説明

電線・ケーブル

【課題】架橋効率の良いEPDM組成を採用することにより架橋剤である有機化酸化物の含有量を減量して架橋残渣を少なくすることができ、架橋後の乾燥時間を短縮し製造効率を高めることができると共に、優れた耐熱性、電気絶縁特性、機械的特性、及び、良好な外観を有する電線・ケーブルを提供すること。
【解決手段】エチレン含有量50〜60重量%、共重合後末端に二重結合を持つジエン成分含有量1〜5重量%のエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム100重量部に対し、有機化酸化物0.1〜2重量部及び焼成された無機充填剤50重量部以上を配合してなるエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物を絶縁体2及び/またはシース9を構成する被覆材料として用いた電線・ケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物を絶縁体及び/またはシースを構成する被覆材料として用いた電線・ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチレン−プロピレン共重合体ゴムは、主鎖に不飽和基を持たず、汎用のジエン系ゴムと比較して耐熱性に優れており、自動車の水系ホース、ウェザーストリップ類、電線ケーブルなどの押出製品に多く使用されている。
【0003】
一方、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム(EPDM)は、一般に、1−4ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネンといった非共役ポリエンを第三成分に含み、イオウ架橋が可能なことからイオウ架橋して使用されるが、耐熱性の要求の高まりとともに有機過酸化物架橋に対する期待が大きくなっている。EPDMも電線ケーブルなどの押出製品に多く使用されており、有機過酸化物架橋に対する期待は電線ケーブルにおいても例外ではない。
【0004】
現在、EPDMを絶縁体及び/またはシースを構成する被覆材料として用いた電線ケーブルは、主に移動、屈曲動作を受ける分野で使用されており、このような電線ケーブルの被覆材料の特性としては、可撓性に富み、且つ、電気絶縁特性に優れていることが要求される。特に、レントゲンケーブルのような高電圧下で使用される工業装置用ケーブルにおいては、優れた電気絶縁特性を有することが必要である。
【0005】
ところで、有機過酸化物を使用した架橋では、ゴム中に揮発しにくい架橋残渣が残り、電気絶縁特性を低下させるという問題がある。さらに、架橋を行うためには押出作業と同時に連続加硫機を用いて高温高圧水蒸気雰囲気下でゴムを熱処理し架橋させる必要があるが、その際、水蒸気がゴム中に浸透して電気絶縁特性を低下させる虞れがある。
【0006】
このことから、EPDMを絶縁体及び/またはシースを構成する被覆材料として用いた電線ケーブルを製造する場合、耐熱性を向上させるため有機過酸化物を使用した架橋により優れた耐熱性及び電気絶縁特性を有するEPDM被覆層を形成するためには、ゴム中の架橋残渣や水分を揮発させるため通常60〜80℃で一週間程度乾燥させる必要があり、製造効率が悪く、しかも、長時間の乾燥によりEPDM被覆層が劣化する虞れがあった。
【0007】
架橋残渣を少なくするための対策としては、1.イオウ架橋、2.有機過酸化物の減量が挙げられるが、1.は耐熱性に劣る、2.は架橋度が低くなることから引張強度などの機械的特性に劣るという問題がある。
【0008】
また、水蒸気による熱処理の際に、ゴム中への水蒸気の浸透を防ぐための対策としては、熱風による架橋方式が挙げられるが、有機過酸化物を使用した架橋では、ゴムに空気(酸素)が接すると架橋が充分に進まず、且つ、軟化劣化を起こし、架橋物の表面が粘着し、ゴム製品として満足のいくものが得られないという問題があった。
【0009】
一方、先行技術文献である特許文献1には、第三成分たる非共役ポリエンとして末端に二重結合を持つ5−アルケニル−2−ノルボルネン化合物などのジエン成分を含有するエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴムに、加硫剤(イオウ、イオウ化合物、有機化酸化物)及び無機充填剤を配合してなるエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物が記載されている。また、特許文献1には、前記ゴム組成物について有機過酸化物を使用した架橋では、耐熱性を有するゴム組成物としての性能を最もよく発揮できると記載されている。
【0010】
また、先行技術文献である特許文献2には、第三成分たる非共役ポリエンとして内部に二重結合を持つジシクロペンタジエンを含有するエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴムに、有機過酸化物(加硫剤)及び無機充填剤を配合してなる熱風架橋用エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物が記載されている。また、特許文献2には、従来技術の説明の中で、前記ゴム組成物について有機過酸化物を使用した架橋では、ゴムに空気(酸素)が接すると架橋が充分に進まず、且つ、軟化劣化を起こし、架橋物の表面が粘着し、ゴム製品として満足のいくものが得られないと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−204241号公報
【特許文献2】特開平4−293946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記したように、EPDMを絶縁体及び/またはシースを構成する被覆材料として用いた電線ケーブルを製造する場合、耐熱性を向上させるため有機過酸化物を使用した架橋により優れた耐熱性及び電気絶縁特性を有するEPDM被覆層を形成するためには、ゴム中の架橋残渣や水分を揮発させるため通常60〜80℃で一週間程度乾燥させる必要があり、製造効率が悪く、しかも、長時間の乾燥によりEPDMの被覆層が劣化する虞れがあった。
【0013】
この点に関し、架橋残渣を少なくするための対策としては、1.イオウ架橋、2.有機過酸化物の減量が挙げられるが、1.は耐熱性に劣る、2.は架橋度が低くなるので引張強度などの機械的特性に劣るという問題がある。
【0014】
また、水蒸気による熱処理の際に、ゴム中への水蒸気の浸透を防ぐための対策としては、熱風による架橋方式が挙げられるが、有機過酸化物を使用した架橋では、ゴムに空気(酸素)が接すると架橋が充分に進まず、且つ、軟化劣化を起こし、架橋物の表面が粘着し、ゴム製品として満足のいくものが得られないという問題があった。
【0015】
一方、特許文献1には、第三成分たる非共役ポリエンとして末端に二重結合を持つ5−アルケニル−2−ノルボルネン化合物などのジエン成分を含有するエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴムに、加硫剤(イオウ、イオウ化合物、有機化酸化物)及び無機充填剤を配合してなるエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物が記載されている。また、特許文献1には、前記ゴム組成物について有機過酸化物を使用した架橋では、耐熱性を有するゴム組成物としての性能を最もよく発揮できると記載されているものの、有機化酸化物の減量に関しては何も言及されていない。
【0016】
また、特許文献2には、第三成分たる非共役ポリエンとして内部に二重結合を持つジシクロペンタジエンを含有するエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴムに、有機化酸化物(加硫剤)及び無機充填剤を配合してなる熱風架橋用エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物が記載されている。また、特許文献2には、従来技術の説明の中で、有機過酸化物を使用した架橋では、ゴムに空気(酸素)が接すると架橋が充分に進まず、且つ、軟化劣化を起こし、架橋物の表面が粘着し、ゴム製品として満足のいくものが得られないと記載されているものの、前記ゴム組成物は、通常のEPDM組成からなるものであり、末端に二重結合を持つジエン成分を含有するものではない。
【0017】
したがって、本発明の目的は、架橋効率の良いEPDM組成を採用することにより架橋剤である有機化酸化物の含有量を減量して架橋残渣を少なくすることができ、架橋後の乾燥時間を短縮し製造効率を高めることができると共に、優れた耐熱性、電気絶縁特性、機械的特性、及び、良好な外観を有する電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、エチレン含有量50〜60重量%、共重合後末端に二重結合を持つジエン成分含有量1〜5重量%のエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム100重量部に対し、有機化酸化物0.1〜2重量部及び焼成された無機充填剤50重量部以上を配合してなるエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物を絶縁体及び/またはシースを構成する被覆材料として用いたことを特徴とする電線・ケーブルを提供する。
【0019】
請求項2の発明は、前記ジエン成分が、5−ビニル−2−ノルボルネンからなることを特徴とする請求項1に記載の電線・ケーブルを提供する。
【0020】
請求項3の発明は、前記無機充填剤が、粒径1μm以下の無機粉粒体からなることを特徴とする請求項2に記載の電線・ケーブルを提供する。
【0021】
請求項4の発明は、前記無機充填剤が、有機シランにより表面処理された無機粉粒体からなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の電線・ケーブルを提供する。
【0022】
上記において、共重合後末端に二重結合を持つジエン成分を含有するエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴムは、その末端の二重結合の存在により内部に二重結合を持つジエン成分を含有するエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴムと比較して架橋効率に優れている。これは、その末端の二重結合が架橋を推進する架橋サイトとなるからである。本発明によれば、このようなEPDM基本組成を採用することにより架橋剤である有機化酸化物の含有量を減量して架橋残渣を少なくすることができ、架橋後の乾燥時間を短縮し製造効率を高めることができると共に、優れた耐熱性、電気絶縁特性、機械的特性、及び、良好な外観を有する電線・ケーブルを提供することができる。
【0023】
上記において、共重合後末端に二重結合を持つジエン成分としては、例えば、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−(2−プロペニル)−2−ノルボルネン、5−(−2−ブテニル)−2−ノルボルネンといった5−アルケニル−2−ノルボルネンや、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエンといった鎖状のジエンが用いられる。このうち本発明においては、特に取扱い性や架橋効率の観点から、5−メチレン−2−ノルボルネンを用いることが好ましい。
【0024】
共重合後末端に二重結合を持つジエン成分の含有量は、1〜5重量%であることが好ましく、1重量%未満だと架橋が充分に進まず、5重量%を越えると耐熱性が悪化する。
【0025】
また、共重合後末端に二重結合を持つジエン成分を含有するエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴムのエチレン含有量は、50〜60重量%であることが好ましく、50重量%未満だと架橋物であるゴムの表面に粘着性が生じ、架橋が不充分となる。60重量%を越えると、架橋物であるゴムが樹脂ライクになり、可撓性が損なわれることになる。
【0026】
本発明において用いられる共重合後末端に二重結合を持つジエン成分を含有するエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴムの未加硫時のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、加工性を考慮して20〜100の範囲にあることが好ましい。
【0027】
上記において、有機過酸化物としては、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類及びこれらの混合物が用いられる。特に半減期(有機過酸化物の濃度が初期の半分に減ずるまでの時間)1分を与える半減期温度が130℃〜200℃の範囲にあるものが好ましく、この点からジクミルパーオキサイドや1,3ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサンなどが好ましく用いられる。
【0028】
有機過酸化物の配合量は、本発明の効果との関係から、0.1〜2重量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1重量部、更に好ましくは0.1〜0.5重量部である。0.1重量部未満だと架橋が不充分となり、1重量部を越えると乾燥に従来と同様の時間が必要となる。
【0029】
上記において、無機充填剤は、押出製品の外観悪化を防止するために配合されるものであり、その配合量は、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム100重量部に対し、50重量部以上であることが好ましい。50重量部未満だと、期待される効果が発現されない。
【0030】
無機充填剤としては、珪酸、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウムといった珪酸塩鉱物が主に用いられる。特に、珪酸マグネシウムのタルクや珪酸アルミニウムのクレーが好ましく用いられる。このような無機充填剤は保有水を有しており、その水分が電気絶縁特性に悪影響を及ぼす虞れがあるため、500℃以上の温度で焼成して、保有水を脱水させることが必要である。ここで、焼成した珪酸塩鉱物、特に、珪酸マグネシウムのタルクや珪酸アルミニウムのクレーといった層状の珪酸塩鉱物を用いた場合は、その層間にイオンや架橋残渣がトラップされるので電気絶縁特性の向上に効果があるだけでなく、乾燥時間の短縮に繋がることを見出した。
【0031】
無機充填剤は、粒径1μm以下の無機粉粒体からなることが好ましい。粒径1μmを越える大きさの無機粉粒体では分散性に劣り、さらに、イオンや架橋残渣のトラップ能が効果を現わさない虞れがある。
【0032】
さらに、本発明においては、高温高圧水蒸気雰囲気下で熱処理し架橋させた場合、ゴムと無機充填剤との界面に水分が浸透する虞れがあることから、前もって無機充填剤を有機シランで表面処理することにより無機充填剤の凝集を防ぎ、ゴム中への無機充填剤の分散性を向上させて、ゴムと無機充填剤との密着性を向上させるようにすることが好ましい。
【0033】
この場合の有機シランとしては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−(p−ビニルベンゼン)−N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン・塩酸塩、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリキシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリキシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリキシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフェド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフェド、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ジアリルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのシランカップリング剤や、アルコキシシラン、ビニルメチルシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー、トリメチルシロキサン誘導体などのシロキサンオリゴマーなどが用いられる。このうち取扱い性、価格などの観点から、3−グリキシドキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、シロキサンオリゴマーが好ましく用いられる。
【0034】
有機シランによる表面処理量は、0.5wt%以上3wt%を越えない量が望ましく、0.5wt%未満では充分な効果が得られず、3wt%を越えると電気絶縁特性に悪影響を及ぼす虞れがある。
【0035】
なお、有機シランによる表面処理は、ゴム中に配合される無機充填剤に前もって表面処理を施す方法であるが、この表面処理に代えて、有機シランとともに無機充填剤をゴム中に直接添加して混練するインテグラルブレンド法を採用することも可能である。
【0036】
また、本発明のエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物には、反応性の高い多官性モノマーを添加することもできる。多官性モノマーとしては、特にトリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどが好ましく用いられる。多官性モノマーを添加する場合の配合量は、0〜5重量部であることが好ましく、5重量部を越えると未反応の多官性モノマーが電気絶縁特性に悪影響を及ぼす虞れがある。
【0037】
また、本発明のエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物には、酸化防止剤を配合することもできる。酸化防止剤の種類としては、一次酸化防止剤のフェノール系とアミン系、二次酸化防止剤のイオウ系とリン系があり、酸化防止剤を配合する場合は、一般的に一次酸化防止剤及び二次酸化防止剤を併用することが多い。ここで、特にアミン系/イオウ系の酸化防止剤の併用は、熱劣化に対する効果が認められることから、望ましい併用である。酸化防止剤の配合量としては、併用の場合は両者の合計で0〜10重量部であることが好ましく、これは配合量が多過ぎると、酸化防止剤の種類によっては架橋反応を阻害する虞れがあり、費用の面でも得策にならないからである。
【0038】
アミン系の酸化防止剤は、キノリン系と芳香族第二級アミンに大別され、前者には2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、6−エトキシ−1,2−ジヒドロ−2,2,4−トリメチルキノリンなどがある。後者にはフェニル−1−ナフチルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミン、4−4’−ビス(α,α−ジメチルベンゼン)ジエニルアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−p−フェニレンジアミンなどがある。
【0039】
フェノール系の酸化防止剤は、モノフェノール系、ビスフェノール系、ポリフェノール系に分類され、モノフェノール系には2−2’−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、モノ(α−メチルベンゼン)などがあり、ビスフェノール系には2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4−4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4−4’−チビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、p−クレゾールとジシクロペンタジエンのブチル化反応性生物、ジ(α−メチルベンゼン)などがあり、ポリフェノール系には2−5’−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2−5’−ジ−t−アルミハイドロキノン、トリ(α−メチルベンゼン)などがある。
【0040】
イオウ系酸化防止剤は、ベンツイミダゾール系、ジチオカルバミン酸塩系、チオウレア系、有機チオ酸系に大別され、ベンツイミダゾール系には2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩などがあり、ジチオカルバミン酸塩系にはジエチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジブチロジチオカルバミン酸ニッケルなどがあり、チオウレア系には1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオ尿素、トリブチルチオ尿素などがあり、有機チオ酸系にはチオジブチロピオ酸ジラウリルなどがある。
【0041】
リン系酸化防止剤は、亜リン酸系にトリス(ノニルフェニル)ボスファイトがある。
【0042】
本発明においては、上記酸化防止剤もしくは老化防止剤を複数種類混合してワンパックとした混合品を用いることも可能である。
【0043】
また、本発明のエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物には、上記のほか、ゴム組成物の加工性を改善するための加工助剤を配合することもできる。この加工助剤としては、軟化剤、粘着性付与剤・防止剤、可塑剤、滑剤などがある。具体例としては、パラフィン系・ナフテン系・芳香族系のプロセス油、潤滑油、パラフィン類、流動パラフィン類、ワセリン、ワックスなどの石油系軟化剤や可塑剤類;アタクチックポリプロピレン、液状ポリブテンなどの合成高分子軟化剤やフタル酸・トリメリット酸・アジピン酸・セバシン酸などのエステル系合成可塑剤;金属石鹸類、脂肪酸アマイド、PMMA系、フッ素系滑剤などが挙げられる。特にパラフィン系プロセス油、パラフィン類、流動パラフィンが好ましく用いられる。
【0044】
さらに、本発明のエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物には、その用途に応じて酸化カルシウムなどの脱水剤、着色剤、顔料、紫外線吸収剤、オゾン劣化防止剤、難燃剤など通常のゴム配合に用いられる配合剤を配合することもできる。これらの配合剤としては、電気絶縁特性に悪影響を及ぼさない配合剤を配合することが好ましい。
【0045】
着色剤としてカーボンブラックを用いた場合は、EPDM100重量部に対して0.1重量部以上10重量部を超えない範囲で配合することが好ましく、カーボンブラックとしては、粒子径90〜500nmのFTカーボンブラック(Fine Thermal Furnace Black)やMTカーボンブラック(Medium Furnace Black)を用いることが好ましい。
【0046】
また、本発明のエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物については、これを調整する方法、配合剤の添加順序等に関しては特に限定されるものではない。また、配合剤の混合に関しては各種押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどを用いて混練することにより行うことができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明の電線・ケーブルによれば、架橋効率の良いEPDM組成を採用することにより架橋剤である有機化酸化物の含有量を減らして架橋残渣を少なくすることができ、架橋後の乾燥時間を短縮し製造効率を高めることができると共に、優れた耐熱性、電気絶縁特性、機械的特性、及び、良好な外観を有する電線・ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電線・ケーブルの構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、図1に基づいて本発明の好適な実施の形態を説明する。
【0050】
図1の電線・ケーブルは、本発明に係るエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物(EPDM)を高圧絶縁体に用いて構成されたレントゲンケーブルである。
【0051】
図1において、1は導体、2は導体1の周上に設けられた絶縁体、3は導体1及び絶縁体2からなる絶縁電線、4は裸導線、5は夫々一対の絶縁電線3及び裸導線4からなる芯線(コア)、6は芯線(コア)5の周上に設けられた半導電層である。さらに、7は半導電層6の周上に設けられた高圧絶縁体であり、この高圧絶縁体7は、本発明に係るエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物(EPDM)により構成されると共に半導電層6の周上に押出しにより被覆され架橋されて形成される。8は高圧絶縁体7の周上に設けられた遮蔽層、9はシースである。
【0052】
このレントゲンケーブルは、芯線(コア)5の周上に設けられた半導電層6の周上に上記エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物(EPDM)を押出しにより被覆し、飽和水蒸気(190℃)下で連続押出架橋して高圧絶縁体7を形成し、これにより得られた高圧絶縁線芯を80℃で72時間乾燥させた後、遮蔽層8及びシース9を形成して、製造される。このレントゲンケーブルの外径は16.6mmである。
【実施例】
【0053】
上記レントゲンケーブルの高圧絶縁体に用いられるエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物(EPDM)の組成について、様々な配合を試み、実施例及び比較例として、以下の通り実施した。
【0054】
[EPDMの種類とその成分]
ベースとなるエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム(EPDM)の種類とその成分は表1の通りである。
【0055】
【表1】

【0056】
[混練]
混練は、オープンロールを用いて10秒程度行った。
【0057】
[成形・架橋]
プレスにより1mm厚のシートに成形。13気圧の飽和水蒸気で3分間加熱し架橋した。
【0058】
[引張試験]
成形、架橋したシートを4号ダンベルで打ち抜き、500mm/minで引張試験機を用いて引張試験を行い、引張強さ、伸び、200%伸長時の強さ(200%モジュラス)を測定した。測定値はn=5の平均値とした。
【0059】
[硬さ測定]
ショアA硬度計を使用し、3秒値を測定した。なお、硬さ測定用のシート厚さは6mmとした。測定は5箇所実施し、その平均値を測定値とした。
【0060】
[電気絶縁特性試験]
所定時間80℃の恒温槽で乾燥した1mm厚シートの体積抵抗率を測定した。即ち、平行平板電極に1mm厚シートを挟み直流500Vで流れる電流値を測定し、次式により体積抵抗率を算出した。
ρv=r2×π×V/t×IV
ρv:体積抵抗率
r:電極半径
V:印加電圧
t:試料厚さ
V:電流値
【0061】
[外観判定]
オープンロールを用いて混練し、押出機により押出成形したストランドゴム組成物の表面粗さを目視にて判定した。
【0062】
[合否判定]
機械的特性の指標として、引張強さ4Mp以上、伸び300%以上を採用した。可撓性の指標として、200%モジュラス6.0MPa以下且つ硬さ60以下を採用した。電気絶縁特性及び乾燥時間の指標として、80℃24時間の乾燥で5.0×1016Ω・cmの体積抵抗率を有し、製品外観上問題のないものを合格(○)、そうでないものを不合格(×)とした。
【0063】
上記各実施例及び比較例において用いられるエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物(EPDM)の組成とその評価結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
上記表2より、比較例1は、無機充填剤に表面未処理の非焼成タルクを使用しており、表面未処理であることから飽和水蒸気による架橋中にゴムと無機充填剤との界面に水分が入り込む。さらに、非焼成タルクであることから保有水を多く含んでおり、所定の乾燥時間では体積抵抗率を充分上げることができなかった。比較例2は、架橋剤の量が足りず、架橋が不充分なため満足な引張強さを得ることができなかった。比較例3は、架橋剤の量が多過ぎ架橋が進み過ぎるため目標とする可撓性を得ることができなかった。比較例4は、EPDMの第三成分がVNBでないため0.5重量部の架橋剤の量では足りないと見えて、満足な引張強さを得ることができなかった。比較例5は、エチレン含有量が多過ぎるため樹脂ライクとなり、目標とする可撓性を得ることができなかった。比較例6は、EPDMの第三成分がVNBでないため架橋剤の量が足りず、架橋が充分進まないため満足な引張強さを得ることができず、さらに、無機充填剤の量が足りないため外観が荒れてしまった。これに対し実施例1〜5は、いずれも問題がなく、良好な結果であった。
【0066】
[ケーブルでの絶縁破壊強さ]
実施例1〜5及び比較例1、3のエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物(EPDM)を用いて、前記した製造方法により図1のレントゲンケーブルを作製した。即ち、半導電層6の周上にエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物(EPDM)を押出しにより被覆し、飽和水蒸気(190℃)下で連続押出架橋して高圧絶縁体7を形成し、これにより得られた高圧絶縁線芯を80℃で72時間乾燥させた後、遮蔽層8及びシース9を形成して、外径は16.6mmのレントゲンケーブルを作製した。このレントゲンケーブルについて120kVの直流電圧を10分間印加し、続いて1分毎に10kVずつ直流電圧を昇圧させてケーブルが破壊するまで直流電圧を昇圧させた。これにより破壊電圧が280kVを越えるものを合格と判定すると、実施例1〜5は全て合格であり、比較例1、3は不合格であった。
【0067】
以上、本発明の実施例によれば、架橋効率の良いEPDM組成を採用することにより架橋剤である有機化酸化物の含有量を減らして架橋残渣を少なくすることができ、また、水分の浸透を少なくすることができるため、架橋後の乾燥時間を短縮し製造効率を高めることができると共に、優れた耐熱性、電気絶縁特性、機械的特性、及び、良好な外観を有する電線・ケーブルを提供することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 導体
2 絶縁体
3 絶縁電線
4 裸導線
5 芯線(コア)
6 半導電層
7 高圧絶縁体
8 遮蔽層
9 シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン含有量50〜60重量%、共重合後末端に二重結合を持つジエン成分含有量1〜5重量%のエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム100重量部に対し、有機化酸化物0.1〜2重量部及び焼成された無機充填剤50重量部以上を配合してなるエチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム組成物を絶縁体及び/またはシースを構成する被覆材料として用いたことを特徴とする電線・ケーブル。
【請求項2】
前記ジエン成分が、5−ビニル−2−ノルボルネンからなることを特徴とする請求項1に記載の電線・ケーブル。
【請求項3】
前記無機充填剤が、粒径1μm以下の無機粉粒体からなることを特徴とする請求項2に記載の電線・ケーブル。
【請求項4】
前記無機充填剤が、有機シランにより表面処理された無機粉粒体からなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の電線・ケーブル。

【図1】
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【公開番号】特開2011−171004(P2011−171004A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31474(P2010−31474)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】