説明

非侵襲血液分析用の測定ヘッド

【課題】分光システム用の測定ヘッドを患者の皮膚の種々の異なる部分に固定する方法を提供する。
【解決手段】測定ヘッドは、柔軟性のある取り扱いを提供すると共に、皮膚102の種々の部分の複数の特性を考慮して非常に多様な付着領域を提供するような小型の設計とする。更に、該測定ヘッドは、対物レンズ108の光軸の横方向のずらしを必要としないような強固な且つ複雑でない光学設計とする。対物レンズと皮膚内の毛細血管との間の斯様な横断方向の相対移動は、好ましくは、皮膚を当該測定ヘッドの対物レンズに対して機械的にずらすことにより実行される。更に、該測定ヘッドと皮膚との間の接触圧を測定する1以上の圧力センサを有する。この圧力情報は、分光分析手段を校正すると共に、毛細血管の分光検査のための最適接触圧範囲を規定する所定の範囲内に接触圧を調節するために更に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学画像化及び分光技術を利用することによる生体内非侵襲血液分析(NIBA)の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
分析目的のための光学的分光技術の利用自体は、従来技術から既知である。国際特許出願公開第WO02/057758 A1号及び国際特許出願公開第WO02/057759 A1号は、患者の毛細血管を介して流れる血液の組成の生体内非侵襲分光分析用の分光分析装置を示している。画像化システムにより毛細血管の位置が決定され、分光分析用の励起ビームが指向されるべき関心領域が識別される。好ましくは、関心領域の画像化及び分光分析は同時に実行される。原則的に、毛細血管の充分な視覚化を提供するような如何なる画像化方法も適用することができる。上記画像化及び分光分析の両者は、一方では毛細血管の画像化を可能にすると共に、他方ではラマンスペクトルを励起するために皮膚内での近赤外線レーザビームの収束を可能にするような共通の顕微鏡対物レンズを利用する。更に、同じ対物レンズが、ラマン過程から生じた散乱放射の収集のために使用される。
【0003】
高開口数対物レンズ及び検出器の前のピンホールを利用して、ラマンスペクトルは小さな共焦点検出体積から取り込むことができる。しかしながら、画像化システムにより検出されている皮膚内の毛細血管は、顕微鏡対物レンズの光軸上に位置するか又は軸から外れて位置するかの何れかであり得る。後者の場合、そして分光分析システムの共焦点検出体積が比較的小さいという事実により、ラマン検出体積は、典型的には患者の皮膚の表面下の或る深さに位置する毛細血管の少なくとも一部をカバーするような選択された関心体積へずらされねばならない。
【0004】
ラマン検出体積を選択された血管へずらすためには、基本的に、種々の技術を適用することができる。第1に、対物レンズと皮膚とを固定したままで、対物レンズとラマンスペクトルを励起するレーザビームとの間の入射角を変更することができる。この様な方法は、その機械的実施化の点で有利であるが、複雑な(そして、恐らくは高価な)光学設計となる。更に、この様にして検出体積をずらす場合に、励起経路が変化されるのみならず、検出経路も調整する必要がある。第2の方法は、皮膚に対して対物レンズを移動させることに焦点を合わせるものである。好ましくは、対物レンズの光軸、従って対物レンズ自体が、横方向平行移動、即ち光軸に対して垂直な面内での平行移動を受ける。更に、この方法においては、対物レンズは、長手方向平行移動、即ち対物レンズの光軸に沿う移動を受ける。この様な解決策は、分光分析及び画像化用のレーザビームと対物レンズとの間の入射角を維持することができる。この場合、分光検出体積は光軸上に保たれ、前述した方法よりも余り複雑でない光学的設計を可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記両方法とも、分光分析システムの共焦点検出体積を横方向及び長手方向の両方にずらすための何らかの種類の設計を必要とする。代替的に、対物レンズの光軸が、顕微鏡の対物レンズ自体の垂直方向及び長手方向変位に関係して垂直方向又は長手方向の何れかに移動されねばならない。上記両方法が複雑な光学的設計に関わることは明らかである。
【0006】
従って、本発明は、関心体積を当該分光システムの検出体積へ移動させる代替的方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、分光システムのための測定ヘッドを提供する。この発明的測定ヘッドは、該測定ヘッドを患者の皮膚の表面の領域に固定する固定手段を有する。好ましくは、該発明的測定ヘッドは、画像化及び分光分析用の所要の光学部品を組み込む。好ましくは、該測定ヘッドは小型の設計を特徴とし、該測定ヘッドの機能は、主に、皮膚の領域を適切な放射に暴露すること、並びに画像化信号及び散乱分光信号を捕捉することに限定される。必要な光源及び光学信号分析手段は、該測定ヘッドに接続されたベースユニットにより提供される。
【0008】
該分光システムは、患者の皮膚の表面下の目標領域における生物学的筒状構造を介して流れる流体の特性を決定するために特別に設計される。上記目標領域は、毛細血管のような生物学的筒状構造を検索するために当該分光システムの画像化システムにより画像化される関心領域を定める。明確な毛細血管の位置の決定の後に、該位置は分光システムの光軸へ移動され、該毛細血管への励起ビームの収束を可能にする。
【0009】
更に、上記目標領域は、患者の皮膚の表面下の又は皮膚の表面における関心領域も規定することができる。これは、例えば皮膚の表面下に位置する血管のみならず、皮膚の表面に位置する種々の生物学的構造(毛髪又は汗腺等のような)の分光分析のような広範な分光分析を可能にする。
【0010】
当該測定ヘッドは、容易にアクセス可能であり、及び/又は分光分析に適した高密度の毛細血管を提供するような、患者の皮膚の種々の部分に固定するように特別に設計される。皮膚に、一旦、取り付け及び固定されたら、該測定ヘッドは、対物レンズの光軸及び共焦点検出体積が少なくとも分光データを捕捉するのに要する時間(数秒の範囲内である)にわたり毛細血管内に留まるように、当該固定位置に留まる。
【0011】
当該測定ヘッドの対物レンズの機能は二重となっている。第1に、該対物レンズはスペクトル励起レーザビームの収束及び結果としての散乱放射の収集を提供する。第2に、該対物レンズは、分光ビームの共焦点検出領域より大幅に大きな皮膚の領域を画像化する機能を有している。
【0012】
好適な画像化方法は、直交偏光スペクトル画像化(OPSI)、共焦点ビデオ顕微鏡法(CVM)、光学コヒーレンス・トモグラフィ(OCT)、共焦点レーザ走査顕微鏡法(CLSM)及びドプラ型画像化を含む。対応する画像化技術は米国特許出願公開第60/262582号、ヨーロッパ特許出願公開第02732161.1号、国際特許出願第IB2004/050251号及びヨーロッパ特許出願公開第03102481.3号に開示されており、これら文献の全ては参照により本明細書に組み込まれるものとする。更に、超音波又は造影剤(contrast agent)と組み合わせた超音波に基づく他の画像化技術も適用可能である。
【0013】
本発明の他の好ましい実施例によれば、当該測定ヘッドは、関心体積を対物レンズの光軸へ移動させるために、前記固定手段を対物レンズに対して該対物レンズの光軸に略垂直な面内で移動させる手段を更に有する。当該測定ヘッドの固定手段は患者の皮膚の表面に強固に固定されるようになっているので、該固定手段を対物レンズに対して移動させることにより、患者の皮膚の表面の領域は該対物レンズに対して実質的に移動される。このようにして、当該画像化システムにより画像化され、且つ、対物レンズの光軸に対して軸外に位置する毛細血管は、該対物レンズの光軸に向かって当該測定ヘッドの共焦点検出体積と略重なる領域へと平行移動することができる。
【0014】
言い換えると、当該測定ヘッドの固定手段を患者の皮膚の表面の領域に固定すると共に、該固定手段を移動させれば(即ち、上記皮膚を当該測定ヘッドの対物レンズに対して移動させれば)、該皮膚の対物レンズに対する所要の平行移動運動が得られる。従って、本発明は、目標領域を明確な毛細血管に略重なるように位置決めするための有効で、小型で、且つ、強固な方法を提供する。従来技術において知られている解決策とは対照的に、本発明は、対物レンズに対する皮膚の移動を提供する。これは、余り複雑でない光学的設計を可能にする。何故なら、対物レンズの光軸の横方向位置を変更する必要がないからである。更に、本発明の測定ヘッドは対物レンズの光軸をずらす如何なる手段も必要としない。
【0015】
当該測定ヘッドは、該測定ヘッドを患者の皮膚の指定された箇所に容易に取り付け及び固定することができるように小型の設計を特徴とするのが有利である。当該測定ヘッドが充分に寸法が小さく重量が軽い場合、患者の移動の自由度に関する制約を低いレベルに維持することができる。何故なら、該測定ヘッドは殆ど如何なる患者の考え得る運動にも自由に追随するからである。検査の間に患者が動くのを可能にすることは、検査の間に何となく快適でない位置に強固に固定されたままとなるよりも、確かに一層快適である。
【0016】
本発明の更なる好ましい実施例によれば、本発明測定ヘッドは、対物レンズの焦点面を皮膚の表面下の目標領域へ移動させるために、対物レンズを前記固定手段に対して該対物レンズの光軸に略平行な方向に移動させる手段を更に有する。この様にして、共焦点検出体積の長手方向位置を任意に修正することができ、当該測定ヘッドの対物レンズと、調査中であると共に皮膚の表面下に位置する毛細血管との間の三次元相対運動を提供する。
【0017】
かくして、本発明は、皮膚を対物レンズに対して移動させることにより、毛細血管又は皮膚の表面に位置する他の生物学的構造の対物レンズに対する横方向移動を提供すると共に、該対物レンズの上記毛細血管に対する長手方向移動も更に提供する。当該測定ヘッドの光学装置は、画像化及び共焦点分光手段のために無限遠補正対物レンズを利用するので、該対物レンズの光軸の方向の平行移動は、該対物レンズの長手方向の平行移動を補正する光学補正手段を実施化することなしに容易に実現することができる。
【0018】
基本的に、当該測定ヘッドの横方向タイプ又は長手方向タイプの如何なるタイプの平行移動も、電気的、磁気的又は空気的に駆動することが可能な如何なる種類の平行移動ステージ又は平行移動及び回転ステージの組み合わせによっても実現することができる。
【0019】
本発明の更なる好ましい実施例によれば、前記固定手段は、皮膚の表面の領域に接触するように構成された接着エレメントを有する。該接着エレメントは、上記皮膚の表面の領域と当該測定ヘッドの上記固定手段との間の相対的移動を防止するようになっている。言い換えると、当該測定ヘッドは、該測定ヘッドの上記固定手段を皮膚の表面に粘着させることにより該皮膚の表面に固定される。皮膚の表面に対する当該測定ヘッドの接着的固定の利用は、好ましくは、当該皮膚が相対的に乾燥している場合に、即ち例えば唾液により覆われていない場合に適用可能とする。
【0020】
皮膚の乾燥領域への接着エレメントの貼付を利用すれば、殆どの場合、皮膚の表面の領域を上記固定手段に適切に付着させるためには当該測定ヘッドの該固定手段を皮膚に軽く押圧するだけで充分であろう。この場合、対物レンズに対する上記固定手段の横方向平行移動は、結果的に上記皮膚の表面の領域の対応する横方向移動となる。特に、皮膚の表面と当該材料との間の高い摩擦力を特徴とするような材料(例えば、ゴム等)を利用することにより、又は粗面化された材料を利用することにより、所要の接触圧を低減することが可能となる。必要な場合は、両面粘着材料又は接着剤を利用することにより、上記固定手段の一層強固な取り付けさえも実現することができる。
【0021】
本発明の他の好ましい実施例によれば、上記固定手段は第1及び第2のクランプエレメントを更に有する。上記第1のクランプエレメントは当該測定ヘッドのハウジングの一体部分であり、第1及び第2のクランプエレメントは皮膚の表面に対して機械的応力を発生するようになっている。かくして、斯かる第1及び第2のクランプエレメントは、容易に掴むことが可能な人体の皮膚の部分又は幾何学構造によりクランプするのが可能な患者の皮膚の領域に特に適用可能なタイプのクランプを形成する。容易に掴むことが可能な皮膚の部分は、例えば、上腕の後部又は顔面の何らかの部分である。幾何学構造のお陰でクランプを可能にする人体の部分は、例えば、耳朶、唇、舌、鼻孔又は指の間の皮膚片である。この様にして、外側からアクセス可能な人体の内部も充分に検査することができる。
【0022】
本発明の他の好ましい実施例によれば、前記固定手段は少なくとも第1及び第2の磁気エレメントを有する。これら第1及び第2の磁気エレメントは相互に吸引磁力を発生するように配置される。第1の磁気エレメントは当該測定ヘッドのハウジングの一体部分であり、第2の磁気エレメントは皮膚下の関心体積を含む患者の組織の体積により上記第1の磁気エレメントから分離されるようになっている。この様にして、当該測定ヘッドは、2つの相互に吸引する磁気エレメントを利用することにより患者の皮膚に取り付け及び固定することができる。このような実施例は、例えば内側の頬のように、2つの側からは到達することができるが、粘着又はクランプすることができないような患者の領域に対して特に適用可能である。
【0023】
本発明の他の好ましい実施例によれば、前記固定手段は、皮膚の表面の領域と該固定手段との間に第1の気圧を発生する手段を更に有する。ここで、上記第1の気圧は周囲の気圧より大幅に小さく、当該測定ヘッドの皮膚の表面への有効な取り付けが得られる。この実施例では、当該固定手段は、好ましくは、皮膚に接触すると共に小さな孔を有するように構成されたチェンバを利用する。皮膚の表面に接触した後、該チェンバは真空となる。結果として、該チェンバの上記孔の近傍において負の圧力が皮膚の表面に対する吸引力を生じ、結果として該チェンバの固定、従って当該測定ヘッドの固定手段の患者の皮膚に対する固定が得られる。
【0024】
本発明の他の好ましい実施例によれば、前記固定手段は皮膚の表面に接触するように構成された少なくとも1つの使い捨て可能なエレメントを有する。このようにして、衛生面に関して特別な注意を払うことができる。好ましくは、上記固定手段における患者の皮膚に機械的に接触するようになっている部分のみが使い捨て可能なエレメントとして設計されるようにする。他の例として、上記固定手段又は該固定手段の部分が当該測定ヘッドのハウジングの一体部分として設計されている場合は、該固定手段は全体として使い捨て可能なものとして設計することができる。基本的に、当該測定ヘッドの皮膚の表面への固定のための上述した実施例の何れもが、使い捨てエレメントとして設計及び製造することができる。
【0025】
本発明の他の好ましい実施例によれば、前記固定手段は対物レンズに剛性的に接続され、当該測定ヘッドは皮膚の表面に接触するように構成された少なくとも第1及び第2の変位エレメントを更に有する。第1の変位エレメントは皮膚の表面の領域を第1の方向に沿って変位させるように構成され、第2の変位エレメントは皮膚の表面の領域を第2の方向に沿って移動させるように構成される。これら第1及び第2の方向は前記対物レンズの光軸に対して略垂直である。
【0026】
更に、上記第1の方向は上記第2の方向に対して略垂直である。この実施例では、当該測定ヘッドの上記固定手段は対物レンズの光軸に対して横方向にずらされるように構成される。特に、この実施例は皮膚の可撓特性を利用し、少なくとも2つの変位エレメントを、当該測定ヘッドの上記固定手段及び対物レンズに対して皮膚の表面の領域を横方向に変位させるように適用する。例えば、上記変位エレメントはゴムパッドにより仕上げられたキャタピラ状車輪として実現することができる。斯かる車輪を回転させることにより、皮膚を所望の横方向に充分に引っ張ることができる。
【0027】
本発明の他の好ましい実施例によれば、当該測定ヘッドの固定手段は該測定ヘッドのハウジングの一体部分であるようなウィンドウを更に有する。該ウィンドウは、皮膚及び共焦点検出体積の画像化及び分光分析のために供給されるタイプの光学的放射に対して実質的に透明である。
【0028】
本発明の他の実施例によれば、当該測定ヘッドは、該測定ヘッドと皮膚の表面との間の接触圧を測定する少なくとも1つの圧力センサを有する。好ましくは、上記少なくとも1つの圧力センサは前記固定手段内に、又は該測定ヘッドの使い捨て部分と非使い捨て部分との間に組み込まれる。接触圧を測定すると共に、該測定された接触圧を分析システムに供給することは、結果として、該接触圧を修正することを可能にする。接触圧を知ることは、当該分光分析システムを適切に校正するための重要なパラメータであり得る。更に、或る範囲内になければならない接触圧を修正し、さもなければ測定された結果を破棄する必要があるかも知れない。
【0029】
基本的に、上記本発明の固定手段の何れもが、接触圧の修正を可能にする。真空技術を利用すれば、接触圧は、接続された真空ポンプの出力を変化させることにより容易に修正することができる。クランプ機構を利用する場合、クランプ用バネを、電流が供給された場合に変形を受けるような温度感知性合金として実施化することが一般的に可能である。また、磁気固定方法を利用することにより、修正可能な電圧と組み合わせた電磁石を適用することによって磁力を修正することが一般的に可能である。
【0030】
他の態様においては、本発明は、測定ヘッドを患者の皮膚の表面の領域に固定するための固定手段を提供する。該固定手段は、検査期間の間に、患者の皮膚の表面の領域の横方向移動を防止するように構成される。更に、該固定手段は、対物レンズに対して横方向に移動され、共焦点検出体積の横方向位置を皮膚の表面下の明確な毛細血管に持ってくるように構成される。更に、該固定手段は、検査を受ける明確な毛細血管を、当該測定ヘッドの対物レンズの光軸上に維持するように構成される。
【0031】
本発明の他の好ましい実施例によれば、前記固定手段は、測定ヘッドのハウジングを皮膚の表面の領域に固定するように構成される。この様にして、該測定ヘッドは、皮膚の表面の指定された領域に剛性的に又は強固に取り付けることができる。該固定手段を移動させる手段又は変位手段との組み合わせで、皮膚の表面の領域は、当該測定ヘッドの対物レンズに対して横方向にずらすことができる。
【0032】
本発明の他の好ましい実施例によれば、前記固定手段は、皮膚の表面に接触するように構成された少なくとも1つの使い捨て可能なエレメントを有する。使い捨て可能なエレメントを利用することは、検査を受ける種々の人体に対する当該測定ヘッドの容易且つ汎用的な適応化を提供するような高度の衛生標準を提供する。
【0033】
更に他の実施例では、本発明は、目標領域に対して分光システムの測定ヘッドを位置決めする方法を提供する。測定ヘッドを位置決めする該方法は、該測定ヘッドの固定手段を皮膚の表面の領域に付着させると共に、該測定ヘッドの固定手段を該測定ヘッドの対物レンズに対して移動させることを利用して、目標領域を画像化すると共に、上記目標領域を上記対物レンズの光軸上に位置決めする。上記目標領域は、皮膚の表面下の関心体積における生物学的筒状構造又は皮膚の表面下又は表面上に位置する他の生物学的構造を特定する。斯様な目標領域を対物レンズの光軸上に位置決めすれば、同じ対物レンズを使用することにより目標領域の共焦点分光分析が可能となる。
【0034】
本発明は特定の型式のラマン分光法に限定されるものではなく、他の光学的分光技術も使用することができることに注意すべきである。これは、(i)刺激ラマン分光法(stimulated Raman spectroscopy)及びコヒーレント・アンチストークス・ラマン分光法(CARS)を含むラマン散乱に基づく他の方法、(ii)特には赤外線吸収分光法、フーリエ変換赤外線(FTIR)分光法及び近赤外線(NIR)拡散反射分光法等の赤外線分光法、(iii)特には蛍光分光法、多光子蛍光分光法及び反射率分光法等の他の散乱分光技術、並びに(iv)光音響分光法、偏光及びポンププローブ分光法等の他の分光技術を含む。本発明に適用するのに好ましい分光技術は、ラマン分光法及び蛍光分光法である。
【0035】
以下、本発明の好ましい実施例を、図面を参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、皮膚に取り付けられた測定ヘッドの断面図を示す。
【図2】図2は、固定手段として第1及び第2クランプエレメントを利用した測定ヘッドの断面図を示す。
【図3】図3は、固定手段として吸引磁力を利用した測定ヘッドの断面及び上面図を示す。
【図4】図4は、測定ヘッドを皮膚に固定するために真空技術を利用した測定ヘッドの断面及び上面図を示す。
【図5】図5は、2つの変位エレメントを利用した測定ヘッドの一実施例の断面及び上面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は、当該測定ヘッド100の断面図を示す。該測定ヘッド100は、固定手段104を利用することにより皮膚102の表面の領域に固定される。この図示した実施例において、固定手段104は、測定ヘッド100のリング106及び皮膚102の表面に粘着する接着ストリップとして達成されている。リング106は、窓122を有し、浸液120により満たすことができる。画像化品質の理由のために、浸液120の液滴は、測定ヘッド100の窓122と皮膚102の表面との間にも投与される。このようにして、皮膚の画像化のため及び皮膚の分光検査のために使用される光学信号118は、実質的に同様の屈折率を呈する媒体を介してのみ伝搬する。
【0038】
皮膚102の画像化及び該皮膚の表面下における特定の毛細血管124の分光検査の両方のために、対物レンズ108が使用される。対物レンズ108の位置は、毛細血管中を流れる流体の分光分析のための共焦点検出体積の位置を規定する。これも対物レンズ108を利用する画像化システムにより、毛細血管124は、該毛細血管(即ち、皮膚の領域)と対物レンズ108との間の相対移動を最終的に要して識別することができる。
【0039】
従って、対物レンズは長手方向に、即ち該対物レンズ108の光軸に平行な方向に移動可能なように構成される。対物レンズ108の移動は、基本的に、例えば圧電素子、磁気エレメント又は空気エレメント等を利用する如何なる種類の平行移動ステージにより実現することもできる。共焦点励起及び散乱分光信号の捕捉のための光学装置は、対物レンズ108の長手方向のずれが基本的に如何なる光学補正手段も必要としないように設計されている。従って、当該測定ヘッドは如何なる光学補正手段もなしで設計することができ、該測定ヘッドの有効な、小型のかつ強固な設計を可能にする。
【0040】
測定ヘッド100の対物レンズ108に対して皮膚102を横方向に移動させるという本発明の特徴を有効に利用することは、該測定ヘッドの対物レンズとフレーム114との、対物レンズ108がフレーム114に対して該対物レンズの光軸に沿ってのみ移動可能となるような強固な接続を可能にする。横方向移動、即ち対物レンズ108の光軸に垂直な面内での移動は、フレーム114とリング110との一体化部分である平行移動ステージにより実行することができる。これらの平行移動ステージは、フレーム114に対するリング110の相対的横方向平行移動を可能にする。該平行移動ステージは、両横方向における、即ち対物レンズ108の光軸に略垂直な2つの方向における横方向運動を提供する。好ましくは、測定ヘッド100は、フレーム114又はリング110の異なる位置に、2つのリング110及び106がフレーム114及び対物レンズ108に対して横方向面における両方向に平行移動することができるように配置された数個の平行移動ステージを有するものとする。
【0041】
リング110はリング106のホルダとして作用する。前記浸液用のカップとして作用するリング106は、好ましくは、バネ112の配設と組み合わされた磁気手段によりリング110に取り付けられ、該リング106の水平の向きを提供する(即ち、リング106及び該リングの一体化されたウィンドウ122が対物レンズ108の光軸と略垂直な向きに留まることを保証する)。
【0042】
理想的には、当該測定ヘッドは、皮膚の表面と該測定ヘッドとの間の接触圧を測定及び供給するために少なくとも1つの圧力センサを有するように構成される。接触圧が分かれば、当該分光分析システムを校正し及び/又は該接触圧が既定の最適範囲内に入るように調整するために更に利用することができる。
【0043】
高レベルの衛生規格を提供するために、少なくとも本実施例では接着ストリップの形態の固定手段104は、好ましくは、使い捨て可能なものとして実施化されているものとする。他の例として、固定手段104がリング106に強固に接続されている場合は、リング106及びウィンドウ122並びに該リング106の一体的部分である浸液120の全体を、使い捨て可能なエレメントとして実施化することができる。
【0044】
図1に図示した実施例は、特に、測定ヘッド100の固定手段104と皮膚102の表面との間の充分な接着を可能とするような皮膚の領域に適用可能である。
【0045】
図2は、少なくとも2つのクランプエレメント130及び132を利用する実施例における測定ヘッド100の断面図を示している。ここでは、簡略化のために、図1の測定ヘッドのリング106及びウィンドウ122のみが図示されている。リング106は第1クランプエレメント130に接続され、該第1クランプエレメントは共通軸により第2クランプエレメント132に接続されている。両クランプエレメント130、132は、共通軸136を支点として自由に回転することができる。クランプエレメント132の左下部は、測定ヘッド100のリング106と類似した幾何学形状を有している。第1及び第2クランプエレメント130及び132は、皮膚102の特定の部分をクランプするようになっている。クランプを可能にする皮膚102の適切な部分は、例えば、耳朶、唇、舌、鼻孔、指の間の皮膚片、又は容易に摘むことが可能な皮膚の如何なる他の部分(例えば、上腕の後側又は顔の何らかの部分)でもある。
【0046】
クランプ効果の強さは、両クランプエレメント130、132に接続され、両クランプエレメント130、132に吸引力を生じさせるアクチュエータ134により支配される。2つのクランプエレメント130、132の間への吸引力の印加により、皮膚102の一片上に機械的応力が発生され、結果として皮膚を測定ヘッド100のリング106に対して固定する。
【0047】
当該測定ヘッドと皮膚の表面との間の接触圧を提供するような該測定ヘッド100内に組み込まれた圧力センサを利用すると、2つのクランプエレメント130、132の間に発生される吸引力を変更して、所定値の接触圧を実現することが可能となる。前記バネ力の操作は、基本的に、例えば特定の温度感知性合金を加熱ユニットとの組み合わせで使用することによりバネを作製する等の種々の異なる手段により実現することができる。
【0048】
図3は、固定手段が磁気効果を利用するように構成された測定ヘッド100の実施例の断面図及び上面図を示す。ここでも、図2に図示したのと同様に、測定ヘッド100のリング106及び組み込まれたウィンドウ122のみが図示されている。リング106は、該リング106の周囲に好ましくは規則的に配置された数個の磁石140を有している。この様にして、リング106は、当該測定ヘッドを皮膚102の特定の部分に固定するための固定手段の一方のエレメントとして作用する。該固定手段の第2の部分は、リング106の磁石140の相手方として作用する磁気ディスク142により提供される。リング106の磁石140及び磁気ディスク142は、相互に吸引力を発生し、結果として、皮膚102を測定ヘッド100のリング106に対して固定する。
【0049】
この実施例の利用は、クランプも接着も推奨されない人体の部分、例えば内側の頬にとり特に有利である。ここでも、圧力センサを利用すると共に磁石140を電磁石として実施化すれば、リング106と皮膚102との間の接触圧の広範囲な調整及び調節が可能となる。また、衛生上の観点から、リング106、ウィンドウ122及びディスク142全体を使い捨て可能なものとして設計することができる。
【0050】
図4は、固定手段が真空効果を利用するように構成された測定ヘッド100の他の実施例の断面図及び上面図を示す。この実施例において、リング106は、皮膚102に接触するように構成された多数の孔152を有している。特に、リング106は真空チェンバとして実施化され、従ってチューブに接続される。リング106を皮膚102に接触させると共に、チューブ150を一種の真空ポンプに接続し、リング106の内部に真空を発生させる。周囲の気圧より低いリング106内の気圧を利用すれば、皮膚102をリング106に固定することが、従って当該測定ヘッドを皮膚に固定することが可能となる。
【0051】
真空技術を利用する本実施例は、図1に図示したような接着エレメントを利用する実施例のように、一方の側からのみしかアクセスすることができないような皮膚の部分に同様に適用することができる。チューブ150に取り付けられた真空機構を適切に制御することによりチェンバ106内の真空を操作すれば、リング106と皮膚102との間の接触圧を変更することができる。かくして、斯かる接触圧は、毛細血管124の分光検査にとり有利な所定の接触圧を実現するために任意に変更することができる。
【0052】
図5は、2つの変位エレメント160及び162を利用した他の実施例の断面図及び上面図を示す。上記2つの変位エレメントは、例えばゴムパッドにより仕上げられたキャタピラ状車輪等の車輪として実施化される。これら変位エレメントは皮膚102に接触し、該変位エレメントのゴムパッドと皮膚102との間の相対的に高い摩擦力により、キャタピラ状車輪の回転は、結果として、対物レンズ108に対する及びリング106に対する皮膚102の対応したずれを生じさせる。
【0053】
一般的に、ここでは、上述した固定手段の何れか1つ又は何れかの組み合わせを適用することができる。特に、該固定手段は対物レンズ108に対して横方向にずらされる必要はない。この実施例は、皮膚102の表面の弾性特性を有効に利用している。リング106並びに2つの変位エレメント160及び162の上面図を参照すると、キャタピラ状車輪160の回転の結果として下に位置する皮膚の垂直方向移動が生じ、キャタピラ状車輪162の回転の結果として皮膚102の水平方向移動が生じることは明らかである。上側の図における矢印は、ゴムパッドで仕上げられたキャタピラ状車輪の回転方向を示している。
【0054】
本発明は、分光システム用の測定ヘッドを患者の皮膚の種々の異なる部分に取り付け及び固定する有効な方法を提供する。該測定ヘッドは、好ましくは、柔軟な取り扱いを提供すると共に、皮膚の種々の部分の複数の特性を考慮して多様な付着領域を提供するような小型の設計を特徴とするものとする。更に、本測定ヘッドは、対物レンズの光軸の横方向のずらしを必要としない強固で複雑でない光学設計を特徴とする。対物レンズと皮膚内の毛細血管との間の斯様な横断方向の相対運動は、好ましくは、皮膚を当該測定ヘッドの対物レンズに対して機械的にずらすことにより実行される。更に、当該測定ヘッドは、該測定ヘッドと皮膚との間の接触圧を測定する複数の圧力センサを有するように構成される。この圧力情報は、分光分析手段を校正し、毛細血管の分光検査に対する最適範囲の接触圧を指定する所定の範囲内に接触圧を調節するために更に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
100 測定ヘッド
102 皮膚
104 固定手段
106 リング
108 対物レンズ
110 リング
114 フレーム
118 光学信号
120 浸液
122 ウィンドウ
124 毛細血管
130 クランプエレメント
132 クランプエレメント
134 アクチュエータ
136 軸
140 磁石
142 磁気ディスク
150 チューブ
152 孔
160 変位エレメント
162 変位エレメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光システム用の測定ヘッドにおいて、
− 前記測定ヘッドを患者の皮膚の表面の領域に固定する固定手段と、
− 励起ビームを目標領域に向けると共に該目標領域からの戻りの放射を集める、前記目標領域の画像化のための対物レンズと、
を有する測定ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の測定ヘッドにおいて、前記固定手段を前記対物レンズに対して該対物レンズの光軸に略垂直な面内で移動させて、前記目標領域を前記対物レンズの光軸へ移動させる手段を更に有していることを特徴とする測定ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の測定ヘッドにおいて、前記対物レンズを前記固定手段に対して該対物レンズの光軸に略平行な方向に移動させて、前記対物レンズの焦点面を前記目標領域へ移動させる手段を更に有していることを特徴とする測定ヘッド。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の測定ヘッドにおいて、前記固定手段は前記皮膚の表面の領域と接触するように構成された接着エレメントを有し、該接着エレメントが、更に、前記皮膚の表面の領域と前記固定手段との間の相対運動を防止するように構成されていることを特徴とする測定ヘッド。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一項に記載の測定ヘッドにおいて、前記固定手段は第1及び第2のクランプエレメントを更に有し、前記第1のクランプエレメントは当該測定ヘッドのハウジングの一体部分であり、前記第1及び第2のクランプエレメントは前記皮膚の表面に機械的応力を発生するように構成されていることを特徴とする測定ヘッド。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか一項に記載の測定ヘッドにおいて、前記固定手段は少なくとも第1及び第2の磁気エレメントを有し、前記第1及び第2の磁気エレメントは相互に吸引磁力を発生し、前記第1の磁気エレメントは前記測定ヘッドのハウジングの一体部分であり、前記第2の磁気エレメントは前記目標領域を含む前記患者の組織の体積により前記第1の磁気エレメントから離隔されるように構成されていることを特徴とする測定ヘッド。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか一項に記載の測定ヘッドにおいて、前記固定手段は前記皮膚の表面と該固定手段との間に第1の気圧を発生する手段を有し、前記第1の気圧が周囲の気圧よりも大幅に小さいことを特徴とする測定ヘッド。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか一項に記載の測定ヘッドにおいて、前記固定手段は少なくとも1つの使い捨て可能なエレメントを有し、該少なくとも1つの使い捨て可能なエレメントが前記皮膚の表面の領域と接触するように構成されていることを特徴とする測定ヘッド。
【請求項9】
請求項1及び3ないし8の何れか一項に記載の測定ヘッドにおいて、前記固定手段は前記対物レンズに剛性的に接続され、当該測定ヘッドは前記皮膚の表面の領域に接触するように構成された少なくとも第1及び第2の変位エレメントを更に有し、前記第1の変位エレメントは前記皮膚の表面の領域を第1の方向に沿って変位させるように構成され、前記第2の変位エレメントは前記皮膚の表面の領域を第2の方向に沿って変位させるように構成され、前記第1及び第2の方向は前記対物レンズの光軸に対して略垂直であり、前記第1の方向が前記第2の方向に対して略垂直であることを特徴とする測定ヘッド。
【請求項10】
請求項1ないし9の何れか一項に記載の測定ヘッドにおいて、前記固定手段はウィンドウを更に有し、該ウィンドウが当該測定ヘッドのハウジングの一体化部分であることを特徴とする測定ヘッド。
【請求項11】
請求項1ないし10の何れか一項に記載の測定ヘッドにおいて、少なくとも1つの圧力センサを更に有し、該少なくとも1つの圧力センサが当該測定ヘッドと前記皮膚の表面との間の接触圧を測定することを特徴とする測定ヘッド。
【請求項12】
請求項1ないし11の何れか一項に記載の測定ヘッドを、患者の皮膚の表面の領域に固定する固定手段。
【請求項13】
請求項12に記載の固定手段において、該固定手段が前記測定ヘッドのハウジングを前記皮膚の表面の領域に固定するように構成されていることを特徴とする固定手段。
【請求項14】
請求項12又は請求項13に記載の固定手段において、前記皮膚の表面に接触するように構成された少なくとも1つの使い捨て可能なエレメントを更に有していることを特徴とする固定手段。
【請求項15】
分光システムの測定ヘッドを目標領域に対して位置決めする方法において、該位置決めする方法が、
− 前記測定ヘッドの固定手段を皮膚の表面の領域に当てるステップと、
− 前記目標領域を前記測定ヘッドの対物レンズの光軸上に位置決めすると共に該目標領域を画像化するために、前記測定ヘッドの前記固定手段を該測定ヘッドの前記対物レンズに対し移動させるステップと、
を有することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−101054(P2012−101054A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−238119(P2011−238119)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【分割の表示】特願2007−512640(P2007−512640)の分割
【原出願日】平成17年5月3日(2005.5.3)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】