説明

非水電解液二次電池用電極板、非水電解液二次電池用電極板の製造方法、非水電解液二次電池、および電池パック

【課題】出入力特性の優れた非水電解液二次電池用電極板を提供し、また上記非水電解液二次電池用電極板を製造する方法、ならびに、上記非水電解液二次電池用電極板を用いた非水電解液二次電池、および電池パックを提供することを目的とする。
【解決手段】集電体と、上記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用電極板において、上記電極活物質層に、活物質粒子と、結着物質である非晶質の金属窒化物と、を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に用いられる電極板、上記電極板の製造方法、上記電極板を用いる非水電解液二次電池および電池パックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、高エネルギー密度、高電圧を有し、また充放電時におけるメモリ効果(完全に放電させる前に電池の充電を行なうと次第に電池容量が減少していく現象)が無いことから、携帯機器、及び大型機器など様々な分野で用いられている。
【0003】
また、現在、世界規模でCO排出抑制の取り組みが行われており、石油依存度を低減し、低環境負荷で走行可能とすることで、CO削減に大いに寄与することができるプラグインハイブリッド自動車、電気自動車に代表される次世代クリーンエネルギー自動車の開発・普及が急務とされている。これらの次世代クリーンエネルギー自動車の開発・普及には、ガソリンに依存しない駆動力が必須である。上記駆動力としてリチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池が期待されている。
【0004】
上記非水電解液二次電池は、正極板、負極板、セパレータ、及び有機電解液から構成される。そして上記正極板及び負極板としては、金属箔などの集電体表面に、電極活物質層形成液を塗布して形成された電極活物質層を備えるものが一般に用いられている。
【0005】
上記電極活物質層形成液は、リチウムイオン挿入脱離反応を示すことにより充放電可能な活物質粒子、樹脂製結着材、及び導電材(但し活物質が導電効果も発揮する場合などには、導電材は省略される場合がある)、あるいはさらに、必要に応じてその他の材料を用い、有機溶媒中で混練及び/又は分散させて、スラリー状に調製される。そして電極活物質層形成液を集電体表面に塗布し、次いで乾燥して集電体上に塗膜を形成し、必要に応じてプレスすることにより電極活物質層を備える電極板を製造する方法が一般的である(例えば特許文献1段落[0019]から[0026]、特許文献2[請求項1]、段落[0051]から[0055])。
【0006】
このとき、電極活物質層形成液に含有される活物質粒子は、該溶液中に分散される粒子状の化合物であって、集電体表面に塗布されただけでは該集電体表面に固着され難い材料である。したがって樹脂製結着材を含まない電極活物質層形成液を集電体に塗布して乾燥して塗膜を形成しても、該塗膜は集電体から容易に剥離してしまう。そのため、従来の電極板における電極活物質層は、樹脂製結着材を介して、活物質粒子を集電体上に固着させて、形成されることが一般的であり、該樹脂製結着材は実質的には、必須の構成物質であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−310010号公報
【特許文献2】特開2006−107750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述するとおり、近年、リチウムイオン二次電池は、さらに電気自動車、ハイブリッド自動車、そしてパワーツールなどの高出入力特性が必要とされる分野に向けての開発が進められている。また携帯電話等の比較的小型の装置に用いられる二次電池も、装置が多機能化される傾向にある。このため、非水電解液二次電池用電極板の出入力特性の向上が求められている。
【0009】
本発明者の検討により、樹脂製結着材のみで活物質粒子が集電体上に固着された従来の電極板は、樹脂製結着材が電気抵抗の上げる要因となり、出入力特性の向上の妨げになっている可能性があることを見出した。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑み成し遂げられた。即ち、本発明は、出入力特性の優れた非水電解液二次電池用電極板を提供し、またそのような電極活物質層を形成してなる電極板を製造する方法を提供し、また上記電極板を用いる非水電解液二次電池、および電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、活物質粒子を、非晶質な金属窒化物の存在によって集電体表面に固着させて電極活物質層を形成可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
また、本発明者らは、活物質粒子を集電体上に固着させる手段の1つとして、金属窒化物を生成可能な1、または2以上の金属窒化物生成材料を予め選択し、少なくとも当該金属生成材料と活物質粒子とを含有する溶液を集電体表面に塗布した後に、当該金属窒化物生成材料を反応させることによって、該集電体表面上で非晶質の金属窒化物を生成するとともに、この金属窒化物を介して活物質粒子を集電体表面に固着させることができることを見出し、非水電解液二次電池用電極板の製造方法の発明を完成させた。
【0013】
即ち、本発明は、
(1)集電体と、上記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用電極板であって、上記電極活物質層が、活物質粒子、および結着物質を含有しており、上記結着物質が、非晶質の金属窒化物が含有されることを特徴とする非水電解液二次電池用電極板、
(2)上記金属窒化物が、少なくともTi元素を含むことを特徴とする上記(1)に記載の非水電解液二次電池用電極板、
(3)上記電極活物質層は、結着物質により、活物質粒子同士が互いに固着されるとともに、結着物質により、活物質粒子が集電体に固着されて構成されていることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の非水電解液二次電池用電極板、
(4)上記電極活物質層は、隣り合う結着物質同士の一部において、界面不存在の部分を有し、当該部分において結合することにより繋がっている箇所を含むことを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用電極板、
(5)正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であって、上記正極板および/または負極板が、上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用電極板であることを特徴とする非水電解液二次電池、
(6)活物質粒子と、金属窒化物を生成するための金属窒化物生成材料とが少なくとも含有される電極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、電極活物質層形成工程と、をこの順で備えており、上記電極活物質層形成工程は、上記塗膜に含まれる溶媒を除去するとともに、上記金属窒化物生成材料を反応させて非晶質の金属窒化物を生成することによって、上記集電体上に金属窒化物と上記活物質粒子とを含有する電極活物質層を形成する工程、あるいは、予め溶媒が除去された塗膜において上記金属窒化物生成材料を反応させて非晶質の金属窒化物を生成することによって、上記集電体上に該金属窒化物と上記活物質粒子とを含有する電極活物質層を形成する工程であることを特徴とする非水電解液二次電池用電極板の製造方法、
(7)上記電極活物質層形成工程が、上記塗膜を加熱する加熱工程であり、上記加熱工程における加熱温度を、上記金属窒化物生成材料の熱分解開始温度以上であって、上記加熱工程において生成される金属窒化物の結晶化温度未満である温度とすることを特徴とする上記(6)に記載の非水電解液二次電池用電極板の製造方法、
(8)収納ケースと、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、上記収納ケースに上記非水電解液二次電池および上記保護回路が収納されて構成される電池パックにおいて、上記非水電解液二次電池が、正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であり、上記正極板または負極板のいずれか一方、あるいは両方が、上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用電極板であることを特徴とする電池パック、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の非水電解液二次電池用電極板は、非晶質の金属窒化物が含有される結着物質により、活物質粒子を集電体上に固着させることによって、高い出入力特性を示す非水電解液二次電池用電極板を提供することを可能とした。
【0015】
また本発明の非水電解液二次電池用電極板の製造方法によれば、容易な方法、且つ、汎用の材料で、本発明の非水電解液二次電池用電極板を製造することができる。
【0016】
また、本発明の電極板を、正極板および/または負極板として使用する、本発明の非水電解液二次電池および本発明の電池パックは、本発明電極板の出入力特性の向上にともない、非水電解液二次電池自体の出入力性能、および電池パック自体の出入力性能を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の非水電解液二次電池用電極板について、集電体面に略垂直に切断した際の断面を示す模式図である。
【図2】本発明のリチウムイオン二次電池の一形態における概略断面図である。
【図3】本発明の電池パックの一実施態様における概略分解図である。
【図4】4A〜4Dは、本発明に用いられる集電体の例示的態様を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の非水電解液二次電池用電極板、非水電解液二次電池用電極板の製造方法、および非水電解液二次電池、電池パックを実施するための形態について、順に説明する。尚、以下の説明において、特に断りがない場合には、本発明の非水電解液二次電池として、リチウムイオン二次電池を例に説明する。
【0019】
[非水電解液二次電池用電極板]
図1に本発明の電極板の概略断面図を示す。図1に示すように、本発明の電極板10は、集電体1の表面の少なくとも一部における電極活物質層2が設けられて構成される。電極活物質層2は、活物質粒子が、非晶質である金属窒化物が含有される結着物質により集電体上に固着されているものである。これによって、結着物質として樹脂製結着材のみを使用していた従来の電極板と比較して、非常に高い出入力特性を示すことが可能となった。
【0020】
尚、本発明を説明する場合において、結着物質により固着される、という場合には、以下の2つの態様を含む。即ち、上記固着の態様は、被固着物間(例えば、活物質粒子間、活物質粒子と集電体表面との間、あるいは導電材を使用する場合には、導電材と活物質粒子間、導電材粒子間など)に、結着物質である金属窒化物が介在して両者を固着させる場合(以下、「固着態様1」)と、被固着物同士が直接接触し、接触部分を囲んで結着物質が存在することによって被固着物同士を固着させる場合(以下、「固着態様2」)とを含む。本発明の多くの実施形態では、上述する固着態様1および2のいずれか、あるいは両方が、電極活物質層中に存在する。特に、電極活物質層中に含まれる活物質粒子や導電材粒子の粒子径が小さくなるほど、固着態様2が増える傾向にある。
【0021】
本発明は、電極活物質層において、上記固着態様1および2のいずれか、あるいは両方を含んで構成される場合には、導電性の向上の点で優れた効果を発揮する。上記効果を理解するために、導電材粒子を含む電極活物質層において、特に導電材粒子間の固着に着目する。導電材粒子同士が、上記固着態様1によって固着されている場合、本発明の結着物質が金属窒化物であるため、従来の樹脂製結着材に比べて、導電材粒子間での電子のやりとりの障害となり難い。また、特に金属窒化物として窒化物チタンが選択される本発明の態様では、窒化物チタン自体にも良好な導電性が備わることから、導電材粒子間を繋ぐ導電バスとして作用するため、電極活物質層内における導電性の向上に寄与する。またさらに、導電材粒子同士が、上記固着態様2によって固着されている場合には、粒子同士は直接に接しているため、当然に電子の流れがスムーズであり、優れた導電性が確保される。上記効果は、導電材粒子と活物質粒子間との固着に関しても、同様のことが言える。加えて、集電体と電極活物質層との境界においても、集電体面と、活物質粒子や導電材粒子とが、結着物質を介して固着されるか、あるいはこれらが直接に接触して接触部分の周囲に結着物質が存在することによって固着される。そのため、上述と同様の理由で、集電体と電極活物質層間の電子の流れがスムーズである。即ち、本発明の電極板は、金属窒化物から構成される結着物質が電極活物質層中に存在し、且つ、固着態様1および/または2によって種々の構成材料を固着させていることにより電気抵抗を低く保つことが可能であり、特に固着態様1および2が混在することが好ましい。
【0022】
尚、上述する固着状態については、たとえば走査型電子顕微鏡において、倍率1万倍から10万倍程度において、観察することができる。
【0023】
また、本発明における電極活物質層は、隣り合う結着物質同士の一部において、界面不存在の部分を有し、当該部分において結合することにより繋がっている箇所を含んでよい。結着物質同士の少なくとも一部において、互いに結合する部分を含む本発明の態様では、電極活物質層の膜密着性が向上することが推察された。この膜密着性の向上が、電極板の出入力特性の向上に有効に寄与すると思われる。電極活物質層の膜密着性を向上させるという観点からは、隣り合う結着物質同士の界面が不存在の部分は、電極活物質層に有意に存在することがより望ましい。尚、本発明において隣り合う結着物質同士間において界面が不存在であるか否かは、透過型電子顕微鏡で電極活物質層における隣り合う結着物質の断面を観察し、隣り合う結着物質同士の少なくとも一部において非晶質の状態が連続していることを確認することによって界面不存在の部分を確認することができる。一方、隣り合う結着物質同士が結合していない場合には、両者は界面で区別されることが透過型電子顕微鏡で観察することができる。
【0024】
本発明の電極活物質層において、隣り合う結着物質同士間の界面が不存在な部分における非晶質の状態が連続する箇所を含むよう構成するためには、後述する本発明の製造方法に従い本発明の電極板を製造することが望ましい。即ち、本発明の製造方法は、電極活物質層形成液を集電体上に塗布して塗膜を形成し、加熱などの手段を実施することによって該塗膜から電極活物質層を形成する。その際、該集電体上において、活物質粒子の周囲に存在する金属窒化物生成材料が、例えば熱分解、酸化などの反応を起こして、活物質粒子の周囲に結着物質である金属窒化物が生成される。このとき、隣接する結着物質を構成する金属窒化物同士(あるいはその前駆体)の一部が接合していると、該接合部分において、両者の生成反応が同時に進行し易い。上記接合部分において生成反応が同時に進行する結果、本発明の電極活物質層において、隣り合う結着物質同士における界面不存在の部分であって非晶質の状態が連続する箇所を含むよう構成される。
【0025】
本発明の電極板は、非水電解液二次電池の正極板、負極板のいずれか一方として用いることができ、あるいは正極板及び負極板の両方に本発明の電極板を用いてもよい。
【0026】
本発明の電極板は、正極板として使用する場合には、樹脂製結着材のみを用いた場合と比較して出入力性能が高い。またさらに、本発明の電極板は、従来の負極板と合わせて使用できるので好ましい。
【0027】
また、本発明の電極板は、本発明の電極板を負極板として使用する場合には、上記正極板と同様に出入力性能が高い点で優れている。加えて、本発明の電極板は、銅やアルミなどの金属基板と金属窒化物との密着性が優れ、さらには負極活物質粒子の周囲に存在する金属窒化物膜がSEI(solid electrolyte interface)として機能し、その結果、サイクル特性が良好になるという観点から好ましい。
【0028】
また特に、本発明の電極板は、正負両極に用いられた場合には、高速充放電が可能な上、サイクル特性が良好になるなどの望ましい効果が発揮さ可能である。以下の説明において、必要に応じて本発明を正極板と負極板とに分けて説明するが、特に断りがない場合には、本発明の電極板とは、正極板および負極板のいずれも含み、また活物質粒子とは、正極活物質粒子および負極活物質粒子のいずれも含む意味で用いられる。
【0029】
以下に、電極活物質層、集電体、電極の充放電レート特性評価方法について、順に説明する。
【0030】
(電極活物質層)
本発明における電極活物質層の厚みは、当該電極板に求められる電気容量や出入力特性を勘案して、適宜設計することができる。一般的には200μm以下、より一般的には100μm以上かつ150μm以下の厚みで設計される。しかし、特に本発明においては、電極活物質層を非常に薄く形成することが可能であるため、用いる電極活物質粒子の粒子径にもよるが、膜厚が300nm以上200μm以下の電極活物質層を形成することができる。出入力特性を向上させつつも高容量を得ることができるという観点からは、特に電極活物質層の膜厚を300nm以上30μm以下にすることが好ましく、500nm以上11μm以下とすることがより好ましい。
【0031】
電極活物質層の厚みが、上述の範囲のように薄い場合には、用いられる電極活物質粒子は粒子径が小さいものであり、少なくとも電極活物質層の膜厚以下の粒子径であることを意味し、これによって、出入力特性の向上に大きく寄与する結果となる。また、このように電極活物質層の膜厚が薄い場合には、電極活物質層中において、電極活物質粒子と集電体とを移動する電子の移動距離が短くなるので、電極板における電気抵抗を下げることができ、結果として出入力特性の向上に寄与することができるための望ましい。尚、本発明において電極活物質層の膜厚の下限は、主として、用いられる電極活物質粒子の粒子径に依存し、使用可能な電極活物質粒子の粒子径の縮小化に伴い、さらに上述の範囲を下回るより薄い膜厚とすることが可能である。
【0032】
また電極活物質層は、電解液が浸透可能な程度に空隙が存在していることが好ましく、電極活物質層中の空隙率は、一般的に15〜40%、より好ましくは20〜40%である。以下に、本発明における電極活物質層中に含有される物質について具体的に説明する。
【0033】
活物質粒子:
本発明の正極板における電極活物質層に含有される正極活物質粒子としては、一般的に非水電解液二次電池用正極板において用いられるリチウムイオン挿入脱離反応を示す活物質粒子であれば、特に限定されない。上記正極活物質の具体的な例としては、例えばLiCoO、LiMn、LiNiO、LiFeO、LiTiO、LiFePOなどのリチウム複合酸化物などを挙げることができる。また、本発明の負極板における電極活物質層に含有される負極活物質粒子としては、一般的に非水電解液二次電池用負極板において用いられるリチウムイオン挿入脱離反応を示す活物質粒子であれば、特に限定されない。上記負極活物質の具体的な例としては、天然グラファイト、人造グラファイト、アモルファス炭素、カーボンブラック、またはこれらの成分に異種元素を添加したもののような炭素質材料からなる活物質粒子、あるいは、LiTi12など金属リチウムを含む化合物、スズ、シリコン、及びそれらの合金等、リチウムイオンの挿入脱離反応を示す材料を挙げることができるが、これに限定されない。
【0034】
本発明に用いられる活物質粒子の粒子径は、特に限定されず、任意の大きさのものを適宜選択して使用することができる。特に、粒子径の小さい活物質粒子を用いる態様の本発明によれば、電極活物質層中における活物質粒子の表面面積の総量を増大させることができるとともに、1つの活物質粒子内におけるリチウムの移動距離を短縮することが可能であるため、飛躍的に出入力特性を向上させることができる。したがって、より高い出入力特性を求める場合には、粒子径の寸法の小さいものを選択することが望ましい。具体的には、用いる活物質粒子の粒子径は、好ましくは10μm未満、より好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下である。従来の、樹脂製結着材を用いたスラリー状の電極活物質層形成液では、用いる活物質粒子径が10μm未満となると塗工適性が不良になる傾向にあり、5μm以下であると該形成液の流動性が著しく悪くなり、印刷機などの量産設備に適用が困難となり、さらに1μm以下であると、活物質粒子を形成液中に分散すること自体が困難になる傾向にあった。これに対し、本発明を製造する場合には、上述のような問題点が回避されるため、任意に活物質粒子の粒子径を選択することができる。尚、本発明および本明細書に示す活物質粒子の粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定により測定される平均粒径(体積中位粒径:D50)である。
【0035】
上記、電極活物質層中に含有される活物質粒子の粒子径は、電子顕微鏡観察結果を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製、MAC VIEW)を用いて任意に選択された複数(例えば10ケ程度)の活物質粒子の最長径を測定し、その平均値を算出することにより求めることができる。
【0036】
結着物質が含有する金属窒化物:
上記電極活物質層中に結着物質として含有される金属窒化物は、窒素元素と金属元素とを少なくとも含有する化合物であって、非晶質の金属窒化物であれば、特に限定されるものではない。
【0037】
上記金属窒化物が非晶質であることによって、結晶性である場合に比べて柔軟性があり、電極活物質層の曲げ特性に優れる傾向にある。
【0038】
上記金属元素は特に限定されないが、たとえば具体的には、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、In、およびSnからなる群より選択されるいずれか1種、または2種以上の金属元素を含む窒化物を、本発明の金属窒化物として電極活物質層中に含有させることができる。
【0039】
より具体的には、窒化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化珪素、窒化カルシウム、窒化チタン、窒化バナジウム、窒化クロム、窒化マンガン、窒化鉄、窒化コバルト、窒化ニッケル、窒化銅、窒化亜鉛、窒化ガリウム、窒化ルビジウム、窒化ストロンチウム、窒化イットリウム、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、窒化モリブデン、窒化インジウム、窒化スズなどの金属窒化物を例示することができる。
【0040】
なかでも、上記結着物質として、窒化チタンなどのチタン元素を含む金属窒化物が好ましい。
【0041】
上記窒化チタンは、一般的にTiNとして表される金属窒化物であってもよいし、あるいは、Tiにおいて、Xが0.8〜1.2、Yが1.2〜0.8の間で組成比率は変更されてよい。あるいは、組成比率の異なる窒化チタンが、1つの電極活物質層中に混在していてもよい。また、XRDで窒化チタンと判断できる程度のピークシフトが起こる範囲で、任意の元素が置換されていてもよい。また、本発明における結着物質は、窒化チタンである結着物質の一部が部分酸化により窒化チタン部分酸化物となっている場合も含む。
【0042】
特に、チタン元素を含む金属窒化物の中でも、窒化チタンが本発明における金属窒化物であることが望ましい。非晶質の窒化チタンは、電気抵抗値が1Ωcm以下であり導電性が良好である。参考までに述べると、非水電解液二次電池用電極板における導電性としてし、汎用されるアセチレンブラックなどの炭素材料の電気抵抗値は、0.14〜0.25Ωcm程度である。本発明における電極活物質層に、結着物質を構成する金属窒化物として非晶質の窒化チタンを含有させた場合には、上記窒化チタンは、結着物質として作用する上、導電材としての作用も発揮しうる。したがって、結着物質を構成する金属窒化物として非晶質の窒化チタンを含有する電極活物質層を供える本発明の電極板は、導電性が良好である。あるいは、結着物質を構成する金属窒化物として非晶質の窒化チタンを電極活物質層中に含有させることによって、本発明は、導電材の添加量を抑制することができ、結果として単位面積あたりの電極容量を増大させることができる。尚、上記電気抵抗値は、抵抗率計ロレスタを用いて測定することができる。
【0043】
また結着物質を構成する金属窒化物として窒化チタンが含有される電極活物質層中において、活物質粒子から、過充電の原因により酸素が放出された場合に、当該酸素の少なくとも一部により窒化チタンが部分酸化する。そのため、活物質粒子由来の酸素が、電極活物質層外に放出する量を低減することができ、電極板の安全性、引いては、当該電極板を用いた電池あるいは電池パックの安全性を高めることができる。
【0044】
また、本発明において、上述する金属窒化物は、1種または2種以上の組み合わせで、電極活物質層中に含有させることができる。尚、上述で記載する金属窒化物の例は、本発明における金属窒化物を何ら限定するものではなく、本発明において、集電体上で活物質粒子の結着物質を構成する金属窒化物とは、非晶質の金属窒化物であって、活物質粒子を集電体上に固着させることのできるものであれば、いずれのものであってもよい。尚、本発明の結着物質には、金属窒化物以外、例えば金属、金属酸化物が含有されてもよい。
【0045】
結着物質が含有する金属窒化物の配合比率:
本発明において、電極活物質層中における金属窒化物と、活物質粒子の配合比率は特に特定されず、使用される活物質粒子の種類や大きさ、金属窒化物の種類、電極に求められる機能などを勘案して適宜決定することができる。ただし、一般的には、電極活物質層中における活物質粒子の量が多い方が、電極の電気容量が増大するため、この観点からは、電極活物質層中に存在する活物質粒子に対する金属窒化物の配合量が、少ない方が好ましいといえる。
【0046】
より具体的には、上記電極活物質層中において、上記活物質粒子の重量比率を100重量部としたときに、上記金属窒化物の重量比率を、1重量部以上50重量部以下とすることができる。1重量部未満であると、活物質粒子が集電体上に良好に固着されない場合がある。
【0047】
一方、上記金属窒化物の重量比率の上限の記載は、本発明において、金属窒化物が当該上限を超えて存在することを除外する趣旨ではない。電極の電気容量を大きくするために、より少ない量の金属窒化物で活物質粒子を集電体上に固着させることができることを示すものである。
【0048】
結着物質が含有する金属窒化物の結晶性について:
本発明における金属窒化物は、非晶質であることが特定される。本発明において非晶質の金属窒化物とは、当該金属窒化物、あるいは当該金属窒化物を含む試料を、X線回折装置で解析し、当該金属窒化物のピークが検出され場合を意味する。例えば、窒化チタンが、結晶性である場合には、X線回折結果を縦軸に強度、横軸に2θ角度を示すチャートでみた場合に、横軸の36度付近、41度付近、61度付近のピークが確認されるが、非晶質の窒化チタンでは上記ピークが確認されず、これによって結晶性であるか非晶質であるかが判断される。
【0049】
(その他の材料)
上記電極活物質層は、上述する活物質粒子および結着物質である金属窒化物のみから構成することが可能であるが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、さらなる添加剤が含有されていてもよい。たとえば、本発明の電極板は、導電材を使用することなく良好な導電性を発揮させることが可能であるが、より優れた導電性が望まれる場合や、活物質粒子の含有量を増大させたい場合などには、導電材を使用することが望ましい。
【0050】
上記導電材としては、通常、非水電解液二次電池用電極板に用いられるものを使用することができ、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等の炭素材料が例示されるが、これに限定されるものではない。導電材の平均粒径は20nm〜50nm程度であることが好ましい。また異なる導電材としては炭素繊維(VGCF)が公知である。上記平均粒径は、活物質粒子の粒径を測定する方法と同様に、電子顕微鏡による実測から求められる算術平均により求められる。
【0051】
導電材を電極活物質層に含有させる場合には、その含有量は特に限定されないが、一般的には、活物質粒子100重量部、あるいは活物質粒子および結着物質の総量100重量部に対して、導電材の割合が5重量部以上20重量部以下となるようにすることが望ましい。
【0052】
また本発明は、樹脂製結着材を使用せずとも活物質粒子を集電体上に固着させることができるものであるが、これは電極活物質層に樹脂成分が含有されることを禁止する趣旨ではない。たとえば、電極板を用いて電池を組み立てる場合には、電解液を電極の細孔内部へしみこませる必要があり、この際、電解液の浸透性を向上させるために電極活物質層中に、樹脂成分を1〜10%ほど含有させる場合がある。このように、必要に応じて、本発明においても電極活物質層中に少量の樹脂材料を含有させてもよい。あるいは、結着物質として、金属窒化物に加え、樹脂製結着材も電極活物質層中に含有されていてもよい。
【0053】
(集電体)
本発明に用いられる集電体は、一般的に非水電解液二次電池用正極板における正極集電体あるいは非水電解液二次電池用負極板における負極集電体として用いられるものであれば、特に限定されない。例えば、上記集電体は、アルミニウム箔、ニッケル箔、銅箔などの単体又は合金から形成されているもの、もしくはカーボンシート、カーボン板、及びカーボンテキスタイル等の高い導電性を有する箔ものが好ましく用いられる。尚、本発明に用いられる集電体は、必要に応じて、電極活物質層の形成が予定される面において、表面加工処理がなされている集電体であってもよい。表面加工処理がなされている集電体としては、導電性物質が積層されているもの、化学研磨処理、コロナ処理、酸素プラズマ処理などの表面処理がなされていてもの等が挙げられる。あるいは、上記集電体は、物理的に任意の凹凸などが表面に設けられていてもよい。
【0054】
上記集電体としては、例えば、図4Aに示すとおり、非水電解液二次電池用電極板20に用いられる集電体1として、それ自体が集電機能を有する金属箔などの集電基材3のみを用いることができる。集電基材3としては、上述するアルミニウム箔、ニッケル箔、カーボンシートなどが例示される。かかる場合には、集電基材3の表面の少なくとも一部に電極活物質層2が設けられる。
【0055】
また、異なる集電体の例としては、図4Bに示すとおり、非水電解液二次電池用電極板20’に用いられる集電体1’として、それ自体が集電機能を有する集電基材3の上面に、導電性を有する任意の導電性層4が設けられてなる集電体1’を用いることができる。導電性層4は、電極活物質層2と集電基材3と間の電子の移動を妨げない程度の導電性を示すものであればよい。例えば、導電性層4は、銅または銅合金からなる積層層、あるいは任意の導電性微粒子がメッキあるいはスパッタリングなどにより堆積されてなる層、あるいは一枚以上の導電性薄膜が設けられてなる層などであってよく、またこれらの例に限定されない。集電体1’において、導電性層4の表面が、集電体1’の表面102となり、電極活物質層2は、表面102の少なくとも一部に設けられる。尚、図4Bでは、任意の導電性層4が1層である態様を示した。しかし、集電体1’の構成はこれに限定されず、導電性層4は、2以上の任意の導電性層が積層された積層構成であってもよい。
【0056】
また、異なる集電体の例としては、図4Cに示すとおり、非水電解液二次電池用電極板20’’に用いられる集電体1’’として、それ自体が集電機能を有する集電基材3の上面に、断続的に形成された任意の断続層5が設けられてなる集電体を用いることができる。断続層5は、上述する導電性層4と同じく導電性の層であってもよいし、あるいは導電性を示さない層であってもよい。即ち、非水電解液二次電池用電極板20’’では、電極活物質層2の集電体1’’の表面は、断続層5の表面である表面103と、断続層5が設けられておらず集電基材3自体の表面である表面103’とからなる。このとき、電極活物質層2は、表面103および表面103’のいずれとも接するよう形成することができる。非水電解液二次電池用電極板20’’では、断続層5は、導電性を有していても、有していなくてもよい。断続層5が導電性を有していない層であっても、集電体1’’の表面103’において電極活物質層2と集電基材3とが直接接するため、電極活物質層2と集電体1’’との間において電子の移動が確保される。ただし、非水電解液二次電池用負極板20’’自体の電気抵抗をより小さいものにするという観点からは、断続層5も、導電性を示すことが好ましい。
【0057】
また、断続層5が導電性を示す場合、図4Dに示すように、集電体1’’の表面であって断続層5上にのみ、選択的に電極活物質層2’を設けて、非水電解液二次電池用電極板20’’’を構成してもよい。即ち、集電体1’’の表面のうち、表面103の少なくとも一部に、選択的に電極活物質層2’を設けても良い。あるいは、図示しないが、断続層5が導電性を示さない場合、集電体1’’の表面103’の少なくとも一部に選択的に電極活物質層2’を設けてもよい。
【0058】
尚、上述する集電体の説明は、本発明に用いられる集電体を何ら限定するものではない。本発明に用いられる集電体は、以上に例示するとおり、本発明において集電体とは、集電機能を有する集電基材のみであってもよく、かかる態様では、電極活物質層が設けられる集電体の表面とは、該集電基材の表面を指す。あるいは、本発明において、集電体とは、集電機能を有する集電基材と、該集電基材上に設けられる任意の積層層を有していてもよい。かかる態様では、電極活物質層が設けられる集電体の表面とは、集電基材と電極活物質層との間の少なくとも一領域で電子の移動が確保される範囲において、上記積層層の表面、あるいは、積層層が設けられていない集電基材表面、あるいは、上記積層層の表面および積層層が設けられていない集電基材表面の両方を指す。
【0059】
本発明に用いられる集電体は、耐熱温度が800℃以下、さらには600℃以下、特には400℃以下のものを選択することが可能である。かかる集電体の選択は、後述する本発明の製造方法における電極活物質層形成工程における温度条件との関係によって決定される。本発明の製造方法では、電極活物質層形成工程が加熱工程である場合に、例えば400℃以下の加熱温度で集電体上に直接に電極活物質層を形成することができる。したがって、上記集電体は、耐熱温度が800℃以下、さらには600℃以下、特には400℃以下のものを選択することができ、該集電体上に直接に電極活物質層が形成されてなる本発明の電極板を提供することができる。
【0060】
上記集電体の厚みは、一般に非水電解液二次電池用正極板または負極板の集電体として使用可能な厚みであれば特に限定されないが、10〜200μmであることが好ましく、15〜50μmであることがより好ましい。
【0061】
(電極の充放電レート特性評価方法)
本発明の電極板の出入力特性は、放電容量維持率(%)を求めることにより評価することができる。即ち、上記放電容量維持率は、放電レート特性を評価するものであり、放電レート特性が向上した電極板は、一般的に、充電レート特性も同様に向上していると理解される。したがって、望ましい放電容量維持率が示される場合には、充放電レート特性が向上したと評価するものである。より具体的には、活物質の有する放電容量(mAh/g)の理論値が1時間で放電終了となるよう放電レート1Cを設定し、設定された1Cの放電レートにおいて実際に測定された放電容量(mAh/g)を放電容量維持率100%とする。そしてさらに放電レートを高くしていった場合の放電容量(mAh/g)を測定し、以下の数1に示す式に放電容量維持率(%)を求めることができる。尚、上記放電容量は、三極式コインセルにより電極自体の放電容量を測定することにより求められる。
【0062】
【数1】

【0063】
[非水電解液二次電池用電極板の製造方法]
次に、本発明の非水電解液二次電池用電極板の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という場合がある)について説明する。
【0064】
本発明の製造方法は、まず、活物質粒子と、結着物質である金属窒化物を生成するための1種または2種以上の金属窒化物生成材料とが少なくとも含有される電極活物質層形成液を調製する。そして本発明の製造方法は、上記電極活物質層形成液を集電体表面の所望の領域に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、上記塗膜より電極活物質層を形成する電極活物質層形成工程と、を順に備える。
【0065】
上記電極活物質層形成工程は、上記塗膜に含まれる溶媒を除去するとともに、上記塗膜中に含有される金属窒化物生成材料を反応させて非晶質の金属窒化物を生成し、該金属窒化物によって上記活物質粒子を上記集電体上に固着させることによって、上記集電体上に該金属窒化物と上記活物質粒子とを含有する電極活物質層を形成する工程であってよい。
【0066】
あるいは、塗布工程と上記電極活物質層形成工程との間に、任意の工程を設け、塗膜中の溶媒を除去した後に、電極活物質層形成工程を実施してもよい。即ち、電極活物質層形成工程は、溶媒の除去された塗膜中に含有される金属窒化物生成材料を反応させて非晶質の金属窒化物を生成し、該金属窒化物によって上記活物質粒子を上記集電体上に固着させることによって、上記集電体上に該金属窒化物と上記活物質粒子とを含有する電極活物質層を形成する工程であってもよい。
【0067】
従来の樹脂製結着材を用いるスラリー状の電極活物質層形成液とは異なり、本発明の非水電解液二次電池用電極板の製造方法において用いられる、金属窒化物生成材料及び活物質粒子を含有して調製される電極活物質層形成液は、含有される活物質粒子の粒子径によらず、集電体への塗布性が良好に維持される程度の粘度が示される。したがって、従来の電極活物質層形成液では、粘度の著しい向上のため使用困難であった粒子径の小さい活物質粒子を、本発明の非水電解液二次電池用電極板の製造方法では、使用することができるようになった。また本発明の非水電解液二次電池用電極板の製造方法は、上記電極活物質層形成液の集電体への塗布性が良好であることから、所望の厚みに塗布することも可能となり、電極活物質層の薄膜化を可能とした。
【0068】
以上のとおり、本発明の非水電解液二次電池用電極板の製造方法によれば、電極板の出入力特性の向上へのアプローチである、粒子径の小さい活物質粒子の使用、および電極活物質の薄膜化のいずれもが、容易に実現可能である。より具体的には、活物質粒子の粒子径が10μm以下、さらには1μm以下の小さいサイズのものを用いても、塗布性が低下するほどの粘度の上昇がみられないという望ましい特徴を有している。したがって、用いられる活物質粒子の粒子径は、所望の大きさを選択することができる。以上のとおり、本発明の製造方法によれば、粒子径の小さい活物質粒子を使用し、あるいはまた、電極活物質層の厚みを小さく設計することによって、さらに出入力特性が向上した非水電解液二次電池用電極板を、容易に製造することが可能である。
【0069】
上記電極活物質層形成工程は、例えば、加熱工程、減圧乾燥工程、減圧加熱工程、あるいはこれらの組み合わせなどが例示されるが、これらに限定されず、集電体上に塗布された電極活物質層形成液により形成された塗膜を電極活物質層として形成可能な手段を実施する工程であればよい。例えば、上記電極活物質層形成工程は、上記塗膜中に含有される溶媒を除去する手段を実施し、次いで金属窒化物生成材料を反応させる手段を実施するなど、2以上の手段を含んでもよい。また任意に選択された手段を実施する電極活物質層形成工程において、生成される金属窒化物が、非晶質となるように、その実施条件を調整する。
【0070】
本発明の製造方法において、生成される金属窒化物が非晶質であることによる効果は、上述に記載したとおりである。加えて、金属窒化物を結晶化させる製造条件に比べて、非晶質の金属窒化物を製造する製造条件の方が、一般的に緩やかである。例えば、電極活物質層形成工程が加熱工程である場合には、結晶性の金属窒化物を製造する加熱温度よりも、非晶質の金属窒化物を製造する加熱温度の方が加熱温度を低く、設定することができる。したがって、耐熱性の観点から、電極板を構成するそのほかの構成部材、あるいは使用材料の選択用途が広がり、汎用性に優れる。
【0071】
上記電極活物質層形成工程が、加熱手段を実施する加熱工程である場合には、本発明の製造方法は、金属窒化物生成材料が溶解する上記電極活物質層形成液を集電体上に塗布し、該金属窒化物生成材料の熱分解開始温度以上の温度であって、上記加熱工程において生成される金属窒化物の結晶化温度未満である温度で加熱する加熱工程を実施する。上記加熱工程の実施により、集電体上に非晶質の金属窒化物を生成することができる。上記電極活物質層形成工程において、集電体上に生成される金属窒化物は、溶液中に含まれる活物質粒子を抱き込むように集電体上で塗膜化するため、活物質粒子を集電体上に固着させることができる。上記電極活物質層形成液中に含まれる活物質粒子、あるいはさらに導電材粒子は、上記固着態様1に加え、固着態様2として示すように、粒子同士の直接の接触が良好に保たれた状態で固着される態様が含まれる。このように、固着態様1および2に示されるような固着の状態を可能とする要因は、本発明の製造方法において、金属窒化物生成材料が溶媒に溶解されていること、且つ、活物質粒子等を混合した電極活物質層形成液を集電体上に塗布して電極活物質層を形成する際に、加熱などの手段により溶媒が除去され、生成される金属窒化物(結着物質)が、粒子間、あるいは粒子同士が直接に接触する接触部分の周囲に生成されることにあると推察される。この結果、本発明の製造方法は、導電性が良好で電気抵抗を低く保つことが可能な電極板を製造することができる。尚、本発明の製造方法において、電極活物質層形成液中に含まれる金属窒化物生成材料は、溶媒に溶解した状態のものも含めて金属窒化物生成材料と呼ぶ。
【0072】
活物質粒子:
上記電極活物質層形成液に含有される活物質粒子は、上述において既に説明した活物質粒子と同様であるため、ここではその説明を割愛する。尚、本発明の製造方法において、用いられる活物質粒子の粒子径は、所望の大きさを選択することができることも上述と同様である。
【0073】
金属窒化物生成材料:
本発明に製造方法において、電極活物質層形成液中には、生成が予定される金属窒化物の生成材料として、金属窒化物生成材料が添加される。尚、本発明において、金属窒化物生成材料には、金属窒化物生成用有機材料が含まれる。
【0074】
金属窒化物生成材料は、溶媒に溶解した状態で基板上に塗布され、適切な反応手段を受けることにより塗膜化することが可能な材料である。例えば、上記反応手段として、加熱手段を選択した場合、基板上で、熱分解開始温度以上の温度で加熱されると、熱分解し、且つ、窒化して、金属窒化物として塗膜化することが可能である。本発明者らは、樹脂製結着材を使用せずに、上記塗膜化する結着物質中に活物質粒子を含有させる着想のもと、金属窒化物生成材料と活物質粒子とを含有する溶液を調製し、集電体上に塗布して加熱することを試みた。その結果、主として活物質粒子からなる電極活物質層中に結着物質である金属窒化物が存在する程度に、集電体上で生成される結着物質の量を著しく減らしても、活物質粒子が集電体上に固着されることを見出した。
【0075】
したがって、本発明の製造方法に用いられる金属窒化物生成材料は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、窒化されて、塗膜化可能な元素を含むものであれば、いずれのものを選択してもよい。
【0076】
[金属窒化物生成材料]
本発明の製造方法において、加熱工程などの電極活物質形成工程が、窒素雰囲気下、アンモニアガ雰囲気下、あるいは、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスとアンモニアガスとの混合ガス雰囲気下などで実施される場合には、金属窒化物生成材料として、一般的な金属元素郡から選択される金属元素を含有する化合物を用いることができる。具体的には、上記金属窒化物生成材料は、Li、Be、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Fr、Ra、及びCeなどの一般的な金属元素群から選択されるいずれか1種、または2種以上の金属元素を含有する化合物であればよい。
【0077】
また理由は明らかではないが、上記金属元素の中でも、特に3から5周期に属する金属元素を1種、または2種以上含有する金属窒化物生成材料を用いた場合には、生成される電極板の出入力特性がより高くなる傾向にあるため、好ましい。
【0078】
また、上記金属元素を含有する金属窒化物生成材料としては、例えば金属塩が好ましく使用される。上記金属塩としては、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、臭素酸塩等を挙げることができる。中でも、本発明においては、塩化物、硝酸塩は汎用品として入手が容易なので、使用することが好ましい。とりわけ、硝酸塩は安価なため好ましく使用される。
【0079】
上記金属塩の具体的な例示としては、塩化マグネシウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、四塩化チタン、オキソ硫酸バナジウム、クロム酸アンモニウム、塩化クロム、二クロム酸アンモニウム、硝酸クロム、硫酸クロム、硝酸マンガン、硫酸マンガン、塩化鉄(I)、塩化鉄(III)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(III)、塩化コバルト、硝酸コバルト、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、塩化銅、硝酸銅、塩化亜鉛、塩化亜鉛、硝酸イットリウム、塩化イットリウム、塩化酸化ジルコニウム、硝酸酸化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、塩化銀、硝酸インジウム、硫酸スズ、塩化セリウム、硝酸セリウム、硝酸二アンモニウムセリウム、硫酸セリウム、塩化サマリウム、硝酸サマリウム、塩化鉛、硝酸鉛、ヨウ化鉛、リン酸鉛、硫酸鉛、塩化ランタン、硝酸ランタン、硝酸ガドリニウム、塩化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、五塩化ニオブ、りん酸モリブデン酸アンモニウム、硫化モリブデン、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、五塩化アンチモン、三塩化アンチモン、三フッ化アンチモン、テルル酸、亜硫酸バリウム、塩化バリウム、塩素酸バリウム、過塩素酸バリウム、硝酸バリウム、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、五塩化タンタル、塩化ハフニウム、硫酸ハフニウム等を挙げることができる。
【0080】
一方、充分に窒素ガスあるいはアンモニアガスが含有されない雰囲気下で、加熱工程などの電極活物質層形成工程が実施される場合には、金属窒化物生成材料として、金属元素を含有するアンモニウム塩などが好ましく用いられる。具体的には、りん酸マグネシウムアンモニウム六水和物、硫酸アンモニウムアルミニウム、くえん酸鉄(III)アンモニウム、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物、ヘキサフルオロけい酸アンモニウム、硫酸クロム(III)アンモニウム、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム、ヘキサフルオロニオブ酸(V)アンモニウム、硫酸銅(II)アンモニウム六水和物、硫酸二アンモニウムコバルト(II)六水和物、硫酸ニッケル(II)アンモニウム六水和物、硫酸マンガン(II)アンモニウム六水和物、モリブドりん酸アンモニウムn水和物、硫酸四アンモニウムセリウム(IV)四水和物などが例示される。あるいは、上述する金属窒化物生成材料に加え、酢酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどの金属を含有しないアンモニウム塩を混合して金属窒化物生成材料として用いてもよい。
【0081】
また、本発明における金属窒化物生成材料として、特に、炭素元素を含む金属窒化物生成用有機材料を用いることもできる。金属窒化物生成用有機材料は、上記金属窒化物生成材料において列挙されるような一般的な金属元素群から選択されるいずれか1種、または2種以上の金属元素および炭素を含有する化合物であればよい。
【0082】
より具体的には、加熱工程などの電極活物質層形成工程を実施する雰囲気に窒素ガスあるいはアンモニアガスが充分含まれる場合には、金属窒化物生成用有機材料として、上記金属窒化物生成材料において列挙されるような一般的な金属元素群から選択されるいずれか1種、または2種以上の金属元素および炭素を含有する化合物であればよい。また、金属窒化物生成用有機材料は、酢酸塩、シュウ酸塩等の金属塩、あるいは、マグネシウムジエトキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、カルシウムアセチルアセトナート二水和物などの金属錯体であってもよい。
【0083】
一方、上記雰囲気に窒素ガス窒素ガスあるいはアンモニアガスが充分含まれる場合には、金属窒化物生成用有機材料として、酢酸アンモニウムなどの炭素を含有するアンモニウム塩を用いてもよく、あるいは、アンモニウム塩と窒素を含有しない金属窒化物生成用有機材料を混合して用いてもよい。かかる場合には、加熱工程の際に、塗膜中に含有される炭素成分を消失させるよう、加熱温度を調整する。
【0084】
尚、上述に具体的に例示する金属窒化物生成材料以外であっても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜、選択して金属窒化物生成材料たり得る材料を使用することができる。即ち、本発明の製造方法において製造される非水電解液二次電池用電極板に設けられる電極活物質層において、好ましく活物質粒子を集電体上に固着させることができる結着物質である金属窒化物を生成可能な生成材料となるものであれば、適宜選択して使用することが可能である。
【0085】
また上記電極活物質層形成液には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、導電材、あるいは、電極活物質層形成液の粘度調整剤である有機物、その他の添加剤を配合してもよい。尚、上記有機物としては、具体的には、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、エチルセルロース、デンプン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコールあるいはポリエチレングリコールなどを例示することができる。
【0086】
導電材を電極活物質層形成溶液に添加する場合には、集電体表面上において生成される活物質粒子および形成が予定される金属窒化物の総量100重量部に対して、導電材の添加量が5重量部〜20重量部であることが望ましい。尚、上述は、20重量を超えて導電材を添加することを除外する趣旨ではない。
【0087】
溶媒:
上記電極活物質層形成液に用いられる溶媒は、活物質粒子、金属窒化物生成材料、あるいはその他の添加剤が添加されてなる電極活物質層形成液として調製可能であって、かつ集電体上に塗布された後、加熱工程において除去可能なものであれば特に限定されない。例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール、アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のジケトン類、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類、トルエンなどの1種の溶媒、あるいはこれらの2種以上の組み合わせからなる混合溶媒等を挙げることができる。
【0088】
上記電極活物質層形成液は、集電体上に形成が予定される電極活物質層における活物質粒子、結着物質形成材料、さらに必要に応じて添加されるその他の添加剤を必要量含まれるように勘案して、これらの配合量が決定される。その際、固形分比は、塗布工程において集電体上への塗布性及び、電極活物質層形成工程における溶媒の除去を勘案し、適宜調整する。一般的には、電極活物質層形成液における固形分比が30〜70wt%となるよう調整される。
【0089】
塗布工程:
次に、以上のとおり調製された電極活物質層形成液を、集電体上に塗布して塗膜を形成する塗布工程について説明する。尚、本発明の製造方法において用いられる集電体は、上記非水電解液二次電池用電極板に用いられる集電体と同様であるため、ここでは割愛する。
【0090】
塗布工程では、電極活物質層形成液の塗布方法として公知の塗布方法であれば、適宜選択して実施することができる。たとえば、印刷法、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレーコート等によって、集電体表面の任意の領域に塗布して塗膜を形成することができる。また、集電体表面が多孔質であったり、凹凸が多数設けられていたり、三次元立体構造を有したりする場合には、上記方法以外に手動で塗布することも可能である。尚、本発明において使用する集電体は、必要に応じて、予めコロナ処理や酸素プラズマ処理等を行うことで、電極活物質層の製膜性をさらに改善することができるため好ましい。
【0091】
上記電極活物質層形成液の集電体への塗布量は、製造される電極板の用途等に応じて任意に決めることができるが、本発明における電極活物質層は、上述のとおり非常に薄く形成することが可能であるため、薄膜化を図りたい場合には、後述する加熱工程により形成される電極活物質層の厚みが300nm〜11μm程度となるように、薄く塗布することができる。以上の通り、集電体に電極活物質層形成用溶液を塗布することにより、活物質粒子および、金属窒化物生成材料が少なくとも含有される電極活物質層形成用塗膜(以下、単に「塗膜」という場合がある)が形成される。
【0092】
上記塗布工程と、電極活物質層形成工程との間、あるいは、電極活物質層形成工程の後には、さらにプレス工程を実施してもよい。上記プレス工程は、集電体上に形成された上記電極活物質層形成用塗膜を、必要に応じて乾燥させて溶媒を除去し、その後、プレスすることによって実施することができる。したがって、プレス工程後に電極活物質層形成工程を実施する場合には、該電極活物質層形成工程前に予め、塗膜中の溶媒の一部または全部が除去されていてよい。プレス方法は、従来の樹脂製結着材が含まれるスラリー状の電極活物質層形成溶液を集電体上に塗布して乾燥させ、次いで実施されるプレスと同様の方法で実施することができるが、これに限定されない。このように本発明の製造方法は、プレス工程を実施することによって、最終的に製造される電極板における電極活物質層の空隙率を調整し、また体積当たりのエネルギー密度を増加させることができる。
【0093】
加熱工程:
次に、上記塗布工程において形成された塗膜から電極活物質層を形成するための電極活物質層形成工程について、加熱手段を実施する加熱工程を例に説明する。加熱工程は、必要に応じて、塗膜中の溶媒を除去し、上記塗膜中に存在する金属窒化物生成材料を加熱して熱分解し、これに含まれる元素を含む、非晶質の金属窒化物を生成することを目的に行われる。
【0094】
加熱方法としては、所望の加熱温度で、塗膜を加熱することができる加熱方法あるいは加熱装置であれば、特に限定されず、適宜選択して実施することができる。具体的な例としては、ホットプレート、オーブン、加熱炉、赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、熱風送風機等のいずれかを使用するか、あるいは2以上を組み合わせて使用する方法を挙げることができる。用いられる集電体が平面状である場合には、ホットプレート等を使用することが好ましい。尚、ホットプレートを用いて加熱する場合には、塗膜面側が、ホットプレート面と接しない向きに設置して加熱することが好ましい。
【0095】
上記加熱工程における加熱温度は、金属窒化物生成材料の熱分解開始温度以上であって、生成される金属窒化物の結晶化温度未満の温度範囲において決定される。
【0096】
金属窒化物生成材料の熱分解開始温度は、個々の化合物の種類によって異なる。上記塗膜中に含有される金属窒化物生成材料は、加熱されて熱分解すると、窒化し、これによって電極活物質層中に金属窒化物を形成することが可能である。
【0097】
金属窒化物生成材料の熱分解開始温度は、予備試験を行って確認することができる。即ち、金属窒化物生成材料が配合される溶液を基板上に塗布して加熱し、基板上に積層される積層膜を削って試料とし、組成分析を行い、窒素元素と金属元素の含有比率を測定することによって、金属窒化物が形成されているかどうかを判断することができ、また、金属窒化物が生成されていた場合には、用いられた金属窒化物生成材料が、基板上で熱分解開始温度以上の温度で加熱されたことが確認される。尚、上記予備試験における加熱は、本製造方法において予定される加熱雰囲気と同様の雰囲気で実施する。即ち、本発明において「金属窒化物生成材料の熱分解開始温度」とは、加熱により金属窒化物生成材料が熱分解され、これに含まれる金属元素の窒化が開始する温度、と理解することができる。
【0098】
また、本発明において「結晶化温度」というときには、電極活物質層形成液中に含有される金属窒化物生成材料等から、金属窒化物が生成された後、当該金属窒化物が結晶化する温度を意味する。当該結晶化温度において金属窒化物は結晶化し、当該温度を上回ると結晶化度が増大するが、本発明において「結晶化」というときには、結晶化度によらず、X線回折装置において結晶状態を示すピークが確認される場合をいう。
【0099】
本発明における「結晶化温度」は、金属窒化物の固有の結晶化温度とは必ずしも一致するとは限らず、電極活物質層形成液中の状態により、これらの固有の結晶化温度と若干相違する場合がある。したがって、この点を勘案し、予め、電極活物質層形成用塗膜中における金属窒化物の結晶化温度を確認しておくことが望ましい。
【0100】
一方、上記加熱温度が、生成される金属窒化物の「結晶化温度未満」とは、集電体上に形成される電極活物質層中に含有される金属窒化物が、非晶質の状態で存在することを可能とする温度である。当該温度は、予備的に、金属窒化物生成材料が配合される溶液を基板上に塗布し、金属窒化物生成材料の熱分解開始温度以上の温度で加熱し、基板上に金属窒化物からなる膜を形成し、当該膜を削って試料とし、X線回折装置を用いて、その結晶性について評価し、結晶のピークが確認されなければ、結晶化温度未満の温度で加熱された、と理解することができる。
【0101】
上記加熱温度の設定は、より具体的には、活物質粒子と、金属窒化物生成材料と、が少なくとも含有される電極活物質層形成液を用いて本発明の電極板における電極活物質層を形成する場合には、上記加熱工程における加熱温度を、上記金属窒化物生成材料の熱分解開始温度以上であって、上記加熱工程において生成される金属窒化物の結晶化温度未満である温度に設定すればよい。
【0102】
尚、上記金属窒化物生成材料が、金属窒化物生成用有機材料である場合、または、添加剤として有機物が添加されている場合などにおいて、生成される電極活物質層中に導電材とは区別される炭素成分として残留させないようにするためには、以下の方法が挙げられる。即ち、これらの化合物の由来の炭素を消失可能な温度となるよう上記加熱温度を設定することができる。あるいは、上記加熱工程を2度のステップに分けて、第一加熱ステップでは、非晶質の金属窒化物を生成可能な温度で加熱し、第二加熱ステップで、加熱雰囲気を水素還元雰囲気中で行うことによれば、約500℃程度の温度で、導電材とは区別される炭素成分となり得る炭素をメタンガス化させて、消失させることができる。また上記炭素成分が残留しないための方法は、上記以外であってもよい。
【0103】
上述する加熱温度は、用いる金属窒化物生成材料、あるいは有機物などの配合成分の組み合わせによって異なるため、所望の成分が電極活物質層に存在することが可能な加熱温度を、予め予備実験において決定することが望ましい。また、上記加熱工程において、加熱温度を決定する際には、さらに用いられる集電体、活物質粒子、導電材などの耐熱性も充分勘案することが望ましい。たとえば、一般的に電極板の集電体として用いられる銅箔の耐熱温度は、酸素雰囲気中では酸化してしまうので200℃前後であり、不活性ガス雰囲気であれば1080℃前後であり、あるいはアルミ箔の耐熱温度は、660℃前後であるため、上記耐熱温度を超える場合には、集電体が損傷するおそれがあるからである。
【0104】
本発明における加熱工程における加熱雰囲気は特に限定されないが、不活性ガス雰囲気、還元ガス雰囲気、アンモニアガス雰囲気などを、適宜選択することができる。また不活性ガスとアンモニアガスとの混合ガスなどであってもよい。特に、金属窒化物を生成するにあたり、加熱雰囲気に含まれる酸素量が200ppm以下、さらには100ppm以下であることが好ましく、加熱雰囲気中に、アンモニアガスが含有されていることがより好ましい。適切な加熱雰囲気下において、加熱分解された金属窒化物生成材料の構成元素の少なくとも一部を窒化させて金属窒化物を生成することができる
【0105】
より具体的には、塗布工程において集電体上に塗膜を形成した後、加熱工程を、窒素雰囲気下、アンモニアガス雰囲気下、または不活性ガスとアンモニアガスとの混合ガス雰囲気下で実施し、金属窒化物生成材料に含有される金属元素の少なくとも一部と、当該雰囲気中における窒素とを結合させ、金属窒化物を生成することができる。
【0106】
あるいは、不活性ガス雰囲気下で実施し、金属窒化物生成材料中に含有される窒素成分由来の金属窒化物を生成することができる。
【0107】
あるいは、また特に、上記金属窒化物生成材料が、金属窒化物生成用有機材料である場合、または、添加剤として有機物が添加されている場合には、生成される電極活物質層中に導電材とは区別される炭素成分として残存させないために、加熱工程を、水素還元雰囲気中で行うことによれば、約500℃程度の温度で、導電材とは区別される炭素成分となり得る炭素をメタンガス化させて、消失させることができる。
【0108】
尚、本発明の製造方法において、不活性ガス雰囲気または還元ガス雰囲気は、特に特定の雰囲気に限定されず、従来公知のこれらの雰囲気下において適宜発明の製造方法を実施することができるが、たとえば、不活性ガス雰囲気としてはアルゴンガス、窒素ガス、還元ガス雰囲気としては、水素ガス、一酸化炭素ガス、あるいは上記不活性ガスと上記還元ガスを混合したガス雰囲気などが挙げられる。
【0109】
本発明の電極板は、上述のとおり製造された電極活物質層に、さらに樹脂成分を含有させてもよい。電極活物質層にさらに樹脂成分を含有させる方法は、例えば、樹脂混合液を、電極活物質層の表面に塗布し、あるいは、樹脂混合液槽に電極板を浸漬させて、該樹脂混合液を電極活物質層の空隙に浸透させ、次いで、乾燥させることによって、電極活物質層に含浸する上記樹脂混合液の溶媒を除去し、樹脂成分だけを、電極活物質層の内部に残留させる方法が挙げられる。このように、電極活物質層中に樹脂成分を含有する本発明の電極板であれば、樹脂成分の存在により、電極板の曲げ耐性が向上し、加工特性を向上させることが可能である。また、特に上記樹脂成分が、従来使用されていた樹脂製結着材である場合には、集電体に対する電極活物質層の膜密着性をより向上させることが可能である。
【0110】
上記樹脂混合液に含まれる樹脂材料として、例えば、PVDFなどの従来の樹脂製結着材、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメトキシセルロース(CMC)や、上記粘度調整剤に挙げるものなどを選択することができるが、これに限定されない。また上記樹脂材料は、電極活物質層における空隙内に浸透可能なサイズを適宜選択する。また、樹脂混合液の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール、アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のジケトン類、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類、Nーメチルピロリドン(NMP)などのピロリドン類、トルエン、およびこれらの混合溶媒、水等などを用いることができ、該溶媒に、樹脂材料を混合させて、樹脂混合液を調製することができる。
【0111】
電極活物質層中に含有される樹脂成分の量は、電極板の出入力性能を低下させない程度に調整することが望ましい。即ち、樹脂材料が電極活物質層に含有される本発明の電極板を製造する際には、本発明で特定される細孔径、あるいは空隙率が確保される量となるよう調整する。
【0112】
[非水電解液二次電池]
本発明の非水電解液二次電池は、一般的には、図2に例示するように、集電体55の一方面側に電極活物質層54が設けられてなる正極板50及びこれに組み合わされる集電体1の一方面側に電極活物質層2が設けられてなる電極板10(即ち、図2中、電極板10は負極板である)と、これらの間にポリエチレン製多孔質フィルムのようなセパレータ70とが設けられる。そして、これらが外装81、82内に収納され、且つ、外装81、82内に非水電解液90が充填された状態で密封されて製造されて、非水電解液二次電池100が構成される。
【0113】
(電極板)
本発明の非水電解液二次電池は、特に、正極板及び負極板の少なくとも一方として、上述する本発明の非水電解液二次電池用電極板を用いることを特徴とする。
【0114】
特に、従来、負極板が炭素質材料より構成される場合には、これにあわせて正極板の導電性を上げるために正極板に導電材料を多量に添加することが一般的であったが、このために正極板の空隙率が低下し、電解液の浸透性が低下することにより電池の出力を増大させることが困難であった。しかしながら本発明の電極板は高出入力可能な電極板であるので、これを正極板として用いた場合には、従来のように導電材を多量に用いることなく、あるいは導電材を全く用いることなく、良好な導電性及び高出入力化を可能とする。
【0115】
また非水電解液二次電池は、負極板に用いられる負極活物質として、グラファイトなどの炭素質材料ではなく、金属リチウム及びその合金、スズ、シリコン、及びそれらの合金等、リチウムイオンを挿入脱離可能な材料を用い、負極板を構成する態様も含む。かかる態様の電池においては、本発明の電極板を負極として積極的に使用して、非水電解液二次電池を製造することができる。
【0116】
また本発明の電極板を、正極板および負極板の両方に用いて非水電解液二次電池を構成することもできる。
【0117】
尚、本発明の非水電解液二次電池において、正極板または負極板のいずれか一方において、本発明の電極板を用いる場合には、他方の電極板は、非水電解液二次電池において使用される従来公知の電極板を適宜使用することができる。
【0118】
従来公知の正極板としては、一般的には本発明の電極板において用いられる集電体と同様の集電体表面上の少なくとも一部に、正極活物質粒子、導電材、樹脂製結着材などが添加された正極活物質層形成溶液を塗布して、乾燥し、必要に応じてプレスすることにより形成されたものが使用される。
【0119】
一方、従来公知の負極板としては、集電体として厚み5〜50μm程度の電解銅箔や圧延銅箔等の銅箔を用い、上記集電体表面の少なくとも一部に、負極活物質層形成溶液を塗布して、乾燥し、必要に応じてプレスすることにより形成されたものが使用される。上記負極活物質層形成溶液には、一般的に、天然グラファイト、人造グラファイト、アモルファス炭素、カーボンブラック、またはこれらの成分に異種元素を添加したもののような炭素質材料からなる活物質粒子、あるいは、金属リチウム及びその合金、スズ、シリコン、及びそれらの合金等の、リチウムイオン挿入脱離可能な材料などからなる活物質粒子、および樹脂製結着材、必要に応じて導電材などの他の添加剤が混合されることが一般的である。
【0120】
(非水電解液)
本発明に用いられる非水電解液は、一般的に、非水電解液二次電池用の非水電解液として用いられるものであれば、特に限定されないが、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液が好ましく用いられる。
【0121】
上記リチウム塩の例としては、LiClO、LiBF、LiPF、LiAsF、LiCl、及びLiBr等の無機リチウム塩;LiB(C、LiN(SOCF、LiC(SOCF、LiOSOCF、LiOSO、LiOSO、LiOSO11、LiOSO13、及びLiOSO15等の有機リチウム塩;等が代表的に挙げられる。
【0122】
リチウム塩の溶解に用いられる有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状エステル類、テトラヒドロフラン、アルキルテトラヒドロフランなどの環状エーテル類、及び1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンなどの鎖状エーテル類等が挙げられるが、これに限定されない。
【0123】
上記正極板、負極板、セパレータ、非水電解液を用いて製造される本発明の非水電解液二次電池の構造は、従来公知の構造を適宜選択して採用することができる。例えば、正極板及び負極板を、ポリエチレン製多孔質フィルムのようなセパレータを介して渦巻状に巻き回して、電池容器内に収納する構造が挙げられる。また別の態様としては、所定の形状に切り出した正極板及び負極板がセパレータを介して積層されて固定され、これを電池容器内に収納する構造を採用してもよい。いずれの構造においても、例えば、正極板及び負極板を電池容器内に収納後、正極板に取り付けられたリード線を外装容器に設けられた正極端子に接続し、一方、負極板に取り付けられたリード線を外装容器内に設けられた負極端子に接続し、さらに電池容器内に非水電化液を充填した後、密閉することによって非水電解液二次電池を製造することができる。
【0124】
本発明の電極板を正極板および/または負極板として用いる非水電解液二次電池は、所謂、電池パックに用いられる非水電解液二次電池として使用することができる。即ち、本発明の電池パックは、本発明の電極板を正極板および/または負極板として用い、且つ、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と過放電保護機能を有する保護回路とが収納ケースに収納されて構成される。本発明の電池パックは、例えば、過充電、過放電、過電流、電池周辺回路の短絡、正負電極間の短絡などから電池を保護するための保護機能を非水電解液二次電池自体に装備するとともに、過充電や過放電を防止するための保護回路を該非水電解液二次電池と共に収納ケースに収容して一体化されてなる電池パックであってよい。本発明の電池パックは、ノートパソコン、カメラ、携帯電話等の携帯機器など、装置の規模に対して消費電力が大きい装置の電池電源装置として好適に使用することができる。
【0125】
図3に、本発明の電池パックの一態様として、本発明の電極板が用いられて構成されるリチウムイオン二次電池31を用いた本発明の電池パック30の概略分解図を示す。電池パック30は、リチウムイオン二次電池31が樹脂容器36a、樹脂容器36b、および端部ケース37に収納されて構成される。このとき、リチウムイオン二次電池31の一端面であって、正極端子32および負極端子33を備える面と、端部ケース37との間には、過充電や過放電を防止するための保護回路基板34が、設けられる。保護回路基板34は、外部接続コネクタ35を備えており、外部接続コネクタ35は、樹脂容器36aに設けられた外部接続用窓38aおよび、端部ケース37に設けられた外部接続用窓38bに挿入され、外部端子と接続される。また、保護回路基板に34には、図示しない、充放電を制御するための充放電安全回路、外部接続端子とリチウムイオン二次電池31とを導通させるための配線回路などが搭載されている。尚、電池パック30は、本発明の電極板が用いられたリチウムイオン二次電池31を用いること以外は、従来公知の電池パックの構成を適宜採用することができる。図示省略するが、電池パック30は、リチウムイオン二次電池31と端部ケース37との間に、正極端子32と接続する正極リード板、負極端子33と接続する負極リード板、絶縁体などを、適宜備えてよい。
【0126】
尚、本発明の電極板を用いた本発明の非水電解液二次電池は、電池パックへの使用態様以外に、上記保護回路に、さらに、過大電流の遮断、電池温度モニター等の機能を備え、且つ、該保護回路を二次電池自体に一体化させて取り付けられる態様に用いられてもよい。かかる態様では、電池パックを構成することなく、保護機能および保護回路を備える二次電池として使用することができ、汎用性が高い。尚、上述するいくつかの態様は、例示に過ぎず、本発明の電極板、あるいは本発明の非水電解液二次電池の使用を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0127】
(実施例1)
有機物であるポリエチレングリコール200 1gをメタノール9gに混合させた混合液に、結着物資生成材料として、金属窒化物生成材料であるチタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)((株)マツモト交商社製、TC−750)5.0gを添加し、金属窒化物を生成する原料溶液とした。次いで、上記原料溶液に、平均粒径4μmの負極活物質粒子であるグラファイト7gを混合させ、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で7000rpmの回転数で20分間混練することによって電極活物質層形成液を調製した。
【0128】
集電体として厚さ10μmの銅板を準備し、最終的に得られる電極活物質層の重さが15g/mとなる量で、当該集電体の一面側に上記にて調製した電極活物質層形成液をアプリケーターで塗布して電極活物質層形成用塗膜を形成した。
次に、表面に電極活物質層形成用塗膜が形成された集電体を、アンモニアガス50%と窒素ガス50%とからなる混合ガス雰囲気下の電気炉(ガス置換炉 光洋サーモシステム社製)内に設置し、1時間かけて500℃まで加熱し、その後、500℃に温度を維持したまま10分間加熱した(第一加熱工程)。そして室温になるまで放置した後に大気開放して取り出し、今度は水素還元雰囲気(水素濃度4%、窒素濃度96%)にして1時間かけて400℃まで加熱し、400℃のまま10分間保持し、室温になるまで放置した(第二加熱工程)後に大気開放して取り出し、集電体上に金属窒化物と負極活物質粒子を含む負極活物質層として適切な電極活物質層が積層された本発明の非水電解液二次電池用負極板を得た。そして上記負極板を所定の大きさ(直径15mmの円板)に裁断し、実施例1とした。尚、マイクロメーターを用いて電極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、25μmであった。
【0129】
膜形成性の確認:
尚、実施例1を作成するにあたり、上述で得られた非水電解液二次電池用負極板を所望のサイズの円板形状に繰り抜く加工を行ったが、当該加工作業において、電極活物質層が剥離するなどの不具合なく、作用極を形成することができた。このことから、電極活物質層の膜形成性が良好であることを確認した。
以下に示す実施例および比較例においても、膜形成性が良好であるとは、上述するように、不具合なく電極板を円板上に繰り抜く加工ができた場合を意味する。一方、上記繰り抜き加工において電極活物質層の一部が剥がれたり、あるいは電極活物質が集電体上から落下して三極式コインセルの作用極として使用に耐える円板が形成されなかった場合には、電極活物質層の膜形成性が不良であると評価するものとする。
【0130】
密着性評価:
集電体への電極活物質層の密着性を以下のとおり評価した。即ち、得られた実施例1の電極活物質層表面にセロハンテープ(「CT24」ニチバン(株)製)を用い、指の腹でフィルムに密着させた。次いで、これをはがした後の電極活物質層表面を観察し、以下のとおり評価した。結果は表2に示す。
電極活物質層の剥がれが全く観察されなかった・・・・・○
電極活物質層の表面の一部が凝集破壊し、セロテープ側に張り付いたが、集電体表面が露出することはなかった・・・・・・・・・・・・・・・△
電極活物質層一部が凝集破壊し、セロテープ側に張り付き、集電体表面の一部が露出した・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・×
【0131】
組成分析試験:
次に、実施例1における電極活物質層を削って、試料1を得た。そして試料1を用いて、X線光電子分光法(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)によって組成分析を実施したところ、Ti元素が18Atomic%、C元素が44Atomic%、O元素が28Atomic%、N元素が10Atomic%、検出された。以上の結果、電極活物質層形成用塗膜中に含有されていたチタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)が、熱分解されて窒化チタンが生成されたことが確認された。
【0132】
結晶性評価:
また試料1を用いてX線回折装置(XRD)で、その結晶性を評価したところ、電極活物質層中に含有される金属窒化物は非晶質であることがわかった。尚、参考に、上記金属窒化物を生成する原料溶液(負極活物質を添加する前の溶液)をガラス板にミヤバー4番で塗布し、実施例1作成時と同じ加熱条件で加熱し、得られた積層膜を削りとり、X線回折装置を用いてその結晶性を評価した結果を示した。原料溶液中の窒化チタンのX線回折結果であり、ピークが確認されないことより、該窒化チタンが非晶質であることが確認された。
【0133】
結着物質中における炭素成分の確認:
生成された窒化チタンからなる結着物質中における導電材とは区別される炭素成分を、上述するSTEM法により以下のとおり確認した。まず、実施例1を集電体面に対し略垂直に切断し、電極活物質層の厚み方向の断面をSTEM法により、炭素元素マッピングにより炭素成分の着色領域を観察したところ、グラファイト粒子とは区別される炭素成分は確認されなかった。尚、他の実施例および参考例においても、同様に炭素成分の確認を実施し、炭素成分を含む10〜30nm程度の粒子であって、活物質粒子や導電材とは区別される粒子が確認された場合には、炭素成分が結着物質中に含有されている判断した。
【0134】
塗工適性評価:
電極活物質層形成液の集電体への塗工適性について、塗布工程実施後、集電体上に形成された塗膜表面を目視で観察し、以下のとおり評価した。
塗膜表面が均一であった・・・・・・・・・・・・・・・◎
塗膜表面の一部に若干の凹凸が確認された・・・・・・・○
塗膜表面に、スジ、または塗りムラが確認された・・・・△
塗膜表面に、負極板として使用不可能な程度の明らかなスジ、または塗りムラが確認された・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・×
【0135】
<三極式コインセルの作製>
エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)混合溶媒(体積比=1:1)に、溶質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を加えて、当該溶質であるLiPFの濃度が、1mol/Lとなるように濃度調整して、非水電解液を調製した。そして、実施例1(直径15mmの円板、含有される負極活物質の重量:1.9mg/1.77cm)を作用極として用い、対極板及び参照極板として金属リチウム板、電解液として上記にて作製した非水電解液を用い、三極式コインセルを組み立て、これを実施例試験セル1とした。そして実施例試験セル1を下記充放電試験に供した。
【0136】
充放電試験:
上述のとおり作成した三極式コインセルである実施例試験セル1において、作用極の放電試験を実施するために、まず実施例試験セル1の下記充電試験のとおり満充電させた。
【0137】
(充電試験)
実施例試験セル1を、25℃の環境下で、電圧が0.03Vに達するまで定電流(718μA)で定電流充電し、当該電圧が0.03Vに達した後は、電圧が0.03Vを下回らないように、当該電流(放電レート:1C)が5%以下となるまで減らしていき、定電圧で充電を行ない、満充電させた後、10分間休止させた。尚、ここで、上記「1C」とは、上記三極式コインセルを用いて定電流放電して、1時間で放電終了となる電流値(放電終止電圧に達する電流値)のことを意味する。また上記定電流は、実施例試験セル1における作用極において、活物質であるグラファイトの理論放電量372mAhr/gが1時間で放電されるよう設定された。
【0138】
(放電試験)
その後、満充電された実施例試験セル1を、25℃の環境下で、電圧が0.03V(満充電電圧)から2.0V(放電終止電圧)になるまで、定電流(718μA)(放電レート:1C)で定電流放電し、縦軸にセル電圧(V)、横軸に放電時間(h)をとり、放電曲線を作成し、作用極(実施例1である正極用電極板)の放電容量(mAh)を求め、当該作用極の単位重量当たりの放電容量(mAh/g)に換算した。
続いて、上述のとおり実施した定電流(718μA)(放電レート:1C、放電終了時間:1時間)での定電流放電試験を基準として、放電レート50C、100Cにおいても、同様にして各々定電流放電試験を行ない、各放電レートにおける作用極の放電容量(mAh)を求め、これより単位重量当たりの放電容量(mAh/g)を換算した。尚、上記放電試験により得られた単位重量当たりの放電容量(mAhr/g)及び放電容量維持率(%)は、表3にまとめて示す。
【0139】
(放電容量維持率(%)の算出)
作用極の放電レート特性を評価するため、上述のとおり得られた各放電レートにおける単位重量当たりの各放電容量(mAh/g)を用い、上述で数1として示した式により、放電容量維持率(%)を求めた。尚、上記放電試験により得られた単位重量当たりの放電容量(mAhr/g)及び放電容量維持率(%)は、50Cにおいて93%、100Cにおいて85であった。
【0140】
尚、本発明において、電極の放電レート特性評価は、以下のように行う。
放電レート50Cにおける放電容量維持率 80%以上100%以下・・・・◎
放電レート50Cにおける放電容量維持率 50%以上80%未満・・・・・○
放電レート50Cにおける放電容量維持率 50%未満・・・・・・・・・・×
【0141】
(実施例2〜4)
表1に示す内容、および表2に示す電極活物質層形成液塗布量に変更したこと以外は、実施例1と同様に、電極板を作成し、実施例2〜4とした。
【0142】
(実施例5,6)
実施例2と同様に正極板を作成した。そして、PVDFの濃度が0.1%となるようNMP溶媒に混合させて調製した樹脂混合液の満たされた浸漬槽に実施例2を1分間浸漬させ、実施例2における電極活物質層の空隙に上記樹脂混合液を充分に浸透させた。その後、実施例2を上記浸漬層から取りだし、150℃に加温したオーブン内に設置して15分間乾燥させて、樹脂混合液の溶媒を除去した。これによって、電極活物質層中に、樹脂製結着材が残留する正極板を作成し、これを実施例5とした。また、樹脂混合液の濃度を1%に変更したこと以外は、実施例5と同様に電極板を作成し、これを実施例6とした。
【0143】
(比較例1)
金属窒化物生成材料は用いずに、平均粒径4μmの負極活物質グラファイトを10gと、樹脂製のバインダーとしてPVDF(クレハ社製、KF#1100)1.3gに、溶媒としてNMP(三菱化学社製)を加えて、分散させ、固形分濃度が55重量%となるようにエクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で7000rpmの回転数で15分間攪拌して、スラリー状の負極活物質層形成液を調製した。
【0144】
そして上記負極活物質層形成液を、負極集電体として用いる厚さ10μmの銅箔上に、乾燥後の負極活物質層形成液の塗工量が65g/mとなるように塗布し、これを、オーブンを用いて、70℃の大気雰囲気下で乾燥を行ない、集電体上に負極板用の電極活物質層を形成した。
さらに、形成された電極活物質層の厚みが、約85μmとなるように、ロールプレス機を用いてプレスした後、所定の大きさ(直径15mmの円板)に裁断し、70℃にて300分間、真空乾燥させて負極板を作製し、比較例1とした。
【0145】
(比較例2から5)
用いる活物質粒子の粒子径を表1に示すとおりに変更し、且つ、集電体上への電極活物質層形成液の塗布量、電極活物質層の厚みを表2に示すとおりに変更したこと以外は、比較例1と同様に電極板を作製し、比較例2から5とした。尚、比較例2および3の製造において、塗工適性は良好であったが、形成される電極活物質層の膜厚みが薄く、良好な膜形成性が得られず、充放電試験を実施することができなかった。また、比較例4および5は、用いた活物質粒子の粒径が4μm以下と小さく、この結果、塗工適性、および膜形成性が不良であり、充放電試験を実施することができなかった。
【0146】
(参考例1)
表1に示す内容に変更したこと以外は、実施例1と同様に、電極板を作成し、参考例1とした。
【0147】
上述のとおり得た、実施例2〜6、比較例1〜5、参考例1について、実施例1に倣って膜形成性評価、密着性試験、結着物質の結晶性の確認、結着物質中における炭素成分の有無、塗工適性評価を行った。結果は、表2に示す。また、実施例2〜4および参考例1について実施例1と同様にX線光電子分光法(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)によって組成分析試験を実施し、金属窒化物として、実施例2では窒化チタンが、実施例3では窒化クロムが、実施例4ではアルミニウムチタン窒化物が、参考例1では窒化チタンが生成されていることを確認した。
【0148】
また、実施例2から6、比較例1、参考例1について、実施例1に倣って充放電試験を行った。充放電試験の結果を表3にまとめて示す。尚、充放電試験は、上記実施例試験セル1と同様に、実施例試験セル2から6、比較例1、参考例1を作成し、表3に示す固有の定電流値及び満充電電圧値、放電終止電圧値に変更した以外は、上述と同様に充放電試験を行った。上記充放電試験によって求められた放電容量維持率および出入力特性評価について表3に示した。
【0149】
【表1】

【0150】
【表2】

【0151】
【表3】

【符号の説明】
【0152】
1、1’、1’’、55 集電体
2、54 電極活物質層
3、 集電基材
4 導電性層
5 断続層
10、20、20’、20’’、20’’’ 非水電解液二次電池用電極板
30 電池パック
31 リチウムイオン二次電池
32 正極端子
33 負極端子
34 保護回路基板
35 外部接続コネクタ
36a、36b 樹脂容器
37 端部ケース
38a、38b 外部接続用窓
50 非水電解液二次電池用電極板(正極板)
70 セパレータ
81、82 外装
90 非水電解液
100 リチウムイオン二次電池


【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、上記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用電極板であって、
上記電極活物質層が、活物質粒子、および結着物質を含有しており、
上記結着物質が、非晶質の金属窒化物が含有されることを特徴とする非水電解液二次電池用電極板。
【請求項2】
上記金属窒化物が、少なくともTi元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池用電極板。
【請求項3】
上記電極活物質層は、結着物質により、活物質粒子同士が互いに固着されるとともに、結着物質により、活物質粒子が集電体に固着されて構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の非水電解液二次電池用電極板。
【請求項4】
上記電極活物質層は、隣り合う結着物質同士の一部において、界面不存在の部分を有し、当該部分において結合することにより繋がっている箇所を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用電極板。
【請求項5】
正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であって、
上記正極板および/または負極板が、請求項1から4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用電極板であることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項6】
活物質粒子と、金属窒化物を生成するための金属窒化物生成材料とが少なくとも含有される電極活物質層形成液を、集電体上の少なくとも一部に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、電極活物質層形成工程と、をこの順で備えており、
上記電極活物質層形成工程は、上記塗膜に含まれる溶媒を除去するとともに、上記金属窒化物生成材料を反応させて非晶質の金属窒化物を生成することによって、上記集電体上に金属窒化物と上記活物質粒子とを含有する電極活物質層を形成する工程、あるいは、予め溶媒が除去された塗膜において上記金属窒化物生成材料を反応させて非晶質の金属窒化物を生成することによって、上記集電体上に該金属窒化物と上記活物質粒子とを含有する電極活物質層を形成する工程であることを特徴とする非水電解液二次電池用電極板の製造方法。
【請求項7】
上記電極活物質層形成工程が、上記塗膜を加熱する加熱工程であり、
上記加熱工程における加熱温度を、上記金属窒化物生成材料の熱分解開始温度以上であって、上記加熱工程において生成される金属窒化物の結晶化温度未満である温度とすることを特徴とする請求項6に記載の非水電解液二次電池用電極板の製造方法。
【請求項8】
収納ケースと、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、上記収納ケースに上記非水電解液二次電池および上記保護回路が収納されて構成される電池パックにおいて、
上記非水電解液二次電池が、正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であり、
上記正極板または負極板のいずれか一方、あるいは両方が、請求項1から4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用電極板であることを特徴とする電池パック。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−89272(P2012−89272A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233114(P2010−233114)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セロテープ
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】