説明

電線芯線の止水処理構造及び電線芯線の止水処理方法

【課題】電線の絶縁被覆を中間皮剥して露出した芯線にシリコーン樹脂を滴下した後ホットメルト入り熱収縮チューブで覆うようにした電線芯線の止水処理構造を提供する。
【解決手段】一端に接続端子12が圧着接続された電線1の絶縁被覆1bを中間皮剥して芯線1aを露出させ、この露出部における芯線の多数の素線同士の隙間を防水して圧着接続部から電線内部に浸水する水を遮断する電線芯線の止水処理構造であって、露出部の芯線にシリコーン樹脂13を滴下して多数の素線同士の隙間に浸透させて圧着接続部から電線内部に浸水する水を遮断し、中間皮剥した部分1cをホットメルト入り熱収縮チューブ15で覆う構造としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネス等を構成する電線の接続端子との圧着接続部から電線内部に浸透する水を遮断する電線芯線の止水処理構造及び電線芯線の止水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車においてワイヤーハーネスの車外に取り付けられたアース端子の圧着部等から吸い上げられた水が電線の芯線間から浸水し、その先のコネクタ(接続部)や補機等に到達して電気的な不具合を生じさせる問題に対処すべく図10に示すように電線1の端末に圧着接続されたアース端子2の端子圧着部2a全体を樹脂部材3によりモールドした構造、図11に示すように電線1の端末に圧着接続されたアース端子2の端子圧着部2a全体をホットメルト入り熱収縮チューブ4で被覆した構造、図12に示すようにアース回路の複数の電線1をテープ5で束ね、それらの各芯線1aを束ねて溶接して集中ジョイント部(溶接部)6とし、この集中ジョイント部6をキャップ7に収容してシリコーン樹脂8にジャブ漬けし、ジャブ漬けした集中ジョイント部6から引き出した1本の電線1の芯線1aの端末にアース端子2の端子圧着部2aを圧着接続した構造(例えば、特許文献1参照)、或いは図13に示すように電線1の端末に端子圧着部2aを圧着接続したアース端子2の近傍位置で電線1の絶縁被覆1bを適宜の長さに亘り皮剥し、露出した芯線1aを溶接して平板状の溶接部9とした後、ホットメルト入り熱収縮チューブ4又はシリコーン樹脂を塗布したテープ10で被覆した構造(例えば、特許文献2参照)等が提案されている。
【特許文献1】特開2003−9334号公報(2ページ、図1)
【特許文献2】特開2004−072943号公報(3〜4ページ、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した図8に示す樹脂モールドでは端子毎、電線組合せ毎に専用の金型が必要となり、また、成形時間が長く、材料費が高くなる。図9に示す構造は一品一様の金型及び冶具が必要となり、コストが高くなると共に段替えが多く作業性が悪い。図10に示す構造は、集中ジョイントが無いアース回路ではわざわざジョイント部を作らなければならずコストが高くなる。また、図11に示す中間皮剥後芯線の各素線同士を溶接する場合は設備費が高くなる等夫々問題がある。
【0004】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、電線の絶縁被覆を中間皮剥して露出した芯線にシリコーン樹脂を滴下した後ホットメルト入り熱収縮チューブで覆うようにした電線芯線の止水処理方法及び電線芯線の止水処理構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明の請求項1に記載の電線芯線の止水処理構造は、一端に接続端子が圧着接続された電線又は接続端子を接続する前の電線の絶縁被覆を中間皮剥して芯線を露出させ、この露出部における芯線の多数の素線同士の隙間を防水して前記圧着接続部から電線内部に浸水する水を遮断する電線芯線の止水処理構造であって、前記露出部の芯線に止水剤を多数の素線同士の隙間に浸透させて前記圧着部から電線内部に浸水する水を遮断し、前記中間皮剥した部分をホットメルト入り熱収縮チューブで覆うことを特徴としている。
【0006】
電線は、一側端末の芯線に接続端子が圧着接続されている。または、一側端末に接続端子が接続される。この電線の絶縁被覆の所望の位置を適宜の長さに亘り皮剥して中間皮剥部を形成して芯線を露出させる。そして、露出した芯線の任意の位置に止水剤を滴下する。滴下した止水剤は、芯線を形成している多数の素線同士の隙間に浸透してこれらの隙間を埋めて当該滴下した位置の芯線の両側を液密に遮断する。これにより電線の接続端子側から機器側への浸水が完全に遮断されて止水される。
【0007】
この止水剤を滴下した後に中間皮剥部にホットメルト入り熱収縮チューブを被せて熱収縮させ中間皮剥部全体を液密にかつ電気的に絶縁被覆する。これにより電線の絶縁被覆の中間皮剥部が絶縁されかつ防水される。
【0008】
また、本発明の請求項2に記載の電線芯線の止水処理構造は、請求項1に記載の電線芯線の止水処理構造において、前記止水剤は前記露出部における芯線の任意の位置に滴下することを特徴としている。
【0009】
止水剤は、絶縁被覆が中間皮剥されて露出した部分の任意の箇所に滴下しても芯線を形成する多数の素線同士の狭い隙間に満遍なく浸透してこれらの隙間を埋めることができ、止水することができる。
【0010】
また、本発明の請求項3に記載の電線芯線の止水処理構造は、請求項1又は請求項2に記載の電線芯線の止水処理構造において、前記止水剤は低粘度シリコーン樹脂であることを特徴としている。
【0011】
低粘度シリコーン樹脂は、芯線を形成する多数の素線同士の狭い隙間に容易に浸透してこれらの隙間を埋める。これにより、低粘度シリコーン樹脂を滴下した両側が液密に遮断されて止水される。
【0012】
また、本発明の請求項4に記載の電線芯線の止水処理構造は、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の電線芯線止水処理構造において、前記ホットメルト入り熱収縮性チューブは防水熱収縮チューブであることを特徴としている。
【0013】
ホットメルト入り熱収縮チューブとして防水熱収縮チューブを使用することで電線の絶縁被覆の中間皮剥した部分を液密に覆い芯線を絶縁しかつ防水することができる。
【0014】
また、本発明の請求項5に記載の電線芯線の止水処理方法は、一端に接続端子が圧着接続された電線又は接続端子を接続する前の電線の絶縁被覆を中間皮剥して芯線を露出させ、この露出部における芯線の多数の素線同士の隙間を防水して前記圧着接続部から電線内部に浸水する水を遮断する電線芯線の止水処理方法であって、前記露出部における芯線にシリコーン樹脂を多数の素線同士の隙間に浸透させた後ホットメルト入り熱収縮チューブで前記中間皮剥した部分を覆うことを特徴としている。
【0015】
電線の芯線は、多数の素線からなり、一側端末の絶縁被覆が剥ぎ取られて露出した芯線に接続端子が圧着接続されて固定されている。または、一側端末に接続端子が接続される。この電線の絶縁被覆の所望の位置を適宜の長さに亘り皮剥して中間皮剥部を形成して芯線を露出させる。次いで、露出した芯線の任意の位置に止水剤を滴下する。滴下した止水剤は、多数の素線同士の隙間に浸透してこれらの隙間を埋めて当該滴下した位置の芯線の両側を液密に遮断する。これにより電線の接続端子側から機器側への浸水が完全に遮断されて止水される。
【0016】
そして、止水剤を滴下した後に中間皮剥部にホットメルト入り熱収縮チューブを被せて熱収縮させ中間皮剥部全体を液密にかつ電気的に絶縁被覆する。これにより電線の絶縁被覆の中間皮剥部が絶縁されかつ防水される。
【0017】
また、本発明の請求項6に記載の電線芯線の止水処理方法は、少なくとも一端に接続端子が圧着接続された電線又は接続端子を接続する前の電線の絶縁被覆の任意の位置で電線芯線を一部露出させ、この露出部に止水剤を滴下して芯線の多数の素線同士の隙間を防水して、前記電線の一端から電線内部に浸水する水を遮断することを特徴としている。
【0018】
電線の絶縁被覆の任意の位置で電線芯線の一部を露出させ、露出した電線芯線に止水剤を滴下する。滴下した止水剤は、多数の素線同士の隙間に浸透してこれらの隙間を埋めて当該滴下した位置の芯線の両側を液密に遮断する。
【0019】
また、本発明の請求項7に記載の電線芯線の止水処理方法は、請求項6に記載の電線芯線止水処理方法において、前記露出部は前記絶縁被覆を長手方向及び周方向に沿って一部を除去し、前記電線芯線を長手方向及び周方向に沿って一部を露出させることを特徴としている。
【0020】
絶縁被覆の露出部は、絶縁被覆を長手方向に沿ってかつ周方向に沿って一部を取り除いて形成し、この露出部から電線芯線の一部を露出させて止水剤を滴下する。
【0021】
また、本発明の請求項8に記載の電線芯線の止水処理方法は、請求項6に記載の電線芯線止水処理方法において、前記露出部は前記絶縁被覆を長手方向及び周方向に沿って一部を復元可能に除去し、前記止水剤を滴下した後前記除去した絶縁被覆を元の状態に戻して電線芯線の絶縁処理をすることを特徴としている。
【0022】
絶縁被覆の露出部は、絶縁被覆を長手方向に沿ってかつ周方向に沿って一部を復元可能に一時的に取り除いて形成し、この露出部から電線芯線の一部を露出させて止水剤を滴下する。止水剤を滴下して止水した後一時的に取り除いた絶縁被覆部を元の状態に戻して露出部を覆い電線芯線を絶縁処理する。
【0023】
また、本発明の請求項9に記載の電線芯線の止水処理方法は、請求項6に記載の電線芯線止水処理方法において、前記露出部は前記絶縁被覆を長手方向及び周方向に沿って一部を除去し、前記止水剤を滴下した後前記除去した絶縁被覆の形状と同一形状の絶縁部材を前記電線芯線の露出部に接合させることを特徴としている。
【0024】
絶縁被覆の露出部は、絶縁被覆を長手方向に沿ってかつ周方向に沿って一部を取り除いて形成し、この露出部から電線芯線の一部を露出させて止水剤を滴下する。止水剤を滴下して止水した後前記除去した絶縁被覆と同一形状の絶縁部材を露出部に接合して電線芯線を覆い絶縁処理を行う。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、従来のように端子毎の樹脂モールド用の金型が不要であり、ホットメルト入り熱収縮チューブを使用する場合でも確実に圧着部を覆うようにチューブを収縮させる際に端子毎に専用の冶具が不要であり、汎用性がある。
【0026】
また、電線の任意の位置で止水処理ができ、ワイヤーハーネスを実車に組み付ける際に任意の場所での止水処理が可能であり、また、アース回路の集中ジョイントの場合でも特定の回路のみ電線芯線の止水処理が可能である。また中間皮剥部に露出した芯線の任意の位置に止水剤を滴下しても止水性能を有することができ、作業が容易であると共に作業性の向上が図られる。
【0027】
更に、止水剤としてのシリコーン樹脂にジャブ漬けする場合と異なりシリコーン樹脂の使用量が少なく、しかも滴下するだけで低粘度シリコーン樹脂を多数の素線同士の狭い隙間に浸透させることができ、安価でタクトタイムを大幅に短縮することができる。
【0028】
また、絶縁被覆を長手方向に沿ってかつ周方向に沿って一部を取り除いて形成した露出部から電線芯線の一部を露出させて止水剤を滴下することで、止水剤の滴下量が少なくなりロスが低減されると共に滴下した止水剤が溜まり浸透性が向上する。また、露出部において電線芯線を一部露出させることで電線芯線が折れ曲がり難くなり、作業性の向上が図られると共に品質の悪化が防止される。更に、絶縁被覆を復元可能に一時的に取り除き、止水剤滴下後に元の状態に戻して再度使用することで絶縁処理用の部品代を低減することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係わる電線芯線の止水処理構造の第1の実施形態の概略構成を示し、図1(a)に示すようにワイヤーハーネス等を構成する電線1の端末に電気接続端子例えばアース端子12が圧着接続されている。アース端子12は、ボルト取付穴12aを有する円形状の電気接続部12bと電気接続部12bと連続した平板状の基板部12cとを有し、基板部12cには電線1の芯線圧着用バレル12dと絶縁被覆圧着用バレル12eが幅方向の両側から突出して形成されている。
【0030】
電線1の芯線1aは、多数の素線からなり、一側端末の絶縁被覆1bが剥ぎ取られて露出しており、アース端子12の芯線圧着用バレル12dに圧着接続されて電気的に接続され、絶縁被覆1bの端末が絶縁被覆圧着用バレル12eに圧着されて固定されている。電線1の他側は、図示しない機器等に接続される。そして、この電線1とアース端子12との圧着接続構造において絶縁被覆1bの所望の位置例えば図1(b)に示すようにアース端子12近傍位置を適宜の長さd(例えば15mm程度)に亘り皮剥して中間皮剥部1cを形成して芯線1aを露出させる。
【0031】
次いで、図1(c)に示すように中間皮剥部1cに露出した芯線1aの任意の位置例えば中央位置に止水剤(シール部材)としてのシリコーン樹脂例えば低粘度シリコーン樹脂13を滴下する。滴下した低粘度シリコーン樹脂13は、芯線1aを構成する多数の素線同士の狭い隙間に浸透してこれら素線間の狭い隙間を埋めて当該滴下した位置の芯線1aの両側を液密に遮断して止水する。なお、図1(c)において低粘度シリコーン樹脂13は、透明に描いてある。
【0032】
この低粘度シリコーン樹脂13として例えば信越化学株式会社製(製品名:SJ−KE3420)がある。この低粘度シリコーン樹脂13は、市販されている液体定量吐出機を用いて単に中間皮剥した箇所において露出している芯線1aに滴下するだけで多数の素線同士の隙間に容易に浸透させることができる。
【0033】
そして、この低粘度シリコーン樹脂13を滴下した直後に図1(c)に示すようにホットメルト入り熱収縮チューブ15で覆い、図1(d)に示すように熱収縮させて中間皮剥部1c全体を液密にかつ電気的に絶縁被覆する。なお、図1(c)においてホットメルト入り熱収縮チューブ15は、透明に描いてある。これにより電線1の芯線1aは、中間皮剥部1cの両側即ちアース端子12が圧着接続された一側と機器等に接続される側とが完全に止水される。ホットメルト入り熱収縮チューブとして例えばレイケム社製防水熱収縮チューブ(製品名:ES−1)がある。
【0034】
次に、上記電線芯線の止水処理構造の止水性能を実施例により説明する。
【実施例】
【0035】
(1)サンプル仕様
電線:AVSSH 0.5sq、 L=35mm
シリコーン樹脂:信越化学株式会社製低粘度シリコーン樹脂(製品名:SJ−KE3420)、常温粘度:0.6Pa・sec、 数滴
ホットメルト入り熱収縮チューブ:レイケム社製(防水熱収縮チューブ:製品名:ES−1)
(2)仕様設備
皮剥機:ユニオン製の中間皮剥機
シリコーン樹脂吐出機:汎用の溶剤定量吐出機
ホットメルト入りチューブ熱収縮機:汎用の熱収縮機
(3)サンプル製作手順
雰囲気27℃、湿度40%のもと、下記手順でサンプルを製作した。
(i)図2に示すように電線1の絶縁被覆1bの略中央を中間皮剥機により長さd(=8mm)に亘り皮剥(ストリップ)して中間皮剥部1cを形成した。
(ii)低粘度シリコーン樹脂滴下
a.中間皮剥部1c全体に低粘度シリコーン樹脂13を滴下した(図3)。
b.低粘度シリコーン樹脂の滴下位置を、中間皮剥部(ストリップ部)1cの片端(図4)、中央(図5)、両端(図6)として、1滴ずつ低粘度シリコーン樹脂13を滴下した。なお、片端、両端への滴下の際は、芯線1aの多数の素線同士の狭い隙間により浸透しやすいように皮剥端(ストリップ端)を狙って低粘度シリコーン樹脂13を滴下した。
c.ホットメルト入り熱収縮チューブを用いた止水処理
低粘度シリコーン樹脂を滴下した後、図7に示すように一定時間後にホットメルト入り熱収縮チューブ15により中間皮剥部1c全体を止水処理した。このホットメルト入り熱収縮チューブ15の長さDは、中間皮剥部(スリット部)1cの長さdに比べて十分に長く(D>d)例えばD=50mmに設定されており、中間皮剥部1c全体を完全に液密に密封している。なお、図7においてホットメルト入り熱収縮チューブ15は透明に描いてある。
(4)評価手順
サンプル作成後1日放置してシールテストを行った。シールテストは、一方の電線端末より圧縮空気(MPa)を30sec送り水没させたサンプルの他方からの気泡の発生を目視してリークを確認し、空気漏れのないものを合格と判定した。
(5)評価結果
(i)低粘度シリコーン樹脂滴下後の放置時間ごとの止水性能を表1に示す。なお、低粘度シリコーン樹脂滴下位置は、中間皮剥部(ストリップ部)1c全体とした。そして、止水性能合格を○、不合格を×で示した(サンプル数n=各20本)。
【0036】
【表1】

上記結果より、全数とも止水性能が合格であった。
(ii)低粘度シリコーン樹脂滴下位置による止水性能を表2に示す(サンプル数n=各20本)。
【0037】
【表2】

上記結果より、低粘度シリコーン樹脂滴下位置による止水性能の変化は見られず、最悪条件と思われた中間皮剥部(ストリップ部)1cの中央部への低粘度シリコーン樹脂を滴下した場合でも止水性能が合格であった。更に1滴程度の低粘度シリコーン樹脂を各位置に滴下しただけで全てのサンプルで止水性能が合格であった。
【0038】
この結果、低粘度シリコーン樹脂滴下後、直ちに(約5〜10sec)ホットメルト入り熱収縮チューブで処理しても止水性能が確保できた。また、中間皮剥部(ストリップ部)1cの全体に低粘度シリコーン樹脂を滴下しなくとも1滴の低粘度シリコーン樹脂を中間皮剥部の片端若しくは中央部に滴下するだけで止水性能が確保できることが明かとなった。
【0039】
図8は、本発明に係わる電線芯線の止水処理方法の第2の実施形態を示し、電線1の絶縁被覆1bの任意の位置に長手方向に沿って適宜の長さ(例えば15mm程度)かつ周方向に沿って適宜の長さ例えば略半周に亘り切り欠いて略半円筒形状をなす絶縁被覆部1dを取り除き、上方に略半円筒形状に開口する露出部1eを形成したものである。この場合、絶縁被覆部1dは、復元可能即ち露出部1eに再度使用可能に取り除くことが好ましい。そして、電線芯線1aは、露出部1eにおいて周方向に沿って略下半分が略半円筒形状の絶縁被覆1b内にあり上側の半分程度が露出している。
【0040】
この状態において露出部1eから露出している電線芯線1aの適宜の位置、例えば略中央位置に止水剤としての低粘度シリコーン樹脂13を滴下する。露出部1eは、下側半分が絶縁被覆1bとされているために滴下された低粘度シリコーン樹脂13が露出部1e内に溜まる。これにより、低粘度シリコーン樹脂13の電線芯線1aの各素線間への浸透性が向上すると共に滴下量を少なくすることができる。また、露出部1eにおいて電線芯線1aは、周方向に略半円筒形状に絶縁被覆1bにより覆われていることで折れ曲がり難く、作業性の向上が図られると共に折れ曲がりに起因する品質の悪化が防止される。低粘度シリコーン樹脂13を滴下して止水処理した後前記取り除いた絶縁被覆部1dを露出部1eに接合して再び覆い絶縁処理を行う。これにより絶縁処理用の部品代の低減が図られる。
【0041】
図9は、図8に示す絶縁被覆1bの露出部の変形例を示し、絶縁被覆1bを例えばカンナで円弧状にそぎ落とすように絶縁被覆部1fを取り除いて露出部1gを形成し電線芯線1aの一部を露出させるようにしたものである。この場合、絶縁被覆部1fは、復元可能即ち露出部1gに再度使用可能に取り除くことが好ましい。そして、電線芯線1aは、露出部1gにおいて周方向に沿って略下半分が絶縁被覆1b内にあり、上側の半分程度が露出している。そして、露出部1gに露出している電線芯線1aに低粘度シリコーン樹脂13を滴下して止水処理を行う。低粘度シリコーン樹脂13を滴下して止水処理した後前記取り除いた絶縁被覆部1fを露出部1gに接合して再び覆い絶縁処理を行う。これにより絶縁処理用の部品代の低減が図られる。
【0042】
尚、図8及び図9において露出部1e,1gを形成するために取り除いた絶縁被覆部1d,1fは、止水処理をした後再び元の状態に戻して電線芯線の絶縁処理をしてもよく、或いはこれらの絶縁被覆部1d,1fの形状と同一形状の絶縁部材を形成して露出部1e,1gに接合して電線芯線1aを覆うようにして電線芯線の絶縁処理をしても良い。また、図8及び図9に示すような露出部を有する電線芯線の止水処理構造としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる電線芯線の止水処理構造における止水処理手順の説明図である。
【図2】本発明の電線芯線の止水処理構造における止水性能の実施例における絶縁被覆の中間皮剥部の説明図である。
【図3】図2に示した中間皮剥部に露出した芯線の中間皮剥部全体にシリコーン樹脂を滴下した場合の説明図である。
【図4】図2に示した中間皮剥部に露出した芯線の片端にシリコーン樹脂を滴下した場合の説明図である。
【図5】図2に示した中間皮剥部に露出した芯線の中央にシリコーン樹脂を滴下した場合の説明図である。
【図6】図2に示した中間皮剥部に露出した芯線の両端にシリコーン樹脂を滴下した場合の説明図である。
【図7】図2に示した中間皮剥部をホットメルト熱収縮チューブで覆う場合の説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係わる電線芯線の止水処理方法における絶縁被覆の電線芯線の露出部の説明図である。
【図9】図8に示した絶縁被覆の電線芯線の露出部の変形例を示す説明図である。
【図10】従来の電線の止水構造の一例を示し、電線とアース端子との圧着接続部を樹脂部材でモールドした止水構造の説明図である。
【図11】従来の電線の止水構造の他の例を示し、電線とアース端子との圧着接続部をホットメルト入り熱収縮チューブで被覆した止水構造の説明図である。
【図12】従来の電線の止水構造の他の例を示し、複数の電線の芯線を集中して溶接しシリコーン樹脂にジャブ漬けした止水構造の説明図である。
【図13】従来の電線の止水構造の他の例を示し、電線の絶縁被覆の中間部を皮剥し露出した芯線を溶接してホットメルト入り熱収縮チューブで被覆した止水構造の説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1 電線
1a 芯線
1b 絶縁被覆
1c 中間皮剥部
1d,1f 絶縁被覆部
1e,1g 露出部
2 アース端子
2a 端子圧着部
3 樹脂部材
4 ホットメルト入り熱収縮チューブ
5 テープ
6 集中ジョイント部(溶接部)
7 キャップ
8 シリコーン樹脂
9 溶接部
10 テープ
12 アース端子(接続端子)
12a ボルト取付穴
12b 電気接続部
12c 基板部
12d 芯線圧着用バレル
12e 絶縁被覆圧着用バレル
13 低粘度シリコーン樹脂
15 ホットメルト入り熱収縮チューブ(防水熱収縮チューブ)
d 中間皮剥部の長さ
D ホットメルト入り熱収縮チューブの長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に接続端子が圧着接続された電線又は接続端子を接続する前の電線の絶縁被覆を中間皮剥して芯線を露出させ、この露出部における芯線の多数の素線同士の隙間を防水して前記圧着接続部から電線内部に浸水する水を遮断する電線芯線の止水処理構造であって、
前記露出部の芯線に止水剤を多数の素線同士の隙間に浸透させて前記圧着接続部から電線内部に浸水する水を遮断し、前記中間皮剥した部分をホットメルト入り熱収縮チューブで覆うことを特徴とする電線芯線の止水処理構造。
【請求項2】
前記止水剤は前記露出部における芯線の任意の位置に滴下することを特徴とする、請求項1に記載の電線芯線の止水処理構造。
【請求項3】
前記止水剤は低粘度シリコーン樹脂であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の電線芯線の止水処理構造。
【請求項4】
前記ホットメルト入り熱収縮チューブは防水熱収縮チューブであることを特徴とする、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の電線芯線の止水処理構造。
【請求項5】
一端に接続端子が圧着接続された電線又は接続端子を接続する前の電線の絶縁被覆を中間皮剥して芯線を露出させ、この露出部における芯線の多数の素線同士の隙間を防水して前記圧着接続部から電線内部に浸水する水を遮断する電線芯線の止水処理方法であって、
前記露出部における芯線に止水剤を多数の素線同士の隙間に浸透させた後ホットメルト入り熱収縮チューブで前記中間皮剥した部分を覆うことを特徴とする電線芯線の止水処理方法。
【請求項6】
少なくとも一端に接続端子が圧着接続された電線又は接続端子を接続する前の電線の絶縁被覆の任意の位置で電線芯線を一部露出させ、この露出部に止水剤を滴下して芯線の多数の素線同士の隙間を防水して、前記電線の一端から電線内部に浸水する水を遮断することを特徴とする電線芯線の止水処理方法。
【請求項7】
前記露出部は前記絶縁被覆を長手方向及び周方向に沿って一部を除去し、前記電線芯線を長手方向及び周方向に沿って一部を露出させることを特徴とする、請求項6に記載の電線芯線の止水処理方法。
【請求項8】
前記露出部は前記絶縁被覆を長手方向及び周方向に沿って一部を復元可能に除去し、前記止水剤を滴下した後前記除去した絶縁被覆を元の状態に戻して電線芯線の絶縁処理をすることを特徴とする、請求項6に記載の電線芯線の止水処理方法。
【請求項9】
前記露出部は前記絶縁被覆を長手方向及び周方向に沿って一部を除去し、前記止水剤を滴下した後前記除去した絶縁被覆の形状と同一形状の絶縁部材を前記電線芯線の露出部に接合させることを特徴とする、請求項6に記載の電線芯線の止水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−287647(P2007−287647A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212709(P2006−212709)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河オートモーティブパーツ株式会社 (571)
【Fターム(参考)】