説明

静電塗装装置およびアース状態検査方法

【課題】アース状態を検査するための専用装置を用いずに、短時間でアース状態を検査することができる静電塗装装置およびアース状態検査方法を提供する。
【解決手段】被塗物2に塗料を噴霧する塗装ガン3と、該塗装ガン3を変位可能に支持するロボットアーム4と、塗装ガン3に印加する高電圧を発生させるとともに、塗装ガン3と被塗物2との間で生じる放電電流を検出することにより、発生させる高電圧を調整する高電圧発生装置9と、を備える静電塗装装置1であって、塗装ガン3により、被塗物2に向けて塗料を噴霧していない状態において、塗装ガン3から被塗物2に向けて電界を形成して、該被塗物2に電荷を帯電させるとともに、高電圧発生装置9により、該高電圧発生装置9により塗装ガン3に高電圧を印加していない状態において、被塗物2に帯電した電荷により、塗装ガン3と被塗物2との間で生じる放電電流を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電塗装装置の技術に関し、より詳しくは、導電性が低い被塗物に対するアース状態の検査の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂製部品等の導電性が低い部品に対して静電塗装を行う場合には、当該部品に導電性を付与するための材料である導電プライマーを塗装面に塗布して、導電性を確保した後に静電塗装を行う技術が知られている。そして、導電プライマーを塗布した後には、導電性が確保されていること(即ち、アースに接地されているかどうか)を確認する必要があるため、当該部品に対して静電塗装を行うための塗装ラインには、アース状態を確認するための専用装置が設けられるのが一般的である。
このようなアース状態を確認するための装置としては、例えば、以下に示す特許文献1にその技術が開示され、公知となっている。
【0003】
特許文献1に開示されている従来技術では、塗装面に対し非接触の状態で電荷を印加する電荷印加装置と、電荷が印加された被塗物の塗装面の電荷量を非接触の状態で測定する電荷量測定センサと、電荷量測定センサで測定された電荷量が所定範囲にあるか否かを判定する判定装置と、を備える、静電塗装される被塗物の塗装面のアース状態を検査するための装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−58998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示された従来技術に係る検査装置は、アース状態を確認するための専用装置となっており、アース状態を検査するための工程を別途確保する必要があるため、塗装ラインの長大化、塗装時間の長期化、塗装設備のコスト増大等を招く要因となっていた。
【0006】
本発明は、斯かる現状の課題を鑑みてなされたものであり、アース状態を検査するための専用装置を用いずに、短時間でアース状態を検査することができる静電塗装装置およびアース状態検査方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、被塗物に向けて塗料を噴霧するための塗装ガンと、該塗装ガンを変位可能に支持するロボットアームと、前記塗装ガンに印加する高電圧を発生させるとともに、前記塗装ガンと前記被塗物との間に電界を形成するときに生じる放電電流を検出することにより、発生させる高電圧を調整する高電圧発生装置と、を備える静電塗装装置であって、前記塗装ガンにより、前記被塗物に向けて塗料を噴霧していない状態において、前記塗装ガンから被塗物に向けて静電界を形成して、該被塗物に電荷を帯電させるとともに、前記高電圧発生装置により、該高電圧発生装置により前記塗装ガンに高電圧を印加していない状態において、前記被塗物に帯電した電荷により、前記塗装ガンと前記被塗物との間で生じる放電電流を検出するものである。
【0009】
請求項2においては、第一および第二の二つの前記静電塗装装置を備え、第一の前記静電塗装装置の前記塗装ガンから前記被塗物に向けて静電界を形成して、該被塗物に電荷を帯電させるとともに、第二の前記静電塗装装置の前記高電圧発生装置により、前記被塗物に帯電した電荷により、第二の前記静電塗装装置の前記塗装ガンと前記被塗物との間で生じる放電電流を検出するものである。
【0010】
請求項3においては、前記高電圧発生装置により、該高電圧発生装置により前記塗装ガンに高電圧を印加していない状態において、前記被塗物に帯電した電荷により、前記塗装ガンと前記被塗物との間で生じる放電電流を検出するときには、前記塗装ガンと前記被塗物との距離を、静電塗装時における塗装距離に比して小さくするものである。
【0011】
請求項4においては、前記塗装ガンから前記被塗物に向けて静電界を形成して、該被塗物に電荷を帯電させるときには、前記塗装ガンの変位距離を、静電塗装時における該塗装ガンの変位距離に比して小さくするものである。
【0012】
請求項5においては、前記高電圧発生装置により、該高電圧発生装置により前記塗装ガンに高電圧を印加していない状態において、前記被塗物に帯電した電荷により、前記塗装ガンと前記被塗物との間で生じる放電電流を検出するときには、前記塗装ガンの変位距離を、静電塗装時における該塗装ガンの変位距離に比して小さくするものである。
【0013】
請求項6においては、被塗物に対して導電プライマーを塗布した後に、前記被塗物に高電圧を印加するとともに、前記被塗物の表面における電位を測定して、前記被塗物のアース状態を検査するアース状態検査方法であって、静電塗装装置を用いて、前記被塗物に高電圧を印加するとともに、前記被塗物の表面における電位を測定するものである。
【0014】
請求項7においては、第一および第二の前記静電塗装装置を用いて、第一の前記静電塗装装置により、前記被塗物に高電圧を印加するとともに、第二の前記静電塗装装置により、前記被塗物の表面における電位を測定するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1においては、専用装置を用いずに、被塗物に対するアース状態の検査を行うことができる。またこれにより、塗装ラインの短小化、検査時間の短縮化、塗装設備のコスト低減等を図ることができる。
【0017】
請求項2においては、電荷を印加した後の待ち時間を短縮して、検査時間のさらなる短縮化を図ることができる。
【0018】
請求項3においては、被塗物の表面電位をより確実に検出し、アース状態の検査精度を向上できる。
【0019】
請求項4においては、電荷の印加時間を短縮して、検査時間の短縮化を図ることができる。
【0020】
請求項5においては、表面電位の検出時間を短縮して、検査時間の短縮化を図ることができる。
【0021】
請求項6においては、専用装置を用いずに、被塗物に対するアース状態の検査を行うことができる。またこれにより、塗装ラインの短小化、検査時間の短縮化、塗装設備のコスト低減等を図ることができる。
【0022】
請求項7においては、電荷を印加した後の待ち時間を短縮して、検査時間のさらなる短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電塗装装置の全体構成を示す模式図。
【図2】本発明の一実施形態に係る静電塗装装置から被塗物に対する電界の形成状況を示す模式図。
【図3】本発明の一実施形態に係る静電塗装装置における高電圧発生装置の構成を示す模式図。
【図4】本発明の一実施形態に係る静電塗装装置(1台使用の場合)によるアース状態の検査状況を示す模式図、(a)電圧の印加状況を示す模式図、(b)表面電位の検出状況を示す模式図。
【図5】表面電位の時間変化の状況を示す模式図。
【図6】本発明の一実施形態に係る静電塗装装置(1台使用の場合)によるアース状態の検査方法の流れを示す検査フロー図。
【図7】本発明の一実施形態に係る静電塗装装置における被塗物に対する塗装ガンの変位状況を示す模式図、(a)アース状態の検査時(電圧の印加時および表面電位の検出時)の変位状況を示す模式図、(b)静電塗装時の変位状況を示す模式図。
【図8】塗装ラインの全体構成を示す模式図、(a)本発明の一実施形態に係る静電塗装装置を用いてアース状態の検査を行う場合の塗装ラインの構成を示す模式図、(b)従来の検査専用装置を用いてアース状態の検査を行う場合の塗装ラインの構成を示す模式図。
【図9】本発明の一実施形態に係る静電塗装装置(2台使用の場合)によるアース状態の検査状況を示す模式図。
【図10】本発明の一実施形態に係る静電塗装装置(2台使用の場合)によるアース状態の検査方法の流れを示す検査フロー図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、本発明の一実施形態に係る静電塗装装置の全体構成について、図1および図2を用いて説明をする。
図1および図2に示す如く、本発明の一実施形態に係る静電塗装装置1は、樹脂製バンパー等の部品であって、そのままでは静電塗装を行えない程度に導電性が低い性質を有する塗装対象物である被塗物2に対して静電塗装を行うことができる塗装装置であり、塗装ガン3、ロボットアーム4、高電圧発生装置9等を備えている。
【0025】
塗装ガン3は、被塗物2に対して塗料を噴霧するための装置であり、ベルカップ3aを備えている。
塗装ガン3は、ベルカップ3aを図示しないエアモータ等の駆動手段により回転させて、ベルカップ3aの内面に展延させた流体塗料を遠心力で微粒化させることができる回転霧化型の塗装装置である。
【0026】
図1に示す如く、ロボットアーム4は、その下部において基台部7に回動可能に連結される上下アーム5と、該上下アーム5の上部にその後端部が回動可能に連結される水平アーム6とから構成され、上下アーム5、水平アーム6を各回動支点で回動させることで、水平アーム6の先端部に設けた塗装ガン3を、被塗物2に対して変位させることができる構成としている。
【0027】
また、水平アーム6は、その先端部に塗装ガン3の連結筒3bが連結される第一アーム部6aと、その先端部に前記第一アーム部6aが連結される第二アーム部6bと、その先端部に第二アーム部6bが連結され、その後端部に上下アーム5が回動可能に連結される第三アーム部6cと、を有する構成としている。
【0028】
また、第一アーム部6aには、二つの屈折部6d・6eが設けられ、各屈折部6d・6eにおいて第一アーム部6aが屈折動作される構成となっており、これにより、塗装ガン3が、図1および図2中における時計方向、又は、反時計方向に角度を変更することができる構成としている。
【0029】
また、塗装ガン3が先端に取り付けられる連結筒3bは、第一アーム部6aに対して、軸方向に回転駆動される構成としており、塗装ガン3が、連結筒3bの軸を中心として角度を変更することができる。これにより、塗装ガン3の被塗物2に対する角度を自由に設定できる構成としている。
【0030】
また、塗装ガン3には、高電圧発生装置9が電気的に接続されている。
図1および図2に示す如く、高電圧発生装置9は、塗装ガン3に印加する高電圧を発生させるための装置であり、電圧を生じさせるとともに電圧を制御するための部位である電圧発生部21と、該電圧発生部21において発生した電圧を昇圧するための部位である電圧昇圧部22を備えている。
【0031】
そして、本実施形態において、高電圧発生装置9のうち電圧昇圧部22は、第二アーム部6bの内部に配置されており、電圧発生部21は、ロボットアーム4の外部に配置されている。そして、ロボットアーム4の各部6b・6cおよび上下アーム5内に低電圧ケーブル23を配線するとともに、上下アーム5の途中から低電圧ケーブル23を外部に引き出して、低電圧ケーブル23によって電圧発生部21と電圧昇圧部22を接続する構成としている。
【0032】
また、ロボットアーム4の各部6a・6bおよび塗装ガン3の内部に高電圧ケーブル10を配線し、高電圧ケーブル10によって、電圧昇圧部22を塗装ガン3に接続する構成としており、これにより、高電圧を塗装ガン3に印加する構成としている。
【0033】
そして、塗装ガン3は、高電圧発生装置9により、負極性の静電高電圧が印加されることによって、該塗装ガン3から噴霧する塗料の粒子を負極側に帯電させることができる。
そして、負極側に帯電した塗料と接地された(即ち、電位が0Vである)被塗物2との間で図2に示すような静電界(以下、電界Eと呼ぶ)形成し、この電界Eを利用して、被塗物2に対する静電塗装を行う構成としている。
【0034】
次に、静電塗装装置1に備えられる高電圧発生装置9について、図3を用いて、さらに詳細に説明をする。
図3に示す如く、高電圧発生装置9は、電圧発生部21と、電圧昇圧部22と、低電圧ケーブル23等を備えている。
【0035】
電圧発生部21は、塗装ガン3およびロボットアーム4に印加するための高電圧のもととなる電圧を発生させるための部位であり、電源部27、増幅器28、CPU29、RAM30、リレー31、プッシュプル発振装置32、電圧センサ33、電流センサ34、バンドパスフィルタ35・36等を備えている。
【0036】
電圧昇圧部22は、電圧発生部21によって発生させた電圧を昇圧するための部位であり、高電圧トランス24、高電圧発生用の整流器および倍率器であって複数のコンデンサやダイオード等の組合せによって構成されたコッククロフトウォルトン回路(CW回路)25等を備えている。
また、高電圧トランス24は、一次巻線24a、二次巻線24bを備えており、二次巻線24b側にCW回路25が接続されている。
【0037】
そして、電圧発生部21は、一次巻線24aのセンター相(以下、CT相と呼ぶ)に対する作動電圧を出力するための出力端子21a、一次巻線24aのドライブA相(以下、DA相と呼ぶ)に対するドライブ信号を出力するための出力端子21b、一次巻線24aのドライブB相(以下DB相と呼ぶ)に対するドライブ信号を出力するための出力端子21cを備えている。
さらに、電圧発生部21は、CPU29に対してCW回路25の全発生電流値を示す電流フィードバック信号(以下、IM信号と呼ぶ)を入力するための入力端子21d、CPUに対してCW回路25によって昇圧した後の高電圧値を示す電圧フィードバック信号(以下、VM信号と呼ぶ)を入力するための入力端子21e、電圧発生部21を接地するための接地端子21f等を備えている。
【0038】
また、電圧昇圧部22は、高電圧トランス24の一次巻線24aのCT相に接続される入力端子22a、一次巻線24aのDA相に接続される入力端子22b、一次巻線24aのDB相に接続される入力端子22cを備えている。
さらに、電圧昇圧部22は、CW回路25の全発生電流値を示すIM信号を出力するための出力端子22d、CW回路25によって昇圧した後の高電圧値を示すVM信号を出力するための出力端子22e、CW回路25を接地するための接地端子22f等を備えている。
【0039】
電圧昇圧部22では、CW回路25を接地端子22fと接続して、塗装ガン3等に帯電した電荷をアースに逃がす構成としている。そして、CW回路25と接地端子22fとを接続する接地ライン上には、リーク電流を抑制するためのブリーダー抵抗器26を備える構成としている。
そしてさらに、電圧昇圧部22では、CW回路25によって生成した高電圧を出力するための端子である高電圧出力端子22gを備えている。
【0040】
低電圧ケーブル23は、電圧発生部21と電圧昇圧部22とを電気的に接続するための各種ケーブルの束であり、CT入力線(CT)23a、DA入力線(DA)23b、DB入力線(DB)23c、IM信号線(IM)23d、VM信号線(VM)23e、コモン線(COM)23f等によって構成されている。
【0041】
CT入力線23aは、電圧発生部21によって生成した作動電圧を一次巻線24aのCT相に入力するためのケーブルであり、電圧発生部21の出力端子21aと電圧昇圧部22の入力端子22aの間に接続されている。
【0042】
DA入力線23bは、電圧発生部21によって生成したドライブ信号を一次巻線24aのドライブA相に入力するためのケーブルであり、電圧発生部21の出力端子21bと電圧昇圧部22の入力端子22bの間に接続されている。
【0043】
DB入力線23cは、電圧発生部21によって生成したドライブ信号を一次巻線24aのドライブB相に入力するためのケーブルであり、電圧発生部21の出力端子21cと電圧昇圧部22の入力端子22cの間に接続されている。
【0044】
IM信号線23dは、電圧昇圧部22で生成したIM信号をCPU29に入力するためのケーブルであり、電圧発生部21の入力端子21dと電圧昇圧部22の入力端子22dの間に接続されている。
【0045】
VM信号線23eは、電圧昇圧部22で生成したVM信号をCPU29に入力するためのケーブルであり、電圧発生部21の入力端子21eと電圧昇圧部22の入力端子22eの間に接続されている。
【0046】
さらに、コモン線23fは、電圧発生部21および電圧昇圧部22をアースに接地して、共通の基準電位(0V)を設定するためのケーブルであり、電圧発生部21の接地端子21fと電圧昇圧部22の接地端子22fの間に接続されている。
【0047】
ここで、高電圧発生装置9による高電圧の発生状況について、図3を参照しながら説明をする。
電圧発生部21は、電源部27により発生する出力電圧をCPU29からの指令値に応じて増幅器28によって調整して、作動電圧を生成する。ここで生成される作動電圧は、該作動電圧の供給ライン上に設けられた電圧センサ33および電流センサ34により測定され、その測定値がCPU29にフィードバックされることによって、作動電圧を指令値に一致させるようにCPU29によって調整されている。
【0048】
また、増幅器28に対するCPU29からの指令値は、前述したIM信号やVM信号がCPU29にフィードバックされて、CPU29により各フィードバック信号やRAM30に記憶されている条件等に基づいて演算を行うことによって求めている。
このIM信号およびVM信号等は、バンドパスフィルタ35・36等を介してCPU29に入力される。
【0049】
また電圧発生部21は、一次巻線24aの各ドライブ相に入力するためのドライブ信号を、CPU29からの指令値に応じて、プッシュプル発振装置32によって生成する。
また、プッシュプル発振装置32に対するCPU29からの指令値は、前述したIM信号やVM信号がCPU29にフィードバックされて、CPU29により各フィードバック信号やRAM30に記憶されている条件等に基づいて演算を行うことによって求めている。
【0050】
このような構成により、高電圧トランス24の一次巻線24aに所定の交流電圧を供給することができる。これにより、二次巻線24bに接続されたCW回路25によって、供給された一次巻線24aに供給された作動電圧をコンデンサおよびダイオードの接続段数に応じて所定の倍率まで昇圧し、CW回路25の図3中における点αβ間において、所定の電圧値である直流高電圧を発生させることができる。
【0051】
ここで、電圧昇圧部22において、出力点βに接続された出力端子22gは、塗装ガン3に対して印加する高電圧を出力するための端子である。そして、高電圧出力端子22gと塗装ガン3を高電圧ケーブル10によって接続する構成としている。
【0052】
また、高電圧発生装置9により、塗装ガン3に対して高電圧を印加していない状態において、被塗物に帯電した電荷によって、被塗物から塗装ガン3に向けて電界が形成され、出力端子22gから接地端子22fに向けて放電電流が流れた場合、VM信号線23eには、その放電電流の電圧を表す信号(以下、IS信号と呼ぶ)が入力される。
そして、CPU29にIS信号が入力されると、CPU29により当該IS信号に基づく演算を行うことによって、被塗物の表面電位を検出することができる。
【0053】
次に、本発明の第一の実施形態として、一つの静電塗装装置1を用いた場合の表面電位の測定方法について、図4および図5を用いて説明をする。
図4(a)に示す如く、被塗物2が、アースに接続されたコンベア11上に配置され、導電プライマーが塗布されている状態において、ロボットアーム4によって、塗装ガン3を変位させて、塗装ガン3のベルカップ3aと被塗物2との距離を距離L1に保持する。そしてこの状態で、高電圧発生装置9によって、塗装ガン3に高電圧を印加すると、ベルカップ3aと被塗物2との間で電界E1が形成され、被塗物2には電荷が付与される。
【0054】
このように、被塗物2に対して電荷を印加した場合における、被塗物2における表面電位の時間変化は、図5に示すようになる。
図5に示す如く、高電圧発生装置9によって、表面電位V0である被塗物2に対して、時刻t0から時刻t1まで電荷を印加すると、時刻t1における被塗物2の表面電位はV1となる。
【0055】
そして、被塗物2のアース状態が理想的である場合には、時刻t1で高電圧発生装置9による電荷の印加を停止すると、時刻t1の後、曲線G1のように、被塗物2の表面電位は急激に下降する。
一方、被塗物2のアース状態が適切でない場合には、時刻t1の後、曲線G2のように、被塗物2の表面電位は緩やかに下降する。
【0056】
また、被塗物2のアース状態が理想的である場合には、時刻t1で電荷の印加を停止したあと、時刻t2の時点では、被塗物2の表面電位は予め設定する設定電位Vkよりも確実に小さくなる。
一方、被塗物2のアース状態が適切でない場合には、被塗物2の表面電位は設定電位Vkに比して高い電位を維持したままとなる。
【0057】
そこで、本実施形態では、高電圧発生装置9による電荷の印加を停止したとき(即ち、時刻t1)から所定の時間後である時刻t2における、被塗物2の表面電位を検出することによって、アース状態の良否を判定するようにしている。
【0058】
具体的には、図5に示す時刻t2の時点で、図4(b)に示す如く、ロボットアーム4によって、塗装ガン3のベルカップ3aと被塗物2との距離を距離L1に比して短い距離である距離L2に保持する。
被塗物2に対して、ブリーダー抵抗器26を介してアースに接続されている塗装ガン3(より詳しくは、ベルカップ3a)を接近させると、被塗物2に帯電された電荷はベルカップ3aに向けて放電される。
本実施形態に係る静電塗装装置1では、このとき生じる放電電流を測定することにより、被塗物2の表面電位を検出するとともに、アース状態の良否を判定する構成としている。
【0059】
そして、上記放電電流値の測定は、前述した通り、前記IS信号に基づいて高電圧発生装置9が備えるCPU29により行うことができる。
このため、本実施形態では、他の専用の検査装置を用いることなく、静電塗装装置1のみで、アース状態の検査をすることができる。
【0060】
即ち、本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置1は、被塗物2に向けて塗料を噴霧するための塗装ガン3と、該塗装ガン3を変位可能に支持するロボットアーム4と、塗装ガン3に印加する高電圧を発生させるとともに、塗装ガン3と被塗物2との間に電界E1を形成するときに生じる放電電流を検出することにより、発生させる高電圧を調整する高電圧発生装置9と、を備えるものであって、塗装ガン3により、被塗物2に向けて塗料を噴霧していない状態において、塗装ガン3から被塗物2に向けて電界E1を形成して、該被塗物2に電荷を帯電させるとともに、高電圧発生装置9により、該高電圧発生装置9により塗装ガン3に高電圧を印加していない状態において、被塗物2に帯電した電荷により、塗装ガン3と被塗物2との間で生じる放電電流を検出するものである。
このような構成により、専用装置を用いずに、被塗物2に対するアース状態の検査を行うことができる。またこれにより、塗装ラインの短小化、検査時間の短縮化、塗装設備のコスト低減等を図ることができる。
【0061】
次に、静電塗装装置1を用いたアース状態の検査方法について、図4〜図8を用いて説明をする。
図4(a)(b)に示す如く、本実施形態で示す静電塗装装置1を用いたアース状態の検査方法では、既に存在する静電塗装装置1を1台のみ使用して、アース状態の検査を行う構成としている。
【0062】
静電塗装装置1を用いたアース状態の検査方法では、まず始めに、図6に示す如く、被塗物2を搬送するためのコンベア11を作動させて、所定の検査位置に導電プライマーが塗布された状態の被塗物2を配置する(S101)。そして、被塗物2が所定の検査位置に配置されたときに、コンベア11を停止させる(S102)。
【0063】
次に、被塗物2が所定の検査位置に配置された状態で、図4(a)に示すように、高電圧発生装置9をON状態として、塗装ガン3に高電圧を印加する(S103)。
このとき、塗装ガン3から被塗物2に向けて電界E1が形成され、被塗物2に電荷が印加される。尚このとき、塗装ガン3による塗料の噴霧は行わず、塗装ガン3と被塗物2との距離は距離L1となっている。
【0064】
次に、ロボットアーム4によって、塗装ガン3を所定の姿勢で、所定の軌跡上を変位させる(S104)。
図7(a)に示すように、塗装ガン3による電荷の印加が可能な範囲を円状の範囲Sとする場合において、電荷を印加する範囲に切れ目が生じないようにしつつ、各部位に所定の電荷を印加するように(即ち、各部位に対する電荷の印加時間が略均等になるように)、範囲Sの中心が開始位置Pに一致する状態から一定の速度で、軌跡Rを描くように塗装ガン3を変位させる。
【0065】
この軌跡Rは、図7(b)に示すように、静電塗装装置1により、被塗物2に対して静電塗装を行う場合に塗装ガン3が描く軌跡Rsに比して、範囲Sの重ね合わせ幅を小さくすることができる分だけ変位距離を短くすることができる。このため、電荷の印加に要する時間は、静電塗装を行うのに要する時間に比して短くすることができる。
【0066】
そして、塗装ガン3により被塗物2に対して電荷を印加しつつ、範囲Sの中心が所定の軌跡Rを描きながら、所定の終了位置Qに至るまで塗装ガン3を変位させる(S105)。また、範囲Sの中心が所定の終了位置Qに到達したときに、高電圧発生装置9をOFF状態とする(S106)。
ここまでで、静電塗装装置1による被塗物2に対する電荷の印加工程を完了する。そしてここから、静電塗装装置1による表面電位の検出工程に移行する。
【0067】
即ち、本発明の第一の実施形態に係る静電塗装装置1では、塗装ガン3から被塗物2に向けて電界E1を形成して、該被塗物2に電荷を帯電させるときには、塗装ガン3の変位距離を、静電塗装時における該塗装ガン3の変位距離に比して小さくするものである。
このような構成により、電荷の印加時間を短縮して、検査時間の短縮化を図ることができる。
【0068】
被塗物2に対する電荷の印加が終了したのち、所定の時間(即ち、図5に示す時刻t1〜時刻t2までの時間)が経過するのを待ってから(S107)、高電圧発生装置9がOFF状態であることを確認する(S108)。
【0069】
次に、ロボットアーム4によって、塗装ガン3を所定の姿勢で、所定の軌跡上を変位させる(S109)。
尚、本実施形態では、塗装ガン3と被塗物2との距離が距離L1である場合における塗装ガン3により電荷を印加できる範囲と、塗装ガン3と被塗物2との距離が距離L2である場合における塗装ガン3により表面電位を検出できる範囲がともに範囲Sで同じであると仮定して、このときの軌跡を、図7(a)に示す軌跡Rと同じとしており、表面電位を検出する範囲に切れ目が生じないようにして、全範囲の表面電位を検出するように、開始位置Pから終了位置Qまで、一定の速度で、塗装ガン3を変位させる。
即ち、電荷の印加時における塗装ガン3の軌跡(変位距離)と、表面電位の測定時における塗装ガン3の軌跡(変位距離)は、それぞれ別途設定することも可能である。
【0070】
そして、このような変位条件の下、ロボットアーム4によって、塗装ガン3を、被塗物2に対して変位させつつ、図4(b)に示すような態様で表面電位の測定を行い(S110)、測定した表面電位に基づく判定を行う(S111)。
またこのとき、塗装ガン3と被塗物2の距離を、塗装距離に比して小さい距離L2として、塗装ガン3を被塗物2に対してより接近させて表面電位を計測することによって、より精度よく表面電位の測定を行う構成としている。
【0071】
即ち、本発明の第一の実施形態では、高電圧発生装置9により、該高電圧発生装置9により塗装ガン3に高電圧を印加していない状態において、被塗物2に帯電した電荷により、塗装ガン3と被塗物2との間に電界を形成するときに生じる放電電流を検出するときには、塗装ガン3の変位距離を、静電塗装時における該塗装ガン3の変位距離に比して小さくするものである。
このような構成により、表面電位の検出時間を短縮して、検査時間の短縮化を図ることができる。
【0072】
また、本発明の第一の実施形態では、高電圧発生装置9により、該高電圧発生装置9により塗装ガン3に高電圧を印加していない状態において、被塗物2に帯電した電荷により、塗装ガン3と被塗物2との間で生じる放電電流を検出するときには、塗装ガン3と被塗物2との距離L2を、静電塗装時における塗装距離に比して小さくするものである。
このような構成により、被塗物2の表面電位をより確実に検出し、アース状態の検査精度を向上できる。
【0073】
ここでの判定は、測定した表面電位が、予め設定した図5に示すような所定の設定電位Vk以下であるか否かによって行われ、測定した表面電位の値V2が、設定電位Vk以下であれば、被塗物2のアース状態は良好であると判定し、塗装ガン3の位置が所定の終了位置Qとなるまで、判定を繰返し継続する(S112)。
【0074】
あるいは、測定した表面電位V2の値が、設定電位Vkを越えていれば、被塗物2のアース状態が異常であると判定して測定を終了し(S114)、異常があった場合の処理を行う(S115)。ここでの異常処理の内容は、例えば、異常が認められた被塗物2に対してアースクリップの接地状況等を確認する処理等が行われる。
そして、異常処理が完了すれば、異常状態である旨の判定をリセットする(S116)。
【0075】
そして、表面電位の測定終了(S113)か、あるいは、異常状態のリセット(S116)の後に、コンベア11を作動させて、被塗物2を検査位置から排除する(S117)。
以上により、静電塗装装置1を用いたアース状態の検査を完了する。
【0076】
即ち、本発明の第一の実施形態では、被塗物2に対して導電プライマーを塗布した後に、被塗物2に高電圧を印加するとともに、被塗物2の表面における電位を測定して、被塗物2のアース状態を検査するアース状態検査方法であって、静電塗装装置1を用いて、被塗物2に高電圧を印加するとともに、被塗物2の表面における電位を測定するものである。
このような構成により、専用装置を用いずに、被塗物2に対するアース状態の検査を行うことができる。またこれにより、塗装ラインの短小化、検査時間の短縮化、塗装設備のコスト低減等を図ることができる。
【0077】
そして、このように静電塗装装置1を用いてアース状態の検査を行う場合の塗装ラインは、図8(a)に示すような構成となる。この構成によれば、アースチェックの工程および装置を例えば、ベース塗装の工程および塗装装置と兼用することができるため、図8(b)に示す従来の塗装ラインに比して、アースチェックの工程および装置を省略することが可能になり、塗装ラインのコンパクト化を図ることができる。
【0078】
次に、本発明の第二の実施形態として、二つの静電塗装装置1を用いた場合の表面電位の測定方法について、図4、図5および図9を用いて説明をする。
図4(a)(b)に示したように、一つの静電塗装装置1でアース状態の検査をする場合には、電荷の印加が全て完了した後でなければ、表面電位の測定に移行することができない。そこで、本実施形態では、隣接する二つの静電塗装装置1・1を用いて、より短時間で検査を行うことができる構成としている。
【0079】
図9に示す如く、被塗物2が、アースに接続されたコンベア11上に配置され、導電プライマーが塗布されている状態において、第一の静電塗装装置1である第一静電塗装装置1Xのロボットアーム4である第一のロボットアーム4X(以下、第一ロボットアーム4Xと呼ぶ)によって、第一静電塗装装置1Xが備える第一の塗装ガン3X(以下、第一塗装ガン3Xと呼ぶ)のベルカップ3aと被塗物2との距離を距離L1に保持する。
そしてこの状態で、第一静電塗装装置1Xが備える第一の高電圧発生装置9である第一高電圧発生装置9Xによって、第一塗装ガン3Xに高電圧を印加すると、ベルカップ3aと被塗物2との間で電界E1が形成され、被塗物2には電荷が付与される。
【0080】
このように、被塗物2に対して電荷を印加した場合における、被塗物2における表面電位の時間変化は、前述した通り図5に示すようになる。
即ち、図5に示す如く、第一高電圧発生装置9Xによって、表面電位V0である被塗物2に対して、時刻t0から時刻t1まで電荷を印加すると、時刻t1における被塗物2の表面電位はV1となる。
【0081】
そして、被塗物2のアース状態が理想的である場合には、時刻t1で第一高電圧発生装置9Xによる電荷の印加を停止すると、時刻t1の後、曲線G1のように、被塗物2の表面電位は急激に下降する。
一方、被塗物2のアース状態が適切でない場合には、時刻t1の後、曲線G2のように、被塗物2の表面電位は緩やかに下降する。
【0082】
また、被塗物2のアース状態が理想的である場合には、時刻t1で電荷の印加を停止したあと、時刻t2の時点では、被塗物2の表面電位は予め設定する設定電位Vkよりも確実に小さくなる。
一方、被塗物2のアース状態が適切でない場合には、被塗物2の表面電位は設定電位Vkに比して高い電位を維持したままとなる。
【0083】
そして、本実施形態では、第一の高電圧発生装置9Xによる電荷の印加が完了した部位に対して、第二の静電塗装装置1である第二静電塗装装置1Yを用いて、第一の高電圧発生装置9Xによる電荷の印加が全て完了するのを待たずに、アース状態の良否を判定するようにしており、このため、電荷の印加が全て終わる時刻t2より前に表面電位の検出を開始する構成としている。
【0084】
具体的には、例えば、図5に示す時刻t3の時点で、図9に示す如く、第二静電塗装装置1Yが備える第二ロボットアーム4Yによって、第二静電塗装装置1Yが備える第二の塗装ガン3である第二塗装ガン3Yのベルカップ3aと被塗物2との距離を距離L1に比して短い距離である距離L2に保持する。
ここで、時刻t3は、時刻t2に比してタイミングが早いが、この時点における表面電位は設定電位Vkに比して、十分に小さくなっているため、図5に示す時刻t3における表面電位V3を用いて、アース状態の判定をすることが可能である。
【0085】
被塗物2に対して、ブリーダー抵抗器26を介してアースに接続されている第二塗装ガン3Y(より詳しくは、ベルカップ3a)を接近させると、被塗物2に帯電された電荷はベルカップ3aに向けて放電される。
本実施形態に係る第二静電塗装装置1Yでは、この放電電流値を測定することにより、被塗物2の表面電位を検出するとともに、アース状態の良否を判定する構成としている。
【0086】
そして、上記放電電流値の測定は、前述した通り、前記IS信号に基づいて、第二静電塗装装置1Yの第二高電圧発生装置9Yが備えるCPU29により行うことができる。
このため、本実施形態では、他の専用の検査装置を用いることなく、既に存在する二つの各静電塗装装置1X・1Yを使用して、アース状態の検査をすることができる。
【0087】
即ち、本発明の第二の実施形態では、第一および第二の二つの各静電塗装装置1X・1Yを備え、第一静電塗装装置1Xの第一塗装ガン3Xから被塗物2に向けて電界E2を形成して、該被塗物2に電荷を帯電させるとともに、第二静電塗装装置1Yの第二高電圧発生装置9Yにより、被塗物2に帯電した電荷により、第二静電塗装装置1Yの第二塗装ガン3Yと被塗物2との間で生じる放電電流を検出するものである。
このような構成により、電荷を印加した後の待ち時間を短縮して、検査時間のさらなる短縮化を図ることができる。
【0088】
次に、二つの各静電塗装装置1X・1Yを用いたアース状態の検査方法について、図9および図10を用いて説明をする。
図10に示す如く、二つの各静電塗装装置1X・1Yを用いたアース状態の検査方法では、まず始めに被塗物2を搬送するためのコンベア11を作動させて、所定の検査位置に導電プライマーが塗布された状態の被塗物2を配置する(S201)。そして、被塗物2が所定の検査位置に配置されたときに、コンベア11を停止させる(S202)。
【0089】
次に、被塗物2が所定の検査位置に配置された状態で、第一静電塗装装置1Xの第一高電圧発生装置9XをON状態として、第一静電塗装装置1Xにおける第一塗装ガン3Xに高電圧を印加する(S203)。このとき、図9に示すように、第一塗装ガン3Xから被塗物2に向けて電界E1が形成され、被塗物2に電荷が印加される。尚このとき、第一塗装ガン3Xによる塗料の噴霧は行わない。
【0090】
次に、第一静電塗装装置1Xにおける第一ロボットアーム4Xによって、第一塗装ガン3Xを所定の姿勢で、所定の軌跡上を変位させる(S204)。
このとき、静電塗装装置1を1台のみ使用する場合と同様に、図7(a)に示すように、第一塗装ガン3Xによる電荷の印加が可能な範囲を円状の範囲Sとする場合において、電荷を印加する範囲に切れ目が生じないようにしつつ、各部位に所定の電荷を印加するように(即ち、各部位に対する電荷の印加時間が略均等になるように)、範囲Sの中心が開始位置Pに一致する状態から一定の速度で、軌跡Rを描くように第一塗装ガン3Xを変位させる。
【0091】
そして、第一ロボットアーム4Xによる第一塗装ガン3Xの変位が開始された時点から、第二静電塗装装置1Yによる表面電位の検出工程に移行する。
【0092】
一方第一塗装ガン3Xによる電荷の印加工程は継続しており、被塗物2に対して電荷を印加しつつ、第一塗装ガン3Xを所定の終了位置Qまで変位させる(S205)。また、第一塗装ガン3Xが所定の終了位置Qに到達したときに、第一高電圧発生装置9XをOFF状態とする(S206)。
ここまでで、第一静電塗装装置1Xによる被塗物2に対する電荷の印加工程を完了する。
【0093】
そして、第一塗装ガン3Xの変位が開始されてから所定の時間(即ち、図5中に示す時刻t1〜時刻t3までの時間)が経過するのを待って(S301)、第二静電塗装装置1Yの第二ロボットアーム4Yによって、第二静電塗装装置1Yにおける第二塗装ガン3Yを所定の姿勢で、所定の軌跡上を変位させる(S302)。
即ち、本実施形態では、静電塗装装置1を1台のみ使用する場合に比して、早期に表面電位の検出工程に移行することができる。
【0094】
また、このときの第二ロボットアーム4Yによって第二塗装ガン3Yを変位させる軌跡は、静電塗装装置1を1台のみ使用する場合と同様に、第一塗装ガン3Xと被塗物2との距離が距離L1である場合における第一塗装ガン3Xにより電荷を印加できる範囲と、第二塗装ガン3Yと被塗物2との距離が距離L2である場合における第二塗装ガン3Yにより表面電位を検出できる範囲がともに範囲Sで同じであると仮定して、図7(a)に示す軌跡Rと同じとしており、表面電位を検出する範囲に切れ目が生じないようにして、全範囲の表面電位を検出するように、開始位置Pから終了位置Qまで、一定の速度で、第二塗装ガン3Yを変位させる。
【0095】
そして、このような変位条件の下、第二ロボットアーム4Yによって、第二塗装ガン3Yを、被塗物2に対して変位させつつ、図9に示すような態様で表面電位の測定を行い(S303)、測定した表面電位に基づく判定を行う(S304)。
またこのとき、第二塗装ガン3Yと被塗物2の距離を、塗装距離に比して小さい距離L2として、塗装ガン3を被塗物2に対してより接近させて表面電位を計測することによって、より精度よく表面電位の測定を行う構成としている。
【0096】
この判定は、測定した表面電位が、予め設定した図5に示すような所定の設定電位Vk以下であるか否かによって行われ、測定した表面電位の値V3が、設定電位Vk以下であれば、被塗物2のアース状態は良好であると判定し、第二塗装ガン3Yの位置が所定の終了位置Qとなるまで、判定を繰返し継続する(S305)。
【0097】
あるいは、測定した表面電位V3の値が、設定電位Vkを越えていれば、被塗物2のアース状態が異常であると判定して測定を終了し(S307)、異常があった場合の処理を行う(S308)。ここでの異常処理の内容は、例えば、異常が認められた被塗物2に対してアースクリップの接地状況等を確認する処理等が行われる。
そして、異常処理が完了すれば、異常状態である旨の判定をリセットする(S309)。
【0098】
そして、表面電位の測定終了(S306)か、あるいは、異常状態のリセット(S309)の後に、コンベアを作動させて、被塗物2を検査位置から排除する(S310)。
以上により、第二静電塗装装置1Yによる表面電位の測定を完了し、二つの各静電塗装装置1X・1Yを用いたアース状態の検査を完了する。
【0099】
即ち、本発明の第二の実施形態に係るアース状態の検査方法では、第一および第二の各静電塗装装置1X・1Yを用いて、第一静電塗装装置1Xにより、被塗物2に高電圧を印加するとともに、第二静電塗装装置1Yにより、被塗物2の表面における電位を測定するものである。
このような構成により、電荷を印加した後の待ち時間を短縮して、検査時間のさらなる短縮化を図ることができる。
【符号の説明】
【0100】
1 静電塗装装置
1X 第一静電塗装装置
1Y 第二静電塗装装置
2 被塗物
3 塗装ガン
3X 第一塗装ガン
3Y 第二塗装ガン
4 ロボットアーム
4X 第一ロボットアーム
4Y 第二ロボットアーム
9 高電圧発生装置
9X 第一高電圧発生装置
9Y 第二項電圧発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物に向けて塗料を噴霧するための塗装ガンと、
該塗装ガンを変位可能に支持するロボットアームと、
前記塗装ガンに印加する高電圧を発生させるとともに、前記塗装ガンと前記被塗物との間に電界を形成するときに生じる放電電流を検出することにより、発生させる高電圧を調整する高電圧発生装置と、
を備える静電塗装装置であって、
前記塗装ガンにより、
前記被塗物に向けて塗料を噴霧していない状態において、前記塗装ガンから被塗物に向けて静電界を形成して、該被塗物に電荷を帯電させるとともに、
前記高電圧発生装置により、
該高電圧発生装置により前記塗装ガンに高電圧を印加していない状態において、前記被塗物に帯電した電荷により、前記塗装ガンと前記被塗物との間で生じる放電電流を検出する、
ことを特徴とする静電塗装装置。
【請求項2】
第一および第二の二つの前記静電塗装装置を備え、
第一の前記静電塗装装置の前記塗装ガンから前記被塗物に向けて静電界を形成して、該被塗物に電荷を帯電させるとともに、
第二の前記静電塗装装置の前記高電圧発生装置により、
前記被塗物に帯電した電荷により、第二の前記静電塗装装置の前記塗装ガンと前記被塗物との間で生じる放電電流を検出する、
ことを特徴とする請求項1記載の静電塗装装置。
【請求項3】
前記高電圧発生装置により、
該高電圧発生装置により前記塗装ガンに高電圧を印加していない状態において、前記被塗物に帯電した電荷により、前記塗装ガンと前記被塗物との間で生じる放電電流を検出するときには、
前記塗装ガンと前記被塗物との距離を、静電塗装時における塗装距離に比して小さくする、
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の静電塗装装置。
【請求項4】
前記塗装ガンから前記被塗物に向けて静電界を形成して、該被塗物に電荷を帯電させるときには、
前記塗装ガンの変位距離を、静電塗装時における該塗装ガンの変位距離に比して小さくする、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の静電塗装装置。
【請求項5】
前記高電圧発生装置により、
該高電圧発生装置により前記塗装ガンに高電圧を印加していない状態において、前記被塗物に帯電した電荷により、前記塗装ガンと前記被塗物との間で生じる放電電流を検出するときには、
前記塗装ガンの変位距離を、静電塗装時における該塗装ガンの変位距離に比して小さくする、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の静電塗装装置。
【請求項6】
被塗物に対して導電プライマーを塗布した後に、前記被塗物に高電圧を印加するとともに、前記被塗物の表面における電位を測定して、前記被塗物のアース状態を検査するアース状態検査方法であって、
静電塗装装置を用いて、前記被塗物に高電圧を印加するとともに、前記被塗物の表面における電位を測定する、
ことを特徴とするアース状態検査方法。
【請求項7】
第一および第二の前記静電塗装装置を用いて、
第一の前記静電塗装装置により、前記被塗物に高電圧を印加するとともに、
第二の前記静電塗装装置により、前記被塗物の表面における電位を測定する、
ことを特徴とする請求項6記載のアース状態検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−71224(P2012−71224A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216120(P2010−216120)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(309007818)友信工機株式会社 (19)
【Fターム(参考)】