説明

非水電解質二次電池負極材及びそれを用いた非水電解質二次電池

【課題】活物質としての酸化珪素粉末及び多結晶珪素粉末からなる負極材において、活物質中の多結晶珪素粉末の割合が50質量%を超えず、かつ負極材中に1〜20質量%の結着剤を含有することを特徴とする非水電解質二次電池負極材。
【解決手段】本発明によれば、酸化珪素の高い電池容量と低い体積膨張率を維持しつつ、酸化珪素の最大の解決課題であった低い初回充放電効率の問題を解決し、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池負極が得られる。また、活物質として上記酸化珪素を含む本発明の非水電解質二次電池負極材は、結着剤としてポリイミド樹脂を用いることによって、集電体との密着性に優れ、また初期効率が高く、充放電時の体積変化が緩和されて繰り返しによるサイクル特性及び効率が良好な非水電解質二次電池が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池用の負極材に関するものであり、特に酸化珪素からなる負極活物質として、多結晶珪素を含有する非水電解質二次電池負極材に関するものである。また、本発明はこの負極材を用いた非水電解質二次電池用負極及び非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の非水電解質二次電池が強く要望されている。従来、この種の非水電解質二次電池の高容量化策として、例えば、負極材料にB,Ti,V,Mn,Co,Fe,Ni,Cr,Nb,Mo等の酸化物及びそれらの複合酸化物を用いる方法(特許第3008228号公報、特許第3242751号公報:特許文献1,2)、熔湯急冷したM100-xSix(x≧50at%,M=Ni,Fe,Co,Mn)を負極材として適用する方法(特許第3846661号公報:特許文献3)、負極材料に酸化珪素を用いる方法(特許第2997741号公報:特許文献4)、負極材料にSi22O,Ge22O及びSn22Oを用いる方法(特許第3918311号公報:特許文献5)等が知られている。
【0003】
珪素は現在実用化されている炭素材料の理論容量372mAh/gより遙かに高い理論容量4,200mAh/gを示すことから、電池の小型化と高容量化において最も期待される材料である。珪素はその製法により結晶構造の異なった種々の形態が知られている。例えば、特許第2964732号公報(特許文献6)では単結晶珪素を負極活物質の支持体として使用したリチウムイオン二次電池を開示しており、特許第3079343号公報(特許文献7)では単結晶珪素、多結晶珪素及び非晶質珪素のLixSi(但し、xは0〜5)なるリチウム合金を使用したリチウムイオン二次電池を開示しており、特に非晶質珪素を用いたLixSiが好ましく、モノシランをプラズマ分解した非晶質珪素で被覆した結晶性珪素の粉砕物が例示されている。しかしながら、この場合においては、実施例にあるように珪素分は30部、導電剤としてのグラファイトを55部使用しており、珪素の電池容量を十分発揮させることができなかった。
【0004】
また、負極材に導電性を付与する目的として、酸化珪素を例とする金属酸化物と黒鉛とをメカニカルアロイング後、炭化処理する方法(特開2000−243396号公報:特許文献8)、Si粒子表面を化学蒸着法により炭素層で被覆する方法(特開2000−215887号公報:特許文献9)、酸化珪素粒子表面を化学蒸着法により炭素層で被覆する方法(特開2002−42806号公報:特許文献10)がある。粒子表面に炭素層を設けることによって導電性を改善することはできるが、珪素負極の克服すべき課題である充放電に伴う大きな体積変化の緩和、これに伴う集電性の劣化とサイクル特性低下を防止することはできなかった。
【0005】
このため近年では、珪素の電池容量利用率を制限して体積膨張を抑制する方法(特開2000−215887号公報、特開2000−173596号公報、特許第3291260号公報、特開2005−317309号公報:特許文献9,11〜13)、あるいは多結晶粒子の粒界を体積変化の緩衝帯とする方法としてアルミナを添加した珪素融液を急冷(特開2003−109590号公報:特許文献14)、α,β−FeSi2の混相多結晶体からなる多結晶粒子(特開2004−185991号公報:特許文献15)、単結晶珪素インゴットの高温塑性加工(特開2004−303593号公報:特許文献16)が開示されている。
【0006】
珪素活物質の積層構造を工夫することで体積膨張を緩和する方法も開示されており、例えば珪素負極を2層に配置する方法(特開2005−190902号公報:特許文献17)、炭素や他金属及び酸化物で被覆あるいはカプセル化して粒子の崩落を抑制する方法(特開2005−235589号公報、特開2006−216374号公報、特開2006−236684号公報、特開2006−339092号公報、特許第3622629号公報、特開2002−75351号公報、特許第3622631号公報:特許文献18〜24)等が開示されている。また、集電体に直接珪素を気相成長させる方法において、成長方向を制御することで体積膨張によるサイクル特性の低下を抑制する方法も開示されている(特開2006−338996号公報:特許文献25)。
【0007】
以上のように、珪素表面を炭素被覆して導電化したり非晶質金属層で被覆したりするなどして負極材のサイクル特性を高めるという方法では珪素本来の電池容量の半分程度を発揮できるにすぎず、更なる高容量化が求められていた。また、結晶粒界を持つ多結晶珪素では、開示された方法では冷却速度の制御が困難であり、安定した物性を再現することが難しかった。
【0008】
一方、酸化珪素はSiOx(但し、xは酸化被膜のため理論値の1よりわずかに大きい)と表記することができるが、X線回折による分析では数nm〜数十nm程度のアモルファスシリコンがシリカ中に微分散している構造をとっている。このため、電池容量は珪素と比較して小さいものの炭素と比較すれば質量あたりで5〜6倍と高く、更には体積膨張も小さく、負極活物質として使用しやすいと考えられていた。しかしながら、酸化珪素は不可逆容量が大きく、初期効率が70%程度と非常に低いため実際に電池を作製した場合では正極の電池容量を過剰に必要とし、活物質あたり5〜6倍の容量増加分に見合うだけの電池容量の増加を期待することができなかった。
【0009】
酸化珪素の実用上の問題点は著しく初期効率が低い点にあり、これを解決する手段としては不可逆容量分を補充する方法、不可逆容量を抑制する方法が挙げられる。例えばLi金属をあらかじめドープすることで、不可逆容量分を補う方法が有効であることが報告されている。しかしながらLi金属をドープするためには負極活物質表面にLi箔を貼り付ける方法(特開平11−086847号公報:特許文献26)、及び負極活物質表面にLi蒸着する方法(特開2007−122992号公報:特許文献27)等が開示されているが、Li箔の貼り付けでは酸化珪素負極の初期効率に見合ったLi薄体の入手が困難、かつ高コストであり、Li蒸気による蒸着は製造工程が複雑となって実用的でない等の問題があった。
【0010】
一方、LiドープによらずにSiの質量割合を高めることで初期効率を増加させる方法が開示されている。ひとつには珪素粉末を酸化珪素粉末に添加して酸化珪素の質量割合を減少させる方法であり(特許第3982230号公報:特許文献28)、他方では酸化珪素の製造段階において珪素蒸気を同時に発生、析出することで珪素と酸化珪素の混合固体を得る方法である(特開2007−290919号公報:特許文献29)。しかしながら、珪素は酸化珪素と比較して高い初期効率と電池容量を併せ持つが、充電時に400%もの体積膨張率を示す活物質であり、酸化珪素と炭素材料の混合物に添加する場合であっても、酸化珪素の体積膨張率を維持することができない上、結果的に炭素材料を20質量%以上添加して電池容量が1000mAh/gに抑えることが必要であった。一方、珪素と酸化珪素の蒸気を同時に発生させて混合固体を得る方法では、珪素の蒸気圧が低いことから、2000℃を超える高温での製造工程を必要とし、作業上問題があった。
【0011】
以上のように、珪素系活物質は金属単体及びその酸化物であっても、それぞれ解決課題を有しており、実用上問題となっていた。十分にLiの吸蔵、放出に伴う体積変化の抑制、粒子の割れによる微粉化や集電体からの剥離による導電性の低下を緩和することが可能であり、大量生産が可能で、コスト的有利であって、かつ携帯電話用等の特に繰り返しのサイクル特性を重要視される用途に適応することが可能な負極活物質が望まれていた。
【0012】
【特許文献1】特許第3008228号公報
【特許文献2】特許第3242751号公報
【特許文献3】特許第3846661号公報
【特許文献4】特許第2997741号公報
【特許文献5】特許第3918311号公報
【特許文献6】特許第2964732号公報
【特許文献7】特許第3079343号公報
【特許文献8】特開2000−243396号公報
【特許文献9】特開2000−215887号公報
【特許文献10】特開2002−42806号公報
【特許文献11】特開2000−173596号公報
【特許文献12】特許第3291260号公報
【特許文献13】特開2005−317309号公報
【特許文献14】特開2003−109590号公報
【特許文献15】特開2004−185991号公報
【特許文献16】特開2004−303593号公報
【特許文献17】特開2005−190902号公報
【特許文献18】特開2005−235589号公報
【特許文献19】特開2006−216374号公報
【特許文献20】特開2006−236684号公報
【特許文献21】特開2006−339092号公報
【特許文献22】特許第3622629号公報
【特許文献23】特開2002−75351号公報
【特許文献24】特許第3622631号公報
【特許文献25】特開2006−338996号公報
【特許文献26】特開平11−086847号公報
【特許文献27】特開2007−122992号公報
【特許文献28】特許第3982230号公報
【特許文献29】特開2007−290919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、酸化珪素の高い電池容量と低い体積膨張率を維持しつつ、初回充放電効率が高く、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池負極用として有効な活物質としての酸化珪素粒子を含む負極材、並びにこの負極材を用いた非水電解質二次電池負極を提供し、更に新規な非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは炭素材料の電池容量を上回る活物質であって、珪素系負極活物質特有の体積膨張変化が小さく、かつ珪素酸化物の欠点であった初回充放電効率を低減することが可能な珪素活物質について検討した。その結果、酸化珪素と多結晶珪素粒子をともに活物質として用いることで上記課題が解決されることを見出した。
該多結晶珪素を添加しても一般の珪素に見られるような400%を超えるような体積膨張は観測されず、ほぼ酸化珪素と同程度の体積膨張率を維持することがわかった。このため体積当たりの電池容量が増加するほか、導電剤の添加や被覆によって導電性を向上させることができる上、炭素を蒸着することで導電性が向上するとともに、ポリイミド樹脂を結着剤として採用することによって充放電による膨張・収縮が繰り返されても負極材の破壊・粉化が防止でき、電極自体の導電性が低下せず、この負極材を非水電解質二次電池として用いた場合、サイクル特性が良好な非水電解質二次電池が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
従って、本発明は、下記非水電解質二次電池負極材、負極、及び二次電池を提供する。
請求項1:
活物質としての酸化珪素粉末及び多結晶珪素粉末からなる負極材において、活物質中の多結晶珪素粉末の割合が50質量%を超えず、かつ負極材中に1〜20質量%の結着剤を含有することを特徴とする非水電解質二次電池負極材。
請求項2:
前記酸化珪素粉末及び/又は多結晶珪素粉末が炭素被覆されてなることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池負極材。
請求項3:
多結晶珪素粒子が、X線回折パターンの分析において2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線の半値全幅よりシェラー法(Scherrer法)で求められる該結晶子サイズが20nm以上34nm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の非水電解質二次電池負極材。
請求項4:
多結晶珪素粒子の真比重が2.300〜2.320であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の非水電解質二次電池負極材。
請求項5:
多結晶珪素粒子が、シランガスを原料として1,000℃以下の熱分解により得られたものである請求項1乃至4のいずれか1項記載の非水電解質二次電池負極材。
請求項6:
多結晶珪素粒子が、シランガスの熱分解を流動層にて行うことにより得られた粒状多結晶珪素であることを特徴とする請求項5記載の非水電解質二次電池負極材。
請求項7:
シランガスが、シラン又はクロロシランであることを特徴とする請求項5又は6記載の非水電解質二次電池負極材。
請求項8:
多結晶珪素粒子のメジアン径D50が0.1〜20μmであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の非水電解質二次電池負極材。
請求項9:
結着剤がポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の非水電解質二次電池負極材。
請求項10:
請求項1乃至9のいずれか1項記載の非水電解質二次電池負極材を含む負極材であって、充電前後の体積変化が2倍を超えないことを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
請求項11:
請求項10記載の非水電解質二次電池用負極を用いた負極成型体と、正極成型体、セパレーター及び非水電解質とを備えた非水電解質二次電池。
請求項12:
非水電解質二次電池がリチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項11記載の非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸化珪素の高い電池容量と低い体積膨張率を維持しつつ、酸化珪素の最大の解決課題であった低い初回充放電効率の問題を解決し、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池負極が得られる。また、活物質として上記酸化珪素を含む本発明の非水電解質二次電池負極材は、結着剤としてポリイミド樹脂を用いることによって、集電体との密着性に優れ、また初期効率が高く、充放電時の体積変化が緩和されて繰り返しによるサイクル特性及び効率が良好な非水電解質二次電池が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の非水電解質二次電池負極材は、酸化珪素を主成分とする活物質からなる負極材料であって、多結晶珪素粒子を含有し、更に結着剤を配合して構成される。
【0018】
本発明において酸化珪素とは、通常、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した酸化珪素ガスを冷却・析出して得られた非晶質珪素酸化物であり、一般式SiOxで表され、xの範囲は1.0≦x<1.6とすることができる。二酸化珪素と金属珪素のモル比は概ね1:1であり、減圧条件下にて1,100〜1,500℃の範囲で酸化珪素ガスが発生し、500〜1,100℃程度の析出室にて凝固捕集される。一般的には1.0≦x≦1.2である。
【0019】
製造された酸化珪素は更に粉砕されて使用される。粒子径はレーザー回折散乱式粒度分布測定法によって、その粒度分布を管理することができる。その粒子の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが10%、50%、90%となる点の粒子径をそれぞれ10%径、50%径、90%径(μm)として評価することができるが、本発明においては、特に50%径の累積中位径D50(メジアン径)として測定した値をもって評価した。メジアン径D50が0.1μm以上50μm以下であって、好ましくは1μm以上20μm以下である。D50が小さすぎると比表面積が大きく、負極塗膜密度が小さくなりすぎる場合があり、大きすぎると負極膜を貫通してショートする原因となる。
【0020】
酸化珪素を所定の粒子径とするためには、公知の粉砕機と分級機が用いられる。粉砕機は、例えば、ボール、ビーズ等の粉砕媒体を運動させ、その運動エネルギーによる衝撃力や摩擦力、圧縮力を利用して被砕物を粉砕するボールミル、媒体撹拌ミルや、ローラによる圧縮力を利用して粉砕を行うローラミルや、被砕物を高速で内張材に衝突もしくは粒子相互に衝突させ、その衝撃による衝撃力によって粉砕を行うジェットミルや、ハンマー、ブレード、ピン等を固設したローターの回転による衝撃力を利用して被砕物を粉砕するハンマーミル、ピンミル、ディスクミルや、剪断力を利用するコロイドミルや高圧湿式対向衝突式分散機「アルティマイザー」等が用いられる。粉砕は、湿式、乾式共に用いられる。また、粉砕後に粒度分布を整えるため、乾式分級や湿式分級もしくはふるい分け分級が用いられる。乾式分級は、主として気流を用い、分散、分離(細粒子と粗粒子の分離)、捕集(固体と気体の分離)、排出のプロセスが逐次もしくは同時に行われ、粒子相互間の干渉、粒子の形状、気流の流れの乱れ、速度分布、静電気の影響等で分級効率を低下させないように、分級をする前に前処理(水分、分散性、湿度等の調整)を行うか、使用される気流の水分や酸素濃度を調整して用いられる。また、乾式で分級機が一体となっているタイプでは、一度に粉砕、分級が行われ、所望の粒度分布とすることが可能となる。
【0021】
更に、予め所定の粒度まで粉砕した上記酸化珪素粒子を化学蒸着処理あるいはメカニカルアロイングによって炭素蒸着を行うことができる。
【0022】
常圧下又は減圧下で600〜1,200℃の温度、好ましくは800〜1,100℃で炭化水素系化合物ガス及び/又は蒸気を導入して公知の熱化学蒸着処理等を施すことにより、粒子表面にカーボン膜を形成し、それと同時に、珪素−炭素層の界面に炭化珪素層が形成された珪素複合体粒子としてもよい。炭化水素系化合物としては上記熱処理温度で熱分解して炭素を生成するものが選択され、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の他、エチレン、プロピレン、ブチレン、アセチレン等の炭化水素の単独もしくは混合物、あるいは、メタノール、エタノール等のアルコール化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環乃至3環の芳香族炭化水素もしくはこれらの混合物が挙げられる。また、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油も単独もしくは混合物として用いられる。
【0023】
なお、酸化珪素粉末に炭素被覆する場合、炭素被覆量は炭素被覆された酸化珪素粉末中1〜50質量%、特に5〜20質量%であることが好ましい。
【0024】
一方、珪素には結晶性の違いにより単結晶珪素、多結晶珪素、非晶質珪素、あるいは純度の違いにより金属珪素とよばれるケミカルグレード珪素、冶金グレード珪素が知られている。特に本発明では、多結晶珪素を添加することが好ましい。多結晶珪素は、部分的な規則性を持っている結晶である。一方、非晶質珪素は、Si原子がほとんど規則性をもたない配列をしており、網目構造をとっている点で異なるが、加熱エージングすることにより非晶質珪素を多結晶珪素とすることができるので使用することが可能である。多結晶珪素は配向の異なった比較的大きな結晶粒からなり、それぞれの結晶粒の間に結晶粒界が存在する。多結晶珪素は、無機化学全書第XII−2巻ケイ素(丸善(株))184頁に記載されているように、モノシランあるいはトリクロロシランから合成することができる。多結晶珪素の工業的な製法は析出反応器(ベルジャー)の中でモノシランあるいはトリクロロシランを熱分解し、珪素ロッド状に堆積させるシーメンス法、コマツ−ASiMI社法が現在主流であるが、流動層反応器を使用して珪素粒子表面に多結晶珪素を成長させることで製造されるエチル社法も行われている。また、金属珪素を溶融し、一方向凝固によって不純物を偏折させ純度を向上させる方法で多結晶珪素を製造する方法や、溶融珪素を急冷することで多結晶珪素を得る方法もある。このようにして合成した多結晶珪素は結晶粒のサイズや配向性によって電気伝導度や残留歪が異なっていることが知られている。
【0025】
本発明に特に有用な多結晶珪素は、シランガス、即ちシラン又はクロロシランを用いて特に1000℃以下の低温領域での熱分解を行い、結晶成長させた多結晶珪素である。製造方法としては、上記のシーメンス法、コマツ−ASiMI社法やエチル社法が挙げられるが、珪素ロッド表面上に多結晶珪素を析出させるシーメンス法、コマツ−ASiMI社法では回分式の製造法となり、ロッド表面に成長した多結晶珪素の再結晶化が進行し、比較的大きな結晶粒を形成しやすい。
一方、エチル社法として知られている流動層反応器を使用する場合には、多結晶珪素を粒子表面に成長させることで反応比表面積を大きくとることができるため生産性も高く、気−固間の伝熱に優れ、反応器内の熱分布が均一であるという特徴がある。また、流動層の線速に対応する特定の粒子径に成長した多結晶珪素粒子は、反応器内部から排出されるため連続反応が可能であるばかりでなく、結晶子の成長も緩慢であることから比較的小さな結晶粒を形成しやすい。
【0026】
上記の製造方法で使用されるシラン又はクロロシランとしては、モノシラン、ジシラン、モノクロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン等が挙げられる。モノシランを用いた多結晶珪素のロッド上への成長温度は850℃付近であり、トリクロロシランの場合では1,100℃付近であることから、特に1,000℃以下で熱分解可能なモノシラン、ジクロロシランが好ましい。一方、モノシランを用いた流動層法では更に低温の600〜800℃で行われるが、高温での運転では気相中で分解成長した微小粒子が形成されるため、概ね650℃前後で操業される。モノシランあるいはジクロロシランを原料ガスとして用いることによって反応炉温度を比較的低温に保持することができ、反応装置として流動層反応器を使用することで、反応層内部の滞留時間が少なく、堆積した多結晶珪素の結晶成長が緩慢となることで、非常に緻密な結晶粒が形成され、しかもそれぞれの結晶粒は粒子の堆積によって生じた微細な空隙が形成される。この微細な空隙が充電時の体積膨張を緩和し、割れを抑制する要因と考えられる。
【0027】
多結晶珪素の結晶粒の物理的な尺度としては、X線回折による結晶子の測定が有効である。結晶子径はX線回折パターンの分析において、2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線の半値全幅よりシェラー法(Scherrer法)で求められる。モノシランによって製造された多結晶珪素の結晶子サイズは、概ね20〜34nmであり、トリクロロシランから製造された結晶子サイズは35〜40nmとなり、結晶子サイズの増大が観測される。一方、金属珪素や一方向凝固法、急冷法、高温塑性加工法等により製造された多結晶珪素の結晶子サイズは40〜45nmであって、本発明の非水電解質二次電池には好ましくない。
【0028】
更に、上記の流動層反応器で製造された多結晶珪素の比重は、概ね2.300〜2.320を示し、単結晶珪素と比較して非常に低い値を示すことから、アモルファス性の高い結晶構造を有していることが推測される。一方、トリクロロシランを用いてシーメンス法で製造された多結晶珪素、モノシランを使用したコマツ−ASiMI法により製造された多結晶珪素及び金属珪素の比重は2.320〜2.340であって、単結晶珪素とほぼ同程度の値を示し、粒子内部が緻密な結晶構造を有する。
【0029】
なお、上記の方法で製造された多結晶珪素には、水素原子が化学結合しているため、しばしば、1,000〜1,200℃で2〜4時間程度の短時間で加熱処理することにより珪素の純度を向上させることができる。この場合、加熱処理前後での水素含有量は、通常、処理前600〜1,000ppm程度から、加熱処理によって30ppm以下とすることができる。なお、本発明の負極材には、加熱処理を行って水素含有量が30ppm以下としたもののほうが好ましい。
【0030】
該多結晶珪素粒子は酸化珪素粒子と同様に炭素被覆されているものであっても良い。導電性の向上により、サイクル特性の向上と電池容量の向上が期待できる。なお、炭素被覆量は、炭素被覆された多結晶珪素粉末中に0.1〜20質量%、特に1〜10質量%が好ましい。
【0031】
多結晶珪素は所望の粒子径に粉砕されて使用される。粉砕方法は酸化珪素と同様に行うことができるが、その粒子径はメジアン径D50が0.1μm以上50μm以下であって、好ましくは0.1μm以上10μm以下である。粒子径が大きすぎると体積膨張が増加する傾向が見られる場合があり、好ましくない。
【0032】
上記多結晶珪素粒子を含む酸化珪素粉末は、これを非水電解質二次電池負極の負極活物質として用いることができ、現行のグラファイト等と比較して高容量であり、酸化珪素単品と比較して初期効率が高く、珪素そのものと比較して充放電に伴う体積変化が小さくコントロールされ、粒子と結着剤間の接着性も優れることなどより、サイクル特性の優れた非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0033】
活物質中の多結晶Si含有量は1〜50質量%が好ましく、より好ましくは5〜30質量%、更に好ましくは10〜30質量%である。50質量%を超えると、体積膨張率を維持することが困難となり好ましくない。
【0034】
活物質として、多結晶珪素粒子を含む酸化珪素の負極材を用いて負極を作製する場合、結着剤としてはポリイミド樹脂、特に芳香族ポリイミド樹脂を好適に採用し得る。芳香族ポリイミド樹脂は耐溶剤性に優れ、充放電による体積膨張に追随して集電体からの剥離や活物質の分離を抑制することができるため好ましい。
【0035】
芳香族ポリイミド樹脂は、一般に有機溶剤に対して難溶性であり、特に電解液に対して膨潤あるいは溶解しないことが必要である。このため一般的に高沸点の有機溶剤、例えばクレゾール等に溶解するのみであることから、電極ペーストの作製にはポリイミドの前駆体であって、種々の有機溶剤、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジオキソランに比較的易溶であるポリアミック酸の状態で添加し、300℃以上の温度で長時間加熱処理することにより、脱水、イミド化させて結着剤とする。
【0036】
この場合、芳香族ポリイミド樹脂としては、テトラカルボン酸二無水物とジアミンより構成される基本骨格を有するが、具体例としては、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物及びシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸二無水物がある。
【0037】
また、ジアミンとしては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2,3−ジアミノナフタレン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジ(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等の芳香族ジアミン、脂環式ジアミン、脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0038】
ポリアミック酸中間体の合成方法としては、通常は溶液重合法が用いられる。溶液重合法に使用される溶剤としては、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルホスホルアミド及びブチロラクトン等が挙げられる。これらは単独でも又は混合して使用してもよい。
【0039】
反応温度は、通常、−20〜150℃の範囲内であるが、特に−5〜100℃の範囲が望ましい。
【0040】
更に、ポリアミック酸中間体をポリイミド樹脂に転化するには、通常は、加熱により脱水閉環する方法がとられる。この加熱脱水閉環温度は140〜400℃、好ましくは150〜250℃の任意の温度を選択できる。この脱水閉環に要する時間は、上記反応温度にもよるが30秒間〜10時間、好ましくは5分間〜5時間が適当である。
【0041】
このようなポリイミド樹脂としては、ポリイミド樹脂粉末のほか、ポリイミド前駆体のN−メチルピロリドン溶液等が入手できるが、例えばU−ワニスA、U−ワニスS、UIP−R、UIP−S(宇部興産(株)製)やKAYAFLEX KPI−121(日本化薬(株)製)、リカコートSN−20、PN−20、EN−20(新日本理化(株)製)が挙げられる。
【0042】
また、上記結着剤の配合量は、負極材中に1〜20質量%の割合が好ましい。より好ましくは3〜15質量%であって、結着剤が少なすぎると負極活物質が分離してしまう場合があり、多すぎると空隙率が減少して絶縁膜が厚くなり、Liイオンの移動を阻害する場合がある。
【0043】
負極材を作製する場合、黒鉛等の導電剤を添加することができる。この場合、導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよく、具体的にはAl,Ti,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag,Sn,Si等の金属粉末や金属繊維、又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粉末、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛等を用いることができる。これらの導電剤は、予め水あるいはN−メチル−2−ピロリドン等の溶剤の分散物を作製し、添加することで、珪素粒子に均一に付着、分散した電極ペーストを作製することができることから、上記溶剤分散物として添加することが好ましい。なお、導電剤は上記溶剤に公知の界面活性剤を用いて分散を行うことができる。また、導電剤に用いる溶剤は、結着剤に用いる溶剤と同一のものであることが望ましい。
【0044】
導電剤の添加量は、その上限は負極材中50質量%以下(負極材あたりの電池容量は概ね1000mAh/g以上となる)であり、好ましくは1〜30質量%、特に1〜10質量%である。導電剤量が少ないと、負極材の導電性に乏しい場合があり、初期抵抗が高くなる傾向がある。一方、導電剤量の増加は電池容量の低下につながるおそれがある。
【0045】
また、上記ポリイミド樹脂結着剤の他に、粘度調整剤としてカルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ソーダ、その他のアクリル系ポリマーあるいは脂肪酸エステル等を添加してもよい。
【0046】
本発明の非水電解質二次電池負極材は、例えば以下のように負極成型体とすることができる。即ち、上記負極活物質と、導電剤と、結着剤と、その他の添加剤とに、N−メチルピロリドンあるいは水等の結着剤の溶解、分散に適した溶剤を混練してペースト状の合剤とし、該合剤を集電体にシート状に塗布する。この場合、集電体としては、銅箔、ニッケル箔等、通常、負極の集電体として使用されている材料であれば、特に厚さ、表面処理の制限なく使用することができる。なお、合剤をシート状に成形する成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0047】
なお、本発明の負極材は、充電前後の体積変化が2倍を超えないもの、特に1.0〜1.8倍、とりわけ1.0〜1.6倍であるものが好ましく、このような体積変化の小さい負極材は上記酸化珪素と活物質中に50質量%を超えない多結晶粒子を採用し、更に結着剤を使用することにより得られる。ここで、上記充電前後の体積変化の測定は、後述する実施例に記載の<電池特性の確認>に基づくものである。
【0048】
このようにして得られた負極成型体を用いることにより、非水電解質二次電池を製造することができる。この場合、非水電解質二次電池は、上記負極活物質を用いる点に特徴を有し、その他の正極、セパレーター、電解液、電解質等の材料及び電池形状等は限定されない。
【0049】
正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び離脱することが可能な酸化物あるいは硫化物等が挙げられ、これらのいずれか1種又は2種以上が用いられる。具体的には、TiS2、MoS2、NbS2、ZrS2、VS2あるいはV25、MoO3及びMg(V382等のリチウムを含有しない金属硫化物もしくは酸化物、又はリチウム及びリチウムを含有するリチウム複合酸化物が挙げられ、また、NbSe2等の複合金属も挙げられる。中でも、エネルギー密度を高くするには、LipMetO2を主体とするリチウム複合酸化物が好ましい。なお、Metは、コバルト、ニッケル、鉄及びマンガンのうちの少なくとも1種が好ましく、pは、通常、0.05≦p≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム複合酸化物の具体例としては、層構造を持つLiCoO2、LiNiO2、LiFeO2、LiqNirCo1-r2(但し、q及びrの値は電池の充放電状態によって異なり、通常、0<q<1、0.7<r≦1)、スピネル構造のLiMn24及び斜方晶LiMnO2が挙げられる。更に高電圧対応型として置換スピネルマンガン化合物としてLiMetsMn1-s4(0<s<1)も使用されており、この場合のMetはチタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛等が挙げられる。
【0050】
なお、上記のリチウム複合酸化物は、例えば、リチウムの炭酸塩、硝酸塩、酸化物あるいは水酸化物と、遷移金属の炭酸塩、硝酸塩、酸化物あるいは水酸化物とを所望の組成に応じて粉砕混合し、酸素雰囲気中において600〜1,000℃の範囲内の温度で焼成することにより調製することができる。
【0051】
更に、正極活物質としては有機物も使用することができる。例示すると、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセン、ポリスルフィド化合物等である。
【0052】
以上の正極活物質は負極合材に使用した導電剤や結着剤と共に混練して集電体に塗布され、公知の方法により正極成型体とすることができる。
【0053】
正極と負極の間に用いられるセパレーターは電解液に対して安定であり、保液性に優れていれば特に制限はないが、一般的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン及びこれらの共重合体やアラミド樹脂等の多孔質シート又は不織布が挙げられる。これらは単層あるいは多層に重ね合わせて使用してもよく、表面に金属酸化物等のセラミックスを積層してもよい。また、多孔質ガラス、セラミックス等も使用される。
【0054】
本発明に使用される非水電解質二次電池用溶媒としては、非水電解液として使用できるものであれば特に制限はない。一般にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性高誘電率溶媒や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,3−ジオキソラン、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、アニソール、メチルアセテート等の酢酸エステル類あるいはプロピオン酸エステル類等の非プロトン性低粘度溶媒が挙げられる。これらの非プロトン性高誘電率溶媒と非プロトン性低粘度溶媒を適当な混合比で併用することが望ましい。更には、イミダゾリウム、アンモニウム、及びピリジニウム型のカチオンを用いたイオン液体を使用することができる。対アニオンは特に限定されるものではないが、BF4-、PF6-、(CF3SO22-等が挙げられる。イオン液体は前述の非水電解液溶媒と混合して使用することが可能である。
【0055】
固体電解質やゲル電解質とする場合には、シリコーンゲル、シリコーンポリエーテルゲル、アクリルゲル、シリコーンアクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリ(ビニリデンフルオライド)等を高分子材料として含有することが可能である。なお、これらは予め重合していてもよく、注液後重合してもよい。これらは単独もしくは混合物として使用可能である。
【0056】
電解質塩としては、例えば、軽金属塩が挙げられる。軽金属塩にはリチウム塩、ナトリウム塩、あるいはカリウム塩等のアルカリ金属塩、又はマグネシウム塩あるいはカルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、又はアルミニウム塩等があり、目的に応じて1種又は複数種が選択される。例えば、リチウム塩であれば、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、CF3SO3Li、(CF3SO22NLi、C49SO3Li、CF3CO2Li、(CF3CO22NLi、C65SO3Li、C817SO3Li、(C25SO22NLi、(C49SO2)(CF3SO2)NLi、(FSO264)(CF3SO2)NLi、((CF32CHOSO22NLi、(CF3SO23CLi、(3,5−(CF32634BLi、LiCF3、LiAlCl4あるいはC4BO8Liが挙げられ、これらのうちのいずれか1種又は2種以上が混合して用いられる。
【0057】
非水電解液の電解質塩の濃度は、電気伝導度の点から、0.5〜2.0mol/Lが好ましい。なお、この電解質の温度25℃における導電率は0.01S/cm以上であることが好ましく、電解質塩の種類あるいはその濃度により調整される。
【0058】
更に、非水電解液中には必要に応じて各種添加剤を添加してもよい。例えば、サイクル寿命向上を目的としたビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、4−ビニルエチレンカーボネート等や、過充電防止を目的としたビフェニル、アルキルビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、ジフェニルエーテル、ベンゾフラン等や、脱酸や脱水を目的とした各種カーボネート化合物、各種カルボン酸無水物、各種含窒素及び含硫黄化合物が挙げられる。
【0059】
非水電解質二次電池の形状は任意であり、特に制限はない。一般的にはコイン形状に打ち抜いた電極とセパレーターを積層したコインタイプ、電極シートとセパレーターをスパイラル状に捲回した角型あるいは円筒型等の電池が挙げられる。
【実施例】
【0060】
以下、製造例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。下記の例において%は質量%を示し、粒子径はレーザー光回折法による粒度分布測定装置によって測定したメジアン径D50を示す。
【0061】
[酸化珪素粉末1の作製]
二酸化珪素粉末(BET比表面積=200m2/g)とケミカルグレード金属珪素粉末(BET比表面積=4m2/g)を等モルの割合で混合した混合粉末を、1,350℃、0.1Torrの高温減圧雰囲気で熱処理し、発生した酸化珪素ガスを1,000℃に保持したSUS製基体に析出させた。次にこの析出物を回収した後、ジョークラッシャーで粗砕した。この粗砕物をジェットミル(ホソカワミクロン社製AFG−100)を用いて分級機の回転数9,000rpmにて粉砕し、D50=7.6μm、D90=11.9μmの酸化珪素粉末(SiOx:x=1.02)をサイクロンにて回収した。
【0062】
[酸化珪素粉末2の作製]
前記酸化珪素粉末1をロータリーキルン型の反応器を用いて、メタン−アルゴン混合ガス通気下で1,000℃、平均滞留時間約2時間の条件で熱CVDを行った。運転終了後、冷却し黒色粉末を回収した。得られた黒色粉末の蒸着炭素量は炭素被覆された酸化珪素中に5.1質量%であった。
【0063】
[多結晶珪素粉末1〜4の作製]
内温800℃の流動層内に多結晶珪素微粒子を導入し、モノシランを送入することで製造した粒状多結晶珪素をジェットミル(ホソカワミクロン社製AFG−100)を用いて分級機の回転数7,200rpmにて粉砕した後、分級機(日清エンジニアリング社製TC−15)にて分級することで、D50=0.5μm、6.1μm、11.0μm、15.7μmの多結晶珪素粉末を得た。粒子断面のTEM像を図1に、また結晶粒の拡大TEM像を図2に示した。
【0064】
[多結晶珪素粉末5の作製]
内温400℃のベルジャー内に800℃に加熱した多結晶珪素芯を導入し、モノシランを送入することで製造した柱状多結晶珪素をジョークラッシャーで破砕し、ジェットミル(ホソカワミクロン社製AFG−100)を用いて分級機の回転数7,200rpmにて粉砕した後、分級機(日清エンジニアリング社製TC−15)にて分級した。更にロータリーキルン型の反応器を用いて、メタン−アルゴン混合ガス通気下で1,000℃、平均滞留時間約2時間の条件で熱CVDを行った。運転終了後、冷却し黒色粉末を回収した。得られた黒色粉末の蒸着炭素量は炭素被覆された多結晶珪素中に2.2質量%であった。解砕を行い、D50=9.5μmの多結晶珪素粉末を得た。粒子断面のTEM像を図3に示した。
【0065】
[多結晶珪素粉末6の作製]
内温400℃のベルジャー内に1,100℃に加熱した多結晶珪素芯を導入し、トリクロロシランを送入することで製造された多結晶珪素塊をジョークラッシャーで破砕したものをジェットミル(ホソカワミクロン社製AFG−100)を用いて分級機の回転数7,200rpmにて粉砕した後、更にビーズミルで4時間粉砕し、分級機(日清エンジニアリング社製TC−15)にて分級し、D50=9.1μmの多結晶珪素粉末を得た。粒子断面のTEM像を図4に示した。
【0066】
[比較珪素粉末1の作製]
金属珪素塊(ELKEM製)をジェットミル(ホソカワミクロン社製AFG−100)を用いて分級機の回転数7,200rpmにて粉砕した後、分級機(日清エンジニアリング社製TC−15)にて分級し、D50=9.2μmの金属珪素粉末を得た。
【0067】
得られた多結晶珪素粉末の結晶子サイズ、真比重及び粒子径の結果を表1に示す。なお、多結晶珪素の真比重は、ヘリウムガスを用いたガス吸着法(ピクノメーター)により求めたものである。
【0068】
【表1】

【0069】
<電池特性の確認>
本発明における珪素粉末を添加した酸化珪素負極材の有用性を確認するため充放電容量及び体積膨張率の測定を行った。酸化珪素粉末と珪素粉末及び導電剤としてアセチレンブラックのN−メチルピロリドン分散物(固形分17.5%)との混合物をN−メチルピロリドンで希釈した。これに結着剤としてポリイミド樹脂(固形分18.1%)を加え、スラリーとした。このスラリーを厚さ12μmの銅箔に50μmのドクターブレードを使用して塗布し、200℃で2時間減圧乾燥後、60℃のローラープレスにより電極を加圧成形し、最終的には2cm2に打ち抜き、負極材とした。固形分組成及び結果を表2に示した。
【0070】
得られた負極成型体を対極にリチウム箔を使用し、非水電解質としてリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1mol/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレーターに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を各6個作製した。
【0071】
作製したテストセルは一晩室温でエージングし、この内2個はエージング後直ちに解体して厚み測定を行い、電解液膨潤状態での膜厚を測定した。なお、電解液及び充電によるリチウム増加量は含まないものとした。次の2個は二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用い、テストセルの電圧が5mVに達するまで0.05cの定電流で充電を行い、5mVに達した後は、セル電圧を5mVに保つように電流を減少させて充電を行った。そして、電流値が0.02cを下回った時点で充電を終了した。なお、cは負極の理論容量を1時間で充電する電流値であり、1c=15mAである。充電終了後、テストセルを解体し厚みを測定することで充電時の体積膨張率を算出した。残りの2個は上記の方法で充電を行った後、1,500mVに達するまで0.05cの定電流で放電を行うことで、充放電容量を算出し、初回充放電効率を求めた。なお、充放電容量は結着剤を除いた活物質あたりの容量であり、初回充放電効率は充電容量に対する放電容量の百分率で示した。負極組成及び結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
本発明の実施例1〜9は比較例1と比較すると、初回充放電効率が高く、電池容量も増加していることがわかる。一方、比較例2と比較すると体積膨張率が著しく低いことがわかる。従って、本発明の負極活物質を用いることで、実用上問題となっていた初回充放電効率の向上と体積膨張率の維持が達成することができた。
【0074】
<サイクル特性の確認>
リチウムイオン二次電池負極活物質としての評価は、実施例4と比較例1及び2とを比較して行った。いずれのサンプルも前述の方法・手順にて負極成型体を作製した。
【0075】
得られた負極成型体のサイクル特性を評価するために、正極材料としてLiCoO2を活物質とし、集電体としてアルミ箔を用いた単層シート(パイオニクス(株)製、商品名;ピオクセル C−100)を用いた。非水電解質は六フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1mol/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレーターに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いたコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0076】
作製したコイン型リチウムイオン二次電池は、二晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用い、テストセルの電圧が4.2Vに達するまで1.2mA(正極基準で0.25c)の定電流で充電を行い、4.2Vに達した後は、セル電圧を4.2Vに保つように電流を減少させて充電を行った。そして、電流値が0.3mAを下回った時点で充電を終了した。放電は0.6mAの定電流で行い、セル電圧が2.5Vに達した時点で放電を終了し、放電容量を求めた。これを50サイクル継続した。50サイクル目の放電容量を10サイクル目の放電容量で割った値を放電容量維持率として計算した結果を表3に示す。比較例1に対して実施例1は初期効率及び電池容量の増加にもかかわらず、珪素粉末を添加する前とほとんど同等のサイクル特性を示した。また、実施例1は比較例2と比較して容量維持率が高いことが示された。
【0077】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の多結晶珪素1の結晶構造を示すTEM画像(15,000倍)である。
【図2】本発明の多結晶珪素1の結晶構造を示すTEM画像(60,000倍)である。
【図3】本発明の多結晶珪素5の結晶構造を示すTEM画像(12,000倍)である。
【図4】本発明の多結晶珪素6の結晶構造を示すTEM画像(12,000倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質としての酸化珪素粉末及び多結晶珪素粉末からなる負極材において、活物質中の多結晶珪素粉末の割合が50質量%を超えず、かつ負極材中に1〜20質量%の結着剤を含有することを特徴とする非水電解質二次電池負極材。
【請求項2】
前記酸化珪素粉末及び/又は多結晶珪素粉末が炭素被覆されてなることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池負極材。
【請求項3】
多結晶珪素粒子が、X線回折パターンの分析において2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線の半値全幅よりシェラー法(Scherrer法)で求められる該結晶子サイズが20nm以上34nm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の非水電解質二次電池負極材。
【請求項4】
多結晶珪素粒子の真比重が2.300〜2.320であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の非水電解質二次電池負極材。
【請求項5】
多結晶珪素粒子が、シランガスを原料として1,000℃以下の熱分解により得られたものである請求項1乃至4のいずれか1項記載の非水電解質二次電池負極材。
【請求項6】
多結晶珪素粒子が、シランガスの熱分解を流動層にて行うことにより得られた粒状多結晶珪素であることを特徴とする請求項5記載の非水電解質二次電池負極材。
【請求項7】
シランガスが、シラン又はクロロシランであることを特徴とする請求項5又は6記載の非水電解質二次電池負極材。
【請求項8】
多結晶珪素粒子のメジアン径D50が0.1〜20μmであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の非水電解質二次電池負極材。
【請求項9】
結着剤がポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の非水電解質二次電池負極材。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項記載の非水電解質二次電池負極材を含む負極材であって、充電前後の体積変化が2倍を超えないことを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
【請求項11】
請求項10記載の非水電解質二次電池用負極を用いた負極成型体と、正極成型体、セパレーター及び非水電解質とを備えた非水電解質二次電池。
【請求項12】
非水電解質二次電池がリチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項11記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−224168(P2009−224168A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67073(P2008−67073)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】