説明

非水電解質二次電池及びその製造方法

【課題】正極と固体電解質層との間でのリチウムイオンのやり取りをスムーズに行うことができ、内部抵抗を改善した非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】非水電解質二次電池は、正極1と負極2、及びこれら正負極間に介在される固体電解質層3を有する。そして、正極1は、正極活物質を含む粉末を焼成してなる正極焼結体10からなり、この正極焼結体10の固体電解質層3側表面に正極活物質の被覆層11を備える。また、被覆層11は、層状岩塩型構造を有すると共に正極焼結体10の表面にc軸配向していないことが好ましく、更に、正極1と固体電解質層3との間に界面抵抗を低減するためのLiNbO3からなる緩衝層4が設けられていることがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、負極、及び固体電解質層を有する非水電解質二次電池及びその製造方法に関する。特に、正極と固体電解質層との間でのリチウムイオンのやり取りをスムーズに行うことができ、内部抵抗を改善した非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池は、長寿命・高効率・高容量であり、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの電源に利用されている。
【0003】
非水電解質二次電池は、正極と負極との間で電解質層を介してリチウムイオンをやり取りすることによって、充放電が行われる。最近では、安全性を高めるため、有機溶媒電解液に代えて不燃性の無機固体電解質を用いた非水電解質二次電池が提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0004】
また、特許文献1〜4には、正極活物質の粉末を焼成することで作製した焼結体を正極に用いることが開示されている。一方、非特許文献1、2には、LiCoO2(正極活物質)と硫化物系固体電解質との界面における界面抵抗を低減することを目的として、静電噴霧法を用いて、LiCoO2粉末表面にLi4Ti5O12或いはLiNbO3の緩衝層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000‐164217号公報
【特許文献2】特開2007‐258148号公報
【特許文献3】特開2007‐258165号公報
【特許文献4】特開2007‐5279号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Advanced Materials、18(2006)2226
【非特許文献2】第32回固体イオニクス討論会講演予稿集、p.130‐131
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
固体電解質を用いた非水電解質二次電池は、電池を構成する材料が全て固体であるため、正極と固体電解質層との界面が固体同士の接合面となる。通常、焼結体からなる正極は、多孔質であるため、微視的に見れば、表面粗さが粗く、表面に無数の微細な孔が存在する。したがって、従来の非水電解質二次電池では、正極と固体電解質層との間に良好な接合界面を形成することが困難であるため、界面でのリチウムイオンの移動抵抗が大きくなり、その結果、電池の内部抵抗が増大する。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、正極と固体電解質層との間でのリチウムイオンのやり取りをスムーズに行うことができ、内部抵抗を改善した非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の非水電解質二次電池は、正極と負極、及びこれら正負極間に介在される固体電解質層を有する。そして、正極は、正極活物質を含む粉末を焼成してなる正極焼結体を備え、この正極焼結体の固体電解質層側の表面に正極活物質の被覆層を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、正極活物質を含む粉末を焼成して正極焼結体を形成する焼結工程と、この正極焼結体の固体電解質層側の表面に気相法を用いて正極活物質の被覆層を形成する被覆工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の非水電解質二次電池によれば、正極焼結体の固体電解質層側の表面に被覆層が形成されているので、被覆層が形成されていない焼結体を用いた従来の正極と比較して、正極の固体電解質層側表面を平滑でかつ緻密な表面構造とすることができる。したがって、正極と固体電解質層との間に良好な接合界面を形成することができ、界面でのリチウムイオンの移動抵抗(界面抵抗)が小さくなるため、正極と固体電解質層との間でリチウムイオンのやり取りをスムーズに行うことができる。
【0012】
被覆層は、平滑で緻密な層であり、正極焼結体に比べて、表面平滑性に優れている。このような被覆層は、気相法などを用いて形成することができる。気相法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、及びパルスレーザーデポジション法といった物理的蒸着(PVD)法や、化学的蒸着(CVD)法が挙げられる。また、平滑で緻密な層を形成するという観点では、気相法が最も適していると考えられるが、気相法以外にも、ゾルゲル法やスピンコート法などを用いて被覆層を形成してもよい。特に、被覆層の表面粗さは、Raで0.1μm以下であることが好ましい。但し、ここでいう表面粗さとは、JIS B 0601:2001による算術平均粗さ(Ra)の定義による。更に、被覆層は、正極焼結体の固体電解質層側表面を研磨し、正極焼結体の表面性状を高めた後、形成してもよい。
【0013】
正極焼結体及び被覆層を構成する正極活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4、LiMnO2)、ニッケルマンガン酸リチウム(LiNi0.5Mn0.5O2)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2)及び酸化マンガン(MnO2)などの酸化物、オリビン型鉄リン酸リチウム(LiFePO4)などのリン酸化合物、或いはこれらの混合物を利用することができる。その他、イオウ(S)や、硫化鉄(FeS)、二硫化鉄(FeS2)、硫化リチウム(Li2S)及び硫化チタニウム(TiS2)などの硫化物や、或いはこれらの混合物を利用してもよい。
【0014】
正極焼結体及び被覆層を構成する正極活物質には、異種のものを用いてもよい。正極焼結体及び被覆層を異種の正極活物質で構成する場合、例えば、正極焼結体を高容量或いは低コストのもので構成し、被覆層をリチウムイオンの移動抵抗の小さいもので構成することが挙げられる。具体的には、正極焼結体をLiMn2O4で構成し、被覆層をLiCoO2で構成することが挙げられる。
【0015】
また、正極焼結体及び被覆層には、導電助剤が含有されていてもよい。導電助剤としては、アセチレンブラックといったカーボンブラック、天然黒鉛、熱膨張黒鉛、炭素繊維、酸化ルテニウム、酸化チタン、アルミニウムやニッケルの金属繊維などを利用することができる。
【0016】
本発明において、被覆層が、層状岩塩型構造の化合物を含み、正極焼結体の表面にc軸配向していないことが好ましい。
【0017】
上記正極活物質のうち、層状岩塩型構造を有する化合物は、その結晶構造上、リチウムイオンの移動性が高く、電池の放電特性の向上に寄与する。特に、被覆層が層状岩塩型構造の化合物を含む場合、結晶構造が正極焼結体の表面にc軸配向していない方が、正極の固体電解質層側表面においてリチウムイオンの挿入・脱離が容易なため、界面抵抗がより小さくなる。ここで、正極焼結体の表面にc軸配向していないとは、正極焼結体の表面に対して結晶構造のc軸が傾斜しており、結晶構造がc軸方向よりもab軸方向に強く配向していることを意味する。特に、X線回折(XRD)測定によるピーク強度の比が(003)/(101)<2を満たすことが好ましい。
【0018】
中でも、層状岩塩型構造を有するLiCoO2、LiNiO2、又はこれらの混合物は、高電圧が得られ、電子及びリチウムイオン伝導性にも優れる点で、正極活物質として特に好適である。
【0019】
被覆層を構成する正極活物質の結晶構造を層状岩塩型構造とするには、上述の気相法を用いて被覆層を形成した後に被覆層をアニール処理することが挙げられる。この場合のアニール条件は、例えば、400〜700℃、1〜10時間とすることが好ましい。
【0020】
本発明において、被覆層の厚みが、0.02μm以上であることが好ましい。
【0021】
被覆層の厚みを0.02μm以上とすることで、十分な表面平滑性を有する被覆層が形成されるので、正極の固体電解質層側表面を平滑でかつ緻密な表面構造とし易い。なお、被覆層の厚みの上限は特に限定されないが、電池の薄型化や生産性という観点から、10μm以下が好ましい。
【0022】
本発明において、固体電解質層が、硫化物系固体電解質を含むことが好ましい。
【0023】
固体電解質層を構成する固体電解質としては、Li-P-S系やLi-P-S-O系の硫化物系固体電解質、Li-P-O系やLi-P-O-N系の酸化物系固体電解質を利用することができる。中でも、硫化物系固体電解質は、高いリチウムイオン伝導性を示すので、固体電解質層を構成する材料として好適である。具体的な硫化物系固体電解質としては、Li2SとP2S5を主成分とするLi2S‐P2S5系固体電解質の他、SiS2を含むLi2S‐P2S5‐SiS2系のもの、更にAl2S3を含むLi2S‐P2S5‐SiS2‐Al2S3系のもの、或いはP2O5を含むLi2S‐P2S5‐P2O5系のものが挙げられる。
【0024】
本発明において、正極と固体電解質層との間に界面抵抗を低減するための緩衝層が設けられていることが好ましい。
【0025】
例えば、正極活物質に酸化物、固体電解質層に硫化物を利用した場合、酸化物イオンが硫化物イオンに比べてリチウムイオンを強く引き付けるため、正極と固体電解質層と接合界面において、固体電解質層から正極にリチウムイオンが移動することがある。その結果、正極と接する固体電解質層の界面近傍において、電荷の偏りが起こり、電荷空乏層が形成されるため、界面抵抗が増大する。そこで、正極と固体電解質層との間に緩衝層を設けることで、界面抵抗を更に低減することができる。
【0026】
緩衝層を構成する材料としては、Li4Ti5O12、LiNbO3の他、LixLa(2-x)/3TiO3(x=0.1〜0.5)、Li7+xLa3Zr2O12+(x/2)(-5≦x≦3)、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li1.8Cr0.8Ti1.2(PO4)3、Li1.4In0.4Ti1.6(PO4)3、LiTaO3を利用することができる。
【0027】
緩衝層の厚みは、界面抵抗の低減効果を得るために、2nm以上が好ましく、また電池の薄型化や充放電時におけるリチウムイオンの移動性の確保という観点から、1μm未満が好ましい。本発明では、正極の固体電解質層側が表面平滑性に優れていることから、このような薄い緩衝層であっても、正極の固体電解質側表面を均一に被覆することが可能であり、界面抵抗を効果的に低減することができる。より好ましい緩衝層の厚みは、5nm以上50nm以下である。
【0028】
更に、緩衝層は、正極と固体電解質層との間に少なくとも一層設けられていればよく、従来技術のように個々の正極活物質の粉末表面に形成する必要がないため、生産性に優れ、正極の厚みも薄くすることができる。
【0029】
本発明において、被覆層が気相法により形成され、被覆層中に含まれるAr濃度が1原子%(at%)以下であることが好ましい。
【0030】
上述したように、平滑で緻密な層を形成するという観点から、被覆層は気相法を用いて形成することが好ましい。ところで一般的に、正極活物質の被覆層を気相法を用いて形成する場合、反応性に乏しいArガスを含むプラズマ中で被覆層を成膜することが行われる。しかし、本発明者らが鋭意研究した結果、被覆層中に含まれるAr濃度が高いと、充放電の繰り返しに伴い容量維持率が低下するとの知見を得た。そして、被覆層中のAr濃度が1at%以下の場合に、優れた充放電サイクル特性を発揮することが分かった。これは、詳細な理由は明らかではないが、被覆層中のAr濃度が1at%以下の場合、被覆層の強度が上昇し、充放電サイクル中に被覆層に亀裂が生じ難くなることが1つの理由と考えられる。
【0031】
被覆層中のAr濃度を1at%以下とするには、成膜室内の雰囲気圧力を低くして真空度を高めることが挙げられる。例えば、成膜時の雰囲気圧力を8Pa以下とすることが好ましい。
【0032】
その他、負極活物質としては、金属リチウム(Li金属単体)又はリチウム合金(Liと添加元素からなる合金)の他、グラファイトなどの炭素(C)や、シリコン(Si)、インジウム(In)を用いることができる。中でも、リチウムを含む材料、特に金属リチウムは、電池の高容量化、高電圧化の点で優位であり、好適である。リチウム合金の添加元素としては、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)及びインジウム(In)などを用いることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の非水電解質二次電池は、正極焼結体の固体電解質側表面に被覆層を備えることで、正極と固体電解質層との間の界面抵抗が小さく、正極と固体電解質層との間でリチウムイオンのやり取りをスムーズに行うことができる。その結果、電池の内部抵抗を低減することができる。
【0034】
また、本発明の非水電解質二次電池の製造方法によれば、内部抵抗を改善した非水電解質二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の非水電解質二次電池の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1は、本発明の非水電解質二次電池の一例を示す概略断面図である。本発明の非水電解質二次電池の基本構造は、図1に示すように、正極1、電解質層3、負極2を順に積層した構造である。また、正極1は、正極焼結体10からなり、この正極焼結体10の固体電解質層3側表面に被覆層11を備える構造である。この例では、正極1と固体電解質層3との間に更に緩衝層4が設けられた構成を示している。
【0037】
(実施例1)
図1に示す積層構造のリチウムイオン二次電池を作製して、充放電サイクル試験を行い、電池の内部抵抗について評価した。
【0038】
<電池の作製手順>
LiCoO2の粉末0.5gを秤量し、直径20mmの金型に入れ、300MPaの圧力で加圧して加圧成形体を得た。この加圧成形体を、電気炉に入れ、1100℃で6時間焼成することで正極焼結体10を作製した。この正極焼結体10の表面を研磨し、厚みを200μmとした。
【0039】
その後、正極焼結体10の上に、パルスレーザーデポジション法を用いて、LiCoO2からなる被覆層11を形成した後、500℃で3時間のアニール処理を行うことで、正極1を完成させた。このとき、被覆層11の形成は、被覆層11が形成される正極焼結体10の被覆面を蒸着源に対して60°傾斜させることで行った。また、被覆層11の厚みは1μmとした。この被覆層11のX線回折(XRD)を測定したところ、被覆層11は、層状岩塩型構造を有するLiCoO2からなり、その結晶構造が正極焼結体10の表面にc軸配向していないことが確認された。また、(003)の(101)に対するピーク強度比(003)/(101)は1.7であった。更に、この被覆層11の表面粗さRaを、JIS B 0601:2001に準拠して、表面粗さ測定器(Sloan社製、DEKTAK3030)を用いて測定したところ、20nmであった。
【0040】
正極1上に固体電解質層3を形成する前に、正極1(被覆層11)の上に、スパッタリング法を用いて、LiNbO3からなる緩衝層4を形成した。緩衝層4の厚みは20nmとした。
【0041】
次に、緩衝層4の上に、真空蒸着法を用いて、Li2S‐P2S5系固体電解質からなる固体電解質層3を形成した。固体電解質層3の厚みは10μmとした。
【0042】
次いで、固体電解質層3の上に、真空蒸着法を用いて、Li金属からなる負極活物質層を形成し、これを負極2とした。負極2の厚みは10μmとした。
【0043】
最後に、この積層体をケースに収容して、コイン型のリチウムイオン二次電池を完成させた。
【0044】
(実施例2)
実施例2として、被覆層11の結晶構造を正極焼結体10の表面にc軸配向させた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。このとき、被覆層11の形成は、被覆層11が形成される正極焼結体10の被覆面を蒸着源に対向させることで行った。また、被覆層11のピーク強度比(003)/(101)は2.8であり、被覆層11の表面粗さはRaで20nmであった。
【0045】
(比較例1)
比較例1として、被覆層11の形成及びアニール処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。このとき、正極1(正極焼結体10)の表面粗さはRaで310nmであった。なお、この表面粗さは、正極焼結体10の表面を研磨した後に測定した値である。
【0046】
<電池の評価>
実施例1、2及び比較例1の各電池について、カットオフ電圧:3V〜4.2V、電流密度:0.05mA/cm2の条件で充放電サイクル試験を実施し、放電開始後60秒間の電圧降下を測定することで、電池の内部抵抗値を算出した。
【0047】
その結果、実施例1、2の電池は、内部抵抗値がそれぞれ180Ωcm2、620Ωcm2であり、いずれも低抵抗であった。これに対し、比較例1の電池は、内部抵抗値が28000Ωcm2であり、高抵抗であった。
【0048】
以上の結果から、本発明の非水電解質二次電池は、正極焼結体10の固体電解質層3側表面に平滑性に優れる被覆層11を備えることで、正極1と固体電解質層3との間の界面抵抗を低減してリチウムイオンの移動をスムーズにし、内部抵抗を低減できることが分かる。また、被覆層11の結晶構造が正極焼結体10の表面に対してc軸配向していない方が、界面抵抗が小さく、内部抵抗をより低減できることが分かる。
【0049】
(実施例3)
被覆層11の厚みを変えた以外は実施例1と同様にして各電池を作製し、各電池について上記と同じ条件の充放電サイクル試験を実施して、各電池の内部抵抗値を算出した。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1の結果から、被覆層の厚みは0.02μm以上3.0μm以下が好ましいことが分かる。
【0052】
(実施例4)
被覆層を形成する際の成膜時の雰囲気圧力を変えることで被覆層中に含まれるAr濃度を変化させた各種リチウムイオン二次電池を作製し、被覆膜中のAr濃度と容量維持率との関係を調べた。
【0053】
ここでは、電池を次のようにして作製した。まず、実施例1の正極焼結体を用意し、この正極焼結体の上に、スパッタリング法を用いて、LiCoO2からなる厚さ1μmの被覆層を形成することで、正極を完成させた。このとき、被覆層の成膜は、真空排気した後にArガスと酸素ガスとの混合ガス(体積比 Arガス:酸素ガス=1:1)を導入して雰囲気圧力を1Paとした成膜室内で、500Wの電力を投入してArガスと酸素ガスとを含むプラズマ中で行った。また、正極焼結体の温度は室温(加熱無し)とした。この被覆層中のAr濃度を、エネルギー分散型蛍光X線分析法を用いて測定したところ、0.2at%であった。更に、この被覆層の表面粗さRaを、実施例1と同様にして測定したところ、20nmであった。
【0054】
次に、正極(被覆層)の上に、スパッタリング法を用いて、LiNbO3からなる緩衝層を形成した。緩衝層の厚みは0.02μmとした。
【0055】
次に、緩衝層の上に、真空蒸着法を用いて、Li2S‐P2S5系固体電解質からなる固体電解質層を形成した。固体電解質層の厚みは5μmとした。
【0056】
次いで、固体電解質層の上に、真空蒸着法を用いて、LiとSi(モル比 Li:Si=9:1)からなる負極活物質層を形成し、これを負極とした。負極の厚みは1μmとした。
【0057】
最後に、この積層体をケースに収容して、コイン型のリチウムイオン二次電池を完成させた。これを試料No.4-1とした。更に、被覆層を形成する際の成膜時の雰囲気圧力を変えた以外は同様にして、試料No.4-2〜No.4-4を作製した。各電池における被覆層成膜時の雰囲気圧力と被覆層中のAr濃度を表2に示す。
【0058】
各電池について上記と同じ条件で充放電サイクル試験を実施して、充電・放電を1サイクルとする10サイクル後の各電池の容量維持率を測定した。被覆層中のAr濃度(at%)と容量維持率(%)との関係を表2に示す。10サイクル後の容量維持率は、次式により求めた。
10サイクル後の容量維持率=(10サイクル時の放電容量/最大放電容量)
【0059】
【表2】

【0060】
表2の結果から、被覆層中のAr濃度は1.0at%以下が好ましいことが分かる。また、充放電サイクル試験後の各電池を解体して、各電池の被覆層を観察したところ、試料No.4-4の被覆層には亀裂が見られたのに対して、試料No.4-1〜No.4-3の被覆層には亀裂が見られなかった。なお、被覆層の亀裂は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することで確認した。
【0061】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、被覆層の厚みを適宜変更したり、正極活物質としてLiCoO2以外の材料を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の非水電解質二次電池は、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラの他、電気自動車などの電源に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 正極 10 正極焼結体 11 被覆層
2 負極
3 固体電解質層
4 緩衝層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極、及びこれら正負極間に介在される固体電解質層を有する非水電解質二次電池であって、
前記正極は、正極活物質を含む粉末を焼成してなる正極焼結体を備え、この正極焼結体の固体電解質層側の表面に正極活物質の被覆層を備えることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記被覆層が、層状岩塩型構造の化合物を含み、前記正極焼結体の表面にc軸配向していないことを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記被覆層の厚みが、0.02μm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記化合物が、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項2又は3に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記固体電解質層が、硫化物系固体電解質を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記正極と前記固体電解質層との間に界面抵抗を低減するための緩衝層が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記被覆層が、気相法により形成され、
前記被覆層中に含まれるAr濃度が1原子%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
正極と負極、及びこれら正負極間に介在される固体電解質層を有する非水電解質二次電池の製造方法であって、
正極活物質を含む粉末を焼成して正極焼結体を形成する焼結工程と、
前記正極焼結体の固体電解質層側の表面に気相法を用いて正極活物質の被覆層を形成する被覆工程と、
を含むことを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項9】
前記被覆層をアニール処理することを特徴とする請求項8に記載の非水電解質二次電池の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−272494(P2010−272494A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126039(P2009−126039)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】