説明

静電チャック

【課題】吸着力を確保しつつ優れた吸脱着応答性が発揮される静電チャックを提供する。
【解決手段】板状のシリカガラスに導電性材料からなる電極が埋設され、一主面を吸着面として被吸着物を吸着する静電チャックであって、前記電極と前記吸着面との距離が、前記吸着面の中央部で最大値をとり、前記吸着面の中央部から前記吸着面の外周部にかけて連続して変化し、前記吸着面の外周部で最小値をとる形状であり、さらに、前記吸着面の表面粗さが前記吸着面の中央領域より外周領域のほうが粗いことを特徴とする静電チャック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被吸着物の吸着特性および脱離特性に優れる、シリカガラスからなる静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体製造装置において、シリコンなどの半絶縁性基板や、シリカガラスやサファイアなどの絶縁性基板を、載置あるいは固定する手段として、吸着面上に対してクーロン力やグラディエント力を発生させて、これらを吸着力として利用する静電チャックがある。
【0003】
ところで、製造プロセスによっては、静電チャックには、電圧印加時には短時間で所定の吸着力を発揮し、印加電圧を0にした時には短時間で吸着力が消滅する、いわゆる被吸着物の吸着特性および脱離特性が良いことが要求される。そこで、これに対応した技術もいくつか知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、電圧印加停止後に被吸着物に対する優れた離脱性を有する静電チャック装置を提供することを目的として、最表層が絶縁性を有し、該最表層が被吸着物と接する吸着面を有している静電チャック装置において、該最表層と該被吸着物との動摩擦係数が1.0以下であり、好ましくは、前記被吸着物と接する前記最表層にフッ素樹脂を含む静電チャック装置、という技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、静電チャック装置に吸着した被吸着物の吸着解除、離脱を、複雑な操作をしなくても容易に行うことができる、汎用性の高い静電チャック装置を提供することを目的として、静電チャック装置用電極部材の表面に被吸着物と接する帯電制御用電極を設置し、これを吸着解除時にアース電極として作用させて、被吸着物の離脱を促進する、という技術が開示されている。
【0006】
特許文献3には、吸着力の時間応答性を向上させた静電チャックを提供することを目的として、静電チャックであるサセプタにウエハを吸着する際には、所望の吸着力が得られる所定電圧よりも高い電圧を電極に印加することで速やかに吸着力を増加させて所望の吸着力を得た後に、前記所定電圧に電圧制御して、従来よりも速やかに所望の吸着力を得ると共に、脱離する際には、吸着時の印加電圧と正負逆の電圧を電極に印加することで速やかに吸着力を減少させた後に、電圧印加を停止、又は前記静電チャックにウエハと同電位になるような電圧を印加したりする電圧制御を行い、従来よりも速やかに脱離作業を行う、という技術が開示されている。
【0007】
特許文献4には、基板の冷却効率を上げることができると共に、基板を取り外す際の残留吸着力を残りにくくすることができる静電チャックとして、表面に被保持基板を保持するための載置面を有するセラミック誘電体層と、前記セラミック誘電体層の前記載置面と対向するように設けられた保持電極と、を備え、前記載置面は、表面粗さに応じた凹凸を有し、前記凹凸の平均間隔は、前記被保持基板の厚さ以下である、という技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−244190号公報
【特許文献2】特開2008−251737号公報
【特許文献3】特開2006−202939号公報
【特許文献4】特開2008−117800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の技術には、静電チャック装置の最表層と被吸着物との動摩擦係数を1.0以下とすること、最表層の材料としてポリイミドやフッ素樹脂とする、としている。しかし、これらの材料では、高温または腐食性雰囲気での使用に難があり、用途が限定される。
【0010】
特許文献2の技術では、静電チャック装置用電極部材の表面に被吸着物と接する帯電制御用電極を設置するので、構造が複雑になる点が懸念される。
【0011】
特許文献3の技術は、吸着力としてジョンソンラーベック力を用いる静電チャックにおいて好適であるといえるが、クーロン力やグラディエント力を用いる場合には、印加電圧制御の効果が十分に発揮できるとはいえなかった。
【0012】
特許文献4の技術では、静電チャックの載置面内の凹凸または表面粗さを、中心から外周方向に対して減少させている。これによれば、基板外周部での放熱効果を高めて、基板温度のバラツキを抑える効果がある、としている。一方、脱離特性については、吸着面の表面粗さを大きくとることで改善できる、としている。
【0013】
しかし、特許文献4の技術は、吸着面内の表面粗さを吸着面の面内で変化させると、被吸着物の吸着特性および脱離特性がどのように変わるか、あるいは改善されるかについて、具体的な開示または示唆が見受けられない。よって、被吸着物の吸着特性および脱離特性を制御あるいはより向上させるという要求に対して、必ずしも十分対応できているとはいえなかった。
【0014】
ところで、静電チャックとしては、高純度を要求される環境で使用でき、パーティクルの発生が少なく、熱膨張による寸法誤差の小さいシリカガラスが、好適な材料として挙げられる。
【0015】
しかし、シリカガラスを静電チャックに用いた場合の、被吸着物の吸着特性および脱離特性を向上できる最適な形態については、上記特許文献の技術のみでは、必ずしも十分に対応できているとはいえなかった。
【0016】
本発明は、これらの技術的課題を解決するためになされたものであり、被吸着物の吸着特性および脱離特性に優れたシリカガラスからなる静電チャックの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る静電チャックは、板状のシリカガラスに導電性材料からなる電極が埋設され、一主面を吸着面として被吸着物を吸着する静電チャックであって、前記電極と前記吸着面との距離が、前記吸着面の中央部で最大値をとり、前記吸着面の中央部から前記吸着面の外周部にかけて連続して変化し、前記吸着面の外周部で最小値をとる形状であり、さらに、前記吸着面の表面粗さが前記吸着面の中央領域より外周領域のほうが粗いことを特徴とする。このような構成を有することで、優れた被吸着物の吸着特性および脱離特性を発揮する静電チャックとすることができる。
【0018】
本発明に係る静電チャックは、吸着面の中央領域は吸着面の全面積に対して吸着面中心を含む30%以上70%以下の範囲であり、吸着面の外周領域は前記吸着面の中央領域以外であることが望ましい。
【0019】
本発明に係る静電チャックは、吸着面の中央部と電極との距離が、前記吸着面の外周部と前記電極との距離の1.05倍以上2.0倍以下であることが望ましい。
【0020】
本発明に係る静電チャックは、被吸着物としてシリコンを吸着するために用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れた被吸着物の吸着特性および脱離特性を発揮することができる、シリカガラスからなる静電チャックとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の静電チャックの一実施例を、断面方向からみた模式図である。
【図2】図2は、本発明の静電チャックの電極の一例を上面からみた場合の、電極パターンの模式図である。
【図3】図3(a)は本発明の静電チャックの一実施例の吸着特性について、図3(b)は本発明の静電チャックの一実施例の脱離特性について、被吸着物がシリコンとサファイアの場合でそれぞれ比較した図である。
【図4】図4は、本発明の静電チャックの一実施例における、吸着面の表面粗さRaを吸着面内で変化させた場合の、各種の形態パターンを示したグラフである。
【図5】図5は、静電チャックの吸着力の測定に用いられる吸着力測定装置の構成を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図1に基づいて説明する。本発明に係る静電チャックの一実施例を、断面方向からみた模式図である。
【0024】
本発明に係る静電チャックZは、板状のシリカガラス1に導電性材料からなる電極2が埋設され、一主面を吸着面3として被吸着物Wを吸着する。そして、電極2と吸着面3との距離が、吸着面3の中央部Aで最大値eをとり、吸着面3の中央部Aから吸着面3の外周部Bにかけて連続して変化し、吸着面3の外周部Bで最小値fをとる形状である。さらに、吸着面3の表面粗さRaの値は、吸着面3の中央領域L1よりも吸着面3の外周領域L2のほうが大きい。
【0025】
静電チャックZには、板状のシリカガラス1が用いられる。これは、シリカガラスが、高純度環境で使用でき、パーティクルの発生が少なく、熱膨張による寸法誤差の小さい材料であるので、半導体製造装置に特に好適である。なお、シリカガラスは、使用目的に応じて、純度、製造方法、添加物の有無を、適時設定してよい。
【0026】
ここで、静電チャックZの一主面の形状としては、円形、楕円形、正方形、多角形形状、その他の実際に製造可能な形状を、適時選択して適用することができる。
【0027】
導電性材料からなる電極2には、シリカガラスとの融着が可能であれば、静電チャックに用いられる公知の材料を適用できる。代表的な例としてモリブデンがあり、その他タングステン、ニッケル、チタン、白金、あるいはこれら2以上からなる合金を用いてもよい。
【0028】
電極2は、箔状の導電性材料が任意のパターン形状に加工されたものであり、シリカガラス1の内部に埋設されている。図2にその一例を示すが、電極2の線幅、線の間隔を含めたパターン形状は、使用目的に応じて、適時設計して用いることができる。
【0029】
電極2は、クーロン力およびグラディエント力を発生できる双曲型電極であることが好ましい。これは、シリカガラスの高い体積抵抗値を活用でき、導電性材料、半絶縁性材料、絶縁性材料を吸着できる点で、汎用性が高いからである。
【0030】
そして、板状のシリカガラス1の一主面を吸着面3として、被吸着物Wを吸着する。被吸着物Wの材質は、一例として、シリコン、シリカガラス、サファイア、等が挙げられる。
【0031】
本発明に係る静電チャックZは、電極2と吸着面3との距離が、吸着面3の中央部Aで最大値eをとり、吸着面3の中央部Aから吸着面の外周部Bにかけて連続して変化し、吸着面3の外周部Bで最小値fをとる形状である。
【0032】
電極2と吸着面3との距離とは、電極2の上面部と吸着面3までの垂直方向の最短距離、すなわちシリカガラス1の厚さを指す。静電チャックZにおいて、この距離は誘電層の厚さに相当する。
【0033】
中央部Aとは、図1に示すように、吸着面中心Dから吸着面の外周端部Eまでの距離において、吸着面中心Dから10%以内の領域内の任意の箇所を指すものとする。なお、吸着面3内の一主面方向においては、中央部Aの形状は特に限定されず、円形、楕円形、多角形でもよいが、点対称であれば、周方向での吸着力のバラツキが生じず、好適である。より好適には真円形状である。または、このときの吸着面中心Dが幾何学形状の重心であってもよい。
【0034】
吸着面の外周端部Eとは、電極2によって吸着力が発生する面の最外周端部を指すものとする。電極2は、シリカガラス中に完全に埋設される必要があるため、静電チャックZの最外周部のすみずみまでは配置されない。そのため、図1に示すように、外周取り代部Cが形成されている。本発明においては、この外周取り代部Cは吸着面3から除かれるものとする。外周取り代部Cの範囲は、設計される静電チャックZの要求仕様に基づいて、適時設定してよい。
【0035】
なお、電極2の最外周縁部は、図1で電極2を上面から見た場合、被吸着物Wの最外周縁部と一致していても良い。また、被吸着物Wの最外周縁部に対して、若干電極2の最外周縁部の外側でも内側でもよい。実用上、多少の誤差があっても、本発明の作用効果に格別影響しないからである。なお、ここでいう「若干」というのは、3mm以下であることが好ましい。
【0036】
外周部Bとは、吸着面中心Dから吸着面の外周端部Eまでの距離において、吸着面の外周端部Eから吸着面中心Dの方向に向かって3%以内の領域の、任意の箇所を指すものとする。なお、吸着面3内の一主面方向における外周部Bの形状は、輪状が好ましい。
【0037】
そして、中央部Aの吸着面3と電極2との距離e、及び外周部Bの吸着面3と電極2との距離fは、中央部Aまたは外周部Bの領域内での誘電層の厚さを指すものとする。
【0038】
電極2と吸着面3との間隔が、吸着面3の中央部Aから吸着面の外周部Bにかけて連続して変化するとは、図1に示すように、電極2の断面によりなだらかな円弧状を描く形状で表現できる。しかし、この形状に限定されるわけではなく、実際に作製した製造プロセスにおいて、これに類似する形状であればよい。
【0039】
本発明に係る静電チャックZの電極2と吸着面3との距離の形態は、好適には次のように形成できる。シリカガラス1の一主面上に図3に示す電極パターンを有する電極2を配置して、誘電層を形成するための別のシリカガラス材を重ね合わせた後、加熱し、加圧する。このとき、治具の形状を凸型にすることで、加圧後の誘電層及び電極2を、凹型形状にすることができる。その後、誘電層の表面を研磨等の手段で平坦にして、吸着面3が平坦で電極2が任意の凹型形状を有する静電チャックZが得られる。そして、シリカガラスは、このような形状の形成に、特に好適な素材といえる。
【0040】
本発明に係る静電チャックZには、図1に示すように外周取り代部Cが形成されているが、この外周取り代部Cに相当する部位には吸着力が生じないので、中央部Aに対して外周部Bの方が、吸着力は弱い傾向にある。一方で、吸着面3は高い平坦性が要求されるので、電極2の形状の方を本実施形態のような凹型形状にして、吸着面3と電極2との距離を、中央部Aより外周部Bが小さくなるようにすることで、吸着面3の面内全体において吸着力を均一化することができる。
【0041】
さらに、本発明に係る静電チャックZは、吸着面3の表面粗さが吸着面の中央領域L1より吸着面の外周領域L2のほうが粗い、という要素を備えている。ここで、吸着面3の表面粗さとは、平均粗さRaを指す。
【0042】
吸着面の中央領域L1とは、被吸着物Wと吸着面3とが接触する面において、吸着面中心Dを中心とした、いわゆる内側の領域を指す。好適には吸着面中心Dを中心点とした円形であるが、外周部の形状は、三角や正方形、楕円形でも差し支えない。また、吸着面の外周領域L2とは、被吸着物Wと吸着面3とが接触する面全体において、中央領域L1以外の、いわゆる外側の領域を指す。
【0043】
吸着面3の表面粗さが粗いほうが、被吸着物Wとの接触面積が小さくなるので、被吸着物Wと誘電層表面の間の微小な空隙が多くなり、被吸着物Wとの接触面近傍の誘電層部分の電荷が相対的に小さくなる。よって、電圧を0にしたときの、被吸着物Wとの接触面近傍の誘電層内に溜まっていた電荷の消失する時間が短くなる。すると、吸着面の中央領域L1より吸着面の外周領域L2のほうが粗い場合は、先に吸着面の外周領域L2の残留電荷が消失し、電荷の濃度勾配が大きくなることで、吸着面の中央領域L1の残留電荷も速く消失すると考えられる。
【0044】
吸着面の中央領域L1と吸着面の外周領域L2の表面粗さが、同等、あるいはL1のほうがL2より粗いと、L1とL2間での電荷の濃度勾配がつきにくい。従って、L2の残留電荷の消失を推進する力がなくなるので、誘電層全体の残留電荷の消失も遅れ、結果として脱離特性が低下する傾向になる。
【0045】
なお、吸着面の中央領域L1と吸着面の外周領域L2の、粗さを断面方向から見たプロファイル形状としては、一例として図4に示すようなものが挙げられる。ここで、図4bから図4dの場合の粗さは、例えば、各領域内の径方向のRa最大値とRa最小値の平均値で代表できる。
【0046】
本発明に係る静電チャックZは、吸着面の中央領域L1は、吸着面3の全面積に対して吸着面中心Dを含む30%以上70%以下の範囲であり、吸着面の外周領域L2は、前記吸着面の中央領域L1以外であることが望ましい。
【0047】
吸着面の中央領域L1が、吸着面3の全面積に対して、吸着面中心Dを含む30%未満、あるいは70%超であると、中央領域L1と外周領域L2間での電荷の濃度勾配が十分に形成されないので、好ましくない。より好ましくは、吸着面の中央領域L1が、吸着面3の全面積に対して、吸着面中心Dを含む50%以上60%以下の範囲である。
【0048】
なお、本発明に係る静電チャックZは、吸着面3の表面粗さが、Raにおいて、吸着面の中央領域L1で0.1μm以上0.5μm以下、吸着面の外周領域L2で0.4μm以上0.9μm以下であると、さらに好ましい。
【0049】
吸着面の中央領域L1で、表面粗さが0.1μm未満とすると、粗さの制御が困難であることと、外周領域L2との粗さ値の差が大きくなりすぎて、吸着力の不均衡が発生するおそれがあり、好ましくない。一方、0.5μmを越えると、吸着面の外周領域L2との粗さ値の差が小さくなりすぎて、残留電荷の消失を促進するに足りるほどの濃度勾配を付けられず、これも好ましくない。
【0050】
吸着面の外周領域L2で、表面粗さが0.4μm未満とすると、吸着面の中央領域L1との粗さ値の差が小さくなりすぎて、残留電荷の消失を促進するに足りるほどの濃度勾配を付けられず、好ましくない。一方、0.9μmを越えると、吸着面の中央領域L1との粗さ値の差がつきすぎて、吸着力の不均衡が発生するおそれがあり、これも好ましくない。
【0051】
本発明に係る静電チャックZにおいて、電極2と吸着面3との距離の最大値と最小値の差は、中央部Aの吸着面3と電極2との距離eが、外周部Bの吸着面3と電極2との距離fの1.05倍以上2.0倍以下、すなわち、1.05≦(e/f)≦2.0であることが望ましい。
【0052】
(e/f)が1.05倍未満、または2.0倍超であると、どちらの場合も吸着力の面内均一性の制御が困難になるため、好ましくない。なお、(e/f)が、外周部Bの吸着面3と電極2との間隔fの1.1倍以上1.7倍以下であると、さらに好ましい。
【0053】
本発明に係る静電チャックZは、被吸着物Wとしてシリコンを吸着するために用いることが望ましい。これは、半絶縁材料であるシリコン基板の吸着においては、アルミナや窒化アルミニウムからなる静電チャックに比べると、吸着力ではやや劣るものの、脱離特性については非常に優れた特性を持つことが出来るからである。
【0054】
ところで、シリカガラスは非晶質なので、焼結体であるセラミックス、例えばアルミナあるいは窒化アルミニウムと比べると、吸着面3の粗さRaの値が同じであっても、微小な突起部と被吸着部Wとの接触部の形態には何らかの差が生じており、これが脱離特性の向上に影響しているものと考えられる。
【0055】
以上、本実施形態によれば、吸着力を確保しつつ、優れた吸脱着応答性を発揮することができるシリカガラスからなる静電チャックを提供できる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明について検証するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
【0057】
ここで、「吸着力」は、特に指定のない限り、クーロン力とグラディエント力の少なくともいずれかによるものを指すものとする。さらに、電極2の厚さ寸法、電極パターンの幅寸法、間隔に関しては、実物の作製工程において生ずる誤差や個体差が、静電チャックZの特性に対して実用上ほとんど影響しないので、静電チャックZの吸着面3のいずれの箇所でも同じ値として取り扱う。
(実験1)
【0058】
基材として、直径105mm×厚さ1mmの合成シリカガラス板を用意した。この基材上に、図3に示す電極パターンを有するタングステン製の電極2を配置した。ここで電極厚さは0.5μm、電極幅は300μm、電極間隔は300μmとした。
【0059】
この上に、吸着面3を形成する直径105mm×厚さ5mmの合成シリカガラス板を重ねて、(e/f)が1.3となる形状の治具を用いて圧着、加熱処理して一体化した。その後、誘電層厚さが静電チャックZ中央部で100μmになるように、研削加工を施した。ここで、中央領域L1は、Ra0.3μm、外周領域L2は0.6μm、L1/吸着面全面積の比が50%の円形形状になるように、粗さ加工処理を施した。
【0060】
さらに、図示しないが電極2に給電するMo製の給電端子を、吸着面3の反対面側から電極2に対して穴あけ加工して取り付けた。このようにして、実施例1の静電チャックを得た。
【0061】
被吸着物Wとして、直径100mm×厚さ0.5mmのシリコン基板およびサファイア基板を用いて、静電チャックの双極電極のうち、一方の電極には印加電圧を0Vから−2kV、もう一方の電極には印加電圧を0Vから+2kVの範囲で1分間印加することで吸着した。
【0062】
吸着力の測定は、図5に示した測定装置10を用い、静電チャックZの上に、被吸着物Wを積載し、真空中(1×10−2Pa以下)で、所定の電圧を印加させた後に、被吸着物Wを垂直に引き上げ、被吸着物Wが静電チャックZの表面から離れたときの荷重を測定し、その荷重を被吸着物Wの面積で割った値を、面内平均の吸着力とした。
【0063】
ここで、測定装置10は、真空容器11と、真空容器11の内部に収容された静電チャックZの電極2に電力を供給する電源12と、被吸着物Wを吸着している静電チャックZの吸着力を検出するロードセル13とを備えている。
【0064】
そして、電圧を印加して吸着力が0から一定の値になり安定するまでの時間を吸着時間、電圧を0Vにしてから吸着力が0になるまでの時間を脱離時間として、吸着特性と脱離特性を評価した。図3に、この吸着特性と脱離特性のグラフを示すが、ここでは、吸着力が一定になったことから、経過時間30秒以後のグラフは省略した。
【0065】
図3より、本発明の一実施形態の静電チャックによれば、被吸着物が導電性のシリコン、絶縁性のサファイアのいずれにおいても、1秒以内で一定の吸着力を得ること、1秒以内で吸着力を0とすることが可能であった。
(実験2)
【0066】
実施例1との比較として、実施例1と同形状の静電チャックで、それぞれアルミナ、窒化アルミニウムからなる静電チャックを用意した。そして、実施例1と同様に吸着特性と脱離特性を評価した結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1の結果より、シリカガラスからなる静電チャックと比較して、サファイアと窒化アルミニウムからなる静電チャックは、被吸着物Wがシリコンの場合、吸着力は大きいが、吸着時間、離脱時間が長くなり、特に脱離特性において、15秒以上の時間がかかっている。また、被吸着物Wがサファイアの場合、吸着力は同等であるが、吸着時間、脱離時間が長くなり、シリカガラスからなる静電チャックと比較して、見劣りするものであった。
(実験3)
【0069】
研削加工時に、吸着面の中央領域L1と吸着面全面との面積比を、表2または表3に示す割合で変化させ、それ以外の作製方法、評価方法は、実施例1と同様にした実験を行った。なお、表2は被吸着物がサファイア基板、表3は被吸着物がシリコン基板の場合を示している。
【0070】
【表2】

【0071】
【表3】

【0072】
表2と表3の結果から、吸着面の中央領域L1と吸着面全面との面積比が30%以上70%以下では、吸着時間と脱離時間が1秒以下であり、より好ましい。さらに、中央領域L1と接触面全面との面積比が50%以上60%以下では、吸着時間と脱離時間ともに1秒未満であり、こちらはさらに好ましいことがわかる。
(実験4)
【0073】
圧着時の治具形状を変更することで、(e/f)を表4または表5に示す割合で変化させ、それ以外の作製方法、評価方法は、実施例1と同様にした実験を行った。なお、表4は被吸着物がサファイア基板、表5は被吸着物がシリコン基板の場合を示している。
【0074】
【表4】

【0075】
【表5】

【0076】
表4と表5の結果より、(e/f)が1.05以上2.0以下の場合は、シリコンでは吸着力3kPa以上、サファイアでは吸着力16kPa以上、吸着時間と脱離時間が1秒以下であり、好ましいものといえる。また、(e/f)が1.1以上1.7以下の場合は、シリコンでは吸着力3.5kPa以上、サファイアでは吸着力17kPa以上、吸着時間と脱離時間ともに1秒未満であり、さらに好ましいものといえる。
【符号の説明】
【0077】
Z 静電チャック
W 被吸着物
1 基材部
2 電極
3 吸着面
10 測定装置
11 真空容器
12 電源
13 ロードセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のシリカガラスに導電性材料からなる電極が埋設され、一主面を吸着面として被吸着物を吸着する静電チャックであって、前記電極と前記吸着面との距離が、前記吸着面の中央部で最大値をとり、前記吸着面の中央部から前記吸着面の外周部にかけて連続して変化し、前記吸着面の外周部で最小値をとる形状であり、さらに、前記吸着面の表面粗さが前記吸着面の中央領域より外周領域のほうが粗いことを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
吸着面の中央領域は吸着面の全面積に対して吸着面中心を含む30%以上70%以下の範囲であり、吸着面の外周領域は前記吸着面の中央領域以外であることを特徴とする、請求項1に記載の静電チャック。
【請求項3】
吸着面の中央部と電極との距離が、前記吸着面の外周部と前記電極との距離の1.05倍以上2.0倍以下であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の静電チャック。
【請求項4】
被吸着物としてシリコンを吸着するために用いることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載の静電チャック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−204447(P2012−204447A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65552(P2011−65552)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】