電磁負荷制御装置
【課題】放電手段を備えた電磁負荷制御装置において、放電手段を低コストで構成し、かつ過電流によって破損させないようにする。
【解決手段】本発明に係る電磁負荷制御装置が備える放電装置は、放電電流を電源側に帰還させるスイッチング素子のON/OFFを切り替える放電緩和素子を有しており、放電電流が放電緩和素子を流れるとスイッチング素子のON/OFFを切り替えて放電電流を電源側へ間欠的に帰還させるように構成されている。
【解決手段】本発明に係る電磁負荷制御装置が備える放電装置は、放電電流を電源側に帰還させるスイッチング素子のON/OFFを切り替える放電緩和素子を有しており、放電電流が放電緩和素子を流れるとスイッチング素子のON/OFFを切り替えて放電電流を電源側へ間欠的に帰還させるように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁負荷に供給する電流を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガソリンや軽油等を燃料とする、自動車、オートバイ、農耕機、工機、船舶機等の内燃機関制御装置において、燃費や出力向上の目的で、気筒内に直接燃料を噴射するインジェクタが用いられている。このような気筒内直接噴射型インジェクタは、従来の方式と比べ、高圧に加圧した燃料を使用するインジェクタの開弁動作のために、多くのエネルギーを必要とする。また、制御性能(応答性)の向上や高回転(高速度制御)へ対応するために、短時間にこのエネルギーをインジェクタに供給する必要がある。
【0003】
このようなインジェクタを駆動する回路は、昇圧回路を用いてバッテリー電圧よりも高い電圧を生成し、そこに接続されたスイッチング素子をON/OFF駆動する。昇圧電圧を用いて電流を流して短時間に大電流を通電させることによりインジェクタを駆動し、高圧な筒内直接噴射を実現することができる。
【0004】
下記特許文献1には、インジェクタに大電流を供給する電磁負荷制御装置の構成と動作例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−115848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載されている技術では、昇圧効率をなるべく良くするため、インジェクタに流れる負荷電流を昇圧回路に還流させている。また、過昇圧を防止するための放電手段を設けておき、昇圧電圧が閾値以上となったときに放電して昇圧電圧を降下させている。
【0007】
このとき、放電手段に流れる放電電流を制限するものは、放電手段の抵抗成分のみとなる。そのため、放電手段の定格電流を超えた過大な放電電流が流れ、放電手段を破壊する可能性がある。そのため、放電手段は過電流によって破壊されないように電流容量が大きい部品を用いる必要があり、素子が大型化して部品のコストが高くなる傾向にある。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、放電手段を備えた電磁負荷制御装置において、放電手段を低コストで構成し、かつ過電流によって破損させないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電磁負荷制御装置が備える放電装置は、放電電流を電源側に帰還させるスイッチング素子のON/OFFを切り替える放電緩和素子を有しており、放電電流が放電緩和素子を流れるとスイッチング素子のON/OFFを切り替えて放電電流を電源側へ間欠的に帰還させるように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る電磁負荷制御装置によれば、放電電流を間欠的に帰還させることにより、放電装置の電流容量を大きくすることなく、放電装置が過電流によって破損する可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態1に係る電磁負荷制御装置の回路図である。
【図2】定電圧回路200の詳細を示す図である。
【図3】実施形態1に係る電磁負荷制御装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図4】実施形態2に係る電磁負荷制御装置の回路図である。
【図5】実施形態3に係る電磁負荷制御装置の回路図である。
【図6】抵抗204を流れる駆動信号と放電電流123の関係を示す図である。
【図7】実施形態4に係る電磁負荷制御装置の放電電流とFET203の駆動電流の間の関係を示す図である。
【図8】特許文献1に記載されている電磁負荷制御装置の回路構成を示す図である。
【図9】図8に示す電磁負荷制御装置の動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<従来の電磁負荷制御装置>
本発明の実施形態を説明する前に、比較のため、特許文献1に記載されている電磁負荷制御装置の回路構成および動作を説明する。その後、本発明の実施形態に係る電磁負荷制御装置について説明する。
【0013】
図8は、特許文献1に記載されている電磁負荷制御装置の回路構成を示す図である。図8に示す電磁負荷制御装置は、インジェクタに供給する電流を通電制御する装置である。図8に示す装置は、昇圧回路を用いてバッテリー電圧よりも高い電圧を生成し、スイッチング素子をON/OFF駆動してその昇圧電圧を通電制御する。これにより、昇圧電圧を用いて電流を流してインジェクタを駆動し、短時間に大電流を通電させて、圧力の高い筒内直接噴射を実現している。
【0014】
図8に示す電磁負荷制御装置は、バッテリー101、電流検出器104、電流検出抵抗106、昇圧コイル107、昇圧用スイッチング素子109、昇圧制御部111、昇圧用ダイオード112、放電手段113、昇圧用キャパシタ114、過電圧制御部116、電圧検出器118を備える。これらの構成は、バッテリー101が供給する電圧を昇圧して後述するVHハイサイドスイッチング素子140に昇圧電圧117として供給するためのものである。
【0015】
昇圧コイル107、昇圧用スイッチング素子109、昇圧用キャパシタ114は、本発明における昇圧回路に相当する。
【0016】
バッテリー101、電流検出抵抗106、昇圧用キャパシタ114は、アース100に接続されている。
【0017】
バッテリー101は、バッテリー電圧102を昇圧コイル107および後述するVBハイサイドスイッチング素子146に供給する。昇圧制御部111は、昇圧用スイッチング素子109に昇圧スイッチング信号110を出力して昇圧用スイッチング素子109をON/OFF制御し、バッテリー電圧102を昇圧する動作を制御する。電流検出器104は、昇圧用スイッチング素子109を流れる充電電流108を、電流検出抵抗106の両端電位差120に基づき検出し、検出結果を昇圧制御部111に出力する。
【0018】
放電手段113は、放電によって昇圧電圧117を降下させる装置であり、昇圧用ダイオード112に並列接続されている。過電圧制御部116は、放電手段113に過電圧放電制御信号121を出力して放電手段113をON/OFF制御する。昇圧用キャパシタ114は、昇圧電圧117に基づき電荷を充電する。電圧検出器118は、昇圧電圧117を検出する。昇圧電圧117が低下したときは昇圧低下検出信号105を昇圧制御部111に出力し、昇圧電圧117が過電圧となったときは過電圧検出信号119を過電圧制御部116に出力する。
【0019】
図8に示す電磁負荷制御装置はさらに、インジェクタドライバ制御部130、VHドライバ駆動部134、VBドライバ駆動部135、ロウサイドドライバ駆動部136、VHハイサイドスイッチング素子140、VHハイサイド逆流防止ダイオード141、インジェクタ負荷142、ロウサイドスイッチング素子143、VBハイサイド逆流防止ダイオード145、VBハイサイドスイッチング素子146、還流ダイオード147および178を備える。
【0020】
VHドライバ駆動部134は、インジェクタドライバ制御部130が出力するVHハイサイド制御信号131にしたがってVHハイサイド駆動信号137を出力し、VHハイサイドスイッチング素子140を駆動制御する。VBドライバ駆動部135は、インジェクタドライバ制御部130が出力するVBハイサイド制御信号132にしたがってVBハイサイド駆動信号138を出力し、VBハイサイドスイッチング素子146を駆動制御する。ロウサイドドライバ駆動部136は、インジェクタドライバ制御部130が出力するロウサイド制御信号133にしたがってロウサイド駆動信号139を出力し、ロウサイドスイッチング素子143を駆動制御する。還流ダイオード147は、インジェクタ負荷142による逆起電力を昇圧側に還流させる。
【0021】
図9は、図8に示す電磁負荷制御装置の動作を示すタイミングチャートである。以下図9を用いて、図8に示す電磁負荷制御装置の動作を説明する。
【0022】
バッテリー電圧101が供給されると、電磁負荷制御装置が動作を開始する。昇圧スイッチング素子109がON/OFFすることによって、昇圧電圧117が生成される。昇圧電圧117は、図9中に示す電圧117dまで昇圧される。
【0023】
図9に示すタイミング125でインジェクタ負荷142に負荷電流が供給され、インジェクタ負荷142の駆動が開始される。インジェクタドライバ駆動部130は、VHハイサイド駆動信号131、VBハイサイド駆動信号132、ロウサイド駆動信号133を出力する。これに応じてVH、VB、ロウサイドの各スイッチング素子140、146、143はそれぞれON/OFFを繰り返し、負荷駆動電流144をインジェクタ負荷142に供給する。
【0024】
VHハイサイド制御信号131によってVHハイサイドスイッチング素子140がONし、昇圧用キャパシタ114にチャージされた電荷により昇圧電圧117と電流がインジェクタ負荷142に供給される。このとき、昇圧電圧117は図9に示すように次第に降下する。昇圧電圧117が所定の閾値117a未満まで低下すると、電圧検出器118がこれを検出し、電圧低下検出信号105を昇圧制御部111に出力する。昇圧制御部111は、昇圧スイッチング信号110を出力し、昇圧スイッチング素子109をON/OFFさせる。
【0025】
電流検出抵抗106は、昇圧スイッチング素子109がONになっている期間に流れる充電電流108を検出する。充電電流108が所定の充電電流閾値108aに達すると、充電電流検出信号120が所定の閾値120aに到達する。昇圧制御部111は、この時点で昇圧スイッチング素子109をOFFする。この時、充電電流108は昇圧ダイオード112を介して昇圧キャパシタ114にチャージされ、これにより昇圧電圧117は所定の昇圧電圧レベル117dまで改めて昇圧される。
【0026】
その後、図9に示すタイミング126でインジェクタ負荷142の駆動が終了すると、ロウサイドスイッチング素子143がOFFする。これにより、負荷駆動電流144が逆起電流となって、還流ダイオード147を介して昇圧側へ還流される。このとき、還流電流が昇圧用キャパシタ114に充電され、昇圧電圧117が上昇する。
【0027】
還流電流によって昇圧電圧117が上昇し続け、所定の電圧閾値117bを超えたとき、電圧検出器118はこれを検出し、過電圧検出信号119を過電圧制御部116に出力する。過電圧制御部116は、過電圧検出信号119に応じて過電圧放電制御信号115を放電手段113に出力する。放電手段113は過電圧放電制御信号115にしたがってONとなり、放電手段113に放電電流123が流れて放電が生じる。これにともない、昇圧電圧117は低下する。このとき、昇圧スイッチング素子109はOFFしており、放電電流123はバッテリー101に流れる。
【0028】
昇圧電圧117が所定電圧117c未満まで低下すると、電圧検出器118はこれを検出し、過電圧検出信号119をロウレベルに変更する。これにともない放電手段113はOFFとなり、放電動作が停止する。これにより、昇圧電圧117の過昇圧を防止し、過昇圧による回路部品の破損を防止している。
【0029】
ここで、上記放電動作において、放電手段113は、昇圧電圧117が所定電圧閾値117b以上になるとONし、117c未満になるまでONし続けることになる。放電電流123は、昇圧電圧117とバッテリー電圧102との電位差、および放電手段113の抵抗成分とで決まる値となる。昇圧電圧117が所定の閾値117b以上となっている期間、この放電電流が流れ続ける。
【0030】
このとき、放電電流123を制限するものは、放電手段113の抵抗成分のみとなるので、放電手段113に許容されている定格電流を超えた放電電流123が流れる可能性がある。この過大な放電電流123によって放電手段113が破損するおそれがある。
【0031】
<放電電流の計算例>
放電手段113として、P型FET(Field Effect Transistor)を用いた場合の放電電流について、以下に計算例を説明する。
【0032】
昇圧電圧117は、通常はインジェクタ駆動素子の素子耐圧を超えない領域で設定されている。電圧閾値117b=80Vとした場合、過電圧検出信号119が放電出力信号を出力している間、放電手段113は、電圧閾値117bとバッテリー電圧102の間の電位差を放電する。放電電流123は、回路の配線パターンの抵抗をRとした場合、下記式(1)で表すことができる。
放電電流123=(80V−VB)/(R+RDSON) ・・・(1)
ただし、
VB:バッテリー電圧(通常は14V)
RDSON:放電手段113のオン抵抗
【0033】
回路の配線パターンの抵抗Rは、下記式(2)で表すことができる。
配線パターン抵抗R=ρ・L/A ・・・(2)
ただし、
ρ:電気抵抗率:1.68×10−8(Ω・m)
L:パターン長
A:パターン断面積(=パターン幅×めっき厚)
【0034】
プリント基板の銅箔の体積にも依存するが、パターン幅=10mm、銅めっき厚=35μm、パターン長L=10cmとした場合、上記式(2)より、配線パターン抵抗R=4.8mΩとなる。
【0035】
放電手段113のオン抵抗RDSON=200mΩとすると、放電電流123は、上記式(1)より、下記式(3)のように計算することができる。
放電電流123=(80−14)V/204.8mΩ=322A ・・・(3)
この過大な放電電流123に耐えるため、放電手段113が備える回路素子は形状がおおきく、コスト高となる傾向がある。
【0036】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る電磁負荷制御装置の回路図である。図1に示す回路は、図8で説明した従来の回路構成とは異なり、放電手段として定電圧回路200を設けた。その他の回路構成は図8と同様である。
【0037】
図2は、定電圧回路200の詳細を示す図である。定電圧回路200は、定電圧ダイオード201、抵抗202、FET203を備える。
【0038】
定電圧ダイオード201は、定電圧特性(ツェナー電圧)Vzを有する。定電圧ダイオード201の一端は接地され、他端はFET203のゲート端子(ON/OFF制御端子)と昇圧用ダイオード112のカソードに接続されている。電圧117の上昇に伴い定電圧ダイオード201に電流Izが流れ始め、このIzと抵抗202によって発生する電位差がFETのゲートON電圧VgsとなるとFET203のゲート端子がONになってFET203が導通する。
【0039】
FET203は、昇圧用ダイオード112と並列に接続されており、定電圧ダイオード201がゲート端子をONすることによってON状態になると、放電電流123をバッテリー101側へ帰還させる。
【0040】
抵抗202は、FET203のソース−ゲート間に接続されており、定電圧ダイオード201に流れる電流を低減する。
【0041】
定電圧ダイオード201のツェナー電圧VzとFET203のゲート−ソース間電圧Vgsを加えた値が、昇圧電圧117となる。そのため、電圧閾値117b=Vz+Vgsとなるように、各素子の特性を設定する。
【0042】
上記のように各素子の特性を設定すると、FET203が瞬時的に導通して放電電流が流れた後、FET203が再度OFFになる、という動作を短時間で繰り返す。これにより、還流ダイオード147を流れる電流波形は図2の下図のようになる。放電時の動作については、図3で改めて説明する。
【0043】
図3は、本実施形態1に係る電磁負荷制御装置の動作を示すタイミングチャートである。本実施形態1において、放電動作のため定電圧回路200の電圧が次第に上昇し、定電圧ダイオード201の定電圧特性の近傍まで達すると、ゲート電圧Vgsは瞬時的にFET203をONにする電圧まで達し、FET203が導通して放電する。放電によって定電圧回路200の電圧が下がると、定電圧ダイオード201のツェナー電圧Vzは維持されつつゲート電圧Vgsが下がり、FET203は非導通となる。このサイクルが短時間で繰り返され、放電が完全に完了した時点でサイクルが終了する。
【0044】
すなわち、放電電流はFET定電圧ダイオード201を介して放出され、放電電圧が電圧閾値117bに達した時点でFET203が瞬時的に導通してOFFとなる。したがって、FET203を流れる電流が過大になる前にFET203はOFFとなるので、FET203の電流容量を大きくする必要はない。
【0045】
<実施の形態1:計算例>
以下では、本実施形態1に係る電磁負荷制御装置の動作について、具体的な回路パラメータを設定した計算例を説明する。
【0046】
電圧閾値117b=80V、FET203のゲート電圧Vgs=5Vとした場合、定電圧ダイオード201の定電圧特性Vz=75Vとなる。
【0047】
FET203のゲートーソース間抵抗202は、定電圧ダイオード201のバイアス電流を流せる程度の値に設定する。定電圧ダイオード201のバイアス電流が0.5mAである場合、抵抗202の抵抗値R202は、下記式(4)で求められる。
R202=Vgs/0.5mA=10KΩ ・・・(4)
定電圧ダイオード201の消費電流は、下記式(5)で求められる。
75V×0.5mA=37mW ・・・(5)
抵抗202の消費電力は、下記式(6)で求められる。
Vgs/10KΩ×Vgs=2.5mW ・・・(6)
【0048】
したがって、定電圧ダイオード201、抵抗202ともに小型の部品を用いることができるので、放電手段としての定電圧回路200のコストを抑えることができる。
【0049】
次に、インジェクタ負荷142の観点から本実施形態1に係る電磁負荷制御装置の動作について説明する。インジェクタ負荷142の逆起電力Wiは、インジェクタ負荷142自身のインダクタンスをL、電流をIiとすると、下記式(7)で表わされる。
Wi=1/2×L×Ii2 ・・・(7)
【0050】
インジェクタ負荷142のインダクタンスは数mH〜数十mHである。ここでは20mHと仮定する。インジェクタ負荷142の電流を20Aと仮定すると、インジェクタ負荷142が1回動作するときの逆起電力Wiは、下記式(8)で求められる。
Wi=1/2×20×10-3×202=4W ・・・(8)
【0051】
簡単のため昇圧用キャパシタを無視し、式(8)の電力をFET202が全て吸収することとする。式(8)の電力値は、式(3)に示す電流値から見ると大幅に低減されていることが分かる。すなわち、本実施形態1に係る電磁負荷制御装置は、従来と比較して放電手段の消費電力が少なく、よって放電素子への負担も少なくなるので、より小型の放電素子を用いることができるといえる。
【0052】
<実施の形態1:まとめ>
以上のように、本実施形態1に係る電磁負荷制御装置は、放電電流を緩和する素子として定電圧ダイオード201を備える。定電圧ダイオード201の一端は接地され、他端はFET203のゲート端子に接続されている。放電電圧が電圧閾値117bに達すると、VgsがFET203をONする値に到達し、FET203を瞬時的に導通させた後、放電電圧が降下するとFET203は再びOFFになる。この動作を繰り返すことにより、放電電流が過大になる前にFET203はOFFになるので、小型の素子を用いて放電手段を構成することができる。
【0053】
また、本実施形態1に係る電磁負荷制御装置によれば、ツェナー電圧Vzを適正に設定することにより、定電圧ダイオード201の定電圧特性が以上の動作を自動的に実施するので、FET203をON/OFF制御するためのマイコンなどの演算装置を新たに設けることなく同等の動作を実施し、低コストに放電手段を構成することができる。
【0054】
<実施の形態2>
図4は、本発明の実施形態2に係る電磁負荷制御装置の回路図である。ここでは定電圧回路200の周辺部分のみ示した。その他の構成は実施形態1と同様である。本実施形態2では、昇圧用ダイオード112のカソードとFET203のソースの間に、電流制限用の抵抗180を新たに追加した。
【0055】
抵抗180は、昇圧時に昇圧用ダイオード112の順方向に流れる昇圧用の電流を制限しないようにするため、昇圧用ダイオード112の順方向に流れる経路、例えば昇圧用ダイオード112のカソードと抵抗202の間には設置しないようにすることが望ましい。
【0056】
抵抗180の抵抗値を1オームとした場合、放電電流123は、下記式(9)で求めることができる。
放電電流123=(80−14)V/1204.8mΩ=53A ・・・(9)
【0057】
以上のように、本実施形態2によれば、放電電流123を従来よりも低減することができる。ただし、抵抗180には上記式(8)の電流53Aが流れることになり、抵抗180は53W以上の定格を有するものを採用する必要があるので、定電圧回路200は大型のものとなりがちであるといえる。さらには、放電するための消費電力そのものは抵抗180によって低下するわけではない。
【0058】
なお、本実施形態2のように、昇圧用ダイオード112のカソードとFET203のソースの間に抵抗180を設けて放電電流を低減する手法は、以下の実施形態においても用いることができる。
【0059】
<実施の形態3>
図5は、本発明の実施形態3に係る電磁負荷制御装置の回路図である。ここでは定電圧回路200の周辺部分のみ示した。その他の構成は実施形態1と同様である。本実施形態3では、定電圧ダイオード201に代えて、コンデンサ205を設けた。コンデンサ205の一端は接地され、他端はFET203のゲート端子と昇圧用ダイオード112のカソードに接続されている。抵抗204は、FET203を駆動するための駆動信号を調整するための抵抗である。
【0060】
図6は、抵抗204を流れる駆動信号と放電電流123の関係を示す図である。抵抗204と並列にコンデンサ205を設けたことにより、FET203を駆動するための駆動信号は立ち下がりが遅くなる。これにより、FET203は駆動信号が印加されても即座に完全ON状態とはならず、ハーフON状態となって不飽和領域で動作する。FET203が不飽和領域で動作すると、定格値どおりの電流が流れない状態となるため、結果として放電電流123は制限されることになる。
【0061】
図5〜図6と同様の効果を発揮する手法として、コンデンサ205を用いことに代えて抵抗202と204の値を調整し、FET203を上記と同様に不飽和領域で動作させることが考えられる。ただしこの方法では、FET203の動作抵抗が定格値よりも大きくなるため、消費電力が増大する。したがって、結果としてこの電力損失をまかなえる程度に大型のFET203を用いる必要があり、コスト効果の面では必ずしも望ましくない。
【0062】
<実施の形態4>
図7は、本発明の実施形態4に係る電磁負荷制御装置の放電電流とFET203の駆動電流の間の関係を示す図である。実施形態1では、放電電流123を低減する手段として定電圧ダイオード201を設け、FET203を自動的に間欠動作させることとした。同様の動作は、FET203を駆動する駆動信号を間欠的に供給することによっても実現することができる。例えば、駆動信号を図7のように供給してFET203をPWM駆動することが考えられる。
【0063】
ただし、本実施形態4に係る手法を用いる場合、定電圧ダイオード201に代わる放電緩和素子として、PWM制御を実施する制御回路が必要になる。この制御回路を実装するだけの面積余裕がない場合は、本手法を採用することは難しい。また、制御回路を1チップのASIC(特定用途向けIC)によって構成している場合は、ロジック追加にともなう確認作業などが必要になり、コストの観点からは必ずしも望ましくない。
【0064】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0065】
また、上記各構成、機能、処理部などは、それらの全部または一部を、例えば集積回路で設計することによりハードウェアとして実現することもできるし、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを実行することによりソフトウェアとして実現することもできる。各機能を実現するプログラム、テーブルなどの情報は、メモリやハードディスクなどの記憶装置、ICカード、DVDなどの記憶媒体に格納することができる。
【符号の説明】
【0066】
100:GND、101:バッテリー、102:バッテリー電圧、103:電流検出信号、104:電流検出器、105:昇圧低下検出信号、106:電流検出抵抗、107:昇圧コイル、108:充電電流、109:昇圧用スイッチング素子、110:昇圧スイッチング信号、111:昇圧制御部、112:昇圧用ダイオード、113:放電手段、114:昇圧用キャパシタ、116:過電圧制御部、117:昇圧電圧、118:電圧検出器、119:過電圧検出信号、120:両端電位差、121:過電圧放電制御信号、130:インジェクタドライバ制御部、131:VHハイサイド制御信号、132:VBハイサイド制御信号、133:ロウサイド制御信号、134:VHドライバ駆動部、135:VBドライバ駆動部、137:VHハイサイド駆動信号、138:VBハイサイド駆動信号、136:ロウサイドドライバ駆動部、139:ロウハイサイド駆動信号、140:VHハイサイドスイッチング素子、141:VHハイサイド逆流防止ダイオード、142:インジェクタ負荷、143:ロウサイドスイッチング素子、144:負荷駆動電流、145:VBハイサイド逆流防止ダイオード、146:VBハイサイドスイッチング素子、147:還流ダイオード、200:定電圧回路、201:定電圧ダイオード、202:抵抗、203:FET、204:抵抗、205:コンデンサ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁負荷に供給する電流を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガソリンや軽油等を燃料とする、自動車、オートバイ、農耕機、工機、船舶機等の内燃機関制御装置において、燃費や出力向上の目的で、気筒内に直接燃料を噴射するインジェクタが用いられている。このような気筒内直接噴射型インジェクタは、従来の方式と比べ、高圧に加圧した燃料を使用するインジェクタの開弁動作のために、多くのエネルギーを必要とする。また、制御性能(応答性)の向上や高回転(高速度制御)へ対応するために、短時間にこのエネルギーをインジェクタに供給する必要がある。
【0003】
このようなインジェクタを駆動する回路は、昇圧回路を用いてバッテリー電圧よりも高い電圧を生成し、そこに接続されたスイッチング素子をON/OFF駆動する。昇圧電圧を用いて電流を流して短時間に大電流を通電させることによりインジェクタを駆動し、高圧な筒内直接噴射を実現することができる。
【0004】
下記特許文献1には、インジェクタに大電流を供給する電磁負荷制御装置の構成と動作例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−115848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載されている技術では、昇圧効率をなるべく良くするため、インジェクタに流れる負荷電流を昇圧回路に還流させている。また、過昇圧を防止するための放電手段を設けておき、昇圧電圧が閾値以上となったときに放電して昇圧電圧を降下させている。
【0007】
このとき、放電手段に流れる放電電流を制限するものは、放電手段の抵抗成分のみとなる。そのため、放電手段の定格電流を超えた過大な放電電流が流れ、放電手段を破壊する可能性がある。そのため、放電手段は過電流によって破壊されないように電流容量が大きい部品を用いる必要があり、素子が大型化して部品のコストが高くなる傾向にある。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、放電手段を備えた電磁負荷制御装置において、放電手段を低コストで構成し、かつ過電流によって破損させないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電磁負荷制御装置が備える放電装置は、放電電流を電源側に帰還させるスイッチング素子のON/OFFを切り替える放電緩和素子を有しており、放電電流が放電緩和素子を流れるとスイッチング素子のON/OFFを切り替えて放電電流を電源側へ間欠的に帰還させるように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る電磁負荷制御装置によれば、放電電流を間欠的に帰還させることにより、放電装置の電流容量を大きくすることなく、放電装置が過電流によって破損する可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態1に係る電磁負荷制御装置の回路図である。
【図2】定電圧回路200の詳細を示す図である。
【図3】実施形態1に係る電磁負荷制御装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図4】実施形態2に係る電磁負荷制御装置の回路図である。
【図5】実施形態3に係る電磁負荷制御装置の回路図である。
【図6】抵抗204を流れる駆動信号と放電電流123の関係を示す図である。
【図7】実施形態4に係る電磁負荷制御装置の放電電流とFET203の駆動電流の間の関係を示す図である。
【図8】特許文献1に記載されている電磁負荷制御装置の回路構成を示す図である。
【図9】図8に示す電磁負荷制御装置の動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<従来の電磁負荷制御装置>
本発明の実施形態を説明する前に、比較のため、特許文献1に記載されている電磁負荷制御装置の回路構成および動作を説明する。その後、本発明の実施形態に係る電磁負荷制御装置について説明する。
【0013】
図8は、特許文献1に記載されている電磁負荷制御装置の回路構成を示す図である。図8に示す電磁負荷制御装置は、インジェクタに供給する電流を通電制御する装置である。図8に示す装置は、昇圧回路を用いてバッテリー電圧よりも高い電圧を生成し、スイッチング素子をON/OFF駆動してその昇圧電圧を通電制御する。これにより、昇圧電圧を用いて電流を流してインジェクタを駆動し、短時間に大電流を通電させて、圧力の高い筒内直接噴射を実現している。
【0014】
図8に示す電磁負荷制御装置は、バッテリー101、電流検出器104、電流検出抵抗106、昇圧コイル107、昇圧用スイッチング素子109、昇圧制御部111、昇圧用ダイオード112、放電手段113、昇圧用キャパシタ114、過電圧制御部116、電圧検出器118を備える。これらの構成は、バッテリー101が供給する電圧を昇圧して後述するVHハイサイドスイッチング素子140に昇圧電圧117として供給するためのものである。
【0015】
昇圧コイル107、昇圧用スイッチング素子109、昇圧用キャパシタ114は、本発明における昇圧回路に相当する。
【0016】
バッテリー101、電流検出抵抗106、昇圧用キャパシタ114は、アース100に接続されている。
【0017】
バッテリー101は、バッテリー電圧102を昇圧コイル107および後述するVBハイサイドスイッチング素子146に供給する。昇圧制御部111は、昇圧用スイッチング素子109に昇圧スイッチング信号110を出力して昇圧用スイッチング素子109をON/OFF制御し、バッテリー電圧102を昇圧する動作を制御する。電流検出器104は、昇圧用スイッチング素子109を流れる充電電流108を、電流検出抵抗106の両端電位差120に基づき検出し、検出結果を昇圧制御部111に出力する。
【0018】
放電手段113は、放電によって昇圧電圧117を降下させる装置であり、昇圧用ダイオード112に並列接続されている。過電圧制御部116は、放電手段113に過電圧放電制御信号121を出力して放電手段113をON/OFF制御する。昇圧用キャパシタ114は、昇圧電圧117に基づき電荷を充電する。電圧検出器118は、昇圧電圧117を検出する。昇圧電圧117が低下したときは昇圧低下検出信号105を昇圧制御部111に出力し、昇圧電圧117が過電圧となったときは過電圧検出信号119を過電圧制御部116に出力する。
【0019】
図8に示す電磁負荷制御装置はさらに、インジェクタドライバ制御部130、VHドライバ駆動部134、VBドライバ駆動部135、ロウサイドドライバ駆動部136、VHハイサイドスイッチング素子140、VHハイサイド逆流防止ダイオード141、インジェクタ負荷142、ロウサイドスイッチング素子143、VBハイサイド逆流防止ダイオード145、VBハイサイドスイッチング素子146、還流ダイオード147および178を備える。
【0020】
VHドライバ駆動部134は、インジェクタドライバ制御部130が出力するVHハイサイド制御信号131にしたがってVHハイサイド駆動信号137を出力し、VHハイサイドスイッチング素子140を駆動制御する。VBドライバ駆動部135は、インジェクタドライバ制御部130が出力するVBハイサイド制御信号132にしたがってVBハイサイド駆動信号138を出力し、VBハイサイドスイッチング素子146を駆動制御する。ロウサイドドライバ駆動部136は、インジェクタドライバ制御部130が出力するロウサイド制御信号133にしたがってロウサイド駆動信号139を出力し、ロウサイドスイッチング素子143を駆動制御する。還流ダイオード147は、インジェクタ負荷142による逆起電力を昇圧側に還流させる。
【0021】
図9は、図8に示す電磁負荷制御装置の動作を示すタイミングチャートである。以下図9を用いて、図8に示す電磁負荷制御装置の動作を説明する。
【0022】
バッテリー電圧101が供給されると、電磁負荷制御装置が動作を開始する。昇圧スイッチング素子109がON/OFFすることによって、昇圧電圧117が生成される。昇圧電圧117は、図9中に示す電圧117dまで昇圧される。
【0023】
図9に示すタイミング125でインジェクタ負荷142に負荷電流が供給され、インジェクタ負荷142の駆動が開始される。インジェクタドライバ駆動部130は、VHハイサイド駆動信号131、VBハイサイド駆動信号132、ロウサイド駆動信号133を出力する。これに応じてVH、VB、ロウサイドの各スイッチング素子140、146、143はそれぞれON/OFFを繰り返し、負荷駆動電流144をインジェクタ負荷142に供給する。
【0024】
VHハイサイド制御信号131によってVHハイサイドスイッチング素子140がONし、昇圧用キャパシタ114にチャージされた電荷により昇圧電圧117と電流がインジェクタ負荷142に供給される。このとき、昇圧電圧117は図9に示すように次第に降下する。昇圧電圧117が所定の閾値117a未満まで低下すると、電圧検出器118がこれを検出し、電圧低下検出信号105を昇圧制御部111に出力する。昇圧制御部111は、昇圧スイッチング信号110を出力し、昇圧スイッチング素子109をON/OFFさせる。
【0025】
電流検出抵抗106は、昇圧スイッチング素子109がONになっている期間に流れる充電電流108を検出する。充電電流108が所定の充電電流閾値108aに達すると、充電電流検出信号120が所定の閾値120aに到達する。昇圧制御部111は、この時点で昇圧スイッチング素子109をOFFする。この時、充電電流108は昇圧ダイオード112を介して昇圧キャパシタ114にチャージされ、これにより昇圧電圧117は所定の昇圧電圧レベル117dまで改めて昇圧される。
【0026】
その後、図9に示すタイミング126でインジェクタ負荷142の駆動が終了すると、ロウサイドスイッチング素子143がOFFする。これにより、負荷駆動電流144が逆起電流となって、還流ダイオード147を介して昇圧側へ還流される。このとき、還流電流が昇圧用キャパシタ114に充電され、昇圧電圧117が上昇する。
【0027】
還流電流によって昇圧電圧117が上昇し続け、所定の電圧閾値117bを超えたとき、電圧検出器118はこれを検出し、過電圧検出信号119を過電圧制御部116に出力する。過電圧制御部116は、過電圧検出信号119に応じて過電圧放電制御信号115を放電手段113に出力する。放電手段113は過電圧放電制御信号115にしたがってONとなり、放電手段113に放電電流123が流れて放電が生じる。これにともない、昇圧電圧117は低下する。このとき、昇圧スイッチング素子109はOFFしており、放電電流123はバッテリー101に流れる。
【0028】
昇圧電圧117が所定電圧117c未満まで低下すると、電圧検出器118はこれを検出し、過電圧検出信号119をロウレベルに変更する。これにともない放電手段113はOFFとなり、放電動作が停止する。これにより、昇圧電圧117の過昇圧を防止し、過昇圧による回路部品の破損を防止している。
【0029】
ここで、上記放電動作において、放電手段113は、昇圧電圧117が所定電圧閾値117b以上になるとONし、117c未満になるまでONし続けることになる。放電電流123は、昇圧電圧117とバッテリー電圧102との電位差、および放電手段113の抵抗成分とで決まる値となる。昇圧電圧117が所定の閾値117b以上となっている期間、この放電電流が流れ続ける。
【0030】
このとき、放電電流123を制限するものは、放電手段113の抵抗成分のみとなるので、放電手段113に許容されている定格電流を超えた放電電流123が流れる可能性がある。この過大な放電電流123によって放電手段113が破損するおそれがある。
【0031】
<放電電流の計算例>
放電手段113として、P型FET(Field Effect Transistor)を用いた場合の放電電流について、以下に計算例を説明する。
【0032】
昇圧電圧117は、通常はインジェクタ駆動素子の素子耐圧を超えない領域で設定されている。電圧閾値117b=80Vとした場合、過電圧検出信号119が放電出力信号を出力している間、放電手段113は、電圧閾値117bとバッテリー電圧102の間の電位差を放電する。放電電流123は、回路の配線パターンの抵抗をRとした場合、下記式(1)で表すことができる。
放電電流123=(80V−VB)/(R+RDSON) ・・・(1)
ただし、
VB:バッテリー電圧(通常は14V)
RDSON:放電手段113のオン抵抗
【0033】
回路の配線パターンの抵抗Rは、下記式(2)で表すことができる。
配線パターン抵抗R=ρ・L/A ・・・(2)
ただし、
ρ:電気抵抗率:1.68×10−8(Ω・m)
L:パターン長
A:パターン断面積(=パターン幅×めっき厚)
【0034】
プリント基板の銅箔の体積にも依存するが、パターン幅=10mm、銅めっき厚=35μm、パターン長L=10cmとした場合、上記式(2)より、配線パターン抵抗R=4.8mΩとなる。
【0035】
放電手段113のオン抵抗RDSON=200mΩとすると、放電電流123は、上記式(1)より、下記式(3)のように計算することができる。
放電電流123=(80−14)V/204.8mΩ=322A ・・・(3)
この過大な放電電流123に耐えるため、放電手段113が備える回路素子は形状がおおきく、コスト高となる傾向がある。
【0036】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る電磁負荷制御装置の回路図である。図1に示す回路は、図8で説明した従来の回路構成とは異なり、放電手段として定電圧回路200を設けた。その他の回路構成は図8と同様である。
【0037】
図2は、定電圧回路200の詳細を示す図である。定電圧回路200は、定電圧ダイオード201、抵抗202、FET203を備える。
【0038】
定電圧ダイオード201は、定電圧特性(ツェナー電圧)Vzを有する。定電圧ダイオード201の一端は接地され、他端はFET203のゲート端子(ON/OFF制御端子)と昇圧用ダイオード112のカソードに接続されている。電圧117の上昇に伴い定電圧ダイオード201に電流Izが流れ始め、このIzと抵抗202によって発生する電位差がFETのゲートON電圧VgsとなるとFET203のゲート端子がONになってFET203が導通する。
【0039】
FET203は、昇圧用ダイオード112と並列に接続されており、定電圧ダイオード201がゲート端子をONすることによってON状態になると、放電電流123をバッテリー101側へ帰還させる。
【0040】
抵抗202は、FET203のソース−ゲート間に接続されており、定電圧ダイオード201に流れる電流を低減する。
【0041】
定電圧ダイオード201のツェナー電圧VzとFET203のゲート−ソース間電圧Vgsを加えた値が、昇圧電圧117となる。そのため、電圧閾値117b=Vz+Vgsとなるように、各素子の特性を設定する。
【0042】
上記のように各素子の特性を設定すると、FET203が瞬時的に導通して放電電流が流れた後、FET203が再度OFFになる、という動作を短時間で繰り返す。これにより、還流ダイオード147を流れる電流波形は図2の下図のようになる。放電時の動作については、図3で改めて説明する。
【0043】
図3は、本実施形態1に係る電磁負荷制御装置の動作を示すタイミングチャートである。本実施形態1において、放電動作のため定電圧回路200の電圧が次第に上昇し、定電圧ダイオード201の定電圧特性の近傍まで達すると、ゲート電圧Vgsは瞬時的にFET203をONにする電圧まで達し、FET203が導通して放電する。放電によって定電圧回路200の電圧が下がると、定電圧ダイオード201のツェナー電圧Vzは維持されつつゲート電圧Vgsが下がり、FET203は非導通となる。このサイクルが短時間で繰り返され、放電が完全に完了した時点でサイクルが終了する。
【0044】
すなわち、放電電流はFET定電圧ダイオード201を介して放出され、放電電圧が電圧閾値117bに達した時点でFET203が瞬時的に導通してOFFとなる。したがって、FET203を流れる電流が過大になる前にFET203はOFFとなるので、FET203の電流容量を大きくする必要はない。
【0045】
<実施の形態1:計算例>
以下では、本実施形態1に係る電磁負荷制御装置の動作について、具体的な回路パラメータを設定した計算例を説明する。
【0046】
電圧閾値117b=80V、FET203のゲート電圧Vgs=5Vとした場合、定電圧ダイオード201の定電圧特性Vz=75Vとなる。
【0047】
FET203のゲートーソース間抵抗202は、定電圧ダイオード201のバイアス電流を流せる程度の値に設定する。定電圧ダイオード201のバイアス電流が0.5mAである場合、抵抗202の抵抗値R202は、下記式(4)で求められる。
R202=Vgs/0.5mA=10KΩ ・・・(4)
定電圧ダイオード201の消費電流は、下記式(5)で求められる。
75V×0.5mA=37mW ・・・(5)
抵抗202の消費電力は、下記式(6)で求められる。
Vgs/10KΩ×Vgs=2.5mW ・・・(6)
【0048】
したがって、定電圧ダイオード201、抵抗202ともに小型の部品を用いることができるので、放電手段としての定電圧回路200のコストを抑えることができる。
【0049】
次に、インジェクタ負荷142の観点から本実施形態1に係る電磁負荷制御装置の動作について説明する。インジェクタ負荷142の逆起電力Wiは、インジェクタ負荷142自身のインダクタンスをL、電流をIiとすると、下記式(7)で表わされる。
Wi=1/2×L×Ii2 ・・・(7)
【0050】
インジェクタ負荷142のインダクタンスは数mH〜数十mHである。ここでは20mHと仮定する。インジェクタ負荷142の電流を20Aと仮定すると、インジェクタ負荷142が1回動作するときの逆起電力Wiは、下記式(8)で求められる。
Wi=1/2×20×10-3×202=4W ・・・(8)
【0051】
簡単のため昇圧用キャパシタを無視し、式(8)の電力をFET202が全て吸収することとする。式(8)の電力値は、式(3)に示す電流値から見ると大幅に低減されていることが分かる。すなわち、本実施形態1に係る電磁負荷制御装置は、従来と比較して放電手段の消費電力が少なく、よって放電素子への負担も少なくなるので、より小型の放電素子を用いることができるといえる。
【0052】
<実施の形態1:まとめ>
以上のように、本実施形態1に係る電磁負荷制御装置は、放電電流を緩和する素子として定電圧ダイオード201を備える。定電圧ダイオード201の一端は接地され、他端はFET203のゲート端子に接続されている。放電電圧が電圧閾値117bに達すると、VgsがFET203をONする値に到達し、FET203を瞬時的に導通させた後、放電電圧が降下するとFET203は再びOFFになる。この動作を繰り返すことにより、放電電流が過大になる前にFET203はOFFになるので、小型の素子を用いて放電手段を構成することができる。
【0053】
また、本実施形態1に係る電磁負荷制御装置によれば、ツェナー電圧Vzを適正に設定することにより、定電圧ダイオード201の定電圧特性が以上の動作を自動的に実施するので、FET203をON/OFF制御するためのマイコンなどの演算装置を新たに設けることなく同等の動作を実施し、低コストに放電手段を構成することができる。
【0054】
<実施の形態2>
図4は、本発明の実施形態2に係る電磁負荷制御装置の回路図である。ここでは定電圧回路200の周辺部分のみ示した。その他の構成は実施形態1と同様である。本実施形態2では、昇圧用ダイオード112のカソードとFET203のソースの間に、電流制限用の抵抗180を新たに追加した。
【0055】
抵抗180は、昇圧時に昇圧用ダイオード112の順方向に流れる昇圧用の電流を制限しないようにするため、昇圧用ダイオード112の順方向に流れる経路、例えば昇圧用ダイオード112のカソードと抵抗202の間には設置しないようにすることが望ましい。
【0056】
抵抗180の抵抗値を1オームとした場合、放電電流123は、下記式(9)で求めることができる。
放電電流123=(80−14)V/1204.8mΩ=53A ・・・(9)
【0057】
以上のように、本実施形態2によれば、放電電流123を従来よりも低減することができる。ただし、抵抗180には上記式(8)の電流53Aが流れることになり、抵抗180は53W以上の定格を有するものを採用する必要があるので、定電圧回路200は大型のものとなりがちであるといえる。さらには、放電するための消費電力そのものは抵抗180によって低下するわけではない。
【0058】
なお、本実施形態2のように、昇圧用ダイオード112のカソードとFET203のソースの間に抵抗180を設けて放電電流を低減する手法は、以下の実施形態においても用いることができる。
【0059】
<実施の形態3>
図5は、本発明の実施形態3に係る電磁負荷制御装置の回路図である。ここでは定電圧回路200の周辺部分のみ示した。その他の構成は実施形態1と同様である。本実施形態3では、定電圧ダイオード201に代えて、コンデンサ205を設けた。コンデンサ205の一端は接地され、他端はFET203のゲート端子と昇圧用ダイオード112のカソードに接続されている。抵抗204は、FET203を駆動するための駆動信号を調整するための抵抗である。
【0060】
図6は、抵抗204を流れる駆動信号と放電電流123の関係を示す図である。抵抗204と並列にコンデンサ205を設けたことにより、FET203を駆動するための駆動信号は立ち下がりが遅くなる。これにより、FET203は駆動信号が印加されても即座に完全ON状態とはならず、ハーフON状態となって不飽和領域で動作する。FET203が不飽和領域で動作すると、定格値どおりの電流が流れない状態となるため、結果として放電電流123は制限されることになる。
【0061】
図5〜図6と同様の効果を発揮する手法として、コンデンサ205を用いことに代えて抵抗202と204の値を調整し、FET203を上記と同様に不飽和領域で動作させることが考えられる。ただしこの方法では、FET203の動作抵抗が定格値よりも大きくなるため、消費電力が増大する。したがって、結果としてこの電力損失をまかなえる程度に大型のFET203を用いる必要があり、コスト効果の面では必ずしも望ましくない。
【0062】
<実施の形態4>
図7は、本発明の実施形態4に係る電磁負荷制御装置の放電電流とFET203の駆動電流の間の関係を示す図である。実施形態1では、放電電流123を低減する手段として定電圧ダイオード201を設け、FET203を自動的に間欠動作させることとした。同様の動作は、FET203を駆動する駆動信号を間欠的に供給することによっても実現することができる。例えば、駆動信号を図7のように供給してFET203をPWM駆動することが考えられる。
【0063】
ただし、本実施形態4に係る手法を用いる場合、定電圧ダイオード201に代わる放電緩和素子として、PWM制御を実施する制御回路が必要になる。この制御回路を実装するだけの面積余裕がない場合は、本手法を採用することは難しい。また、制御回路を1チップのASIC(特定用途向けIC)によって構成している場合は、ロジック追加にともなう確認作業などが必要になり、コストの観点からは必ずしも望ましくない。
【0064】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0065】
また、上記各構成、機能、処理部などは、それらの全部または一部を、例えば集積回路で設計することによりハードウェアとして実現することもできるし、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを実行することによりソフトウェアとして実現することもできる。各機能を実現するプログラム、テーブルなどの情報は、メモリやハードディスクなどの記憶装置、ICカード、DVDなどの記憶媒体に格納することができる。
【符号の説明】
【0066】
100:GND、101:バッテリー、102:バッテリー電圧、103:電流検出信号、104:電流検出器、105:昇圧低下検出信号、106:電流検出抵抗、107:昇圧コイル、108:充電電流、109:昇圧用スイッチング素子、110:昇圧スイッチング信号、111:昇圧制御部、112:昇圧用ダイオード、113:放電手段、114:昇圧用キャパシタ、116:過電圧制御部、117:昇圧電圧、118:電圧検出器、119:過電圧検出信号、120:両端電位差、121:過電圧放電制御信号、130:インジェクタドライバ制御部、131:VHハイサイド制御信号、132:VBハイサイド制御信号、133:ロウサイド制御信号、134:VHドライバ駆動部、135:VBドライバ駆動部、137:VHハイサイド駆動信号、138:VBハイサイド駆動信号、136:ロウサイドドライバ駆動部、139:ロウハイサイド駆動信号、140:VHハイサイドスイッチング素子、141:VHハイサイド逆流防止ダイオード、142:インジェクタ負荷、143:ロウサイドスイッチング素子、144:負荷駆動電流、145:VBハイサイド逆流防止ダイオード、146:VBハイサイドスイッチング素子、147:還流ダイオード、200:定電圧回路、201:定電圧ダイオード、202:抵抗、203:FET、204:抵抗、205:コンデンサ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁負荷に供給する電流を制御する装置であって、
前記電磁負荷に印加する負過電圧を昇圧する昇圧回路と、
前記昇圧回路が前記負過電圧を昇圧する際に蓄積した電荷を放電する放電装置と、
を備え、
前記放電装置は、
前記電荷を電源側に帰還させるか否かを切り替えるスイッチング素子と、
前記スイッチング素子が放電電流を流す量を緩和する放電緩和素子と、
を備え、
前記放電緩和素子は、
自身にも前記放電電流が流れるように構成されており、
一端は接地され、他端は前記スイッチング素子の前記電磁負荷側とON/OFF制御端子に接続されており、
前記放電電流が流れると前記スイッチング素子のON/OFF制御端子に信号を供給して前記スイッチング素子のON/OFFを切り替え、前記放電電流を間欠的に前記電源側へ帰還させる
ことを特徴とする電磁負荷制御装置。
【請求項2】
前記放電緩和素子は、
前記放電装置に前記放電電流が流れるときの放電電圧よりも小さい定電圧特性を有する定電圧ダイオードを用いて構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の電磁負荷制御装置。
【請求項3】
前記放電緩和素子は、
前記スイッチング素子のON/OFF制御端子に接続されたコンデンサを用いて構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の電磁負荷制御装置。
【請求項4】
前記スイッチング素子の前記電磁負荷側に、放電電流を低減する抵抗素子を設けた
ことを特徴とする請求項1記載の電磁負荷制御装置。
【請求項1】
電磁負荷に供給する電流を制御する装置であって、
前記電磁負荷に印加する負過電圧を昇圧する昇圧回路と、
前記昇圧回路が前記負過電圧を昇圧する際に蓄積した電荷を放電する放電装置と、
を備え、
前記放電装置は、
前記電荷を電源側に帰還させるか否かを切り替えるスイッチング素子と、
前記スイッチング素子が放電電流を流す量を緩和する放電緩和素子と、
を備え、
前記放電緩和素子は、
自身にも前記放電電流が流れるように構成されており、
一端は接地され、他端は前記スイッチング素子の前記電磁負荷側とON/OFF制御端子に接続されており、
前記放電電流が流れると前記スイッチング素子のON/OFF制御端子に信号を供給して前記スイッチング素子のON/OFFを切り替え、前記放電電流を間欠的に前記電源側へ帰還させる
ことを特徴とする電磁負荷制御装置。
【請求項2】
前記放電緩和素子は、
前記放電装置に前記放電電流が流れるときの放電電圧よりも小さい定電圧特性を有する定電圧ダイオードを用いて構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の電磁負荷制御装置。
【請求項3】
前記放電緩和素子は、
前記スイッチング素子のON/OFF制御端子に接続されたコンデンサを用いて構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の電磁負荷制御装置。
【請求項4】
前記スイッチング素子の前記電磁負荷側に、放電電流を低減する抵抗素子を設けた
ことを特徴とする請求項1記載の電磁負荷制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−241685(P2012−241685A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115706(P2011−115706)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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