説明

静電荷散逸性の硬質積層板表面

本発明は、セルロース系基板と熱硬化性ポリマー樹脂に、固有導電性高分子、導電性ナノフェーズ材料、およびこれらの混合物から選択されるコンダクタンス改質成分を添加することにより改良された静電荷散逸性硬質積層板を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板材料に塗布または混合して、静電荷散逸能を付与する、静電荷散逸性材料に関する。より具体的には、本発明は、電子部品の組立または試験用の作業表面として使用するのに適した静電荷散逸性の硬質積層板表面または構造体に関する。より具体的には、本発明は、低(約10%未満の)相対湿度における静電荷散逸特性が改良されたメラミンホルムアルデヒド樹脂から形成された硬質積層板表面または構造体に関する。特に、本発明は、メラミンホルムアルデヒド樹脂と、効果的に静電荷を散逸する量の固有導電性高分子か導電性ナノフェーズ材料、またはこれらの組合せを併用して処理したセルロース系基板材料から形成された硬質積層板表面または構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2002年10月3日出願の米国仮出願第60/415833号の優先権を主張するものである。
【0003】
最近の、材料ならびにマイクロ回路の構成および設計における進歩の結果、電子デバイスはより小型化・高速化され、静電気放電(ESD)事象に益々敏感になってきた。作業表面と、その上に置かれた電子部品との間に起こる制御されていない静電放電は、完全かつ即座の部品障害から、消費者がその電子機器を購入後かなり経ってから初めて表れるような潜在欠陥までの範囲にわたる破壊を引き起こす恐れがある。業界の専門家による推定では、ESD破壊に伴う電子産業の実際の損失は年間数十億ドルにも達する。
【0004】
損傷を受けやすい電子部品を静電気放電による破壊から保護するためには、作業表面は、この表面と接触する材料上のどんな静電ポテンシャルの散逸をも制御することができなければならない。言い換えれば、これらの作業表面は静電気散逸性であって、ESD S4.1「静電気放電を受けやすい製品を保護するためのESD協会規格−作業表面−抵抗測定」(ESD S4.1、「ESD Association Standard for the Protection of Electrostatic Discharge Susceptible Items−Worksurfaces−Resistance Measurements」)に従って試験したポイントツーポイント抵抗が10〜10オームのオーダーであることが必要である。
【0005】
近年、静電気散逸性作業表面を含めて、様々な用途および環境に使用される静電気散逸性・導電性積層板の開発に著しい関心が示されている。従来技術の特許としては、Berbecoの米国特許、米国特許第4454199号、第4455350号、第4589954号、第4645717号;Grosheim他、米国特許第4472474号;Cannady,Jr.、米国特許第4540624号;Ungar他、米国特許第4784908号;Wyche他、米国特許第5244721号;およびO’Dell他、米国特許第5275876号を挙げることができる。従来技術の技術開発は2つに分類される。
【0006】
化学的帯電防止剤は、アミドまたはアミンなどの低分子化学物質、例えば第4級アンモニウム化合物からなる材料である。これらのアミドおよびアミンは単独で用いられることは少なく、塩化リチウムまたは塩化ナトリウムなどのイオン性塩と併用されることが多い。耐電防止剤は、表面上に局部的に塗布することもでき、あるいは高分子化合物に混ぜて、この化合物上に電荷散逸剤としての役割を果たす表面層を作ることもできる。Ungar他、米国特許第4784908号;Prasad他、国際特許出願WO第99/38686号を参照されたい。帯電防止剤は、表面に出てきて、散逸性の表面層を作るのに十分な環境水分を引き寄せることによって作用する。これらの組成物は、水分を引き寄せるのに、グリセリンなどの潤滑剤の使用を頼みにすることが多い。しかし、この手法には多くの欠点があり、とりわけ、機能させるためには周囲の湿度が高いことを頼りにするという欠点がある。また、帯電防止剤は容易にこすり取られてしまい経時的に性能が低下するので、散逸させるための帯電防止剤技術を用いた作業表面は耐久性に乏しい。このように「けばが取れた」微粒子自体がデリケートな部品を破壊する恐れがあり、これらの汚染物質の存在は、作業表面をクリーンルーム環境で使用する際の大きな欠点である。揮発性成分の放出も、作業表面を汚染し部品表面に層を形成するおそれがある。
【0007】
従来技術の第2の解決法は、充填された導電性プラスチックを使用するものであり、これは、基本的に、導電性フィラーを添加した熱硬化性または熱可塑性樹脂からなるものである。Wyche他、米国特許第5244721号を参照されたい。これらの複合体は、熱硬化性または熱可塑性樹脂に、導電性炭素系材料、ステンレス鋼繊維、銀またはアルミニウムフレーク、または金属塩などの導電性粒子を充填することによって製造される。これらの導電性粒子は、複合材料中を通って電荷を伝導する導電性のネットワークを樹脂内に形成する役割を果たす。しかし、これらの導電性粒子は、その臨界効果濃度の下限が比較的高いために、複合体の構造的、機械的または化学的特性に悪い影響を及ぼす恐れがある。こうした複合体のこれらの特性は、フィラーの濃度が高くなるにつれて低下する。
【0008】
複合材料の従来技術で見られるその他の問題は、フィラー充填量の散逸能に対する曲線が急勾配であるため、許容範囲が著しく狭くフィラー分布のわずかな変動でも問題になることである。その結果起こる不均一な電荷の散逸により、表面上に「ホットスポット」が発生する。ホットスポットでは、電荷が集合する可能性があり、制御されず予測できない電荷の放出が、これらの表面上で操作中の電子部品を損傷または破壊するような事故を引き起こす恐れがある。複合積層板はまた、装飾の範囲も限定されることが多く、これらから作られた作業表面の外観は美しくない。
【0009】
従来技術が教える従来の静電荷散逸積層板の多くは、10〜10オームの範囲の許容しうるポイントツーポイント抵抗値を有するが、ESD STM4.2「静電気放電を受けやすい製品を保護するためのESD協会規格−作業表面−電荷散逸特性」(ESD S4.2、「ESD Association Standard for the Protection of Electrostatic Discharge Susceptible Items−Worksurfaces−Charge Dissipation Characteristics」)に定められた手順に従って試験した場合、これらは、その上に置かれた製品から十分に電荷を散逸することがない。ESD STM4.2は、所定の相対湿度におけるI型作業表面(例えば、高圧化粧板)の電荷散逸特性の測定方法を記載している。所望の相対湿度で試料を48時間コンディショニングした後、所定質量の6”アルミニウムディスクを+1000Vまたは−1000Vの電位に充電し、これを5秒間試料の表面と接触させた後取り除く。アルミニウムディスク上に残っている電荷量を測定して記録する。|200V|未満の残存電荷が許容しうると見なされる。
【0010】
今日まで、低相対湿度の条件下における硬質作業表面上の電荷散逸の問題を解決する満足しうる方法はない。硬質表面上では、作業表面上の微視的な凹凸のために、作業表面と操作されている部品の間の界面の実際の面積は、見かけの面積より著しく小さいことが想定される。これらの凹凸が実際の接触面積を減少させる結果、利用しうる接地経路が著しく減少する。高湿度条件下では、水蒸気が表面凹凸間の空隙を満たし、界面からの導電性流体接地経路を形成する。しかし、低湿度条件下では、この表面積の事実上の減少のために、現在利用できる硬質作業表面では十分に電荷を散逸させることが妨げられている。
【0011】
導電性充填プラスチックの従来技術は、導電性ナノフェーズ材料の利用を示唆していない。今まで、この材料には、高度の凝集による分散の問題に伴う欠点があるため、ESD積層板への使用には適していなかった。しかし、ナノフェーズ材料分散の分野における最近の進歩の結果、水系を含めて、様々な媒体に事前に分散した導電性ナノフェーズ材料が市販されるようになった。
【0012】
従来技術においてなされたその他の重要な進歩には、固有導電性高分子、またはIPCの使用がある。Han他、米国特許第5254633号を参照されたい。IPCでは、高分子は、高分子の容積全体に電子またはプロトンが添加され、これらが電荷散逸性要素としての役割を果たす、酸化、還元またはプロトン付加(ドーピング)のプロセスの一つによって導電性になる。IPCは、高散逸能を有する硬質作業表面を形成するのに使用できる通常のプラスチックにブレンドすることができる。
【0013】
本発明は、十分な散逸能を有する硬質作業表面の形成に使用される固有散逸性高分子組成物を提供する。この散逸能は、この作業表面を、低湿度(相対湿度約0〜50%)環境で使用しても、その上で電子部品を安全に組立、修理および/または操作できるものである。このように提供される散逸性高分子組成物は容易に調製することができ、積層板は既知の工業的方法を用いて加工することができる。
【0014】
この散逸性高分子組成物をセルロース系基板に含浸させると、本発明の特定の実施形態に見られるように、このセルロース基板は、使用される導電性添加剤に応じてわずかに着色されることがある。これを化粧表面板または透明オーバーレイシートに塗布して魅力的な作業表面を提供することができる。あるいは、固有導電性高分子または導電性ナノフェーズ材料を、例えば噴霧、含浸によってまたはトランスファーコーティングを用いて、化粧表面または透明オーバーレイ板に直接塗布することもできる。
【特許文献1】米国仮出願第60/415833号
【非特許文献1】ESD S4.1「静電気放電を受けやすい製品を保護するためのESD協会規格−作業表面−抵抗測定」(ESD S4.1、「ESD Association Standard for the Protection of Electrostatic Discharge Susceptible Items−Worksurfaces−Resistance Measurements」)
【特許文献2】Berbeco、米国特許第4454199号
【特許文献3】Berbeco、米国特許第4455350号
【特許文献4】Berbeco、米国特許第4589954号
【特許文献5】Berbeco、米国特許第4645717号
【特許文献6】Grosheim他、米国特許第4472474号
【特許文献7】Cannady,Jr.、米国特許第4540624号
【特許文献8】Ungar他、米国特許第4784908号
【特許文献9】Wyche他、米国特許第5244721号
【特許文献10】O’Dell他、米国特許第5275876号
【特許文献11】Prasad他、国際特許出願WO第99/38686号
【非特許文献2】ESD STM4.2「静電気放電を受けやすい製品を保護するためのESD協会規格−作業表面−電荷散逸特性」(ESD S4.2、「ESD Association Standard for the Protection of Electrostatic Discharge Susceptible Items−Worksurfaces−Charge Dissipation Characteristics」)
【特許文献12】Han他、米国特許第5254633号
【特許文献13】米国特許第5221786号
【特許文献14】米国特許第4986886号
【特許文献15】米国特許第5137799号
【特許文献16】米国特許第5158707号
【特許文献17】米国特許第5405937号
【特許文献18】欧州特許第0375005号
【特許文献19】欧州特許第0408105号
【特許文献20】欧州特許第0473224号
【非特許文献3】1995年4月のBayer製品情報シートAI4071
【特許文献21】米国特許第6265532号
【特許文献22】米国特許第6194540号
【特許文献23】米国特許第5993694号
【特許文献24】米国特許第5891970号
【特許文献25】米国特許第5792830号
【特許文献26】米国特許第5641859号
【特許文献27】米国特許第5540862号
【特許文献28】米国特許第5520852号
【特許文献29】米国特許第5324453号
【特許文献30】Toomey、米国特許第5958595号
【特許文献31】Power他、米国特許第4118541号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記に鑑みて、本発明の目的は、静電荷散逸性硬質表面積層板の形成に使用できる高分子組成物を提供することである。
【0016】
本発明の目的はまた、周囲湿度に左右されずに機能し、ESD S4.1に従って試験した際のポイントツーポイント抵抗が10〜10オームの範囲である、静電荷散逸性硬質表面積層板を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、周囲湿度に左右されずに機能し、I型硬質作業表面のESD STM4.2に定められたすべての電荷散逸要件を満たす、静電荷散逸性硬質表面積層板を提供することである。
【0018】
本発明のさらに別の目的は、損傷を受けやすい電子部品を、その上で安全に製造、組立、修理またはその他の操作ができる硬質作業表面として使用できる静電荷散逸性積層板を提供することである。
【0019】
本発明はまた、熱硬化性ホルムアルデヒドポリマー樹脂、固有導電性高分子およびセルロース系材料の組合せを含む、積層された硬質作業表面も提供する。
【0020】
本発明のさらに別の目的は、熱硬化性ホルムアルデヒド樹脂、導電性ナノフェーズ材料およびセルロース系材料の組合せを含む、硬質積層作業表面を提供することである。
【0021】
本発明の別の目的は、水分散性で揮発性有機化合物を含有していない、固有散逸性高分子化合物を提供することである。
【0022】
本発明のさらに別の目的は、熱硬化性ビニル樹脂、導電性ナノフェーズ材料、固有導電性高分子またはこれらの組合せからなるトランスファーコーティングを提供することである。
【0023】
本発明のさらに別の目的は、容易に加工できる静電荷散逸性硬質表面積層板を形成する高分子組成物を提供することである。
【0024】
本発明のさらに別の目的は、固有導電性高分子か導電性ナノフェーズ材料、またはこれら両者と熱硬化性高分子樹脂を併用した高分子組成物を提供することである。
【0025】
本発明はまた、セルロース系基板に、熱硬化性ホルムアルデヒドポリマー樹脂と、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホネートなどの固有導電高分子とを組み合わせた水性分散液を含浸させるステップと、前記含浸セルロース系材料を硬化させるステップとを含む静電荷散逸性硬質積層板表面の形成方法を提供する。
【0026】
本発明はさらに、固有導電性高分子、導電性ナノフェーズ粒子またはこれらの組合せからなる水性分散液を調製し、この分散液を、それだけに限らないが、例えばエアゾールシステムを用いて、予め熱硬化性ホルムアルデヒドポリマー樹脂を含浸したセルロース系材料の表面上に噴霧することによって、静電荷散逸性硬質積層板表面を形成する方法を提供する。
【0027】
本発明はさらに、固有導電性高分子、導電性ナノフェーズ粒子またはこれらの組合せからなる水性分散液を調製し、この分散液をセルロース系材料に含浸させ、引き続きこれに熱硬化性ホルムアルデヒドポリマー樹脂を含浸させることによって、静電荷散逸性硬質積層板表面を形成する方法を提供する。
【0028】
本発明はさらに、固有導電性高分子および/または導電性ナノフェーズ材料を含む散逸性高分子組成物を含む硬化性の熱硬化性ビニル樹脂系トランフファーコーティングを、硬化プロセス中に、メラミンホルムアルデヒドで処理したセルロース系材料の表面上にトランスファーすることによって、静電荷散逸性硬質積層板表面を形成する方法を提供する。
【0029】
本発明の他の目的は、本発明の硬質作業表面積層板からなるワークステーションまたはテーブルトップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
これらの目的およびその他の目的は、低相対湿度(0〜50%)で機能することができる静電荷散逸性硬質積層板作業表面を調製するために、熱硬化性ポリマー樹脂と、固有導電性高分子、導電性ナノフェーズ材料、またはこれらの組合せを併用した高分子組成物を提供する、本発明によって提供される。
【0031】
本発明は、静電荷散逸性積層板の形成に使用できる固有導電性高分子組成物を提供する。得られる積層板は、その機能性が周囲湿度に左右されないので、これらの特性が求められているワークステーションテーブルトップに使用するための優れた硬質表面材である。
【0032】
本発明の組成物の第1成分は、固有導電性高分子、導電性ナノフェーズ材料またはこれらの組合せを含むことができる、導電性改質剤を含む。
【0033】
本発明で用いられる固有導電性高分子は、高分子の容積全体に電子またはプロトンが添加され、次いでこれらが電荷散逸性要素としての役割を果たす、酸化、還元またはプロトン付加(ドーピング)のプロセスの一つによって導電性にすることができる任意の有機高分子を含む。非限定的な例としては、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)、ポリアニリン(PANI)、ポリピロール(PPy)、ポリ(フェニレンビニレン)およびこれらの混合物が挙げられる。本発明の目的のためには、水性媒体中の分散液としての入手可能性から、固有導線性高分子添加剤としてPEDOT/PSS、PANIまたはこれらの組合せを用いることが好ましい。
【0034】
PEDOT/PSSは、当分野の技術者に知られた方法によって調製することができる。米国特許第5221786号;第4986886号;第5137799号;第5158707号;第5405937号および欧州特許第0375005号;第0408105号および第0473224号を参照されたい。PEDOT/PSSは、例えばBayer Corporationから、Baytron(登録商標)Pの商品名で市販もされている。Baytron(登録商標)Pは、PEDOT/PSSの水性分散液である。1995年4月のBayer製品情報シートAI4071を参照されたい。PEDOT/PSSは以下の一般構造式を有する:
【0035】
【化1】


図式1.PEDOT/PSSの一般化学構造式(式中、nおよびmは、それぞれ独立に、2〜1000以上の範囲とすることができる)。
【0036】
ポリアニリンもまた、当分野の技術者が調製することができる。米国特許第6265532号;第6194540号;第5993694号;第5891970号;第5792830号;第5641859号;第5540862号;第5520852号;第5324453号を参照されたい。PANIは、Zipperling Kessler & CompanyからORMECON(登録商標)の商品名で、また、Panipol LimitedからPanipol(登録商標)の商品名で市販されている。水性媒体に分散した導電性ポリアニリンの濃度が比較的高い(約8重量%)ことから、Panipol(登録商標)Wが好ましい。PANIは以下の一般構造式を有する:
【0037】
【化2】


図式2.PANIの一般化学構造式(式中、nおよびmは、それぞれ独立に、2〜1000以上の範囲とすることができる)。
【0038】
本発明の実施において有用な導電性ナノフェーズ材料としては、導電性であれば任意のナノフェーズ材料が挙げられる。非限定的な例としては、アンチモンスズ酸化物、フッ素ドープ酸化亜鉛、炭素系材料およびこれらの混合物が挙げられる。本発明の好ましい導電性ナノフェーズ材料は、アンチモンスズ酸化物である。アンチモンスズ酸化物ナノフェーズ材料は、例えばNanophase Technologies、Burr Ridge、ILから市販されている。
【0039】
本発明の組成物の第2成分は、固有導電性高分子、導電性ナノフェーズ材料またはこれらの混合物と組み合わせる熱可塑性または熱硬化性のポリマー樹脂を含む。
【0040】
本発明に含まれる熱硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、ポリ尿素、エポキシおよびビスマレイミドなどの、硬化性または架橋性樹脂またはポリマーであるが、通常、触媒の存在下加熱硬化が施されるホルムアルデヒド型熱硬化性樹脂組成物、例えばメラミンホルムアルデヒド、尿素ホルムアルデヒド、フェノールホルムアルデヒドおよびその他のメチロール型樹脂である。メラミンホルムアルデヒド樹脂が積層板に付与する物性、並びにこの系が透明なコーティングを形成する傾向から、メラミンホルムアルデヒド樹脂が好ましい。これらの種類の樹脂は、当分野の技術者には周知であり、種々の供給源から市販されている。
【0041】
通常の硬化性または架橋性樹脂の硬化に際しては、触媒が通常添加される。一般に、触媒の量および組成は様々であるが、通常、p−トルエンスルホン酸またはルイス酸型触媒からなり、具体的には、ルイス酸金属塩触媒、例えば三塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素、または塩化マグネシウムもしくは硫化亜鉛などの多価金属塩ハロゲン化物もしくは硫化物からなる。
【0042】
本発明の実施において通常の触媒を使用することもできるが、固有導電性高分子および/または導電性ナノフェーズ材料は、改良された静電荷散逸性を提供するのに加えて、熱硬化性樹脂の硬化触媒としても機能できることを、予想外に本発明者等は見出した。したがって、多くの例において追加の触媒は必要ない。
【0043】
熱可塑性基板材料も本発明に含めることができ、それだけに限らないが、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエステル、アクリル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリアリールエーテル、ポリイミド、ポリケトンおよびビニルポリマーを含めて、広範囲の樹脂系を包含することができる。これらの種類の樹脂は、当分野の技術者には周知であり、種々の供給源から市販されている。
【0044】
本発明の一実施形態における固有導電性高分子組成物を形成するには、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホネート、ポリアニリンまたはこれらの混合物を、メラミンホルムアルデヒド樹脂固形分合計に対して、1重量%未満〜15重量%、好ましくは1〜5%の範囲の量で、完全で均一に分散された混合物を確保するために高剪断混合などを用いて、水性分散液中で、熱硬化性ポリマー樹脂と混ぜ合わせる。次いで、このようにして形成された樹脂組成物を用いて、当技術分野で一般に知られた方法によって、アルファ−セルロース紙などのセルロース系材料を含浸する。セルロース系材料は、最終的な積層板製品に応じて、透明オーバーレイシートか化粧表面板、または両者とすることができる。好ましい実施形態では、樹脂組成物の重量は、処理される紙の種類および坪量に応じて、処理されたアルファ−セルロース紙シートの総重量の約20%〜約75%、好ましくは約45%〜約65%の範囲であることを想定している。
【0045】
本実施形態で用いられるセルロース系材料は、ESD S4.1に従って試験した場合、セルロース系材料の体積抵抗を、約10オームから、より望ましい範囲である約10〜10オームに低下させるために、熱硬化性樹脂組成物を含浸させる前に、固有導電性高分子か導電性ナノフェーズ材料、またはこれらの混合物を水性媒体に分散させたコロイド分散液で予め処理してもよい。
【0046】
コロイド分散液中の導電性材料の濃度範囲は、使用される系に応じて異なる。一般に、固有導電性高分子は、0.1重量%〜20.0重量%、好ましくは0.25重量%〜10.0重量%、特に好ましくは0.5重量%〜2.5重量%の範囲の濃度で使用することができる。導電性ナノフェーズ材料は、1重量%〜25重量%、好ましくは2.5重量%〜10重量%の濃度範囲で使用することができる。セルロース系材料の事前処理は、セルロース系材料にメラミンホルムアルデヒド樹脂を含浸させるのと同様な方法、即ち、ディップ&スクィーズ技法、リバースロールコートなどを用いて行うことができる。導電性材料のコロイド分散液は、0.005g/cm〜0.045g/cmの範囲の速度で塗布される。ICPか導電性ナノフェーズ材料、またはこれらの混合物のコロイド分散液で事前処理した後、このセルロース系基板または紙は、熱硬化性樹脂組成物を含浸させる前に、適当な温度で乾燥する。
【0047】
ICPおよび/またはナノフェーズ材料で改質したメラミンホルムアルデヒド樹脂を含浸させた後、含浸セルロース材料は、適当な温度で乾燥してから積層板として使用する。ICP改質メラミンホルムアルデヒド樹脂で処理したセルロース系材料は、メラミンホルムアルデヒド処理材料と比べてわずかに着色しているが、依然として、美的満足を与える外観を有する作業表面積層板を所望により提供することができる。
【0048】
ICPおよび/またはナノフェーズ材料改質メラミンホルムアルデヒド樹脂で処理したセルロース系材料、即ち透明オーバーレイシートか化粧アンダーシート、もしくは両者と、熱硬化性高分子樹脂を飽和させた1種もしくは複数のセルロース系シート材料とからなる積層板が形成される。層の数は、所望する積層板の品位または厚みに応じて異なる。より堅牢な製品を形成し、かつ固い基板から積層板が付着されている作業表面へ欠陥が反映されることを避けるために、高圧化粧板製造の標準的な方法に従って、フェノールホルムアルデヒド樹脂で飽和させることができる1層または複数層の重量紙、例えばクラフト紙を積層板に組み込むことができる。
【0049】
任意選択により、導電性スクリム層を積層板に組み込むことができる。この導電性スクリム層は、固有導電性高分子、導電性ナノフェーズ材料もしくはこれらの混合物の塗膜を、透明オーバーレイシート、化粧表面板もしくは積層板の組立品に含まれる任意の他の適当なシートの裏側に付着させて構成することができる。あるいは、導電性スクリム層は、導電性不織布材料、例えば炭素繊維もしくはニッケル被覆炭素繊維から構成することもできる。この導電性不織布材料は、積層板の、ICP改質メラミンホルムアルデヒド樹脂で処理した表面板の下に組み込まれる。任意選択により、引き続きこの導電性スクリム層をメラミンホルムアルデヒド樹脂で処理して乾燥させた後で積層板に組み込むことにより、接着性および圧密を高め、固い積層板製品を作ることができる。
【0050】
作業表面、壁および床材として使用される通常の積層板の標準的な製造方法を用いて、樹脂を飽和させた所望量のシートを組み立て、プレスし、硬化して、積層板構造体を形成する。本発明の積層板は、通常の高圧化粧板製造ラインで製造することができ、特殊なまたは難しい製造条件の開発に投資する必要はない。したがって、本発明には、単純な製造プロセスを持っているという利点がある。
【0051】
材料加工技術の最近の進歩により、前駆体材料を、高効率集積導電性樹脂系の製造に使用できるナノフェーズ粉末に粉砕することができるようになった。界面特性および粒子間の間隔が重要なESD作業表面などの用途において、本発明者等は、適切に分散したナノフェーズ材料が、著しく高い表面積対容積比を得ることができ、さらに、比較的低添加量で、高いレベルの粉末分散を得ることもできることを見出した。ナノフェーズ材料の表面積対容積比は、マイクロフェーズ材料に固有の値より3〜4桁大きく、界面が決定的に影響するプロセスの効率がそれに応じて改良され、粒子の添加量を下げることができて有利である。
【0052】
本発明の別の実施形態では、静電荷散逸高分子組成物は、導電性ナノフェーズ材料、例えばアンチモンスズ酸化物、フッ素ドープ酸化亜鉛、導電性炭素系材料またはこれらの混合物を、メラミンホルムアルデヒド樹脂固形分合計に対して、1重量%未満〜25重量%、好ましくは1〜15重量%、特に好ましくは2.5〜10重量%の範囲の量で、完全で均一に分散された混合物を確保するために高剪断混合などを用いて、水性分散液中で、熱硬化性ポリマー樹脂と混ぜ合わせたものである。次いで、この樹脂組成物を用いて、通常の方法でアルファ−セルロース紙などのセルロース系材料を含浸する。セルロース系材料は、最終的な積層板製品に応じて、透明オーバーレイシートか化粧表面板、または両者とすることができる。好ましい実施形態では、樹脂組成物の重量は、処理される紙の種類および坪量に応じて、処理されたアルファ−セルロース紙シートの総重量の約20%〜約75%、好ましくは約45%〜約65%の範囲であることを想定している。
【0053】
本実施形態で用いられるセルロース系材料は、熱硬化性樹脂組成物を含浸させる前に、固有導電性高分子か導電性ナノフェーズ材料、またはこれらの混合物を水性媒体に分散させたコロイド分散液で予め処理してもよい。コロイド分散液中の導電性材料の濃度範囲は、使用される系に応じて異なる。一般に、固有導電性高分子は、0.1重量%〜20.0重量%、好ましくは0.25重量%〜10.0重量%、特に好ましくは0.5重量%〜2.5重量%の範囲の濃度で使用することができる。導電性ナノフェーズ材料は、1重量%〜25重量%、好ましくは2.5重量%〜10重量%の濃度範囲で使用することができる。セルロース系材料の事前処理は、セルロース系材料にメラミンホルムアルデヒド樹脂を含浸させるのと同様な方法、即ち、ディップ&スクィーズ技法、リバースロールコートなどを用いて行うことができる。導電性材料のコロイド分散液は、0.005g/cm〜0.045g/cmの範囲の速度で塗布される。ICPか導電性ナノフェーズ材料、またはこれらの混合物のコロイド分散液で事前処理した後、この紙は、適当な温度で乾燥する。
【0054】
積層板の組立は、上記の実施形態で記載したのと同様な方法で行われる。導電性ナノフェーズ改質メラミンホルムアルデヒドで処理したセルロース系材料(透明オーバーレイシートか化粧アンダーシート、もしくは両者)と、熱硬化性高分子樹脂を飽和させた1種もしくは複数のセルロース系シート材料と、任意選択で導電性スクリム層とからなる積層板が形成される。高圧化粧板の標準的な製造法を用いて、処理された構成要素を最終的な積層板構造体に一体化することができる。
【0055】
本発明のさらに別の実施形態では、固有導電性高分子組成物は、単に、セルロース系基板に、固有導電性高分子か導電性ナノフェーズ材料、またはこれらの混合物を水に分散させたコロイド分散液を含浸させ、その後このセルロース系材料に通常のメラミンホルムアルデヒド樹脂を含浸させることによっても得られる。両水性混合物の含浸は、通常のディップ&スクィーズ法、リバースロールコーティングなど、当技術分野の技術者が通常使用する方法を用いて行うことができる。本発明の別の実施形態においては、本発明のICPまたはナノフェーズ材料を含有させると同時に、通常の添加剤を通常の添加方法によって添加することができることも、本発明がさらに想定するところである。
【0056】
水性コロイド分散液中の、ICP系か導電性ナノフェーズ系、またはこれらの混合物系の導電性添加剤の量は、使用される添加剤の種類に応じて、約0.1〜約15.0重量%の範囲とすることができる。ICP系コロイド分散液は、約0.5〜約2.0重量%の範囲の濃度で用いることが好ましく、一方、導電性ナノフェーズ材料は、2.5〜10.0重量%の範囲の濃度で用いることが好ましい。導電性添加剤コロイド分散液の塗布速度は、0.0005g/cm〜0.1000g/cmの範囲、好ましくは0.0010g/cm〜0.0500g/cmの範囲、特に好ましくは0.0025g/cm〜0.0250g/cmの範囲とすることができる。ICPか導電性ナノフェーズ材料、またはこれらの混合物のコロイド分散液でセルロース系材料を処理した後、この紙を、メラミンホルムアルデヒド樹脂を塗布する前に、適当な温度で乾燥することが好ましい。
【0057】
セルロース基板を固有導電性コロイド分散液で処理した後、通常のメラミンホルムアルデヒド樹脂を使用して通常の方法で基板材料を含浸する。セルロース系材料は、最終的な積層板製品に応じて、透明オーバーレイシートか化粧表面板、または両者とすることができる。好ましい実施形態では、樹脂組成物の重量は、処理される紙の種類および坪量に応じて、処理されたアルファ−セルロース紙シートの総重量の約20%〜約75%、好ましくは約45%〜約65%の範囲であることを想定している。
【0058】
積層板の組立は、上記の実施形態で記載したのと同様な方法で行われる。導電性添加剤改質メラミンホルムアルデヒドで処理したセルロース系材料(透明オーバーレイシートか化粧アンダーシート、もしくは両者)と、熱硬化性高分子樹脂を飽和させた1種もしくは複数のセルロース系シート材料と、任意選択で導電性スクリム層とからなる積層板が形成される。高圧化粧板の標準的な製造法を用いて、処理された構成要素を最終的な積層板構造体に一体化することができる。
【0059】
本発明のさらに別の実施形態では、固有導電性高分子か導電性ナノフェーズ材料、またはこれらの混合物を水に分散させたコロイド分散液を、噴霧法またはより一般的なディップ&スクィーズ法で、既にメラミンホルムアルデヒド樹脂を含浸させたセルロース系材料の表面上に塗布することができ、次いでこれを乾燥する。塗布は、既に含浸させたセルロース系材料を乾燥する前に行っても、乾燥後に行ってもよい。水性コロイド分散液中の、ICP系か導電性ナノフェーズ系、またはこれらの混合物系の導電性添加剤の量は、使用される添加剤の種類に応じて、約0.1〜約15.0重量%の範囲とすることができる。ICP系コロイド分散液は、約0.5〜約2.0重量%の範囲の濃度で用いることが好ましく、一方、導電性ナノフェーズ材料は、2.5〜10.0重量%の範囲の濃度で用いることが好ましい。噴霧は、当分野の技術者に知られた任意の手段で行うことができるが、エアゾール噴霧を用いることが好ましい。導電性添加剤コロイド分散液の塗布速度は、0.0005g/cm〜0.1000g/cmの範囲、好ましくは0.0010g/cm〜0.0500g/cmの範囲、特に好ましくは0.0025g/cm〜0.0250g/cmの範囲とすることができる。
【0060】
エアゾール噴霧またはより一般的なディップ&スクィーズ法による導電性添加剤コロイド分散液の直接塗布を用いた実施形態では、この材料を、積層板の最上層を形成することになる透明オーバーレイシートか化粧表面板、または両者の上に塗布して、積層板に魅力的な外観を付与することができる。次いで、最終的な積層板構造体の組立および高圧化粧板の製造は、上記の実施形態に概要を記述した手法に従う。
【0061】
本発明のさらに別の実施形態では、固有散逸性高分子組成物は、紫外線硬化性の熱硬化性ポリマー樹脂と組み合わせてトランスファーコーティングを形成した、固有散逸性高分子か導電性ナノフェーズ材料、またはこれらの混合物とすることができ、これを標準的な高圧化粧板製造法と合わせて硬化させると、静電荷散逸性積層板表面を形成する。本実施形態で使用できる熱硬化性ポリマー樹脂の例としては、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、ポリウレタン、ポリ尿素、エポキシ、およびビスマレイミドを挙げることができる。透明な塗膜を生成する傾向および加工が比較的容易であることにより、不飽和ポリエステル樹脂が好ましい。本実施形態で使用される不飽和ポリエステル樹脂としては、スチレン、ビニルトルエン、メタクリル酸メチル、またはその他のビニル基含有反応性モノマーなどの共重合性モノマーで希釈された、汎用のオルソ(フタル酸)樹脂、イソフタル酸樹脂、フタル酸樹脂、クロレンド酸樹脂などが挙げられる。
【0062】
トランスファーコーティングは、当分野の技術者に公知のメラミンアクリル系剥離紙(例えば、Toomeyの米国特許第5958595号、およびPower他の米国特許第4118541号参照)に、開始化合物と、固有導電性高分子か導電性ナノフェーズ材料、またはこれらの混合物からなる不飽和ポリエステル樹脂を塗布することによって形成される。
【0063】
本実施形態の開始化合物としては、不飽和ポリエステル樹脂の部分硬化、例えばB段階化、および完全硬化を行うことができる光開始剤および熱開始剤が挙げられる。本実施形態の光開始剤としては、脂肪族および芳香族ケトン、例えばベンゾフェノンおよびアセトフェノン、ならびにベンゾイン、ベンゾインエーテル、ベンジル、ベンジルケタール、およびその他の関連化合物が挙げられる。本実施形態の熱開始剤としては、高温で熱による均一解離を行うことができる任意の化合物が挙げられる。しかし、一般に、これらの化合物の商業的入手可能性は、主として、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、クミルパーオキシド、t−ブチルパーオキシド、クミルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−ブチルパーベンゾエート、アシルアルキルスルホニルパーオキシド、ジアルキルペルオキシジカーボネート、ジパーオキシケタール、およびケトンペルオキシドなどの過酸化化合物に限られている。もう1種の商業的に重要な化合物は、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などのアゾ化合物である。
【0064】
本発明のトランスファーコーティング製造方法においては、約0.1重量%〜25重量%の固有導電性高分子か導電性ナノフェーズ材料、またはこれらの混合物を、約0.05重量%〜10重量%の光開始剤化合物および約0.05重量%〜10重量%の熱開始剤を含有するスチレン化不飽和ポリエステル樹脂に混ぜて、導電性部分が全体に均一分散した均質組成物を得る。次いで、この組成物を、厚み0.05ミル〜100ミルの塗膜としてメラミン−アクリル系剥離紙に塗布し、紫外線に暴露することによって、B段階化、例えば、乾燥しているが引き続きさらに硬化できる状態にする。
【0065】
次いで、B段階化された固有散逸性不飽和ポリエステル樹脂を塗布した剥離紙を、フェノール樹脂塗布クラフト紙、任意選択のバリヤー層、任意選択の導電性スクリム層、および化粧表面板などの追加の積み重ね層の上に置いて、通常の高圧化粧板製造プロセスを用いて積層板に一体化することができる。
【0066】
熱可塑性基板の場合は、導電性添加剤を、高剪断混合、最新式の分散およびブレンディング手法、ならびに場合によっては適当なマトリックス材料中で導電性高分子を直接in−situ重合させるなどの様々な方法を用いて熱可塑性基板材料に添加することができる。次いで、この熱可塑性/導電性高分子材料を、樹脂トランスファー成形、押出成形、射出成形などの通常の熱可塑性樹脂技術を用いて加工し、湿度の影響を受けない静電荷散逸性樹脂組成物を形成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0067】
以下の実施例は、単に例証することを目的として提供されるものであり、いかなる意味でも特許請求の範囲を限定するものであると解釈すべきでない。
【0068】
好ましい実施形態に上述した積層板およびその構成要素の試料は、静電気放電協会発行の適切な規格に従ってその特性を決定した。関連するESD協会規格としては以下が挙げられる。
1. ESD S4.1−1997、「静電気放電を受けやすい製品を保護するためのESD協会規格−作業表面−抵抗測定」(ESD S4.1、「ESD Association Standard for the Protection of Electrostatic Discharge Susceptible Items−Worksurfaces−Resistance Measurements」)を用いたポイントツーポイント抵抗。材料のポイントツーポイント抵抗(Rtt)は、中心を6インチ離して配置された2つのETS850プローブを用いて測定し、電荷レベル100Vで15秒接触させた後に記録した。
2. ANSI/ESD STM4.2−1998、「静電気放電を受けやすい製品を保護するためのESD協会規格−作業表面−電荷散逸特性」(ESD S4.2、「ESD Association Standard for the Protection of Electrostatic Discharge Susceptible Items−Worksurfaces−Charge Dissipation Characteristics」)を用いた静電荷散逸。アルミニウム電荷プレートをESD表面と5秒間接触させてからこれを取り外した後、初期電位±1000Vから減衰してこのプレート上に残存する電荷を求めた。ディスク上に残存する電荷の許容しうるレベルは、|200V|未満である。
【実施例1】
【0069】
対照積層板を調製し、異なるレベルの相対湿度で静電気散逸特性について試験した。反りを少なくするために、対称的な積層構造とした。対照積層板は、メラミンホルムアルデヒド樹脂の水溶液を樹脂含有量約50〜55%まで十分に含ませた2枚の固い化粧表面板を用いて作った。積層板のコアは、4枚のフェノールホルムアルデヒド含浸クラフト紙を2枚のフェノールホルムアルデヒド含浸バリヤーシートで挟んだものである。
【0070】
対照積層板は、マルチオープニングプレス中270〜280°Fで、450〜500psiの圧力下約45〜60分間プレスした。次いで、コンタクト接着剤と木ねじを用いて積層板を5/8”の合板に取り付けた。本例の積層板は、EX−1AおよびEX−1Bと名付けられた。引き続き、50%RHおよび10%RHで、これら積層板の表面抵抗(ポイントツーポイント、Rtt)および静電荷散逸を試験した。この電気的試験の結果を表1に要約して示した。
【0071】
【表1】

【0072】
表1に示した結果に基づくと、両積層板ともポイントツーポイント抵抗が10〜10オームの静電気散逸範囲を外れているので、対照積層板はどれも、試験した相対湿度で静電荷散逸性作業表面として使用するには適当でないことが明らかである。この結果、電荷散逸試験結果から分かるように、どちらの積層板も、両方の印可電位で、その表面から静電荷を十分に散逸できなかった。
【実施例2】
【0073】
固形分に対して1.0重量%のBaytron(登録商標)P(Bayer Corporation製)と、固形分52%で触媒未添加の水性メラミンホルムアルデヒド樹脂とを、完全かつ均一に分散した混合物を確保するために高剪断混合を用いてブレンドし、固有導電性高分子(ICP)組成物を調製した。次いで、このICP改質メラミンホルムアルデヒド樹脂を使い、高圧化粧板産業で通常使用されている技術を用いて、透明オーバーレイ材料のシートを飽和または含浸させた。Baytron(登録商標)P製品の添加によってメラミンホルムアルデヒド樹脂の固形分が低下したので、第2のコーティング工程を用いて処理された紙の樹脂総含有量を上昇させた。乾燥された処理透明オーバーレイ材料の樹脂総含有量は約65%であった。
【0074】
実施例1で使用したものと同一のコア材料および化粧表面板に、積層板の最外層または表面層を構成する、ポリエチレンジオキシチオフェン/メラミンホルムアルデヒド樹脂で処理した透明オーバーレイシートを加えて、積層板試料を調製し、EX−2と名付けた。マルチオープニングプレス中270〜280°Fで、1200〜1400psiの圧力下約45〜60分間積層板をプレスすることによって、積層板の硬化を行った。
【0075】
上でEX−2と示した実施例2の積層板試料を、5/8”の家具級合板に取り付け、大地から絶縁し、50%RHおよび10%RHで、それぞれポイントツーポイント抵抗(Rtt)および静電荷散逸を試験した。EX−2について行った電気的試験の結果を表2に要約して示した。
【0076】
【表2】

【0077】
ポリエチレンジオキシチオフェンを積層板の表面層に組み込んだことにより、得られた積層板のポイントツーポイント抵抗は、約1010オームから約10オームに効果的に低下し、これにより、表面抵抗によって規定される静電気散逸特性を持った積層板が作られた。電荷散逸試験の結果は、アルミニウム電荷プレートに残存する残存電荷の量が、50%RHでは約|986V|から約|17V|へ、10%RHでは約|991V|から|15V|へ劇的に低下したことを示した。これは、この積層板が、積層板表面と接触したすべての電荷を十分に散逸させたことを示している。
【実施例3】
【0078】
固形分に対して、1.0重量%のBaytron(登録商標)P、および5.0重量%のナノフェーズアンチモンスズ酸化物(ATO)粉末(Nanophase Technologies製)を、触媒未添加の水性メラミンホルムアルデヒド樹脂と、完全かつ均一に分散した混合物を確保するために高剪断混合を用いてブレンドし、第2の固有導電性高分子(ICP)組成物を調製した。次いで、このICP組成物を使い、実施例2に記載のものと類似の方法を用いて、透明オーバーレイ材料のシートを含浸させた。実施例1および2で使用したものと同一のコア材料および化粧表面板と、積層板の最外層または表面層を構成する、ポリエチレンジオキシチオフェン/アンチモンスズ酸化物で改質したメラミンホルムアルデヒド樹脂で処理した透明オーバーレイシートとを用いて、積層板試料を調製し、EX−3と名付けた。
【0079】
上でEX−3と示した実施例3の積層板試料を、5/8”の家具級合板に取り付け、大地から絶縁し、ポイントツーポイント抵抗(Rtt)および静電荷散逸を試験した。EX−3について行った電気的試験の結果を表3に示した。
【0080】
【表3】

【0081】
この電気的試験の結果によれば、ポリエチレンジオキシチオフェン/アンチモンスズ酸化物で改質したメラミンホルムアルデヒド樹脂は、静電荷散逸性積層板の調製に効果的な樹脂組成物であることが分かった。
【実施例4】
【0082】
水に分散したポリエチレンジオキシチオフェンの存在下、メラミンホルムアルデヒド樹脂プレポリマーを合成することによって、第3の固有導電性高分子組成物を調製した。この合成は、以下の組成を用いて5口反応フラスコ中で行われた。
成分
Baytron(登録商標)P 307部
メラミン固形分 126部
ホルムアルデヒド溶液(水溶液) 45部
反応系全体のpHは、苛性ソーダ灰を用いて9.1〜9.3に調節した。反応混合物を約90℃までゆっくり加熱し、この温度に45〜90分間保持した。反応は、許容水量150で終了と見なされる。終了すると、反応容器を110〜120°Fに冷却し、真空下蒸留して、得られるM/F樹脂の固形分含有量を上昇させた。PEDOT M/F樹脂の固形分総含有量は、約47%と測定された。樹脂の最終pHは、苛性ソーダ灰を用いて10超に調節した。
【0083】
次いで、本実施例のPEDOT M/F樹脂を用いて透明オーバーレイ材料のシートを含浸し、乾燥した。実施例2および3の樹脂組成物と比べてM/F固形分が増加していたので、約58%の樹脂含有量を得るのに、一回のディップ&スクィーズプロセスだけでよかった。
【0084】
実施例3で使用したのと同一のコア材料および化粧表面板と、積層板の最外層または表面層を構成する、PEDOT M/F樹脂で処理した透明オーバーレイシートとを用いて、2枚の積層板試料を調製し、EX−4AおよびEX−4Bと名付けた。
【0085】
上でEX−4AおよびEX−4Bと示した積層板試料を、5/8”の家具級合板に取り付け、大地から絶縁し、ポイントツーポイント抵抗(Rtt)および静電荷散逸を試験した。EX−4AおよびEX−4Bについて行った電気的試験の結果を表4に示した。
【0086】
【表4】

【0087】
ポイントツーポイント抵抗および静電荷散逸試験の結果は、静電荷散逸性積層板を調製するために、PEDOTの存在下にメラミンホルムアルデヒド樹脂を合成することが可能であることを明らかに示している。さらに、ポイントツーポイント抵抗測定および電荷散逸試験の結果は、これらの積層板が、10%という低い相対湿度でも効果的にESD S4.1−1997およびANSI/ESD STM4.2−1998の要件を満たすことができることを明らかに実証している。
【実施例5】
【0088】
ナノフェーズアンチモンスズ酸化物材料をベースにした静電荷散逸性樹脂から、3枚の積層板試料を調製した。この樹脂組成物は、メラミンホルムアルデヒド樹脂総固形分に対して、10.0%のナノフェーズアンチモンスズ酸化物固形分(Ishihara Corporation製)からなるものであった。約52gのIshihara Corporation製アンチモンスズ酸化物水分散液を、300gの1.0重量%p−トルエンスルホン酸(CRC−636、Capital Resin Corporation製)を触媒としたメラミンホルムアルデヒド樹脂に添加した。触媒添加M/F樹脂とATO分散液とを、完全かつ均一に分散した混合物を確保するために高剪断混合を用いて混合した。次いで、このATO改質M/F樹脂組成物を用いて、通常の方法でセルロース系化粧表面紙を含浸し、乾燥した。樹脂で処理した化粧表面板の樹脂総含有率は約50%であった。
【0089】
ATO改質M/F樹脂で処理する前に、M/F樹脂組成物の塗布に用いたのと同様のディップ&スクィーズ処理技法を用いて、この化粧表面板を、5.0重量%のアンチモンスズ酸化物水分散液で予め処理した。ATO分散液の塗布に引き続き、この化粧表面板を120℃で2分半乾燥した。
【0090】
最外層としてATO改質M/Fで処理した化粧表面板を用いて、3枚の積層板試料を調製した。積層板のコアは、4枚のフェノール樹脂処理クラフト紙をベージュ色の2枚のフェノール処理バリヤーシートで挟んだものである。これらの3枚の積層板の内2枚、EX−5AおよびEX−5Bと示したものは、ベージュ色のバリヤーシートと、コア中に使用されている最初のフェノール樹脂処理クラフト紙との間に配置された導電性不織炭素マットまたはスクリム(Hollingsworth and Vose Company製)も含んでいた。この導電性不織炭素マットは、坪量10.0g/mでの厚みが約4.5ミルであり、表面抵抗率の測定値が5.5オーム/平方であった。積層板試料は、マルチオープニングプレス中で、450〜500psiの圧力下270〜280°Fで硬化させた。
【0091】
上でEX−5A、EX−5BおよびEX−5Cと示した積層板試料を、5/8”の家具級合板に取り付け、大地から絶縁し、ポイントツーポイント抵抗(Rtt)および静電荷散逸を試験した。実施例5の積層板試料について行った電気的試験の結果を表5に要約して示した。
【0092】
【表5】

【0093】
表5に示したデータに基づいて、3枚の積層板はすべて、相対湿度10%で、静電荷を効果的にその表面から散逸させることが明らかである。しかし、導電性スクリム材料を積層板のコアに組み込むことにより、ポイントツーポイント抵抗が静電気散逸性材料の範囲外まで低下する結果になった。言い換えれば、積層板EX−5AおよびEX−5Bは、静電気散逸性材料の要件を満たすには導電性が高すぎる。導電性スクリムを用いる場合は、より低い濃度の導電性ナノフェーズ材料を用いて紙の処理か樹脂の処理、または両者を行うことで、積層板の静電気散逸性を得ることができる。
【実施例6】
【0094】
セルロース系化粧表面板にATOの水性分散液を含浸させ、次いで通常の未改質メラミンホルムアルデヒド樹脂で処理することによって、一連の静電気散逸性硬質表面積層板を調製した。ATOを2.5、5.0、7.5、および10.0重量%含む4種類の異なるATO分散液濃度を用いた。化粧表面板に、ディップ&スクィーズ処理技法を用いて、異なるATO濃度の分散液を含浸させ、次いで120〜150℃で1.5〜3分間乾燥し、その後未改質メラミンホルムアルデヒド樹脂を塗布した。効果的な分散液塗布速度は、0.005g/cm〜0.25g/cmの範囲であった。1.0%のトルエンスルホン酸触媒を含む未改質メラミンホルムアルデヒド樹脂を、同じディップ&スクィーズ処理技法を用いて化粧表面板に含浸させ、次いで120〜150℃で2〜3分間乾燥した。得られた化粧表面板は、樹脂総含有率が約54重量%であった。
【0095】
対称的な積層板構成を用いて、合計8枚の異なる積層板(各ATO濃度それぞれ2枚)を調製した。各積層板は、ATO改質化粧表面板、4枚のフェノールホルムアルデヒド含浸クラフト紙、および積層板の裏面をバランスさせるための通常のメラミンホルムアルデヒド処理化粧表面板からなる。積層板の内4枚(各ATO濃度それぞれ1枚)は、ATO改質化粧表面板の直下に配置したメラミンホルムアルデヒド処理導電性スクリム層も含む。
【0096】
これらの積層板は、マルチオープニングプレス中270〜280°Fで、1100〜1400psiの圧力下約45〜60分間プレスした。次いで、コンタクト接着剤と木ねじを用いて積層板を5/8”の合板に取り付けた。本実施例の積層板は、EX−6A(ATO2.5重量%)、EX−6B(ATO2.5重量%、スクリム有り)、EX−6C(ATO5.0重量%)、EX−6D(ATO5.0重量%、スクリム有り)、EX−6E(ATO7.5重量%)、EX−6F(ATO7.5重量%、スクリム有り)、EX−6G(ATO10.0重量%)、およびEX−6H(ATO10.0重量%、スクリム有り)と名付けられた。引き続き、20%RHで、これら積層板の表面抵抗(ポイントツーポイント、Rtt)および静電荷散逸を試験した。この電気的試験の結果を表6に要約して示した。
【0097】
【表6】

【0098】
この実施例で調製された積層板のポイントツーポイント抵抗測定値は10〜10オームの範囲であったが、EX−6AおよびEX−6B(ATO2.5重量%の処理)は、ESD S4.1に規定された20%RHでの抵抗基準を満たせなかった。電荷散逸試験結果についても同様の傾向が見られた。EX−6AとEX−6Bを除くすべての積層板は、ANSI/ESD ETM4.2−1998に準拠して静電荷を十分に散逸させた。
【実施例7】
【0099】
Baytron(登録商標)Pを、予めメラミンホルムアルデヒド樹脂で処理した透明オーバーレイ材料の表面に直接塗布することによって、本発明による静電気散逸性積層板を作った。透明オーバーレイ材料は、当業界で通常使用される技法を用いて、1%p−トルエンスルホン酸を触媒としたメラミンホルムアルデヒド樹脂で処理し、乾燥した。透明オーバーレイ材料の樹脂総含有量は約47〜52%であった。
【0100】
一定撹拌下蒸留水を添加することによりポリエチレンジオキシチオフェンの初期濃度を固形分約0.65重量%まで希釈することによって、Baytron(登録商標)Pの組成物を調製した。次いで、希釈したBaytron(登録商標)P分散液を、単純なディップ&スクィーズ法を用いて、予めM/F樹脂で処理した透明オーバーレイの表面上に直接塗布した。Baytron(登録商標)P分散液を塗布した後、この透明オーバーレイ材料を120〜150℃で約2〜3分間乾燥した。
【0101】
Baytron(登録商標)Pで改質した透明オーバーレイ材料を積層板の最外層または表層として用いて、実施例2に記載の方法と同じようにしてEX−7と示した積層板試料を調製した。上でEX−7と示した積層板試料を、5/8”の家具級合板に取り付け、大地から絶縁し、ポイントツーポイント抵抗(Rtt)および静電荷散逸を試験した。積層板試料EX−7について行った電気的試験の結果を下記の表7に示した。
【0102】
【表7】

【0103】
電気的試験の結果により、相対湿度50%および10%において、積層板試料EX−7のポイントツーポイント抵抗は静電気散逸範囲10〜10オームにあることが分かった。さらに、積層板試料EX−7はまた、試験を行ったいずれの相対湿度でも、ANSI/ESD STM4.2−1998に準拠して静電荷を効果的に散逸した。
【実施例8】
【0104】
実施例7に記載の方法を用いて、即ち、固有導電性ポリマー、ポリエチレンジオキシチオフェンを、予めメラミンホルムアルデヒド樹脂で処理した透明オーバーレイ材料の表面へ直接塗布することによって、一連の積層板4枚を調製した。処理された透明オーバーレイ材料へのBaytron(登録商標)Pの塗布は、エアゾール噴霧システムを用いて行った。Baytron P分散液(固形分1.3重量%)を、被覆量の異なる3つのレベルで用いた。被覆量は、少ない(0.0025g/cm〜0.0075g/cm)、中程度の(0.0075g/cm〜0.0125g/cm)、および多い(0.0125g/cm〜0.0175g/cm)被覆量の材料塗布範囲に相当するものであった。M/F樹脂で処理された透明オーバーレイ材料の表面にICP分散液を塗布した後、この表面板を、約120℃で3〜3分間乾燥した。
【0105】
次いで、このICPで処理した透明オーバーレイを用いて、この表面板をコア材料と組み合わせて試験および評価用の積層板試料を調製した。このコア材料は、実施例2に記載したものに類似のコア材料であって、実施例5に記載の導電性不織炭素マットまたはスクリム(Hollingsworth and Vose Company製)を、積層板コア内の様々な位置に配置して付加したもの、およびこれを付加しないものであった。導電性スクリム層は、表面のフェノール樹脂処理ベージュ色バリヤーシートの直後(位置#1、EX−8B)、第2および第3のフェノール樹脂処理クラフトコア層間の積層板中央(位置#2、EX−8C)、および底面のベージュ色フェノール樹脂処理バリヤーシートの直前(位置#3、EX−8D)に配置された。実施例8のすべての積層板試料は、マルチオープニングプレス中で、450〜500psiの圧力下270〜280°Fで約45〜60分間硬化させた。実施例8の積層板試料は、EX−8A(スクリムなし)、EX−8B−2、EX−8B−3およびEX−8C−1と示した。符号A、BおよびCは、それぞれ1.3重量%Baytron P材料の塗布被覆量が少ない、中程度および多いことに相当し、一方、数字1、2および3は、積層板コア内の導電性スクリム材料の位置を示す。数字指定の無い試料は、コア内に導電性スクリム層を含まない積層板試料を示す。
【0106】
上でEX−8A、EX−8B−2、EX−8B−3およびEX−8C−1と示した積層板試料を、5/8”の家具級合板に取り付け、大地から絶縁し、ポイントツーポイント抵抗(Rtt)および静電荷散逸を試験した。実施例8の積層板試料について行った電気的試験の結果を下記の表8に示した。
【0107】
【表8】

【0108】
表8に示したデータから分かるように、実施例8で調製された4つの積層板試料はすべて、相対湿度20%で、ANSI/ESD STM4.2−1998に規定された電荷散逸基準を満たした。一般に、導電性スクリム層の組み込みは、電荷散逸基準を満たす積層板の確率を上げなかったが、積層板のポイントツーポイント抵抗に影響を与えたと思われ、Rttを10〜10オームの静電気散逸範囲外へ低下させた。積層板試料EX−8Aだけが、この静電気散逸範囲にポイントツーポイント抵抗を有しており、かつANSI/ESD STM4.2−1998に規定された電荷散逸基準を満たした。
【実施例9】
【0109】
実施例8に記載したのと同じ塗布技法を用いて、一連のアンチモンスズ酸化物系積層板を調製した。高剪断力を受けている蒸留脱イオン水300gに、ナノフェーズアンチモンスズ酸化物粉末(Nanophase Technologies製)6gを徐々に添加することによって、2.0重量%のアンチモンスズ酸化物分散液を調製した。ATO粉末全量を添加した後、高剪断混合を約15〜20分間続けた。この分散液は、20分後でも沈殿の徴候がなく比較的安定しているように見えた。
【0110】
次いで、上記のアンチモンスズ酸化物分散液を、予めM/F樹脂で処理した化粧表面板の表面に直接塗布し、乾燥した。ATO分散液の塗布は、実施例8に記載の単純なエアゾール噴霧システムを用いて行った。
【0111】
2つの異なる被覆量を用い、調製された各被覆量について2枚の積層板を使用し、それぞれ、EX−9A−1、EX−9A−2、EX−9B−1およびEX−9B−2と示した。積層板試料EX−9A−1およびEX−9A−2は、ATO分散液塗布速度が0.012g/cm〜0.020g/cmに相当し、一方、積層板試料EX−9B−1およびEX−9B−2は、ATO分散液塗布速度が0.020g/cm〜0.028g/cmに相当する。
【0112】
次いで、このATO処理化粧表面板を用いて、この表面板を、実施例2に記載したものに類似のコア材料と組み合わせて試験および評価用の積層板試料を調製した。4枚の積層板試料すべては、マルチオープニングプレス中で、450〜500psiの圧力下270〜280°Fで約45〜60分間硬化させた。
【0113】
上でEX−9A−1、EX−9A−2、EX−9B−1およびEX−9B−2と示した積層板試料を、5/8”の家具級合板に取り付け、大地から絶縁し、相対湿度50%および20%で、ポイントツーポイント抵抗(Rtt)および静電荷散逸を試験した。実施例9の積層板試料について行った電気的試験の結果を表9に示した。
【0114】
【表9】

【0115】
表9から分かるように、4枚の積層板はすべて、試験したいずれの相対湿度でも、ポイントツーポイント抵抗が10〜10オームの静電気散逸範囲内であった。
【0116】
実施例9の4枚の積層板すべてについて、電荷散逸試験の結果も非常に肯定的であり、5秒の接触時間の後、アルミニウム電荷プレート上の残存が|200V|未満の基準を満たしていた。これらの結果から、アンチモンスズ酸化物で改質した表面は、積層板の表面から電荷を散逸させるのにきわめて有効であることが分かる。
【0117】
さらに、アンチモンスズ酸化物を使用することにより、積層板の色相がわずかに灰青色を帯びるが、これにより積層板の表面を美的な魅力のあるものにすることができる。
【0118】
上記の特許、刊行物および試験方法は、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0119】
上記の詳細な説明から、当分野の技術者には、本発明の多くの変更が示唆されると思われる。こうした明らかな変更はすべて、頭記の特許請求の範囲が意図する全範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)セルロース系基板と、
(b)固有導電性高分子、導電性ナノフェーズ材料およびこれらの混合物からなる群から選択されるコンダクタンス改質成分と、
(c)熱硬化性ポリマー樹脂と
を含む静電荷散逸性積層板構造体。
【請求項2】
前記熱硬化性ポリマー樹脂が、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、ポリ尿素、エポキシ、ビスマレイミドおよびホルムアルデヒド型熱硬化性樹脂組成物からなる群から選択される、請求項1に記載の積層板構造体。
【請求項3】
前記セルロース系基板を、固有導電性高分子、導電性ナノフェーズ材料、および固有導電性高分子と導電性ナノフェーズ材料の組合せからなる群から選択されるコンダクタンス改質成分で前処理する、請求項1に記載の積層板構造体。
【請求項4】
前記セルロース系基板を、約0.1重量%〜約20.0重量%の濃度範囲で水性媒体に分散した固有導電性高分子のコロイド分散液で前処理する、請求項3に記載の積層板構造体。
【請求項5】
前記セルロース系基板を、約1.0重量%〜約25.0重量%の濃度範囲で水性媒体に分散した導電性ナノフェーズ材料のコロイド分散液で前処理する、請求項3に記載の積層板構造体。
【請求項6】
透明オーバーレイシートか化粧アンダーシート、または両者をさらに含む、請求項1に記載の積層板構造体。
【請求項7】
熱硬化性ポリマー樹脂で飽和させたセルロース系シートを含む少なくとも1つの内層をさらに含む、請求項6に記載の積層板構造体。
【請求項8】
フェノールホルムアルデヒド樹脂で飽和させた重量紙を含む少なくとも1層をさらに含む、請求項7に記載の積層板構造体。
【請求項9】
導電性スクリム層をさらに含む、請求項1に記載の積層板構造体。
【請求項10】
前記導電性スクリム層が、固有導電性高分子、導電性ナノフェーズ材料、および固有導電性高分子と導電性ナノフェーズ材料の組合せからなる群から選択されるコンダクタンス改質成分を含む、請求項9に記載の積層板構造体。
【請求項11】
前記導電性スクリム層が、前記積層板の、散逸性高分子組成物を含浸させたセルロース系シートの下に組み込まれた導電性不織布材料を含む、請求項9に記載の積層板構造体。
【請求項12】
前記熱硬化性ポリマー樹脂がメラミンホルムアルデヒドを含む、請求項2に記載の積層板構造体。
【請求項13】
前記コンダクタンス改質成分が固有導電性高分子を含む、請求項1に記載の積層板構造体。
【請求項14】
前記固有導電性高分子がポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルホネートを含む、請求項13に記載の積層板構造体。
【請求項15】
前記固有導電性高分子がポリアニリンを含む、請求項13に記載の積層板構造体。
【請求項16】
前記散逸性高分子組成物が、前記構造体中の前記熱硬化性ポリマー樹脂の重量に対して、1.0%未満から約15%の量の前記固有導電性高分子を含む、請求項13に記載の積層板構造体。
【請求項17】
前記コンダクタンス改質成分が、少なくとも1種の導電性ナノフェーズ材料を含む、請求項1に記載の積層板構造体。
【請求項18】
前記散逸性高分子組成物が、前記組成物中の前記熱硬化性ポリマー樹脂の重量に対して、1%未満から約25%の量のナノフェーズ材料を含む、請求項17に記載の積層板構造体。
【請求項19】
前記導電性ナノフェーズ材料がアンチモンスズ酸化物を含む、請求項17に記載の積層板構造体。
【請求項20】
セルロース系構造体に熱硬化性ポリマー樹脂を含浸させた静電荷散逸性硬質積層板構造体を形成する改良方法であって、前記改良が前記積層板構造体に静電荷散逸特性を付与するステップを含み、この改良が、固有導電性高分子、導電性ナノフェーズ材料およびこれらの混合物からなる群から選択されるコンダクタンス改質成分を、(i)前記ポリマー樹脂に前記コンダクタンス改質成分を含浸させることにより、または(ii)前記コンダクタンス改質成分の水性分散液を形成し、前記水性分散液を前記硬質積層板構造体に適用することにより、前記積層板構造体に添加するステップを含む方法。
【請求項21】
前記硬質積層板構造体への前記水性分散液の前記適用がエアゾール噴霧を含む、請求項20に記載の改良方法。
【請求項22】
前記硬質積層板構造体への前記水性分散液の前記適用が、トランスファーコーティングに前記水性分散液を塗布するステップと、次いで前記硬質積層板構造体に前記トランスファーコーティングを適用するステップとを含む、請求項20に記載の改良方法。

【公表番号】特表2006−502021(P2006−502021A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542063(P2004−542063)
【出願日】平成15年10月1日(2003.10.1)
【国際出願番号】PCT/US2003/031273
【国際公開番号】WO2004/030908
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(504010730)メッツ コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】