説明

非水系微粒子分散液の製造方法

【課題】乳化重合で製造したラテックスの溶媒を水系から非水系に簡易に転換でき、しかも非水溶媒が水への溶解度が比較的高い化合物であり得る、非水系微粒子分散液の製造方法を提供する。
【解決手段】水相中に、エチレン性不飽和酸単量体単位5〜45質量%及びエチレン性不飽和酸単量体と共重合可能な単量体の単位95〜55質量%からなる共重合体の微粒子を含むラテックスであって、伝導度滴定で測定される前記微粒子表面の酸基量が、前記共重合体微粒子1gあたり、0.65mmol以上であり、かつ、伝導度滴定で測定される前記共重合体微粒子1gあたりの前記水相中に存在する酸成分に由来する酸基量の4.5倍以上であるラテックスを、乳化重合法により製造する工程、および、前記共重合体を溶解した際に、前記共重合体の不溶解分が30質量%以上となる非水溶媒と、前記ラテックスを混合した後、遠心分離により水相を除去する工程を有して、非水系微粒子分散液を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラテックス(水系微粒子分散液)の溶媒である水を非水溶媒に置換して簡易に非水系微粒子分散液を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水系微粒子分散液は、塗料、インキ、接着剤、化粧品、医薬品等の幅広い分野で用いられている。最近、光学特性を有する微粒子を含む非水分散液が、液晶ディスプレイに代表される反射防止板及び反射防止フィルムに適用されている。非水系微粒子分散液は今後も様々な用途への展開が記載されており、その製造方法が注目されている。
架橋微粒子又はサブミクロンオーダーの微粒子を含有する非水系微粒子分散液の分散重合法による製造は困難である。そこで、乳化重合法で製造したラテックスから減圧蒸留によって水を除去し、水系から有機アミド系へ転換する微粒子を含有する非水系微粒子分散液の製造法が検討された(例えば、特許文献1参照)。更に、有機スルホン酸塩系又は有機硫酸塩系界面活性剤の存在下での乳化重合で得たラテックスにアルコール系及び/又はケトン系溶剤を添加した後、酸性化合物を添加し、有機スルホン酸塩系又は有機硫酸塩系界面活性剤を完全に有機スルホン酸化合物又は有機硫酸化合物に転換して、樹脂微粒子を前記溶剤相に分散する工程を行う、非水系微粒子分散液の製造方法(例えば、特許文献2参照)、乳化重合で得たラテックスに特定の金属塩を添加し、当該ラテックスに含まれる微粒子の表面を疎水化した後、非水溶媒を加えて相転移させる非水系微粒子分散液の製造方法が検討された(例えば、特許文献3参照)。これらの非水系微粒子分散液の製造方法は、使用される非水系溶媒が水への溶解度が小さい化合物に限定されている、乳化重合によるラテックスの製造後に新たな添加剤を添加する工程を要するという問題を有している。
【特許文献1】特開平2−1752号公報
【特許文献2】特公平7−57805号公報
【特許文献3】特開2007−177009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、乳化重合で製造したラテックスの溶媒を水系から非水系に簡易に転換でき、しかも非水溶媒が水への溶解度が比較的高い化合物であり得る、非水系微粒子分散液の製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の発明者は、上記課題を解決するために、ラテックスに含まれる微粒子を構成する重合体の単量体組成及びラテックスと非水溶媒の混合条件を鋭意検討した結果、5〜45質量%のエチレン性不飽和酸単量体単位を含有する共重合体の微粒子を含み、伝導度滴定で測定される前記微粒子表面の酸基量が、前記共重合体微粒子1gあたり、0.65mmol以上であり、かつ、伝導度滴定で測定される前記共重合体微粒子1gあたりの前記水相中に存在する酸成分に由来する酸基量の4.5倍以上であるラテックスと非水溶媒を混合すると、前記ラテックスの溶媒を水系から非水系に簡易に転換できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
本発明は、水相中に、エチレン性不飽和酸単量体単位5〜45質量%及びエチレン性不飽和酸単量体と共重合可能な単量体の単位95〜55質量%からなる共重合体の微粒子を含むラテックスであって、伝導度滴定で測定される前記微粒子表面の酸基量が、前記共重合体微粒子1gあたり、0.65mmol以上であり、かつ、伝導度滴定で測定される前記共重合体微粒子1gあたりの前記水相中に存在する酸成分に由来する酸基量の4.5倍以上であるラテックスを、乳化重合法により製造する工程、および、前記共重合体を溶解した際に、前記共重合体の不溶解分が30質量%以上となる非水溶媒と、前記ラテックスを混合した後、遠心分離により水相を除去する工程を有する、非水系微粒子分散液の製造方法である。
本発明の好ましい実施態様では、前記ラテックス中の共重合体微粒子表面の疎水化も前記ラテックス中の乳化剤の変性も、水相を除去する前に行わない。
本発明の好ましい別の実施態様では、前記非水溶媒が、水への20℃での溶解度が35質量%以下であるアルコール及び/又はケトン系有機溶媒である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の非水系微粒子分散液の製造方法により、ラテックスに由来する重合開始剤、乳化剤等の水溶性不純物が少ない非水系微粒子分散液を安価にかつ簡易に、水への溶解度が比較的高い化合物であり得る非水溶媒を使用して製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の非水系微粒子分散液の製造方法で使用されるラテックスに含まれる微粒子を構成する重合体は、エチレン性不飽和酸単量体単位及びエチレン性不飽和酸単量体と共重合可能な単量体の単位からなる。
エチレン性不飽和酸単量体は、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスフィニル基等の酸基を有するエチレン性不飽和単量体であり、特定の単量体に限定されない。エチレン性不飽和酸単量体の具体例は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、エチレン性不飽和スルホン酸単量体、エチレン性不飽和リン酸単量体等である。
【0008】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体の具体例は、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、メタコン酸、グルタコン酸、イタコン酸、テトラヒドロフタル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸、ブテントリカルボン酸などの不飽和多価カルボン酸;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノエチル、イタコン酸モノメチルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物等である。
【0009】
エチレン性不飽和スルホン酸単量体の具体例は、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸等である。
エチレン性不飽和リン酸単量体の具体例は、(メタ)アクリル酸−3−クロロ−2−リン酸プロピル、(メタ)アクリル酸−2−リン酸エチル、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンリン酸等である。
【0010】
上記エチレン性不飽和酸単量体のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩も用い得る。上記エチレン性不飽和酸単量体1種又は2種以上の組み合わせを用いる。
好ましいエチレン性不飽和酸単量体はエチレン性不飽和カルボン酸であり、更に好ましいエチレン性不飽和酸単量体はエチレン性不飽和モノカルボン酸である。特に好ましいエチレン性不飽和酸単量体はメタクリル酸である。
【0011】
上記重合体を構成する全ての単量体単位に対するエチレン性不飽和酸単量体単位の含有割合は5〜45質量%であり、好ましくは5〜35質量%であり、更に好ましくは10〜25質量%である。当該含有割合が5質量%より少ない場合、ラテックスに含まれる微粒子がラテックスと非水溶媒の混合時に凝集し、非水溶媒中での微粒子の安定性を保てない。
【0012】
上記エチレン性不飽和酸単量体と共重合可能な単量体の具体例としては、脂肪族共役ジエン単量体、芳香族ビニル単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、(メタ)アクリルアミド単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体、多官能性単量体等が挙げられる。
【0013】
脂肪族共役ジエン単量体の具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレン、ピペリレン等が挙げられる。
【0014】
芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、ヒドロキシメチルスチレン等が挙げられる。
【0015】
(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエトキシエチル、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸2−シアノエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。
【0016】
(メタ)アクリルアミド単量体の具体例としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0017】
エチレン性不飽和ニトリル単量体の具体例としては、(メタ)アクリロニトリル、フマロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−シアノエチルアクリロニトリル等が挙げられる。
【0018】
多官能性単量体は、1分子中に不飽和結合を2つ以上有する単量体である。多官能性単量体の具体例は、ジビニルベンゼン(DVB)、ジビニルナフタレン等の芳香族ジビニル化合物;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等のジエチレン性カルボン酸エステル;N,N−ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルスルホン等のジビニル化合物;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート;等である。
【0019】
上記の共重合可能な単量体の1種又は2種以上の組み合わせを用いる。上記重合体を構成する全ての単量体単位に対する多官能性単量体の含有割合は0.05〜30質量%、好ましくは0.5〜20質量%である。
【0020】
本発明の非水系微粒子分散液の製造方法で使用するラテックスは、乳化重合で製造する。乳化重合時の単量体の反応容器への添加方法の具体例は、(a)単量体を一括して添加する方法、(b)単量体を乳化重合の進行に従って連続的又は断続的に添加する方法、(c)単量体の一部を添加して特定の転化率まで反応させ、その後、残りの単量体を連続的又は断続的に添加する方法である。(a)〜(c)のいずれの方法も採用し得る。単量体を添加する際、単量体を水及び乳化剤と混合して得る単量体乳化物を使用し得る。単量体混合物を連続的又は断続的に添加する場合、当該混合物の組成は一定でも変化させてもよく、各単量体を混合してから反応容器に添加しても別々に反応容器に添加してもよい。
【0021】
エチレン性不飽和酸単量体を2段階で添加する場合、使用するエチレン性不飽和酸単量体の全量に対する第1段階で添加するエチレン性不飽和酸単量体の好ましい割合は30〜75質量%であり、より好ましい当該割合は40〜70質量%であり、更に好ましい当該割合は50〜60質量%である。当該割合が大きすぎる場合、ラテックス中の微粒子の表面酸基量が小さくなり、当該微粒子の非水溶媒中での分散安定性が低くなる。一方、当該割合が小さすぎる場合、ラテックスの水相酸基量が大きくなり、ラテックスと非水溶媒を混合して得る混合物の粘度が上昇する。
【0022】
ラテックスの乳化重合で使用する乳化剤は特定の乳化剤に限定されない。当該乳化剤の具体例は、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコールの硫酸エステル塩等のアニオン系乳化剤;ポリエチレングリコールアルキルエーテル型、ポリエチレングリコールアルキルエステル型、ポリエチレングリコールアルキルフェニルエーテル型等のノニオン系乳化剤;アニオン部分として、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸塩、リン酸エステル塩等を、カチオン部分として、アミン塩、第4級アンモニウム塩等を持つ両性界面活性剤;等である。
【0023】
乳化剤の使用量は、乳化重合に使用する単量体全量100質量部に対して、通常、0.05〜5質量部、好ましくは0.05〜2質量部である。乳化重合を複数段で行う場合、各段で使用する単量体混合物100質量部に対する乳化剤の使用量は、上記範囲である。
【0024】
ラテックスの乳化重合で使用する重合開始剤は特定の重合開始剤に限定されない。当該重合開始剤の具体例は、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物である。好ましい重合開始剤は無機過酸化物である。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。これらの重合開始剤と亜硫酸ナトリウム等の還元剤を組み合わせたレドックス系重合開始剤も使用できる。
【0025】
重合開始剤の使用量は、乳化重合に使用する単量体全量100質量部に対して、通常、0.1〜5質量であり、好ましくは0.5〜3質量である。乳化重合を複数段で行う場合、使用する重合開始剤の全量を第1段で添加しても、使用する重合開始剤の一部を第1段で添加し、残部を第2段以降で添加してもよい。各段における重合開始剤の添加方法は、一括添加、連続添加、分割添加のいずれでもよい。
【0026】
乳化重合で通常使用される分子量調整剤、分散剤、キレート剤等の副資材を、本発明の非水系微粒子分散液の製造方法で使用するラテックスの乳化重合時に添加し得る。当該副資材の種類、使用量は限定されない。乳化重合を複数段で行う場合、必要に応じて使用する副資材の添加時期及び添加方法も限定されない。
分子量調整剤の具体例は、α−メチルスチレンダイマー;t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物である。これらの分子量調整剤を単独で、あるいは2種類以上組み合わせて使用できる。
【0027】
ラテックスの乳化重合時の各段の重合温度は特定の範囲に限定されない。当該重合温度は通常5〜95℃であり、好ましくは50〜95℃である。各段の重合温度が異なっていてよく、各段の乳化重合の最中の重合温度が変化してもよい。
【0028】
本発明の非水系微粒子分散液の製造方法で使用するラテックス中の微粒子の表面に結合した酸基の量及び当該微粒子の表面に吸着した酸基の量(以下、「表面酸基量」ということがある。)は、伝導度滴定で測定して塩酸当量換算で、当該微粒子を構成する共重合体1g当たり0.65mmol以上であり、好ましくは0.65〜4.0mmolであり、更に好ましくは1.0〜2.5mmolである。また、伝導度滴定で測定して塩酸当量換算で、当該微粒子を構成する共重合体1g当たりの、前記ラテックスの水相中に存在する酸成分に由来する酸基量(以下、「水相酸基量」ということがある。)に対し、表面酸基量は、4.5倍以上であり、好ましくは5.5倍以上であり、更に好ましくは6.5倍以上である。
【0029】
表面酸基量と水相酸基量を上記範囲内に制御する方法は特に制限されない。当該方法の具体例は、乳化重合に使用するエチレン性不飽和酸単量体の種類、量又は重合反応系への添加時期の調整、乳化剤又は重合開始剤の種類又は量の調整、重合系のpHの調整である。これらの方法を併用してもよい。エチレン性不飽和酸単量体の親水性による表面酸基量及び水相酸基量の調整の観点から、好ましいエチレン性不飽和酸単量体はメタクリル酸である。
【0030】
ラテックスの粒子径は、50nm〜500nmの範囲にあるのが好ましく、70nm〜300nmの範囲にあるのがより好ましい。
また、ラテックスの固形分濃度は、30質量%〜50質量%の範囲にあるのが好ましく、40質量%〜50質量%の範囲にあるのがより好ましい。
さらに、ラテックスのpH値は、3.0〜10.0にあるのが好ましく、3.0〜5.0にあるのがより好ましい。
【0031】
本発明の非水系微粒子分散液の製造方法で使用する非水溶媒は、水と完全に混和せず、ラテックス中の微粒子を構成する共重合体の不溶解分量が30重量%以上であるアルコール系溶媒及び/又はケトン系溶媒である。アルコール系溶媒の具体例は、n−ブタノール(水への溶解度:6.4質量%)、sec−ブタノール(同:20.28質量%)、イソブチルアルコール(同:8.5質量%)、ベンジルアルコール(同:3.8質量%)、2−エチルブタノール(同:0.43質量%)、3−ヘプタノール(同:0.45質量%)、n−オクタノール(同:0.03質量%)、2−オクタノール(同:0.1質量%)、2−エチルヘキサノール(同:0.07質量%)、1−ノナノール(同:0.01質量%未満)、3,5―ジメチル−1−ヘキシン−3−オール(同:1.1質量%)、n−デカノール(同:0.02質量%)、ウンデカノール(同:0.01質量%未満)である。ケトン系溶媒の具体例は、メチルエチルケトン(水への溶解度:26.8質量%)、メチルn−プロピルケトン(同:4.3質量%)、ジエチルケトン(同:3.4質量%)、アクロレイン(同:22質量%)、メチルn−ブチルケトン(同:3.5質量%)、メチルイソブチルケトン(同:0.01質量%未満)、メチルn−プロピルケトン(同:4.3質量%)、メチルn−ヘプチルケトン(同:0.01質量%未満)、ジn−プロピルケトン(同:0.53質量%)、ジイソブチルケトン(同:0.01質量%未満)、エチルn−ブチルケトン(同:0.43質量%)、アセチルアセトン(同:12.5質量%)、等である。水への20℃での溶解度が35質量%以下である非水溶媒が好ましく、当該溶解度が5質量%以上、30質量%以下である非水溶媒がより好ましい。特に好ましい非水溶媒はメチルエチルケトン(以下、「MEK」と記載することがある)である。これらは単独で又は2種類以上を組み合わせて使用できる。非水溶媒の水への溶解性は、「新版溶剤ポケットブック」(有機合成化学協会編、オーム社発行)の値を引用した。
【0032】
ラテックスと非水溶媒を混合した後、水相を除去して、非水系微粒子分散液を得る。ラテックスと非水溶媒を混合する前に、例えば、特許文献2に記載されているように、有機スルホン酸塩系又は有機硫酸塩系界面活性剤を含むラテックスに酸性化合物を添加し、前記界面活性剤を完全に有機スルホン酸化合物又は有機硫酸化合物に転換して、樹脂微粒子を前記溶剤相に分散する工程、例えば、特許文献3に記載されているように、ラテックスに特定の金属塩を添加し、当該ラテックスに含まれる微粒子の表面を疎水化する工程を実施し得る。しかしながら、工程数の増加及び不純物の混入を防止する観点から、好ましくは上記工程を実施しない。
【0033】
ラテックスと非水溶媒の混合比を、非水溶媒の水への溶解度を考慮し水相と非水溶媒相が2相分離するように選択する。ラテックスに対する非水溶媒の混合比は、非水溶媒の水への溶解度にもよるが、好ましくは1質量倍以上、更に好ましくは2質量倍以上、5質量倍以下、より好ましくは3質量倍以上、4質量倍以下である。しかし、あまり非水溶媒の比率を上げると、後で濃縮脱水する時間が長くなるので注意が必要である。
ラテックスと非水溶媒の混合方法は、特定の方法に限定されない。ラテックスを攪拌しながら非水溶媒を添加し得るし、非水溶媒を攪拌しながらラテックスを添加し得る。
【0034】
ラテックスと非水溶媒を混合した後、水相と非水溶媒相が分離する。水相は遠心分離により除去される。遠心分離時の回転数が大きすぎると微粒子が凝集し、当該回転数が小さすぎると水相と非水溶媒相の分離効率が低下する。遠心時間が長いと水相と非水溶媒相の分離効率は高くなるが、遠心時間が長すぎると生産性が低下する。好ましい遠心条件は1000〜10000Gで5分間〜15分間であり、更に好ましい遠心条件は1500〜7000Gで7分間〜15分間であり、最も好ましい遠心条件は2500〜4000Gで7分間〜10分間である。
【0035】
製造した非水系微粒子分散液を必要に応じて脱水する。脱水方法は特定の方法に限定されない。脱水方法の具体例は、共沸脱水、脱水剤の添加である。共沸脱水時には非水溶媒相を減圧濃縮し、非水溶媒を必要に応じて追加しながら、共沸させることもできる。非水溶媒の追加の時期及び回数は制限されない。減圧濃縮時の温度及び減圧度は特定の範囲に限定されないが、過度の加熱は微粒子を凝集させる。脱水剤の種類は限定されない。脱水剤の具体例はモレキュラーシーブ3A等である。
脱水後の非水相の好ましい水分含有率は5質量%以下であり、更に好ましい水分含有率は3質量%以下であり、最も好ましい水分含有率は1質量%以下である。水分含有率が高すぎると、ハジキが非水系微粒子分散液を塗布した基材フィルム上で発生する。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下の実施例における「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。(1)ラテックス中の微粒子を構成する共重合体のメチルエチルケトン(MEK)不溶解分、(2)当該微粒子の平均粒子径、(3)表面酸基量及び水相酸基量、(4)ラテックスに含まれる微粒子のメチルエチルケトン(MEK)配合安定性、(5)非水系微粒子分散液に含まれる固体成分濃度、(6)非水系微粒子分散液の水分含有率の測定方法は以下のとおりである。
【0037】
(1)MEK不溶解分
乳化重合で得られたラテックスが、真空乾燥機内で40℃で48時間以上乾燥され、乾燥した共重合体を得た。約0.2gの当該共重合体を、精秤した80メッシュSUS製箱形金網(質量B)上に秤りとり、当該共重合体の質量(質量A)を精秤した。次いで、共重合体が内側底部に付着した上記金網を、80mlのメチルエチルケトン(和光純薬工業(株)製試薬特級)入りのビーカーに浸漬した後、アルミ箔でビーカーを密封し、48時間静置した。その後、アルミ箔を剥がし、金網をメチルエチルケトン溶媒入りのビーカーから引き上げて、メチルエチルケトンに溶解しなかった共重合体が付着した金網を乾燥機内で105℃で2時間乾燥し、次いで、デシケーター内で冷却し、精秤した(質量a)。そして、以下の式にてメチルエチルケトン不溶解分(%)を求めた。
メチルエチルケトン不溶解分(%)=100×(a−B)/A
【0038】
(2)ラテックス中の微粒子の平均粒子径
ラテックス中の微粒子の重量平均粒子径をレーザー回折・散乱法粒度分布測定装置(ベックマン・コールター(株)製コールターLS230)にて測定した。
【0039】
(3)表面酸基量及び水相酸基量
固形分濃度を2%に調整したラテックスを50gを、蒸留水で洗浄された150mlのガラス容器に入れた。当該ガラス容器を溶液伝導率計(京都電子工業(株)製CM−117、使用セルタイプ:K−121)にセットし、当該ラテックスを攪拌した。攪拌は塩酸の添加が終了するまで継続された。0.1規定の水酸化ナトリウム(和光純薬工業(株)製試薬特級)を、当該ラテックスの電気伝導度が2.5〜3.0mSになるように、当該ラテックスに添加してから6分経過後、当該ラテックスの電気伝導度(開始時の電気伝導度)を測定した。次いで、0.1規定の塩酸(和光純薬工業(株)製試薬特級)0.5mlを、当該ラテックスに添加し、30秒後に電気伝導度を測定した。当該操作を、ラテックスの電気伝導度が開始時の電気伝導度以上になるまで30秒間隔で繰り返し行った。
【0040】
電気伝導度(mS)を縦軸、添加された塩酸の累計量(mmol)を縦軸にプロットし、図1に示される、3つの変曲点を有するグラフを得た。3つの変曲点における横軸の値は、小さい方から順にそれぞれP1、P2、P3とし、塩酸の添加が終了したときの横軸の値をP4とした。近似曲線L1が0−P1区分のデータから、近似曲線L2がP1−P2区分のデータから、近似曲線L3がP2−P3区分のデータから、近似曲線L4がP3−P4区分のデータから、最小自乗法によりそれぞれ求めた。L1とL2の交点の横軸座標をA1(mmol)、L2とL3の交点の横軸座標をA2(mmol)、L3とL4の交点の横軸座標をA3(mmol)とした。ラテックスに含まれる微粒子を構成する共重合体1g当たりの表面酸基量及び水相酸基量を、以下に示す式により求めた。
共重合体1g当たりの表面酸基量(mmol/g)=A2−A1
共重合体1g当たりの水相酸基量(mmol/g)=A3−A2
【0041】
(4)ラテックスに含まれる微粒子のMEK配合安定性
ラテックス100gを、スリーワンモーターで攪拌しているメチルエチルケトン300gに投入し、3分間攪拌した。その後、凝集物の発生を目視にて判断した。
〇;凝集物が発生せず、MEKとラテックスが混和している。
×;凝集物が発生している。
【0042】
(5)非水系微粒子分散液に含まれる固体成分濃度
非水系微粒子分散液約3gを、精秤したアルミ皿上に秤りとり、当該分散液の質量(質量C0)を精秤した。次いで、当該分散液を秤りとったアルミ皿を105℃で2時間乾燥し、当該分散液に含まれる固体成分の質量(質量C)を精秤した。非水系微粒子分散液に含まれる固体成分濃度(%)を以下の式にて求めた。
固体成分濃度(%)=100×(質量C)/(質量C0)
【0043】
(6)非水系微粒子分散液の水分含有率
非水系微粒子分散液の水分含有率をカールフィッシャー水分計(京都電子工業(株)製MKC−610DT)を使用してカールフィッシャー法(電気量滴定法)で測定した。
【0044】
実施例1
イオン交換水19部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(花王(株)製ペレックスSS−L)0.15部、t−ドデシルメルカプタン(TDM)0.7部、過硫酸カリウム0.35部、表1に示す第1段階の単量体混合物70部を攪拌機付きの耐圧容器に仕込み、攪拌して第1段階の単量体混合物の乳化物を得た。デシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.09部、t−ドデシルメルカプタン0.3部、過硫酸カリウム0.15部、表1に示す第2段階の単量体混合物30部を別の攪拌機付き耐圧容器に仕込み、攪拌して第2段階の単量体混合物の乳化物を得た。
【0045】
イオン交換水62部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.71部を攪拌機付き耐圧重合容器に仕込んで攪拌し、得られた混合物を80℃に加熱し、当該混合物に上記第1段階の単量体混合物の乳化物を250分間にわたり連続的に添加した。連続添加終了直後における重合転化率は、第1段階の単量体混合物全量に対して85%であった。次いで、上記第2段階の単量体混合物の乳化物を90分間にわたり連続的に重合容器に添加し、添加終了後、85℃に昇温し、さらに5時間反応を継続した後、亜硝酸ナトリウム水溶液(5%)0.5部を添加し重合を終了した。重合終了時の重合転化率は、99%であった。得られたラテックスから未反応単量体を除去した後、固形分濃度を40%に調製した。得られたラテックスの物性を表1に示す。
【0046】
固形分濃度を40%に調製したラテックス10部を、攪拌しているメチルエチルケトン(20℃の水への溶解度26.8%)30部に少量ずつ添加し、混合液を得た。当該混合液を、遠心分離機により2800Gにて10分間遠心分離し、透明な水相と白濁した非水溶媒相を分離した。水相を抜き取った後、非水溶媒相の3質量倍のメチルエチルケトンを非水溶媒相に添加し、エバポレーター中で減圧濃縮し、水とメチルエチルケトンの共沸により、水を除去した非水系微粒子分散液を得た。当該非水系微粒子分散液の特性を表1に示す。
【0047】
実施例2
第1段階と第2段階の仕込み組成を表1に示すように変えた以外は実施例1と同じ操作を行い、固形分濃度40%のラテックス、及び、非水系微粒子分散液を得た。当該ラテックス及び非水系微粒子分散液の特性を表1に示す。
【0048】
実施例3
イオン交換水50部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.24部、表1に示す単量体混合物100部を攪拌機付きの耐圧容器に仕込み、攪拌して第1段階の単量体混合物の乳化物を得た。イオン交換水74部、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム0.71部を別の攪拌機付き耐圧重合容器に仕込み、攪拌した後、80℃に加熱し、上記単量体混合物の乳化物を300分間にわたり連続的に上記重合容器に添加した。上記単量体混合物の乳化物を添加してから5分後、過硫酸カリウム0.5部をイオン交換水9.5部に溶解させた溶液を添加した。次いで、反応液を85℃に加熱し、乳化重合を1時間継続した。乳化重合終了後の重合転化率は98%であった。未反応単量体を得られたラテックスから除去した後、固形分濃度を40%に調製した。得られたラテックスの物性を表1に示す。
【0049】
固形分濃度を40%に調製したラテックス10部を、攪拌しているメチルエチルケトン30部に少量ずつ添加し、混合液を得た。当該混合液を、遠心分離機により5000rpmにて10分間遠心分離し、透明な水相と白濁した非水溶媒相を分離した。水相を抜き取った後、非水溶媒相の3質量倍のメチルエチルケトンを非水溶媒相に添加し、エバポレーター中で減圧濃縮し、水とメチルエチルケトンの共沸により、水を除去した非水系微粒子分散液を得た。当該非水系微粒子分散液の特性を表1に示す。
【0050】
比較例1
第1段階と第2段階の仕込み組成を表1に示すように変えた以外は実施例1と同じ操作を行い、固形分濃度40%のラテックスを得た。しかしながら、当該ラテックスのMEKとの配合安定性は低く、当該ラテックスとMEKを混合すると凝集物が発生し、非水微粒子分散液を製造できなかった。当該ラテックスの特性を表1に示す。
【0051】
比較例2
第1段階と第2段階の仕込み組成を表1に示すように変えた以外は実施例1と同じ操作を行い、固形分濃度40%のラテックスを得た。しかしながら、当該ラテックスのMEKとの配合安定性は低く、当該ラテックスとMEKを混合すると凝集物が発生し、非水微粒子分散液を製造できなかった。当該ラテックスの特性を表1に示す。
【0052】
比較例3
仕込み組成を表1に示すように変えた以外は実施例3と同じ操作を行い、固形分濃度40%のラテックスを得た。しかしながら、当該ラテックスのMEKとの配合安定性は低く、当該ラテックスとMEKを混合すると凝集物が発生し、非水微粒子分散液を製造できなかった。当該ラテックスの特性を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
比較例1で使用された、ラテックスに含まれる微粒子を構成する共重合体のメタクリル酸単位の共重合割合が5質量%未満、伝導度滴定で測定される前記微粒子表面の酸基量(表面酸基量)が、前記共重合体微粒子1gあたり、0.65mmol未満、表面酸基量/水相酸基量が4.5倍未満であるラテックスのMEKとの配合安定性は低く、当該ラテックスとMEKを混合すると凝集物が発生し、非水微粒子分散液を製造できなかった。
比較例2で使用された、表面酸基量/水相酸基量が4.5倍未満であるラテックスのMEKとの配合安定性も低く、当該ラテックスとMEKを混合すると凝集物が発生し、非水微粒子分散液を製造できなかった。
比較例3で使用された、MEK不溶解分が30質量%未満である共重合体から構成される微粒子を含むラテックスのMEKとの配合安定性も低く、当該ラテックスとMEKを混合すると凝集物が発生し、非水微粒子分散液を製造できなかった。
【0055】
比較例4
静置により水相と非水溶媒相を分離した以外は、実施例1と同じ操作を行い、非水系微粒子分散液を得た。水相の水位の変化がなくなり、水相と非水溶媒相の分離が飽和に達するまでの時間を表2に示す。実施例1の遠心分離による水相と非水溶媒相の分離時間も表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
遠心分離による水相と非水溶媒相の分離は、静置による水相と非水溶媒相の分離よりもかなり効率的である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明で製造された非水系微粒子分散液は、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)などの画像表示装置の最表面に配置される反射防止フィルムの反射防止剤、接着剤、塗料、化粧品、医薬品等の分野で使用される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】表面酸基量及び水相酸基量を求めるためのグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水相中に、エチレン性不飽和酸単量体単位5〜45質量%及びエチレン性不飽和酸単量体と共重合可能な単量体の単位95〜55質量%からなる共重合体の微粒子を含むラテックスであって、伝導度滴定で測定される前記微粒子表面の酸基量が、前記共重合体微粒子1gあたり、0.65mmol以上であり、かつ、伝導度滴定で測定される前記共重合体微粒子1gあたりの前記水相中に存在する酸成分に由来する酸基量の4.5倍以上であるラテックスを、乳化重合法により製造する工程、および、
前記共重合体を溶解した際に、前記共重合体の不溶解分が30質量%以上となる非水溶媒と、前記ラテックスを混合した後、遠心分離により水相を除去する工程を有する、非水系微粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記ラテックス中の共重合体微粒子表面の疎水化も前記ラテックス中の乳化剤の変性も、水相を除去する前に行わない、請求項1に記載された非水系微粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記非水溶媒が、水への20℃での溶解度が35質量%以下であるアルコール及び/又はケトン系有機溶媒である、請求項1又は2に記載された非水系微粒子分散液の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−227818(P2009−227818A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75122(P2008−75122)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】