説明

靭性及び耐熱性が改善された生分解性樹脂組成物及び生分解性樹脂を製造する方法

【課題】 靭性と耐熱性が改善された生分解性樹脂組成物及び同組成物を製造する方法を提供する。
【解決手段】 生分解性樹脂組成物は、100重量部の生分解性ポリマーと、1乃至40重量部の熱可塑性エラストマーと、0.1乃至30重量部の無機充填材と、3乃至25重量部の難燃剤と、0.1乃至10重量部の強化剤と、0.1乃至10重量部の加工助剤とを含む。同組成物は2軸押出機にて溶融混合され、得られた押出物を顆粒にペレット化することにより、射出成形のような一般的なプラスチック製品の製造工程にて容易に適用される。同組成物は、射出成形工程に適用された場合成形サイクル時間が短いことが特徴であり、110度で10分間加熱処理された後に30J/mより大きいノッチ付きアイゾッド衝撃強度と90℃より高い熱変形温度を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靭性及び耐熱性が改善された生分解性樹脂組成物及び生分解性樹脂を製造する方法に関する。生分解性樹脂は、周知の成分をポリマーと混合し、同混合物を溶融混合することにより製造される。得られた樹脂は著しく改善された靭性及び耐熱性を備え、一般的なプラスチック製品の製造工程において容易に適用される。加えて、電子製品及び家電製品のシェルの製造において、同様に、事務用機器、文具、建築用及び装飾用材料の製造において、適用可能である。
【背景技術】
【0002】
大部分のプラスチック材料は非生分解性であり、それらを廃棄すると必然的にプラスチック廃棄物が蓄積されることになり、廃棄物処理システムに多大な負担を強いることになる。一方、使用されるプラスチック製品は、多くの場合、複合材料を製造するための方法により形成され、製品に多様な特性を与える。これらプラスチック製品の複雑な組成は明瞭なラベリング及び分類において困難を与えるものであり、プラスチックのリサイクルを一層困難にしている。加えて、リサイクルされ、再加工されたプラスチック材料の特性は、元のプラスチック材料の特性より劣るものである。これらの欠点によりプラスチックのリサイクルはあまり成功していない。それ以来、自然環境中の微生物により分解され得る樹脂材料、いわゆる生分解性樹脂及びそれらの応用が注目を浴びるようになってきた。特に、バイオマス資源に由来するモノマー、例えば、微生物の培養にてデンプン及びポリヒドロキシアルカノエート(PHA)から得られるポリ乳酸(PLA)は注目されてきた。大部分のプラスチック材料のモノマーは石油化学資源に完全に由来している。従って、そのモノマーが再生可能な資源に由来するポリマーの製造は比較的安定なものとみなされ、石油化学資源の枯渇によるモノマー供給不足により影響を受けることはない。また、そのようなポリマーの製造コストは比較的安定なものとみなされ、石油化学の価格の変動により影響を受けることはない。更に、そのようなポリマーの製造はエネルギーの消費が一層少なく、関連した産業におけるCOの排出を制限し、かつ温室効果の増大する度合いを低減するのに一役買っている。
【0003】
生分解性樹脂は上記のような利点を備えているにも係らず、それら自身の特性は生分解性樹脂製品の開発を制限するものである。例えば、ポリ乳酸は約60℃のガラス転移温度と、160−170℃の融点とを有するが、その結晶化速度は非常に遅い。それによりポリ乳酸製品の耐熱性はわずか約55℃であり、即ち、温度が55℃を超えると製品は変形するであろう。加えて、ポリ乳酸は室温では脆弱な材料のように反応し、650−680kg/cmという高い引張強度を有しながらもその伸度はわずか4−5%であり、そのアイゾッド衝撃強度はわずか35−45J/mである。そのような特性は、ポリ乳酸材料の耐衝撃性がそれほど高くないことを示す。しかしながら、高い耐熱性と高い耐衝撃性はプラスチック製品の大部分の用途において必要とされ、生分解性樹脂の耐熱性及び耐衝撃性を改善する方法は、未解決の課題として存在している。
【0004】
従来技術において、幾つかの特殊な特徴が研究者らにより改善されてきた。例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3は、2成分組成物を開示しており、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、合成ゴム、可撓性の分子鎖を備えた架橋されたゴム又は可撓性の分子鎖を備えたコポリマーからなる架橋されたゴム、好ましくはエポキシ化天然ゴムを、25重量%以上の量にて加え、ポリ乳酸ベースの生分解性樹脂を改質し、最終製品は靭性が非常に改善された生分解性樹脂組成物となる。しかしながら、耐熱性における改善については言及されていない。生分解性樹脂の耐熱性の改善に関しては、樹脂の結晶化度を増大させる手段が多くの研究者により提唱されている。特許文献4は、ポリ乳酸生分解性樹脂の核形成化剤として、タルク粉末、カオリン、粘土及び層状のケイ酸塩のような無機充填材の使用を開示しており、それらは射出成形サイクルの時間をかなり短縮し、かつビカー(Vicat)の軟化点を100−130℃まで上昇させる。特許文献5は有機核形成化促進剤の使用を開示しており、同促進剤はポリ乳酸の結晶化速度を顕著に改善するとともに結晶化に要する時間を短縮する。上記結晶化度を高める方法は樹脂組成物の耐熱性を改善する。しかしながら、得られた樹脂組成物は一層脆弱になる。加えて、これらの特許文献はこれらの樹脂組成物の靭性における改善については言及していない。
【特許文献1】米国特許第6495631号明細書
【特許文献2】米国特許第5922832号明細書
【特許文献3】米国特許第5714573号明細書
【特許文献4】米国特許第5916950号明細書
【特許文献5】台湾特許第1252863号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
要するに、従来において提唱された技術は生分解性樹脂の靭性又は耐熱性の一方のみを改善するものである。従って、生分解性樹脂の靭性及び耐熱性の両方を改善するための方法が、更なる開発の最終目的である。
【0006】
生分解性樹脂は種々の製品の製造において使用され、それらは環境に優しい材料であるが、耐熱性と耐衝撃性が低く、よってその応用が幾分制限されてきた。これらの欠点を解決するために多くの研究がなされてきた。しかしながら、生分解性樹脂の靭性と耐熱性とを同時に改善することは依然として技術的な障害である。従って、本発明の一つの目的は、改善された靭性と耐熱性とを備える生分解性樹脂組成物を提供することである。本明細書に開示された樹脂組成物は靭性と耐熱性とが著しく改善されており、同樹脂は周知の成分をポリマー溶融混合工程と組み合わせて混合することにより生成され得る。得られた樹脂は顆粒状の外観と速い結晶化速度により特徴付けられる。従って、製造コストを低減するとともに製造効率を改善するために、一般的なプラスチック製品の製造工程にて容易に適用され得る。
【0007】
本発明の別の目的は、靭性と耐熱性が改善された生分解性樹脂を製造する方法を提供することであり、同樹脂の靭性及び耐熱性が共に改善され、それにより同樹脂の用途及びその工業的な有用性が拡大される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、靭性と耐熱性が改善された生分解性樹脂組成物を提供し、同組成物は、100重量部の生分解性樹脂と、同生分解性樹脂に基づいて、1乃至40重量部の熱可塑性エラストマーと、0.1乃至30重量部の無機充填材とを含む。
【0009】
生分解性ポリマーは、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(β−ヒドロキシブチレート)(PHB)、ポリ(β−ヒドロキシバレレート)(PHV)、ポリ(β−ヒドロキシカプロエート)(PHC)、ポリ(β−ヒドロキシヘプタノエート)(PHH)若しくはポリ(ヒドロキシブチレート−コ−ヒドロキシバレレート)(PHBV)を含むポリヒドロキシアルカノエートベースのポリマー、又はポリ(ヒドロキシエステル−エーテル)ベースのポリマー(PHEE)、ポリ(プロピレンカーボネート)(PPC)又はそれらの混合物を好ましくは含み、より好ましくはポリ乳酸又はポリ乳酸を含有する混合物を含む。
【0010】
好ましくは、熱可塑性エラストマーの量は、5乃至30重量部であり、より好ましくは10乃至25重量部である。熱可塑性エラストマーは、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンコポリマー、スチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー、スチレン−イソプレン−スチレンコポリマー、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、塩化エチレンゴム、ブタジエンゴム、塩化ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレン−アクリルゴム、シリコンゴム、フルオロ−ゴム、加硫ゴム、動的加硫ゴム、天然ゴム、エチレン−プロピレン−ブチレンエラストマー又はポリオレフィンベースのエラストマー、ポリ塩化ビニルベースのエラストマー、ポリアミドベースのエラストマー、ポリエステルベースのエラストマー、ポリエステル−ポリエーテル−ベースのエラストマー、ポリウレタンベースのエラストマー、フルオロ−ベースのエラストマー又はそれらの混合物を含み、より好ましくは、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンコポリマーを含む。
【0011】
好ましくは、熱可塑性エラストマーは加工油で予め処理されており、かつ同加工油は、パラフィンベースの加工油、芳香族化合物ベースの加工油、エポキシ化大豆油、グリセリン又はそれらの混合物を含み、より好ましくは、100乃至3000の範囲の分子量を有するバラフィンベースの加工油を含む。
【0012】
好ましくは、無機充填材の量は、0.3乃至20重量部であり、より好ましくは0.5乃至15重量部である。無機充填材は、タルク粉末、カオリン、粘土、層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、二酸化ケイ素又はそれらの混合物を含み、より好ましくはタルク粉末を含む。
【0013】
好ましくは、靭性と耐熱性が改善された生分解性樹脂組成物は、同生分解性樹脂の特性を改質するために、必要に応じて、3乃至25重量部の難燃剤と、0.1乃至10重量部の強化剤と、0.1乃至10重量部の加工助剤と、を含む。
【0014】
好ましくは、難燃剤の量は、5乃至20重量部であり、より好ましくは8乃至15重量部である。難燃剤は、RDP、リン酸トリフェニル、リン酸トリフェニルオリゴマー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、臭素化ポリスチレン又はそれらの混合物を含み、より好ましくはリン酸トリフェニルオリゴマーを含む。
【0015】
好ましくは、強化剤の量は、0.5乃至8重量部であり、より好ましくは1乃至5重量部である。強化剤は、無水マレイン酸グラフト化ポリエチレンコポリマー、無水マレイン酸グラフト化ポリプロピレンコポリマー、無水マレイン酸グラフト化スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー、無水マレイン酸グラフト化エチレン−ブタジエン−メチルメタクリレートコポリマー、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水トリメリット酸(TMA)、シラン化合物、一つ以上のイソシアネート基を含む化合物、一つ以上のエポキシド基を含む化合物又はそれらの混合物を含み、より好ましくは、無水マレイン酸グラフト化エチレン−ブタジエン−メチルメタクリレートコポリマーを含む。
【0016】
好ましくは、加工助剤の量は、0.3乃至5重量部であり、より好ましくは0.5乃至3重量部である。加工助剤は、工業用白油、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、パラフィン、ポリエチレンワックス、エポキシ化大豆油、グリセリン、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール又はそれらの混合物を含む。
【0017】
好ましくは、上記樹脂組成物のダンベル型標準試験片は、ASTM D638に従う40℃の鋳型温度で射出成形に適用された場合、成形サイクル時間は30秒未満である。
好ましくは、樹脂組成物を110℃にて10分間加熱した後に、その収縮率は1%未満である。
【0018】
好ましくは、樹脂組成物の耐衝撃性は、ASTM D256のA法に従って測定され、そのノッチ付アイゾッド衝撃強度は30J/mを超える。
好ましくは、樹脂組成物の耐熱性は、ASTM D648に従って0.45MPaの圧力にて測定され、その熱変形温度は90℃を超える。
【0019】
本発明の更に別の目的は、靭性と耐熱性の改善された生分解性樹脂を製造する方法を提供することであり、同方法は、(A)50乃至99重量%の熱可塑性エラストマーと、1乃至50重量%の加工油とを、高速にて攪拌しながら混合し、前処理された熱可塑性エラストマーを形成する工程と、(B)100重量部の生分解性ポリマーと、1乃至40重量部の前処理された熱可塑性エラストマーと、0.1乃至30重量部の無機充填材と、を混合して混合物を得る工程と、(C)工程(B)からの混合物を溶融混合する工程と、工程(C)からの生成物を冷却して生分解性樹脂を形成する工程と、からなる。
【0020】
好ましくは、同方法は、工程(A)において60乃至90重量%の熱可塑性エラストマーと10乃至40重量%の加工油とを混合することと、得られた混合物を後に使用するために8時間以上放置することとからなり、より好ましくは、工程(A)において65乃至80重量%の熱可塑性エラストマーと20乃至35重量%の加工油とを混合することと、得られた混合物を後に使用するために8時間以上放置することとからなる。工程(A)における加工油は、パラフィンベースの加工油、芳香族化合物ベースの加工油、エポキシ化大豆油、グリセリン又はそれらの混合物を含み、より好ましくは、100乃至3000の範囲の分子量を有するパラフィンベースの加工油を含む。
【0021】
好ましくは、工程(A)における高速攪拌は、シールされた高速ミキサにて、800乃至2000rpmの速度にて25乃至70℃の温度にて15乃至30分間実施される。
好ましくは、3乃至25重量部の難燃剤、0.1乃至10重量部の強化剤、又は0.1乃至10重量部の加工助剤が、必要に応じて工程(B)にて更に加えられ、生分解性樹脂の特性が改質される。より好ましくは、5乃至20重量部の難燃剤、0.5乃至8重量部の強化剤、又は0.3乃至5重量部の加工助剤が、必要に応じて工程(B)にて更に加えられ、生分解性樹脂の特性が改質される。最も好ましくは、8乃至15重量部の難燃剤、1乃至5重量部の強化剤、又は0.5乃至3重量部の加工助剤が、必要に応じて工程(B)にて更に加えられ、生分解性樹脂の特性が改質される。
【0022】
好ましくは、工程(C)における溶融混合は、2軸押出機を用いて、チャンバの温度が175乃至240℃でかつスクリュの速度が180乃至250rpmの条件にて、実施される。
【0023】
好ましくは、工程(D)における冷却は、水冷又は空冷である。好ましくは、工程(D)の樹脂押出物を顆粒に加工するために、工程(D)に引き続いてペレット化(palletizing)工程が更に含まれる。ペレット化工程において、冷却された押出物は造粒機によって3mm未満のサイズを有する顆粒に処理され、かつこれらの顆粒は一般的なプラスチック製品の製造工程において容易に適用される。
【発明の効果】
【0024】
要約すれば、本発明は、生分解性樹脂組成物及び靭性と耐熱性の改善された樹脂を提供する。靭性と耐熱性が同時に改善されているので、同生分解性樹脂組成物の応用範囲は非常に広くなる。例えば、電子製品及び家電製品のシェルの製造において、同様に、プラスチック製の事務用機器、文具、建築用及び装飾用材料の製造において、使用され得る。
【0025】
同樹脂組成物は50重量%を超える生分解性ポリマーを含有しているので、石油化学資源におけるプラスチック材料の依存性及びプラスチック製品の製造コストの両者を低減する手助けとなる。加えて、生分解性樹脂は自然環境中の微生物によって分解され得るので、同樹脂から形成された製品は、廃棄後において環境中に対して大きな負荷を課することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明に従う、靭性と耐熱性が改善された生分解性樹脂組成物は結晶化速度が向上しているので、同樹脂組成物は、射出成形のような迅速な成形工程に適用された場合に成形サイクル時間が短くなり、かつ成形製品は高い耐熱性を示す。即ち、これらの成形製品はTg+50℃の温度範囲内においては熱処理にて歪んだり変形したりはしないであろう。加えて、熱処理後、成形製品はより高い結晶化度と顕著に高い耐熱性を呈するので、靭性と耐熱性の改善された生分解性製品が得られる。
【0027】
種々の添加剤を、本発明にて提供された生分解性樹脂組成物と混合して、最終製品に種々の特性を与えることが可能であり、それらの添加剤としては、抗酸化剤、紫外線安定化剤、加水分解安定化剤、熱安定化剤、放出制御剤、静電気防止剤、湿潤剤、着色剤、潤滑剤等が含まれる。
【0028】
本発明の目的、特徴及び利点は、以下の実施例を用いて詳細に記載されている。しかしながら、同実施例は、本発明の実際の応用を制限するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0029】
実施例及び比較例にて使用される材料を以下に示す。
1.ポリ乳酸:NatureWork(登録商標)により製造される,規格:3001D。
【0030】
2.スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー:TSRC社により製造される、規格:SEBS−3151。
3.パラフィン加工油:チャイナ・ペトロケミカル・ディベロップメント(China Petrochemical Development)社により製造される、MW:120、粘度指数:97、比重:0.87。
【0031】
4.タルク粉末:ヘン・フェン・エンタープライズ(Heng Feng Enterprise)社により製造される、平均粒子径:10μm以下、SiOの含有量:58重量%、MgOの含有量:30重量%以上。
【0032】
5.リン酸トリフェニルオリゴマー:チャン・チュン・ペトロケミカル(Chang Chun Petrochemical)社により製造される、グレード:高純度。
6.無水マレイン酸グラフト化エチレン−ブタジエン−メチルメタクリレートコポリマー:デュポン(Dupont)社により製造される、商品名:Fusabond、規格:EB−560D。
【0033】
7.ステアリン酸:エコー・ケミカル(Echo Chemical)社により製造される、グレード:高純度。
実施例及び比較例から得られた生分解性樹脂試料の特性は以下の標準試験法に従って測定された。
【0034】
アイゾッド衝撃強度:ノッチ付き及び逆ノッチ(reversed notch)付き衝撃強度は、ASTM D256のA法及びE法にてそれぞれ測定された。
引張特性:最大引張強度及び伸度はASTM D638に従って測定された。
【0035】
熱変形温度:材料の熱変形温度は、ASTM D648に従って、0.45MPaの圧力にて測定される。
燃焼性:材料の燃焼性は、プラスチック材料の燃焼試験及び分類の基準である、UL−94に従って測定された。
【0036】
収縮率:サイクルオーブンの温度を110℃に設定し、オーブンの内部を確実に恒温環境とするために少なくとも1時間その温度を維持する。127mm(全長)×12.7mm(幅)×3.2mm(厚み)の標本を、オーブン内にて、水平方向及び垂直方向に、1時間配置した。次に標本をオーブンから取り出して、室温まで冷却した。その後、標本の長さの変化を測定して収縮率を決定した。
【0037】
実施例及び比較例の樹脂及び成形製品を製造する方法を以下に例示する。
<実施例1>
最初に、熱可塑性エラストマーを前処理した。80重量%のスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー及び20重量%のパラフィン加工油を高速ミキサ(チアオ・ウェイ・メカニック(Chiao Wei Mechanic)社、モデル番号:CW−30L)に配置し、密封したタンク中にて1200rpmかつ55℃にて高速攪拌で処理した。攪拌から20分後、加工油及びスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンコポリマーの均一な混合物を取り出して、後に使用するために8時間以上放置した。
【0038】
100重量部のポリ乳酸、10重量部の、上記前処理したスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー、5重量部のタルク粉末及び0.5重量部のステアリン酸を乾式混合し、均一な混合物とし、次に同混合物を一定容積の供給機を介して2軸押出機(コペリオン・ケヤ・マシナリー(Coperion Keya Machinery)社製造、モデル番号:STS−35、スクリュ径:35mm、長さ/直径アスペクト比:36))に供給し、チャンバの温度が180乃至205℃でありかつスクリュの速度が210rpmであるという加工条件の下に溶融混合した。得られた押出物を冷水にて固体状態に冷却し、3mmの直径と3mmの全長を有する円柱状の顆粒にペレット化した。
【0039】
上記顆粒は、射出成形機(フ・チュン・シン・マシナリー(Fu Chun Shin Machinery)社により製造される、モデル番号:HT−100)に供給され、チャンバの温度が180乃至205℃であり、鋳型の温度が40℃という加工条件下にてASTM標準試験片を製造し、成形サイクル時間を記録した。標準試験片は、ASTM D256用の細長い試験片、ASTM D638用のダンベル型の試験片、ASTM D648用の細長い試験片及びUL−94用の細長い試験片を含む。得られた試験片は、サイクルオーブン中にて110℃にて10分間熱処理し、これらの試験片の特性を、上記標準試験法にて測定した。測定結果を表1に列挙した。
【0040】
<実施例2−12>
成分の混合比が異なる点を除いては実施例1に記載したものと同一の加工方法及び条件で顆粒を製造し、かつ得られた顆粒から、特性を測定するためにASTM標準試験片を製造した。測定結果を表2に列挙した。
【0041】
表1及び表2は、実施例及び比較例の組成物の靭性及び耐熱性における顕著な改善を明確に示す。スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンコポリマーを含む生分解性樹脂の靭性に関連した特性、例えば、アイゾッド衝撃強度及び伸度は純粋なポリ乳酸のそれよりもはるかに高く、かつタルク粉末を含む生分解性樹脂の熱変形温度は純粋なポリ乳酸のそれよりもはるかに高い。仮に、生分解性樹脂がスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンコポリマーを含み、かつタルク粉末を含まない場合には、靭性のみが改善されることを明記したい(比較例2を参照)。一方、生分解性樹脂がタルク粉末を含み、かつスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンコポリマーを含まない場合には、耐熱性のみが改善される(比較例3を参照)。
【0042】
生分解性樹脂がスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンコポリマーとタルク粉末との両者を含む場合のみ、靭性と耐熱性が同時に改善されるであろう(実施例1−12を参照)。加えて、無水マレイン酸グラフト化エチレン−ブタジエン−メチルメタクリレートコポリマーを添加すると、生分解性樹脂の靭性に関連した特性が更に改善される一方、リン酸トリフェニルオリゴマーを添加すると、樹脂組成物の耐火性が高められ得る。
【0043】
<比較例1>
5000gの純粋なポリ乳酸顆粒を真空オーブン中にて50℃の真空条件下にて少なくとも4時間乾燥させる。その後、顆粒を射出成形機(フ・チュン・シン・マシナリー社により製造される、モデル番号:HT−100)に供給し、チャンバの温度が195乃至210℃であり、鋳型の温度が40℃という加工条件下にてASTM標準試験片を製造し、成形サイクル時間を記録した。標準試験片は、ASTM D256用の細長い試験片、ASTM D638用のダンベル型の試験片、ASTM D648用の細長い試験片及びUL−94用の細長い試験片を含む。得られた試験片は、サイクルオーブン中にて110℃にて10分間熱処理し、これらの試験片の特性を、上記標準試験法にて測定した。測定結果を表1に列挙した。
【0044】
<比較例2>
最初に、熱可塑性エラストマーを前処理した。80重量%のスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー及び20重量%のパラフィン加工油を高速ミキサ(チアオ・ウェイ・メカニック社、モデル番号:CW−30L)に配置し、密封したタンク中にて1200rpmかつ55℃にて高速攪拌で処理した。攪拌から20分後、加工油及びスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンコポリマーの均一な混合物を取り出して、後に使用するために8時間以上放置した。
【0045】
100重量部のPLA、10重量部の、前処理されたスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー、及び0.5重量部のステアリン酸を乾式混合し、均一な混合物とし、次に同混合物を一定容積の供給機を介して2軸押出機(コペリオン・ケヤ・マシナリー社製造、モデル番号:STS−35、スクリュ径:35mm、長さ/直径アスペクト比:36))に供給し、チャンバの温度が180乃至205℃でありかつスクリュの速度が210rpmであるという加工条件の下に溶融混合した。得られた押出物を冷水にて固体状態に冷却し、3mmの直径と3mmの全長を有する円柱状の顆粒にペレット化した。
【0046】
上記顆粒は、射出成形機(フ・チュン・シン・マシナリー社により製造される、モデル番号:HT−100)に供給され、チャンバの温度が180乃至205℃であり、鋳型の温度が40℃という加工条件下にてASTM標準試験片を製造し、成形サイクル時間を記録した。標準試験片は、ASTM D256用の細長い試験片、ASTM D638用のダンベル型の試験片、ASTM D648用の細長い試験片及びUL−94用の細長い試験片を含む。得られた試験片は、サイクルオーブン中にて110℃にて10分間熱処理し、これらの試験片の特性を、上記標準試験法にて測定した。測定結果を表1に列挙した。
【0047】
<比較例3>
100重量部のポリ乳酸、5重量部のタルク粉末及び0.5重量部のステアリン酸を乾式混合し、均一な混合物とし、次に同混合物を一定容積の供給機を介して2軸押出機(コペリオン・ケヤ・マシナリー社製造、モデル番号:STS−35、スクリュ径:35mm、長さ/直径アスペクト比:36))に供給し、チャンバの温度が180乃至205℃でありかつスクリュの速度が210rpmであるという加工条件の下に溶融混合した。得られた押出物を冷水にて固体状態に冷却し、3mmの直径と3mmの全長を有する円柱状の顆粒にペレット化した。
【0048】
上記顆粒は、射出成形機(フ・チュン・シン・マシナリー社により製造される,モデル番号:HT−100)に供給され、チャンバの温度が180乃至205℃であり、鋳型の温度が40℃という加工条件下にてASTM標準試験片を製造し、成形サイクル時間を記録した。標準試験片は、ASTM D256用の細長い試験片、ASTM D638用のダンベル型の試験片、ASTM D648用の細長い試験片及びUL−94用の細長い試験片を含む。得られた試験片は、サイクルオーブン中にて110℃にて10分間熱処理し、これらの試験片の特性を、上記標準試験法にて測定した。測定結果を表1に列挙した。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

その他の実施形態
本発明の好ましい実施形態を実施例にて開示してきた。しかしながら、同実施例は、本発明の実際の応用範囲を制限するものとして解釈されるべきではなく、従って、本発明の精神及び添付された特許請求の範囲を逸脱することのないすべての修正及び変更も本発明の保護された範囲及び特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靭性及び耐熱性が改善された生分解性樹脂組成物であって、
100重量部の生分解性ポリマーと、
1乃至40重量部の熱可塑性エラストマーと、
0.1乃至30重量部の無機充填材と、
からなる組成物。
【請求項2】
前記生分解性ポリマーは、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリグリコール酸、又はポリ(β−ヒドロキシブチレート)、ポリ(β−ヒドロキシバレレート)、ポリ(β−ヒドロキシカプロエート)、ポリ(β−ヒドロキシヘプタノエート)及びポリ(ヒドロキシブチレート−コ−ヒドロキシバレレート)を含むポリヒドロキシアルカノエートベースのポリマー、又はポリ(ヒドロキシエステル−エーテル)ベースのポリマー、ポリ(プロピレンカーボネート)或いはそれらの混合物からなる、請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーの量は、5乃至30重量部である、請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマーの量は、10乃至25重量部である、請求項3に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマーは、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンコポリマー、スチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー、スチレン−イソプレン−スチレンコポリマー、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、塩化エチレンゴム、ブタジエンゴム、塩化ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレン−アクリルゴム、シリコンゴム、フルオロ−ゴム、加硫ゴム、動的加硫ゴム、天然ゴム、エチレン−プロピレン−ブチレンエラストマー、ポリオレフィンベースのエラストマー、ポリ塩化ビニルベースのエラストマー、ポリアミドベースのエラストマー、ポリエステルベースのエラストマー、ポリエステル−ポリエーテル−ベースのエラストマー、ポリウレタンベースのエラストマー、フルオロ−ベースのエラストマー又はそれらの混合物を含む、請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマーは加工油で予め処理され、かつ同加工油は、パラフィンベースの加工油、芳香族化合物ベースの加工油、エポキシ化大豆油、グリセリン又はそれらの混合物を含む、請求項5に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項7】
前記加工油は、100乃至3000の範囲の分子量を有するバラフィンベースの加工油である、請求項6に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項8】
前記無機充填材の量は、0.3乃至20重量部である、請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項9】
前記無機充填材の量は、0.5乃至15重量部である、請求項8に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項10】
前記無機充填材は、タルク粉末、カオリン、粘土、層状ケイ酸塩、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、二酸化ケイ素又はそれらの混合物を含む、請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項11】
3乃至25重量部の難燃剤を更に含む、請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項12】
前記難燃剤の量は5乃至20重量部である、請求項11に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項13】
前記難燃剤の量は8乃至15重量部である、請求項12に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項14】
前記難燃剤は、RDP、リン酸トリフェニル、リン酸トリフェニルオリゴマー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、臭素化ポリスチレン又はそれらの混合物を含む、請求項11に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項15】
0.1乃至10重量部の強化剤を更に含む、請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項16】
前記強化剤の量は、0.5乃至8重量部である、請求項15に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項17】
前記強化剤の量は、1乃至5重量部である、請求項16に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項18】
前記強化剤は、無水マレイン酸グラフト化ポリエチレンコポリマー、無水マレイン酸グラフト化ポリプロピレンコポリマー、無水マレイン酸グラフト化スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンコポリマー、無水マレイン酸グラフト化エチレン−ブタジエン−メチルメタクリレートコポリマー、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水トリメリット酸、シラン化合物、一つ以上のイソシアネート基を含む化合物、一つ以上のエポキシド基を含む化合物又はそれらの混合物を含む、請求項15に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項19】
0.1乃至10重量部の加工助剤を更に含む、請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項20】
前記加工助剤の量は、0.3乃至5重量部である、請求項19に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項21】
前記加工助剤の量は、0.5乃至3重量部である、請求項20に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項22】
前記加工助剤は、工業用白油、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、パラフィン、ポリエチレンワックス、エポキシ化大豆油、グリセリン、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール又はそれらの混合物を含む、請求項19に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項23】
靭性と耐熱性の改善された生分解性樹脂を製造する方法において、
(A)50乃至99重量%の熱可塑性エラストマーと、1乃至50重量%の加工油とを、高速にて攪拌しながら混合し、前処理された熱可塑性エラストマーを形成する工程と、
(B)100重量部の生分解性ポリマーと、1乃至40重量部の前処理された熱可塑性エラストマーと0.1乃至30重量部の無機充填材とを混合して混合物を得る工程と、
(C)工程(B)からの混合物を溶融混合する工程と、
(D)工程(C)からの生成物を冷却して生分解性樹脂を形成する工程と、
を含む、方法。
【請求項24】
工程(A)において60乃至90重量%の熱可塑性エラストマーと10乃至40重量%の加工油とを高速攪拌により混合する工程と、得られた混合物を後に使用するために8時間以上放置する工程とを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
工程(A)において65乃至80重量%の熱可塑性エラストマーと20乃至35重量%の加工油とを高速攪拌により混合する工程と、得られた混合物を後に使用するために8時間以上放置する工程とを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
工程(A)において使用される加工油は、パラフィンベースの加工油、芳香族化合物ベースの加工油、エポキシ化大豆油、グリセリン又はそれらの混合物を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
工程(A)において使用される加工油は、100乃至3000の範囲の分子量を有するパラフィンベースの加工油である、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
工程(A)における高速攪拌は、シールされた高速ミキサにて、800乃至2000rpmの速度にて25乃至70℃の温度にて15乃至30分間実施される、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
3乃至25重量部の難燃剤、0.1乃至10重量部の強化剤、又は0.1乃至10重量部の加工助剤が、工程(B)にて更に加えられ、生分解性樹脂の特性が改質される、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
5乃至20重量部の難燃剤、0.5乃至8重量部の強化剤、又は0.3乃至5重量部の加工助剤が、工程(B)にて更に加えられ、生分解性樹脂の特性が改質される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
8乃至15重量部の難燃剤、1乃至5重量部の強化剤、又は0.5乃至3重量部の加工助剤が、工程(B)にて更に加えられ、生分解性樹脂の特性が改質される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
工程(C)における溶融混合は2軸押出機を用いて、チャンバの温度が175乃至240℃でかつスクリュの速度が180乃至250rpmの条件にて、実施される、請求項23に記載の方法。
【請求項33】
工程(D)における冷却は、水冷又は空冷である、請求項23に記載の方法。
【請求項34】
工程(D)に引き続いてペレット化工程が更に含まれる、請求項23に記載の方法。
【請求項35】
前記ペレット化工程は、工程(D)からの冷却された押出物を造粒機によって3mm未満のサイズを有する顆粒に処理することを含む、請求項34に記載の方法。

【公開番号】特開2008−63577(P2008−63577A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−230220(P2007−230220)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(504463785)チテック・テクノロジー・カンパニー・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】CHITEC TECHNOLOGY CO.,LTD.
【Fターム(参考)】