説明

静電容量式センサ

【課題】再現性を向上させると共に、誤動作が発生するのを抑制する。
【解決手段】容量素子用電極E1〜E4と、それらに対向する変位電極12とを有するセンサユニット10を基板20上に配置する。そして、検知ボタン30を、センサユニット10の上方に配置されるように支持部材60によって基板20に対して支持する。このとき、検知ボタン30を支持する支持部材60と変位電極12との間に所定の空隙が形成されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、外部から加えられる力の検出を行うために用いて好適な静電容量式センサに関する。
【0002】
【従来の技術】
静電容量式センサは、操作者によって加えられた力の大きさおよび方向を電気信号に変換する装置として一般的に利用されている。例えば、携帯電話の入力装置として、多次元方向の操作入力を行うための静電容量式センサをいわゆるジョイスティックとして組み込んだ装置が利用されている。
【0003】
静電容量式センサでは、操作者から加えられた力の大きさとして、所定のダイナミックレンジをもった操作量を入力することができる。また、加えられた力を各方向成分ごとに分けて検出することが可能な二次元または三次元のセンサとしても利用されている。特に、2枚の電極によって静電容量素子を形成し、電極間隔の変化に起因する静電容量値の変化に基づいて力の検出を行う静電容量式力覚センサは、構造を単純化してコストダウンを図ることができるメリットがあるために、さまざまな分野で実用化されている。
【0004】
ここで、例えば、本件出願人による2000年12月27日付けの特許協力条約に基づく国際出願に係るPCT/JP00/09355号明細書には、図13に示すような静電容量式センサ501が記載されている。静電容量式センサ501は、基板520と、人などによって操作されることによって外部から力が加えられる操作用部材である検知部材530と、導電性を有する変位電極512と、基板520上に形成された容量素子用電極E501〜E505および基準電極(共通電極)E500と、容量素子用電極E501〜E505および基準電極E500に密着して基板520上を覆うように形成された絶縁膜513と、検知部材530および変位電極512を基板520に対して支持固定する支持部材560とを有している。
【0005】
基板520上には、図14に示すように、原点Oを中心とする円形の容量素子用電極E505と、その外側に扇形の容量素子用電極E501〜E504と、さらにその外側に原点Oを中心とする環状の基準電極E500とが形成されている。なお、変位電極512と容量素子用電極E501〜E505とのそれぞれの間には、容量素子が構成されている。
【0006】
ここで、静電容量式センサ501では、容量素子用電極E501〜E505に対して、クロック信号などの信号が入力される。そして、容量素子用電極E501〜E505に信号が入力されている状態で、検知部材530が外部からの力を受けて変位すると、これにともなって変位電極512がZ軸方向に変位する。すると、変位電極512と容量素子用電極E501〜E505とのそれぞれの間に構成された容量素子の電極間隔が変化することにより、これらの容量素子のそれぞれの静電容量値が変化して、容量素子用電極E501〜E505に入力された信号の位相にずれが生じる。このように、入力された信号に生じる位相のずれを利用して、検知部材530の変位、つまり、検知部材530が外部から受けた力のX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の大きさと方向を知ることが可能となっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、静電容量式センサ501では、検知部材530と変位電極512とは接触している(一体に構成されている)ため、検知部材530が変位する場合には、必ず変位電極512も同様に変位する。従って、検知部材530の操作前の位置と操作後の位置とが異なる場合には、変位電極512の復帰位置も元の位置からずれてしまうので、検知部材530に対する操作前および操作後における静電容量式センサ501からの出力信号が同じにならなくなってしまう。これにより、静電容量式センサ501の出力信号のヒステリシスが大きくなって、センサとしての再現性が低下してしまう。また、オペレータの意志とは関係なく、検知部材530が少しでも変位すると、変位電極512も変位してしまうので、センサの誤動作(誤操作)が生じやすい。
【0008】
そこで、本発明の目的は、再現性を向上させることができる静電容量式センサを提供することである。
【0009】
また、本発明のさらなる目的は、誤動作が発生するのを抑制することができる静電容量式センサを提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1の静電容量式センサは、検知部材と、前記検知部材と対向している第1の電極と、前記検知部材と前記第1の電極との間において、前記第1の電極との間で容量素子を構成し且つ前記検知部材が変位するのに伴って、それと同じ方向に変位可能な第2の電極とを備え、前記第2の電極は、前記検知部材との間に所定の空隙が設けられることによって、前記検知部材が前記所定の空隙分だけ変位するまでは変位しないようになっており、前記第1の電極に対して入力される信号を利用して前記第1の電極と前記第2の電極との間隔の変化に起因する前記容量素子の静電容量値の変化が検出されることに基づいて前記検知部材の変位を認識可能であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項1によると、検知部材と第2の電極との間に所定の空隙が設けられることによって、検知部材が所定の空隙分だけ変位するまでは、第2の電極が変位することはない。従って、検知部材の操作前の位置と操作後の位置とが異なる場合であっても、第2の電極の復帰位置が元の位置からずれてしまうのが抑制されるので、検知部材に対する操作前および操作後における静電容量式センサからの出力信号がほぼ同じになる。これにより、静電容量式センサの出力信号のヒステリシスが比較的小さくなって、センサとしての再現性が向上する。また、オペレータの意志に基づいて、検知部材が所定の空隙分だけ押し込まれない(変位させられない)と、第2の電極は変位しないので、センサの誤動作(誤操作)が生じにくくなる。
【0012】
なお、「検知部材の変位を認識可能である」とは、「検知部材に外部から加えられる力を認識可能である」ということとほぼ同じ意味である。また、「検知部材と第2の電極との間に所定の空隙が設けられる」とは、両者の間のどこかに空隙が形成されていればよく、検知部材と第2の電極との間に他の部材が配置されることなく、検知部材と第2の電極との間に空隙が形成される場合の他、例えば検知部材を支持する支持部材が検知部材と第2の電極との間に配置されており、当該支持部材と第2の電極との間に空隙が形成される場合であってもよい。
【0013】
請求項2の静電容量式センサは、前記所定の空隙内に配置された先細状の押圧部材が設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項2によると、検知部材に対する操作が行われた場合に、第2の電極の特定の部分を集中的に変位させることが可能となって、第1の電極と第2の電極との間の間隔を効率よく変化させることができる。
【0015】
請求項3の静電容量式センサは、前記第1の電極および前記第2の電極の両方が設けられた1つの基板をさらに備えていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項3によると、第1および第2の電極が1つの基板上に設けられることによって、センサ部が一体に構成(ユニット化)された後で、当該センサ部と検知部材とが組み立てられる。従って、検知部材(キーパッド)の形状または大きさが変更された場合でも、検知部材への操作力に対する容量素子の静電容量値の変化特性が変化することがほとんどない。そのため、静電容量式センサが例えば携帯電話などの機器に搭載される場合において、当該センサの外観(意匠)または検知部材の形状などが変更されても、ユニット化されたセンサ部は共通に利用できるので、当該機器がモデルチェンジされる度に、そのモデルにおけるジョイスティクとしての操作性を把握して、制御回路およびソフトウェアを調整する必要がなくなる。
【0017】
また、センサ部が一体に構成されているため、その他の部品との組み立てが完了しないでも、センサ部単体でその性能を確認することができる。従って、センサ部における容量素子の静電容量値の大きさなどをユニット単位で事前にチェックしておいて、規定の範囲内の静電容量値を有するセンサ部(良品)だけを選別することが可能となって、センサとして不良品が発生するのを抑制することができ、センサの歩留まりが向上する。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
まず、本発明の実施の形態に係る静電容量式センサ1の構成について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る静電容量式センサの模式的な断面図である。図2は、図1の静電容量式センサの検知部材の上面図である。
【0020】
静電容量式センサ1は、センサユニット10と、基板20と、人などによって操作されることによって外部から力が加えられる操作用の検知ボタン30と、検知ボタン30を基板20に対して支持固定する支持部材60と、検知ボタン30と支持部材60との間に配置された樹脂シート70と、カバーケース80とを有している。
【0021】
また、センサユニット10は、フレキシブル・プリント・サーキット基板(FPC)11と、変位電極12と、FPC11上に形成された容量素子用電極E1〜E4(図1ではE1およびE2のみを示す)と、基準電極(共通電極)E11〜E13と、決定スイッチ用固定電極E21と、決定スイッチ用可動電極E22と、容量素子用電極E1〜E4に密着してFPC11を覆うように配置された絶縁膜(レジスト膜)13と、変位電極12および決定スイッチ用可動電極E22に密着してFPC11を覆うように配置された樹脂シート(カバー層)90とを有している。
【0022】
ここでは、説明の便宜上、図示のとおり、XYZ三次元座標系を定義し、この座標系を参照しながら各部品に配置説明を行うことにする。すなわち、図1では、センサユニット10のFPC11上の決定スイッチ用固定電極E21の中心位置に原点Oが定義され、右水平方向にX軸が、上垂直方向にZ軸が、紙面に垂直奥行方向にY軸がそれぞれ定義されている。従って、FPC11の表面は、XY平面を規定し、FPC11上の決定スイッチ用可動電極E22および検知ボタン30のそれぞれの中心位置をZ軸が通ることになる。
【0023】
基板20は、一般的な電子回路用のプリント回路基板であり、この例ではガラスエポキシ基板が用いられている。また、基板20として、ポリイミドフィルムなどのフィルム状の基板を用いてもよいが、フィルム状の基板の場合は可撓性を有しているため、十分な剛性をもった支持基板上に配置して用いるのが好ましい。なお、本実施の形態では、基板20上には、後述するセンサ回路(電子回路)が設けられており、その裏面にはセンサ回路部品50が配置されている。
【0024】
支持部材60は、平板状の部材であって、例えばシリコンゴムなどの弾性を有する材料により形成されている。また、支持部材60の下面には、センサユニット10よりも大きい略矩形の下方に開いた凹部60aが形成されており、支持部材60の下面の凹部60a以外の部分が基板20に接触するように配置されている。
【0025】
また、支持部材60の凹部60aの底面には、決定スイッチ用固定電極E21に対応する位置には先細状の突起体61が形成されており、容量素子用電極E1〜E4に対応する位置にはそれぞれ先細状の突起体62が形成されている。なお、検知ボタン30に対する操作が行われていない場合には、突起体61、62の先端部と変位電極12の上面に配置された樹脂シート90との間には所定の空隙が形成されている。カバーケース80は、例えば樹脂により形成された部材であって、樹脂シート70の上面において検知ボタン30の周囲を覆うように配置されている。
【0026】
ここで、本実施の形態では、支持部材60に突起体61、62が形成されているため、決定スイッチ用可動電極E22および変位電極12のそれぞれの特定の部分を効率よく変位させることができる。なお、突起体61、62は、必ずしも形成されていなくてもよい。
【0027】
検知ボタン30は、Z軸を中心とする円形の中央ボタン31と、中央ボタン31の外側に配置された環状の方向ボタン32とから構成されている。ここで、中央ボタン31の径は、基準電極E13の外径よりも若干大きい。また、方向ボタン32は、図2に示すように、受力部となる小径の上段部32aと、上段部32aの下端部から外側に突出する大径の下段部32bとから構成されている。上段部32aの外径は、基準電極E12の外径とほぼ同じであって、下段部32bの外径は、それよりも大きくなっている。なお、中央ボタン31および方向ボタン32は別部材である方が好ましいが、同一部材であってもよい。
【0028】
ここで、中央ボタン31は、決定スイッチ用固定電極E21、決定スイッチ用可動電極E22および基準電極E13に対応するように、支持部材60上の樹脂シート70の上面に接着固定されている。また、方向ボタン32は、容量素子用電極E1〜E4に対応するように、その下段部32bがカバーケース80の一部である止め部80aにより押止され、樹脂シート70の上面において抜け止め構造により配置されている。このように、方向ボタン32の外径は、カバーケース80の止め部80aの先端部によって形成される円の径よりも大きくなっているため、カバーケース80から飛び出ることはない。なお、方向ボタン32は樹脂シート70の上面に接着固定されていてもよい。また、中央ボタン31と樹脂シート70とは、一体成型されていてもよい。
【0029】
また、方向ボタン32の上段部32aの上面には、図2に示すように、X軸およびY軸のそれぞれの正方向および負方向に対応するように、すなわち、容量素子用電極E1〜E4に対応するように、操作方向(カーソルの移動方向)に対応した矢印が形成されている。
【0030】
なお、基板20、支持部材60、樹脂シート70およびカバーケース80は、それぞれに形成された貫通孔(図示しない)に嵌挿された固定ネジ(図示しない)がそれに対応するナット(図示しない)に螺締されることによって、各部品が互いに離れないように固定されている。
【0031】
次に、本実施の形態に係る静電容量式センサ1に含まれるセンサユニット10の構成について、図面を参照しつつ説明する。図3は、図1の静電容量式センサのFPC上に形成されている複数の電極の配置を示す図である。図4は、基板上にFPCが配置される様子を示す図である。図5は、変位電極の概略構成を示す図である。
【0032】
センサユニット10は、図1および図3に示すように、略矩形のFPC11の上面に対して、例えば容量素子用電極E1〜E4、変位電極12などの多数の電極が一体に(ユニットとして)設けられたものである。そして、センサユニット10は、FPC11の下面が基板20上に接触するとともに、支持部材60の凹部60a内に配置されるように、接着剤によって接着されている。ここで、FPC11は、可撓性を有しているため、センサユニット10の取り扱いが容易である。なお、センサユニット10のFPC11は、可撓性を有していない薄い基板に置き換えられてもよい。
【0033】
FPC11上には、図3に示すように、原点Oを中心とする円形の決定スイッチ用固定電極E21と、決定スイッチ用固定電極E21の外側に配置された環状の基準電極E13と、基準電極E13の外側に配置された環状の基準電極E11と、基準電極E11の外側に略扇形である容量素子用電極E1〜E4と、容量素子用電極E1〜E4の外側に配置された環状の基準電極E12とが設けられている。
【0034】
ここで、容量素子用電極E1はX軸の正方向に対応するように配置され、容量素子用電極E2はX軸の負方向に対応するように配置されており、外部からの力のX軸方向成分の検出に利用される。また、容量素子用電極E3はY軸の正方向に対応するように配置され、容量素子用電極E4はY軸の負方向に対応するように配置されており、外部からの力のY軸方向成分の検出に利用される。また、決定スイッチ用固定電極E21は、原点O上に配置されており、決定スイッチ用可動電極E22とともに、入力などの決定操作に利用される。
【0035】
なお、一対の容量素子用電極E1および容量素子用電極E2とは、X軸方向に離隔してY軸に対して線対称に配置されている。また、一対の容量素子用電極E3および容量素子用電極E4は、Y軸方向に離隔してX軸に対して線対称に配置されている。
【0036】
そして、FPC11の上方には、図5に示すような変位電極12が配置されている。なお、図5では、図1に示される変位電極12が上下に反転される(裏返される)ことによって、その裏面の構成が分かり易く図示されている。変位電極12は、基準電極E12の外径とほぼ同じ外径の円盤形状を有する金属製の部材である。変位電極12の中心位置には、基準電極E11の内径とほぼ同じ外径を有する貫通孔12aが形成されている。また、変位電極12の裏面(図5では上面)には、基準電極E11の外径とほぼ同じ内径を有し且つ基準電極E12の内径とほぼ同じ外径を有する環状の溝部12bが形成されている。
【0037】
なお、変位電極12としては、金属製のものの他、例えば導電性プラスチック、シリコンゴムなどの導電性ゴム、導電性熱可塑性樹脂(PPT、エラストマー)などで形成されたものであってもよい。ここで、本実施の形態では、変位電極12の貫通孔12aおよび溝部12bは、1枚の金属板などに対してエッチング加工が施されることにより形成されている。なお、変位電極12の貫通孔12aおよび溝部12bは、複数の環状の金属板などが重ね合わされて形成されてもよい。また、変位電極12は、薄い金属板などをドーム状にプレス加工されることによって形成されてもよい。また、変位電極12は、可撓性を有するFPCで形成することも可能である。
【0038】
ここで、変位電極12が、その貫通孔12aの中心位置がZ軸に対応し且つその裏面がFPC11側になるように密着して配置されると、変位電極12の裏面の溝部12bよりも内側の部分が基準電極E11に接触するとともに、変位電極12の裏面の溝部12bよりも外側の部分が基準電極E12に接触する。
【0039】
そして、FPC11上の容量素子用電極E1〜E4と、変位電極12の裏面の溝部12bの底面との間には、溝部12bの深さとほぼ同じ間隔の空隙が形成される。なお、本実施の形態では、容量素子用電極E1〜E4上に絶縁膜13が配置されるため、容量素子用電極E1〜E4と溝部12bの底面との間の空隙は、溝部12bの深さよりも若干狭くなる。
【0040】
従って、後述するように、変位電極12と容量素子用電極E1〜E4との間には、容量素子C1〜C4が構成されることになる。また、変位電極12と容量素子用電極E1〜E4との間の間隔は、方向ボタン32に対する操作が行われた場合には狭くなって、その加えられた力が解除されると元の間隔に戻ることが可能であるため、容量素子C1〜C4はいずれも可変容量素子であると考えられる。
【0041】
また、FPC11の中心位置近傍の上方には、基準電極E13に接触するとともに、決定スイッチ用固定電極E21と離隔しつつ、これを覆うようにドーム状の決定スイッチ用可動電極E22が配置されている。ここで、中央ボタン31に対する操作が行われた場合に、決定スイッチ用可動電極E22の頂部近傍に下方へ向かう力が加えられると、決定スイッチ用可動電極E22がクリック感を付随しつつ弾性変形して決定スイッチ用固定電極E21に接触するようになっている。その結果、決定スイッチ用固定電極E21と基準電極E13とが、決定スイッチ用可動電極E22を介して電気的に接続されるので、両者の間の電気的な接続の有無が検出されることによって、スイッチとして利用することが可能となる。
【0042】
ここで、変位電極12および決定スイッチ用可動電極E22が上述のように配置された後、変位電極12の上面全体および決定スイッチ用可動電極E22の上面全体に密着するように配置された略円形の薄い樹脂シート90によって、FPC11上に対して固定される。なお、樹脂シート90には、接着剤が塗布されており、変位電極12および決定スイッチ用可動電極E22をFPC11に対して押圧しつつ固定することができる。
【0043】
本実施の形態では、変位電極12および決定スイッチ用可動電極E22は、接着剤の塗布された樹脂シート90によってFPC11に対して固定されているが、導電性接着剤によって固定されてもよい。
【0044】
また、FPC11のX軸正方向およびX軸負方向の端部近傍には複数の切り欠きが形成されており、これらの切り欠き近傍には電極から構成される端子群が設けられている。本実施の形態では、この端子群として、6つの端子T1、T2、T11〜T13、T21が含まれており、図3にはこれらだけが図示されている。これらの端子はいずれも接続用ランドとして用いられる。ここで、容量素子用電極E1〜E4、基準電極E11〜E13および決定スイッチ用固定電極E21は、リード線(図示しない)によって、端子T1、T2、T11〜T13、T21のいずれかにそれぞれ接続されている(図6参照)。
【0045】
一方、基板20上のセンサユニット10が配置される領域の外縁近傍には、図4に示すように、FPC11上の各端子に対応するように配置された複数の接続用電極が設けられている。これらの接続用電極はいずれも接続用ランドとして用いられる。なお、図4では、複数の接続用電極のうち端子T1および端子T11に対応するものだけが、接続用電極L1、L11として図示されている。
【0046】
従って、基板20上にセンサユニット10が配置された後で、図4に示すように、端子T1と接続用電極L1との間および端子T11と接続用電極L11との間に導電性を有するハンダ18が配置されると、両者が電気的に且つ機械的に接続されることになる。なお、FPC11上のその他の端子も、端子T1、T11と同様に、それぞれに対応するように設けられた接続用電極との間にハンダが配置されることによって、電気的に且つ機械的に接続されている。なお、FPC11上の各端子と基板20上の各接続用電極とを接続するための部材としては、ハンダの他に、例えば導電性接着剤などがある。
【0047】
そして、容量素子用電極E1〜E4、基準電極E11〜E13および決定スイッチ用固定電極E21は、それぞれ端子T1、T2、T11〜T13、T21を通じて、後述するように、基板20上に設けられたセンサ回路などに接続される。ここで、本実施の形態では、基準電極E11〜E13は、端子T11〜T13を介してそれぞれ接地されている。
【0048】
なお、絶縁膜13が、上述したように、FPC11上の容量素子用電極E1〜E4に密着して覆うように配置されているため、銅などで形成された容量素子用電極E1〜E4が空気にさらされることがなく、それらが酸化されるのを防止する機能を有している。なお、容量素子用電極E1〜E4に対して、その表面への金メッキの形成などの酸化防止対策を施しておいてもよい。また、絶縁膜13が配置されることによって、容量素子用電極E1〜E4と変位電極12とが直接接触して誤作動することはない。
【0049】
また、本実施の形態のように、変位電極12として、可撓性および弾性に富んだ金属製の部材が用いられている場合には、検知ボタン30の操作前の位置と操作後の位置とが異なる場合であっても、変位電極12の復帰位置が元の位置からずれてるのが効果的に抑制される。従って、変位電極12は、位置再現性を考慮して選択された材料により形成されるのが好ましく、この場合には、変位電極12の復帰位置の元の位置からのずれは、実用上問題が生じないようにすることが容易に可能となる。
【0050】
なお、検知ボタン30は、デザイン的な制限や製品としての質感を高くするために、その材料、取り付け方法および固定方法に様々な制約があり、位置再現性を優先して、設計するのが困難である。ここで、本発明の静電容量式センサ1では、センサとしてのセンサ部および操作ボタンを分離することができ、センサ本来の性能を十分に引き出すことができるようになる。
【0051】
次に、静電容量式センサ1の回路構成について、図6を参照して説明する。図6は、図1に示す静電容量式センサの構成に対する等価回路図である。
【0052】
静電容量式センサ1では、変位電極12とFPC11上の容量素子用電極E1〜E4との間には、共通の電極である変位可能な変位電極12と、固定された個別の容量素子用電極E1〜E4で形成される容量素子C1〜C4が構成されている。ここで、容量素子C1〜C4は、それぞれ変位電極12の変位に起因して静電容量値が変化するように構成された可変容量素子であるということができる。
【0053】
また、決定スイッチS1が、基準電極E13と決定スイッチ用固定電極E21との間に形成されている。つまり、基準電極E13に接触している決定スイッチ用可動電極E22が、決定スイッチ用固定電極E21と接触する状態(オン状態)および決定スイッチ用固定電極E21と接触しない状態(オフ状態)のいずれかの状態を取り得るようになっている。
【0054】
なお、本実施の形態では、基準電極E11、E12は、接地されているとともに、変位電極12と接触している。従って、変位電極12は、基準電極E11、E12および端子T21、T22を介して接地されていることになる。
【0055】
次に、上述のように構成された本実施の形態に係る静電容量式センサ1の動作について、図面を参照して説明する。図7は、図1に示す静電容量式センサの方向ボタンにX軸正方向への操作が行われた場合の側面の模式的な断面図である。図8は、図1に示す静電容量式センサの中央ボタンに操作が行われた場合の側面の模式的な断面図である。
【0056】
まず、図1に示す検知ボタン30に力が作用していないときの状態において、図7に示すように、方向ボタン32にX軸正方向への操作が行われた場合、すなわち、方向ボタン32の上段部32aに形成されたX軸正方向に対応するように矢印を基板20側に押し下げるような力(Z軸負方向への力)が加えられた場合を考える。
【0057】
方向ボタン32のX軸正方向に対応する部分が押し下げられることにより、支持部材60および樹脂シート70が弾性変形を生じてたわみ、支持部材60のX軸正方向に対応する突起部62が下方へと変位する。そして、突起部62が所定高さだけ押し下げられると、突起部62の先端部が、変位電極12の上面に配置された樹脂シート90に当接するようになって、変位電極12の突起部62に対応する部分近傍に対して下方向への力が作用する。このように、方向ボタン32に対する操作が行われる場合には、突起部62が所定高さだけ押し下げられて、その先端部が変位電極12の上面に配置された樹脂シート90に当接するまでの間は、変位電極12は変位しないようになっている。
【0058】
その後、引き続き、方向ボタン32が押し下げられると、支持部材60、樹脂シート70および変位電極12がさらに弾性変形を生じてたわみ、変位電極12の当該部分が下方に変位する。従って、変位電極12と容量素子用電極E1と間の間隔が小さくなる。なお、一般的に、容量素子の静電容量値は、容量素子を構成する電極の間隔に反比例することより、容量素子C1の静電容量値は大きくなる。
【0059】
従って、方向ボタン32にX軸正方向への操作が行われた場合には、容量素子C1〜C4のなかで、変位電極12と容量素子用電極E1〜E4との間の間隔に変化があった容量素子C1の静電容量値のみが変化する。そして、このとき、後で詳述するように、端子T1に入力される周期信号Aは、容量素子C1を含む遅延回路を通過することによって位相にずれが生じ、その位相のずれが読み取られることによって出力信号Vxが導出される。
【0060】
また、このとき、変位電極12と容量素子用電極E2〜E4とのそれぞれの間隔はほとんど変化しない。そのため、容量素子C2〜C4の静電容量値は変化せず、容量素子C2〜C4をそれぞれ含む遅延回路を通過することによっては、位相にずれは生じない。なお、方向ボタン32にX軸正方向への操作が行われた場合に、方向ボタン32と支持部材60の突起体62との位置関係によって、容量素子C2〜C4の静電容量値が変化することもあるが、それらの変化量は、容量素子C1の静電容量値の変化量と比較して小さい。
【0061】
次に、図1に示す検知ボタン30に力が作用していないときの状態において、図8に示すように、中央ボタン31に操作が行われた場合、すなわち、中央ボタン31を基板20側に押し下げるような力(Z軸負方向への力)が加えられた場合を考える。
【0062】
中央ボタン31が押し下げられることにより、支持部材60および樹脂シート70が弾性変形を生じてたわみ、支持部材60の決定スイッチ用固定電極E21に対応する突起部61が下方へと変位する。そして、突起部61が所定高さだけ押し下げられると、突起部61の先端部が、決定スイッチ用可動電極E22の上面に配置された樹脂シート90に当接するようになって、決定スイッチ用可動電極E22の頂部近傍に対して下方向への力が作用する。このように、中央ボタン31に対する操作が行われる場合には、突起部61が所定高さだけ押し下げられて、その先端部が決定スイッチ用可動電極E22の上面に配置された樹脂シート90に当接するまでの間は、決定スイッチ用可動電極E22は変位しないようになっている。
【0063】
そして、その力が所定値に満たないときには決定スイッチ用可動電極E22はほとんど変位しないが、その力が所定値に達したときには、決定スイッチ用可動電極E22の頂部近傍部分が座屈を伴って急激に弾性変形して凹んだ状態となって決定スイッチ用固定電極E21と接触するようになる。これにより、決定スイッチS2がオフ状態からオン状態に切り換えられる。このとき、操作者には、明瞭なクリック感が与えられることになる。
【0064】
次に、容量素子C1〜C4のそれぞれの静電容量値の変化から、検知ボタン30の方向ボタン32への外部からの力の大きさおよび方向を示す出力信号の導出方法について、図9〜図12を参照して説明する。図9は、図1に示す静電容量式センサに入力される周期信号から出力信号を導出する方法を説明するための説明図である。ここで、出力信号Vx、Vyの変化は、それぞれ外部からの力のX軸方向成分およびY軸方向成分の大きさおよび方向を示す。
【0065】
ここで、出力信号Vx、Vyを導出するために、端子T1、T2に対して、クロック信号などの周期信号が入力される。そして、端子T1、T2に周期信号が入力されている状態で方向ボタン32が外部からの力を受けて変位すると、これにともなって変位電極12がZ軸負方向に変位し、容量素子C1〜C4の電極間隔が変化して、容量素子C1〜C4のそれぞれの静電容量値が変化する。すると、端子T1、T2に入力された周期信号の位相にずれが生じる。このように、周期信号に生じる位相のずれを利用して、方向ボタン32の変位、つまり、方向ボタン32が外部から受けた力のX軸方向およびY軸方向の大きさと方向を示す出力信号Vx、Vyを得ることができる。
【0066】
さらに詳細に説明すると、端子T1に対して周期信号Aが入力されるとき、端子T2に対しては周期信号Aと同一の周期で、かつ、周期信号Aの位相とは異なる周期信号Bが入力される。そのとき、方向ボタン32が外部から力を受けて、容量素子C1〜C4の静電容量値がそれぞれ変化すると、端子T1、T2にそれぞれ入力された周期信号Aおよび周期信号Bの少なくともいずれかの位相にずれが生じる。つまり、容量素子C1、C3の静電容量値が変化すると、端子T1にそれぞれ入力された周期信号Aの位相にずれが生じ、一方、容量素子C2、C4の静電容量値が変化すると、端子T2にそれぞれ入力された周期信号Bの位相にずれが生じる。
【0067】
すなわち、外部からの力にX軸方向成分が含まれる場合は、容量素子C1の静電容量値が変化し、端子T1に入力された周期信号Aの位相にずれが生じるか、或いは、容量素子C2の静電容量値が変化し、端子T2に入力された周期信号Bの位相にずれが生じるかのいずれか或いは両方である。ここで、容量素子C1、C2の静電容量値の変化は、外部からの力のX軸正方向成分、X軸負方向成分にそれぞれ対応している。このように、端子T1および端子T2にそれぞれ入力された周期信号Aおよび周期信号Bの位相のずれを例えば排他和回路などで読み取ることによって、出力信号Vxが導出される。この出力信号Vxの変化量の符号が、外部からの力のX軸方向成分が正方向または負方向の向きかを示し、出力信号Vxの変化量の絶対値がX軸方向成分の大きさを示す。
【0068】
また、外部からの力にY軸方向成分が含まれる場合は、容量素子C3の静電容量値が変化し、端子T1に入力された周期信号Aの位相にずれが生じるか、或いは、容量素子C4の静電容量値が変化し、端子T2に入力された周期信号Bの位相にずれが生じるかのいずれか或いは両方である。ここで、容量素子C3、C4の静電容量値の変化は、外部からの力のY軸正方向成分、Y軸負方向成分にそれぞれ対応している。このように、端子T1および端子T2にそれぞれ入力された周期信号Aおよび周期信号Bの位相のずれを例えば排他和回路などで読み取ることによって、出力信号Vyが導出される。この出力信号Vyの変化量の符号が、外部からの力のY軸方向成分が正方向または負方向の向きかを示し、出力信号Vyの絶対値がY軸方向成分の大きさを示す。
【0069】
次に、端子T1、T2に入力された周期信号A、Bによる出力信号Vx、Vyを導出するための信号処理回路について、図10を参照しながら説明する。図10は、図1に示す静電容量式センサの信号処理回路を示す回路図である。
【0070】
端子T1には、抵抗素子R1、R3が接続されており、端子T2には、抵抗素子R2、R4が接続されている。また、抵抗素子R1、R2の出力端および抵抗素子R3、R4の出力端には、それぞれ排他和回路の論理素子であるEX−OR素子100、101が接続されており、その出力端は端子T120、T121に接続されている。そして、端子T120、T121には、ローパスフィルター(平滑回路)110、111が接続されており、その出力端は端子T130、T131に接続されている。また、抵抗素子R1〜R4の出力端は、それぞれ容量素子用電極E1〜E4に接続され、それぞれ変位電極12との間で容量素子C1〜C4を構成している。また、変位電極12は、端子T11、T12を介して接地されている。
【0071】
ここで、ローパスフィルター110、111は、EX−OR素子100、101から出力される出力信号Vxをアナログ電圧Vx’に変換するためのものである。つまり、容量素子C1〜C4のそれぞれの静電容量値の変化が、ローパスフィルター110、111に入力される前の出力信号Vxの波形のデューティ比の変化として検出され、この信号をローパスフィルター110、111を通過させて平滑することにより、このデューティ比を電圧値に変換して利用することができる。ローパスフィルター110、111は、抵抗素子R110、R111および容量素子C110、C111でそれぞれ構成されている。なお、容量素子C110、C111の2つの電極のなかで抵抗素子R110、R111に接続されていない方の電極は接地されている。
【0072】
従って、EX−OR素子100、101から端子T120、T121に対して出力される出力信号Vxは、ローパスフィルター110、111を通過することにより平滑され、端子T130、T131に対してアナログ電圧Vx’として出力される。このアナログ電圧Vx’の値は、出力信号Vxのデューティ比に比例して変化する。したがって、出力信号Vxのデューティ比が大きくなるとそれに伴ってアナログ電圧Vx’の値も大きくなり、一方、出力信号Vxのデューティ比が小さくなるとそれに伴ってアナログ電圧Vx’の値も小さくなる。また、出力信号Vxのデューティ比がほとんど変化しないときはアナログ電圧Vx’の値もほとんど変化しない。
【0073】
ここから、X軸方向成分の出力信号Vxの導出方法について、図11および図12を参照して説明する。図11は、図1に示す静電容量式センサのX軸方向成分についての信号処理回路を示す回路図(図10の一部分)である。図12は、図11に示す信号処理回路の各端子および各節点における周期信号の波形を示す図である。なお、Y軸方向成分の出力信号Vyの導出方法については、X軸方向成分の出力信号Vxの導出方法と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0074】
図11の信号処理回路において、容量素子C1と抵抗素子R1および容量素子C2と抵抗素子R2はそれぞれCR遅延回路を形成している。従って、端子T1、T2に入力された周期信号(矩形波信号)は、それぞれCR遅延回路によって所定の遅延が生じ、EX−OR素子100に入力される。
【0075】
さらに詳細に説明すると、端子T1には周期信号f(φ)(上述の周期信号Aに対応している)が入力され、また、端子T2にはf(φ)と同一の周期で、かつ、位相がθだけずれている周期信号f(φ+θ)(上述の周期信号Bに対応している)が入力される。端子T1に入力される周期信号f(φ)は、容量素子C1と抵抗素子R1により構成されるCR遅延回路を通過して、節点X1に到達する。このとき、節点X1における周期信号には、図12に示すように、時間aの遅延が生じている。同様に、端子T2に入力される周期信号f(φ+θ)は、容量素子C2と抵抗素子R2により構成されるCR遅延回路を通過して、節点X2に到達する。このとき、節点X2における周期信号には、時間bの遅延が生じている。
【0076】
ここで、端子T1、T2にそれぞれ入力される異なる位相の周期信号f(φ)、f(φ+θ)は、1つの周期信号発振器から出力された周期信号を2つの経路に分け、その一方の経路に図示しないCR遅延回路を設け、CR遅延回路を通過する周期信号の位相を遅延させることによって発生させられる。なお、周期信号の位相をずらせる方法は、CR遅延回路を用いる方法に限らず、他のどのような方法であってもよいし、また、2つの周期信号発振器を用いて、それぞれ異なる位相の周期信号f(φ)、f(φ+θ)を発生させ、端子T1、T2のそれぞれに入力してもよい。
【0077】
ここで、時間a、bは、それぞれCR遅延回路における遅延時間に対応し、それぞれのCRの時定数により決定される。したがって、抵抗素子R1、R2の抵抗値が同一である場合は、時間a、bの値は容量素子C1、C2の静電容量値に対応するようになる。すなわち、容量素子C1、C2の静電容量値が大きくなると、時間a、bの値も大きくなり、容量素子C1、C2の静電容量値が小さくなると、時間a、bの値も小さくなる。
【0078】
このように、EX−OR素子100には、節点X1、X2における周期信号と同一の波形の信号が入力され、これらの信号の間で排他的論理演算が行われ、その結果を端子T120に対して出力される。ここで、端子T120に対して出力される信号は、所定のデューティ比をもった矩形波信号である(図12参照)。
【0079】
ここで、方向ボタン32のX軸正方向部分に対する操作が行われた場合(図7参照)の各端子および各節点における周期信号の波形を考えることにする。なお、この場合の信号処理回路における容量素子用電極E1、E2と変位電極12との間で構成される容量素子をC1’、C2’とし、方向ボタン32に対する操作が行われていない場合の信号処理回路の節点X1、X2および端子T120と同位置における各節点および端子を節点X1’、X2’および端子T120’とする(図13参照)。
【0080】
このとき、上述と同様に、図11の信号処理回路において、端子T1には周期信号f(φ)が入力され、また、端子T2には、f(φ)と同一の周期で位相がθだけずれている周期信号f(φ+θ)が入力されている。端子T1に入力される周期信号f(φ)は、容量素子C1’と抵抗素子R1により構成されるCR遅延回路を通過して、節点X1’に到達する。このとき、節点X1’における周期信号には、図12に示すように、時間a+Δaの遅延が生じている。これは、容量素子C1’の静電容量値が容量素子C1よりも大きくなったことにより、CR遅延回路の時定数が大きくなったためである。一方、端子T2に入力される周期信号f(φ+θ)は、容量素子C2’と抵抗素子R2により構成されるCR遅延回路を通過して、節点X2’に到達する。このとき、方向ボタン32のX軸負方向部分には力が加えられていないため、節点X2’における周期信号は、節点X2における周期信号と同じ波形を有している。
【0081】
このように、EX−OR素子100には、節点X1’、X2’における周期信号と同一の波形の信号が入力され、これらの信号の間で排他的論理演算が行われ、その結果を端子T120’に対して出力される。ここで、端子T120’に対して出力される信号は、所定のデューティ比をもった矩形波信号であり、図12に示すように、方向ボタン32に対する操作が行われていない場合において、端子T120に出力された矩形波信号よりも、デューティ比の小さい矩形波信号である。
【0082】
ここで、実際には、上述したように、端子T120および端子T120’に対して出力される信号は、いずれもローパスフィルター110によって平滑された後で出力される。
【0083】
なお、本実施の形態の静電容量式センサ1は、力覚センサとして用いられており、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、パソコン、ゲームなどの入力装置(ジョイスティック)として利用されるのに好ましい。また、本実施の形態の静電容量式センサ1は、力覚センサとして用いられる場合に限らず、例えば加速度センサなど、その他のセンサとして用いられる場合も、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0084】
以上のように、本実施の形態に係る静電容量式センサ1においては、検知ボタン30を支持する支持部材60と、変位電極12との間に所定の空隙が設けられることによって、検知ボタン30が所定の空隙分だけ変位するまでは、変位電極12が変位することはない。従って、検知ボタン30の操作前の位置と操作後の位置とが異なる場合であっても、変位電極12の復帰位置が元の位置からずれてしまうのが抑制されるので、検知ボタン30に対する操作前および操作後における静電容量式センサからの出力信号がほぼ同じになる。これにより、静電容量式センサ1の出力信号のヒステリシスが比較的小さくなって、センサとしての再現性が向上する。また、オペレータの意志に基づいて、検知ボタン30が所定の空隙分だけ押し込まれない(変位させられない)と、変位電極12は変位しないので、センサの誤動作(誤操作)が生じにくくなる。
【0085】
また、検知ボタン30を支持する支持部材60には、容量素子用電極E1〜E4に対応するように配置された突起体62が形成されているため、変位電極12の容量素子用電極E1〜E4に対向する部分を効率よく変位させることができる。
【0086】
また、容量素子用電極E1〜E4および変位電極12が1つのFPC11上に設けられることによって、センサ部が一体に構成(ユニット化)された後で、当該センサ部と検知ボタン30とが組み立てられる。従って、検知ボタン30の形状または大きさが変更された場合でも、検知ボタン30への操作力に対する容量素子の静電容量値の変化特性が変化することがほとんどない。そのため、静電容量式センサ1が例えば携帯電話などの機器に搭載される場合において、当該センサの外観または検知ボタン30の形状などが変更されても、ユニット化されたセンサ部は共通に利用できるので、当該機器がモデルチェンジされる度に、そのモデルにおけるジョイスティクとしての操作性を把握して、制御回路およびソフトウェアを調整する必要がなくなる。
【0087】
また、センサ部が一体に構成されているため、その他の部品との組み立てが完了しないでも、センサ部単体でその性能を確認することができる。従って、センサ部における容量素子の静電容量値の大きさなどをユニット単位で事前にチェックしておいて、規定の範囲内の静電容量値を有するセンサ部(良品)だけを選別することが可能となって、センサとして不良品が発生するのを抑制することができ、センサの歩留まりが向上する。
【0088】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて、様々な設計変更を行うことが可能なものである。例えば、上述の実施の形態では、センサユニット10として、FPC11の上面に対して、例えば容量素子用電極E1〜E4および変位電極12が一体に設けられている場合について説明しているが、これに限らず、これらは必ずしも一体に設けられていなくてもよい。従って、容量素子用電極および変位電極が、基板に対してそれぞれ別々に支持されており、さらに変位電極との間に所定の空隙が形成されるように配置された検知ボタンが支持部材によって支持されたものであってもよい。
【0089】
また、上述の実施の形態では、押圧部材として機能する先細状の突起体62が、支持部材60の変位電極12と対向する面上において変位電極12に向かって突出するように形成されている場合について説明しているが、これに限らず、突起体の形状は任意に変更することができるし、突起体が変位電極の支持部材(検知ボタン)と対向する面上において支持部材に向かって突出するように形成されていてもよい。このように、方向ボタンに対する操作が行われた場合に、方向ボタンを支持する支持部材と変位電極との間の空隙内において、変位電極の特定の部分を集中的に変位させることが可能であれば、突起体の構成は任意に変更することができる。なお、押圧部材としては、支持部材または変位電極のいずれかから他方に突出するように形成された突起部の他、支持部材および変位電極とは異なる部材が配置されていてもよい。
【0090】
また、上述の実施の形態では、変位電極12を接地するためにFPC11上に2つの基準電極E11、E12が設けられている場合について説明しているが、基準電極E11、E12のいずれか一方だけが設けられていてもよい。
【0091】
また、上述の実施の形態では、決定スイッチS1が設けられている場合について説明しているが、決定スイッチは必ずしも設けられていなくてもよい。この場合には、中央ボタン31、決定スイッチ用固定電極E21、決定スイッチ用可動電極E22および基準電極E13は無くてもよい。
【0092】
また、上述の実施の形態では、方向ボタン32に対して外部から加えられた力のX軸方向成分およびY軸方向成分の2つの成分を検出可能な静電容量式センサ1について説明しているが、これに限らず、上述の2つのうち必要な1成分だけを検出可能なものであってもよい。
【0093】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1によると、検知部材と第2の電極との間に所定の空隙が設けられることによって、検知部材が所定の空隙分だけ変位するまでは、第2の電極が変位することはない。従って、検知部材の操作前の位置と操作後の位置とが異なる場合であっても、第2の電極の復帰位置が元の位置からずれてしまうのが抑制されるので、検知部材に対する操作前および操作後における静電容量式センサからの出力信号がほぼ同じになる。これにより、静電容量式センサの出力信号のヒステリシスが比較的小さくなって、センサとしての再現性が向上する。また、オペレータの意志に基づいて、検知部材が所定の空隙分だけ押し込まれない(変位させられない)と、第2の電極は変位しないので、センサの誤動作(誤操作)が生じにくくなる。
【0094】
請求項2によると、検知部材に対する操作が行われた場合に、第2の電極の特定の部分を集中的に変位させることが可能となって、第1の電極と第2の電極との間の間隔を効率よく変化させることができる。
【0095】
請求項3によると、第1および第2の電極が1つの基板上に設けられることによって、センサ部が一体に構成(ユニット化)された後で、当該センサ部と検知部材とが組み立てられる。従って、検知部材(キーパッド)の形状または大きさが変更された場合でも、検知部材への操作力に対する容量素子の静電容量値の変化特性が変化することがほとんどない。そのため、静電容量式センサが例えば携帯電話などの機器に搭載される場合において、当該センサの外観(意匠)または検知部材の形状などが変更されても、ユニット化されたセンサ部は共通に利用できるので、当該機器がモデルチェンジされる度に、そのモデルにおけるジョイスティクとしての操作性を把握して、制御回路およびソフトウェアを調整する必要がなくなる。
【0096】
また、センサ部が一体に構成されているため、その他の部品との組み立てが完了しないでも、センサ部単体でその性能を確認することができる。従って、センサ部における容量素子の静電容量値の大きさなどをユニット単位で事前にチェックしておいて、規定の範囲内の静電容量値を有するセンサ部(良品)だけを選別することが可能となって、センサとして不良品が発生するのを抑制することができ、センサの歩留まりが向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る静電容量式センサの模式的な断面図である。
【図2】図1の静電容量式センサの検知部材の上面図である。
【図3】図1の静電容量式センサのFPC上に形成されている複数の電極の配置を示す図である。
【図4】基板上にFPCが配置される様子を示す図である。
【図5】変位電極の概略構成を示す図である。
【図6】図1に示す静電容量式センサの構成に対する等価回路図である。
【図7】図1に示す静電容量式センサの方向ボタンにX軸正方向への操作が行われた場合の側面の模式的な断面図である。
【図8】図1に示す静電容量式センサの中央ボタンに操作が行われた場合の側面の模式的な断面図である。
【図9】図1に示す静電容量式センサに入力される周期信号から出力信号を導出する方法を説明するための説明図である。
【図10】図1に示す静電容量式センサの信号処理回路を示す回路図である。
【図11】図1に示す静電容量式センサのX軸方向成分についての信号処理回路を示す回路図である。
【図12】図11に示す信号処理回路の各端子および各節点における周期信号の波形を示す図である。
【図13】従来の静電容量式センサの模式的な断面図である。
【図14】図13の静電容量式センサの基板上に形成されている複数の電極の配置を示す図である。
【符号の説明】
1 静電容量式センサ
11 FPC(基板)
12 変位電極(第2の電極)
30 検知ボタン(検知部材)
61、61 突起体(押圧部材)
E1〜E4 容量素子用電極(第1の電極)
C1〜C4 容量素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知部材と、
前記検知部材と対向している第1の電極と、
前記検知部材と前記第1の電極との間において、前記第1の電極との間で容量素子を構成し且つ前記検知部材が変位するのに伴って、それと同じ方向に変位可能な第2の電極とを備え、
前記第2の電極は、前記検知部材との間に所定の空隙が設けられることによって、前記検知部材が前記所定の空隙分だけ変位するまでは変位しないようになっており、
前記第1の電極に対して入力される信号を利用して前記第1の電極と前記第2の電極との間隔の変化に起因する前記容量素子の静電容量値の変化が検出されることに基づいて前記検知部材の変位を認識可能であることを特徴とする静電容量式センサ。
【請求項2】
前記所定の空隙内に配置された先細状の押圧部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の静電容量式センサ。
【請求項3】
前記第1の電極および前記第2の電極の両方が設けられた1つの基板をさらに備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の静電容量式センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2004−45178(P2004−45178A)
【公開日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−202380(P2002−202380)
【出願日】平成14年7月11日(2002.7.11)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】