説明

電線・ケーブル被覆用樹脂材料及びそれを用いた被覆電線・ケーブル

【課題】機械的強度とバランス良く成形加工性が向上され、生産性や製品外観を改良し得る電線・ケーブル被覆用樹脂材料の提供。
【解決手段】a)乃至d)の条件で、炭素数1〜20の短鎖分岐と炭素数20を超える長鎖分岐が高分子主鎖に導入されたエチレン系重合体と他のポリオレフィン系樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーを成分とし、a)密度が、0.880〜0.970g/cm、b)温度190℃においてMFRが、0.01〜100g/10分、c)流動の活性化エネルギーEa[KJ/mol]と、式(1)により算出される活性化エネルギーEa[KJ/mol]との差ΔEa[KJ/mol]が、1.5〜12.5。


式(1)SCBは主鎖の炭素原子1,000あたりの炭素数1〜20の短鎖分岐数、Bは炭素数1〜20の短鎖分岐の長さ、d)伸長粘度λmaxとΔEaとがλmax≧1.2exp(0.0721×ΔEa)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、機械的強度及び成形加工性に優れた新規なエチレン系重合体を使用した電線・ケーブル被覆用樹脂材料及びそれを用いた被覆電線・ケーブルに関し、詳しくは、ポリマー主鎖における長鎖分岐と短鎖分岐の構造が制御された新規なエチレン系重合体及びその組成物からなり、引張強度などの機械的強度が高く、押出成形などに最適に設計された、電線・ケーブル被覆用樹脂材料、及びそれを用いて得た製品外観や生産性などが良好な被覆電線・ケーブルに係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来においては、電線・ケーブルのシース(被覆材料)や導体の絶縁層などの
素材としては、主として、ポリエチレンやポリ塩化ビニル(PVC)などの合成樹脂が用いられ、特に、高圧ラジカル法低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などが汎用されている。
これら電線・ケーブルの被覆材料では、引裂き強度などの種々の機械的強度や柔軟性及び耐環境亀裂性(ESCR)などが主要な物性であるが、さらに生産性や製品外観或いは品質を良好にするうえで成形加工性が重要な性能として要請されている。
【0003】
PVCでは、製品において、可塑剤が染み出し電線・ケーブルが脆化するという問題点を内包し、また、可塑剤や鉛安定剤が配合されているために、電線・ケーブルの廃棄処理に際しては、電線・ケーブルの燃焼時の有害なガスの発生や埋め立て時の環境汚染(鉛が染み出して、地下水を汚染する)の問題が生じており、最近では電線・ケーブルの被覆材料としての使用が避けられている。
LDPEは成形性が良好であり、柔軟性もあるが機械的強度に劣り、HDPEとLLDPEは、機械的強度は高いが成形性や柔軟性が概して不足するという問題点を有している。
【0004】
そして、電線・ケーブル被覆材料においては、かかる観点から多数の改良提案がなされており、エチレン系重合体の成形加工性や機械的強度が優れる電線・ケーブルの被覆材料としては、例えば、ESCRや耐摩耗性及び耐衝撃性などを改良することを目的とし、シングルサイト系触媒を用いて重合されたポリエチレン被覆電線・ケーブルが提案されているが(特許文献1)、成形加工性が不充分であり、高圧ラジカル法ポリエチレン(LDPE)を配合して成形しているので、結果として、機械的強度が低下してしまうという問題点を有している。また、拘束幾何触媒を用いて重合され長鎖分岐が導入されて、高い強度及び強靭性に加えて加工性が改良されたオレフィンポリマーが開示されているが(特許文献2)、主として押出し特性の改善を目的としたものであり、成形加工性と機械的強度の双方の性質がバランスよく改良されたものではない。さらに、メルトフローレートとメルトテンションとの特定の関係式を満足するエチレン共重合体からなる電力ケーブルも提案されている(特許文献3)が、やはり機械的物性と成形加工性の双方の性質がバランスよく改良されたものではない。
【0005】
【特許文献1】特開平10−208552号公報
【特許文献2】特表2000−508466号公報
【特許文献3】特開2000−256422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明では、背景技術として概述した従来の電線・ケーブルの被覆材料の問題点を鑑み、従来の電線・ケーブルにおける被覆材料の耐衝撃性や引張強度などの機械的強度及びESCRなどの諸性能を損なうことなく、機械的強度とバランス良く成形加工性が向上され、生産性や製品外観を改良し得る電線・ケーブル被覆用樹脂材料を開発することを、発明が解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ところで、本願の出願人においては、エチレン系重合体の成形加工性と機械強度を共に充分にバランス良く向上させ、さらに、各種のいずれの成形方法にも適した優れた成形加工性をも得ることを目指し、エチレン系重合体の主要な特徴である優れた機械物性や透明性などの光学特性及び耐熱性を確保するために、重合触媒としてシングルサイト触媒としてのメタロセン触媒を使用することが必要であると考え、また、機械物性を損なわずに成形加工性を向上させるには、エチレン系重合体のポリマー主鎖における長鎖及び短鎖の分岐の構造や分岐個数が関連すると認識して、かかる新規なエチレン系重合体としての基本的な要件を見い出すに至り、成形加工性においては、溶融流動特性が剪断応力下での溶融樹脂圧に関わる押出し性に関与し、伸長変形時の溶融弾性が成形安定性に関与することからして、エチレン重合体の特性として流動の活性化エネルギーと伸長粘度を規定すれば、機械物性を損なわずに成形加工性をさらに向上させることができる、新たな発明を創作することができて、先の発明としての特願2004−181918号を出願したところである。
【0008】
また、予期し得ぬことであるが、ポリマー主鎖における必要な長短鎖の分岐の構造や分岐個数は、特定のメタロセン触媒を二種組み合わせ、より好ましくは非共役ポリエンの存在下に長鎖分岐の生成を伴う錯体及び実質上長鎖分岐の生成を伴わない錯体を使用して、重合反応を行えばよいことまでも知見することができ、さらに、二種のメタロセン触媒の非共役ポリエンに対する反応性の差異及び生成重合体間のメルトフローレートの相関規定までも採用して利用することまで実現することができた。
【0009】
本願の発明者は、かかる先願発明における、エチレン系重合体の改良の成果を踏まえて、先願発明における新規なエチレン系重合体を、電線・ケーブルの被覆材料として採用すれば、前記の発明の課題を解決して、特に機械的強度と成形加工性がバランス良く向上され、各性能に優れた電線・ケーブルの被覆材料を実現できることを見い出すことができた。かかる新規なエチレン系被覆材料は、さらに性能を補完するために、他の樹脂成分とブレンドしても好適に使用されうる。
かくして、本願発明の電線・ケーブルの被覆材料は、メタロセン触媒で製造され、好ましくは二種(又は三種以上の複数)の錯体を有すメタロセン触媒により、炭素数1〜20の短鎖分岐(SCB)と炭素数20を超える長鎖分岐(LCB)をエチレン系重合体の高分子主鎖に導入し、その様な重合体として必要な密度とメルトフローレートも規定される。
なお、優れた成形加工性とは、高い押出し特性と高い成形安定性とを兼ね備えることであり、換言すれば、高剪断応力下で粘度が低く、伸長変形を受ける際に溶融弾性が高くなることであり、このような観点から成形加工性を向上するために、エチレン系重合体の特性としての流動の活性化エネルギーと伸長粘度及びそれらの相関が具体的に規定される。
【0010】
以上において、本願発明の創作に至る経緯と、発明の構成の特徴について、総括的に記述したので、ここで本願発明の構成の全体を記載すると、本願の発明は次の発明単位群からなるものである。[1]に記載の発明が基本願発明であり、それら以外の発明は、基本願発明に付随的な要件を加え、或いは実施態様化するものである。
【0011】
[1]以下のa)乃至d)の条件を満たし、炭素数1〜20の短鎖分岐と炭素数20を超える長鎖分岐が高分子主鎖に導入されたエチレン系重合体(A)100〜5重量%と他のポリオレフィン系樹脂(B)及び/又は熱可塑性エラストマー(C)0〜95重量%を基本成分とする電線・ケーブル被覆用樹脂材料。
a)JIS K6922−1(1997)に基づいて測定された密度が、0.880〜0.970g/cmである。
b)JIS K6922−1(1997)の条件Dに基づき、温度190℃において加重21.18Nの条件で測定されたメルトフローレート(MFR)が、0.01〜100g/10分である。
c)流動の活性化エネルギーEa[KJ/mol]と、下記の式(1)により算出される活性化エネルギーEa[KJ/mol]との差ΔEa[KJ/mol]が、1.5〜12.5である。
【数1】


ここで、SCBは主鎖の炭素原子1,000あたりの炭素数1〜20の短鎖分岐数[個数/1,000C]を表し、Bは炭素数1〜20の短鎖分岐の長さ(炭素数)を表す。
d)伸長粘度λmaxとΔEaとが下記の式(2)を満たす。
λmax≧1.2exp(0.0721×ΔEa) 式(2)
[2]エチレン系重合体(A)が、メタロセン系触媒の存在下で製造されたエチレン重合体又はエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体であり、或いはそれらに非共役ポリエンが共重合された共重合体であることを特徴とする、[1]における電線・ケーブル被覆用樹脂材料。
[3]エチレン系重合体(A)において、炭素数1〜20の短鎖分岐と炭素数20を超える長鎖分岐の、高分子主鎖への導入を、二種又は複数種のメタロセン触媒により各々の触媒に応じて行うことを特徴とする、[1]又は[2]における電線・ケーブル被覆用樹脂材料。
[4]エチレン系重合体(A)が非共役ポリエンの共存下において重合され、非共役ポリエンの濃度を制御することにより長鎖分岐成分の分岐構造が制御されることを特徴とする、[3]における電線・ケーブル被覆用樹脂材料。
[5]ポリオレフィン系樹脂(B)が、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高圧ラジカル法低密度ポリエチレンの少なくとも1種のポリエチレンであることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかにおける電線・ケーブル被覆用樹脂材料。
[6][1]〜[5]のいずれかにおける電線・ケーブル被覆用樹脂材料にて被覆されたことを特徴とする電線・ケーブル。
【発明の効果】
【0012】
本願発明の樹脂材料においては、エチレン系重合体のポリマー主鎖における長鎖及び短鎖の分岐の構造や分岐個数が、電線・ケーブルの耐衝撃性や引張強度などの機械的強度やESCRなどの諸性能を損なうことなく、成形加工性を向上させ、生産性や製品外観などをも改良している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以上において、本願発明をその構成要件と特徴について概述したので、以下においては、本願発明を実施するための最良の形態として、本願発明の各要件を具体的に詳細に説明する。
【0014】
1.電線・ケーブルの被覆材料としてのエチレン系重合体
本願発明に係るエチレン系重合体は、優れた機械物性と成形加工性とを共に充分にバランス良く向上させるためにエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを、望ましくは二種の錯体を有すメタロセン触媒により、炭素数1〜20の短鎖分岐(SCB)と炭素数20を超える長鎖分岐(LCB)をエチレン系重合体(A)の高分子主鎖に導入し、併せて、その様な重合体として必要な密度とメルトフローレートも規定する。
エチレン系重合体の密度は、重合条件の調整、或いはエチレンと共重合させる炭素数3〜20のα−オレフィンの種類及び量を変えることにより調整可能である。また、本願発明に係るエチレン系重合体のMFRは、重合の際に通常一般の連鎖移動剤や水素を使用することにより調整可能である。
【0015】
a)JIS K−7112に基づいて測定された密度が、0.880〜0.970g/cmであり、好ましくは0.890〜0.965g/cm、より好ましくは0.895〜0.960g/cmの範囲で選択される。密度が、0.880未満では機械的強度が低下する惧れが生じる。また、密度が、0.970g/cmを超えるものは、工業的に生産が難しい。
b)JIS K−7210の表1−条件7に基づき、温度190℃において加重21.18Nの条件で測定されたメルトフローレート(MFR)が、0.01〜100g/10分、好ましくは0.1〜80g/10分、より好ましくは0.5〜50g/10分の範囲である。MFRが0.01g/10分未満では、成形加工性が悪く、100g/10分を超える場合には機械的強度が低下する惧れが生じる。
【0016】
さらに、エチレン系重合体においては、c)流動の活性化エネルギーEa[KJ/mol]と、下記の式(1)により算出される活性化エネルギーEa[KJ/mol]との差ΔEa[KJ/mol]が、1.5〜12.5の範囲であり、
【数2】


ここで、SCBは主鎖の炭素原子1,000あたりの炭素数1〜20の短鎖分岐数[個数/1,000C]を表し、Bは炭素数1〜20の短鎖分岐の長さ(炭素数)を表す。
d)伸長粘度λmaxとΔEaとが、
λmax≧1.2exp(0.0721×ΔEa) 式(2)
を満足し、炭素数1〜20の短鎖分岐と炭素数20を超える長鎖分岐が高分子主鎖に導入されたエチレン系重合体である。
【0017】
2.活性化エネルギー及び伸長粘度の規定
成形加工性においては、溶融流動特性が剪断応力下での溶融樹脂圧に関わる押出し性に関与し、伸長変形時の溶融弾性が成形安定性に関与することから鑑みて、シーラント材用のエチレン系重合体の特性において、流動の活性化エネルギーと伸長粘度を下記のように実験式として規定して、機械物性を損なわずに成形加工性をさらに向上させることができる。
【0018】
(1)活性化エネルギー
流動の活性化エネルギーEa[KJ/mol]と、下記の式(1)により算出される活性化エネルギーEa[KJ/mol]との差ΔEa[KJ/mol]が、1.5〜12.5である。
【数3】


ここで、SCBは主鎖の炭素原子1,000あたりの炭素数1〜20の短鎖分岐数[個数/1,000C]を表し、Bは炭素数1〜20の短鎖分岐の長さ(炭素数)を表す。
【0019】
ここで、活性化エネルギーの実施可能要件を説明すると、流動の活性化エネルギーにおいて、(i)理論的な根拠としては、流動の活性化エネルギーは、例えば「高分子学会 高分子実験学編集委員会編 高分子実験学 第9巻 力学的性質I 共立出版株式会社発行(1985年) 第25〜第28頁」に記載されており、粘弾性周波数依存性を測定し、時間−温度重ね合わせの原理によるシフトファクターaから流動の活性化エネルギーを求めることができる。
(ii)流動の活性化エネルギーの測定法としては、ある基準温度で測定した貯蔵弾性率(縦軸)と角速度(横軸)との関係のグラフを固定しておき、別の測定温度で測定したデータを横軸に平行に移動させると、基準温度のデータと重ね合わせることができ、シフトファクターaは、Arrhenius式に従い、各測定温度のデータを基準温度のデータと重ね合わせるようにシフトさせる量Log(a)を、その測定温度(絶対温度)の逆数1/T に対してプロットして得られる直線の勾配より、流動の活性化エネルギーを求めることができる。
【0020】
(iii)具体的な測定においては、試験に供する樹脂を180℃で直径25mm、厚み1mmの円形にプレス成形したものをサンプルとし、動的粘弾性特性の測定装置は、Paar Physica社製UDS−200型回転式レオメータ及び25mmφパラレルプレートを用い、窒素雰囲気下において以下の条件で温度(140℃,170℃,190℃,210℃及び230℃)における動的粘弾性を測定した。
歪み量:10% 測定周波数範囲:6.22×10−3〜6.22×10 rad/s(210℃及び230℃は、6.22×10−2〜6.22×10rad/s)
190℃を基準温度として、5つの温度条件の貯蔵弾性率G’及び損失弾性率 G”を、時間−温度重ね合わせの原理に従って重ね合わせ、シフトファクターaを求めた。このシフトファクターを絶対温度の逆数に対してプロットし、その傾きから流動の活性化エネルギーEaを計算した。
【0021】
活性化エネルギーにおいて、(i)数式の理論的な根拠としては、前記の式(1)により算出される活性化エネルギーEa[KJ/mol]は、本願発明のエチレン重合体が長鎖分岐を有しないと仮定した場合の流動の活性化エネルギーであり、「J.F.Vega et al,Macromolecules vol.31 No.11 3639−3647(1998)に記載された理論に基づき求めた近似式である。
【0022】
(ii)活性化エネルギーの測定は、具体的には、本願発明の重合体を日本電子(株)製JNM−GSX400型NMR装置及びC10型プローブを用い、以下の条件で13C−NMRスペクトルを測定し、「Eric T.Hsieh & James C.Randall,Macromolecules vol.15,353−360(1982)」及び「Eric T.Hsieh & James C.Randall,Macromolecules vol.15,1402−1406(1982)」に基づき、SBC[個数/1,000C]及びB(炭素数)を求め、式(1)にSCB及びBを代入して活性化エネルギーEa求めた。
パルス幅:8.0μs(フリップ角:40°) パルス繰り返し時間:5秒 積算回数:5,000回以上 溶媒及び内部標準:1,2,4−トリクロロベンゼン/ベンゼン−d6 /ヘキサメチルジシロキサン(混合比:30/10/1)
測定温度:120℃ 試料濃度:0.3g/ml
【0023】
さらに、本願発明の数値規定ΔEaの実施化要件について説明すると、数値規定ΔEaは、長鎖分岐の濃度を表す規定である。例えば、「R.N.Shroff & H.Mavridis ,Macromolecules vol.32 8454(1999)」 に示されるように、流動の活性化エネルギーEaが長鎖分岐の濃度に関して一次関数で表されることは良く知られている。ただし、Eaは短鎖分岐の影響も受けるため、Eaを長鎖分岐の濃度のみのパラメータとするには、短鎖分岐の影響を排除しなければならない。
そこで、本願発明においては、同種かつ同数の長鎖分岐をもたないものの活性化エネルギーEaとの差ΔEaをもって長鎖分岐の濃度を表す規定とした。すなわち、上記で求めた流動の活性化エネルギーEa[KJ/mol]と、式(1)により算出される活性化エネルギーEa[KJ/mol]との差を流動の活性化エネルギー差ΔEa[KJ/mol]とし、ΔEaは、長鎖分岐がない場合は0であるが、長鎖分岐の濃度が高くなるに従い大きな値を示す。したがって本発明においては、ΔEaが0より大きいとき、炭素数20を超える長鎖分岐が高分子主鎖に導入されているものとする。
【0024】
一方、単に長鎖分岐の濃度を高くすれば、それに伴って溶融流動特性は良くなるものの、同時に機械強度を損ねる惧れがある。他方、長鎖分岐を全くあるいは殆ど持たないものの流動特性は悪い。したがって、ΔEaは適度な範囲であることが望ましく、具体的には、1.5KJ/mol以上12.5KJ/mol以下であることが望ましい。ΔEaの下限は好ましくは1.6KJ/mol、より好ましくは1.7KJ/molである。ΔEaの上限は好ましくは11.0KJ/mol、より好ましくは10.0KJ/molである。この範囲を外れると成形性と機械的物性のバランスが悪くなり不都合である。
流動の活性化エネルギー差ΔEaを上記範囲とするためには、後述する本願発明の製造方法を採用することにより達成することができ、すなわち上記範囲内の調整は、触媒の種類と使用割合、非共役ポリエンの使用量及び重合条件を適宜変更することにより可能である。
【0025】
(2)伸長粘度
本願発明に係るエチレン系重合体においては、伸長粘度λmaxとΔEaとが下記の式(2)を満たす。
λmax≧1.2exp(0.0721×ΔEa) 式(2)
ここで伸長粘度λmaxの実施化要件を説明すると、伸長粘度λmaxは、以下のようにして求めることができる。
「尾崎邦宏 村井朝 別所信夫 金鳳植 日本レオロジー学会誌 4巻 166(1976)」の記載の方法に基づき、動的粘弾性測定結果から次式(3)に示される粘度成長関数η+γ→0(t)を求める。
η+γ→0(t)=t×{G”(ω)+1.12×G”(ω/2)−0.02G’(ω)} 式(3)
ただしω=1/tとする
ここで、G’(ω)は各速度ωの関数としての貯蔵弾性率、G”(ω)は各速度ωの関数としての損失弾性率、G”(ω/2)はω/2の関数としての損失弾性率、tは時間である。
一方、非定常一軸伸長粘度曲線η(t)において、歪の大きさが2.5以上で伸長粘度が最大となる点における時間をtmaxとし、下記式(4)により伸長粘度パラメータλを求める。λについての概念図を図2に示した。
λ=η(tmax)/3η+γ→0(tmax) 式(4)
歪速度(設定値:1.0,0.3,0.1s−1)におけるλ値を求め、その中の最大値を伸長粘度λmaxとする。
【0026】
本願発明のエチレン系重合体は、伸長粘度λmaxとΔEaとが式(2)を満たすことが必要である。式(2)を満たさないと成形性と機械的物性のバランスが悪くなり好ましくない。式(2)を満たすためには、後述する本願発明の製造方法を採用することにより達成することができ、式(2)の範囲内の調整は、触媒の種類と使用割合、非共役ポリエンの使用量及び重合条件を適宜変更することにより可能である。
【0027】
本願発明の伸長粘度λmaxは、伸長粘度における歪硬化、すなわち溶融状態を保つ特定の温度で一定の歪み速度にて粘度を測定して得られる規定である。λmaxの値が大きいと弾性発現である歪硬化が強く、λmaxの値が小さいと歪硬化が弱いことを示す。成形方法及び成形条件により最適なλmaxの値は異なるが、ΔEaとの関係が式(5)を満たすことが望ましく、より望ましくは式(6)を満たすことであり、さらに望ましくは式(7)を満たすことである。
100≧λmax≧1.2exp(0.0721×ΔEa) 式(5)
100≧λmax≧1.2exp(0.0963×ΔEa) 式(6)
50≧λmax≧1.2exp(0.0963×ΔEa) 式(7)
λmaxが上記式の下限よりも小さい場合は、LCBの濃度に見合った溶融弾性が得られていないため、成形安定性が低くかつ機械強度が劣る。一方、λmaxが100を超える場合は、成形品に過剰な残留応力や異方性が生じ、耐衝撃性能や耐ストレスクラック性などの長期性能に問題が生ずる場合が多くなる
【0028】
3.その他の特性値
本願発明のエチレン系重合体(A)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比、分子量分布(Mw/Mn)は、2〜9、好ましくは2〜7、より好ましくは2〜6に範囲にあることが望ましい。
上記分子量分布が2未満では、成形加工性が悪くなる惧れが生じ、分子量分布が9を超える場合には、低分子量成分が多くなり、機械的強度等が低下する惧れが生じる。
【0029】
Mw/Mnの測定としては、Mw及びMnは、試料をo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mLのBHTを含む)を用いて1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して溶解させた後、下記の条件でゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定して求められる。保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。
装置:WATERS社製 GPC(ALC/GPC 150C) 検出器:FOXBORO社製 MIRAN 1A IR検出器(測定波長 :3.42μm)
カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本) 移動相溶媒:o−ジクロロベンゼン 測定温度:140℃ 流速:1.0ml/分 注入量:0.2ml 標準ポリスチレン:東ソー製、F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000
校正曲線:標準ポリスチレンを、0.5mg/mLとなるようにo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。 分子量の換算:分子量への換算に使用する粘度式[η]=K×Mαは、以下の数値を用いる。
PS : K=1.38×10−4 α=0.7
PE : K=3.92×10−4 α=0.733
【0030】
4.メタロセン触媒
(1)基本的な要件
本願発明のエチレン系重合体(A)を得るために用いる触媒について具体的に説明するが、本願発明は以下に例示する遷移金属化合物に何ら限定されるものではない。
本願発明のエチレン系重合体において、機械物性を損なわずに成形加工性を向上させるには、エチレン系重合体のポリマー主鎖における長短鎖の分岐の構造や分岐個数が関連し、ポリマー主鎖における必要な長短鎖の分岐の構造や分岐個数の実現は、特定のメタロセン触媒を二種又は複数種組み合わせ、より好ましくは非共役ポリエンの存在下に長鎖分岐の生成を伴う錯体及び実質上長鎖分岐の生成を伴わない錯体を使用して、重合反応を行えばよく、二種の錯体を有すメタロセン触媒により、炭素数1〜20の短鎖分岐(SCB)と炭素数20を超える長鎖分岐(LCB)をエチレン系重合体の高分子主鎖に導入する。
【0031】
(1)錯体A及びB
本願発明の二種の錯体を有すメタロセン触媒において採用される一方の錯体Aは、中心遷移金属に配位子が2つ以上配位した構造のもので、(i)助触媒の共存下、水素及び非共役ポリエンが存在しない条件で重合を行った場合に得られる重合体のメルトフローレートMFR−Aが好ましくは2g/10分以下、さらに好ましくは0.4g/10分以下となる遷移金属化合物であればよい。
他方の錯体Bは、中心遷移金属に配位子が2つ以上配位した構造のもので、(ii)上記の(i)と同条件で重合を行った場合に得られる重合体のメルトフローレートMFR−Bが好ましくはMFR−Aの10倍以上となる遷移金属化合物であればよい。
そして、(iii)錯体A及び助触媒の存在下、水素が存在せず、非共役ポリエンがエチレンに対し0.01mol%存在した条件で重合を行った場合に得られる重合体のMFRを「MFR−A+」とし、前記錯体Aの代わりに錯体Bを使用して同条件で重合を行った場合に得られる重合体のMFRを「MFR−B+」とすると、好ましくは下記式(8)、さらに好ましくは下記式(9)を満たすことが必要である。
{(MFR−A+)/(MFR−A)}/{(MFR−B+)/(MFR−B)}<0.8 式(8)
{(MFR−A+)/(MFR−A)}/{(MFR−B+)/(MFR−B)}<0.3 式(9)
【0032】
さらに、本願発明の錯体Aは長鎖分岐を有する重合体を与える遷移金属化合物が好適であり、また、本願発明の錯体Bは長鎖分岐を有しない重合体を与える遷移金属化合物が好適である。本願発明にいう長鎖分岐とは、炭素数20を越える分岐とし、該分岐部分の分子量は重量分子量として1,100以上とした。
錯体Aに由来する重合体成分[A]と錯体Bに由来する重合体成分[B]の量比は、好ましくは[A]/[B]=10/90〜90/10、さらに好ましくは20/80〜80/20である。重合体成分[A]と重合体成分[B]の比率は、錯体A及び助触媒、並びに錯体B及び助触媒からなる触媒でそれぞれ重合したときの重合活性から計算することができる。
上記範囲を外れるとエチレン重合体の成形加工性と機械物性のバランスが損なわれ好ましくない。
【0033】
一般的な長鎖分岐の導入方法としては、重合時のβ水素脱離によるマクロモノマーの生成と再挿入を起こしやすい錯体を用いる方法があり、触媒の錯体の例としては、架橋インデンを配位子とした錯体が挙げられる。しかし、このような錯体(特に加工性改良に有効と考えられる長鎖分岐構造を生成する錯体)を単独に用いた場合、得られるポリマーのMFRは、ポリマー構造からして必然的に低下し、実用範囲を大きく下回るものとなってしまう。その対策として、分子量を低くするために連鎖移動剤(水素)を重合時に用いる方法がとられるが、必要とされる長鎖分岐成分の分子量も低下するため加工性改良の効果が薄れてしまい、長鎖分岐ポリマーを生成する錯体を単独で使用することは好ましくない。
本願発明においては、加工性改良に有効な長鎖分岐構造を維持しながら、実用的なMFRの重合体を得るために、低いMFRの長鎖分岐ポリマーを生成する特定の錯体と、比較的MFRの高いポリマーを生成する特定の錯体とを組み合わせ、特定条件で重合を行うことにより、高分子量成分(低MFR成分)に優先的に長鎖分岐を導入することにより、バランスの良いエチレン重合体が得られる。このような新しい知見はメタロセン触媒分野において画期的なものといえる。
【0034】
なお、本願発明においては、特定の錯体を別々に用いて2種類の重合体を製造し、その2種類の重合体を混合することでも本願発明の目的を達成できるが、特定の2種類の遷移金属化合物を一触媒として使用し、その触媒によりエチレン系重合体を製造することにより、重合結果として物性が大きく異なる2種類の重合体を均一に混合することが可能となり、均質性の優れたものを製造できる。
【0035】
さらに、本願発明者らは発明の目的達成のため、上記の錯体を2種類(3種以上の複数でもよい)用いた触媒に対し、重合時に非共役ポリエンを共存させる検討を行い、その結果ごく少量の非共役ポリエンを共存させることにより、加工性の指標となる物性値が大幅に改善されることも新たに発見した。このことは用いた錯体の非共役ポリエンに対する反応性の差が大きく関与しており、上記の2種類の錯体の組み合わせを選択する際に、非共役ポリエンに対する反応性を考慮した「所定条件を満たす錯体を、所定条件で組み合わせる」ことでより効果が増し、また、このような組み合わせの触媒を用いた場合、非共役ポリエン濃度により、エチレン重合体の特性も制御できることがわかった。
【0036】
(2)錯体Aの例示
本願発明に用いる錯体Aは、重合反応に用いた場合、LCBの生成を伴う錯体であり、このような遷移金属化合物の例示としては、錯体Aが下記の一般式(1)で表される遷移金属化合物である。
MLx-n 一般式(1)
[式中、Mは周期律表4族の遷移金属を表し、LはMに配位する配位子であり、ジメチルシクロペンタジエニル基、トリメチルシクロペンタジエニル基、下記の化合物[1]で示されるベンゾインデニル基又は置換ベンゾインデニル基、下記の化合物[2]で示されるジベンゾインデニル基又は置換ジベンゾインデニルのいずれか一種類を2個以上有し、Rは炭化水素基、アルコキシル基、ハロゲン原子、水素原子を表す。xは遷移金属Mの原子価であり、nは2≦n≦xである。]
【0037】
【化1】


化合物[1]

【化2】


化合物[2]
ここで置換基R〜R15 は炭素数1〜30の炭化水素基、炭素数1〜30の炭化水素置換基を有するトリアルキル珪素基又は水素原子である。炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などのアルキル基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;フェニル基、ジメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、ジプロピルフェニル基、ジブチルフェニル基、トリメチルフェニル基、トリエチルフェニル基、トリプロピルフェニル基、トリブチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基などのアリール基;トリチル基、フェネチル基、ベンズヒドリル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、ネオフィル基などのアリールアルキル基、スチリル基などのアリールアルケニル基が挙げられる。これらは分岐があってもよい。
さらに、2つのシクロペンタジエニル骨格の有する配位子が、炭化水素基、シリレン基、置換シリレン基で架橋された、エチレンビス(インデニル)基、エチレンビス(4,5,6,7−テトラヒドロインデニル)基、ジメチルシリレンビス(インデニル)基なども有効である。
【0038】
これら錯体Aの具体例を一部例示すると、(1,3−MeCpd)ZrCl、(1,3−MeCpd)ZrBr、(1,3−MeCpd)ZrMe、(1,3−MeCpd)Zr(OEt)、(1,3−MeCpd)ZrBz、(1,2,4−MeCpd)ZrCl、(1,2,4−MeCpd)ZrBr、(1,2,4−MeCpd)ZrMe、(1,2,4−MeCpd)Zr(OEt)、(1,2,4−MeCpd)ZrBz、(BzIND)ZrCl、(BzIND)ZrBr、(BzIND)ZrMe、(BzIND)Zr(OEt)、(BzIND)ZrBz、(DBI)ZrCl、(DBI)ZrBr、(DBI)ZrMe、(DBI)Zr(OEt)、(DBI)ZrBz、Et(IND)ZrCl、Et(IND)2ZrBr、Et(IND)ZrMe、Et(IND)Zr(OEt)、Et(IND)ZrBz、Et(4,5,6,7−H−IND)ZrCl、Et(4,5,6,7−H−IND)ZrBr、Et(4,5,6,7−H−IND)ZrMe、Et(4,5,6,7−H−IND)Zr(OEt)、Et(4,5,6,7−H−IND)ZrBz、MeSi(IND)ZrCl、MeSi(IND)ZrBr、MeSi(IND)ZrMe、MeSi(IND)Zr(OEt)、MeSi(IND)ZrBz、(1,3−MeCpd)ZrH、(1,2,4−MeCpd)ZrH、(BzIND)ZrH、(DBI)ZrH、(1,3−MeCpd)(IND)ZrH、(1,2,4−MeCpd)(IND)ZrH、(BzIND)(IND)ZrH、(DBI)(IND)ZrHなどが挙げられる。
ここで、Cpdはシクロぺンタジエニル基を、Bzはベンジル基を、INDはインデニル基を、BzINDはベンゾインデニル基を、DBIはジベンゾインデニル基を表す。
【0039】
(3)錯体Bの例示
本願発明に用いる錯体Bは、重合に用いた場合、実質的にLCBの生成を伴わない錯体であり、錯体Bが下記の一般式(2)で表される遷移金属化合物である。このような遷移金属化合物の配位子としては上記の錯体Aで用いられる配位子以外のシクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基が挙げられ、置換基の数に制限はなく、炭素数1〜30の炭化水素基又は炭素数1〜30の炭化水素置換基を有するトリアルキル珪素基であり、それぞれ同一でも異なってもよい。
MLx-n 一般式(2)
[式中、Mは周期律表4族の遷移金属を表し、LはMに配位する配位子であり、シクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基を表し、複数個結合している場合は異なっていてもよい。Rは炭化水素基、アルコキシル基、ハロゲン原子、水素原子を表す。xは遷移金属Mの原子価であり、nは2≦n≦xである。]炭化水素基の具体例としては、前述した錯体Aの場合と同一である。
【0040】
錯体Bの具体例の一部を例示すると、(Cpd)ZrCl、(Cpd)ZrBr、(Cpd)ZrMe、(Cpd)Zr(OEt)、(Cpd)ZrBz、(MeCpd)ZrCl、(MeCpd)ZrBr、(MeCpd)ZrMe、(MeCpd)Zr(OEt)、(MeCpd)ZrBz、(PrCpd)ZrCl、(PrCpd)ZrBr、(PrCpd)ZrMe、(PrCpd)Zr(OEt)、(PrCpd)ZrBz、(BuCpd)ZrCl、(BuCpd)ZrBr、(BuCpd)ZrMe、(BuCpd)Zr(OEt)、(BuCpd)ZrBz、(MePrCpd)ZrCl、(MePrCpd)ZrBr、(MePrCpd)ZrMe、(MePrCpd)Zr(OEt)、(MePrCpd)ZrBz、(MeBuCpd)ZrCl、(MeBuCpd)ZrBr、(MeBuCpd)ZrMe、(MeBuCpd)Zr(OEt)、(MeBuCpd)ZrBz、(IND)ZrCl、(IND)ZrBr、(IND)ZrMe、(IND)Zr(OEt)、(IND)ZrBz、(MeIND)ZrCl、(MeIND)ZrBr、(MeIND)ZrMe、(MeIND)Zr(OEt)、(MeIND)ZrBz、(4,5,6,7−H−IND)ZrCl、(4,5,6,7−H−IND)ZrBr、(4,5,6,7−H−IND)ZrMe、(4,5,6,7−H−IND)Zr(OEt)、(4,5,6,7−H−IND)ZrBz、(IND)(MeCpd)ZrCl、(IND)(MeCpd)ZrBr、(Cpd)ZrH、(MeCpd)ZrH、(PrCpd)ZrH、(BuCpd)ZrH、(MePrCpd)ZrH、(MeBuCpd)ZrH、(IND)ZrH、(MeIND)ZrH、(4,5,6,7−H−IND)ZrH、(Cpd)(IND)ZrH、(MeCpd)(IND)ZrH、(PrCpd)(IND)ZrH、(BuCpd)(IND)ZrH、(MePrCpd)(IND)ZrH、(MeBuCpd)(IND)ZrH、(MeIND)(IND)ZrH、(4,5,6,7−H−IND)(IND)ZrH、(IND)(BzIND)ZrH、(IND)(DBI)ZrH、(IND)(MeCpd)ZrHなどが挙げられる。
【0041】
(4)錯体Aと錯体Bの組み合わせの例示
本願発明では2種の遷移金属化合物(錯体Aと錯体B)を所定の条件を満たす組み合わせで触媒として用いる。具体的な組み合わせを以下に例示する。
(1,3−MeCpd)ZrClと(IND)ZrCl、 (1,3−MeCpd)ZrMeと(IND)ZrMe、(1,2,4−MeCpd)ZrClと(IND)ZrCl、(BzIND)ZrClと(IND)ZrCl、(BzIND)ZrMeと(IND)ZrMe、(DBI)ZrClと(BuCpd)ZrCl、(DBI)ZrMeと(IND)ZrMe、Et(IND)ZrClと(BuCpd)ZrCl、Et(IND)ZrMeと(IND)ZrMe、Et(4,5,6,7−H−IND)ZrClと(BuCpd)ZrCl、Et(4,5,6,7−H−IND)ZrMeと(IND)ZrMe、MeSi(IND)ZrClと(BuCpd)ZrCl、MeSi(IND)ZrMeと(IND)ZrMe、(1,3−MeCpd)ZrHと(IND)ZrH、(1,2,4−MeCpd)ZrHと(IND)ZrH、(BzIND)ZrHと(IND)ZrH、(DBI)ZrHと(IND)ZrH、(BzIND)(IND)ZrHと(IND)ZrH、(DBI)(IND)ZrHと(MePrCpd)ZrHなどの組み合わせが挙げられる。
【0042】
(5)錯体の合成法
以上の錯体の例示の中で、配位子を3つ有する遷移金属化合物を示したが、これらの殆どは、これまで知られていない新規な化合物である。以下に化合物の合成方法について2つの例を[合成方法1]及び[合成方法2]として示す。ただし、これらの遷移金属化合物の合成法はこれらの方法に限るものではない。
【0043】
[合成方法1]
下記の化合物a)、b)及びc)を相互に接触させることにより製造する。
a) L
b) L
c) LiR
ここで、L、L及びLはそれぞれシクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基、ベンゾインデニル基、置換ベンゾインデニル基を表す。置換基は炭素数1〜30の炭化水素基又は炭素数1〜30の炭化水素を置換基として有する有機ケイ素基であり、それぞれ同一でも異なってもよい。また、これらのうち、同一のシクロペンタジエニル環に結合した置換基はそれぞれ互いに結合して環状炭化水素基(多環式構造を含む)を形成してもよい。Mは周期律表4族の遷移金属を表し、好ましくはジルコニウムである。Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を表し、2つのXは同一でも異なってもよい。好ましくは塩素か臭素であり、特に好ましくは塩素である。Rはエチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基などのアルキル基を表す。これらは分岐があってもよい。好ましくはn−ブチル基である。
【0044】
化合物a)、b)及びc)を接触させる場合は、通常は窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族又は脂環族炭化水素などの液状不活性炭化水素、或いはジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素溶媒の存在下に、撹拌下又は非撹拌下で行われる。接触順序には特に制限は無いが、具体的には以下の順序で行うことが望ましい。
化合物a)とc)を接触させた後、b)を接触させる。接触に際しては、各成分を一度に添加してもよいし、一定時間をかけて添加してもよいし、分割して添加してもよい。また各成分の接触を複数回行ってもよい。
化合物a)とc)の接触は通常−100〜0℃、好ましくは−80〜−40℃の温度にて、好ましくは5分〜24時間、さらに好ましくは30分〜3時間行うことが望ましい。その後、好ましくは−30℃〜30℃、さらに好ましくは0℃〜10℃付近まで昇温した後、生じたLiClなどのハロゲン化アルカリ金属を濾過によって除く。さらに化合物b)を接触させた後、好ましくは0℃〜150℃、さらに好ましくは20℃〜80℃の温度にて、好ましくは5分〜3日、さらに好ましくは1時間〜24時間撹拌する。反応溶液中の溶媒を除いた後、ペンタンやヘキサンなどの脂肪族炭化水素で洗浄後、本願発明の新規な遷移金属化合物を得ることができる。
化合物a)、b)、c)を接触させ加熱撹拌した後、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族或いは脂環族炭化水素などの液状不活性炭化水素溶液から濾過することによりLiClを反応溶液から除くこともできる。また、反応溶液から溶媒を除いた後、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素溶媒で洗浄してLiClを除くこともできる。
化合物a)〜c)の使用割合は、化合物a)1モルに対して化合物b)を好ましくは1〜50モル、さらに好ましくは2〜8モルの割合で、化合物c)を通常2モルの割合で用いることができる。
【0045】
[合成方法2]
下記の化合物d)とe)を相互に接触させることにより製造することができる。
d) IndZrH
e) L−H
ここで、Lはシクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基、ベンゾインデニル基、置換ベンゾインデニル基を表す。置換基は炭素数1〜30の炭化水素基又は炭素数1〜30の炭化水素を置換基として有する有機ケイ素基であり、それぞれ同一でも異なってもよい。また、これらのうち、同一のシクロペンタジエニル環に結合した置換基はそれぞれ互いに結合して環状炭化水素基(多環式構造を含む)を形成してもよい。
【0046】
化合物d)とe)を接触させる場合は、通常は窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族又は脂環族炭化水素などの液状不活性炭化水素、或いはジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素溶媒の存在下に、撹拌下又は非撹拌下で行われる。
化合物d)とe)の接触は通常−80〜150℃、好ましくは0〜50℃の温度にて、好ましくは1分〜3時間、さらに好ましくは10分〜1時間行うことが望ましい。その後、好ましくは0℃〜150℃、さらに好ましくは20℃〜110℃付近まで昇温し、好ましくは5分〜3日、さらに好ましくは1時間〜24時間撹拌する。反応溶液中の溶媒を除いた後、ペンタンやヘキサンなどの脂肪族炭化水素で洗浄後、新規な遷移金属化合物を得ることができる。
化合物d)とe)の使用割合は、化合物d)1モルに対して化合物e)を好ましくは1〜50モル、さらに好ましくは2〜8モルの割合で用いることができる。
なお、化合物d)のIndZrHは前記の合成方法1により得ることができる。
【0047】
さらに、本願発明においては、配位子を3つ有する遷移金属にアルキルアルミが結合した下記の化合物が使用されるが、これらもまた、これまで殆ど知られていない新規な化合物である。
−H−M
ここでLはシクロペンタジエニル骨格を有する配位子で、シクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基、ベンゾインデニル基、置換ベンゾインデニル基を表す。Mは周期律表4族の遷移金属を表し、好ましくはジルコニウムである。Mは周期律表13族の化合物で、好ましくはアルミニウムかホウ素である。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基などのアルキル基を表す。これらは分岐があってもよい。好ましくはi−ブチル基である。
以下に上記化合物の合成方法の例を[合成方法3]として示すが、合成方法はこれに限るものではない。
【0048】
[合成方法3]
下記化合物 f)、g)、h)を相互に接触させることにより製造する。
f) IndZrH
g) L−H
h) AlR
ここで、Lはシクロペンタジエニル基、置換シクロペンタジエニル基、インデニル基、置換インデニル基、ベンゾインデニル基、置換ベンゾインデニル基を表す。置換基は炭素数1〜30の炭化水素基又は炭素数1〜30の炭化水素を置換基として有する有機ケイ素基であり、それぞれ同一でも異なってもよい。また、これらのうち、同一のシクロペンタジエニル環に結合した置換基はそれぞれ互いに結合して環状炭化水素基(多環式構造を含む)を形成してもよい。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基などのアルキル基を表し、これらは分岐があってもよい。好ましくはi−ブチル基である。
【0049】
化合物f)、g)、h)を接触させる場合は、通常は、窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族又は脂環族炭化水素などの液状不活性炭化水素、或いはジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素溶媒の存在下に、撹拌下又は非撹拌下で行われる。
化合物f)、g)、h)の接触は通常−80〜150℃、好ましくは10〜100℃の温度にて、好ましくは1分〜48時間、さらに好ましくは10分〜6時間行うことが望ましい。反応溶液中の溶媒を除いた後(必要な場合は減圧して濃縮する)、ペンタンやヘキサンなどの脂肪族炭化水素で洗浄することにより、新規な遷移金属化合物を得ることができる。
化合物f)、g)、h)の使用割合は、化合物f)1モルに対して化合物g)を好ましくは0〜50モル、さらに好ましくは0〜8モル、h)を1〜3モルの割合で用いることができる。
なお、化合物f)のIndZrHは、前述の合成方法により得ることができる。
【0050】
(6)メタロセン触媒の他の成分
本願発明のエチレン系重合体は、上記のように2種類の遷移金属化合物を、次に示す有機アルミニウムオキシ化合物、或いは遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物、又はこれらの混合物との組み合わせで、オレフィン重合用触媒として重合反応に用いる。
【0051】
有機アルミニウムオキシ化合物は、分子中にAl−O−Al結合を有し、その結合数は通常1〜100、好ましくは1〜50個の範囲にある。このような有機アルミニウムオキシ化合物は、通常有機アルミニウム化合物と水とを反応させて得られる生成物である。有機アルミニウムと水との反応は、通常は不活性炭化水素中で行われる。不活性炭化水素としてはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素及び芳香族炭化水素が使用できるが、脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素を使用することが好ましい。
有機アルミニウムオキシ化合物の調製に用いる有機アルミニウム化合物は、下記の一般式で表される化合物がいずれも使用可能であるが、好ましくはトリアルキルアルミニウムが使用される。
AlX3−t
式中、Rは炭素数1〜18、好ましくは1〜12のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基、Xは水素原子又はハロゲン原子を示し、tは1≦t≦3の整数を示す。
トリアルキルアルミニウムのアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基などのいずれでも差し支えないが、メチル基であることが特に好ましい。
上記有機アルミニウム化合物は、2種以上混合して使用することもできる。水と有機アルミニウム化合物との反応比(水/Alモル比)は、0.25/1〜1.2/1、特に、0.5/1〜1/1であることが好ましく、反応温度は通常−70〜100℃、好ましくは−20〜20℃の範囲にある。反応時間は通常5分〜24時間、好ましくは10分〜5時間の範囲で選ばれる。反応に要する水として、単なる水のみならず、硫酸銅水和物、硫酸アルミニウム水和物などに含まれる結晶水や反応系中に水が生成しうる成分も利用することもできる。
なお、上記した有機アルミニウムオキシ化合物のうち、アルキルアルミニウムと水とを反応させて得られるものは、通常アルミノキサンと呼ばれ、特にメチルアルミノキサンは、有機アルミニウムオキシ化合物として好適である。
有機アルミニウムオキシ化合物として、上記した各有機アルミニウムオキシ化合物の2種以上を組み合わせて使用することもでき、また有機アルミニウムオキシ化合物を不活性炭化水素溶媒に溶液又は分散させた溶液としたものを用いてもよい。
【0052】
遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物の具体例を摘記すると、ボラン化合物やボレート化合物が挙げられる。
ボラン化合物をより具体的に表すと、トリフェニルボラン、トリ(o−トリル)ボラン、トリ(p−トリル)ボラン、トリ(m−トリル)ボラン、トリ(o−フルオロフェニル)ボラン、トリス(p−フルオロフェニル)ボラン、トリス(m−フルオロフェニル)ボラン、トリス(2,5−ジフルオロフェニル)ボラン、トリス(3,5−ジフルオロフェニル)ボラン、トリス(4−トリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロナフチル)ボラン、トリス(パーフルオロビフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロアントリル)ボラン、トリス(パーフルオロビナフチル)ボランが挙げられる。
これらの中でも、トリス(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロナフチル)ボラン、トリス(パーフルオロビフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロアントリル)ボラン、トリス(パーフルオロビナフチル)ボランがより好ましく、さらに好ましくはトリス(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(パーフルオロナフチル)ボラン、トリス(パーフルオロビフェニル)ボランが例示される。
【0053】
ボレート化合物を具体的に表すと第1の例は、次の一般式で示される化合物である。
[L−H][BR
式中、Lは中性ルイス塩基、Hは水素原子、[L−H]はアンモニウム、アニリニウム、ホスフォニウムなどのブレンステッド酸である。アンモニウムとしては、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリ(n−ブチル)アンモニウムなどのトリアルキル置換アンモニウム、ジ(n−プロピル)アンモニウム、ジシクロヘキシルアンモニウムなどのジアルキルアンモニウムが例示できる。
アニリウムとしては、N,N−ジメチルアニリニウム、N,N−ジエチルアニリニウム、N,N−2,4,6−ペンタメチルアニリニウムなどのN,N−ジアルキルアニリニウムが例示できる。また、ホスフォニウムとしてはトリフェニルホスフォニウム、トリブチルホスホニウム、トリ(メチルフェニル)ホスフォニウム、トリ(ジメチルフェニル)ホスフォニウムなどのトリアリールホスフォニウム、トリアルキルホスフォニウムが挙げられる。
Rは6〜20、好ましくは6〜16の炭素原子を含む、同じか又は異なる芳香族又は置換芳香族炭化水素基で、架橋基によって互いに連結されていてもよく、置換芳香族炭化水素基の置換基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などに代表されるアルキル基やフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲンが好ましい。
【0054】
上記の一般式で表される化合物の具体例としては、トリブチルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(2,6−ジフルオロフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(2,6−ジフルオロフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラ(2,6−ジフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルホスホニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、トリメチルアンモニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリエチルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどを例示することができる。
これらの中でも、トリブチルアンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリブチルアンモニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジメチルアニリニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレートなどがより好ましい。
【0055】
ボレート化合物の第2の例は、次の一般式で表される。
[L´][BR
式中、L´はカルボカチオン、メチルカチオン、エチルカチオン、プロピルカチオン、イソプロピルカチオン、ブチルカチオン、イソブチルカチオン、t−ブチルカチオン、ペンチルカチオン、トロピニウムカチオン、ベンジルカチオン、トリチルカチオン、ナトリウムカチオン、プロトンなどが挙げられる。Rは段落0051の一般式におけるRの定義と同じである。
【0056】
上記の化合物の具体例としては、トリチルテトラフェニルボレート、トリチルテトラ(o−トリル)ボレート、トリチルテトラ(p−トリル)ボレート、トリチルテトラ(m−トリル)ボレート、トリチルテトラ(o−フルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(p−フルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(m−フルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(3,5−ジフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリチルテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリチルテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、トロピニウムテトラフェニルボレート、トロピニウムテトラ(o−トリル)ボレート、トロピニウムテトラ(p−トリル)ボレート、トロピニウムテトラ(m−トリル)ボレート、トロピニウムテトラ(o−フルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(p−フルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(m−フルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(3,5−ジフルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレートなどを例示することができる。
これらの中でもトリチルテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリチルテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリチルテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トリチルテトラ(パーフルオロナフチル)ボレート、トロピニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(2,6−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(3,5−ジトリフルオロメチルフェニル)ボレート、トロピニウムテトラ(パーフルオロナフチル)ボレートが好ましい。
【0057】
本願発明で用いる2種以上の遷移金属化合物と、有機アルミニウムオキシ化合物、或いはこれらの遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物、又はこれらの混合物からなるオレフィン重合用触媒は、担体に担持させて固体触媒として使用することができる。
担体としては、無機物担体、粒子状ポリマー担体又はこれらの混合物が使用される。無機物担体は、金属、金属酸化物、金属塩化物、金属炭酸塩、炭素物質、又はこれらの混合物が使用可能である。
無機物担体に用いることができる好適な金属としては、例えば鉄、アルミニウム、ニッケルなどが挙げられる。また、金属酸化物としては周期律表1〜8族の元素の単独酸化物又は複合酸化物が挙げられ、例えばSiO、Al、MgO、CaO、B、TiO、ZrO、Fe、Al・MgO、Al・CaO、Al・SiO、Al・MgO・CaO、Al・MgO・SiO、Al・CuO、Al・Fe、Al・NiO、SiO・MgOなどの天然又は合成の各種単独ないしは複合酸化物を例示することができる。ここで上記の式は分子式ではなく、組成のみを表すものであって、本願発明において用いられる複合酸化物の構造及び成分比率は特に限定されるものではない。また、本願発明において用いる金属酸化物は、少量の水分を吸収していても差し支えなく、少量の不純物を含有していても差し支えない。金属塩化物としては、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属の塩化物が好ましく、具体的には塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどが好適である。金属炭酸塩としてはアルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩が好ましく、具体的には、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどが挙げられる。炭素質物としては例えばカーボンブラック、活性炭などが挙げられる。
以上の無機物担体はいずれも本願発明に好適に用いることができるが、特に金属酸化物、シリカ、アルミナなどの使用が好ましい。
【0058】
これら無機物担体は通常200〜800℃、好ましくは400〜600℃で空気中又は窒素、アルゴンなどの不活性ガス中で焼成して、表面水酸基の量を0.8〜1.5mmol/gに調節して用いるのが好ましい。
これら無機物担体の性状としては特に制限はないが、通常は平均粒径は好ましくは5〜200μm、さらに好ましくは10〜150μm、比表面積は好ましくは150〜1,000m/g、さらに好ましくは200〜500m/g、細孔容積は好ましくは0.3〜2.5cm/g、さらに好ましくは0.5〜2.0cm/g、見掛比重は好ましくは0.20〜0.50g/cm、さらに好ましくは0.25〜0.45g/cmを有す無機物担体を用いるのが好ましい。
上記した無機物担体はそのまま用いることもできるが、予備処理としてこれらの担体をトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどの有機アルミニウム化合物やAl−O−Al結合を含む有機アルミニウムオキシ化合物に接触させた後に、用いることができる。
【0059】
本願発明で用いる2種以上の遷移金属化合物と、有機アルミニウムオキシ化合物、遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物又はこれらの混合物と担体からオレフィン類重合用触媒を得る際の各成分の接触方法は、特に限定されず、例えば、以下の方法が任意に採用可能である。
(I)2種類の遷移金属化合物を混合し、次に助触媒と接触させ、その後担体と接触させる。
(II)1種類の遷移金属化合物と助触媒を接触させ、次に他の遷移金属化合物と接触させ、その後担体と接触させる。
(III)1種類の遷移金属化合物と助触媒を接触させ、次に担体と接触させ、その後他の遷移金属化合物を接触させる。
(IV)2種の遷移金属化合物と担体を接触させ、その後助触媒を接触させる。
(V)助触媒と担体を接触させ、その後2種の遷移金属化合物と接触させる。
これらの接触方法の中で(I)、(II)、(III)、(V)が好ましい。いずれの接触方法においても、通常は窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族或いは脂環族炭化水素などの液状不活性炭化水素の存在下に、撹拌下又は非撹拌下に各成分を接触させる方法が採用される。この接触は、通常−100℃〜200℃、好ましくは−50℃〜100℃の温度にて、好ましくは10分〜50時間、さらに好ましくは1時間〜24時間行うことが望ましい。
また、遷移金属化合物、有機アルミニウムオキシ化合物、遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物と担体の接触に際しては、ある種の成分が可溶ないしは難溶な芳香族炭化水素溶媒と、ある種の成分が不溶ないしは難溶な脂肪族又は脂環族炭化水素溶媒とがいずれも使用可能である。
各成分同士の接触反応を段階的に行う場合にあっては、前段で用いた溶媒などを除去することなく、これをそのまま後段の接触反応の溶媒に用いてもよい。また、可溶性溶媒を使用した前段の接触反応後、ある種の成分が不溶もしくは難溶な液状不活性炭化水素を添加して、所望生成物を固形物として回収した後に、或いは一旦可溶性溶媒の一部又は全部を、濃縮乾燥などの手段により除去して所望生成物を固形物として取り出した後に、この所望生成物の後段の接触反応を、上記した不活性炭化水素溶媒のいずれかを使用して実施することもできる。本願発明では各成分の接触反応を複数回行うことを妨げない。
【0060】
本願発明で用いる2種以上の遷移金属化合物と有機アルミニウムオキシ化合物、遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物及び担体の使用割合は、特に限定されないが、以下の範囲が好ましい。
有機アルミニウムオキシ化合物を用いる場合、遷移金属化合物中の遷移金属(M)に対する有機アルミニウムオキシ化合物のアルミニウムの原子比(Al/M)は、通常1〜100,000、好ましくは5〜1,000、さらに好ましくは50〜200の範囲が望ましく、遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物を用いる場合、遷移金属化合物の遷移金属に対する、ホウ素の原子比(B/M)は、通常0.01〜100モル、好ましくは0.1〜50モル、さらに好ましくは0.2〜10モルの範囲で選択することが望ましい。
担体の使用量は、遷移金属化合物中の遷移金属0.0001〜5ミリモル当たり、好ましくは0.001〜0.5ミリモル当たり、さらに好ましくは0.01〜0.1ミリモル当たり1gである。
遷移金属化合物、有機アルミニウムオキシ化合物、遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物と担体を前記接触方法(I)〜(V)のいずれかで相互に接触させ、しかる後、溶媒を除去することで、オレフィン類重合用触媒を固体触媒として得ることができる。溶媒の除去は、常圧下又は減圧下、好ましくは0〜200℃、さらに好ましくは20〜150℃で、好ましくは1分〜50時間、さらに好ましくは10分〜10時間で行うことが望ましい。
なお、オレフィン類重合用触媒は、以下の方法によっても得ることができる。
(VI)遷移金属化合物と担体を接触させて溶媒を除去し、これを固体触媒成分とし、重合条件下で有機アルミニウムオキシ化合物、遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物と接触させる。
(VII)有機アルミニウムオキシ化合物、遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物と担体を接触させて溶媒を除去し、これを固体触媒成分とし、重合条件下で遷移金属化合物と接触させる。
これらの接触方法の場合も成分比、接触条件及び溶媒除去条件は前記と同様の条件が使用できる。
【0061】
本願発明で用いる2種以上の遷移金属化合物は、層状珪酸塩に担持することで触媒とすることもできる。
層状珪酸塩とは、イオン結合などによって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとる珪酸塩化合物である。
大部分の層状珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出するが、これら、層状珪酸塩は特に天然産のものに限らず、人工合成物であってもよい。これらの中では、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ベントナイト、テニオライトなどのスメクタイト族、バーミキュライト族、雲母族が好ましい。
一般に、天然品は、非イオン交換性(非膨潤性)であることが多く、その場合は好ましいイオン交換性(ないし膨潤性)を有するものとするために、イオン交換性(ないし膨潤性)を付与するための処理を行うことが好ましい。そのような処理のうちで特に好ましいものとしては次のような化学処理が挙げられる。ここで化学処理とは、表面に付着している不純物を除去する表面処理及び層状珪酸塩の結晶構造と化学組成に影響を与える処理のいずれをも用いることができる。具体的には、(イ)塩酸、硫酸などを用いて行う酸処理、(ロ)NaOH、KOH、NHなどを用いて行うアルカリ処理、(ハ)周期律表第2族から第7族から選ばれた少なくとも1種の原子を含む陽イオンとハロゲン原子又は無機酸由来の陰イオンからなる群より選ばれた少なくとも1種の陰イオンからなる塩類を用いた塩類処理、(ニ)アルコール、炭化水素化合物、ホルムアミド、アニリンなどの有機物処理が挙げられる。これらの処理は単独で行ってもよいし、2つ以上の処理を組み合わせてもよい。
層状珪酸塩は、全ての工程の前後又は中間のいずれの時点においても、粉砕、造粒、分粒、分別などによって粒子性状を制御することができる。
層状珪酸塩はそのまま用いることもできるが、これらの層状珪酸塩をトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどの有機アルミニウム化合物やAl−O−Al結合を含む有機アルミニウムオキシ化合物と組み合わせて用いることができる。
【0062】
本願発明で用いる2種以上の遷移金属化合物を層状珪酸塩に担持するには、遷移金属化合物と層状珪酸塩を相互に接触させる、あるいは遷移金属化合物、有機アルミニウム化合物、層状珪酸塩を相互に接触させてもよい。各成分の接触方法は、特に限定されず、例えば、以下の方法が任意に採用可能である。
(VIII)2種の遷移金属化合物と有機アルミニウム化合物を接触させた後、担体(層状珪酸塩)と接触させる。
(IX)2種の遷移金属化合物と担体を接触させた後、有機アルミニウム化合物と接触させる。
(X)1種類の遷移金属化合物と担体を接触させ、次に担体と有機アルミニウムを接触させ、その後他の遷移金属化合物を接触させる。
(XI)有機アルミニウムオキシ化合物と担体を接触させた後、2種の遷移金属化合物とを接触させる。
これらの接触方法の中で、特に(VIII)と(XI)が好ましい。いずれの接触方法においても、通常は窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族或いは脂環族炭化水素などの液状不活性炭化水素の存在下に、撹拌下又は非撹拌下に各成分を接触させる方法が採用される。
遷移金属化合物と、有機アルミニウム化合物、担体の使用割合は、特に限定されないが、以下の範囲が好ましい。遷移金属化合物の担持量は、層状珪酸塩1gあたり、0.0001〜5ミリモル、好ましくは0.001〜0.5ミリモル、さらに好ましくは0.01〜0.1ミリモルである。有機アルミニウム化合物を用いる場合のAl担持量は、0.01〜100モル、好ましくは0.1〜50モル、さらに好ましくは0.2〜10モルの範囲であることが望ましい。
担持及び溶媒除去の方法は、前記の無機物担体と同様の条件が使用できる。このようにして得られるオレフィン類重合用触媒は、粒子形状の調整などのために必要に応じてモノマーの予備重合を行った後に使用しても差し支えない。
【0063】
5.非共役ポリエン共存下での重合
本願発明のエチレン系重合体(A)を得る際に、前記した特定の二種のメタロセン触媒の使用下において、少量のα,ω−非共役ジエンなどの非共役ポリエンの共存下、エチレンの単独重合又は他のオレフィンとの共重合を行うことにより、機械強度を損なわずに加工性の優れたポリエチレン組成物を生成させることができる。
ここでいうオレフィン類には、α−オレフィン類、環状オレフィン類、スチレン類似体及び極性基含有オレフィン類が包含される。
【0064】
本願発明では、非共役ポリエン共存下での重合で、非共役ポリエン濃度を制御することで長鎖分岐成分の構造制御をする方法を見出し、ポリエチレン組成物の加工性を大幅に向上させることに成功した。使用可能な非共役ポリエンは炭素数5〜24であり、好ましくは末端二重結合を2つ以上有する炭素数6〜18の非共役ジエン、非共役トリエンである。好ましい具体的には、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,8−ノナジエン、1,9−デカジエン、1,13−テトラデカジエン、3−メチル−1,4−ペンタジエン、1,5,9−デカトリエン、1,2,4−トリビニルシクロヘキサンなどが例示され、さらに好ましくは、1,7−オクタジエンが挙げられる。
本願発明における非共役ポリエンの使用量は、重合系内のエチレンに対し0〜1mol%で、好ましくは0〜0.5mol%、さらに好ましくは0.0001〜0.05mol%の範囲である。非共役ポリエンの使用量が1mol%を超えるとエチレン重合体の成形加工性と機械物性のバランスが損なわれ好ましくない。
なお、図1に本願発明の錯体A及びBを使用して重合されるポリマーのMFRの差異と、ポリエンを共存させたときの反応性の差異を示す概念がグラフ図として図示されている。ポリエンを共存させないときに10倍以上のMFRの差が有り、ポリエンを共存させると錯体AによるMFRの低下度合いが錯体Bによるものよりも大きいことが示されている。
【0065】
6.共重合モノマー
本願発明のエチレン系重合体(A)においては、α−オレフィン類、環状オレフィン類、スチレン類似体及び極性基含有オレフィン類と共重合することができる。
α−オレフィン類には、炭素数3〜20、好ましくは3〜8のものが包含され、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、ビニルシクロヘキサンなどが例示される。2種類以上のα−オレフィンを共重合させることも可能であり、α−オレフィンの量は全モノマーの40モル%以下、好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは20モル%以下の範囲で選ばれる。
環状オレフィンとしては、炭素数3〜24、好ましくは3〜18のものが本願発明で使用可能であり、これには例えば、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3−メチルシクロヘキセン、シクロオクテン、シクロデセン、シクロドデセン、テトラシクロデセン、オクタシクロデセン、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−イソブチル−2−ノルボルネン、5,6−ジメチル−2−ノルボルネン、5,5,6−トリメチル−2−ノルボルネン、エチリデンノルボルネンなどが包含される。環状オレフィンの量は共重合体の50モル%以下、通常は1〜50モル%、好ましくは2〜50モル%の範囲にある。
本願発明で使用可能なスチレン類似体は、スチレン及びスチレン誘導体であって、その誘導体としては、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルエチレン、N,N−ジメチル−p−アミノエチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレンなどを例示することができる。
【0066】
7.重合方法
本願発明のエチレン系重合体(A)を得るための重合反応は、前記したメタロセン触媒の存在下に、スラリー重合、溶液重合、又は気相重合にて行うことができる。スラリー重合又は気相重合が好ましく、実質的に酸素と水分を断った状態で、イソブタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素などから選ばれる不活性炭化水素溶媒の存在下又は不存在下で、オレフィンを重合させる。この時の重合条件は、温度は好ましくは20〜200℃、さらに好ましくは50〜100℃、圧力は好ましくは常圧〜7MPa、さらに好ましくは常圧〜3MPaの範囲にあり、重合時間としては好ましくは5分〜10時間、さらに好ましくは5分〜5時間が採用される。
生成重合体の分子量は、重合温度、触媒のモル比などの重合条件を変えることによってもある程度調節可能であるが、重合反応系に水素を添加することでより効果的に分子量調節を行うことができる。
また、重合系中に、水分除去を目的とした成分、いわゆるスカベンジャーを加えても何ら支障なく重合を実施することができる。なお、かかるスカベンジャーとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物、有機アルミニウムオキシ化合物、分岐アルキルを含有する変性有機アルミニウム化合物、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛などの有機亜鉛化合物、ジエチルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、エチルブチルマグネシウムなどの有機マグネシウム化合物、エチルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムクロリドなどのグリニヤ化合物などが使用される。これらのなかでは、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルブチルマグネシウムが好ましく、トリエチルアルミニウムが特に好ましい。
水素濃度、モノマーとコモノマー濃度、非共役ジエン濃度、重合圧力、重合温度などの重合条件が互いに異なる2段階以上の多段階重合方式にも、支障なく適用することができる。
【0067】
8.他のポリオレフィン系樹脂(B)
本願発明の組成物におけるポリオレフィン系樹脂(B)としては、イオン重合で製造されるポリエチレン樹脂(b1)、高圧ラジカル法エチレン(共)重合体(b2)、ポリプロピレン系樹脂(b3)などの炭素数3以上のα-オレフィンの単独もしくは交互共重合体を包含する。
上記イオン重合で製造されるポリエチレン樹脂(b1)とは、密度0.94〜0.97g/cm、メルトフローレート(MFR)が0.05〜100g/10分の範囲のエチレン単独重合体又はエチレン・α−オレフィン共重合体で構成される高密度ポリエチレン樹脂、密度0.91〜0.94g/cm未満、MFRが0.05〜100g/10分の範囲のエチレン・α−オレフィン共重合体で構成される線状低密度ポリエチレン樹脂、密度0.86〜0.91g/cm未満、MFRが0.05〜100g/10分の範囲のエチレン・α−オレフィン共重合体で構成される線状超低密度ポリエチレン樹脂を包含するものである。
【0068】
上記のα−オレフィンとしては、直鎖又は分岐鎖状の炭素数3〜20のオレフィンが好ましく、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセンなどを挙げることができる。また、それらを2種類以上組み合わせて使用してもよい。これら共重合体の中でも、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−ヘキセン共重合体、エチレン・4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体が経済性の観点から好適である。
【0069】
上記のイオン重合で製造されるポリエチレン樹脂(b1)は、特に製造触媒やプロセスなどに限定されるものではなく、文献成書『ポリエチレン技術読本』(松浦一雄・三上尚孝編著 工業調査会刊行 2001年)のp.123〜160、p.163〜196などに記載されている方法により製造することが可能である。即ち、チーグラー系触媒、シングルサイト系触媒などを使用して、スラリー法、溶液法、気相法の各重合様式にて、各種の、重合器、重合条件、触媒にて製造することが可能である。
本願発明に係るポリエチレン樹脂(b1)は、有機アルミニウムオキシ化合物とシクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む周期律表第IV族の遷移金属化合物とからなるオレフィン重合用触媒の存在下に、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを共重合して得られる共重合体である場合には、さらに好適である。本願発明に係るポリエチレン樹脂(b1)は、上記条件を満たしていれば、2種類以上のポリエチレン樹脂(b1)を混合したものであってもよい。
【0070】
本願発明に係る高圧ラジカル法エチレン(共)重合体(b2)とは、高圧ラジカル重合法によるエチレン単独重合体(低密度ポリエチレン樹脂)、エチレン・ビニルエステル共重合体及びエチレンとα,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体との共重合体などが挙げられ、これら低密度ポリエチレン樹脂などは公知の高圧ラジカル重合法により製造され、チューブラー法とオートクレーブ法のいずれの方法で製造してもよい。
【0071】
上記の低密度ポリエチレン樹脂は、密度0.91〜0.935g/cm、メルトフローレート0.05〜100g/10分、好ましくは、密度0,915〜0,930g/cm0.1〜50g/10分の範囲のものが好適に使用される。
上記のエチレン・ビニルエステル共重合体は、エチレンを主成分とし、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリフルオル酢酸ビニルなどのビニルエステル単量体との共重合体である。これらの中でも特に好ましいものとしては、酢酸ビニルを挙げることができる。エチレン50〜99.5重量%、ビニルエステル0.5〜50重量%、他の共重合可能な不飽和単量体0〜49.5重量%からなる共重合体が好ましい。さらにビニルエステル含有量は3〜20重量%、特に好ましくは5〜15重量%の範囲で選択される。
上記のエチレンとα,β−不飽和カルボン酸エステルとの共重合体の代表的な共重合体としては、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体などのエチレン・(メタ)アクリル酸又はそのアルキルエステル共重合体、エチレン・無水マレイン酸・酢酸ビニル共重合体、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸エチル共重合体などの二元共重合体又は多元共重合体などが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル含有量は3〜30重量%、好ましくは5〜20重量%の範囲である。
【0072】
上記のポリプロピレン系樹脂(b3)としては、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体、例えばプロピレンとエチレンとのブロック共重合体、ランダム共重合体などを包含するものである。
【0073】
9.熱可塑性エラストマー
本願発明の組成物成分の熱可塑性エラストマー(C)としては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーなどの各種熱可塑性エラストマー、天然ゴム、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルブチルゴムなどの天然又は合成ゴムが包含される。これらの中でも、以下に詳細を説明するオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマーが好ましい。
【0074】
オレフィン系エラストマーとしては、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、エチレン−・1−ブテン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体などの密度0.86〜0.91g/cmの非晶性もしくは微結晶性エチレン・α−オレフィン共重合体、ポリブテン、塩素化ポリエチレン、ポリプロピレンとEPDM及び所望によりポリエチレンを架橋剤の存在下に架橋した部分架橋物または完全架橋物などが挙げられる。
【0075】
スチレン系エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、スチレン−イソプレン・ブタジエン−スチレン共重合体(SIBS)などのブロック共重合体、或いはスチレン−エチレン・ブテン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレン共重合体(部分水素添加スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)などのブロック共重合体の部分又は完全水添物などが挙げられる。
【0076】
10.電線・ケーブル被覆用樹脂材料
本願発明の樹脂材料は、エチレン系重合体(A)100〜5重量%と他のポリオレフィン系樹脂(B)及び/又は熱可塑性エラストマー(C)0〜95重量%を含むことを特徴とするものである。
上記樹脂材料が組成物から構成される場合には(A)成分95〜5質量%、(B)及び/又は(C)成分5〜95質量%、好ましくは(A)成分90〜20質量%、(B)及び/又は(C)成分10〜80質量%、より好ましくは(A)成分80〜30質量%、(B)及び/又は(C)成分20〜70質量%の範囲で選択される。
上記組成物は、目的、用途によって異なるものの、例えば、従来の高密度ポリエチレンを主成分(95〜70質量%)とし、低密度ポリエチレン5〜30質量%を混合した組成物において、該低密度ポリエチレン5〜30質量%を本願発明のエチレン系重合体(A)で代替した場合には、高密度ポリエチレンの耐熱性とLDPEの成形加工性と同等の性能を維持したまま機械的強度を向上させることができる。
また、従来のLLDPEを主成分(95〜70質量%)としてLDPE5〜30質量%を混合した組成物で構成される電線の場合にも、LDPEを本願発明のエチレン系重合体(A)で代替することにより、成形加工性を維持したまま、LLDPEの機械的強度と耐熱性を低下させずに維持させることが可能である。
例えば従来のフィリップス系触媒からなるLLDPEやチーグラー系触媒、あるいはメタロセン触媒からなるLLDPEに本願発明のエチレン系重合体(A)を5〜95質量%を配合することにより上記目的を達成させることが可能である。
さらに従来の超低密度ポリエチレン、EPR、EPDMなどの柔軟性のある材料を主成分とし、LDPEを混合してなる電線の場合にも、LDPEを本願発明のエチレン系重合体(A)で代替することにより、加工成形性と柔軟性を維持しながら機械的強度と耐熱性を向上することができるものとなる。
【0077】
11.電線・ケーブル
本願発明の電線・ケーブルは、上記樹脂材料を用いた電線・ケーブルであって、絶縁層、シース層或いは半導電層などに使用される。これらはシラン架橋剤や有機過酸化物などの架橋剤、あるいは電子線等によって架橋されていてもよい。また、通信ケーブルなどのように、発泡して使用してもよいし、熱可塑性樹脂や金属箔などの他の基材と積層して用いてもよい。
【0078】
12.充填剤
本願発明においては、本願発明の範囲を逸脱しない範囲において、無機及び/又は有機の充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、耐候剤、顔料、カーボンブラックなどの着色剤、防鼠剤、防蟻剤、銅害防止剤などの通常の添加剤を配合しても差し支えない。
【実施例】
【0079】
以下において、各実施例によって、各比較例を対照しながら、本願発明をより詳細に具体的に説明して、本願発明の構成と効果をより明らかにし、本願発明の構成の各要件の合理性と有意性とを立証する。
【0080】
[重合体の物性測定]
各実施例及び各比較例で得られた重合体の物性測定は、以下に説明する方法で行った。
1)メルトフローレイト(MFR)
MFRは、JIS K6922−1(1997)の条件D(温度190℃・荷重21.18N)に従い測定した。
2)密度
JIS K6922−1(1997)に従い測定した。
3)重量平均分子量分布(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)
Mw/Mnは、段落0029に記載の方法で測定した。
4)主鎖1,000Cあたりの短鎖分岐数(SCB)
日本電子(株)製JNM−GSX400型NMR装置及びC10型プローブを用い、以下の条件で 13C−NMRスペクトルを測定した。
パルス幅:8.0μs(フリップ角=40°) パルス繰り返し時間:5秒
積算回数:5,000回以上 溶媒及び内部標準:1,2,4−トリクロロベンゼン/ベンゼン−d/ヘキサメチルジシロキサン(混合比:30/10/1) 測定温度:120℃ 試料濃度:0.3g/ml
得られたスペクトルの解析は、例えば、エチレン/1−ブテン共重合体については「Eric T.Hsieh & James C.Randall,Macromolecules vol.15,353−360(1982)」、エチレン/1−ヘキセン共重合体については、「Eric T.Hsieh & James C.Randall,Macromolecules vol.15,1402−1406(1982)」の文献に従って行い、SCB及びBを求めた。
5)流動の活性化エネルギーEa
試験に供する重合体を180℃で直径25mm・厚み1mmの円形にプレス成形したものをサンプルとし、動的粘弾性特性の測定装置は、Paar Physica社製UDS−200型回転式レオメータ及び25mmφパラレルプレートを用い、窒素雰囲気下において以下の条件で温度(140℃,170℃,190℃,210℃及び230℃)における動的粘弾性を測定した。
歪み量:10% 測定周波数範囲:6.22×10−3〜6.22×10 rad/s(210℃及び230℃は、6.22×10−2〜6.22×10rad/s)
190℃を基準温度として、5つの温度条件の貯蔵弾性率G’及び損失弾性率 G”を、時間−温度重ね合わせの原理に従って重ね合わせ、シフトファクターaを求めた。このシフトファクターを絶対温度の逆数に対してプロットし、その傾きから流動の活性化エネルギーEaを計算した(段落0019〜0023に記載した方法による。なお、炭素数20を超える長鎖分岐の存在はΔEaの値で確認した)。
6)伸張粘度λmax
試験に供する重合体を190℃で熱プレスして150mm×70mm×2mmのシートを作成し、このシートから7mm×70mm×2mmに打ち抜いたものをサンプルとした。レオメトリック社製RME型一軸伸長粘度測定装置を用いて140℃で、歪速度(設定値:1.0,0.3,0.1s−1)における非定常一軸伸長粘度曲線を測定した。次に、流動の活性化エネルギーと同様の条件で測定した140℃における動的粘弾性測定データから、段落0025に記載した式(3)と(4)及び計算方法を使用して、λmaxを算出した。
【0081】
[重合用触媒の調製]
錯体調製及び触媒調製に用いたトルエンやヘキサンは脱気後にモキュラーシーブ3Aで脱水したものを用いた。メチルアルミノキサンMAOは、アルベマール社20wt%トルエン溶液品(Al濃度が約2.9mol/L)を用いた。固体触媒の担体として用いたシリカは、表面積290m、細孔容積1ml/g、平均粒径45μmのものを、650℃で7時間焼成して用いた。ベンゾインデンは4,5−ベンゾインデンと6,7−ベンゾインデンの混合物であり、「Bulletin de la Societe Chimique de Frace(1967)3 987−992」に基づき合成されたものを用いた。
【0082】
[遷移金属錯体の合成]
(トリスインデニルジルコニウムハイドライド(錯体1)の調製)
窒素雰囲気下、100mlナス型フラスコにビスインデニルジルコニウムジクロライド(IndZrCl)の1mmol(0.39g)をトルエン30mlに懸濁し、寒剤(ドライアイス−エタノール)で−78℃に冷却し、n−ブチルリチウム(n−BuLi)を2mmol加える。この混合溶液を寒剤から出して温度をゆっくり上げ、0℃付近でインデンを4mmol加える。さらに室温まで温度を上げ30分反応する。反応後析出したリチウムクロライド(LiCl)を濾別する。濾液をさらに50℃で12時間反応させ析出した沈殿をn−ヘキサンで洗浄し、錯体1を収率64%で得た。
(トリスベンゾインデニルジルコニウムハイドライド(錯体2)の調製)
窒素雰囲気下、50mlナス型フラスコにトリスインデニルジルコニウムハイドライドの0.31mmol(0.14g)をヘキサン5mlに懸濁し、ベンゾインデン(BenzInd)1.2mmol加え、50℃で2時間反応させた。溶媒を除いた後、析出した固体をn−ヘキサンで洗浄することにより、錯体2を収率83%で得た。
【0083】
[固体触媒の調製]
錯体1の46mg(0.1mmol)と錯体2の118mg(0.2mmol)を100mlナスフラスコに入れ、これにトルエン20mlとメチルアルミノキサントルエン溶液を14ml(Alで40mmol)加えた後、予め300mlの磁気誘導撹拌機を備えたフラスコに10gのシリカを入れて脱気しておいたものに、上記混合液を添加した。その後減圧下で溶媒を除去することで流動性の良い固体触媒を得た。
【0084】
(実施例1)
表1に示す所定の温度、コモノマー/エチレンモル比、水素/エチレンモル比、窒素濃度30mol%のガス組成、圧力0.8MPaで準備された気相連続重合装置(内容積100L、流動床直径10cm)に固体触媒を間欠的に供給しながらガス組成と温度を一定にして重合を行った。得られた重合体パウダー100質量部に、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製の酸化防止剤IRGANOX、B225/FFを0.2質量部、ステアリン酸カルシウム0.05質量部を配合してスーパーミキサーで混合した後、40mmφ単軸押出機で設定温度210℃・回転数40rpmでL/D26のフルフライトスクリューを用いて溶融混練し押出して、ペレタイズし重合体1を得た。得られた重合体1の物性を表2に記載した。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
(材料物性)
得られた重合体1を、成形温度180℃、予熱時圧力1MPa−10分、成形圧力10MPa−5分、冷却条件10MPa−15℃/minで圧縮成形を行い、厚み1mmのプレスシートを得た。得られたプレスシートの引張物性を下記の条件で評価した。結果を表3に記載した。
引張物性:JIS C3005(2000)に準拠し、プレスシートからダンベル状3号試験片を打抜き、引張速度200mm/minで引張強さ及び伸びを求めた。
【0088】
(成形性)
得られた重合体1を、下記条件で電線被覆成形を行い、樹脂圧力と被覆電線の製品外観を以下の評価した。結果を表3に記載した。
[電線被覆成形条件]
成形機:日本製鋼所製・電線被覆成形機 押出機:口径50mm・単軸押出機・フルフライトスクリューL/D22 ダイス:ダイス出口外径1.2mm
設定温度:220℃ スクリュー回転数:16rpm 引取速度:50m/分 冷却:水槽温度30℃ 電線形状:銅芯線直径0.9mm・被覆電線直径1.5〜1.6mm
[製品外観評価方法]
目視にて被覆電線の製品外観を以下の方法で判断した。
○:製品表面が平滑であり良好。 ×:製品表面が鮫肌で良好なものが得られない。
【0089】
(実施例2)
表1に示す温度、コモノマー/エチレンモル比、水素/エチレンモル比に変更する以外は実施例1と同様にして重合を行った。得られた重合体パウダーを、実施例1と同様にして溶融混練し、押出して、ペレタイズし重合体2を得た。得られた重合体2の物性を表2に記載した。 得られた重合体2を、実施例1と同様にして材料物性および成形性を評価した。結果を表3に記載した。
【0090】
(実施例3)
重合体1の70質量%に、高圧ラジカル重合法で製造された低密度ポリエチレン1(日本ポリエチレン(株)製、ノバテックLD、LF240、MFR0.7g/10分・密度0.924g/cm)の30質量%をVブレンダーで混合した後、実施例1と同様にして溶融混練し、押出して、ペレタイズしエチレン系重合体組成物を得た。 得られた組成物を、実施例1と同様にして材料物性および成形性を評価した。結果を表3に記載した。
【0091】
(比較例1)
チタン系触媒を用いて気相法で製造されたエチレン・1−ブテン共重合体3(日本ポリエチレン(株)製ノバテックLL、UF230)を用い、実施例1と同様にして材料物性及び成形性を評価した。重合体3の物性を表2に、材料物性および成形性を表3に記載した。
【0092】
(比較例2)
チタン系触媒を用いて気相法で製造されたエチレン・1−ヘキセン共重合体5(日本ポリエチレン(株)製ノバテックLL、SF320)を用い、実施例1と同様にして材料物性及び成形性を評価した。重合体4の物性を表2に、材料物性および成形性を表3に記載した。
【0093】
(比較例3)
メタロセン系触媒を用いて気相法で製造されたエチレン・1−ヘキセン共重合体5(日本ポリエチレン(株)製ハーモレックス・NF354A)を用い、実施例1と同様にして材料物性及び成形性を評価した。重合体5の物性を表2に、材料物性及び成形性を表3に記載した。
【0094】
(比較例4)
重合体5の70質量%に、低密度ポリエチレン1(日本ポリエチレン(株)製、ノバテックLD、LF240、MFR0.7g/10分・密度0.924g/cm)の30重量%をVブレンダーで混合した後、実施例1と同様にして溶融混練し、押出して、ペレタイズしエチレン系重合体組成物を得た。得られた組成物を、実施例1と同様にして材料物性及び成形性を評価した。結果を表3に記載した。
【0095】
【表3】

【0096】
[実施例と比較例の結果の対照による考察]
実施例1,2で得られたエチレン系重合体は、本願請求項1の発明における構成要件を満たしており、長鎖分岐濃度が比較的低いにもかかわらず弾性発現である歪硬化が強く、機械強度(材料物性)と押出成形性とを高い次元で両立させ得たものであり、製品外観も良好である。実施例3は、実施例1で用いたエチレン系重合体に高圧ラジカル重合法で製造された低密度ポリエチレンを30質量%混合したもので、押出成形性がさらに優れるものであった。
比較例1,2は、チタン系触媒を用いて製造されたエチレン系重合体であり、本願請求項1の発明における構成要件を満たしておらず、機械強度は高いが、押出成形性に劣り、高速性能と表面外観のよい満足な被覆電線が得られない。
比較例3は、従来の分子量分布の狭いメタロセン系触媒を用いて製造されたエチレン系重合体であり、比較例1,2と同様に本願請求項1の発明における構成要件を満たしておらず、機械強度は高いが、押出成形性に劣り、高速性能と表面外観のよい被覆電線が得られない。
比較例4は、比較例3のエチレン系重合体に高圧ラジカル重合法で製造された低密度ポリエチレンを30重量%混合したものであるが、押出成形性の顕著な改善効果が認められなかった。
以上の結果からして、各比較例にみられる従来技術に対して、本願発明の被覆材料の卓越性が明らかであり、本願発明の構成の有意性と合理性が立証されている。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本願発明の錯体A及びBを使用して重合されるポリマーのMFRの差異と、ポリエンを共存させたときの両錯体の反応性の差異の概念を示すグラフ図である。
【図2】本願発明の伸長粘度規定λmaxを求めるための、非定常一軸伸張粘度曲線を表すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のa)乃至d)の条件を満たし、炭素数1〜20の短鎖分岐と炭素数20を超える長鎖分岐が高分子主鎖に導入されたエチレン系重合体(A)100〜5重量%と他のポリオレフィン系樹脂(B)及び/又は熱可塑性エラストマー(C)0〜95重量%を基本成分とする電線・ケーブル被覆用樹脂材料。
a)JIS K6922−1(1997)に基づいて測定された密度が、0.880〜0.970g/cmである。
b)JIS K6922−1(1997)の条件Dに基づき、温度190℃において加重21.18Nの条件で測定されたメルトフローレート(MFR)が、0.01〜100g/10分である。
c)流動の活性化エネルギーEa[KJ/mol]と、下記の式(1)により算出される活性化エネルギーEa[KJ/mol]との差ΔEa[KJ/mol]が、1.5〜12.5である。
【数1】


ここで、SCBは主鎖の炭素原子1,000あたりの炭素数1〜20の短鎖分岐数[個数/1,000C]を表し、Bは炭素数1〜20の短鎖分岐の長さ(炭素数)を表す。
d)伸長粘度λmaxとΔEaとが下記の式(2)を満たす。
λmax≧1.2exp(0.0721×ΔEa) 式(2)
【請求項2】
エチレン系重合体(A)が、メタロセン系触媒の存在下で製造されたエチレン重合体又はエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体であり、或いはそれらに非共役ポリエンが共重合された共重合体であることを特徴とする、請求項1に記載された電線・ケーブル被覆用樹脂材料。
【請求項3】
エチレン系重合体(A)において、炭素数1〜20の短鎖分岐と炭素数20を超える長鎖分岐の、高分子主鎖への導入を、二種又は複数種のメタロセン触媒により各々の触媒に応じて行うことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載された電線・ケーブル被覆用樹脂材料。
【請求項4】
エチレン系重合体(A)が非共役ポリエンの共存下において重合され、非共役ポリエンの濃度を制御することにより長鎖分岐成分の分岐構造が制御されることを特徴とする、請求項3に記載された電線・ケーブル被覆用樹脂材料。
【請求項5】
ポリオレフィン系樹脂(B)が、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高圧ラジカル法低密度ポリエチレンの少なくとも1種のポリエチレンであることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載された電線・ケーブル被覆用樹脂材料。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載された電線・ケーブル被覆用樹脂材料にて被覆されたことを特徴とする電線・ケーブル。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−177183(P2007−177183A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−380271(P2005−380271)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【Fターム(参考)】