説明

非水電解液電池

【課題】フッ化黒鉛を正極に使用した非水電解液電池は、低温での放電特性が低かった。本発明は低温での放電特性が優れた非水電解液電池を提供することを目的とする。
【解決手段】軽金属を活物質とする負極、フッ化黒鉛を活物質とする正極からなる非水電解液電池において、上記フッ化黒鉛が、未フッ素化炭素がフッ素化された炭素に覆われた状態である(CFx)n(0.30≦x≦0.90)で表されるフッ化黒鉛であることを特徴とする非水電解液電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解液電池に関するもので、特にフッ化黒鉛を正極活物質に用いた非水電解液電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解液電池のリチウム一次電池は、エネルギー密度が高く、保存性、耐漏液特性などの信頼性に優れ、また、小形化、軽量化が可能なことから、これまで各種電子機器の主電源やメモリバックアップ用電源として、その需要は年々増加している。
【0003】
近年、用途として増加しているものでは車載用途があげられる。特に最近では、タイヤ内部の圧力を測定するセンサーの電源としての用途も注目されている。このような用途では、使用温度範囲は下限が−40℃から上限は100℃以上となり電池には非常に厳しい条件となる。リチウム一次電池の代表的なものには、二酸化マンガンを正極活物質に用いたCR系、そしてフッ化黒鉛を正極活物質に用いたBR系がある。一般的にCR系は低温での負荷特性は優れているが、耐高温特性が低く、60℃以上の高温になると電池内の微量水分の存在下で二酸化マンガンの触媒作用により電解液が分解してガスを発生するため、電池の膨れによる電池内部の緊迫性の低下等による内部抵抗の上昇が起こる。他方のBR系は、100℃以上の高温下でもフッ化黒鉛と電解液等の発電材料間での反応性は低いため特性劣化は小さく、耐高温特性に優れている。そのため、前記用途等で100℃以上での高信頼性が求められる場合では、主にBR系が優位にある。
【0004】
BR系電池の正極活物質としてのフッ化黒鉛は、特許文献1に記載のように放電電圧の平坦性及びエネルギー密度の点でx=1のフッ化黒鉛(CFx)nが優れているため、本来は最も望ましいとされている。実際は製造条件及びコスト面を考慮して1に近い適当な値のものが良いとされている。そのため、現在、電池の活物質として使用されているフッ化黒鉛は0.95≦x≦1.05となっており、高容量で耐高温特性に優れる電池となっている。
【特許文献1】特公昭48−25565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記のようなフッ化黒鉛はフッ素と炭素の結合が安定で反応性が低いために、特に低温の負荷特性が低いという欠点を有していた。この低温での負荷特性はメモリのバックアップのような微弱電流では、電圧の低下が小さいため問題にならないが、電波を発信するような主電源用途機器では使用電流が大きいため、電圧の落ち込みが大きくなり、機器が使用できなくなるという課題があった。
【0006】
本発明は、このような従来の課題を解決するものであり、低温での負荷特性に優れる非水電解液電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の非水電解液電池は、フッ化黒鉛を正極活物質に使用し、そのフッ化黒鉛がフッ素化された炭素と未フッ素化炭素からなる(CFx)n(0.30≦x≦0.90)で表されるものであることを特徴とするものである。
【0008】
フッ素ガスと黒鉛やコークスなどの炭素材料を所定の条件で反応させると、フッ素化が黒鉛の表面から起こるため、表面はフッ素化されており、内部は未反応の炭素が残ったx
が1以下の(CFx)nを生成させることができる(このフッ化黒鉛を以後、低フッ素化フッ化黒鉛という)。低フッ素化フッ化黒鉛には前記のようにフッ素化されている部分と未反応の部分とがあり、その間には遷移状態でフッ素と炭素との結合エネルギーが低い部分が含まれている。そのため、このフッ化黒鉛の電位は完全にフッ素化されたフッ化黒鉛と比較して高いものとなるため、放電電圧も向上する。しかし、xの値が0.90より大きくなると、結合エネルギーの低い部分が減少するため、放電電圧の向上は得られなくなる。また、xの値が0.30より小さい場合は、内部抵抗が高くなるため、放電初期の電圧低下が大きくなってしまう。これは結合エネルギーの低い遷移状態の部分が表面に近い位置に存在するためと思われる。遷移状態の部分には電解液に溶出するフッ素も存在し、それが電解液に溶出し、負極リチウムと反応して抵抗被膜を形成したことが内部抵抗の上昇要因であると思われる。この低フッ素化フッ化黒鉛は表面から内部にフッ素化されていることが特徴であり、xの値が低くても表面はフッ化黒鉛層で覆われているため、不安定なフッ素が溶出しにくいが、xが0.3以下になると多くの溶出がみられ、内部抵抗に影響を及ぼすとみられる。
【発明の効果】
【0009】
このようにフッ素化された炭素と未フッ素化炭素からなる(CFx)n(0.30≦x≦0.90)で表されるフッ化黒鉛を正極活物質に用いることにより低温での負荷特性を改善することが実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は前記のように非水電解液電池の正極活物質であるフッ化黒鉛が、フッ素化された炭素と未フッ素化炭素からなる(CFx)n(0.30≦x≦0.90)で表されるフッ化黒鉛であると、低温での負荷特性の向上が得られることを見出したものである。
【0011】
またフッ化黒鉛の作製において、低温で長時間熱処理することでより均一な(未フッ化相とフッ化相の界面が均一な)フッ化黒鉛を作製することができる。
【0012】
さらに本発明は、軽金属を活物質とする負極と、フッ化黒鉛を活物質とする正極からなる非水電解液電池の製造方法であって、石油コークスとフッ素とを300℃〜400℃、6〜12時間の条件下で反応させて未フッ素化炭素がフッ素化された炭素に覆われた(CFx)n(0.30≦x≦0.90)で表されるフッ化黒鉛を得る工程と、前記フッ化黒鉛と導電剤と結着剤とを練合、乾燥することにより正極を得る工程とを有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の実施の形態を扁平形のリチウム一次電池を例として、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0014】
ここで、本発明について実施例及び比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0015】
(実施例1)
図1は本発明の実施例における非水電解液電池であって、扁平形のフッ化黒鉛リチウム電池BR2450の封口後の断面図である。図1において、電池ケース1は正極端子を兼ねる金属製カップ、正極ペレット2はフッ化黒鉛、導電剤、そして結着剤の混合粉末を加圧成形したペレット、セパレータ3はポリブチレンテレフタレートの不織布、負極4は金属リチウム、封口板5は負極端子を兼ねた金属製の略皿状となっており、絶縁ガスケット6は断面が略L字形状となっている。
【0016】
正極は正極活物質のフッ化黒鉛、導電剤のアセチレンブラック、及び結着剤のポリテトラフルオロエチレンとを、質量比84:8:8で練合・乾燥・粉砕し、この粉末を加圧成形し、直径16mmで厚み3mmの円板状に成形し、150℃で5時間の高温乾燥により水分を除去して作製した。前記フッ化黒鉛は平均粒子径が約20μmの石油コークスを340℃で12時間、フッ素ガスと反応させることにより作製した(CF0.90)nを用いた。このフッ化黒鉛の断面をX線で確認すると、中心部分の近辺はフッ素化されていない炭素の存在を確認することができた。
【0017】
負極は、1.3mmのリチウム箔を直径18mmの円板状に打ち抜き、封口板内面に相互が同芯になるように加圧して、圧着することで負極とした。
電解液は溶媒のγ−ブチロラクトンに溶質であるLiBF4を1モル溶解したものを使用した。
【0018】
そして、それら各部品材料を構成し、最後にガスケットを封口板とケースとで圧縮するようにかしめて、非水電解液電池を作製し、これを電池1とした。電池寸法は直径が24.5mm、厚みが5.0mmである。
【0019】
(実施例2)
実施例2は、石油コークスとフッ素との反応時間を8時間として作製した(CF0.50)nを正極活物質に使用した以外は、実施例1と同様に非水電解液電池を作製し、これを電池2とした。この場合のフッ化黒鉛も同様に、中心部分近辺では、未フッ素化の炭素の存在が確認できた。
【0020】
(実施例3)
実施例3は、石油コークスとフッ素との反応時間を6時間として作製した(CF0.30)nを正極活物質に使用した以外は、実施例1と同様にリチウム一次電池を作製し、これを電池3とした。この場合のフッ化黒鉛も同様に、中心部分近辺では、未フッ素化の炭素の存在が確認できた。
【0021】
(比較例1)
正極に、石油コークスとフッ素との反応時間を18時間として作製した(CF1.05)nを正極活物質に使用した以外は、実施例1と同様にリチウム一次電池を作製し、これを電池4とした。このフッ化黒鉛には、未フッ素化炭素部分の存在は確認できなかった。
【0022】
(比較例2)
正極に、石油コークスとフッ素との反応時間を15時間として作製した(CF0.95)nを正極活物質に使用した以外は、実施例1と同様にリチウム一次電池を作製し、これを電池5とした。このフッ化黒鉛の中心部に、明確な未フッ素化炭素部分の存在は確認できなかった。
【0023】
(比較例3)
正極に、石油コークスとフッ素との反応時間を4時間として作製した(CF0.20)nを正極活物質に使用した以外は、実施例1と同様にリチウム一次電池を作製し、これを電池6とした。この場合、未フッ素化炭素の存在は、かなり表面近辺より確認できた。
【0024】
前記のように作製した電池の内部抵抗を測定後、低温での負荷特性を調べた。その具体的な放電条件は、−40℃において10mAで100ms間の放電が1分に1回行われるパターンを300時間繰り返し、300時間後のパルス放電での最低電圧をその電池のパルス放電電圧とした。各5個ずつ放電を行い、平均値の比較を行った。その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

低温パルス放電試験結果において、従来例となる電池4及び電池5に対して、電池1〜電池3において、パルス電圧が向上しており、低フッ素化フッ化黒鉛を使用した電池は低温の負荷特性が改善された。このパルス放電電圧の差はパルス電流が流れる時の電圧の変化量に差があるのではなく、パルス電流が流れる直前の電池電圧に相関する。低フッ素化フッ素化黒鉛を使用するものは、パルス電流が流れる直前の電圧が高くなった。これは、低フッ素化フッ化黒鉛はフッ素化されている部分と未反応部分とがあり、その間には遷移状態でフッ素と炭素との結合エネルギーが低い部分が含まれているために、正極の電位が高くなったためと思われる。比較例となる電池4および電池5のように、フッ素化が0.90より大きくなると、結合エネルギーの低い部分が減少するため、パルス電流が流れる直前の電圧、及びパルス放電の電圧は低くなったと考えられる。
【0026】
また、電池6は低フッ素化フッ化黒鉛を用いたものであるが、パルス放電電圧の向上はみられなかった。これは、パルス電流が流れる直前の電圧は向上したが、電池の内部抵抗が高かくパルス放電での電圧の落ち込みが大きくなったためであった。この電池を解析すると、負極リチウム表面にフッ素が多く存在しており、フッ素系の抵抗被膜が形成されていることが判明した。これは、フッ素化された部分と未フッ素化部分の境界、つまり遷移状態の部分には電解液に溶出するフッ素が存在しており、フッ素化が0.2以下ではその遷移状態の位置が表面に近いためにそのフッ素が容易に溶出して、負極と反応したためと思われる。
【0027】
(実施例4)
実施例4は、石油コークスとフッ素との反応温度を300℃、反応時間を10時間として作製した(CF0.70)nを正極活物質に使用した以外は、実施例1と同様に非水電解液電池を作製し、これを電池7とした。この場合のフッ化黒鉛も同様に、中心部分近辺では、未フッ素化の炭素の存在が確認できた。
【0028】
(実施例5)
実施例5は、石油コークスとフッ素との反応温度を400℃、反応時間を7時間として作製した(CF0.50)nを正極活物質に使用した以外は、実施例1と同様に非水電解液電池を作製し、これを電池8とした。この場合のフッ化黒鉛も同様に、中心部分近辺では、未フッ素化の炭素の存在が確認できた。
【0029】
(比較例4)
比較例4は、石油コークスとフッ素との反応温度を200℃、反応時間を12時間として作製した(CF0.30)nを正極活物質に使用した以外は、実施例1と同様に非水電解液電池を作製し、これを電池9とした。この場合のフッ化黒鉛も同様に、中心部分近辺では、未フッ素化の炭素の存在が確認できた。
【0030】
(比較例5)
比較例5は、石油コークスとフッ素との反応温度を450℃、反応時間を4時間として作製した(CF0.50)nを正極活物質に使用した以外は、実施例1と同様に非水電解液電池を作製し、これを電池10とした。この場合のフッ化黒鉛も同様に、中心部分近辺では、未フッ素化の炭素の存在が確認できた。
【0031】
前記のように作製した電池の内部抵抗を測定後、低温での負荷特性を調べた。その具体的な放電条件は、−40℃において10mAで100ms間の放電が1分に1回行われるパターンを300時間繰り返し、300時間後のパルス放電での最低電圧をその電池のパルス放電電圧とした。各5個ずつ放電を行い、平均値の比較を行った。その結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

フッ化黒鉛の製造温度を300℃と400℃とした電池7、及び電池8においてパルス電圧は上昇した。電池7と電池8とを比較すると、電池7において上昇度合いは大きい。これは、低温で作製したフッ化黒鉛の方が均一に表面よりフッ素化されるため、溶出するフッ素が少ないためと考えられる。電池9はフッ素化の反応温度が低すぎるため、フッ素と炭素の結合が不安定である部分が多くなり、フッ素が多く溶出したため、内部抵抗が大きくなり、パルス電圧は向上しなかった。電池10は、低温パルスに上昇は見られなかった。パルス電流が流れる前の電圧は上昇したが、内部抵抗が大きくなったため、パルス電流が流れた時の電圧の低下が大きくなってしまった。これは、反応温度が高いため、反応が急激に起こり、表面でのフッ素化が均一に行われず、表面に近い部分に前記した遷移部分が部分的に存在しているために、フッ素が溶出したためと考えられる。
【0033】
以上説明したように、本発明によると、軽金属を活物質とする負極、フッ化黒鉛を活物質とする正極からなる非水電解液電池において、上記フッ化黒鉛が、フッ素化された炭素と未フッ素化炭素からなる(CFx)n(0.30≦x≦0.90)で表されるフッ化黒鉛である構成にすることにより、低温下における負荷特性の優れる非水電解液電池を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の非水電解液電池は低温負荷特性が優れるので、たとえば低温での信頼性が求められる用途である車載用途としての活用が好適である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例における扁平形の非水電解液電池の断面図
【符号の説明】
【0036】
1 正極ケース
2 正極
3 セパレータ
4 負極
5 封口板
6 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽金属を活物質とする負極と、フッ化黒鉛を活物質とする正極からなる非水電解液電池であって、上記フッ化黒鉛が、未フッ素化炭素がフッ素化された炭素に覆われた(CFx)n(0.30≦x≦0.90)で表されるフッ化黒鉛であることを特徴とする非水電解液電池。
【請求項2】
軽金属を活物質とする負極と、フッ化黒鉛を活物質とする正極からなる非水電解液電池の製造方法であって、石油コークスとフッ素とを300℃〜400℃、6〜12時間の条件下で反応させて未フッ素化炭素がフッ素化された炭素に覆われた(CFx)n(0.30≦x≦0.90)で表されるフッ化黒鉛を得る工程と、前記フッ化黒鉛と導電剤と結着剤とを練合、乾燥することにより正極を得る工程とを有する非水電解液電池の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−236891(P2006−236891A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−52819(P2005−52819)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】