説明

静電センサ用片面導電膜付フィルムの製造方法

【課題】 高パワーでの導電層成膜でも熱ジワが発生しない静電センサ用片面導電膜付フィルムを得ることができる、静電センサ用片面導電膜付フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の静電センサ用片面導電層付フィルムの製造方法は、透光性を有する基材フィルムと熱ジワ防止フィルムとを接着剤を介してラミネートして、前記基材フィルムの片面に前記熱ジワ防止フィルムが仮接着された積層体を得る工程と、前記積層体の前記基材フィルム側の表面に物理蒸着法によって透光性を有する導電膜を積層する工程と、前記透光性を有する導電膜上に物理蒸着法によって遮光性を有する導電膜を積層する工程と、前記透光性を有する導電膜および前記遮光性を有する導電膜の設けられた前記積層体から前記熱ジワ防止フィルムを剥離する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PDA、ハンディターミナルなど携帯情報端末、コピー機、ファクシミリなどOA機器、スマートフォン、携帯電話機、携帯ゲーム機器、電子辞書、カーナビシステム、小型PC、各種家電品等に組み込まれる静電センサの製造に用いられる、片面導電膜付フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、静電容量方式でオペレーターの手指を接触させることによりXY座標が入力できるようにしたものが実用化されている。このような従来例としては、例えば、特許文献1には、フィルム体の表面に互いに平行に延びる複数本の第1の電極を設け、かつ当該フィルム体の裏面に前記第1の電極群に対して直交する方向に延びる互いに平行な複数本の第2の電極を設けて、これら第1の電極群と第2の電極群との間の静電容量に応じた電流値を出力する静電容量センサが開示されている。
【0003】
そして、静電容量センサの実際の量産においては、フィルム体単体の表裏面に第1の電極群および第2の電極群を設けるのではなく、透光性を有する基材フィルムの片面に予め透光性を有する導電膜が形成された市販の片面導電膜付フィルムを2枚用意し、第1の片面導電膜付フィルムについて導電膜をエッチングによりパターン化して第1の電極群を形成し、第2の片面導電膜付フィルムについて導電膜をエッチングによりパターン化して第2の電極群を形成した後、これら第1および第2の電極フィルムを貼り合せていた。
【0004】
しかしながら、第1の電極群が形成された第1の電極フィルムと第2の電極群が形成された第2の電極フィルムとを、圧着ロールやプレス機によって加圧することによって貼り合わせると、圧力によって第1および第2の電極フィルムの基材フィルムが各々寸法変化するため、それらに形成された第1の電極群の各電極間、第2の電極群の各電極間それぞれの寸法に狂いが生じてしまうという問題がある。また、第1の電極群および第2の電極群としてITO膜を用いる場合には結晶化の目的で加熱を行なうが、上記のように貼り合わせた後に加熱するときには、露出していない第2の電極群を十分に結晶させる必要があるため、加熱温度がどうしても高めになる。その結果、やはり第1および第2の電極フィルムの基材フィルムが各々寸法変化し、第1の電極群の各電極間、第2の電極群の各電極間それぞれの寸法に狂いが生じてしまう。また、第1の電極フィルムと第2の電極フィルムの貼り合わせ精度自体も、極めて低いという別の問題がある。
【0005】
そのため、静電容量センサに極精細な電極群が要求された場合、作製が極めて困難であった。
【0006】
そこで、本出願人は、特許文献2に示すように、透光性を有する基材フィルムの片面に予め透光性を有する導電膜が形成された片面導電膜付フィルムを一組用意し、前記片面導電膜付フィルム同士を前記導電膜が外側になるように貼り合わせた後、前記一方の導電膜をエッチングによりパターン化して平行に複数本並べられた電極からなる第1の電極群を形成し、また前記他方の導電膜をエッチングによりパターン化して平行に複数本並べられた電極からなり且つ前記第1の電極群とは直交する第2の電極群を形成する静電容量センサの製造方法を提案した。
【0007】
さらに、本出願人は、上記貼り合わせた後に行なわれる両面エッチングに関し、一方の側の面上に設けられたレジスト層を露光、現像してパターン形成する際、該露光の光線が多方の側の面上に設けられたレジスト層に達するのを防ぐ目的で、特許文献3に示すような提案もしている。すなわち、二枚の片面導電膜付フィルムを貼り合わせる前に透光性を有する導電膜上に遮光性を有する導電膜を予め積層しておき、一方の側の面上に設けられたレジスト層を露光する光線が多方の側の面上に設けられたレジスト層に達する前に遮光するというものである。なお、エッチングによって第1および第2の電極群を形成した後は、遮光性を有する導電膜が少なくともアクティブエリアで除去され、背面のディスプレイを視認可能となる。
【0008】
ところで、透光性を有する基材フィルムの片面に透光性を有する導電膜および遮光性を有する導電膜を順次積層するには、スパッタリングやその他真空成膜法で連続成膜法が用いられる。例えば、スパッタリングは、Ar等の放電ガス(スパッタリングガス)を真空チャンバに導入し、300?700Vの負の電圧をターゲットに印加し、発生したグロー放電によりプラズマを生成し、そのプラズマ中のArイオンを印加電圧に相当する高エネルギー(数百eV)でターゲットに衝突させてスパッタを行う(図8参照)。図8の図示する成膜装置では、真空チャンバ31の内部にロール状の基材フィルム2を連続的に繰り出す巻出し部32と、この巻出し部32から繰り出された基材フィルム102を巻き取る巻取り部33とを備えている。巻出し部32から繰り出された基材フィルム102はスパッタ室34に案内され、スパッタ室34では、メインローラ35の周面に巻き付けられた状態で、透光性を有する基材フィルム102の表面に上述した透光性を有する導電膜7および遮光性を有する導電膜8が順に形成される。
【0009】
【特許文献1】特許第3426847号公報
【特許文献2】特開2009−70191号公報
【特許文献3】特許第4601710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記スパッタリングにおいては、ターゲット表面で反射されたAr原子や、ターゲット表面で生成する負イオン(特に酸化物のスパッタリングで多く観察される。)は、いずれも高エネルギーを有することになる。このため、これらの粒子が成長中の皮膜に衝突すると、基材フィルム102に熱による付加がかかり、収縮して熱ジワが発生するという問題がある。
【0011】
これに対して、基材フィルム102のダメージを低減する目的で低パワーによって成膜すると、基材フィルム102を何度もスパッタ室34を往復させて成膜する、いわゆる複数パスを行なわなければならず、導電層の成膜生産性が低下するという問題も生じる。
【0012】
また、複数パスを行なわなくとも低パワーで成膜することは、ターゲットのカソード数を増加することで可能ではある。しかし、カソード数を増加する場合には大型の成膜装置が必要となるため、設備コストが高くなる。
【0013】
したがって、本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、高パワーでの導電層成膜でも熱ジワが発生しない静電センサ用片面導電膜付フィルムを得ることができる、静電センサ用片面導電膜付フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1態様によれば、透光性を有する基材フィルムと熱ジワ防止フィルムとを接着剤を介してラミネートして、前記基材フィルムの片面に前記熱ジワ防止フィルムが仮接着された積層体を得る工程と、
前記積層体の前記基材フィルム側の表面に物理蒸着法によって透光性を有する導電膜を積層する工程と、
前記透光性を有する導電膜上に物理蒸着法によって遮光性を有する導電膜を積層する工程と、
前記透光性を有する導電膜および前記遮光性を有する導電膜の設けられた前記積層体から前記熱ジワ防止フィルムを剥離する工程と、を備えたことを特徴とする静電センサ用片面導電層付フィルムの製造方法を提供する。
【0015】
本発明の第2態様によれば、前記物理蒸着法が、スパッタリングである第1態様の静電センサ用片面導電層付フィルムの製造方法を提供する。
【0016】
本発明の第3態様によれば、前記透光性を有する導電膜が、ITO膜である第1態様又は第2態様の静電センサ用片面導電層付フィルムの製造方法を提供する。
【0017】
本発明の第4態様によれば、前記遮光性を有する導電膜が、銅膜である第1〜3のいずれかの態様の静電センサ用片面導電層付フィルムの製造方法を提供する。
【0018】
本発明の第5態様によれば、前記基材フィルムが15〜1000μm厚のPCフィルムである第1〜4のいずれかの態様の静電センサ用片面導電層付フィルムの製造方法を提供する。
【0019】
本発明の第6態様によれば、前記熱ジワ防止フィルムがPETフィルムである第1〜5のいずれかの態様の静電センサ用片面導電層付フィルムの製造方法を提供する。
【0020】
本発明の第7態様によれば、前記熱ジワ防止フィルムを剥離する前に、前記遮光性を有する導電膜上に感光層を積層する第1〜6のいずれかの態様の静電センサ用片面導電層付フィルムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の静電センサ用片面導電膜付フィルムの製造方法は、上記のように構成したので、高パワーでの導電層成膜でも基材フィルムの収縮が基材フィルムに仮接着された熱ジワ防止フィルムによって抑えられ、熱ジワが発生しない。また、高パワーでの成膜が可能なので、導電層の成膜生産性があがった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明で得られる静電センサ用片面導電膜付フィルムを用いて製造された静電センサの平面図である。
【図2】図1に示す静電センサの部分拡大図である。
【図3】図1に示す静電センサの断面図である。
【図4A】本発明で得られる静電センサ用片面導電膜付フィルムを用いて図1の静電センサを製造する工程を示す図である。
【図4B】本発明で得られる静電センサ用片面導電膜付フィルムを用いて図1の静電センサを製造する工程を示す図である。
【図4C】本発明で得られる静電センサ用片面導電膜付フィルムを用いて図1の静電センサを製造する工程を示す図である。
【図4D】本発明で得られる静電センサ用片面導電膜付フィルムを用いて図1の静電センサを製造する工程を示す図である。
【図4E】本発明で得られる静電センサ用片面導電膜付フィルムを用いて図1の静電センサを製造する工程を示す図である。
【図4F】本発明で得られる静電センサ用片面導電膜付フィルムを用いて図1の静電センサを製造する工程を示す図である。
【図4G】本発明で得られる静電センサ用片面導電膜付フィルムを用いて図1の静電センサを製造する工程を示す図である。
【図4H】本発明で得られる静電センサ用片面導電膜付フィルムを用いて図1の静電センサを製造する工程を示す図である。
【図4I】本発明で得られる静電センサ用片面導電膜付フィルムを用いて図1の静電センサを製造する工程を示す図である。
【図5】本発明に係る静電センサ用片面導電膜付フィルムの製造工程の一実施例を示す図である。
【図6】本発明に係る静電センサ用片面導電膜付フィルムの製造工程の一実施例を示す図である。
【図7】本発明に係る静電センサ用片面導電膜付フィルムの製造工程の一実施例を示す図である。
【図8】静電センサ用片面導電膜付フィルムの成膜装置の構成の一例を示す概略図である。
【図9】本発明に係る静電センサ用片面導電膜付フィルムの製造工程の一実施例を示す図である。
【図10】本発明に係る静電センサ用片面導電膜付フィルムの製造工程の他の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の最良の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
まず、本発明の理解を助けるために、本発明の片面導電膜付フィルムを用いて製造される静電センサおよびその製造方法について少し説明しておく。図1は本発明で得られる静電センサ用片面導電膜付フィルムを用いて製造された静電センサの平面図、図2は図1に示す静電センサの部分拡大図、図3は図1に示す静電センサの断面図である。また、図4A〜4Iは本発明で得られる静電センサ用片面導電膜付フィルムを用いて図1の静電センサを製造する工程を示す図である。
【0025】
図1の静電センサ1は、透光性を有し貼り合わされた二枚の基材フィルム2,2と、貼り合わされた基材フィルム2,2の外側の面に各々、中央窓部3の電極パターン4および外枠部5の細線引き回し回路パターン6を有するように形成された透光性を有する導電膜7,7と、両透光性を有する導電膜7,7の細線引き回し回路パターン6上に各々、積層された遮光性を有する導電膜8,8と、を備えたものである。
【0026】
ここで静電センサ1の中央窓部3に形成される電極パターン4について補足説明する。当該電極パターン4は静電センサ1の表裏でパターンが異なる。たとえば、図2に示すように、貼り合わされた基材フィルム2,2の裏面には、平面視して菱形形状を持つ菱形電極46と、この菱形電極46の複数を図中縦方向(Y方向)に貫く接続配線469とを備えている。複数の菱形電極46と接続配線469とは、相互に電気的に接続されている。また、このような、接続配線469およびそれに貫かれた複数の菱形電極46を一組として、当該一組が図中横方向(X方向)に繰り返し配列される。一方、これと同じようにして、貼り合わされた基材フィルム2,2の表面には、複数の菱形電極47と、それらを貫く接続配線479とを備えている。ただし、この場合、接続配線479の延在方向は、接続配線469のそれとは異なり、図中横方向(X方向)である。また、それに伴い、接続配線479およびそれに貫かれた複数の菱形電極47からなる一組が、繰り返し配列される方向は、図中縦方向(Y方向)である。そして、図2から明らかなように、菱形電極46は、複数の接続配線479間の隙間を埋めるように配置される一方、菱形電極47は、複数の接続配線469間の隙間を埋めるように配置される。図2では更に、菱形電極46と菱形電極47との配置関係は相補的である。つまり、菱形電極46をマトリクス状に配列する場合に生じる菱形形状の隙間を埋めるように、複数の菱形電極47は配列されているのである。
【0027】
このようにX方向電極およびY方向電極が平面視して格子を形作るように配置されているので、この格子上のいずれかの位置にユーザの指等が静電センサ1を覆うカバーガラスを介して触れれば(例えば、破線丸印FRの位置)、当該指等とそれが触れるX方向電極との間にコンデンサが形成され、また、当該指等とそれが触れるY方向電極との間にコンデンサが形成される。このコンデンサの形成によって、当該のX方向電極およびY方向電極の静電容量は増大する。外部回路の位置検出部は、このような場合において生じる静電容量の変化量、あるいは更には最大の静電容量をもつX方向電極およびY方向電極を検出し、中央窓部3内のどこに触れたかを、特定値たるX座標値およびY座標値の組として取得することが可能となる。
【0028】
以上のような構成からなる静電センサ1を製造するには、透光性を有する基材フィルム2の片面に予め透光性を有する導電膜7、遮光性を有する導電膜8が順次積層形成された片面導電膜付フィルム9を一組用意し、前記片面導電膜付フィルム9同士を前記遮光性の導電膜8が外側になるように貼り合わせた後(図4A参照)、その両面にコーターを用いて感光性材料をコーティングすることによって第1感光層10を各々形成し(図4B参照)、次いで両第1感光層10,10上に互いに異なるパターンを有するマスク11,12を配置して両第1感光層10,10を同時に露光し(図4C参照)、露光された第1感光層10,10の現像後(図4D参照)、パターニングされた第1感光層10,10をマスクとして遮光性を有する導電膜8,8および透光性を有する導電膜7,7を中央窓部3の電極パターン4および外枠部5の細線引き回し回路パターン6を残すようにエッチングし(図4E参照)、第1感光層10,10を剥離除去した後、両面にコーターを用いて感光性材料をコーティングすることによって第2感光層13を各々形成し(図4F参照)、次いで両第2感光層13,13上に所定のパターンを有するマスク14,15を配置して両第2感光層13,13を同時に露光し(図4G参照)、露光された第2感光層13,13の現像後(図4H参照)、中央窓部3の遮光性を有する導電膜8が露出するようにパターニングされた第2感光層13,13をマスクとして遮光性を有する導電膜8,8のみを中央窓部3においてエッチング除去し(図4I参照)、さらに第1感光層10,10を剥離除去することにより(図3参照)又は第1感光層10,10をそのまま残すことにより静電センサ1を得る。なお、図3及び図4A〜Iにおいて片面導電膜付フィルム9同士を張り合わせる接着剤は省略して描かれている。
【0029】
本発明は、上記したような静電センサ1の製造に用いられる、前記片面導電膜付フィルム9の製造方法に関するものである。以下、図を参照しながら詳しく説明する。
【0030】
<第1実施形態>
まず、図5に示すように、静電センサ用片面導電膜付フィルム9を製造するための元材としての透光性を有する基材フィルム2の片面に熱ジワ防止フィルム16が接着剤17を介してラミネートして仮接着された積層体18を作製する。なお、得られた積層体18は、ウェブ状であるとともにロールに巻き取られる。
【0031】
透光性を有する基材フィルム2としては、光学等方性に優れているとの理由から、PCフィルムが用いられる。そしてPCフィルムの場合、熱ジワ防止フィルム16がなければとくに熱ジワを発生しやすい。基材フィルム2の厚みは15〜1000μmである。厚みが15μmに満たないフィルム製造は難しく、逆に厚みが1000μmを超えると透光性が低下し、又ロールに巻き取ったときに巻き径が大きくなりコスト高となる。
【0032】
接着剤17としては、アクリル系等の接着剤が透光性を有する基材フィルム2または熱ジワ防止フィルム16のいずれかにスプレー又はコーティングすることによって形成される。図5に示す例では、熱ジワ防止フィルム16側に接着剤17を設けてからラミネートしている。
【0033】
熱ジワ防止フィルム16としては、PETフィルムその他のスパッタリング時に耐熱性を有する樹脂フィルムが用いられる。熱ジワ防止フィルム16の厚みは、その材料において透光性を有する導電膜7および遮光性を有する導電膜8の成膜時の耐熱性等が得られる厚さであればよい。また、熱ジワ防止フィルム16の接着剤17と接する面にはシリコン系樹脂やフッ素系樹脂等をスプレー又はコーティングすることによって離型処理が施されているのが好ましい。このように、あらかじめ離型処理が施された熱ジワ防止フィルム16を用いると、後述する熱ジワ防止フィルム16の剥離時において容易に接着剤17から剥離することができる。
【0034】
ラミネートは、例えば図5に示すように、熱ジワ防止フィルム16がコーティングロール20で接着剤17を塗工された後、熱ジワ防止フィルム16の接着剤17塗布面と基材フィルム2とが重ね合わされて状態でラミネートロール21とラミネートニップロール22の間に挿通して、加熱して挟圧することによって、基材フィルム2と熱ジワ防止フィルム16とを仮接着する。次いで、基材フィルム2と熱ジワ防止フィルム16とを仮接着してなるシートを冷却ロール23の外周面に沿わせることによって徐冷して積層体18を得、これを巻き取るようにすることができる。
【0035】
次に、ロールからウェブ状の積層体18を繰り出すとともに、図6に示すように、繰り出された積層体18の基材フィルム2側の表面にスパッタリングによって透光性を有する導電膜7が成膜される。透光性を有する導電膜7は、静電センサにおいてはパターニングされて透光性を有したX方向電極およびY方向電極を構成するものである。したがって、透光性を有する導電膜7は、80%以上の光線透過率(透光性)および数mΩから数百Ωの表面抵抗値(導電性)を示すことが好ましく、インジウムスズ酸化物、亜鉛酸化物などの金属酸化物などで成膜される。その厚みは、例えばITO膜であれば数十から数百nm程度である。
【0036】
なお、積層体18の基材フィルム2側の表面(成膜面)には、透光性を有する導電膜7との密着性を高めるための前処理が予め施されていてもよい。この前処理の具体例としては、プラズマ処理などの物理化学的処理や薬液処理などの化学的処理などがあるが、真空下で透光性を有する導電膜7の形成と連続して行えるプラズマ処理が好ましい。
【0037】
次いで、図7に示すように、透光性を有する導電膜7上にさらにスパッタリングによって遮光性を有する導電膜8が成膜される。遮光性を有する導電膜8は、前述した第1感光層10の露光に用いられる光に対する遮光性を有する層、つまり、当該露光光を透過させない性質を有する層である。したがって、前述の両面露光工程において一方の面側の第1感光層10を透過した露光光源からの光は遮光性を有する導電膜8によって他方の面側の第1感光層10に到達することはない。つまり、両面の第1感光層10,10を、それぞれ所望のパターンで精度良く同時に露光することが可能なため、第1感光層10,10の表裏の位置あわせがしやすく一回の工程で両面パターン化でき、生産性も優れる。また、遮光性を有する導電膜8に用いられる材料の例としては、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、錫などが挙げられる。その膜厚は露光光を遮光できるだけの厚みがあればよく、例えば銅であれば20〜1000nmである。遮光性という点でより好ましくは、厚み30nm以上である。さらに好ましくは、100〜500nmにするとよい。100nm以上の厚みに設定することで高い導電性の膜が得られ、500nm以下にすることで取り扱いやすく加工性に優れた膜が得られるからである。
【0038】
図8は、静電センサ用片面導電膜付フィルムの成膜装置の構成の一例を示す概略図である。図示する成膜装置30は、所定の真空度に維持されている真空チャンバ31の内部に、ロール状の基材フィルム2と熱ジワ防止フィルム16の積層体18を連続的に繰り出す巻出し部32と、この巻出し部32から繰り出された積層体18を巻き取る巻取り部33とを備えている。巻出し部32から繰り出された積層体18はスパッタ室34に案内され、スパッタ室34では、メインローラ35の周面に基材フィルム2側を外向きにするように巻き付けられた状態で、透光性を有する基材フィルム2の表面に上述した透光性を有する導電膜7および遮光性を有する導電膜8が順に形成される。
【0039】
スパッタ室34は、メインローラ35の周囲を囲むように第1スパッタ室34A、第2スパッタ室34B、第3スパッタ室34C、第4スパッタ室34Dおよび第5スパッタ室34Eが順に形成され、内部に第1ターゲット36a、第2ターゲット36b、第3ターゲット36c、第4ターゲット36dおよび第5ターゲット36eがそれぞれ配置されている。本実施の形態において、第1ターゲット36aは透光性を有する導電膜7形成用のターゲットで構成され、第2〜第5ターゲット36b〜36eは遮光性を有する導電膜8形成用のターゲットで構成されている。
【0040】
なお、第1ターゲット36aは、上述した透光性を有する導電膜7の構成金属の種類に応じて選定されるもので、例えばITO膜であれば、ITO焼結体などのターゲットが用いられる。
【0041】
また、第2〜第5ターゲット36b〜36eは、上述した遮光性を有する導電膜8の構成金属の種類に応じて選定されるもので、例えば銅膜であれば、銅のターゲットが用いられる。
【0042】
各スパッタ室34A〜34Eには、スパッタ用のアルゴン(Ar)の導入配管37a〜37eがそれぞれ設けられており、およそ0.1Paに調圧されている。
【0043】
以上のような構成の静電センサ用片面導電膜付フィルムの成膜装置30では、巻出し部32から繰り出された基材フィルム2と熱ジワ防止フィルム16の積層体18は、スパッタ室34において透光性を有する導電膜7および遮光性を有する導電膜8の連続成膜が行われて、巻取り部33に巻き取られる。
【0044】
スパッタ室34においては、第1スパッタ室34Aで所定厚のITO膜が形成される。そして、次の第2〜第5スパッタ室34B〜34Eで所定厚の銅の連続成膜が行われる。
【0045】
透光性を有する導電膜7および遮光性を有する導電膜8の成膜の後、成膜装置30の巻取り部33に巻き取られた積層体18は、その後、熱ジワ防止フィルム16が剥離除去されて静電センサ用片面導電膜付フィルム9となる(図9参照)。熱ジワ防止フィルム16の基材フィルム2に対する仮接着の粘着力は、7〜9N/25mmである。仮接着の粘着力が7N/25mmに満たないと、透光性を有する導電膜7および遮光性を有する導電膜8の成膜前又は成膜中に熱ジワ防止フィルム16を剥離しやく本発明の効果が得られない。また、仮接着の粘着力が9N/25mmを超えると、透光性を有する導電膜7および遮光性を有する導電膜8の成膜後に熱ジワ防止フィルム16を剥離しにくくなる。
【0046】
また、熱ジワ防止フィルム16の剥離後、前記積層体18の透光性を有する導電膜7および遮光性を有する導電膜8が形成された側の面とは反対側の面には、熱ジワ防止フィルム16を仮接着するために用いた接着剤17が残る。この接着剤17は、一組の得られた片面導電膜付フィルム9同士を遮光性の導電膜8が外側になるように貼り合わせる際には、片面導電膜付フィルム9同士を接着するために再利用される。
【0047】
なお、本発明は前記第1実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、前記第1実施形態では透光性を有する導電膜7および遮光性を有する導電膜8の成膜にスパッタリングが用いられているが、スパッタリング以外にも、真空蒸着法やイオンプレーティング法などの他の物理蒸着法(PVD)も適用可能である。
【0048】
また、前記第1実施形態ではラミネートロール21とラミネートニップロール22の間でラミネート時に加熱しながら挟圧しているが、接着剤17の塗布後の平滑性が得られるならば加熱せずに挟圧するだけでもよい。
【0049】
また、前記第1実施形態ではスパッタリングによる透光性を有する導電膜7および遮光性を有する導電膜8の成膜後、直ぐに熱ジワ防止フィルム16が剥離除去されているが、熱ジワ防止フィルムの剥離前に遮光性を有する導電膜8上に感光層10(図4Bに示す第1感光層10に相当)を積層してもよい(図10参照)。この場合、片面導電膜付フィルム9同士を遮光性の導電膜8が外側になるように貼り合わせた後に第1感光層10を積層する必要はなくなる。感光層10は、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、レーザー光線又はメタルハライドランプなどで露光しアルカリ溶液などで現像が可能な厚さ10〜20μmのアクリル系フォトレジスト材料などで構成する。感光層10の形成方法は、グラビア、スクリーン、オフセットなどの汎用の印刷法のほか、各種コーターによる方法、塗装、ディッピングなどの方法、ドライフィルムレジスト(DFR)法などの各種方法が挙げられる。
【0050】
また、スパッタ成膜の後に熱処理などの方法により透光性を有する導電膜7を結晶化させておくのが好ましい。結晶化によりエッチング耐性が向上し、より選択的に遮光性を有する導電膜8のみをエッチングしやすくできるためである。
【0051】
また、熱ジワ防止フィルム16と仮接着される基材フィルム2は、片面又は両面に種々の機能層が予め設けられていてもよい。例えば、基材フィルム2の保護のためにハードコート層を片面又は両面に設けることができる。また、基材フィルム2の透光性を有する導電膜7を形成する側の面に光学調整層を設けることができる。
【0052】
また、前記第1実施形態では熱ジワ防止フィルム16の接着剤17と接する面に離型処理を施すことが記載されているが、逆に基材フィルム2の接着剤17と接する面に離型処理を施すことにより、熱ジワ防止フィルム16と共に接着剤17を剥離させてもよい。なお、一組の得られた片面導電膜付フィルム9のいずれもが接着剤17を剥離したものである場合、片面導電膜付フィルム9同士を接着するために新たに接着剤を塗布する必要がある。また、一組の得られた片面導電膜付フィルム9のいずれか一方のみが接着剤17を剥離したものである場合、他方の片面導電膜付フィルム9に残った接着剤17が片面導電膜付フィルム9同士を接着するために再利用される。さらに、前述のように、基材フィルム2の接着剤17と接する面にハードコート層が設けられている場合、ハードコート層に離型処理の働きを兼ねさせることもできる。
【0053】
《実施例》
PCフィルム(100μm)からなる基材フィルムに、シリコン系樹脂を塗布して離型処理が施されたPETフィルムフィルム(125μm)からなる熱ジワ防止フィルムがアクリル系接着剤を介してラミネートして仮接着された積層体18を用い、当該積層体18の基材フィルム側の面上にITO膜(20nm)をスパッタ成膜し、さらにその上に銅膜(300nm)を連続してスパッタ成膜した。その後、熱ジワ防止フィルムを剥離して、静電センサ用片面導電膜付フィルムを得た。
【0054】
評価は、高パワーでスパッタ成膜を行なって熱ジワが発生するか(評価×)、熱ジワが発生しないか(評価○)を肉眼で観察することで行なった(表1参照)。なお、比較のため、熱ジワ防止フィルムなしの従来の構造における熱ジワが発生する例、低パワーでスパッタ成膜を行なって熱ジワの発生を抑えた例も同表に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から明らかなように、熱ジワ防止フィルムの仮接着(本発明)により、熱ジワ防止フィルム入なし(従来例)の場合と比較して、高パワーでの熱ジワの発生が防止されている。また、熱ジワ防止フィルムの仮接着(本発明)により高パワーでの成膜が可能なので、導電層の成膜生産性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本願発明はPDA、ハンディターミナルなど携帯情報端末、コピー機、ファクシミリなどOA機器、スマートフォン、携帯電話機、携帯ゲーム機器、電子辞書、カーナビシステム、小型PC、各種家電品等に組み込まれる静電センサの製造に用いられる片面導電膜付フィルムの製造方法に関するものである。
【符号の説明】
【0058】
1 静電センサ
2 基材フィルム
3 中央窓部
4 電極パターン
5 外枠部
6 細線引き回し回路パターン
7 透光性を有する導電膜
8 遮光性を有する導電膜
9 片面導電膜付フィルム
10 第1感光層(感光層)
11,12 マスク
13 第2感光層
14,15 マスク
16 熱ジワ防止フィルム
17 接着剤
18 積層体
19 端子部
20 コーティングロール
21 ラミネートロール
22 ラミネートニップロール
23 冷却ロール
24 バックアップロール
30 成膜装置
31 真空チャンバ
32 巻出し部
33 巻取り部
34 スパッタ室
35 メインローラ
34A〜34E 第1〜5スパッタ室
36a〜36e 第1〜5ターゲット
37a〜37e 導入配管
40 露光光線
46,47 菱形電極
469.479 接続配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性を有する基材フィルムと熱ジワ防止フィルムとを接着剤を介してラミネートして、前記基材フィルムの片面に前記熱ジワ防止フィルムが仮接着された積層体を得る工程と、
前記積層体の前記基材フィルム側の表面に物理蒸着法によって透光性を有する導電膜を積層する工程と、
前記透光性を有する導電膜上に物理蒸着法によって遮光性を有する導電膜を積層する工程と、
前記透光性を有する導電膜および前記遮光性を有する導電膜の設けられた前記積層体から前記熱ジワ防止フィルムを剥離する工程と、を備えたことを特徴とする静電センサ用片面導電層付フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記物理蒸着法が、スパッタリングである請求項1記載の静電センサ用片面導電層付フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記透光性を有する導電膜が、ITO膜である請求項1又は請求項2記載の静電センサ用片面導電層付フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記遮光性を有する導電膜が、銅膜である請求項1〜3のいずれかに記載の静電センサ用片面導電層付フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記基材フィルムが15〜1000μm厚のPCフィルムである請求項1〜4のいずれかに記載の静電センサ用片面導電層付フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記熱ジワ防止フィルムがPETフィルムである請求項1〜5のいずれかに記載の静電センサ用片面導電層付フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記熱ジワ防止フィルムを剥離する前に、前記遮光性を有する導電膜上に感光層を積層する請求項1〜6のいずれかに前記載の静電センサ用片面導電層付フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【図4H】
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【図4I】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−194644(P2012−194644A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56508(P2011−56508)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】