説明

面発光型半導体レーザおよび光伝送装置

【課題】高速変調可能な面発光型半導体レーザを提供する。
【解決手段】面発光型半導体レーザ10は、基板100上に形成され、基板と垂直方向にレーザ光を発する発光部130と、基板上に形成され、発光部で発せられた光の一部を基板と水平方向に伝播させる光伝播部140と、光伝播部で伝播された光を発光部に向けて反射させる反射部150とを備える。光伝播部は、発光部の屈折率よりも屈折率が小さいトレンチ120と、トレンチと反射部との間に配されたトレンチよりも屈折率が高いスローライト部122とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光型半導体レーザおよび光伝送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光リンク伝送容量が加速度的に増加しており、〜100Gbs程度の高速伝送可能で低消費電力な光源が必要とされている。このような光源に面発光型半導体レーザを用いるためには、面発光型半導体レーザの変調速度をさらに高速にしなければならない。面発光型半導体レーザを高速変調する方法の1つに、基板上に面発光型半導体レーザと横導波路とをモノリシックに形成し、横導波路から面発光型半導体レーザに光を注入することで、面発光型半導体レーザの出射光をスイッチングまたは変調するものがある(特許文献1)。さらに、光伝送容量の増加は、面発光型半導体レーザの高出力化を必要とする。例えば、面発光型半導体レーザの光出射面に凹部によって囲まれた光閉じ込め領域を形成することで、モード数を削減し、高出力化が図られている(特許文献2)。
【0003】
また、特許文献3は、モードロック端面発光型半導体レーザに関するものであるが、逆バイアス電圧を印加し変調要素の屈折率を変化させることで光を吸収する光吸収器セクションや、順方向バイアス電圧を印加することで光ゲインを発生する活性セクションを形成し、高速変調や高出力化を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−274640号公報
【特許文献2】特開2007−189033号公報
【特許文献3】特開2010−3930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高速変調可能な面発光型半導体レーザおよびこれを用いた光伝送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、基板上に形成され、基板と垂直方向にレーザ光を発する発光部と、前記基板上に形成され、前記発光部で発せられた光の一部を前記基板と水平方向に伝播させる光伝播部と、前記光伝播部で伝播された光の光量を調整する光量調整手段とを備え、前記光伝播部は、前記発光部領域の等価屈折率よりも等価屈折率が小さい低等価屈折率領域と、前記低等価屈折率領域と前記光量調整手段との間に配された前記低等価屈折率領域よりも等価屈折率が高い高等価屈折率領域とを含む、面発光型半導体レーザ。
請求項2に係る発明は、前記光量調整手段とは、前記光伝播部で伝播された光の光量を調整する光量調整手段を前記発光部に向けて反射させる反射部である、請求項1に記載の面発光型半導体レーザ。
請求項3に係る発明は、基板上に、高屈折率層と低屈折率層の積層構造からなる第1の多層膜反射鏡、光を発することが可能な活性領域、および高屈折率層と低屈折率層の積層構造からなる第2の多層膜反射鏡が形成され、前記発光部は、前記第1の多層膜反射鏡、前記活性領域および前記第2の多層膜反射鏡を含み、前記発光部は、前記第2の多層膜反射鏡の表面からレーザ光を出射し、前記光伝播部は、前記第1の多層膜反射鏡、前記活性領域および前記第2の多層膜反射鏡を含み、前記低等価屈折率領域は、前記第2の多層膜反射鏡内に、前記基板と垂直方向に形成された溝を含む、請求項1または2に記載の面発光型半導体レーザ。
請求項4に係る発明は、前記発光部は、前記活性領域の近傍に電流狭窄層を含み、前記電流狭窄層は、選択的に酸化された酸化領域と当該酸化領域により周囲を囲まれた非酸化領域とを含み、前記非酸化領域は、前記酸化領域よりも高い等価屈折率を有し、前記非酸化領域内に閉じ込められた光の一部が前記光伝播部に伝播される、請求項1ないし3いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項5に係る発明は、前記低等価屈折率領域は、前記非酸化領域内に形成される、請求項1ないし4いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項6に係る発明は、前記光量調整手段は、前記光伝播部の第1の多層膜反射鏡、活性領域および第2の多層膜反射鏡の側壁に形成される、請求項1ないし5いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項7に係る発明は、前記第1の多層膜反射鏡は第1導電型を有し、前記第2の多層膜反射鏡は前記第1導電型と異なる第2導電型を有し、前記発光部は、前記第1の多層膜反射鏡に電気的に接続される第1の電極、および前記第2の多層膜反射鏡に電気的に接続される第2の電極を含み、前記第1および第2の電極に順方向バイアスの駆動信号が印加される、請求項1ないし6いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
請求項8に係る発明は、基板上に形成され、基板と垂直方向にレーザ光を発する発光部と、前記基板上に形成され、前記発光部で発せられた光の少なくとも一部を前記基板と水平方向に伝播させる光伝播部とを有し、前記光伝播部は、前記発光部領域よりも等価屈折率が小さい低等価屈折率領域と、前記低等価屈折率領域に隣接しかつ前記低等価屈折率領域よりも等価屈折率が高い高等価屈折率領域とを含み、前記発光部で発せられた光の一部は前記低等価屈折率領域を介して前記高等価屈折率領域に伝播される面発光型半導体レーザと、前記光伝播部で伝播される光の光量と調整するように駆動信号を印加する駆動信号印加手段と、を備える光伝送装置。
請求項9に係る発明は、前記駆動信号は、伝播される光が吸収される逆バイアスの駆動信号である、請求項8に記載の光伝送装置。
請求項10に係る発明は、基板上に、高屈折率層と低屈折率層の積層構造からなる第1導電型の第1の多層膜反射鏡、光を発することが可能な活性領域、および高屈折率層と低屈折率層の積層構造からなり前記第1導電型と異なる第2導電型の第2の多層膜反射鏡が形成され、前記発光部は、前記第1の多層膜反射鏡、前記活性領域、前記第2の多層膜反射鏡、前記第1の多層膜反射鏡に電気的に接続された第1の電極、および前記第2の多層膜反射鏡に電気的に接続された第2の電極を含み、前記第2の電極は前記第2の多層膜反射鏡の表面を覆うように形成され、前記光伝播部は、前記第1の多層膜反射鏡、前記活性領域、前記第2の多層膜反射鏡、前記第1の電極、および前記第2の多層膜反射鏡に電気的に接続された第3の電極を含み、前記第3の電極に前記逆バイアスの駆動信号が印加され、前記光伝播部の前記第2の多層膜反射鏡の表面からレーザ光が出射され、前記低等価屈折率領域は、前記第2の多層膜反射鏡内に、前記基板と垂直方向に形成された溝を含む、請求項9に記載の光伝送装置。
請求項11に係る発明は、前記発光部は、前記活性領域の近傍に電流狭窄層を含み、前記電流狭窄層は、選択的に酸化された酸化領域と当該酸化領域により周囲を囲まれた非酸化領域とを含み、前記非酸化領域は、前記酸化領域よりも高い等価屈折率を有し、前記非酸化領域内に閉じ込められた光の一部が前記光伝播部に伝播される、請求項9または10に記載の光伝送装置。
請求項12に係る発明は、前記低等価屈折率領域は、前記非酸化領域内に形成される、請求項10ないし11いずれか1つに記載の光伝送装置。
請求項13に係る発明は、前記光伝播部はさらに、前記高等価屈折率領域に電気的に接続される第4の電極を含み、第4の電極に印加された順方向バイアスの駆動信号に応じて伝播されたレーザ光を増幅する、請求項9ないし12いずれか1つに記載の光伝送装置。
請求項14に係る発明は、請求項1ないし7のいずれか1つに記載された面発光型半導体レーザと、前記面発光型半導体レーザに駆動信号を印加する駆動信号印加手段と、を備えた光伝送装置。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、光の一部を基板と水平方向に伝播させる光伝播部を備えないものに比して、面発光型半導体レーザを高速変調することができる。
請求項2の発明によれば、光伝播部で伝播された光を反射させる反射部を備えないものに比して、光伝播部で伝播される光の光量の調整を容易に行うことができる。
請求項3の発明によれば、発光部と光伝播部とを同一基板上に形成しないものに比して、低屈折率領域の溝を容易に作成することができる。
請求項4の発明によれば、電流狭窄層により光閉じ込めと電流の狭窄を同時に行うことができる。
請求項5の発明によれば、非酸化領域内に閉じ込められた光の一部を高等価屈折率領域に導くことができる。
請求項6の発明によれば、光伝播部で伝播された光の光量の損失が生じないように効果的に反射させることができる。
請求項7の発明によれば、駆動信号に応じてレーザ光を変調させることができる。
請求項8の発明によれば、光の一部を基板と水平方向に伝播させる光伝播部を備えないものに比して、レーザ光が高速変調された光伝送装置を提供することできる。
請求項9の発明によれば、逆バイアスの駆動信号を印加しないものに比して、レーザ光を高速に変調させることができる。
請求項10の発明によれば、逆バイアスの駆動信号が印加される光伝播部を持たないものに比して、光の吸収を効果的に行うことができる。
請求項11の発明によれば、電流狭窄層により光閉じ込めと電流の狭窄を同時に行うことができる。
請求項12の発明によれば、非酸化領域内に閉じ込められた光を高等価屈折率領域に導くことができる。
請求項13の発明によれば、順方向バイアスの駆動信号が印加される光伝播部を持たないものに比して、レーザ光の高出力化を図ることができる。
請求項14の発明によれば、高速変調された光信号を伝送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の実施例に係る面発光型半導体レーザの模式的な平面図とそのA−A線断面図である。
【図2】第1の実施例に係る面発光型半導体レーザの等価屈折率と光閉じ込め分布を示す図である。
【図3】第1の実施例に係る面発光型半導体レーザの光分布の計算結果を示すグラフである。
【図4】第1の実施例に係る面発光型半導体レーザの周波数応答特性の計算結果を示すグラフである。
【図5】第1の実施例に係る面発光型半導体レーザの信号特性の計算結果を示すグラフである。
【図6】本発明の第2の実施例に係る面発光型半導体レーザの模式的な平面図とそのB−B線断面図である
【図7】第2の実施例に係る面発光型半導体レーザの光増幅量を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例に係る面発光型半導体レーザを利用した光伝送装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の実施例に係る面発光型半導体レーザを利用した光伝送装置の一構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施の形態に係る面発光型半導体レーザ(VCSEL:Vertical-Cavity Surface-Emitting Laser diode、以下、VCSELと称す)について図面を参照して説明する。また、図面のスケールは、発明の特徴を分かり易くするために強調しており、必ずしも実際のデバイスのスケールと同一ではないことに留意すべきである。
【実施例】
【0010】
図1(a)は、本発明の第1の実施例に係るVCSELの模式的な平面図、図1(b)は、そのA−A線断面図である。同図に示すように、本実施例のVCSEL10は、n型のGaAs基板100上に、Al組成の異なるAlGaAs層を交互に重ねたn型の下部分布ブラック型反射鏡(Distributed Bragg Reflector:以下、DBRという)102、下部DBR102上に形成された上部および下部スペーサ層に挟まれた量子井戸層を含む活性領域104、活性領域104上に形成されたAl組成の異なるAlGaAs層を交互に重ねたp型の上部DBR108を積層して構成される。図1(a)に示すVCSEL10は、一方の端部が半円状であり、他方の端部が矩形状のポスト構造を有している。
【0011】
n型の下部DBR102は、高屈折率層と低屈折率層の積層として、例えば、Al0.92Ga0.08As層とAl0.16Ga0.84As層とのペアを複数積層する。各層の厚さは、λ/4n(但し、λは発振波長、nは媒質の屈折率)であり、これらを交互に40周期で積層する。n型不純物であるシリコンをドーピングした後のキャリア濃度は、例えば、3×1018cm-3である。
【0012】
活性領域104の下部スペーサ層は、アンドープのAl0.6Ga0.4As層であり、量子井戸活性層は、アンドープGaAs量子井戸層およびアンドープのAl0.3Ga0.7As障壁層であり、上部スペーサ層は、アンドープのAl0.6Ga0.4As層である。
【0013】
p型の上部DBR108は、高屈折率層と低屈折率層の積層として、例えば、Al0.92Ga0.08As層とAl0.16Ga0.84As層とのペアを複数積層する。各層の厚さは、λ/4nであり、これらを交互に24周期積層する。p型不純物であるカーボンをドーピングした後のキャリア濃度は、例えば、3×1018cm-3である。上部DBR108の最下層もしくはその内部には、p型Al0.98Ga0.02As層(またはAlAs層)からなる電流狭窄層106が形成される。また、上部DBR108の最上層に、p型GaAsからなる不純物濃度が高い(例えば、1×1019cm-3)コンタクト層を形成するようにしてもよい。
【0014】
電流狭窄層106は、下部DBR102や上部DBR108よりもAl組成が高く、酸化工程において酸化が早く進む。図1(a)に示すようなポスト構造を酸化すると、ポスト構造の側壁から内部に向けて選択的に酸化された酸化領域106A(図1(b)のハッチングされた部分)と、酸化領域106Aによって囲まれた非酸化領域106Bが形成される。非酸化領域106Bの平面形状は、ほぼポスト構造の平面形状を反映した形状となる。図1(a)に示す106Cは、酸化領域106Aと非酸化領域106Bの境界を示している。好ましくは、非酸化領域106Aの半円部分の直径D1は、基本横モード発振される程度の大きさである3ミクロン以下である。酸化領域106Aの屈折率は、約1.7であり、非酸化領域(Al0.98Ga0.02As)106Bの屈折率は、約3.0であり、屈折率の高い非酸化領域106B内に光を閉じ込めることが可能になる。また、非酸化領域106Aは、導電領域であり、電極から注入されたキャリア密度を高め、それらを活性領域104に供給する機能を有する。
【0015】
上部DBR108上には、金属製の半円状のp側電極110が形成される。p側電極110は、例えば、AuまたはTi/Auなどを積層した金属から構成され、p側電極110は、上部DBR108と電気的に接続される。また、基板100の裏面には、n側電極112が形成される。
【0016】
こうして、基板100上には、垂直共振器構造をもつ発光部130が形成され、p側電極110とn側電極112との間に順方向の駆動信号を印加することで、上部DBR108の表面から基板と垂直方向にレーザ光が出射される。ここで順方向バイアスとは、半導体レーザ内のp型半導体層には正の電圧を、n型半導体層には負の電圧を印加するものであり、逆方向バイアスとは、半導体レーザ内のp型半導体層には負の電圧を、n型半導体層には正の電圧を印加するものである。但し、負の電圧は、接地電位(GND)を含む。
【0017】
さらに本実施例では、発光部130の側部に光伝播部140がモノリシックに形成される。光伝播部140は、相対的に等価屈折率が小さい低等価屈折率領域120と、低等価屈折率領域120から導かれた光を伝播する高等価屈折率領域のスローライト部122とを有する。低等価屈折率領域120およびスローライト部122は、発光部130と実質的に同一の半導体層を用いて構成される。好ましくは、低等価屈折率領域120は、上部DBR108内に基板と垂直方向に形成されたトレンチから構成される。このトレンチ120は、図1(a)に示す境界106Cの内側、すなわち発光部130で発生した光を閉じ込めた非酸化領域106Bに隣接するように形成される。本明細書中で用いられる等価屈折率とは、基板に対して垂直方向に積層している、屈折率の異なる半導体多層膜の実効的な屈折率(多層膜の屈折率を単層の屈折率とみなす)を、等価屈折率法によって求められたものを指す。
【0018】
境界106C内に、トレンチ120を形成するのは、発光部130で発生された光の一部をスローライト部122に容易に導くためである。従って、トレンチ120は、発光部130の光を完全に閉じ込めるのではなく、その一部がスローライト部122に漏洩されるような位置、深さ、幅(D2)で形成される必要がある。トレンチ120の形状は問わないが、ここでは矩形状に形成される。本実施例では、発光部130の非酸化領域106Bの実質的な径D1を2μm、トレンチ120の幅D2を1μm、スローライト部122の距離D3を6μmで形成している。
【0019】
図2は、VCSEL10の等価屈折率と光閉じ込め分布の関係を示している。同図において、階段状の線が等価屈折率を示し、曲線は、光閉じ込め分布を表している。低等価屈折率NLの領域D0(図1(a)を参照)は、発光部130の酸化領域106Aに対応し、高等価屈折率NHの領域D1は、非酸化領域106Bに対応し、低等価屈折率NLの領域D2は、光伝播部140のトレンチ120に対応し、高等価屈折率NHの領域D3は、光伝播部140のスローライト部122に対応する。
【0020】
高低の等価屈折率となる領域D0、D1、D2、D3が連続的に形成されることで、発光部130で発生された光の大部分は、領域D1に閉じ込められる。領域D1に閉じ込められる基本横モードの光Linはガウシアン分布となるが、トレンチ120(領域D2)は、光Linを完全に光を閉じ込めるのではなく、その裾野の一部の光をスローライト部122へ導く。発光部130において垂直共振されるレーザ光であっても、レーザ光には、垂直方向から若干の傾斜角を持つものが含まれる。このため、裾野の一部の光は、低等価屈折率の領域D2を介して高等価屈折率の領域D3へ導波される。スローライト部122に導かれた光は、スローライト部122内に閉じ込められた状態で、垂直共振器内を傾斜角の方向で共振されながら水平方向に伝播されるため、見かけ上、スローライト部122を水平方向に伝播する光の速度はゆっくりとしたものにみえる。
【0021】
光伝播部140の発光部130と対向する端部には、光伝播部140で伝播された光量を調整する光量調整手段として光反射部150が設けられる。光反射部150は、例えばSiO2などの低屈折率の絶縁部材、金などの金属などによって構成される。下部DBR102、活性領域104および上部DBR108の側壁に光反射部150を形成することで、光量の大きな損失が生じないように反射させることが望ましい。光伝播部140内を伝播された光は、光反射部150により伝播して来た方向と反対の方向、すなわち発光部130へ向けて反射され、その光は、再び、発光部130へ注入される。
【0022】
図3は、本実施例のVCSELの光分布の計算結果を示すグラフである。横軸は、距離(μm)、縦軸は、相対強度である。同図において、0−2μmの範囲は、非酸化領域106Bの径D1に対応し、相対強度の大きなガウシアン分布のレーザ発振が生じる。2−3μmの範囲は、トレンチ120の幅D2に対応し、ここでは、相対強度の小さな光が生じる。3−9μmの範囲は、スローライト部122の距離D3に対応し、スローライト部122に閉じ込められて伝播するレーザ光を示している。
【0023】
スローライト部122を伝播される光は、上記したように、下部DBR102と上部DBR108の間で反射されながら進行するため、スローライト部122の水平方向の距離D3が小さくとも、実際に光が走行する距離(光路長)は、その距離D3の数百倍に相当する。従って、光反射部150で反射されてスローライト部122内を往復する光の伝播時間Tは、あたかも光の速度が遅延されたのと同じような効果を有する。
【0024】
p側電極110とn側電極112に順方向バイアスの駆動信号を印加すると、発光部130で発振が生じ、上部DBR108の表面から発振波長850nmのレーザ光が出射される。この発振には、一定の内部ロスが存在する。また、発光部130で発生された光の一部が光伝播部140を水平方向に伝播され、光反射部150で反射された後に再び発光部130へ注入される。この伝播時間Tを経てレーザ光が再注入されることで、レーザ光量が増加し、伝播時間Tに応じた周波数での変調が容易になる。伝播時間Tは、スローライト部122の幾何学的な構成、すなわちスローライト部122の距離D3、および上下のDBRの半導体層のペア数の関数となるため、スローライト部122を適宜調整することで、VCSEL10の高速変調が可能になる。
【0025】
図4は、本実施例のVCSELと従来構造のVCSELの周波数応答特性の計算結果を比較するグラフである。縦軸は、応答(dB)、横軸は変調周波数(GHz)である。信号強度の低下が−3dBまで許容されるとした場合、従来の光伝播部を備えていない構造のVCSELでは、変調周波数が約25GHzであるのに対し、本実施例のVCSEL10では、変調周波数が約35GHzまで向上させることができる。
【0026】
図5は、本実施例のVCSELと従来構造のVCSELの信号特性の計算結果を比較するアイパターンを示している。伝送条件として、2−1のワード長をもつ擬似ランダム信号PRBSを40Gbpsで送信したときの例である。同図(a)に示す従来構造のVCSELのアイパターンに比べて、同図(b)に示す本実施例のVCSELのアイパターンの品質が優れていることがわかる。
【0027】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。図6は、第2の実施例に係るVCSEL10Aの模式的な平面図とそのB−B線断面図を示している。なお、第1の実施例と等価な構成については同一参照番号を付してある。
【0028】
第1の実施例に係るVCSEL10は直接変調されるものであるのに対し、第2の実施例に係るVCSEL10Aは、外部変調されるものである。図6に示すように、VCSEL10Aは、第1の実施例と同様に、基板100上に形成された、活性領域104を挟む下部DBR102および上部DBR108により発光部130Aを構成するが、第2の実施例発光部130Aは、p側電極110Aが上部DBR108の光出射表面を覆っている点が異なる。発光部130Aのp側電極110Aとn側電極112との間には、常時、順方向バイアスの駆動電圧が印加され、これにより発生された光は、p側電極110Aによって反射されるため、より多くの光が光吸収部200へ導かれる。
【0029】
光吸収部200は、発光部130Aの側部にモノリシックに形成される。光吸収部200は、第1の実施例のときと同様に発光部130Aで発生された光の一部をスローライト部122Aに導波するためのトレンチ120と、導波されたレーザ光を伝播させながらレーザ光の選択的な吸収を行うスローライト部122Aとを有する。トレンチ120の深さは、第1の実施例のときよりも浅く形成される。
【0030】
第2の実施例のスローライト部122Aは、図6(a)に示すように、上部DBR108上に形成された1対のp側の駆動電極210を有する。駆動電極210は、スローライト部212Aの上部DBR108と電気的に接続され、p型駆動電極210とn側電極112との間には、逆バイアスの駆動パルス信号が印加される。スローライト部122Aに逆バイアス電圧が印加されると、活性領域104の屈折率が変化しそこを通る光が吸収される。このような光の吸収原理は、電界吸収型(Electro Absorption)の変調器として知られており、EA変調器は、半導体ヘテロ結合で形成された量子井戸に電界を印加すると、吸収端が長波長側にシフトする性質を用いて変調を行う。
【0031】
発光部130Aから横方向に導き出されたレーザ光Lmは、スローライト部122Aの下部DBR102から上部DBR108の垂直共振器内を反射されながら水平方向に伝播される。このため、スローライト部122Aの水平方向の距離D3が小さいものであっても、レーザ光Lmは、その距離の数百倍に相当する回数で活性領域104を通過し、レーザ光Lmがより効果的に吸収される。これにより、光吸収部200の上部DBR108の表面(境界106Cに相当するエリア)から、駆動パルス信号の周波数fに応じてスイッチングまたは変調されたレーザ光Lnが出射される。
【0032】
次に、本発明の第3の実施例について説明する。第2の実施例では、スローライト部122Aに逆バイアスの駆動パルス信号を印加することで光を吸収する例を示したが、第3の実施例は、スローライト部122Aに順方向の駆動電圧を印加することで、発光部130Aから導波されたレーザ光Lmを増幅する。図6に示した光吸収部200を、第3の実施例では光増幅部220と称する。光増幅器220は、半導体光増幅器((Semiconductor Optical Amplifier: SOA)として知られている。
【0033】
p側駆動電極210とn側電極112との間に順方向バイアスの駆動電圧を印加すると、電極からキャリアが注入され、光増幅器220内のレーザ光のゲインが増幅される。発光部130から注入されたレーザ光Lmは、スローライト部122Aの垂直共振器内を反射されながら水平方向に伝播されるため、活性領域104を何度も通過し、その結果、レーザ光Lmのゲインが増幅され、スローライト部112Aの上部DBR108の表面から高出力のレーザ光Lnが出射される。
【0034】
図7は、第3の実施例の光増幅器の光増幅量を示すグラフである。縦軸は利得、横軸は電流密度である。図から明らかにように、電流密度が増加すると、利得が増加することが分かる。つまり、光増幅部220からのキャリアからの注入量が増加すると、利得が増加する。
【0035】
上記した第2および第3の実施例は、発光部130Aの側部に光吸収部200および光増幅部220を個々に形成するものであるが、発光部130Aの側部に、光吸収部200および光増幅部220の双方を形成することも可能である。例えば、発光部130Aから注入されたレーザ光Lmを光増幅部220において一定のゲインで増幅し、増幅されたレーザ光を光吸収部200において選択的に吸収(変調)してもよい。また、これとは反対に、発光部130Aから注入された光を光吸収部200において選択的に吸収(変調)し、変調されたレーザ光を光増幅部220で増幅するようにしてもよい。光吸収部200と光増幅部220の双方を設ける場合には、それぞれ別個にp側の駆動電極を形成する必要がある。
【0036】
図8は、本実施例のVCSELを用いた光伝送装置の構成を示すブロック図である。本実施例の光伝送装置300は、発光部130/130Aを駆動するための順方向バイアスの駆動信号S1、光吸収部200を駆動するための逆バイアスの駆動信号S2、および光増幅器220を駆動するための順方向バイアスの駆動信号S3を生成する駆動部310を備える。勿論、第1の実施例のVCSEL10を駆動する場合には、駆動信号S2、S3は不要であり、第2の実施例のVCSEL10Aを駆動する場合には、駆動信号S3は不要である。
【0037】
図9は、本実施例の光伝送装置の一構成例を示す断面図である。光伝送装置400は、VCSEL10/10Aや駆動部310が形成された電子部品410を搭載する金属ステム420を含み、ステム420が中空キャップ430で覆われ、キャップ430の中央にボールレンズ440が固定されている。ステム420にはさらに円筒状の筐体450が取り付けられ、筐体450の端部にフェルール460を介して光ファイバ470が固定される。電子部品410から変調されたレーザ光は、ボールレンズ440によって集光され、その光は、光ファイバ470に入射され、送信される。なお、ボールレンズ以外にも両凸レンズや平凸レンズ等の他のレンズを用いることができる。
【0038】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。上記実施例では、AlGaAsの化合物半導体を用いたVCSELを例示したが、これ以外のIII−V族化合物半導体層を用いたVCSELであってもよい。さらに、上記実施例中のVCSELのポスト構造等の形状は例示であって、これ以外の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0039】
10:面発光型半導体レーザ 100:GaAs基板
102:下部DBR 104:活性領域
106:電流狭窄層 106A:酸化領域
106B:非酸化領域 106C:境界
108:上部DBR 110:p側電極
112:n側電極 120:トレンチ(溝)
122、122A:スローライト部 130、130A:発光部
140:光伝播部 150:光反射部
200:光吸収部 210:p側駆動電極
220:光増幅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成され、基板と垂直方向にレーザ光を発する発光部と、
前記基板上に形成され、前記発光部で発せられた光の一部を前記基板と水平方向に伝播させる光伝播部と、
前記光伝播部で伝播された光の光量を調整する光量調整手段とを備え、
前記光伝播部は、前記発光部領域の等価屈折率よりも等価屈折率が小さい低等価屈折率領域と、前記低等価屈折率領域と前記光量調整手段との間に配された前記低等価屈折率領域よりも等価屈折率が高い高等価屈折率領域とを含む、面発光型半導体レーザ。
【請求項2】
前記光量調整手段とは、前記光伝播部で伝播された光の光量を調整する光量調整手段を前記発光部に向けて反射させる反射部である、請求項1に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項3】
基板上に、高屈折率層と低屈折率層の積層構造からなる第1の多層膜反射鏡、光を発することが可能な活性領域、および高屈折率層と低屈折率層の積層構造からなる第2の多層膜反射鏡が形成され、
前記発光部は、前記第1の多層膜反射鏡、前記活性領域および前記第2の多層膜反射鏡を含み、前記発光部は、前記第2の多層膜反射鏡の表面からレーザ光を出射し、
前記光伝播部は、前記第1の多層膜反射鏡、前記活性領域および前記第2の多層膜反射鏡を含み、
前記低等価屈折率領域は、前記第2の多層膜反射鏡内に、前記基板と垂直方向に形成された溝を含む、請求項1または2に記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項4】
前記発光部は、前記活性領域の近傍に電流狭窄層を含み、前記電流狭窄層は、選択的に酸化された酸化領域と当該酸化領域により周囲を囲まれた非酸化領域とを含み、前記非酸化領域は、前記酸化領域よりも高い等価屈折率を有し、
前記非酸化領域内に閉じ込められた光の一部が前記光伝播部に伝播される、請求項1ないし3いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項5】
前記低等価屈折率領域は、前記非酸化領域内に形成される、請求項1ないし4いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項6】
前記光量調整手段は、前記光伝播部の第1の多層膜反射鏡、活性領域および第2の多層膜反射鏡の側壁に形成される、請求項1ないし5いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項7】
前記第1の多層膜反射鏡は第1導電型を有し、前記第2の多層膜反射鏡は前記第1導電型と異なる第2導電型を有し、前記発光部は、前記第1の多層膜反射鏡に電気的に接続される第1の電極、および前記第2の多層膜反射鏡に電気的に接続される第2の電極を含み、前記第1および第2の電極に順方向バイアスの駆動信号が印加される、請求項1ないし6いずれか1つに記載の面発光型半導体レーザ。
【請求項8】
基板上に形成され、基板と垂直方向にレーザ光を発する発光部と、
前記基板上に形成され、前記発光部で発せられた光の少なくとも一部を前記基板と水平方向に伝播させる光伝播部とを有し、
前記光伝播部は、前記発光部領域よりも等価屈折率が小さい低等価屈折率領域と、前記低等価屈折率領域に隣接しかつ前記低等価屈折率領域よりも等価屈折率が高い高等価屈折率領域とを含み、前記発光部で発せられた光の一部は前記低等価屈折率領域を介して前記高等価屈折率領域に伝播される面発光型半導体レーザと、
前記光伝播部で伝播される光の光量と調整するように駆動信号を印加する駆動信号印加手段と、
を備える光伝送装置。
【請求項9】
前記駆動信号は、伝播される光が吸収される逆バイアスの駆動信号である、請求項8に記載の光伝送装置。
【請求項10】
基板上に、高屈折率層と低屈折率層の積層構造からなる第1導電型の第1の多層膜反射鏡、光を発することが可能な活性領域、および高屈折率層と低屈折率層の積層構造からなり前記第1導電型と異なる第2導電型の第2の多層膜反射鏡が形成され、
前記発光部は、前記第1の多層膜反射鏡、前記活性領域、前記第2の多層膜反射鏡、前記第1の多層膜反射鏡に電気的に接続された第1の電極、および前記第2の多層膜反射鏡に電気的に接続された第2の電極を含み、前記第2の電極は前記第2の多層膜反射鏡の表面を覆うように形成され、
前記光伝播部は、前記第1の多層膜反射鏡、前記活性領域、前記第2の多層膜反射鏡、前記第1の電極、および前記第2の多層膜反射鏡に電気的に接続された第3の電極を含み、前記第3の電極に前記逆バイアスの駆動信号が印加され、前記光伝播部の前記第2の多層膜反射鏡の表面からレーザ光が出射され、
前記低等価屈折率領域は、前記第2の多層膜反射鏡内に、前記基板と垂直方向に形成された溝を含む、請求項9に記載の光伝送装置。
【請求項11】
前記発光部は、前記活性領域の近傍に電流狭窄層を含み、前記電流狭窄層は、選択的に酸化された酸化領域と当該酸化領域により周囲を囲まれた非酸化領域とを含み、前記非酸化領域は、前記酸化領域よりも高い等価屈折率を有し、
前記非酸化領域内に閉じ込められた光の一部が前記光伝播部に伝播される、請求項9または10に記載の光伝送装置。
【請求項12】
前記低等価屈折率領域は、前記非酸化領域内に形成される、請求項10ないし11いずれか1つに記載の光伝送装置。
【請求項13】
前記光伝播部はさらに、前記高等価屈折率領域に電気的に接続される第4の電極を含み、第4の電極に印加された順方向バイアスの駆動信号に応じて伝播されたレーザ光を増幅する、請求項9ないし12いずれか1つに記載の光伝送装置。
【請求項14】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載された面発光型半導体レーザと、
前記面発光型半導体レーザに駆動信号を印加する駆動信号印加手段と、
を備えた光伝送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−49180(P2012−49180A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187242(P2010−187242)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人情報通信研究機構「VCSELを利用した超高速光リンク技術の研究開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】