説明

青色発光性ポリイミド

【課題】高分子型有機EL表示素子における発光層材料として有益な青色発光性ポリイミドを提供することを目的とする。また、上記青色発光性ポリイミドの合成に使用される青色発光性基含有テトラカルボン酸二無水物および上記青色発光性ポリイミドを発光層材料として使用した有機EL素子を提供することを目的とする。
【解決手段】下記式(1)で表される青色発光性基含有テトラカルボン酸二無水物と脂肪族又は芳香族ジアミンから生じる反復単位をモル分率として0.0001〜1含む青色発光性ポリイミドである。この青色発光性ポリイミドは青色発光有機EL素子の発光層材料として使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)素子等における発光層材料として有益な青色発光性ポリイミドに関する。また、青色発光性ポリイミドに使用される青色発光性基含有テトラカルボン酸二無水物および青色発光性ポリイミドを使用する有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、デジタルカメラ、小型テレビに有機EL表示装置が実用化されており、将来大型テレビや照明装置への展開が期待されている。現在フラットパネルディスプレーとしてはまだ液晶ディスプレーが主流であるが、有機ELディスプレーは消費電力、解像度、視認性の点で液晶ディスプレーより優れている。更に、ELディスプレーには、液晶ディスプレーで用いられている偏光板や光学補償フィルム等を用いる必要がないため、液晶ディスプレーよりはるかに薄く、軽量に作製できるという大きな利点がある。
【0003】
有機EL素子は、電子輸送層、発光層、ホール輸送層の3層構造、あるいは発光層が電子輸送層かホール輸送層のどちらかを兼用した2層構造を基本層構造としているが、低電圧で駆動するためには、高度に制御された薄膜化技術が不可欠である。
【0004】
有機EL素子は低分子型と高分子型に分類されるが、前者が有機分子線蒸着法のようなドライプロセスにより作製されるのに対して、後者はスピンコート法やディップコート法によりウエットプロセスで作製される。従って、高分子系有機EL素子では製造装置がより簡単であるばかりでなく、均一で大面積の薄膜を高い生産性で低コストに作製できる点で低分子系有機EL素子より有利である。
【0005】
最近ウエットプロセスとして、パソコンのプリンターに広く利用されているインクジェットプリンティング法が注目されている。これにより高精細なパターンニングが可能となり、溶液の浪費も少なく、マルチカラー化も可能である。
【0006】
高分子系有機EL素子の他の利点は機械的強度および柔軟性である。更に基板としてガラスの代わりに高分子材料を用いることで、フレキシブルで耐衝撃性の高いELディスプレーの形成も可能となる。また、高分子系有機EL素子では低分子系よりも結晶化や凝集が起こりにくく、高温条件下での保存や使用が期待される。
【0007】
低分子系有機EL素子では、蒸着により均一な色素非晶質膜が形成されるが、屋外用や車載用途等で高温条件下に曝されたり、高温下での駆動や素子駆動時に発生するジュール熱等によりしばしば色素の結晶化や凝集が起こり、EL素子の安定性が著しく低下する。近年、有機EL素子の耐熱性向上のために低分子色素蒸着層のガラス転移温度をできるだけ高くする検討がなされている。この観点から低分子色素の代わりに耐熱性の高い高分子発光層の使用は極めて有効である。
【0008】
現在、様々な青色発光性ポリイミドが知られている(例えば、非特許文献1参照)。ポリフルオレンはその中で最も有望視されている高分子型青色発光材料の1つである(例えば、非特許文献2参照)。しかしながら、ポリフルオレンは製造方法が煩雑であり、しかも重合後用いた触媒等を完全に取り除き、純度を極めて高くしなければEL発光層に適用した際に有機EL素子の駆動寿命(耐久性)が著しく低下するといった深刻な問題が指摘されている。
【0009】
例えば、電子およびホール輸送性基や発光基を耐熱性高分子に結合して、これらの機能性基の凝集を抑制することができれば、EL素子の駆動寿命を飛躍的に延ばせる可能性がある。ガラス転移温度が極めて高い耐熱性高分子材料として、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレン等が知られているが、製造法の簡便さ、薄膜化能、膜純度等の観点からポリイミドが最適である。
【0010】
ポリイミドは、2種類のモノマー、即ちテトラカルボン酸二無水物とジアミンをアミド系溶媒中で等モル重付加反応することで得られる高分子量の可溶性ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を溶液キャスト法で基板上に製膜後、加熱脱水環化反応(イミド化反応)することにより無触媒で容易に得ることができ、しかも様々な市販モノマーが入手可能であることから、物性改良・精密制御の観点からもポリイミド系は極めて有利である。しかしながら、発光特性等を制御した実用的なポリイミドは殆ど知られていない。
【0011】
強いELを発現するためには発光層材料が強いフォトルミネッセンス(PL)を示すことが必要不可欠であるが、全芳香族ポリイミドは分子内および分子間電荷移動相互作用のため励起状態が強く消光され、通常殆ど無蛍光性となる(例えば、非特許文献3参照)。このように芳香族ポリイミドに固有の電荷移動相互作用は電子励起状態を強く消光する作用を持つため、例え特別に分子設計した発光基を芳香族ポリイミド鎖中に部分的に導入しても、その発光基からの発光がしばしば殆ど観測されない。
【0012】
希薄溶液中で強い青色発光を示す低分子化合物としてアントラセンが知られている。ポリイミドの側鎖にアントラセン基を結合した下記式(3)で表される青色発光性ポリイミドが報告されている(例えば、非特許文献4参照)。
【0013】
【化1】

【0014】
しかしながらこの場合、アントラセン基がメチレン鎖を介して側鎖に導入されているために、ポリイミドフィルムとした際にアントラセン基同士の凝集が起こりやすく、本来観測されるべき極めて強い青色PLの強度が大きく低下するといった問題がある。
【0015】
ポリイミドの主鎖および側鎖に強い青色発光性を有するフェニルフラン環基を結合した下記式(4)および(5)で表されるポリイミドも報告されている(例えば、非特許文献5および6参照)。
【0016】
【化2】

【0017】
しかしながら、これらのフェニルフラン環含有ポリイミドでは主鎖の剛直性のためポリマー鎖が面内配向して積層しやすく、その結果として発光基同士の分子間凝集が起こりやすいことに加え、芳香族ポリイミドに固有の分子内および分子間電荷移動相互作用によりフェニルフラン環の電子励起状態が強く消光されるため、これらのポリイミドフィルムでは、上記発光基含有モノマーを希薄溶液中で測定した場合に比べて、青色PL強度が大きく低下する。
【0018】
もし、アントラセン基をポリイミド主鎖中に共有結合を介して組み込み、更に電荷移動相互作用を妨害することができれば、PL強度の減少を避けることができ、極めて強い青色発光性ポリイミドが得られると期待される。
【0019】
9,10−ジフェニルアントラセン基含有ジアミンモノマーとして下記式(6)で表される9,10−ビス(4−アミノフェニル)アントラセン(以下、BAPAと称する)を用いて芳香族テトラカルボン酸二無水物と組み合わせて青色発光性ポリイミドを製造する技術が開示されている(例えば、非特許文献7参照)。
【0020】
【化3】

【0021】
また、これと脂環式テトラカルボン酸二無水物と組み合わせたポリイミドも報告されている(例えば、非特許文献8参照)。しかし、これらのポリイミドは溶液中では高収率で青色PLを示すのに対して、フィルム状態では著しくPL収率が低下するといった問題があった。
【0022】
もし、9,10−ジフェニルアントラセン基(以下、DPA基と称する)を発光基として分子内に有し、且つポリイミドフィルムとした際に発光基の分子間凝集を抑制し、且つ溶媒溶解性を改善するのに有効な嵩高い分子構造を有するモノマーが入手可能となれば、従来のインクジェット技術を適用可能な極めて高い青色発光性耐熱材料を得ることが可能となるが、そのようなモノマーやそれを用いて得られる樹脂はこれまで知られていない。
【0023】
【非特許文献1】Progress in Polymer Science, 25, p1089 (2000).
【非特許文献2】Macromolecular Rapid Communication, 22, p1365 (2001).
【非特許文献3】Progress in Polymer Science, 26, p259 (2001).
【非特許文献4】J. Phys. Chem., B, 101, p11068 (1997).
【非特許文献5】Macromolecules, 31, p4777 (1998).
【非特許文献6】Polymer, 40, p125 (1998).
【非特許文献7】Polymers for Advanced Technologies, 11, p325 (2000).
【非特許文献8】High Performance Polymers, 18, p749 (2006).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、上記課題を解決することで高分子型有機EL表示素子における発光層材料として有益な青色発光性ポリイミドを提供することを目的とする。他の目的は、上記青色発光性ポリイミドの合成に使用される青色発光性基含有テトラカルボン酸二無水物を提供することおよび上記青色発光性ポリイミドを発光層材料として使用した有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者は鋭意研究を積み重ねた結果、青色発光性基としてDPA基を含有するテトラカルボン酸二無水物をモノマーとして用いて得られるポリイミドが青色発光性ポリイミドとして極めて有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0026】
すなわち、本発明は下記式(1)で表される青色発光性基含有テトラカルボン酸二無水物である。
【化4】

【0027】
本発明の青色発光性ポリイミドは、下記一般式(2)で表される反復単位をモル分率として0.0001〜1含む。
【化5】

(但し、Aは2価の脂脂肪基または芳香族基を表す。)
【発明の効果】
【0028】
本発明の青色発光性ポリイミドは、様々な有機溶媒に可溶であるため、従来のインクジェット技術を適用することが可能である。また、本発明の青色発光性ポリイミドは、これをフィルム状としたときに、極めて強い青色発光を示し、高ガラス転移温度且つ十分な靭性等を有することから、有機EL素子における発光層材料として適する。また、有機EL素子におけるポリイミド薄膜等として好ましく用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0030】
まず、本発明の青色発光性基含有テトラカルボン酸二無水物(以下、HTABAPAと称する)について説明する。HTABAPAは、上記式(1)で表され、分子内にDPA基を有する。このHTABAPAは、ジアミンと高い重合反応性を有する。
【0031】
HTABAPAの製造方法は特に限定されず、公知の方法により容易に製造することができる。例として、BAPAと核水素化トリメリット酸無水物の活性誘導体から製造する方法について説明する。
【0032】
この際適用できる方法として、核水素化トリメリット酸無水物のカルボキシル基を酸ハライドに変換し、これとBAPAとを脱酸剤(塩基)の存在下、低温で反応(アミド化反応)させる方法(酸ハライド法)等が挙げられる。この際、酸ハライドとしては、反応性および製造コストの観点から塩素化物が好適に用いられる。
【0033】
上記アミド化反応は次のようにして行う。まず、核水素化トリメリット酸無水物クロリド(以下、HTACと称する)を溶媒に溶解し、セプタムキャップで密栓する。この溶液に、BAPAおよび適当量の脱酸剤を同一溶媒に溶解したものをシリンジまたは滴下ロートにて滴下する。滴下終了後、反応混合物を1〜24時間撹拌する。この際、BAPAに対するHTACの添加量は通常2倍モルであるが、反応終了後のHTACの分離のしやすさおよびBAPAの分離のしにくさの観点から、BAPAに対してHTACを過剰に添加してもよい。その際のHTACの添加量は2〜10倍モル量、好ましくは2〜5倍モル量である。
【0034】
上記アミド化反応の際、使用可能な溶媒としては、特に限定されないが、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル等の非プロトン性溶媒、およびフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が挙げられる。これらの溶媒は単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応後の処理のしやすさ、および原料の溶解性の観点からTHFが好適に用いられる。
【0035】
上記アミド化反応は、−50〜20℃で行われるが、より好ましくは−20〜0℃で行われる。反応温度が高いと一部副反応が起こる。すなわち、BAPA中のアミノ基がHTAC中の酸クロリド基だけでなく酸無水物基とも反応してしまい、収率が低下する恐れがあり好ましくない。
【0036】
上記アミド化反応は、溶質濃度1〜50重量%の範囲で行われる。副反応の制御、沈殿の濾過工程を考慮して、好ましくは5〜30重量%の範囲で行われる。
【0037】
反応に用いる脱酸剤としては、特に限定されないが、プロピレンオキサイドの他、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の有機3級アミン類が使用可能である。副反応の抑制および精製・分離工程の容易さの観点から脱酸剤としてプロピレンオキサイドが好適に用いられる。
【0038】
上記反応により得られたHTABAPAの分離・精製は以下のようにして行う。上記アミド化反応終了後、析出した生成物を濾別し、これをトルエンやヘキサンで繰り返し洗浄することで副生成物であるクロロプロパノールや、場合によっては過剰量のHTACを溶解除去する。最後に生成物を30〜150℃、好ましくは50〜120℃の範囲の温和な温度条件で1〜24時間真空乾燥する。この際、150℃以上で真空乾燥するとなんらかの分解反応が起こるため、好ましくない。
【0039】
このようにして高純度のHTABAPAを得ることができる。このHTABAPAはポリイミドを得るための重合反応に供することができる。必要により、上記のようにして得られたHTABAPAを、HTABAPAと反応せず、分離の容易な適当な溶媒を使用して再結晶操作を行い更に純度を高めることもできる。
【0040】
次に、本発明の青色発光性ポリイミドについて説明する。本発明の青色発光性ポリイミドは、上記一般式(2)で表される青色発光性基を含有する反復単位をモル分率として0.0001〜1含む。上記反復単位以外の反復単位としては、下記一般式(7)で表される反復単位がある。
【0041】
【化6】

(但し、Aは2価の脂脂肪基または芳香族基を示し、Bは4価の脂肪族基または芳香族基を示すが、BはHTABAPAの残基であることはない。)
【0042】
上記一般式(2)および一般式(3)において、Aはジアミンから2つのアミノ基を除いて生じる残基ということができ、Bはテトラカルボン酸二無水物から2つの酸無水物基を除いて生じる残基ということができる。したがって、AおよびBは、使用されるジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物の説明から理解される。
【0043】
本発明の青色発光性ポリイミドの製造方法は、限定されないが、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを原料とし、これらをほば等モル使用し、溶媒中で反応させ、まずポリイミド前駆体を得て、これをイミド化反応させて製造する方法を例示することができる。ここで、テトラカルボン酸二無水物の少なくとも一部として、上記HTABAPAを使用する。
【0044】
以下、ポリイミド前駆体の製造方法について説明する。まず、重合容器中の重合溶媒にジアミンを溶解する。ここで、ジアミンは一般式(2)および(3)のAを使用して表わせばNH2−A−NH2で表わすことができる。このジアミン溶液にHTABAPAを含むテトラカルボン酸二無水物の粉末を徐々に添加し、−20〜100℃の範囲で、好ましくは20〜60℃の範囲で1〜72時間攪拌する。ここで、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物はそれぞれ1種または2種以上を使用することができる。また、ジアミンとしては、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミンを使用することができ、テトラカルボン酸二無水物としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することができる。そして、HTABAPAは芳香族環を分子内に有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物と理解される。なお、脂肪族というときは脂環族を含む。
【0045】
この際、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の各々の総量は実質的に等モルで仕込まれる。また、重合の際の全モノマー濃度は5〜40重量%、好ましくは10〜35重量%である。このモノマー濃度範囲で重合を行うことにより、均一で高重合度のポリイミド前駆体溶液を得ることができる。上記モノマー濃度範囲よりも低濃度で重合を行うと、ポリイミド前駆体の重合度が十分高くならず、最終的に得られるポリイミド膜が脆弱になる恐れがあり、好ましくない。また、ジアミンとして脂肪族ジアミンを使用した場合、重合初期に塩形成が起こるが、上記モノマー濃度より高濃度で重合を行うと、形成された塩が溶解、消失するまでにより長い重合時間を必要とし、生産性の低下を招く恐れがあるので好ましくない。
【0046】
ポリイミド前駆体の原料となる脂肪族ジアミンとしては、特に限定されないが、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3−メチルシクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−シクロヘキサンジアミン、シス−1,4−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等が挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0047】
また芳香族ジアミンとしては、特に限定されないが、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p−ターフェニレンジアミン等が挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0048】
上記芳香族ジアミンのうち、ポリイミド中のジイミド部位と、一般式(2)および(3)中の基A(ジアミン残基)との間で起こる電荷移動相互作用を抑制して、本発明に係るポリイミドの青色発光効率をより高めるという観点から、Aが側鎖としてフッ素基やフッ素化アルキル基を有することが好ましい。例えば、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン等が好適に用いられる。
【0049】
本発明の青色発光性ポリイミドは発光基濃度を制御して発光基間凝集を抑制することで、発光収率をより高めることができる。そのためには、HTABAPAと共に他の脂環式テトラカルボン酸二無水物または芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用することが有利である。これらは、発光基を有しないものであることがよい。
【0050】
HTABAPAとの共重合成分として併用可能な脂環式テトラカルボン酸二無水物としては特に限定されないが、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、5−(ジオキソテトラヒドロフリル−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−テトラリン−1,2−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ハイドロキノンビス(1,2,4−シクロヘキサントリカルボキシテートアンハイドライド)、4,4’−ビフェノールビス(1,2,4−シクロヘキサントリカルボキシテートアンハイドライド)、ビシクロ−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、3c−カルボキシメチルシクロペンタンー1r,2c,4c−トリカルボン酸1,4:2,3−二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0051】
また、HTABAPAの共重合成分として併用可能な芳香族テトラカルボン酸二無水物としては特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、ハイドロキノンビス(トリメリテートアンハイドライド)、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。共重合成分としてこれらを単独あるいは2種類以上用いてもよい。
【0052】
HTABAPAと共に他のテトラカルボン酸二無水物を使用する場合は、全テトラカルボン酸二無水物の合計を1.0モルとしたとき、HTABAPAの使用量は0.0001〜1モル、好ましくは0.005〜0.5モル、より好ましくは0.01〜0.1モルの範囲がよい。したがって、一般式(2)で表される反復単位のモル分率も上記範囲がよい。
【0053】
重合溶媒としては特に限定されないが、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホオキシド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン-ビス(2−メトキシエチル)エーテル、テロラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ピコリン、ピリジン、アセトン、クロロホルム、トルエン、キシレン等の非プロトン性溶媒、およびフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等のプロトン性溶媒が使用可能である。またこれらの溶媒は単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
【0054】
次に、ポリイミド前駆体からポリイミドを製造する方法について説明する。本発明の青色発光性ポリイミドは、上記の方法で得られたポリイミド前駆体の脱水閉環反応(イミド化反応)により製造することができる。イミド化反応には公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、加熱または化学イミド化反応により行うことができる。
【0055】
ポリイミドの使用可能な形態は、フィルム、金属基板/ポリイミドフィルム積層体、粉末、成型体および溶液(ワニス)等が挙げられる。したがって、このような形態に適した方法によりイミド化反応がなされる。
【0056】
まず、ポリイミドフィルムを製造する方法について具体的に説明する。ポリイミド前駆体の重合溶液をガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に流延し、エアーオーブン中40〜180℃、好ましくは50〜150℃で乾燥する。得られたポリイミド前駆体フィルムを基板上で真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中、200〜400℃、好ましくは250〜350℃で加熱することで本発明のポリイミドからなるフィルムが得られる。この際の加熱温度はイミド化の閉環反応を十分に行なうという観点から200℃以上、生成したポリイミドフィルムの熱安定性の観点から400℃以下が好ましい。またイミド化は減圧下、真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、イミド化温度が高すぎなければ空気中で行っても、差し支えない。
【0057】
イミド化は熱処理によって行う以外に、有機酸の酸無水物と有機3級アミンからなる脱水環化剤(化学イミド化剤)を用いて行うこともできる。例えば、ポリイミド前駆体ワニス(ポリイミド前駆体を合成する際に使用した重合溶媒の溶液)をそのまま用いるか若しくは溶媒に溶解または適度に希釈後、これに脱水環化試剤を投入し、0〜100℃、好ましくは20〜60℃で0.5〜48時間攪拌することで容易にイミド化することができる。
【0058】
その際に使用される有機酸の酸無水物としては、特に限定されず、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等が使用可能であるが、コストおよび後処理のしやすさの観点から無水酢酸が好適に用いられる。また有機3級アミンとしては特に限定されず、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等が使用可能であるが、安全性の観点から好ましくはピリジンが用いられる。
【0059】
化学イミド化反応の際、脱水環化試薬中の酸無水物の使用量は、ポリイミド前駆体の理論脱水量の1〜10倍モルの範囲であることが好ましく、脱水環化試薬中の塩基性触媒の使用量は酸無水物に対して0.1〜2倍モルの範囲であることが好ましい。これらの範囲外で化学イミド化を行うとイミド化反応が完結しなかったり、反応溶液中にイミド化が未完結のポリイミドが析出してやはりイミド化が不十分となる恐れがある。
【0060】
ポリイミド前駆体ワニスを使用して化学イミド化した場合、化学イミド化完了後、反応溶液を大量の貧溶媒中に滴下してポリイミドを析出・洗浄して反応溶媒や過剰な化学イミド化剤を除去した後、減圧乾燥して本発明のポリイミドの粉末を得ることができる。使用可能な貧溶媒としては、ポリイミドを溶解しなければよく、特に限定されないが、反応溶媒や化学イミド化剤との親和性および乾燥による除去のしやすさの観点から水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等が好適に用いられる。
【0061】
このようにして得られたポリイミド粉末を、溶媒に再溶解して本発明のポリイミドが溶解したポリイミドワニスを得ることができる。溶媒としては、本発明のポリイミド溶解するものであればよいが、重合溶媒として使用可能な溶媒として例示したような溶媒が適する。
【0062】
このポリイミドワニスをバーコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、インクジェット法、ディッピング法、スプレーコーティング法等の方法で基板上に塗工し、40〜300℃、好ましくは80〜250℃で乾燥するによってもポリイミドフィルムを形成することができる。
【0063】
イミド化反応は上記化学イミド化剤を用いる代わりに、ポリイミド前駆体の重合溶液をそのまま用いるか若しくは溶媒で適度に希釈した後、それを150〜230℃に加熱することで、本発明のポリイミドが溶解したワニスを容易に製造することができる。ポリイミド前駆体は溶解するが、ポリイミドは溶解しない溶媒を使用した場合は、ポリイミド粉末を沈殿物として得ることができる。この際イミド化の副生成物である水等を共沸留去するために、トルエンやキシレン等を添加しても差し支えない。また触媒としてγ―ピコリン等の塩基を添加することができる。得られたワニスを大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下して析出させ、これを濾過しポリイミドを粉末として単離することもできる。また、ポリイミド粉末を溶解する上記重合溶媒等に再溶解してポリイミドのワニスとすることができる。
【0064】
本発明のポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを溶媒中高温で反応(ワンポット重合)させることにより、ポリイミド前駆体を単離することなく、一段階で製造することもできる。この際、反応温度は反応促進の観点から、130〜250℃、好ましくは150〜230℃の範囲に保持するとよい。また、ポリイミドが用いた溶媒に不溶な場合、ポリイミドは沈殿物として得られ、可溶な場合はポリイミドのワニスとして得られる。ワンポット重合に使用可能な溶媒は特に限定さないが、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒が例として挙げられが、より好ましくはm−クレゾール等のフェノール系溶媒やNMP等のアミド系溶媒が用いられる。これらの溶媒にイミド化反応の副生成物である水を共沸留去するために、トルエンやキシレン等を添加することができる。また、イミド化触媒としてγ―ピコリン等の塩基を添加することができる。得られたワニスを大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下・濾過しポリイミドを粉末として単離することができる。また、ポリイミドが溶媒に可溶である場合は、その粉末を上記溶媒に再溶解してポリイミドのワニスとすることができる。
【0065】
このポリイミドワニスからは、上記のようにしてポリイミドフィルムを形成することができる。また、ポリイミドが沈殿物として得られる場合は、ポリイミド粉末として回収し、これを200〜450℃、好ましくは250〜430℃で加熱圧縮することでポリイミドの成型体を作製することもできる。
【0066】
ポリイミド前駆体溶液中にN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミドやトリフルオロ無水酢酸等の脱水試薬を添加・撹拌して0〜100℃、好ましくは0〜60℃で反応させることにより、ポリイミドの異性体であるポリイソイミドが生成する。イソイミド化反応は上記脱水試薬を含有する溶液中にポリイミド前駆体フィルムを浸漬することでも可能である。ポリイソイミドワニスを上記と同様な手順で製膜した後、250〜450℃、好ましくは270〜400℃で熱処理することにより、ポリイミドへ容易に変換することができる。
【0067】
本発明のポリイミドおよびその前駆体中には、必要に応じて酸化安定剤、フィラー、接着促進剤、シランカップリング剤、感光剤、色素、顔料、光重合開始剤、増感剤、末端封止剤、架橋剤等の添加物を加えることができる。
【0068】
本発明のポリイミドは青色発光性ポリイミドであり、有機EL素子材料として優れる。有機EL素子材料として使用する場合、本発明の青色発光性ポリイミドの要求特性として、高PL収率、高ガラス転移温度、高い熱安定性および十分な膜靭性が挙げられる。
【0069】
本発明のポリイミドはフィルム形成能(製膜性)があれば、分子量(または固有粘度値)は特に限定されず、上記用途に適用可能である。指標を示すならば本発明のポリイミドまたはその前駆体の固有粘度値は膜強度の観点から0.3dL/g以上であることが好ましく、1.0dL/g以上であることがより好ましい。0.3dL/gを下回ると、製膜性が著しく悪くなり、フィルムにひび割れ等が生じる恐れがある。
【0070】
本発明のポリイミドまたはそのフィルムのPLピーク波長は青色純度の観点から420〜470nmの範囲であることが好ましく、430〜460nmの範囲であることがより好ましい。また、PL量子収率は0.3以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。
【0071】
本発明のポリイミドまたはそのフィルムのガラス転移温度は、熱環境下で経時的に起こる発光基間の凝集や劣化を低減するという観点から、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。また、熱安定性は5%重量減少温度(Td5)を指標とすれば、空気中でのTd5が350℃以上であることが好ましく400℃以上であることがより好ましい。
【0072】
本発明の機EL素子は、発光層に本発明の青色発光性ポリイミド層を有する。有機EL素子は、両極間に発光層の他、電子輸送層、正孔輸送層等の複数の有機層を有することができる。
【実施例】
【0073】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。尚、分子構造の確認、イミド化反応の完結およびポリイミドの膜物性は以下の方法により評価した。
【0074】
1) 赤外線吸収スペクトル
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT/IR350)を用い、透過法にてポリイミド薄膜(膜厚約5μm)の赤外線吸収(FT−IR)スペクトルを測定した。また、HTABAPAおよびBAPAの分子構造を確認するためにKBr法によりFT−IRスペクトルを測定した。
【0075】
2) 1H−NMRスペクトル
HTABAPAおよびBAPAの分子構造を確認するために、日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用いて、試料を重水素化ジメチルスルホオキシドに溶解して1H−NMRスペクトルを測定した。
【0076】
3) 示差走査熱量分析(融点および融解曲線)
HTABAPAおよびBAPAの融点および融解曲線は、ブルカーエイエックス社製示差走査熱量分析装置(DSC3100)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定した
【0077】
4) 固有粘度
ポリイミド前駆体の0.5重量%溶液(溶媒:DMAc)について、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0078】
5) ガラス転移温度(Tg)および5%重量減少温度(Td5
Tgは、ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークからポリイミド膜のガラス転移温度を求めた。
Td5は、ブルカーエイエックス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中または空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリイミド膜の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
【0079】
6) 紫外−可視吸収スペクトル
ポリイミド膜(膜厚:17〜21μm)の紫外−可視吸収スペクトルは紫外−可視分光光度計(日本分光社製 V−530)を用いて測定した。
【0080】
7) PLスペクトルおよび蛍光量子収率(Φf
ポリイミドフィルム(膜厚:17〜21μm)の発光スペクトルは蛍光分光光度計(日立製作所製F−4500)を用い、励起波長350nm、バンドパス:励起側、検出側共に5nm、室温で測定した。励起波長における吸光度で規格化された補正済発光スペクトルの面積強度を求め、ポリ塩化ビニル膜中に分散された基準物質、N,N−ビス(2,5−tert−ブチルフェニル)3,4,9,10−ペリレンジカルボキシイミド(以下、DBu−PEDIと称する)の規格化蛍光面積強度との比較から相対法により、ポリイミドフィルムの発光(PL)量子収率を求めた。この際、基準となるDBu―PEDIの蛍光量子収率は以下のように決定した。まず、最も信頼性の高い蛍光標準物質である硫酸キニンの1N−硫酸水溶液(蛍光量子収率=0.55)とDBu−PEDIのクロロホルム溶液の蛍光面積強度を比較し、DBu−PEDIのクロロホルム溶液の蛍光量子収率を0.78と決定した。次にDBu−PEDIを均一に分散したポリ塩化ビニル膜の蛍光量子収率がDBu−PEDIのクロロホルム溶液のものと変わらないと仮定し、前者の蛍光収率を0.78と仮定して、上記のようにポリイミドフィルムの蛍光収率を求めた。
【0081】
8) PLスペクトルの色座標
PLスペクトルの色座標をCIE規格に従って、CIE(x,y)として求めた。
【0082】
合成例1
BAPAをBulletin de la Societe Chimique de France, 1951, p727-732に開示されている方法に従って合成し、ベンゼンから再結晶して精製した。分析結果を以下に示す。
FT−IR: 3436、3357cm-1(アミンN−H)、3061、3028cm-1(Carom−H)、1619、1519cm-1(芳香環伸縮振動)
1H−NMR: δ5.3ppm(アミンプロトン4H)、δ7.7ppm(芳香族プロトン4H)、δ7.4ppm(芳香族プロトン4H)、δ7.1ppm(芳香族プロトン4H)、δ6.8ppm(芳香族プロトン4H)
DSC: 融点322.7℃
【0083】
合成例2
4,4’−ビフェノールと2倍モル量の核水素化トリメリット酸無水物の塩素化物を使用し、第56回高分子学会年次大会予稿集、56、p1898(2007)に開示されている方法に従って4,4’−ビフェノールビス(1,2,4−シクロヘキサントリカルボキシテートアンハイドライド)(以下、HTA44BPと称する)を合成し、これを1,4−ジオキサンから再結晶して精製した。分析結果を以下に示す。
FT−IR: 2944cm-1(Caliph−H)、1863、1794cm-1(酸無水物C=O)、1752cm-1(エステルC=O)、1493cm-1(芳香環伸縮振動)
1H−NMR: δ7.7ppm(芳香族プロトン4H)、δ7.2ppm(芳香族プロトン4H)、δ3.6〜1.5ppm(脂肪族プロトン18H)
DSC: 融点251.4℃
【0084】
実施例1
核水素化トリメリット酸無水物の塩素化体1.024g(4.47mmol)をモレキュラーシーブス4Aで脱水済みのテトラヒドロフラン(THF)1.73mLに溶解してセプタムキャップでシールしてA液とした。次に別の容器中、合成例1で得たBAPA0.721g(2.0mmol)をTHF15.4mLに溶解し、更にプロピレンオキシド0.61mL(8.8mmolを加えセプタムシールしてB液とした。次にエタノールと氷の混合浴にて冷却しながらA液にB液をシリンジを用いてゆっくりと滴下し、3時間攪拌した。その後、室温で更に12時間攪拌し、沈殿物を濾別した。これをトルエンおよびヘキサンで洗浄後、60℃で12時間真空乾燥してHTABAPAを得た。
【0085】
図1にHTABAPAのFT−IRスペクトル、図2に1H−NMRスペクトルを示す。代表的な分析値を以下に示す。分析の結果、生成物は目的とするHTABAPAであることが確認された。
FT−IR: 3336cm-1(アミドN−H)、3065cm-1(Carom−H)、2946、2866cm-1(Caliph−H)、1863、1786cm-1(酸無水物C=O)、1665cm-1(アミドC=O)、1493cm-1(芳香環伸縮振動)
1H−NMR: δ10.2ppm(アミドプロトン2H)、δ7.9ppm(芳香族プロトン4H)、δ7.6ppm(芳香族プロトン4H)、δ7.4ppm(芳香族プロトン8H)、δ3.6〜1.5ppm(脂肪族プロトン18H)
【0086】
実施例2
2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下、TFMBと称する)2mmolを攪拌機付密閉反応容器中に入れ、モレキュラーシーブス4Aで十分に脱水したN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶解した。次いで、合成例2で得たHTA44BP粉末1.96mmolを加え、引き続き実施例1で得たHTABAPA0.04mmol粉末を加えた。この際トータルの溶質濃度は30重量%である。重合反応の進行により、反応溶液の粘度が増加して攪拌しにくくなったため、同一の溶媒で適宜希釈し、最終的に15重量%まで希釈した。室温で48時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。ポリイミド前駆体の固有粘度は1.01dL/gであった。
【0087】
このポリイミド前駆体ワニスを適当に希釈後、化学イミド化試薬(無水酢酸/ピリジン、体積比7/3、無水酢酸量は理論脱水量の5倍モル)を滴下し室温で12時間攪拌して化学イミド化を行った。得られたポリイミドワニスを大量のメタノールに滴下し、析出した粉末を濾別・洗浄・80℃で12時間真空乾燥して、本発明の青色発光性ポリイミドを粉末として単離した。このポリイミド粉末を用いて溶解性試験を行った結果、DMAcの他、NMP、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキシド、クロロホルム、THF、1,4−ジオキサン、シクロペンタノン等に室温で高い溶解性を示した。次に、このポリイミド粉末をDMAcに再溶解(15〜20重量%)してワニスとし、これをガラス基板上に塗付、80℃で2時間温風乾燥して得られたポリイミド膜を更に真空中200℃で1時間熱処理を行い、膜厚約20μmのポリイミドフィルムを得た。
【0088】
このポリイミドフィルムは180°折り曲げ試験により破断せず、十分な可撓性を示した。また、波長379nmでの光励起により、443nmに単一のピークを持つ極めて強い青色蛍光が見られ、蛍光収率は0.52であった。また、DMAcの代わりに1,4−ジオキサンを用いて上記ポリイミド粉末を再溶解し、同様な乾燥条件で製膜したところ、ピーク波長には変化はないが、蛍光収率が0.81にまで増加した。また、色座標CIE(x,y)はCIE(0.151,0.074)であり、本発明のポリイミドのフィルムが深い青色発光を示すことがわかった。表1に物性をまとめた。ガラス転移温度は263℃と十分高い耐熱性を示し、また窒素中における5%重量減少温度は434℃、空気中で412℃と十分な熱安定性を示した。図3にポリイミド薄膜のFT−IRスペクトル、図4に紫外−可視吸収スペクトル、図5にPLスペクトルを示す。表1中、蛍光収率の欄におけるかっこ内の数字は、1,4−ジオキサンを用いて製膜した場合の蛍光収率を示す。
【0089】
実施例3
ジアミン成分としてTFMBの代わりに2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパンを用いた他は、実施例2に記載した方法と同様にして重合してポリイミド前駆体を得た(固有粘度1.70dL/g)。これを化学イミド化して得られたポリイミド粉末は、実施例2に記載した溶媒に対して室温で高い溶解性を示した。このポリイミド粉末を実施例2に記載した方法と同様に再溶解、製膜してフィルム物性を評価した。表1に示すように実施例2に記載したポリイミドと同様に要求特性を満足する物性が得られた。
【0090】
比較例1
ジアミン成分としてBAPA0.04mmolおよび4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)1.96mmolをNMPに溶解し、この溶液に2mmolの1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物粉末を添加し、室温で48時間攪拌して均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た(固有粘度0.599dL/g)。このワニスを基板上に塗布、乾燥、熱イミド化して柔軟なポリイミドフィルムを得た。物性値を表1に示す。このポリイミドフィルムは実施例2および3に記載のものと類似した蛍光スペクトル(ピーク波長441nm)を示したが、蛍光収率は0.172となり、目標とする値には達しなかった。
【0091】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】HTABAPAのFT−IRスペクトルである。
【図2】HTABAPAの1H−NMRスペクトルである。
【図3】ポリイミドフィルムのFT−IRスペクトルである。
【図4】ポリイミドフィルムの紫外−可視吸収スペクトルである。
【図5】ポリイミドフィルムのPLスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される青色発光性基含有テトラカルボン酸二無水物。
【化1】

【請求項2】
下記一般式(2)で表される反復単位をモル分率として0.0001〜1含む青色発光性ポリイミド。
【化2】

(但し、Aは2価の脂脂肪基または芳香族基を表す。)
【請求項3】
請求項2に記載の青色発光性ポリイミドを発光層中に含有する青色発光有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−43048(P2010−43048A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209932(P2008−209932)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1) 研究集会名 第57回高分子学会年次大会 主催者名 社団法人高分子学会 開 催 日 平成20年5月28日〜30日 (2) 発行者名 社団法人高分子学会 刊行物名 高分子学会予稿集 57巻1号 発 行 日 平成20年5月8日
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】