説明

電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物

【課題】充分な初期接着強度を有し、高速剥離時の低粘着性となじみ性とを高いレベルで両立して、更に、加熱時の接着昂進の抑制された、光学部材の表面を保護する粘着フィルム等を形成するために好適に用いることができる電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物及びそれを用いて形成される再剥離粘着フィルムを提供する。
【解決手段】アクリル系重合体(A)及びシリコーン系マクロモノマーを必須成分とする電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物及び再剥離粘着フィルムに関する。より詳しくは、光学フィルムやディスプレイを保護する粘着フィルムやフレキシブルプリント基板(以下「FPC基板」ということがある。)のような被着体にメッキなどの加工を施す工程中にFPC基板の表面を保護する耐熱性と再剥離性を有した粘着フィルム等(耐熱再剥離粘着フィルム)を形成するために好適に用いることができる電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物、及びそれを用いて形成される再剥離粘着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
再剥離粘着フィルムは、一般の工業用途製品の表面保護用途以外では、例えば液晶表示装置などのFPD関連の光学部材(例えば、偏光板、位相差フィルム等)の表面保懐フィルムとして使用されている。またFPC基板製造工程における銅箔をエッチングによりパターニングした処理後、銅箔の保護フィルムや、半導体装置を製造するにあたりウエハ等を固定し、ワイヤーボンドした後、さらに樹脂封止工程でモールド樹脂の流れに抗してチップを保持しながらモールド樹脂の漏れを抑制するために使用される半導体固定用再剥離性耐熱粘着フィルム又はテープなどとして幅広く使用されている。特に、FPD関連の光学部材である偏光板は、通常、打抜加工、検査、輸送、液晶表示板の組立などの各工程を経る間にその表面が汚染されたり損傷したりしないように、さらに表面保護フィルムで接着被覆されて長尺の光学部材積層体として形成される。該表面保護フィルムは貼付後、安定した接着力になるまで養生され、各工程実施後は表面保護が不要となった段階で光学部材から剥離除去されるものである。
近年、光学部材やディスプレイ等の急速な需要の高まりに伴い、その表面を保護するための粘着フィルムの需要が急増している。このような背景の中、再剥離型のフィルムは、貼り付け時や再剥離時の性能が光学部材等の製造工程に影響を与え、またそれらの製品品質に対しても影響を及ぼすことから、その性能向上が望まれるところであった。
【0003】
従来、粘着フィルムの性能を改善すべく、様々な方法が試みられている。例えば、高速粘着力を下げることを目的として、アクリル系感圧接着剤組成物にビニル基含有ジメチルシロキサンを含む共重合体を含有させることや(例えば、特許文献1参照)、粘着組成物にシリコーン系グラフト共重合体を含有させることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。また、高速粘着力が充分に低く、再貼り付け時に良好な粘着性を保持しており、かつ、貼り付けの際のエア抜けが効率的に行われることにより非平面への貼り付けにも適したものとなる粘着性フィルムを提供することを目的として、カルボン酸変性熱可塑性エラストマー及び架橋剤を含む第1接着層と熱可塑性エラストマー及び可塑剤を含む第2接着層とを順に基材層に積層・接着させた粘着性フィルムが開示されている(例えば、特許文献3参照)。粘着剤の被着体に対する密着度を向上させる目的としては、粘着剤にシリコーンオイルを配合させることにより粘着剤に柔軟性を付与することも開示されている(例えば、特許文献4参照)。またこれまでに、粘着物にアクリル・シリコーン系共重合体を含有させることにより、粘着物と被着体とが良好に接着されるだけでなく、経時的な接着性の上昇を抑制することができることや(例えば、特許文献5参照)、感圧接着剤組成物にシリコーンオリゴマーを含有させることにより、充分な初期接着強度を有し、高湿度環境下でも接着性の昂進が抑制された接着剤を得ることができることが開示されている(例えば、特許文献6参照)。その他にも、貼り付け時のエア抜けに優れ、かつ、貼り付け後に加熱することで接着強度を増強することができるフィルムを目的とした、基材シート表面に熱可塑性エラストマー及び可塑剤を含む粘着剤層を形成してなる粘着シート等も開示されている(例えば、特許文献7参照)。
【特許文献1】特公平7−68500号公報(第1−2頁)
【特許文献2】特開2003−73629号公報(第1−2頁)
【特許文献3】特開2004−231694号公報(第1−2頁)
【特許文献4】特開2003−96114号公報(第1−2頁)
【特許文献5】特開2005−200606号公報(第1−2頁)
【特許文献6】特開2004−83646号公報(第1−2頁)
【特許文献7】特開2007−186649号公報(第1−2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、画面の大型化に伴って大面積の保護フィルムを使用する際、特に高速で剥離する工程の作業効率が悪く、その上剥離に伴う歪みによって光学部材や液晶セルの配向の乱れ、セルギャップの拡大などの不都合さえ生じることがあった。そこで、大面積を保護する保護フィルムにおいて十分な接着力(低速での剥離力)を保持しつつ、高速での剥離力を低下させることが必要であった。さらに、保護フィルムを積層して切断する工程後、めくり上がったシートの端部が、自然にもとの形状に戻る性質(なじみ性)等、バランスのとれた性質を持つ表面保護フィルムとしての性能向上が望まれている。
【0005】
これまで粘着フィルムの高速粘着力を下げる方法としては、例えば、粘着フィルムを構成する重合体の架橋密度を上げることが考えられてきた。しかしながら、重合体の架橋密度を上げて粘着フィルムの高速粘着力を下げた場合、同時に被着体との接着強度も下がってしまい、そのため光学部材やディスプレイ等の製造・流通工程中に粘着フィルムが剥がれたり、オートクレーブ処理時に粘着フィルムの浮きが発生したりする等の問題が起こるおそれが生じる。また更に、粘着フィルムと被着体とのなじみ性も低下してしまうことになる。特に表面に微細な凹凸を有する部材(例えば、アンチグレア処理された偏光板等の光学部材)を被着体とする場合、これらの問題が顕著となる。そこで、重合体の架橋密度を上げて粘着フィルムの高速粘着力を下げ、可塑剤を加えることによって被着体との接着強度を保つ、という解決方法も考えられた。しかし、この場合には、可塑剤を加えているために、熱に対して弱く、加熱時の接着昂進を抑制することが難しい。光学部材やディスプレイ等の製造・流通工程中には、室温より高い温度となる工程を経たり、室温より高い温度の環境下に置かれたりする場合がある。また、別の用途として、FPC基板の製造工程においても再剥離型粘着フィルムが使用されている。当該製造工程では、加熱工程が必須工程となる。前記加熱工程のような、高温や高圧環境下にさらされると、再剥離性粘着フィルムの粘着剤層の接着力が増大し、最終的にFPC基板から再剥離性粘着フィルムを剥す際に、剥しにくくなり、極端な場合には剥がれないこともある。さらには、再剥離性粘着フィルムを剥した後も、FPC基板の表面に粘着剤が残存することになり、粘着剤を除去するために多大な労力がかかる。以上のような点より加熱工程での接着昂進が少なく、且つ基板表面の糊残りによる汚染が少ない再剥離粘着フィルムが求められている。
【0006】
しかしながら、粘着剤としては、これらのいずれの効果をも備えた粘着剤がより好ましいにもかかわらず、それらの性質を全て備えた粘着剤は依然として開発されていないのが現状である。高速で剥離した際の粘着力(高速粘着力)を低くすることと、被着体との接着強度及びなじみ性を向上させることとは、互いに相反する性質であるために、両立させることが難しいものであった。このように、従来の技術においては、再剥離型の粘着フィルムの性能向上を図るための工夫の余地があったと言えるが、これらの性質を高いレベルで発揮するとともに、更に、加熱時の接着昂進も抑制することができる粘着フィルムとすることができれば、表面に微細な凹凸を有する部材が被着体である場合や、被着体と接着後に高温条件下に置かれるような工程を経る場合に、特に好適に用いることができるものとなるため、光学部材やディスプレイ等の製造・流通工程中における保護フィルムとして際立って優れた性能を発揮することが可能となる。このため、そのような粘着フィルム及び粘着フィルムを形成することができる再剥離粘着剤組成物が求められている。
また、例えばFPC基板の銅箔表面保護用再剥離フィルムにおいては、銅箔のエッチング後に基材の凹凸形状に追従するなじみ性に優れた再剥離フィルム及び加熱工程のような高温や高圧環境下における粘着昂進が少ない再剥離型粘着フィルムが望まれているが、現状では両性能を充分に満たした粘着フィルムがなく、更なる改良の余地があった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、充分な初期接着強度を有し、高速剥離時の低粘着性となじみ性とを高いレベルで両立して、更に、加熱時の接着昂進の抑制された、光学部材の表面を保護する粘着フィルム等を形成するために好適に用いることができる電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物及びそれを用いて形成される再剥離粘着フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、再剥離粘着剤用途に用いるための組成物について種々検討したところ、まず、粘着剤に離型効果を付与することが知られているシリコーン系化合物に着目した。そして、電離放射線を照射することで架橋し硬化する、重合体を含む電離放射線硬化性組成物中にシリコーン系マクロモノマーを必須成分として含有させることによって、基材の凹凸面への追従性が向上することにより、重合体の架橋密度を高くしたまま、なじみ性を向上させることができ、これにより、高速剥離時の低粘着性及び被着体との接着強度となじみ性とを高いレベルで両立することができることを見出した。そして更に、シリコーン系マクロモノマーを組成物の必須成分とすると、加熱時や高温環境下におかれた場合にも、接着力が上昇することが抑制されることも見出した。上記効果のメカニズムの詳細は不明であるが、シリコーン系マクロモノマーを含んだ粘着剤組成物を基材に塗布・乾燥することにより、シリコーン系マクロモノマーが粘着剤表層付近に偏在し、更に紫外線や電子線などの電離放射線照射により粘着剤表層固定化されたためであると考えている。これにより、例えばAG処理を施した表面に微細な凹凸を有する偏光板の表面保護フィルムとして好適に用いることができ、また、被着体との接着強度、高速剥離時の低粘着性となじみ性とを高いレベルで有しながら、更に加熱時の接着昂進を充分に抑制することができることから、特にFPC基板の銅箔表面保護用再剥離フィルムのような熱を加える工程や熱の加わる用途に好適に用いることができることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、アクリル系重合体(A)及びシリコーン系マクロモノマーを必須成分とする電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物は、アクリル系重合体(A)及びシリコーン系マクロモノマーを必須とするものである。これにより、この組成物に電離放射線を照射することでアクリル系重合体が架橋されることとなり、高速粘着力を下げることができる。また、シリコーン系マクロモノマーを含むことで基材の凹凸面への追従性が向上することにより、なじみ性が向上し、適度な粘着力となじみ性とを両立することができることになり、更に加熱時の接着昂進も効果的に抑制することができる。
本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物は、上記必須成分をそれぞれ1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。また、これらの必須成分を含む限り、その他の成分を含んでいてもよい。
【0011】
上記なじみ性とは、偏光板等の光学部材の上に保護フィルムを軽く置いた時に、テープの自重のみで粘着剤が被着体に濡れていく性能であるが、これは、各工程中何かのトラブルで保護フィルムが剥がれてしまったとしても、なじみ性が優れていればテープの自重のみで再接着するため、光学部材の表面に傷がつくことを抑制するために要求される性能である。
偏光板の中には、表示部のぎらつき感を抑えるため表面に微細な凸凹を設けることで光の反射を抑制したいわゆるアンチグレア処理されたものがある。このアンチグレア処理された偏光板は微細な凸凹のために粘着剤の濡れが悪いという欠点を有する。一般に架橋密度を上げて高速剥離性を満たした保護フィルムはこのなじみ性が悪く、両物性を両立させることは困難である。本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物を用いて得られる粘着フィルムは、高速剥離時の低粘着性に優れるだけでなく、シリコーン系マクロモノマーを含むことによりなじみ性にも優れ、アンチグレア処理された偏光板のような微細な凹凸を有する光学部材等にも好適に用いることができる。また、FPC基板において、銅箔をエッチングによりパターニングした処理後、基板上は凹凸面となっており、本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物より形成された再剥離粘着フィルムは凹凸面に優れた濡れ性を示し、銅箔表面の保護フィルムとして好適な性能を示す。
ここでいう微細な凹凸とは、凹凸の高低差が0.1〜10μm程度のものを言い、このような微細な凹凸を有する被着体としては、AG(アンチグレア、防眩)処理フィルム、AR(反射防止)フィルム、電磁波遮蔽フィルム等が挙げられる。
凹凸高低差とは、JIS B0601に準拠して測定される十点平均粗さ(Rz)で示される数値である。被着体表面の凹凸高低差の測定には、例えば、キーエンス社製レーザー顕微鏡VK−9710を用いることができる。
【0012】
本発明においては、アクリル系重合体(A)を含む電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物に、シリコーン系マクロモノマーを必須成分として含有させるところに技術的特徴があるため、まず、シリコーン系マクロモノマーについて説明し、その後にその他について順次説明していくこととする。
【0013】
本発明におけるシリコーン系マクロモノマーとは、シロキサン結合の繰り返し単位を主骨格とし、片末端に重合性官能基を持つ高分子化合物であり、これらの構造を含む限り、側鎖等、その他の部分の構造については特に制限されない。
上記シリコーン系マクロモノマーの使用量は、アクリル系重合体(A)100質量%に対して、0.1〜20質量%であることが好ましい。シリコーン系マクロモノマーを0.1〜20質量%含むことによって、再剥離粘着剤に要求される初期タック、粘着力、凝集力となじみ性とをバランスよく発現させることができる。更に、加熱時の接着昂進を抑制する効果も充分に発揮されることができる。シリコーン系マクロモノマーの使用量は、0.5〜18質量%がより好ましく、最も好ましくは、1〜15質量%である。
【0014】
上記シリコーン系マクロモノマーの重量平均分子量は、500〜20000であることが好ましい。本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物が、重量平均分子量500〜20000であるシリコーン系マクロモノマーを含んでいる場合には、該粘着剤組成物を用いて粘着フィルムを製造した際に、粘着フィルムが本発明の効果をより充分に発揮することが可能となる。シリコーン系マクロモノマーの重量平均分子量は、より好ましくは、700〜15000である。更に好ましくは、700〜10000であり、最も好ましくは、700〜7000である。
重量平均分子量は、下記ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)装置及び条件で測定することが好適である。
装置:HLC−8220GPC(商品名、東ソー株式会社製)
溶出溶媒:テトラヒドロフラン
標準物質:東ソー株式会社製標準ポリスチレン
分離カラム:TSKgel SuperHZM−M
【0015】
上記シリコーン系マクロモノマーは、ジアルキルシロキサン骨格を有し、重量平均分子量が500〜20000のものであることが好ましい。シリコーン系マクロモノマーがこのような特定の構造及び特定の重量平均分子量を有するものであると、組成物から得られる接着フィルムのなじみ性がより向上し、また、加熱時の接着昂進を抑制する効果により優れたものとなる。より好ましくは、700〜15000である。更に好ましくは、700〜10000であり、最も好ましくは、700〜7000である。
ジアルキルシロキサン骨格を有するものの中でも、本発明におけるシリコーン系マクロモノマーは、下記一般式(1);
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、Qは、炭素数1〜50の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表す。Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表す。Xは、炭素数1〜6の非置換又は置換の2価炭化水素基又は単結合を表す。Yは、水素原子又はメチル基を表す。nは、シロキサン基の重合度を示し、1以上200以下の整数を表す。)で表されるものがより好ましい。更に好ましくは、Qは、炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状のアルキル基を、nは、2以上200以下の整数を表す。
このような構造を持ったシリコーン系マクロモノマーを電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物に含めることにより、該粘着剤組成物を用いて製造された粘着フィルムは、高速剥離時の低粘着性となじみ性とが高いレベルで両立され、かつ、加熱時に接着の昂進がされにくくなり、本発明の効果がより充分に発揮されることとなる。
【0018】
本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物は、多官能単量体(B)を含むことが好ましい。多官能単量体とは、2以上の官能基を有する単量体であり、粘着剤の架橋密度を高めポリマー主鎖の動きを抑制して、被着体へのなじみ性や粘着力を調整することにより再剥離性能を調整し、特に光学フィルムの表面保護フィルムに必要な物性が発現することになる。
【0019】
上記電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物は、アクリル系重合体(A)100質量%に対して、多官能単量体(B)を1〜50質量%含むことが好ましい。
上記組成物がそのような構成であった場合、粘着剤として要求される初期タック、粘着力、凝集力をより顕著に発揮することができる。多官能単量体(B)の使用量は、2〜40質量%であることがより好ましい。更に好ましくは、3〜25質量%である。多官能単量体(B)の使用量がこのような好ましい範囲であると、粘着力となじみ性とのバランスが更に優れたものとなる。
【0020】
上記多官能単量体(B)は、2つ以上のラジカル重合性基を有する単量体であることが好ましい。より好ましくは、2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する2官能以上の(メタ)アクリレートであり、更に好ましくは、3つ以上のラジカル重合性基を有する単量体である。特に好ましくは、3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する3官能以上の(メタ)アクリレートである。なお、本明細書中、3つのラジカル重合性基を有する単量体を3官能単量体(3官能モノマー)ともいう。
【0021】
上記2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA型ジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、フタル酸ジグリシジルエステルジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル(VEEA)、メタクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル等が挙げられる。上記2官能(メタ)アクリレートとしては、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリプロピレンクリコールジアクリレートが特に好ましい。
【0022】
上記3官能以上の(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリロイルオキシエトキシトリメチロールプロパン、グリセリンポリグリシジルエーテルポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
その他の多官能(メタ)アクリレートとしては、エポキシ(メタ)アクリレート類、ウレタン(メタ)アクリレート類を適宜使用可能である。
【0023】
上記多官能単量体(B)の中でも、3官能(メタ)アクリレートであるトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリロイルオキシエトキシトリメチロールプロパンが好ましく、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが最も好ましい。
【0024】
上記電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物においては、多官能単量体(B)として3官能以上の(メタ)アクリレート及び/又は2官能(メタ)アクリレートを単独で使用しても、併用して使用してもよい。
また、多官能単量体(B)に加えて、必要に応じて、単官能単量体を併用することも可能である。これによって、所望の粘着物性を有するように電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物を微調整することができる。単官能単量体の使用量としては、アクリル系重合体(A)100質量%に対して0〜30質量%であることが好ましい。より好ましくは、0〜25質量%であり、更に好ましくは、0〜20質量%である。単官能単量体の使用量がこのような好ましい範囲であると、硬化性を低下させることなく所望の粘着特性を付与することができる。
【0025】
上記単官能単量体は、1つの官能基を有する化合物である。単官能単量体は、1つのラジカル重合性基を有する化合物であることが好ましい。単官能単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコールアクリレート等の(メタ)アクリレートを用いることができる。これらの中でも、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコールアクリレートが好ましい。
以下に、アクリル系重合体(A)を得るための単量体成分及び重合工程について説明する。
【0026】
上記アクリル系重合体(A)としては、50質量%以上がアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成を有するものであることが好ましい。アルキル(メタ)アクリレート由来の構成物の含有量が50質量%未満であると、なじみ性が不足するおそれがある。より好ましくは、60質量%以上であり、更に好ましくは、70質量%以上である。アルキル(メタ)アクリレートがこのような好ましい範囲であると、なじみ性がより優れることになる。
【0027】
上記アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコデシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート(炭素数1〜20の直鎖又は分岐アルキル)などが挙げられる。これらアルキル(メタ)アクリレートは、適宜、1種又は2種以上を用いることができる。
また、アルキレンオキサイド骨格を有するアルキル(メタ)アクリレート等でも使用することが可能である。具体例としては、例えば、メトキシ−ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ−トリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のメトキシ−ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート型、エトキシ−ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ−トリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のエトキシ−ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート型、ブトキシ−ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシ−トリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のブトキシ−ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート型、フェノキシ−ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ−トリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のフェノキシ−ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート型、メトキシ−ジプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のメトキシ−ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート型等が挙げられる。
上述した(メタ)アクリレートの中でも特に、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソノニルアクリレート、イソデシルアクリレート、トリデシルアクリレート、イソミリスチルアクリレートなどが好適である。これらのアルキル(メタ)アクリレートは、適宜1種又は2種以上を併用して用いられる。
【0028】
本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物は、アクリル系重合体(A)を構成する単量体として水酸基及び/又はカルボキシル基を有する単量体を含むものを用いることが好ましく、これにより基材との密着性を向上することができ、また、後述の不飽和二重結合及び官能基を有する化合物を重合体側鎖に付加させる際の反応点とすることができる。不飽和二重結合及び官能基を有する化合物としてイソシアネート基含有化合物を用いる際の反応点とするには、水酸基を有する単量体を用いることが好ましい。また、不飽和二重結合及び官能基を有する化合物としてグリシジル基含有化合物又はオキサゾリン単量体を用いる際の反応点とするには、カルボキシル基を有する単量体を用いることが好ましい。また、水酸基及び/又はカルボキシル基を有する単量体としては、水酸基を有する単量体又はカルボキシル基を有する単量体のいずれか一方を用いることが好ましい。水酸基を有する単量体とカルボキシル基を有する単量体とを共重合させると、水酸基とカルボキシル基とが反応してしまい、不飽和二重結合を重合体側鎖に付加させる際の反応点とすることができなくなるからである。
【0029】
上記水酸基を有する単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
水酸基を有する単量体は、ヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。より好ましくは、炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルであり、更に好ましくは、炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルである。また、炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルのなかでも、2−ヒドロキシエチルメタクリレート又は2−ヒドロキシエチルアクリレートを用いることが特に好ましい。
【0030】
上記カルボキシル基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、及び、2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
カルボキシル基を有する単量体は、(メタ)アクリル酸であることが好ましい。
【0031】
上記アクリル系重合体(A)において、水酸基及び/又はカルボキシル基を有する単量体の使用量は、全単量体成分を100質量%としたとき、0〜10質量%であることが好ましい。10質量%を超えるとなじみ性が不足するおそれがある。水酸基及び/又はカルボキシル基を有する単量体の使用量は、0〜8質量%であることがより好ましい。更に好ましくは、0〜7質量%であり、特に好ましくは、0〜6質量%である。
【0032】
上記アクリル系重合体(A)を構成する単量体としては、水酸基及び/又はカルボキシル基を有する単量体の他に、その他のビニル系単量体を含むものを用いることもできる。
その他のビニル系単量体とは、上記アルキル(メタ)アクリレート、及び、上記水酸基及び/又はカルボキシル基を有する単量体のいずれにも該当しない化合物であり、これらと共重合可能なビニル基含有単量体である。
その他のビニル系単量体としては、例えば、アルキル基の炭素数が1〜18のメタクリル酸アルキルエステル、酢酸ビニル、及び、スチレン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記その他のビニル系単量体としてより好ましくは、アルキル基の炭素数が1〜18のメタクリル酸アルキルエステルである。
【0033】
上記アクリル系重合体(A)の合成において、その他のビニル系単量体の使用量は、全単量体成分を100質量%としたとき、0〜50質量%であることが好ましい。その他のビニル系単量体の使用量が50質量%を超えると上記アルキル(メタ)アクリレートの使用量が少なくなりすぎ、なじみ性が不充分になる。その他のビニル系単量体の使用量は、0〜40質量%であることがより好ましい。更に好ましくは、0〜30質量%である。
【0034】
上記アクリル系重合体(A)は、側鎖の不飽和結合が0〜0.200mmol/gである側鎖不飽和結合含有重合体であることが好ましいが、側鎖の不飽和結合は、0〜0.180mmol/gであることがより好ましい。更に好ましくは、0〜0.160mmol/gである。
側鎖に不飽和結合を有する重合体としては、(i)側鎖不飽和結合となる部分を有する単量体を用いて重合を行うか、又は、(ii)重合体を調製した後に側鎖に不飽和結合を導入してもよい。これらの方法の中でも、上記(ii)の方法で行うことが好ましい。
上記(ii)のように不飽和二重結合を重合体の側鎖に導入する方法としては、不飽和基二重結合及び官能基を有する化合物をアクリル系重合体のもとになる重合体に付加させる(付加反応工程を行う)方法が挙げられる。なお、側鎖の不飽和結合が実質的に0mmol/gであっても、多官能単量体の使用量を前述するように特定することによって、本発明の効果を奏することができる。
【0035】
上記アクリル系重合体(A)としては、重量平均分子量が1万から100万のものを使用することができる。重量平均分子量が100万を超えると塗工性が悪くなるおそれがある。上記重量平均分子量は、2万から80万であることが好ましい。より好ましくは、3万から60万である。
【0036】
上記重量平均分子量は、下記ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)装置及び条件で測定することが好適である。
装置:HLC−8220GPC(商品名、東ソー株式会社製)
溶出溶媒:テトラヒドロフラン
標準物質:東ソー株式会社製標準ポリスチレン
分離カラム:TSKgel SuperHZM−M
【0037】
上記アクリル系重合体(A)のガラス転移温度は、−100〜−20℃であることが好ましい。ガラス転移温度が−100〜−20℃であると、充分ななじみ性を付与することができる。上記ガラス転移温度としてより好ましくは、−100〜−30℃であり、更に好ましくは、−100〜−40℃であり、特に好ましくは、−100〜−50℃である。
【0038】
上記アクリル系重合体(A)のガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量測定装置)、DTA(示差熱分析装置)、TMA(熱機械測定装置)によって求めることができる。また、ホモポリマーのTg(K)は各種文献(例えば、ポリマーハンドブック等)に記載されているので、コポリマーのTg(K)は、各種ホモポリマーのTgn(K)と、モノマーの質量分率(Wn)とから下記式によって求めることもできる。
【0039】
【数1】

【0040】
ここで、上記略語は、下記のものを表す。
Wn:各単量体の質量分率
Tgn:各単量体のホモポリマーのTg(K)
【0041】
上記アクリル系重合体(A)を得るための重合工程は、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の種々の方法により行うことができるが、分散剤や乳化剤の混入がない、塊状重合又は溶液重合が好ましい。
【0042】
上記アクリル系重合体(A)を得るための重合工程において使用する溶媒は、重合反応に不活性なものであることが好ましい。また、電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物とする際に使用する溶媒を用いることが好ましい。これによって効率的に電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物を調製することができる。なお、溶媒は、重合機構、使用する単量体の種類や量、重合温度、重合濃度等の重合条件に応じて適宜設定することが好適である。
【0043】
上記溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール等のモノアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;テトラヒドロフラン,ジオキサン等の環状エーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3−メトキシブタノール等のグリコールモノエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のグリコールモノエーテルのエステル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のアルキルエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。生産性を向上させる観点から、沸点が低い有機溶媒が好ましい。例えば、アルキルエステル類の酢酸エチル、芳香族炭化水素類のトルエン、ケトン類のメチルエチルケトンなどが好適である。溶媒の使用量としては、全単量体成分100質量%に対して、40〜1000質量%が好ましい。より好ましくは、100〜400質量%である。
【0044】
上記重合工程において、重合開始剤を使用することが好ましい。
上記重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、クメンヒドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等の有機過酸化物;
2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
上記重合工程における重合開始剤の添加量は、必要充分に重合反応を行うことができればよいが、例えば、重合溶液の全質量を100質量%としたとき、0.01〜1.0質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.01〜1.0質量%であり、更に好ましくは、0.02〜0.5質量%である。重合開始剤の添加量が1.0質量%を超えると、保存安定性が充分ではなくなるおそれがある。
【0046】
上記重合工程は、必要に応じて連鎖移動剤を添加して行うことが好ましい。これによって、所望の平均分子量を有する重合体を得ることができる。上記連鎖移動剤は、公知の種々の連鎖移動剤を用いることができるが、単量体成分の重合反応を極めて容易に制御できることから、チオール化合物が最も好ましい。
【0047】
上記チオール化合物としては、例えば、t−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;チオフェノール、チオナフトール等の芳香族メルカプタン;チオグリコール酸;チオグリコール酸オクチル、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス−(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス−(チオグリコレート)等のチオグリコール酸アルキルエステル;β−メルカプトプロピオン酸;β−メルカプトプロピオン酸オクチル、1,4−ブタンジオールジ(β−チオプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス−(β−チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス−(β−チオプロピオネート)等のβ−メルカプトプロピオン酸アルキルエステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アルキルメルカプタンが好ましい。
【0048】
上記連鎖移動剤の使用量は、該連鎖移動剤の種類や、単量体組成等に応じて設定すればよく、単量体成分100質量%に対して0.01〜4質量%の範囲内が好ましい。より好ましくは、0.02〜3質量%の範囲内であり、更に好ましくは、0.03〜2質量%の範囲内である。
【0049】
上記重合工程における重合温度としては、例えば、50〜200℃とすることが好ましい。50℃未満であると、分解温度の低い開始剤を用いる必要があり、開始剤を冷却保存する設備等が必要となる等、工業製造に不利となるおそれがある。200℃を超えると、開始剤の分解温度に達する前に単量体成分が熱重合し始めるおそれがある。好ましくは、60〜150℃である。なお、重合温度は、開始剤の種類等に応じて適宜設定することが好ましい。
【0050】
上記重合工程における反応時間は、反応温度等のその他の反応条件、及び、単量体の物性によって適宜調整すればよいが、0.1〜48時間であることが好ましい。より好ましくは、0.1〜24時間である。上記反応時間が0.1時間未満であると、単量体が充分に重合しないおそれがあり、反応工程が経済的に非効率なものとなるおそれがある。上記反応時間が48時間を超えるとゲル化するおそれがある。
続いて、不飽和基二重結合及び官能基を有する化合物をアクリル系重合体(A)のもとになる重合体に付加させる工程(付加反応工程)について説明する。
【0051】
上記付加反応工程の方法としては、例えば、(a)カルボキシル基及び/又は水酸基を有する単量体を共重合した重合体にイソシアネート基含有(メタ)アクリル酸エステルを反応させる方法、(b)カルボキシル基を有する単量体を共重合した重合体に、メタクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有単量体、及び/又は、イソプロペニルオキサゾリン等のオキサゾリン単量体を反応させる方法が挙げられる。これらの方法の中でも、上記(a)の方法で行うことが反応率が高く、また反応速度が速いため特に好ましい。
【0052】
上記導入方法(a)で用いられるイソシアネート基含有(メタ)アクリル酸エステルは、分子中に1つのイソシアネート基を有するモノイソシアネートであることが好ましい。多価イソシアネート化合物を用いると、合成中に分子間での架橋が発生し、ゲル化するおそれがある。
【0053】
上記分子中に1つのイソシアネート基を有するイソシアネート基含有(メタ)アクリル酸エステルは、下記一般式(2);
【0054】
【化2】

【0055】
(式中、Rは、水酸基又はメチル基を表す。Rは、アルキル基の1の水素原子がイソシアネート基で置換された基を表す。)で表される化合物である。
上記一般式(2)で表される化合物において、Rは、炭素数1〜5のアルキル基の1の水素原子がイソシアネート基で置換された基であることが好ましい。より好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基の1の水素原子がイソシアネート基で置換された基である。なお、上記Rは、直鎖であっても分岐であってもよい。また、Rが有するイソシアネート基は、ブロックされていてもよい。
【0056】
上記一般式(2)で表される化合物としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシメチルイソシアネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネートが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
これらの化合物の中でも、(メタ)アクリロイルオキシメチルイソシアネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートが好ましい。より好ましくは、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートである。
このようなイソシアネート基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、カレンズシリーズ(昭和電工社製)等を用いることができる。
【0057】
上記導入方法(b)で用いられるエポキシ基含有単量体とは、エポキシ基と二重結合とを有する化合物である。エポキシ基としては、例えば、1,2−エポキシド基(オキシラン基)、1,3−エポキシド基(オキセタニル基)、1,4−エポキシド基(テトラヒドロフラニル基)、1,5−エポキシド基(テトラヒドロピラニル基)が挙げられる。
このような化合物としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸β−メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸β−エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸アリル、ビニルベンジルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等の脂肪族1,2−エポキシド基を有する単量体、3−(メタ)アクリロキシメチルオキセタン、3−メチル−3−(メタ)アクリロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(メタ)アクリロキシメチルオキセタン等の脂肪族1,3−エポキシド基を有する単量体、(メタ)アクリル酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル、ビニルシクロヘキセンオキサイド等の脂環式1,2−エポキシド基を有する単量体が挙げられる。
これらの中でも、カルボキシル基への反応性及び経済性等の点で優れることから、脂肪族1,2−エポキシド基を有する単量体が好ましい。特に好ましくは、(メタ)アクリル酸グリシジルである。最も好ましくは、メタクリル酸グリシジルである。
このようなエポキシ基含有単量体ととしては、ブレンマーG(商品名、日本油脂社製)等を用いることができる。
【0058】
上記導入方法(b)で用いられるオキサゾリン単量体は、ビニル基とオキサゾリン基とを有する化合物である。オキサゾリン単量体としては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、反応性、入手しやすさ等の点で優れることから、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが好ましい。
【0059】
上記付加反応工程は、50〜100℃の温度範囲で行うことが好ましい。この際、通常は、アクリル系重合体(A)のもとになる重合体、不飽和基二重結合及び官能基を有する化合物、溶媒、及び、付加触媒を混合して行うことになる。
上記温度としてより好ましくは、55〜90℃であり、更に好ましくは、60〜80℃で行う。温度が50℃未満であると、反応に長い時間がかかったり、反応率が低下したりするおそれがある。温度が100℃を超えると、反応中に重合体がゲル化し易くなる。また、ゲル化を防ぐために、更に重合禁止剤を混合し、分子状酸素含有ガスの存在下で行うことが望ましい。分子状酸素含有ガスとしては、通常、窒素等の不活性ガスで希釈された空気或いは酸素ガスが用いられ、反応容器内に吹き込まれる。
【0060】
上記付加反応工程における反応時間としては、不飽和基二重結合及び官能基を有する化合物の反応率が80%以上に達するまで続けることが好ましい。より好ましくは、90%以上に達するまで続けることであり、更に好ましくは、95%以上に達するまで続けることである。
これによって、側鎖に充分な量の不飽和結合を導入したり、毒性の高いイソシアネート含有単量体及びエポキシ基含有単量体を充分に低減する等の効果が発揮されることになる。なお、反応率は、FT−IRによる未反応官能基量の定量、反応液の酸価の定量、ガス或いは液体クロマトグラフィ法を用いたエポキシ基含有単量体等の残存量の定量等により確認できる。
【0061】
上記付加反応工程に用いる溶媒としては、重合する際に用いる溶媒として挙げたものを使うことができ、1種又は2種以上を用いてもよい。重合体を溶媒を用いて合成し、得られた重合体溶液の溶媒を、そのまま付加反応工程用の溶媒として用いるのが効率的で好ましい。
上記付加反応工程における溶媒の使用量は、重合体溶液の全質量を100質量%としたとき、重合体濃度が10〜80質量%であることが好ましい。上記範囲で行うことにより、反応時間が短縮でき経済的であり、また、系の粘度が比較的低いためゲル化し難く、温度制御も容易である傾向が期待できる。より好ましい濃度は、15〜70質量%であり、更に好ましい濃度は、20〜60質量%である。
【0062】
上記導入方法(a)に用いる付加触媒としては、例えば、スズ化合物又は公知のウレタン開裂触媒を用いることができる。これらの中でも、副反応が少ないこと等から、ジラウリン酸ジブチルスズを用いることが好ましい。
上記導入方法(a)における触媒の使用量は、アクリル系重合体(A)のもとになる重合体とイソシアネート基含有(メタ)アクリル酸エステルとの合計質量を100重量%としたとき、0.01〜0.5質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.02〜0.1質量%である。上記範囲で行うことにより、反応時間が短縮でき経済的であり、また、保存安定性をより向上できる。
【0063】
上記導入方法(b)に用いる付加触媒としては、公知のエステル化用又はエステル交換用塩基性触媒及び酸性触媒を用いることができる。これらの中でも、副反応が少ないこと等から、塩基性触媒を用いることが好ましい。
塩基性触媒としては、例えば、ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等の3級アミン、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩、テトラメチル尿素等の尿素化合物、テトラメチルグアニジン等のアルキルグアニジン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド化合物、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の3級ホスフィン、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロマイド等の4級ホスホニウム塩等を挙げることができる。これらの触媒は、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。
これらの中では、反応性、取扱い性やハロゲンフリーの点で、ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン、テトラメチル尿素、トリフェニルホスフィンが好ましい。
【0064】
上記導入方法(b)における触媒の使用量は、アクリル系重合体(A)のもとになる重合体とエポキシ基含有単量体及びオキサゾリン化合物との合計質量を100重量%としたとき、0.01〜5.0質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.1〜3.0質量%である。上記範囲で行うことにより、反応時間が短縮でき経済的であり、また、保存安定性をより向上できる。
【0065】
上記付加反応工程は、重合禁止剤を添加して行うことが好ましい。
重合禁止剤としては、公知のラジカル重合性単量体用重合禁止剤を用いることができる。ラジカル重合性単量体用重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、メトキノン、6−t−ブチル−2,4−キシレノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メトキシフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等のフェノール系禁止剤、有機酸銅塩やフェノチアジンを挙げることができる。これらの中では、低着色、重合防止能力の点でフェノール系禁止剤が好ましく、入手性、経済性から、中でもメトキノン、6−t−ブチル−2,4−キシレノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)が好ましい。より好ましくは、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)である。これらの重合禁止剤は、単独で使用しても、2種類以上混合して使用してもよい。
【0066】
上記重合禁止剤の使用量としては、全単量体成分と不飽和基二重結合及び官能基を有する化合物との合計質量を100質量%としたとき、0.001〜1.0質量%であることが好ましい。より好ましくは、0.005〜0.5質量%である。上記のような範囲で行うことにより、付加反応工程におけるゲル化防止と、組成物にした際の充分な硬化性との両立を期待できる。
【0067】
本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物が、更に光重合開始剤(C)を含んでなり、紫外線照射により硬化するものであることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
紫外線(UV)硬化に用いられる光重合開始剤には、水素引き抜き型及び自己開裂型があるが、本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物に含まれる光重合開始剤(C)は、水素引き抜き型光重合開始剤を必須とすることが好ましい。水素引き抜き型光重合開始剤を用いると、光重合開始剤が粘着剤樹脂から水素ラジカルを引き抜き、このポリマー上のラジカルが他のポリマー分子の側鎖不飽和結合と反応することにより(多官能単量体を間に介する場合もあり)架橋構造が形成される。この反応はポリマーラジカルを起点とするため架橋効率がよく、高速剥離時の低粘着性となじみ性の両立が可能となると推定される。一方、自己開裂型は光重合開始剤がラジカル2分子に開裂し、このラジカルがまずあるポリマー分子の側鎖不飽和結合と反応し、更に別のポリマー分子と反応することで架橋構造が形成されるため、前述の水素引き抜き型よりも架橋効率が悪い。実際、水素引き抜き型光重合開始剤と比較して高速粘着力が下がりにくい。自己開裂型の光重合開始剤を用いても粘着剤樹脂側鎖の不飽和二重結合量や多官能単量体量を増やすことで高速粘着力を下げることは可能であるが、なじみ性とのバランスが取れない。高速剥離性を出すには全体的にある程度の架橋度に上げる必要があるが、自己開裂型は架橋効率が悪いため過度の架橋が必要となる。そのため、架橋密度が高すぎるところが存在し、結果として高速剥離性となじみ性のバランスが悪くなると考えられる。
【0068】
上記水素引き抜き型光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、トリメチルベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4−フルオロベンゾフェノン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、〔4−(メチルフェニルチオ)フェニル〕フェニルメタノン等のベンゾフェノン類;チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン等のチオキサントン類や3−ケトクマリン、2−エチルアンスラキノン、カンファーキノン、ミヒラーケトン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0069】
上記水素引き抜き型光重合開始剤の中でも、ベンゾフェノン類を用いることが好ましい。すなわち、本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物に含まれる光重合開始剤(C)は、ベンゾフェノン系光重合開始剤を必須とすることが好ましい。
ベンゾフェノン類とは、ベンゾフェノン基を有する化合物である。より好ましくは、ベンゾフェノンである。
また、水素引き抜き型光重合開始剤の添加量は、アクリル系重合体(A)100質量%に対して、0.1〜10質量%であることが好ましい。
【0070】
本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物では、水素引き抜き型光重合開始剤とともに自己開裂型光重合開始剤を併用することもできる。自己開裂型光重合開始剤を使用することで単官能単量体の未反応量を低減することができる。ただし、自己開裂型光重合開始剤の添加量は、アクリル系重合体(A)100質量%に対して、5質量%以下であることが好ましい。自己開裂型光重合開始剤は架橋効率を低下させる働きもあるからである。
【0071】
上記自己開裂型光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;ジメチルベンジルケタール、2,2−ジメトキシフェニルアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のアセトフェノン類;ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0072】
上記電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物を紫外線照射によって硬化させる場合、UV光源としてはブラックライト、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等が挙げられる。
UVの照射強度としては、粘着剤組成物を充分に硬化させることができればよく、例えば、ピーク照度が50〜1000mW/cmであることが好ましい。照射強度が弱すぎると硬化に時間がかかりすぎる場合がある。
UVの照射量としては、例えば、UV照射積算光量が10〜1000mJ/cmであることが好ましい。更に好ましくは、50〜500mJ/cmである。最も好ましくは、80〜300mJ/cmである。照射量が少なすぎると硬化が不十分となり高速粘着力が高くなりすぎる場合があり、多すぎると過剰な硬化のためになじみ性が不足する場合がある。また、照射雰囲気の酸素濃度を調整して硬化させてもよい。
【0073】
本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物とイソシアネート架橋剤を含んでなる従来の再剥離粘着剤組成物との違いについて以下に説明する。
再剥離型粘着剤は、粘着力を低く抑える、貼り付け後の経時的な粘着力の上昇を抑えるという目的から、通常の粘着剤と比較して高架橋密度にする必要がある。そのために、通常よりも多くの架橋点をもった粘着剤樹脂を多量の架橋剤で架橋するという形態をとっている。一般的に用いられるイソシアネート架橋方式では、架橋点として高極性のウレタン結合が多く形成されてしまい、これが粘着層のタックや濡れ性を低下させてしまうために、なじみ性を発現させることが困難となる。一方、電離放射線硬化の場合、架橋部は無極性のアルキル基であるため柔軟でなじみ性が発現しやすい。
また、イソシアネート架橋の場合、多量の架橋点を多量の架橋剤で反応させるため、架橋密度の分布ができやすいといった問題点や、目的としたポリマー架橋点とイソシアネート化合物の反応(ウレタン結合)以外に、イソシアネート同士の反応(アロファネート結合)や系中に存在する水分との反応などの副反応も起こるため架橋構造は複雑であり、不均一であると考えられる。一方、電離放射線硬化の場合は、不飽和二重結合がラジカルと反応することによって架橋が形成されるため、イソシアネートのような副反応もなく、比較的架橋密度が均一であり、そのため高速剥離性となじみ性のバランスに優れた組成物を形成するのに適していると考えられ、このような重合体とシリコーン系マクロモノマーとを含む組成物とすることにより、適度な粘着性となじみ性とがバランスよく発揮されることになる。
このような理由から、本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物に含まれてもよいイソシアネート架橋剤及びエポキシ化合物等の架橋剤の含有量は、後述するような範囲とすることが好ましい形態である。
【0074】
上記電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物が電子線照射により硬化するものであることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
電子線照射により硬化させると、開始種がすべてポリマーラジカルであるため、高速剥離性となじみ性とのバランスがより優れることになる。また、電子線(EB)硬化は、電子線照射によりポリマーラジカルを発生させるところが起点となるため、水素引き抜き型開始剤を用いた紫外線(UV)硬化と同じ機構である。厳密に言えば、水素引き抜き型開始剤を用いたUV硬化は、ポリマーラジカルと開始剤ラジカル(開始剤がポリマーから水素ラジカルを引き抜いたもの)の2種が開始種となるが、EB硬化はすべてポリマーラジカルが開始種となるためより好ましい形態である。
【0075】
上記電子線照射による硬化は、加速電圧が300kV以下である電子線を用いればよい。より好ましくは250kV以下である電子線を用いることである。加速電圧が300kVを超えると組成物を通過した電子線が基材を劣化するおそれがある。電子線の照射においては、加速電圧が高いほど電子線の透過能力が増加する。したがって、電子線の透過深さと樹脂層の厚みが実質的に等しくなるように、加速電圧を選定することにより、基材シートへの余分の電子線の照射を抑制することができ、過剰電子線による基材シートの劣化を最小限にとどめることができる。このように、最適な加速電圧は、樹脂層の厚さに左右されるので、硬化後の厚さが、好ましい範囲の5〜50μm程度である場合には、加速電圧は50〜200kVの範囲が好ましい。
上記照射線量は、樹脂層の架橋密度が飽和する量に調整するのが好ましく、通常5〜300kGyで調整される。照射線量は、好ましくは10〜250kGyであり、より好ましくは20〜200kGyである。
上記電子線照射における電子線源としては、例えば、コックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を用いることができる。
【0076】
上記電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物を硬化させるためには、紫外線(UV)照射及び電子線(EB)照射のなかでも、電子線照射を用いることが特に好ましい。紫外線と比較して照射回数も少なくて済み、その結果、粘着フィルム等の製造に関して、生産性を向上させることができる。一般に電子線硬化は、紫外線照射による硬化のように光重合開始剤を必要としないため、電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物の保存安定性が良好であり、塗工作業性等を向上させることができる。
【0077】
上記電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物は、更に、粘着剤組成物100質量%に対して、メルカプタン化合物を0.1〜10質量%含むことが好ましい。
メルカプタン化合物を0.1〜10質量%含むことによって、酸素による硬化阻害の抑制や、局所的に架橋密度が過剰になるのを連鎖移動効果により効果的に抑制することができ、なじみ性を更に向上することができる。
酸素による硬化阻害を抑制する効果は、酸素とラジカルとが結合してできる重合活性のないパーオキシラジカルがメルカプタンから水素を引き抜くことによって重合活性のあるチイルラジカルと変換されることによって得られる。なじみ性向上効果は、電離放射線硬化時に局所的に高架橋密度となるのをメルカプト基による連鎖移動により制御することによって得られると考えられる。
メルカプタン化合物の添加量が0.1質量%未満であると、添加の効果が得られない場合があり、10質量%を超えると硬化性が低下する場合がある。
【0078】
上記メルカプタン化合物の含有量は、アクリル系重合体(A)を100質量%としたとき、0.1〜9質量%であることが好ましい。メルカプタン化合物の添加量としてより好ましくは、重合体100質量%に対して0.1〜8質量%であり、更に好ましくは重合体100質量%に対して0.1〜7質量%である。
なお、上記メルカプタン化合物の添加量は、アクリル系重合体を得るための上記重合工程で添加されるメルカプタン系の連鎖移動剤の残存物を含む量である。
【0079】
上記メルカプタン化合物とは、少なくとも1つのメルカプト基を有する化合物である。
メルカプタン化合物の例としては、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチル、β−メルカプトプロピオン酸、β−メルカプトプロピオン酸オクチル等の単官能メルカプタン類;1,4−ブタンジオールジチオグリコレート、1,4−ブタンジオールジ(β−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(β−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキス(β−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキスペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ジペンタエリスリトールヘキサキスペンタエリスリトールテトラキス(β−メルカプトプロピオネート)等の多官能メルカプタン類が挙げられる。揮発性や臭気の観点から多官能メルカプタン類が好ましい。
多官能メルカプタン類とは、1分子あたりメルカプト基を2個以上有する化合物である。
【0080】
本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物は、更に必要に応じて、添加物として無機充填剤、非反応性樹脂(例えば、アクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等)、着色顔料、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、艶消し剤、染料、消泡剤、レベリング剤、帯電防止剤、分散剤、スリップ剤、表面改質剤、粘着付与剤等を適宜含むことができる。またこれらの添加物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特に、上記可塑剤として、耐熱性を有する可塑剤は、粘着剤に柔軟性と耐熱性を付与することが可能であり、再剥離粘着フィルムの物性を改良することができる。
【0081】
本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物は、基材と粘着層との密着性向上等の理由により、イソシアネート化合物やエポキシ化合物などの、アクリル系重合体(A)の有する官能基と反応し得る架橋剤を併用することができる。
イソシアネート含有化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、等のジイソシアネート化合物;「スミジュールN」(住友バイエルウレタン社製)等のビュレットポリイソシアネート化合物;「デスモジュールIL」、「デスモジュールHL」(いずれもバイエルA.G.社製)、「コロネートEH」(日本ポリウレタン工業社製)等として知られるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物;「スミジュールL」(住友バイエルウレタン社製)等のアダクトポリイソシアネート化合物;「デユラネートD201」(旭化成社製)等のポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。これらは、単独で使用し得るほか、2種以上を併用することもできる。
【0082】
上記エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン等が挙げられる。
これらのイソシアネート化合物やエポキシ化合物の含有量は、アクリル系重合体(A)を100質量%としたとき、0.5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.4質量%以下であり、更に好ましくは、0.3質量%以下である。イソシアネート化合物やエポキシ化合物の添加量が上記範囲を超えると、なじみ性が低下するおそれがある。
【0083】
本発明はまた、基材の片面に上記電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物を塗布し、電離放射線照射により硬化させた粘着層を有する再剥離粘着フィルムでもある。
本発明の粘着フィルム(粘着シート)は、剥離速度依存性が充分に低いものであり、再剥離型の表面保護フィルム等として各種基材に対して好適に用いることができる。上記基材としては、例えば、光学部材、金属板、ガラス板、プラスチック板、樹脂塗装銅板、窓ガラス、家具、車等の製品に対して使用することができる。これらの中でも、光学部材に使用することが好ましい。
【0084】
上記粘着フィルム(粘着シート)は、下記のような物性を有するものであることが光学部材を保護する粘着フィルム等の用途において好適であり、本発明において好ましい形態であるといえる。そのような物性を発現させるためには、上述した本発明の構成を採用し、適宜好ましい形態を採用することによって達成することが可能である。
すなわち、得られる粘着フィルム(粘着シート)の低速粘着力が0.1N/25mm以上のものであることが好ましい。低速粘着力が0.1N/25mm以上であることによって、工程中における剥がれや、オートクレーブ処理時の浮き等をより抑制することができる。なお、本明細書において、低速粘着力とは、剥離速度0.3m/分で180°剥離した際の粘着力をいい、後述の測定方法で得られる値である。
上記低速粘着力としてより好ましくは、0.12N/25mm以上である。更に好ましくは、0.15N/25mm以上であり、特に好ましくは、0.17N/25mm以上であり、最も好ましくは、0.20N/25mm以上である。
【0085】
上記電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物は、剥離時の被着体へのダメージを小さくするという観点から、粘着シートを被着体から高速で剥離する際に要する力、すなわち、高速粘着力が必要充分に低いものであることが好ましい。具体的には2.0N/25mm以下であることが好ましい。なお、本明細書において高速粘着力とは、剥離速度30m/分で180°剥離した際の粘着力をいい、後述の測定方法で得られる値である。
上記高速粘着力としてより好ましくは、1.7N/25mm以下である。更に好ましくは、1.5N/25mm以下であり、特に好ましくは、1.2N/25mm以下であり、最も好ましくは、1.0N/25mm以下である。
【0086】
上記低速粘着力及び高速粘着力は、本発明の組成物を乾燥後の糊厚が20μmとなるように厚さ38μmのポリエステルフィルムへ塗工し、硬化させて得られる粘着フィルム(粘着シート)をPMMA板に貼り付けたものを用いて測定することが好ましい。この場合、測定用の試料は、例えば、硬化後の粘着フィルムを25mm×150mmの大きさに裁断し、PMMA板(エンジニアリングテストサービス社製)に貼り付け、2kgローラーで1往復圧着させて得られる。
低速粘着力は、圧着1時間後に、0.3m/分の剥離速度で180°方向へ剥離した際の粘着力を測定して得られる。また、高速粘着力は、圧着1時間後に、30m/分の剥離速度で180°方向へ剥離した際の粘着力を測定して得られる。
【0087】
本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物を光学部材を保護する粘着フィルム等の用途で使用する場合には、硬化して得られる粘着フィルム(粘着シート)が上記低速粘着力と上記高速粘着力とのいずれをも満たすことが好ましい。
つまり、上記電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物を硬化して得られる粘着シートが、被着体に貼り付け、0.3m/分で180°剥離した際の粘着力が0.1N/25mm以上であり、かつ、30m/分で180°剥離した際の粘着力が1.5N/25mm以下であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0088】
上記電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物は、低速粘着力を高速粘着力で割った値(以下、この値を剥離速度依存性という。)が15以下であることが好ましい。これによって、高速粘着力に対する低速粘着力が相対的に充分大きくなり、保護フィルムとして充分な性能を発揮することができる。
上記剥離速度依存性は、14以下であることが好ましい。より好ましくは、13以下であり、更に好ましくは、12以下であり、特に好ましくは、11以下である。最も好ましくは、10以下である。
【0089】
上記電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物を硬化して得られる粘着フィルム(粘着シート)を40mm×40mmの面積にカットしたものが、0.1〜10μmの凹凸高低差を表面に有する被着体上に静置した際に、濡れ始めから全面が濡れるまでに要する時間(以下、濡れ時間という。)が180秒以内であることが好ましい。
濡れ時間が上記のような範囲であれば、なじみ性に優れたものであるといえ、更に効率的に粘着フィルムを剥がすことができ、生産性が優れることになる。このような物性を発現させるためには、上述した本発明の構成を採用し、適宜好ましい形態を採用することによって達成することが可能である。
ここで、凹凸高低差とは、JIS B0601に準拠して測定される十点平均粗さ(Rz)で示される数値である。
【0090】
上記濡れ時間は、150秒以内であることが好ましい。より好ましくは、120秒以内であり、更に好ましくは、90秒以内であり、特に好ましくは、60秒以内である。
なお、濡れ時間は、下記の測定条件で算出される値である。
微細凹凸面を有する被着体として、凹凸高低差5.7μm、表面粗さ(Ra)0.31μmである防眩処理フィルム(商品名「BOF−H141S」、BUFFALO社製液晶保護フィルム)を用い、これに本発明の組成物を乾燥後の糊厚が20μmとなるように厚さ38μmのPETフィルムへ塗工し、硬化させて得られる粘着フィルム(上記低速粘着力及び高速粘着力測定に用いるものと同じ試料)を40mm×40mmの大きさに裁断したものを粘着面を下にして静かに置いた。そして、粘着フィルムが防眩処理フィルムに濡れ始めてから(なじみ始めてから)試料の全面が濡れる(なじむ)のに要する時間を測定する。
【0091】
本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物から得られる粘着フィルムは、加熱時の接着昂進が充分に抑制されたものであるが、厚さ20μm、大きさ25mm×150mmの粘着フィルムをガラス板に貼り付け、2kgローラーで1往復圧着させて得られたものにおいて、23℃で20分経過後の粘着力(常態粘着力)に対する、110℃で3時間加熱した後の粘着力の比が1.0〜2.0であることが好ましい。ここで、粘着力とはフィルムを0.3m/分の剥離速度で剥離した時の粘着力を表している。比がこのような範囲であると、加熱時の接着昂進が充分に抑制されたものとして、FPC基板の製造工程で基板表面を保護する保護フィルムとして好適に用いることができる。常態粘着力に対する加熱後の粘着力の比は、より好ましくは、1.0〜1.5である。
【発明の効果】
【0092】
本発明の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物及び再剥離粘着フィルムは、上述の構成よりなり、高速剥離時の低粘着性となじみ性とを高いレベルで両立し、更に加熱時の接着昂進の少ないような、光学部材を保護する粘着フィルム等として好適に用いることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0093】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0094】
[合成例1]
アクリル系重合体の重合例(樹脂A1)
温度計、冷却器、窒素ガス導入管及び、攪拌機を備えた反応器に、2−エチルヘキシルアクリレート 689.5部、2−ヒドロキシエチルアクリレート 10.55部、連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン 0.7部、溶剤として酢酸エチル 402.75部を仕込んだ後、反応器を窒素ガスで置換した。次に、上記の混合物を攪拌しながら内温を85℃に昇温した後、重合開始剤として2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)(商品名「ABN−E」;日本ヒドラジン工業社製)0.35部、溶剤として酢酸エチル 14部を添加して重合反応を開始した。その後、還流温度にて5時間反応させた後、酢酸エチル 105部で希釈を行い、不揮発分53.7%、重量平均分子量18万のアクリル系重合体(樹脂A1)の溶液を得た。
【0095】
[合成例2]
側鎖に不飽和二重結合を有するアクリル系重合体の製造例(樹脂B1)
温度計、冷却器、窒素ガス導入管及び、攪拌機を備えた反応器に、樹脂A1溶液を固形分換算で100部、重合禁止剤としてメトキノン 0.06部、2−メタクリロイルオキシイソシアネート(商品名「カレンズAOI」;昭和電工社製)0.38部を加え、窒素/空気=2/1の混合ガスをバブリングさせながら攪拌を行い、内温を70℃に昇温した。その後、触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ 0.04部を添加し、70℃で3時間反応させた後、FT−IR分析によりイソシアネート基に由来する2273cm−1ピークの消失を確認し、不揮発分樹脂固形分あたり0.025mmol/gの不飽和二重結合を有するアクリル系重合体(樹脂B1)を得た。
【0096】
[合成例3]
アクリル系重合体の重合例(樹脂A2)
温度計、冷却器、窒素ガス導入管及び、攪拌機を備えた反応器に、2−エチルヘキシルアクリレート 695.44部、2−ヒドロキシエチルアクリレート 4.56部、連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン 0.28部、溶剤として酢酸エチル 402.75部を仕込んだ後、反応器を窒素ガスで置換した。次に、上記の混合物を攪拌しながら内温を85℃に昇温した後、重合開始剤として2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)(商品名「ABN−E」;日本ヒドラジン工業社製)0.35部、溶剤として酢酸エチル 14部を添加して重合反応を開始した。その後、還流温度にて5時間反応させた後、酢酸エチル 105部で希釈を行い、不揮発分54.1%、重量平均分子量28万のアクリル系重合体(樹脂A2)の溶液を得た。
【0097】
[合成例4]
側鎖に不飽和二重結合を有するアクリル系重合体の製造例(樹脂B2)
温度計、冷却器、窒素ガス導入管及び、攪拌機を備えた反応器に、樹脂A2溶液を固形分換算で100部、重合禁止剤としてメトキノン 0.06部、2−メタクリロイルオキシイソシアネート(商品名;「カレンズAOI」:昭和電工社製)0.5部を加え、窒素/空気=2/1の混合ガスをバブリングさせながら攪拌を行い、内温70℃に昇温した。その後、触媒としてジラウリン酸ジブチルスズ 0.04部を添加し、70℃で3時間反応させた後、FT−IR分析によりイソシアネート基に由来する2273cm−1ピークの消失を確認し、不揮発分樹脂固形分あたり0.05mmol/gの不飽和二重結合を有するアクリル系重合体(樹脂B2)を得た。
【0098】
[実施例1]
粘着剤樹脂B1 100部(固形分換算)に対し、トリメチロールプロパントリアクリレート 18部、光重合開始剤としてベンゾフェノン 2.5部、メルカプタンとしてペンタエリスリトールテトラキス(β−メルカプトプロピオネート)(商品名;PEMP:堺化学工業社製)0.7部、下記式(3);
【0099】
【化3】

【0100】
(式中、Rは、アルキル基を表す。nは、シロキサン基の重合度を表す。)で表されるメタクリロイル基を有するシリコーン系マクロモノマー(平均分子量:1000、商品名:サイラプレーンFM−0711:チッソ社製)1部を加えてUV硬化型粘着剤組成物を得た。
この粘着剤組成物を圧さ38μmのポリエステルフィルム(ルミラーT−60:東レ社製)へ、乾燥後の糊厚が20μmになるようにアプリケーターで塗工し、熱風循環オーブンにて80℃、3分間の条件で乾燥させた。続いて、この乾燥物を高圧水銀ランプを有するUV照射機にて、ピーク照度150mW/cm、照射量100mJ/cmの条件でUVを照射してUV硬化型粘着シートを作成した。
実施例1で得られた粘着シートについて、以下の評価方法により、低速粘着力、高速粘着力及び微細凹凸面へのなじみ性を評価した。
【0101】
[低速粘着力測定方法]
硬化後の粘着シートを25mm×150mmの大きさに裁断し、PMMA板(エンジニアリングテストサービス社製)に貼り付け、2kgローラーで1往復圧着させた。圧着1時間後に、0.3m/分の剥離速度で180°方向へ剥離した際の粘着力を測定した。低速粘着力としては、工程中における剥がれや、オートクレーブ処理時の浮きを抑制する観点からは高いことが好ましく、具体的には0.1N/25mm以上であることが好ましい。
【0102】
[高速粘着力測定方法]
硬化後の粘着シートを25mm×150mmの大きさに裁断し、PMMA板(エンジニアリングテストサービス社製)に貼り付け、2kgローラーで1往復圧着させた。圧着1時間後に、30m/分の剥離速度で180°方向へ剥離した際の粘着力を測定した。高速粘着力としては、剥離時の被着体へのダメージを小さくするという観点からはできるだけ低いことが好ましく、具体的には1.5N/25mm以下であることが好ましい。
【0103】
[微細凹凸面へのなじみ性]
微細凹凸面を有する被着体として、十点平均粗さ(Rz)6.74μm、算術平均粗さ(Ra)0.31μm(キーエンス社製レーザー顕微鏡VK−9710を用い、JIS B0601に準拠して測定)である防眩処理フィルム(商品名「BOF−H141S」、BUFFALO社製液晶保護フィルム)を用い、これに粘着シートを40mm×40mmの大きさに裁断したものを粘着面を下にして静かに置いた。そして、粘着シートが防眩処理フィルムに濡れ始めてから(なじみ始めてから)試料の全面が濡れる(なじむ)のに要する時間を測定し、以下の判定基準により判断した。
判定基準
◎:全面が60秒以内になじむ
○:全面が60〜180秒以内になじむ
×:全面がなじむのに180秒を超える
【0104】
[実施例2〜3、比較例1]
粘着剤樹脂、多官能単量体、光重合開始剤、メルカプタン、及び、シリコーン系マクロモノマーを表1のように変更した以外は、夷施例1と同様の操作でUV硬化型粘着シートを作成した。
そして、実施例1と同様の測定方法で低速粘着力、高速粘着力、及び繊細凹凸面へのなじみ性を評価した。実施例1〜3及び比較例1の評価結果を下記表1に示す。なお、表中、A−TMPTはトリメチロールプロパントリアクリレートを、A−HDは1,6−ヘキサンジオールジアクリレートを、BPはベンゾフェノンを、FM−0711はサイラプレーンFM−0711をそれぞれ表している。
【0105】
【表1】

【0106】
[実施例4]
粘着剤樹脂B2 100部(固形分換算)に対し、トリメチロールプロパントリアクリレート 11.4部、光重合開始剤としてベンゾフェノン 2部、上記式(3)で表されるメタクリロイル基を有するシリコーン系マクロモノマー(平均分子量:1000、商品名:サイラプレーンFM−0711:チッソ社製)2.3部を加えてUV硬化型粘着剤組成物を得た。
この粘着剤組成物を厚さ38μmのポリエステルフィルム(ルミラーT−60:東レ社製)へ、乾燥後の糊厚が20μmになるようにアプリケーターで塗工し、熱風循環オーブンにて80℃、3分間の条件で乾燥させた。続いて、この乾燥物を高圧水銀ランプを有するUV照射機にて、ピーク照度150mW/cm、照射量100mJ/cmの条件でUVを照射してUV硬化型粘着シートを作成した。
実施例4で得られた粘着シートについて、微細凹凸面へのなじみ性については実施例1と同様に評価した他、以下の評価方法で評価を行った。
【0107】
[ガラス板粘着力]
硬化後の粘着シートを25mm×150mmの大きさに裁断し、ガラス板に貼り付け、2kgローラーで1往復圧着させた。作成した試験片の粘着力を23℃で20分後(表2では「初期」と記載した)、110℃で3時間加熱後に室温に戻し(表2では「加熱後」と記載した)、0.3m/分の剥離速度で粘着力を測定した。
【0108】
[糊残り]
硬化後の粘着シートを25mm×150mmの大きさに裁断し、ガラス板に貼り付け、2kgローラーで1往復圧着させた。その後、110℃で3時間加熱後に室温に戻し、0.3m/分で剥離した後、ガラス板表面の糊残りを目視で観察し、以下の判定基準により判断した。
判定基準
○:糊残りがない。
△:わずかに糊残りがある。
×:糊残りがある、あるいは全て被着体へ移行している。
【0109】
[実施例5〜6、比較例2〜3]
粘着剤樹脂、多官能単量体、光重合開始剤、メルカプタン、シリコーン系マクロモノマー及びUV照射積算光量を表2のように変更した以外は、実施例4と同様の操作でUV硬化型粘着シートを作成した。
そして、実施例4と同様の測定方法で粘着力、糊残り及び微細凹凸面へのなじみ性を評価した。実施例4〜6及び比較例2〜3の評価結果を下記表2に示す。なお、表中、A−TMPTはトリメチロールプロパントリアクリレートを、BPはベンゾフェノンを、FM−0711はサイラプレーンFM−0711をそれぞれ表している。
【0110】
【表2】

【0111】
表1及び表2より、以下のことがわかる。
粘着剤組成物にシリコーン系マクロモノマーを加えた場合には、加えない場合に比べ、なじみ性が大きく向上した。よって、シリコーン系マクロモノマーを必須成分とする粘着剤組成物を用いて粘着シートを作成することで、充分な初期接着強度を有し、高速剥離時の低粘着性となじみ性とを高いレベルで両立することが可能となった。また、粘着剤組成物にシリコーン系マクロモノマーを加えなかった場合には、加えた場合に比べ、なじみ性が低い他に、接着後に加熱した場合の接着昂進を抑制することができず、加熱後剥離した場合に、糊残りが認められるものもあった。よって、シリコーン系マクロモノマーを必須成分とする粘着剤組成物を用いて粘着シートを作成することで、更に、加熱時の接着昂進も抑制することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系重合体(A)及びシリコーン系マクロモノマーを必須成分とすることを特徴とする電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物。
【請求項2】
前記粘着剤組成物は、多官能単量体(B)を含むことを特徴とする請求項1に記載の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物。
【請求項3】
前記粘着剤組成物は、前記アクリル系重合体(A)100質量%に対して、多官能単量体(B)を1〜50質量%含むことを特徴とする請求項2に記載の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物。
【請求項4】
前記シリコーン系マクロモノマーは、ジアルキルシロキサン骨格を有し、重量平均分子量が500〜20000のものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物。
【請求項5】
前記シリコーン系マクロモノマーは、下記一般式(1);
【化1】

(式中、Qは、炭素数1〜50の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表す。Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表す。Xは、炭素数1〜6の非置換又は置換の2価炭化水素基又は単結合を表す。Yは、水素原子又はメチル基を表す。nは、シロキサン基の重合度を示し、1以上200以下の整数を表す。)で表されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物。
【請求項6】
前記電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物は、更に光重合開始剤(C)を含んでなり、紫外線照射により硬化するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物。
【請求項7】
前記光重合開始剤(C)は、水素引き抜き型光重合開始剤を必須とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物。
【請求項8】
前記電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物は、電子線照射により硬化するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物。
【請求項9】
基材の片面に請求項1〜8のいずれかに記載の電離放射線硬化性再剥離粘着剤組成物を塗布し、電離放射線照射により硬化させた粘着層を有することを特徴とする再剥離粘着フィルム。

【公開番号】特開2010−132755(P2010−132755A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309166(P2008−309166)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】