説明

電解二酸化マンガン及びその製造方法並びにその用途

【課題】アルカリマンガン乾電池の正極用活物質として使用される電解二酸化マンガンにおいて、高アルカリ電位を有し、且つ電池の正極として高い反応性と充填性を兼ね備える電解二酸化マンガンを提供する。
【解決手段】アルカリ電位が310mV以上、FWHMが2.2°以上2.9°以下、X線回折ピークにおける(110)/(021)のピーク強度比が0.50以上0.80以下の電解二酸化マンガンを用いる。電解二酸化マンガンの(110)面の面間隔が4.00Å以上4.06Å以下であることが好ましい。高アルカリ電位、高充填性の二酸化マンガンは、硫酸−硫酸マンガン浴電解において、電解前期に低い硫酸濃度、後半に高い硫酸濃度で電解することにより製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばマンガン乾電池、特にアルカリマンガン乾電池において、正極活物質として使用される電解二酸化マンガン及びその製造方法並びにその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化マンガンは、たとえばマンガン乾電池またはアルカリマンガン乾電池の正極活物質として知られており、保存性に優れ、且つ安価であるという利点を有する。特に、二酸化マンガンを正極活物質として用いるアルカリマンガン乾電池は、重負荷での放電特性に優れていることから電子カメラ、携帯用テープレコーダー、携帯情報機器、さらにはゲーム機や玩具にまで幅広く使用され、近年急速にその需要が伸びてきている。
【0003】
しかし、アルカリマンガン乾電池は、放電電流が大きくなるに従い正極活物質である二酸化マンガンの利用率が低下し、また放電電圧が低下した状態では使用できないため、実質的な放電容量が大きく損なわれるという課題があった。すなわち、大電流を使用(ハイレート放電)する機器にアルカリマンガン乾電池を用いると、充填されている正極活物質である二酸化マンガンが十分に活用されず、使用可能な時間が短いという欠点を有していた。
【0004】
そこで短時間に大電流を取り出すハイレート間欠放電条件においても、高容量、長寿命を発現できる優れた二酸化マンガン、所謂ハイレート特性に優れた二酸化マンガンが望まれている。
【0005】
ハイレート特性が要求される用途では、電池が放電される際の電圧を高くするために、40%KOH水溶液中で水銀/酸化水銀参照電極を基準として測定したときの電位(以下、アルカリ電位)が高い電解二酸化マンガンを正極活物質として用いられるが、従来の電解二酸化マンガンのアルカリ電位はまだ十分高いものではなかった。
【0006】
また、アルカリ電位の高い電解二酸化マンガンとして、電解条件を制御することにより得られた電解二酸化マンガン、例えば、電解液の硫酸の酸濃度を高くすることにより製造した電解二酸化マンガンが提案されている。(非特許文献1、特許文献1)しかし、電解液の酸濃度が高い製造条件での電解では、電解中に電析した電解二酸化マンガンが電解電極から剥離するため、電解二酸化マンガンを安定的に製造できず、なおかつ得られる電解二酸化マンガンの結晶子径が小さく、BET表面積の大きいものとなるため、電池を構成する際に充填性が高められず、容積エネルギー密度が低いという問題があった。
【0007】
一方、低電流密度の電解によるアルカリ電位が高い電解二酸化マンガンを製造する方法が報告されている(特許文献2)。しかし、低電流密度の電解による電解二酸化マンガンでは、電析速度が遅いため生産性が低く、電解二酸化マンガンの結晶子径が大きすぎ、電解二酸化マンガンの反応性が悪くなり、電池用正極活物質としての放電容量が低下するという問題があった。
【0008】
さらに、電解液に、通常に用いられる硫酸ではなく、塩酸を使用したアルカリ電位の高い二酸化マンガンを製造する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、塩酸を使用した電解では、電解中に塩素の発生を伴うため、更なる対策を施す必要が生じるなど、製造面における不都合が多く、なおかつ得られる電解二酸化マンガンは結晶子径が小さく、電池を構成する際に充填性が高められず、容積エネルギー密度が低いという問題があった。
【0009】
【非特許文献1】古河電工時報,第43号,P.91〜102(1967年5月)
【特許文献1】特開2007−141643号公報
【特許文献2】米国特許6,527,941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、特にハイレート特性に優れるアルカリマンガン乾電池の正極活物質として使用される二酸化マンガンであって、特にアルカリ電解液中で高い電位を有し、且つ高い反応性と充填性を兼ね備えた電解二酸化マンガン及びその製造方法並びにその用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、特にアルカリマンガン乾電池の正極活物質として使用される二酸化マンガンについて鋭意検討を重ねた結果、アルカリ電位が310mV以上、CuKα線を光源とするXRD測定において、2θが22±1°付近に現れる(110)面の回折線の半価全幅(以下、FWHMと称す)が2.2°以上2.9°以下、なおかつX線回折の(110)/(021)ピーク強度比が0.50以上0.80以下である電解二酸化マンガンが、特にハイレート特性に優れた正極材料となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0013】
本発明の電解二酸化マンガンは、アルカリ電位が310mV以上、2θが22±1°付近の(110)面の回折線の半価全幅(FWHM)が2.2°以上2.9°以下、X線回折の(110)/(021)ピーク強度比が0.50以上0.80以下の二酸化マンガンである。
【0014】
アルカリ電位が310mV以上では、アルカリマンガン乾電池の正極材料に用いた場合、電池の開回路電圧が上昇し、使用可能な放電電圧下限までの放電時間を長くすることができる。アルカリ電位は330mV以上、さらには340mV以上であることが特に好ましい。
【0015】
本発明の電解二酸化マンガンは、CuKα線を光源とする通常のXRD測定パターンにおいて、2θが22±1°付近の(110)面の回折線の半価全幅(FWHM)が2.2°以上2.9°以下であるが、2.4°以上2.8°以下、さらには2.5°以上2.8°以下であることが特に好ましい。この様なFWHMでは、充填性が向上して放電容量が高まる。
【0016】
一方、FWHMが2.9°より大きいものでは、正極物質として電池を構成した場合に充填密度が低下し、それに伴い放電容量が低下する。FWHMが2.2°より小さいものは、結晶が成長しすぎており、電解二酸化マンガンの反応性が悪くなり、電池用の正極活物質としての放電容量が低下する。
【0017】
FWHMの下限が2.2°と小さい理由は、本発明の電解二酸化マンガンは、例えば後述する低濃度の硫酸を含む電解液での電解と、引き続き高濃度の硫酸を含む電解液を用いて電解によって得られるため、特に低濃度の硫酸を含む電解液での電解時間の比率が大きい場合、FWHMが小さくアルカリ電位の高い二酸化マンガンとなるからである。
【0018】
本発明の電解二酸化マンガンの結晶子径は、FWHM及び(110)ピーク位置からシェラーの式で換算によって得られ、平均結晶子径が29〜37Åに相当する。平均結晶子径が37Åより大きい電解二酸化マンガンでは、前述したとおり反応性が低下し、放電容量が低く、29Åより小さいものでは充填性が悪く、容量エネルギー密度が低いものとなる。
【0019】
本発明の電解二酸化マンガンはX線回折の(110)/(021)ピーク強度比が0.50以上0.80以下であり、好ましくは0.53以上0.80以下である。
【0020】
電解二酸化マンガンのX線回折パターンの各回折面の強度比は、電解条件、結果的に得られる二酸化マンガンの物性によって異なる。高い硫酸濃度の電解液のみを電解して得られる二酸化マンガンでは上述の条件を満足する上でなおかつ(110)/(021)ピーク強度比が0.50未満となり、一方、低電流密度で電解した高アルカリ電位品では0.8を超え、本発明の二酸化マンガンと異なる。
【0021】
電解二酸化マンガンのX線回折における(110)面は前述したとおり22±1°付近に、また(021)面は37±1°付近に現れる二酸化マンガン結晶の主要なX線回折ピークである。
【0022】
本発明の電解二酸化マンガンは上述の条件を満足する上でさらにX線回折の(110)面の面間隔が、4.00Å以上4.06Å以下であることが好ましい。
【0023】
ここでいう、(110)面間隔とは、斜方晶の結晶に属する二酸化マンガンの(110)結晶面同士の間隔を表す指標である。
【0024】
従来の二酸化マンガンで、310mVより高アルカリ電位を有するものは、(110)面間隔は4.06Åより大きいものである。本発明の電解二酸化マンガンでは(110)面の面間隔が小さいため、結晶の安定性が高い。
【0025】
本発明の電解二酸化マンガンは、BET比表面積を22m/g以上32m/g以下であることが特に好ましい。
【0026】
BET比表面積が22m/gより低いものは、電解二酸化マンガンの反応性が悪くなり、電池用正極活物質としての放電容量が低下し、BET比表面積が32m/gより高いものは、電解二酸化マンガンの充填性が悪く、電池を構成した場合の放電容量が低下し易い。
【0027】
本発明の電解二酸化マンガンは、アルカリ電位、(110)面のFWHM、(110)面の面間隔、(110)/(021)のピーク強度比等に特徴があるため、従来の異なる条件で得られた電解二酸化マンガンを混合することによってアルカリ電位だけや、充填性を調整したものとは異なるものであり、容易に区別できる。
【0028】
次に本発明の電解二酸化マンガンの製造法について説明する。
従来の電解二酸化マンガンの製造法は、電解中に電解液の硫酸濃度を一定に保つように行われている。本発明の製造法は、電解中に電解液中の硫酸濃度を変えることに特徴があり、従来の方法とは全く異なるものである。本発明の詳細な方法を以下に説明する。
【0029】
本発明では、前半で硫酸濃度を低く一定に保って電解した後、途中から硫酸濃度の高くなるように調整された条件で電解することにより、アルカリ電位が高く、結晶性に特徴がある二酸化マンガンが得られ、なおかつ電解時に電極から二酸化マンガンの剥離がなく、安定に高品位の二酸化マンガンが製造できる。
【0030】
電解による二酸化マンガンの製造では、電解液中の硫酸濃度を低くすると陽極上に強固に電解二酸化マンガンが電析して剥離の問題はないが、それだけではアルカリ電位が低い電解二酸化マンガンしか得られない。
【0031】
また硫酸濃度が高い電解では、アルカリ電位が高い二酸化マンガンが得られるが、電着時に剥離し、安定的に高電位の二酸化マンガンが得られず、結晶子が小さくなり高BET表面積で充填性の低いものしか得られない。
【0032】
本発明では、前半で低い硫酸濃度の電解により結晶子径が大きく、BET表面積が低い充填性が高い二酸化マンガンを得るだけでなく、さらに引き続き高い硫酸濃度で電解することにより、前半の電解で得られた二酸化マンガンを含めて電位を高められることを見出したものである。
【0033】
本発明の方法における電解液中の硫酸濃度は、電解開始時に25〜40g/L、後半、硫酸濃度を高くし、電解終了時に40g/Lを越えて75g/Lまでとすることが好ましい。さらには、電解開始時の電解液中の硫酸濃度を29〜40g/L、後半、硫酸濃度を高くし、電解終了時に44〜75g/Lとすることが特に好ましい。ここでいう硫酸濃度は、硫酸マンガンの二価の陰イオンは除くものである。
【0034】
本発明における電解補給液中のマンガン濃度に限定はないが、例えば40〜60g/Lが例示できる。
【0035】
電解の温度には特に限定はなく、例えば温度は94〜98℃の範囲が適用できる。また、電流密度としては、例えば0.4〜0.6A/dmが適用できる。
【0036】
前期の電解と、後半の電解の比率に制限はないが、例えば低硫酸濃度と高硫酸濃度での電解時間の比が1:9〜9:1、特に3:7〜7:3の範囲が好ましい。
【0037】
本発明の電解二酸化マンガンは、特にアルカリマンガン乾電池の正極活物質として使用することができる。
【0038】
アルカリマンガン電池の正極活物質として使用する方法には特に制限はなく、周知の方法で添加物と混合して用いることができる。
【0039】
例えば、電解二酸化マンガンに導電性を付与するためにカーボン等を加えた混合粉末を調製し、これを円盤状またはリング状に加圧成型した粉末成型体として電池正極とすることができる。
【0040】
本発明の電解二酸化マンガンを正極材料として用いた場合、JIS−C8511で規定されるLR6型電池において、放電前の開回路電圧(OCV)が1.649Vを越える高い電位を得ることができる。放電前の開回路電圧(OCV)は特に1.67V、さらには1.68V以上が達成される。
【発明の効果】
【0041】
本発明の電解二酸化マンガンは、均一で、従来にないアルカリ電解液中で高い電位を有する。
【0042】
特にアルカリマンガン乾電池の正極用活物質に用いたアルカリマンガン乾電池を1000mAで10秒放電の後50秒休止するサイクルを1パルスとして終止電圧0.9Vに達するまでの放電時間で特性を評価する一般的なハイレート放電特性評価において、従来の電解二酸化マンガンを使用した場合より10%以上長い放電寿命が得られる。
【0043】
また、本発明の電解二酸化マンガンを正極活物質とした単3型のアルカリマンガン乾電池を1watt負荷で連続放電させ、終止電圧0.9Vに達するまでの放電電流量から電池の放電容量を計算し、電解二酸化マンガン重量あたりに換算した容量が70mAh/g以上、特に72mAh/g以上の高い放電容量が得られる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
(電解二酸化マンガンの電位の測定)
電解二酸化マンガンの電位は、40%KOH水溶液中で次のように測定した。
【0046】
電解二酸化マンガン3gに導電剤としてカーボンを0.9g加えて混合粉体とし、この合粉体に40%KOH水溶液4mlを加え、電解二酸化マンガンとカーボンとKOH水溶液の混合物スラリーとした。この混合物スラリーの電位を水銀/酸化水銀参照電極を基準として電解二酸化マンガンのアルカリ電位を測定した。
【0047】
(XRD測定における半価全幅(FWHM)の測定)
電解二酸化マンガンの2θが22±1°付近の回折線の半価全幅(FWHM)を、一般的なX線回折装置(マックサイエンス社製MXP−3)を使用して測定した。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定モードはステップスキャン、スキャン条件は毎秒0.04°、計測時間は3秒、および測定範囲は2θとして5°から80°の範囲で測定した。
【0048】
(XRD測定による(110)面間隔の算出)
電解二酸化マンガンの2θが22±1°付近の回折線をガウス処理して、ピークトップの2θを求めた。求めた2θ値からブラッグの式(nλ=2dsinθ,n=1)からdを算出して(110)面の面間隔とした。
【0049】
(XRD測定による(110)/(021)強度比の算出)
2θが22±1°付近の回折線を(110)、37±1°付近の回折線を(021)として、(110)のピーク強度を(021)のピーク強度で除することにより(110)/(021)のピーク強度比を求めた。
【0050】
(電解二酸化マンガンのBET比表面積の測定)
電解二酸化マンガンのBET比表面積は、BET1点法の窒素吸着により測定した。なお、BET比表面積の測定に使用した電解二酸化マンガンは、BET比表面積の測定に先立ち、150℃で40分間加熱して脱気処理を行った。
【0051】
(単三電池におけるハイレート特性評価)
電解二酸化マンガン85.8%、グラファイト7.3%及び40%水酸化カリウム電解液6.9%で構成される混合粉5gを2トンの成形圧でリング状に成形した成形体2個を組み合わせて正極とし、亜鉛を含む負極材を負極にして、単三型の電池を構成した。当該単三型電池を常温で24時間放放置後、放電試験を行った。放電条件は1000mAで10秒放電の後50秒休止するサイクルを1パルスとして、終止電圧0.9Vに達するまでの相対放電時間とした。なお、相対放電時間の基準は比較例1の測定結果を100%とした。
【0052】
(単三電池におけるOCV及び1Wattでの電池特性評価)
上記のLR6型電池(単三型)を常温で72時間放置後、開回路電圧(OCV)を電圧計で測定した。次に、当該単三型電池を放電試験装置(ナガノ製BTS2305)に接続し、1Watt負荷で放電試験を行った。電池特性は終止電圧0.9Vに達するまでの放電電流の積算量から電池あたりの放電容量(mAh)を求め、電池内の電解二酸化マンガン重量あたりの放電容量(mAh/g)に換算して評価した。尚、OCV測定と1Wattでの電池特性は、各電解二酸化マンガンサンプルに対して5個の電池を作製して評価し、5つの平均値を各電解二酸化マンガンの評価値とした。
【0053】
実施例1
電流密度を0.5A/dm、電解温度を96℃、電解補給液をマンガン濃度50.0g/lの硫酸マンガン液とし、電解初期と電解後半の硫酸濃度を29.2g/l、74.8g/lとなるように16日間電解した。前半の濃度で13日、後半の濃度で3日電解を行った。
【0054】
得られた電解二酸化マンガンは、アルカリ電位が320mV、FWHMが2.9°であり、(110)/(021)が0.60、且つBET比表面積が29.8m/gであった。その他の評価結果と共に結果を表1に示す。
【0055】
次に、この電解二酸化マンガン85.8%、グラファイト7.3%及び40%水酸化カリウム電解液6.9%を混合した混合粉5gを2トンの成形圧でリング状に成形した成形体2個を組み合わせて正極とした単三型の電池を組み立て、72時間放置後のOCV測定と1Watt負荷での放電試験を行った。その結果、OCVは1.674V、放電容量は70.4mAh/gであった。
【0056】
実施例2
電流密度を0.5A/dm、電解温度を96℃、電解補給液をマンガン濃度40.0g/lの硫酸マンガン液とし、電解初期と電解後半の硫酸濃度を29.2g/l、49.2g/lとなるように14日間電解した。前半の濃度で10日、後半の濃度で4日電解を行った。
【0057】
得られた電解二酸化マンガンは、アルカリ電位が343mV、FWHMが2.6°であり、(110)/(021)が0.68、且つBET比表面積が26.3m/gであった。その他の評価結果と共に結果を表1に示す。
【0058】
つぎに、この電解二酸化マンガン85.8%、グラファイト7.3%及び40%水酸化カリウム電解液6.9%を混合した混合粉5gを2トンの成形圧でリング状に成形した成形体2個を組み合わせて正極とした単三型の電池を組み立て、前述した放電試験を行った結果、その相対放電時間は122%であった。
【0059】
実施例3
電解初期12日間の電解液中の硫酸濃度を29.2g/l、電解後期2日間の電解液中の硫酸濃度が44.7g/lとした以外は実施例2と同様の方法により電解二酸化マンガンを得た。
【0060】
得られた電解二酸化マンガンは、アルカリ電位が331mVであり、FWHMが2.6°であり、(110)/(021)が0.74、且つBET比表面積が28.4m/gであった。その他の評価結果と共に結果を表1に示す。
【0061】
実施例4
電解後期4日間の電解液中の硫酸濃度を59.0g/lにした以外は実施例2と同様の方法により電解二酸化マンガンを得た。結果を表1に示す。
【0062】
得られた電解二酸化マンガンは、アルカリ電位が341mVであり、FWHMが2.7°であり、(110)/(021)が0.65、且つBET比表面積が30.4m/gであった。その他の評価結果と共に結果を表1に示す。
【0063】
つぎに、この電解二酸化マンガンを実施例2と同様の条件で単三型の電池を組み立て、前述した放電試験を行った結果、その相対放電時間は110%であった。
【0064】
実施例5
電解補給液にマンガン濃度が45.0g/lの硫酸マンガン溶液を用い、電解初期10日間の硫酸濃度を32.9g/l、電解後期の硫酸濃度を48.8g/lとした以外は実施例2と同様の方法により電解二酸化マンガンを得た。
【0065】
得られた電解二酸化マンガンは、アルカリ電位が325mVであり、FWHMが2.5°であり、(110)/(021)が0.66、且つBET比表面積が31.4m/gであった。その他の評価結果と共に結果を表1に示す。
【0066】
つぎに、この電解二酸化マンガンを実施例2と同様に単三型の電池を組み立て、前述した放電試験を行った結果、その相対放電時間は111%であった。
更に、この電解二酸化マンガン85.8%、グラファイト7.3%及び40%水酸化カリウム電解液6.9%を混合した混合粉5gを2トンの成形圧でリング状に成形した成形体2個を組み合わせて正極とした単三型の電池を組み立て、72時間放置後のOCV測定と1Watt負荷での放電試験を行った。その結果、OCVは1.684V、放電容量は76.1mAh/gであった。
【0067】
実施例6
電解後期4日間の電解液中の硫酸濃度を66.7g/lにした以外は実施例5と同様の方法により電解二酸化マンガンを得た。
【0068】
得られた電解二酸化マンガンは、アルカリ電位が330mVであり、FWHMが2.6°であり、(110)/(021)が0.53、且つBET比表面積が30.3m/gであった。その他の評価結果と共に結果を表1に示す。
【0069】
実施例7、8
実施例1と同様の条件の電解で得られた塊状物を切り出し、陽極近傍と電解液側に析出した電解二酸化マンガンを切り出した。
【0070】
いずれの部分も、アルカリ電位が310mV以上で、均一なアルカリ電位であった。この結果から、本発明の電解二酸化マンガンは、従来の低硫酸濃度で電解された低電位の電解二酸化マンガンと高硫酸濃度の高電位の電解二酸化マンガンの混合物ではなく、全体として均一な高アルカリ電位の電解二酸化マンガンであることが確認された。
【0071】
実施例9
電流密度を0.5A/dm、電解温度を96℃、電解補給液をマンガン濃度42.0g/lの硫酸マンガン液とし、電解初期と電解後半の硫酸濃度を40.0g/l、70.0g/lとなるように17日間電解した。前半の濃度で12日、後半の濃度で5日電解を行った。
【0072】
得られた電解二酸化マンガンは、アルカリ電位が319mV、FWHMが2.4°であり、(110)/(021)が0.78、且つBET比表面積が28.0m/gであった。その他の評価結果と共に結果を表1に示す。
次に、この電解二酸化マンガン85.8%、グラファイト7.3%及び40%水酸化カリウム電解液6.9%を混合した混合粉5gを2トンの成形圧でリング状に成形した成形体2個を組み合わせて正極とした単三型の電池を組み立て、72時間放置後のOCV測定と1Watt負荷での放電試験を行った。その結果、OCVは1.682V、放電容量は72.8mAh/gであった。
【0073】
実施例10
電解後半の硫酸濃度を72.0g/lとなるように15日間電解し、前半の濃度で9日、後半の濃度で6日電解を行った以外は実施例9と同様の方法により電解二酸化マンガンを得た。
【0074】
得られた電解二酸化マンガンは、アルカリ電位が313mV、FWHMが2.2°であり、(110)/(021)が0.80、且つBET比表面積が26.0m/gであった。その他の評価結果と共に結果を表1に示す。
【0075】
比較例1
電流密度を0.5A/dm、電解温度を96℃、電解補給液のマンガン濃度を40.0g/lとし、電解中全期間を通して電解液中の硫酸濃度を32.9g/l一定の条件で電解二酸化マンガンを得た。
【0076】
得られた電解二酸化マンガンは、アルカリ電位が274mVであり、FWHMが2.3°であり、FWHMから換算される結晶子径は37.3Å、BET比表面積が28.5m/gであった。その他の評価結果と共に結果を表1に示す。
【0077】
低硫酸濃度一定での電解によって得られた二酸化マンガンは、結晶子径が大きく、アルカリ電位が低いものであった。
【0078】
つぎに、この電解二酸化マンガンを実施例2と同様の方法で単三型の電池を組み立て、前述した放電試験を行い、その放電時間を100%とした。
【0079】
更に、この電解二酸化マンガン85.8%、グラファイト7.3%及び40%水酸化カリウム電解液6.9%を混合した混合粉5gを2トンの成形圧でリング状に成形した成形体2個を組み合わせて正極とした単三型の電池を組み立て、72時間放置後のOCV測定と1Watt負荷での放電試験を行った。その結果、OCVは1.635V、放電容量は67.6mAh/gであった。
【0080】
比較例2
電解中全期間に渡り、電解液中の硫酸濃度を48.5g/lと高く一定にした以外は実施例2と同様の方法により電解二酸化マンガンを得た。電析した電解二酸化マンガンの脱落が生じた。
【0081】
得られた電解二酸化マンガンは、アルカリ電位が324mVであり、FWHMが3.1°であり、且つBET比表面積が35.1m/gであった。その他の評価結果と共に結果を表1に示す。
【0082】
アルカリ電位は高かったが、FWHMから算出される結晶子径が29Åよりも小さく、また、BET比表面積が32m/gより大きく、充填性の低いものであった。
【0083】
比較例3
陽極として炭素板を使用した以外は比較例2と同様の方法により電解二酸化マンガンを得た。
【0084】
得られた電解二酸化マンガンは、アルカリ電位が319mVであり、FWHMが3.0°であり、且つBET比表面積が33.4m/gであった。その他の評価結果と共に結果を表1に示す。
【0085】
FWHMから算出される結晶子径が29Åに近く、充填性の低いものであった。
【0086】
比較例4
電流密度を0.3A/dmとし、電解中全期間に渡り、電解液中の硫酸濃度を48.5g/lと一定にした以外は実施例2と同様の方法により電解二酸化マンガンを得た。
【0087】
得られた電解二酸化マンガンは、アルカリ電位が338mVであり、FWHMが2.4°であり、且つBET比表面積が21.7m/gであった。その他の評価結果と共に結果を表1に示す。
【0088】
比較例2とは反対に、BET比表面積が22m/gより小さく、反応性が低いものであった。
【0089】
比較例5
電流密度を0.3A/dmとし、電解中全期間に渡り、電解液中の硫酸濃度を53.7g/lと一定にした以外は実施例2と同様の方法により電解二酸化マンガンを得た。
【0090】
得られた電解二酸化マンガンは、アルカリ電位が305mVであり、FWHMが2.1°であり、且つBET比表面積が25.3m/gであった。その他の評価結果と共に結果を表1に示す。
【0091】
つぎに、この電解二酸化マンガンを単三型の電池を組み立て、前述した放電試験を行った結果、その相対放電時間は104%であり、放電特性の向上は小さかった。
【0092】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の電解二酸化マンガンのXRD回折パターンである。(実施例5)
【図2】従来の低硫酸濃度条件で通して電解して得られる電解二酸化マンガンのXRD回折パターンである。(比較例1)
【図3】従来の高硫酸濃度で通して電解して得られる電解二酸化マンガンのXRD回折パターンである。(比較例3)
【図4】従来の低電流密度で電解して得られる電解二酸化マンガンのXRD回折パターンである。(比較例4)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ電位が310mV以上、CuKα線を光源とするXRD測定における(110)面の半価全幅(FWHM)が2.2°以上2.9°以下であり、かつ、X線回折ピーク(110)/(021)のピーク強度比が0.50以上0.80以下であることを特徴とする電解二酸化マンガン。
【請求項2】
X線回折ピークにおける(110)/(021)のピーク強度比が0.53以上0.80以下であることを特徴とする請求項1に記載の電解二酸化マンガン。
【請求項3】
X線回折ピークにおける(110)面の面間隔が4.00Å以上4.06Å以下であることを特徴とする請求項1乃至2に記載の電解二酸化マンガン。
【請求項4】
BET比表面積が22m/g以上32m/g以下である請求項1乃至3に記載の電解二酸化マンガン。
【請求項5】
硫酸−硫酸マンガン混合水溶液中の電解により二酸化マンガンを製造する方法において、電解終了時の電解液中の硫酸濃度が、電解開始時の電解液中の硫酸濃度より高いことを特徴とする電解二酸化マンガンの製造方法。
【請求項6】
電解開始時の硫酸濃度が25〜40g/L、電解終了時の硫酸濃度が40g/Lを超え75g/Lまである請求項5に記載の電解二酸化マンガンの製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至4に記載の電解二酸化マンガンを含んで成る電池用正極活物質。
【請求項8】
請求項7に記載の電池用活物質を含んで成る電池。
【請求項9】
JIS−C8511で規定されるLR6型電池において、放電前の開回路電圧(OCV)が1.649Vを越えることを特徴とする請求項8に記載の電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−135067(P2009−135067A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2872(P2008−2872)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】