露出結晶面を有する金属イオン担持酸化チタン粒子及びその製造方法
【課題】紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を有し、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光源でも高い触媒活性を発揮することができる酸化チタン粒子と、この酸化チタン粒子からなる光触媒、及び該酸化チタン粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の金属イオン担持酸化チタン粒子は、露出結晶面を有する酸化チタン粒子に、遷移金属イオンが面選択的に担持されていることを特徴とする。露出結晶面を有する酸化チタン粒子としては、ルチル型酸化チタン粒子又はアナターゼ型酸化チタン粒子が好ましい。
【解決手段】本発明の金属イオン担持酸化チタン粒子は、露出結晶面を有する酸化チタン粒子に、遷移金属イオンが面選択的に担持されていることを特徴とする。露出結晶面を有する酸化チタン粒子としては、ルチル型酸化チタン粒子又はアナターゼ型酸化チタン粒子が好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露出結晶面に遷移金属イオンが担持された酸化チタン粒子、その製造方法、及び該酸化チタン粒子からなる光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化チタン光触媒の性能向上に関する研究は、反応物質の吸着能力を向上させることにより光触媒能を向上させることができるという点に着目し、酸化チタンをいかに微粒子化するかに終始していたが、その技術も限界に直面していた。
【0003】
酸化チタンはバンドギャップエネルギー以上のエネルギーを有する光を吸収すると価電子帯の電子が伝導帯に励起し、価電子帯にホール、伝導帯に励起電子が生成し、これらは酸化チタン粒子表面へ拡散する。酸化チタンの光触媒反応は、該励起電子が還元作用を、該ホールが強い酸化作用を有することを利用して、表面に吸着した物質を酸化、あるいは還元することによって進行する。酸化チタンの光触媒反応は、1つの光触媒粒子上で酸化反応と還元反応という正反対の反応が起こるため、励起電子とホールとの再結合や逆反応が容易に進行し、それにより反応効率が激減することが知られている。酸化反応と還元反応の反応場を空間的に分離することが、逆反応を抑制し、光触媒活性を高める上で重要であり、特定面が露出した酸化チタンは各結晶面の特性によって酸化反応と還元反応の反応場を分離することができ、効率よく反応が進行することが分かってきた。
【0004】
そして、特許文献1には、酸化チタンにアルカリ性過酸化水素水処理、硫酸処理、又はフッ化水素酸処理を施して新規露出結晶面が発現した酸化チタン結晶を作る方法が記載されており、得られた新規露出結晶面が発現した酸化チタンからなる光触媒は高い酸化触媒性能を有することが記載されている。前記新規露出結晶面が発現した酸化チタンとしては、(1)ルチル型酸化チタンから得られる、新規に(121)面を発現させた酸化チタン結晶、(2)ルチル型酸化チタンから得られる、新規に(001)(121)(021)(010)面を発現させた酸化チタン結晶、(3)ルチル型酸化チタンから得られる、新規に(021)面を発現させた酸化チタン結晶、(4)アナターゼ型酸化チタンから得られる、新規に(120)面を発現させた酸化チタン結晶、(5)アナターゼ型酸化チタンから得られる、新規に(122)面を発現させた酸化チタン結晶、(6)アナターゼ型酸化チタンから得られる、新規に(112)面を発現させた酸化チタン結晶が開示されている。
【0005】
しかしながら、酸化チタンは、紫外線の照射下では優れた光触媒能を発揮することができるが、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光源に含まれる紫外線量は4%程度と少なく、大部分が可視光線と赤外線で構成されていることから、このような光源下では十分な光触媒能を発揮することができないという問題があった。
【0006】
その解決方法としては、酸化チタンに窒素や特定の金属などをドーピングすることにより、ハンドギャップを小さくし、可視光応答性を付与する方法が挙げられる。金属をドーピングする方法としては、一般にゾルゲル法、固相反応法、イオン注入法などが知られているが、ゾルゲル法では、加水分解及び重合反応を均一に起こさせるため、反応系中のチタン濃度を1%以下の低濃度に制限することが一般的であり、生産効率が低いという問題や、分解生成物の除去に手間がかかる等の問題があった。また、固相反応法では反応を均一に起こさせるため、高温で長時間反応させることが必要であり、生産性に欠けるという問題があった。さらにまた、イオン注入法では大きなエネルギーで金属イオンを酸化チタン中に注入するため、大掛かりな設備が必要となってくることが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−298296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を有し、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光源下でも高い触媒活性を発揮することができる酸化チタン粒子と、この酸化チタン粒子からなる光触媒、及び該酸化チタン粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、露出結晶面の特定の面に遷移金属イオンを担持させた酸化チタン粒子は、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を獲得することができ、その上、励起電子とホールとの分離性を極めて高いものとすることができ、励起電子とホールとの再結合や逆反応の進行を抑制することができるため、飛躍的に光触媒能を向上させることができることを見出した。
【0010】
また、遷移金属イオンを担持する際に励起光を照射すると、大掛かりな設備などを要することなく容易に、且つ効率よく、特定面に選択的に遷移金属イオンを担持することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0011】
すなわち、本発明は露出結晶面を有する酸化チタン粒子に、遷移金属イオンが面選択的に担持されていることを特徴とする金属イオン担持酸化チタン粒子を提供する。
【0012】
露出結晶面を有する酸化チタン粒子としては、ルチル型酸化チタン粒子又はアナターゼ型酸化チタン粒子が好ましい。
【0013】
遷移金属イオンとしては、鉄イオンが好ましい。
【0014】
遷移金属イオンは露出結晶面のうち、酸化反応面に選択的に担持されていることが好ましく、特に、露出結晶面のうち(001)面、(111)面及び(011)面から選択された少なくとも1つの面に選択的に担持されていることが好ましい。
【0015】
本発明は、また、上記金属イオン担持酸化チタン粒子からなる光触媒を提供する。
【0016】
本発明は、さらにまた、励起光照射下、酸化チタン粒子に遷移金属イオンを担持させる工程を有する前記金属イオン担持酸化チタン粒子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る金属イオン担持酸化チタン粒子は、遷移金属イオンが担持されているため、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲の光を吸収することにより、価電子帯にホール、伝導帯に励起電子を生成し、表面の物質を酸化、或いは還元する反応を行うことができる。そのため、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光源を効率よく利用することができる。また、酸化チタン粒子が露出結晶面を有し、遷移金属イオンが該露出結晶面の特定の面に選択的に担持されているため、光吸収により生じた励起電子とホールの分離性を著しく向上させることができる。そのため、励起電子とホールの再結合及び逆反応の進行を抑制することができ、極めて高い光触活性を示すことができる。
【0018】
また、本発明に係る金属イオン担持酸化チタン粒子の製造方法によれば、遷移金属イオンを担持する工程において励起光照射を行うため、容易に酸化チタン粒子の露出結晶面のうち酸化反応面にのみに遷移金属イオンを吸着させることができ、高い生産性で効率よく本発明に係る金属イオン担持酸化チタン粒子を製造することができ、大掛かりな設備なども必要としない。そのため、本発明に係る金属イオン担持酸化チタン粒子の製造方法は工業化に適した方法である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子の(111)面に鉄イオンが担持する様子を模式的に表した図(a)と、新たな露出面(001)を発現させた、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子の(001)(111)面に鉄イオンが担持する様子を模式的に表した図(b)である。
【図2】酸化チタン粒子の酸素原子に鉄イオンが結合する様子を模式的に表した図である。
【図3】ロッド状ルチル型酸化チタン粒子のTEM写真である。
【図4】PtとPbO2を光析出させたロッド状ルチル型酸化チタン粒子のTEM写真である。
【図5】新たな露出面(001)を発現させた、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子のTEM写真である。
【図6】新たな露出面(001)を発現させた、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子にPtを光析出させた際のTEM写真(a)と、PtとPbO2を光析出させた際のTEM写真(b)である。
【図7】(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子のTEM写真である。
【図8】(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子にPtを光析出させた際のSEM写真(a)と、PbO2を光析出させた際のSEM写真(b)である。
【図9】実施例1により得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(1)のTEM写真である。
【図10】比較例1により得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(2)のTEM写真である。
【図11】実施例2により得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(3)のTEM写真である。
【図12】実施例及び比較例で得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(1)〜(3)、実施例1で調製したロッド状ルチル型酸化チタン粒子(鉄イオン非担持酸化チタン粒子)、及び窒素ドープ酸化チタンを光触媒として使用し、アセトアルデヒドを酸化した際に生成したCO2濃度と可視光線照射量との関係を示す図である。
【図13】実施例及び比較例で得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(3)、(4)を光触媒として使用し、トルエンを酸化した際に生成したCO2濃度と可視光線照射量との関係を示す図である。
【図14】実施例及び比較例で得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(1)、(5)、(6)、及び実施例1で調製したロッド状ルチル型酸化チタン粒子(鉄イオン非担持酸化チタン粒子)を光触媒として使用し、トルエンを酸化した際に生成したCO2濃度と可視光線照射量との関係を示す図である。
【図15】実施例で得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(10)を光触媒として使用し、アセトアルデヒドを酸化した際に生成したCO2濃度と可視光線照射量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る金属イオン担持酸化チタン粒子は、露出結晶面を有する酸化チタン粒子に、遷移金属イオンが面選択的に担持されていることを特徴とする。
【0021】
酸化チタン粒子としては、例えば、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型酸化チタン粒子等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、安定な結晶面が露出している点でルチル型、又はアナターゼ型酸化チタン粒子が好ましい。
【0022】
ルチル型酸化チタン粒子の主な露出結晶面としては、例えば、(110)(001)(111)(011)面等を挙げることができる。本発明における露出結晶面を有するルチル型酸化チタン粒子としては、例えば、(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子、(110)(011)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子等や、これらのルチル型酸化チタン粒子に表面処理を施すことにより得られる、新たな露出面[例えば、(001)面]を発現させたルチル型酸化チタン粒子などを挙げることができる。本発明においては、なかでも、酸化反応と還元反応の反応場を空間的により大きく引き離すことができ、励起電子とホールとの再結合及び逆反応の進行を抑制することができる点で、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子[(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子に表面処理を施すことにより得られる、新たな露出面(001)を発現させたルチル型酸化チタン粒子を含む]が好ましい。
【0023】
アナターゼ型酸化チタン粒子の主な露出結晶面としては、例えば、(001)(101)面等を挙げることができる。本発明における露出結晶面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子としては、(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子や、前記アナターゼ型酸化チタン粒子に表面処理を行うことにより得られる(001)(101)面を有し、十面体構造を呈するアナターゼ型酸化チタン粒子等を挙げることができる。
【0024】
酸化チタン粒子として、例えば、(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子は、チタン化合物を水性媒体(例えば、水又は水と水溶性有機溶媒との混合液)中で水熱処理[例えば、100〜200℃、3〜48時間(好ましくは6〜12時間)]することにより合成することができる。また、水熱処理の際にハロゲン化物を添加すると、得られる粒子のサイズ及び表面積を調整することができるため好ましい。
【0025】
前記チタン化合物としては、3価のチタン化合物、4価のチタン化合物を挙げることができる。3価のチタン化合物としては、例えば、三塩化チタンや三臭化チタンなどのトリハロゲン化チタン等を挙げることができる。本発明における3価のチタン化合物としては、なかでも安価で、入手が容易な点で三塩化チタン(TiCl3)が好ましい。
【0026】
また、本発明における4価のチタン化合物は、例えば、下記式(1)で表される化合物等を挙げることができる。
Ti(OR)tX4-t (1)
(式中、Rは炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示す。tは0〜3の整数を示す)
【0027】
Rにおける炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等のC1-4脂肪族炭化水素基等を挙げることができる。
【0028】
Xにおけるハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素等を挙げることができる。
【0029】
このような4価のチタン化合物としては、例えば、TiCl4、TiBr4、TiI4などのテトラハロゲン化チタン;Ti(OCH3)Cl3、Ti(OC2H5)Cl3、Ti(OC4H9)Cl3、Ti(OC2H5)Br3、Ti(OC4H9)Br3などのトリハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH3)2Cl2、Ti(OC2H5)2Cl2、Ti(OC4H9)2Cl2、Ti(OC2H5)2Br2などのジハロゲン化ジアルコキシチタン;Ti(OCH3)3Cl、Ti(OC2H5)3Cl、Ti(OC4H9)3Cl、Ti(OC2H5)3Brなどのモノハロゲン化トリアルコキシチタン等を挙げることができる。本発明における4価のチタン化合物としては、なかでも安価で、入手が容易な点で、テトラハロゲン化チタンが好ましく、特に四塩化チタン(TiCl4)が好ましい。
【0030】
また、新たな露出面(001)を発現させたロッド状ルチル型酸化チタン粒子や、十面体構造を有し(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタンは、前記チタン化合物を、構造制御剤として親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール)の存在下、水性媒体中で水熱処理[例えば、100〜200℃、3〜48時間(好ましくは6〜12時間)]して[001]方向へ成長させることにより合成することができる。
【0031】
また、特に、前記チタン化合物として4価のチタン化合物を使用する場合は、構造制御剤として親水性ポリマーを添加しなくとも、反応温度110〜220℃(好ましくは150℃〜220℃)、その反応温度における飽和蒸気圧以上の圧力下、水性媒体中で2時間以上(好ましくは5〜15時間)水熱処理を施すことにより(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子を合成することができる。
【0032】
その他、新たな露出面(001)を発現させたルチル型酸化チタン粒子は、ルチル型酸化チタン粒子を硫酸(好ましくは、50重量%以上の高濃度の硫酸、特に好ましくは濃硫酸)中に投入し、加熱下で撹拌することにより、酸化チタン粒子の稜又は頂点の部位を浸食(溶解)して合成することもできる。
【0033】
本発明に係る金属イオン担持酸化チタン粒子は、酸化チタン粒子の露出結晶面における酸化反応面又は還元反応面のうち一方の面に選択的に遷移金属イオンが担持されていることが、励起電子とホールの分離性を高める上で好ましく、特に、酸化反応面に選択的に遷移金属イオンが担持されていることが好ましい。
【0034】
ルチル型酸化チタンの酸化反応面としては、例えば、(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタンの場合は(111)面、(110)(011)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子の場合は(011)面が挙げられる。また、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子[前記の(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子に表面処理を施すことにより得られる、新たな露出面(001)を発現させたルチル型酸化チタン粒子を含む]の場合は、(111)面と(001)面が酸化反応面として挙げられる。
【0035】
アナターゼ型酸化チタンの酸化反応面としては、例えば、(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタンの場合は(001)面、(001)(101)面を有し、十面体構造を呈するアナターゼ型酸化チタン粒子の場合は(001)面が挙げられる。
【0036】
本発明においては、なかでも、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子[(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子に表面処理を施すことにより得られる、新たな露出面(001)を発現させたロッド状ルチル型酸化チタン粒子を含む]の(001)(111)面、(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子の(001)面に遷移金属イオンが選択的に担持されていることが、酸化反応面と還元反応面の反応場を空間的により大きく引き離すことができ、それにより励起電子とホールの再結合及び逆反応の進行を極めて低いレベルにまで抑制することができ、より高い光触媒活性を発揮することができる点で好ましい。
【0037】
また、本発明における酸化チタン粒子の比表面積としては、例えば、20〜80m2/g、好ましくは、20〜60m2/gである。酸化チタン粒子の比表面積が上記範囲を下回ると、反応物質の吸着能力が低下して光触媒能が低下する傾向があり、一方、酸化チタン粒子の比表面積が上記範囲を上回ると、励起電子とホールの分離性が低下し、光触媒能が低下する傾向がある。
【0038】
遷移金属イオンの酸化チタン粒子への担持は、酸化チタン粒子に遷移金属イオンを含浸する含浸法により行うことができる。
【0039】
遷移金属イオンとしては、可視光領域に吸収スペクトルを有し、励起状態で伝導帯に電子を注入することができるものであればよく、例えば、周期表第3〜第11族元素イオン、なかでも周期表第8〜第11族元素イオンが好ましく、特に、三価の鉄イオン(Fe3+)が好ましい。鉄イオンの酸化チタン粒子への担持においては、三価の鉄イオン(Fe3+)は吸着しやすく、二価の鉄イオン(Fe2+)は吸着しにくい特性を有するため、その特性を利用することにより容易に面選択性を付与することができるからである。
【0040】
含浸は、具体的には、酸化チタン粒子を水溶液中に分散して浸漬し、撹拌しながら、遷移金属イオンを添加することにより行うことができ、例えば、遷移金属イオンとして三価の鉄イオン(Fe3+)を使用する場合は、鉄化合物(例えば、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)等)を添加することにより行うことができる。
【0041】
遷移金属イオンの添加量としては、例えば、酸化チタン粒子に対して0.01〜3.0重量%程度、好ましくは0.05〜1.0重量%程度である。遷移金属イオンの添加量が上記範囲を下回ると、酸化チタン粒子表面における遷移金属イオンの被覆率が低下し、光触媒活性が低下する傾向があり、一方、遷移金属イオンの添加量が上記範囲を上回ると、注入電子の逆電子移動等により励起電子が有効に作用せず、光触媒活性が低下する傾向がある。浸漬時間としては、例えば、30分から24時間程度、好ましくは1〜10時間程度である。
【0042】
そして、本発明においては、酸化チタン粒子に遷移金属イオンを含浸する際に励起光を照射する工程を含むことを特徴とする。励起光を照射すると、酸化チタン粒子の価電子帯の電子が伝導帯に励起し、価電子帯にホール、伝導帯に励起電子が生成し、これらは粒子表面へ拡散し、各露出結晶面の特性に従って励起電子とホールとが分離されて酸化反応面と還元反応面とを形成する。この状態で遷移金属イオンとして、例えば三価の鉄イオンの含浸を行うと、三価の鉄イオン(Fe3+)は酸化反応面には吸着するが、還元反応面では三価の鉄イオン(Fe3+)は二価の鉄イオン(Fe2+)に還元され、二価の鉄イオン(Fe2+)は吸着しにくい特性を有するため、溶液中に溶出し、結果として酸化反応面にのみ鉄イオン(Fe3+)が担持された金属イオン担持酸化チタン粒子を得ることができる。
【0043】
励起光の照射方法としては、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーを有する光を照射することができればよく、例えば、紫外線を照射することにより行うことができる。紫外線照射手段としては、例えば、中・高圧水銀灯、UVレーザー、UV−LED、ブラックライト等の紫外線を効率よく生成する光源を使用した紫外線露光装置等を使用することができる。励起光の照射量としては、例えば、0.1〜300mW/cm2程度、好ましくは1〜5mW/cm2程度である。
【0044】
さらに、本発明においては、含浸の際に犠牲剤を添加することが好ましい。犠牲剤を添加することにより、酸化チタン粒子表面において、特定の露出結晶面に高い選択率で遷移金属イオンを担持させることができる。犠牲剤としては、それ自体が電子を放出しやすい有機化合物を使用することが好ましく、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール;酢酸等のカルボン酸;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエタノールアミン(TEA)等のアミン等を挙げることができる。
【0045】
犠牲剤の添加量としては、酸化チタン溶液の体積に応じて適宜調整することができ、例えば、酸化チタン溶液100mLに対して0.5〜5.0vol%程度、好ましくは1.0〜2.0vol%程度である。犠牲剤は過剰量を使用してもよい。
【0046】
上記方法により得られた金属イオン担持酸化チタン粒子は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0047】
本発明において、「遷移金属イオンが面選択的に担持」とは、露出結晶面を有する酸化チタン粒子に担持する遷移金属イオンの50%を超える量(好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上)が2以上の露出結晶面のうち、全ての面ではなく、特定の面(例えば、特定の1面又は2面等)に担持されていることをいう。尚、面選択率の上限は100%である。面選択率が低いと、酸化反応と還元反応の反応場の分離性が低下する傾向があり、励起電子とホールの再結合及び逆反応の進行を抑制することが困難となり、光触媒活性が低下する傾向がある。本発明において、面選択性は、透過型電子顕微鏡(TEM)やエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を使用し、遷移金属イオン由来のシグナルを確認することで、各露出結晶面上の遷移金属イオンの有無により判定できる。また、面選択率は、例えば、金属イオン担持酸化チタン粒子の電子顕微鏡写真(例えば、SEM等の写真)から、各結晶面における金属イオン担持部位の面積を求め、金属イオン担持部位の総面積に対する当該結晶面(例えば、酸化反応面或いは還元反応面)における金属イオン担持部位の面積の割合(%)として求めることができる。
【0048】
また、遷移金属イオンの担持量は、酸化チタン粒子表面の遷移金属イオン被覆率で表すことができ、例えば、被覆率が0.1〜20.0%となる量が好ましく、なかでも、被覆率が0.1〜10.0%(好ましくは、1.5〜5.0%)となる量が好ましい。被覆率が上記範囲を上回ると、励起電子が有効に作用せず、光触媒能が低下する傾向があり、一方、被覆率が上記範囲を下回ると、可視光線応答性が低下して光触媒能が低下する傾向がある。
【0049】
本発明において被覆率とは、金属イオン担持酸化チタン粒子の表面における吸着遷移金属イオンの占める割合をいい、例えば、遷移金属イオンとして鉄イオン(Fe3+)を使用する場合、ICP発光分析により吸着率が100%となる鉄イオン濃度をXモルとし、鉄イオンが八面体型六配位錯体の結晶構造で酸化チタンに吸着し、さらに、酸化チタンの酸素原子と鉄原子とが結合して、酸素原子が四角錐の頂点となり鉄イオンがその中心に配位する形状で吸着が起こると仮定すると、鉄粒子1つの占有面積は、一辺が(1.91×√2Å)の正方形と見なすことができる(図2参照)。尚、Fe3+−Oの原子間距離は、1.91Åとした。BET比表面積(Ym2/g)の酸化チタン粒子(Zg)の被覆率は、下記式により求めることができる。
被覆率(%)={(1.91×√2×10-10)2×X×6.02×1023/Y×Z}×100
【0050】
本発明に係る金属イオン担持酸化チタン粒子においては、特に、遷移金属イオンが面選択的に担持され、且つ、その担持量が上記範囲内であることが、酸化反応と還元反応の反応場の分離性をより高めることができ、励起電子とホールとの再結合を抑制することができ、且つ、逆反応の進行をより一層抑制することができ、それにより高い光触媒活性を発揮することができる点で好ましい。
【0051】
本発明に係る金属イオン担持酸化チタン粒子は、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を有し、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光を吸収して、高い触媒活性を発揮することができる。
【0052】
本発明に係る光触媒は、前記金属イオン担持酸化チタン粒子からなり、光の照射によって有害化学物質を水や二酸化炭素にまで分解することが可能であるため、抗菌防かび、脱臭、大気浄化、水質浄化、防汚などさまざまに応用することができる。また、従来の酸化チタン光触媒は紫外線が必要なため、紫外線の少ない室内では機能が充分に発揮できず、室内用途への応用はなかなか進まなかったが、本発明に係る光触媒は、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を有し、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光を吸収して、高い触媒活性を発揮することができるため、室内などの低照度環境でも高いガス分解性能や抗菌作用を示し、室内の壁紙や家具をはじめ家庭内や病院、学校などの公共施設内での環境浄化、家電製品の高機能化など、広範囲への応用が可能である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0054】
調製例1
テフロン(登録商標)塗装されたオートクレーブに、TiCl3水溶液(約20%希塩酸溶液)を用い、5MのNaCl水溶液下において、水熱処理(200℃、3時間)を施した。得られた反応物を遠心分離し、脱イオン水でリンスし、真空乾燥機(バキュームオーブン)で乾燥して、酸化チタン粒子を得た。得られた酸化チタン粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子(比表面積:33m2/g)であった(図3)。
【0055】
得られた(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子(0.05g)を2−プロパノール(0.52M)とH2PtCl6・6H2O(1mM)に加え懸濁液とした。得られた懸濁液から窒素ガスを完全に除去し、その後、500Wの超高圧水銀ランプ用光源装置(商品名「SX−UI501HQ」、ウシオ電機(株)製)を使用して紫外線を24時間照射した(1mW/cm2)。紫外線照射により酸化チタン粒子粉末の色は白から灰色に変化した。このことから、Ptが光析出したことがわかる。その後、懸濁液を遠心分離し、蒸留水で洗浄し、減圧下、70℃で3時間乾燥してPt担持酸化チタン粒子を得た。
【0056】
得られたPt担持酸化チタン粒子を含む水溶液(2g/L)にPb(NO3)2(0.1M)を加え、硝酸を加えてpHを1.0に調整し、500Wの水銀ランプを使用して紫外線を24時間照射(0.1W/cm2)して、Pt・PbO2担持酸化チタン粒子を得た。尚、紫外線照射により粉末の色は灰色から茶色に変化した。このことから、Pb2+イオンがPt担持酸化チタン粒子により酸化されてPbO2となり析出したことがわかる。
【0057】
Pt・PbO2担持酸化チタン粒子について走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)、及び透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して確認した。その結果、Ptは酸化チタン粒子の(110)面に担持され、PbO2は(111)面に担持されていることが確認できた。このことから、(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子の(110)面は還元反応面、(111)面は酸化反応面であることが確認された(図4)。
【0058】
調製例2
テフロン(登録商標)塗装されたオートクレーブに、TiCl3(0.15M)、NaCl(5M)、及びポリビニルピロリドン(商品名「PVP−K30」、和光純薬工業(株)製、分子量:40000、0.25mM)を含む50mL水溶液を仕込み、水熱処理(180℃、10時間)を行った。得られた反応物を遠心分離し、脱イオン水でリンスし、真空乾燥機(バキュームオーブン)で乾燥して、酸化チタン粒子を得た。得られた酸化チタン粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子(比表面積:35m2/g)であった(図5)。
【0059】
得られた(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子について、調製例1で得られたロッド状ルチル型酸化チタン粒子と同様の評価を行った結果、Ptは酸化チタン粒子の(110)面に担持され、PbO2は(001)(111)面に担持されることが確認できた。このことから、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子の(110)面は還元反応面、(001)(111)面は酸化反応面であることが確認された(図6)。
【0060】
調製例3
室温(25℃)にて、市販のTiCl4水溶液(和光純薬社製試薬化学用、約16.5%Ti含有希塩酸溶液)を、Ti濃度が5.4重量%になるようにイオン交換水で希釈した。この希釈後のTiCl4水溶液 56gをテフロン(登録商標)塗装された容量100mlのオートクレーブに入れ密閉した。上記オートクレーブをオイルバスに投入し、30分間かけて、オートクレーブ内におけるTiCl4水溶液の温度を180℃まで昇温した。その後、反応温度180℃、反応圧力 1.0MPaの条件で、10時間保持した後、オートクレーブを氷水につけて冷却した。3分後、オートクレーブ内におけるTiCl4水溶液の温度が30℃以下になったことを確認した後、オートクレーブを開封し、反応物を取り出した。10℃にて、得られた反応物を遠心分離し、脱イオン水でリンスし、内温65℃の真空乾燥機(バキュームオーブン)で12時間減圧で乾燥して、5.2gの酸化チタン粒子を得た。得られた酸化チタン粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、結晶面(001)(110)(111)を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子(比表面積:56m2/g)であった。
【0061】
調製例4
室温(25℃)にて、市販のTiCl4水溶液(和光純薬社製試薬化学用、約16.5%Ti含有希塩酸溶液)4.8gに塩酸 4.1g、イオン交換水 43.1gを添加し、Ti濃度が1.5重量%、塩酸濃度が5.7重量%になるように濃度調整を行った。この調整後の水溶液 52gをテフロン(登録商標)塗装された容量100mlのオートクレーブに入れ密閉した。上記オートクレーブをオイルバスに投入し、30分間かけて、オートクレーブ内におけるTiCl4水溶液の温度を180℃まで昇温した。その後、反応温度180℃、反応圧力 1.0MPaの条件で、10時間保持した後、オートクレーブを氷水につけて冷却した。3分後、オートクレーブ内におけるTiCl4水溶液の温度が30℃以下になったことを確認した後、オートクレーブを開封し、反応物を取り出した。10℃にて、得られた反応物を遠心分離し、脱イオン水でリンスし、内温65℃の真空乾燥機(バキュームオーブン)で12時間減圧で乾燥して1.1gの酸化チタン粒子を得た。得られた酸化チタン粒子を観察したところ、結晶面(001)(110)(111)を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子(比表面積:48m2/g)であった。
【0062】
調製例5
市販のTiCl4水溶液 4.8gに塩酸 12.3g、イオン交換水 43.1gを添加し、Ti濃度が1.5重量%、塩酸濃度が11.2重量%となるように濃度調整を行った以外は調製例4と同様にして、1.0gの酸化チタン粒子を得た。
【0063】
調製例6
市販のTiCl4水溶液 9.6gに塩酸 8.2g、イオン交換水 35.5gを添加し、Ti濃度が2.9重量%、塩酸濃度が11.2重量%となるように濃度調整を行った以外は調製例4と同様にして、2.2gの酸化チタン粒子を得た。
【0064】
調製例7
市販のTiCl4水溶液 9.6gに塩酸 16.4g、イオン交換水 35.5gを添加し、Ti濃度が2.9重量%、塩酸濃度が16.7重量%となるように濃度調整を行った以外は調製例4と同様にして、2.0gの酸化チタン粒子を得た。
【0065】
調製例8
市販のTiCl4水溶液 19.1gに塩酸 8.2g、イオン交換水 30.6gを添加し、Ti濃度が5.3重量%、塩酸濃度が15.3重量%となるように濃度調整を行った以外は調製例4と同様にして、4.8gの酸化チタン粒子を得た。
【0066】
調製例9
市販のTiCl4水溶液 19.1gに塩酸 16.4g、イオン交換水 30.6gを添加し、Ti濃度が5.3重量%、塩酸濃度が20.2重量%となるように濃度調整を行った以外は調製例4と同様にして、4.5gの酸化チタン粒子を得た。
【0067】
調製例10
チタニウム(IV)エトキシドを加水分解することによって得られたチタニアゾルを減圧乾燥した後、過酸化水素水を添加して、ペルオキソチタン酸水溶液を得た。その後、ポリビニルアルコール(和光純薬工業(株)製、分子量:22000、2.7mM)を加え、アンモニア水を加えてpHを7とし、60℃で12時間撹拌して、続いて水熱処理(200℃、48時間)を施した。得られた反応物を遠心分離し、脱イオン水でリンスし、真空乾燥機(バキュームオーブン)で乾燥して、酸化チタン粒子を得た。得られた酸化チタン粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子(比表面積:57m2/g)であった(図7)。
【0068】
得られた(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子について、調製例1において得られたロッド状ルチル型酸化チタン粒子に行ったのと同様の評価を行った結果、Ptは酸化チタン粒子の(101)面に担持され、PbO2は(001)面に担持されることが確認できた。このことから、(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子の(101)面は還元反応面、(001)面は酸化反応面であることが確認された(図8)。
【0069】
実施例1
(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子をイオン交換水に分散させ、1.0mWcm-2に調節された高圧水銀ランプの光照射下で、撹拌しながら酸化チタン粒子に対し鉄イオンが0.10重量%になるように調製された硝酸鉄(III)水溶液を加えた。6時間後、粒子を遠心分離により回収し、イオン交換水でイオン伝導度が6uScm-2以下になるまで洗浄し、真空乾燥することにより、鉄イオン担持酸化チタン粒子(1)を得た。
得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(1)を走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)、及び透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子の(111)面に鉄イオン(III)が選択的に担持されていた[被覆率:2.5%、(111)面選択率:90%](図9)。
【0070】
比較例1
高圧水銀ランプの光照射を行わなかった以外は実施例1と同様にして、鉄イオン担持酸化チタン粒子(2)を得た。
得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(2)を走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)、及び透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子表面全体に鉄イオン(III)が担持されていた[被覆率:2.5%](図10)。
【0071】
実施例2
イオン交換水に分散させる代わりに、1.5体積%のエタノール水溶液に分散させて鉄イオンを担持させた以外は実施例1と同様にして、鉄イオン担持酸化チタン粒子(3)を得た。
得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(3)を走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)、及び透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子の(111)面に鉄イオン(III)が選択的に担持されていた[被覆率:2.5%、(111)面選択率:95%](図11)。
【0072】
実施例3
(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子の代わりに、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子を使用した以外は実施例2と同様にして、鉄イオン担持酸化チタン粒子(4)を得た。
得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(4)を走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)、及び透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子の(001)(111)面に鉄イオン(III)が選択的に担持されていた[被覆率:2.5%、(001)(111)面選択率:95%]。
【0073】
実施例4
酸化チタン粒子に対する鉄イオン濃度を0.10重量%から0.05重量%に代えて調製された硝酸鉄(III)水溶液を使用した以外は実施例1と同様にして、鉄イオン担持酸化チタン粒子(5)[被覆率:1.0%、(111)面選択率:90%]を得た。
【0074】
実施例5
酸化チタン粒子に対する鉄イオン濃度を0.10重量%から1.00重量%に代えて調製された硝酸鉄(III)水溶液を使用した以外は実施例1と同様にして、鉄イオン担持酸化チタン粒子(6)[被覆率:8.0%、(111)面選択率:90%]を得た。
【0075】
実施例6
(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子 1.5gを3.0体積%のメタノール水溶液 10mlに分散させて、1.0mWcm-2に調節されたUV−LEDの光照射下で、撹拌しながら酸化チタン粒子に対し鉄イオンが0.2重量%になるように調整された塩化鉄(III)水溶液を加えた。6時間後、粒子を遠心分離により回収し、イオン交換水でイオン伝導度が6uScm-2以下になるまで洗浄し、真空乾燥することにより、鉄イオン担持酸化チタン粒子(7)[被覆率:4.7%、(001)(111)面選択率:90%]を得た。
【0076】
実施例7
(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子 150gを3.0体積%のメタノール水溶液 1000mlに分散させて、1.0mWcm-2に調節されたブラックライトの光照射下で、酸化チタン粒子に対し鉄イオンが0.2重量%になるように塩化鉄0.87g加えた。6時間後、粒子を遠心分離により回収し、イオン交換水でイオン伝導度が6uScm-2以下になるまで洗浄し、真空乾燥することにより、鉄イオン担持酸化チタン粒子(8)[被覆率:4.7%、(001)(111)面選択率:90%]を得た。
【0077】
実施例8
1.0mWcm-2に調節されたブラックライトに代えて、42mWcm-2に調節された高圧水銀ランプ(商品名「HL100CH−4」、セン特殊光源株式会社製)を使用した以外は実施例7と同様にして、鉄イオン担持酸化チタン粒子(9)[被覆率:4.7%、(001)(111)面選択率:90%]を得た。
【0078】
実施例9
(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子に代えて、(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子 150gを使用した以外は実施例7と同様にして、鉄イオン担持酸化チタン粒子(10)を得た。得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(10)を走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)、及び透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子の(001)面に鉄イオン(III)が選択的に担持されていた[被覆率:2.8%、(001)面選択率:90%]。
【0079】
実施例及び比較例で得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子について、気相にてトルエン(又は、アセトアルデヒド)を酸化し、生成するCO2量を測定することにより光触媒活性を評価した。
【0080】
テドラーバッグ(アズワン(株)社製)を反応容器として使用した。実施例及び比較例で得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子、調製例1で調製したロッド状ルチル型酸化チタン粒子(鉄イオン非担持酸化チタン粒子)、及び窒素ドープ酸化チタン(商品名「TP−S201」、住友化学(株)製、比表面積80m2/g)0.1gをそれぞれガラス製皿に広げた状態で反応容器の中に入れ、500ppmのトルエン(又は、アセトアルデヒド)飽和ガスを反応容器に吹き込んだ。ガスとトルエン(又は、アセトアルデヒド)が平衡に達した後、室温(25℃)で光照射を行った。光源には青色LED(商品名「LXHL-MRRC」、Lumileds Lighting社製)を使用し、可視光線域の光(波長455nm)を照射した(光量:1mW/cm2)。
【0081】
光照射開始後、CO2の生成量をメタナイザーが付属した水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフ(商品名「GC−8A」、「GC−14A」、島津製作所製)を使用して測定した(図12、13、14、15)。
【0082】
さらに、光源としてUV−LED(商品名「NCSU033A」、日亜化学(株)製)を使用し、紫外線域の光(波長365nm)を照射(光量:1mW/cm2)した以外は上記と同様にして、CO2の生成量を測定したところ、可視光照射の場合と同様の結果が得られた。
【0083】
以上より、励起光照射下で露出結晶面を有する酸化チタン粒子に遷移金属イオンを担持させると、遷移金属イオンは2以上の露出結晶面のうち酸化反応面(例えば、鉄イオンの場合)或いは還元反応面(例えば、白金含有イオンの場合)に選択的に担持されることが分かる。また、その面選択性は、犠牲剤を添加することにより向上することが分かる。
そして、遷移金属イオンが担持された酸化チタン粒子は、紫外線域から可視光線域までの広い有効波長範囲に応答性を有する。その上、面選択的に遷移金属イオンが担持された酸化チタン粒子は、非選択的に遷移金属イオンが担持された酸化チタン粒子に比べて、高い光触媒活性を発揮することができる。また、(110)(111)面とともに(001)面をも有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子は、既存の酸化反応面[(111)面]と共に(001)面も酸化反応面として作用し、該(001)面がより高い励起電子とホールの分離性を有するため、さらに優れた光触媒活性を発揮することができることが分かる。
【0084】
以上より、酸化反応面と還元反応面とが空間的により大きく分離される露出結晶面を有する酸化チタン粒子に遷移金属イオンを面選択的に担持することにより、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を付与することができるとともに、酸化チタン粒子表面における励起電子とホールの分離性を著しく高めることができ、励起電子とホールの再結合、及び、逆反応の進行を防止することができ、それにより酸化チタン粒子の触媒能を飛躍的に向上させることができることが明らかとなった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、露出結晶面に遷移金属イオンが担持された酸化チタン粒子、その製造方法、及び該酸化チタン粒子からなる光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化チタン光触媒の性能向上に関する研究は、反応物質の吸着能力を向上させることにより光触媒能を向上させることができるという点に着目し、酸化チタンをいかに微粒子化するかに終始していたが、その技術も限界に直面していた。
【0003】
酸化チタンはバンドギャップエネルギー以上のエネルギーを有する光を吸収すると価電子帯の電子が伝導帯に励起し、価電子帯にホール、伝導帯に励起電子が生成し、これらは酸化チタン粒子表面へ拡散する。酸化チタンの光触媒反応は、該励起電子が還元作用を、該ホールが強い酸化作用を有することを利用して、表面に吸着した物質を酸化、あるいは還元することによって進行する。酸化チタンの光触媒反応は、1つの光触媒粒子上で酸化反応と還元反応という正反対の反応が起こるため、励起電子とホールとの再結合や逆反応が容易に進行し、それにより反応効率が激減することが知られている。酸化反応と還元反応の反応場を空間的に分離することが、逆反応を抑制し、光触媒活性を高める上で重要であり、特定面が露出した酸化チタンは各結晶面の特性によって酸化反応と還元反応の反応場を分離することができ、効率よく反応が進行することが分かってきた。
【0004】
そして、特許文献1には、酸化チタンにアルカリ性過酸化水素水処理、硫酸処理、又はフッ化水素酸処理を施して新規露出結晶面が発現した酸化チタン結晶を作る方法が記載されており、得られた新規露出結晶面が発現した酸化チタンからなる光触媒は高い酸化触媒性能を有することが記載されている。前記新規露出結晶面が発現した酸化チタンとしては、(1)ルチル型酸化チタンから得られる、新規に(121)面を発現させた酸化チタン結晶、(2)ルチル型酸化チタンから得られる、新規に(001)(121)(021)(010)面を発現させた酸化チタン結晶、(3)ルチル型酸化チタンから得られる、新規に(021)面を発現させた酸化チタン結晶、(4)アナターゼ型酸化チタンから得られる、新規に(120)面を発現させた酸化チタン結晶、(5)アナターゼ型酸化チタンから得られる、新規に(122)面を発現させた酸化チタン結晶、(6)アナターゼ型酸化チタンから得られる、新規に(112)面を発現させた酸化チタン結晶が開示されている。
【0005】
しかしながら、酸化チタンは、紫外線の照射下では優れた光触媒能を発揮することができるが、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光源に含まれる紫外線量は4%程度と少なく、大部分が可視光線と赤外線で構成されていることから、このような光源下では十分な光触媒能を発揮することができないという問題があった。
【0006】
その解決方法としては、酸化チタンに窒素や特定の金属などをドーピングすることにより、ハンドギャップを小さくし、可視光応答性を付与する方法が挙げられる。金属をドーピングする方法としては、一般にゾルゲル法、固相反応法、イオン注入法などが知られているが、ゾルゲル法では、加水分解及び重合反応を均一に起こさせるため、反応系中のチタン濃度を1%以下の低濃度に制限することが一般的であり、生産効率が低いという問題や、分解生成物の除去に手間がかかる等の問題があった。また、固相反応法では反応を均一に起こさせるため、高温で長時間反応させることが必要であり、生産性に欠けるという問題があった。さらにまた、イオン注入法では大きなエネルギーで金属イオンを酸化チタン中に注入するため、大掛かりな設備が必要となってくることが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−298296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を有し、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光源下でも高い触媒活性を発揮することができる酸化チタン粒子と、この酸化チタン粒子からなる光触媒、及び該酸化チタン粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、露出結晶面の特定の面に遷移金属イオンを担持させた酸化チタン粒子は、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を獲得することができ、その上、励起電子とホールとの分離性を極めて高いものとすることができ、励起電子とホールとの再結合や逆反応の進行を抑制することができるため、飛躍的に光触媒能を向上させることができることを見出した。
【0010】
また、遷移金属イオンを担持する際に励起光を照射すると、大掛かりな設備などを要することなく容易に、且つ効率よく、特定面に選択的に遷移金属イオンを担持することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0011】
すなわち、本発明は露出結晶面を有する酸化チタン粒子に、遷移金属イオンが面選択的に担持されていることを特徴とする金属イオン担持酸化チタン粒子を提供する。
【0012】
露出結晶面を有する酸化チタン粒子としては、ルチル型酸化チタン粒子又はアナターゼ型酸化チタン粒子が好ましい。
【0013】
遷移金属イオンとしては、鉄イオンが好ましい。
【0014】
遷移金属イオンは露出結晶面のうち、酸化反応面に選択的に担持されていることが好ましく、特に、露出結晶面のうち(001)面、(111)面及び(011)面から選択された少なくとも1つの面に選択的に担持されていることが好ましい。
【0015】
本発明は、また、上記金属イオン担持酸化チタン粒子からなる光触媒を提供する。
【0016】
本発明は、さらにまた、励起光照射下、酸化チタン粒子に遷移金属イオンを担持させる工程を有する前記金属イオン担持酸化チタン粒子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る金属イオン担持酸化チタン粒子は、遷移金属イオンが担持されているため、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲の光を吸収することにより、価電子帯にホール、伝導帯に励起電子を生成し、表面の物質を酸化、或いは還元する反応を行うことができる。そのため、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光源を効率よく利用することができる。また、酸化チタン粒子が露出結晶面を有し、遷移金属イオンが該露出結晶面の特定の面に選択的に担持されているため、光吸収により生じた励起電子とホールの分離性を著しく向上させることができる。そのため、励起電子とホールの再結合及び逆反応の進行を抑制することができ、極めて高い光触活性を示すことができる。
【0018】
また、本発明に係る金属イオン担持酸化チタン粒子の製造方法によれば、遷移金属イオンを担持する工程において励起光照射を行うため、容易に酸化チタン粒子の露出結晶面のうち酸化反応面にのみに遷移金属イオンを吸着させることができ、高い生産性で効率よく本発明に係る金属イオン担持酸化チタン粒子を製造することができ、大掛かりな設備なども必要としない。そのため、本発明に係る金属イオン担持酸化チタン粒子の製造方法は工業化に適した方法である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子の(111)面に鉄イオンが担持する様子を模式的に表した図(a)と、新たな露出面(001)を発現させた、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子の(001)(111)面に鉄イオンが担持する様子を模式的に表した図(b)である。
【図2】酸化チタン粒子の酸素原子に鉄イオンが結合する様子を模式的に表した図である。
【図3】ロッド状ルチル型酸化チタン粒子のTEM写真である。
【図4】PtとPbO2を光析出させたロッド状ルチル型酸化チタン粒子のTEM写真である。
【図5】新たな露出面(001)を発現させた、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子のTEM写真である。
【図6】新たな露出面(001)を発現させた、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子にPtを光析出させた際のTEM写真(a)と、PtとPbO2を光析出させた際のTEM写真(b)である。
【図7】(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子のTEM写真である。
【図8】(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子にPtを光析出させた際のSEM写真(a)と、PbO2を光析出させた際のSEM写真(b)である。
【図9】実施例1により得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(1)のTEM写真である。
【図10】比較例1により得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(2)のTEM写真である。
【図11】実施例2により得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(3)のTEM写真である。
【図12】実施例及び比較例で得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(1)〜(3)、実施例1で調製したロッド状ルチル型酸化チタン粒子(鉄イオン非担持酸化チタン粒子)、及び窒素ドープ酸化チタンを光触媒として使用し、アセトアルデヒドを酸化した際に生成したCO2濃度と可視光線照射量との関係を示す図である。
【図13】実施例及び比較例で得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(3)、(4)を光触媒として使用し、トルエンを酸化した際に生成したCO2濃度と可視光線照射量との関係を示す図である。
【図14】実施例及び比較例で得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(1)、(5)、(6)、及び実施例1で調製したロッド状ルチル型酸化チタン粒子(鉄イオン非担持酸化チタン粒子)を光触媒として使用し、トルエンを酸化した際に生成したCO2濃度と可視光線照射量との関係を示す図である。
【図15】実施例で得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(10)を光触媒として使用し、アセトアルデヒドを酸化した際に生成したCO2濃度と可視光線照射量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る金属イオン担持酸化チタン粒子は、露出結晶面を有する酸化チタン粒子に、遷移金属イオンが面選択的に担持されていることを特徴とする。
【0021】
酸化チタン粒子としては、例えば、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型酸化チタン粒子等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、安定な結晶面が露出している点でルチル型、又はアナターゼ型酸化チタン粒子が好ましい。
【0022】
ルチル型酸化チタン粒子の主な露出結晶面としては、例えば、(110)(001)(111)(011)面等を挙げることができる。本発明における露出結晶面を有するルチル型酸化チタン粒子としては、例えば、(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子、(110)(011)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子等や、これらのルチル型酸化チタン粒子に表面処理を施すことにより得られる、新たな露出面[例えば、(001)面]を発現させたルチル型酸化チタン粒子などを挙げることができる。本発明においては、なかでも、酸化反応と還元反応の反応場を空間的により大きく引き離すことができ、励起電子とホールとの再結合及び逆反応の進行を抑制することができる点で、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子[(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子に表面処理を施すことにより得られる、新たな露出面(001)を発現させたルチル型酸化チタン粒子を含む]が好ましい。
【0023】
アナターゼ型酸化チタン粒子の主な露出結晶面としては、例えば、(001)(101)面等を挙げることができる。本発明における露出結晶面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子としては、(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子や、前記アナターゼ型酸化チタン粒子に表面処理を行うことにより得られる(001)(101)面を有し、十面体構造を呈するアナターゼ型酸化チタン粒子等を挙げることができる。
【0024】
酸化チタン粒子として、例えば、(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子は、チタン化合物を水性媒体(例えば、水又は水と水溶性有機溶媒との混合液)中で水熱処理[例えば、100〜200℃、3〜48時間(好ましくは6〜12時間)]することにより合成することができる。また、水熱処理の際にハロゲン化物を添加すると、得られる粒子のサイズ及び表面積を調整することができるため好ましい。
【0025】
前記チタン化合物としては、3価のチタン化合物、4価のチタン化合物を挙げることができる。3価のチタン化合物としては、例えば、三塩化チタンや三臭化チタンなどのトリハロゲン化チタン等を挙げることができる。本発明における3価のチタン化合物としては、なかでも安価で、入手が容易な点で三塩化チタン(TiCl3)が好ましい。
【0026】
また、本発明における4価のチタン化合物は、例えば、下記式(1)で表される化合物等を挙げることができる。
Ti(OR)tX4-t (1)
(式中、Rは炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示す。tは0〜3の整数を示す)
【0027】
Rにおける炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等のC1-4脂肪族炭化水素基等を挙げることができる。
【0028】
Xにおけるハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素等を挙げることができる。
【0029】
このような4価のチタン化合物としては、例えば、TiCl4、TiBr4、TiI4などのテトラハロゲン化チタン;Ti(OCH3)Cl3、Ti(OC2H5)Cl3、Ti(OC4H9)Cl3、Ti(OC2H5)Br3、Ti(OC4H9)Br3などのトリハロゲン化アルコキシチタン;Ti(OCH3)2Cl2、Ti(OC2H5)2Cl2、Ti(OC4H9)2Cl2、Ti(OC2H5)2Br2などのジハロゲン化ジアルコキシチタン;Ti(OCH3)3Cl、Ti(OC2H5)3Cl、Ti(OC4H9)3Cl、Ti(OC2H5)3Brなどのモノハロゲン化トリアルコキシチタン等を挙げることができる。本発明における4価のチタン化合物としては、なかでも安価で、入手が容易な点で、テトラハロゲン化チタンが好ましく、特に四塩化チタン(TiCl4)が好ましい。
【0030】
また、新たな露出面(001)を発現させたロッド状ルチル型酸化チタン粒子や、十面体構造を有し(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタンは、前記チタン化合物を、構造制御剤として親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール)の存在下、水性媒体中で水熱処理[例えば、100〜200℃、3〜48時間(好ましくは6〜12時間)]して[001]方向へ成長させることにより合成することができる。
【0031】
また、特に、前記チタン化合物として4価のチタン化合物を使用する場合は、構造制御剤として親水性ポリマーを添加しなくとも、反応温度110〜220℃(好ましくは150℃〜220℃)、その反応温度における飽和蒸気圧以上の圧力下、水性媒体中で2時間以上(好ましくは5〜15時間)水熱処理を施すことにより(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子を合成することができる。
【0032】
その他、新たな露出面(001)を発現させたルチル型酸化チタン粒子は、ルチル型酸化チタン粒子を硫酸(好ましくは、50重量%以上の高濃度の硫酸、特に好ましくは濃硫酸)中に投入し、加熱下で撹拌することにより、酸化チタン粒子の稜又は頂点の部位を浸食(溶解)して合成することもできる。
【0033】
本発明に係る金属イオン担持酸化チタン粒子は、酸化チタン粒子の露出結晶面における酸化反応面又は還元反応面のうち一方の面に選択的に遷移金属イオンが担持されていることが、励起電子とホールの分離性を高める上で好ましく、特に、酸化反応面に選択的に遷移金属イオンが担持されていることが好ましい。
【0034】
ルチル型酸化チタンの酸化反応面としては、例えば、(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタンの場合は(111)面、(110)(011)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子の場合は(011)面が挙げられる。また、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子[前記の(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子に表面処理を施すことにより得られる、新たな露出面(001)を発現させたルチル型酸化チタン粒子を含む]の場合は、(111)面と(001)面が酸化反応面として挙げられる。
【0035】
アナターゼ型酸化チタンの酸化反応面としては、例えば、(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタンの場合は(001)面、(001)(101)面を有し、十面体構造を呈するアナターゼ型酸化チタン粒子の場合は(001)面が挙げられる。
【0036】
本発明においては、なかでも、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子[(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子に表面処理を施すことにより得られる、新たな露出面(001)を発現させたロッド状ルチル型酸化チタン粒子を含む]の(001)(111)面、(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子の(001)面に遷移金属イオンが選択的に担持されていることが、酸化反応面と還元反応面の反応場を空間的により大きく引き離すことができ、それにより励起電子とホールの再結合及び逆反応の進行を極めて低いレベルにまで抑制することができ、より高い光触媒活性を発揮することができる点で好ましい。
【0037】
また、本発明における酸化チタン粒子の比表面積としては、例えば、20〜80m2/g、好ましくは、20〜60m2/gである。酸化チタン粒子の比表面積が上記範囲を下回ると、反応物質の吸着能力が低下して光触媒能が低下する傾向があり、一方、酸化チタン粒子の比表面積が上記範囲を上回ると、励起電子とホールの分離性が低下し、光触媒能が低下する傾向がある。
【0038】
遷移金属イオンの酸化チタン粒子への担持は、酸化チタン粒子に遷移金属イオンを含浸する含浸法により行うことができる。
【0039】
遷移金属イオンとしては、可視光領域に吸収スペクトルを有し、励起状態で伝導帯に電子を注入することができるものであればよく、例えば、周期表第3〜第11族元素イオン、なかでも周期表第8〜第11族元素イオンが好ましく、特に、三価の鉄イオン(Fe3+)が好ましい。鉄イオンの酸化チタン粒子への担持においては、三価の鉄イオン(Fe3+)は吸着しやすく、二価の鉄イオン(Fe2+)は吸着しにくい特性を有するため、その特性を利用することにより容易に面選択性を付与することができるからである。
【0040】
含浸は、具体的には、酸化チタン粒子を水溶液中に分散して浸漬し、撹拌しながら、遷移金属イオンを添加することにより行うことができ、例えば、遷移金属イオンとして三価の鉄イオン(Fe3+)を使用する場合は、鉄化合物(例えば、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)等)を添加することにより行うことができる。
【0041】
遷移金属イオンの添加量としては、例えば、酸化チタン粒子に対して0.01〜3.0重量%程度、好ましくは0.05〜1.0重量%程度である。遷移金属イオンの添加量が上記範囲を下回ると、酸化チタン粒子表面における遷移金属イオンの被覆率が低下し、光触媒活性が低下する傾向があり、一方、遷移金属イオンの添加量が上記範囲を上回ると、注入電子の逆電子移動等により励起電子が有効に作用せず、光触媒活性が低下する傾向がある。浸漬時間としては、例えば、30分から24時間程度、好ましくは1〜10時間程度である。
【0042】
そして、本発明においては、酸化チタン粒子に遷移金属イオンを含浸する際に励起光を照射する工程を含むことを特徴とする。励起光を照射すると、酸化チタン粒子の価電子帯の電子が伝導帯に励起し、価電子帯にホール、伝導帯に励起電子が生成し、これらは粒子表面へ拡散し、各露出結晶面の特性に従って励起電子とホールとが分離されて酸化反応面と還元反応面とを形成する。この状態で遷移金属イオンとして、例えば三価の鉄イオンの含浸を行うと、三価の鉄イオン(Fe3+)は酸化反応面には吸着するが、還元反応面では三価の鉄イオン(Fe3+)は二価の鉄イオン(Fe2+)に還元され、二価の鉄イオン(Fe2+)は吸着しにくい特性を有するため、溶液中に溶出し、結果として酸化反応面にのみ鉄イオン(Fe3+)が担持された金属イオン担持酸化チタン粒子を得ることができる。
【0043】
励起光の照射方法としては、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーを有する光を照射することができればよく、例えば、紫外線を照射することにより行うことができる。紫外線照射手段としては、例えば、中・高圧水銀灯、UVレーザー、UV−LED、ブラックライト等の紫外線を効率よく生成する光源を使用した紫外線露光装置等を使用することができる。励起光の照射量としては、例えば、0.1〜300mW/cm2程度、好ましくは1〜5mW/cm2程度である。
【0044】
さらに、本発明においては、含浸の際に犠牲剤を添加することが好ましい。犠牲剤を添加することにより、酸化チタン粒子表面において、特定の露出結晶面に高い選択率で遷移金属イオンを担持させることができる。犠牲剤としては、それ自体が電子を放出しやすい有機化合物を使用することが好ましく、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール;酢酸等のカルボン酸;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トリエタノールアミン(TEA)等のアミン等を挙げることができる。
【0045】
犠牲剤の添加量としては、酸化チタン溶液の体積に応じて適宜調整することができ、例えば、酸化チタン溶液100mLに対して0.5〜5.0vol%程度、好ましくは1.0〜2.0vol%程度である。犠牲剤は過剰量を使用してもよい。
【0046】
上記方法により得られた金属イオン担持酸化チタン粒子は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0047】
本発明において、「遷移金属イオンが面選択的に担持」とは、露出結晶面を有する酸化チタン粒子に担持する遷移金属イオンの50%を超える量(好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上)が2以上の露出結晶面のうち、全ての面ではなく、特定の面(例えば、特定の1面又は2面等)に担持されていることをいう。尚、面選択率の上限は100%である。面選択率が低いと、酸化反応と還元反応の反応場の分離性が低下する傾向があり、励起電子とホールの再結合及び逆反応の進行を抑制することが困難となり、光触媒活性が低下する傾向がある。本発明において、面選択性は、透過型電子顕微鏡(TEM)やエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を使用し、遷移金属イオン由来のシグナルを確認することで、各露出結晶面上の遷移金属イオンの有無により判定できる。また、面選択率は、例えば、金属イオン担持酸化チタン粒子の電子顕微鏡写真(例えば、SEM等の写真)から、各結晶面における金属イオン担持部位の面積を求め、金属イオン担持部位の総面積に対する当該結晶面(例えば、酸化反応面或いは還元反応面)における金属イオン担持部位の面積の割合(%)として求めることができる。
【0048】
また、遷移金属イオンの担持量は、酸化チタン粒子表面の遷移金属イオン被覆率で表すことができ、例えば、被覆率が0.1〜20.0%となる量が好ましく、なかでも、被覆率が0.1〜10.0%(好ましくは、1.5〜5.0%)となる量が好ましい。被覆率が上記範囲を上回ると、励起電子が有効に作用せず、光触媒能が低下する傾向があり、一方、被覆率が上記範囲を下回ると、可視光線応答性が低下して光触媒能が低下する傾向がある。
【0049】
本発明において被覆率とは、金属イオン担持酸化チタン粒子の表面における吸着遷移金属イオンの占める割合をいい、例えば、遷移金属イオンとして鉄イオン(Fe3+)を使用する場合、ICP発光分析により吸着率が100%となる鉄イオン濃度をXモルとし、鉄イオンが八面体型六配位錯体の結晶構造で酸化チタンに吸着し、さらに、酸化チタンの酸素原子と鉄原子とが結合して、酸素原子が四角錐の頂点となり鉄イオンがその中心に配位する形状で吸着が起こると仮定すると、鉄粒子1つの占有面積は、一辺が(1.91×√2Å)の正方形と見なすことができる(図2参照)。尚、Fe3+−Oの原子間距離は、1.91Åとした。BET比表面積(Ym2/g)の酸化チタン粒子(Zg)の被覆率は、下記式により求めることができる。
被覆率(%)={(1.91×√2×10-10)2×X×6.02×1023/Y×Z}×100
【0050】
本発明に係る金属イオン担持酸化チタン粒子においては、特に、遷移金属イオンが面選択的に担持され、且つ、その担持量が上記範囲内であることが、酸化反応と還元反応の反応場の分離性をより高めることができ、励起電子とホールとの再結合を抑制することができ、且つ、逆反応の進行をより一層抑制することができ、それにより高い光触媒活性を発揮することができる点で好ましい。
【0051】
本発明に係る金属イオン担持酸化チタン粒子は、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を有し、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光を吸収して、高い触媒活性を発揮することができる。
【0052】
本発明に係る光触媒は、前記金属イオン担持酸化チタン粒子からなり、光の照射によって有害化学物質を水や二酸化炭素にまで分解することが可能であるため、抗菌防かび、脱臭、大気浄化、水質浄化、防汚などさまざまに応用することができる。また、従来の酸化チタン光触媒は紫外線が必要なため、紫外線の少ない室内では機能が充分に発揮できず、室内用途への応用はなかなか進まなかったが、本発明に係る光触媒は、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を有し、太陽光や白熱灯、蛍光灯等の通常の生活空間における光を吸収して、高い触媒活性を発揮することができるため、室内などの低照度環境でも高いガス分解性能や抗菌作用を示し、室内の壁紙や家具をはじめ家庭内や病院、学校などの公共施設内での環境浄化、家電製品の高機能化など、広範囲への応用が可能である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0054】
調製例1
テフロン(登録商標)塗装されたオートクレーブに、TiCl3水溶液(約20%希塩酸溶液)を用い、5MのNaCl水溶液下において、水熱処理(200℃、3時間)を施した。得られた反応物を遠心分離し、脱イオン水でリンスし、真空乾燥機(バキュームオーブン)で乾燥して、酸化チタン粒子を得た。得られた酸化チタン粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子(比表面積:33m2/g)であった(図3)。
【0055】
得られた(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子(0.05g)を2−プロパノール(0.52M)とH2PtCl6・6H2O(1mM)に加え懸濁液とした。得られた懸濁液から窒素ガスを完全に除去し、その後、500Wの超高圧水銀ランプ用光源装置(商品名「SX−UI501HQ」、ウシオ電機(株)製)を使用して紫外線を24時間照射した(1mW/cm2)。紫外線照射により酸化チタン粒子粉末の色は白から灰色に変化した。このことから、Ptが光析出したことがわかる。その後、懸濁液を遠心分離し、蒸留水で洗浄し、減圧下、70℃で3時間乾燥してPt担持酸化チタン粒子を得た。
【0056】
得られたPt担持酸化チタン粒子を含む水溶液(2g/L)にPb(NO3)2(0.1M)を加え、硝酸を加えてpHを1.0に調整し、500Wの水銀ランプを使用して紫外線を24時間照射(0.1W/cm2)して、Pt・PbO2担持酸化チタン粒子を得た。尚、紫外線照射により粉末の色は灰色から茶色に変化した。このことから、Pb2+イオンがPt担持酸化チタン粒子により酸化されてPbO2となり析出したことがわかる。
【0057】
Pt・PbO2担持酸化チタン粒子について走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)、及び透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して確認した。その結果、Ptは酸化チタン粒子の(110)面に担持され、PbO2は(111)面に担持されていることが確認できた。このことから、(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子の(110)面は還元反応面、(111)面は酸化反応面であることが確認された(図4)。
【0058】
調製例2
テフロン(登録商標)塗装されたオートクレーブに、TiCl3(0.15M)、NaCl(5M)、及びポリビニルピロリドン(商品名「PVP−K30」、和光純薬工業(株)製、分子量:40000、0.25mM)を含む50mL水溶液を仕込み、水熱処理(180℃、10時間)を行った。得られた反応物を遠心分離し、脱イオン水でリンスし、真空乾燥機(バキュームオーブン)で乾燥して、酸化チタン粒子を得た。得られた酸化チタン粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子(比表面積:35m2/g)であった(図5)。
【0059】
得られた(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子について、調製例1で得られたロッド状ルチル型酸化チタン粒子と同様の評価を行った結果、Ptは酸化チタン粒子の(110)面に担持され、PbO2は(001)(111)面に担持されることが確認できた。このことから、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子の(110)面は還元反応面、(001)(111)面は酸化反応面であることが確認された(図6)。
【0060】
調製例3
室温(25℃)にて、市販のTiCl4水溶液(和光純薬社製試薬化学用、約16.5%Ti含有希塩酸溶液)を、Ti濃度が5.4重量%になるようにイオン交換水で希釈した。この希釈後のTiCl4水溶液 56gをテフロン(登録商標)塗装された容量100mlのオートクレーブに入れ密閉した。上記オートクレーブをオイルバスに投入し、30分間かけて、オートクレーブ内におけるTiCl4水溶液の温度を180℃まで昇温した。その後、反応温度180℃、反応圧力 1.0MPaの条件で、10時間保持した後、オートクレーブを氷水につけて冷却した。3分後、オートクレーブ内におけるTiCl4水溶液の温度が30℃以下になったことを確認した後、オートクレーブを開封し、反応物を取り出した。10℃にて、得られた反応物を遠心分離し、脱イオン水でリンスし、内温65℃の真空乾燥機(バキュームオーブン)で12時間減圧で乾燥して、5.2gの酸化チタン粒子を得た。得られた酸化チタン粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、結晶面(001)(110)(111)を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子(比表面積:56m2/g)であった。
【0061】
調製例4
室温(25℃)にて、市販のTiCl4水溶液(和光純薬社製試薬化学用、約16.5%Ti含有希塩酸溶液)4.8gに塩酸 4.1g、イオン交換水 43.1gを添加し、Ti濃度が1.5重量%、塩酸濃度が5.7重量%になるように濃度調整を行った。この調整後の水溶液 52gをテフロン(登録商標)塗装された容量100mlのオートクレーブに入れ密閉した。上記オートクレーブをオイルバスに投入し、30分間かけて、オートクレーブ内におけるTiCl4水溶液の温度を180℃まで昇温した。その後、反応温度180℃、反応圧力 1.0MPaの条件で、10時間保持した後、オートクレーブを氷水につけて冷却した。3分後、オートクレーブ内におけるTiCl4水溶液の温度が30℃以下になったことを確認した後、オートクレーブを開封し、反応物を取り出した。10℃にて、得られた反応物を遠心分離し、脱イオン水でリンスし、内温65℃の真空乾燥機(バキュームオーブン)で12時間減圧で乾燥して1.1gの酸化チタン粒子を得た。得られた酸化チタン粒子を観察したところ、結晶面(001)(110)(111)を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子(比表面積:48m2/g)であった。
【0062】
調製例5
市販のTiCl4水溶液 4.8gに塩酸 12.3g、イオン交換水 43.1gを添加し、Ti濃度が1.5重量%、塩酸濃度が11.2重量%となるように濃度調整を行った以外は調製例4と同様にして、1.0gの酸化チタン粒子を得た。
【0063】
調製例6
市販のTiCl4水溶液 9.6gに塩酸 8.2g、イオン交換水 35.5gを添加し、Ti濃度が2.9重量%、塩酸濃度が11.2重量%となるように濃度調整を行った以外は調製例4と同様にして、2.2gの酸化チタン粒子を得た。
【0064】
調製例7
市販のTiCl4水溶液 9.6gに塩酸 16.4g、イオン交換水 35.5gを添加し、Ti濃度が2.9重量%、塩酸濃度が16.7重量%となるように濃度調整を行った以外は調製例4と同様にして、2.0gの酸化チタン粒子を得た。
【0065】
調製例8
市販のTiCl4水溶液 19.1gに塩酸 8.2g、イオン交換水 30.6gを添加し、Ti濃度が5.3重量%、塩酸濃度が15.3重量%となるように濃度調整を行った以外は調製例4と同様にして、4.8gの酸化チタン粒子を得た。
【0066】
調製例9
市販のTiCl4水溶液 19.1gに塩酸 16.4g、イオン交換水 30.6gを添加し、Ti濃度が5.3重量%、塩酸濃度が20.2重量%となるように濃度調整を行った以外は調製例4と同様にして、4.5gの酸化チタン粒子を得た。
【0067】
調製例10
チタニウム(IV)エトキシドを加水分解することによって得られたチタニアゾルを減圧乾燥した後、過酸化水素水を添加して、ペルオキソチタン酸水溶液を得た。その後、ポリビニルアルコール(和光純薬工業(株)製、分子量:22000、2.7mM)を加え、アンモニア水を加えてpHを7とし、60℃で12時間撹拌して、続いて水熱処理(200℃、48時間)を施した。得られた反応物を遠心分離し、脱イオン水でリンスし、真空乾燥機(バキュームオーブン)で乾燥して、酸化チタン粒子を得た。得られた酸化チタン粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子(比表面積:57m2/g)であった(図7)。
【0068】
得られた(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子について、調製例1において得られたロッド状ルチル型酸化チタン粒子に行ったのと同様の評価を行った結果、Ptは酸化チタン粒子の(101)面に担持され、PbO2は(001)面に担持されることが確認できた。このことから、(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子の(101)面は還元反応面、(001)面は酸化反応面であることが確認された(図8)。
【0069】
実施例1
(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子をイオン交換水に分散させ、1.0mWcm-2に調節された高圧水銀ランプの光照射下で、撹拌しながら酸化チタン粒子に対し鉄イオンが0.10重量%になるように調製された硝酸鉄(III)水溶液を加えた。6時間後、粒子を遠心分離により回収し、イオン交換水でイオン伝導度が6uScm-2以下になるまで洗浄し、真空乾燥することにより、鉄イオン担持酸化チタン粒子(1)を得た。
得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(1)を走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)、及び透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子の(111)面に鉄イオン(III)が選択的に担持されていた[被覆率:2.5%、(111)面選択率:90%](図9)。
【0070】
比較例1
高圧水銀ランプの光照射を行わなかった以外は実施例1と同様にして、鉄イオン担持酸化チタン粒子(2)を得た。
得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(2)を走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)、及び透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子表面全体に鉄イオン(III)が担持されていた[被覆率:2.5%](図10)。
【0071】
実施例2
イオン交換水に分散させる代わりに、1.5体積%のエタノール水溶液に分散させて鉄イオンを担持させた以外は実施例1と同様にして、鉄イオン担持酸化チタン粒子(3)を得た。
得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(3)を走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)、及び透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子の(111)面に鉄イオン(III)が選択的に担持されていた[被覆率:2.5%、(111)面選択率:95%](図11)。
【0072】
実施例3
(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子の代わりに、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子を使用した以外は実施例2と同様にして、鉄イオン担持酸化チタン粒子(4)を得た。
得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(4)を走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)、及び透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(001)(110)(111)面を有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子の(001)(111)面に鉄イオン(III)が選択的に担持されていた[被覆率:2.5%、(001)(111)面選択率:95%]。
【0073】
実施例4
酸化チタン粒子に対する鉄イオン濃度を0.10重量%から0.05重量%に代えて調製された硝酸鉄(III)水溶液を使用した以外は実施例1と同様にして、鉄イオン担持酸化チタン粒子(5)[被覆率:1.0%、(111)面選択率:90%]を得た。
【0074】
実施例5
酸化チタン粒子に対する鉄イオン濃度を0.10重量%から1.00重量%に代えて調製された硝酸鉄(III)水溶液を使用した以外は実施例1と同様にして、鉄イオン担持酸化チタン粒子(6)[被覆率:8.0%、(111)面選択率:90%]を得た。
【0075】
実施例6
(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子 1.5gを3.0体積%のメタノール水溶液 10mlに分散させて、1.0mWcm-2に調節されたUV−LEDの光照射下で、撹拌しながら酸化チタン粒子に対し鉄イオンが0.2重量%になるように調整された塩化鉄(III)水溶液を加えた。6時間後、粒子を遠心分離により回収し、イオン交換水でイオン伝導度が6uScm-2以下になるまで洗浄し、真空乾燥することにより、鉄イオン担持酸化チタン粒子(7)[被覆率:4.7%、(001)(111)面選択率:90%]を得た。
【0076】
実施例7
(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子 150gを3.0体積%のメタノール水溶液 1000mlに分散させて、1.0mWcm-2に調節されたブラックライトの光照射下で、酸化チタン粒子に対し鉄イオンが0.2重量%になるように塩化鉄0.87g加えた。6時間後、粒子を遠心分離により回収し、イオン交換水でイオン伝導度が6uScm-2以下になるまで洗浄し、真空乾燥することにより、鉄イオン担持酸化チタン粒子(8)[被覆率:4.7%、(001)(111)面選択率:90%]を得た。
【0077】
実施例8
1.0mWcm-2に調節されたブラックライトに代えて、42mWcm-2に調節された高圧水銀ランプ(商品名「HL100CH−4」、セン特殊光源株式会社製)を使用した以外は実施例7と同様にして、鉄イオン担持酸化チタン粒子(9)[被覆率:4.7%、(001)(111)面選択率:90%]を得た。
【0078】
実施例9
(001)(110)(111)面を有するルチル型酸化チタン粒子に代えて、(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子 150gを使用した以外は実施例7と同様にして、鉄イオン担持酸化チタン粒子(10)を得た。得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子(10)を走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)、及び透過型電子顕微鏡(TEM)で確認したところ、(001)(101)面を有するアナターゼ型酸化チタン粒子の(001)面に鉄イオン(III)が選択的に担持されていた[被覆率:2.8%、(001)面選択率:90%]。
【0079】
実施例及び比較例で得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子について、気相にてトルエン(又は、アセトアルデヒド)を酸化し、生成するCO2量を測定することにより光触媒活性を評価した。
【0080】
テドラーバッグ(アズワン(株)社製)を反応容器として使用した。実施例及び比較例で得られた鉄イオン担持酸化チタン粒子、調製例1で調製したロッド状ルチル型酸化チタン粒子(鉄イオン非担持酸化チタン粒子)、及び窒素ドープ酸化チタン(商品名「TP−S201」、住友化学(株)製、比表面積80m2/g)0.1gをそれぞれガラス製皿に広げた状態で反応容器の中に入れ、500ppmのトルエン(又は、アセトアルデヒド)飽和ガスを反応容器に吹き込んだ。ガスとトルエン(又は、アセトアルデヒド)が平衡に達した後、室温(25℃)で光照射を行った。光源には青色LED(商品名「LXHL-MRRC」、Lumileds Lighting社製)を使用し、可視光線域の光(波長455nm)を照射した(光量:1mW/cm2)。
【0081】
光照射開始後、CO2の生成量をメタナイザーが付属した水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフ(商品名「GC−8A」、「GC−14A」、島津製作所製)を使用して測定した(図12、13、14、15)。
【0082】
さらに、光源としてUV−LED(商品名「NCSU033A」、日亜化学(株)製)を使用し、紫外線域の光(波長365nm)を照射(光量:1mW/cm2)した以外は上記と同様にして、CO2の生成量を測定したところ、可視光照射の場合と同様の結果が得られた。
【0083】
以上より、励起光照射下で露出結晶面を有する酸化チタン粒子に遷移金属イオンを担持させると、遷移金属イオンは2以上の露出結晶面のうち酸化反応面(例えば、鉄イオンの場合)或いは還元反応面(例えば、白金含有イオンの場合)に選択的に担持されることが分かる。また、その面選択性は、犠牲剤を添加することにより向上することが分かる。
そして、遷移金属イオンが担持された酸化チタン粒子は、紫外線域から可視光線域までの広い有効波長範囲に応答性を有する。その上、面選択的に遷移金属イオンが担持された酸化チタン粒子は、非選択的に遷移金属イオンが担持された酸化チタン粒子に比べて、高い光触媒活性を発揮することができる。また、(110)(111)面とともに(001)面をも有するロッド状ルチル型酸化チタン粒子は、既存の酸化反応面[(111)面]と共に(001)面も酸化反応面として作用し、該(001)面がより高い励起電子とホールの分離性を有するため、さらに優れた光触媒活性を発揮することができることが分かる。
【0084】
以上より、酸化反応面と還元反応面とが空間的により大きく分離される露出結晶面を有する酸化チタン粒子に遷移金属イオンを面選択的に担持することにより、紫外線域から可視光線域までの広い波長範囲に応答性を付与することができるとともに、酸化チタン粒子表面における励起電子とホールの分離性を著しく高めることができ、励起電子とホールの再結合、及び、逆反応の進行を防止することができ、それにより酸化チタン粒子の触媒能を飛躍的に向上させることができることが明らかとなった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
露出結晶面を有する酸化チタン粒子に、遷移金属イオンが面選択的に担持されていることを特徴とする金属イオン担持酸化チタン粒子。
【請求項2】
露出結晶面を有する酸化チタン粒子が、ルチル型酸化チタン粒子又はアナターゼ型酸化チタン粒子である請求項1に記載の金属イオン担持酸化チタン粒子。
【請求項3】
遷移金属イオンが鉄イオンである請求項1又は2に記載の金属イオン担持酸化チタン粒子。
【請求項4】
遷移金属イオンが、露出結晶面のうち酸化反応面に選択的に担持されている請求項1〜3の何れかの項に記載の金属イオン担持酸化チタン粒子。
【請求項5】
遷移金属イオンが、露出結晶面のうち(001)面、(111)面及び(011)面から選択された少なくとも1つの面に選択的に担持されている請求項1〜3の何れかの項に記載の金属イオン担持酸化チタン粒子。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかの項に記載の金属イオン担持酸化チタン粒子からなる光触媒。
【請求項7】
励起光照射下、酸化チタン粒子に遷移金属イオンを担持させる工程を含む請求項1〜5の何れかの項に記載の金属イオン担持酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項1】
露出結晶面を有する酸化チタン粒子に、遷移金属イオンが面選択的に担持されていることを特徴とする金属イオン担持酸化チタン粒子。
【請求項2】
露出結晶面を有する酸化チタン粒子が、ルチル型酸化チタン粒子又はアナターゼ型酸化チタン粒子である請求項1に記載の金属イオン担持酸化チタン粒子。
【請求項3】
遷移金属イオンが鉄イオンである請求項1又は2に記載の金属イオン担持酸化チタン粒子。
【請求項4】
遷移金属イオンが、露出結晶面のうち酸化反応面に選択的に担持されている請求項1〜3の何れかの項に記載の金属イオン担持酸化チタン粒子。
【請求項5】
遷移金属イオンが、露出結晶面のうち(001)面、(111)面及び(011)面から選択された少なくとも1つの面に選択的に担持されている請求項1〜3の何れかの項に記載の金属イオン担持酸化チタン粒子。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかの項に記載の金属イオン担持酸化チタン粒子からなる光触媒。
【請求項7】
励起光照射下、酸化チタン粒子に遷移金属イオンを担持させる工程を含む請求項1〜5の何れかの項に記載の金属イオン担持酸化チタン粒子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−225422(P2011−225422A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291673(P2010−291673)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年7月15日 光機能材料研究会発行の「会報光触媒第29号」に発表
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年7月15日 光機能材料研究会発行の「会報光触媒第29号」に発表
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】
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