一部失われ、減少する。またその減少の程度は各成分ごとに一律ではなく異なっている。例えば溶射用線材に含まれているCは空気中で溶射されたときに飛行粒子が空気中の酸素と反応し、CO等となって多く失われる。一方O,N等については飛行粒子が酸化されることにより、或いは飛行中にNが巻き込まれることにより溶射皮膜中ではその含有量が増大する。
【0031】
溶射皮膜の成分を上記成分とするために、また溶射皮膜に所望の磁気的特性,電気的特性を付与するために溶射用線材の各成分は以下の成分とする。
C :0.1〜0.25%,Si:0.83〜3.0%,Mn:0.3〜2.0%,Cr:≦2.0%
【0032】
また溶射用線材における不純物成分としてのO,N,P,Sは以下の含有量に規制しておくことが望ましい。
O :≦0.01%,N :≦0.01%,P :≦0.03%,S :≦0.03%
【0033】
溶射用線材は、防錆のため、また防錆による線材送給性確保のため表面にCuメッキ処理を施しておくことが望ましい。この場合質量%で0.35%以下でCuメッキ処理しておくことが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】溶射皮膜の形成方法を模式的に示した図である。
【図2】溶射皮膜の断面構造を模式的に示した図である。
【図3】加熱特性の評価方法の説明図である。
【図4】溶射の手順を示した図である。
【図5】実施例のC含有量と皮膜硬さとの関係を示した図である。
【図6】実施例のMn含有量と皮膜硬さとの関係を示した図である。
【図7】実施例のCr含有量と皮膜硬さとの関係を示した図である。
【図8】実施例のCr含有量と体積抵抗率との関係を示した図である。
【図9】実施例のSi含有量と体積抵抗率との関係を示した図である。
【図10】実施例の溶射材料中のSi含有量と溶射皮膜中のO含有量との関係を示した図である。
【図11】実施例のSi含有量と比透磁率との関係を示した図である。
【図12】実施例のSi含有量と消費電力量との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
表1に示す組成の溶射用線材を用いて図1に示す方法に従いアーク溶射を行い、表1に示す組成の溶射皮膜を形成して溶射皮膜の皮膜硬さ,比透磁率,体積抵抗率の各特性を測定し、また併せて加熱特性の評価を行った。
【0036】
一方溶射皮膜の形成は、溶射対象をブラスト処理した後に、以下に示す条件の下で行った。
溶射電流(A):100
溶射電圧(V):28
ガス圧(psi) :60
溶射距離(mm):165
トラバース速度(mm/sec):1.67
ピッチ(mm):7
ここで皮膜硬さ,体積抵抗率,比透磁率測定用の試験片については図4(イ)に示す順序で溶射を行い、また加熱特性測定用の鍋底への溶射は図4(ロ)に示す順序で行った。
【0037】
【表1】

【0038】
また皮膜硬さ,比透磁率,体積抵抗率,加熱特性等の測定,評価は以下のようにして行った。
(1)皮膜硬さ
(株)アカシ社製の微小硬度計を用い、測定荷重100gf(0.98N)でビッカース圧子を用いビッカース硬さを測定した。
【0039】
(2)体積抵抗率
幅10×長さ100×厚み0.8(mm)の試験片を用い、直流四端子法でJIS C2525「金属抵抗材料の導体抵抗及び体積抵抗率試験方法」に準拠して体積抵抗率を測定した。
【0040】
(3)比透磁率
幅3×長さ100×厚み0.6(mm)の試験片を用い、ヒューレットパッカード社製4192A型の装置を用いてインピーダンス計測を行い、比透磁率を求めた。
【0041】
(4)加熱特性
図3に示す業務用アルミ鍋24の鍋底(φ180mm,板厚t3mm)の裏底面に、表1に示す組成の溶射用線材を用いて同表に示す組成の溶射皮膜16(φ180mm×t0.6mm)を形成し、そして内部に水1リットル入れてこれを(株)tanico社製の卓上電磁誘導加熱調理器(200V,3kW)26の上に載せ、最大出力で業務用アルミ鍋24を加熱し、水1リットルが沸騰するまでの時間(20℃→100℃の加熱時間)を測定した。
これらの結果が表2及び図5〜図12に示してある。
尚、加熱特性は比較例12を基準として、これに対する比率で消費電力量が10%以上低減したものを◎とし、1〜10%低減したものを○とし、それ以外のものを×として評価した(総合評価の欄)。
【0042】
【表2】

【0043】
(3)評価
(イ)皮膜硬さ
図5,図6,図7に示しているように溶射皮膜,溶射用線材に含有されるC,Mn,Crの含有量の増大に従って皮膜硬さは増加する。
【0044】
(ロ)体積抵抗率
図8はCr含有量と体積抵抗率との関係を、また図9はSi含有量と体積抵抗率との関係を表している。
先ず図8において、Cr含有量の増加とともに体積抵抗率が増大している。その理由は、表1からも分かるように溶射用線材中のCrは他の元素に比べて何れの含有量でも溶射皮膜中に高い比率で残留する。
しかもCrは溶射に際して酸化され易く、またCr酸化物は導電性が低く(Cr単体も導電性が低い)、そのため溶射用線材中及び溶射皮膜中Cr増加により溶射皮膜全体の体積抵抗率が増大しているものと考えられる。
【0045】
また図9では、Cr量0.03%以下では、Si含有量の増加とともに体積抵抗率が低下する傾向を示しているが、これはSi含有量と溶射皮膜のO含有量との関係を表す図10から分かるように、Cr含有量0.03%以下では溶射用線材中のSi含有量が高いほど、溶射皮膜中のO含有量が低くなっていることと関連していると考えられる。
【0046】
即ち、溶射皮膜にて形成した磁性発熱層は、バルク材にて形成した磁性発熱層に比べ一般に体積抵抗率が高くなるが、その理由は図2にも示しているように、溶射皮膜中に多量の空隙が存在するのと併せて、溶射皮膜中の粒子を酸化膜(酸化層)が被覆しており、そしてその酸化膜の存在が、溶射皮膜から成る磁性発熱層の体積抵抗率を高めていることによるものと考えられる。
溶射用線材中のSi含有量が高い場合、溶射皮膜中のO含有量は図9に示すように低く、そのためSi含有量が増加するのにつれて溶射皮膜の体積抵抗率が低下したものと考えられる。
【0047】
(ハ)比透磁率
次に、図11はSi含有量と比透磁率との関係を、また図12はSi含有量と消費電力量との関係を表している。
図11に示しているように、溶射皮膜中のSi含有量(及び溶射用線材中のSi含有量)の増加とともに比透磁率が増大することが分かる。
即ち溶射皮膜中のSi含有量が増加すると、比透磁率が増大する一方で、図9に示しているように体積抵抗率は低下し、その結果図12に示しているように溶射皮膜中のSi含有量が増加すると、これに伴って消費電力量が低減する。
【0048】
以上をふまえて表2の結果を考察すると、比較例7では溶射皮膜,溶射用線材ともにSi含有量が本発明の下限値よりも低く、また溶射皮膜中のO含有量が本発明の上限値よりも多く、そのため溶射皮膜の比透磁率が低く、また体積抵抗率が高い。結果として沸騰時間が長く、消費電力量が大きな値を示している。
【0049】
比較例8のものは、Cr含有量が高く、溶射皮膜の体積抵抗率が高い値を示している。結果として沸騰時間が長く、消費電力量が高い値を示している。
【0050】
比較例9のものは、Cr含有量が著しく高く、そのため溶射皮膜の皮膜硬さが硬く、また体積抵抗率が著しく高い値を示している。その結果として沸騰時間が長く、消費電力量が高い値を示している。
【0051】
比較例10のものはMnが含有されておらず、結果として皮膜硬さが低く、比透磁率もまた低い値となっている。また溶射皮膜の体積抵抗率が高い値を示している。その結果沸騰時間が長く、消費電力量が高い値を示している。
【0052】
比較例11のものは、溶射皮膜のC含有量が低く、またMnが含有されていない。そのため皮膜硬さが低く、比透磁率も低い値を示している。一方で体積抵抗率は高い値を示し、結果として沸騰時間が長く、消費電力量も高い値を示している。
これに対し、実施例のものは何れも各特性が良好な値を示している。
【0053】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射用線材を用いた大気中溶射によって基材に積層形成される溶射皮膜であって、
質量%で
C :0.01〜0.16%
Si:0.4〜1.6%
Mn:0.2〜1.2%
Cr:≦1.8%
を含有し、残部Fe及び8%以下のO,0.3%以下のNその他の不可避的不純物の組成を有することを特徴とする電磁誘導加熱用の磁性発熱金属溶射皮膜。
【請求項2】
請求項1において、前記不純物として含有されるP,S,Cuが、
P :≦0.03%
S :≦0.02%
Cu:≦0.3%
であることを特徴とする電磁誘導加熱用の磁性発熱金属溶射皮膜。
【請求項3】
請求項1,2の何れかの前記溶射用線材であって、
質量%で
C :0.1〜0.25%
Si:0.83〜3.0%
Mn:0.3〜2.0%
Cr:≦2.0%
残部Fe及び不可避的不純物の組成を有し、表面にCuメッキ処理が施されていることを特徴とする溶射用線材。
【請求項4】
請求項3において、前記不純物として含有されるO,N,P,Sが質量%で
O :≦0.01%
N :≦0.01%
P :≦0.03%
S :≦0.03%
であることを特徴とする溶射用線材。
【請求項5】
請求項3,4の何れかにおいて、質量%で0.35%以下で前記Cuメッキ処理が施してあることを特徴とする溶射用線材。
【請求項6】
請求項1,2の何れかにおいて、皮膜硬さが260〜360HV,体積抵抗率が60.28〜120.87μΩ・cm,比透磁率が16.6〜36.2であることを特徴とする電磁誘導加熱用の磁性発熱金属溶射皮膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−12329(P2011−12329A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159702(P2009−159702)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】