説明

非水電解質二次電池の充電方法及び充電装置

【課題】電池の状態によらず安定なSEI皮膜を形成し得る充電方法を提供する。
【解決手段】非水電解質二次電池の充電方法において、第一の電圧(V1)まで定電流での充電を行う第一定電流充電工程と、この定電流充電で第一の電圧(V1)に到達した後に第一の電圧(V1)で定電圧充電を行う定電圧充電工程と、この定電圧充電工程でSEI皮膜の形成反応が生じていると判断した場合に第一の電圧(V1)での定電圧充電を継続する定電圧充電継続工程と、前記定電圧充電工程でSEI皮膜の形成反応が生じていないと判断した場合に第一の電圧(V1)よりステップ電圧値(ΔV0)だけ高い第二の電圧(V2)まで定電流での充電を行う第二定電流充電工程と、この後に定電圧充電と定電流充電とを繰返して電池の満充電時の電圧である電池充電電圧(Vfull)に到達させる電池充電電圧到達工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非水電解質二次電池(例えば、いわゆるリチウムイオン二次電池)の充電方法及び非水電解質二次電池の充電装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
電解質層の分解を抑制するために電解質層に含まれる電解液中に特定の非水溶媒を添加し、電池組立後の初回充電時に負極活物質表面において電解液中に添加された非水溶媒の還元分解反応を意図的に促すことにより、その分解物が、新たな電解質層の分解を防止するための保護皮膜、すなわちSEI(Solid Electrolyte Interface)を形成する(特許文献1参照)。この保護皮膜を以下「SEI皮膜」という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−325988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の技術では、大きくは第一段階とこれに続く第二段階との二段階の充電工程とし、第一段階での充電電圧が非水溶媒の還元分解電位となるように設定してSEI皮膜を形成し、第二段階で通常の定電圧充電を行っている。
【0005】
しかしながら、SEI皮膜が形成される充電電圧は、電池の状態によって変化するため、当該電位を電池の状態に応じて最適に設定することが困難である。このため、安定なSEI皮膜を形成することができず、電解質層の分解が進み電池のサイクル特性が劣化する可能性がある。
【0006】
そこで本発明は、電池の状態によらず安定なSEI皮膜を形成し得る充電方法及び充電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、負極及び正極と、非水溶媒を含む電解質とを備える非水電解質二次電池を初回充電する非水電解質二次電池の充電方法や充電装置において、第一の電圧(V1)まで定電流での充電を行い、この定電流充電で第一の電圧(V1)に到達した後に第一の電圧(V1)で定電圧充電を行い、この定電圧充電工程でSEI皮膜の形成反応が生じていると判断した場合に第一の電圧(V1)での定電圧充電を継続し、前記定電圧充電工程でSEI皮膜の形成反応が生じていないと判断した場合に前記第一の電圧(V1)よりステップ電圧値(ΔV0)だけ高い第二の電圧(V2)まで定電流での充電を行い、この後に定電圧充電と定電流充電とを繰返して電池の満充電時の電圧である電池充電電圧(Vfull)に到達させるように構成する。
【発明の効果】
【0008】
第一の電圧での定電圧充電工程で流れる電流を測定することで、SEI皮膜形成反応が生じているか否かを精度良く判断できる。よって、SEI皮膜形成電位を正確に設定することができるので、安定なSEI皮膜を形成することができ、電解質層に含まれる主溶媒の分解が抑制され電池のサイクル特性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態の双極型でない積層型のリチウムイオン二次電池の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【図2】初回充電時の多段階充電方法を説明するためのタイミングチャートである。
【図3】フラグの設定を説明するためのフローチャートである。
【図4】初回充電時の充電制御を説明するためのフローチャートである。
【図5】第2実施形態の初回充電時の多段階充電方法を説明するためのタイミングチャートである。
【図6】第2実施形態のフラグの設定を説明するためのフローチャートである。
【図7】第2実施形態の電流下限値の設定を説明するためのフローチャートである。
【図8】第3実施形態の初回充電時の多段階充電方法を説明するためのタイミングチャートである。
【図9】第3実施形態のフラグの設定を説明するためのフローチャートである。
【図10】第3実施形態の目標電圧の設定を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の実施形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
まず、本実施形態の充電方法に用いられるリチウムイオン二次電池について説明する。図1は、リチウムイオン二次電池の一実施形態である、双極型でない積層型のリチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型二次電池」とも称する)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の積層型二次電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素17が、電池外装材であるラミネートフィルム22の内部に封止された構造を有する。詳しくは、高分子−金属複合ラミネートフィルムを電池外装材として用いて、その周辺部の全部を熱融着にて接合することにより、発電要素17を収納し密封した構成を有している。
【0013】
発電要素17は、負極集電体11の両面(発電要素の最下層用および最上層用は片面のみ)に負極活物質層12が配置された負極と、電解質層13と、正極集電体14の両面に正極活物質層15が配置された正極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの負極活物質層12とこれに隣接する正極活物質層15とが、電解質層13を介して対向するようにして、負極、電解質層13、正極がこの順に積層されている。
【0014】
これにより、隣接する負極、電解質層13および正極は、1つの単電池層16を構成する。したがって、本実施形態の積層型二次電池10は、単電池層16が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。また、単電池層16の外周には、隣接する負極集電体11と正極集電体14との間を絶縁するためのシール部(絶縁層)が設けられていてもよい。発電要素17の両最外層に位置する最外層負極集電体11aには、いずれも片面のみに負極活物質層12が配置されている。なお、図1とは負極および正極の配置を逆にすることで、発電要素17の両最外層に最外層正極集電体が位置するようにし、該最外層正極集電体の片面のみに正極活物質層が配置されているようにしてもよい。
【0015】
負極集電体11および正極集電体14には、各電極(負極および正極)と導通される負極集電板18および正極集電板19がそれぞれ取り付けられ、ラミネートフィルム22の端部に挟まれるようにラミネートフィルム22の外部に導出される構造を有している。負極集電板18および正極集電板19は、必要に応じて負極端子リード(図示せず)および正極端子リード(図示せず)を介して、各電極の負極集電体11および正極集電体14に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。ただし、負極集電体11が延長されて負極集電板18とされ、ラミネートフィルム22から導出されていてもよい。同様に、正極集電体14が延長されて正極集電板19とされ、同様に電池外装材22から導出される構造としてもよい。
【0016】
なお、リチウムイオン二次電池の他の形態としては、集電体の一方の面に負極活物質層が形成され、他方の面に正極活物質層が形成されてなる双極型電極が、電解質層を介して積層された双極型二次電池が挙げられる。上記積層型二次電池10と双極型二次電池とは双方の電池内の電気的な接続形態(電極構造)が異なることを除いては、基本的には同様である。
【0017】
以下、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を構成する部材について簡単に説明するが、下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態も同様に採用されうる。
【0018】
[電極(正極および負極)]
正極および負極は、リチウムイオンの授受により電気エネルギーを生み出す機能を有する。正極は正極活物質を含み、負極は負極活物質を含む。これらの電極構造は、積層型二次電池の場合、活物質を含む活物質層のみから構成されてもよいし、上記図1の実施形態のように集電体の表面に活物質を含む活物質層が形成されてなる構造であってもよい。一方、双極型二次電池の場合の電極(双極型電極)は、集電体の一方の面に正極活物質を含む正極活物質層が形成され、他方の面に負極活物質を含む負極活物質層が形成されてなる構造を有する。すなわち、集電体を介して正極(正極活物質層)および負極(負極活物質層)が一体化した実施形態を有する。なお、活物質層には、活物質以外にも必要に応じて導電助剤、バインダなどの添加剤が含まれうる。
【0019】
(正極活物質)
正極活物質は、放電時にリチウムイオンを吸蔵し、充電時にリチウムイオンを放出する組成を有する。好ましい一例としては、遷移金属とリチウムとの複合酸化物であるリチウム−遷移金属複合酸化物が挙げられる。具体的には、LiCoO2などのLi・Co系複合酸化物、LiNiO2などのLi・Ni系複合酸化物、スピネルLiMn24などのLi・Mn系複合酸化物、LiFeO2などのLi・Fe系複合酸化物およびこれらの遷移金属の一部を他の元素により置換したものなどが使用できる。これらリチウム−遷移金属複合酸化物は、反応性、サイクル特性に優れ、低コストな材料である。このうちLi・Mn系複合酸化物である、マンガン酸リチウム(LiMn24)を用いることがより好ましい。そのためこれらの材料を電極に用いることにより、出力特性に優れた電池を形成することが可能である。この他、正極活物質としては、LiFePO4などの遷移金属とリチウムのリン酸化合物や硫酸化合物;V25、MnO2、TiS2、MoS2、MoO3などの遷移金属酸化物や硫化物;PbO2、AgO、NiOOHなど、を用いることもできる。上記正極活物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0020】
上記正極活物質を正極として使用する際には、正極活物質を含む正極活物質層を板状に成形しそのまま正極としてもよいし、集電体の表面に上記正極活物質粒子を含む正極活物質層を形成して正極としてもよい。後者の実施形態における正極活物質粒子の平均粒子径は、特に制限されないが、正極活物質の高容量化、反応性、サイクル耐久性の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。このような範囲であれば、二次電池は、高出力条件下での充放電時における電池の内部抵抗の増大が抑制され、充分な電流を取り出しうる。なお、正極活物質が2次粒子である場合には該2次粒子を構成する1次粒子の平均粒子径が10nm〜1μmの範囲であるのが望ましいといえるが、本発明では、必ずしも上記範囲に制限されるものではない。ただし、製造方法にもよるが、正極活物質が凝集、塊状などにより2次粒子化したものでなくても良いことはいうまでもない。かかる正極活物質の粒径および1次粒子の粒径は、レーザー回折法を用いて得られたメディアン径を使用できる。なお、正極活物質粒子の形状は、その種類や製造方法等によって取り得る形状が異なり、例えば、球状(粉末状)、板状、針状、柱状、角状などが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、いずれの形状であれ問題なく使用できる。好ましくは、充放電特性などの電池特性を向上し得る最適の形状を適宜選択するのが望ましい。
【0021】
(負極活物質)
負極活物質は、放電時にリチウムイオンを放出し、充電時にリチウムイオンを吸蔵できる組成を有する。負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものであれば特に制限されないが、負極活物質の例としては、SiやSnなどの金属、あるいはTiO、Ti23、TiO2、もしくはSiO2、SiO、SnO2などの金属酸化物、Li4/3Ti5/34もしくはLi7MnNなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物、Li−Pb系合金、Li−Al系合金、Li、または天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー、コークス、ソフトカーボン、もしくはハードカーボンなどの炭素材料などが好ましく挙げられる。このうち、リチウムと合金化する元素を用いることにより、従来の炭素系材料に比べて高いエネルギー密度を有する高容量および優れた出力特性の電池を得ることが可能となる。上記負極活物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。上記のリチウムと合金化する元素としては、以下に制限されることはないが、具体的には、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Cl等が挙げられる。
【0022】
上記活物質のうち、炭素材料、ならびに/またはSi、Ge、Sn、Pb、Al、In、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素を含むことが好ましく、炭素材料、Si、またはSnの元素を含むことがより好ましい。炭素材料のうち、リチウム対比放電電位が低い黒鉛を用いることがさらに好ましい。
【0023】
なお、負極活物質の形状は、特に制限されず、上述の正極活物質と同様の形態を取りうるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0024】
(集電体)
集電体は導電性材料から構成され、その一方の面または両面に活物質層が配置される。集電体を構成する材料に特に制限はなく、例えば、金属や、導電性高分子材料または非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0025】
金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、あるいはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも導電性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス鋼、および銅が好ましい。
【0026】
また、導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、およびポリオキサジアゾールなどが挙げられる。かような導電性高分子材料は、導電性フィラーを添加しなくても十分な導電性を有するため、製造工程の容易化または集電体の軽量化の点において有利である。
【0027】
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE))、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、およびポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
【0028】
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、Sb、およびKからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はないが、アセチレンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、5〜35質量%程度である。
【0029】
集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。集電体の厚さについても特に制限はないが、通常は1〜100μm程度である。
【0030】
[導電助剤]
導電助剤とは、活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、グラファイト等のカーボン粉末や、気相成長炭素繊維(VGCF;登録商標)等の種々の炭素繊維、膨張黒鉛などが挙げられる。しかし、導電助剤がこれらに限定されないことはいうまでもない。
【0031】
[バインダ]
バインダは、活物質層中の構成部材同士または活物質層と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。バインダとしては、特に制限はないが、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリイミド、PTFE、SBRなどの合成ゴム系バインダ等が挙げられる。しかし、バインダがこれらに限定されないことはいうまでもない。
【0032】
[電解質層]
電解質層は、正極と負極との間の空間的な隔壁(スペーサ)として機能する。また、これと併せて、充放電時における正負極間でのリチウムイオンの移動媒体である電解質を保持する機能をも有する。
【0033】
電解質層を構成する電解質として液体電解質が用いられうる。
【0034】
液体電解質は、有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)などのカーボネート類が挙げられる。また、支持塩(リチウム塩)としては、LiN(SO2252、LiN(SO2CF32、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiSO3CF3などを用いることができる。
【0035】
なお、電解質層が液体電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いてもよい。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンやポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)等の炭化水素、ガラス繊維などからなる微多孔膜が挙げられる。
【0036】
[集電板]
リチウムイオン二次電池においては、電池外部に電流を取り出す目的で、集電体に電気的に接続された集電板(正極集電板および負極集電板)が外装材であるラミネートフィルムの外部に取り出されている。
【0037】
集電板を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板と負極集電板とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0038】
[正極端子リードおよび負極端子リード]
図1に示す積層型二次電池10においては、負極端子リード20および正極端子リード21をそれぞれ介して、集電体は集電板と電気的に接続されている。
【0039】
負極および正極端子リードの材料は、公知の積層型二次電池で用いられるリードを用いることができる。なお、電池外装材から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
【0040】
[外装材]
外装材としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができる。そのほか、図1に示すようなラミネートフィルム22を外装材として用いて、発電要素17をパックしてもよい。ラミネートフィルムは、例えば、ポリプロピレン、アルミニウム、ナイロンがこの順に積層されてなる3層構造として構成されうる。このようなラミネートフィルムを用いることにより、外装材の開封、容量回復材の添加、外装材の再封止を容易に行うことができる。
【0041】
これで、リチウムイオン二次電池を構成する部材についての説明を終える。
【0042】
さて、正極または負極における電極表面において、電解質層の化学変化や分解が起こると、高温での電池の保存特性の低下や電池のサイクル特性の低下、さらには分解物によるガスの発生が生じる。これらの問題の発生を防止するため、電解質層に含まれる電解液中に特定の非水溶媒を添加し、負極表面に良好なSEI皮膜を形成している。しかし、非水溶媒のSEI皮膜形成反応の反応速度が遅いため、電解質層に含まれる主溶媒が分解し、良好な皮膜が形成できない。
【0043】
このため、大きく第一段階とこれに続く第二段階との二段階の充電工程とし、第一段階での充電電圧が非水溶媒の還元分解電位より貴となるように設定してSEI皮膜を形成し、第二段階で通常の定電圧充電を行う従来技術がある。
【0044】
しかしながら、SEI皮膜が形成される充電電圧は、電池の状態によって変化するため当該電位を電池の状態に応じて最適に設定することが困難である。これは、最適なSEI皮膜形成時の電池電圧が、非水溶媒の種類と数、主溶媒の種類、電極の種類、作動温度などにより変化するため、SEI皮膜形成に最適な充電電圧を実験的に設定する必要があるためである。また、ピンポイントの充電電圧を設定してもSEI皮膜形成に最適な充電電圧は環境条件によって微妙に変化することもあり、設定電圧が最適な電位から解離することもある。このため、安定なSEI皮膜を形成することができず、電解質層に含まれる主溶媒の還元分解が進み電池のサイクル特性が劣化する可能性がある。
【0045】
また、SEI皮膜形成反応が終結したか否かを精度良く判断することができないため、SEI皮膜が完全に形成されるように充電時間にマージンをとる必要があるため、必要のない充電が行われる。この結果、初回充電の充電時間が長くなる。
【0046】
そこで本発明は、負極及び正極と、非水溶媒を含む電解質とを備えるリチウムイオン二次電池を対象として、次のように電池組立後の初回充電を行うこととする。
【0047】
まず第一の電圧V1まで定電流での充電を行う(第一定電流充電工程)。次に、この第一定電流充電で第一の電圧V1に到達した後に第一の電圧V1で定電圧充電を行う。
【0048】
この定電圧充電の開始から所定時間内に(定電圧充電工程で)SEI皮膜の形成反応が生じていると判断した場合に第一の電圧V1での定電圧充電を継続する。同じくこの定電圧充電の開始から所定時間内に(定電圧充電工程で)SEI皮膜の形成反応が生じていないと判断した場合に第一の電圧V1より基準ステップ電圧値ΔV0だけ高い第二の電圧V2まで定電流での充電を行う(第二定電流充電工程)。
【0049】
この後には定電圧充電と定電流充電とを繰返して電池充電電圧Vfullに到達させる(電池充電電圧到達工程)。ここで、電池充電電圧Vfullとは、電池の満充電時の電圧である。
【0050】
上記「SEI皮膜形成反応」とは、非水溶媒の還元分解反応のことでもある。上記第一の電圧V1としては、非水溶媒の還元分解電位を設定する。
【0051】
第一の電圧V1での定電圧充電時に流れる電流を測定することで、SEI皮膜形成反応(非水溶媒の還元分解反応)が生じているか否かを精度良く判断できる。よって、SEI皮膜形成電位や電極の種類によらず、SEI皮膜形成電位を正確に設定できるので、安定なSEI皮膜を形成することができ、主溶媒の分解が抑制され電池のサイクル特性を向上することができる。
【0052】
次に、実施形態に用いたセル(単電池層16)の構成について具体的に説明する。
【0053】
正極集電体にアルミニウム箔を、正極活物質にマンガン酸リチウムを、導電助剤にカーボンブラックを、バインダにPVDFを用いて正極を作製した。
【0054】
負極集電体に銅箔を、負極活物質に黒鉛を、バインダにポリフッ化ビニリデンを用いて負極を作製した。
【0055】
また、液体電解質としてエチレンカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶媒を、支持塩として1mol/dm3のLiPF6を用いた。上記の混合溶媒(主溶媒)に添加する非水溶媒としてビニレンカーボネートを用いた。セパレータにポリプロピレンを用いた。
【0056】
これらの材料からなる発電要素を、ラミネートフィルムを外装材として用いて、パックすることにより、積層型二次電池(セル)を作製した。このセル(単電池層16)の容量は120mAhであった。
【0057】
なお、非水溶媒として添加する化合物は、ビニレンカーボネートに限らず、その誘導体等、主溶媒よりも高い電位に還元分解電位を有し、安定な皮膜を形成し得る化合物であればいかなるものであってもよい。また、複数種類の化合物を併用してもよい。
【0058】
次に、上記の初回充電方法を具体的に説明する。図2は電池組立後の初回充電時に定電流充電と定電圧充電とを交互に複数組み合わせた多段階充電方法を説明するためのタイミングチャートで、図2上段はセルの充電電圧[V]の変化を、図2下段はセルの充電電流[mA]の変化を示している。図2下段の横軸に初回充電開始からの経過時間[h]を採ると、図2上段の横軸は充電電流値と充電時間との積[mAh]を表すこととなる。
【0059】
ここでは、非水溶媒の還元分解電位を第一の電圧V1として設定する。まず、第一の電圧V1よりも低い位置に設けた初期電圧V0まで定電流での充電を行う。そして、初期電圧V0から電池充電電圧Vfullまでの間を基準ステップ電圧値ΔV0ずつ上昇する複数の電圧(目標電圧Vm)を設定する。つまり、初期電圧V0と電池充電電圧Vfullとの間に第一プレ電圧Vpre1、第二プレ電圧Vpre2、第一の電圧V1、第二の電圧V2、第一ポスト電圧Vpost1、第二ポスト電圧Vpost2を各目標電圧Vmとして設定し、多段階の充電を行わせる。このように、複数の電圧に第一の電圧V1が含まれるように基準ステップ電圧値ΔV0を設定する。
【0060】
上記の基準ステップ電圧値ΔV0を設定するに際しての考え方は次のようなものである。例えば、電解質層に含まれる主溶媒をエチレンカーボネート、主溶媒に添加する非水溶媒をビニレンカーボネートとしたとき、主溶媒のエチレンカーボネートは0.7V(vs.Li/Li+)の電位付近で還元分解されて電極表面に皮膜を生じる。非水溶媒のビニレンカーボネートは1.1V(vs.Li/Li+)の電位付近で還元分解されて電極表面に皮膜(SEI皮膜)を生じる。つまり、主溶媒の還元分解電位Vred1は0.7V(vs.Li/Li+)、非水溶媒の還元分解電位Vred2は1.1V(vs.Li/Li+)であり、両者の還元分解電位の電位差(Vred2−Vred1)は約0.4(0.3)Vである。従って、初期電圧V0と電池充電電圧Vfullとの間に設定する複数の電圧(Vpre1、Vpre2、V1、V2、Vpost1、Vpost2)に、非水溶媒の還元分解電位Vred2を含み、かつ主溶媒の還元分解電位Vred1を含まないように基準ステップ電圧値ΔV0を設定してやればよい。ここで、初期電圧V0と電池充電電圧Vfulとの間に設定する複数の電圧に非水溶媒の還元分解電位Vred2を含ませるようにする理由は、非水溶媒の還元分解電位Vred2に一致する定電圧充電工程での電圧において非水溶媒の還元分解反応が生じるようにするためである。一方、初期電圧V0と電池充電電圧Vfullとの間に設定する複数の電圧に主溶媒の還元分解電位Vred1を含まないようにする理由は、主溶媒の還元分解電位Vred1と一致する定電圧充電工程での電圧をなくすることで、主溶媒の還元分解反応が生じないようにするためである。本実施形態では、基準ステップ電圧値ΔV0を例えば0.05Vから0.2Vの範囲で設定することが好ましい。
【0061】
このように初期電圧V0と電池充電電圧Vfullとの間に6個の目標電圧Vmを設定して行う多段階充電は次のようになる。初回充電を開始するt0のタイミングにおいて、初期電圧V0(上記で作製したセルの場合では、2.5Vとする)まで第一電流値(例えば1C相当の電流値)I1で定電流充電を開始し、t1のタイミングで実際の電圧値Vrが初期電圧V0に到達すると定電圧充電に移行する。t1からの定電圧充電工程では実際の電流値Irが、予め設定された0.001C〜0.01C相当の基準電流下限値Imin0以下となるまで初期電圧V0を保持し、t2のタイミングで実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となったら初期電圧V0より基準ステップ電圧値ΔV0だけ高い第一プレ電圧Vpre1(=V0+ΔV0)となるまで第一電流値I1での定電流充電を行う。ここで、「1C」とは電池の定格容量を1時間で放電しきる電流値のことである。
【0062】
t3のタイミングで実際の電圧値Vrが第一プレ電圧Vpre1に到達すると、この第一プレ電圧Vpre1で定電圧充電を行う。t3からの定電圧充電工程では実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となるまで第一プレ電圧Vpre1を保持し、t4のタイミングで実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となったら第一プレ電圧Vpre1より基準ステップ電圧値ΔV0だけ高い第二プレ電圧Vpre2(=Vpre1+ΔV0)となるまで第一電流値I1での定電流充電を行う。
【0063】
t5のタイミングで実際の電圧値Vrが第二プレ電圧Vpre2に到達すると、この第二プレ電圧Vpre2で定電圧充電を行う。t5からの定電圧充電工程では実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となるまで第二プレ電圧Vpre2を保持し、t6のタイミングで実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となったら第二プレ電圧Vpre2より基準ステップ電圧値ΔV0だけ高い第一の電圧V1(=Vpre2+ΔV0)となるまで第一電流値I1での定電流充電を行う(第一定電流充電工程)。
【0064】
t7のタイミングで実際の電圧値Vrが第一の電圧V1に到達すると、この第一の電圧V1で定電圧充電を行う。t7からの定電圧充電工程では実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となるまで第一の電圧V1を保持し、t8のタイミングで電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となったら第一の電圧V1より基準ステップ電圧値ΔV0だけ高い第二の電圧V2(=V1+ΔV0)となるまで第一電流値I1での定電流充電を行う(第二定電流充電工程)。
【0065】
この後のt9からt16までは、定電圧充電と定電流充電とを繰返して電池充電電圧Vfullに到達させる電池充電電圧到達工程である。すなわち、t9のタイミングで実際の電圧値Vrが第二の電圧V2に到達すると、この第二の電圧V2で定電圧充電を行う。t9からの定電圧充電工程では実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となるまで第二の電圧V2を保持し、t10のタイミングで実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となったら第二の電圧V2より基準ステップ電圧値ΔV0だけ高い第一ポスト電圧Vpost1(=V2+ΔV0)となるまで第一電流値I1での定電流充電を行う。
【0066】
t11のタイミングで実際の電圧値Vrが第一ポスト電圧Vpost1に到達すると、この第一ポスト電圧Vpost1で定電圧充電を行う。t11からの定電圧充電工程では実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となるまで第一ポスト電圧Vpost1を保持し、t12のタイミングで実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となったら第一ポスト電圧Vpost1より基準ステップ電圧値ΔV0だけ高い第二ポスト電圧Vpost2(=Vpost1+ΔV0)となるまで第一電流値I1での定電流充電を行う。
【0067】
t13のタイミングで実際の電圧値Vrが第二ポスト電圧Vpost2に到達すると、この第二ポスト電圧Vpost2で定電圧充電を行う。t13からの定電圧充電工程では実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となるまで第二ポスト電圧Vpost2を保持し、t14のタイミングで実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となったら第二ポスト電圧Vpost2より基準ステップ電圧値ΔV0だけ高い電池充電電圧Vfullとなるまで第一電流値I1での定電流充電を行う。
【0068】
t15のタイミングで実際の電圧値Vrが電池充電電圧Vfullに到達すると、この電池充電電圧Vfullで定電圧充電を行う。t15からの定電圧充電工程では実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となるまで電池充電電圧Vfullを保持し、t16のタイミングで実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となったら初回充電を終了する。
【0069】
まとめると、定電圧充電工程で非水溶媒の還元分解反応や電極の充電反応などが何も生じない充電電圧(V0、Vpre1、Vpre2、V2、Vpost1)であれば、電荷消費をほとんど伴わないため定電圧充電に要する時間は短く、すぐに実際の電流値Irが収束する。一方、実際の電圧値Vrが非水溶媒の還元分解電位に等しい充電電圧(図2では第一の電圧V1)にあるときの定電圧充電工程(t7からt8までの期間)では、非水溶媒の還元分解反応が生じ、この反応に電荷が消費されることとなる。そして、非水溶媒の還元分解反応が進んでいる間、実際の電流値Irはなかなか低下せず、非水溶媒の還元分解反応が完全に終了したタイミングで実際の電流値Irが収束する。一方、非水溶媒の還元分解電位は電池の状態によって変化することを前述した。本実施形態においても、非水溶媒の還元分解電位が第一の電圧V1からずれることが考えられる。この場合に、第一の電圧V1が非水溶媒の還元分解電位に近い充電電圧にあれば、非水溶媒の還元分解反応が生じる。第一の電圧V1が非水溶媒の還元分解電位に近いときには、第一の電圧V1が非水溶媒の還元分解電位と一致するときよりも、非水溶媒の還元分解反応の速度は劣るものの、非水溶媒の還元分解反応に電荷が消費される。そして、電荷の消費は実際の電流値Irの変化に現れるため、非水溶媒の還元分解反応が進んでいる間、実際の電流値Irはなかなか低下せず、非水溶媒の還元分解反応が完全に終了したタイミングで実際の電流値Irが収束する。つまり、第一の電圧V1での定電圧充電工程において流れる電流値を測定することで、非水溶媒の還元分解反応(SEI皮膜形成反応)が生じているか否かを精度良く判断できることとなる。よって、SEI皮膜形成電位や電極の種類によらず、SEI皮膜形成電位を正確に設定することができるので、安定なSEI皮膜を形成することができ、電解質層に含まれる主溶媒の還元分解が抑制され電池のサイクル特性を向上することができる。
【0070】
また、第一の電圧V1での定電圧充電工程で流れる電流値によって非水溶媒の還元分解反応が完全に終了したか否かを判断できるので、基準電流下限値Imin0をそれほどマージンを設けることなく設定することができる。このため、本実施形態では、前述したように0.001C〜0.01C相当の電流値を基準電流下限値Imin0として予め設定している。このようにして、基準電流下限値Imin0をそれほどマージンを設けることなく設定できると、次の定電流充電への移行が早まり、充電終了までの時間を短縮することができる。
【0071】
このように、初期電圧V0から電池充電電圧Vfullまで目標電圧Vmを基準ステップ電圧値ΔV0ずつ小刻みに上げて多段階充電を行うと共に、定電圧充電を行う複数の目標電圧Vmの中に、非水溶媒の還元分解電位が含まれるように基準ステップ電圧値ΔV0を設定することで、非水溶媒を完全に還元分解することができ、反応速度が遅い非水溶媒を用いた際にも対応することができるのである。なお、図2では初期電圧V0と電池充電電圧Vfullとの間に6個の目標電圧Vmを設定して多段階充電を行う場合を示したが、初期電圧V0と電池充電電圧Vfullとの間に設定する目標電圧の数は6個に限られるものでない。
【0072】
充電器で実行されるこの初回充電時の充電制御を図3、図4のフローチャートを参照して詳述する。
【0073】
図3は定電流充電フラグ、定電圧充電フラグ等のフラグを設定するためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
【0074】
ステップ1では、充電完了フラグをみる。今はまだ初回充電を行っていないとすると、充電完了フラグ=0であるので、ステップ2、3に進む。
【0075】
ステップ2、3では今回に充電開始フラグ=1であるか否か、前回に充電開始フラグ=1であったか否かをみる。ここで、充電器に付属している充電開始ボタンをOFFからONに切換えたとき、充電開始フラグがゼロより1に切換わるようにしている。このため、ステップ2で今回に充電開始フラグ=0であるときにはそのまま今回の処理を終了する。
【0076】
ステップ2、3で今回に充電開始フラグ=1でありかつ前回に充電開始フラグ=0であった、つまり今回に充電開始フラグがゼロより1に切換わったときには初回充電を開始するためステップ4、5に進んで目標電圧Vmに初期電圧V0を入れ、定電流充電フラグ=1とする。この定電流充電フラグ=1によって、図4で後述するように目標電圧Vmとなるまで第一電流値I1での定電流充電(一度目の定電流充電)が実行される。
【0077】
ステップ2、3で今回に充電開始フラグ=1でありかつ前回に充電開始フラグ=1であった、つまり充電開始フラグ=1が継続しているときにはステップ6に進み実際の電圧値Vrとカットオフ電圧Vcutを比較する。ここで、カットオフ電圧Vcutとしては電池充電電圧Vfullを設定しておく。実際の電圧値Vrは図示しない電圧センサにより検出する。初回充電の充電開始当初には実際の電圧値Vrはゼロの状態にありカットオフ電圧Vcutより小さいのでステップ7に進む。
【0078】
ステップ7では定電流充電フラグをみる。定電流充電フラグはステップ5で定電流充電フラグ=1となっているのでステップ8に進み、実際の電圧値Vrと目標電圧Vmとを比較する。このときの目標電圧Vmにはステップ4で初期電圧V0が入っている。初回充電の充電開始当初には実際の電圧値Vrはゼロの状態にあり目標電圧Vmよりも小さいのでステップ5に進み定電流充電フラグ=1とする。
【0079】
次回からも充電開始フラグ=1が継続するので、ステップ2、3、6、7、8、5と進むことになり、定電流充電フラグ=1とし続ける。定電流充電フラグ=1としている間、第一電流値I1での定電流充電(一度目の定電流充電)が行われるため、やがて実際の電圧値Vrが目標電圧Vmに到達する。このときには定電流充電が終了したと判定し、ステップ8よりステップ9、10に進み、次には定電流充電に代えて定電圧充電を行わせるため、定電流充電フラグ=0とする共に、定電圧充電フラグ=1とする。この定電圧充電フラグ=1によって、図4で後述するように目標電圧Vmでの定電圧充電(一度目の定電圧充電)が実行される。
【0080】
ステップ9、10でのフラグ操作を受けて次回からはステップ2、3、6、7、11よりステップ12に進むことになり、実際の電流値Irと基準電流下限値Imin0とを比較することにより定電圧充電が終了したか否かを判定する。実際の電流値Irは図示しない電流センサにより検出する。基準電流下限値Imin0としては、前述したように0.001Cから0.01Cまでの範囲で予め設定しておく。定電圧充電を開始した当初は実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0より大きいので、ステップ10に進み定電圧充電フラグ=1とする。
【0081】
次回からも充電開始フラグ=1が継続するので、ステップ2、3、6、7、11、12、10と進むことになり、定電圧充電フラグ=1とし続ける。定電圧充電フラグ=1としている間、目標電圧Vmでの定電圧充電(一度目の定電圧充電)が行われるため、やがて実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となる。このときには定電圧充電が終了したと判定し、ステップ12よりステップ13、14、15に進み、次には定電圧充電に代えて定電流充電を再び行わせるため、定電圧充電フラグ=0とする共に、定電流充電フラグ=1とし、かつ目標電圧Vmを基準ステップ電圧値ΔV0だけ高くする。この定電流充電フラグ=1によって、図4で後述するように目標電圧Vm(=Vpre1)となるまで第一電流値I1での定電流充電(二度目の定電流充電)が実行される。
【0082】
ステップ13、14でのフラグ操作を受けて次回からはステップ2、3、6、7よりステップ8に進むことになり、実際の電圧値Vrと目標電圧Vm(=Vpre1)を比較する。二度目の定電流充電を開始した当初は実際の電圧値Vrが目標電圧Vm(=Vpre1)よりも小さいのでステップ5に進み定電流充電フラグ=1とする。
【0083】
次回からも充電開始フラグ=1が継続するので、ステップ2、3、6、7、8、5と進むことになり、定電流充電フラグ=1とし続ける。定電流充電フラグ=1としている間、第一電流値I1での定電流充電(二度目の定電流充電)が行われるため、やがて実際の電圧値Vrが目標電圧Vm(=Vpre1)に到達する。このときには、ステップ8よりステップ9、10に進み、次に定電流充電に代えて再び定電圧充電を行わせるため、定電流充電フラグ=0とする共に、定電圧充電フラグ=1とする。この定電圧充電フラグ=1によって、図4で後述するように目標電圧Vm(=Vpre1)での定電圧充電(二度目の定電圧充電)が実行される。
【0084】
ステップ9、10でのフラグ操作を受けて次回からはステップ2、3、6、7、11よりステップ12に進むことになり、実際の電流値Irと基準電流下限値Imin0とを比較する。二度目の定電圧充電を開始した当初は実充電電流Irが基準充電電流下限値Imin0より大きいのでステップ10に進み定電圧充電フラグ=1とする。
【0085】
次回からも充電開始フラグ=1が継続するので、ステップ6、7、11、12、10と進むことになり、定電圧充電フラグ=1とし続ける。定電圧充電フラグ=1としている間、目標電圧Vm(=Vpre1)での定電圧充電(二度目の定電圧充電)が行われるため、やがて実充電電流Irが基準充電電流下限値Imin0以下となる。このときには、ステップ12よりステップ13、14、15に進み、今度は定電圧充電に代えて定電流充電を再び行わせるため、定電圧充電フラグ=0とする共に、定電流充電フラグ=1とし、かつ目標電圧Vmをステップ電圧値ΔVだけ高くする。この定電流充電フラグ=1によって、図4で後述するように目標電圧Vm(=Vpre2)となるまで定電流充電(三度目の定電流充電)が実行される。
【0086】
このようにして、定電流充電と定電圧充電とを交互に行う多段階充電を行いつつ定電圧充電より定電流充電に切換わる毎に目標電圧Vmを基準ステップ電圧値ΔV0ずつ高くしていくことで、やがて実際の電圧値Vrがカットオフ電圧Vcutに到達する。このときにはステップ6よりステップ16に進み、実際の電流値Irと基準電流下限値Imin0とを比較する。目標電圧Vm(=Vcut)での定電圧充電を開始した当初は実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0より大きいので、ステップ17に進み定電圧充電フラグ=1とする。
【0087】
次回からも充電開始フラグ=1が継続するので、ステップ2、3、6、16、17と進むことになり、定電圧充電フラグ=1とし続ける。定電圧充電フラグ=1としている間、目標電圧Vm(=Vcut)での定電圧充電(図2のモデル図では八度目の定電圧充電)が行われるため、やがて実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となる。このときには初回充電を終了させるためステップ16よりステップ18、19に進み、充電完了フラグ=1とすると共に、まだ初回充電を行っていない電池組立後の他の電池の初回充電に備えるため充電開始フラグ=0とする。
【0088】
ステップ18での充電完了フラグ=1より次回にはステップ1よりステップ2以降に進むことができない。つまり、初回充電を完了した電池に対して、二度目の初回充電が行われることはない。
【0089】
図4は初回充電(定電流充電と定電圧充電とを交互に行う多段階充電)を行わせるためのもので、図3の処理に続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
【0090】
ステップ21、22は図3のステップ1、2と同じである。充電完了フラグ=0かつ充電開始フラグ=1、つまりまだ初回充電を行っておらず初回充電を行うことが指示されたときにはステップ21、22よりステップ23に進み定電流充電フラグ(図3で設定済み)をみる。定電流充電フラグ=1であるときにはステップ24に進み第一電流値I1での定電流充電を行わせ、定電流充電フラグ=0であるときにはステップ25に進み目標電圧Vmでの定電圧充電を行わせる。
【0091】
本来なら、定電圧充電を行わせることが指示されているか否かは定電圧充電フラグによるべきであるが、ここでは定電流充電フラグ=0であるとき定電圧充電を行わせることが指示されていると判断している。これは、図3より初回充電開始後には、定電流充電フラグ=1かつ定電圧充電フラグ=0の状態と、定電流充電フラグ=0かつ定電圧充電フラグ=1の状態とが複数回繰り返され、定電流充電フラグ=0のとき必ず定電圧充電フラグ=1となっているので、定電流充電フラグ=0と定電圧充電フラグ=1とが等価であるためである。
【0092】
一方、充電完了フラグ=1となったときにはステップ21よりステップ26に進んで初回充電を終了する。
【0093】
ここで、本実施形態の作用効果を図2を参照しながら説明する。
【0094】
本実施形態によれば、負極及び正極と、非水溶媒を含む電解質とを備える非水電解質二次電池を初回充電する非水電解質二次電池の充電方法において、第一の電圧V1まで定電流での充電を行う第一定電流充電工程(図2のt6からt7までの期間参照)と、 この定電流充電で第一の電圧V1に到達した後に第一の電圧V1で定電圧充電を行う定電圧充電工程(図2のt7からt8までの期間参照)と、この定電圧充電工程で非水溶媒の還元分解反応(SEI皮膜の形成反応)が生じていると判断した場合に第一の電圧V1での定電圧充電を継続する定電圧充電継続工程(図2のt7からt8までの期間参照)と、前記定電圧充電工程で非水溶媒の還元分解反応(SEI皮膜の形成反応)が生じていないと判断した場合に第一の電圧V1より基準ステップ電圧値ΔV0(ステップ電圧値)だけ高い第二の電圧V2まで定電流での充電を行う第二定電流充電工程(図2のt8からt9までの期間参照)と、この後に定電圧充電と定電流充電とを繰返して電池の満充電時の電圧である電池充電電圧Vfullに到達させる電池充電電圧到達工程(図2のt9からt16までの期間参照)とを含んでいる。
【0095】
第一の電圧V1での定電圧充電工程で流れる実際の電流値Irを測定することで、非水溶媒の還元分解反応(SEI皮膜形成反応)が生じているか否かを精度良く判断できる。よって、非水溶媒の還元分解電位(SEI皮膜形成電位)を正確に設定することができるので、安定なSEI皮膜を形成することができ、電解質層に含まれる主溶媒の還元分解が抑制され電池のサイクル特性を向上することができる。
【0096】
また、実際の電流値Irと基準電流下限値値Imin0との比較により非水溶媒の還元分解反応(SEI皮膜作成反応)の終結を精度良く判断できるため、SEI皮膜が完全に形成されように充電時間にマージンをとる必要がない。これによって必要のない充電が行われることがなく充電時間を短くすることができる。
【0097】
本実施形態によれば、図2において第一の電圧V1で定電圧充電を行う定電圧充電工程で実際の電流値Irがt8のタイミングで基準電流下限値Imin0(電流下限値)以下となったときに定電流充電工程(第二定電流充電工程)に移行する場合に、基準電流下限値Imin0を0.001Cから0.01Cまでの範囲で設定している。つまり、低電流値まで第一の電圧V1で定電圧充電を行うことで、良好かつ安定なSEI皮膜を形成させることが可能となり、充放電効率及び電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0098】
本実施形態によれば、第一の電圧V1よりも低い位置に設けた初期電圧V0まで定電流での充電を行った後に、この初期電圧V0から電池充電電圧Vfullまでの間を基準ステップ電圧値ΔV0(ステップ電圧値)ずつ上昇する複数の目標電圧Vmとして多段階の充電を行わせる場合に、基準ステップ電圧値ΔV0を0.05Vから0.2Vの範囲で設定するので、第一の電圧V1を、非水溶媒の還元分解電位に等しいかこれに近い適切な充電電圧に設定することができる。
【0099】
図5は第2実施形態の初回充電時に定電流充電と定電圧充電とを交互に複数組み合わせた多段階充電方法を説明するためのタイミングチャートである。比較のため、図5上段には、細実線で第1実施形態の場合のセルの充電電圧の変化を、太実線で第2実施形態の場合のセルの充電電圧の変化を示している。なお、充電電圧の変化は、第一プレ電圧Vpre1より第二ポスト電圧Vpost2までの変化を主に示している。また、図5中段に第2実施形態の場合のセルの充電電流の変化を、図5下段に第1実施形態の場合のセルの充電電流の変化を示している。第1実施形態におけるt3〜t12の各タイミングと区別するため、第2実施形態における各タイミングには数字の後に「’」を付けt3’〜t12’としている。
【0100】
定電圧充電工程において、非水溶媒の還元分解反応が生じる領域と非水溶媒の還元分解反応が生じない領域とを比較したとき、図5下段に示したように定電圧充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じない領域(図5では「非反応領域」で略記。具体的にはt3からt4まで、t5からt6までの各期間、t9からt10まで、t11からt12までの各期間)のほうが、定電圧充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じる領域(図5では「反応領域」で略記。具体的にはt7からt8までの期間)よりも実際の電流値Irの減少(変化)の程度が急激である。これは、定電圧充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じない領域では、実際の電流値Irは直ぐに収束するためである。一方、定電圧充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じる領域では、非水溶媒の還元分解反応に電荷が奪われるために実際の電流値Irがなかなか収束しないためである。
【0101】
そこで第2実施形態では、定電圧充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じない領域と、定電圧充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じる領域とで定電圧充電工程が終了したか否かを判定するための電流下限値Iminを異ならせ、定電圧充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じない領域では、定電圧充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じる領域よりも、定電圧充電工程が終了したか否かを判定するための電流下限値Iminを相対的に高くする。これによって、定電圧充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じない領域での充電時間を短縮でき、より効率よく初回充電を行わせることができる。一方、定電圧充電工程において非水溶媒の還元分解が生じる領域で用いる電流下限値Iminは第1実施形態と同じ値に小さくしておくことで、完全に非水溶媒が還元分解するまで充電電流を流し続けることができる。
【0102】
具体的には定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtが閾値1(閾値)より小さいとき、非水溶媒の還元分解反応(SEI皮膜の形成反応)が生じていると判断する。また、定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtが閾値1以上のとき、非水溶媒の還元分解反応(SEI皮膜の形成反応)が生じていないと判断する。そして、図5中段に示したように、t7’からの定電圧充電工程において非水溶媒の還元分解が生じていると判断したとき、当該定電圧充電工程が終了したか否かを判定するために用いる電流下限値Iminを第1実施形態と同じ基準電流下限値Imin0とする。一方、t9’からの定電圧充電工程やt11’からの定電圧充電工程において(t3からの定電圧充電工程やt6’からの定電圧充電工程においても)非水溶媒の還元分解反応が生じていないと判断したとき、当該定電圧充電工程が終了したか否かを判定するために用いる電流下限値Iminを基準電流下限値Imin0よりも高くしている(図5の中段の矢印参照)。
【0103】
なお、定電圧充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じていないと判断したとき、当該定電圧充電工程が終了したか否かを判定するために用いる電流下限値Iminの設定方法は、図5の中段の矢印で示す場合に限られるものでない。
【0104】
次に、第2実施形態の初回充電方法をフローチャートを参照して具体的に説明する。図6のフローチャートは第2実施形態の定電流充電フラグ、定電圧充電フラグ等のフラグを設定するためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。なお、第1実施形態の図3と同じステップには同じステップ番号を付けている。
【0105】
図6において第1実施形態と相違する部分はステップ31のみである。つまり、ステップ11で定電圧充電フラグ=1であるときにステップ31に進み実際の電流値Irと電流下限値Iminとを比較することにより定電圧充電工程が終了したか否かを判定するが、定電圧充電工程が終了したか否かを判定するために用いる電流下限値Iminは可変値で構成されている。
【0106】
図7のフローチャートは、図6のステップ31で用いる電流下限値Iminを設定するためのもので、図6のフローに続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
【0107】
ステップ41では電流下限値設定済フラグ(図では「下限値設定済フラグ」で略記。)をみる。今は電流下限値Iminに初期値としての基準電流下限値Imin0が入っているだけで、まだ電流下限値Iminを設定していないとすると、電流下限値設定済フラグ=0であるので、ステップ42、43に進む。
【0108】
ステップ42、43では今回に定電圧充電フラグ=1であるか否か、前回に定電圧充電フラグ=1であったか否かをみる。今回に定電圧充電フラグ=1でありかつ前回に定電圧充電フラグ=0であった、つまり今回に定電圧充電フラグがゼロより1に切換わったときには定電圧充電が開始されると判断しステップ44に進んでタイマを起動する(タイマ値TM1=0)。このタイマは定電圧充電フラグがゼロより1に切換わったタイミングからの経過時間(つまり定電圧充電を開始してからの経過時間)を計測するためのものである。
【0109】
ステップ42、43で今回に定電圧充電フラグ=1でありかつ前回に定電圧充電フラグ=1であった、つまり定電圧充電フラグ=1が継続しているとき(つまり定電圧充電中)にはステップ45に進みタイマ値TM1と所定値1を比較する。所定値1は定電圧充電の開始からの電流値の時間変化をみるタイミングを定める値で、予め定めておく。タイマを起動した当初はタイマ値TM1が所定値1未満であるので、そのまま今回の処理を終了する。
【0110】
やがて、タイマ値TM1が所定値1以上になると、定電圧充電の開始からの電流値の時間変化をみるタイミングになったと判断し、ステップ45よりステップ46に進み、電流センサにより検出されるそのときの電流値Irより第一電流値I1を差し引いた値をタイマ値TM1で除した値を、定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtとして、つまり、
−dI/dt=(Ir−I1)/TM1 …(1)
の式により定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtを算出する。定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtは負の値であり、定電圧充電の開始タイミングより低下する電流値の傾きを代表させている。なお、ここでは、dI/dtを正の値で扱い、この値に負の符号を付けることによって、全体として負の値として扱うことにしているが、dI/dtを負の値で扱ってもかまわない。
【0111】
ステップ47ではこの定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtと閾値1(閾値)を比較する。閾値1は定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化が相対的に大きいか小さいかを判定するための値で、負の値で予め定めておく。定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtが閾値1より小さいときには定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化が相対的に大きい(実際の電流値Irが急激に低下している)、従って非水溶媒の還元分解反応が生じていないと判断し、ステップ48に進み電流下限値Imin(初期値として基準電流下限値Imin0を入れておく。)に正の一定値ΔIを加算した値を改めて電流下限値Iminとする。これによって非水溶媒の還元分解反応が生じていないと判断される定電圧充電工程においては電流下限値Iminを上昇させる。
【0112】
一方、定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtが閾値1以上のときには定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化が相対的に小さい(実際の電流値Irが急激に低下していない)、従って非水溶媒の還元分解反応が生じていると判断し、ステップ47よりステップ49に進み電流下限値Iminに基準電流下限値Imin0を入れる。これによって非水溶媒の還元分解反応が生じていると判断される定電圧充電工程においては、電流下限値Iminを第1実施形態と同じとする。
【0113】
これで電流下限値Iminの設定を終了するので、ステップ50では電流下限値設定済フラグ=1とする。この電流下限値設定済フラグ=1により次回にはステップ41よりステップ42以降に進むことができない。つまり、第2実施形態では、定電圧充電フラグ=1の状態で所定時間が経過したとき(タイマ値TM1≧所定値1)、一度だけ電流下限値Iminを設定する。
【0114】
第2実施形態においても、定電流充電と定電圧充電とを繰り返す多段階の充電を行うので、定電圧充電に入るたびに定電圧充電に入ったタイミングより所定時間内に一度だけ電流下限値Iminを設定する。
【0115】
一方、ステップ42、51で、今回に定電圧充電フラグ=0でありかつ前回に定電圧充電フラグ=1であった、つまり今回に定電圧充電フラグが1よりゼロに切換わったときには、定電圧充電が終了したと判断し次の定電圧充電工程での電流下限値Iminの設定に備えるため、ステップ52に進んで電流下限値設定フラグ=0とする。
【0116】
また、今回に定電圧充電フラグ=0でありかつ前回に定電圧充電フラグ=0であった、つまり定電圧充電フラグ=0が継続しているときには、そのまま今回の処理を終了する。
【0117】
このようにして設定した電流下限値Iminは図6のステップ31で、定電圧充電工程が終了したか否かを判定するために用いる。
【0118】
このように第2実施形態によれば、図5に示したようにt9’からの定電圧充電工程やt11’からの定電圧充電工程において定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化(−dI/dt)が相対的に大きいとき(閾値1より小さいとき)、非水溶媒の還元分解反応(SEI皮膜の形成反応)が生じていないと判断する。また、t7’からの定電圧充電工程において定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化(−dI/dt)が相対的に小さいとき(閾値1以上のとき)、非水溶媒の還元分解反応(SEI皮膜の形成反応)生じていると判断する。これによって、非水溶媒の還元分解反応(SEI皮膜の形成反応)が生じているか否かの判断を簡易に行うことができる。
【0119】
第2実施形態によれば、図5中段に示したように第二の電圧V2までの定電流充電が終了するt9’のタイミング以降の各定電圧充電工程の一つ(繰返される一の定電圧充電工程)で実際の電流値Irが電流下限値Imin以下となったときにt9’以降の各定電流充電工程の一つ(繰返される一の定電流充電工程)に移行する場合に、その定電圧充電工程の一つでこの定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtが閾値1より小さいとき、この定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtが閾値1以上のときよりその定電圧充電工程の一つ(前記繰返される一の定電圧充電工程)で用いる電流下限値Iminを大きくする。具体的には、t9’からの定電圧充電工程で実際の電流値Irが電流下限値Imin以下となったときにt10’からの定電流充電工程に移行する場合に、t9’からの定電圧充電工程でこの定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtが閾値1より小さいとき、この定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtが閾値1以上のときよりt9’からの定電圧充電工程で用いる電流下限値Iminを大きくする。同様にして、t11’からの定電圧充電工程で実際の電流値Irが電流下限値Imin以下となったときにt12’からの定電流充電工程に移行する場合に、t11’からの定電圧充電工程でこの定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtが閾値1より小さいとき、この定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtが閾値1以上のときよりt11’からの定電圧充電工程で用いる電流下限値Iminを大きくする。これによって、第二の電圧V2までの定電流充電が終了するt9’以降の各定電圧充電工程(t9’からt10’まで、t11’からt12’までの各期間参照)での充電時間を短縮でき(図5上段の矢印参照)、より効率よく初回充電を行わせることができる。
【0120】
一方、t7’からの定電圧充電工程で定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtが閾値1以上のときには電流下限値Iminを基準電流下限値Imin0とすることで(t7’からt8’までの期間参照)、完全に非水溶媒が還元分解するまで電流を流し続けることができる。その結果、良好なSEI皮膜を形成し、充放電効率及びサイクル特性を向上させることができる。
【0121】
第2実施形態では、定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtが閾値1より小さいとき、SEI皮膜の形成反応が生じていると判断し、また定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化−dI/dtが閾値1以上のとき、SEI皮膜の形成反応が生じていないと判断する場合で説明したが、SEI皮膜の形成反応が生じているか否かの判断方法はこの場合に限られない。例えば、定電圧充電の開始から所定時間内に実際の電流値Irが所定電流値より大きいとき、SEI皮膜の形成反応が生じていると判断し、また定電圧充電の開始から所定時間内に実際の電流値Irが所定電流値以下のとき、SEI皮膜の形成反応が生じていないと判断するようにしてもかまわない。
【0122】
図8は第3実施形態の初回充電時に定電流充電と定電圧充電とを交互に複数組み合わせた多段階充電方法を説明するためのタイミングチャートである。比較のため、図8上段には、細実線で第1実施形態の場合のセルの充電電圧の変化を、太実線で第3実施形態の場合のセルの充電電圧の変化を示している。なお、充電電圧の変化は、第一プレ電圧Vpre1より第二ポスト電圧Vpost2までの変化を主に示している。また、図8中段に第3実施形態の場合のセルの充電電流の変化を、図8下段に第1実施形態の場合のセルの充電電流の変化を示している。第1実施形態におけるt7〜t14の各タイミングと区別するため、第3実施形態における各タイミングには数字の後に「’」を付けt7’〜t14’としている。また、第1実施形態にない新たなタイミングとしてt21とt22がある。
【0123】
さて、図2では、t2からt3までの二度目の定電流充電工程、t4からt5までの三度目の定電流充電工程、t6からt7までの四度目の定電流充電工程、t8からt9までの五度目の定電流充電工程、t10からt11までの六度目の定電流充電工程に要する各充電時間を全て同じであるとして記載した。
【0124】
しかしながら、実際には、定電流充電工程において、非水溶媒の還元分解反応が生じる領域と非水溶媒の還元分解反応が生じない領域とを比較したとき、図8上段の細実線で及び図8下段に示したように、定電流充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じる領域(つまりt6からt7までの四度目の定電流充電工程)のほうが、定電流充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じない領域(例えばt2からt3までの二度目の定電流充電工程、t4からt5までの三度目の定電流充電工程、t8からt9までの五度目の定電流充電工程、t10からt11までの六度目の定電流充電工程)よりも実際の電圧値Vrの上昇(変化)の程度は緩やかである。これは、定電流充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じる領域では、非水溶媒の還元分解反応に電荷が奪われるために実際の電圧値Vrが上昇するのに時間を要するためである。
【0125】
そこで第3実施形態では、定電流充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じる領域と、定電流充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じない領域とで当該定電流充電工程における目標電圧Vmを定めるために用いるステップ電圧値ΔVを異ならせ、定電流充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じる領域では、定電流充電工程において非水溶媒の還元分解反応が生じない領域よりも、当該定電流充電工程における目標電圧Vmを定めるために用いるステップ電圧値ΔVを相対的に小さくする。これによって、非水溶媒の還元分解電位により近い充電電圧で充電することが可能となり、より良好なSEI皮膜を形成することができる。一方、定電流充電工程において非水溶媒の還元分解が生じない領域では、当該定電流充電工程における目標電圧Vmを定めるために用いるステップ電圧値ΔVを第1実施形態と同じにしておくことで、初回充電に要する時間の短縮を図ることができる。
【0126】
具体的には定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtが閾値2(閾値)より小さいとき、非水溶媒の還元分解反応(SEI皮膜の形成反応)が生じていると判断する。また、定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtが閾値2以上のとき、非水溶媒の還元分解反応(SEI皮膜の形成反応)が生じていないと判断する。そして、図8上段の太実線で及び図8中段に示したように、t8’からの定電流充電工程やt10’からの定電流充電工程において非水溶媒の還元分解が生じていないと判断したとき、当該定電流充電工程における目標電圧Vmを定めるために用いるステップ電圧値ΔVを第1実施形態と同じに基準ステップ電圧値ΔV0とする。一方、t6からの定電流充電工程やt22からの定電流充電工程において非水溶媒の還元分解が生じていると判断したとき、当該定電流充電工程における目標電圧を定めるために用いるステップ電圧値ΔVを基準ステップ電圧値ΔV0の1/2である所定値ΔV1(基準ステップ電圧値ΔV0よりも小さな値)とする(図8の上段の矢印参照)。
【0127】
このため、第3実施形態においては、第一の電圧V1から基準ステップ電圧ΔV0(ステップ電圧値)だけ小さい第二プレ電圧Vpre2(第三の電圧)より定電流充電を行う場合に、この定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtが閾値2より小さいか否かを判定し、定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtが閾値2より小さいとき、非水溶媒の還元分解が生じていると判断し、当該定電流充電工程における目標電圧Vmを定めるために用いるステップ電圧値ΔVを基準ステップ電圧値ΔV0の1/2である所定値ΔV1として新たな電圧Vfore(目標電圧)を設け、第二プレ電圧Vpre2(第三の電圧)よりこの新たな電圧Vforeまで第一電流値I1での定電流充電を行う。
【0128】
この定電流充電で新たな電圧Vforeにt21のタイミングで到達した後にこの新たな電圧Vforeで定電圧充電を行う。t21からの定電圧充電工程では実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となるまで新たな電圧Vforeを保持し、t22のタイミングで実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0を以下となったら定電圧充電工程が終了したと判定する。
【0129】
この定電圧充電の終了後にt22のタイミングから定電流充電を行う場合にも、この定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtが閾値2より小さいか否かを判定し、定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtが閾値2より小さいとき、非水溶媒の還元分解が生じていると判断し、当該定電流充電工程における目標電圧Vmを定めるために用いるステップ電圧値ΔVを基準ステップ電圧値ΔV0の1/2である所定値ΔV1として新たな電圧(目標電圧Vm)を設ける。ここではステップ電圧値ΔVを基準ステップ電圧値ΔV0の1/2である所定値ΔV1としているので、ここでの新たな電圧はVfore+ΔV1=V1、つまり第一の電圧となる。従って、t22のタイミングからの定電流充電工程においては、上記新たな電圧Vforeより第一の電圧V1まで第一電流値I1での定電流での充電を行う。
【0130】
t7’のタイミングで実際の電圧値Vrが第一の電圧V1に到達すると、この第一の電圧V1で定電圧充電を行う。t7’からの定電圧充電工程では実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となるまで第一の電圧V1を保持し、t8’のタイミングで実際の電流値Irが基準電流下限値Imin0以下となったら定電圧充電工程が終了したと判定する。この定電圧充電の終了後に第一の電圧V1より基準ステップ電圧値ΔV0だけ高い第二の電圧V2となるまで第一電流値I1での定電流充電を行う。
【0131】
t9’のタイミングで実際の電圧値Vrが第二の電圧V2に到達すると、この第二の電圧V2で定電圧充電を行う。この後の充電方法は第1実施形態と同じである。
【0132】
第1実施形態と比較すると、第二プレ電圧Vpre2を離れるタイミングから第一の電圧V1を離れるタイミングまでの時間は、第1実施形態ではt6からt8までの時間であるのに対して、第3実施形態ではt6からt8’までの時間となっている。つまり、定電圧充電を複数回行うことで、第3実施形態のほうが第1実施形態よりも、非水溶媒の還元分解反応が生じる領域に長くとどまるのであり、かつ非水溶媒の還元分解電位により近い充電電圧で定電圧充電することで非水溶媒をより効率よく分解し、これによって第1実施形態よりもSEI皮膜反応を促進できる。
【0133】
なお、定電流充電工程において定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtが閾値2(閾値)より小さいと判断したとき、つまり非水溶媒の還元分解反応が生じていると判断したときに当該定電圧充電工程における目標電圧を定めるために用いるステップ電圧値ΔVを基準ステップ電圧値ΔV0の1/2で設定する場合で説明したが、当該定電圧充電工程における目標電圧を定めるために用いるステップ電圧値ΔVの設定方法はこの場合に限られるものでない。例えば、当該定電圧充電工程における目標電圧を定めるために用いるステップ電圧値ΔVを、基準ステップ電圧値ΔV0の1/3、1/4等で設定することができる。
【0134】
次に、第3実施形態の初回充電方法をフローチャートを参照して具体的に説明する。図9のフローチャートは第3実施形態の定電流充電フラグ、定電圧充電フラグ等のフラグを設定するためのもので、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。なお、第1実施形態の図3と同じステップには同じステップ番号を付けている。
【0135】
図9において第1実施形態と相違する部分は、図3のステップ4、15がない点である。つまり、第3実施形態では、ステップ8で実際の電圧値Vrと比較する目標電圧Vmを可変値で構成する。
【0136】
図10のフローチャートは、図9のステップ8で用いる目標電圧Vmを設定するためのもので、図9のフローに続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
である。
【0137】
ステップ71では目標電圧設定済フラグ(図では「Vm設定済フラグ」と略記。)をみる。今は目標電圧Vmに初期値としての初期電圧V0が入っているだけで、まだ目標電圧Vmを設定していないとすると、目標電圧設定済フラグ=0であるので、ステップ72、73に進む。
【0138】
ステップ72、73では今回に定電流充電フラグ=1であるか否か、前回に定電流充電フラグ=1であったか否かをみる。今回に定電流充電フラグ=1でありかつ前回に定電流充電フラグ=0であった、つまり今回に定電流充電フラグがゼロより1に切換わったときには定電流充電が開始されると判断しステップ74に進んでタイマを起動する(タイマ値TM2=0)。このタイマは定電流充電フラグがゼロより1に切換わったタイミングからの経過時間(つまり定電流充電を開始してからの経過時間)を計測するためのものである。ステップ75では、定電流充電フラグがゼロより1に切換わったタイミングでの電圧値VrをメモリVzに記憶する。
【0139】
ステップ72、73で今回に定電流充電フラグ=1でありかつ前回に定電流充電フラグ=1であった、つまり定電流充電フラグ=1が継続しているとき(つまり定電流充電中)にはステップ76に進みタイマ値TM2と所定値2を比較する。所定値2は定電流充電の開始からの電流値の時間変化をみるタイミングを定める値で、予め定めておく。タイマを起動した当初はタイマ値TM2が所定値2未満であるので、そのまま今回の処理を終了する。
【0140】
やがて、タイマ値TM2が所定値2以上になると、ステップ76よりステップ77に進み、電圧センサにより検出されるそのときの電圧値Vrよりメモリに記憶してある電圧値Vzを差し引いた値をタイマ値TM2で除した値を、定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtとして、つまり、
dV/dt=(Vr−Vz)/TM2 …(2)
の式により定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtを算出する。定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtは定電流充電の開始タイミングより上昇する電圧値の傾きを代表させている。
【0141】
ステップ78ではこの定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtと閾値2(閾値)を比較する。閾値2は定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化が相対的に大きいか小さいかを判定するための値で、予め定めておく。定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtが閾値2より小さいときには定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化が相対的に小さい(実際の電圧値Vrがゆっくりと上昇している)、従って非水溶媒の還元分解反応が生じていると判断し、ステップ79に進みステップ電圧値ΔV(初期値として基準ステップ電圧値ΔV0を入れておく。)に所定値ΔV1を入れる。所定値ΔV1は基準ステップ電圧値ΔV0よりも小さな値、例えば基準ステップ電圧値ΔV0の1/2の値とする。これによって、非水溶媒の還元分解反応が生じていると判断される定電流充電工程においてはステップ電圧値ΔVを小さくする。
【0142】
一方、定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtが閾値2以上のときには定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化が相対的に大きい(実際の電圧値Vrが急激に上昇している)、従って非水溶媒の還元分解反応が生じていないと判断し、ステップ78よりステップ80に進みステップ電圧値ΔVに基準ステップ電圧値ΔV0を入れる。これによって非水溶媒の還元分解反応が生じていないと判断される定電流充電工程においては、ステップ電圧値ΔVを第1実施形態と同じとする。
【0143】
ステップ81では、目標電圧Vm(初期値として初期電圧V0を入れておく。)にステップ電圧値ΔVを加算した値を改めて目標電圧Vmとする。これによって非水溶媒の還元分解反応が生じていると判断される定電流充電工程においては当該定電流充電工程における目標電圧Vmを低下させる。
【0144】
これで目標電圧Vmの設定を終了するので、ステップ82では目標電圧設定済フラグ=1とする。この目標電圧設定済フラグ=1により次回にはステップ71よりステップ72以降に進むことができない。つまり、第3実施形態では、定電流充電フラグ=1の状態で所定時間が経過したとき(タイマ値TM2≧所定値2)、一度だけ目標電圧Vmを設定する。
【0145】
第3実施形態においても、定電流充電と定電圧充電とを繰り返す多段階の充電を行うので、定電流充電に入るたびに定電流充電に入ったタイミングより所定時間内に一度だけ目標電圧Vmを設定する。図8と対応付けると、t6からの定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtがステップ78で閾値2より小さくなって、ステップ79、81と進み、Vpre2+ΔV1(=Vfore)が目標電圧Vmとして設定される。また、t22からの定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtがステップ78で閾値2より小さくなって、ステップ79、81に進み、Vfore+ΔV1(=V1)が目標電圧Vmとして設定される。
【0146】
一方、ステップ72、83で、今回に定電流充電フラグ=0でありかつ前回に定電流充電フラグ=1であった、つまり今回に定電流充電フラグが1よりゼロに切換わったときには、定電流充電が終了したと判断し次の定電流充電工程での目標電圧Vmの設定に備えるため、ステップ84に進んで目標電圧設定済フラグ=0とする。
【0147】
また、今回に定電流充電フラグ=0でありかつ前回に定電流充電フラグ=0であった、つまり定電流充電フラグ=0が継続しているときには、そのまま今回の処理を終了する。
【0148】
このようにして設定した目標電圧Vmは図9のステップ8で実際の電圧値Vrとの比較に用いる。
【0149】
ここで、第3実施形態の作用効果を図8を参照しながら説明する。
【0150】
第3実施形態では、第一の電圧V1から基準ステップ電圧値ΔV0(ステップ電圧値)だけ小さい第二プレ電圧Vpre2(第三の電圧)より定電流充電を行う場合に、定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtが閾値2(閾値)より小さいか否かが判定される。図8においては、t6のタイミングからの定電流充電を行う場合に、定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtが閾値2(閾値)より小さいか否かをみて、この定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtは閾値2より小さいと判定される。このとき、t6からの当該定電流充電工程における目標電圧Vmを定めるために用いるステップ電圧値ΔVとして、基準ステップ電圧値ΔV0ではなくこれより小さい所定値ΔV1が用いられ、t6からの当該定電流充電工程における目標電圧Vmは、第二プレ電圧Vpre2に所定値ΔV1を加算した新たな電圧Vfore(Vfore<Vpre2)となる。
【0151】
このため、t6からの当該定電流充電工程では第二プレ電圧Vpre2よりこの新たな電圧Vforeまで第一電流値I1での定電流充電が行われる。この定電流充電によりt21のタイミングで新たな電圧Vforeに到達した後にはこの新たな電圧Vforeで定電圧充電が行われる。この定電圧充電工程において、実際の電流値Irと基準電流下限値値Imin0とが比較され、実際の電流値Irが基準電流下限値値Imin0以下となるt22のタイミングで定電圧充電が終了したと判断される。
【0152】
この定電圧充電の終了するt22のタイミングより定電流充電を行う場合にも、定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtが閾値2(閾値)より小さいか否かをみて、この定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtは閾値2より小さいと判定される。このときにも、t22からの当該定電流充電工程における目標電圧Vmを定めるために用いるステップ電圧値ΔVとして、基準ステップ電圧値ΔV0ではなくこれより小さい所定値ΔV1が用いられ、t22からの当該定電流充電工程における目標電圧Vmは、上記新たな電圧Vforeに所定値ΔV1を加算した新たな電圧、つまり第一電圧V1(=Vfore+ΔV1)となる。
【0153】
このため、t22からの当該定電流充電工程では、上記新たな電圧Vforeより第一の電圧V1まで第一電流値I1での定電流充電が行われる。この定電流充電によりt7’のタイミングで実際の電圧値Vrが第一の電圧V1に到達すると、t7’のタイミングから第一の電圧V1で定電圧充電が行われる。この定電圧充電工程において、実際の電流値Irと基準電流下限値値Imin0とが比較され、実際の電流値Irが基準電流下限値値Imin0以下となるt8’のタイミングで定電圧充電が終了したと判断される。以下の充電方法は第1実施形態と同じである。
【0154】
図8上段において第1実施形態の場合と比較すればわかるように、第3実施形態によれば、非水溶媒の還元分解電位により近い充電電圧で定電圧充電できることから、SEI皮膜の形成反応が生じる電圧の近くで良好なSEI皮膜形成反応を促進できる。
【0155】
一方、t8’からの定電流充電工程やt10’からの定電流充電工程では、定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化dV/dtが閾値2以上であると判定され、当該定電流充電工程における目標電圧Vmを定めるために用いるステップ電圧値ΔVとして、基準ステップ電圧値ΔV0が用いられる。これによって、電池充電電圧Vfullまで効率よく短時間で充電することができる。
【0156】
第2実施形態と第3実施形態とを組み合わせてもかまわない。
【符号の説明】
【0157】
10 積層型二次電池
11 負極集電体
12 負極活物質層
13 電解質層
14 正極集電体
15 正極活物質
16 単電池層
17 発電要素
18 負極集電板
19 正極集電板
22 ラミネートフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極及び正極と、非水溶媒を含む電解質とを備える非水電解質二次電池を初回充電する非水電解質二次電池の充電方法において、
第一の電圧まで定電流での充電を行う第一定電流充電工程と、
この定電流充電で第一の電圧に到達した後に第一の電圧で定電圧充電を行う定電圧充電工程と、
この定電圧充電工程でSEI皮膜の形成反応が生じていると判断した場合に第一の電圧での定電圧充電を継続する定電圧充電継続工程と、
前記定電圧充電工程でSEI皮膜の形成反応が生じていないと判断した場合に前記第一の電圧よりステップ電圧値だけ高い第二の電圧まで定電流での充電を行う第二定電流充電工程と、
この後に定電圧充電と定電流充電とを繰返して電池の満充電時の電圧である電池充電電圧に到達させる電池充電電圧到達工程と
を含むことを特徴とする非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項2】
前記定電圧充電の開始から所定時間内に所定電流値より大きいとき、前記SEI皮膜の形成反応が生じていると判断し、前記定電圧充電の開始から所定時間内に所定電流値以下のとき、前記SEI皮膜の形成反応が生じていないと判断することを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項3】
前記定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化が閾値より小さいとき、前記SEI皮膜の形成反応が生じていると判断し、前記定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化が閾値以上のとき、前記SEI皮膜の形成反応が生じていないと判断することを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項4】
前記繰返される一の定電圧充電工程で電流値が電流下限値以下となったときに前記繰返される一の定電流充電工程に移行する場合に、前記繰返される一の定電圧充電工程でこの定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化が閾値より小さいとき、この定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化が閾値以上のときより前記繰返される一の定電圧充電工程で用いる前記電流下限値を大きくすることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載の非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項5】
前記第一の電圧で定電圧充電を行う定電圧充電工程で電流値が電流下限値以下となったときに前記第二定電流充電工程に移行する場合に、前記電流下限値を0.001Cから0.01Cまでの範囲で設定することを特徴とする請求項1から4までのいずれか一つに記載の非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項6】
前記第一の電圧よりも低い位置に設けた初期電圧まで定電流での充電を行った後に、この初期電圧から前記電池充電電圧までの間を前記ステップ電圧値ずつ上昇する複数の電圧として多段階の充電を行わせる場合に、前記ステップ電圧値を0.05Vから0.2Vの範囲で設定することを特徴とする請求項1から5までのいずれか一つに記載の非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項7】
前記第一の電圧から前記ステップ電圧値だけ小さい第三の電圧より定電流での充電を行う場合に、この定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化が閾値より小さいとき、この定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化が閾値以上のときより当該定電流充電工程における目標電圧を定めるために用いるステップ電圧値を小さくすることを特徴とする請求項1から6までのいずれか一つに記載の非水電解質二次電池の充電方法。
【請求項8】
負極及び正極と、非水溶媒を含む電解質とを備える非水電解質二次電池を初回充電する非水電解質二次電池の充電装置において、
第一の電圧まで定電流での充電を行う第一定電流充電手段と、
この定電流充電で第一の電圧に到達後に第一の電圧で定電圧充電を行う定電圧充電手段と、
この定電圧充電時にSEI皮膜の形成反応が生じていると判断した場合に第一の電圧での定電圧充電を継続する定電圧充電継続手段と、
前記定電圧充電時にSEI皮膜の形成反応が生じていないと判断した場合に前記第一の電圧よりステップ電圧値だけ高い第二の電圧まで定電流での充電を行う第二定電流充電手段と、
この後に定電圧充電と定電流充電とを繰返して電池の満充電時の電圧である電池充電電圧に到達させる電池充電電圧到達手段と
を備えることを特徴とする非水電解質二次電池の充電装置。
【請求項9】
前記定電圧充電の開始から所定時間内に所定電流値より大きいとき、前記SEI皮膜の形成反応が生じていると判断し、前記定電圧充電の開始から所定時間内に所定電流値以下のとき、前記SEI皮膜の形成反応が生じていないと判断することを特徴とする請求項8に記載の非水電解質二次電池の充電装置。
【請求項10】
前記定電圧充電から所定時間の電流値の時間変化が閾値より小さいとき、前記SEI皮膜の形成反応が生じていると判断し、前記定電圧充電から所定時間の電流値の時間変化が閾値以上のとき、前記SEI皮膜の形成反応が生じていないと判断することを特徴とする請求項8に記載の非水電解質二次電池の充電装置。
【請求項11】
前記繰返される一の定電圧充電工程で電流値が電流下限値以下となったときに前記繰返される一の定電流充電工程に移行する場合に、前記繰返される定電圧充電工程でこの定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化が閾値より小さいときこの定電圧充電の開始から所定時間の電流値の時間変化が閾値以上のときより前記繰返される一の定電圧充電工程で用いる前記電流下限値を大きくすることを特徴とする請求項8から10までのいずれか一つに記載の非水電解質二次電池の充電装置。
【請求項12】
前記第一の電圧で定電圧充電を行う定電圧充電工程で電流値が電流下限値以下となったときに前記第二定電流充電工程に移行する場合に、前記電流下限値を0.001Cから0.01Cまでの範囲で設定することを特徴とする請求項8から11までのいずれか一つに記載の非水電解質二次電池の充電装置。
【請求項13】
前記第一の電圧よりも低い位置に設けた初期電圧まで定電流での充電を行った後に、この初期電圧から前記電池充電電圧までの間を前記ステップ電圧値ずつ変化する複数の電圧として多段階の充電を行わせる場合に、前記ステップ電圧値を0.05Vから0.2Vの範囲で設定することを特徴とする請求項8から12までのいずれか一つに記載の非水電解質二次電池の充電装置。
【請求項14】
前記第一の電圧から前記ステップ電圧値だけ小さい第三の電圧より定電流での充電を行う場合に、この定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化が閾値より小さいとき、この定電流充電の開始から所定時間の電圧値の時間変化が閾値以上のときより当該定電流充電時における目標電圧を定めるために用いるステップ電圧値を小さくすることを特徴とする請求項8から13までのいずれか一つに記載の非水電解質二次電池の充電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−108550(P2011−108550A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264061(P2009−264061)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】