説明

面発光型半導体レーザ、面発光型半導体レーザ装置、光伝送装置および情報処理装置

【課題】基本横モード光の高出力化および偏光制御を可能にする面発光型半導体レーザを提供する。
【解決手段】面発光型半導体レーザ10は、基板100と、n型の下部DBR102と、活性領域104と、p型の上部DBR106と、基板上に形成されたメサMと、メサM内に形成され、選択的に酸化された酸化領域108Aによって囲まれた導電領域108Bを有する電流狭窄層108と、メサMの頂部に形成され、光出射口110Aを規定する環状のp側電極110と、光出射口110A内に形成された異方形状の第1の誘電体膜112と、第1の誘電体膜112と直交する方向に形成された異方形状の第2の誘電体膜118とを有する。第1および第2の誘電体膜112、118は、互いに反対の応力を活性領域104に付加し、かつ、第1および第2の誘電体膜の重複領域の反射率は、重複しない領域の反射率よりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光型半導体レーザ、面発光型半導体レーザ装置、光伝送装置および情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
面発光型半導体レーザは、通信装置や画像形成装置の光源に利用されている。このような光源に利用される面発光型半導体レーザとっては、単一横モードであり、高出力、長寿命であることが望ましい。選択酸化型の面発光型半導体レーザでは、電流狭窄層の酸化アパーチャ径を約2〜3ミクロン程度にまで小さくすることで単一横モードを得ているが、このような小さな酸化アパーチャ径では、3mW以上の光出力を安定的に得ることが難しくなる。そこで、酸化アパーチャ径を大きくし、光出射口内に透明な層やレンズを形成することで高次横モードを抑制したり、偏光制御を行うために光出射口内に構造物やトレンチを形成した面発光型半導体レーザが提案されている(特許文献1ないし3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−153768号公報
【特許文献2】特開2007−201398号公報
【特許文献3】特開2008−98338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、基本横モード光の偏光制御を可能にする面発光型半導体レーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1は、基板と、前記基板上に形成された第1導電型の第1の半導体多層膜反射鏡と、第1の半導体多層膜反射鏡上に形成された活性領域と、前記活性領域上に形成された前記第1導電型と異なる第2導電型の第2の半導体多層膜反射鏡と、発振波長を透過可能な材料から構成され、前記基板の主面と平行な面において長軸と短軸とを有する異方形状を有し、第2の半導体多層膜反射鏡上に形成された第1の誘電体膜と、発振波長を透過可能な材料から構成され、前記基板の主面と平行な面において長軸と短軸とを有する異方形状を有し、第1の誘電体膜の少なくとも一部を覆うように形成された第2の誘電体膜とを有し、第1の誘電体膜の長軸と第2の誘電体膜との長軸は略直交する関係にあり、第1の誘電体膜は、前記活性領域に対し引張応力または圧縮応力を付加し、第2の誘電体膜は、第1の誘電体膜による応力と反対の圧縮応力または引張応力を前記活性領域に付加する、面発光型半導体レーザ。
請求項2は、第1の誘電体膜と第2の誘電体膜の重複する領域は光軸近傍であり、前記重複する領域の反射率は、第1の誘電体膜と第2の誘電体膜が重複しない領域の反射率よりも高い、請求項1に記載の面発光型半導体レーザ。
請求項3は、第1の誘電体膜の膜厚は、λ/4n(λは発振波長)の奇数倍であり、第2の誘電体膜は、λ/4nの奇数倍であり、第1の誘電体膜の第1の屈折率nは、第2の誘電体膜の第2の屈折率nよりも小さい、請求項1または2に記載の面発光型半導体レーザ。
請求項4は、前記基板上には、第2の半導体多層膜反射鏡から第1の半導体多層膜反射鏡に至る方向に延在する柱状構造が形成され、前記柱状構造内には、選択的に酸化された酸化領域によって囲まれた導電領域を有する電流狭窄層が形成され、
第1および第2の誘電体膜の各長軸の長さは、前記導電領域の直径よりも大きく、各短軸の長さは、前記導電領域の直径よりも小さい、請求項1ないし3いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項5は、第1または第2の誘電体膜の長軸は、前記活性領域の利得特性が最も大きな方向に一致される、請求項1ないし4いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項6は、前記電流狭窄層の導電領域の平面形状が長軸と短軸の異方性を有するとき、前記利得特性が最も大きな方向は、前記導電領域の長軸方向である、請求項5に記載の面発光型半導体レーザ。
請求項7は、前記利得特性が最も大きな方向は、前記基板の面方位の所定の方向である、請求項5に記載の面発光型半導体レーザ。
請求項8は、第2の半導体多層膜反射鏡上に光出射口を規定する金属電極が形成され、前記光出射口は、出射保護膜によって被覆され、前記出射保護膜上に第1および第2の誘電体膜がそれぞれ形成される、請求項1ないし7いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項9は、請求項1ないし8いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと、前記面発光型半導体レーザからの光を入射する光学部材と、を実装した面発光型半導体レーザ装置。
請求項10は、請求項9に記載された面発光型半導体レーザ装置と、前記面発光型半導体レーザ装置から発せられたレーザ光を光媒体を介して伝送する伝送手段と、を備えた光伝送装置。
請求項11は、請求項1ないし8いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと、前記面発光型半導体レーザから出射されるレーザ光を記録媒体に集光する集光手段と、前記集光手段により集光されたレーザ光を前記記録媒体上で走査する機構と、を有する情報処理装置。
【発明の効果】
【0006】
請求項1によれば、レーザ光を一定方向に偏光制御することができる。
請求項2によれば、高次モードが抑制された基本横モード光を得ることができる。
請求項3によれば、第1および第2の誘電体膜の重複する領域の反射率を、重複しない領域の反射率よりも高くすることができる。
請求項4によれば、第1よび第2の誘電体膜の重複する領域を光軸近傍に形成することができる。
請求項5、6、7によれば、利得特性が最も大きな方向に一致させない場合と比べて、偏光方向を一方向に安定化させることができる。
請求項8によれば、第2の半導体多層膜反射鏡を酸化等から保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1の実施例に係る面発光型半導体レーザの平面図と、そのA−A線およびB−B線断面図である。
【図2】図2(a)は、第1および第2の誘電体膜と電流狭窄層の導電領域(酸化アパーチャ)との関係を説明する平面図、図2(b)は、第1および第2の誘電体膜による付加される応力の方向を示す図、図2(c)は、光出射口の反射率の分布を説明する図である。
【図3】図3(a)は、第1の実施例の変形例に係る面発光型半導体レーザの光出射口の平面図、図3(b)は、第2の実施例の変形例に係る面発光型半導体レーザの光出射口の平面図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係る面発光型半導体レーザの平面図と、そのA−A線およびB−B線断面図である。
【図5】本実施例の面発光型半導体レーザに光学部材を実装した面発光型半導体レーザ装置の構成を示す概略断面図である。
【図6】本実施例の面発光型半導体レーザを使用した光源装置の構成例を示す図である。
【図7】図5に示す面発光型半導体レーザ装置を用いた光伝送装置の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。以下の説明では、選択酸化型の面発光型半導体レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)を例示し、面発光型半導体レーザをVCSELと称する。なお、図面のスケールは、発明の特徴を分かり易くするために強調しており、必ずしも実際のデバイスのスケールと同一ではないことに留意すべきである。
【実施例】
【0009】
図1は、本発明の第1の実施例に係るVCSELの概略平面図とその断面図である。同図に示すように、本実施例のVCSEL10は、n型のGaAs基板100上に、Al組成の異なるAlGaAs層を交互に重ねたn型の下部分布ブラック型反射鏡(Distributed Bragg Reflector:以下、DBRという)102、下部DBR102上に形成された上部および下部スペーサ層に挟まれた量子井戸層を含む活性領域104、活性領域104上に形成されたAl組成の異なるAlGaAs層を交互に重ねたp型の上部DBR106を積層している。n型の下部DBR102は、例えば、Al0.9Ga0.1As層とAl0.3Ga0.7As層との対の複数層積層体で、各層の厚さはλ/4n(但し、λは発振波長、nは媒質の屈折率)であり、これらを交互に40周期で積層してある。n型不純物であるシリコンをドーピングした後のキャリア濃度は、例えば、3×1018cm-3である。活性領域104の下部スペーサ層は、例えば、アンドープのAl0.6Ga0.4As層であり、量子井戸活性層は、アンドープAl0.11Ga0.89As量子井戸層およびアンドープのAl0.3Ga0.7As障壁層であり、上部スペーサ層は、アンドープのAl0.6Ga0.4As層である。p型の上部DBR106は、例えば、Al0.9Ga0.1As層とAl0.3Ga0.7As層との対の複数層積層体で、各層の厚さはλ/4nであり、これらを交互に24周期積層してある。p型不純物であるカーボンをドーピングした後のキャリア濃度は、例えば、3×1018cm-3である。また、上部DBR106の最上層には、p型GaAsからなるコンタクト層106Aが形成され、上部DBR106の最下層もしくはその内部には、p型のAlAsからなる電流狭窄層108が形成される。
【0010】
上部DBR106から下部DBR102に至るまで半導体層をエッチングすることにより、基板100上に円筒状のメサ(柱状構造)Mが形成される。メサMのエッチングは、少なくとも電流狭窄層108を側面に露出させる深さであればよい。電流狭窄層108は、メサMの側面で露出され、当該側面から選択的に酸化された酸化領域108Aと酸化領域108Aによって囲まれた導電領域(酸化アパーチャ)108Bとを有する。電流狭窄層108の酸化工程において、AlAs層の酸化速度は、AlGaAs層よりも速く、メサMの側面から内部に向けてほぼ一定の速度で酸化が進行する。このため、導電領域108Bの基板100の主面と平行な面内の平面形状は、メサMの外形を反映した円形状となり、その中心は、メサMの軸方向の中心、すなわち光軸と一致する。導電領域108Bの径は、高次横モード発振が生じる大きさであることができ、例えば、780nmの波長帯で、5ミクロンまたはそれ以上とすることができる。
【0011】
メサMの最上層または頂部には、金属製の環状のp側電極110が形成される。p側電極110は、例えば、AuまたはTi/Auなどを積層した金属から構成され、上部DBR106のコンタクト層106Aにオーミック接続される。p側電極110の中央には、円形状の開口部が形成され、当該開口部は、光を出射する光出射口110Aを規定する。好ましくは、光出射口110Aの中心は、メサMの光軸に一致し、光出射口110Aの直径は、導電領域108Bの直径よりも大きい。
【0012】
メサMの底部、側部および頂部の周縁を覆うように層間絶縁膜114が形成される。メサMの頂部において、層間絶縁膜114には円形状のコンタクトホール116が形成され、p側電極110の一部が露出される。p側電極110は、コンタクトホール116を介して図示しない配線に接続される。
【0013】
本実施例では、光出射口110A内に、光軸近傍を覆うように2つの直交する第1および第2の誘電体膜112、118が形成される。第1の誘電体膜112は、発振波長を透過可能な材料から構成され、その膜厚は、媒質内波長のλ/4の奇数倍、すなわち(2n−1)λ/4である(但し、nは正の整数である)。第1の誘電体膜112は、長軸と短軸を有する異方形状から構成され、ここでは、矩形パターンに加工される。第1の誘電体膜112の長軸の長さLaは、図2(a)に示すように、導電領域108Bの直径Oxよりも大きく、短軸の長さLbは、直径Oxよりも小さい(La>Ox>Lb)。また、好ましくは、長軸の長さLaは、光出射口110Aの直径よりも幾分大きく、これにより、第1の誘電体膜112の両端部がp側電極110の一部を覆っている。
【0014】
第1の誘電体膜112上には、第1の誘電体膜112と直交するように第2の誘電体膜118が形成される。第2の誘電体膜118は、発振波長を透過可能な材料から構成され、その膜厚は、媒質内波長のλ/4の奇数倍、すなわち(2n−1)λ/4である。第2の誘電体膜118は、第1の誘電体膜112と同様に、平面形状が長軸と短軸を有する異方形状であり、ここでは、長軸と短軸とを有する矩形パターンに加工される。好ましくは、第2の誘電体膜118の長軸Laおよび短軸Lbの長さは、第1の誘電体膜112のそれと同じ大きさに形成され、La>Ox>Lbの関係にある(図2(a)を参照)。但し、第2の誘電体膜118の形状およびサイズは、必ずしも第1の誘電体膜112に等しくなくてもよい。さらに好ましくは、第2の誘電体膜118の長軸と第1の誘電体膜112の長軸との交点は、光軸にほぼ一致し、こうして、光出射口110Aの光軸近傍には、第1の誘電体膜112と第2の誘電体膜118が交差する重複領域が形成され、光軸近傍から離れた領域には、第1の誘電体膜112または第2の誘電体膜118の単層の領域が形成される。
【0015】
本実施例では、第1の誘電体膜112は、活性領域104に対し、圧縮または引張応力(歪み)を活性領域104に付加するように形成され、第2の誘電体膜118は、第1の誘電体膜112とは反対方向の応力を活性領域104に付加するように形成される。例えば、第1の誘電体膜112が活性領域104に対し引張応力を付加するとき、第2の誘電体膜118は活性領域104に対し圧縮応力を付加するように形成される。
【0016】
図2(b)は、第1および第2の誘電体膜112、118による応力の関係を表している。ここで、基板の主面と平行な活性領域104の面をX方向、Y方向とする。例えば、第1の誘電体膜112の長軸がX方向に平行であり、第1の誘電体膜112が活性領域104に対し引張応力S1xを付加するように形成された場合、活性領域104のY方向には、見かけ上、圧縮応力S1yが作用したことになる。一方、第2の誘電体膜118の長軸がY方向に平行であり、第2の誘電体膜118が活性領域104に圧縮応力S2yを付加するように形成された場合、活性領域104のX方向には、見かけ上、引張応力S2xが作用したことになる。第2の誘電体膜118の長軸は、第1の誘電体膜112の長軸と直交する関係にあるため、第1および第2の誘電体膜112、114は、活性領域104に対して、互いに助長し合う方向あるいは強め合う方向に応力を付加することになる。その結果、活性領域104には特定の方向に歪み加えられ、利得に異方性が生じ、レーザ光の偏光制御を行うことができる。一般に、活性領域104に圧縮応力が付加されたとき、その方向の利得が増加することが知られている。
【0017】
活性領域104に引張応力または圧縮応力を付加するためには、第1および第2の誘電体膜112、118に内部応力を生じさせればよい。そのような方法は、例えば、本出願人によって開示された特許第4590820号に詳細に記載されている。無機絶縁膜として窒化珪素膜(SiN)をプラズマ支援CVDにより形成するとき、モノシランとアンモニアの原料ガスに、水素および窒素の希釈ガスを加えることで、過剰な水素および窒素が窒化珪素膜に混入し、それによって内部応力を調整することができる。具体的には、水素の含有比率が増加するにつれ内部応力は圧縮応力となり、その値が増加し、他方、水素の含有比率が減少するにつれ引張応力となり、その値が増加する。SiNの他にも、SiON、SiO等の無機絶縁膜においても同様に、水素の含有比率を変化させることで内部応力を調整することが可能である。また、モノシランに、亜酸化窒素および窒素のガスを用いて、内部応力が圧縮応力となる酸窒化珪素膜(SiON)を形成することも可能である。上記の方法は、一例であって、他の公知技術を利用して、引張応力または圧縮応力を付加する誘電体膜を形成することができる。
【0018】
また、第1の誘電体膜112の屈折率をn、第2の誘電体膜118の屈折率をn、上部DBR108の半導体層(コンタクト層106A)の屈折率をnとすると、n<n<nの関係にある。第1および第2の誘電体膜112、118の膜厚は、λ/4の奇数倍であり、その結果、第1の誘電体膜112と第2の誘電体膜118の重複した領域の反射率r1は、第1の誘電体膜112と第2の誘電体膜118とが重複しない領域の反射率r2よりも高くなる。
【0019】
第1の誘電体膜112と第2の誘電体膜118とが重複する領域は光軸近傍であり、光軸近傍で生じる基本横モードの発振は、相対的に高い反射率r1により促進される。他方、第1の誘電体膜112と第2の誘電体膜118とが重複しない領域は、光軸近傍から離れた周辺領域であり、当該周辺領域で生じる高次モードの発振は、相対的に低い反射率r2により抑制される。図2(c)は、この様子を示しており、第1および第2の誘電体膜112、118の重複領域は基本モード領域130(ハッチング部分)として示され、第1および第2の誘電体膜が重複しない領域は、高次モード領域132として示されている。第1および第2の誘電体膜112、118の短軸の長さLbを導電領域108Bの直径Oxよりも小さくすることで、第1および第2の誘電体膜112、118が重複する領域が、導電領域108Bの内側の光軸近傍に形成される。また、第1および第2の誘電体膜112、118の長軸の長さLaを導電領域108Bの直径Oxよりも大きくすることで、導電領域108Bの周縁部分が第1または第2の誘電体膜112、118によって覆われる。
【0020】
好ましくは、第1および第2の誘電体膜112、118の屈折率nとnの差が大きくなるような材料を選択することが望ましい。これにより、基本モード領域130と高次モード領域132の反射率差(r1−r2)を大きくすることができる。1つの好ましい例では、第1の誘電体膜112は、SiONまたはSiOから構成され、第2の誘電体膜118は、SiNから構成され、これらの誘電体膜は、水素の含有比率を変えることで内部応力が調整される。
【0021】
例えば、上部DBR106がAl0.9Ga0.1As層とAl0.3Ga0.7As層の24周期であり、第1の誘電体膜112がSiON(λ/4の膜厚)から構成され、第2の誘電体膜118がSiN(λ/4の膜厚)から構成されたとき、基本モード領域130の反射率r1は、約99.7%であり、高次モード領域132の反射率r2は、約99.2%である。典型的にレーザ発振に必要な反射率は、おおよそ99.5%であるため、基本モード領域130の光軸上に発生する光の発振が促進され、他方、光軸から離れた高次モード領域132における高次横モードの発振が抑制される。当業者であれば、上部DBR106の周期数や第1および第2の誘電体膜112、118の材料を選択することで、反射率r1、r2を適宜調整することが可能である。また、第1の誘電体膜112または第2の誘電体膜118が層間絶縁膜114と同一の材料から構成される場合には、第1または第2の誘電体膜112、118は層間絶縁膜114と同一の工程によって同時にパターニングすることができる。
【0022】
VCSELは、電流狭窄領域(酸化アパーチャまたは導電領域108B)を小さくすることで高次モードを抑制し、単一横モード発振するように設計されるが、酸化アパーチャを小さくすると光出力も小さくなる。また、出射方向に対する垂直面内において、利得に異方性をもたないと、素子によって偏光方向がばらつき、偏光方向が変化するという不安定性を有している。
【0023】
本実施例では、光出射口110A内に、直交する第1および第2の誘電体膜112、118を形成し、基本モード領域130と高次モード領域132との間の反射率差(r1−r2)を生じさせることで、酸化アパーチャの径を大きくし高出力化を図る一方で高次横モードを抑制した基本横モード光を得ることができる。さらに、異方形状の第1および第2の誘電体膜112、118によって、互い強め合う方向の応力を活性領域に与えるようにしたので、活性領域に利得の異方性が生じ、基本横モード光の偏光制御を行うことができる。また、本実施例では、光出射口内に異方形状の誘電体膜を形成すれば良いため、光出射口をエッチング等により加工してそこに溝またはトレンチを形成する方法と比べて、生産性が改善される。
【0024】
図3(a)は、第1の実施例の変形例であって、VCSELの光出射口の平面図で示している。ここに示すVCSEL10Aでは、第1の誘電体膜112Aは、長軸および短軸を有する楕円パターンに加工され、第2の誘電体膜118Aもまた、長軸および短軸を有する楕円パターンに加工される。パターン形状以外の構成は、図1に示すVCSELと同じである。第1および第2の誘電体膜112A、118Aは、長軸が直交し、その交点は、光軸にほぼ一致する。第1の誘電体膜112Aが引張または圧縮応力を活性領域104に付加するとき、第2の誘電体膜118Aは、それと反対の圧縮または引張応力を付加する。本変形例においても、光出射口110Aからは、高次モードが抑制された基本横モード光が出力され、その基本横モード光は、第1または第2の誘電体膜の長軸方向に偏光制御される。なお、第1および第2の誘電体膜は、それぞれ異なるパターンに加工されてもよく、例えば、第1の誘電体膜が矩形パターンに加工され、第2の誘電体膜が楕円パターンに加工されてもよい。
【0025】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。図4は、第2の実施例に係るVCSELの平面図と、そのA−A線およびB−B線断面図である。第2の実施例に係るVCSEL10Bでは、メサM1が楕円形状に加工されている点で、図1に示すVCSEL10と構成を異にしている。メサM1を楕円形状にすることで、メサM1の酸化領域108Aにより囲まれた導電領域108Bの平面形状が楕円形状となり、利得に異方性が与えられる。
【0026】
導電領域108Bの平面形状は、長軸および短軸を有し、短軸方向と比べて長軸方向の利得が大きくなる。第1および第2の誘電体膜112、118は、導電領域108Bによる利得が損なわれないように、活性領域104に応力を付加する。一般に、活性領域104は、圧縮応力が付加されると、その利得を増加させるので、活性領域104には、導電領域108Bの長軸方向と一致する方向に圧縮応力を付加するのが好ましい。
【0027】
図4に示す例では、第1の誘電体膜112の長軸方向は、導電領域108Bの短軸方向と一致し、第2の誘電体膜118の長軸方向は、導電領域108Bの長軸方向と一致している。従って、第1の誘電体膜112は、活性領域104に対し引張応力を付加するように形成され、第2の誘電体膜118は、活性領域104に対し圧縮応力を付加するように形成される。また、第1の誘電体膜112の長軸は、導電領域108Bの短軸よりも大きく、その短軸は、導電領域108Bの長軸よりも小さい。第2の誘電体膜118の長軸は、導電領域108Bの長軸よりも大きく、その短軸は、導電領域108Bの短軸よりも小さい。さらに、第1の誘電体膜112の長軸は、第2の誘電体膜118の長軸よりも小さく、その短軸は、第2の誘電体膜118の短軸と等しい。これにより、第1および第2の誘電体膜112、118の重複領域は、光軸を中心とするほぼ正方形となる。
【0028】
第2の実施例では、導電領域108Bが光軸に関し長軸と短軸を有する異方性を持つものであるため、その利得にも異方性が生じ、第1および第2の誘電体膜112、118は、その利得を相殺することなくその利得を相乗することで、より効果的な偏光制御を行うことができる。なお、図4において、p側電極110の光出射口110Aを楕円形状にしているが、光出射口110Aは、図1のときと同様に円形状であってもよい。
【0029】
図3(b)は、第2の実施例に係るVCSELの変形例を示す平面図である。この変形例のVCSEK10Cは、第1および第2の誘電体膜112A、118Aを楕円パターンに加工するものであり、それ以外の構成は、図4に示すVCSEL10Bと同様である。
【0030】
次に、本発明の他の変形例について説明する。第1および第2の実施例では、上部DBR106のコンタクト層106A上に第1および第2の誘電体膜112、118を形成する例を示したが、光出射口110A内のコンタクト層106Aを出射保護膜により覆うようにしてもよい。出射保護膜によりコンタクト層106Aが酸化したり汚染するのを防ぎ、また、第1および第2の誘電体膜をパターニングするときにコンタクト層106Aをエッチング等から保護する。出射保護膜が反射率に大きな影響を与えない程度の膜厚であれば、第1おおび第2の誘電体膜112、118の膜厚は、λ/4の奇数倍であればよい。また、出射保護膜が比較的厚くなるならば、その膜厚はλ/2にし、第1および第2の誘電体膜112、118の膜厚は、λ/4の奇数倍とすることが望ましい。
【0031】
また、III−V族半導体のVCSELは、面方位(110)方向、若しくは(1−10)方向に偏光し易い特性を有する。また、面方位を所定角度、例えば2度傾斜した傾斜基板を用いた場合にも、活性領域の利得に異方性を生じる。第1および第2の誘電体膜は、こうした利得の異方性を損なうことなく、利得が助長されるように、活性領域に対し応力を付加することが望ましい。
【0032】
第1、第2の実施例では、長軸および短軸を有する異方形状として、楕円パターン、矩形パターンを例示したが、これ以外の形状であってもよい。また、電流狭窄層108は、AlAsから構成される例を示したが、電流狭窄層108は、Al組成を他のDBRのAl組成よりも高くしたAlGaAsから構成されるものであってもよい。さらに、電流狭窄層108の導電領域(酸化アパーチャ)108Bの径は、要求される光出力などに応じて適宜変更することができる。さらにVCSELは、GaAs系のみならず、他のIII−V族の化合物半導体を用いたものであってもよい。n側電極は、GaAs基板の裏面に形成したが、n側電極は、下部DBR102と電気的に接続されるようにメサ底部に形成してもよい。この場合、基板は、半絶縁性であってもよい。さらに上記実施例では、シングルスポットのVCSELを例示したが、基板上に多数のメサ(発光部)が形成されたマルチスポットのVCSELあるいはVCSELアレイであってもよい。
【0033】
次に、本実施例のVCSELを利用した面発光型半導体レーザ装置、光情報処理装置および光伝送装置について図面を参照して説明する。図5(a)は、VCSELと光学部材を実装(パッケージ)した面発光型半導体レーザ装置の構成を示す断面図である。面発光型半導体レーザ装置300は、VCSELが形成されたチップ310を、導電性接着剤320を介して円盤状の金属ステム330上に固定する。導電性のリード340、342は、ステム330に形成された貫通孔(図示省略)内に挿入され、一方のリード340は、VCSELのn側電極に電気的に接続され、他方のリード342は、p側電極に電気的に接続される。チップ310を含むステム330上に矩形状の中空のキャップ350が固定され、キャップ350の中央の開口352内に光学部材のボールレンズ360が固定されている。ボールレンズ360の光軸は、チップ310のほぼ中心と一致するように位置決めされる。リード340、342間に順方向の電圧が印加されると、チップ310から垂直方向にレーザ光が出射される。チップ310とボールレンズ360との距離は、チップ310からのレーザ光の広がり角θ内にボールレンズ360が含まれるように調整される。また、キャップ内に、VCSELの発光状態をモニターするための受光素子や温度センサを含ませるようにしてもよい。
【0034】
図5(b)は、他の面発光型半導体レーザ装置の構成を示す図であり、同図に示す面発光型半導体レーザ装置302は、ボールレンズ360を用いる代わりに、キャップ350の中央の開口352内に平板ガラス362を固定している。平板ガラス362の中心は、チップ310のほぼ中心と一致するように位置決めされる。チップ310と平板ガラス362との距離は、平板ガラス362の開口径がチップ310からのレーザ光の広がり角度θ以上になるように調整される。
【0035】
図6は、VCSELを光情報処理装置の光源に適用した例を示す図である。光情報処理装置370は、図5(a)または図5(b)のようにVCSELを実装した面発光型半導体レーザ装置300または302からのレーザ光を入射するコリメータレンズ372、一定の速度で回転し、コリメータレンズ372からの光線束を一定の広がり角で反射するポリゴンミラー374、ポリゴンミラー374からのレーザ光を入射し反射ミラー378を照射するfθレンズ376、ライン状の反射ミラー378、反射ミラー378からの反射光に基づき潜像を形成する感光体ドラム(記録媒体)380を備えている。このように、VCSELからのレーザ光を感光体ドラム上に集光する光学系と、集光されたレーザ光を光体ドラム上で走査する機構とを備えた複写機やプリンタなど、光情報処理装置の光源として利用することができる。
【0036】
図7は、図5(a)に示す面発光型半導体レーザ装置を光伝送装置に適用したときの構成を示す断面図である。光伝送装置400は、ステム330に固定された円筒状の筐体410、筐体410の端面に一体に形成されたスリーブ420、スリーブ420の開口422内に保持されるフェルール430、およびフェルール430によって保持される光ファイバ440を含んで構成される。ステム330の円周方向に形成されたフランジ332には、筐体410の端部が固定される。フェルール430は、スリーブ420の開口422に正確に位置決めされ、光ファイバ440の光軸がボールレンズ360の光軸に整合される。フェルール430の貫通孔432内に光ファイバ440の芯線が保持されている。チップ310の表面から出射されたレーザ光は、ボールレンズ360によって集光され、集光された光は、光ファイバ440の芯線に入射され、送信される。上記例ではボールレンズ360を用いているが、これ以外にも両凸レンズや平凸レンズ等の他のレンズを用いることができる。さらに、光伝送装置400は、リード340、342に電気信号を印加するための駆動回路を含むものであってもよい。さらに、光伝送装置400は、光ファイバ440を介して光信号を受信するための受信機能を含むものであってもよい。
【0037】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0038】
10、10A、10B、10C:VCSEL
100:基板
102:下部DBR
104:活性領域
106:上部DBR
106A:コンタクト層
108:電流狭窄層
108A:酸化領域
108B:導電領域(酸化アパーチャ)
110:p側電極
110A:光出射口
112、112A:第1の誘電体膜
114:層間絶縁膜
116:コンタクトホール
118、118A:第2の誘電体膜
120:n側電極
130:基本モード領域
132:高次モード領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された第1導電型の第1の半導体多層膜反射鏡と、
第1の半導体多層膜反射鏡上に形成された活性領域と、
前記活性領域上に形成された前記第1導電型と異なる第2導電型の第2の半導体多層膜反射鏡と、
発振波長を透過可能な材料から構成され、前記基板の主面と平行な面において長軸と短軸とを有する異方形状を有し、第2の半導体多層膜反射鏡上に形成された第1の誘電体膜と、
発振波長を透過可能な材料から構成され、前記基板の主面と平行な面において長軸と短軸とを有する異方形状を有し、第1の誘電体膜の少なくとも一部を覆うように形成された第2の誘電体膜とを有し、
第1の誘電体膜の長軸と第2の誘電体膜との長軸は略直交する関係にあり、第1の誘電体膜は、前記活性領域に対し引張応力または圧縮応力を付加し、第2の誘電体膜は、第1の誘電体膜による応力と反対の圧縮応力または引張応力を前記活性領域に付加する、面発光型半導体レーザ。
【請求項2】
第1の誘電体膜と第2の誘電体膜の重複する領域は光軸近傍であり、前記重複する領域の反射率は、第1の誘電体膜と第2の誘電体膜が重複しない領域の反射率よりも高い、請求項1に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項3】
第1の誘電体膜の膜厚は、λ/4n(λは発振波長)の奇数倍であり、第2の誘電体膜は、λ/4nの奇数倍であり、第1の誘電体膜の第1の屈折率nは、第2の誘電体膜の第2の屈折率nよりも小さい、請求項1または2に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項4】
前記基板上には、第2の半導体多層膜反射鏡から第1の半導体多層膜反射鏡に至る方向に延在する柱状構造が形成され、前記柱状構造内には、選択的に酸化された酸化領域によって囲まれた導電領域を有する電流狭窄層が形成され、
第1および第2の誘電体膜の各長軸の長さは、前記導電領域の直径よりも大きく、各短軸の長さは、前記導電領域の直径よりも小さい、請求項1ないし3いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項5】
第1または第2の誘電体膜の長軸は、前記活性領域の利得特性が最も大きな方向に一致される、請求項1ないし4いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項6】
前記電流狭窄層の導電領域の平面形状が長軸と短軸の異方性を有するとき、前記利得特性が最も大きな方向は、前記導電領域の長軸方向である、請求項5に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項7】
前記利得特性が最も大きな方向は、前記基板の面方位の所定の方向である、請求項5に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項8】
第2の半導体多層膜反射鏡上に光出射口を規定する金属電極が形成され、前記光出射口は、出射保護膜によって被覆され、前記出射保護膜上に第1および第2の誘電体膜がそれぞれ形成される、請求項1ないし7いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項9】
請求項1ないし8いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと、
前記面発光型半導体レーザからの光を入射する光学部材と、
を実装した面発光型半導体レーザ装置。
【請求項10】
請求項9に記載された面発光型半導体レーザ装置と、
前記面発光型半導体レーザ装置から発せられたレーザ光を光媒体を介して伝送する伝送手段と、
を備えた光伝送装置。
【請求項11】
請求項1ないし8いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザと、
前記面発光型半導体レーザから出射されるレーザ光を記録媒体に集光する集光手段と、
前記集光手段により集光されたレーザ光を前記記録媒体上で走査する機構と、
を有する情報処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−21278(P2013−21278A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155963(P2011−155963)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】