静電アクチュエータ、液滴吐出ヘッド及びそれらの製造方法並びに液滴吐出装置
【課題】プロセス適応性に優れた、精度の高い階段状の段差を有する静電アクチュエータおよびその製造方法等を提供する。
【解決手段】ガラス基板上に形成された個別電極5と、この個別電極5に対して所定のギャップを介して平行に対向配置された振動板6と、個別電極5と振動板6との間に静電気力を発生させて、振動板6に変位を生じさせる駆動手段40とを備えた静電アクチュエータにおいて、個別電極5の振動板6に対する対向面上に、少なくとも1段の階段状の段差を有する絶縁膜7を備える。
【解決手段】ガラス基板上に形成された個別電極5と、この個別電極5に対して所定のギャップを介して平行に対向配置された振動板6と、個別電極5と振動板6との間に静電気力を発生させて、振動板6に変位を生じさせる駆動手段40とを備えた静電アクチュエータにおいて、個別電極5の振動板6に対する対向面上に、少なくとも1段の階段状の段差を有する絶縁膜7を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電駆動方式のインクジェットヘッド等に用いられる静電アクチュエータ、液滴吐出ヘッド及びそれらの製造方法並びに液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載される静電駆動方式のインクジェットヘッドが知られている。静電駆動方式のインクジェットヘッドは、一般に、ガラス基板上に形成された個別電極(固定電極)と、この個別電極に所定のギャップを介して平行に対向配置されたシリコン製の振動板(可動電極)とから構成される静電アクチュエータ部を備えている。そして、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合されノズル基板との間で上記ノズル孔に連通する吐出室、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、上記静電アクチュエータ部に静電気力を発生させることにより吐出室に圧力を加えて、選択されたノズル孔よりインク滴を吐出するようになっている。
【0003】
このような静電駆動方式のインクジェットヘッドにおいて、駆動電圧の上昇を引き起こすことなく、振動板の変位量を増加させ、液滴の吐出エネルギーを増加させる構造について検討されてきた。その構造の一つに、個別電極に階段状の段差を設ける方式がある。例えば、特許文献1には、個別電極の支持基板(電極基板)としてシリコン基板を用いる場合は、シリコン基板に形成した絶縁膜に階段状の段差を有する凹部を形成し、その凹部の底面上に個別電極を形成することにより、階段状の段差を有する個別電極を形成することが開示されており、また、個別電極の支持基板(電極基板)としてガラス基板を用いる場合は、ガラス基板に階段状の段差を有する凹部を形成し、その凹部の底面上に個別電極を形成することにより、階段状の段差を有する個別電極を形成することが開示されている。
また、ガラス基板に階段状の段差を有する凹部を形成することにより、個別電極に階段状の段差を形成するものとしては特許文献2や特許文献3がある。
【0004】
【特許文献1】特開2000−318155号公報
【特許文献2】特開2006−25622号公報
【特許文献3】特開2006−289764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のように電極基板としてシリコン基板を用いる場合は、ガラス基板(例えば、ホウ珪酸ガラス基板)を用いた場合と比較して加工がしやすい反面、次のような問題がある。
(1)シリコン基板の単価がガラス基板の単価より高いため、コストが高くなる。
(2)キャビティ基板を接合する際に、陽極接合ができない。
(3)シリコン基板は透明でないため、静電アクチュエータ内の様子が観察できない。
また、特許文献1や特許文献2、3のように電極基板としてガラス基板を用いる場合は、階段状の段差を複数回のパターニングとウェットエッチングによって形成するが、この多段エッチング工程でのエッチング量の制御が難しく、段差を高精度に形成することが困難であった。そのため、ギャップ長にバラツキが生じやすく、その結果吐出量のバラツキを招き、印刷品質を損なうこととなっていた。
さらにまた、インクジェットヘッドの高密度化に伴い静電アクチュエータも微小化するが、インクジェットヘッドの吐出圧力を確保するためには静電アクチュエータの発生圧力を極力低い駆動電圧で高める必要がある。しかしながら、特許文献1や特許文献2、3にはこのような工夫はなされていない。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、プロセス適応性に優れた、精度の高い階段状の段差を有する静電アクチュエータおよびその製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る静電アクチュエータは、ガラス基板上に形成された固定電極と、この固定電極に対して所定のギャップを介して平行に対向配置された可動電極と、固定電極と可動電極との間に静電気力を発生させて、可動電極に変位を生じさせる駆動手段とを備えた静電アクチュエータにおいて、固定電極の可動電極に対する対向面上に、少なくとも1段の階段状の段差を有する絶縁膜を備えたものである。
この構成によれば、固定電極上に形成した絶縁膜に1段以上の段差を形成するものであるから、段差の精度が向上するという効果がある。
【0008】
また、絶縁膜は、固定電極の長手方向または幅方向に階段状の段差を有するものとする。絶縁膜の段差は固定電極の長手方向または幅方向のどちらにも設けることができる。これにより、駆動電圧の上昇を引き起こすことなく可動電極を固定電極の長手方向または幅方向に連成当接させることができ、大きな変位量で安定した吐出が可能となる。
【0009】
また、絶縁膜は、ギャップの最深部以外の固定電極の対向面に、任意の段数で形成されている。
ギャップの最深部には絶縁膜を設けずに固定電極の表面が露出した状態にすることもできる。
【0010】
また、絶縁膜は、少なくともシリコン酸化膜を含むものである。
シリコン酸化膜により、必要な絶縁耐圧および接合強度を確保することができる。
【0011】
また、絶縁膜は、少なくともダイアモンドライクカーボン膜を含むものである。
ダイアモンドライクカーボン膜は、表面平滑性が高く、低摩擦性を有するため、静電アクチュエータの駆動耐久性および駆動安定性が向上する。また、ダイアモンドライクカーボンの中でも水素化アモルファスカーボンを用いるのが望ましく、CVD法により成膜すると、耐久性が高い。
【0012】
また、絶縁膜は、少なくとも酸化シリコンよりも比誘電率の大きい誘電材料からなる誘電膜を含むものである。
絶縁膜として、酸化シリコンよりも比誘電率の大きい誘電材料、いわゆるHigh−k材を用いると、静電アクチュエータの発生圧力を向上できるので、静電アクチュエータの微小化、高密度化が可能となる。
High−k材の中でも、プロセス適性、膜質の安定性等の見地から、特に、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ハフニウム(HfO2)、窒化ハフニウムシリケート(HfSiN)、酸窒化ハフニウムシリケート(HfSiON)が望ましく、これらの中から少なくとも一つを選べばよい。
【0013】
本発明に係る静電アクチュエータの第1の製造方法は、ガラス基板上に形成された固定電極と、この固定電極に対して所定のギャップを介して平行に対向配置された可動電極と、固定電極と可動電極との間に静電気力を発生させて、可動電極に変位を生じさせる駆動手段とを備えた静電アクチュエータの製造方法において、
固定電極が形成されたガラス基板に絶縁膜を全面成膜する工程と、
全面成膜された絶縁膜に対してパターニングするパターニング工程と、
パターニングで露出した絶縁膜の部分をエッチングにより選択的に除去する絶縁膜エッチング工程とを有し、
パターニング工程と絶縁膜エッチング工程とを少なくとも1回または複数回繰り返すことにより、1段以上の階段状の段差を有する絶縁膜を固定電極上に形成するものである。
【0014】
この第1の製造方法は、固定電極上に絶縁膜を全面成膜し、この全面成膜された絶縁膜に対して少なくとも1回または複数回のパターニングと、パターニングで露出した絶縁膜の部分を除去する絶縁膜エッチングとを行うものであるので、精度の高い段差を有する絶縁膜を固定電極上に形成することができる。
また、絶縁膜エッチング工程では、ドライエッチングにより絶縁膜を除去することが望ましい。
【0015】
本発明に係る静電アクチュエータの第2の製造方法は、ガラス基板上に形成された固定電極と、この固定電極に対して所定のギャップを介して平行に対向配置された可動電極と、固定電極と可動電極との間に静電気力を発生させて、可動電極に変位を生じさせる駆動手段とを備えた静電アクチュエータの製造方法において、
マスク部材を用いて、スパッタ法により、1段以上の階段状の段差を有する絶縁膜を固定電極上に形成するものである。
【0016】
この第2の製造方法は、マスク部材を用いて、スパッタ法により、直接固定電極上に1段以上の階段状の段差を有する絶縁膜を形成することができるので、上記第1の製造方法に比べて、プロセスが簡略化されるため、段数が多いほど効果が大きい製造方法である。
【0017】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、上記のいずれかの静電アクチュエータを搭載したものである。
本発明の液滴吐出ヘッドは、上記のように精度の高い段差を有する絶縁膜が固定電極上に形成された静電アクチュエータを備えているので、駆動電圧の上昇を引き起こすことなく可動電極の安定した連成当接が可能となり、優れた吐出特性を有し、高密度化が可能な液滴吐出ヘッドを実現することができる。
【0018】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記のいずれかの静電アクチュエータの製造方法を適用して液滴吐出ヘッドを製造するものである。
これにより、優れた吐出特性を有し、高密度化が可能な液滴吐出ヘッドを安価に製造することができる。
【0019】
本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを搭載したものである。したがって、優れた吐出特性を有し、高密度化が可能な液滴吐出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を適用した静電アクチュエータを備える液滴吐出ヘッドの実施の形態について図面を参照して説明する。ここでは、液滴吐出ヘッドの一例として、ノズル基板の表面に設けられたノズル孔からインク滴を吐出するフェイス吐出型の静電駆動方式のインクジェットヘッドについて図1から図4を参照して説明する。なお、本発明は、以下の図に示す構造、形状に限定されるものではなく、吐出室とリザーバ部が別々の基板に設けられた4枚の基板を積層した4層構造のものや、基板の端部に設けられたノズル孔からインク滴を吐出するエッジ吐出型の液滴吐出ヘッドにも同様に適用することができるものである。
【0021】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係るインクジェットヘッドの概略構成を分解して示す分解斜視図であり、一部を断面で表してある。図2は組立状態における図1の略右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの断面図(但し、個別電極上の絶縁膜の構成は図1と異なる)、図3は図2のA−A拡大断面図、図4は図2のインクジェットヘッドの上面図である。なお、図1および図2では、通常使用される状態とは上下逆に示されている。
【0022】
本実施の形態1に係るインクジェットヘッド10は、図1から図4に示すように、複数のノズル孔11が所定のピッチで設けられたノズル基板1と、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路が設けられたキャビティ基板2と、キャビティ基板2に設けられた振動板6に対峙して個別電極5が配設された電極基板3とを貼り合わせることにより構成されている。
【0023】
インクジェットヘッド10のノズル孔11ごとに設けられる静電アクチュエータ部4は、図2、図3に示すように、固定電極として、ガラス製の電極基板3の凹部32内に形成された個別電極5と、可動電極として、シリコン製のキャビティ基板2の吐出室21の底壁で構成され、個別電極5に所定のギャップGを介して対向配置される振動板6とを備えている。個別電極5は、振動板6に対向する電極部5aと、基板端部側へ延設されるリード部5b、および図示省略のフレキシブルプリント基板(FPC)と配線接続される端子部5cとを有する。
【0024】
ここで、個別電極5の電極部5aにおける振動板6との対向面上には、例えばシリコン酸化膜(SiO2膜)からなる絶縁膜7が1段以上の階段状に形成されている。なお、絶縁膜7は任意の段数を有するものとすることができるが、本実施の形態1ではギャップの最深部以外の対向面に、長手方向の前後にそれぞれ1段だけ絶縁膜7を設けている。すなわち、最深部のギャップ長Gは個別電極5の表面が露出した状態(この部分には絶縁膜7が無い状態)となっている。従って、絶縁膜7形成部分のギャップ長はGよりも狭いG1となっている(G>G1)。これにより、最小限の絶縁膜7の成膜で振動板6の連成当接を行うことができる。ここで、連成当接というのは、例えば図2に破線で模式的に示すように、振動板6が、静電引力により各段の絶縁膜7の端部に順次接触しながら個別電極5に当接することをいう。なお、駆動電圧の大小により連成当接状態を変化させることができる。従って、振動板6の変位量が変化するため、インク吐出量を多様に変化させることができる。
また、絶縁膜7の段差(2段以上の場合は厚みの差)は、任意に設定することができるが、最深部のギャップ長Gの20%以下が望ましい。段差が大きすぎると振動板6が連成当接しなくなり、本発明の効果が得られなくなる。本実施の形態1の場合、最深部のギャップ長Gを200nm、絶縁膜7の厚みを30nm、振動板6側の絶縁膜9の厚みを110nmとしている。
【0025】
個別電極5は、一般に透明電極であるITO(Indium Tin Oxide)により形成されるが、特にこれに限定されるものではない。IZO(Indium Zinc Oxide)の透明電極、あるいはAu、Al等の金属等でもかまわない。
この個別電極5の端子部5cとキャビティ基板2上に設けられた共通電極26とに、図4に簡略化して示すように、静電アクチュエータの駆動手段として、ドライバICなどの駆動制御回路40がFPCを介して配線接続される。また、振動板6の個別電極5との対向面、すなわちキャビティ基板2の接合面全面には、静電アクチュエータの絶縁破壊や短絡等を防ぐために、シリコンの熱酸化膜からなる絶縁膜9が形成されている。
【0026】
以下、各基板の構成についてさらに詳細に説明する。
ノズル基板1は、例えばシリコン基板から作製されている。インク滴を吐出するためのノズル孔11は、例えば径の異なる2段の同軸円筒状に形成されたノズル孔部分、すなわち径の小さい噴射口部分11aとこれよりも径の大きい導入口部分11bとから構成されている。噴射口部分11aおよび導入口部分11bは基板面に対して垂直にかつ同軸上に設けられており、噴射口部分11aは先端がノズル基板1の表面(インク吐出面)に開口し、導入口部分11bはノズル基板1の裏面(キャビティ基板2と接合される接合側の面)に開口している。
また、ノズル基板1には、キャビティ基板2の吐出室21とリザーバ23とを連通するオリフィス12とリザーバ23部の圧力変動を補償するためのダイヤフラム部13が形成されている。
【0027】
ノズル孔11を噴射口部分11aとこれよりも径の大きい導入口部分11bとから2段に構成することにより、インク滴の吐出方向をノズル孔11の中心軸方向に揃えることができ、安定したインク吐出特性を発揮させることができる。すなわち、インク滴の飛翔方向のバラツキがなくなり、またインク滴の飛び散りがなく、インク滴の吐出量のバラツキを抑制することができる。また、ノズル密度を高密度化することが可能である。
【0028】
電極基板3に接合されるキャビティ基板2は、例えば面方位が(110)のシリコン基板から作製されている。キャビティ基板2には、インク流路に設けられる吐出室21となる凹部22、およびリザーバ23となる凹部24がエッチングにより形成されている。凹部22は前記ノズル孔11に対応する位置に独立に複数形成される。したがって、図2に示すようにノズル基板1とキャビティ基板2を接合した際、各凹部22は吐出室21を構成し、それぞれノズル孔11に連通しており、またインク供給口である前記オリフィス12ともそれぞれ連通している。そして、吐出室21(凹部22)の底部が振動板6となっている。また、この振動板6は、シリコン基板の表面に高濃度のボロン(B)を拡散させたボロン拡散層により形成されており、ボロン拡散層の厚さを振動板6の厚さと同じにするものである。これは、アルカリによる異方性ウェットエッチングにより、吐出室21を形成する際に、ボロン拡散層が露出した時点でエッチングレートが極端に小さくなるため、いわゆるエッチングストップ技術により振動板6を所望の厚さに精度よく形成することができるからである。
【0029】
凹部24は、インク等の液状材料を貯留するためのものであり、各吐出室21に共通のリザーバ(共通インク室)23を構成する。そして、リザーバ23(凹部24)はそれぞれオリフィス12を介して全ての吐出室21に連通している。また、リザーバ23の底部には電極基板3を貫通する孔が設けられ、この孔のインク供給孔33を通じて図示しないインクカートリッジからインクが供給されるようになっている。
【0030】
電極基板3は、ガラス基板から作製される。中でも、キャビティ基板2のシリコン基板と熱膨張係数の近いホウ珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いるのが適している。これは、電極基板3とキャビティ基板2を陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が近いため、電極基板3とキャビティ基板2との間に生じる応力を低減することができ、その結果剥離等の問題を生じることなく電極基板3とキャビティ基板2を強固に接合することができるからである。
【0031】
以上のように作製された電極基板3とキャビティ基板2とを陽極接合し、その上にノズル基板1を接着接合することにより、図2に示すようにインクジェットヘッド10の本体部が完成する。その後、FPCを用いて駆動制御回路40を各個別電極5と共通電極26とに配線接続する。さらに、電極取り出し部(FRP実装部ともいう)34における静電アクチュエータのギャップの開放端部にエポキシ系樹脂等の封止材35を塗布するなどして気密に封止する。これにより、湿気や異物等が静電アクチュエータのギャップへ侵入するのを確実に防止することができ、駆動の安定性および耐久性を実現できる。つまり、インクジェットヘッド10の信頼性が向上する。
【0032】
次に、以上のように構成されるインクジェットヘッド10の動作を説明する。
駆動制御回路40により個別電極5とキャビティ基板2の共通電極26の間にパルス電圧を印加すると、振動板6は静電引力により個別電極5側に引き寄せられて吸着する。その際、個別電極5上には段差を有する絶縁膜7が形成されているので、振動板6はギャップ長の小さい方、すなわち図2の上の段から絶縁膜7に接触し、ついで最深部の個別電極5に当接する。言い換えれば、上の段のギャップ長G1を埋めるのに十分な電圧を印加することにより振動板6は絶縁膜7に当接し、次段のギャップ長G−G1=t(t:絶縁膜7の厚み)を埋めるのに十分な電圧を印加することにより振動板6は個別電極5に当接する。このように絶縁膜7の段数に応じて順次各段の絶縁膜7の端部に接触しながら連成当接していき、個別電極5に当接する。振動板6が連成当接によって変位することにより、吐出室21内に負圧を発生させて、リザーバ23内のインクを吸引し、インクの振動(メニスカス振動)を発生させる。このインクの振動が略最大となった時点で、電圧を解除すると、振動板6は離脱して、インクをノズル11から押出し、インク滴を吐出する。
【0033】
従って、本実施の形態1に係るインクジェットヘッド10によれば、比較的低い駆動電圧により大きな変位量が得られるため、バラツキの少ない安定した吐出が可能である。また、駆動電圧を制御することにより振動板6の変位量を制御することができ、インク吐出量を変化させることができるため、多様な階調で高精細な表現が可能となる。また、静電アクチュエータの微小化によるインクジェットヘッドの高密度化が可能なうえに、コスト低減が可能である。
また、本実施の形態1のように個別電極5上の絶縁膜7を長手方向の前後に階段状に形成した構造は、ノズル孔11付近で誘電率が高いため、振動板制御がしやすくメニスカス制御が行いやすいため、MSDT(インク吐出量制御)を行う場合には望ましい構造である。
【0034】
次に、静電アクチュエータの発生圧力について説明する。
駆動時における振動板6を吸引する静電圧力(発生圧力)Pは、静電エネルギーをE、振動板6の個別電極5に対する任意の位置をx、振動板6の面積をS、印加電圧をV、絶縁膜の厚さをt、真空中の誘電率をε0、絶縁膜の比誘電率をεrとすると、以下の式で表される。
【0035】
【数1】
【0036】
また、振動板6の駆動時における平均圧力Peは、振動板6が駆動していない時の振動板6から個別電極5までの距離(ギャップ長)をdとして、以下の式で表される。
【0037】
【数2】
【0038】
式1、式2は、個別電極5上の絶縁膜7が複数段の段差を有する場合、各段について実質的に適用可能である。従って、式2から、絶縁膜の比誘電率が大きいほど、あるいは絶縁膜の厚さに対する比誘電率の比(t/ε)が小さいほど、平均圧力Peが高くなることが分かる。酸化シリコンは比誘電率が3.8程度と空気より比誘電率が大きいため、多段で構成される場合、絶縁膜の累積厚みが厚い部分は、絶縁膜の累積厚みが薄い部分に比べて静電アクチュエータの発生圧力を高くすることができる。
すなわち、本発明の静電アクチュエータに電圧を印加すると、発生圧力が相対的に大きな絶縁膜の累積厚みが厚い部分から連成当接が生じるため、絶縁膜の累積厚みが薄い部分が本来必要な当接電圧以下の電圧で静電アクチュエータの当接が可能となる。また、例えば絶縁膜の比誘電率を全体として2倍にすれば、絶縁膜の厚さを2倍にしてもほぼ同じ発生圧力が得られるため、静電アクチュエータにおける静電アクチュエータにおけるTDDB(Time Depend Dielectric Breakdown、長時間の絶縁破壊強度)、TZDB(Time Zero Dielectric Breakdown、瞬間における絶縁破壊強度)等の耐絶縁破壊強度をより向上することができる。また、同じ当接電圧で比較した場合、吐出室の体積変化量をより大きくでき、インク排除体積を大きく確保することができる。
【0039】
なお、図2では、絶縁膜7の段差を個別電極5の長手方向に設けた場合を示したが、図5に示すように、絶縁膜7の段差を個別電極5の幅方向に設けても同様の効果がある。個別電極5の長手方向とは、個別電極5が延設される長さ方向、つまり凹部32の長さ方向をいい、個別電極5の幅方向とは、ノズル列方向、つまり凹部32の溝幅の方向をいう。
【0040】
実施の形態2.
図6は本発明の実施の形態2に係るインクジェットヘッドの概略断面図である。なお、実施の形態2以降において、実施の形態1と同じ構成部分については同一符号を付し、その説明は省略する。
本実施の形態2は、絶縁膜7を2段に構成した以外は実施の形態1と同様である。また、最上段から段差(1)、段差(2)を形成する。この製造方法については後述する。1段目絶縁膜7aおよび2段目絶縁膜7bはいずれもシリコン酸化膜で形成されている。また、電極中央部には絶縁膜7が無く個別電極5の表面となっている。なお、図6ではわかりやすくするために1段目と2段目の界面を示してあるが、実際には同種の誘電材料の場合、この界面は存在しない。絶縁膜7の膜厚については、1段目、2段目ともにそれぞれ20nmとしている。最深部のギャップ長G=200nmである。従って、1段目のギャップ長G1=160nm、2段目のギャップ長G2=180nmである。また、振動板6側の絶縁膜9の厚みは110nmとしている。
【0041】
本実施の形態2によれば、実施の形態1の効果に加えて、絶縁膜7を2段にすることによりアクチュエータ発生圧力を高くすることができるため、静電アクチュエータの微小化、インクジェットヘッドの高密度化にさらに寄与するものとなる。
【0042】
実施の形態3.
図7は本発明の実施の形態3に係るインクジェットヘッドの概略断面図である。
本実施の形態3は、実施の形態2において、2段目絶縁膜7bを個別電極5の電極部5aの表面全面に形成したものである。したがって、段差は1段である。なお、このように絶縁膜7は段差を有しない場合もあるが、便宜上、段差(2)を有しない絶縁膜も含めて2段目絶縁膜7bと称する。その他は実施の形態2と同じ構成である。また、絶縁膜7の膜厚等についても実施の形態2と同じであり、1段目、2段目ともにそれぞれ20nm、最深部のギャップ長G=200nmである。また、振動板6側の絶縁膜9の厚みは110nmである。
【0043】
本実施の形態3は、実施の形態2と同様の効果を有するほか、振動板6と個別電極5は、同種材料の絶縁膜9と絶縁膜7を介して当接、離脱を繰り返すので、静電アクチュエータの駆動耐久性および安定性が向上するという効果がある。
【0044】
実施の形態4.
図8は本発明の実施の形態4に係るインクジェットヘッドの概略断面図である。
これまでの実施の形態1から3では、ギャップ長Gの最深部を個別電極5の電極部5aの中央部に設けたものであったが、本実施の形態4では、電極部5aの先端部(ノズル孔11に近い位置)にギャップ長Gの最深部を設けたものである。個別電極5上の絶縁膜7は2段構成となっており、それぞれシリコン酸化膜で形成されている。絶縁膜7の膜厚等についても実施の形態2と同じであり、1段目、2段目ともにそれぞれ20nm、最深部のギャップ長G=200nmである。また、振動板6側の絶縁膜9の厚みは110nmとしている。
【0045】
本実施の形態4は、実施の形態3と同様の効果を有するほか、ギャップ長の最深部Gをノズル孔11に近い電極部5aの先端部に設けているので、吐出時にインク整流効果があるため、インクの吐出重量を大きくすることが可能である。したがって、印刷速度が向上する。
【0046】
実施の形態5.
図9は本発明の実施の形態5に係るインクジェットヘッドの概略断面図である。
本実施の形態5は、個別電極5上の絶縁膜7を異種材料の組み合わせで積層構造としたものである。すなわち、1段目絶縁膜7aを酸化シリコン(SiO2)、2段目絶縁膜7bを酸化アルミニウム(Al2O3、アルミナ)により形成している。アルミナのような所謂High−k材(高誘電率絶縁材料)を使用すると、比誘電率が7.9程度と酸化シリコンの比誘電率3.8よりも大きいので、静電アクチュエータの発生圧力をより高めることが可能となる。
【0047】
比誘電率が酸化シリコンよりも大きいHigh−k材としては、アルミナのほか、酸窒化シリコン(SiON)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化タンタル(Ta2O3)、窒化ハフニウムシリケート(HfSiN)、酸窒化ハフニウムシリケート(HfSiON)、窒化アルミ(AlN)、窒化ジルコニウム(ZrO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、ジルコニウムシリケート(ZrSiO)、ハフニウムシリケート(HfSiO)、ジルコニウムアルミネート(ZrAlO)、窒素添加ハフニウムアルミネート(HfAlON)、及びこれらの複合膜等を挙げることができる。その中でも膜の低温成膜性、膜の均質性、プロセス適応性等を考慮した場合、酸化アルミニウム(Al2O3、アルミナ)、酸化ハフニウム(HfO2)、窒化ハフニウムシリケート(HfSiN)、酸窒化ハフニウムシリケート(HfSiON)を使用することが望ましく、これらの中から少なくとも一つが選ばれる。
【0048】
また、絶縁膜7は、High−k材どうしの組み合わせでもよいし、High−k材と酸化シリコンは上記とは逆の積層、すなわち、1段目をHigh−k材、2段目を酸化シリコンとしてもよい。また、絶縁膜7の段数は任意であり、したがって、誘電材料の組み合わせ順序についても特に制限はない。
【0049】
実施の形態6.
図10は本発明の実施の形態6に係るインクジェットヘッドの概略断面図である。
本実施の形態6は、個別電極5上の絶縁膜7を実施の形態5と同様に異種材料の積層構造としたものであるが、1段目絶縁膜7aをDLC(ダイアモンドライクカーボン)、特に水素化アモルファスカーボン(a−C:H)により形成したものである。2段目絶縁膜7bは上記同様、酸化シリコンである。絶縁膜7の膜厚等については、1段目絶縁膜(a−C:H)7aを10nm、2段目絶縁膜(SiO2)7bを30nm、最深部のギャップ長G=200nm、振動板6側の絶縁膜9の厚みを110nmとしている。
【0050】
DLCは表面平滑性が高く、低摩擦性を有するため、絶縁膜7の最表面に形成することで静電アクチュエータの駆動耐久性および駆動安定性をより向上させることが可能となる。特に、DLC膜としてa−C:H膜を使用すると、a−C:H膜は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により成膜すると、耐久性が高い。また、1段目絶縁膜7aであるa−C:H膜の膜厚は、あまり厚いと膜応力が大きくなるので10nm程度が目安となる。逆に、あまり薄いとa−C:H膜としての特性が発揮できないので、5nm程度以上が望ましい。
【0051】
(インクジェットヘッドの製造方法)
次に、実施の形態1〜6に係るインクジェットヘッド10の製造方法について図11から図16を参照して概要を説明する。図11はインクジェットヘッド10の製造工程の概略の流れを示すフローチャート、図12〜図15はそれぞれ実施の形態1〜6に係る電極基板の第1の製造方法を示す製造工程の概略断面図である。但し、実施の形態3、4については図示を省略してある。図16は実施の形態1に係るインクジェットヘッド10の製造工程の概要を示す断面図である。
【0052】
図11において、ステップS1〜S6は電極基板3の製造工程を示すものであり、ステップS7とS8はキャビティ基板2の元になるシリコン基板の製造工程を示すものである。第1の製造方法は、パターニングと絶縁膜エッチングとを複数回繰り返すことにより、所望の段数の絶縁膜7を個別電極5上に形成する方法である。
【0053】
(電極基板の第1の製造方法)
はじめに、各実施の形態に係る電極基板3の第1の製造方法について説明する。
1.実施の形態1の場合
(1)ホウ珪酸ガラス等からなる板厚約1mmのガラス基板300に、例えば金・クロムのエッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングすることにより所望の深さの凹部32を形成する。なお、この凹部32は個別電極5の形状より少し大きめの溝状のものであり、個別電極5ごとに複数形成される。
そして、例えば、スパッタ法によりITO(Indium Tin Oxide)膜を100nmの厚さで形成し、このITO膜をフォトリソグラフィーによりパターニングして個別電極5となる部分以外をエッチング除去して、凹部32の内部に個別電極5を形成する(図11のS1、図12(a))。
【0054】
(2)次に、個別電極5上の絶縁膜7として、ガラス基板300の接合面側の表面全体に、TEOS(Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン)を原料ガスとして用いたRF−CVD(Chemical Vapor Deposition)法(以下、TEOS−CVD法という)によりSiO2膜を30nmの厚さで形成する(図11のS2、図12(b))。
【0055】
(3)次に、この全面成膜されたSiO2膜に対してレジストを塗布し、フォトリソグラフィーにより1回目のパターニングを行う(図11のS3)。パターニングは、個別電極5の電極中央部およびFPC実装部(電極取り出し部)34ならびにガラス基板300の接合部36のSiO2膜を除去するようにレジストを開口する。
(4)次に、CHF3によるRIE(Reactive Ion Etching)ドライエッチングにより、電極中央部のSiO2膜、FPC実装部34のSiO2膜、接合部36のSiO2膜を同時にエッチング除去し、さらに上記レジストを硫酸洗浄により剥離すれば、実施の形態1に示す段差(1)を有する1段の絶縁膜7を個別電極5上に形成することができる(図11のS4、図12(c))。
(5)その後、ブラスト加工等によってインク供給孔33となる孔部33aをガラス基板300に形成する。
【0056】
2.実施の形態2、3の場合
(1)図13の(a)、(b)の工程は実施の形態1の(1)、(2)と同じである。但し、全面成膜するSiO2膜の膜厚は40nmとしている。
(2)次に、上記(3)と同様に1回目のレジストパターニングを行い(図11のS3)、CHF3によるRIEドライエッチングにより、電極中央部、FPC実装部34および接合部36のSiO2膜を20nmだけエッチング除去する(図11のS4、図13(c))。これにより、20nmの段差(1)を有する1段目絶縁膜7aが形成される。
(3)次に、上記レジストを剥離したのち、2回目のレジストパターニングを行い(図11のS5)、CHF3によるRIEドライエッチングにより、電極中央部、FPC実装部34および接合部36のSiO2膜をさらに20nmエッチング除去する(図11のS6)。そして、レジストを硫酸洗浄により剥離すれば、20nmの段差(2)を有する2段目絶縁膜7bが形成される(図13(d))。これにより、実施の形態2に示す段差(1)と段差(2)を有する2段の絶縁膜7を個別電極5上に形成することができる。
(4)その後、ブラスト加工等によってインク供給孔33となる孔部33aをガラス基板300に形成する。
【0057】
また、実施の形態3の場合は、実施の形態2における上記(3)の工程において、電極中央部のSiO2膜を残すように2回目のレジストパターニングを行えばよい。
【0058】
3.実施の形態4の場合
図示は省略するが、基本的に実施の形態3の場合と同様である。すなわち、段差(1)を設ける位置が個別電極5の電極中央部から先端部に変わるだけであり、2回目のレジストパターニングにおいては、個別電極5の先端部にSiO2膜を残すようにパターニングを行えばよい。
【0059】
4.実施の形態5の場合
(1)図14(a)の工程は実施の形態1の(1)と同じである。
(2)ECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタ法を用いて、2段目絶縁膜7bとなるAl2O3膜を20nmの厚さでガラス基板300の接合面側の表面全体に形成する(図11のS2、図14(b))。
(3)さらに、このAl2O3膜の上にTEOS−CVD法により、1段目絶縁膜7aとなるSiO2膜を30nmの厚さで全面成膜する(図11のS2、図14(c))。
(4)次に、このSiO2膜に対して1回目のレジストパターニングを行い、CHF3によるRIEドライエッチングにより、FPC実装部34および接合部36のSiO2膜除去及び個別電極5上に段差(1)を有する1段目絶縁膜7aを形成する(図11のS3、S4、図14(d))。
(5)次に、FPC実装部34および接合部36のAl2O3膜を除去するために、2回目のレジストパターニングを行い、CHF3によるRIEドライエッチングによりその部分のAl2O3膜を除去する(図11のS5、S6、図14(e))。
(6)その後、ブラスト加工等によってインク供給孔33となる孔部33aをガラス基板300に形成する。
【0060】
5.実施の形態6の場合
(1)図15(a)の工程は実施の形態1の(1)と同じである。
(2)TEOS−CVD法を用いて、2段目絶縁膜7bとなるSiO2膜を30nmの厚さでガラス基板300の接合面側の表面全体に形成する(図11のS2、図15(b))。
(3)さらに、このSiO2膜の上にRF−CVD法(RFパワー:900W、原料ガス:トルエン)を用いて、1段目絶縁膜7aとなるa−C:H膜(水素化アモルファスカーボン膜)を10nmの厚さで全面成膜する(図11のS2、図15(c))。
(4)次に、このa−C:H膜に対して1回目のレジストパターニングを行い、O2アッシングによるエッチングでFPC実装部34および接合部36のSiO2膜除去及び個別電極5上に段差(1)を有する1段目絶縁膜7aを形成する(図11のS3、S4、図15(d))。
(5)次に、FPC実装部34および接合部36のSiO2膜を除去するために、2回目のレジストパターニングを行い、CHF3によるRIEドライエッチングによりその部分のSiO2膜を除去する(図11のS5、S6、図15(e))。
(6)その後、ブラスト加工等によってインク供給孔33となる孔部33aをガラス基板300に形成する。
以上により、実施の形態1〜6の電極基板3が作製される。なお、図11のS6において、n段目絶縁膜は、n段目の段差を有し個別電極5の表面が露出する場合と、n段目の段差が無く個別電極5の表面がn段目絶縁膜で被覆される場合とがある。
【0061】
この第1の製造方法は、以上の説明から明らかなように、個別電極5上に全面成膜された絶縁膜7に対して、少なくとも1回のパターニングと絶縁膜エッチングを行い、あるいは、複数回のパターニングと絶縁膜エッチングとを繰り返すことにより、個別電極5上の絶縁膜7に少なくとも1段以上の段差を階段状に形成するものであるから、ガラス基板300の凹部32底面にエッチングにより段差を形成する従来法に比較して、段差の加工精度が著しく向上する。その結果、静電アクチュエータを構成したとき、振動板7の連成当接状態の安定性が向上するという効果がある。
【0062】
6.インクジェットヘッドの製造方法
次に、図16を参照してインクジェットヘッドの製造方法について説明する。ここでは、上記のように作製された実施の形態1の電極基板3を用いているが、他の実施の形態2〜6の電極基板3を用いても同様である。
【0063】
キャビティ基板2は上記により作製された電極基板3にシリコン基板200を陽極接合してから作製される。
【0064】
まず、例えば厚さが280μmのシリコン基板200の片面全面に、例えば厚さが0.8μmのボロン拡散層201を形成したシリコン基板200を作製する(図11のS7)。次に、そのシリコン基板200のボロン拡散層201の表面(下面)上に、絶縁膜9として、熱酸化法によりSiO2膜を110nmの厚さで全面成膜する(図11のS8、図16(a))。
【0065】
次に、このシリコン基板200を電極基板3上にアライメントして陽極接合する(図11のS9、図16(b))。
ついで、この接合済みシリコン基板200の表面全面を研磨加工して、厚さを例えば50μm程度に薄くし(図11のS10、図16(c))、さらにこのシリコン基板200の表面全面をウェットエッチングによりライトエッチングして加工痕を除去する(図11のS11)。
【0066】
次に、薄板に加工された接合済みシリコン基板200の表面にフォトリソグラフィーによってレジストパターニングを行い(図11のS12)、KOH水溶液による異方性ウェットエッチングによってインク流路溝を形成する(図11のS13)。これによって、吐出室21となる凹部22、リザーバ23となる凹部24およびFPC実装部(電極取り出し部)34となる凹部27が形成される(図16(d))。その際、ボロン拡散層201の表面でエッチングストップがかかるので、振動板6の厚さを高精度に形成することができるとともに、表面荒れを防ぐことができる。
【0067】
次に、ICP(Inductively Coupled Plasma)ドライエッチングにより、凹部27の底部を除去してFPC実装部34を開口した後(図16(e))、静電アクチュエータの内部に付着している水分を除去する(図11のS14)。水分除去はこのシリコン基板を例えば真空チャンバ内に入れ、加熱真空引きをすることにより水分を除去する。そして、所要時間経過後、窒素ガスを導入し窒素雰囲気下でギャップ開放端部にエポキシ樹脂等の封止材35を塗布して気密に封止する(図11のS15、図16(f))。このように静電アクチュエータ内部(ギャップ内)の付着水分を除去した後、気密封止することによって、静電アクチュエータの駆動耐久性を向上させることができる。
また、マイクロブラスト加工等により凹部24の底部を貫通させてインク供給孔33を形成する。さらに、インク流路溝の腐食を防止するため、このシリコン基板の表面にプラズマCVD法によりTEOS−SiO2膜からなるインク保護膜(図示せず)を形成する。また、シリコン基板上に金属からなる共通電極26を形成する。
【0068】
以上の工程を経て電極基板3に接合されたシリコン基板200からキャビティ基板2が作製される。
その後、このキャビティ基板2の表面上に、予めノズル孔11等が形成されたノズル基板1を接着により接合する(図11のS16)。そして最後に、ダイシングにより個々のヘッドチップに切断すれば、上述したインクジェットヘッド10の本体部が完成する(図11のS17、図16(g))。
【0069】
このインクジェットヘッド10の製造方法によれば、前述したように、駆動電圧を上げることなく安定した吐出量を確保できる静電アクチュエータを備えるインクジェットヘッドを安価に製造することができる。さらに、静電アクチュエータの発生圧力が向上し、絶縁耐圧、駆動耐久性および吐出性能に優れた静電アクチュエータを備えるインクジェットヘッドを安価に製造することができる。
また、キャビティ基板2を、予め作製された電極基板3に接合した状態のシリコン基板200から作製するものであるので、その電極基板3によりキャビティ基板2を支持した状態となるため、キャビティ基板2を薄板化しても、割れたり欠けたりすることがなく、ハンドリングが容易となる。したがって、キャビティ基板2を単独で製造する場合よりも歩留まりが向上する。
【0070】
(電極基板の第2の製造方法)
次に、電極基板の第2の製造方法について、実施の形態2の場合を例にとって図17を参照して説明する。もちろん、この製造方法は他の実施の形態1、3〜6についても適用できるものである。図17は実施の形態2に係る電極基板の第2の製造方法を示す製造工程の概略断面図である。
(1)図17(a)は、前述したとおり、ガラス基板300に凹部32とその凹部32内に個別電極5を形成するものであり、前記第1の製造方法における(1)の工程と同じである。
(2)そして、個別電極5上に1段目絶縁膜7aを形成する箇所のみが開口したシリコンマスクからなる第1のマスク部材310をガラス基板300上に重ね合わせて、ECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタ法を用いて、SiO2膜を20nmの厚さでパターン成膜する(図17(b))。
(3)次に、2段目絶縁膜7bとなる箇所のみが開口したシリコンマスクからなる第2のマスク部材311をガラス基板300上に重ね合わせて、ECRスパッタ法を用いて、SiO2膜を20nmの厚さで成膜する(図17(c))。これにより、1段目絶縁膜7aの上に2段目絶縁膜7bを積層した形で段差(1)、(2)を有する絶縁膜7を個別電極5上に形成することができる。
(4)その後、第2のマスク部材311を取り除き、ブラスト加工等によってインク供給孔33となる孔部33aをガラス基板300に形成する(図17(d))。
【0071】
この第2の製造方法は、絶縁膜7の段差を下から積み上げていく方法であり、絶縁膜7の段数に対応して順次開口部312の面積を大きくしたマスク部材を用いればよいので、前記第1の製造方法に比べてプロセスを簡略化することができるため、段数が多いほど効果が大きく、多段構造の絶縁膜7を形成するのに有利である。
【0072】
以上の実施の形態では、静電アクチュエータおよびインクジェットヘッド、ならびにこれらの製造方法について述べたが、本発明は上記の実施形態に限定されるものでなく、本発明の思想の範囲内で種々変更することができる。例えば、本発明の静電アクチュエータは、光スイッチやミラーデバイス、マイクロポンプ、レーザプリンタのレーザ操作ミラーの駆動部などにも利用することができる。また、ノズル孔より吐出される液状材料を変更することにより、例えば図18に示すようなインクジェットプリンタのほか、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、遺伝子検査等に用いられる生体分子溶液のマイクロアレイの製造など様々な用途の液滴吐出装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態1に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】組立状態における図1の略右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの断面図。
【図3】図2のA−A拡大断面図。
【図4】図2のインクジェットヘッドの上面図。
【図5】固定電極の幅方向に絶縁膜の段差を設けた場合の拡大断面図。
【図6】本発明の実施の形態2に係るインクジェットヘッドの概略断面図。
【図7】本発明の実施の形態3に係るインクジェットヘッドの概略断面図。
【図8】本発明の実施の形態4に係るインクジェットヘッドの概略断面図。
【図9】本発明の実施の形態5に係るインクジェットヘッドの概略断面図。
【図10】本発明の実施の形態6に係るインクジェットヘッドの概略断面図。
【図11】インクジェットヘッドの製造工程の概略の流れを示すフローチャート。
【図12】実施の形態1に係る電極基板の第1の製造方法を示す製造工程の概略断面図。
【図13】実施の形態2に係る電極基板の第1の製造方法を示す製造工程の概略断面図。
【図14】実施の形態4に係る電極基板の第1の製造方法を示す製造工程の概略断面図。
【図15】実施の形態5に係る電極基板の第1の製造方法を示す製造工程の概略断面図。
【図16】インクジェットヘッドの製造工程の概略断面図。
【図17】実施の形態2に係る電極基板の第2の製造方法を示す製造工程の概略断面図。
【図18】本発明のインクジェットヘッドを適用したインクジェットプリンタの一例を示す概略斜視図。
【符号の説明】
【0074】
1 ノズル基板、2 キャビティ基板、3 電極基板、4 静電アクチュエータ部、5 個別電極(固定電極)、6 振動板(可動電極)、7 絶縁膜、7a 1段目絶縁膜、7b 2段目絶縁膜、9 絶縁膜、10 インクジェットヘッド、11 ノズル孔、12 オリフィス、13 ダイヤフラム部、21 吐出室、23 リザーバ、26 共通電極、32 凹部、33 インク供給孔、34 電極取り出し部(FPC実装部)、35 封止材、36 接合部、40 駆動制御回路(駆動手段)、200 シリコン基板、300 ガラス基板、310 第1のマスク部材、311 第2のマスク部材、312 マスク部材の開口部、500 インクジェットプリンタ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電駆動方式のインクジェットヘッド等に用いられる静電アクチュエータ、液滴吐出ヘッド及びそれらの製造方法並びに液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載される静電駆動方式のインクジェットヘッドが知られている。静電駆動方式のインクジェットヘッドは、一般に、ガラス基板上に形成された個別電極(固定電極)と、この個別電極に所定のギャップを介して平行に対向配置されたシリコン製の振動板(可動電極)とから構成される静電アクチュエータ部を備えている。そして、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合されノズル基板との間で上記ノズル孔に連通する吐出室、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、上記静電アクチュエータ部に静電気力を発生させることにより吐出室に圧力を加えて、選択されたノズル孔よりインク滴を吐出するようになっている。
【0003】
このような静電駆動方式のインクジェットヘッドにおいて、駆動電圧の上昇を引き起こすことなく、振動板の変位量を増加させ、液滴の吐出エネルギーを増加させる構造について検討されてきた。その構造の一つに、個別電極に階段状の段差を設ける方式がある。例えば、特許文献1には、個別電極の支持基板(電極基板)としてシリコン基板を用いる場合は、シリコン基板に形成した絶縁膜に階段状の段差を有する凹部を形成し、その凹部の底面上に個別電極を形成することにより、階段状の段差を有する個別電極を形成することが開示されており、また、個別電極の支持基板(電極基板)としてガラス基板を用いる場合は、ガラス基板に階段状の段差を有する凹部を形成し、その凹部の底面上に個別電極を形成することにより、階段状の段差を有する個別電極を形成することが開示されている。
また、ガラス基板に階段状の段差を有する凹部を形成することにより、個別電極に階段状の段差を形成するものとしては特許文献2や特許文献3がある。
【0004】
【特許文献1】特開2000−318155号公報
【特許文献2】特開2006−25622号公報
【特許文献3】特開2006−289764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のように電極基板としてシリコン基板を用いる場合は、ガラス基板(例えば、ホウ珪酸ガラス基板)を用いた場合と比較して加工がしやすい反面、次のような問題がある。
(1)シリコン基板の単価がガラス基板の単価より高いため、コストが高くなる。
(2)キャビティ基板を接合する際に、陽極接合ができない。
(3)シリコン基板は透明でないため、静電アクチュエータ内の様子が観察できない。
また、特許文献1や特許文献2、3のように電極基板としてガラス基板を用いる場合は、階段状の段差を複数回のパターニングとウェットエッチングによって形成するが、この多段エッチング工程でのエッチング量の制御が難しく、段差を高精度に形成することが困難であった。そのため、ギャップ長にバラツキが生じやすく、その結果吐出量のバラツキを招き、印刷品質を損なうこととなっていた。
さらにまた、インクジェットヘッドの高密度化に伴い静電アクチュエータも微小化するが、インクジェットヘッドの吐出圧力を確保するためには静電アクチュエータの発生圧力を極力低い駆動電圧で高める必要がある。しかしながら、特許文献1や特許文献2、3にはこのような工夫はなされていない。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、プロセス適応性に優れた、精度の高い階段状の段差を有する静電アクチュエータおよびその製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る静電アクチュエータは、ガラス基板上に形成された固定電極と、この固定電極に対して所定のギャップを介して平行に対向配置された可動電極と、固定電極と可動電極との間に静電気力を発生させて、可動電極に変位を生じさせる駆動手段とを備えた静電アクチュエータにおいて、固定電極の可動電極に対する対向面上に、少なくとも1段の階段状の段差を有する絶縁膜を備えたものである。
この構成によれば、固定電極上に形成した絶縁膜に1段以上の段差を形成するものであるから、段差の精度が向上するという効果がある。
【0008】
また、絶縁膜は、固定電極の長手方向または幅方向に階段状の段差を有するものとする。絶縁膜の段差は固定電極の長手方向または幅方向のどちらにも設けることができる。これにより、駆動電圧の上昇を引き起こすことなく可動電極を固定電極の長手方向または幅方向に連成当接させることができ、大きな変位量で安定した吐出が可能となる。
【0009】
また、絶縁膜は、ギャップの最深部以外の固定電極の対向面に、任意の段数で形成されている。
ギャップの最深部には絶縁膜を設けずに固定電極の表面が露出した状態にすることもできる。
【0010】
また、絶縁膜は、少なくともシリコン酸化膜を含むものである。
シリコン酸化膜により、必要な絶縁耐圧および接合強度を確保することができる。
【0011】
また、絶縁膜は、少なくともダイアモンドライクカーボン膜を含むものである。
ダイアモンドライクカーボン膜は、表面平滑性が高く、低摩擦性を有するため、静電アクチュエータの駆動耐久性および駆動安定性が向上する。また、ダイアモンドライクカーボンの中でも水素化アモルファスカーボンを用いるのが望ましく、CVD法により成膜すると、耐久性が高い。
【0012】
また、絶縁膜は、少なくとも酸化シリコンよりも比誘電率の大きい誘電材料からなる誘電膜を含むものである。
絶縁膜として、酸化シリコンよりも比誘電率の大きい誘電材料、いわゆるHigh−k材を用いると、静電アクチュエータの発生圧力を向上できるので、静電アクチュエータの微小化、高密度化が可能となる。
High−k材の中でも、プロセス適性、膜質の安定性等の見地から、特に、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ハフニウム(HfO2)、窒化ハフニウムシリケート(HfSiN)、酸窒化ハフニウムシリケート(HfSiON)が望ましく、これらの中から少なくとも一つを選べばよい。
【0013】
本発明に係る静電アクチュエータの第1の製造方法は、ガラス基板上に形成された固定電極と、この固定電極に対して所定のギャップを介して平行に対向配置された可動電極と、固定電極と可動電極との間に静電気力を発生させて、可動電極に変位を生じさせる駆動手段とを備えた静電アクチュエータの製造方法において、
固定電極が形成されたガラス基板に絶縁膜を全面成膜する工程と、
全面成膜された絶縁膜に対してパターニングするパターニング工程と、
パターニングで露出した絶縁膜の部分をエッチングにより選択的に除去する絶縁膜エッチング工程とを有し、
パターニング工程と絶縁膜エッチング工程とを少なくとも1回または複数回繰り返すことにより、1段以上の階段状の段差を有する絶縁膜を固定電極上に形成するものである。
【0014】
この第1の製造方法は、固定電極上に絶縁膜を全面成膜し、この全面成膜された絶縁膜に対して少なくとも1回または複数回のパターニングと、パターニングで露出した絶縁膜の部分を除去する絶縁膜エッチングとを行うものであるので、精度の高い段差を有する絶縁膜を固定電極上に形成することができる。
また、絶縁膜エッチング工程では、ドライエッチングにより絶縁膜を除去することが望ましい。
【0015】
本発明に係る静電アクチュエータの第2の製造方法は、ガラス基板上に形成された固定電極と、この固定電極に対して所定のギャップを介して平行に対向配置された可動電極と、固定電極と可動電極との間に静電気力を発生させて、可動電極に変位を生じさせる駆動手段とを備えた静電アクチュエータの製造方法において、
マスク部材を用いて、スパッタ法により、1段以上の階段状の段差を有する絶縁膜を固定電極上に形成するものである。
【0016】
この第2の製造方法は、マスク部材を用いて、スパッタ法により、直接固定電極上に1段以上の階段状の段差を有する絶縁膜を形成することができるので、上記第1の製造方法に比べて、プロセスが簡略化されるため、段数が多いほど効果が大きい製造方法である。
【0017】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、上記のいずれかの静電アクチュエータを搭載したものである。
本発明の液滴吐出ヘッドは、上記のように精度の高い段差を有する絶縁膜が固定電極上に形成された静電アクチュエータを備えているので、駆動電圧の上昇を引き起こすことなく可動電極の安定した連成当接が可能となり、優れた吐出特性を有し、高密度化が可能な液滴吐出ヘッドを実現することができる。
【0018】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記のいずれかの静電アクチュエータの製造方法を適用して液滴吐出ヘッドを製造するものである。
これにより、優れた吐出特性を有し、高密度化が可能な液滴吐出ヘッドを安価に製造することができる。
【0019】
本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを搭載したものである。したがって、優れた吐出特性を有し、高密度化が可能な液滴吐出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を適用した静電アクチュエータを備える液滴吐出ヘッドの実施の形態について図面を参照して説明する。ここでは、液滴吐出ヘッドの一例として、ノズル基板の表面に設けられたノズル孔からインク滴を吐出するフェイス吐出型の静電駆動方式のインクジェットヘッドについて図1から図4を参照して説明する。なお、本発明は、以下の図に示す構造、形状に限定されるものではなく、吐出室とリザーバ部が別々の基板に設けられた4枚の基板を積層した4層構造のものや、基板の端部に設けられたノズル孔からインク滴を吐出するエッジ吐出型の液滴吐出ヘッドにも同様に適用することができるものである。
【0021】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係るインクジェットヘッドの概略構成を分解して示す分解斜視図であり、一部を断面で表してある。図2は組立状態における図1の略右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの断面図(但し、個別電極上の絶縁膜の構成は図1と異なる)、図3は図2のA−A拡大断面図、図4は図2のインクジェットヘッドの上面図である。なお、図1および図2では、通常使用される状態とは上下逆に示されている。
【0022】
本実施の形態1に係るインクジェットヘッド10は、図1から図4に示すように、複数のノズル孔11が所定のピッチで設けられたノズル基板1と、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路が設けられたキャビティ基板2と、キャビティ基板2に設けられた振動板6に対峙して個別電極5が配設された電極基板3とを貼り合わせることにより構成されている。
【0023】
インクジェットヘッド10のノズル孔11ごとに設けられる静電アクチュエータ部4は、図2、図3に示すように、固定電極として、ガラス製の電極基板3の凹部32内に形成された個別電極5と、可動電極として、シリコン製のキャビティ基板2の吐出室21の底壁で構成され、個別電極5に所定のギャップGを介して対向配置される振動板6とを備えている。個別電極5は、振動板6に対向する電極部5aと、基板端部側へ延設されるリード部5b、および図示省略のフレキシブルプリント基板(FPC)と配線接続される端子部5cとを有する。
【0024】
ここで、個別電極5の電極部5aにおける振動板6との対向面上には、例えばシリコン酸化膜(SiO2膜)からなる絶縁膜7が1段以上の階段状に形成されている。なお、絶縁膜7は任意の段数を有するものとすることができるが、本実施の形態1ではギャップの最深部以外の対向面に、長手方向の前後にそれぞれ1段だけ絶縁膜7を設けている。すなわち、最深部のギャップ長Gは個別電極5の表面が露出した状態(この部分には絶縁膜7が無い状態)となっている。従って、絶縁膜7形成部分のギャップ長はGよりも狭いG1となっている(G>G1)。これにより、最小限の絶縁膜7の成膜で振動板6の連成当接を行うことができる。ここで、連成当接というのは、例えば図2に破線で模式的に示すように、振動板6が、静電引力により各段の絶縁膜7の端部に順次接触しながら個別電極5に当接することをいう。なお、駆動電圧の大小により連成当接状態を変化させることができる。従って、振動板6の変位量が変化するため、インク吐出量を多様に変化させることができる。
また、絶縁膜7の段差(2段以上の場合は厚みの差)は、任意に設定することができるが、最深部のギャップ長Gの20%以下が望ましい。段差が大きすぎると振動板6が連成当接しなくなり、本発明の効果が得られなくなる。本実施の形態1の場合、最深部のギャップ長Gを200nm、絶縁膜7の厚みを30nm、振動板6側の絶縁膜9の厚みを110nmとしている。
【0025】
個別電極5は、一般に透明電極であるITO(Indium Tin Oxide)により形成されるが、特にこれに限定されるものではない。IZO(Indium Zinc Oxide)の透明電極、あるいはAu、Al等の金属等でもかまわない。
この個別電極5の端子部5cとキャビティ基板2上に設けられた共通電極26とに、図4に簡略化して示すように、静電アクチュエータの駆動手段として、ドライバICなどの駆動制御回路40がFPCを介して配線接続される。また、振動板6の個別電極5との対向面、すなわちキャビティ基板2の接合面全面には、静電アクチュエータの絶縁破壊や短絡等を防ぐために、シリコンの熱酸化膜からなる絶縁膜9が形成されている。
【0026】
以下、各基板の構成についてさらに詳細に説明する。
ノズル基板1は、例えばシリコン基板から作製されている。インク滴を吐出するためのノズル孔11は、例えば径の異なる2段の同軸円筒状に形成されたノズル孔部分、すなわち径の小さい噴射口部分11aとこれよりも径の大きい導入口部分11bとから構成されている。噴射口部分11aおよび導入口部分11bは基板面に対して垂直にかつ同軸上に設けられており、噴射口部分11aは先端がノズル基板1の表面(インク吐出面)に開口し、導入口部分11bはノズル基板1の裏面(キャビティ基板2と接合される接合側の面)に開口している。
また、ノズル基板1には、キャビティ基板2の吐出室21とリザーバ23とを連通するオリフィス12とリザーバ23部の圧力変動を補償するためのダイヤフラム部13が形成されている。
【0027】
ノズル孔11を噴射口部分11aとこれよりも径の大きい導入口部分11bとから2段に構成することにより、インク滴の吐出方向をノズル孔11の中心軸方向に揃えることができ、安定したインク吐出特性を発揮させることができる。すなわち、インク滴の飛翔方向のバラツキがなくなり、またインク滴の飛び散りがなく、インク滴の吐出量のバラツキを抑制することができる。また、ノズル密度を高密度化することが可能である。
【0028】
電極基板3に接合されるキャビティ基板2は、例えば面方位が(110)のシリコン基板から作製されている。キャビティ基板2には、インク流路に設けられる吐出室21となる凹部22、およびリザーバ23となる凹部24がエッチングにより形成されている。凹部22は前記ノズル孔11に対応する位置に独立に複数形成される。したがって、図2に示すようにノズル基板1とキャビティ基板2を接合した際、各凹部22は吐出室21を構成し、それぞれノズル孔11に連通しており、またインク供給口である前記オリフィス12ともそれぞれ連通している。そして、吐出室21(凹部22)の底部が振動板6となっている。また、この振動板6は、シリコン基板の表面に高濃度のボロン(B)を拡散させたボロン拡散層により形成されており、ボロン拡散層の厚さを振動板6の厚さと同じにするものである。これは、アルカリによる異方性ウェットエッチングにより、吐出室21を形成する際に、ボロン拡散層が露出した時点でエッチングレートが極端に小さくなるため、いわゆるエッチングストップ技術により振動板6を所望の厚さに精度よく形成することができるからである。
【0029】
凹部24は、インク等の液状材料を貯留するためのものであり、各吐出室21に共通のリザーバ(共通インク室)23を構成する。そして、リザーバ23(凹部24)はそれぞれオリフィス12を介して全ての吐出室21に連通している。また、リザーバ23の底部には電極基板3を貫通する孔が設けられ、この孔のインク供給孔33を通じて図示しないインクカートリッジからインクが供給されるようになっている。
【0030】
電極基板3は、ガラス基板から作製される。中でも、キャビティ基板2のシリコン基板と熱膨張係数の近いホウ珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いるのが適している。これは、電極基板3とキャビティ基板2を陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が近いため、電極基板3とキャビティ基板2との間に生じる応力を低減することができ、その結果剥離等の問題を生じることなく電極基板3とキャビティ基板2を強固に接合することができるからである。
【0031】
以上のように作製された電極基板3とキャビティ基板2とを陽極接合し、その上にノズル基板1を接着接合することにより、図2に示すようにインクジェットヘッド10の本体部が完成する。その後、FPCを用いて駆動制御回路40を各個別電極5と共通電極26とに配線接続する。さらに、電極取り出し部(FRP実装部ともいう)34における静電アクチュエータのギャップの開放端部にエポキシ系樹脂等の封止材35を塗布するなどして気密に封止する。これにより、湿気や異物等が静電アクチュエータのギャップへ侵入するのを確実に防止することができ、駆動の安定性および耐久性を実現できる。つまり、インクジェットヘッド10の信頼性が向上する。
【0032】
次に、以上のように構成されるインクジェットヘッド10の動作を説明する。
駆動制御回路40により個別電極5とキャビティ基板2の共通電極26の間にパルス電圧を印加すると、振動板6は静電引力により個別電極5側に引き寄せられて吸着する。その際、個別電極5上には段差を有する絶縁膜7が形成されているので、振動板6はギャップ長の小さい方、すなわち図2の上の段から絶縁膜7に接触し、ついで最深部の個別電極5に当接する。言い換えれば、上の段のギャップ長G1を埋めるのに十分な電圧を印加することにより振動板6は絶縁膜7に当接し、次段のギャップ長G−G1=t(t:絶縁膜7の厚み)を埋めるのに十分な電圧を印加することにより振動板6は個別電極5に当接する。このように絶縁膜7の段数に応じて順次各段の絶縁膜7の端部に接触しながら連成当接していき、個別電極5に当接する。振動板6が連成当接によって変位することにより、吐出室21内に負圧を発生させて、リザーバ23内のインクを吸引し、インクの振動(メニスカス振動)を発生させる。このインクの振動が略最大となった時点で、電圧を解除すると、振動板6は離脱して、インクをノズル11から押出し、インク滴を吐出する。
【0033】
従って、本実施の形態1に係るインクジェットヘッド10によれば、比較的低い駆動電圧により大きな変位量が得られるため、バラツキの少ない安定した吐出が可能である。また、駆動電圧を制御することにより振動板6の変位量を制御することができ、インク吐出量を変化させることができるため、多様な階調で高精細な表現が可能となる。また、静電アクチュエータの微小化によるインクジェットヘッドの高密度化が可能なうえに、コスト低減が可能である。
また、本実施の形態1のように個別電極5上の絶縁膜7を長手方向の前後に階段状に形成した構造は、ノズル孔11付近で誘電率が高いため、振動板制御がしやすくメニスカス制御が行いやすいため、MSDT(インク吐出量制御)を行う場合には望ましい構造である。
【0034】
次に、静電アクチュエータの発生圧力について説明する。
駆動時における振動板6を吸引する静電圧力(発生圧力)Pは、静電エネルギーをE、振動板6の個別電極5に対する任意の位置をx、振動板6の面積をS、印加電圧をV、絶縁膜の厚さをt、真空中の誘電率をε0、絶縁膜の比誘電率をεrとすると、以下の式で表される。
【0035】
【数1】
【0036】
また、振動板6の駆動時における平均圧力Peは、振動板6が駆動していない時の振動板6から個別電極5までの距離(ギャップ長)をdとして、以下の式で表される。
【0037】
【数2】
【0038】
式1、式2は、個別電極5上の絶縁膜7が複数段の段差を有する場合、各段について実質的に適用可能である。従って、式2から、絶縁膜の比誘電率が大きいほど、あるいは絶縁膜の厚さに対する比誘電率の比(t/ε)が小さいほど、平均圧力Peが高くなることが分かる。酸化シリコンは比誘電率が3.8程度と空気より比誘電率が大きいため、多段で構成される場合、絶縁膜の累積厚みが厚い部分は、絶縁膜の累積厚みが薄い部分に比べて静電アクチュエータの発生圧力を高くすることができる。
すなわち、本発明の静電アクチュエータに電圧を印加すると、発生圧力が相対的に大きな絶縁膜の累積厚みが厚い部分から連成当接が生じるため、絶縁膜の累積厚みが薄い部分が本来必要な当接電圧以下の電圧で静電アクチュエータの当接が可能となる。また、例えば絶縁膜の比誘電率を全体として2倍にすれば、絶縁膜の厚さを2倍にしてもほぼ同じ発生圧力が得られるため、静電アクチュエータにおける静電アクチュエータにおけるTDDB(Time Depend Dielectric Breakdown、長時間の絶縁破壊強度)、TZDB(Time Zero Dielectric Breakdown、瞬間における絶縁破壊強度)等の耐絶縁破壊強度をより向上することができる。また、同じ当接電圧で比較した場合、吐出室の体積変化量をより大きくでき、インク排除体積を大きく確保することができる。
【0039】
なお、図2では、絶縁膜7の段差を個別電極5の長手方向に設けた場合を示したが、図5に示すように、絶縁膜7の段差を個別電極5の幅方向に設けても同様の効果がある。個別電極5の長手方向とは、個別電極5が延設される長さ方向、つまり凹部32の長さ方向をいい、個別電極5の幅方向とは、ノズル列方向、つまり凹部32の溝幅の方向をいう。
【0040】
実施の形態2.
図6は本発明の実施の形態2に係るインクジェットヘッドの概略断面図である。なお、実施の形態2以降において、実施の形態1と同じ構成部分については同一符号を付し、その説明は省略する。
本実施の形態2は、絶縁膜7を2段に構成した以外は実施の形態1と同様である。また、最上段から段差(1)、段差(2)を形成する。この製造方法については後述する。1段目絶縁膜7aおよび2段目絶縁膜7bはいずれもシリコン酸化膜で形成されている。また、電極中央部には絶縁膜7が無く個別電極5の表面となっている。なお、図6ではわかりやすくするために1段目と2段目の界面を示してあるが、実際には同種の誘電材料の場合、この界面は存在しない。絶縁膜7の膜厚については、1段目、2段目ともにそれぞれ20nmとしている。最深部のギャップ長G=200nmである。従って、1段目のギャップ長G1=160nm、2段目のギャップ長G2=180nmである。また、振動板6側の絶縁膜9の厚みは110nmとしている。
【0041】
本実施の形態2によれば、実施の形態1の効果に加えて、絶縁膜7を2段にすることによりアクチュエータ発生圧力を高くすることができるため、静電アクチュエータの微小化、インクジェットヘッドの高密度化にさらに寄与するものとなる。
【0042】
実施の形態3.
図7は本発明の実施の形態3に係るインクジェットヘッドの概略断面図である。
本実施の形態3は、実施の形態2において、2段目絶縁膜7bを個別電極5の電極部5aの表面全面に形成したものである。したがって、段差は1段である。なお、このように絶縁膜7は段差を有しない場合もあるが、便宜上、段差(2)を有しない絶縁膜も含めて2段目絶縁膜7bと称する。その他は実施の形態2と同じ構成である。また、絶縁膜7の膜厚等についても実施の形態2と同じであり、1段目、2段目ともにそれぞれ20nm、最深部のギャップ長G=200nmである。また、振動板6側の絶縁膜9の厚みは110nmである。
【0043】
本実施の形態3は、実施の形態2と同様の効果を有するほか、振動板6と個別電極5は、同種材料の絶縁膜9と絶縁膜7を介して当接、離脱を繰り返すので、静電アクチュエータの駆動耐久性および安定性が向上するという効果がある。
【0044】
実施の形態4.
図8は本発明の実施の形態4に係るインクジェットヘッドの概略断面図である。
これまでの実施の形態1から3では、ギャップ長Gの最深部を個別電極5の電極部5aの中央部に設けたものであったが、本実施の形態4では、電極部5aの先端部(ノズル孔11に近い位置)にギャップ長Gの最深部を設けたものである。個別電極5上の絶縁膜7は2段構成となっており、それぞれシリコン酸化膜で形成されている。絶縁膜7の膜厚等についても実施の形態2と同じであり、1段目、2段目ともにそれぞれ20nm、最深部のギャップ長G=200nmである。また、振動板6側の絶縁膜9の厚みは110nmとしている。
【0045】
本実施の形態4は、実施の形態3と同様の効果を有するほか、ギャップ長の最深部Gをノズル孔11に近い電極部5aの先端部に設けているので、吐出時にインク整流効果があるため、インクの吐出重量を大きくすることが可能である。したがって、印刷速度が向上する。
【0046】
実施の形態5.
図9は本発明の実施の形態5に係るインクジェットヘッドの概略断面図である。
本実施の形態5は、個別電極5上の絶縁膜7を異種材料の組み合わせで積層構造としたものである。すなわち、1段目絶縁膜7aを酸化シリコン(SiO2)、2段目絶縁膜7bを酸化アルミニウム(Al2O3、アルミナ)により形成している。アルミナのような所謂High−k材(高誘電率絶縁材料)を使用すると、比誘電率が7.9程度と酸化シリコンの比誘電率3.8よりも大きいので、静電アクチュエータの発生圧力をより高めることが可能となる。
【0047】
比誘電率が酸化シリコンよりも大きいHigh−k材としては、アルミナのほか、酸窒化シリコン(SiON)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化タンタル(Ta2O3)、窒化ハフニウムシリケート(HfSiN)、酸窒化ハフニウムシリケート(HfSiON)、窒化アルミ(AlN)、窒化ジルコニウム(ZrO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、ジルコニウムシリケート(ZrSiO)、ハフニウムシリケート(HfSiO)、ジルコニウムアルミネート(ZrAlO)、窒素添加ハフニウムアルミネート(HfAlON)、及びこれらの複合膜等を挙げることができる。その中でも膜の低温成膜性、膜の均質性、プロセス適応性等を考慮した場合、酸化アルミニウム(Al2O3、アルミナ)、酸化ハフニウム(HfO2)、窒化ハフニウムシリケート(HfSiN)、酸窒化ハフニウムシリケート(HfSiON)を使用することが望ましく、これらの中から少なくとも一つが選ばれる。
【0048】
また、絶縁膜7は、High−k材どうしの組み合わせでもよいし、High−k材と酸化シリコンは上記とは逆の積層、すなわち、1段目をHigh−k材、2段目を酸化シリコンとしてもよい。また、絶縁膜7の段数は任意であり、したがって、誘電材料の組み合わせ順序についても特に制限はない。
【0049】
実施の形態6.
図10は本発明の実施の形態6に係るインクジェットヘッドの概略断面図である。
本実施の形態6は、個別電極5上の絶縁膜7を実施の形態5と同様に異種材料の積層構造としたものであるが、1段目絶縁膜7aをDLC(ダイアモンドライクカーボン)、特に水素化アモルファスカーボン(a−C:H)により形成したものである。2段目絶縁膜7bは上記同様、酸化シリコンである。絶縁膜7の膜厚等については、1段目絶縁膜(a−C:H)7aを10nm、2段目絶縁膜(SiO2)7bを30nm、最深部のギャップ長G=200nm、振動板6側の絶縁膜9の厚みを110nmとしている。
【0050】
DLCは表面平滑性が高く、低摩擦性を有するため、絶縁膜7の最表面に形成することで静電アクチュエータの駆動耐久性および駆動安定性をより向上させることが可能となる。特に、DLC膜としてa−C:H膜を使用すると、a−C:H膜は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により成膜すると、耐久性が高い。また、1段目絶縁膜7aであるa−C:H膜の膜厚は、あまり厚いと膜応力が大きくなるので10nm程度が目安となる。逆に、あまり薄いとa−C:H膜としての特性が発揮できないので、5nm程度以上が望ましい。
【0051】
(インクジェットヘッドの製造方法)
次に、実施の形態1〜6に係るインクジェットヘッド10の製造方法について図11から図16を参照して概要を説明する。図11はインクジェットヘッド10の製造工程の概略の流れを示すフローチャート、図12〜図15はそれぞれ実施の形態1〜6に係る電極基板の第1の製造方法を示す製造工程の概略断面図である。但し、実施の形態3、4については図示を省略してある。図16は実施の形態1に係るインクジェットヘッド10の製造工程の概要を示す断面図である。
【0052】
図11において、ステップS1〜S6は電極基板3の製造工程を示すものであり、ステップS7とS8はキャビティ基板2の元になるシリコン基板の製造工程を示すものである。第1の製造方法は、パターニングと絶縁膜エッチングとを複数回繰り返すことにより、所望の段数の絶縁膜7を個別電極5上に形成する方法である。
【0053】
(電極基板の第1の製造方法)
はじめに、各実施の形態に係る電極基板3の第1の製造方法について説明する。
1.実施の形態1の場合
(1)ホウ珪酸ガラス等からなる板厚約1mmのガラス基板300に、例えば金・クロムのエッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングすることにより所望の深さの凹部32を形成する。なお、この凹部32は個別電極5の形状より少し大きめの溝状のものであり、個別電極5ごとに複数形成される。
そして、例えば、スパッタ法によりITO(Indium Tin Oxide)膜を100nmの厚さで形成し、このITO膜をフォトリソグラフィーによりパターニングして個別電極5となる部分以外をエッチング除去して、凹部32の内部に個別電極5を形成する(図11のS1、図12(a))。
【0054】
(2)次に、個別電極5上の絶縁膜7として、ガラス基板300の接合面側の表面全体に、TEOS(Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン)を原料ガスとして用いたRF−CVD(Chemical Vapor Deposition)法(以下、TEOS−CVD法という)によりSiO2膜を30nmの厚さで形成する(図11のS2、図12(b))。
【0055】
(3)次に、この全面成膜されたSiO2膜に対してレジストを塗布し、フォトリソグラフィーにより1回目のパターニングを行う(図11のS3)。パターニングは、個別電極5の電極中央部およびFPC実装部(電極取り出し部)34ならびにガラス基板300の接合部36のSiO2膜を除去するようにレジストを開口する。
(4)次に、CHF3によるRIE(Reactive Ion Etching)ドライエッチングにより、電極中央部のSiO2膜、FPC実装部34のSiO2膜、接合部36のSiO2膜を同時にエッチング除去し、さらに上記レジストを硫酸洗浄により剥離すれば、実施の形態1に示す段差(1)を有する1段の絶縁膜7を個別電極5上に形成することができる(図11のS4、図12(c))。
(5)その後、ブラスト加工等によってインク供給孔33となる孔部33aをガラス基板300に形成する。
【0056】
2.実施の形態2、3の場合
(1)図13の(a)、(b)の工程は実施の形態1の(1)、(2)と同じである。但し、全面成膜するSiO2膜の膜厚は40nmとしている。
(2)次に、上記(3)と同様に1回目のレジストパターニングを行い(図11のS3)、CHF3によるRIEドライエッチングにより、電極中央部、FPC実装部34および接合部36のSiO2膜を20nmだけエッチング除去する(図11のS4、図13(c))。これにより、20nmの段差(1)を有する1段目絶縁膜7aが形成される。
(3)次に、上記レジストを剥離したのち、2回目のレジストパターニングを行い(図11のS5)、CHF3によるRIEドライエッチングにより、電極中央部、FPC実装部34および接合部36のSiO2膜をさらに20nmエッチング除去する(図11のS6)。そして、レジストを硫酸洗浄により剥離すれば、20nmの段差(2)を有する2段目絶縁膜7bが形成される(図13(d))。これにより、実施の形態2に示す段差(1)と段差(2)を有する2段の絶縁膜7を個別電極5上に形成することができる。
(4)その後、ブラスト加工等によってインク供給孔33となる孔部33aをガラス基板300に形成する。
【0057】
また、実施の形態3の場合は、実施の形態2における上記(3)の工程において、電極中央部のSiO2膜を残すように2回目のレジストパターニングを行えばよい。
【0058】
3.実施の形態4の場合
図示は省略するが、基本的に実施の形態3の場合と同様である。すなわち、段差(1)を設ける位置が個別電極5の電極中央部から先端部に変わるだけであり、2回目のレジストパターニングにおいては、個別電極5の先端部にSiO2膜を残すようにパターニングを行えばよい。
【0059】
4.実施の形態5の場合
(1)図14(a)の工程は実施の形態1の(1)と同じである。
(2)ECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタ法を用いて、2段目絶縁膜7bとなるAl2O3膜を20nmの厚さでガラス基板300の接合面側の表面全体に形成する(図11のS2、図14(b))。
(3)さらに、このAl2O3膜の上にTEOS−CVD法により、1段目絶縁膜7aとなるSiO2膜を30nmの厚さで全面成膜する(図11のS2、図14(c))。
(4)次に、このSiO2膜に対して1回目のレジストパターニングを行い、CHF3によるRIEドライエッチングにより、FPC実装部34および接合部36のSiO2膜除去及び個別電極5上に段差(1)を有する1段目絶縁膜7aを形成する(図11のS3、S4、図14(d))。
(5)次に、FPC実装部34および接合部36のAl2O3膜を除去するために、2回目のレジストパターニングを行い、CHF3によるRIEドライエッチングによりその部分のAl2O3膜を除去する(図11のS5、S6、図14(e))。
(6)その後、ブラスト加工等によってインク供給孔33となる孔部33aをガラス基板300に形成する。
【0060】
5.実施の形態6の場合
(1)図15(a)の工程は実施の形態1の(1)と同じである。
(2)TEOS−CVD法を用いて、2段目絶縁膜7bとなるSiO2膜を30nmの厚さでガラス基板300の接合面側の表面全体に形成する(図11のS2、図15(b))。
(3)さらに、このSiO2膜の上にRF−CVD法(RFパワー:900W、原料ガス:トルエン)を用いて、1段目絶縁膜7aとなるa−C:H膜(水素化アモルファスカーボン膜)を10nmの厚さで全面成膜する(図11のS2、図15(c))。
(4)次に、このa−C:H膜に対して1回目のレジストパターニングを行い、O2アッシングによるエッチングでFPC実装部34および接合部36のSiO2膜除去及び個別電極5上に段差(1)を有する1段目絶縁膜7aを形成する(図11のS3、S4、図15(d))。
(5)次に、FPC実装部34および接合部36のSiO2膜を除去するために、2回目のレジストパターニングを行い、CHF3によるRIEドライエッチングによりその部分のSiO2膜を除去する(図11のS5、S6、図15(e))。
(6)その後、ブラスト加工等によってインク供給孔33となる孔部33aをガラス基板300に形成する。
以上により、実施の形態1〜6の電極基板3が作製される。なお、図11のS6において、n段目絶縁膜は、n段目の段差を有し個別電極5の表面が露出する場合と、n段目の段差が無く個別電極5の表面がn段目絶縁膜で被覆される場合とがある。
【0061】
この第1の製造方法は、以上の説明から明らかなように、個別電極5上に全面成膜された絶縁膜7に対して、少なくとも1回のパターニングと絶縁膜エッチングを行い、あるいは、複数回のパターニングと絶縁膜エッチングとを繰り返すことにより、個別電極5上の絶縁膜7に少なくとも1段以上の段差を階段状に形成するものであるから、ガラス基板300の凹部32底面にエッチングにより段差を形成する従来法に比較して、段差の加工精度が著しく向上する。その結果、静電アクチュエータを構成したとき、振動板7の連成当接状態の安定性が向上するという効果がある。
【0062】
6.インクジェットヘッドの製造方法
次に、図16を参照してインクジェットヘッドの製造方法について説明する。ここでは、上記のように作製された実施の形態1の電極基板3を用いているが、他の実施の形態2〜6の電極基板3を用いても同様である。
【0063】
キャビティ基板2は上記により作製された電極基板3にシリコン基板200を陽極接合してから作製される。
【0064】
まず、例えば厚さが280μmのシリコン基板200の片面全面に、例えば厚さが0.8μmのボロン拡散層201を形成したシリコン基板200を作製する(図11のS7)。次に、そのシリコン基板200のボロン拡散層201の表面(下面)上に、絶縁膜9として、熱酸化法によりSiO2膜を110nmの厚さで全面成膜する(図11のS8、図16(a))。
【0065】
次に、このシリコン基板200を電極基板3上にアライメントして陽極接合する(図11のS9、図16(b))。
ついで、この接合済みシリコン基板200の表面全面を研磨加工して、厚さを例えば50μm程度に薄くし(図11のS10、図16(c))、さらにこのシリコン基板200の表面全面をウェットエッチングによりライトエッチングして加工痕を除去する(図11のS11)。
【0066】
次に、薄板に加工された接合済みシリコン基板200の表面にフォトリソグラフィーによってレジストパターニングを行い(図11のS12)、KOH水溶液による異方性ウェットエッチングによってインク流路溝を形成する(図11のS13)。これによって、吐出室21となる凹部22、リザーバ23となる凹部24およびFPC実装部(電極取り出し部)34となる凹部27が形成される(図16(d))。その際、ボロン拡散層201の表面でエッチングストップがかかるので、振動板6の厚さを高精度に形成することができるとともに、表面荒れを防ぐことができる。
【0067】
次に、ICP(Inductively Coupled Plasma)ドライエッチングにより、凹部27の底部を除去してFPC実装部34を開口した後(図16(e))、静電アクチュエータの内部に付着している水分を除去する(図11のS14)。水分除去はこのシリコン基板を例えば真空チャンバ内に入れ、加熱真空引きをすることにより水分を除去する。そして、所要時間経過後、窒素ガスを導入し窒素雰囲気下でギャップ開放端部にエポキシ樹脂等の封止材35を塗布して気密に封止する(図11のS15、図16(f))。このように静電アクチュエータ内部(ギャップ内)の付着水分を除去した後、気密封止することによって、静電アクチュエータの駆動耐久性を向上させることができる。
また、マイクロブラスト加工等により凹部24の底部を貫通させてインク供給孔33を形成する。さらに、インク流路溝の腐食を防止するため、このシリコン基板の表面にプラズマCVD法によりTEOS−SiO2膜からなるインク保護膜(図示せず)を形成する。また、シリコン基板上に金属からなる共通電極26を形成する。
【0068】
以上の工程を経て電極基板3に接合されたシリコン基板200からキャビティ基板2が作製される。
その後、このキャビティ基板2の表面上に、予めノズル孔11等が形成されたノズル基板1を接着により接合する(図11のS16)。そして最後に、ダイシングにより個々のヘッドチップに切断すれば、上述したインクジェットヘッド10の本体部が完成する(図11のS17、図16(g))。
【0069】
このインクジェットヘッド10の製造方法によれば、前述したように、駆動電圧を上げることなく安定した吐出量を確保できる静電アクチュエータを備えるインクジェットヘッドを安価に製造することができる。さらに、静電アクチュエータの発生圧力が向上し、絶縁耐圧、駆動耐久性および吐出性能に優れた静電アクチュエータを備えるインクジェットヘッドを安価に製造することができる。
また、キャビティ基板2を、予め作製された電極基板3に接合した状態のシリコン基板200から作製するものであるので、その電極基板3によりキャビティ基板2を支持した状態となるため、キャビティ基板2を薄板化しても、割れたり欠けたりすることがなく、ハンドリングが容易となる。したがって、キャビティ基板2を単独で製造する場合よりも歩留まりが向上する。
【0070】
(電極基板の第2の製造方法)
次に、電極基板の第2の製造方法について、実施の形態2の場合を例にとって図17を参照して説明する。もちろん、この製造方法は他の実施の形態1、3〜6についても適用できるものである。図17は実施の形態2に係る電極基板の第2の製造方法を示す製造工程の概略断面図である。
(1)図17(a)は、前述したとおり、ガラス基板300に凹部32とその凹部32内に個別電極5を形成するものであり、前記第1の製造方法における(1)の工程と同じである。
(2)そして、個別電極5上に1段目絶縁膜7aを形成する箇所のみが開口したシリコンマスクからなる第1のマスク部材310をガラス基板300上に重ね合わせて、ECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタ法を用いて、SiO2膜を20nmの厚さでパターン成膜する(図17(b))。
(3)次に、2段目絶縁膜7bとなる箇所のみが開口したシリコンマスクからなる第2のマスク部材311をガラス基板300上に重ね合わせて、ECRスパッタ法を用いて、SiO2膜を20nmの厚さで成膜する(図17(c))。これにより、1段目絶縁膜7aの上に2段目絶縁膜7bを積層した形で段差(1)、(2)を有する絶縁膜7を個別電極5上に形成することができる。
(4)その後、第2のマスク部材311を取り除き、ブラスト加工等によってインク供給孔33となる孔部33aをガラス基板300に形成する(図17(d))。
【0071】
この第2の製造方法は、絶縁膜7の段差を下から積み上げていく方法であり、絶縁膜7の段数に対応して順次開口部312の面積を大きくしたマスク部材を用いればよいので、前記第1の製造方法に比べてプロセスを簡略化することができるため、段数が多いほど効果が大きく、多段構造の絶縁膜7を形成するのに有利である。
【0072】
以上の実施の形態では、静電アクチュエータおよびインクジェットヘッド、ならびにこれらの製造方法について述べたが、本発明は上記の実施形態に限定されるものでなく、本発明の思想の範囲内で種々変更することができる。例えば、本発明の静電アクチュエータは、光スイッチやミラーデバイス、マイクロポンプ、レーザプリンタのレーザ操作ミラーの駆動部などにも利用することができる。また、ノズル孔より吐出される液状材料を変更することにより、例えば図18に示すようなインクジェットプリンタのほか、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、遺伝子検査等に用いられる生体分子溶液のマイクロアレイの製造など様々な用途の液滴吐出装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態1に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】組立状態における図1の略右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの断面図。
【図3】図2のA−A拡大断面図。
【図4】図2のインクジェットヘッドの上面図。
【図5】固定電極の幅方向に絶縁膜の段差を設けた場合の拡大断面図。
【図6】本発明の実施の形態2に係るインクジェットヘッドの概略断面図。
【図7】本発明の実施の形態3に係るインクジェットヘッドの概略断面図。
【図8】本発明の実施の形態4に係るインクジェットヘッドの概略断面図。
【図9】本発明の実施の形態5に係るインクジェットヘッドの概略断面図。
【図10】本発明の実施の形態6に係るインクジェットヘッドの概略断面図。
【図11】インクジェットヘッドの製造工程の概略の流れを示すフローチャート。
【図12】実施の形態1に係る電極基板の第1の製造方法を示す製造工程の概略断面図。
【図13】実施の形態2に係る電極基板の第1の製造方法を示す製造工程の概略断面図。
【図14】実施の形態4に係る電極基板の第1の製造方法を示す製造工程の概略断面図。
【図15】実施の形態5に係る電極基板の第1の製造方法を示す製造工程の概略断面図。
【図16】インクジェットヘッドの製造工程の概略断面図。
【図17】実施の形態2に係る電極基板の第2の製造方法を示す製造工程の概略断面図。
【図18】本発明のインクジェットヘッドを適用したインクジェットプリンタの一例を示す概略斜視図。
【符号の説明】
【0074】
1 ノズル基板、2 キャビティ基板、3 電極基板、4 静電アクチュエータ部、5 個別電極(固定電極)、6 振動板(可動電極)、7 絶縁膜、7a 1段目絶縁膜、7b 2段目絶縁膜、9 絶縁膜、10 インクジェットヘッド、11 ノズル孔、12 オリフィス、13 ダイヤフラム部、21 吐出室、23 リザーバ、26 共通電極、32 凹部、33 インク供給孔、34 電極取り出し部(FPC実装部)、35 封止材、36 接合部、40 駆動制御回路(駆動手段)、200 シリコン基板、300 ガラス基板、310 第1のマスク部材、311 第2のマスク部材、312 マスク部材の開口部、500 インクジェットプリンタ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板上に形成された固定電極と、この固定電極に対して所定のギャップを介して平行に対向配置された可動電極と、前記固定電極と前記可動電極との間に静電気力を発生させて、前記可動電極に変位を生じさせる駆動手段とを備えた静電アクチュエータにおいて、
前記固定電極の前記可動電極に対する対向面上に、少なくとも1段の階段状の段差を有する絶縁膜を備えたことを特徴とする静電アクチュエータ。
【請求項2】
前記絶縁膜は、前記固定電極の長手方向または幅方向に階段状の段差を有することを特徴とする請求項1記載の静電アクチュエータ。
【請求項3】
前記絶縁膜は、前記ギャップの最深部以外の前記固定電極の対向面に、任意の段数で形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の静電アクチュエータ。
【請求項4】
前記絶縁膜は、少なくともシリコン酸化膜を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項5】
前記絶縁膜は、少なくともダイアモンドライクカーボン膜を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項6】
前記絶縁膜は、少なくとも酸化シリコンよりも比誘電率の大きい誘電材料からなる誘電膜を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項7】
酸化シリコンよりも比誘電率が高い誘電材料として、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ハフニウム(HfO2)、窒化ハフニウムシリケート(HfSiN)、酸窒化ハフニウムシリケート(HfSiON)の中から少なくとも一つが選ばれることを特徴とする請求項6記載の静電アクチュエータ。
【請求項8】
ガラス基板上に形成された固定電極と、この固定電極に対して所定のギャップを介して平行に対向配置された可動電極と、前記固定電極と前記可動電極との間に静電気力を発生させて、前記可動電極に変位を生じさせる駆動手段とを備えた静電アクチュエータの製造方法において、
前記固定電極が形成された前記ガラス基板に絶縁膜を全面成膜する工程と、
前記全面成膜された絶縁膜に対してパターニングするパターニング工程と、
前記パターニングで露出した前記絶縁膜の部分をエッチングにより選択的に除去する絶縁膜エッチング工程とを有し、
前記パターニング工程と前記絶縁膜エッチング工程とを少なくとも1回または複数回繰り返すことにより、1段以上の階段状の段差を有する絶縁膜を前記固定電極上に形成することを特徴とする静電アクチュエータの製造方法。
【請求項9】
前記絶縁膜エッチング工程では、ドライエッチングにより前記絶縁膜を除去することを特徴とする請求項8記載の静電アクチュエータの製造方法。
【請求項10】
ガラス基板上に形成された固定電極と、この固定電極に対して所定のギャップを介して平行に対向配置された可動電極と、前記固定電極と前記可動電極との間に静電気力を発生させて、前記可動電極に変位を生じさせる駆動手段とを備えた静電アクチュエータの製造方法において、
マスク部材を用いて、スパッタ法により、1段以上の階段状の段差を有する絶縁膜を前記固定電極上に形成することを特徴とする静電アクチュエータの製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれかに記載の静電アクチュエータを搭載したことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項12】
請求項8乃至10のいずれかに記載の静電アクチュエータの製造方法を適用して液滴吐出ヘッドを製造することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
請求項11記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項1】
ガラス基板上に形成された固定電極と、この固定電極に対して所定のギャップを介して平行に対向配置された可動電極と、前記固定電極と前記可動電極との間に静電気力を発生させて、前記可動電極に変位を生じさせる駆動手段とを備えた静電アクチュエータにおいて、
前記固定電極の前記可動電極に対する対向面上に、少なくとも1段の階段状の段差を有する絶縁膜を備えたことを特徴とする静電アクチュエータ。
【請求項2】
前記絶縁膜は、前記固定電極の長手方向または幅方向に階段状の段差を有することを特徴とする請求項1記載の静電アクチュエータ。
【請求項3】
前記絶縁膜は、前記ギャップの最深部以外の前記固定電極の対向面に、任意の段数で形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の静電アクチュエータ。
【請求項4】
前記絶縁膜は、少なくともシリコン酸化膜を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項5】
前記絶縁膜は、少なくともダイアモンドライクカーボン膜を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項6】
前記絶縁膜は、少なくとも酸化シリコンよりも比誘電率の大きい誘電材料からなる誘電膜を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項7】
酸化シリコンよりも比誘電率が高い誘電材料として、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ハフニウム(HfO2)、窒化ハフニウムシリケート(HfSiN)、酸窒化ハフニウムシリケート(HfSiON)の中から少なくとも一つが選ばれることを特徴とする請求項6記載の静電アクチュエータ。
【請求項8】
ガラス基板上に形成された固定電極と、この固定電極に対して所定のギャップを介して平行に対向配置された可動電極と、前記固定電極と前記可動電極との間に静電気力を発生させて、前記可動電極に変位を生じさせる駆動手段とを備えた静電アクチュエータの製造方法において、
前記固定電極が形成された前記ガラス基板に絶縁膜を全面成膜する工程と、
前記全面成膜された絶縁膜に対してパターニングするパターニング工程と、
前記パターニングで露出した前記絶縁膜の部分をエッチングにより選択的に除去する絶縁膜エッチング工程とを有し、
前記パターニング工程と前記絶縁膜エッチング工程とを少なくとも1回または複数回繰り返すことにより、1段以上の階段状の段差を有する絶縁膜を前記固定電極上に形成することを特徴とする静電アクチュエータの製造方法。
【請求項9】
前記絶縁膜エッチング工程では、ドライエッチングにより前記絶縁膜を除去することを特徴とする請求項8記載の静電アクチュエータの製造方法。
【請求項10】
ガラス基板上に形成された固定電極と、この固定電極に対して所定のギャップを介して平行に対向配置された可動電極と、前記固定電極と前記可動電極との間に静電気力を発生させて、前記可動電極に変位を生じさせる駆動手段とを備えた静電アクチュエータの製造方法において、
マスク部材を用いて、スパッタ法により、1段以上の階段状の段差を有する絶縁膜を前記固定電極上に形成することを特徴とする静電アクチュエータの製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至7のいずれかに記載の静電アクチュエータを搭載したことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項12】
請求項8乃至10のいずれかに記載の静電アクチュエータの製造方法を適用して液滴吐出ヘッドを製造することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
請求項11記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2009−248560(P2009−248560A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103396(P2008−103396)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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