説明

電線補強具、電線の補強構造、及び電線の補強方法

【課題】劣化、或いは他物接触等によって導線部分が損傷した絶縁被覆電線を、電線の切断による停電を伴わずに、応急措置的に補修、補強することができる電線補強具、電線の補強構造、及び電線の補強方法を提供する。
【解決手段】電線補強具は、断面形状を略U字、或いは略C字状とした導電性板材料からなるスリーブからなる。または、断面形状を略U字、或いは略C字状とした導電性板材料からなる2つの圧着部と、2つの圧着部間を電気的に接続する連設片とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は停電を伴わずに、劣化、或いは他物接触等によって導線部分が損傷した絶縁被覆電線を応急措置的に補修、補強するための電線補強具、電線の補強構造、及び電線の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低・高圧線路用の電線や、需要家に引き込むための低圧引き込み線用の電線が劣化、或いは飛来物、その他の物体との接触等によって損傷した場合(絶縁被覆の損傷のみならず、内部導線の損傷も含む)、損傷した電線を補修するために従来は当該電線に対する通電を遮断した上で、仮復旧による改修、或いは足し線による本復旧のための改修による本復旧を行っていた。
【0003】
仮復旧による改修作業においては、例えば図5(a)に示すように電線100への損傷が内部導線にまで達している場合に、まず(b)に示すように損傷した内部導線箇所を含む電線部分を所定長に亘って切断除去する。次いで、(c)に示すように切断により残した電線の両端部の絶縁被覆102を所定長に亘って除去することにより導線101を露出させる。符号105はアルミ、銅等からなるスリーブであり、このスリーブ105の両端部から(d)に示すように各電線端部に露出した導線101を夫々差し込んでからスリーブを導線外周面に圧着させる。圧着に際しては専用の工具を用いてスリーブ外面を数カ所に亘り加圧する(潰す)。その後、スリーブ105の外面を含む電線外面に対して絶縁テープ等を巻き付けて作業を完了する。
【0004】
なお、図示したようなスリーブ105に代えて所謂S型スリーブを用いて2つの電線端部を捻り圧着により接続する方法も知られている。
また、足し線による改修作業(本復旧作業)においては、図6(a)(b)に示すようにまず隣接し合う2の電柱110a、110b間に架線された電線100の損傷部分の近傍で電線を切断し、切断された2本の電線部分のうち各電柱からの長さが短い方の切断電線100bを損傷部分と共に除去する。そして、(c)において除去された方の切断電線100bに代えて新たな張り替え用の電線100Nを電柱110bから引き延ばし、電線110aと電線110Nの各端部の絶縁被覆を剥ぎ取って導線部分を露出させる。この際スリーブカバー115を電線100aに被せておく。次いで、(d)において図5(c)(d)に示した如きスリーブ105を両電線端部の露出した導線部分に被せてから圧縮して接続する。次いで、スリーブによる接続部の外面にスリーブカバー115をスライド移動させて被せ、スリーブカバー115の両端部をテープ116により各電線100a、100Nに固定する。
【0005】
しかし、何れの従来方法においても電線を切断する工程が必須となるために、停電せざるを得ず、需要家に与える悪影響が多大であった。
停電させないで電線を補修するとすれば、損傷部分を回避した仮送電ルートを形成するしか方法がないが、この方法によった場合、手数、工数、費用共に大幅に増大せざるを得なかった。
【0006】
特許文献1乃至4等には、活線状態にある電線の損傷部分に対して絶縁被覆外面から2つの半円筒状の部材、或いは開閉自在に連結された2つの部材を圧着することにより補修を行うための補修カバーについて夫々開示されている。
【特許文献1】特開平06−276640号公報
【特許文献2】特開平09−121417号公報
【特許文献3】特開2002−159114公報
【特許文献4】特開2004−320961公報
【特許文献5】特開2003−264917公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1乃至4に夫々記載された補修カバーは、何れも絶縁被覆外面から圧着されることにより絶縁被覆を保護するものであり、導線部分の損傷部分の導通低下を解消したり、損傷部分の拡大を防止することはできなかった。
また、特許文献5には、バイパス工法により所要の架線工事を行うべく露出せしめた被覆電線の芯線個所を工事終了後に補修せしめる電線補修用カバーが開示されている。この発明では、絶縁被覆を除去することにより露出した芯線部位に対して補修カバーを圧着することにより補修を行っているが、この補修カバーは芯線の損傷部分を補修するための構成は備えてはいないため、損傷部分が拡大して破断することを防止しつつ応急措置的に導通を確保し続けることはできない。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、劣化、或いは他物接触等によって導線部分が損傷した絶縁被覆電線を、電線の切断による停電を伴わずに、応急措置的に補修、補強することができる電線補強具、電線の補強構造、及び電線の補強方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明に係る電線補強具は、断面形状を略U字、或いは略C字状とした導電性板材料からなるスリーブからなることを特徴とする。
絶縁被覆電線の導線に達する損傷部分を補修する際に、電線を切断することなく、損傷部分を含む導線部分を所要範囲に亘って露出させてからこの露出面にスリーブを嵌着することにより、応急措置的な補修を行うことができる。
請求項2の発明に係る電線補強具は、断面形状を略U字、或いは略C字状とした導電性板材料からなる2つの圧着部と、2つの圧着部間を電気的に接続する連設片と、からなることを特徴とする。
絶縁被覆電線の導線に達する損傷がある場合に、損傷部分を露出させることなく、損傷部分の軸方向両側部分の絶縁被覆を所要範囲に亘って除去して導線部分を露出させた上で、2つの圧着部を圧着させることにより、補修を行うことが可能となる。これによれば、損傷部分に対して直接手を加えないので、損傷部分を拡大させることなく補修することができる。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、前記導電性板材料は、補強対象物となる絶縁被覆電線の導線部分と同材料であることを特徴とする。
導線とスリーブ、圧着部との間の導通を安定して確保することが可能となる。
請求項4の発明に係る電線の補強構造は、絶縁被覆電線の導線に形成された損傷部分を露出させた状態で、請求項1に記載の電線補強具を該損傷部分を含む導線外面に圧着したことを特徴とする。
損傷部分を含む導線を露出させた状態でスリーブによって圧着するので、損傷部分が拡大することを防止することができる。
【0011】
請求項5の発明に係る電線の補強構造は、絶縁被覆電線の導線に形成された損傷部分の軸方向両側に位置する導線部分を夫々露出させた状態で、請求項2に記載の電線補強具の各圧着部を該露出した導線部分外面に圧着したことを特徴とする。
損傷部分に対して直接手を加えない手順により、損傷部分を拡大させることなく補修することができる。
請求項6の発明は、請求項4又は5において、前記電線補強具の外面と、該電線補強具の軸方向両端側に位置する前記電線外面にかけて絶縁性材料から成るスリーブカバーを被せたことを特徴とする。
電線補強具は導電材料から成るので、絶縁性のスリーブカバーにより被覆することにより感電事故等を防止できる。
【0012】
請求項7の発明に係る電線の補強方法は、絶縁被覆電線の導線に形成された損傷部分を露出させるために導線を切断することなく前記絶縁被覆を所定長に亘って除去する絶縁被覆除去工程と、前記損傷部分を含む露出した前記導線の外面に請求項1又は2に記載の電線補強具を圧着する電線補強具圧着工程と、を備えたことを特徴とする。
請求項8の発明に係る電線の補強方法は、絶縁被覆電線の導線に形成された損傷部分の軸方向両側の導線部分を露出させるために導線を切断することなく前記絶縁被覆を所定長に亘って除去する絶縁被覆除去工程と、前記露出した前記導線部分の外面に請求項2に記載の電線補強具の各圧着部を圧着する電線補強具圧着工程と、を備えたことを特徴とする。
請求項9の発明は、請求項7又は8において、前記電線補強具圧着工程後に、前記電線補強具の外面に絶縁被覆を形成する工程を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、絶縁被覆電線の導線に形成された損傷部分を露出させた状態で、電線補強具を該損傷部分を含む導線外面に圧着することにより補修を行うことができるので、絶縁被覆電線の導線に達する損傷部分を補修する際に、電線を切断することなく、損傷部分を含む導線部分を所要範囲に亘って露出させてからこの露出面にスリーブを嵌着することにより、応急措置的な補修を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を図面に示した実施の形態により詳細に説明する。
図1(a)(b)及び(c)は本発明の一実施形態に係る電線補強具の構成を示す正面図、平面図、及び左側面図である。
この電線補強具1は、断面形状を略U字、或いは略C字状とした導電性板材料(圧着部)からなるスリーブ2から構成されている。即ち、スリーブ2は、矩形(帯状)の導電性板材料を略U字、或いは略C字状に加工したものである。この導電性板材料は、適用する電線の導線部分の材質に応じて同じ材料を選定すればよい。例えば、アルミニウムからなる導線に適用する場合には導電性板材料をアルミニウムにて構成し、銅からなる導線に適用する場合には導電性板材料を銅から構成する。これにより両者の導通を確保しやすくなる。また、電線補強具1の径寸法、肉厚は、適用する電線の径等に応じて選定する。
【0015】
図2(a)(b)及び(c)は本発明の電線補強具を用いて損傷部分を有した電線を補強する手順を示す図である。
まず、図2(a)ではまず、導線11に損傷部分11aを有した電線(絶縁被覆電線)10の絶縁被覆12を部分的に剥離することにより損傷部分11aを露出させる作業を実施する。絶縁被覆12を剥離する範囲は、そこに圧着する電線補強具1の長手方向長と同等か、それよりも若干長くする。電線補強具1としては、長尺のものを用意しておき、導線の露出部の長さに合わせて最適な長さに切断して使用する。即ち、図2(a)では、導線11と絶縁被覆12とからなる電線10の導線に形成された損傷部分11aを露出させるために導線を切断することなく絶縁被覆12を所定長に亘って除去する絶縁被覆除去工程を実施する。
【0016】
次いで、本発明の電線補強具1の開放部内に電線10の導線露出部分を嵌合させてから、図示しない圧縮ペンチ(例えば日本バーンデイ株式会社製、MYシリーズ)、或いは油圧式圧縮ヘッド(株式会社日本FCI製、Y35BHT−1)を用いて損傷部分を回避した電線補強具1の適所を数カ所圧縮すると共に、電線補強具1の内周面が導線11の外周面に密着するように電線補強具を全長に亘って略円筒状に加圧成型する(図2(b))。この圧着作業により導線外周面と電線補強具内面との間に隙間が形成されることがなくなり電気抵抗値の増大を防止しつつ、両者の機械的固定力を高めることが可能となる。なお、導線外周面と電線補強具内面との間の導通を確実にするためにコンパウンド等の導電剤を塗るようにしてもよい。このように図2(b)では、損傷部分11aを含む露出した導線の外面に電線補強具1を圧着する電線補強具圧着工程を実施する。
【0017】
最後に、図2(c)の補強構造に示すように、損傷部分11aを含む導線11の露出部に対して電線補強具1を圧着した後で、絶縁カバー(スリーブカバー)20を導線露出部、及びその両端にある絶縁被覆12にかけて圧着固定する。絶縁カバー20としては、例えば特許文献1乃至4に開示されたものを使用すればよい。即ち、図2(c)では、電線補強具1の外面に絶縁カバー20を用いて絶縁被覆を形成する工程を実施する。電線補強具は導電性であるため、絶縁カバーをしないと感電事故等の虞があるからである。
【0018】
なお、損傷部分の程度が電線補強具を用いた補修が困難な程度に著しく悪い場合には、現場での判断により補修の可否を判断すればよい。本発明の電線補強具では、数ヶ月程度経過した後に本格的な工事によって電線の張り替え等を行うことを予定した応急措置を実施するに過ぎないため、電線補強具によって数ヶ月程度の継続使用が可能な程度の軽微な損傷であれば、十分に適用することができる。
なお、電線補強具1を構成するスリーブ2としては、アルミニウム、銅等の金属板材料をU字、或いはC字等の開放部を有した形状に成型したものを用いるが、スリーブに部分的に穴、切欠き、切り込み線、スリット等を形成することにより、圧着時に変形し易く構成してもよい。また、スリーブ2の周長を導線の外周長よりも長くすることにより1周以上巻き付くように構成してもよい。また、スリーブ2の対向する2つの端縁に凹凸部を設け、一方の端縁の凸部が他方の端縁の凹部内に嵌合するように構成してもよい。
【0019】
次に、図3は本発明の他の実施形態に係る電線補強具1の構成説明図、図4(a)乃至(d)は電線に対する取付け手順(電線の補強方法)を示す図である。
この電線補強具1は、上記実施形態に示した矩形板をU字状、或いはC字状に加工したものとは異なり、比較的短尺な2つの圧着部30間を細幅帯状の連設片31によって連設一体化した構成を備えている点が特徴的である。即ち、この電線補強具1は、導電性材料から成る金属板材料をU字状、或いはC字状に加工した圧着部30を備えている点では上記実施形態と同様であるが、2つの圧着部30の中間部に細幅帯状の連設片31が配置されており、露出した導線部分(損傷部分を回避した部分)との電気的コンタクトを2つの圧着部30によって確保するようにしている。
【0020】
図4(a)は導線11にまで達する損傷部分11aを絶縁被覆12に備えた電線10を示している。
(b)では損傷部分11aを回避した両側位置にある絶縁被覆12を部分的に除去することにより導線の露出部を二箇所形成する。絶縁被覆を除去する寸法は、電線補強具1の圧着部30の軸方向長とほぼ同等に設定する。この絶縁被覆除去作業は、間接活線工法により実施することができる。即ち、ここでは導線11と絶縁被覆12とからなる電線10の導線に形成された損傷部分11aの軸方向両側の導線部分を露出させるために導線を切断することなく絶縁被覆を所定長に亘って除去する絶縁被覆除去工程を実施する。
【0021】
図4(c)ではこの電線露出部の外面に対して各圧着部30の開放部を差し込んで上記の如き工具を用いて圧着作業を実施する。各圧着部30間は、連設片31によって電気的に接続された状態にあるため、電線補強具1により各電線露出部間は電気的に導通した状態となる。即ち、ここでは、露出した導線部分の外面に電線補強具1の圧着部30を圧着する電線補強具圧着工程を実施する。
(d)では図2に示した如き絶縁カバー(スリーブカバー)20を用いて電線補強具1の全体を被覆する。ここでは、電線補強具1の外面に絶縁被覆12を形成する工程を実施する。
【0022】
以上のように本発明の各実施形態に係る電線補強部、補強部構造、及び補強方法によれば、電線への通電を遮断することなく、比較的簡単な作業によって電線の損傷部分を応急措置的に補修することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)(b)及び(c)は本発明の一実施形態に係る電線補強具の構成を示す正面図、平面図、及び左側面図である。
【図2】(a)(b)及び(c)は本発明の電線補強具を用いて損傷部分を有した電線を補強する手順を示す図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係る電線補強具の構成説明図である。
【図4】(a)乃至(d)は電線に対する取付け手順(電線の補強方法)を示す図である。
【図5】(a)乃至(d)は従来の仮復旧による改修作業の説明図である。
【図6】(a)乃至(e)は従来の足し線による改修作業(本復旧作業)の説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1…電線補強具、2…スリーブ、10…電線、11…導線、11a…損傷部分、12…絶縁被覆、20…絶縁カバー、30…圧着部、31…連設片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状を略U字、或いは略C字状とした導電性板材料からなるスリーブからなることを特徴とする電線補強具。
【請求項2】
断面形状を略U字、或いは略C字状とした導電性板材料からなる2つの圧着部と、2つの圧着部間を電気的に接続する連設片と、からなることを特徴とする電線補強具。
【請求項3】
前記導電性板材料は、補強対象物となる絶縁被覆電線の導線部分と同材料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電線補強具。
【請求項4】
絶縁被覆電線の導線に形成された損傷部分を露出させた状態で、請求項1に記載の電線補強具を該損傷部分を含む導線外面に圧着したことを特徴とする電線の補強構造。
【請求項5】
絶縁被覆電線の導線に形成された損傷部分の軸方向両側に位置する導線部分を夫々露出させた状態で、請求項2に記載の電線補強具の各圧着部を該露出した導線部分外面に圧着したことを特徴とする電線の補強構造。
【請求項6】
前記電線補強具の外面と、該電線補強具の軸方向両端側に位置する前記電線外面にかけて絶縁性材料から成るスリーブカバーを被せたことを特徴とする請求項4又は5に記載の電線の補強構造。
【請求項7】
絶縁被覆電線の導線に形成された損傷部分を露出させるために導線を切断することなく前記絶縁被覆を所定長に亘って除去する絶縁被覆除去工程と、
前記損傷部分を含む露出した前記導線の外面に請求項1又は2に記載の電線補強具を圧着する電線補強具圧着工程と、を備えたことを特徴とする電線の補強方法。
【請求項8】
絶縁被覆電線の導線に形成された損傷部分の軸方向両側の導線部分を露出させるために導線を切断することなく前記絶縁被覆を所定長に亘って除去する絶縁被覆除去工程と、
前記露出した前記導線部分の外面に請求項2に記載の電線補強具の各圧着部を圧着する電線補強具圧着工程と、を備えたことを特徴とする電線の補強方法。
【請求項9】
前記電線補強具圧着工程後に、前記電線補強具の外面に絶縁被覆を形成する工程を実施することを特徴とする請求項7又は8に記載の電線の補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−22629(P2008−22629A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192116(P2006−192116)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】