説明

非線形素子および電気光学装置

【課題】 下電極、絶縁層および上電極をこの順に積層した構造において下電極の抵抗を低減でき、かつ、電流−電圧の非線形特性における正負の双方向の対称性を向上可能な非線形素子、およびこの非線形素子を用いた電気光学装置を提供すること。
【解決手段】 TFD10において、下電極11は、立方晶系構造の窒化タンタルからなる第1の下電極用薄膜12、立方晶系構造のタンタルからなる第2の下電極用薄膜13、および窒化タンタル(Ta2N)からなる第3の下電極用薄膜14がこの順に積層されてなる。絶縁層15は、下電極11の陽極酸化膜である。上電極16は、窒化タンタル(Ta2N)からなる第1の上電極用薄膜17、および立方晶系構造のタンタルからなる第2の上電極用薄膜18がこの順に積層されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下電極、絶縁層および上電極が基板上にこの順に積層された非線形素子、およびこの非線形素子を備えた電気光学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気光学装置において、画素スイッチング素子として用いられるTFD(Thin Film Diode:薄膜ダイオード)などの非線形素子は、タンタルからなる下電極、タンタルの陽極酸化膜からなる絶縁層、およびクロムからなる上電極が基板上にこの順に積層された構造を有している。また、基板上には、配線が下電極と同時形成されることが多く、このような場合には、配線は下電極と同一の構成を有することになる。このような電気光学装置では、下電極、上電極および配線の抵抗を低減するという観点からすれば、下電極として、比抵抗の小さな立方晶系のタンタル膜を用いることが好ましいが、このような立方晶系のタンタル膜をスパッタ法などで直接、形成することは困難である。
【0003】
そこで、タンタル膜の下層側に窒化タンタル膜を形成しておくことにより、タンタル膜を立方晶系構造とすることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−325721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気光学装置においては、非線形素子に印加される信号の極性を反転させることが多く、このような場合でも、電流−電圧の非線形特性が正負の双方向にわたって対称化されることが求められる。しかしながら、上記特許文献1に記載の非線形素子では、タンタルからなる下電極、タンタルの陽極酸化膜からなる絶縁層、およびクロムからなる上電極がこの順に積層された構造を有しているため、電流−電圧の非線形特性が正負の双方向にわたって対称化されないという問題点がある。
【0005】
このような極性差を低減可能な非線形素子として、2つ非線形素子を直列に接続したBack−to−Back構造の非線形素子があるが、このような構造の非線形素子は、占有面積が広いため、基板上に広いデッドスペースが発生してしまうという問題点がある。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、下電極、絶縁層および上電極をこの順に積層した構造において下電極の抵抗を低減でき、かつ、電流−電圧の非線形特性における正負の双方向の対称性を向上可能な非線形素子、およびこの非線形素子を用いた電気光学装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、基板上に下電極、絶縁層および上電極の順に積層された非線形素子において、前記下電極は、下層側から、窒化タンタルからなる第1の下電極用薄膜、立方晶系構造のタンタルからなる第2の下電極用薄膜、および窒化タンタルからなる第3の下電極用薄膜の順に積層されてなり、前記上電極は、下層側から、窒化タンタルからなる第1の上電極用薄膜、および立方晶系構造のタンタルからなる第2の上電極用薄膜の順に積層されてなることを特徴とする。
【0008】
本発明では、下電極および上電極のいずれにおいても、窒化タンタルを下地としてタンタルが形成されているため、立方晶系構造のタンタルを形成できる。従って、下電極および上電極のいずれについても抵抗を低減できる。また、下電極には、タンタルからなる第2の下電極用薄膜の上層に窒化タンタルからなる第3の下電極用薄膜が積層されているため、下電極および上電極のいずれにおいても絶縁層と接しているのは窒化タンタル層である。従って、2つ非線形素子を直列に接続したBack−to−Back構造を採用しなくても、電流−電圧の非線形特性を正負の双方向にわたって対称化することができるので、Back−to−Back構造を採用した場合と比較して非線形素子の占有面積が狭く、デッドスペースを圧縮できる。
【0009】
本発明は、前記基板上には、前記下電極と同一の層構造を有する配線が形成されている場合に適用すると特に効果的である。すなわち、非線形素子の下電極と配線が同時形成される場合があり、この場合にも、配線には抵抗が低いことが求められるが、本発明によれば、かかる要求に応えることができる。
【0010】
本発明において、前記絶縁層は、例えば、前記下電極の陽極酸化膜である。
【0011】
本発明は、例えば、前記絶縁層は、前記下電極の上面および側面に形成されているとともに、当該上面における前記絶縁層の膜厚と当該側面に形成されている前記絶縁層の膜厚が等しく、前記上電極が前記絶縁層を介して前記下電極の上面および側面に対向している構成の非線形素子に適用することができる。このような構成の非線形素子であれば、下電極の側面が上面に比して狭いので、側面部分で電流−電圧の非線形特性に極性差があっても、非線形素子全体としての極性差に大きな影響を及ぼさない。それ故、下電極の側面に第2の下電極用薄膜が露出していても、下電極の上面が第3の下電極用薄膜であれば、非線形素子全体としての電流−電圧の非線形特性における正負の双方向の対称性を向上することができる。
【0012】
また、本発明は、前記絶縁層が、前記下電極の上面および側面に形成されているとともに、当該上面における前記絶縁層の膜厚は当該側面に形成されている前記絶縁層の膜厚より厚く、前記上電極は、前記絶縁層を介して前記下電極の上面および側面に対向している構成の非線形素子、いわゆるラテラル構造の非線形素子にも適用できる。このような構成の場合、前記下電極の上面および側面は、前記第3の下電極用薄膜で構成されていることが好ましい。ラテラル構造の非線形素子では、下電極の側面が電流経路となるので、このような部分で下電極/絶縁層界面と、絶縁層界面/上電極界面とを同一構成にする必要がある。従って、前記下電極の側面を前記第3の下電極用薄膜で構成しておけば、ラテラル構造の非線形素子であっても、電流−電圧の非線形特性における正負の双方向の対称性を向上することができる。
【0013】
本発明において、前記第3の下電極用薄膜および第1の上電極用薄膜は、Ta2Nであることが好ましい。このように構成すると、絶縁層は、Ta2Nに対する陽極酸化膜となり、誘電率が低いので、非線形素子のβ値を向上することができる。ここでいうβ値とは、非線形素子の非線形性の度合を示す値であり、その値が大きいほど、非線形性が高く、好ましい。このようなβ値(非線形素子の非線形性)は絶縁膜の誘電率が小さくなるほど大きくなる。また、この誘電率が小さくなると非線形素子の静電容量も小さくなる。非線形性が高くなると、リーク電流が小さくなり、静電容量も小さくなるため、電圧の保持特性が向上し、非線形素子を備えた電気光学装置の駆動特性も向上する。
【0014】
本発明を適用した非線形素子は、例えば、電気光学装置において画素スイッチング素子として用いられる。このような電気光学装置は、例えば、携帯電話機やモバイルコンピュータなどといった電子機器に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、参照する各図において、図面上で認識可能な大きさとするために縮尺が各層や各部材ごとに異なる場合がある。
【0016】
[実施の形態1]
(電気光学装置の構成例)
図1は、本発明が適用される電気光学装置(液晶装置)の電気的構成を示すブロック図である。図2は、電気光学装置の構成を模式的に示す断面図である。
【0017】
図1に示すように、本形態の電気光学装置100では、複数本の走査線51が行(X)方向に延在して形成され、また、複数本のデータ線52が列(Y)方向に延在して形成されている。また、走査線51とデータ線52との各交差点に対応する位置に画素53が形成され、これらの画素53は、マトリクス状に配置されている。各画素53では、液晶層54と、非線形素子としてのTFD10とが直列接続しており、図1に示す例では、液晶層54が走査線51の側に、TFD10がデータ線52の側にそれぞれ接続されている。なお、液晶層54がデータ線52の側に、TFD10が走査線51の側にそれぞれ接続されることもある。ここで、各走査線51は、走査線駆動回路57によって駆動される一方、各データ線52は、データ線駆動回路58によって駆動される。
【0018】
このような電気光学装置100は、具体的には、例えば、図2に示すように構成される。ここで、対向配置された一対の基板のうち、一方の基板は、前記のTFD10や画素電極が形成される素子基板20であり、他方の基板は、対向基板30である。これらの基板のうち、素子基板20の内側表面には、複数本のデータ線52と、それらのデータ線52に接続される複数のTFD10と、それらのTFD10と1対1に接続される画素電極23とが形成されている。データ線52は、図2において紙面に対して垂直方向に延在して形成される一方、TFD10および画素電極23は、ドットマトリクス状に配列している。そして、画素電極23などの表面には、一軸配向処理、例えばラビング処理が施された配向膜24が形成されている。
【0019】
対向基板30の内側表面には、カラーフィルタ38が形成されており、「R」、「G」、「B」の3色の着色層を構成している。なお、これら3色の着色層の隙間には、ブラックマトリクス39が形成されて、着色層の隙間からの入射光を遮蔽する構成となっている。カラーフィルタ38およびブラックマトリクス39の表面には平坦化膜37が形成され、さらにその表面には、走査線51として機能する対向電極31が、データ線52と直交する方向に形成されている。なお、平坦化膜37は、カラーフィルタ38およびブラックマトリクス39の平滑性を高めて、対向電極31の断線を防止する目的などのために設けられる。さらに、対向電極31の表面には、ラビング処理が施された配向膜34が形成されており、配向膜24、34は、一般にポリイミドなどから形成される。
【0020】
素子基板20と対向基板30とは、スペーサ(図示省略)を含むシール材104によって一定の間隙を保って接合され、この間隙に、液晶105が封入された構成となっている。素子基板20の外側表面には、配向膜24へのラビング方向に対応した光軸を有する偏光板217などが貼着され、対向基板30の外側表面には、配向膜34へのラビング方向に対応した光軸を有する偏光板317などが貼着されている。なお、本形態の電気光学装置100は、COG(Chip On Glass)技術が適用されており、素子基板20の表面に直接、液晶駆動用ICチップ260が実装されている。
【0021】
(画素53およびTFD10の構成)
図3は、電気光学装置において、TFDを含む数画素分のレイアウトを示す平面図であり、図4は、各画素に形成されたTFDの説明図である。
【0022】
図3および図4に示すように、本形態のTFD10は、データ線52からの突出部分を下電極11とし、この下電極11の表面側には絶縁層15が形成されているとともに、絶縁層15の上層に上電極16が形成されている。なお、素子基板20には、データ線52やTFD10の下層側には、タンタル酸化膜などの絶縁膜からなる下地保護膜が形成されることもある。
【0023】
本形態のTFD10において、下電極11は、例えば、厚さが100〜150nm程度のタンタル系薄膜によって形成され、絶縁層15は、陽極酸化法によって下電極11の表面を酸化することによって形成された厚さが20〜40nm程度の陽極酸化膜である。上電極16は、厚さが100〜500nm程度のタンタル系薄膜によって形成されている。
【0024】
画素電極23は、透過型として用いられる場合には、ITO(Indium Tin Oxide)などの導電性の透明膜から形成される一方、反射型として用いられる場合には、アルミニウムや銀などの反射率の大きな反射性金属膜から形成されることがある。なお、画素電極23は、反射型であってもITOなどの透明性金属から形成される場合もある。この場合には、反射層としての反射性金属が形成された後、絶縁層を介して透明な画素電極23が形成される。一方、半透過反射型として用いられる場合には、反射層を薄く形成して半透過反射膜とするか、あるいは、スリットが設けられる構成となる。素子基板20自体は、例えば、石英やガラスなどの絶縁性を有するものが用いられる。なお、透過型として用いる場合には、透明であることも素子基板20の要件となるが、反射型として用いる場合には、透明であることが要件にならない。また、素子基板20の表面に下地層201が設けられる理由は、熱処理により、下電極13bなどが下地から剥離しないようにするとともに、下電極13bに不純物が拡散しないようにするためである。したがって、これが問題とならない場合には、下地層201は省略可能である。
【0025】
(TFD10の詳細構成)
図5(a)、(b)はそれぞれ、本形態のTFD10の平面およびVI−VI′線における断面図である。
【0026】
図5(a)、(b)に示すように、本形態のTFD10では、下層側から、データ線52からの突出部分からなる下電極11、絶縁層15および上電極16が素子基板20上にこの順に積層され、上電極16に画素電極23が電気的に接続している。
【0027】
本形態において、下電極11は、下層側から、立方晶系構造の窒化タンタルからなる第1の下電極用薄膜12、立方晶系構造のタンタルからなる第2の下電極用薄膜13、および窒化タンタルからなる第3の下電極用薄膜14がこの順に積層されている。本形態では、第3の下電極用薄膜14は、Ta2Nからなる。
【0028】
上電極16は、下層側から、窒化タンタルからなる第1の上電極用薄膜17、および立方晶系構造のタンタルからなる第2の上電極用薄膜18がこの順に積層されてなり、絶縁層15を介して下電極11の上面および側面に対向している。本形態では、第1の上電極用薄膜16は、Ta2Nからなる。
【0029】
絶縁層15は、下電極11の陽極酸化膜であり、下電極11の上面および側面に形成されている。ここで、絶縁層15は、下電極11の上面における膜厚と側面における膜厚とが等しい。また、下電極11は、第1の下電極用薄膜12、第2の下電極用薄膜13、および第3の下電極用薄膜14がこの順に積層されている構造を有しているため、側面では、第1の下電極用薄膜12、第2の下電極用薄膜13、および第3の下電極用薄膜14が露出している。従って、絶縁層15は、上面では第3の下電極用薄膜14の陽極酸化膜(Ta2Nの陽極酸化膜)であるが、側面では下電極用薄膜12、13、14の各陽極酸化膜からなる。
【0030】
(本形態の主な効果)
このように構成したTFD10では、下電極11および上電極16のいずれにおいても、窒化タンタルを下地としてタンタルが形成されているため、立方晶系構造のタンタルを形成できる。従って、下電極11および上電極16のいずれについても抵抗を低減できる。
【0031】
また、下電極11には、タンタルからなる第2の下電極用薄膜13の上層に窒化タンタルからなる第3の下電極用薄膜14が積層されているため、下電極11および上電極16のいずれにおいても絶縁層15と接しているのは窒化タンタル層である。このため、図5(a)に矢印Aで示すように、データ線52から画素電極23に電流が流れるとき、TFD10において、電流は、
タンタル層→窒化タンタル層→絶縁層15→窒化タンタル層→タンタル層
の順に流れ、図5(a)に矢印Bで示すように、画素電極23からデータ線52に電流が流れるときも、電流は、
タンタル層→窒化タンタル層→絶縁層15→窒化タンタル層→タンタル層
の順に流れる。それ故、2つ非線形素子を直列に接続したBack−to−Back構造を採用しなくても、電流−電圧の非線形特性を正負の双方向にわたって対称化することができる。それ故、Back−to−Back構造を採用した場合と比較してTFD10の占有面積が狭く、素子基板20の各画素におけるデッドスペースを圧縮できる。
【0032】
さらにまた、本形態では、素子基板20上には、下電極11と同一の層構造を有するデータ線52が形成されているが、このデータ線52でも、窒化タンタルを下地としてタンタルが形成されているため、立方晶系構造のタンタルを形成できる。データ線52の抵抗を低減することができる。
【0033】
ここで、各種タンタル系金属およびクロムの比抵抗を比較すると、以下
立方晶系構造の窒化タンタルの比抵抗:約60μΩcm
立方晶系構造のタンタルの比抵抗:約25μΩcm
正方晶系構造のタンタルの比抵抗:約170〜220μΩcm
クロムの比抵抗:約20μΩcm
に示す通りである。すなわち、立方晶系構造のタンタルの比抵抗はクロムの非抵抗と同等である。それ故、本形態によれば、クロムを一切使用しなくても、クロムを使用した場合と同等の電気特性を得ることができ、クロムフリーのTFD10を実現できる。
【0034】
また、本形態では、第3の下電極用薄膜14および第1の上電極用薄膜16は、Ta2Nであり、絶縁層15は、Ta2Nに対する陽極酸化膜である。このような陽極酸化膜は、誘電率が低いので、TFD10のβ値を向上することができる。
【0035】
なお、本形態において、下電極11は、第1の下電極用薄膜12、第2の下電極用薄膜13、および第3の下電極用薄膜14がこの順に積層され、側面では、第1の下電極用薄膜12、第2の下電極用薄膜13、および第3の下電極用薄膜14が露出しているので、絶縁層15は、上面では、第1の下電極用薄膜12の陽極酸化膜(Ta2Nの陽極酸化膜)であるが、側面では、下電極用薄膜12、13、14の各陽極酸化膜からなる。但し、下電極11の側面が上面に比して狭いので、側面部分で電流−電圧の非線形特性に極性差があっても、非線形素子全体としての極性差に大きな影響を及ぼさない。また、側面に寄生する容量成分を無視できる。それ故、下電極11の側面に第2の下電極用薄膜13の陽極酸化膜が存在していても、下電極11の上面が第3の下電極用薄膜14の陽極酸化膜であるため、TFD10全体としての電流−電圧の非線形特性における正負の双方向の対称性を向上することができ、かつ、TFD10のβ値を向上することができる。
【0036】
(製造方法)
図6は、図5に示すTFDの製造方法を示す工程断面図である。
【0037】
本形態のTFD10を製造するには、まず、図6(a)に示すように、素子基板20の表面全体に対して、スパッタ法により立方晶系構造の窒化タンタル膜120を形成した後、この窒化タンタル膜120の表面にスパッタ法によりタンタル膜130を積層する。その際、タンタル膜130は、立方晶系構造の窒化タンタル膜120の結晶構造の影響を受けて立方晶系構造をもって成膜される。次に、立方晶系構造の窒化タンタル膜120の上層に、Ta2Nからなる窒化タンタル膜140を積層する。
【0038】
次に、フォトリソグラフィ技術を用いて、窒化タンタル膜120、タンタル膜130および窒化タンタル膜140の積層膜をパターニングし、データ線52を形成するとともに、図6(b)に示すように、データ線52の突出部分により、立方晶系構造の窒化タンタルからなる第1の下電極用薄膜12、立方晶系構造のタンタルからなる第2の下電極用薄膜13、および窒化タンタル(Ta2N)からなる第3の下電極用薄膜14がこの順に積層された下電極11を形成する。
【0039】
次に、データ線52を給電線として利用して、下電極11に給電して陽極酸化を行い、図6(c)に示すように、下電極11の上面および側面に絶縁層15を形成する。次に、アニール工程において、素子基板20を加熱炉内で加熱する。その結果、絶縁層15内の転位や空孔などの欠陥密度が低減されるので、TFD10の非線形性を高くすることができるなどの効果を奏する。
【0040】
次に、図6(d)に示すように、素子基板20の表面全体に対して、スパッタ法によりTa2Nからなる窒化タンタル膜170を積層した後、この窒化タンタル膜170の表面にスパッタ法によりタンタル膜180を積層する。その際、タンタル膜180は、窒化タンタル膜170の結晶構造の影響を受けて立方晶系構造をもって成膜される。
【0041】
次に、フォトリソグラフィ技術を用いて、窒化タンタル膜170およびタンタル膜180の積層膜をパターニングし、図6(e)に示すように、窒化タンタル(Ta2N)からなる第1の上電極用薄膜17、および立方晶系構造のタンタルからなる第2の上電極用薄膜18がこの順に積層された上電極16を形成する。
【0042】
しかる後には、素子基板20の全面にITO膜を形成した後、フォトリソグラフィ技術を用いて、ITO膜をパターニングし、図5(a)、(b)に示すように、画素電極23を形成する。
【0043】
[実施の形態2]
次に、実施の形態1で製造したTFDと比較して寄生容量を低減することを目的に、下電極の上面に分厚い絶縁膜を形成し、下電極の上面に寄生する容量成分を無視できる構成を採用した場合を説明する。
【0044】
(TFDの構成)
図7(a)、(b)はそれぞれ、本形態のTFD10の平面図およびVIII−VIII′線における断面図である。なお、本形態の基本的な構成は、実施の形態1と共通しているので、共通する部分には同一の符号を付して説明する。
【0045】
図7(a)、(b)に示すように、本形態のTFD10も、実施の形態1と同様、データ線52からの突出部分からなる下電極11、絶縁層15および上電極16が素子基板20上にこの順に積層され、上電極16に画素電極23が電気的に接続している。
【0046】
本形態において、下電極11は、立方晶系構造の窒化タンタルからなる第1の下電極用薄膜12、立方晶系構造のタンタルからなる第2の下電極用薄膜13、および窒化タンタルからなる第3の下電極用薄膜14がこの順に積層されている。本形態では、第3の下電極用薄膜14は、Ta2Nからなる。
【0047】
ここで、下電極11の上面および側面はいずれも、第3の下電極用薄膜14で覆われている。
【0048】
絶縁層15は、第3の下電極用薄膜14の陽極酸化膜(Ta2Nの陽極酸化膜)であり、下電極11の上面および側面に形成されている。ここで、絶縁層15は、下電極11の上面における膜厚が側面における膜厚と比較してかなり厚いため、下電極11の上面に寄生する容量成分を無視できる。
【0049】
上電極16は、窒化タンタルからなる第1の上電極用薄膜17、および立方晶系構造のタンタルからなる第2の上電極用薄膜18がこの順に積層されてなり、絶縁層15を介して下電極11の上面および側面に対向している。本形態では、第1の上電極用薄膜16は、Ta2Nからなる。
【0050】
このように構成したTFD10では、下電極11および上電極16のいずれにおいても、窒化タンタルを下地としてタンタルが形成されているため、立方晶系構造のタンタルを形成できる。従って、下電極11および上電極16のいずれについても抵抗を低減できる。また、下電極11には、タンタルからなる第2の下電極用薄膜13の上層に窒化タンタルからなる第3の下電極用薄膜14が積層されているため、下電極11および上電極16のいずれにおいても絶縁層15と接しているのは窒化タンタル層である。従って、2つ非線形素子を直列に接続したBack−to−Back構造を採用しなくても、電流−電圧の非線形特性を正負の双方向にわたって対称化することができるので、Back−to−Back構造を採用した場合と比較してTFD10の占有面積が狭く、素子基板20の各画素におけるデッドスペースを圧縮できる。また、本形態では、素子基板20上には、下電極11と同一の層構造を有するデータ線52が形成されているが、このデータ線52でも、窒化タンタルを下地としてタンタルが形成されているため、立方晶系構造のタンタルを形成できる。データ線52の抵抗を低減することができる。それ故、本形態によれば、クロムを一切使用しなくても、クロムを使用した場合と同等の電気特性を得ることができるので、クロムフリーの電気光学装置を実現できる。
【0051】
また、本形態では、第3の下電極用薄膜14および第1の上電極用薄膜16は、Ta2Nであり、絶縁層15は、Ta2Nに対する陽極酸化膜である。このような陽極酸化膜は、誘電率が低いので、TFD10のβ値を向上することができる。
【0052】
なお、本形態において、絶縁層15の膜厚は下電極11の上面で厚く、側面で薄いラテラル構造を有しているので、下電極11の上面に寄生する容量成分を無視できる。このような構成の場合、下電極11の側面が電流経路となるので、本形態では、下電極11の上面および側面はいずれも、第3の下電極用薄膜13で覆っている。それ故、下電極11/絶縁層15界面と、絶縁層15/上電極16界面とが同一構成であるので、ラテラル構造のTFD10であっても、電流−電圧の非線形特性における正負の双方向の対称性を向上することができ、かつ、この側面部における寄生容量自身も低減できる。
【0053】
(製造方法)
図8は、図7に示すTFDの製造方法を示す工程断面図である。
【0054】
本形態のTFD10を製造するには、まず、図8(a)に示すように、素子基板20の表面全体に対して、スパッタ法により立方晶系構造の窒化タンタル膜120を形成した後、この窒化タンタル膜120の表面にスパッタ法によりタンタル膜130を積層する。その際、タンタル膜130は、立方晶系構造の窒化タンタル膜120の結晶構造の影響を受けて立方晶系構造をもって成膜される。すなわち、窒化タンタル薄膜の格子面間隔が体心立方晶系構造のタンタルの格子面間隔と近い値をとるため、上層のタンタル膜がエピタキシャル成長して体心立方格子構造となり、低抵抗のタンタル膜が得られることになる。
【0055】
次に、フォトリソグラフィ技術を用いて、窒化タンタル膜120およびタンタル膜130の積層膜をパターニングし、図8(b)に示すように、立方晶系構造の窒化タンタルからなる第1の下電極用薄膜12、および立方晶系構造のタンタルからなる第2の下電極用薄膜13を形成する。
【0056】
次に、素子基板20の全面に窒化タンタル(Ta2N)を形成した後、フォトリソグラフィ技術を用いて、窒化タンタル膜をパターニングし、図8(c)に示すように、前記した第3の下電極用薄膜14よりも広い領域に窒化タンタル膜141を残す。
【0057】
次に、データ線52を給電線として利用して窒化タンタル膜141に給電して陽極酸化を行い、図8(d)に示すように、窒化タンタル膜141の表面に厚い絶縁層153を形成する。
【0058】
次に、フォトリソグラフィ技術を用いて、絶縁層153および窒化タンタル膜141をパターニングし、図8(e)に示すように、立方晶系構造の窒化タンタルからなる第1の下電極用薄膜12、立方晶系構造のタンタルからなる第2の下電極用薄膜13、および窒化タンタル(Ta2N)からなる第3の下電極用薄膜14がこの順に積層された下電極11を形成する。この状態で、下電極11の上面には、厚い絶縁層151が形成されている。このような工程により、データ線52が同時形成される。
【0059】
次に、データ線52を給電線として利用して下電極11の側面で露出する窒化タンタル膜141に給電して陽極酸化を行う。その際の浴電圧は、絶縁層153を形成した際の浴電圧よりも低い。それ故、図8(f)に示すように、下電極11の側面で露出する窒化タンタル膜141の表面には、薄い絶縁層152が形成され。この絶縁層152と絶縁層151によって絶縁層15が構成される。次に、アニール工程において、素子基板20を加熱炉内で加熱する。その結果、絶縁層15内の転位や空孔などの欠陥密度が低減されるので、TFD10の非線形性を高くすることができるなどの効果を奏する。
【0060】
それ以降の工程は実施の形態1と同様であるため、図6(d)、(e)を参照して説明するが、図6(d)に示すように、素子基板20の表面全体に対して、スパッタ法によりTa2Nからなる窒化タンタル膜170を積層した後、この窒化タンタル膜170の表面にスパッタ法によりタンタル膜180を積層し、次に、フォトリソグラフィ技術を用いて、窒化タンタル膜170およびタンタル膜180の積層膜をパターニングし、図6(e)に示すように、窒化タンタル(Ta2N)からなる第1の上電極用薄膜17、および立方晶系構造のタンタルからなる第2の上電極用薄膜18がこの順に積層された上電極16を形成する。しかる後には、素子基板20の全面にITO膜を形成した後、フォトリソグラフィ技術を用いて、ITO膜をパターニングし、図5(a)、(b)に示すように、画素電極23を形成する。
【0061】
[電気光学装置および電子機器への搭載例]
非線形素子を備えた電気光学装置としては、これに限られるものではなく、例えば、プラズマディスプレイ装置、電気泳動ディスプレイ装置、電子放出素子を用いた装置(Field Emission Display およびSurface−Conduction Electron−Emitter Displayなど)などの各種の電気光学装置においても本発明を同様に適用することが可能である。
【0062】
本発明を適用した電気光学装置は、携帯電話機やモバイル型のパーソナルコンピュータの他、マルチメディア対応のパーソナルコンピュータ(PC)、エンジニアリング・ワークステーション(EWS)、ページャ、ワードプロセッサ、テレビ、ビューファインダ型またはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、電子手帳、電子卓上計算機、カーナビゲーション装置、POS端末、タッチパネルなどの電子機器に適用できる他、30インチを越えるような大画面を備えた電子機器を構成するのに用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】画素スイッチング素子としてTFDを用いた電気光学装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す電気光学装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】図1に示す電気光学装置において、TFDを含む数画素分のレイアウトを示す平面図である。
【図4】図1に示す電気光学装置において、各画素に形成されたTFDの説明図である。
【図5】(a)、(b)はそれぞれ、本発明の実施の形態1に係るTFDの平面図およびVI−VI′線における断面図である。
【図6】図5に示すTFDの製造方法を示す工程断面図である。
【図7】(a)、(b)はそれぞれ、本発明の実施の形態2に係るTFDの平面図およびVIII−VIII′線における断面図である。
【図8】図7に示すTFDの製造方法を示す工程断面図である。
【符号の説明】
【0064】
10 TFD(非線形素子)、11 下電極、12 第1の下電極用薄膜、13 第2の下電極用薄膜、14 第3の下電極用薄膜、15 絶縁層、16 上電極、17 第1の上電極用薄膜、18 第2の上電極用薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に下電極、絶縁層および上電極の順に積層された非線形素子において、
前記下電極は、下層側から、窒化タンタルからなる第1の下電極用薄膜、立方晶系構造のタンタルからなる第2の下電極用薄膜、および窒化タンタルからなる第3の下電極用薄膜の順に積層されてなり、
前記上電極は、下層側から、窒化タンタルからなる第1の上電極用薄膜、および立方晶系構造のタンタルからなる第2の上電極用薄膜の順に積層されてなることを特徴とする非線形素子。
【請求項2】
前記基板上には、前記下電極と同一の層構造を有する配線が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の非線形素子。
【請求項3】
前記絶縁層は、前記下電極の陽極酸化膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の非線形素子。
【請求項4】
前記絶縁層は、前記下電極の上面および側面に形成されているとともに、当該上面における前記絶縁層の膜厚と当該側面に形成されている前記絶縁層の膜厚が等しく、
前記上電極は、前記絶縁層を介して前記下電極の上面および側面に対向していることを特徴とする請求項3に記載の非線形素子。
【請求項5】
前記絶縁層は、前記下電極の上面および側面に形成されているとともに、当該上面における前記絶縁層の膜厚は当該側面に形成されている前記絶縁層の膜厚より厚く、
前記上電極は、前記絶縁層を介して前記下電極の上面および側面に対向し、
前記下電極の上面および側面は、前記第3の下電極用薄膜で構成されていることを特徴とする請求項3に記載の非線形素子。
【請求項6】
前記第3の下電極用薄膜および前記第1の上電極用薄膜は、Ta2Nであることを特徴とする請求項3乃至5の何れか一項に記載の非線形素子。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載された非線形素子を画素スイッチング素子として用いることを特徴とする電気光学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−319083(P2006−319083A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139348(P2005−139348)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(304053854)三洋エプソンイメージングデバイス株式会社 (2,386)
【Fターム(参考)】