説明

非接触型ICカードの製造方法

【課題】 厚みムラや印刷ムラを低減し、品質を高めることができる非接触型ICカードの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】 非接触式ICカードは、巻線アンテナ4とICチップ5を組として複数配列した積層体シート8を、2つの成型板6a、6bの間に、かつ縁辺部6cにスペーサ部材7を挿配した状態で挟み込んで熱プレス成型するよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキャッシュカードやIDカードなどに用いられる非接触型ICカードの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非接触型ICカード(以下、「ICカード」と呼ぶ)は熱可塑性プラスチック基材からなる薄いカード基材中にアンテナコイルと、様々な接合方法により実装されたICチップとが埋設、成型されており、成型には熱プレス成型装置を使用することが知られている。
【0003】
また、生産効率の観点から、1つの基材シートに複数組のICチップとアンテナコイルを配置した状態の積層体シートを熱プレス成型した後、分断してICカードを得ている。また、必要に応じて前記積層体シートと成型板とを交互に数段重ねた後、一度に熱プレス成型を行う場合もある。なお、熱プレス成型後の前記積層体シートを、以下「成型物」と呼んで区別する。成型物は、ICチップとアンテナコイルの組を含む規定のカードサイズ(約85mm×54mm)に金型で打抜き、裁断等を行いICカードが完成する。このようなICカードの製造方法は、例えば特許文献1、特許文献2に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−133901号公報
【特許文献2】特開2006−260227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今では、IDカードとして電子データの照合の他にカード上に映写された顔写真などの可視情報を照合することも多い。前記可視情報は昇華型印刷方式によって形成するのが一般的である。昇華型印刷方式を採用する場合は、印刷対象物であるカードに厚みムラがあると印刷ムラが発生し易くなる。
【0006】
通常、熱プレス成型装置においては、SUS材と呼ばれる厚さ1.0mm程度のステンレス合金薄板を用いた成型板を、積層体シートの上面と下面から挟み加圧する。
【0007】
熱プレス成型時においては、積層体シートを複数段積層して一度に熱プレスを行うことが多いため、生産効率の面から、各積層体シートの上面と下面を挟み込む2つの成型板は薄くせざるを得ない。そのため成型板の剛性が低下して歪みや反りで成型物全体の厚みが均一にならず、特に成型物の外周部付近の厚みが薄くなる、いわゆる厚みムラが生じ、例えば昇華型印刷方式を採用する際に印刷ムラが生じるという問題があった。
【0008】
一方、成型板を厚くして剛性を高め、成型板の歪みや反りを抑える方法も考えられるが、成型板のコストアップや、積層体シートの重ね段数が少なくなることによる生産効率の低下に繋がるという問題があった。
【0009】
従って、本発明は上述の課題を解決し、成型物の厚みムラや印刷ムラを低減し、品質を高めることができる非接触型ICカードの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はこれらの課題を解決するため、ICカードの製造工程において、積層体シートをそれより大きい表面積を有する2つの成型板で挟みこみ、更に積層体シートの縁辺部にスペーサ部材を配置した状態で熱プレス成型処理を行うことで、前記スペーサ部材が弾性吸収体として作用し、成型板の歪みや反りが抑制され、その結果成型物全体の厚みを均一に保つことができるよう構成する。
【0011】
本発明によれば、少なくとも1組のICチップとアンテナコイルの組を、2枚の基材シートで挟んでなる積層体シートを熱プレス成型後、前記ICチップとアンテナコイルの組を各々有するカードに分断する、非接触型ICカードの製造方法であって、前記積層体シートの上面と下面を、前記積層体シートよりも大きい面積を有する2枚の成型板で挟持し、前記2枚の成型板の間にはスペーサ部材を配して熱プレス成型することを特徴とする非接触型ICカードの製造方法が得られる。
【0012】
本発明によれば、前記スペーサ部材は、前記積層体シートの縁辺部に、前記積層体シートに接触しないように配置することを特徴とする請求項1記載の非接触型ICカードの製造方法が得られる。
【0013】
本発明によれば、前記スペーサ部材は、金属材料または樹脂材料の何れか一方であることを特徴とする請求項1または2記載の非接触型ICカードの製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0014】
以上述べたように本発明により、成型板の間にスペーサ部材を挿入して熱プレス成型処理を行うことで、挿配されたスペーサ部材が弾性吸収体として作用するので、成型板の歪みや反りが抑制され、成型物全体の厚みを均一に保ち、厚みムラや印刷ムラを低減できると共に、生産歩留まりと品質の向上、低コスト化も可能となる非接触型ICカードを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明による実施の形態について図面を用いて説明する。
【0016】
図1は、ICカードの構造を説明する断面図である。
【0017】
基材シート1b上に、ICチップ5と巻線アンテナ4を載置し、各々を半田接合し、その上に、ICチップ5を収納する貫通穴を設けた基材シート1aを積層し、続いてICチップ5と前記貫通穴に、エポキシ系の封止剤3を流し込み固着する。更に、前記基材シート1a、1bと同一材料のオーバーシート2a、2bで基材シート1a、1bの両面を挟み込んで、積層体シートを構成している。その後、この積層体シートの上面と下面を2つの成型板を用いて挟み込み、熱プレス成型して、上記の各構成部材を溶融固着し、最後にカードサイズに分断し、ICカードが完成する。
【0018】
基材シート1a、1bは、材質がポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)などの熱可塑性樹脂シートが好ましく、コスト性を考慮し、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好適である。また、基材シート1aまたは1bには例えばICチップ5を収納する穴を設け、ICチップの厚みとその他の基材の厚みとの総厚がICカードの規定厚0.76mmとなるよう適宜調整するのが好ましい。
【0019】
オーバーシート2a、2bは、必要に応じて用いるのが好ましく、材質がポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)などの熱可塑性樹脂シートが好ましく、コスト性を考慮した場合は、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好適である。また、その厚みは100〜200μmが好ましい。なお、必要に応じて、オーバーシート2aの外側面には昇華印刷のインキ受容層が塗布され乾燥、固化されていてもよく、オーバーシート2bの外側面にはカードの説明注意書きが印刷されていてもよい。
【0020】
なお、上記の基材シート1a、1b、及びオーバーシート2a、2bの積層する際は、各々のシート間には、図示しないホットメルト等の接着剤を塗布してもよい。
【0021】
封止剤3は、汎用的なエポキシ系、ウレタン系の封止用樹脂材が好ましいが、ICチップを覆い、外部応力に対する機械的強度を確保するため、高耐熱性、高耐湿性、高剛性を有するエポキシ系の樹脂がより好適である。
【0022】
巻線アンテナ4は、基材シート1b上に、銅箔、アルミニウム箔などの金属シートや導電性ペーストを印刷法によりパターン形成したコイルでも、銅線、アルミニウム線などの導電線を巻線した空芯コイルの何れでもよいが、加工性から前者の印刷法によるコイルが好ましい。また、コイルの螺旋形状は円形、角形等どんな形状でもよい。
【0023】
ICチップ5は、チップ表面及びダイシングカット面にマイクロクラックを生じさせるような外部ストレスを最小限に抑えるために、エッチング処理を施した物を使用するのが好適である。
【0024】
図2は、上記の構成からなる、積層体シートの上面図である。
【0025】
積層体シート8には、24組のICチップ5と巻線アンテナ4の組が碁盤目状に配列されている。ここでは、ICチップ5と巻線アンテナ4を透過的に描写しているが、実際の積層体シートの表面には可視情報などが印刷されていて、内部のICチップ5と巻線アンテナ4は見えない場合もある。なお、点線に沿って打ち抜き加工を行い、ICカードを得る。
【0026】
図3は本発明による積層体シート、成型板、スペーサ部材を配置した状態を示す上面図であり、図4は本発明による積層体シート、成型板、スペーサ部材を配置する状態を示す斜視図である。
【0027】
成型板6a、6bは、材質が銅、アルミニウム、ステンレス等の単金属板や合金板が好ましい。また、板厚は、折り曲げや歪み、反りが生じないよう適度な剛性を有し、前記成型物の大きさや板材コスト、生産効率も考慮した厚みを選定するのが好ましく、1〜10mm厚程度が好適である。また、熱プレス時に成型物のすべりやズレを防止するため、表面を粗面処理するのがより好ましい。
【0028】
縁辺部6cは、積層体シート8を、積層体シート8よりも面積の大きい成型板6aに載置した際に形成される、成型板6a上の周辺露出部であり、スペーサ部材7が縁辺部6cの全周に亘って配置できるよう構成するのが好ましい。また、縁辺部6cの幅は全周に亘り、ほぼ同一で、20〜50mm程度とするのが好ましい。
【0029】
スペーサ部材7は、熱プレス時の成型物全体の厚みを均一に保つために配するもので、材質は金属でも、弾性を有する樹脂でもよく硬度は30〜80Hv値が好ましく、厚みは熱プレス後の最終製品としてのICカードの総厚(0.76mm)に対して100〜120%程度にするのが好ましい。
【0030】
スペーサ部材7の配置場所は、成型板6a、6bの何れか一方の縁辺部6cとし、配置状態は、成型板が全面に亘り均等に加圧できる状態、例えば、上下、左右対象的に配置するのが好ましい。また、積層体シート8に接触することなく、かつ積層体シート8の全周を隙間無く覆った状態で周回しても、隙間が点在した状態で周回してもよい。更に、スペーサ部材7が積層体シート8に接触したり、成型板からはみ出したりしないよう、縁辺部のほぼ中央部に配置するのがより好ましい。図3は、積層体シート8の全周を隙間無く覆った状態で、成型板6a側の縁辺部6cのほぼ中央部にスペーサ部材7を配置した状態を示している。
【0031】
また、スペーサ部材7は、材質によって位置ずれを生じる可能性がある場合は、接着剤等で固着してもよい。このスペーサ部材7が熱プレス成型時に積層体シート8の外周部にかかる応力を吸収し、弾性収縮して成型物の厚みで保持される。その結果、積層体シート8の外周部への局部応力が緩和され、成型物全面が一定厚みに保たれて、厚みムラの形成を抑制する。
【0032】
図5は、本発明による熱プレス成型の断面模式図である。
【0033】
熱プレス用の熱板9の内側に緩衝材11を挿設し、更に油圧シリンダ13側の熱板9の内側にはキャリアプレート12を挿設して、前述の成型板6a、6bの外側から加圧する。積層体シート8は、スペーサ部材収縮部10で弾性収縮して、成型物の厚みで保持される。熱プレスは、油圧シリンダ13により加圧力を3〜10MPa程度、成型物温度を150〜170℃程度、加圧時間10〜20分程度に設定して行うのが好ましい。その後、熱板9から成型板ごと成型物を取り出し約30℃程度まで強制冷却させた後、上下の成型板6a、6bを剥がして成型物を得る。
【0034】
緩衝材11は、高耐熱性と適度の弾力性とを有する樹脂繊維や金属繊維からなる、約1〜3mm厚程度の不織布が好ましく、市販の高耐熱性を有するプレス成型用フェルトを用いてもよい。
【0035】
キャリアプレート12は、成型板6a、6bと同様に、材質が銅、アルミニウム、ステンレス等の単金属板や合金板が好ましい。また、板厚は、折り曲げや歪み、反りが生じないよう適度な剛性を有する、1〜10mm厚程度が好適である。また、この上面に載置する緩衝材11のすべり、位置ズレを抑制するため、適度な面粗さとなるよう粗面処理を施すのがより好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を用いて詳述する。
基材シート1a、1bは、ポリ塩化ビニル(PVC)材で、各々大きさ400mm×400mm角、300μm厚のシートを用い、先ず、基材シート1b上に巻線アンテナ4として印刷法により形成したパターン状のコイルと、ICチップ5の組を、図2に示したように24組載置して、各々を半田で電気的に接合した。
【0037】
次に、ICチップ5の実装面の外周よりやや大きくICチップ5が貫通する、大きさ5mm×5mm角の穴部を形成した基材シート1aを、ICチップ5が前記穴部に挿入する様に、上記基材シート1bの上に積層した。
【0038】
続いて、封止剤3を、前記基材シート1bの開口部よって形成された空隙、すなわちICチップ収納部の開口部を覆う様に、エポキシ系の封止用樹脂材(住友ベークライト社製)を充填し固着した。
【0039】
その後、最外層となるオーバーシート2a、2bは、ポリエチレンテレフタレート(PET)材で、各々大きさ400mm×400mm角、100μm厚のシートに文字、絵柄等の可視情報を印刷したものを用いて、基材シート1aの上面と基材シート1bの下面を挟み込んだ状態で積層し、図1に示した断面構造で、図2に示した平面状態の積層体シートを作製した。
【0040】
その後、図3、図4に示したように、成型板6a、6bは、ステンレスSUS304材で、各々大きさ450mm×450mm角、厚さ1.0mmで、表面粗さRa=0.1μmの表面処理を施したものを用意した。成型板6aには上記積層体シート8と、スペーサ部材7を配置し、その上に成型板6bを載置し、挟み込んだ。
【0041】
スペーサ部材7は、弾性を有するシリコーンゴム製で、硬度が50Hv値、厚さがICカードの総厚値0.76mmの105%である0.80mm、幅が10mmの直方体のものを用い、上記成型板6aの中央部に載置した積層体シート8の全周を隙間なく囲むように縁辺部6cのほぼ中央部に配置した。
【0042】
更に、図5に示したように、熱プレス成型装置の熱板9は、鉄鋼製で大きさ500mm×500mm、厚さ50mmとし、緩衝材11は、高耐熱性プレス成型用フェルト(不織布)で、大きさ500mm×500mm、厚さ3mmのものを使用した。また、キャリアプレート12は、ステンレスSUS304材で、大きさ500mm×500mm、厚さ2mmのものを用い、上記成型板6a、6bを2つの緩衝材11の間に挟み込み、油圧シリンダー13で加圧しながら熱プレス成型した。なお、熱プレス条件は、加圧力5MPa、成型物温度150〜160℃、加圧時間15分とした。
【0043】
その後、熱板から成型板ごと取り出し、約30℃程度まで強制冷却させた後、上下の成型板を剥がして成型物を得た。続いて、前記成型物を金型を用いてカードサイズに打ち抜きした。
【0044】
上記の要領で作製し、図1に示した構造の本発明による非接触型ICカードを得た。また、同一部材を用い、スペーサ部材を用いない従来の製法で非接触型ICカードを作製し、比較例とした。本発明による非接触型ICカードと比較例による非接触型ICカードの厚みの測定結果と印刷ムラの発生状況を表1に示す。なお、厚み測定箇所は、ICカードの中心部と4つの角部の計5箇所とした。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示す通り、本発明による非接触型ICカードでは比較例のものと比べて、厚みは標準偏差が非常に小さくなり、安定していると共に、印刷ムラの発生は24枚中ゼロとなり大幅に改善していることがわかった。
【0047】
以上、実施例を用いて、この発明の実施の形態を説明したが、この発明は、これらの実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。すなわち、当業者であれば、当然なしえるであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の非接触型ICカードにより、厚みムラを抑え、可視情報などの印刷ムラを低減できる、高品質のICカードの提供が可能となり、IDカード、会員証、プリペイドカード、キャッシュカード、定期券などを用いたセキュリティ向上に寄与できるICカードシステムの構築が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】ICカードの構造を説明する断面図。
【図2】積層体シートの上面図。
【図3】本発明による積層体シート、成型板、スペーサ部材を配置した状態を示す上面図。
【図4】本発明による積層体シート、成型板、スペーサ部材を配置した状態を示す斜視図。
【図5】本発明による熱プレス成型の断面模式図。
【符号の説明】
【0050】
1a、1b 基材シート
2a、2b オーバーシート
3 封止剤
4 巻線アンテナ
5 ICチップ
6a 成型板
6b 成型板
6c 縁辺部
7 スペーサ部材
8 積層体シート
9 熱板
10 スペーサ部材収縮部
11 緩衝材
12 キャリアプレート
13 油圧シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1組のICチップとアンテナコイルの組を、2枚の基材シートで挟んでなる積層体シートを熱プレス成型後、前記ICチップとアンテナコイルの組を各々有するカードに分断する、非接触型ICカードの製造方法であって、前記積層体シートの上面と下面を、前記積層体シートよりも大きい面積を有する2枚の成型板で挟持し、前記2枚の成型板の間にはスペーサ部材を配して熱プレス成型することを特徴とする非接触型ICカードの製造方法。
【請求項2】
前記スペーサ部材は、前記積層体シートの縁辺部に、前記積層体シートに接触しないように配置することを特徴とする請求項1記載の非接触型ICカードの製造方法。
【請求項3】
前記スペーサ部材は、金属材料または樹脂材料の何れか一方であることを特徴とする請求項1または2記載の非接触型ICカードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−75838(P2009−75838A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243895(P2007−243895)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】