説明

電線の止水方法、圧着端子および端子付電線

【課題】径の太い電線においても、より確実に止水剤を浸透させることができる止水処理方法を提供する。
【解決手段】導体露出工程にて被覆材14を除去して導体12を露出させて導体露出部分を形成し、電線接続工程にて導体バレル部22とインシュレーションバレル部24との離間距離L1が導体バレル部22の幅W以上である圧着端子20の基板21上に、電線10を、バレル部22,24間に配置される導体露出部分の長さL2が導体バレル部33の幅Wの半分以上の寸法となるように配置し、端子圧着工程にて導体バレル部22を導体12に圧着し、インシュレーションバレル部24を被覆材14に圧着し、止水剤供給工程にてバレル部22,24間の導体露出部分に止水剤18を滴下し、差圧浸透工程にて止水剤18が滴下された部分の周囲圧力と被覆材14の内側の圧力との間に圧力差を生じさせて、止水剤18を被覆材14の内側に浸透させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体の外側に被覆材を有する電線に止水処理を行うための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電線には、この電線に接続される回路等の正常な動作を確保すべく高い防水性が求められるものがある。
【0003】
例えば、車両等に設けられて電気回路をアース部位に接続するためのアース用電線は、その端末に固定されたアース用端子が外部に露出した状態で車両のボディ等のアース部位に接続される。そのため、アース用端子に固定された端末から水分が侵入しやすく、当該水分が被覆材の内側を伝って回路に浸入して当該回路の正常な動作を妨げるおそれがある。これに対して、下記特許文献1には、前記アース用電線をはじめとする電線を止水するための方法として、被覆材を除去して導体を露出させることで導体露出部分を形成し、この露出した導体にアース用端子の導体バレル部を圧着し、被覆材にアース用端子のインシュレーションバレル部を圧着し、これら導体バレル部とインシュレーションバレル部との間に流動性を有する止水剤を供給した後、他方の端末から被覆材の内側のエアを吸引することで前記止水剤が滴下された部分の周囲圧力に対して前記被覆材の内側の圧力を減圧し、止水剤を前記導体露出部分から前記被覆材の内側に浸透させる方法が開示されている。
【特許文献1】特開2004−355851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の方法では、電線の太さによっては、止水剤が被覆材の内側に十分浸透せず、電線の防水性能が確保されない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明者等が検証したところ、径の太い電線では、被覆材が除去された導体露出部分に供給される止水剤の量に対して、被覆材の内側全体を外側から塞ぐのに必要な止水剤の量が上回っていることがわかった。そして、このように被覆材の内側全体が止水剤により塞がれないと、エア吸引時にエア漏れが起こり被覆材の内側の圧力が減圧されず、止水剤が被覆材の内側に十分に浸透しないということがわかった。この不都合を解決するためには、前記導体露出部分への止水剤の供給量を増やせばよいが、通常の端子では導体バレル部とインシュレーションバレル部との離間距離が最小限に設定されており、このバレル部間への止水剤の供給量の増加には著しい制限がある。これに対して、本発明者等は、電線の径に応じて前記導体露出部分へ供給可能な止水剤の量を増やし、被覆材の内側全体を止水剤により塞ぐことができる方法を発明した。
【0006】
具体的には、この発明は、導体の外側に被覆材を有する電線に止水処理を行うための電線の止水方法において、前記電線の被覆材を部分的に除去して前記導体が露出する導体露出部分を形成する導体露出工程と、当該導体露出工程後、電線の長さ方向に延びる基板と当該基板の側部から上方に延びる導体バレル部と前記基板の側部から上方に延びるインシュレーションバレル部とを一体に有する圧着端子の前記導体バレル部と前記インシュレーションバレル部との間に、前記電線の導体露出部分とこれに隣接する部分との境界が位置するように、当該圧着端子の基板上に当該電線を載置する電線載置工程と、当該電線載置工程後、前記露出された導体に前記導体バレル部を圧着するとともに前記被覆材に前記インシュレーションバレル部を圧着する端子圧着工程と、前記端子圧着工程後、前記導体バレル部と前記インシュレーションバレル部との間に配置された前記導体露出部分に流動性を有する止水剤を滴下し、この導体露出部分とこれに隣接する部分との境界における前記被覆材の電線の長さ方向の端面の内側全体にわたり、前記導体と前記被覆材との隙間を前記止水剤が外側から塞ぐ状態にする止水剤供給工程と、前記止水剤が滴下された前記導体露出部分の周囲圧力と、前記被覆材の内側の圧力との間に圧力差を生じさせて、当該圧力差によって前記止水剤を前記被覆材の内側に浸透させる差圧浸透工程とを含み、前記電線載置工程では、前記導体バレル部と前記インシュレーションバレル部との電線の長さ方向についての離間距離が前記導体バレル部の先端部分の電線の長さ方向についての寸法以上である圧着端子を用いるとともに、前記導体バレル部とインシュレーションバレル部との間に配置される前記導体露出部分の電線の長さ方向についての寸法が前記導体バレル部の先端部分の電線の長さ方向についての寸法の半分以上となるように前記電線を前記基板上に載置することを特徴とする電線の止水方法を提供する(請求項1)。
【0007】
この方法によれば、径の太い電線に対しても、その被覆材の内側に止水剤をより確実に浸透させることができ、電線の防水性能を確保することができる。
【0008】
すなわち、この方法は、電線径の増大に伴って導体バレル部の先端部分の寸法を大きく設定する必要がある点に着目し、この導体バレル部の先端部分の寸法よりもさらに導体バレル部とインシュレーションバレル部との離間寸法を大きくするとともに、これらバレル部間において前記被覆材が除去されて形成された導体露出部分の寸法を導体バレル部の先端部分の寸法の半分以上とすることにより、電線径の増大に応じてこれらバレル部間の領域から前記導体露出部分に供給可能な止水剤の量を増加させるものである。そして、この方法では、この止水剤の供給量の増加により、前記被覆材が除去されて露出した導体の周囲に十分な量の止水剤を浸透させることができ、前記被覆材の端面の内側全体にわたり導体と被覆材との隙間を止水剤によってより確実に外側から塞ぐことができる。このことは、差圧浸透工程におけるエア漏れを抑制して止水剤が滴下された部分の周囲圧力と前記被覆材の内側の圧力との圧力差を確保し、前記被覆材の内側への前記止水剤の浸透を確実とする。
【0009】
また、本方法において、前記電線載置工程にて、前記導体バレル部と前記インシュレーションバレル部との間に設けられて、前記導体バレル部の先端部分の電線の長さ方向についての寸法の半分以上この導体バレル部から前記インシュレーションバレル部側に離間した位置において前記基板の側部から内側に突出する位置決め部を有する圧着端子を用いるとともに、前記導体露出部分とこれに隣接する部分との境界における前記被覆材の電線の長さ方向の端面を前記位置決め部のこの電線の長さ方向の端部に当接させつつ、前記電線を前記基板上に載置するのが好ましい(請求項2)。
【0010】
このようにすれば、前記電線載置工程にて、前記被覆材の端面を前記位置決め部の端部に当接させるという簡単な方法で、前記電線を、導体バレル部とインシュレーションバレル部との間における前記導体露出部分の寸法が前記導体バレル部の先端部分の寸法の半分以上となる位置に容易に配置することができる。
【0011】
また、本発明は、導体の外側に被覆材を有する電線が圧着される圧着端子において、前記圧着される電線の長さ方向に延びる基板と、当該基板の側部から上方に延びる形状を有するとともに前記被覆材が部分的に除去されることで露出された導体が圧着される導体バレル部と、前記基板の側部から上方に延びる形状を有し前記被覆材が圧着されるインシュレーションバレル部とを有し、前記導体バレル部と前記インシュレーションバレル部との電線の長さ方向についての離間距離が、前記導体バレル部の先端部分の電線の長さ方向についての寸法以上であることを特徴とする圧着端子を提供する(請求項3)。
【0012】
この圧着端子によれば、前記導体バレル部と前記インシュレーションバレル部との離間距離が電線径の増大に伴って大きくなる導体バレル部の先端部分の寸法以上となっており、これらバレル部間に電線のうちの導体露出部分が配置された場合に、この部分の寸法を電線径の増大に応じて十分に確保することができる。そして、この導体露出部分に十分な量の止水剤を浸透させることができ、この圧着端子が圧着される電線の防水性能を確保することができる。
【0013】
また、前記圧着端子において、前記導体バレル部と前記インシュレーションバレル部との間に設けられて、前記導体バレル部の先端部分の電線の長さ方向についての寸法の半分以上この導体バレル部から前記インシュレーションバレル部側に離間した位置において前記基板の側部から内側に突出する位置決め部を有し、前記位置決め部は、前記被覆材が部分的に除去されることで形成された前記導体が露出する導体露出部分とこれに隣接する部分との境界が前記導体バレル部と前記インシュレーションバレル部との間に配置された際に、この位置決め部の電線の長さ方向の端部が前記境界における前記被覆材の電線の長さ方向の端面に当接する形状を有するのが好ましい(請求項4)。
【0014】
このようによれば、前記被覆材の端面を前記位置決め部の端部に当接させることで、導体バレル部とインシュレーションバレル部との間における前記導体露出部分の寸法が導体バレル部の先端部分の寸法の半分以上となる位置に、前記電線を容易に配置することができる。このことは、止水剤が供給される前記導体露出部分の寸法を電線径に応じて十分に確保し、この圧着端子が圧着される電線の防水性能をより確実に確保する。
【0015】
また、本発明は、導体の外側に被覆材を有する電線と、この電線に圧着される圧着端子とを備えた端子付電線であって、前記圧着端子は、前記圧着端子からなり、前記電線の被覆材が部分的に除去されることにより前記導体が露出する導体露出部分が形成され、この導体バレル部とインシュレーションバレル部との間に前記導体露出部分とこれに隣接する部分との境界が位置した状態で、前記露出された導体が前記導体バレル部に圧着されるとともに前記被覆材が前記インシュレーションバレル部に圧着されており、前記導体バレル部とインシュレーションバレル部との間に配置された前記導体露出部分の電線の長さ方向についての寸法が前記導体バレル部の先端部分の電線の長さ方向についての寸法の半分以上であることを特徴とする端子付電線を提供する(請求項5)。
【0016】
この端子付電線によれば、前記導体バレル部と前記インシュレーションバレル部との間に配置された前記導体露出部分の寸法が、電線径の増大に伴って大きくなる前記導体バレル部の先端部分の寸法の半分以上であって電線径の増大に応じた寸法に設定されており、径が太い電線に対しても前記導体露出部分に十分な量の止水剤を浸透させることができ、電線の防水性能を確保することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、径の太い電線においても防水性能を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。ここでは、図1に示す圧着端子20を用いて電線10の端末10aに止水処理を行う場合について説明する。
【0019】
前記電線10は、導体12と、その周囲に配される電気絶縁材からなる被覆材14とを有している。
【0020】
前記圧着端子20は、単一の金属板を曲げ加工することにより形成されたものであり、電線の長さ方向に延びる基板21と、導体バレル部22と、インシュレーションバレル部24と、位置決め部26とを有している。前記基板21の一方端には、所定のアース部材等に電気的に接続される接続部21aが形成されている。この接続部21aには、内側に表裏に貫通する貫通孔21bが形成されており、この貫通孔21bにボルト等が挿入されることで前記接続部21aは前記アース部材等に接続される。
【0021】
前記インシュレーションバレル部24は、前記電線10の被覆材14に圧着される部分である。このインシュレーションバレル部24は、前記基板21のうち前記接続部21aと反対側の端部に設けられており、この基板21の両側部から上方に延びている。
【0022】
前記導体バレル部22は、前記電線10のうち前記被覆材14が部分的に除去されることで形成された導体露出部分においてこの露出する導体12に圧着される部分である。この導体バレル部22は、前記基板21のうち前記接続部21aと前記インシュレーションバレル部24との間に設けられており、この基板21の両側部から上方に延びている。この導体バレル部22が導体12に圧着されることで、圧着端子20と電線10とは電気的に接続された状態で固定される。
【0023】
前記導体バレル部22と前記インシュレーションバレル部24とは、電線10の長さ方向に距離L1だけ離間している。このバレル部間の距離L1は、導体バレル部22の幅Wすなわち電線10の長さ方向についての導体バレル部22の先端部分の寸法以上に設定されており、これらバレル部間には十分な大きさの領域が確保されている。本実施形態では、このバレル部間の距離L1は導体バレル部22の幅Wの2.5倍に設定されている。ここで、この導体バレル部22は前述のように圧着端子20と電線10とを固定するものであり、この導体バレル部22の幅Wは電線10の径の増大に伴って大きくする必要がある。そのため、前記バレル部間の距離L1は、前記のように導体バレル部22の幅W以上に設定されていることで、電線10の径に応じて十分な大きさとなる。なお、本実施形態では、図1等において、前記導体バレル部22の電線10の長さ方向についての寸法が基板21側から先端にかけて一定であるものについて示しているが、この寸法が先端にかけて細くなっている場合には、前記バレル部間の距離L1の設定基準となる導体バレル部の幅Wはこの導体バレル部の先端部分の寸法である。
【0024】
前記位置決め部26は、前記導体バレル部22と前記インシュレーションバレル部24との間において、前記導体露出部分とこれに隣接する前記被覆材14が除去されていない部分の境界Aの位置決めを行うためのものである。この位置決め部26は、前記基板1の両側面21cが内側に折り込まれることで形成された基板21の両側部から内側に突出する一対の突片26a,26bからなり、これら突片26a,26bの電線10の長さ方向における前記インシュレーションバレル部24側の端部26c,26dが前記境界Aにおける被覆材14の端面14aと当接することで、この端面14aの位置ひいては前記境界Aの位置を決定する。これら突片26a,26bの各端部26c,26d間の距離は、前記露出された導体12の径よりも大きく、かつ、前記被覆材14の径よりも小さく設定されており、これら突片26a,26bにより前記被覆材14の前記インシュレーションバレル部24側から導体バレル部22側への移動が規制されて、被覆材14の位置が決定される。
【0025】
前記突片26a,26bの前記インシュレーションバレル部24側の端部26c,26dと前記導体バレル部22の電線10の長さ方向における前記インシュレーションバレル部24側の端部との離間距離L2は、前記導体バレル部22の幅Wの半分以上の寸法に設定されており、この導体バレル部22と突片26a,26bの端部26c,26dとの間には、十分な大きさの領域が確保されている。本実施形態では、前記導体バレル部22と突片26a,26bの端部26c,26dとの距離L2は、前記導体バレル部22の幅Wの1.5倍に設定されている。なお、本実施形態では、前記バレル部間の距離L1が導体バレル部22の幅Wの2.5倍に設定されているため、前記突片26a,26bの端部26c,26dと前記インシュレーションバレル部24の電線10の長さ方向における前記導体バレル部22側の端部との距離L3は前記導体バレル部22の幅Wと等しい。
【0026】
以上のように構成された圧着端子を用いた止水方法は、次の各工程を含む。
【0027】
1)導体露出工程
この工程では、図1に示すように、電線10の端末10aの被覆材14を所定長さだけ除去して導体12を露出させ導体露出部分を形成する。
【0028】
2)電線載置工程
この工程は、前記電線10の端末10aを、前記圧着端子20の基板21上に載置する工程である。ここで用いる圧着端子20は、前述のように、電線10の径に応じた大きさの導体バレル部22を有している。
【0029】
この工程では、前記導体バレル部22およびインシュレーションバレル部24が開いた状態で、前記導体露出部分とこれに隣接する部分との境界Aを前記基板上21上に載置する。このとき、前記境界Aにおける被覆材14の端面14aを前記圧着端子20の位置決め部26の各突片26a,26bの端部26c,26dに当接させる。前述のように、前記導体バレル部22と前記突片26a,26bの端部26c,26dとの距離L2は、導体バレル部22の幅Wの1.5倍に設定されている。従って、前記のように被覆材14の端面14aと突片26a,26bとの当接した状態で電線10を載置することで、前記導体バレル部22と前記インシュレーションバレル部24との間において電線10の長さ方向における前記導体露出部分部分の寸法は前記距離L2すなわち前記導体バレル部22の幅Wの1.5倍となり、これら導体バレル部22と前記インシュレーションバレル部24との間には被覆材14が除去された導体露出部分として十分な大きさの領域が確保される。
【0030】
3)端子圧着工程
この工程では、図2に示すように、前記導体バレル部22を、閉じ方向に曲げ変形させて前記露出された導体12に圧着する。また、前記インシュレーションバレル部24を、閉じ方向に曲げ変形させて前記被覆材14に圧着する。これにより、圧着端子20は電線10に圧着固定される。
【0031】
4)止水剤供給工程
この工程は、止水剤18を電線10の端末10aに供給する工程である。
【0032】
この工程では、図4および図6に示すように、図略のディスペンサを用いて前記導体バレル部22とインシュレーションバレル部24との間、主にこのバレル部間に配置された前記導体露出部分に止水剤18を上方から滴下する。ここで、後述する差圧浸透工程にて止水剤18を被覆材14の内側に確実に浸透させるためには、止水剤18によって前記被覆材14の端面14aの内側全体にわたり前記導体12と被覆材14との隙間を外側から塞ぐ必要がある。そして、このためには、この被覆材14の端面14aの内側の面積すなわち電線10の径に応じた量の止水剤18を前記被覆材14が除去された部分に供給する必要がある。これに対して、本方法では、前述のように、この止水剤18が滴下される導体露出部分の長さL2が導体バレル部22の幅Wの1.5倍に設定されており、止水剤18が供給される領域として電線10の径に応じた十分な大きさの領域が確保されている。そのため、この領域に電線10の径に応じた十分な量の止水剤18を供給することができる。このようにして、本工程では、電線10の径に応じた十分な量の止水剤18を前記導体露出部分に供給して、止水剤18を導体12の下方側にまで十分に浸透させる。そして、図4に示すように、止水剤18によって前記被覆材14の端面14aの内側全体にわたり前記導体12と被覆材14との隙間を外側から塞ぐ。
【0033】
この止水剤18の滴下は1回で済ませてもよいが、後述する差圧浸透工程を開始すると、最初に供給した止水剤18が被覆材14の内側に浸透していくのに伴って導体露出部分に溜まっている止水剤18の量が徐々に減少するため、これを補給するように差圧浸透工程と並行して止水剤18の滴下を追加的に行うようにしてもよい。これにより、十分な量の止水剤18をより一層、導体12と被覆材14との隙間にむらなく確実に充填することが可能になる。
【0034】
この止水剤18には、初期状態において流動性を有するものを用いる。この流動性は、後述する差圧浸透工程時において、止水剤18の周囲の圧力と被覆材14の内側の圧力との圧力差によってこの止水剤18が被覆材14内に浸透し得る程度のものであればよい。一般には、初期状態で止水剤18の粘度が0.006〜6Pa・s程度であれば、後述する差圧浸透工程により止水剤18を被覆材14内に浸透させることが可能であることが確認されている。
【0035】
また、前記止水剤18としては、前記の浸透後に少なくとも止水剤18の形態が安定して維持される程度にその粘度が高まる(すなわち硬化する)ものであることが、好ましい。この硬化は自然硬化でもよいし、紫外線の照射や加熱によって促進される硬化であってもよい。ただし、当該硬化後も止水剤18にある程度の弾性(柔軟性)が確保されるものであることが好ましい。これにより、配線時に前記境界A近傍に外力が加わった場合等に止水剤18の割れや破損が生ずることが回避される。
【0036】
具体的に、前記止水剤18の材質としては、例えば、自然硬化特性あるいは光硬化特性をもったシリコーン樹脂が好適である。前記紫外線硬化型シリコーン樹脂は、一般に、主成分である多官能性シリコーンオリゴマーに、光重合開始剤(例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾイン系、アセトフェノン系等の化合物)を含有させたものであり、紫外線の照射を受けると、この光重合開始剤が励起状態となって前記シリコーンオリゴマーを重合させるためのラジカルを生成する構成となっている。また、前記シリコーン樹脂に自然硬化特性を持たせるには、例えば、空気中の湿気の存在下で硬化反応を促進させる硬化触媒等をさらに前記シリコーンオリゴマーに含有させればよい。
【0037】
その他、前記止水剤18の材質としては、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリブタジエンのアクリレートのような多官能性モノマーやオリゴマー等を例示することができる。
【0038】
5)差圧浸透工程
この工程は、前記止水剤18が滴下された導体バレル部22とインシュレーションバレル部24との間の前記導体露出部分の周囲圧力と、前記電線10の被覆材14の内側の圧力との間に圧力差を生じさせて、この圧力差によって止水剤18を被覆材14の内側に浸透させる工程である。具体的には、図6に示すように、前記電線10の端末であって、前記圧着端子20が圧着された端末10aと反対側の端末10bから、被覆材14の内側のエアを吸引してその内部を減圧することで、前記圧力差を生じさせる。この工程は、前記止水剤供給工程後であってもよいし、止水剤供給工程と並行して実施してもよい。
【0039】
この工程では、止水剤18が滴下された電線10の端末10bを減圧容器30に接続し、この減圧容器30をホース40および圧力制御盤42を介して吸引ポンプ44の吸込み口に接続することにより、前記被覆材14の内側のエアを吸引する。
【0040】
この減圧容器30には、これを板厚方向に貫通するゴム栓取付孔32が設けられ、このゴム栓取付孔32内に前記ゴム栓36が嵌着されている。このゴム栓36のほぼ中心には貫通孔36aが設けられており、この貫通孔36aに電線10の端末10bを圧入することにより、ゴム栓36の内周面と電線10の外周面とが密着してシールがなされる。これにより減圧容器30内は密閉空間となり、この密閉空間内を前記圧力制御盤42の制御下で前記吸引ポンプ44の作動により一定の負圧になるまで減圧することによって、電線10の被覆材14の内側空間を減圧することができる。
【0041】
そして、前記止水剤18が滴下された導体バレル部22とインシュレーションバレル部24との間の前記導体露出部分を大気圧下に放置しておけば、この導体露出部分と被覆材14の内側部分との間に圧力差が生じるので、この圧力差によって止水剤18は被覆材14の内側に浸透していく。ここで、前記止水剤供給工程にて、前記導体露出部分とこれに隣接する部分との境界Aの前記導体12と被覆材14との隙間は、前記被覆材14の端面14aの内側全体にわたって前記止水剤18により外側から塞がれ密封されている。従って、この端面14aからエアが被覆材14の内側に入り込むのが回避され前記圧力差は確保される。そのため、前記止水剤18は、図5に示すように、前記導体12と被覆材14との隙間にむらなく確実に浸透していき、電線10の端末10aが確実に止水処理される。
【0042】
以上のように、本止水処理方法によれば、前記導体バレル部22の幅W以上の距離L1だけ離間した前記導体バレル部22と前記インシュレーションバレル部24との間に、前記被覆材14が除去された導体露出部分をその長さが前記導体バレル部22の幅Wの半分以上となるように配置しており、この導体露出部分に浸透する止水剤18の量を確保して前記被覆材14の端面14aの内側全体にわたり導体12と被覆材14との隙間を止水剤18で塞ぎ被覆材14の内側へ止水剤18を確実に浸透させることができる。
【0043】
図7の(a)〜(d)に、前記導体バレル部22とインシュレーションバレル部24との間において前記止水剤18が滴下される導体露出部分の長さL2を変化させた場合の被覆材14の内側への止水剤18の浸透具合を調べた結果例を示す。いずれの例も、止水剤18として粘度が0.86Pa・s、密度が0.98g/cmのシリコーン樹脂を用い、前記減圧容器30内を−70kPaに減圧した場合の結果である。また、これらの図に示すグラフの縦軸は前記被覆材14の内側へ浸透した止水剤18の重量M(mg)を表している。
【0044】
より詳細には、図7の(a)は、被覆材14の内側に導体12として直径0.32mmの導線が65本均等に配列されるとともに断面積が5.0sq(mm)の電線10に、この電線径に応じた導体バレル部22の幅Wが4mmの圧着端子20を圧着し、この電線10の端末を30秒間減圧した場合の結果である。
【0045】
図7の(b)は、被覆材14の内側に導体12として直径0.26mmの導線の22本ごとのかたまりが7個配列されるとともに断面積が8.0sqの電線10に、この電線径に応じた導体バレル部22の幅Wが4mmの圧着端子20を圧着し、30秒間減圧した場合の結果である。
【0046】
図7の(c)は、被覆材14の内側に導体12として直径0.45mmの導線の12本ごとのかたまりが7個配列されるとともに断面積が15.0sqの電線10に、この電線径に応じた導体バレル部22の幅Wが6mmの圧着端子20を圧着し、15秒間減圧した場合の結果である。
【0047】
図7の(d)は、被覆材14の内側に導体12として直径0.45mmの導線が84本均等に配列されるとともに断面積が15.0sqの電線10に、この電線径に応じた導体バレル部22の幅Wが6mmの圧着端子20を圧着し、15秒間減圧した場合の結果である。
【0048】
いずれの結果においても、被覆材14が除去されて導体12が露出された部分の長さL2が長くなるほど止水剤18の被覆材14への浸透量は増加しており、この長さL2がそれぞれ導体バレル部22の幅Wの半分以上において、被覆材14の内側に十分な量の止水剤18が浸透していることが示されている。
【0049】
ここで、前記導体バレル部22と前記インシュレーションバレル部24との離間距離L1は前記に限られず、前記導体バレル部22の幅Wより長ければよい。
【0050】
また、前記突片26a,26bの端部26c,26dの位置は前記に限られず、これら端部26c,26dと前記導体バレル部22の電線10の長さ方向におけるインシュレーションバレル部24側の端部との距離L2が前記導体バレル部22の幅Wの半分以上となる位置であればよい。
【0051】
また、前記位置決め部26の具体的な形状は前記に限られない。例えば、図8に示すように、前記基板1の両側面21cに別途これら側面21cから内側に突出する突起部126a,126bが設けられており、これら突起部126a,126bにより前記位置決め部26を構成してもよい。
【0052】
さらに、前記位置決め部26は省略可能である。ただし、位置決め部26を設けておき、前記電線10の被覆材14の端面14aをこの位置決め部26の各突片26a,26bの端部26c,26dに当接させつつ電線10を配置すれば、電線10を前記被覆材14が除去された部分が導体バレル部22の幅Wの半分以上となる位置に容易に配置することができる。
【0053】
また、前記差圧浸透工程において、前記止水剤18が滴下された導体バレル部22とインシュレーションバレル部24との間の前記導体露出部分の周囲圧力と前記被覆材14の内側の圧力との間に圧力差を生じさせるための具体的方法は前記に限らない。例えば、前記導体露出部分を加圧容器に入れてこの導体露出部分の周囲圧力を加圧する一方、電線10の圧着端子20が圧着された端末10aと反対側の端末10bを大気圧下に放置することで、前記導体露出部分の周囲圧力と前記被覆材14の内側の圧力との間に圧力差を生じさせてもよい。そして、このように前記導体露出部分を加圧することで前記圧力差を生じさせる場合においても、この差圧浸透工程を、前記止水剤供給工程後に実施してもよいし、止水剤供給工程と並行して実施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態にかかる圧着端子上に電線を載置した状態を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示す電線に圧着端子が圧着された状態を示す概略上面図である。
【図3】図2の断面図である。
【図4】止水剤供給工程にて電線に止水剤が滴下された状態を示す図である。
【図5】差圧浸透工程にて電線に止水剤が浸透した状態を示す図である。
【図6】差圧浸透工程を実施するための装置の例を示す図である。
【図7】(a)導体が露出された部分の長さと止水剤の浸透具合の関係の調査結果例である。(b)導体が露出された部分の長さと止水剤の浸透具合の関係の調査結果例である。(c)導体が露出された部分の長さと止水剤の浸透具合の関係の調査結果例である。(d)導体が露出された部分の長さと止水剤の浸透具合の関係の調査結果例である。
【図8】前記圧着端子の位置決め部の変形例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0055】
10 電線
12 導体
14 被覆材
18 止水剤
20 圧着端子
21 基板
22 導体バレル部
24 インシュレーションバレル部
26 位置決め部
L1 導体バレル部とインシュレーションバレル部との離間距離
L2 被覆材が除去された部分の寸法
W 導体バレル部の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外側に被覆材を有する電線に止水処理を行うための電線の止水方法において、
前記電線の被覆材を部分的に除去して前記導体が露出する導体露出部分を形成する導体露出工程と、
当該導体露出工程後、電線の長さ方向に延びる基板と当該基板の側部から上方に延びる導体バレル部と前記基板の側部から上方に延びるインシュレーションバレル部とを一体に有する圧着端子の前記導体バレル部と前記インシュレーションバレル部との間に、前記電線の導体露出部分とこれに隣接する部分との境界が位置するように、当該圧着端子の基板上に当該電線を載置する電線載置工程と、
当該電線載置工程後、前記露出された導体に前記導体バレル部を圧着するとともに前記被覆材に前記インシュレーションバレル部を圧着する端子圧着工程と、
前記端子圧着工程後、前記導体バレル部と前記インシュレーションバレル部との間に配置された前記導体露出部分に流動性を有する止水剤を滴下し、この導体露出部分とこれに隣接する部分との境界における前記被覆材の電線の長さ方向の端面の内側全体にわたり、前記導体と前記被覆材との隙間を前記止水剤が外側から塞ぐ状態にする止水剤供給工程と、
前記止水剤が滴下された前記導体露出部分の周囲圧力と、前記被覆材の内側の圧力との間に圧力差を生じさせて、当該圧力差によって前記止水剤を前記被覆材の内側に浸透させる差圧浸透工程とを含み、
前記電線載置工程では、前記導体バレル部と前記インシュレーションバレル部との電線の長さ方向についての離間距離が前記導体バレル部の先端部分の電線の長さ方向についての寸法以上である圧着端子を用いるとともに、前記導体バレル部とインシュレーションバレル部との間に配置される前記導体露出部分の電線の長さ方向についての寸法が前記導体バレル部の先端部分の電線の長さ方向についての寸法の半分以上となるように前記電線を前記基板上に載置することを特徴とする電線の止水方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電線の止水方法であって、
前記電線載置工程にて、前記導体バレル部と前記インシュレーションバレル部との間に設けられて、前記導体バレル部の先端部分の電線の長さ方向についての寸法の半分以上この導体バレル部から前記インシュレーションバレル部側に離間した位置において前記基板の側部から内側に突出する位置決め部を有する圧着端子を用いるとともに、前記導体露出部分とこれに隣接する部分との境界における前記被覆材の電線の長さ方向の端面を前記位置決め部のこの電線の長さ方向の端部に当接させつつ、前記電線を前記基板上に載置することを特徴とする電線の止水方法。
【請求項3】
導体の外側に被覆材を有する電線が圧着される圧着端子において、
前記圧着される電線の長さ方向に延びる基板と、当該基板の側部から上方に延びる形状を有するとともに前記被覆材が部分的に除去されることで露出された導体が圧着される導体バレル部と、前記基板の側部から上方に延びる形状を有し前記被覆材が圧着されるインシュレーションバレル部とを有し、
前記導体バレル部と前記インシュレーションバレル部との電線の長さ方向についての離間距離が、前記導体バレル部の先端部分の電線の長さ方向についての寸法以上であることを特徴とする圧着端子。
【請求項4】
請求項3に記載の圧着端子において、
前記導体バレル部と前記インシュレーションバレル部との間に設けられて、前記導体バレル部の先端部分の電線の長さ方向についての寸法の半分以上この導体バレル部から前記インシュレーションバレル部側に離間した位置において前記基板の側部から内側に突出する位置決め部を有し、
前記位置決め部は、前記被覆材が部分的に除去されることで形成された前記導体が露出する導体露出部分とこれに隣接する部分との境界が前記導体バレル部と前記インシュレーションバレル部との間に配置された際に、この位置決め部の電線の長さ方向の端部が前記境界における前記被覆材の電線の長さ方向の端面に当接する形状を有することを特徴とする圧着端子。
【請求項5】
導体の外側に被覆材を有する電線と、この電線に圧着される圧着端子とを備えた端子付電線であって、
前記圧着端子は、請求項3または4に記載の圧着端子からなり、
前記電線の被覆材が部分的に除去されることにより前記導体が露出する導体露出部分が形成され、
この導体バレル部とインシュレーションバレル部との間に前記導体露出部分とこれに隣接する部分との境界が位置した状態で、前記露出された導体が前記導体バレル部に圧着されるとともに前記被覆材が前記インシュレーションバレル部に圧着されており、
前記導体バレル部とインシュレーションバレル部との間に配置された前記導体露出部分の電線の長さ方向についての寸法が前記導体バレル部の先端部分の電線の長さ方向についての寸法の半分以上であることを特徴とする端子付電線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−140740(P2010−140740A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315453(P2008−315453)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】