説明

非水電解質二次電池負極材用珪素酸化物及びその製造方法、ならびに負極、リチウムイオン二次電池及び電気化学キャパシタ

【解決手段】非水電解質二次電池負極材に用いられる珪素酸化物であって、SiOガスとケイ素含有ガスの混合ガスを冷却析出させて得られ、酸素含有量が20〜35質量%であることを特徴とする非水電解質二次電池負極材用珪素酸化物。
【効果】本発明によれば、酸化珪素の高い電池容量と低い体積膨張率を維持しつつ、初回充放電効率が高く、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用の負極材として有効な活物質としての珪素酸化物及びその製造方法、ならびにこの珪素酸化物を用いた非水電解質二次電池負極が用いられた非水電解質二次電池を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池や電気化学キャパシタ用の負極活物質として用いた際に、高い初回充放電効率と良好なサイクル特性を示す非水電解質二次電池用の負極材となる珪素酸化物とその製造方法、ならびにそれが負極材に用いられたリチウムイオン二次電池や電気化学キャパシタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の非水電解質二次電池が強く要望されている。従来、この種の非水電解質二次電池の高容量化策として、例えば、負極材料にB、Ti、V、Mn、Co、Fe、Ni、Cr、Nb、Mo等の酸化物及びそれらの複合酸化物を用いる方法(特許文献1,2等参照)、溶融急冷したM100-xSix(x≧50at%,M=Ni,Fe,Co,Mn)を負極材として適用する方法(特許文献3等参照)、負極材料に珪素の酸化物を用いる方法(特許文献4等参照)、負極材料にSi22O、Ge22O及びSn22Oを用いる方法(特許文献5等参照)等が知られている。
【0003】
この中で、酸化珪素はSiOx(ただし、xは酸化被膜のため理論値の1よりわずかに大きい)と表記することができるが、X線回折による分析では数nm〜数十nm程度のアモルファスシリコンがシリカ中に微分散している構造をとっている。このため、電池容量は珪素と比較すると小さいものの、炭素と比較すれば質量あたりで5〜6倍と高く、さらには体積膨張も小さいため、負極活物質として使用しやすいと考えられていた。
【0004】
しかしながら、酸化珪素は不可逆容量が大きく、初期効率が70%程度と非常に低いため、実際に電池を作製した場合に、正極の電池容量を過剰に必要とし、活物質あたり5〜6倍の容量増加分に見合うだけの電池容量の増加が認められなかった。
【0005】
このように酸化珪素の実用上の問題は著しく初期効率が低い点にあり、これを解決する手段としては、例えば不可逆容量分を補充する方法、不可逆容量を抑制する方法が挙げられる。例えば、Li金属をあらかじめドープすることで、不可逆容量分を補う方法が有効であることが報告されている。具体的にはLi金属をドープするために負極活物質表面にLi箔を貼り付ける方法(特許文献6等参照)や、負極活物質表面にLi蒸着を行う方法(特許文献7等参照)等が開示されている。しかしながら、Li箔の貼り付けでは酸化珪素負極の初期効率に見合ったLi薄体の入手が困難で、かつ高コストである。また、Li蒸気による蒸着は製造工程が複雑となって実用的でない等の問題があった。
【0006】
一方、LiドープによらずにSiの質量割合を高めることで、初期効率を増加させる方法が開示されている。ひとつには珪素粉末を酸化珪素粉末に添加して酸化珪素の質量割合を減少させる方法であり(特許文献8等参照)、他方では酸化珪素の製造段階において珪素蒸気を同時に発生、析出することで珪素と酸化珪素の混合固体を得る方法である(特許文献9等参照)。しかしながら、珪素は酸化珪素と比較して高い初期効率と電池容量を併せ持つが、充電時に400%もの体積膨張率を示す活物質であり、酸化珪素と炭素材料の混合物に添加する場合であっても、酸化珪素の体積膨張率を維持することができない。そのため、結果的に炭素材料を20質量%以上添加して電池容量を1,000mAh/gに抑えることが必要であった。一方、珪素と酸化珪素の蒸気を同時に発生させて混合固体を得る方法では、珪素の蒸気圧が低いことから、2,000℃を超える高温での製造工程を必要とし、作業上の大きな問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3008228号公報
【特許文献2】特許第3242751号公報
【特許文献3】特許第3846661号公報
【特許文献4】特許第2997741号公報
【特許文献5】特許第3918311号公報
【特許文献6】特開平11−086847号公報
【特許文献7】特開2007−122992号公報
【特許文献8】特許第3982230号公報
【特許文献9】特開2007−290919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、珪素系活物質は金属単体及びその酸化物であってもそれぞれ解決課題を有しており、実用上問題となっていた。そこで、Liの吸蔵、放出に伴う体積変化を十分に抑制でき、粒子の割れによる微粉化や集電体からの剥離による導電性の低下を緩和することが可能であり、大量生産が可能で、コスト的に有利であって、かつ携帯電話用等の特に繰り返しのサイクル特性が重要視される用途に適応することが可能な負極活物質が望まれていた。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、酸化珪素の高い電池容量と低い体積膨張率を維持しつつ、初回充放電効率が高く、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用の負極材として有効な活物質としての珪素酸化物及びその製造方法、ならびにこの珪素酸化物を用いた非水電解質二次電池負極が用いられた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、SiOガスとケイ素含有ガスの混合ガスを冷却析出させて得られた析出物であり、酸素含有量を20〜35質量%である珪素酸化物を、非水電解質二次電池負極材の活物質として用いることで、非水電解質二次電池が、初回充放電効率が高く、サイクル特性に優れることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0011】
このように、SiOガスとケイ素含有ガスの混合ガスを冷却析出させた析出物であり、酸素含有量が20〜35質量%である珪素酸化物は、酸素含有量が少ないため、非水電解質二次電池、例えば、リチウムイオン二次電池の負極材に用いられた場合に、充電により生成する不可逆なLi4SiO4量が減少するため、初回の充放電効率の低下が従来に比べて抑制されたものとなる。よって、初回充放電効率やサイクル特性に優れた珪素酸化物となり、高容量と低い体積膨張率という酸化珪素の特徴をも有する負極材とすることができる。
【0012】
SiOガスとケイ素含有ガスの混合ガスを冷却析出させた析出物であるため、珪素酸化物中にケイ素の微結晶が均一に存在し、一酸化珪素と珪素の混合物のように、組成が局所的に安定していない箇所が存在するというようなこともなく、サイクル特性に優れたものとなっている。
【0013】
従って、本発明は下記非水電解質二次電池負極材用珪素酸化物及びその製造方法、ならびに非水電解質二次電池負極、リチウムイオン二次電池及び電気化学キャパシタを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸化珪素の高い電池容量と低い体積膨張率を維持しつつ、初回充放電効率が高く、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池用の負極材として有効な活物質としての珪素酸化物及びその製造方法、ならびにこの珪素酸化物を用いた非水電解質二次電池負極が用いられた非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例及び比較例の珪素酸化物の製造で使用した横型管状炉の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
[非水電解質二次電池負極材用珪素酸化物]
本発明の珪素酸化物は、非水電解質二次電池負極材に用いられる珪素酸化物であって、この珪素酸化物は、SiOガスとケイ素含有ガスの混合ガスを冷却析出させた析出物であり、酸素含有量が20〜35質量%である珪素酸化物である。
【0017】
珪素酸化物中の酸素含有量は、20〜35質量%であり、23〜33質量%がより好ましく、25〜32質量%がさらに好ましい。この酸素含有量が20質量%より少ないと、非水電解質二次電池負極材として用いた場合に初期効率及び電池容量の向上が見られるものの、その組成が珪素に近くなってしまい、サイクル特性が低下してしまうという問題がある。一方、35質量%より多いと、初期効率及び電池容量の向上が達成できないという問題がある。なお、珪素酸化物の酸素含有量は、例えば金属中酸素分析法(不活性ガス溶融炉酸素分析法)によって測定することができ、測定装置の具体例としては、堀場製作所製のEMGA−920等が挙げられる。
【0018】
また、本発明の珪素酸化物は、SiOガスとケイ素含有ガスの混合ガスを冷却析出させた析出物である。例えば、全体で酸素含有量が20〜35質量%となるように一酸化珪素粉末と珪素粉末を混合した混合物からなる負極材では、二次電池とした時にサイクル特性に劣る電池になる。製造方法については詳述する。
【0019】
珪素酸化物の物性は特に限定されるものではないが、平均粒径は0.1〜30μmが好ましく、0.2〜20μmがより好ましい。このように、珪素酸化物の平均粒径を0.1μm以上とすることによって、比表面積が大きくなって粒子表面の二酸化珪素の割合が大きくなることや、それに伴う非水電解質二次電池負極材として用いた際に電池容量が低下することを抑制することができる。また、嵩密度が小さくなりすぎることが防止され、単位体積当たりの充放電容量が低下することも防ぐことができる。さらに、その製造や、負極の形成も容易なものとなる。また、平均粒径を30μm以下とすることによって、電極に塗布した際に異物となって、電池特性が著しく低下することを防止できる。そして電極形成が容易になり、集電体(銅箔等)から剥離するおそれを極力小さいものとすることができる。なお、本発明における平均粒径とは、レーザー光回折法による粒度分布測定において累積重量が50%となる時の粒子径(メジアン径)のことである。
【0020】
珪素酸化物のBET比表面積は0.5〜30m2/gが好ましく、1〜20m2/gがより好ましい。BET比表面積が0.5m2/g以上であれば、表面活性を大きなものとでき、電極作製時の結着剤の結着力が小さくなって電池特性が低下することや、充放電を繰り返した時のサイクル特性が低下する危険性を確実に防止することができる。また、30m2/g以下であれば、粒子表面の二酸化珪素の割合が大きくなって、リチウムイオン二次電池負極材として用いた際に電池容量が低下することを抑制でき、さらに電極作製時の溶媒の吸収量や結着剤の消費量が多くなることを防止できる。なお、本発明におけるBET比表面積とは、N2ガス吸着量によって評価するBET1点法にて測定した時の値のことである。
【0021】
[珪素酸化物の製造方法]
本発明の非水電解質二次電池負極材に用いられる珪素酸化物の製造方法としては、SiOガスを発生する原料を、不活性ガスの存在下又は減圧下で、1,100〜1,600℃の温度範囲で加熱してSiOガスを発生させ、この発生したSiOガスに、ケイ素含有ガスを添加、混合した混合ガスを冷却析出させた析出物を回収する方法が挙げられる。以下、珪素酸化物の製造方法について詳細に説明するが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0022】
SiOガスを発生する原料としては、SiOガスを発生させるものであれば特に限定されないが、一酸化珪素(SiO)等の酸化珪素粉末、又は二酸化珪素粉末とこれを還元する粉末との混合物を用いることができる。このような組み合わせとすることで、高い反応性で、かつ収率を高くできるため、高効率でSiOガスを発生させることができる。従って、本発明の珪素酸化物を高歩留りで製造することができる。還元粉末の具体的な例としては、金属珪素化合物、炭素含有粉末等が挙げられるが、金属珪素粉末を用いたものが、(1)反応性を高める、(2)収率を高めるといった点で効果的である。
【0023】
原料として、二酸化珪素粉末と金属珪素粉末との混合物を用いる場合、混合割合は適宜選定されるが、金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比は1<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.1が好ましく、1.01≦金属珪素粉末/二酸化珪素粉末≦1.08の範囲がより好ましい。
【0024】
準備した原料を、不活性ガスの存在下又は減圧下で、1,100〜1,600℃、好適には1,200〜1,500℃の温度範囲で加熱して、SiOガスを発生させる。不活性ガス雰囲気やその減圧下でなければ、発生させたSiOガスが安定に存在せず、珪素酸化物の反応効率が低下して歩留りが低下するという問題が発生するおそれがある。不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム等が挙げられ、減圧は1〜1,000Paが好ましい。加熱温度は、1,100℃未満では反応が進行し難く、SiOガスの発生量が低下してしまうため、収率が著しく低下するおそれがある。また、1,600℃を超えると、混合原料粉末が溶融してしまって反応性が低下し、SiOガス発生量が少なくなったり、反応炉材の選定が困難になるという問題が発生するおそれがある。
【0025】
この発生したSiOガスに、ケイ素含有ガスを添加し、混合した混合ガスを得る。このケイ素含有ガスの種類、流量、時間等により、製造される珪素酸化物の酸素量は容易に制御することが可能である。特に、ケイ素含有ガスの流量により容易に制御でき、具体的には、時間あたりのSiO発生量((原料仕込量−反応残量)/時間により推測できる)に対し、モノシランガス量を1/10流入した場合、酸素含有量は約32%のものが製造できる。
【0026】
ケイ素含有ガスとしては、ケイ素が含有されれば、特に限定されないが、モノシラン、二塩化シラン、三塩化シラン、四塩化ケイ素、四フッ化ケイ素、ジシラン、テトラメチルシラン等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。また、水素、ヘリウム、アルゴン等、不活性な非酸化性ガスをキャリアガスとして混合したものを用いることができる。上記ケイ素含有ガスの中でも、モノシランガスは副生物を生成せず、コスト的にも有利であることより、特に好適に使用することができる。
【0027】
上記混合ガスを冷却析出した析出物を回収することによって、本発明の珪素酸化物を得ることができる。混合ガスを冷却析出することで得られた析出物の回収方法についても、特に限定されるものではないが、例えば、冷却ゾーンにて析出基体に析出させる方法、冷却雰囲気中に噴霧する方法等が挙げられる。一般的には、上述の混合ガスを冷却ゾーンに流し、析出基体上に析出させる方法が好ましい。
【0028】
この場合、析出させる析出基体の種類(材質)も特に限定されないが、加工性の点で、SUSやモリブデン、タングステンといった高融点金属が好適に用いられる。また、冷却ゾーンの析出温度は500〜1,000℃が好ましく、700〜950℃が望ましい。
析出温度が500℃以上であれば、反応生成物のBET比表面積が30m2/g以上と大きくなることを抑制し易い。また1,000℃以下であれば、析出基体の材質の選定が容易であり、装置コストが上昇することもない。ここで、析出基体の温度の制御はヒーター加熱、断熱性能(断熱材の厚み)、強制冷却等により適宜行うことができる。
【0029】
析出基体上に析出させた珪素酸化物は、必要により適宜、公知の手段で粉砕し、所望の粒径とすることができる。
【0030】
また、導電性を付与するために、得られた珪素酸化物に対して、化学蒸着処理あるいはメカニカルアロイングによって炭素蒸着を行うことができる。なお、炭素被覆を行う場合、炭素被覆量は、炭素被覆された珪素酸化物の総重量に占める割合が1〜50質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。
【0031】
この炭素化学蒸着処理は、常圧下又は減圧下で、600〜1,200℃の温度範囲、より好ましく800〜1,100℃の温度範囲で、炭化水素系化合物ガス及び/又は蒸気を蒸着用反応炉内に導入して、公知の熱化学蒸着処理等を施すことにより行うことができる。また、珪素−炭素層の界面に炭化珪素層が形成された珪素複合体粒子としてもよい。
【0032】
この炭化水素系化合物としては、上記の熱処理温度範囲内で熱分解して炭素を生成するものが選択される。例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の他、エチレン、プロピレン、ブチレン、アセチレン等の炭化水素の単独もしくは混合物、あるいは、メタノール、エタノール等のアルコール化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環ないし3環の芳香族炭化水素もしくはこれらの混合物が挙げられる。また、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油も、単独もしくは混合物として用いることができる。
【0033】
[負極]
本発明で得られた珪素酸化物からなる負極材を用いて、これを含有する非水電解質二次電池負極を得ることができる。例えば、以下のように負極(成型体)とすることができる。珪素酸化物と、ポリイミド樹脂等の結着剤と、必要に応じて導電剤と、その他の添加剤とに、N−メチルピロリドン又は水等の結着剤の溶解、分散に適した溶剤を混練してペースト状の合剤とし、この合剤を集電体のシートに塗布する。
【0034】
導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよい。具体的には、Al、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Ag、Sn、Si等の金属粉末や金属繊維又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粉末、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛を用いることができる。
【0035】
集電体としては、銅箔、ニッケル箔等、通常、負極の集電体として使用されている材料であれば、特に厚さ、表面処理の制限なく使用することができる。なお、合剤をシート状に成形する成形方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0036】
[非水電解質二次電池]
このようにして得られた負極(成型体)を用いることにより、非水電解質二次電池負極、正極、及び非水電解質を有する非水電解質二次電池を製造することができ、非水電解質がリチウムイオン導電性の非水電解質である、リチウムイオン二次電池とすると好適である。非水電解質二次電池は、上記負極材を用いる点に特徴を有し、その他の正極、セパレータ、非水電解質溶液等の材料及び電池形状等は限定されない。
【0037】
例えば、正極活物質としてはLiCoO2、LiNiO2、LiMn24、V25、MnO2、TiS2、MoS2等の遷移金属の酸化物及びカルコゲン化合物等が用いられる。
【0038】
また電解質としては、例えば、過塩素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられ、非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン等の単体又は2種類以上が組み合わせて用いられる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用することができる。
【0039】
[電気化学キャパシタ]
また、非水電解質二次電池負極、正極及び導電性の電解質を有する電気化学キャパシタを製造することができる。電気化学キャパシタは、電極に上記本発明の珪素酸化物活物質を用いる点に特徴を有し、その他の電解質、セパレータ等の材料及びキャパシタ形状等は限定されない。
【0040】
例えば、電解質としては、六フッ化リン酸リチウム、過塩素リチウム、ホウフッ化リチウム、六フッ化砒素酸リチウム等のリチウム塩を含む非水溶液が用いられ、非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン等の単体又は2種類以上を組み合わせて用いられたものとすることができる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
図1に示す横型管状炉を用いて、珪素酸化物を製造した。
具体的には、原料2として平均粒径が5μmの金属珪素粉末とヒュームドシリカ粉末(BET比表面積:200m2/g)の等モル混合物を50g準備し、内径80mm・アルミナ製の反応管6の内に仕込んだ。
【0043】
次に、反応管6内を真空ポンプ7にて排気して20Pa以下に減圧しながら、ヒーター1によって、300℃/時間の昇温速度で1,400℃まで昇温させた。そして1,400℃に到達した後、流量計4及びガス導入管5を介して0.2NL/分の流量でモノシラン(SiH4ガス)を反応管6内に流入させた(炉内圧は25Paに上昇)。この運転状態を2時間継続した後、SiH4ガスの流入及びヒーター加熱を停止し、室温まで冷却した。
【0044】
冷却後、析出基体3上に析出した析出物を回収したところ、析出物は黒色塊状物であり、回収量は33gであった。次に、この析出物30gを2Lアルミナ製ボールミルにて乾式粉砕を行い、珪素酸化物を製造した。そして得られた珪素酸化物の平均粒径とBET比表面積を評価した。結果を表1に示す。
【0045】
[電池評価]
以下の方法によって、得られた粉末(珪素酸化物)を処理した後、負極活物質として用いて電池評価を行った。
上記で得られた珪素酸化物に人造黒鉛(平均粒径10μm)を45質量%、ポリイミドを10質量%加え、さらにN−メチルピロリドンを加えてスラリーとした。このスラリーを厚さ12μmの銅箔に塗布し、80℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、この電極を350℃で1時間真空乾燥した後、2cm2に打ち抜き、負極とした。なお、負極の厚さは銅箔込みで42μmであった。
【0046】
そして、得られた負極の充放電特性を評価するために、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質として六フッ化リンリチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解させた非水電解質溶液を用い、セパレータとして厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0047】
作製した評価用リチウムイオン二次電池を、一晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用いて、テストセルの電圧が0Vに達するまで0.5mA/cm2の定電流で充電を行い、0Vに達した後は、セル電圧を0Vに保つように電流を減少させて充電を行った。そして、電流値が40μA/cm2を下回った時点で充電を終了した。放電は0.5mA/cm2の定電流で行い、セル電圧が2.0Vを上回った時点で放電を終了し、放電容量を求めた。また、以上の充放電試験を繰り返し、評価用リチウムイオン二次電池の50サイクルの充放電試験を行い、50サイクル後の放電容量を評価した。その電池評価の評価結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2]
SiH4ガスの流量を0.3NL/minとした他は実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池負極材用珪素酸化物を製造し、実施例1と同様の方法で物性及び電池特性の評価を行った。それらの評価結果を表1に示す。
【0049】
[実施例3]
SiH4ガスの流量を0.1NL/minとした他は実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池負極材用珪素酸化物を製造し、実施例1と同様の方法で物性及び電池特性の評価を行った。それらの評価結果を表1に示す。
【0050】
[比較例1]
SiH4ガスを供給しなかった以外は実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池負極材用珪素酸化物を製造し、実施例1と同様の方法で物性及び電池特性の評価を行った。それらの評価結果を表1に示す。
【0051】
[比較例2]
SiH4ガスの流量を0.5NL/minとした他は実施例1と同様の方法で非水電解質二次電池負極材用珪素酸化物を製造し、実施例1と同様の方法で物性及び電池特性の評価を行った。それらの評価結果を表1に示す。
【0052】
[比較例3]
平均粒径5μmのSiO粉末とSi粉末とをSiO/Si=2/1の割合で混合した珪素酸化物を用いた負極材を製造し、実施例1と同様の方法で物性及び電池特性の評価を行った。それらの評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、実施例1の製造方法で得られた非水電解質二次電池負極材用珪素酸化物は、平均粒径が5.3μm、BET比表面積が5.3m2/g、酸素含有量が26.8質量%の粉末であった。また、実施例2の珪素酸化物は、平均粒径が5.3μm、BET比表面積が4.7m2/g、酸素含有量が21.8質量%の粉末であった。そして、実施例3の珪素酸化物は、平均粒径が5.2μm、BET比表面積が5.8m2/g、酸素含有量が32.6質量%の粉末であった。
【0055】
これに対し、比較例1の珪素酸化物は、平均粒径が5.3μm、BET比表面積が6.3m2/g、酸素含有量が35.8質量%の粉末であった。また、比較例2の珪素酸化物は、平均粒径が5.3μm、BET比表面積が4.1m2/g、酸素含有量が17.2質量%の粉末であった。そして比較例3の珪素酸化物は、平均粒径が5.1μm、BET比表面積が5.3m2/g、酸素含有量が24.8質量%の粉末であった。
【0056】
そして、表1に示すように、実施例1の珪素酸化物が用いられた負極材を負極に使用したリチウムイオン二次電池は、初回充電容量1,450mAh/g、初回放電容量1,210mAh/g、初回充放電効率83.4%、50サイクル目の放電容量1,160mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率が96%と、高容量で、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0057】
また、実施例2の珪素酸化物が用いられたリチウムイオン二次電池は、初回充電容量1,520mAh/g、初回放電容量1,290mAh/g、初回充放電効率84.9%、50サイクル目の放電容量1,210mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率が94%と、実施例1と同様に高容量で、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたものであった。
【0058】
そして、実施例3の珪素酸化物が用いられたリチウムイオン二次電池は、初回充電容量1,330mAh/g、初回放電容量1,060mAh/g、初回充放電効率80.0%、50サイクル目の放電容量1,040mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率が98%と、実施例1,2と同様に、高容量で、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたものであった。
【0059】
これに対し、比較例1の珪素酸化物が用いられたリチウムイオン二次電池は、初回充電容量1,310mAh/g、初回放電容量1,000mAh/g、初回充放電効率76.3%、50サイクル目の放電容量980mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率が98%であり、実施例1〜3の珪素酸化物が用いられた場合に比べ、サイクル性は良好ではあるものの、酸素含有量が多いため、初回充放電効率が明らかに劣るリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0060】
また、比較例2の珪素酸化物が用いられたリチウムイオン二次電池は、初回充電容量1,570mAh/g、初回放電容量1,380mAh/g、初回充放電効率87.9%、50サイクル目の放電容量1,190mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率が86%であり、実施例1〜3の珪素酸化物を用いた場合に比べ、酸素含有量が少なすぎるために、明らかにサイクル性に劣るリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0061】
そして、比較例3の珪素酸化物が用いられたリチウムイオン二次電池は、初回充電容量1,500mAh/g、初回放電容量1,290mAh/g、初回充放電効率86.0%、50サイクル目の放電容量760mAh/g、50サイクル後のサイクル保持率が59%であり、酸素含有量は実施例1〜3と同程度であるにも係わらず、実施例1〜3の珪素酸化物を用いた場合に比べ、明らかにサイクル性に劣るリチウムイオン二次電池であることが確認された。これは、比較例3の珪素酸化物は、実施例1〜3のように、SiOガスとケイ素含有ガスを反応させることによって製造したものではなく、SiO粉末とSi粉末とを混合したものだからである。これは比較例3では、組成が局所的に安定していない箇所が存在するためであると考えられる。
【0062】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0063】
1 ヒーター
2 原料
3 析出基体
4 流量計
5 ガス導入管
6 反応管
7 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池負極材に用いられる珪素酸化物であって、SiOガスとケイ素含有ガスの混合ガスを冷却析出させて得られ、酸素含有量が20〜35質量%であることを特徴とする非水電解質二次電池負極材用珪素酸化物。
【請求項2】
平均粒径が0.1〜30μmであり、BET比表面積が0.5〜30m2/gである粒子であることを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池負極材用珪素酸化物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の珪素酸化物からなる負極材を含む非水電解質二次電池負極。
【請求項4】
請求項3記載の負極、正極及びリチウムイオン導電性の非水電解質を有するリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
請求項3記載の負極、正極及び導電性の電解質を有する電気化学キャパシタ。
【請求項6】
非水電解質二次電池負極材に用いられる珪素酸化物の製造方法であって、SiOガスを発生する原料を、不活性ガスの存在下又は減圧下で、1,100〜1,600℃の温度範囲で加熱してSiOガスを発生させ、この発生したSiOガスに、ケイ素含有ガスを添加し、混合した混合ガスを冷却析出させた析出物を回収することを特徴とする、上記非水電解質二次電池負極材に用いられる珪素酸化物の製造方法。
【請求項7】
SiOガスを発生する原料が、酸化珪素粉末、又は二酸化珪素粉末と金属珪素粉末との混合物である請求項6記載の珪素酸化物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−243535(P2011−243535A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117188(P2010−117188)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】